特許第6843497号(P6843497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843497
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】水硬性材料組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20210308BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20210308BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20210308BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20210308BHJP
   C08F 283/06 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 65/333 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 73/04 20060101ALI20210308BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/26 B
   C04B24/26 E
   C04B24/26 F
   C04B24/26 H
   C04B24/32 A
   C08F220/28
   C08F283/06
   C08G65/333
   C08G73/04
   C08G81/02
【請求項の数】1
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2015-195154(P2015-195154)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65994(P2017-65994A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年6月6日
【審判番号】不服2019-15582(P2019-15582/J1)
【審判請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正長 眞理
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 末松 佳記
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−293596(JP,A)
【文献】 特開2015−74666(JP,A)
【文献】 特開2015−67521(JP,A)
【文献】 特開2008−230865(JP,A)
【文献】 特開2005−225715(JP,A)
【文献】 笠井芳夫,坂井悦郎,「新 セメント・コンクリート用混和材料」,技術書院,2007.01.15発行,第1版,第163〜174、214〜221頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料、収縮低減剤及び空気連行剤を含む水硬性材料組成物であって、
該収縮低減剤は、下記(1)〜(3)の条件を満たす下記(I)〜(V)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、
該空気連行剤の含有量が水硬性材料100重量部に対して0.002重量部以上であり、
該収縮低減剤と空気連行剤との質量比が99.98/0.02〜80/20であることを特徴とする水硬性材料組成物。
(1)該化合物を0.1%の固形分濃度で添加したJASS 5 M402準拠のモルタル組成物と、該化合物を含まないJASS 5 M402準拠のモルタルとの混練開始から10分後の15打フロー値の比:(該化合物含有モルタル組成物の15打フロー値)/(該化合物を含まないモルタルの15打フロー値)×100が120以下
(2)該化合物を含まないJASS 5 M402準拠のモルタルに対する、該化合物を0.1%の固形分濃度で添加したJASS 5 M402準拠のモルタル組成物の混練開始から2時間後の15打フロー値の比と、混練開始から10分後の15打フロー値の比との比:(2時間後の15打フロー値の比)/(10分後の15打フロー値の比)×100が110以下
(3)該化合物の原料である単量体成分100モル%中の酸基を有する単量体の割合が1〜99モル%
(I):
下記式(1);
【化1】
(式(1)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。pは、の数を表し、qは、の数である。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される構造単位(I)と、下記式(2);
【化2】
(式(2)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOZ’基を表す。ここで、mは、0〜2の整数であり、Z’は、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。Zは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。)で表される構造単位(II)その他の構造単位(III)の質量割合が、構造単位(I)/構造単位(II)/構造単位(III)=98〜85/2〜15/0〜13である重合体
(II):
下記式(3);
W−(RO)−Y (3)
(式(3)中、ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜2000の数である。W及びYは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合してなり、該エチレン性不飽和単量体中の不飽和カルボン酸系単量体が該ポリエーテル化合物に対して0.1〜30重量%である重合体
(III):
エチレン性不飽和単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール鎖(B)の末端とが結合部位(X)を介して結合した構造を有し、
該高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分中の不飽和アニオン系単量体のモル数と、該ポリアルキレングリコール鎖(B)のモル数と該不飽和アニオン系単量体以外のビニル系単量体とのモル数との比が65〜95/35〜5/0〜30である(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体
(IV):
直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示す有機残基が結合したポリアルキレングリコール化合物であって、
該有機残基は、カルボニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、リン酸基、亜リン酸基及びシラン基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有し、
ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールと有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物との質量割合が、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコール/有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物=98〜10/2〜90である
(V):
酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物であって、
該ポリアミン化合物は、分子内に第1級及び/又は第2級アミノ基を有するポリアミン化合物の活性アミン水素が酸基含有側鎖に置換された構造の化合物であり、
活性アミン水素が酸基含有側鎖に置換される前の未置換ポリアミン化合物と酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物との質量割合が未置換ポリアミン化合物/酸基含有化合物=99.7〜65/0.3〜35である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性材料組成物に関する。より詳しくは、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等として好適な水硬性材料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性材料は、強度や耐久性等に優れた硬化物を与えることから、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等として広く用いられており、土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。このような水硬性材料では、硬化した後に、外気温や湿度条件等により、内部に残った未反応水分の散逸が起こり、これに起因すると考えられる乾燥収縮が進行し、硬化物中にひび割れが生じて強度及び耐久性が低下するという問題があった。土木・建築構造物等の強度や耐久性等が低下すると、安全性の低下や修復コストの増大等の重大な問題が生じることになる。
【0003】
このような問題に対して、水硬性材料の硬化物中における乾燥収縮の進行を抑制する水硬性材料用収縮低減剤の重要性が認識され、技術革新が盛んに行われている。
従来の収縮低減剤として、不飽和カルボン酸系単量体由来の構造単位と側鎖にオキシアルキレン基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構造単位を有する共重合体(特許文献1〜3参照)や、活性水素を1個もつ化合物の残基にオキシアルキレン鎖が1つ結合した構造のポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体がグラフト重合して得られるグラフト重合体(特許文献4、5参照)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−529397号公報
【特許文献2】特開2007−297241号公報
【特許文献3】特開2007−76972号公報
【特許文献4】特許第4437369号
【特許文献5】特開2002−293596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、収縮低減剤として種々の構造の重合体が提案されているが、いずれも収縮低減性能の点で充分とはいえず、更に高い収縮低減性能を発揮する収縮低減剤を開発する工夫の余地があった。また、収縮低減剤を使用すると、水硬性材料の凍結融解抵抗性が低下するおそれがある。水硬性組成物の硬化物が充分な強度を有するためには、凍結融解抵抗性が良好であることも重要であり、収縮低減性能と凍結融解抵抗性とを両立した水硬性材料組成物が求められている。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、収縮低減性能と凍結融解抵抗性とを両立した水硬性材料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、収縮低減性能と凍結融解抵抗性とを両立した水硬性材料組成物について種々検討したところ、水硬性材料組成物を水硬性材料、収縮低減剤及び空気連行剤を含むものとし、収縮低減剤として、その収縮低減剤を添加したモルタル組成物がフロー値についての所定の条件を満たす収縮低減剤を用い、組成物中における水硬性材料に対する空気連行剤の割合、及び、収縮低減剤と空気連行剤との質量比を所定の範囲とすると、水硬性材料組成物が収縮低減性能に優れるとともに、凍結融解抵抗性にも優れたものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、水硬性材料、収縮低減剤及び空気連行剤を含む水硬性材料組成物であって、該収縮低減剤は、下記(1)〜(3)の条件を満たす化合物を含み、該空気連行剤の含有量が水硬性材料100重量部に対して0.002重量部以上であり、該収縮低減剤と空気連行剤との質量比が99.98/0.02〜80/20であることを特徴とする水硬性材料組成物である。
(1)該化合物を0.1%の固形分濃度で添加したJASS 5 M402準拠のモルタル組成物と、該化合物を含まないJASS 5 M402準拠のモルタルとの混練開始から10分後の15打フロー値の比:(該化合物含有モルタル組成物の15打フロー値)/(該化合物を含まないモルタルの15打フロー値)×100が120以下
(2)該化合物を含まないJASS 5 M402準拠のモルタルに対する、該化合物を0.1%の固形分濃度で添加したJASS 5 M402準拠のモルタル組成物の混練開始から2時間後の15打フロー値の比と、混練開始から10分後の15打フロー値の比との比:(2時間後の15打フロー値の比)/(10分後の15打フロー値の比)×100が110以下
(3)該化合物の原料である単量体成分100モル%中の酸基を有する単量体の割合が1〜99モル%
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0009】
本発明の水硬性材料組成物は、水硬性材料と上記(1)及び(2)の条件を満たす収縮低減剤と空気連行剤(AE剤)とを含む。上記(1)及び(2)の条件は、収縮低減剤の、モルタル組成物のフロー値やフローの保持性を向上させる効果が高すぎないことを意味する。
本発明は、水硬性材料に加え、このような所定の分散性能を有する収縮低減剤と空気連行剤とを所定の割合で含む水硬性材料組成物が、収縮低減性能と凍結融解抵抗性との両方に優れたものとなることを見出したものである。なお、JASS 5 M402準拠のモルタルとは、後述する実施例に記載のものである。
本発明の水硬性材料組成物は、収縮低減剤、空気連行剤をそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0010】
上記(1)の該化合物含有モルタル組成物の15打フロー値と該化合物を含まないモルタルの15打フロー値との比が120以下であれば、該化合物は、フロー値を向上させる性能が高すぎないことになるが、該比は118以下であることが好ましい。より好ましくは、115以下である。また、当該比は、90以上であることが好ましく、95以上であることがより好ましく、更に好ましくは97以上である。
【0011】
上記(2)の該化合物を含まないモルタルに対する、該化合物を0.1%の固形分濃度で含むモルタル組成物の混練開始から2時間後の15打フロー値の比、すなわち、(該化合物含有モルタル組成物の2時間後の15打フロー値)/(該化合物を含まないモルタルの2時間後の15打フロー値)の値と、混練開始から10分後の15打フロー値の比、すなわち、(該化合物含有モルタル組成物の10分後の15打フロー値)/(該化合物を含まないモルタルの10分後の15打フロー値)の値との比×100は、110以下であれば、該化合物は、フロー保持性を向上させる性能が高すぎないことになるが、当該比は109以下であることが好ましい。より好ましくは、105以下である。また、当該比は、85以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましく、更に好ましくは95以上である。
上記(1)、(2)におけるフロー値の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0012】
本発明の収縮低減剤が含む化合物(重合体)は、該化合物の原料である単量体成分100モル%中の酸基を有する単量体の割合が1〜99モル%である。
上記(1)及び(2)のフロー値は、化合物の酸量に影響されるため、化合物の酸量を所定の範囲とすることで、該化合物を上記(1)及び(2)のフロー値の要件を満たすものとしやすくなる。該化合物の原料である単量体成分100モル%中の酸基を有する単量体の割合は、好ましくは、10〜97モル%であり、更に好ましくは、15〜97モル%であり、特に好ましくは、20〜97モル%であり、最も好ましくは、25〜95モル%である。
該化合物が重合体である場合、単量体成分中の酸基含有単量体の含有割合が上記範囲であればよく、これにより上記(1)及び(2)のフロー値の条件を満たす化合物を得ることが容易になる。
【0013】
本発明の水硬性材料組成物は、空気連行剤を水硬性材料100重量部に対して0.002重量部以上含む。空気連行剤をこのような割合で含むことで、収縮低減剤を含むことによる凍結融解抵抗性の低下を抑制し、水硬性材料組成物を収縮低減性能と凍結融解抵抗性の両方に優れたものとすることができる。空気連行剤の含有量は、好ましくは、水硬性材料100重量部に対して0.0025重量部以上であり、更に好ましくは、0.003重量部以上であり、特に好ましくは、0.004重量部以上である。また、凍結融解抵抗性を特に良好にするためには、空気連行剤の含有量は、水硬性材料100重量部に対して0.1重量部以下であることが好ましい。より好ましくは、0.05重量部以下であり、更に好ましくは、0.04重量部以下である。
また本発明の水硬性材料組成物では、収縮低減剤と空気連行剤との質量比が99.98/0.02〜80/20であるが、当該質量比は、好ましくは、99.96/0.04〜85/15であり、更に好ましくは、99.9/0.1〜90/10であり、特に好ましくは、99.8/0.2〜90/10である。
水硬性材料組成物を収縮低減性能と凍結融解抵抗性の両方に特に優れたものとするためには、空気連行剤の配合割合や収縮低減剤と空気連行剤との質量比をこのような範囲とすることが好ましい。本発明は、収縮低減性能と凍結融解抵抗性の両方に優れた水硬性材料組成物とするための収縮低減剤の種類、及び、それと組み合わせて用いる空気連行剤の最適な配合割合を見出したものということができる。
【0014】
本発明の水硬性材料組成物は、収縮低減剤を含むことにより、水硬性材料が乾燥するときに起こる収縮を低減する効果を有することになり、硬化物のひび割れの低減や防止、充填性の向上、反りの防止、剥離の防止に効果を発揮する。
本発明の水硬性材料組成物における収縮低減剤の含有量としては、水硬性材料に対して固形分換算で0.0001〜10重量%であることが好ましい。0.0001重量%未満であると、収縮低減性能が充分でないおそれがあり、10重量%を超えると、水硬性材料の硬化遅延が生じやすくなるおそれがある。より好ましくは、0.001〜5重量%であり、更に好ましくは、0.005〜3重量%であり、最も好ましくは、0.01〜1重量%である。
【0015】
上記収縮低減剤が含む化合物は重合体であることが好ましく、重量平均分子量が2000〜35000であることが好ましい。より好ましくは、2000〜30000であり、更に好ましくは、3000〜25000である。
化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、後述する実施例に記載の条件で測定することができる。
【0016】
本発明の収縮低減剤が含む化合物は、該化合物の5質量%水溶液の表面張力が55〜70mN/mであることが好ましい。該化合物がこのような表面張力を有することで、水硬性材料組成物の空気量調整が容易となり、さらに消泡剤および空気連行剤(AE剤)の作用に影響することがなく、結果として、これまでの収縮低減剤で問題とされている凍結融解抵抗性の低下を抑制することができる。該化合物の5質量%水溶液の表面張力は、より好ましくは、57〜70mN/mであり、更に好ましくは、60〜70mN/mであり、特に好ましくは、60〜65mN/mである。
化合物の5質量%水溶液の表面張力は、以下のいずれかの手順により測定することができる。
<表面張力測定条件(1)>
測定機器:BYK−Chemie社製、Dynometer(商品名)
リング:プラチナφ19.5mm
標準液:純水 72.8mN/m(20℃)
テーブル速度:1.5mm/分
測定温度:20℃
<測定手順>
(1)25℃のイオン交換水200質量部を、長さ39mmのスターラーチップの入った300ml容のガラス製ビーカーに入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌しながら、25℃の雰囲気下で調温した太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント100質量部を投入する。投入後、回転数を700rpmとし、セメント粒子中の水溶性成分が水に充分に溶出するように30分間攪拌した後、10分間静置する。この上澄み液をろ紙(アドバンテック東洋社製、定量ろ紙5C)を用いて吸引濾過した後、さらにこのろ液を孔径0.45μmの水系フィルター(クロマトディスク25A、クラボウ社製、ジーエルサイエンス販売)でろ過してセメント上澄み水溶液を得る。調整したセメント上澄み液は、容器に入れ、窒素封入後、密栓し保管する。
(2)一方、表面張力を測定する化合物に25℃のイオン交換水を添加し、固形分濃度が15質量%の水溶液を調製する。この化合物を含む水溶液15質量部を、上記セメント上澄み液30質量部に添加し、充分に混合して5質量%の試料水溶液を調製する。試料水溶液は容器に入れ、窒素封入後、密栓し、20℃に調温する。
(3)次に、充分に洗浄したプラチナリングをダイノメーター(Dynometer)に取り付け、20℃に調温した標準液(純水)に3mm沈め、この標準液の置かれたテーブルを1.5mm/分の速度で降下させる。この時、ダイノメーターの示す値が最大となる点を水の表面張力として較正する。次に、20℃に調温した試料溶液に充分に洗浄したプラチナリングを3mm沈め、この水溶液の置かれたテーブルを1.5mm/分の速度で降下させ、ダイノメーターの示す値が最も大きくなる点を、化合物の表面張力とする。
<表面張力測定条件(2)>
測定機器:動的表面張力計(SITAScience line t60(MESSTECHNIK社製))
<測定手順>
(1)表面張力測定条件(1)の測定手順(1)および(2)に記載の方法により、収縮低減剤試料水溶液を調製する。
(2)表面張力を測定する化合物の固形分2質量%水溶液を調製し、20℃に調温後、動的表面張力計(SITAScience line t60(MESSTECHNIK社製))を使用して表面張力の測定を実施し、Frequency0.5Hzでの測定値を該当する化合物の表面張力とする。
【0017】
上記収縮低減剤中における上記(1)〜(3)の条件を満たす化合物の含有量は、本発明の作用効果を奏することになる限り特に限定されないが、収縮低減剤全体の60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが更に好ましく、90重量%以上であることが最も好ましい。
【0018】
上記収縮低減剤が含む化合物は、上記(1)〜(3)の条件を満たすものである限り特に制限されないが、エチレン性不飽和単量体由来の重合鎖、ポリアルキレングリコール鎖及びポリアミン鎖からなる群より選択される少なくとも1つの重合鎖を構造中に有する重合体であることが好ましい。これらの構造的特徴を有する重合体であれば、上記(1)及び(2)の条件を満たすものを得やすいため、種々の構造の重合体を設計することが可能となる。
【0019】
上記収縮低減剤が含む化合物が上記重合体である場合、その中でも、下記(I)〜(V)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
(I):
下記式(1);
【0020】
【化1】
【0021】
(式(1)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。pは、0〜5の数を表し、qは、0又は1の数である。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される構造単位と、下記式(2);
【0022】
【化2】
【0023】
(式(2)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOZ’基を表す。ここで、mは、0〜2の整数であり、Z’は、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。Zは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。)で表される構造単位とを有する重合体
(II):
下記式(3);
W−(RO)−Y (3)
(式(3)中、ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜2000の数である。W及びYは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合してなる重合体
(III):
エチレン性不飽和単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール鎖(B)の末端とが結合部位(X)を介して結合した構造を有する(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体
(IV):
直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示す有機残基が結合したポリアルキレングリコール化合物であって、
該有機残基は、カルボニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、リン酸基、亜リン酸基及びシラン基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する
(V):
酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物
【0024】
以下においては、(I)〜(V)の化合物それぞれの詳細を記載する。
<第1の好適な形態>
本発明における収縮低減剤が含む化合物が、下記式(1);
【0025】
【化3】
【0026】
(式(1)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。pは、0〜5の数を表し、qは、0又は1の数である。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される構造単位(I)と、下記式(2);
【0027】
【化4】
【0028】
(式(2)中、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOZ’基を表す。ここで、mは、0〜2の整数であり、Z’は、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。Zは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。)で表される構造単位(II)とを有する重合体であることは、本発明における収縮低減剤が含む化合物の第1の好適な形態である。
第1の好適な形態の化合物は、上記式(1)で表される構造単位(I)、式(2)で表される構造単位(II)をそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0029】
上記式(1)において、R〜Rは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表すが、R、Rの少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。
【0030】
上記式(1)における−(RO)−で表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜18のオキシアルキレン基であり、オキシアルキレン基が2種以上存在する場合には、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
上記−(RO)−で表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜8のオキシアルキレン基が好ましく、より好ましくは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。
これらのオキシアルキレン基は、アルキレンオキシド付加物であり、このようなアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、スチレンオキシド等が挙げられる。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドであり、更に好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。
【0031】
上記式(1)における−(RO)−で表されるオキシアルキレン基が、エチレンオキシドが付加したオキシエチレン基を含むものである場合、全オキシアルキレン基100モル%中にオキシエチレン基を50〜100モル%含むことが好ましい。オキシエチレン基をこのような割合で含むことで空気連行性が高くなることを抑制し、空気量の調整を容易にすることが可能となり、強度低下や耐凍結融解性の低下を抑制することができる。より好ましくは60〜100モル%、更に好ましくは70〜100モル%であり、特に好ましくは80〜100モル%であり、最も好ましくは90〜100モル%である。
【0032】
上記式(1)におけるRは、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子であることが好ましい。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜18の炭化水素基、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基、特に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基、最も好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基である。
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソオクチル基、2,3,5−トリメチルヘキシル基、4−エチル−5−メチルオクチル基及び2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中でも、直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が好ましい。
【0033】
上記式(1)におけるpは0〜5の数を表し、qは、0又は1の数を表すが、p、qの好ましい組合せは、pが1または2でqが0の組合せ、又は、pが0でqが1の組合せである。
【0034】
上記式(1)におけるnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。平均付加モル数が300を超えると、空気連行性が高くなって空気量の調整が困難となり、強度低下や耐凍結融解性の低下がおこるおそれがある。オキシアルキレン基の平均付加モル数は、1〜150であることが好ましい。より好ましくは、1〜100であり、更に好ましくは、1〜80であり、特に好ましくは、1〜50であり、最も好ましくは、1〜30である。
【0035】
上記式(1)で表される構造単位(I)を形成する単量体は、不飽和アルコール及び/又は不飽和カルボン酸に所定の繰り返し数となる量のアルキレンオキシドを付加することによって得ることができる。また、炭素数1〜30の炭化水素基を有するアルコールやフェノール類に所定の繰り返し数となる量のアルキレンオキシドを付加することによって得られるアルコールと不飽和カルボン酸とのエステル反応、及び/又は、不飽和カルボン酸エステルとのエステル交換反応させることによっても得ることができる。
【0036】
上記不飽和アルコールとしては、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オール等が好適である。
また不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が好適である。更に、不飽和カルボン酸エステルは、これらの不飽和カルボン酸のアルキルエステル等を用いることができる。
上記炭素数1〜30の炭化水素基を有するアルコールやフェノール類としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルキルアルコール;ベンジルアルコール等のアリール基を有するアルコール;フェノール、パラメチルフェノール等のフェノール類等が好適であり、これらの中でも、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数1〜3のアルコールが好ましい。
アルキレンオキシドとしては、上記のものを用いることができる。
【0037】
上記式(2)におけるR〜Rは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOZ’基を表す。
−(CHCOOZ’基において、Z’は、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基又は炭化水素基を表す。ここで、一価金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。二価金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。なお、Z’が二価金属となるのは、R〜Rのいずれか2つ以上が−(CHCOOZ’基であって、その中の2個の−COO−で無水物の形態をとる場合、又は、R〜Rのいずれか1つの−(CHCOOZ’基とCOOZとで無水物の形態をとる場合である。
【0038】
上記Z’が有機アミン基である場合、有機アミン基としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン及びフェニルアミン等の第一級アミン由来の基;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン及びジフェニルアミン等の第二級アミン由来の基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリベンジルアミン及びトリフェニルアミン等の第三級アミン由来の基;およびエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン由来の基が挙げられる。これらのうち、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等が挙げられる。
上記Z’が炭化水素基である場合、炭化水素基は、炭素数1〜30のものが好ましい。より好ましくは炭素数1〜20のものであり、更に好ましくは炭素数1〜12のものである。炭素数1〜30の炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、イソオクチル、2,3,5−トリメチルヘキシル、4−エチル−5−メチルオクチル及び2−エチルヘキシル、テトラデシル、オクタデシル、イコシル等の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニル等のアリール基等が挙げられる。
【0039】
これらのうち、Z’は、水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基又は有機アミン基であることが好ましく、水素原子、ナトリウム又はカルシウムであることが特に好ましい。
また、上記式(2)において、mは、0〜2の整数であるが、好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0040】
上記式(2)において、Zが炭化水素基である場合、炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましい。Zが炭化水素基である場合、Zの炭素数が、31以上となると、重合体の親水性と疎水性のバランスがとりにくくなり、空気連行性が高くなって空気量の調整が困難となり、強度低下や耐凍結融解性の低下がおこるおそれがある。Zの炭素数としては、好ましくは1〜18、より好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8、最も好ましくは1〜3である。
このような炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、イソオクチル、2,3,5−トリメチルヘキシル、4−エチル−5−メチルオクチル及び2−エチルヘキシル、テトラデシル、オクタデシル、イコシル等の直鎖、分岐鎖のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニル等のアリール基などが挙げられる。
これらのうち、セメント硬化体の分散性及び乾燥収縮の低減性を考慮すると、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルの炭素原子数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0041】
上記式(2)におけるR〜Rは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は−(CHCOOZ’基を表すが、これらの中に−(CHCOOZ’基を有する場合、Rが−(CHCOOZ’基であって、R、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、R〜Rのいずれもが水素原子又はメチル基であることも好適な形態である。
【0042】
上記式(2)で表される構造単位(II)を形成する単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体等が好適であり、不飽和モノカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを1つずつ有する単量体であればよく、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、チグリン酸、3−メチルクロトン酸、2−メチル−2−ペンテン酸、イタコン酸等;これらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が好ましい。
上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基を1つとカルボアニオンを形成しうる基を2つとを有する単量体であればよく、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等、それらの無水物、又は、ハーフエステルが好ましい。
【0043】
上記第1の形態の化合物は、上記式(1)で表される構造単位(I)、及び、上記式(2)で表される構造単位(II)以外のその他の構造単位(III)を有していてもよい。
その他の構造単位(III)を形成する単量体としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチルエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基又はアルコキシ基含有(メタ)アクリレート化合物類;上述のような不飽和モノカルボン酸系単量体と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500の(ポリ)アルキレングリコールとのジエステル類;マレアミド酸と炭素原子数2〜18のグリコール又はこれらのグリコールの付加モル数2〜500の(ポリ)アルキレングリコールとのハーフアミド類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;スチレン、α−メチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;ヘキセン、ヘプテン、デセン等のα−オレフィン類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;酢酸アリル等のアリルエステル類;アリルアルコール等のアリル類。
【0044】
1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、イソブチレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジブチルアミノエチル、ビニルピリジン等の不飽和アミン類;ジビニルベンゼン等のジビニル芳香族類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;ポリジメチルシロキサンプロピルアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサンアミノプロピレンアミノマレインアミド酸、ポリジメチルシロキサン−ビス−(プロピルアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(ジプロピレンアミノマレインアミド酸)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−(1−プロピル−3−メタクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−アクリレート)、ポリジメチルシロキサン−ビス−(1−プロピル−3−メタクリレート)等のシロキサン誘導体。
【0045】
上記第1の好適な形態の化合物において、上記式(1)で表される構造単位(I)、式(2)で表される構造単位(II)、その他の構造単位(III)の質量割合は、構造単位(I)/構造単位(II)/構造単位(III)=99.5〜50/0.5〜50/0〜49.5であることが好ましい。より好ましくは、98〜65/2〜35/0〜33であり、更に好ましくは、98〜75/2〜25/0〜23であり、特に好ましくは、98〜85/2〜15/0〜13であり、最も好ましくは、97〜90/3〜10/0〜7である。
【0046】
上記第1の好適な形態の化合物において、上記式(1)で表される構造単位(I)、式(2)で表される構造単位(II)、その他の構造単位(III)のモル比は、構造単位(I)/構造単位(II)/構造単位(III)=99〜1/1〜99/0〜98であることが好ましい。より好ましくは、75〜3/25〜97/0〜72であり、更に好ましくは、75〜10/25〜90/0〜65であり、より更に好ましくは、70〜30/30〜70/0〜40であり、更に好ましくは、70〜40/30〜60/0〜30であり、最も好ましくは、65〜50/35〜50/0〜15である。
【0047】
上記第1の好適な形態の化合物(重合体)を製造する方法は、特に制限されないが、重合開始剤を用いて、重合体の原料となる単量体成分を重合させることが好ましい。
単量体成分の重合方法は、特に制限されず、通常用いられるいずれの重合方法を用いてもよいが、重合は、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行なうことが好ましい。
溶媒中での重合は回分式でも連続式でも行なうことができ、その際使用される溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等の低級アルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物等が挙げられる。原料単量体及び得られる重合体の溶解性並びにこの重合体の使用時の簡便さを考慮すると、水及び/又は炭素原子数1〜4の低級アルコールを用いることが好ましく、特に水及び/又はメチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール等が好ましい。
その他の重合方法については、特表2007−529397号公報を参照することができる。
【0048】
このようにして得られた重合体は、そのまま乾燥収縮低減剤に用いてもよいが、有機溶媒を含まない水溶液の形で取り扱ってもよく、このような場合には、重合体をさらに一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭素塩等の無機物;アンモニア;有機アミン等(好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一価金属の水酸化物)のアルカリ性物質で中和して、重合体塩の形態として乾燥収縮低減剤に使用してもよい。
また、このようにして得られた重合体に、国際公開第2007/086507号に記載されているようなアミノ基およびイミノ基を有する化合物、及び/又はアミノ基、イミノ基及びアミド基を有する化合物がグラフト及び/又は架橋により結合された高分子骨格にアルキレンオキシドがさらに付加した構造を有するアルキレンオキシド変性水溶性重合体を含有してもよい。
【0049】
<第2の好適な形態>
本発明における収縮低減剤が含む化合物が、下記式(3);
W−(RO)−Y (3)
(式(3)中、ROは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜2000の数である。W及びYは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合してなる重合体であることは、本発明における収縮低減剤が含む化合物の第2の好適な形態である。
【0050】
上記グラフト重合体は、エチレン性不飽和単量体をポリエーテル化合物にグラフト重合してなる。このようなグラフト重合体は、ポリエーテル化合物に由来するポリエーテル鎖と、ポリエーテル化合物のグラフト部位にエチレン性不飽和単量体が重合したグラフト鎖とから構成されている。本発明では、上記ポリエーテル鎖と上記グラフト鎖との作用により、硬化物の乾燥収縮の進行を充分に抑制する作用(以下、収縮低減性能ともいう)を有することになる。上記親水性グラフト重合体の調製において、エチレン性不飽和単量体及びポリエーテル化合物はそれぞれ1種用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記エチレン性不飽和単量体は、不飽和カルボン酸系単量体を含む。上記不飽和カルボン酸系単量体は、重合性不飽和結合とカルボキシル基とを分子内に少なくとも1つずつ有する単量体であり、α,β−不飽和ジカルボン酸及び/又はその無水物を含む。これにより、上記グラフト重合における重合反応の暴走による急激な増粘を防止することができる。上記エチレン性不飽和単量体中における不飽和カルボン酸系単量体の含有量としては、本発明の作用効果を奏することになる限り特に限定されないが、エチレン性不飽和単量体全体の50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、70質量%以上であり、更に好ましくは、80質量%以上であり、特に好ましくは、90質量%以上であり、最も好ましくは、100質量%、すなわち、エチレン性不飽和単量体が全て不飽和カルボン酸系単量体であることである。
【0052】
上記α,β−不飽和ジカルボン酸及び/又はその無水物としては上述した第1の好適な形態における不飽和ジカルボン酸系単量体と同様のものを用いることができる。
【0053】
上記不飽和カルボン酸系単量体におけるα,β−不飽和ジカルボン酸及び/又はその無水物の含有量としては、例えば、適度な速度でポリエーテル化合物にグラフト重合させて増粘を防止するためには、0.1〜99.9重量%であることが好ましい。より好ましくは、1〜99重量%であり、更に好ましくは、10〜90重量%であり、最も好ましくは、20〜80重量%である。
【0054】
上記不飽和カルボン酸系単量体はまた、上記α,β−不飽和ジカルボン酸以外の不飽和カルボン酸系単量体を含むことが好ましい。上記不飽和カルボン酸系単量体としては上述した第1の好適な形態における不飽和モノカルボン酸系単量体と同様のものを用いることができる。
【0055】
本発明においては、不飽和カルボン酸系単量体の好ましい態様の一つは、マレイン酸、フマル酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種と、(メタ)アクリル酸とを必須成分として含むことである。このような態様における(メタ)アクリル酸と、マレイン酸、フマル酸及び無水マレイン酸からなる群より選択される少なくとも1つの化合物との重量比としては、例えば、1/99〜99/1であることが好ましい。より好ましくは、10/90〜90/10であり、更に好ましくは、20/80〜80/20であり、最も好ましくは、30/70〜70/30である。
【0056】
上記不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル類やそれ以外のエチレン性不飽和単量体が挙げられる。上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル類としては、例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸のアルキルエステル類;フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸のアルキルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル類;(メトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ナフトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、モノフェノキシポリエチレングリコールマレエート、カルバゾールポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0057】
上記エチレン性不飽和カルボン酸エステル類以外のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、以下に記載するもの等が挙げられる。スチレン等の芳香族ビニル系単量体類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド等のアミド基を有するビニル系単量体類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のトリアルキルオキシシリル基を有するビニル系単量体類;γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等のケイ素原子を有するビニル系単量体類;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、オクチルマレイミド、ドテシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド誘導体。
【0058】
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基を有するビニル系単量体類;(メタ)アクロレイン等のアルデヒド基を有するビニル系単量体類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート類等のアミノ基を有するビニル系単量体類;(メトキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アリルエーテル、(メトキシ)ポリエチレングリコールイソプロペニルエーテル等の不飽和エーテル類;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、ヒドロキシアリルオキシプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基を有するビニル系単量体類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール、ビニルピロリドン、エチルビニルエーテル等のその他の官能基を有するビニル系単量体類等。
【0059】
上記不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体の使用量は、エチレン性不飽和単量体全体の0.1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜10質量%であり、更に好ましくは、0.1〜5質量%である。
【0060】
上記エチレン性不飽和単量体の使用量としては特に限定されるものではないが、上記第2の好適な形態のグラフト重合体は、上記ポリエーテル化合物に上記エチレン性不飽和単量体を、該エチレン性不飽和単量体中の上記不飽和カルボン酸系単量体が該ポリエーテル化合物に対して0.1〜50重量%となる使用量でグラフト重合してなるグラフト重合体であることが好ましい。0.1重量%未満であると、親水性グラフト重合体が水硬性材料に作用しにくくなって収縮低減性能が充分でなくなるおそれがあり、50重量%を超えると、親水性グラフト重合体により水硬性材料の硬化遅延性が増大したり、親水性グラフト重合体を調製する際の反応混合物の粘度が高くなって取り扱いにくくなったりするおそれがある。より好ましくは、0.5〜30重量%であり、更に好ましくは、1〜20重量%であり、特に好ましくは、2〜10重量%である。
【0061】
上記第2の好適な形態のグラフト重合体において、該化合物の原料である単量体成分とは、グラフト重合体の原料となるポリエーテル化合物と不飽和カルボン酸系単量体と、不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体のことであり、原料となるポリエーテル化合物と不飽和カルボン酸系単量体と、不飽和カルボン酸系単量体以外のエチレン性不飽和単量体とのモル比は、99〜1/1〜99/0〜98であることが好ましい。より好ましくは、97〜3/3〜97/0〜94であり、更に好ましくは、75〜5/25〜95/0〜70であり、中でも更に好ましくは、65〜5/35〜95/0〜60であり、特に好ましくは、50〜5/50〜95/0〜45であり、最も好ましくは、50〜8/60〜92/0〜32である。
【0062】
上記第2の好適な形態のグラフト重合体におけるポリエーテル化合物は、グラフト重合体を調製するための原料として用いられ、グラフト重合体のポリエーテル鎖を構成することとなる。このようなポリエーテル化合物の親水性と疎水性とのバランスは、そのまま親水性グラフト重合体の親水性と疎水性とのバランスに大きく影響することになる。グラフト重合体の親水性が大き過ぎると、セメント分散性が向上する結果、材料分離を発生させるおそれがあり、また、硬化物の耐アルカリ性等が低下するおそれがある。疎水性が大き過ぎると、水硬性材料中の空気量を過剰に減少させて流動性等が低下するおそれがある。従って、上記第2の好適な形態のグラフト重合体では、ポリエーテル化合物の親水性と疎水性とを適度にバランスさせることが重要な意味を有することになる。このような親水性と疎水性のバランスを表す指標として、例えば、HLBがある。HLBを数値化するには、例えば、原他編「界面活性剤−物性・応用・化学生態学−」(第8刷、1991年8月10日、講談社発行)に記載のグリフィン式の式に準じて算出することができる。上記ポリエーテル化合物のHLBとしては、例えば、8〜20であることが好ましい。より好ましくは、10〜20であり、更に好ましくは、13〜19である。
【0063】
上記第2の好適な形態のグラフト重合体では、上記ポリエーテル化合物は、上記式(3)で表される化合物である。上記式(3)で表される化合物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記式(3)において、平均付加モル数とは、上記式(3)で表される化合物1モル中における当該繰り返し単位のモル数の平均値を意味する。上記一般式(1)における炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、グラフト重合体に適度な疎水性を付与する機能を有するものである。
上記式(3)におけるrは、グラフト重合体のグラフト率向上、セメント分散性能の向上、親水性の向上等の点から、25以上であることが好ましい。より好ましくは、40以上であり、更に好ましくは、50以上である。また、1000以下であることが好ましく、より好ましくは、500以下である。
【0065】
上記式(3)における−(RO)−で表される基において、炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。2種以上である場合、オキシアルキレン基の繰り返し形態は、ランダム、ブロック、交互等のいずれであってもよい。
また、上記式(3)における−(RO)−で表される基において、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の平均付加モル数におけるオキシエチレン基の平均付加モル数の割合が、50%以上であることが好ましい。より好ましくは、60%以上であり、更に好ましくは、70%以上であり、特に好ましくは、80%以上であり、最も好ましくは、90%以上である。
【0066】
上記式(3)で表される化合物の調製方法としては、例えば、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを、活性水素原子を有する化合物である水やメチルアルコールに通常の方法で重合することにより調製する方法等を好適に適用することができる。上記アルキレンオキシド及び活性水素原子を有する化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記炭素数2〜18のアルキレンオキシドには、エチレンオキシドが含まれることが好ましく、また、必要により共重合可能なプロピレンオキシド等が含まれることになる。更に、炭素数2〜18のアルキレンオキシド以外に、スチレンオキシド等の他のアルキレンオキシドが必要により付加的に含まれていてもよい。
【0068】
上記式(3)で表される化合物の調製における重合方法としては特に限定されず、例えば、汎用性を考慮して公知の重合方法を用いることが好ましい。このような重合方法では、酸触媒又はアルカリ触媒を用いることが好ましい。上記酸触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素等のルイス酸触媒である金属や半金属のハロゲン化合物;塩化水素、臭化水素、硫酸等の鉱酸等が挙げられる。また、上記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
上記第2の好適な形態のグラフト重合体では、ポリエーテル化合物として、上記式(3)で表される化合物と共に上記式(3)で表される化合物の誘導体を含んでもよく、上記式(3)で表される化合物の代わりに上記式(3)で表される化合物の誘導体を含んでもよい。上記式(3)で表される化合物の誘導体としては、例えば、上記式(3)で表される化合物の末端官能基を変換してなる末端基変換体や、上記式(3)で表される化合物と、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基、ハロゲン基等の基を1分子中に複数個有する架橋剤とを反応させて得られる架橋体等が挙げられる。
【0070】
上記末端基変換体としては、例えば、上記式(3)で表される化合物の全ての末端又は一部の末端の水酸基を、(i)炭素数2〜22の脂肪酸、コハク酸、無水コハク酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アジピン酸等のジカルボン酸及び/又はその無水物でエステル化したもの;(ii)ハロゲン化アルキルを用いた脱ハロゲン化水素反応でアルコキシル化したもの、すなわちアルコキシポリオキシアルキレン;(iii)クロルスルホン酸、無水硫酸、スルファミン酸等の公知の硫酸化剤で硫酸化したもの、すなわちポリオキシアルキレン硫酸(塩)等が挙げられる。
【0071】
上記式(3)で表される化合物の重量平均分子量(Mw)としては特に限定されず、例えば、1000〜1000000であることが好ましい。より好ましくは、2000〜50000であり、更に好ましくは、2000〜40000であり、特に好ましくは、3000〜35000である。また、分散度としては特に限定されず、例えば、1〜100であることが好ましい。より好ましくは、1.1〜10であり、更に好ましくは、1.1〜3である。尚、本明細書中において、分散度とは、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)を意味する。
上記式(3)で表される化合物の重量平均分子量は、GPCにより、後述する実施例に記載の条件で測定することができる。
【0072】
上記第2の好適な形態のグラフト重合体を調製するグラフト重合は、ポリエーテル化合物から水素原子やハロゲン原子が引き抜かれた際に発生するグラフト部位を開始点としてエチレン性不飽和単量体が付加重合することにより行われる。
【0073】
上記グラフト重合において、ポリエーテル化合物は、グラフト部位が同一分子中に多数存在するものもあれば全く存在しないものもある。また、同一の炭素原子から複数の原子が引き抜かれると、その部位でポリエーテル鎖は切断される。エチレン性不飽和単量体の重合停止反応は、連鎖移動反応、不均化停止反応、再結合停止反応等であり、ポリエーテル化合物と結合してポリエーテル化合物の2量体、3量体等ができることもある。このため、得られる親水性グラフト重合体の分子量分布は広くなり、分散度(Mw/Mn)は大きくなると考えられる。
【0074】
上記グラフト重合の方法としては、ポリエーテル化合物にエチレン性不飽和単量体をグラフト重合することができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、グラフト率を上げると親水性グラフト重合体の収縮低減性能を向上させることができる等の点から、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、公知のラジカル開始剤を用いることができるが、反応性等の点から、有機過酸化物が特に好ましい。
有機過酸化物の具体例やその他のグラフト重合の方法については、特開2002−293596号公報を参照することができる。
【0075】
上記グラフト重合により得られるグラフト重合体は、そのまま用いてもよいが、溶剤に溶解させて用いることもできる。上記溶剤としては、例えば、水やアルコール等が挙げられるが、水を用いることが好ましい。また、親水性グラフト重合体が有するカルボキシル基、スルホン酸基等の酸基やそのエステル基の一部又は全部を、塩基性基を有する化合物により変換してもよい。これにより、親水性グラフト重合体を塩として用いることもできる。
【0076】
上記塩基性基を有する化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
<第3の好適な形態>
本発明における収縮低減剤が含む化合物が、エチレン性不飽和単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール鎖(B)の末端とが結合部位(X)を介して結合した構造を有する(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体であることは、本発明における収縮低減剤が含む化合物の第3の好適な形態である。
【0078】
上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端とが結合部位(X)を介して結合した構造を有する点に特徴を有し、これにより、優れた収縮低減効果を発揮することができる。
上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、このような構造的特徴を有する限り、共重合体全体としての構造は特に制限されないが、以下の(1)〜(4)のいずれかの構造を有する共重合体であることが好ましい。
(1)直鎖状の高分子鎖(B)の一方の末端のみが不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)の末端と結合部位(X)を介して結合した構造を有する共重合体。
(2)直鎖状の高分子鎖(B)の両方の末端が不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)の末端と結合部位(X)を介して結合した構造を有する共重合体。
(3)不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)との結合部位(X)を介した結合を必須とする多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体であって、該多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、該高分子鎖(B)を多分岐構造の枝状部の一部又は全部とし、該枝状部を3つ以上有し、一部の枝状部の末端部位に該高分子鎖(A)を有する構造の共重合体。
(4)不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)との結合部位(X)を介した結合を必須とする多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体であって、該多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、該高分子鎖(B)を多分岐構造の枝状部の一部とし、該枝状部を3つ以上有し、すべての枝状部の末端部位に該高分子鎖(A)を有する構造の共重合体。
以下においては、上記(1)〜(4)の構造を有する共重合体をそれぞれ(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)〜(4)と記載し、まず、これらの共重合体について説明し、次に、高分子鎖(A)、高分子鎖(B)、結合部位(X)、及び、分岐構造の枝分かれ部位を構成する活性水素を有する化合物の残基(Z)の具体的な構造について説明する。
【0079】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)]
(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)は、直鎖状の(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の一方の末端のみが不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)の末端と結合部位(X)を介して結合した構造を有する。
ここで、結合部位(X)を介して高分子鎖(B)と結合する高分子鎖(A)の末端は、高分子鎖(A)の主鎖末端であってもよく、高分子鎖(A)の主鎖の末端の原子に側鎖が結合している場合には、当該側鎖の末端に結合していてもよいが、主鎖末端であることが好ましい。この点は、後述する共重合体(2)〜(4)についても同様である。
【0080】
上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)は、下記式(4);
10−(B)n1−X−A (4)
(式中、R10は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。(B)n1は、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を表し、Bは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Xは、有機残基を表す。Aは、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖を表す。n1は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【0081】
上記式(4)において、上記(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)n1の一方の末端の隣に位置するXは結合部位(X)であり、Xを介して不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖Aが(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)n1に結合している。また、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)n1の他方の末端には、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基のいずれかが結合している。
【0082】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(2)]
(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(2)は、直鎖状の(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の両方の末端が不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)の末端と結合部位(X)を介して結合した構造を有する。
上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(2)は、下記式(5);
A−X−(B)n2−X−A (5)
(式中、(B)n2は、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を表し、Bは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Xは、同一又は異なって、有機残基を表す。Aは、同一又は異なって、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖を表す。n2は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
上記式(5)において、(B)n2で表される高分子鎖(B)と、Aで表される高分子鎖(A)とが、Xで表される結合部位(X)を介して結合している点は、上記共重合体(1)の場合と同様である。
【0083】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)]
(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)は、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)との結合部位(X)を介した結合を必須とする多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体であって、該多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、該高分子鎖(B)を多分岐構造の枝状部の一部又は全部とし、該枝状部を3つ以上有し、一部の枝状部の末端部位に該高分子鎖(A)を有する構造の多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体である。
上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)は、下記式(6);
【0084】
【化5】
【0085】
(式中、R11は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。Z1は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。(B)n3は、同一又は異なって、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を表し、Bは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Xは、同一又は異なって、有機残基を表す。Aは、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖を表す。n3は、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。m1及びp1は1以上の数であり、m1及びp1の合計は、3以上である。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
上記式(6)において、(B)n3で表される高分子鎖(B)と、Aで表される高分子鎖(A)とが、Xで表される結合部位(X)を介して結合している点は、上記共重合体(1)の場合と同様である。
【0086】
上記式(6)において、m1は、上記高分子鎖Aと上記高分子鎖(B)n3とが結合部位Xを介して結合した枝状部の数を表し、p1は、水素原子と上記高分子鎖(B)n3とが結合した枝状部の数を表す。m1及びp1の合計は3以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下である。なお、上記高分子鎖(B)の一部の末端が結合部位(X)を介して上記高分子鎖(A)と結合するとは、(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)の全共重合体分子において、高分子鎖(B)の全部の枝状部の末端部位モル数に対して、高分子鎖(A)が結合部位(X)を介して付加したモル数の割合の百分率が、100モル%未満となることである。上記式(6)でいえば、m1+p1が高分子鎖(B)の全部の枝状部の末端部位モル数となり、m1/m1+p1が高分子鎖(A)が結合部位(X)を介して付加したモル数の割合となる。{m1/(m1+p1)}×100の好ましい範囲は、10〜90モル%であり、より好ましくは30〜70モル%、更に好ましくは40〜60モル%である。
以下、本明細書において、単に「枝状部」という場合には、上記高分子鎖(A)と高分子鎖(B)とが結合部位Xを介して結合した枝状部、及び、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基のいずれかと上記高分子鎖(B)とが結合した枝状部の両方をいうものとする。また、「高分子鎖(B)を枝状部の一部又は全部とする」とは、「枝状部」が高分子鎖(A)と高分子鎖(B)とが結合したものである場合、高分子鎖(B)は枝状部の一部となり、「枝状部」が水素原子と高分子鎖(B)とが結合したものである場合、高分子鎖(B)は枝状部の全部となることを表す。
【0087】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)は、上記枝状部を3つ以上有する。
上記枝状部の数の好ましい下限値としては5である。好ましい上限値としては20であり、より好ましくは13であり、さらに好ましくは7である。
また、上記枝状部の数は、活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素の全てに上記枝状部が結合した構造を有することが好適である。これによって、更に優れた収縮低減性能を発揮することが可能となる。
【0088】
ここで、例えば、上記枝状部の数が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい場合の構造を模式的に示すと、下記式(7)又は(8)のように表すことができる。
【0089】
【化6】
【0090】
上記式(7)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基、活性水素3個)であり、グリセリンが有する活性水素全てに枝状部が結合し、3つの枝状部のうち、2つの枝状部の末端部位に不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)を有する構造を模式的に示したものである。
また上記式(8)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基、活性水素6個)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに枝状部が結合し、6つの枝状部のうち、3つの枝状部の末端部位に不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)を有する構造を模式的に示したものである。
【0091】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(4)]
(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(4)は、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)との結合部位(X)を介した結合を必須とする多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体であって、該多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体は、該高分子鎖(B)を多分岐構造の枝状部の一部とし、該枝状部を3つ以上有し、すべての枝状部の末端部位に該高分子鎖(A)を有する構造の多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体である。
上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(4)は、下記式(9);
【0092】
【化7】
【0093】
(式中、Z1は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。(B)n4は、同一又は異なって、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を表し、Bは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Xは、同一又は異なって、有機残基を表す。Aは、不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖を表す。n4は、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。m2は、3以上の数である。)で表される構造を有するものであることが好ましい。
上記式(9)において、(B)n4で表される高分子鎖(B)と、Aで表される高分子鎖(A)とが、Xで表される結合部位(X)を介して結合している点は、上記共重合体(1)の場合と同様である。
【0094】
上記式(9)で表される(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(4)において、m2は、上記高分子鎖(A)と上記高分子鎖(B)とが結合部位(X)を介して結合した枝状部の数を表し、3以上の数であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下である。
また、高分子鎖(B)の全部の末端が不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)の末端と結合部位(X)を介して結合を有するとは、全共重合体分子において実質的にすべての枝状部の末端部位に高分子鎖(A)が結合していること、高分子鎖(B)による枝状部の末端部位の全モル数に対して高分子鎖(A)のモル数の百分率が実質的に100モル%である共重合体を意味する。
【0095】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(4)は、上記枝状部を3つ以上有する。上記枝状部の数の好ましい値は、上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)と同様である。
ここで、例えば、上記枝状部の数が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい場合の構造を模式的に示すと、下記式(10)又は(11)のように表すことができる。
【0096】
【化8】
【0097】
上記式(10)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基、活性水素3個)であり、グリセリンが有する活性水素全てに、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)と、結合部位(X)を介して不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)とが結合した構造を模式的に示したものである。
また上記式(11)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基、活性水素6個)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)と、結合部位(X)を介して不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)とが結合した構造を模式的に示したものである。
【0098】
以下、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)、結合部位(X)及び活性水素を3個以上有する化合物の残基(Z1)について説明する。
【0099】
[不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)]
上記第3の好適な形態において、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)は、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分が重合した構造を有する構成単位である。
また、上記不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分が重合した構造を有する構成単位は、同じ構造の構成単位となるのであれば、他の単量体に由来する構成単位を変性したものであってもよい。
【0100】
上記不飽和アニオン系単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体(以下、単に「単量体(a)」ともいう。)、不飽和スルホン酸系単量体(以下、単に「単量体(b)」ともいう。)、不飽和リン酸系単量体(以下、単に「単量体(c)」ともいう。)が好ましい。
単量体(a)としては、例えば、下記式(12);
【0101】
【化9】
【0102】
(式中、R12、R13、R14、R15は、少なくとも一つが−COOMであり、R12、R13、R14、R15は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、−(CH)zCOOM(−(CH)zCOOMは、COOM又はその他の−(CH)zCOOMと無水物を形成していてもよい)を表し、zは0〜2の整数を表す。M及びMは同一又は異なって、水素原子、一価金属原子、二価金属原子、三価金属原子、第4級アンモニウム基、又は、有機アミン基を表す。)で示される化合物が好適である。
すなわち、単量体(a)は、C=C二重結合に結合した少なくとも一つのカルボキシル基又はその塩(−COOM)を有する、不飽和カルボン酸系単量体である。
なお、上記単量体(a)由来の構成単位とは、重合反応によって上記式(12)で示される単量体(a)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0103】
上記式(12)において、M及びMで表される基としては、一価金属原子、二価金属原子、有機アミン基としては、上述した式(2)のZ’における一価金属原子、二価金属原子、有機アミン基の具体例と同様である。三価金属原子としては、アルミニウム、鉄等が挙げられる。
上記式(12)で示される不飽和カルボン酸系単量体の具体例は、上述した式(2)で表される構造単位(II)を形成する単量体と同様である。中でも、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩が特に好ましい。
【0104】
単量体(b)としては、例えば、スチレンスルホン酸、又は、これのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩若しくは置換アミン塩;スルホンエチルメタクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルメタクリレート、スルホエチルアクリレート、スルホプロピルアクリレート若しくはスルホブチルアクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート、又は、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩若しくは置換アミン塩;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、又は、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩若しくは置換アミン塩等が使用される。好ましくは、スチレンスルホン酸若しくはスルホアルキル(メタ)アクリレート、又は、これらの塩である。また塩としてはアルカリ金属塩が好ましい。
【0105】
単量体(c)としては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートモノリン酸エステル、ヒドロキシエチルプロピルメタクリレートモノリン酸エステル、ヒドロキシエチルブチルメタクリレートモノリン酸エステル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノリン酸エステル、又は、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩若しくは置換アミン塩等が使用される。
これらの不飽和アニオン系単量体は2種以上併用してもよい。
【0106】
上記不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分は、不飽和アニオン系単量体以外のビニル系単量体を含んでいてもよい。
不飽和アニオン系単量体以外のビニル系単量体としては、上記第1の形態の化合物において、その他の構造単位(III)を形成する単量体の具体例として挙げられた化合物の他、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのエステル類;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の各種(アルコキシ)(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアルコールとのジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸類とのジエステル類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類; ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;(メトキシ)ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メトキシ)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のビニルエーテルあるいは(メタ)アリルエーテル類;(メトキシ)ポリエチレングリコール3−メチル−3−ブテニルエーテル等の3−メチル−3−ブテニルエーテル類が挙げられ、これらを1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0107】
上記不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分は、ビニル単量体成分全体100質量%に対して、不飽和アニオン系単量体を1〜100質量%含むことが好ましい。より好ましくは、10〜100質量%であり、更に好ましくは、50〜100質量%であり、最も好ましくは、100質量%、すなわち、ビニル系単量体成分が不飽和アニオン系単量体のみからなることである。
【0108】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体において、高分子鎖(A)における不飽和アニオン系単量体単位の平均導入モル数は1以上であることが好ましい。
ここで、上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が多分岐構造を有するものである場合、不飽和アニオン系単量体単位の平均導入モル数の値とは、枝状部1つに含まれる、不飽和アニオン系単量体単位の平均導入モル数を意味する。
上記平均導入モル数のより好ましい下限値としては2であり、更に好ましくは5である。好ましい上限値としては50であり、より好ましくは30であり、更に好ましくは20であり、特に好ましくは15であり、最も好ましくは10である。
上記平均導入モル数を1以上とすることにより、上記共重合体に不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)に基づく性能を充分に発揮させることが可能となる。
また、上記平均導入モル数が50を超える場合には、分散性が発現することにより充分な収縮低減性を得るために必要な収縮低減剤を添加できなくなる。
【0109】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体において、高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分中の不飽和アニオン系単量体と、ポリアルキレングリコール鎖(B)の質量割合は、高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分中の不飽和アニオン系単量体/ポリアルキレングリコール鎖(B)=0.3〜70/99.7〜30であることが好ましい。高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分中の不飽和アニオン系単量体の質量割合が0.3重量%未満であると、(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が水硬性材料に作用しにくくなって収縮低減性能が充分でなくなるおそれがあり、70重量%を超えると、(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合により水硬性材料の硬化遅延性が増大するおそれがある。好ましくは0.5〜65/99.5〜35であり、より好ましくは1〜60/99〜40であり、更に好ましくは3〜60/97〜40であり、特に好ましくは5〜60/95〜40である。
【0110】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体において、該化合物の原料である単量体成分とは、高分子鎖(A)を形成する単量体成分とポリアルキレングリコール鎖(B)とを意味する。すなわち、高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分(不飽和アニオン系単量体と不飽和アニオン系単量体以外のビニル系単量体)、及び、ポリアルキレングリコール鎖(B)のことであり、高分子鎖(A)を形成するエチレン性不飽和単量体成分中の不飽和アニオン系単量体のモル数と、ポリアルキレングリコール鎖(B)のモル数と不飽和アニオン系単量体以外のビニル系単量体とのモル数との比は、25〜97/75〜3/0〜72であることが好ましい。より好ましくは、50〜97/50〜3/0〜47であり、更に好ましくは、65〜95/35〜5/0〜30であり、特に好ましくは、80〜95/20〜5/0〜15である。
【0111】
[(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)]
(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)は、炭素数2〜18のアルキレンオキシドから構成される高分子鎖((ポリ)アルキレンオキシド)であることが好ましい。以下、(ポリ)アルキレングリコールをPAGともいう。
より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキシドであり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0112】
上記(ポリ)アルキレングリコール系構成単位を構成するアルキレンオキシドとしては、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であることである。
【0113】
ここでいう「主体」とは、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)が、(ポリ)アルキレングリコール鎖が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、本発明における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0114】
上記(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成される場合は、2種以上のアルキレンオキシドがランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態で付加したものであってもよい。
【0115】
上記(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)としてはまた、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含む場合には、上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体に、ある程度の疎水性を付与することが可能となるため、上記共重合体を収縮低減剤に使用した場合には、セメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらし、セメント組成物の粘性やこわばり感を低減することができる。その一方で、炭素数3以上のアルキレンオキシドを導入し過ぎると、上記共重合体の疎水性が高くなり過ぎることから、水溶性がなくなり作業性の著しい低下、さらに消泡剤、空気連行剤と相互作用しやすくなるため、コンクリートおよびモルタルの空気量調整性の低下さらにそれに起因する凍結融解抵抗性の低下の要因となるおそれがある。このため、全アルキレンオキシド100質量%に対する炭素数3以上のアルキレンオキシドの含有量は、50質量%以下であることが好ましい。より好ましく30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
【0116】
ここで、耐加水分解性の向上の面から、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入してもよい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基、アルキルグリシジルエーテル残基等が挙げられる。中でも、製造の容易さからオキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、本発明のブロック共重合体における結合部位(X)が有する耐加水分解性を考慮して調整することが好ましく、例えば、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)に対して、導入量を50モル%以上とすることが好ましい。より好ましくは100モル%以上であり、更に好ましくは150モル%以上であり、特に好ましくは200モル%以上である。
【0117】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体において、高分子鎖(B)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)は、1〜1000であることが好ましい。
オキシアルキレン基の平均付加モル数が1以上の数であると、上記共重合体に(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)に基づく性能を充分に発揮させることが可能となる。
また、オキシアルキレン基の平均付加モル数が1000を超える場合には、上記共重合体を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。
上記平均付加モル数の下限値としては、より好ましくは10、さらに好ましくは20であり、さらにより好ましくは50であり、特に好ましくは75であり、特により好ましくは80であり、最も好ましくは100である。上限値としては、より好ましくは800であり、さらに好ましくは700であり、さらにより好ましくは600であり、特に好ましくは500であり、特により好ましくは300であり、最も好ましくは200である。
なお、上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数(オキシアルキレン基の平均付加モル数)とは、枝状部1つにおいて付加しているアルキレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0118】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が有する高分子鎖(B)のうち、結合部位(X)を介して高分子鎖(A)と結合していないものの末端は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基のいずれかであることが好ましい。より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェノール、メチルフェノール、ナフトールのいずれかである。
上記式(4)におけるR10や、上記式(6)におけるR11は、これらのいずれかであることが好ましい。
【0119】
[結合部位(X)]
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体において、結合部位(X)は、高分子鎖(A)と高分子鎖(B)とを化学的に安定に結合し得る構造を有する部位であればその構造は特に限定されるものではない。
上記結合部位の好ましい構造としては、重合反応に用いられる連鎖移動剤となる構造に由来する有機残基が挙げられる。
結合部位(X)の例としては、(i)硫黄原子を含む結合部位、(ii)アゾ開始剤由来の結合部位、(iii)リン原子を含む残基由来の結合部位、(iv)その他の構造由来の結合部位等が挙げられる。
結合部位として複数箇所存在する有機残基の構造はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0120】
(i)硫黄原子を含む結合部位
上記硫黄原子を含む結合部位(X)としては、高分子鎖(B)の末端酸素原子とともにエステル結合を形成し、かつ、硫黄原子を含む構造と、高分子鎖(B)の末端酸素原子とともにエステル結合を形成せず、かつ、硫黄原子を含む構造とがある。
上記硫黄原子を含む結合部位(X)としては、例えば、下記式(13):
【0121】
【化10】
【0122】
(式中、R16は有機残基であり、好ましくは、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキレン基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、又は、チアゾール等の芳香族基(ただし、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等で一部置換されていてもよい。))で示される構造が挙げられる。
【0123】
上記式(13)で示される構造のR16は(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)と結合する部位であり、硫黄原子(S)は不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分由来の高分子鎖(A)と結合する部位である。
【0124】
上記結合部位(X)が高分子鎖(B)の末端酸素原子とともにエステル結合を形成しないとは、上記式(13)で示される構造のR16が(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端酸素原子と結合した場合、下記式(14):
【0125】
【化11】
【0126】
(式中、R16は上記と同様である。)で示される部位を形成することになるが、この部位においてエステル結合を含まないことである。
そのような構造は、後述するように(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端の水酸基をトシル化し、チオ酢酸によってチオアセチル化した後、加水分解して得られる末端のチオール基を連鎖移動剤として、ラジカル重合開始剤を用いて不飽和カルボン酸系単量体(a)をブロック重合させることにより形成することができる。
【0127】
一方で、共重合体がメルカプトカルボン酸のカルボキシル基と(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端のヒドロキシル基との間で脱水エステル化反応を起こし、それによって得られたチオールエステルを連鎖移動剤として、ラジカル重合開始剤を用いて不飽和カルボン酸系単量体(a)をブロック重合させて得られる場合、結合部位(X)は、下記式(15):
【0128】
【化12】
【0129】
(式中、R17はメルカプトカルボン酸残基であり、例えば、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖アルキレン基、フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等の芳香族基(ただし、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等で一部置換されていてもよい。))で示される構造となる。
この場合、該結合部位は、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端酸素原子と下記式(16):
【0130】
【化13】
【0131】
(式中、R17は上記と同様である。)で示される部位を形成することになり、この部位においてエステル結合を含むことになる。
【0132】
(ii)アゾ開始剤由来の結合部位
アゾ開始剤由来の結合部位としては、アゾ基を含む重合開始剤(アゾ開始剤)に由来する部位であり、例えば、下記式(17)に示すようなアゾ開始剤に由来する構造が好ましい。
【0133】
【化14】
【0134】
(式中、R18は、互いに独立して、炭素数1〜20のアルキレン基(上記アルキレン基は、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基などで一部置換されていてもよい。)、カルボニル基またはカルボキシル基であるか、あるいは、炭素数1〜20のアルキレン基(上記アルキレン基は、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基などで一部置換されていてもよい。)がカルボニル基またはカルボキシル基に結合した基であり、R19は、互いに独立して、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシ置換(炭素数1〜10の)アルキル基、フェニル基または置換フェニル基であり、R20は、互いに独立して、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基または(炭素数1〜10のアルコキシ)カルボニル基である。)で示される繰り返し単位を有するアゾ開始剤が挙げられる。
より好ましくは、下記式(18)で示されるアゾ開始剤が挙げられる。
【0135】
【化15】
【0136】
上記式(18)で示されるアゾ開始剤としては、その末端が(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)とエステル結合により予め結合した構造であることが好ましい。
【0137】
上記式(17)、(18)で示されるアゾ開始剤由来の結合部位としての有機残基Xの構造は、下記式(19)、(20)で示す構造となる。
【0138】
【化16】
【0139】
(式中、R18、R19、R20は式(17)におけるR18、R19、R20と同様である)
【0140】
【化17】
【0141】
式(20)におけるカルボニル基の炭素が(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)と結合する側である。
【0142】
(iii)リン原子を含む残基由来の結合部位
リン原子を含む結合部位としては、例えば、下記式(21):
【0143】
【化18】
【0144】
(式中、Y1は有機残基を表す。Mは金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基を表す)で示される構造が好ましい。
Y1は(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)と結合する部位であり、Y1と結合する次亜リン酸(塩)のリン原子は、不飽和アニオン系単量体単位による高分子鎖(A)と結合する部位である。
【0145】
上記有機残基としては、炭素数2〜30の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基や、炭素数6〜30の2価の芳香族基(フェニレン基、アルキルフェニレン基、及び、ピリジン、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール由来の2価の基等)等が挙げられ、例えば、水酸基、アミノ基、アセチルアミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等の置換基で一部置換されていてもよい基が好ましい。
これらの中でも、より好ましくは、炭素数2〜18の2価の有機残基及びそれらの一部が水酸基で置換されたものであり、更に好ましくは、炭素数2〜8の直鎖状又は分岐状アルキレン基及びそれらの一部が水酸基で置換されたものである。
【0146】
次亜リン酸塩は、次亜リン酸と、金属、アンモニア又は有機アミンのいずれかとによって形成される塩が好ましい。金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が好ましい。有機アミンとしては、炭素数1〜18のアルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン、ポリアルキレンポリアミン等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム、カリウム、アンモニア、トリエタノールアミンによって形成される塩が好ましい。
【0147】
(iv)その他の構造由来の結合部位
その他の構造由来の結合部位の具体例としては、以下のような連鎖移動剤由来の結合部位が挙げられる。これらのうち、硫黄原子を有するものは、上記(i)硫黄原子を含む結合部位にも含まれる。
例えば、(ポリ)アルキレングリコールの末端の−OH基に、ハロゲン化亜鉛を用いて、チオ酢酸、チオ安息香酸などのチオカルボン酸を反応させた後、アルカリ加水分解を行うことにより、−OH基を−SH基に変換した化合物;(ポリ)アルキレングリコールとチオ酢酸との存在下、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)とトリフェニルホスフィンとを反応させた後、アルカリ加水分解を行うことにより、(ポリ)アルキレングリコールの末端の−OH基を−SH基に変換した化合物;(ポリ)アルキレングリコールの末端の−OH基に、臭化アリルなどのハロゲン化アリルをSN2反応させて(ポリ)アルキレングリコールの末端をアリル化した化合物;(ポリ)アルキレングリコールの末端にアリル基などの二重結合を有する化合物に、チオ酢酸、チオ安息香酸などのチオカルボン酸を付加させた後、アルカリ加水分解を行うことにより、−SH基に変換した化合物;
これらの化合物(連鎖移動剤)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0148】
上述した種々の構造の中でも、結合部位(X)としては、(i)硫黄原子を含む結合部位であることが好ましい。
結合部位(X)が硫黄原子を含む結合部位である場合、本発明における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体全体のうち、硫黄原子の含有量が0.001質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.005質量%以上であり、更に好ましくは、0.01質量%以上である。また、硫黄原子の含有量が5質量%以下となることが好ましく、より好ましくは、3質量%以下であり、更に好ましくは、2質量%以下である。
硫黄原子の含有量は、PAGチオール化合物における硫黄原子の含有量、高分子鎖(A)におけるビニル系単量体単位のチオール基(SH)1個に対する個数の平均値から計算することができる。硫黄原子の含有量が上記範囲内であると、後述する製造方法によって上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体をより効率的に製造することが可能となる。
【0149】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体の好ましい形態としてはまた、共重合体の2質量%アルカリ水溶液中での15分後の高分子鎖(A)と高分子鎖(B)への分解率が10質量%以下である。より好ましくは、5質量%以下であり、更に好ましくは、2質量%以下である。最も好ましくは、実質的に0質量%となることである。
ここにいう分解率とは、アルカリ水溶液中での加水分解率のことであり、加水分解率が10質量%以下であると、収縮低減剤としてより優れた性能を発揮するものとなる。
加水分解率を低くする点からは、結合部位(X)は、硫黄原子を有する非エステル結合であることが好ましい。
このように、結合部位(X)のうち、少なくとも1つが硫黄原子を有する非エステル結合であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0150】
上記加水分解率は、例えば、次のような加水分解試験によって測定することができる。
(1)共重合体の重量平均分子量(Mw)を後述するGPC測定条件によって測定し、反応前(分解前)分子量とする。
(2)共重合体をNaOH水溶液に溶解させ2質量%水溶液を作成する。その際、水溶液のpHが12.5となるように予めNaOH水溶液のpHを調整しておく。2質量%水溶液を15分間撹拌し、その後35%HCl水溶液にて中和を行いpHを5.0とする。
共重合体を取り出し、その重量平均分子量(Mw)を後述するGPC測定条件によって測定し、反応後(分解後)分子量とする。
(3)反応前後のGPCチャートから加水分解率を算出する。
【0151】
上記第3の好適な形態における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が、上述した(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)である場合、その中でも特に好ましい構造は、それぞれ下記式(22)、(23)で示す構造である。また、本発明における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が、上述した(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)、(4)である場合、その中でも特に好ましい構造は、それぞれ下記式(24)、(25)で示す構造である。
【0152】
【化19】
【0153】
(式(22)〜(25)中、R21は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルケニル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。R22は、同一又は異なって、水素原子又はメチル基を表す。Z1は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。n5、r1は、オキシエチレン基の平均付加モル数を表し、1〜500の数(好ましくは75〜500の数)である。m3は、1〜500の数(好ましくは1〜30の数)である。q1は、1〜50の数(好ましくは1〜30の数)である。m4及びp2はそれぞれ0以上の数であり、m4及びp2の合計は、3以上である。m5は、3以上の数である。)
上記式(22)〜(25)の構造は、不飽和カルボン酸系単量体がアクリル酸又はメタクリル酸、(ポリ)アルキレングリコール鎖が(ポリ)エチレングリコール鎖、結合部位(X)が、チオ酢酸又はその金属塩に由来する硫黄原子を含む結合部位である構造であることが好ましい。
【0154】
なお、上記式(22)〜(25)において、不飽和カルボン酸系単量体単位のR22及びCOOH基の位置は末端の水素原子側に描いているが、単量体単位ごとにおけるR22及びCOOH基の位置は硫黄原子側に位置していてもよい。上記式(22)〜(25)で示す構造では、単量体単位ごとにR13及びCOOH基の位置が水素原子側であるか硫黄原子側であるかがランダムに決定される。
【0155】
[活性水素を有する化合物の残基(Z1)]
本明細書において、活性水素を有する化合物の残基とは、活性水素を有する化合物から活性水素を除いた構造を有する基を意味し、該活性水素とは、アルキレンオキシドが付加できる水素を意味する。このような活性水素を有する化合物の残基は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0156】
上記活性水素を有する化合物の残基としては、具体的には、例えば、多価アルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有する多価アルコール残基、多価アミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価アミン残基、多価イミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有する多価イミン残基、多価アミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有する多価アミド残基等が好適である。中でも、多価アミン残基、多価アルコール残基、及び、多価イミン残基のうちポリアルキレンイミン残基が好ましい。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物の残基は、多価アミン残基、ポリアルキレンイミン残基及び多価アルコール残基からなる群より選択される少なくとも1種の多価化合物残基であることが好適である。
なお、活性水素を有する化合物残基の構造としては、鎖状、分岐状、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
【0157】
上記活性水素を有する化合物の残基の好ましい具体例のうち、多価アミン(ポリアミン)としては、1分子中に平均2個以上のアミノ基を有する化合物であればよく、例えば、メチルアミン等のアルキルアミン;アリルアミン等のアルキレンアミン;アニリン等の芳香族アミン;アンモニア等のモノアミン化合物の1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が有する多価アミン残基が形成されることになる。
更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の2価以上のアミン化合物や、それらの1種又は2種以上を重合して得られるポリアミンであってもよい。このようなポリアミンは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
【0158】
また上記ポリアルキレンイミンとしては、1分子中に平均3個以上のイミノ基を有する化合物であればよく、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、上記多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が有するポリアルキレンイミン残基が形成されることになる。なお、ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子を持つ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、上記多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が奏する性能の観点から、エチレンイミンを重合して得られるポリエチレンイミンがより好適である。
【0159】
上記多価アミン及びポリアルキレンイミンの数平均分子量としては、100〜100000が好ましく、より好ましくは300〜50000、さらに好ましくは600〜10000であり、特に好ましくは800〜5000である。
【0160】
上記多価アルコールとしては、1分子中に平均3個以上の水酸基を含有する化合物であればよいが、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好適である。具体的には、例えば、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、グルコースなどの糖類、グルシット等の糖アルコール類、グルコン酸などの糖酸類等が好適である。このような化合物により、上記多分岐(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が有する多価アルコール残基が形成されることになる。
これらの中でも、工業的な生産効率の観点から、より好ましくは、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタンである。
【0161】
[上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体の製造方法]
以下においては、まず、上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)の製造方法について説明し、次に、上記(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)、(4)の製造方法について説明する。
【0162】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)の製造方法]
上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)の製造方法の一例として、チオ酢酸(又はその金属塩)に由来する硫黄原子を含む結合部位を有する共重合体を製造する場合について以下に説明する。
【0163】
上記第3の好適な形態に係る(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)は、少なくとも1つの末端に((ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(2)を製造する場合は、両方の末端に)ヒドロキシル基末端を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)を準備し、上記ヒドロキシル基末端に対してトシル化反応を行う工程(トシル化工程)、チオ酢酸又はその金属塩を反応させてチオアセチル化反応を行う工程(チオアセチル化工程)、チオアセチル化工程によって得られたチオアセチル基を加水分解する工程(加水分解工程)、末端にチオール基を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)を連鎖移動剤として、ラジカル重合開始剤を用いて不飽和ビニル系単量体をブロック重合させる工程(ブロック重合工程)を行うことにより製造することができる。
一方の末端又は両方の末端にチオール基を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)をPAG(ジ)チオール化合物ともいう。(ポリ)アルキレングリコールが(ポリ)エチレングリコールの場合は、PEG(ジ)チオール化合物ともいう。
【0164】
[トシル化工程]
トシル化工程では、末端にヒドロキシル基末端を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖のヒドロキシル基末端とトシル化剤とを反応させてトシル基を生成し、トシル化(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を得る。
上記トシル化工程において用いられるトシル化剤、反応条件としては、水酸基をトシル化できる限り特に限定されず、例えば、トシルクロライド(TsCl)をトシル化剤とし、ジクロロメタン(CHCl)等を反応溶媒として用い、適宜反応条件を設定すればよい。
【0165】
[チオアセチル化工程]
チオアセチル化工程では、トシル化工程によって得られた、ヒドロキシル基末端がトシル化された、末端にトシル基を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖のトシル基とチオアセチル化剤とを反応させてチオアセチル基を生成し、チオアセチル化(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を得る。
上記チオアセチル化工程において用いられるチオアセチル化剤、反応条件としては、トシル基をチオアセチル化できる限り特に限定されず、例えば、チオ酢酸カリウム(CHCOSK)をチオアセチル化剤とし、アセトニトリル(CHCN)を反応溶媒として用い、適宜反応条件を設定すればよい。
【0166】
[加水分解工程]
加水分解工程では、チオアセチル化工程によって得られた、トシル基末端がチオアセチル化された、末端にチオアセチル基を有する(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖のチオアセチル基を加水分解してチオール基を生成し、(ジ)チオール化(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を得る。例えば、下記式(26)、(27)で示すPAG(ジ)チオール化合物を得ることができる。
下記式(26)、(27)で示すPAG(ジ)チオール化合物は、それぞれ本発明に係る(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)を生成する中間体として好ましいものである。
上記加水分解工程においも、チオアセチル基の加水分解が進行するように適宜反応条件を設定すればよい。
【0167】
【化20】
【0168】
(式(26)、(27)中、R10、R16、n1は上記と同様である。AOは、オキシアルキレン基を表す。)
【0169】
また後述するように、本発明における(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)、(4)も、上記トシル化工程、チオアセチル化工程、加水分解工程を含む製造方法で製造することができる。その場合、加水分解工程を経て得られるPAG(ジ)チオール化合物は、下記式(28)、(29)で示される構造を有する化合物となる。
【0170】
【化21】
【0171】
(式(28)、(29)中、Z1、B、R11、R16、n3、n4、p1、m1、m2は上記と同様である。)
【0172】
[ブロック重合工程]
上述したように、上記PAG(ジ)チオール化合物は、連鎖移動剤としての機能を有するものであり、この化合物を連鎖移動剤として用いて、ビニル系単量体成分をラジカル重合することにより、上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)を簡便かつ効率的に、低コストで製造できる。
ビニル系単量体成分が含む不飽和アニオン系単量体中、高分子鎖(A)を形成する不飽和カルボン酸系単量体(単量体(a))が主体であることが好ましく、実質的にすべてが高分子鎖(A)を形成する不飽和カルボン酸系単量体であることが好ましい。
【0173】
上記重合反応により得られた重合体は、水溶液状態で弱酸性以上(好ましくはpH4以上、更に好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH6以上)のpH範囲に調整しておくことで取り扱いやすいものとすることができる。
その一方で、重合反応をpH7以上で行うと、重合率が低下すると同時に、共重合性が充分とはならず、収縮低減剤としての性能を充分に発揮できないおそれがある。そのため、重合反応においては、酸性から中性(好ましくはpH6未満、より好ましくはpH5.5未満、更に好ましくはpH5未満)のpH領域で重合反応を行うことが好適である。
【0174】
[硫黄原子を含む結合部位以外の結合部位を有する共重合体の製造方法]
ここまで、硫黄原子を含む結合部位を有する共重合体を製造する場合の例について説明したが、結合部位としてその他の構造を有する共重合体を製造する方法について以下に説明する。
【0175】
アゾ開始剤由来の結合部位を有する共重合体を製造する場合、出発物質として、アゾ開始剤の末端が(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)とエステル結合により予め結合した構造を有するものを使用することができる。
アゾ開始剤の末端が(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)とエステル結合により予め結合した構造を有するものは、例えば、アゾ基の両末端にカルボキシル基を有するアゾ開始剤(V−501など、和光純薬工業株式会社製)と、(ポリ)アルキレングリコールとをエステル化することにより得ることもできる。エステル化の方法としては、加熱工程を行うとアゾ開始剤が分解するので、加熱工程を含まない製法が必要である。そのような製法としては、(1)アゾ開始剤に塩化チオニルを反応させて酸塩化物を合成した後、(ポリ)アルキレングリコールを反応させてアゾ開始剤を得る方法;(2)アゾ開始剤と(ポリ)アルキレングリコールとを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および必要に応じて4−ジメチルアミノピリジンを用いて、脱水縮合することによりアゾ開始剤を得る方法;などが挙げられる。
【0176】
上記アゾ開始剤を使用すれば、アゾ基が熱で分解して、ラジカルが発生し、そこから重合が開始する。それゆえ、オキシアルキレン基からなるポリアルキレンオキシド部分の一端に不飽和アニオン系単量体が次々に付加して、上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体が形成される。
【0177】
リン原子を含む残基由来の結合部位を有する共重合体を製造する場合、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)の末端酸素原子に炭素−炭素二重結合を有する有機残基が結合した構造を有する化合物Cに、次亜リン酸(塩)を付加させて、リン原子含有(ポリ)アルキレングリコール系化合物を製造することが好ましい。
【0178】
なお、上記化合物Cは、公知の方法で合成することができる。
上記化合物Cは、(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)に、不飽和基を有する化合物を付加させる方法によって合成してもよい。付加の形態としてはエステル化、エーテル化、アミド化など、公知の方法を用いることができる。付加させる不飽和化合物は、アルキレンオキシドに付加できるものであれば良い。
【0179】
上記化合物Cに次亜リン酸(塩)を付加反応させる工程においては、化合物Cが含有する不飽和結合1モルに対して、次亜リン酸(塩)を0.01〜100モルの割合で添加して反応させることが好ましい。上記化合物Cの反応率を高める観点からは、1モルの化合物Cに対して次亜リン酸(塩)を好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.2モル以上、さらにより好ましくは0.5モル以上である。未反応の次亜リン酸(塩)を低減する観点からは、1モルの化合物Cに対して次亜リン酸(塩)を好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下、さらにより好ましくは2モル以下である。
【0180】
上記化合物Cに次亜リン酸(塩)を付加反応させる工程は、0〜200℃の温度で行うことが好ましい。より好ましくは20〜150℃、さらに好ましくは40〜120℃、さらにより好ましくは50〜100℃の温度で行うことである。
【0181】
上記化合物Cに次亜リン酸(塩)を付加反応させる工程の後、得られたリン原子含有(ポリ)アルキレングリコール系化合物を精製することが好ましい。精製工程は、反応後の溶液を乾燥して溶媒を除去した後、精製溶媒に懸濁してろ過を行うこと、及び、抽出のいずれか又は両方により行うことができる。
精製溶媒は適宜選べばよいが、例えばTHF、アセトニトリル、クロロホルム、イソプロピルアルコール等が好ましい。
抽出溶媒は適宜選べばよいが、高極性溶媒として水、メタノール、アセトニトリル、ジオキサンなどを用いて行うことが好ましい。低極性溶媒としてジエチルエーテル、シクロヘキサン、クロロホルム、メチレンクロライドなどを用いて行うことが好ましい。
【0182】
上記化合物Cと次亜リン酸(塩)とを付加反応させる工程は、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶媒に溶解した溶液状態で行うことができる。その際に使用される溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素;酢酸エチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル化合物等が挙げられる。中でも、水を溶媒として用いることが好ましい。
【0183】
上記化合物Cと次亜リン酸(塩)とを付加反応させる工程を、溶媒に水を用いて行う場合には、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが、反応後に不溶成分を除去する必要がないので好適である。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t−ブチルヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス−2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−カルバモイルアゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ系開始剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、過硫酸系開始剤が好適である。
【0184】
上記リン原子含有(ポリ)アルキレングリコール系化合物は、連鎖移動剤としての機能を有するものであり、この化合物を連鎖移動剤として用いて不飽和アニオン系単量体をラジカル重合することで、上記第3の好適な形態の(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体を簡便かつ効率的に、低コストで製造できる。
不飽和アニオン系単量体をラジカル重合させる工程は、PAGチオール化合物を連鎖移動剤として使用するブロック重合工程と同様にして行うことが出来るため、その詳細な説明は省略する。
【0185】
[(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)、(4)の製造方法]
上記第3の好適な形態に係る(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(3)、(4)の製造方法は、多分岐(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖を得る工程(第1の工程)と多分岐(ポリ)アルキレングリコール系重合体における上記枝状部の末端部位の一部又は全部に、不飽和アニオン系単量体を含むビニル系単量体成分を重合する工程(第2の工程)とを含み、この順にこれらの工程を行うことで製造することができる。
上記第1の工程は、活性水素を3個以上有する化合物に(ポリ)アルキレングリコール系構成単位による高分子鎖(B)を付加することによって行うことができる。
第2の工程は、上述した本発明に係る(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体(1)、(2)の製造方法と同様の方法で行うことができる。
【0186】
<第4の好適な形態>
本発明における収縮低減剤が含む化合物が、直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示す有機残基が結合したポリアルキレングリコール化合物であって、上記有機残基は、カルボニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、リン酸基、亜リン酸基及びシラン基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有する化合物であることは、本発明における収縮低減剤が含む化合物の第4の好適な形態である。
【0187】
上記第4の好適な形態に係る直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に有機残基が結合した化合物(以下、有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物ともいう。)は、ポリアルキレングリコール鎖と、ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端の有機残基との少なくとも3つの構造部位を有するものであれば、その他の構造部位を含んでいてもよい。また、これらの構造部位を2つ以上含む場合、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0188】
上記ポリアルキレングリコール鎖の末端に結合した有機残基とは、ポリアルキレングリコール鎖の末端に直接結合した有機残基を意味する。ここで、「ポリアルキレングリコール鎖の末端」には、後述するような、末端が未変性のポリアルキレングリコール鎖の末端(末端が水酸基である形態)と、ポリアルキレングリコール鎖の末端を変性させたものとが含まれる。ポリアルキレングリコール鎖の末端に有機残基が結合した構造は、ポリアルキレングリコール鎖の末端の水酸基又はポリアルキレングリコール鎖の末端に反応性の官能基を導入し、変性させた末端と、後述する有機残基を与える化合物とを反応させて形成することができる。上記反応性の官能基としては特に制限されないが、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。好ましくはエポキシ基である。
【0189】
上記ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に有機残基が結合しているとは、ポリアルキレングリコール鎖が直鎖状である場合には、ポリアルキレングリコール鎖の両末端に有機残基が結合していることを意味し、ポリアルキレングリコール鎖に分岐がある場合には、主鎖末端、分岐鎖末端のうちの少なくとも2つの末端に有機残基が結合していることを意味する。
【0190】
上記有機残基は、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示すことを特徴としている。これにより、本発明の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物は、セメント組成物に含まれる金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに吸着することができる。
上記ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端の有機残基が同一の金属化合物粒子に吸着する形態についても同様である。
上記セメント組成物に含まれるセメント粒子は、アルミン酸三カルシウム(CA:3CaO・Al)、鉄アルミン酸四カルシウム(CAF:4CaO・Al・Fe)、ケイ酸二カルシウム(CS:2CaO・SiO)及びケイ酸三カルシウム(CS:3CaO・SiO)等の金属化合物がモザイク状に集合したものであることが知られている。したがって、上記ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端の有機残基が、このような1つのセメント粒子に吸着する場合には、セメント粒子のモザイクを構成する金属化合物のうちの少なくとも2つに吸着することになる。
【0191】
上記有機残基は、カルボニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、リン酸基、亜リン酸基及びシラン基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有し、かつ、ビニル系単量体由来の炭素−炭素結合を有しない基である。
上記官能基は、孤立電子対を有する電子供与性基を有し、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つと配位結合を形成することにより金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着することができる。
【0192】
上記有機残基は、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示す複数の官能基を有することが好ましい。上記官能基は、電子供与性基であることがより好ましい。
一つの有機残基に複数の電子供与性基を有する場合、有機残基は、複数の配位座によって、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つと配位結合することができる。すなわち、上記有機残基は、キレート効果により、より強く金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つと結合することができるため、セメント添加剤のセメント分散性能低下抑制効果及び乾燥収縮低減性能により優れたものとなる。
【0193】
上記有機残基1つ当たりの官能基の数は、1〜12であることが好ましい。より好ましくは、2〜12である。有機残基が有する官能基の数が好ましくは1〜12、より好ましくは2〜12であれば、有機残基と金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つとがより強く結合することができる。更に好ましくは、3〜12である。
【0194】
上記有機残基は、分子量が700以下の基である。有機残基の分子量が700以下であればセメント添加剤の使用量が少量であっても、セメント分散性能の低下抑制、乾燥収縮低減性能等の本願の効果を効率的に発揮させることができる。有機残基の分子量は、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは200以下の範囲である。また、有機残基の分子量は、好ましくは、40以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上、特に好ましくは100以上である。
【0195】
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物が有する有機残基は、上記官能基の中でも、カルボニル基、水酸基、アミノ基、リン酸基又はシラン基のいずれかを有することが好ましい。より好ましくは、カルボニル基、水酸基、アミノ基又はリン酸基のいずれかを有することである。
【0196】
上記カルボニル基を有する有機残基は、カルボニル基を有する限り特に制限されず、カルボキシル基、アルデヒド基、エステル基、アミド基等のカルボニル基を構造中に含む官能基を有する有機残基も含まれる。カルボニル基を有する官能基として好ましくは、カルボキシル基又はアミド基である。
【0197】
上記有機残基は、カルボニル基、水酸基、アミノ基、チオール基、リン酸基、亜リン酸基及びシラン基からなる群より選択される少なくとも2つの官能基を有することが好ましい。このような有機残基は、キレート効果により、より強く金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つと結合することができるため、セメント添加剤のセメント分散性能低下抑制効果及び乾燥収縮低減性能により優れたものとなる。
【0198】
上記有機残基は、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示す限り制限されないが、有機残基は、カテコール構造を有することが好ましい。また、有機残基は、ピロリドン構造を有することも好ましい。さらに、有機残基は、グルコン酸構造を有することも好ましい。
【0199】
上記有機残基が、金属、金属化合物及び金属イオンの少なくとも1つに対して吸着能を示すことは、以下の方法により確認することができる。
有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物と、金属、金属化合物又は金属イオンとを溶液中で分散させた後、ろ過を行うことにより、金属等と吸着した有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物は、ろ別される。したがって、ろ液中の全有機炭素量の定量分析などを行い、ろ液に含まれる金属等と吸着していない有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物を定量することにより、全有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物に対する金属等と吸着した有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物の割合を求めることができ、上記吸着能を確認することができる。
【0200】
上記第4の好適な形態の直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に有機残基が結合した化合物は、直鎖状又は分岐状ポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端に、以下に詳述する有機残基を与える化合物を結合させることにより得られる。
【0201】
上記有機残基とは、有機残基を与える化合物をポリアルキレングリコール鎖の末端に結合させることにより形成される残基であり、上記有機残基を与える化合物は、ビニル系単量体でない限り特に制限されないが、具体的には以下の化合物が挙げられる。
エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリアミノトリエチルアミン、トリエチレンテトラミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン等のアミン類;エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、テトラエチレンペンタミンヘプタ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、ニトリロトリプロピオン酸、エチレンジアミン−N−モノ酢酸、エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸、エチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン−N,N’,N’−トリ酢酸、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)−エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラプロピオン酸、o,o’−ビス(2−アミノフェニル)エチレングリコール−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、o,o−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、trans−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N’’,N’’−ペンタ酢酸、1,6−ヘキサメチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、1,2−ジアミノプロパン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−ヘキサ酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノコハク酸等のアミノカルボン酸類;トリエタノールアミン等のヒドロキシアミン類;
【0202】
酒石酸、クエン酸、2,5−ジヒドロキシ−テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、5−ヒドロキシ−シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、6−ヒドロキシ−テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、1,4−ジヒドロキシ−ブタン−1,1’,4,4’−テトラカルボン酸、1,3−ジヒドロキシ−プロパン−1,1’,3,3’−テトラカルボン酸、2−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン−1,1’,3,3’−テトラカルボン酸等のヒドロキシカルボン酸類;ビシン等のヒドロキシアミノカルボン酸類;シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸等のポリカルボン酸類;グルコン酸、グルコサミン酸、グルコへプトン酸ラクトン、グルコン酸ラクトン等のポリオール類;タイロン、サリチル酸、スルホサリチル酸、ピロガロールカルボン酸、アリザリンS、アリザリンコンプレクソン、こうじ酸、3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−L−アラニン、3−ヒドロキシチラミン、DL−アドレナリン等のフェノール類;ヒスチジン等のイミダゾール類;N−ヒドロキシエチルピロリドン等のピロリドン類;エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラキス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)等のアミノリン酸類;ホスフェート類;ホスファイト類;ホスホネート類;ホスフィネート類;2,3−ジメルカプトプロパノール、ユニチオール、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸、ジメルカプトこはく酸、アミノエチルメルカプタン、チオシュウ酸、システアミン等のチオール類;ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、チオ尿素、チオカルバジド、チオセミカルバジド等のイオウ類;モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、アシルオキシシラン、トリアシルオキシシラン等のシラン類;o−フェナントロリン;アセチルアセトン;エリオクローム・ブラックT、1−(2−ヒドロキシ−4−スルホ−1−ナフチルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、ヒドロキシナフトールブルー、カルコン、エリオクローム・ブルー・ブラックB、エリオクローム・ブルーSE、エリオクローム・レッドB等のo,o’−ジヒドロキシアゾ類;1−ピリジルアゾ−2−ナフトール、4−(2−ピリジルアゾ)−レゾルシン、2−(2−ピリジルアゾ)−p−クレゾール、1−(2−チアゾリルアゾ)−2−ナフトール、4−(2−チアゾリルアゾ)−レゾルシン、2−(2−チアゾリルアゾ)−p−クレゾール、トリン、ネオトリン、3−(4−スルホフェニルアゾ)−4,5−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸ナトリウム塩、ナフチルアゾキシン等のヒドロキシアゾ類;
【0203】
クレゾールフタレインコンプレクソン、チモールフタレインコンプレクソン、キシレノールオレンジ、メチルチモールブルー、ピロカテコールバイオレット、ピロガロールレッド、ブロムピロガロールレッド、クロマズロールS、エリオクロームシアニンR、グリシンチモールブルー、グリシンクレゾールレッド等のフタレイン、スルホフタレインおよびトリフェニルメタン類;ムレキシド;ジンコン;チオ尿素;ジチゾン;グリオキサル・ビス(2−ヒドロキシアニル);N−ベンゾイル−N−フェニルヒドロキシルアミン;ガロシアニン;ヘマトキシリン;フェロン;カルセイン、カルセインブルー、フルオキシン、アニシジンブルー、スチルベンフルオブルーS、モリン等の蛍光金属指示薬;バリアミンブルーB塩基、ビンドシェドラースグリーン・ロイコ塩基、3,3’−ジメチルナフチジン、カコテリン、ジフェニルカルバジド、ジフェニルカルバゾン等の酸化還元指示薬等。
ポリアルキレングリコールの末端に上記有機残基を導入するにあたっては、上記化合物を1種又は2種以上を用いることができる。また、これらの上記化合物の誘導体の中で、ポリアルキレングリコールや後述する変性ポリアルキレングリコール、片末端に有機残基が結合したポリアルキレングリコールと反応しうる官能基を有する化合物などを用いることもできる。
【0204】
上記有機残基は、アミノカルボン酸類、フェノール類、ポリオール類、ピロリドン類又はポリカルボン酸類由来の構造を有すること、すなわち、アミノカルボン酸類、フェノール類、ポリオール類、ピロリドン類又はポリカルボン酸類をポリアルキレングリコール鎖の末端に結合させることにより形成される残基を有することが好ましい。より好ましくは、アミノカルボン酸類又はフェノール類由来の構造を有することである。
アミノカルボン酸類又はフェノール類由来の残基の中でも、アスパラギン酸、3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−L−アラニン、3−ヒドロキシチラミン又はDL−アドレナリンをポリアルキレングリコール鎖末端に結合させて形成する残基がさらに好ましく、特に好ましくは、アスパラギン酸又は3−ヒドロキシチラミンをポリアルキレングリコール鎖末端に結合させて形成する残基である。
【0205】
上記ポリアルキレングリコール鎖の末端に有機残基を与える化合物を結合させる方法は、特に制限されず、通常用いられる方法をとることができる。例えば、上記有機残基を与える化合物がカルボキシル基を有する場合(例えば、アミノカルボン酸類、ヒドロキシカルボン酸類、ポリカルボン酸類)は、ポリアルキレングリコール末端の水酸基とのエステル化反応により有機残基を導入することができる。
また、ポリアルキレングリコールの末端にアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等の反応性の官能基を導入した変性ポリアルキレングリコールと、有機残基を与える化合物又はその誘導体のカルボキシル基、水酸基、アミノ基等とをアミド結合、エステル結合、共有結合等させることにより、有機残基を導入することができる。これらについては、例えばポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ基とアスパラギン酸、3−ヒドロキシチラミン等のアミノ基とを反応させてこれらを結合させることが挙げられる。また、有機残基を与える化合物の水酸基、アミノ基等にアルキレンオキシドを付加して得られた片末端に有機残基が結合したポリアルキレングリコールの他の一の末端の水酸基に、必要に応じてアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等を導入し、さらにこれらの官能基に、新たに上記有機残基を与える化合物を反応させることにより、両末端に有機残基が結合したポリアルキレングリコールを得ることもできる。
【0206】
上記ポリアルキレングリコール末端にホスホネート基を有する化合物を反応させてホスホネート基を導入することも有用である。この場合、ポリアルキレングリコールの2つの末端にホスホネート基を導入することが好ましく、このような化合物は、下記式(30)で表されることを特徴とする。この化合物は、例えば、α,ω−ジアミノポリアルキレングリコール、ホルムアルデヒド、亜リン酸のマンニッヒ反応により得られる。
2324NCHCH(OA)n6CHCH2526 (30)
(式中、Aは、同一又は異なって、炭素数2〜18のアルキレン基を表す。R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立に−CH−PO(OMq2又は−R27を表す。R23、R24の少なくとも一方は、−CH−PO(OMq2であり、R25、R26の少なくとも一方は、−CH−PO(OMである。R27は、水素原子又は不飽和若しくは飽和炭化水素残基を表す。Mは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミン及び/又は有機アミン残基を表す。q2は、Mが水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミン及び/又は有機アミン残基のいずれかの場合は1であり、Mがアルカリ土類金属の場合は1/2である。)
【0207】
上記式(30)におけるAは、好ましくは、エチレン基及び/又はプロピレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
上記式(30)におけるR27は、好ましくは、炭素数1〜15のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0208】
上記ポリアルキレングリコール末端にシラン基を有する化合物を反応させてシラン基を導入する場合、シラン基を有する化合物の中では、炭素数1〜10のアルコキシシランが好ましく、トリアルコキシシランがより好ましい。中でも、−Si(OMe)及び/又は−Si(OCHCHを有する化合物が特に好ましい。このような化合物の合成例としては、例えば、3−(トリアルコキシシリル)プロピルイソシアネートと、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコールジアミンとの反応を挙げることができる。イソシアネート基とアミン又はヒドロキシ基との反応では、それぞれ尿素又はウレタン結合が形成される。
【0209】
上記ポリアルキレングリコール鎖が分岐している場合には、2つの主鎖末端と分岐鎖末端とを有するので、末端が3つ以上存在することになる。したがって、これらの末端のうち少なくとも2つの末端に、上記有機残基を与える化合物を反応させて有機残基を導入することにより、少なくとも2つの末端が有機残基に変性されればよい。本発明の分岐状ポリアルキレングリコール鎖の有機残基による変性率は、分岐状ポリアルキレングリコール鎖の有する全末端の数100%に対して、20%以上が好ましく、より好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは100%である。本発明の分岐状ポリアルキレングリコール鎖の有機残基による変性率が20%以上であれば、より少ないセメント添加剤の添加量でセメントを分散させることができ、より乾燥収縮低減性能も発揮することができる。
【0210】
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物において、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールと有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物との質量割合は、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコール/有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物=99〜1/1〜99が好ましい。より好ましくは98〜10/2〜90であり、更に好ましくは97〜20/3〜80であり、特に好ましくは97〜30/3〜70である。
【0211】
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物において、該化合物の原料である単量体成分とは、有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物のポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールと有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物のことであり、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールのモル数と、有機残基を形成するために用いられる有機残基を与える化合物のモル数との比は、99〜1/1〜99であることが好ましい。より好ましくは、75〜3/25〜97であることが好ましい。更に好ましくは、50〜3/50〜97であり、更により好ましくは、40〜3/60〜97であり、特に好ましくは35〜3/65〜97であり、最も好ましくは35〜5/65〜95である。
【0212】
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物が有するポリアルキレングリコール鎖の構造は、直鎖状でも分岐していてもよい。また、2種以上のポリアルキレンオキシドを有するものであってもよい。
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物が有するポリアルキレングリコール鎖は、炭素数2〜18のオキシアルキレン基から構成される高分子鎖(ポリアルキレンオキシド)であることが好ましい。オキシアルキレン基の炭素数は、より好ましくは、2〜8の範囲であり、更に好ましくは、2〜4の範囲である。
【0213】
上記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0214】
上記ポリアルキレングリコール鎖は、親水性と疎水性のバランスの観点からは、オキシアルキレン基中にオキシエチレン基を必須成分として含むことが好ましい。全アルキレンオキシド100モル%中のオキシエチレン基は、より好ましくは、60モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
【0215】
上記オキシアルキレン基の平均付加モル数は、1〜1000の範囲であることが好ましい。上記平均付加モル数の下限値としては、より好ましくは25であり、更に好ましくは40であり、特に好ましくは50である。上限値としては、より好ましくは800であり、更に好ましくは700であり、更により好ましくは600であり、特に好ましくは500であり、特により好ましくは300であり、最も好ましくは250である。
【0216】
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物において、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールの重量平均分子量(Mw)としては特に限定されないが、例えば、1000〜1000000であることが好ましい。より好ましくは、2000〜50000であり、更に好ましくは、2000〜40000であり、特に好ましくは、3000〜35000である。
また、分散度としては特に限定されないが、例えば、1〜100であることが好ましい。より好ましくは、1.1〜10であり、更に好ましくは、1.1〜3である。尚、本明細書中において、分散度とは、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値(Mw/Mn)を意味する。
上記第4の好適な形態の有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物において、ポリアルキレングリコール鎖を形成するポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、GPCにより、後述する実施例に記載の条件で測定することができる。
【0217】
上記ポリアルキレングリコール鎖が分岐している場合には、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリグリセリン、ポリグリシドール等の多価アルコールにアルキレンオキシドを逐次付加反応させる方法で分岐状ポリアルキレングリコールを合成することができる。
【0218】
上記ポリアルキレングリコール鎖が2種以上のアルキレンオキシドにより構成される場合は、2種以上のアルキレンオキシドがランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの形態で付加したものであってもよい。
【0219】
上記有機残基含有ポリアルキレングリコール化合物のポリアルキレングリコール鎖の少なくとも2つの末端の有機残基が吸着する金属は、特に制限されないが、例えば、典型元素及び周期律表の8族、9族、10族、11族の遷移元素に分類される金属が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表の8族、10族、11族、12族、13族、14族の金属元素等が挙げられ、より好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム及び鉄等の卑金属である。
【0220】
上記有機残基が吸着する金属イオンは、特に制限されないが、例えば、典型元素及び周期律表の8族、9族、10族、11族の遷移元素に分類される金属のイオンが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表の8族、10族、11族、12族、13族、14族の金属元素のイオン等が挙げられ、より好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、アルミニウム及び鉄等の卑金属のイオンである。
【0221】
<第5の好適な形態>
本発明における収縮低減剤が含む化合物が、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物であることは、本発明における収縮低減剤が含む化合物の第5の好適な形態である。
【0222】
上記第5の好適な形態のポリアミン化合物は、分子内に第1級及び/又は第2級アミノ基を有するポリアミン化合物の活性アミン水素が酸基含有側鎖に置換された構造の化合物である。以下においては、活性アミン水素が酸基含有側鎖に置換される前のポリアミン化合物を未置換ポリアミン化合物ともいう。
【0223】
上記未置換ポリアミン化合物としては、その分子内に第1級及び/又は第2級アミノ基を有するものであれば特に制限されず、このような基を有するアミン類またはその誘導体がある。また、未置換ポリアミン化合物としては、1種の化合物を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、未置換ポリアミン化合物は、構造中に下記アミン類またはその誘導体のうちの2種以上の構造を有するものであってもよい。
上記アミン類としては、例えば、エチレンイミンの重合によって得られるポリエチレンイミンなど、アルキレンイミン(例えば、エチレンイミン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン等)の重合または共重合によって得られるポリアルキレンイミン;上記したようなポリアルキレンイミン及び/又はエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどの(ポリ)アルキレンポリアミンと、硫酸、リン酸、アジピン酸などの多塩基酸との縮合によって得られるポリアミドポリアミン;ポリアルキレンイミン及び/又はアルキレンイミンと、尿素との反応によって得られるポリウレアポリアミン;アルキレンイミンと無水フタル酸などの酸無水物との共重合によって得られるポリアミドポリエステルポリアミン;およびアリルアミン、ジアリルアミン及び/又はその塩酸塩の重合によって得られるポリアリルアミン、ジアリルアミン及び/又はその塩酸塩と二酸化硫黄との共重合によって得られるポリジアリルアミン−二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン及び/又はその塩酸塩とマレイン酸との共重合によって得られるジアリルアミン−マレイン酸共重合体などが挙げられる。
上記ポリアミン誘導体としては、上記ポリアミンに、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、及びアクリルアミドなどのα,β−不飽和アミド化合物等を付加反応させた化合物などが挙げられる。
上記未置換ポリアミン化合物としては、エポミン(ポリエチレンイミン) SP−003、SP−006、SP−012、SP−018、SP−200、SP−110、P−1000(株式会社日本触媒)、ポリアリルアミン PAA−03、PAA−05、PAA−08、PAA−15、PAA−15B、PAA−10C、PAA−25(日東紡株式会社)、ジアリルアミン・マレイン酸共重合体 PAS−410、PAS−410SA(日東紡株式会社)などの市販品を用いることもできる。
これらのうち、ポリアルキレンイミン、ポリアミドポリアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、エチレンジアミンとアジピン酸との縮合物、トリエチレンテトラミンとアジピン酸との縮合物、ジアリルアミン−マレイン酸共重合体が好ましく、ポリアルキレンイミン、ポリアミドポリアミン、ポリアリルアミンが特に好ましい。
【0224】
上記未置換ポリアミン化合物の数平均分子量は、特に制限されないが、1000〜50000であることが好ましい。この際、分子量が1000未満であると、ポリアミン化合物のアルカリ溶液中での平均粒子直径が2.2nmより小さくなりやすいため、充分な乾燥収縮低減性が得られないおそれがある。逆に、数平均分子量が50000を超えると、未置換ポリアミン化合物が大きくなりすぎて、充分な乾燥収縮低減性が得られないおそれがある。未置換ポリアミン化合物の数平均分子量は、より好ましくは、2000〜40000であり、更に好ましくは、2000〜35000であり、最も好ましくは、2000〜30000である。
未置換ポリアミン化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、実施例に記載の測定条件で測定することができる。
【0225】
上記酸基含有側鎖としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基又はこれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を有する側鎖が挙げられる。
酸基含有側鎖は、アミノ基と反応する原子団にカルボキシル基、スルホン酸基又はこれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が1つ又は複数結合した構造の酸基含有化合物をポリアミン化合物に反応させることで製造することができる。
アミノ基と反応する原子団(基)としては、例えば、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜20の不飽和炭化水素基;炭素数1〜20の飽和炭化水素基にグリシジルエーテル基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子のいずれかが結合した基などが挙げられる。
【0226】
上記酸基含有化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0227】
上記酸基含有化合物の使用量は、未置換ポリアミン化合物の活性アミン水素1個あたり、0.01〜1モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜0.8モルであり、更に好ましくは、0.01〜0.6モルであり、特に好ましくは、0.05〜0.6モルであり、最も好ましくは、0.1〜0.5モルである。
【0228】
上記第5の好適な形態の酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物において、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物を形成するために用いられる未置換ポリアミン化合物と、酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物の質量割合は、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物を形成するために用いられる未置換ポリアミン化合物/酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物=99.9〜50/0.1〜50であることが好ましい。酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物の質量割合が0.1重量%未満であると酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物が水硬性材料に作用しにくくなって収縮低減性能が充分でなくなるおそれがあり、50重量%を超えると、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物により水硬性材料の硬化遅延性が増大するおそれがある。より好ましくは99.8〜55/0.2〜45であり、更に好ましくは99.7〜60/0.3〜40であり、特に好ましくは99.7〜65/0.3〜35である。
【0229】
上記第5の好適な形態の酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物において、該化合物の原料である単量体成分とは、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物を形成するために用いられる未置換ポリアミン化合物と、酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物のことであり、酸基含有側鎖を有するポリアミン化合物を形成するために用いられる未置換ポリアミン化合物のモル数と、酸基含有側鎖を形成するために用いられる酸基含有化合物のモル数との比は、99〜1/1〜99であることが好ましい。より好ましくは、75〜3/25〜97であり、更に好ましくは、50〜3/50〜97であり、特に好ましくは、30〜4/70〜96である。あり、最も好ましくは、25〜5/75〜95である。
【0230】
上記第5の好適な形態のポリアミン化合物は、酸基含有側鎖以外のその他の側鎖を有していてもよい。その他の側鎖としては、炭化水素基含有側鎖、オキシアルキレン基含有側鎖等が挙げられる。
炭化水素基含有側鎖は、アミノ基と反応する原子団に炭化水素基が結合した構造の化合物をポリアミン化合物に反応させることで形成することができる。
炭化水素基としては、炭素数1〜30の炭化水素基が好ましく、直鎖状、分岐状、環状のいずれの構造のものであってもよい。より好ましくは、4〜30の炭化水素基である。また、炭化水素基としては、直鎖状、分岐状、環状のアルキル基又はアリール基が好ましい。
アミノ基と反応する原子団(基)としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物由来の基;(メタ)アクリル酸由来の基;グリシジルエーテル基;エポキシ基;イソシアネート基;チオイソシアネート基;アルデヒド基;ヒドロキシ基;ハロゲン原子等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリル酸由来の基に炭化水素基が結合した構造の化合物とは、(メタ)アクリル酸エステルである。
【0231】
上記アミノ基と反応する原子団に炭化水素基が結合した構造の化合物の具体例としては、オクチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルなどの高級アルコールのグリシジルエーテル類;オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルフェニルグリシジルエーテル、ステアリルフェニルグリシジルエーテルなどのアルキルフェノールのグリシジルエーテル類;オクチルシクロペンチルグリシジルエーテル、オクチルシクロヘキシルグリシジルエーテル、ノニルシクロペンチルグリシジルエーテル、ノニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルシクロペンチルグリシジルエーテル、ラウリルシクロヘキシルグリシジルエーテル、ステアリルシクロペンチルグリシジルエーテル、ステアリルシクロヘキシルグリシジルエーテルなどのアルキルシクロアルカノールのグリシジルエーテル類;オクチルベンジルグリシジルエーテル、ノニルベンジルグリシジルエーテル、ラウリルベンジルグリシジルエーテル、ステアリルベンジルグリシジルエーテルなどのアルキルベンジルアルコールのグリシジルエーテル類;エポキシヘキサン、炭素数12〜14の混合物であるα−オレフィンエポキシド、炭素数16〜18の混合物であるα−オレフィンエポキシド、炭素数20〜28の混合物であるα−オレフィンエポキシド、炭素数30以上の混合物であるα−オレフィンエポキシドなどの1,2−エポキシアルカン類;オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネートなどのアルキルイソシアネート類;オクタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルコール類とトリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート類との反応により得られるモノイソシアネート化合物類;オクタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルコール類の末端水酸基を塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子置換したハロゲン化物類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸類;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などの不飽和脂肪酸類;(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよいが、2種以上の化合物を使用する場合には、少なくとも1種がエポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルデヒド基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アシル基からなる群より選ばれる官能基を有する化合物であることが好ましい。
【0232】
上記アミノ基と反応する原子団に炭化水素基が結合した構造の化合物の使用量は、未置換ポリアミン化合物の活性アミン水素1個あたり、0.01〜0.90モルの割合であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜0.90モルであり、更に好ましくは、0.10〜0.85モルであり、特に好ましくは、0.17〜0.80モルであり、最も好ましくは、0.23〜0.80モルである。
【0233】
上記オキシアルキレン基含有側鎖は、ポリアミン化合物に(ポリ)アルキレンオキシドや(ポリ)アルキレンオキシドの一方の末端にアルコキシ基を有する化合物を付加させること、又は、(ポリ)アルキレンオキシドにアミノ基と反応する原子団が結合した化合物を反応させることで形成することができる。アミノ基と反応する原子団としては、上述したものと同様の原子団が挙げられる。
アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等の炭素数2〜8のアルキレンオキシドが挙げられる。この中でも、炭素数2〜4のアルキレンオキシドが好ましい。
アルキレンオキシドは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0234】
上記(ポリ)アルキレンオキシドにアミノ基と反応する原子団が結合した化合物としては、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコールマレエート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールマレエート等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0235】
上記ポリアミン化合物がオキシアルキレン基含有側鎖を有する場合、オキシアルキレン基含有側鎖1つ当たりのオキシアルキレン基の平均付加モル数は1〜500であることが好ましい。より好ましくは、1〜300であり、更に好ましくは、1〜100である。
【0236】
上記ポリアミン化合物がオキシアルキレン基含有側鎖を有する場合、ポリアミン化合物の窒素原子のうち、10〜100%にオキシアルキレン基含有側鎖が結合していることが好ましい。より好ましくは、30〜100%であり、更に好ましくは、50〜100%である。
【0237】
上記未置換ポリアミン化合物に側鎖を導入するための化合物を反応させる際の反応条件は、反応が進行する限り特に制限されないが、反応温度は、50〜150℃であることが好ましい。また反応時間は、1〜100時間が好ましい。
【0238】
上記未置換ポリアミン化合物と側鎖を導入するための化合物との反応に用いる溶媒は、反応が進行する限り特に制限されないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール系;n−ブタン、プロパン、ベンゼン、シクロヘキサン、ナフタレン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸エチル、乳酸エチル等のエステル系;(ポリ)エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールとその誘導体系などが挙げられ、水、アルコール系、炭化水素系、及びエステル系が好ましく、特に水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサン、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチルが好ましい。
【0239】
上記未置換ポリアミン化合物と側鎖を導入するための化合物との反応は、反応を促進するために、触媒を使用してもよく、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタン系触媒;塩化第一スズ、オクチル酸スズ、モノブチルスズオキサイド等のスズ系触媒;p−トルエンスルホン酸等の酸類等を用いることができる。
その他の反応条件は、特許第4436921号や特開2008−230865号公報を参照することができる。
【0240】
<その他の好適な形態>
上記(I)〜(V)以外の化合物であっても上記(1)、(2)の条件を満たすものであれば、本発明における収縮低減剤として使用することができる。例えば、ビニル芳香族類、ジエン類又はα−オレフィン類と不飽和ジカルボン酸との共重合体にエステル化又はアミド化などによりポリオキシアルキレン鎖を導入した化合物が挙げられる。具体的には、スチレン/無水マレイン酸共重体;イソブチレン/無水マレイン酸共重合体又はオクタデセン/無水マレイン酸共重合体の無水マレイン酸にポリオキシアルキレン鎖を有するアミン(ジェファーミン;ハンツマン社製)を導入した化合物;特許第4717713号に記載のリン酸エステル系単量体を主な構成単位とするリン酸エステル重合体;などが挙げられる。
【0241】
本発明の水硬性材料組成物が含む空気連行剤としては、空気連行剤として機能するものである限り特に制限されないが、例えば、樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸またはその塩、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)、アルキルナフタレンスルホン酸またはその塩、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステルまたはその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエートなどが挙げられる。
これらのうち、樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸またはその塩、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンソルビタンオレエートが好ましく、樹脂石鹸、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸塩)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンソルビタンオレエートが特に好ましい。
【0242】
本発明の水硬性材料組成物が含む水硬性材料としては、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ビーライト高含有セメント、各種混合セメント;珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム等のセメントの構成成分;潜在水硬性を有するフライアッシュ等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通ポルトランドセメントが通常よく使用され、好適に適用することができる。
【0243】
本発明の水硬性材料組成物における水硬性材料の配合割合は、水硬性材料組成物全体100重量%に対して、固形分換算で0.001〜10重量%であることが好ましい。より好ましく、0.01〜10重量%であり、更に好ましくは、0.01〜3重量%である。
【0244】
本発明の水硬性材料組成物が水を含む場合、水の配合割合としては特に限定されず、例えば、水硬性材料に対して、10〜80重量%であることが好ましい。10重量%未満であると、各種成分の混合が不充分となって成形できなかったり、強度が低下したりするおそれがあり、80重量%を超えると、水硬性材料組成物の硬化物の強度が低下するおそれがある。より好ましくは、15〜75重量%であり、更に好ましくは、20〜70重量%であり、最も好ましくは、25〜65重量%である。
【0245】
本発明の水硬性材料組成物がセメントを含むセメント組成物であって、該セメント組成物をモルタルやコンクリートとして用いる場合、セメント組成物に配合される砂や石としては、従来公知のセメント組成物に用いられるものを使用でき、特に限定されず、例えば、自然作用によって岩石からできた川砂、海砂、山砂等の天然の細骨材;これらの岩石やスラブを粉砕した人工の細骨材;軽量細骨材等が挙げられる。砂の配合量については、従来公知のセメント組成物と同様とすればよく、特に限定されるものではない。また、石の配合量についても、従来公知のセメント組成物と同様とすればよく、特に限定されるものではないが、例えば、細骨材率として、20〜60容積%であることが好ましい。20容積%未満であると、がさがさしたコンクリートとなり、スランプの大きいコンクリートでは、粗骨材とモルタル分とが分離しやすくなるおそれがある。60容積%を超えると、単位セメント量及び単位水量を多く必要とし、また、流動性の悪いコンクリートとなるおそれがある。より好ましくは、30〜50容積%である。
【0246】
上記水硬性材料組成物には必要に応じてその他の材料が配合されていてもよい。その他の材料としては、従来公知のセメント組成物と同様のものを用いることができ、特に限定されず、例えば、減水剤、消泡剤、硬化促進剤、遅延剤、防錆剤、膨張材、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ粉末や、鋼繊維、ガラス繊維等の繊維質材料等が挙げられる。これらの材料の配合量としては、従来公知のセメント組成物と同様とすればよく、特に限定されるものではない。
【0247】
上記水硬性材料組成物が減水剤を含むものである場合、減水剤の含有量は、水硬性材料100重量部に対して固形分換算で0.001〜10重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜10重量部であり、更に好ましくは、0.01〜3重量部である。
【0248】
本発明の水硬性材料組成物が含む減水剤としては、減水剤として機能するものである限り特に制限されないが、例えば、リグニンスルホン酸の一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等のリグニンスルホン酸塩;ポリオール誘導体;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;3−メチル3−ブテン−1−オール等の不飽和アルコールにエチレンオキシド等を付加したアルケニルエーテル系単量体および不飽和カルボン酸系単量体を含む単量体から得られる共重合体またはその塩、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体および(メタ)アクリル酸系単量体を含む単量体から得られる共重合体またはその塩等のポリオキシアルキレン基とアニオン性基とを有する重合体等が挙げられる。これらの減水剤の中でも、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレン基とアニオン性基とを有する重合体が好ましい。
【0249】
上記水硬性材料組成物が消泡剤を含むものである場合、消泡剤の含有量は、水硬性材料100重量部に対して固形分換算で0.0001〜0.5重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.0005〜0.1重量部であり、更に好ましくは、0.001〜0.05重量部である。
【0250】
本発明の水硬性材料組成物が含む消泡剤としては、消泡剤として機能するものである限り特に制限されないが、例えば、以下の(1)〜(10)に例示する消泡剤の1種又は2種以上を用いることができる。
(1)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(2)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(3)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(4)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
(5)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテル、炭素原子数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール,3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;等。
(6)アルコール系消泡剤:オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等。
(7)アミド系消泡剤:アクリレートポリアミン等。
(8)リン酸エステル系消泡剤:リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
(9)金属石鹸系消泡剤:アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等。
(10)シリコーン系消泡剤:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等。
【0251】
本発明の水硬性材料組成物の製造方法は特に制限されず、水硬性材料、収縮低減剤、空気連行剤を含む組成物となればよいが、これらに更に水を加えたものを、特表2008−503432号公報や特表2008−512268号公報等に記載の通常用いられる各種手法で添加、混合する方法を用いることができる。通常用いられる方法としては、例えば、以下に挙げる方法等が挙げられ、これらの2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
(a)収縮低減剤及び空気連行剤を水で希釈して、水硬性材料に混合して水硬性材料組成物を製造する方法
(b)収縮低減剤及び空気連行剤を粉末状にした後、水硬性材料に混合し、得られた混合物に水を加えて水硬性材料組成物を製造する方法
(c)水硬性材料製造時に収縮低減剤及び空気連行剤を添加し、収縮低減剤及び空気連行剤が含まれる水硬性材料を製造した後、水を添加して水硬性材料組成物を製造する方法
(d)上記(c)の方法において、水硬性材料製造時の収縮低減剤及び空気連行剤の添加方法として、粉砕助剤または粉砕助剤と同時に収縮低減剤及び空気連行剤を添加する方法(水硬性材料がセメントの場合)
(e)水硬性材料製造後の運搬時に収縮低減剤及び空気連行剤を含む水溶液を噴霧して、添加する方法
【発明の効果】
【0252】
本発明の水硬性材料組成物は、上述の構成よりなり、収縮低減性能と凍結融解抵抗性の両方に優れた組成物であり、土木・建築構造物等を構築するセメント組成物として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0253】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0254】
重合体の分子量測定は、以下のようにして行った。また、重合体の表面張力は、上述した表面張力測定条件(2)により測定した。
<分子量測定(GPC分析法)>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsα+TSKgelα5000+α4000+α3000
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水15076g、アセトニトリル3800gの混合溶媒にホウ酸93.98gと水酸化ナトリウムを30.4g溶解したもの
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成
した。
流量:1mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL
試料濃度:溶離液で1%に調整した。
【0255】
(製造例1)重合体1の製造
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入管および還流冷却装置を備えたガラス製反応容器に水91.0部を仕込み、撹拌下に、反応装置内を窒素置換し、窒素雰囲気化で92℃まで加熱した。メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)123.8部、メタクリル酸8.9部、水30.9部、30%水酸化ナトリウム水溶液0.69部および連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸4.6部を混合したモノマー水溶液を4時間かけて、ならびに、1.5%過硫酸アンモニウム42.0部を7時間かけて反応容器に滴下し、1.5%過硫酸アンモニウム水溶液滴下後、さらに1時間引き続いて92℃に温度を維持し、重合反応を完結させ、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0まで中和して重量平均分子量5200および酸量48.0モル%の重合体水溶液(重合体1)を得た。
なお、ここで酸量とは、重合体の原料となる単量体成分全体100モル%のうちの酸基含有単量体のモル%を意味する。以下の重合体についても同様である。
重合体1の5質量%水溶液の表面張力は62.0mN/mであった。
【0256】
(製造例2)重合体2の製造
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、重量平均分子量20000のポリエチレングリコール200.0部を仕込んで、窒素気流下120±5℃まで加温して溶融した。次に、温度を120±5℃に保ちながら、アクリル酸6.9部と、パーブチルD(商品名、日本油脂社製、ジ−t−ブチルパーオキサイド)2.5gとを別々に1時間にわたって連続的に滴下し、その後120±5℃に保ちながら1時間攪拌を続け、加熱を終了、80℃まで冷却したところで水200.0部を加え、さらに、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.7まで中和して重量平均分子量21000および酸量90.6モル%の重合体水溶液(重合体2)を得た。
重合体2の5質量%水溶液の表面張力は59.7mN/mであった。
【0257】
(製造例3)重合体3の製造
(1.トシル化工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、メトキシポリエチレングリコール(エチレンオキシドの平均付加モル数75(PGM75))を120.50部、トシルクロライド(TsCl)を9.146部、トリエチルアミン(EtN)を6.057部仕込んだ。反応系内を撹拌しながら、24時間反応を行った後、ろ過により塩を取り除き、ろ液を減圧下で脱溶媒を実施し、PGM75の片末端トシル化体(PGM75−OTs)を得た。
(2.チオアセチル化工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、PGM75−OTsを119.93部、チオ酢酸カリウム(CHCOSK)を5.120部仕込んだ。反応系内を撹拌しながら、24時間反応を行った後、ろ過により塩を取り除き、減圧下で脱溶媒を実施しPGM75の片末端チオアセチル化体(PGM75−SAc)を得た。
(3.加水分解工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、PGM75−SAcを111.55部、メタノールを140.00部仕込み、PGM75−SAcを溶解させ、1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を25.00部投入し10分間撹拌した後、1Nの塩酸(HCl)を25.00部投入しさらに10分間撹拌し、ジクロロメタンを投入し抽出を行い、有機層を回収し、減圧下で脱溶媒を実施しPGMチオール化合物を得た。
(4.ブロック重合工程)
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入官及び還流冷却装置を備えたガラス製反応装置に、
イオン交換水15.0部を仕込み、攪拌下に反応装置を窒素置換し、窒素雰囲気下で80
℃に昇温した後、そこへメタクリル酸(MAA)6.40部とイオン交換水(PW)13.25部からなる水溶液(A)(酸水溶液)を4.0時間かけ滴下し、(A)を滴下し始めると同時にPAGジチオール化合物を45.00部とイオン交換水77.48部からなる水溶液(B)(PAGチオール水溶液)を4.0時間かけ滴下した。また、(A)を滴下し始めると同時にアゾ開始剤2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩[2,2’−azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride](和光純薬工業株式会社製 V−50)0.2830部とイオン交換水8.843部からなる水溶液(C)を5.0時間かけ滴下した。その後、1時間引続いて80℃に温度を維持した後、冷却して、重合を終了し、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.5まで中和して重量平均分子量3450および酸量83.3モル%の共重合体水溶液(重合体3)を得た。
重合体3の5質量%水溶液の表面張力は62.2mN/mであった。
【0258】
(製造例4)重合体4の製造
(1.両末端エポキシ化ポリ(n=227)エチレングリコールの製造)
温度計、滴下装置及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、脱水テトラヒドロフラン(THF)10.00部を仕込み、マグネティックスターラーで撹拌、さらに氷で冷却しながら水素化ナトリウム1.00部を溶解させた。溶解後、氷で冷却しながらポリ(n=227)エチレングリコールを110.00部、THF90.00部の混合液を0.5時間かけてゆっくりと滴下し、さらに5分程度撹拌した後、40℃に加温した。ここに、エピクロロヒドリン8.16部を内温40℃に維持しながら0.5時間かけて滴下し、さらに5時間撹拌した。その後、少量の脱イオン水を加えて未反応の水素化ナトリウムの処理を行い、さらにエバポレーターでTHFを溜去後、残渣物をジエチルエーテル200mlに滴下し、沈殿物を採取、乾燥させることにより(両末端エポキシ化ポリ(n=227)エチレングリコールを得た。
(2.重合体4の製造)
温度計、攪拌機および還流冷却管を備えたガラス製反応容器に、両末端エポキシ化ポリ(n=227)エチレングリコール105.00部を仕込み、内温70℃になるように加温し、撹拌した。ここに、L−アスパラギン酸2.87部、48%水酸化ナトリウム3.59部、水42.09部の混合液を、内温55℃に維持しながら、1.0時間かけてゆっくり滴下し、さらに2.5時間撹拌することにより重量平均分子量10500および酸量66.7モル%の重合体水溶液(重合体4)を得た。
重合体4の5質量%水溶液の表面張力は60.4mN/mであった。
【0259】
(製造例5)重合体5の製造
温度計、攪拌機、滴下漏斗、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、エポミンSP−200(数平均分子量10000のポリエチレンイミン;日本触媒社製) 102.5部を仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で60℃まで加温し、撹拌した。ここに、アクリル酸メチル6.43部を0.5時間で滴下した後、1時間引き続いて60℃に温度を維持し、アクリル酸メチルの付加反応を終了した。次に、30wt%に調整したNaOH水溶液10.21部と純水340.5部を投入した後、温度を70℃まで昇温し、1時間かけてアクリル酸メチルの加水分解を行った。加水分解終了後、温度を20℃以下まで下げ、酢酸39.90部を加え、pH=8.1に調整することにより重量平均分子量10300および酸量88.6モル%の重合体水溶液(重合体5)を得た。
重合体5の5質量%水溶液の表面張力は69.1mN/mであった。
【0260】
(比較製造例1)比較重合体1の製造
特開2007−76972号公報の製造例1と同様の方法で酸量81.0モル%の比較重合体水溶液(比較重合体1)を得た。
比較重合体1の5質量%水溶液の表面張力は58.0mN/mであった。
【0261】
(比較製造例2)比較重合体2の製造
特許第3179022号の参考例1と同様の方法で酸量73.2モル%の比較重合体水溶液(比較重合体2)を得た。
比較重合体2の5質量%水溶液の表面張力は63.1mN/mであった。
【0262】
(比較製造例3)比較重合体3の製造
特許第3683176号の実施例1−3と同様の方法で酸量82.1モル%の比較重合体水溶液(比較重合体3)を得た。
比較重合体3の5質量%水溶液の表面張力は60.5mN/mであった。
【0263】
(比較製造例4)比較重合体4の製造
特許第3683176号の実施例1−7と同様の方法で酸量40.6モル%の比較重合体水溶液(比較重合体4)を得た。
比較重合体4の5質量%水溶液の表面張力は61.3mN/mであった。
【0264】
(比較製造例5)比較重合体5の製造
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に、重量平均分子量1000のポリエチレングリコール108.7部を仕込んで、窒素気流下120±5℃まで加温して溶融した。次に、温度を120±5℃に保ちながら、アクリル酸47.03部と、パーブチルD(商品名、日本油脂社製、ジ−t−ブチルパーオキサイド)2.5gとを別々に1時間にわたって連続的に滴下し、その後120±5℃に保ちながら1時間攪拌を続け、加熱を終了、80℃まで冷却したところで水200.0部を加え、さらに、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH6.7まで中和して酸量85.7モル%の比較重合体水溶液(比較重合体5)を得た。
比較重合体5の5質量%水溶液の表面張力は63.8mN/mであった。
【0265】
(比較製造例6)比較重合体6の製造
(1.トシル化工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、エチレンキシドの平均付加モル数25のメトキシポリエチレングリコール(MPEG1000)を33.33部、トシルクロライド(TsCl)を6.867部、トリエチルアミン(EtN)を4.556部およびジクロロメタン200.0部を使用した以外は、製造例3のトシル化工程と同様の方法でMPEG1000のトシル化体(MPEG1000−OTs)を得た。
(2.チオアセチル化工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、MPEG1000−OTsを33.12部、チオ酢酸カリウム(CHCOSK)を3.907部使用した以外は、製造例3のチオアセチル化工程と同様の方法でMPEG1000のチオアセチル化体(MPEG1000−SAc)を得た。
(3.加水分解工程)
撹拌機を備えたガラス製反応器内に、合成したMPEG1000−SAcを32.215部、メタノール(MeOH)を50.00部使用した以外は、製造例3の加水分解工程と同様の方法でPAGモノチオール化合物を得た。
(4.ブロック重合工程)
温度計、攪拌機、滴下装置、窒素導入官及び還流冷却装置を備えたガラス製反応装置に、
イオン交換水15.0部を仕込み、攪拌下に反応装置を窒素置換し、窒素雰囲気下で80
℃に昇温した後、そこへメタクリル酸(MAA)5.774部と30%水酸化ナトリウム水溶液0.962部とイオン交換水(PW)23.096部からなる水溶液(A)(酸水溶液)を4.0時間かけ滴下し、(A)を滴下し始めると同時にPAGモノチオール化合物を3.800部とイオン交換水8.740部からなる水溶液(B)(PAGチオール水溶液)を4.0時間かけ滴下した。また、(A)を滴下し始めると同時にアゾ開始剤2,2’−アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩[2,2’−azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride](和光純薬工業株式会社製 V−50)0.2830部とイオン交換水8.843部からなる水溶液(C)を5.0時間かけ滴下した。その後、1時間引続いて80℃に温度を維持した後、冷却して、重合を終了し、30%水酸化ナトリウム水溶液でpH7.1まで中和して重量平均分子量2980および酸量95.5モル%の比較共重合体水溶液(比較重合体6)を得た。
比較重合体6の5質量%水溶液の表面張力は62.1mN/mであった。
【0266】
(本発明における条件(1)、(2)の値の測定)
下記の配合で、JASS 5 M402準拠のモルタルを調製し、下記15打フロー、0打フローの測定方法により、上記重合体1〜5、比較重合体1〜6及び市販品である重量平均分子量4500および酸量0モル%のポリエチレングリコール(PEG4500)について、本発明における条件(1):(該化合物含有モルタル組成物の15打フロー値)/(該化合物を含まないモルタルの15打フロー値)×100、条件(2):(2時間後の15打フロー値の比)/(10分後の15打フロー値の比)×100を測定した。結果を表1に示す。表1における(I)〜(V)は、上述した本発明における重合体の分類を記載したものであり、それぞれの分類は以下のとおりである。
なお、JASS 5 M402準拠のモルタルに重合体(収縮低減剤)を添加する場合には、水と重合体との合計が225gとなるように添加した。
(I):ポリカルボン酸系重合体
(II):グラフト重合体
(III):(ポリ)アルキレングリコール系ブロック共重合体
(IV):キレートPEG重合体
(V):ポリアミン系重合体
【0267】
<JASS 5 M402準拠のモルタル>
普通ポルトランドセメント(JIS R 5210適合品) 450g
水(脱イオン水) 225g
ISO砂(セメント協会) 1350g
モルタル空気量が、収縮低減剤無添加(プレーン)±3%となるように消泡剤(マスターエア404(BASFジャパン社製)を添加
<モルタル組成物の混練>
モルタル組成物の混練はJIS R5201−1997附属書2の方法に従い、以下のとおり実施した。セメント100重量部に対して固形分0.1%となるように各重合体または収縮低減剤および消泡剤を秤量して水で希釈したもの225gを練鉢に仕込み、これに普通ポルトランドセメント450gを入れ、直ちに低速(自転速度140±5rpm、公転速度62±10rpm)で始動させた。始動させてから30秒後にセメント強さ試験用標準砂(JIS R5201−1997附属書2の5.1.3に規定)1350gを30秒間かけて入れた。砂投入後、高速(自転速度285±10rpm、公転速度125±10rpm)にてさらに30秒間混練し、90秒間混練を休止した。休止の最初の15秒間に練鉢に付着したモルタルを掻落し、底に付着したモルタルを中央に集めた。休止後、再度高速で60秒間混練し、混練を終了した。
混練終了後、練鉢からモルタルを取り出し、空気量の測定をJIS A1174−1978の方法に従い行った。
さらに、混練から10分後に練鉢からモルタルを取り出し、以下に示すJIS R5201−1997の方法に従いモルタルフローの測定を行った。空気量およびモルタルフロー値の測定後のモルタルは容量1000mlのポリビーカーに入れ、乾燥を防ぐため濡れた雑巾で容器の上部を覆い保管した。また、混練開始から1時間毎にステンレス製の匙を使用してモルタル全体を10回程度撹拌した。
混練から2時間後、ステンレス製の匙を使用してモルタル全体を10回程度撹拌した後、15打フロー測定を行った。
【0268】
<モルタル組成物の0打フローおよび15打フロー測定>
モルタル組成物の0打フローおよび15打フロー測定は、JIS R5201−1997の方法に従い以下のようにして行った。
モルタルを、乾燥した布でよく拭ったフローテーブル上の中央の位置に置いたフローコーン(上部内径70±0.5mm、下部内径100±0.5mm、高さ60±0.5mm)に2回に分けて入れる。1/2の高さまで入れ、突き棒(直径20±1mm、長さ200mm)で全面を15回突いた後、フローコーンの上部までモルタルを入れ、突き棒で全面を15回突き、不足分があれば補い表面をならす。その後、フローコーンを真上に取り去り広がったモルタルの直径を測定し、0打フロー値とした。0打フロー測定後、フローテーブルに15秒間で15回の落下運動を与えた後、広がったモルタルの直径を測定し、15打フロー値とした。
直径の測定は、モルタルの広がった後の径の最大と認められる方向と、これに直角な方向とで行い、平均値を0打および15打フロー値とした。
【0269】
【表1】
【0270】
(収縮低減性能評価)
下記方法により、上記重合体1〜5、比較重合体1〜6について、収縮低減性能の評価を行った。結果を表2に示す。表2の重合体の分類は、表1と同様である。
<収縮低減性能評価>
(供試体の作成)
収縮低減性能評価に使用する供試体(4×4×16cm)は、表2に示す所定量の添加剤を使用し、前述の<モルタル組成物の混練>に従い混練したモルタルを使用して、JIS R 5201附属書2の方法に従い実施した。
型枠には予めシリコングリースを塗布して容易に脱型できるようにすると共に、両端にゲージプラグを装着した。モルタルを混練直後に型枠に入れ、密閉し20℃で保管し、初期養生(封緘養生)を行なった。1日後に脱型し、供試体に付着したシリコングリースをたわしを用いて水で洗浄し、続いて20℃の静水中で6日間養生(水中養生)した。
(長さ変化の測定)
JIS A1129−3(ダイヤルゲージ方法)に従い、ダイヤルゲージ((株)西日本試験機社製)を使用した。静水中で6日間養生した供試体の表面の水を紙タオルでふき取った後、直ちに測長し、この時点の長さを基準とした。その後、温度20±1℃、湿度60±5%に設定した恒温恒湿室内に保存し、適時測長した。
この際、下記式で示す収縮低減率の計算を行い、本発明の組成物を使用しない基準モルタルの収縮量に対して、本発明の組成物の添加時に収縮を低減できた値とした。値が大きいほど収縮を低減できたことを示す。
【0271】
【数1】
【0272】
【表2】
【0273】
表2の結果から、上記(1)〜(3)の条件を満たす重合体は、セメント組成物の収縮低減剤として優れた効果を発揮することが確認された。表2では、それぞれ構造の異なる重合体を用いているが、いずれの重合体の場合も、上記(1)〜(3)の条件を満たすものは優れた収縮低減性能を発揮しており、これにより、上記(1)〜(3)の条件を満たすことに意味があることが確認された。
【0274】
(コンクリート試験)
製造例で合成した各種化合物及び市販の収縮低減剤を用い、その他の混和剤を配合して得られた組成物の、コンクリートでの長さ変化及び圧縮強度評価を行なった。評価に使用した化合物及びその他の混和剤を表3に示す。またコンクリートの混練および各評価は以下のとおり実施した。
【0275】
【表3】
【0276】
(1)コンクリート試験
以下に示すコンクリート配合
単位セメント量: 309kg/m
単位水量 : 170kg/m
単位細骨材量 : 822kg/m
単位粗骨材量 : 942kg/m
(水セメント比(W/C):55%、細骨材率(s/a):48.0%)
により、練り混ぜ量が30Lとなるようにそれぞれの材料を計量し、強制2軸練りミキサーを使用して材料の混錬を実施した。なお、セメントは太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント(比重3.16)を使用した。この際、細骨材には掛川産陸砂および君津産陸砂、粗骨材には青梅硬質砂岩をそれぞれ使用した。また、市販の空気量調整剤(AE剤および消泡剤;表3参照)を使用してコンクリートの空気量が5±1%となるように調整した。さらに、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤を適宜添加し、スランプが18±2cmとなるよう調整した。各混和剤配合を表4に示す。
【0277】
【表4】
【0278】
(2)材料の練り混ぜ
粗骨材、細骨材およびセメントをミキサーに投入し10秒間空練り後、回転を止めて、化合物(A)、減水剤(B)、AE剤(C)および消泡剤(D)を含む水を加え、60秒間混錬した後、回転を止めて撹拌羽根および軸についたモルタル分を掻き落とし、再度60秒間混練した後、ミキサーからコンクリートを取出し、評価を実施した。
(3)フレッシュコンクリートの評価
得られたフレッシュコンクリートについて、スランプ値、空気量の測定を以下の方法により実施した。
スランプ値:JIS A 1101−1998
空気量 :JIS A 1128−1998
(4)乾燥収縮低減性の評価
コンクリートの混錬は前記項目1および2の方法により実施した。スランプおよび空気量が所定の値であることを確認した後、乾燥収縮低減性評価用のコンクリート供試体(10×10×40cm)の作成および長さ変化の測定をJIS A1129に従い実施した。
型枠には予めシリコングリースを塗布して止水すると共に容易に脱型できるようにした。また、供試体の両端にはゲージプラグを装着した。混錬して得られたコンクリートを流し込んだ型枠を20℃で保管し初期養生を行なった。1日後に脱型し、続いて20℃の静水中で6日間養生(水中養生)した。
JIS A1129に従い、ダイヤルゲージ((株)西日本試験機製)を使用した。静水中で6日間養生した供試体の表面の水を紙タオルでふき取った後、直ちに測長し、この時点の長さを基準とした。その後、温度20℃、湿度60%に設定した恒温恒湿室内に保存し、適時測長した。
収縮低減性の評価は、下記式(i)により長さ変化比を算出することにより実施した。
長さ変化比(%)=(L2/L1)×100 (i)
L1:収縮低減剤を添加したコンクリート供試体の収縮ひずみ
L2:収縮低減剤を添加しないコンクリート(基準コンクリート)の収縮ひずみ
長さ変化比が小さいほど、収縮低減性能に優れていることを示す。
【0279】
(5)凍結融解抵抗性の評価
得られたフレッシュコンクリートを10×10×40cmの供試体型枠に入れ、2日間20℃にて封緘養生後脱型した。脱型後、さらに5日間20℃の静水中で養生した後、耐凍結融解性の評価を行った。
耐凍結融解性の評価は、JIS A1148−2001中のA法に従い、30サイクルごとにJIS A1127−2001に従って、一次共鳴振動数および供試体重量を測定することにより実施した。
この際30サイクルごとの耐凍結融解性は、下記の式(ii)で示されるように、凍結融解サイクル開始前(0サイクル)の一次共鳴振動数に対する、各サイクル終了時点での一次共鳴振動数から相対動弾性係数を算出し、評価した。凍結融解のサイクルは、最大300サイクルとし、300サイクル以前に相対動弾性係数が60%以下となった場合には、その時点で評価を終了した。最終的な耐凍結融解性は、下記の式(iii)で示す耐久性指数を算出することにより、評価した。相対動弾性係数および耐久性指数は、いずれも100に近いほど、良好な耐凍結融解性を有することを示す。
相対動弾性係数(%)=(f/f)×100 (ii)
:凍結融解nサイクル後の一次共鳴振動(Hz)
:凍結融解0サイクルの一次共鳴振動(Hz)
耐久性指数=(P×N)/300 (iii)
P:凍結融解Nサイクル時の相対動弾性係数(%)
N:相対動弾性係数(%)が60%以下になった凍結融解サイクル数、または300サイクルのいずれか小さい方
各混和剤配合でのコンクリート物性評価結果を表5に示す。
【0280】
【表5】
【0281】
実施例1〜5と比較例1〜5の結果を比較すると上記(1)〜(3)の条件を満たす重合体(収縮低減剤)と、空気連行剤(AE剤)とを所定の割合で含む組成物でとすることで、収縮低減性能と凍結融解抵抗性の両方に優れた組成物となることが確認された。