(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記くびれ部の後端部分は、前記刃よりも前後方向における後側に位置しており、前記くびれ部の前端部分は、前記刃よりも前後方向における前側に位置していることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の彫刻刀。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に開示された彫刻刀は、彫刻作業をさらに容易化し、使用感をさらに良くするという観点から、さらなる改善の余地があった。
【0008】
また、特許文献1に開示された彫刻刀は、保護部材をより壊れ難くするという観点からも、さらなる改善の余地があった。
すなわち、彫刻刀は、上記したように、年少者による使用が想定されるものであり、思いがけない使い方をされる可能性がある。そして、彫刻刀を想定外の姿勢とした上で無理に力を加えるといった具合に、通常とは異なる使い方をされることで、保護部材が破損してしまう可能性がある。
ここで、保護部材は、手の保護等を目的とした安全のための部材であるので、より壊れにくいことが好ましい。すなわち、より破損し難い保護部材が望まれていた。
【0009】
つまり、従来の保護部材を有する彫刻刀は、使用感と安全性の向上が望まれていた。
【0010】
そこで本発明は、使い易く使用感がよい彫刻刀を提供することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、柄部と、前記柄部に取り付けられた刃体部と、保護部材を備え、前記刃体部に形成された刃を対象面に接触させて使用可能な彫刻刀であって、前記保護部材は、少なくとも前記刃体部の周辺に配置可能なガード部を有し、前記ガード部が前記刃の周辺に位置する保護姿勢とすることが可能であり、
前記ガード形成片の前端側には、下面から前面に跨って延びる湾曲面が形成されており、前記保護姿勢では、前記柄部の長手方向を前記対象面に対して傾斜する方向とし、所定の角度傾けた姿勢とすることで、前記刃を前記対象面に接触させることが可能であり、少なくとも前記ガード部が、前記刃と前記対象面とが接触可能となる前記角度の範囲を規制するものであり、前記保護姿勢において前記柄部の長手方向に延びる仮想線と前記対象面とのなす角が15度以上40度以下の範囲であるときに前記刃が前記対象面に接触する
ものであり、前記なす角が前記15度以上40度以下の範囲内であるとき、前記ガード部が前記対象面と接触しない状態と、前記ガード部が前記対象面と接触する状態が前記なす角の角度に応じて切り替わり、前記刃と共に前記ガード部が前記対象面と接触する状態では、前記湾曲面が前記対象面と接触することを特徴とする彫刻刀
である。
なお、ここでいう「対象面」とは、合板の表面等の彫刻対象となる面であり、彫刻刀を使用する際に刃を接触させる彫刻対象物の面である。
【0012】
ところで、一般的な彫刻刀で対象面(彫刻対象となる面)を彫る作業をするとき、対象面への刃の接触のさせ方によっては彫り難くなる場合がある。そこで、本発明者らがさまざまな人を対象として官能試験を実施した結果、彫刻刀の長手方向(柄部の長手方向)と対象面とのなす角が40度を超えて立てた姿勢としたとき、とたんに作業がやり難くなることが判明した。また、15度を超えて寝かせた姿勢としたりした場合、とたんに作業がやり難くなることが判明した。
そこで、本発明の彫刻刀では、刃を対象面(例えば、版木の表面)に接触させる際、対象面に対する彫刻刀(柄部)の傾きが上記範囲内であるときに刃が接触する構造としている。つまり、上記範囲を超えて立てた姿勢としたり、上記範囲を超えて寝かせた姿勢としたりした場合には、刃が対象面に接触しない構造としている。
このように、作業がやり易い姿勢とすると刃が対象面に接触し、作業をやり難い姿勢とすると刃が接触しない構造とすると、使用するときに刃を対象面に接触させることで、彫刻刀が自然に作業し易い姿勢となる。このため、作業に不慣れな者が使用しても使用感がよく、使い易い彫刻刀を提供できる。
また、作業が不慣れな使用者が本発明の彫刻刀を使い続けることで、使用者が対象面への好ましい刃の当て方を自然に体得するという効果も期待できる。
さらに、ガード部を角度規制部材として機能させるので、部品点数を不必要に増加させることなく姿勢の制限が可能となる。つまり、製造コストの低減を図ることが可能であり、新たに設けた部品が使用時に邪魔になる等の理由により、使用感が悪くなるということもない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記柄部の長手方向を前後方向として前記刃体部側を前側としたとき、前記保護姿勢とした状態での前記ガード部の前端部分から前記刃までの前後方向における距離をL2とし、前記保護姿勢とし、さらに前後方向を水平面に対して平行となる姿勢とした状態で、前記刃と前記ガード部を鉛直方向に延びる仮想線分で結んだ際の仮想線分の長さをL3としたとき、前記L2は、4.0mm以上8.0mm以下であり、前記L3は、1.0mm以上3.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の彫刻刀である。
【0014】
かかる構成によると、正面視及び側面視において刃が十分に隠れた状態となり、且つ、ガード部が作業時(彫刻作業時)に邪魔にならないので、高い安全性と使用感のよさを有する彫刻刀を提供できる。また、ガード部を自然な形状として、上記した姿勢の制限が可能となる。
なお、ここでいう「正面視」とは、前方からみた平面視である。また、「側面視」とは、側方からみた平面視であり、刃を彫刻対象面に接触させた状態における彫刻対象面側を下側とし、その反対側を上側としたときの側面視である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記柄部の長手方向を前後方向として前記刃体部側を前側とし、前後方向と直交する方向における一端側であり、前記保護姿勢として前記刃を前記対象面に接触させた状態における前記対象面側を下側とし、その反対側を上側としたとき、前記ガード部の下端よりも下方側に前記柄部の下端が位置し、前記柄部の下端部分のうちで前端側周辺となる部分もまた、前記角度の範囲を規制することを特徴とする請求項1又は2に記載の彫刻刀である。
【0016】
かかる構成によると、ガード部と柄部とを角度規制部材として機能させることで、彫刻刀をより自然な形状とした上で、上記した姿勢の制限が可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記柄部の長手方向を前後方向として前記刃体部側を前側とし、前後方向と直交する方向における一端側であり、前記保護姿勢として前記刃を前記対象面に接触させた状態における前記対象面側を下側とし、その反対側を上側としたとき、前記ガード部は、2つのガード形成片と、2つの前記ガード形成片の前端側同士を繋いで延びるガード連結片とを有し、且つ、前記保護姿勢において前記刃体部の前端及び両側端の外側で半環状に連続して延びるものであり、前記ガード形成片は、前記保護姿勢において前記刃体部の側方外側で前後方向に延びる部分で
あることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の彫刻刀である。
【0018】
かかる構成によると、刃を対象面に当接させたとき、ガード部が対象面の異なる部分に当接しても、ガード部が彫刻作業の邪魔になり難く好ましい。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記柄部の長手方向を前後方向として前記刃体部側を前側とし、前後方向と直交する方向における一端側であり、前記保護姿勢として前記刃を前記対象面に接触させた状態における前記対象面側を下側とし、その反対側を上側としたとき、前記ガード部は、2つのガード形成片を有し、前記保護姿勢では、2つの前記ガード形成片の間に前記刃体部が位置し、且つ、前記ガード形成片が前記刃体部の側方外側で前後方向に延びており、前記ガード形成片は、前後方向に延びる後端側部分と、前方へ向かうにつれて上方へと向かう方向に延びる先端側部分とを有し、前記ガード形成片の先端側部分には、他の部分よりもくびれた部分であるくびれ部が形成されており、前記ガード形成片の先端側部分がしなる弾性変形が可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の彫刻刀である。
【0020】
かかる構成では、ガード部の先端側部分にくびれ部を形成しており、何らかの理由でガード部の先端側部分に力が加わった際、ガード部がしなる変形をし、ガード部の破損を抑制できる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記くびれ部は、前記ガード形成片の先端側部分の後端よりの部分に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の彫刻刀である。
【0022】
かかる構成では、突出方向基端側となる後端よりの部分にくびれ部が形成されており、全体を大きくしならせるように変形させることが可能であるので、ガード部の破損を防ぐという観点から、さらに好ましい。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記くびれ部の横断面の断面二次モーメントの平均値は、100mm
4以上300mm
4以下であり、前記ガード形成片の後端側部分における横断面の断面二次モーメントの最小値よりも小さいことを特徴とする請求項5又は6に記載の彫刻刀である。
【0024】
かかる構成によると、ガード部に一定以上の強度と変形し難さを確保しつつ、しならせるように変形させる構造とすることができる。
具体的に説明すると、ガード部は、不意に大きな力が加わった際の破壊を阻止するという観点から、一定以上変形し易くし、弾性範囲を広くすることが好ましい。しかしながら、その一方で、通常使用時に安全性を確保するという観点から、軽く力を加えた程度では変形しないものとすることが好ましい。したがって、上記の構成とすることで、不意に大きな力が加わった際と、通常使用時の双方において好適なガード部を形成することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記くびれ部の後端部分は、前記刃よりも前後方向における後側に位置しており、前記くびれ部の前端部分は、前記刃よりも前後方向における前側に位置していることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の彫刻刀である。
【0026】
かかる構成では、ガード部が物体に押し付けられて変形するとき、ガード部は、刃よりも後方に位置するくびれ部の後端部分からしなるように変形することとなる。このことから、ガード部が変形するとき、刃(刃体部の前端)が物体に接触しやすい構造とすることができる。そして、刃を物体に接触させることで、ガード部のさらなる変形を阻止し、ガード部の破損を防止することができる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、前記柄部には、内部に前記ガード部の少なくとも一部を収納可能な柄内空間が形成されており、前記柄内空間は、前記柄部の前方側に開口部分を有しており、当該開口部分の上端部分が、前記ガード部の上端部分よりも僅かに上方に位置している、又は、前記ガード部の上端部分と上下方向の位置が同一となるように形成されており、前記保護部材は、前記柄部に対して相対的に移動可能に取り付けられ、前記保護部材を移動させることにより、前記保護姿勢と、前記ガード部の少なくとも一部が前記柄内空間に収納される収納姿勢とを切り替え可能であり、前記収納姿勢では、前記柄内空間に位置する前記ガード部の上面の各部と、前記柄内空間の上面とが僅かな隙間を空けて対向している、又は、接触していることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の彫刻刀である。
【0028】
かかる構成によると、何らかの理由により、ガード部が弾性範囲を超えて変形してしまっても、収納姿勢へと切り替える操作を行うことで、元の形(又は元の形に近い形状)に復元させることが可能となる。
【0029】
請求項10に記載の発明は、前記保護部材は、ポリアセタール及びポリアミドを主原料として形成された樹脂成型体であり、前記ガード部は、前記保護部材と一体成型されるものであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の彫刻刀である。
【0030】
かかる構成では、角度規制部材として機能させる上では十分な程度に変形し難く、且つ、不意に加わる強い力に応じて変形をさせる上では好ましい程度に変形し易いガード部を安価且つ容易に形成可能である。
なお、ここでいう「主原料」とは、機能を発揮するために十分な量が含まれていることをいう。さらに、ここでいう「ポリアセタール及びポリアミドを主原料とする」とは、ポリアセタールとポリアミドの原料全体に占める割合が50パーセント以上であるものとする。
【0031】
本発明の関連発明は、柄部と、前記柄部の前端側に取り付けられた刃体部と、保護部材を備えた彫刻刀であって、前記保護部材は、少なくとも前記刃体部の周辺に配置可能なガード部を有し、前記刃体部に刃が形成され、前記ガード部が前記刃の周辺に位置する保護姿勢とすることが可能であり、前記保護姿勢とした状態での前記ガード部の前端部分から前記刃までの前後方向における距離をL2とし、前記保護姿勢とし、さらに前後方向を水平面に対して平行となる姿勢とし、前記刃と前記ガード部を鉛直方向に延びる仮想線分で結んだ際の仮想線分の長さをL3としたとき、前記L2は、4.0mm以上8.0mm以下であり、前記L3は、1.0mm以上3.0mm以下であることを特徴とする彫刻刀である。
【0032】
かかる構成の彫刻刀においても、ガード部を自然な形状とした上で、上記したような姿勢の制限が可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、使い易く使用感がよい彫刻刀を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
以下の説明では、特に断りのない限り、彫刻刀1の長手方向を前後方向とし、刃が位置する長手方向の一端側を前側、対となる他端側を後側とする。
また、特に断りのない限り、以下の説明における上下方向は、彫刻刀1の長手方向と直交する方向であり、
図1における高さ方向とする。
さらにまた、特に断りのない限り、以下の説明における幅方向は、上記した上下方向及び前後方向と直交する方向とする。
【0036】
なお、上記の上下方向について付言すると、本実施形態における彫刻刀1は平刀であり、通常使用時において、刃表を木版等の彫刻対象物側に位置させて使用することを想定している。したがって、本実施形態の彫刻刀1の上下方向とは、刃表を下方側にして寝かせた姿勢における上下方向と同方向である。言い換えると、刃表及び刃裏のうち、通常使用時に彫刻対象物側に位置する部分を下方側として寝かした姿勢における上下方向と同方向である。
そして、ここでいう「寝かせた姿勢」とは、前後方向が水平面と平行な方向となる姿勢である。
【0037】
本実施形態の彫刻刀1は、
図1で示されるように、柄部2、刃体部3、保護部材4を備えた構造となっている。
そして、この彫刻刀1は、保護部材4の一部であるガード部6が刃体部3の周囲を覆う保護姿勢(
図1(a)参照)と、ガード部6が柄部2の内部に収納される収納姿勢(
図1(b)参照)との間で姿勢変更が可能となっている。すなわち、外部に露出する操作部7を前後方向に移動させることで、保護部材4の全体が前後方向に移動し、それに伴ってガード部6が前後方向に移動する構造となっている。そして、収納姿勢とすることで、ガード部6が刃体部3の周囲から退去する。つまり、収納姿勢は、刃体部3の周辺を開放する姿勢となっている。
【0038】
柄部2は、
図2で示されるように、上側に位置する第一柄形成片10と、下方側に位置する第二柄形成片11とを備えており、これらを重ね合わせて一体化することで形成される部分である。
なお、第一柄形成片10には、操作部7を露出させるための窓部10aが形成されている。この窓部10aは、第一柄形成片10の外側面(上面)と、内側面(下面)とを貫通する貫通孔であり、前後方向に延びる長孔となっている。
【0039】
この柄部2の内部には、
図3で示されるように、刃体取付部18と、ガイド突起部19が形成されている。これらは、柄部2の内部空間のうち、幅方向における中心側に形成される部分となっている。
【0040】
刃体取付部18は、第一柄形成片10の内側面(下面)と第二柄形成片11の内側面(上面)とを繋ぐように形成される塊状の部分であり、平面視形状が略直方体状であって、前後方向に延びる部分となっている。
この刃体取付部18の前端面には、刃体部3を取り付けるための取り付け孔が形成されている。そして、刃体取付部18の下端側部分に、柄側係合凹部18aが形成されている。
【0041】
柄側係合凹部18aは、幅方向内側へ向かって窪む部分である。本実施形態では、刃体取付部18の幅方向における片側端部と、他方側端部のそれぞれに一つずつ柄側係合凹部18aが形成されている。言い換えると、一方の柄側係合凹部18aから幅方向に離れた位置に他方の柄側係合凹部18aが形成されており、刃体取付部18の下端側部分が、その上側部分よりも幅方向の長さが短くなっている。
この柄側係合凹部18aは、保護部材4の一部と係合することで、保護部材4の移動時にガイド部として機能する。
【0042】
ガイド突起部19は、刃体取付部18の後方に位置する2つのガイド形成片部19a,19bによって形成されている。
2つのガイド形成片部19a,19bは、いずれも立壁状の部分であり、幅方向で間隔を空けて配置され、互いに平行となるように前後方向に延びている。このガイド形成片部19a,19bは、第二柄形成片11の内側面から上方に突出しており、第一柄形成片10の内側面(下面)から下方に離れた位置まで延びている。つまり、2つのガイド形成片部19a,19bの上端部分と、第一柄形成片10の内側面(下面)の間に空間が形成されている。
【0043】
すなわち、柄部2は、後端側が閉塞された筒状体であって、その内部空間である柄内空間20は、前端側に開口部分20aを有する空間となっている。
そして、この柄内空間20が、保護部材4の大部分を収納可能となっている。具体的には、刃体取付部18及びガイド突起部19よりも幅方向の一端側に位置する部分と、これらよりも幅方向の他端側に位置する部分と、ガイド突起部19の上方に位置する部分とが、保護部材4を配置、移動させるための空間となっている。
【0044】
刃体部3は、鋼等の適宜な金属で形成された板状部分であり、前端部分に位置する刃(刃先)の形状が、幅方向に延びた平らな形状となっている。すなわち、本実施形態の彫刻刀1は、所謂平刀と称されるものとなっている。
付言すると、刃体部3の刃とは、刃体部3の上面と下面の境界となる部分であり、当該部分を薄く鋭く加工して形成される部分である。したがって、この刃体部3の刃は、刃体部3の前端側に位置するごく細い面又は辺である。
【0045】
保護部材4は、適宜な樹脂を原料として形成される部材であり、本実施形態では、ポリアセタールと、ポリイミドを主たる原料として形成された樹脂成型体となっている。このため、保護部材4は、可撓性(弾性)を有する部材となっている。
【0046】
保護部材4は、
図2で示されるように、ガード部6と、連結部25と、内部摺動体26と、操作部7とを備えており、これらが一体となって形成されている。
【0047】
ガード部6は、保護姿勢(
図1(a)参照)としたとき、柄部2の前端よりも前方に位置して外部に露出する部分であり、2つのガード形成片30,31とガード連結片32を備えた構造となっている。
より詳細に説明すると、ガード部6は、保護部材4と一体成型され、保護部材4の前端側で半環状に連続する部分となっている。そして、幅方向の一端側に位置する立壁状のガード形成片30と、他端側に位置するもう一方のガード形成片31と、2つのガード形成片30,31の前端側同士を連結するガード連結片32とが一体に形成され、全体における平面視形状が略U字状となっている。
このガード部6は、本実施形態の特徴的な部分であり、詳しくは後述する。
【0048】
連結部25は、2つの連結片部25a,25bによって形成される部分である。
2つの連結片部25a,25bは、いずれも断面形状が略「L」字状で前後方向に延びる部分であり、立壁状となる部分の下端側の一部を内側(幅方向内側)に折り曲げたような形状となっている。すなわち、2つの連結片部25a,25bは、幅方向で離間した位置で互いに平行となるように延びる部分であり、離間対向するそれぞれ内側面の下端側には、互いに近づく方向へ突出する平板状の部分が形成されている。
2つの連結片部25a,25bのうち、一方の前端部分が一方のガード形成片30の後端部分と連続して一体となって延びている。また、他方の前端部分がもう一方のガード形成片31の後端部分と連続して一体となって延びている。そして、それぞれの後端部分が内部摺動体26の前端側部分と連続している。
【0049】
内部摺動体26は、天板部26aと、天板部26aの幅方向における両端それぞれから下方へ垂下される2つの立板部26b,26cを備えた構造となっている。
すなわち、天板部26aの下方側には、天板部26aと、幅方向で離間対向する2つの立板部26b,26cに囲まれた係合凹部35が形成されている。そして、この係合凹部35は、ガイド突起部19を嵌入可能な凹部となっている。
【0050】
操作部7は、操作突起7aと前側係止片部7bを備えた構造となっており、これらが一体に形成された部分となっている。
【0051】
操作突起7aは、平面視形状が略小判状(トラック状)となる突起部分である。
なお、ここでいう「小判状(トラック状)」とは、長方形の2本の短辺をそれぞれ半円に置き換えた形状とする。
【0052】
前側係止片部7bは、操作突起7aの前下端部近傍からさらに前方へ突出する平板状部分と、この平板状部分の突出端近傍で上方へ突出する突起部分とを備えた形状となっている。
【0053】
ここで、内部摺動体26の天板部26aには、適宜の部分に天板部26aを厚さ方向(上下方向)に貫通する貫通孔が形成されている。そして、操作部7の前方側の大部分は、天板部26aの貫通孔と平面視で重なる位置に配されている。つまり、操作部7は、後端部分のみが天板部26aと連結しており、片持ち状に延出する部分となっている。
したがって、操作突起7aを下方側へ向かって押圧すると、前側係止片部7bもまた下方側へ移動する構造となっている。
【0054】
ここで、ガード部6について詳細に説明する。
ガード部6は、上記したように、2つのガード形成片30,31と、ガード連結片32が一体になって形成される部分となっている(
図1(a)等参照)。
ここで、2つのガード形成片30,31は、同形であり、視線方向を幅方向とした平面視において重なるように配置されている。これらは、幅方向で離間対向しており、互いに平行となるように延びている。
なお、以下の説明では、一方のガード形成片30(第1のガード形成片30)を詳細に説明し、同形である他方のガード形成片31(第2のガード形成片31)については、重複する詳細な説明を省略する。
【0055】
ガード形成片30は、
図4に示されるように、後端側から順にガード基端部38、くびれ部39、先端側部40に区画される部分となっている。
すなわち、ガード形成片30では、ガード基端部38が後端側部分を形成しており、くびれ部39及び先端側部40によって先端側部分が形成されている。そして、先端側部分は、ガード基端部38の前端から前方上側へ向かって延びている。
そして、ガード形成片30の先端側部分では、後側部分を形成するくびれ部39が、前側部分を形成する先端側部40の大部分と比べて細くなるように形成されている。
【0056】
ガード基端部38は、上面が水平面に対して平行な面となっており、その前側部分が前方側に向かうにつれて細くなる部分となっている。
【0057】
くびれ部39は、前方上側に向かうにつれて細くなっていき、最も細い部分からさらに前方上側に向かうにつれて太くなる部分となっている。そして、くびれ部39の後端部分は、刃体部3の刃と比べて前後方向における位置が後側となっている。さらに、くびれ部39の前端部分は、刃体部3の刃と比べて前後方向における位置が前側となっている。
このくびれ部39の上面は、斜め方向(前側下方)に窪んだ湾曲面となっている。
【0058】
先端側部40は、上面が上側に凸となるように丸みを帯びた湾曲面となる部分である。
【0059】
ここで、ガード形成片30の下面には、ガード基端部38の下面において前側よりとなる部分から、くびれ部39の下面を経て、先端側部40の下面において後側よりとなる部分までの間に、緩やかに延びる一連の傾斜面が形成されている。そして、この傾斜面よりも前方側に位置する部分に、湾曲面部45が形成されている。
湾曲面部45は、先端側部40の下面のうちで前側よりとなる部分から、ガード形成片30の前端面までの間で延びる湾曲面を形成している。つまり、ガード形成片30の前端側には、下面における前端側から前面における下側までの間に跨って延びる湾曲面が形成されている。
【0060】
ここで、くびれ部39の厚さの最小値L1は、1.5mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以上3.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以上2.5mm以下であることがさらに好ましい。
なお、「くびれ部39の厚さ」とは、くびれ部39の上面から下面までの距離であり、幅方向を視線方向とした平面視において、くびれ部39の延び方向と直交する方向の長さである。また、ここでいう「程度」とは数パーセントの誤差を含むものとし、後述する記載においても同様である。
【0061】
付言すると、このくびれ部39の厚さの最小値L1は、ガード基端部38の厚さの最小値よりも小さくなっている。さらに、本実施形態では、このくびれ部39の厚さの最小値L1を2.3mm程度としている。
【0062】
さらに、ガード部6の前端部分から刃までの前後方向における距離L2(
図4参照)は、4.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、6.3mm以上7.52mm以下であることがより好ましく、6.5mm以上7.0mm以下であることがさらに好ましい。
なお、この距離L2は、視線方向を幅方向とした側面視において、ガード部6の前端部分と刃を結ぶ線分(仮想線分)の前後方向成分の長さでもある。言い換えると、ガード部6の前端部分と刃を結ぶ線分(仮想線分)のうちで、最も短い線分の前後方向(彫刻刀1の長手方向)成分の長さでもある。
【0063】
また、本実施形態のように刃の形状を所謂平刀とした場合には、この距離L2は、4.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上7.0mm以下であることがより好ましい。本実施形態では、この距離L2を、6.59mm程度としている。
【0064】
また、視線方向を幅方向とした側面視において、刃とガード部6を上下方向に延びる線分(仮想線分)で結んだ際の当該線分の長さL3(
図4参照)は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。また、1.25mm以上1.37mm以下であることがより好ましく、1.30mm以上1.35mm以下であることがさらに好ましい。
なお、この長さL3は、視線方向を幅方向とした側面視において、ガード部6のうちで刃の直上に位置する部分から刃までの距離でもある。
【0065】
また、本実施形態のように刃の形状を所謂平刀とした場合には、この線分の長さL3は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下とすることがより好ましい。本実施形態では、この線分の長さL3を、1.26mm程度としている。
【0066】
ここで、ガード連結片32は、
図5で示されるように、2つのガード形成片30,31(一方は
図5では図示しない)の突出方向における端部同士を連結する部分であり、ガード部6の前端面及び上端面の大部分を形成している。
【0067】
そして、ガード連結片32の下面から刃までの上下方向における距離L4(
図5参照)は、2.0mm以上5.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以上4.5mm以下であることがより好ましく、3.0mm以上4.0mm以下であることがさらに好ましい。
なお、この距離L4は、視線方向を幅方向とした側面視において、ガード連結片32の下面と刃を結ぶ線分(仮想線分)の上下方向成分の長さでもある。
本実施形態では、この距離L4を3.67mm程度としている。
【0068】
さらに、くびれ部39の横断面の断面二次モーメントの平均値は、100mm
4以上300mm
4以下であることが好ましく、150mm
4以上250mm
4以下であることがより好ましく、160mm
4以上200mm
4以下であることがさらに好ましい。
なお、ここでいう「横断面」とは、延び方向に垂直な方向(くびれ部39の厚さ方向)で切断した断面である。
【0069】
ここで、ガード基端部38の前端部分における横断面(
図6(a)参照)は、ガード基端部38の横断面のうち、断面二次モーメントの値が最小となる部分となっている。そして、この前端部分における断面二次モーメントの値は、405.35mm
4程度となっている。
つまり、くびれ部39の横断面の断面二次モーメントの平均値は、ガード基端部38の前端部分における断面二次モーメントの値を下回っている。
さらに、くびれ部39の最も細い部分における横断面(
図6(b)参照)は、くびれ部39の横断面のうち、断面二次モーメントの値が最小となる部分となっている。そして、この部分における断面二次モーメントの値は、181.98mm
4程度となっている。
【0070】
本実施形態では、刃体部3及びガード部6を上記のように形成することで、ガード部6に無理に力が加わっても撓んで変形し、ガード部6が破損し難い構造としている。
より詳細には、この彫刻刀1は、
図7で示されるように、保護姿勢時にガード部6を下側に向けて直立させた姿勢とし、鉛直下方へと移動させて下側の平面に押し付けた場合、刃が平面に当たるまで押し付けてもガード部6が破損しない構造となっている。
なお、ここでいう「直立させた姿勢」とは、彫刻刀1の長手方向(上記の前後方向)が上下方向となる姿勢である。
【0071】
つまり、本実施形態の彫刻刀1は、ガード部6の前端部分を上方側(
図7では左側)に反り返るように変形させることが可能となっている。そして、このように変形させた際、変形後のガード部6の前端部と、刃体部3の刃を前後方向の位置が同一となる状態(
図7(b)で示される状態であり、
図7では上下方向)とすることが可能となっている。
そして、ガード部6をこのような状態まで変形させても、ガード部6を自然状態(外力が加わらない状態であり、平面から離した状態)とすることで、ガード部6が元の形状に戻るものとなっている。
以上のように、彫刻刀1は、ガード部6を弾性範囲内で変形させる際、変形後のガード部6の前端部分と刃のそれぞれとが同一平面上(彫刻刀1の長手方向と直交する仮想面上)に位置させることが可能となっている。より詳細には、この状態からさらにもう少しだけ反り返らせる弾性変形が可能となっている。
【0072】
つまり、使用者が通常とは異なる姿勢や使用法で彫刻刀1を使用し、このことに起因して無理な力がガード部6に加わる場合、他物体(例えば、彫刻対象となる合板表面や、机の天板等)に対して押し付けられている可能性が高い。
そこで、本実施形態では、ガード部6が何らかの面に押し付けられても、ガード部6が撓んで変形し、その結果、ガード部6とは異なる部分(刃体部3の刃等)がこの接触面に接触する構造となっている。このことにより、ガード部6の一定量以上の変形が阻止され、ガード部6の破損を阻止する(抑制する)ことが可能な構造となっている。このことは、上記のように直立した姿勢の他、彫刻刀1が接触面に対して傾斜した姿勢(彫刻刀1の長手方向に延びる仮想線と接触面とのなす角が90度以下となる姿勢)として押し付けた場合も同様である。
【0073】
さらに、上記したガード部6の上端が反り返るような変形の他、ガード部6の上端が下方側へ移動するような弾性変形もまた可能となっている。
すなわち、彫刻刀1を天地逆とし、彫刻刀1が接触面に対して傾斜した姿勢で刃先近傍を平面に押し付けた場合であっても、ガード部6が変形し刃体部3が平面に接触する構造となっている。
なお、ガード部6の上端が下方側に移動する変形の弾性範囲内における最大変形量は、上方側に移動する変形の弾性範囲内における最大変形量よりも小さくなっている。
【0074】
しかしながら、このように形成した彫刻刀1であっても、ガード部6の前端部分を上方側に反り返るように変形させた際に、何らかの理由により、弾性範囲を超えて変形してしまうことが考えられる。
【0075】
そこで、本実施形態の彫刻刀1は、保護姿勢から収納姿勢へと移行させることで、ガード部6を元の形状(又は元の形状に近い形状)に復元させることが可能な構造となっている。すなわち、ガード部6が上方側に反り返るように塑性変形してしまっても、元の形状に復元させることが可能となっている。
【0076】
まず、通常の状態の彫刻刀1について説明すると、本実施形態では、
図8で示されるように、ガード部6の上端部分が柄内空間20の上端部分よりも下方側に位置している。このため、彫刻刀1を保護姿勢から収納姿勢へと移行させる際、ガード部6が柄部2の前端面と接触しない構造となっている。
【0077】
そして、柄内空間20の前端側部分では、その内周面上部の形状が、ガード部6の上面に概ね沿う形状であって、後方側へ向かうにつれて緩い下り勾配となる湾曲面となっている。
したがって、
図8(c)で示されるように、彫刻刀1を収納姿勢としたとき、ガード部6の上方に位置する第一柄形成片10の内側面と、ガード部6の上面とは、一部が接触し、他の大部分で離間対向した状態となる。そして、離間対向している部分では、各部における第一柄形成片10の内側面とガード部6の上面の間隔が略同一となっている。
この間隔は、ガード部6の上下方向における長さの10パーセント以下であり、数mm(例えば、3mm)以下となる微細な間隔であって、本実施形態では、1mm以下の間隔である。
【0078】
これに対し、
図9(a)で示されるように、ガード部6の上端部分が反り返るように塑性変形してしまった場合、ガード部6の上端部分が柄内空間20の上端部分よりも上方に位置することとなる。つまり、ガード部6は、上記したように、変形後の前端部分と刃とが前後方向における位置が同一となるように弾性変形可能となっている。このため、ガード部6が弾性範囲を超えて反り返るように変形した場合には、必然的にガード部6の上端部分が柄内空間20の上端部分よりも上方に位置することとなる。
【0079】
この状態で、彫刻刀1を保護姿勢から収納姿勢へと移行させると、
図9(b)で示されるように、ガード部6の上端部分が柄部2の前端面と接触した状態となる。
そして、このままガード部6を後方側へ移動させる操作を実施すると、ガード部6が柄部2の前端面や内周面上部に押し当てられた状態となり、さらにガード部6に対して後方側へと向かう力が加わる。このことから、ガード部6は、柄部2から受ける反力により、反りが矯正される方向へ力が加わることとなる。
【0080】
さらに、本実施形態の彫刻刀1は、刃体部3及びガード部6を上記のように形成することで、木版等の彫刻対象物を彫る作業を実施する際、彫刻刀1の刃を作業し易い姿勢(角度)で彫刻対象物に当接させることが可能なものとなっている。言い換えると、本実施形態の彫刻刀1は、刃が彫刻対象物に対して彫り難い角度で接触しないよう、保護姿勢時における刃の接触角度を規制するものとなっている。
【0081】
すなわち、
図10、
図11で示されるように、彫刻刀1の刃を下方側に位置する平面(対象面)に接触させる際、彫刻刀1の長手方向に沿って延びる仮想線と平面のなす角αが所定範囲内である場合にのみ、刃が平面に接触する構造となっている。
この所定範囲(なす角αの範囲)は、15.0度以上40.0度以下であることが好ましく、15.0度以上35.0度以下であることが特に好ましい。そして、16.05度以上31.68度以下であることがより好ましく、20.0度以上30.0度以下であることがさらに好ましい。
【0082】
また、本実施形態のように刃の形状を所謂平刀とした場合には、このなす角αの範囲は、17.16度以上30.26度以下であることが好ましく、20.0度以上30.0度以下であることがより好ましい。本実施形態では、この所定範囲が17.16度以上30.26度以下となっている。
【0083】
ここで、このなす角αの範囲は、予め実施した官能試験等に基づいて決定される範囲となっている。
具体的に説明すると、本発明者らがさまざまな人に官能試験を実施した結果、なす角αが40.0度を超えて彫刻刀を立てた姿勢すると、大多数の人が作業をやり難く感じることが判明した。
また、なす角αを15.0度を下回る角度で寝かせた姿勢とした場合、刃先が表面で滑る等の問題が生じ、15.0度以上とした場合に比べ、とたんに作業がやり難くなることが判った。
そして、なす角αが15.0度以上の範囲において、上記なす角αが35.0度以下とした場合、35.0度を上回る角度した場合よりも、多くの人が作業をやり易く感じるようになることが判明した。さらに、上記なす角αを20.0度以上30.0度以下の範囲としたとき、より顕著に大多数の人が作業をやり易く感じるようになることが判明した。
また、このなす角αの範囲は、ガード部6が自然状態における形状(通常形状)を保っている場合の範囲であり、当然のことながら、無理に力を加えてガード部6を撓ませた場合はこの限りではない。
【0084】
上記試験結果を踏まえ、本実施形態の彫刻刀1では、上記なす角αが17.16度を下回ったとき、
図10(a)で示されるように、柄部2が対象面に当接し、刃の対象面への接触が阻止される構造としている。
【0085】
そして、上記なす角αが上記範囲内である場合、
図10(b)、
図10(c)、
図11(a)でそれぞれ示されるように、刃が対象面に接触する。なお、
図10(b)、
図10(c)、
図11(a)で示される姿勢では、それぞれの上記なす角αが17.16度、22.0度、30.26度となっている。
【0086】
ここで、本実施形態の彫刻刀1は、
図10(b)、
図10(c)で示されるように、なす角αを好ましい範囲とした場合、殆どの場合において、ガード部6が対象面に接触しない構造となっている。このことから、ガード部6が彫刻作業時に邪魔にならず、好ましい。
さらに、
図11(a)で示されるように、刃とガード部6がそれぞれ対象面に接触する場合においても、上記したように、湾曲面部45が形成されており、ガード部6と対象面の接触面積を少なくすることができる。このため、刃を対象面に接触させたまま動かすとき、ガード部6が刃の移動を妨げたりすることなく、好ましい。
【0087】
さらに、上記なす角αが30.26度を上回ったとき、
図11(b)で示されるように、ガード部6が刃の対象面への接触へ阻止し、刃が対象面に接触しない構造となっている。
【0088】
したがって、彫刻刀1を平面上で寝かせた姿勢とし、徐々に上記なす角αの値が増加するように彫刻刀1を立てた姿勢としていくと、上記なす角αが17.16度となった状態で刃が平面に接触する。そして、そのまま上記なす角αが30.26度となるまでの間、刃が平面に接触した状態を維持し、30.26度を上回ると、刃が平面から離間することとなる。
【0089】
つまり、本実施形態の彫刻刀1は、柄部2とガード部6によって刃の接触角度を規制可能となっている。言い換えると、本実施形態のガード部6は、使用者の指等を保護する保護部材として機能するだけでなく、刃の接触角度を規制する規制部材としても機能する。
【0090】
ここで、本実施形態のガード部6は、上記したように、不意に強い力が加わった際に一定量以上の変形を可能としており、変形によってガード部6の破損を防止又は抑制する構造となっている。このため、弾性率を一定以上低くし、弾性範囲を一定以上広くする必要がある。
その一方で、ガード部6は、接触角度を規制する規制部材としても機能するため、軽く力を加えた程度では変形しないものとする必要がある。このため、弾性率を一定以上高くする必要がある。
このことから、本実施形態のガード部6は、上記したように形成することで、ゴム等を原料にして形成した場合に比べて弾性率が高く、適宜な弾性率と広い弾性範囲を有する部材となっている。すなわち、上記した主原料を用いると共に、上記したL1の範囲とすることで、強度と安全性を両立させる上で好ましいものとしている。
また、上記したL2、L3、L4の範囲とすることで、上記した角度制限を可能とすると共に、刃を十分に隠した状態としつつ、ガード部を作業時に邪魔にならないようにしている。つまり、安全性と使用感のよさを両立させる上で好ましいものとしている。
【0091】
ところで、本実施形態の彫刻刀1は、柄部2と保護部材4とが係合することで、保護姿勢と収納姿勢のそれぞれの状態が維持される構造となっている。
【0092】
具体的に説明すると、保護部材4の前側係止片部7b(
図2参照)が、第一柄形成片10の内側面(下面)に形成される凹部(図示しない)と係合することで、保護姿勢が維持される構造となっている。
つまり、これら前側係止片部7bと凹部とは、保護姿勢を維持するための第一の姿勢維持部として機能する部分であり、保護姿勢時に係合した状態となり、保護部材4を移動させる際と収納姿勢時において係合解除された状態となる。
【0093】
これに対し、保護部材4の後方側に形成された後側係合突起50(
図12参照)と、第二柄形成片11に形成された柄側係合突起53(
図13参照)とが、収納姿勢を維持するための第二の姿勢維持部として機能する部分となっている。
【0094】
後側係合突起50は、
図12で示されるように、保護部材4の2つの立板部26b,26cにそれぞれ形成された突起状部分となっている。
ここで、2つの立板部26b,26cには、いずれも後端部分よりもやや前方となる位置に溝部51が形成されている。言い換えると、2つの立板部26b,26cは、いずれも後端側の一部分が欠落した壁状部分となっている。
【0095】
溝部51は、立板部26b,26cの下端(
図12では上端)から上端まで延びる切り欠き溝状の部分であって、立板部26b,26cを厚さ方向に貫通している。つまり、溝部51は、立板部26b,26cを前方側の大部分と、後端側の一部分とに分断している。
【0096】
そして、立板部26b,26cの後端側の一部分には、その内側面に後側係合突起50が形成されている。すなわち、溝部51よりも後側となる位置に後側係合突起50が形成されている。
後側係合突起50は、幅方向内側へ突出するように形成された突起状部分であり、突出端側の部分が丸みを帯びた形状となっている。言い換えると、後側係合突起50は、平面視した形状が略半円状で上下方向に延びる突起状部分となっている。
【0097】
ここで、2つの立板部26b,26cにそれぞれ形成された2つの溝部51は、同形の溝状部分であり、幅方向(彫刻刀1及び内部摺動体26の幅方向)で離間対向する位置にそれぞれ形成されている。すなわち、2つの溝部51のそれぞれは、前後方向における位置が同一となっている。
また、2つの後側係合突起50は、同形の突起状部分であり、幅方向で離間対向する位置にそれぞれ形成され、互いに近づく方向に突出している。したがって、この2つの後側係合突起50のそれぞれもまた、前後方向における位置が同一となっている。
【0098】
柄側係合突起53は、
図13で示されるように、ガイド突起部19に形成される突起状部分であり、2つのガイド形成片部19a,19bにそれぞれ形成され、いずれもガイド形成片部19a,19bの幅方向における外側面からさらに外側へ突出している。
【0099】
柄側係合突起53は、いずれも平面視した形状が略半円状で上下方向に延びており、後端よりもやや前方に形成されている。
つまり、2つの柄側係合突起53は、同形であり、幅方向で離間対向する位置にそれぞれ形成され、互いに離れる方向に突出している。つまり、2つの柄側係合突起53のそれぞれは、前後方向における位置が同一となっている。
【0100】
そして、彫刻刀1を保護姿勢から収納姿勢へ移行させる際、
図14(a)で示されるように、保護部材4を後方側(
図14では右方側)へ移動させていくと、2つの後側係合突起50が、それぞれ異なる柄側係合突起53と前方側から当接した状態となる。
【0101】
具体的に説明すると、本実施形態の彫刻刀1では、保護部材4の係合凹部35(
図2、
図12等参照)にガイド突起部19を嵌入させた状態で、保護部材4を前後方向に移動させる構造としている。
すなわち、窓部10aに操作突起7aを挿入させる構造とし、係合凹部35にガイド突起部19を嵌入させる構造とすることで、保護部材4の左右方向への移動を規制している。
つまり、窓部10aと操作突起7aからなる組と、係合凹部35とガイド突起部19からなる組とが、いずれも保護部材4を前後方向に移動させる際のガイド部としても機能する。
【0102】
ここで、係合凹部35にガイド突起部19を嵌入させることで、
図14で示されるように、2つの立板部26b,26cの間に2つのガイド形成片部19a,19bが位置した状態となっている。
つまり、一方のガイド形成片部19aの幅方向における外側面と、一方の立板部26bの同方向における内側面とが微細に間隔を空けて離間対向した状態となっている。さらに、他方のガイド形成片部19bの外側面と、他方の立板部26cの内側面もまた、微細に間隔を空けて離間対向した状態となっている。
【0103】
したがって、保護部材4を後方側へ移動させていくと、一方の後側係合突起50が一方の柄側係合突起53に前方から当接すると共に、他方の後側係合突起50が他方の柄側係合突起53に前方から当接した状態となる(
図14(a)参照)。
そして、この状態からさらに保護部材4を後方側へ移動させることで、2つの後側係合突起50のそれぞれが、いずれも2つの柄側係合突起53の幅方向外側に位置した状態となる(
図14(b)参照)。
【0104】
すなわち、2つのガイド形成片部19a,19bは、上記したように、溝部51が形成されており(
図12参照)、後端側の一部同士が互いに離れる方向へ移動する弾性変形が可能となっている。さらに、上記したように、後側係合突起50と柄側係合突起53とは、いずれも丸みを帯びた形状となっている。
このため、後側係合突起50が柄側係合突起53に前方から当接した状態で、保護部材4にさらに後方側へ向かう力を加えると、後側係合突起50は、柄側係合突起53と接触した状態を維持しつつ柄側係合突起53を乗り越えるように移動することとなる。
【0105】
つまり、後側係合突起50は、柄側係合突起53の前方に位置する状態から、柄側係合突起53の外側(彫刻刀1の幅方向における外側)に位置した状態となり、柄側係合突起53に乗り上げた状態となる。
すなわち、2つのガイド形成片部19a,19bの後端部同士が互い離れる方向に移動するように弾性変形し、2つのガイド形成片部19a,19bの後端側部分が通常時よりも開いた状態となる。そして、一方の後側係合突起50が、一方の柄側係合突起53よりも幅方向における外側に位置し、他方の後側係合突起50が、他方の柄側係合突起53よりも幅方向における外側に位置した状態となる(
図14(b)参照)。
【0106】
さらに、保護部材4を後方側へ移動させることで、2つの後側係合突起50が、それぞれ別の柄側係合突起53を乗り越え、柄側係合突起53の後方に位置した状態となり(
図14(c)参照)、収納姿勢へと移行する。
【0107】
この状態では、保護部材4が2つの柄側係合突起53によって係止された状態となり、一定以上の力で保護部材4を前方側へ移動させない限り、2つの柄側係合突起53が保護部材4の前方側への移動を阻止する。すなわち、2つの柄側係合突起53がストッパとして機能することで、2つの後側係合突起50の前方側への移動が阻止され、それにより、収納姿勢から保護姿勢への意図しない姿勢変更が阻止される。
なお、収納姿勢から保護姿勢への変更する際は、一定以上の力で保護部材4を前方側へ移動させることで、2つの後側係合突起50が上記とは逆に移動し、柄側係合突起53を後方側から乗り越える。
【0108】
上記した実施形態では、柄部2とガード部6によってなす角αの範囲を規制する例を示したが、ガード部6の形状等を変更し、ガード部6のみでなす角αの範囲を規制してもよい。
【0109】
上記した実施形態では、彫刻刀1が平刀である例について説明したが、刃体部3の形状は適宜変更してもよい。すなわち、所謂平刀と称される形状に限るものではなく、所謂印刀(切り出し刀)、丸刀、浅丸刀、三角刀、平丸刀、丸曲刀等と称される形状としてもよい。
なお、所謂印刀のように、刃が前後方向成分を含む方向に延びる形状とした場合には、上記した距離L2等での刃の前後方向における位置は、前端部分であるものとする。
また、所謂三角刀のように、刃が上下方向成分を含む方向に延びる形状とした場合には、上記した線分の長さL3等での刃の上下方向における位置は、下端部分であるものとする。
【0110】
ここで、上記した実施形態の彫刻刀1は、通常使用時において、刃表を彫刻対象物側に位置させることを想定している。しかしながら、例えば、刃の形状を所謂印刀と称される形状とした彫刻刀は、通常使用時において、刃裏が彫刻対象物側に位置することを想定したものとなる。すなわち、形成される彫刻刀は、上記した実施形態のように、刃表が下方側に位置するものに限らず、刃裏が下方側に位置するものでもよい。
【0111】
なお、刃の形状を所謂三角刀とした場合には、上記した距離L2は、4.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上7.0mm以下であることがより好ましい。
さらに、距離L2を6.3mm程度とすることが特に好ましい。
【0112】
また、刃の形状を所謂三角刀とした場合、上記した線分の長さL3は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。さらに、線分の長さL3を1.25mm程度とすることが特に好ましい。
【0113】
また、刃の形状を所謂三角刀とした場合、上記したなす角αの範囲は、15度以上40度以下であることが好ましく、21度以上31.68度以下であることがより好ましい。
【0114】
なお、刃の形状を所謂丸刀とした場合には、上記した距離L2は、4.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上7.0mm以下であることがより好ましい。
さらに、距離L2を6.79mm程度とすることが特に好ましい。
【0115】
また、刃の形状を所謂丸刀とした場合、上記した線分の長さL3は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。さらに、線分の長さL3を1.37mm程度とすることが特に好ましい。
【0116】
また、刃の形状を所謂丸刀とした場合、上記したなす角αの範囲は、15度以上40度以下であることが好ましく、17.25度以上29.78度以下であることがより好ましい。
【0117】
なお、刃の形状を所謂小丸刀とした場合には、上記した距離L2は、4.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、6.0mm以上8.0mm以下であることがより好ましい。
さらに、距離L2を7.52mm程度とすることが特に好ましい。
【0118】
また、刃の形状を所謂小丸刀とした場合、上記した線分の長さL3は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。さらに、線分の長さL3を1.33mm程度とすることが特に好ましい。
【0119】
また、刃の形状を所謂小丸刀とした場合、上記したなす角αの範囲は、15度以上40度以下であることが好ましく、16.05度以上29.77度以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0120】
続いて、本発明の実施例及び比較例について説明する。
実施例及び比較例として、上記した実施形態に準じた彫刻刀と、市販されている彫刻刀に対して耐久試験を実施し、ガード部の耐久性能を比較した。
(実施例1)
【0121】
上記した実施形態に準じた彫刻刀を作成して耐久試験を実施した。
試験では、
図15で示されるように、ガード部を上方に向けて直立させた姿勢とし、下端部を万力で固定した。すなわち、前後方向が鉛直方向に沿う姿勢として彫刻刀を固定した。さらに、
図15で示されるように、センサの下端面をガード部の前端部分(試験開始時における上端部分)に当接させ、この下端面を50mm/minの速度で下方側に移動させて、折れ強度と曲がり強度を測定した。
なお、センサの下端面は、水平面と平行となる面とした。さらに、センサの下端面の面積は、直立させた姿勢における彫刻刀の平面視面積よりも十分に広い面積とし、その中心近傍にガード部を当接させた状態から試験を開始した。
そして、センサの下端面が刃に当接した状態となったとき、測定を終了した。
【0122】
測定終了までのガード部の前端部分の移動距離と、ガード部に掛かる荷重との関係は、
図16のグラフのようになった。また、試験終了後に彫刻刀を自然状態とすると、ガード部は元の形状に復元した。
なお、この耐久試験では、ガード部の形状が反り返るように変形していくのに対し、荷重は、常に鉛直方向下側に加わる。このため、弾性範囲内での変形であるにもかかわらず、移動距離が3mm程度であるときに荷重の最大値(4.5kgf程度)を計測し、その後、移動距離が増加しても計測される荷重の値が大きく変化しないものとなっている。
したがって、実質的な強度は、実験初期のグラフの傾きをそのまま延長させた線分上において、刃当たりした際の移動距離と対応する点A以上となる。
(比較例1)
【0123】
市販されている保護部材を備えた彫刻刀を用意した。そして、保護部材の一部が刃の周囲を覆う状態とし、実施例1と同様の耐久試験を実施した。
試験の結果は、
図16のグラフのようになった。また、移動距離が4.5mm程度であるときに荷重の最大値(6.6kgf程度)を計測し(図中の点B参照)、保護部材が折れて破損した。すなわち、センサに刃が当接する前に、保護部材が折れて破損した。
(比較例2)
【0124】
市販されている保護部材を備えた彫刻刀であり、比較例1とは製造元及び形状が異なる彫刻刀を用意した。そして、保護部材の一部が刃の周囲を覆う状態とし、実施例1と同様の耐久試験を実施した。
試験の結果は、
図16のグラフのようになった。比較例2の彫刻刀は、刃がセンサに当接するまで保護部材を変形させると、保護部材が塑性変形して元に戻らなくなった。