【実施例】
【0079】
注記:側鎖結合アミノ酸の合成に関する例において、名称は、まずUPAC命名法で与えられる。その後、略称が用いられる。表1は、その対応を示す。
【0080】
【0081】
例1:銅複合体を介する(S)−6−アクリルアミド−2−アミノヘキサン酸モノマーの合成
L−リジン(14.62g;100mmol)を、150mlの脱イオン水に溶解し、約80℃に加熱した。炭酸銅(16.6g;75mmol)を、30分間にわたって少しずつ添加した。この反応液を、さらに30分間撹拌した。この高温の深青色懸濁液を、シリカゲルを通してろ過した。フィルターを少量の水で洗浄した。翌日、1つにまとめたリジン銅複合体含有ろ液を、氷浴中で冷却し、100mlのテトラヒドロフラン(THF)を添加した。メチル−tert−ブチルエーテル(TBME)中の塩化アクリロイルの溶液(8.9ml、110mmol)を、1時間にわたって滴下した。pHは、最初、10%水酸化ナトリウム溶液を並行して滴下することで8から10に維持した。塩化アクリロイル溶液の半分を添加した後、生成物が沈澱し始めた。塩化アクリロイルのほとんどを添加した時点で、水酸化ナトリウムの添加速度を落として、pHを約6に低下させ、反応混合物の温度を、室温に到達させた。青色懸濁液を、さらに2時間にわたって撹拌し、次にろ過した。フィルター上に保持された固体物を、水及びアセトンで洗浄し、次に乾燥した。収量6.5gのアクリロイル−L−リジン銅複合体を得た。
【0082】
アクリロイル−L−リジン銅複合体(29.5g)を、300mlの脱イオン水中に懸濁し、氷浴中で冷却した。硫化銅の沈澱が完了するまで、H
2Sガスをこの懸濁液中にバブリングした。3グラムの活性炭を懸濁液に添加した。懸濁液を僅かの間100℃に加熱した。室温に冷却後、500mlのアセトンを懸濁液に添加し、次にこの懸濁液をシリカゲルでろ過した。透明なろ液をロータリーエバポレーターに入れた。溶媒の蒸発後、固体生成物を、200mlの50%アセトン水溶液から再結晶した。収量17.76g(69.76%)の白色粉末を得た。この化合物の構造を、NMR及びLC−MS分光分析で確認した。
【0083】
例2:(2S)−3−(アクリロイルオキシ)−2−アミノプロパン酸の合成
水(50ml)中のL−セリン(5g、47.6mmol)の溶液を80℃に加熱し、固体炭酸銅(5.79g、26.2mmol)を添加した。この溶液を10分間撹拌した。続いて、未溶解の残渣をろ過によって回収し、水(30ml)で洗浄した。1つにまとめたろ液を氷浴中で冷却し、KOH(27.1ml、47.6mmol)をゆっくり添加した。この溶液に、アセトン(30ml)中の塩化アクリロイル(4.52ml、59.5mmol)の混合物を滴下した。次に、この反応混合物を、撹拌しながら4℃で一晩インキュベートした。形成された固体を単離し、水(50ml)/メタノール(50ml)/エチル−tert−ブチルエーテル(50ml)(MTBE)で洗浄し、最後に減圧乾燥して、O−アクリロイル−l−セリン−Cu
2+複合体を得た(3.8g、10.01mmol;収率42.1%)。続いて、この複合体中の銅を、例1で述べた手順に類似の手順によって除去した。収量1.43g(45%)のアクリロイル−L−セリンを白色粉末として得た。NMR及びLC−MS分光分析によって化合物の同定を確認した。
【0084】
例3:(2S)−3−(アクリロイルオキシ)−2−アミノブタン酸の合成
6mlのトリフルオロ酢酸(TFA)を入れた反応容器を氷浴で冷却した。続いて、固体L−スレオニン(2.00g、16.79mmol)を添加し、この混合物を5分間撹拌した。トリフルオロメタンスルホン酸(0.18ml、2.0mmol)を、続いて塩化アクリロイル(2.5ml、32.9mmol)を添加し、この反応混合物を室温で2時間インキュベートした。反応の完了後、生成物をメチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)で沈澱させた。固体の単離後、生成物をMTBE及びアセトンで洗浄した。最後にO−アクリロイル−L−スレオニン塩酸塩を減圧乾燥して、白色粉末を得た(収率32.4%)。NMR及びLC−MS分光分析によって化合物の構造を確認した。
【0085】
例4:(S)−3−(4−(アクリロイルオキシ)フェニル)−2−アミノプロパン酸の合成
O−アクリロイル−L−チロシン−Cu
2+複合体の合成を、例1で述べた手順に従って行った。複合体からの銅の除去は以下の手順で行った:73.15g(140mmol)のO−アクリロイル−L−チロシン−Cu
2+複合体を、粉砕皿中で220mlの2N HCLに溶解した。この混合物を、Polytron(登録商標)PT 3000装置を用いてホモジナイズした。続いて、この混合物をろ過し、残渣を、50mlの2N HCLで2回洗浄した。次に、固体化合物を、NaOH上、40℃で減圧乾燥して、O−アクリロイル−L−チロシン塩酸塩を得た(46.96g、収率63%)。
【0086】
例5:(S)−2−(4−アクリルアミドフェニル)−2−アミノ酢酸の合成
Boc−4−アミノ−L−フェニルアラニン(2.50g、8.9mmol、Anaspec、Fremont、CA)を、25mlのクロロホルムに溶解した。トリエチルアミン(2.47ml、17.8mmol)をこの溶液に加え、この混合物を−15℃に冷却した。続いて、クロロホルム中の塩化アクリロイル(0.79ml、9.8mmol)を、撹拌しながらこの混合物に滴下した。塩化アクリロイルの添加完了後、この反応混合物をさらに3時間撹拌した。その後、反応混合物をガラスフィルターに通し、保護された(S)−2−(4−アクリルアミドフェニル)−2−アミノ酢酸をカラムクロマトグラフィで精製し、残留溶媒を蒸発させた。保護された(S)−2−(4−アクリルアミドフェニル)−2−アミノ酢酸(500mg、1.5mmol)を5mlのジクロロメタン(DCM)に溶解した。トリフルオロ酢酸(TFA)(800μl、10.38mmol)を添加し、この溶液を室温で1時間撹拌した。その後、溶媒を減圧除去し、5mlのDCMを添加し、溶媒を再度減圧除去した。この手順を数回繰り返した。最後に、生成物を3mlのDCMに溶解し、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)で沈澱させた。この固体をガラスフィルターで回収し、真空乾燥して、純粋なアクリロイル−4−アミノ−L−フェニルアラニンを15%の収率で得た。NMRによって化合物の構造を確認した。
【0087】
例6:(2S)−4−(アクリルロイルオキシ)ピロリジン−2−カルボン酸及び(R)−3−(アクリロイルチオ)−2−アミノプロパン酸の合成
これらの化合物の合成を、例1で述べたようにして行った。(2S)−4−(アクリルロイルオキシ)ピロリジン−2−カルボン酸及び(R)−3−(アクリロイルチオ)−2−アミノプロパン酸に対する出発物質は、それぞれ、4−ヒドロキシ−L−プロリン及びL−システインであった。
【0088】
例7:Fmoc−アクリルロイル−リジンの合成
アクリルロイル−L−リジン(10g)を、10%(重量/体積)炭酸ナトリウム水溶液の106mlに溶解し、この溶液を100mlのジオキサンで希釈した。50mlのジオキサンに溶解したFmoc−塩化物(14g)を、15〜25℃で、30分間にわたってこの反応混合物に添加した。この反応混合物を室温で3時間撹拌し、次に、10%のHCl水溶液でpH2に調節した。酢酸エチルで抽出した後、有機相を蒸発乾固させた。得られた透明の黄色がかったオイル(21.4g)を、200gのシリカゲルクッション上に載せ、酢酸エチルで洗浄した。生成物を、3:1(体積/体積)の酢酸エチル/メタノールを用いてシリカゲルから抽出した。溶媒の蒸発後、白色粉末(10.4g、収率50%)を得た。NMRによって化合物の構造を確認した。
【0089】
例8:Fmoc−アクリルロイル−L−セリン、Fmoc−アクリルロイル−L−スレオニン、Fmoc−アクリルロイル−L−チロシン、Fmoc−アクリルロイル−L−オキシプロリン、及びFmoc−アクリルロイル−L−システインの合成
これらの化合物の合成を、例7で述べたようにして行った。
【0090】
例9:アルファ−アミノ保護されたアミノ酸及び脱保護されたアミノ酸のメタクリル/エチルアクリル/プロピルアクリル誘導体の合成
メタクリル/エチルアクリル/プロピルアクリル誘導体の合成を、塩化メタクリロイルを例とする対応する酸塩化物を用い、例1から8で述べた条件下で行った。
【0091】
例10:(S)−6−アクリルアミド−2−パルミトアミドヘキサン酸の合成
以下の手順は、側鎖結合アミノ酸の遊離アルファアミノ基を脂肪酸で官能化するための一般的合成経路を表す。
【0092】
パルミチン酸(5g、19.5mmol)を塩化チオニル(2.12ml、29.2mmol)に溶解した。この反応混合物を、還流下、気体の形成が止まるまで加熱した。続いて、過剰の塩化チオニルを真空除去して、塩化パルミトイルを得た(5.36g、19.50mmol;収率100%;黄色オイル)。次に、塩化パルミトイル(5.36g、19.5mmol)を、水/THF混合物(5/2、70ml)中のアクリロイル−L−リジン(3.90g、19.50mmol)及び炭酸水素ナトリウム(3.1g、29.3mol)の溶液に添加した。この混合物を撹拌しながら一晩インキュベートした。続いて、Nε−アクリロイル−Nα−パルミチル−L−リジンを、エタノール/TBMEからの再結晶によって精製し、化合物の同定をNMR(
1H、
13C)で確認した(収率55%)。
【0093】
例11:(S,E)−6−アクリルアミド−2−オクタデカ−9−エンアミドヘキサン酸の合成
例10と同じ手順を用いて、アクリロイル−L−リジンのα−アミノ基をオレイン酸で官能化し、不飽和脂肪酸鎖を有するモデル化合物を作製した。
【0094】
例12:Nε−アクリロイル−Nα−コレステン−3β−カルボキシル−L−リジンの合成
コレステロールを、[18]に記載の手順によってコレステロール酸に変換した。続いて、コレステロール酸を用い、例10で述べた通りのプロトコルを用いて、アクリロイル−L−リジンのα−アミノ基を官能化した。
【0095】
例13:フリーラジカル重合を用いたHEMA/アクリロイル−L−リジンコポリマーの合成
200mlの反応容器中、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)(2.6g、20mmol)及びアクリロイル−L−リジン(4g、20mmol)を100mlの脱イオン水に溶解した。この溶液を超音波浴で脱気した。過硫酸アンモニウム(APS)(300mg、1.43mmol)及びテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(0.1ml、0.66mmol)を、脱気した溶液に添加した。室温で4時間重合を行い、反応容器を4℃に冷却することによって重合を停止した。得られたコポリマーを、3.5kDa分子量カットオフ(MWCO)の透析管を用いた脱イオン水に対する充分な透析によって精製した。精製されたコポリマーを凍結乾燥し、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によってその分子量を推定した。この方法の詳細な記述は、例14に提示する。
【0096】
例14:RAFT重合を用いたサイズの異なるDMA/アクリロイル−L−リジンコポリマーの合成
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)(0.312ml、3.03mmol)及びアクリロイル−L−リジン(67mg、0.336mmol)を、水溶性RAFT剤(2−(エチルチオカルボノチオイルチオ)−2−メチルプロパン酸)(7.62mg、34μmol、RAFT剤対モノマーのモル比:1:100)を含有する脱イオン水15ml中に溶解した。この混合物を超音波浴を用いて脱気した。2,2アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル))二塩酸塩(RAFT剤モル量に対して1/5の開始剤モル量;2.2mg、6.8μmol)を添加し、続いて45℃に加熱することによって重合を開始し、この温度を6時間維持した。得られたコポリマーを、3.5kDa MWCOの透析膜を用いた脱イオン水に対する充分な透析によって精製した。精製されたコポリマーを最終的に凍結乾燥した。このコポリマーの分子サイズが、RAFT剤対モノマーの比の関数であったことには留意されたい。1:100のモル比では、14kDaのコポリマーが、1:250のモル比では、35kDaのコポリマーが、1:600のモル比では、80kDaのコポリマーが得られた。コポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で確認した。GPC分析では、3.33mg/mlのコポリマーストック溶液を、溶出緩衝液(0.05%(重量/体積)のNaN
3を含有する脱イオン水)で作製し、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。続いて、0.4mlのストック溶液を、GPC装置(1260 Infinity LC−System、Agilent、サンタクララ、CA)のポートに注入した。クロマトグラフィを、0.5ml/分の一定流速の溶出緩衝液で行った。コポリマーサンプルを、55℃の外部カラムオーブン中に配置したSuprema 3カラムシステム(プレカラム、1000Å、30Å;5μm粒子サイズ;PSS、マインツ、ドイツ)上で分離した。コポリマーを、RI(屈折率)及びUV検出器によって分析した。検量線(10点)を、プルラン標準を用いて作成した。同定したコポリマーの分子量を、この標準をレファレンスとして推定した。分子量の異なるDMA/アクリロイル−L−リジンコポリマーの混合物の例示的なクロマトグラムを、
図2Bに示す。
【0097】
例15:異なるCellophilコポリマーとHEMAベースのシリコーンヒドロゲルレンズとの相互作用
HEMAベースのシリコーンヒドロゲルレンズを様々なCellophilコポリマーでコーティングする過程で、結合挙動に著しい相違が見られた。驚くべきことに、処理されるべきレンズ中にも存在する主要モノマーを含むCellophilコポリマーが、そのような主要モノマーを含まないCellophilコポリマーよりも強くそのレンズに結合することが見出された。例を
図3に示す。実験では、HEMAを含む4つのコンタクトレンズを、HEMAを含むCellophilコポリマー(1%(重量/体積)(HEMA(50mol%)/AK(50mol%)、72kDa、PDI 3.1)又はn−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)を含むCellophil(NIPAAm(50mol%)/AK(50mol%)、75kDa、PDI 2.9)のいずれかと、116℃で20分間インキュベートした。Cellophilコポリマーで処理したレンズは、過剰のPBS(pH7.4)中で、それぞれ3若しくは6時間さらにインキュベートするか、又はそのようなインキュベーションを行わなかった。次に、すべてのレンズを、95℃に加熱したニンヒドリン溶液中で2時間インキュベートした。赤紫色の染色が、アミノ酸含有Cellophilコポリマーの存在を示す。結果から、NIPAAmを含むCellophilコポリマーよりも、HEMAを含むCellophilコポリマーで処理したレンズの染色の方が、より耐久性が高いことが示された(
図3A)。本発明者らは、HEMAを含むCellophilコポリマーが、NIPAAmを含むCellophilコポリマーよりも、HEMAを含むレンズ中により効率的に浸透し、及び/又はより良好に保持されたものと結論付けた。
【0098】
この効果をより詳細に分析するために、上記で述べたようにしてCellophilコポリマーでコーティングしたHEMAベースのシリコンヒドロゲルレンズを、ニンヒドリンで染色し、手作業で切断し、写真分析によって特性を調べた。HEMAを含むCellophilコポリマーは、コーティング手順の過程でコンタクトレンズ中に浸透することができたが、NIPAAmを含むより疎水性のCellophilコポリマーではそうではなかった(
図3C及びD)。このことから、レンズのヒドロゲル部分は、HEMAを含むより親水性のCellophilコポリマーと相互作用を起こし得るが、斥力を受ける可能性があるためにレンズ中に深く浸透することができないNIPAAmを含むより疎水性のCellophilコポリマーとは相互作用を起こさないことが示唆される。これらの驚くべき知見は、特定のレンズ材料にCellophilコポリマーを適合させるために有用であり得るものであり、コーティングプロセスの最適な実施に繋がる。
【0099】
例16:フリーラジカル重合を用いたDMA/アクリロイル−L−リジン/6−アクリルアミド−2−パルミトアミドヘキサン酸トリ−コポリマーの合成
20mlの反応容器中、
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)(0.26ml、2.52mmol)、アクリロイル−L−リジン(63mg、0.315mmol)、及びNε−アクリロイル−Nα−パルミチル−L−リジン(27.6mg、0.062mmol)を15mlの脱イオン水に溶解し、TMEDA(0.07ml、0.464mmol)を添加した。この溶液を超音波浴を用いて脱気した。過硫酸アンモニウム(APS)(6.62mg、0.029mmol)を脱気した溶液に添加した。室温で4時間重合反応を行い、反応容器を4℃に冷却することによって反応を停止した。その後、コポリマーを、3.5kDa MWCOの透析管を用いた脱イオン水に対する充分な透析によって精製した。精製されたコポリマーを最終的に凍結乾燥し、その平均分子量(127kDa)及びPDI(2.7)を、GPC)によって推定した。この方法の詳細な記述は、例14に示した。
【0100】
例17:脂質様構造を有するCellophilブロックコポリマー
シリコーン及びシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズ材料は、装用中に涙膜からのタンパク質及び脂質と結合する傾向にある。タンパク質及び脂質堆積物の累積は、装用の心地良さ及び視界の低下に繋がる[19、20]。このような望ましくない反応を低減するために、ブロックコポリマーを合成した。レンズ表面にこれらのブロックコポリマーが存在することにより、脂質及びタンパク質のレンズ表面上への堆積が防止されるという仮説を立てた。ブロックコポリマーは、式I又は式IIの親水性非官能化側鎖結合アミノ酸を含む第一のブロック、及びそのアルファ−アミノ基及び/又はカルボキシル基がアルキル又はコレステリル残基で官能化された式I又は式IIの疎水性側鎖結合アミノ酸、並びに他の疎水性モノマーを含む第二のブロックを有する。アルキル又はコレステロール残基は、レンズ表面に有害な堆積物を形成する原因であることが知られているヒト涙膜中に典型的に見出される脂質の構造を模倣するはずである[21〜23]。ブロックコポリマーは、コーティング手順の過程で、コンタクトレンズのシリコーン表面と強く相互作用を起こすものと期待された。シリコーンレンズ表面をブロックコポリマーで飽和させることにより、脂質の堆積が防止されるはずである。ブロックコポリマーの親水性ブロックは、レンズ表面とは反対側に向くことになる。それらは、水分子との高い結合能を有することから、レンズの表面湿潤性及び潤滑性が高められるはずである。形成された水性層は、疎水性の涙液脂質との相互作用に対する効果的なバリアとして機能するはずである。
【0101】
上記で述べた仮説を、アクリロイル−L−リジンモノマーを含む親水性ブロック、並びにアクリル化脂肪アルコール(イソ−デシルアクリレート)及び
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)を含む疎水性/親油性ブロックを有するブロックコポリマーを用いてまず試験した。親水性ブロック、すなわち、1若しくは複数の式I及び/又は式IIの非官能化側鎖結合アミノ酸モノマーを含むブロック、並びに1若しくは複数の主要モノマーを含む疎水性ブロックを有するブロックコポリマーも、シリコーンヒドロゲルレンズのコーティングにこれらのコポリマーが有用であることから、本発明に包含される。
【0102】
親水性Cellophilポリマー及び脂質様コポリマーを含むブロックコポリマーのRAFT重合を用いた作製
工程A
50mlの丸底フラスコ中、2−(ドデシルチオカルボノチオイルチオ)−2−メチルプロパン酸(6.13mg、0.017mmol)、
N,N−ジメチルアクリルアミド(0.624ml、6.05mmol)、及びイソ−デシルアクリレート(0.163ml、0.673mmol)の10ml DMF中の溶液を、超音波処理を用いて脱気した。続いて、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン(6.40mg、0.017mmol)を添加し、UV光で重合を誘発した。撹拌下での4時間の重合後、反応混合物を、3.5kDa MWCOの膜を用いた脱イオン水に対する充分な透析によって精製した。続いて、この混合物を凍結乾燥した。ブロックコポリマーの平均分子量(12kDa)及びPDI(1.19)を、GPC測定によって確認した。
【0103】
工程B
工程Aで作製し、凍結乾燥したマクロ−CTA(300mg、6.82μmol)を、10mlの脱イオン水中、アクリロイル−L−リジン(100mg、0.499mmol)と混合した。この混合物を超音波処理を用いて脱気した。2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(4.62mg、0.017mmol)をこの混合物に添加した。反応容器中でこの混合物を50℃に加熱することによって重合を誘発した。50℃で4時間の重合後、得られたブロックコポリマーを、3.5kDa MWCOの膜を用いた脱イオン水に対する充分な透析によって精製した。続いて、Cellophilブロックコポリマーを凍結乾燥した。ブロックコポリマーの平均分子量(18kDa)及びPDI(1.25)を、GPC測定によって確認した。工程AでのCTA対モノマー比を、それぞれ、1/100から1/200(32kDA)、及び1/400(58kDa)に低下させることによって、より大きいブロックコポリマー(32kDa、PDI 1.28;58kDa、PDI 1.24)が得られ、一方イソ−デシルアクリレート(7.5mol%)、DMA(63.9mol%)、及びAK(28.6mol%)のモル比は一定に保持された。
【0104】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの湿潤性に対するこれらのCellophilブロックコポリマーの効果を、接触角の測定によって試験した。低い接触角は、良好な表面湿潤性を示す。この実験では、Narafilcon Aベースのレンズを、18kDa、32kDa、又は58kDaのCellophilブロックコポリマーでコーティングした。このコーティングを実現するために、レンズを、Cellophilブロックコポリマーの1%(重量/体積)溶液中、116℃で20分間インキュベートし、次に、ゆっくり室温に冷却した。このコーティング後、レンズを、5mlのPBS中、僅かに撹拌しながら室温で10分間インキュベートして、過剰のブロックコポリマーを除去し、24時間風乾した。続いて、鋭利なナイフを用いて、レンズから長方形の小片(0.5×0.5cm)を切り出した。このレンズ片を、脂肪を含まないスライドガラス上に置いた接着性フィルム上に載せ、このスライドを、液滴プロファイル分析器(drop profile analyzer)(CAM−100、KSV Instruments、ヘルシンキ、フィンランド)に導入した。測定では、小水滴を、細い針を用いて材料上に置いた。液滴の接触角を、CAM2008ソフトウェア(KSV Instruments)を用いた写真分析によって推定した。コーティングされていないレンズから同様にして得た片を、コントロールとして用いた。
【0105】
この実験の結果を、
図4Aに示す。データは、4つのレンズに対する平均接触角及び標準偏差を表す。図のBでは、代表的な画像により、異なるコーティングによる接触角の低下が示されている。データは、脂質様ブロックを有するCellophilブロックコポリマーでのコーティングが、接触角を低下させ得ることを示しており、このことは、レンズ表面の湿潤性の増加を示唆している。この効果は、ブロックコポリマーのサイズに依存していた。およそ18kDaの小さいブロックコポリマーでは、湿潤性に対して著しい効果が示されなかったのに対し、より高い分子量(32kDa及び58kDa)のブロックコポリマーでは、著しい改善が見られた。これらの中でも、32kDaのコポリマーの方が、接触角の大きい低下を示した。このことは、湿潤性に対する最良の効果のための最適なブロックコポリマーサイズが、18Kda超であることを示唆している。
【0106】
アクリロイル−L−リジンモノマーを含む親水性ブロックを含む第一のブロック、並びにNε−アクリロイル−Nα−パルミチル−L−リジン(AK−PAL)及び
N,N−ジメチルアクリルアミド(DMA)を含む疎水性/親油性ブロックを有する、式Iの疎水性モノマーの量が異なる他のブロックコポリマーを合成した。この結果、以下のブロックコポリマーが得られる:
MH02[DMA(90.6%mol)/AK−PAL(0.6%mol)/AK(9.9%mol]、PDI 1.26;
MH03[DMA(90.1%mol)/AK−PAL(1.1%mol)/AK(8.8%mol]、PDI 1.26;
MH04;[DMA(89.6%mol)/AK−PAL(1.6%mol)/AK(8.8%mol]、PDI 1.28;
MH05;[DMA(84.0%mol),AK−PAL(0.5%mol)/AK(15.5%mol]、PDI 1.29、
MH06[DMA(83.6%mol),AK−PAL(1.1%mol)/AK(15.4%mol]、PDI 1.25、
MH07[DMA(83.2%mol),AK−PAL(1.5%mol)/AK(15.3%mol]、PDI 1.25
【0107】
上記ブロックコポリマーのサイズは、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)により、約8kDa(8〜10kDa)と特定された。MALDIに関する技術的情報については、Karas,M.and Kruger,R.(2003)Ion formation in MALDI:the cluster ionization mechanism.Chem.Rev.103(2):427−40を参照されたい。
【0108】
これらのブロックコポリマーの結合挙動を、3つの異なる市販のシリコーンヒドロゲルレンズ材料(Air optics aqua(登録商標)/Lotrafilcon B;Pure Vision(登録商標)/Balafilcon A、及びBiofinity(登録商標)/Comfilcon A)をコーティングすることによって試験した。この分析では、レンズを、Cellophilブロックコポリマーの1%(重量/体積)溶液中、116℃で20分間インキュベートし、次に、ゆっくり室温に冷却した。このコーティング後、レンズを、5mlのPBS中、僅かに撹拌しながら室温で10分間インキュベートして、過剰のブロックコポリマーを除去した。コーティングされていないレンズをコントロールとして用いた。続いて、コーティングレンズ及びコントロールレンズを、Cellophilコポリマーの一級アミノ基と反応して黄色の接合体を形成するピクリルスルホン酸の0.01%(重量/体積)水溶液中、37℃で2時間インキュベートした。次に、レンズ表面と結合したCellophilコポリマーの量を、目視検査で推定した。この実験により、Cellophilコポリマーを、コーティングされるべきレンズ材料に関して適合/最適化させる必要があることが確認された。Cellophilコポリマーの3つのレンズ材料との結合は異なっていた。例えば、CellophilコポリマーMH05は、Comfilcon A及びBalafilcon Aのレンズ材料との強い結合を示したが、Lotrafilcon Bのレンズ材料との結合は弱かった。このような相違はあるが、全体として、ブロックコポリマー中における式Iの親水性モノマーの式Iの疎水性モノマーに対する比が低い方が、レンズ表面とのより良好な結合と相関していた。
【0109】
既に述べたように、第一の重合反応でのCTA対モノマー比を低下させることによって、ブロックコポリマーMH04の2つのより長いバージョンを合成した。これらのブロックコポリマーのサイズは、それぞれ、約16kDa及び24kDaと推定された。3つの異なるサイズのMH04ブロックコポリマーの各々でシリコンヒドロゲルレンズをコーティングし、ピクリルスルホン酸で染色し、前述のセクションで考察した通りに分析した。8kDaのMH04ブロックコポリマーが、レンズ中に良好に浸透したのに対し、16kDa及び24kDaのブロックコポリマーでは、非常に少ない染色/浸透が観察された。以下に詳述する実験では、8kDaのブロックコポリマーのみを用いた。
【0110】
CellophilブロックコポリマーMH03、MH04、及びMH06(これらのコポリマーは、Lotrafilcon A(Air optics aqua(登録商標)、Alcon)シリコーンヒドロゲルレンズとの良好な結合を示した)の湿潤性効果を、上記で述べたプロトコルに類似のプロトコルを用いた接触角測定によって特定した。CellophilブロックコポリマーでコーティングしたLotrafilcon Aレンズ及び未コーティングのままとしたLotrafilcon Aレンズの湿潤性を、包装溶液から取り出して測定まで24時間風乾させておいたdaily total one(登録商標)(DT−1)レンズと比較した。DT−1は、市販されているすべてのシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの中で最良の表面湿潤性を有することが知られている。眼の環境を模擬的に再現するために、これらの測定を、合成涙液([24]に従うが、脂質混合物は含めない)中で行った。結果を
図5に示す。試験したすべてのCellophilコポリマーは、未コーティングのコントロールと比較して、表面湿潤性を大きく改善した。Lotrafilcon AレンズをCellophilブロックコポリマーMH04及びMH06でコーティングすることにより、DT−1で見られる接触角と同等の接触角が得られた。CellophilコポリマーMH04を、さらなる試験用として選択した。
【0111】
コーティングプロセスの性能をさらに解明するために、マイクロトライボロジー測定を行って、コーティングされたコンタクトレンズの摩擦係数を分析した。Lotrafilcon Aシリコーンヒドロゲルレンズ(Air optix aqua(登録商標)、Alcon)を、PBS(pH7.4、レンズあたり10ml)中、室温で6時間インキュベートして、元の包装溶液からの存在し得る界面活性剤を除去した。続いて、1.5mlの反応管中(反応管あたり1つのレンズ)のCellophil脂質ブロックコポリマーMH04(PBSの1重量/体積%)の溶液中、又はPBS(pH7.4、=ブランク)中にレンズを入れ、116℃で20分間インキュベートした。その後、溶液を室温までゆっくり冷却した。コーティングされたレンズ及びコーティングされていないレンズを、マイクロトライボメーター(BASALT(登録商標)−MUST Precision Tester、TETRA GmbH、イルメナウ、ドイツ)で分析した。分析されるべきレンズをレンズ容器中に入れた。レンズの裏側をプレシジョンワイプで軽く拭き、レンズを球状サンプルホルダー(r=8.6mm)中に置いた。60秒間でホルダー表面にレンズを密着させた後、ホルダーをトライボメーターに載せた。100μlの合成涙液(上記参照)を、キャピラリーブリッジを形成する球状ホルダーと固定した対向ボディ(fixed counter body)との間の接触領域に配置した。対向ボディとしては、PETフィルムを用いた(Good Fellow、厚さ0.1mm、幅20mm、透明、二軸延伸)。PETフィルムは、顕微鏡用スライドガラス上にシアノアクリレート接着剤で予め固定した。接着剤は、接触領域が不均一になることを避けるために、ストライプの始端部と終端部に塗布した。測定は、30mNの荷重及び30mm/分の速度で、固定した対向ボディ上を10mmの距離にわたってホルダーを移動させることによって行った。10回の往復サイクルを行って測定完了とした。最後の7サイクルをデータ分析に用いた。これらのデータセットは、得られた摩擦係数が動摩擦と静摩擦との平均を表すように、変向点の値を含んでいた。包装溶液から取り出したLotrafilcon A(Air optics aqua(登録商標)、Alcon)及びDaily total one(登録商標)(DT−1)のシリコーンヒドロゲルレンズをレファレンスとして用いた。各条件について10個のレンズを分析した。この実験の結果を、
図6にグラフで表す。Cellophilコポリマーのコーティングは、コーティングされていないコンタクトレンズ(ブランク)と比較した場合、有意に(p値=2.97×10
−5)摩擦係数を低下させた。具体的には、コーティングは、摩擦の平均値を、0.133 +/−0.039から0.035 +/−0.016に低下させており、包装から取り出したばかりのDT−1コンタクトレンズの値(0.019 +/−0.004)に近い。両側t検定により、これら2つの群の間に統計的有意差がないことが分かった(Cellophilコーティングされたレンズ対DT−1;p値=0.06)。コーティングされていないAir Optixレンズ(ブランク)及び包装から取り出したばかりのAir Optix レンズは、摩擦係数に有意差を示さなかった(p値=0.55)。このことは、この手順(洗浄及びPBSでのオートクレーブ処理)が、コーティングされていないコンタクトレンズの性能を大きく低下させることはなかったことを示している。したがって、摩擦の低下(=潤滑性の上昇)は、Cellophilコポリマーコーティングの直接の結果であった。
【0112】
例18:6−及び4−アームRAFT剤の合成
以下のプロトコルは、マルチアームCellophilコポリマーの作製に有用であるマルチアームRAFT剤の合成のための一般手順について記載するものである。当業者であれば、RAFT前駆体分子又はコア構造の交換を例とする特定の用途に有用であるこれらのマルチアームRAFT剤の変形体を得る目的で、パラメーターを変更することができる。
【0113】
テトラヒドロフラン(30mL)中の2−ブロモプロピオニルブロミド(10.97mL、105.00mmol)の溶液を、窒素下、0℃にて、トリエチルアミン(14.61mL、105.00mmol)及びテトラヒドロフラン(100mL)中のジペンタエリスリトール(4.00g、15.73mmol)の懸濁液に添加した。得られた懸濁液を、室温まで加温し、16時間撹拌した。固体をろ過によって除去し、ろ液の溶媒を減圧蒸発させた。残渣を酢酸エチル(150mL)に溶解し、水(2×50mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(2×50mL)、水(2×50mL)、及び鹹水(50mL)で順に洗浄した。有機相を分離し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、真空濃縮して、橙色オイルを得た。ジエチルエーテルからの結晶化により、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−ブロモプロピオネート)(2.00g、12%)を白色固体として得た。
【0114】
ジエチルエーテル(13mL)中の二硫化炭素(0.95mL、15.79mmol)の溶液を、室温で、ジエチルエーテル(40mL)中のナトリウムエタンチオレート(1.11g、13.16mmol)の懸濁液に添加し、この反応混合物を、室温で2時間撹拌した。溶媒を真空除去した。残渣を酢酸エチル(8mL)に溶解し、酢酸エチル(1.5mL)中のジペンタエリスリトールヘキサキス(2−ブロモプロピオネート)(1.00g、0.94mmol)の懸濁液を室温で滴下した。この懸濁液を、室温でさらに4時間撹拌し、鹹水(10mL)で反応停止した。水相を分離し、酢酸エチル(3×15mL)で抽出した。1つにまとめた有機相を、水(2×20mL)、塩酸水溶液(2×15mL)、水(15mL)、及び鹹水(20mL)で洗浄した。有機相を分離し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、減圧濃縮した。カラムクロマトグラフィ(SiO2、n−ヘキサン/酢酸エチル、4:1、体積/体積)で精製して、6−アームRAFT開始剤(1.00g、76%)を黄色オイルとして得た。
【0115】
ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−ブロモプロピオネート)の合成において記載したものと同じ手順を、ペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモプロピオネート)の合成に適用した。ペンタエリスリトール(3.00g、22.04mmol)を、トリエチルアミン(13.22mL、95.00mmol)の存在下で2−ブロモプロピオニルブロミド(9.92mL、95.00mmol)と反応させた。ジエチルエーテルからの結晶化により、ペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモプロピオネート)(5.10g、34%)を白色固体として得た。
【0116】
水(4mL)によるエタンチオール(1.92mL、26.60mmol)の溶液を、0℃で10分間撹拌した。その後、水(1.08mL)による水酸化ナトリウム(1.08g、26.9mmol)の溶液を滴下し、続いて、アセトン(1.5mL)を添加した。この溶液を、室温で30分間撹拌し、再度0℃に冷却した。ジクロロメタン(10mL)中のペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモプロピオネート)(3.00g、4.44mmol)の溶液を添加し、この反応混合物を、室温で48時間撹拌した。この懸濁液をろ過し、ろ液を酢酸エチル(50mL)で希釈した。有機相を分離し、水(2×20mL)、塩酸水溶液(2×15mL)、水(15mL)、及び鹹水(20mL)で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、有機相をろ過し、真空濃縮した。カラムクロマトグラフィ(SiO2、n−ヘキサン/酢酸エチル、4:1、体積/体積)で精製して、4−アームRAFT開始剤(3.20g、80%)を黄色オイルとして得た。
【0117】
すべての生成物は、NMR測定によって確認した。合成プロトコルは、参考文献[25〜27]から適合させた。
【0118】
例19:32アームデントリマーRAFT剤の合成
以下のプロトコルは、Cellophilコポリマーのデントリマー誘導体の作製に有用であるデントリマーRAFT剤の合成のための一般手順について記載するものである。
【0119】
50mlの反応容器中、1−クロロ−2−メチル−1−オキソプロパン−2−イルエチルカルボノトリチオエート(0.75g、3.09mmol)を2mlのクロロホルムに溶解した。この溶液に、25mlのクロロホルム中のPEG136−DEOH32(0.458g、0.048mmol;Sigma Aldrich、ブーフス、スイス)を添加し、この混合物を、室温で30分間インキュベートした。続いて、トリエチルアミン(0.215ml、1.544mmol)を添加し、この混合物を、さらに30分間インキュベートした。その後、溶媒を減圧除去し、残渣を水(50ml)で洗浄した。得られたエマルジョンを遠心分離し、上相を除去した。残留物に、tert−ブチルメチルエーテル(tBME)(50ml)を加え、振とうによって混合し、得られたエマルジョンを遠心分離によって分離した。最後に、生成物を、40℃の減圧下、水酸化ナトリウム上で乾燥した(0.2g、0.012mmol;収率25.8%)。生成物をNMR測定によって確認した。
【0120】
例20:6アームCellophil DMA/AK−PAL/AKトリブロックコポリマーの合成
10mlのDMF中の6−アームRAFT剤(例18)(20mg、1.4μmol)及びDMA(1.756ml、17.04mmol)の溶液を、超音波浴で脱気し、AIBN(4.66mg、0.028mmol)を添加して60℃に加熱することによって重合を開始した。6時間後、得られた6−アームポリマーをtBMEで沈澱させ、40℃で減圧乾燥した。
【0121】
続いて、精製したマクロ−RAFT剤(1g、8.33μmol)を、10mlの水中でのNε−アクリロイル−Nα−パルミチル−L−リジン(73mg、167μmol)及び2,2’アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(2.26mg、8.33μmol)との第二の重合に用いた。重合は、45℃に加熱することによって誘発し、6時間継続した。得られた6−アームDMA/AK−PALブロックコポリマーを、3.5 MWCOの膜を用いた透析によって精製し、凍結乾燥した。次に、同じ重合及び精製手順を用いるが、Nε−アクリロイル−Nα−パルミチル−L−リジンをアクリロイル−L−リジンで置き換えて第三の親水性アクリロイル−L−リジンブロックを付加するために、この6−アームDMA/AK−PALブロックコポリマーをマクロ−RAFT剤として用いた。
【0122】
例21:メチル6−アクリルアミド−2−ドデカンアミドヘキサノエートの合成
強力凝縮器(intensive condenser)を備えた二口フラスコ中、AK−Lau(例10に示した手順に従って合成)(1g、2.61mmol)を15mlのDMFに溶解した。この溶液に、炭酸ナトリウム(0.554g、5.24mmol)を加えた。続いて、ヨードメタン(0.654ml、10.46mmol)を、膜(septum)を通して滴下した。この反応液を室温で一晩撹拌し、その後20mlの酢酸エチルを添加した。有機相を、脱イオン水及び鹹水で2回洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥し、溶媒を乾固するまで真空除去した。次に、固体生成物を酢酸エチルに溶解し、活性炭を通してろ過して残留ヨウ素を除去した。溶媒を真空除去して、純粋なメチル6−アクリルアミド−2−ドデカンアミドヘキサノエート(0.7g、収率67.5%)を得た。生成物をNMR測定によって確認した。
【0123】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において特に断りのない限り、その範囲内に含まれる各個別の値を個々に述べる簡潔な方法として用いることを意図しているだけであり、各個別の値は、それが本明細書において個々に列挙されているかのごとく本明細書に組み入れられる。特に断りのない限り、本明細書で提供されるすべての厳密な数値は、対応する近似的値を代表するものである(例:特定の因子又は測定値に関して提供されるすべての厳密な例示的値は、該当する場合、「約」で修飾されて、対応する近似的測定値も提供するものと見なされ得る)。
【0124】
本明細書で提供されるすべての例又は例示的言語(例:「など」)の使用は、本発明をより明らかにすることを意図しているだけであり、特に断りのない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。
【0125】
本明細書における特許文献の引用及び援用は、単に便宜上行うものであり、そのような特許文献の有効性、特許性、及び/又は権利行使性のいかなる見解も反映するものではない。要素に関するなどの用語を用いた本発明のいかなる態様又は実施形態の本明細書における記述も、特に断りのない限り、又は文脈からそうでないことが明らかではない限り、その特定の要素から「成る」、「本質的に成る」、若しくはその特定の要素を「実質的に含む」本発明の類似の態様又は実施形態に対する支持を提供することを意図している(例:特定の要素を含むとして本明細書で記載される組成物は、特に断りのない限り、又は文脈からそうでないことが明らかではない限り、その要素から成る組成物についても記載しているものとして理解されるべきである)。
【0126】
本発明は、該当する法の許す最大限まで、本明細書で提示される態様又は請求項に列挙される主題のすべての改変及び均等物を含む。
【0127】
本明細書で引用されるすべての刊行物及び特許文献は、各個々の刊行物又は特許文献が参照により援用されると具体的に及び個々に示されているかのごとく、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0128】
上述の発明を、理解の明確性を目的とする説明及び例によってある程度詳細に述べてきたが、当業者であれば、本発明の教示事項に照らして、添付の請求項の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の変更及び改変が本発明に行われてもよいことは容易に明らかである。