(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
線径20〜250μmである繊維が10〜150メッシュで織られたスクリーンメッシュに、乳剤が100〜500μmの厚みでパターニングされたスクリーン印刷版を通じて、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性組成物を被着体に塗布する塗布工程を含む、熱伝導性部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているスクリーン印刷は生産性が高いとともに自由な形にパターニングできたり、表面に微細な凹凸を付与できたりといったメリットがある。熱伝導性グリスを用いたスクリーン印刷も従来から行われてはいたが、厚膜塗布には不向きなため、対象はPC及び電子機器のヒートシンクへの印刷が主で、薄膜形成を目的とするものであった。
【0007】
ところが、近年、EVバッテリ用に代表する自動車向けの市場においても、スクリーン印刷による熱伝導性グリスの塗布の要望が増すようになった。こうした用途では、熱伝導性グリスの厚膜印刷が求められる。すなわち、自動車用途では発熱体を含むユニットの大きさが比較的大きく、発熱体と放熱体の隙間の設計交差が大きくなる傾向があり、その交差吸収のためにやや厚い膜の形成が要求される。また、駆動系のメカ又は走行によって振動が生じても発熱体等へ過大な負荷がかからないようにやや厚く、かつ柔軟な放熱部材が必要とされる。そのため、従来の熱伝導性グリス、及びこれを用いたスクリーン印刷では上記用途には十分に対応できないのが現状であった。
【0008】
以上から、本発明の課題は、良好な生産性で厚膜形成が可能な熱伝導性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、熱伝導性組成物の粘度とチキソ比に着目し、これらを所定の範囲とすることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0010】
[1]バインダーと熱伝導性充填材とを含む熱伝導性組成物であって、25℃において回転粘度計を用いて回転速度10rpmで測定される第1粘度が、50〜300Pa・sであり、25℃において回転粘度計を用いて回転速度1rpmで測定される粘度を第2粘度としたときに、第1粘度に対する第2粘度の比率[第2粘度/第1粘度]が、3〜8である熱伝導性組成物。
[2]前記熱伝導性充填材の平均粒径が10〜80μmであり、かつ128μmを超える粒子の含有率が5体積%以下である[1]に記載の熱伝導性組成物。
[3]前記バインダーが熱硬化性高分子であり、硬化後のASTM D2240−05に規定されるOO硬度が5〜80である[1]又は[2]に記載の熱伝導性組成物。
[4]実質的に溶剤を含まない[1]〜[3]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[5]スクリーン印刷用である[1]〜[4]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の熱伝導性組成物を硬化させた硬化物を含む熱伝導性部材であって、前記硬化物の厚みが0.03〜1mmであり、ASTM D2240−05に規定されるOO硬度が5〜80である、熱伝導性部材。
[7]前記硬化物の厚みが0.3〜1mmである[6]に記載の熱伝導性部材。
[8]前記硬化物表面のタックが0.05N/10mm以上である[6]又は[7]に記載の熱伝導性部材。
[9]少なくとも一方の表面に、ピッチが0.1〜2.5mmの規則的な凹凸が形成されている[6]〜[8]のいずれかに記載の熱伝導性部材。
[10]前記凹部から前記凸部のまでの平均高さが10〜500μmである[6]〜[9]のいずれかに記載の熱伝導性部材。
[11]線径20〜250μmである繊維が10〜150メッシュで織られたスクリーンメッシュに、乳剤が100〜500μmの厚みでパターニングされたスクリーン印刷版を通じて、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱伝導性組成物を被着体に塗布する塗布工程を含む、熱伝導性部材の製造方法。
[12]放熱体と、該放熱体上に設けられた熱伝導性部材とを含む放熱構造であって、前記熱伝導性部材が[6]〜[10]のいずれかに記載の熱伝導性部材である、放熱構造。
[13]前記熱伝導性部材上に発熱体が設けられてなる[12]に記載の放熱構造。
[14]前記放熱体がヒートシンクである[12]又は[13]に記載の放熱構造。
[15]発熱体の表面に[6]〜[10]のいずれかに記載の熱伝導性部材が設けられている発熱複合部材。
[16]放熱体の表面に[6]〜[10]のいずれかに記載の熱伝導性部材が設けられている放熱複合部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な生産性で厚膜形成が可能な熱伝導性組成物を提供することができる。例えばスクリーン印刷であっても比較的厚い膜を形成できる。また、一方側の被着体(放熱体または発熱体)に直接、柔軟な硬化物を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熱伝導性組成物]
以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性組成物について説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性組成物バインダーと熱伝導性充填材とを含み、25℃において回転粘度計を用いて回転速度10rpmで測定される第1粘度が、50〜300Pa・sである。第1粘度が50Pa・s未満であると、厚膜状にパターニングされた熱伝導性組成物の硬化前後で形状維持性が低下したり、熱伝導率が低くなりやすくなったりする。第1粘度が300Pa・sを超えると、スクリーン印刷の際に目が詰まりやすくなって生産性を低下させてしてしまう。
第1粘度は、150〜300Pa・sであることがより好ましい。第1粘度を150〜300Pa・sとすれば、特に形状維持性が高く、また充填性を高めることができる。したがって、熱伝導性も高めやすい。また、第1粘度は150〜250Pa・sであることがさらに好ましい。第1粘度を150〜250Pa・sとすれば、印刷性と形状維持性のバランスの点で特に好ましいためである。
【0013】
本発明の熱伝導性組成物は、25℃において回転粘度計を用いて回転速度1rpmで測定される粘度を第2粘度としたときに、上記第1粘度に対する第2粘度の比率[第2粘度/第1粘度](「チキソ比」ともいう)が、3〜8である。[第2粘度/第1粘度]が3未満であると、厚膜状にパターニングされた熱伝導性組成物の硬化前後で形状維持性が低下したり、硬化後の表面に凹凸を付与したい場合に当該凹凸を形成しづらくなる。[第2粘度/第1粘度]が8を超えると、スクリーン印刷の際に目が詰まりやすくなって生産性を低下させてしてしまう。
[第2粘度/第1粘度]は、3.5〜6であることがより好ましい。この範囲であれば、やや高めの粘度領域において印刷性を保ちつつ、特に形状維持性に優れた熱伝導性組成物を得ることができる。
【0014】
第1粘度及び[第2粘度/第1粘度]は、バインダーの粘度と熱伝導性充填材の粒径を調整、例えば、粒径の大きいものと小さいものとの比率と添加量を調整することで所望の範囲にすることができる。
また、熱伝導性組成物に後述する反応性シリコーンオイルを適宜混合させて、所望の範囲に調整することもできる。
【0015】
(バインダー)
バインダーとしては、熱硬化性高分子及び光硬化性高分子等が挙げられるが、生産性を考慮すると熱硬化性高分子が好ましい。また、熱硬化性高分子としては、硬化収縮の観点から、付加反応型高分子であることが好ましい。発熱体と放熱体とで挟持した状態で熱伝導性組成物を硬化したときに、硬化収縮が大きいと発熱体または放熱体との間に隙間が生じることがあるが、付加反応型高分子であれば、硬化収縮が小さいため隙間が生じる不都合が生じにくい。
付加反応型高分子としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリ−α−オレフィン等が挙げられるが、オルガノポリシロキサンなどの反応硬化型シリコーンが、柔軟性、及び熱伝導性充填材の充填性の点で好ましい。
【0016】
上記の反応硬化型シリコーンは室温(25℃)において液状であることが好ましい。反応硬化型シリコーンは、好ましくは、バインダー成分である主剤と、硬化剤とを含み、該主剤が、架橋構造の形成が可能な反応性基を有するポリオルガノシロキサンである。
【0017】
当該反応硬化型シリコーンとしては、例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含むものがより好ましい。
反応硬化性シリコーンの粘度は0.05Pa・s〜2Pa・s程度であることが好ましい。粘度が0.05Pa・s未満のものは分子量が低い傾向があり、硬化した後でも分子量を高めにくいため、熱伝導性組成物の硬化体が脆くなるおそれがある。一方、粘度が2Pa・sを超えると、熱伝導性組成物の粘度が上昇し易いため、熱伝導性組成物を所望の粘度範囲にすると熱伝導性充填材の配合量が少なくなり熱伝導性を高め難い。
【0018】
熱伝導性組成物の硬化体が適度な柔軟性を得る観点から、バインダーが熱硬化性高分子であり、熱伝導性組成物の硬化後のASTM D2240−05に規定されるOO硬度が5〜80であることが好ましい。OO硬度が80以下(以下、OO80以下と記載する場合もある)の柔軟な硬化体とすれば、振動及び衝撃によって放熱体と発熱体の間隔が変化する場合であっても過大な応力を生じさせ難い。一方、硬度がOO5以上であることで、熱伝導性組成物の硬化体がある程度の強度を備えるため破損するおそれが低くなる。
また、OO硬度は5〜55であることがより好ましい。硬さがOO55以下の柔軟な硬化体とすれば、硬化後に凹凸の大きな部材と密着させても、極めて小さい応力で密着させることができる。なお、こうした極めて柔軟な硬化体は変形しやすく、予めシート状に形成したものは容易に変形してしまうため単独で取扱うことが難しいが、放熱体及び発熱体に熱伝導性組成物を塗布して硬化することで取扱しやすいものとすることができる。
上記硬さは具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0019】
(シリコーンオイル)
本発明の熱伝導性組成物は、シリコーンオイルを含有することが好ましい。シリコーンオイルは、反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとに大別できる。
反応性シリコーンオイルは、反応性の官能基を有し、かつ、室温(25℃)において液状のシリコーンオイルである。反応性シリコーンオイルを含有することで、本発明の熱伝導性組成物に適度なチキソ性を付与することができる。
反応性シリコーンオイルが有する反応性の官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。これらの中でも、チキソ性付与効果の観点からはヒドロキシ基が好ましい。
反応性シリコーンオイルとしては、シロキサン結合を有する主鎖、主鎖に結合する側鎖、又は主鎖の末端に反応性の官能基を導入した、反応性の変性シリコーンオイルが好ましい。このような反応性の変性シリコーンオイルとしては、例えば、カルビノール変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらの中でも、カルビノール変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、及びエポキシ変性シリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、カルビノール変性シリコーンオイルがより好ましい。
上記反応性シリコーンオイルは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
反応性シリコーンオイルの動粘度は、本発明の熱伝導性組成物に適度なチキソ比を付与する観点から、好ましくは25℃において、10mm
2/s以上10,000mm
2/s以下、より好ましくは100mm
2/s以上3,000mm
2/s以下である。更に好ましくは100mm
2/s以上1,000mm
2/s以下である。
【0021】
反応性シリコーンオイルの含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対し、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜4質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部の範囲である。反応性シリコーンオイルの含有量が反応硬化型シリコーン100質量部に対し0.1質量部以上であれば形状維持性が良好になり、5質量部以下であれば適度なチキソ比を付与することができる。
【0022】
非反応性シリコーンオイルは、反応性シリコーンオイル以外の、室温(25℃)において液状のシリコーンオイルである。すなわち非反応性シリコーンオイルは、反応性シリコーンオイルが有する反応性の官能基を有さない。非反応性シリコーンオイルを含有させることで、柔軟性を付与することができる。また、反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとを併用することで、塗布後の熱伝導性組成物の形状維持性が良好となる。
非反応性シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイルの他、シロキサン結合を有する主鎖、主鎖に結合する側鎖、又は主鎖の末端に非反応性の有機基を導入した、非反応性の変性シリコーンオイル等が挙げられる。非反応性の変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、及びフェニル変性シリコーンオイルが挙げられる。
上記の中でも、非反応性シリコーンオイルとしてはストレートシリコーンオイルが好ましく、ストレートシリコーンオイルの中でも、ジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
上記非反応性シリコーンオイルは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
非反応性シリコーンオイルの動粘度は、本発明の熱伝導性組成物に良好な塗布性を付与する観点から、好ましくは25℃において10,000mm
2/s以上1,000,000mm
2/s以下、より好ましくは100,000mm
2/s以上500,000mm
2/s以下である。
【0024】
非反応性シリコーンオイルの含有量は、反応硬化型シリコーン100質量部に対し、好ましくは10〜70質量部、より好ましくは20〜70質量部、更に好ましくは35〜60質量部の範囲である。非反応性シリコーンオイル(C)の含有量が反応硬化型シリコーン100質量部に対し10質量部以上であれば形状維持性が良好になり、70質量部以下であれば塗布性が良好になる。
【0025】
非反応性シリコーンオイルの含有量は反応性シリコーンオイルの含有量よりも多いことが好ましい。反応性シリコーンオイルに対する非反応性シリコーンオイルの含有量比[非反応性シリコーンオイル/反応性シリコーンオイル]は、質量比で、好ましくは5〜100、より好ましくは10〜80、更に好ましくは15〜50、より更に好ましくは15〜30の範囲である。
【0026】
(熱伝導性充填材)
熱伝導性充填材としては、その平均粒径が10〜80μmであり、かつ128μmを超える粒子の含有率が5体積%以下であることが好ましい。平均粒径が10〜80μmであることで厚膜であっても熱伝導率を高めやすくなる。また、128μmを超える粒子の含有率が5体積%以下であることで、スクリーン印刷で目詰まりが抑制されやすくなる。なお、熱伝導性充填材が複数種ある場合は、これら全体として、上記範囲を満たすものとする。
熱伝導性充填材の平均粒径は20〜80μmであることがより好ましい。特に熱伝導性を高めやすいためである。
また、128μmを超える粒子の含有率は1体積%以下であることがより好ましい。そうすることで、よりいっそうスクリーン印刷における目詰まりを抑制することができる。
熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザー回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径でメジアン径D50を用いることができる。また、128μmを超える粒子の含有率も粒度分布から求めることができる。
【0027】
熱伝導性充填材としては、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などの球状、鱗片状等の粉末、炭素繊維などが挙げられる。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英など、金属窒化物としては、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムなどを例示することができる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、樹脂繊維を炭化処理した繊維、樹脂繊維を黒鉛化処理した繊維などが挙げられる。これらの中で、特に絶縁性が求められる用途では金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物の粉末を用いることが好ましい。
【0028】
熱伝導性充填材は、低比重の材質であることが好ましい。より具体的には、比重が4.0以下の材質を用いることが好ましい。比重が4.0以下の材質としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、石英、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、炭素繊維などを例示することができる。
【0029】
熱伝導性充填材は平均粒径が相違するか、材質が相違するか、形状が相違する少なくとも2種の熱伝導性充填材を含むことが好ましい。平均粒径が相違するものとしては、例えば、平均粒径が40〜90μm(大粒径)の熱伝導性充填材と平均粒径が30μm以下(小粒径)の熱伝導性充填剤とを少なくとも含むものが好ましい。これにより、熱伝導性充填材の最密充填構造が形成されやすくなり、熱伝導性をより向上させることができる。かかる観点から、小粒径の熱伝導性充填剤を2種(例えば、平均粒径0.1〜5μmと平均粒径6〜60μmの熱伝導性充填剤)と大粒径の熱伝導性充填材とを含むもの等としてもよい。
【0030】
材質が相違するものとしては、例えば、酸化アルミニウムの熱伝導性充填材と水酸化アルミニウムの熱伝導性充填材との組み合わせを少なくとも含むものが好ましい。水酸化アルミニウムを用いることで、熱伝導性組成物の比重を低くすることができ、熱伝導性充填材の分離を抑制することができる。また、難燃性を高めることができる。一方、酸化アルミニウムは、入手しやすく熱伝導性が比較的高いため、効果的に熱伝導率を高めることができる。また、水酸化アルミニウムと酸化アルミニウムは共に絶縁性であるため、それらを組合せたものは絶縁性が求められる用途に好適である。
【0031】
形状が相違するものとしては、例えば、球状の熱伝導性充填材(例えば、酸化アルミニウム等)と破砕状の熱伝導性充填材(例えば、水酸化アルミニウム等)との組み合わせを少なくとも含むものが好ましい。球状の熱伝導性充填材を含有すれば他の形状に比べて比表面積が小さいため、熱伝導性充填材に占める大粒径の熱伝導性充填材の割合が増えても、熱伝導性組成物の流動性が低下しにくくなる。また、破砕状の熱伝導性充填材を含有すれば、少量の添加でチキソ性を高めやすく、形状維持性を高めやすい。ここで、破砕状とは、破砕粒子が有する角のある任意の形状をもつ粒子状態であるものをいい、電子顕微鏡又は他の顕微鏡により確認することができる。
【0032】
熱伝導組成物中の熱伝導性充填材の含有率(充填率)は、複数種ある場合はこれら全体として、50〜85体積%であることが好ましく、60〜80体積%であることがより好ましい。また、65〜75体積%であることが特に好ましく、熱伝導性と形状維持性を両立しやすくなる。
【0033】
以上のような熱伝導性組成物は、実質的に溶剤を含まないことが好ましい。溶剤を実質的に含まないことで形状維持性が得られやすくなり、厚膜が形成しやすくなる。また環境的にも好ましい。ここで、「実質的に溶剤を含まない」とは、熱伝導性組成物を100℃で2時間の加熱した後の重量減少1質量%以下であることをいう。すなわち、熱伝導性組成物の固形分濃度は99質量%以上であることが好ましい。上記重量減少は、例えば熱重量分析装置(TGA)を用いて測定することができる。
【0034】
本発明の熱伝導性組成物は、スクリーン印刷用であることが好ましい。スクリーン印刷版としては、スクリーンメッシュ版及びメタル版が挙げられ、なかでもスクリーンメッシュ版がより好ましい。スクリーンメッシュ版は、メタル版と比較して安価であり、印刷形状の設計の自由度が高く、いわゆる島文字のパターンを形成することもできる。また、スクリーンメッシュが樹脂材料でなるため、被着体を傷つけ難い等のメリットがある。
本発明の熱伝導性組成物は、厚膜形成が可能であり、スクリーン印刷に用いることで良好な生産性を実現できる。
【0035】
<熱伝導性組成物の形態>
本発明の熱伝導性組成物の形態は、1液型でもよいし、使用時に主剤と硬化剤等の2液を混合して用いる2液型のいずれでもよい。1液型の熱伝導性組成物としては、反応硬化型シリコーンとして湿気硬化型シリコーンを含有する組成物が挙げられる。
2液型の熱伝導性組成物としては、反応硬化型シリコーンとして前述した付加反応硬化型シリコーンを含有する組成物が好ましい。具体的には、主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン等の付加反応型のオルガノポリシロキサンを含有する第1剤と、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン等の硬化剤を含有する第2剤とから構成されることが好ましい。
【0036】
本発明に係る反応硬化型シリコーンが2液型である場合、熱伝導性充填材等は、第1剤及び第2剤のうち、少なくとも一方に含有させればよい。シリコーンオイルは、第1剤と第2剤との混合物の均一性を容易に高めるという観点から、第1剤及び第2剤の両方に分割して含有させることが好ましい。熱伝導性充填材も、上記と同様の観点から、第1剤及び第2剤の両方に分割して含有させることが好ましい。
すなわち熱伝導性組成物は、反応硬化型シリコーンを構成する主剤、熱伝導性充填材、及び、好ましくはシリコーンオイルを含有する第1剤と、反応硬化型シリコーンを構成する硬化剤、熱伝導性充填材、及び、好ましくはシリコーンオイルを含有する第2剤とから構成されることがより好ましい。
【0037】
[熱伝導性部材]
本発明の熱伝導性部材は、熱伝導性組成物を硬化させた硬化物を含む熱伝導性部材であって、硬化物の厚みが0.03〜1mmである。硬化物の厚みが0.03mm未満では、自動車等の用途には不向きとなってしてしまう。一方、1mmを超える厚さの硬化物は、スクリーンメッシュ版で形成することが難しいため、生産性の点で不利になってしまう。
硬化物の厚みは、0.3〜1mmであることがより好ましい。厚みを0.3mm以上とすることで、振動及び衝撃によって放熱体と発熱体の間隔が変化する場合であっても充分に、衝撃等を緩和するための充分な変位が可能となるため、振動及び衝撃が生じやすい自動車用途に特に好適である。
【0038】
本発明の熱伝導性部材は、ASTM D2240−05に規定されるOO硬度が5〜80である。熱伝導性部材の硬さをOO80以下とすれば、振動及び衝撃によって放熱体と発熱体の間隔が変化する場合であっても過大な応力を生じさせ難い。一方、硬度がOO5以上であることで、熱伝導性部材はある程度の強度を備えるため破損するおそれが低くなる。
また、OO硬度は5〜55であることがより好ましい。硬さがOO55以下の柔軟な熱伝導性部材であれば、凹凸の大きな部材と密着させても、極めて小さい応力で密着させることができる。なお、こうした極めて柔軟な熱伝導性部材は変形しやすいため、予め放熱体及び発熱体に一体に形成したものであることが好ましい。
ASTM D2240−05に規定されるOO硬度は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0039】
本発明の熱伝導性部材は硬化物表面のタックは0.05N/10mm以上であることが好ましく、0.1〜2.0N/10mmであることがより好ましい。タックが0.05N/10mm以上であることで、被着体に設置したときに、被着体がずれない程度の密着力が得られ、作業性の良い熱伝導性部材とすることができる。タックは実施例に記載の方法で測定することができる。
【0040】
また、少なくとも一方の表面に、ピッチが0.1〜2.5mmの規則的な凹凸が形成されていることが好ましい。このようなピッチが形成されていることで、被着体と圧接したときに大きな気泡が残留するのを防ぐことができる。当該ピッチは、0.15〜0.7mmであることがより好ましい。スクリーンメッシュのパターンを調整するこで、上記凹凸を形成することができる。ピッチは0.2〜0.5mmであることがより好ましい。
なお、規則的な凹凸とは、例えば、ピッチが1mmの場合、凸部が1mm間隔で少なくとも4個の凸部が形成されていることをいう。また、凹凸は面内にx方向とx方向に垂直なy方向を定義したとき、x方向およびy方向に2次元的に形成されていることが好ましい。その際、x方向とy方向のピッチは同じでも良いし、異なっていても良い。
【0041】
また、上記凹凸の高さは、10〜500μmであることが好ましい。凹凸の高さが10〜500μmであることで、被着体と圧接したときに大きな気泡が残留するのを防ぐことができる。凹凸の高さは、50〜250μmであることがより好ましい。凹凸の高さを50μm以上とすることで、高圧縮したときの応力を低減することができ、緩衝効果を高めることができる。また、凹凸の高さを250μm以下とすることで、過度に圧縮することなく、被着体に凹部を含む略全体を密着させることができる。凹凸の高さは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0042】
本発明の熱伝導性部材は、例えば、車両用途、電子機器用途、及び建築用途等に好適に用いられる。特に自動車部品の外周に塗布して用いる車両部品用緩衝材としても有用である。
【0043】
[熱伝導性部材の製造方法]
本発明の熱伝導性部材の製造方法は、特定のスクリーン印刷版を通じて、本発明の熱伝導性組成物を被着体に塗布する塗布工程を含む。
【0044】
スクリーン印刷版としては、線径20〜250μmである繊維が10〜150メッシュで織られたスクリーンメッシュ(スクリーンメッシュ版)に、乳剤が100〜500μmの厚みでパターニングされたものを使用する。線径20〜250μmである繊維が10〜150メッシュで織られたスクリーンメッシュであることで、厚膜を印刷しやすいスクリーンメッシュ版とすることができる。また、乳剤が100〜1,000μmの厚みでパターニングされていることで、いっそう厚膜の形成が可能となる。
線径は40〜200μmであることが好ましく、メッシュは40〜120メッシュであることが好ましい。乳剤の厚みは200〜500μmであることが好ましい。
【0045】
スクリーン版の材質としては、一般的なナイロン、ポリエステル、ステンレス等の一般的なものが使用される。また、乳剤についても一般的なものが使用可能で、乳剤層を形成する方法の公知の方法を適用できる。
【0046】
スクリーン印刷機は、印刷動作、スクリーンメッシュ剥離動作が円滑に行えるスクリーン印刷装置であれば平面式、局面式他、特に限定されるものでなく、平面式スクリーン印刷機が一般的に使用される。
【0047】
スクリーン印刷法を用いて、被着体に塗布した熱伝導性組成物は、室温で放置、または必要に応じて加熱して硬化させて硬化物とし、熱伝導性部材が製造される。
【0048】
[放熱構造、発熱複合部材、放熱複合部材]
本発明の放熱構造は、放熱体と、この放熱体上に設けられた熱伝導性部材とを含み、この熱伝導性部材が、本発明の熱伝導性部材となっている。熱伝導性部材上には発熱体が設けられてなることが好ましい。
【0049】
また、本発明は、発熱体の表面に本発明の熱伝導性部材が設けられている発熱複合部材である。さらに、本発明は、放熱体の表面に本発明の熱伝導性部材が設けられている放熱複合部材である。
【0050】
放熱体としては、熱伝導率20W/mK以上の素材、例えば、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属、黒鉛、ダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ほう素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミニウム等の素材を利用したものが好ましい。このような素材を用いた放熱体としては、ヒートシンク、きょう体、放熱用配管等が挙げられ、なかでもヒートシンクが好ましい。
【0051】
また、発熱体としては、EVバッテリ等の自動車部品;一般の電源;電源用パワートランジスタ、パワーモジュール、サーミスタ、熱電対、温度センサなどの電子機器;LSI、CPU等の集積回路素子などの発熱性電子部品などが挙げられ、なかでも、EVバッテリ等の自動車部品であることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
本実施例では、以下の方法により各例で得られた熱伝導性組成物を評価した。
【0053】
[粘度]
熱伝導性組成物の調製直後(後述する第1剤及び第2剤の混合直後)の25℃における粘度(Pa・s)を、B型粘度計(BROOKFIELD社製回転粘度計、DV−E)を用いて、スピンドル(SC4−14)の回転速度を1rpm及び10rpmに設定して測定した。粘度の値は、それぞれの回転速度においてスピンドルを2分間回転させた後の値を読み取った。なお、回転速度が10rpmのときの粘度を第1粘度とし、1rpmのときの粘度を第2粘度とした。
【0054】
[チキソ比]
上記方法で測定した第1粘度及び第2粘度の値から、第1粘度に対する第2粘度の比率[第2粘度/第1粘度]をチキソ比として算出した。
【0055】
[熱伝導率]
各実施例の熱伝導性組成物について、線径80μmであるポリエステル繊維で織られたメッシュ(80メッシュ、オープニング238μm)に、500μmの厚みの乳剤で40×40mmの矩形状の印刷形状がパターニングされたスクリーン印刷版を用いて、剥離フィルム(フッ素フィルム)上にスクリーン印刷を行った。次いで、室温(25℃)で24h放置して硬化することで、40×40mmの矩形状で厚さが0.7mmの硬化物からなる熱伝導率測定用の試験片を作製した。そして、各試験片について、ASTM D5470−06に準拠した方法で熱伝導率を測定した。
【0056】
[硬化後の硬さ]
各実施例の熱伝導性組成物について、成形型を用いて40×40mmで厚さが6mmの硬化物からなる硬さ測定用の試験片を作製した。そして、各試験片について、タイプOOデュロメータを用いて、ASTM D2240−05に準拠した方法で硬さを測定した。
【0057】
[印刷性(目詰まりの発生程度)]
熱伝導率測定用の試験片を作製用と同じ仕様のスクリーンメッシュ(線径80μm、80メッシュ、乳剤厚み500μm)で、5×8mmの矩形状の印刷形状がパターニングされたスクリーン印刷版を用いて、各実施例の熱伝導性組成物を被着体(厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)に印刷した。次いで、室温(25℃)で24h放置して硬化することで、厚さ約0.7mmの硬化物が形成された熱伝導部材を作製した。印刷後の印刷状態やスクリーンメッシュについて、下記基準で評価した。
「A」:印刷でき、印刷後のスクリーン印刷版のメッシュにも熱伝導性組成物がほぼ残っていないもの。
「B」:印刷はできたものの、印刷後のスクリーン印刷版のメッシュを目視で確認してメッシュの交点等に組成物が少量残っていたもの。
「C」:印刷パターン全体を被着体に印刷できなかったもの。
【0058】
[固形分]
熱伝導性組成物について、熱重量分析装置(島津製作所製「DTG60」)を用いて120℃/2hの重量減少を測定し、「測定前の重量(W0)に対する測定後の重量(W1)の割合(W1/W0)」を固形分の割合とした。
【0059】
[表面凹凸の高さ及びピッチ]
[印刷性(目詰まりの発生程度)]にて作製した試料の断面を光学顕微鏡で観察して凹凸の高さを見積もった。具体的には、5個の凸部を抽出し、凹凸の平均高さを求めた。また凸部と凸部とのピッチを測定した。
【0060】
[タックの強さ]
下記、ピール試験(180°剥離試験)を行い、剥離強度としてのタックの強さを評価した。
<試験サンプルの作製>
厚さ11μmのアルミニウム箔と、粘着剤付きポリエチレンテレフタレートフィルム(ポリエチレンテレフタレート層75μm、粘着層5μm、以下、PETフィルムと記載する)を、粘着剤を介して貼り合わせてアルミニウム箔/PETフィルムの積層体を得た。この積層体を長さ250mm、幅10mmに切り出し、被着体試験片とした。また、長さ180mm、幅100mm、厚さ10mmのステンレス(SUS304)製の板(SUS板)の一方端側に各例の放熱性組成物を塗膜の長さ100mm、幅60mm、厚さ2mmとなるようにドクターブレードを用いて塗布した。そして、前記被着体試験片のアルミニウム箔面を放熱性組成物の塗膜上に貼り合わせ、室温(25℃)で24時間放置して塗膜を硬化させて硬化物とし、試験サンプルを作製した。なお、試験装置でチャックできるように、被着体試験片の一端はSUS板から所定の長さではみだしている。
【0061】
<測定方法>
試験サンプルを試験装置(ストログラフVE50(東洋精機製作所製))セットした。具体的には、まず、180°ピールとなるように、被着体試験片の一端を装置の上部にあるチャックに取り付けた。試験速度300mm/minでチャックを上方へ引っ張り、180°ピールを行った。
得られた引っ張り応力から、応力が安定している部分(ピール距離100mm分)の平均を算出した。なお、試験サンプル3個について測定を行った。
【0062】
[形状維持性:平面における寸法変化率]
[印刷性(目詰まりの発生程度)]にて作製した試料(5mm×8mmの寸法(面積S0)でパターニング)を用いて、印刷した熱伝導性組成物について、硬化後の組成物の面積(S1)を見積もり、面積の拡大率(S1/S0)を計算した。
面積の拡大率が10%未満を「A」とし、10%以上30%未満を「B」とし、30%以上を「C」とした。
【0063】
実施例1(熱伝導性組成物の調製及び評価)
付加反応硬化型シリコーンを構成する主剤、非反応性シリコーンオイルであるジメチルシリコーンオイルを混合することで第1剤を調製した。一方で、付加反応硬化型シリコーンを構成する硬化剤、熱伝導性充填材を混合することで第2剤を調製した。第1剤及び第2剤の合計量における各成分の配合量(質量部)は表1に示す通りである。
得られた第1剤と第2剤とを混合して熱伝導性組成物を調製し、上記方法により各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0064】
実施例2〜7、比較例1〜4
熱伝導性組成物の配合を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性組成物を調製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
表1に示す成分は下記である。なお、表1に示す配合量はいずれも有効成分量である。
・付加反応硬化型シリコーンの主剤:粘度400mPa・s(25℃)
・付加反応硬化型シリコーンの硬化剤:粘度300mPa・s(25℃)
・ジメチルシリコーンオイル:粘度100mPa・s(25℃)
・水酸化アルミニウムA:破砕状、平均粒径:1μm
・水酸化アルミニウムB:破砕状、平均粒径:10μm
・水酸化アルミニウムC:破砕状、平均粒径:50μm
・酸化アルミニウムA:球状、平均粒径:0.5μm
・酸化アルミニウムB:球状、平均粒径:3μm
・酸化アルミニウムC:球状、平均粒径:20μm
・酸化アルミニウムD:球状、平均粒径:45μm
・酸化アルミニウムE:球状、平均粒径:70μm
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果から明らかなように、本発明の熱伝導性組成物は、スクリーン印刷で良好に厚膜形成が可能であった。また、当該組成物の硬化物の硬さも低硬度であり、良好であった。