(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843504
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】スプレー冷却式炉蓋
(51)【国際特許分類】
F27D 1/18 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
F27D1/18 A
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-252701(P2015-252701)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-116186(P2017-116186A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月18日
【審判番号】不服2020-1497(P2020-1497/J1)
【審判請求日】2020年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】野村 保
(72)【発明者】
【氏名】小川 正人
【合議体】
【審判長】
亀ヶ谷 明久
【審判官】
市川 篤
【審判官】
中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第5290016号明細書(US,A)
【文献】
特開平09−236390号公報(JP,A)
【文献】
特開平07−260367号公報(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1818084号明細書(CN,A)
【文献】
実開昭56−141997号公報(JP,U)
【文献】
実開昭56−144296号公報(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/12
F27D 1/18
F27B 3/08
C21C 5/52- 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉蓋内に中空の冷却室を形成し、当該冷却室の炉内に面する内側側壁の内面に向けて冷却水をスプレーして炉蓋の温度上昇を防止したスプレー冷却式炉蓋において、スプレーされた後に前記冷却室の底壁上に溜まる冷却水に前記内面が接する領域を少なくとも含む領域で、前記冷却室の前記内側側壁の、炉内に面する必要領域の外面を炉内側からカバー体で覆って当該カバー体内に、スプレーされる冷却水とは異なる他の冷却水を流通させる冷却水流通路を形成したスプレー冷却式炉蓋。
【請求項2】
炉蓋内に中空の冷却室を形成し、当該冷却室の炉内に面する内側側壁の内面に向けて冷却水をスプレーして炉蓋の温度上昇を防止したスプレー冷却式炉蓋において、スプレーされた後に前記冷却室の底壁上に溜まる冷却水に前記内面が接する領域を少なくとも含む領域で、前記冷却室の内側側壁の外方位置に水冷管を設けて当該水冷管内に、スプレーされる冷却水とは異なる他の冷却水を流通させる冷却水流通路を形成したスプレー冷却式炉蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク炉や取鍋等の炉体に装着されるスプレー冷却式炉蓋に関し、特に炉蓋内に中空の冷却室を形成して、炉内に面する冷却室の内側側壁の内面に冷却水をスプレー状に
散布して上記内側側壁の温度上昇を防止するようにしたスプレー式炉蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスプレー式炉蓋は例えば特許文献1や特許文献2に示されている。このうち、特許文献1に記載の発明(従来発明1)では、スプレー散布された冷却水は炉蓋内に形成された冷却室の内側側壁内面から冷却室の底壁上の環状排水路へ流下し、周方向の複数個所に設けられた排水口を経て炉蓋外へ排出されている。また、特許文献2に記載の発明(従来発明2)では、冷却室の底壁上に形成された環状排水路中に、エゼクタポンプに連結された排水吸引管の下端を位置させて、環状排水路に流下した冷却水を吸引排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−246576号
【特許文献2】特開平10−197162号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記いずれの従来発明1,2においても、環状排水路には一定高さの冷却水が溜まる。そしてこの場合、常に新たな冷却水がスプレー散布されて効率的な抜熱がなされる内側側壁内面上半領域に比して、対流によるだけの十分な抜熱能力を発揮しない滞留した冷却水に接する内側側壁内面下半領域では炉内に面する内側側壁外面との間の壁厚方向で大きな温度差が生じて、この領域の内側側壁部に大きな熱応力がかかるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、炉蓋内に形成された冷却室の内側側壁部分に大きな熱応力を生じることがないスプレー冷却式炉蓋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本第1発明では、炉蓋(1)内に中空の冷却室(1a)を形成し、当該冷却室(1a)の炉内に面する内側側壁(11)の内面に向けて冷却水(w)をスプレーして炉蓋(1)の温度上昇を防止したスプレー冷却式炉蓋において、スプレーされた後に前記冷却室(1a)の底壁(13)上に溜まる冷却水(wb)に前記内面が接する領域(151)を少なくとも含む領域で、
前記冷却室(1a)の前記内側側壁(11)の、炉内に面する必要領域の外面を炉内側からカバー体(3)で覆って当該カバー体(3)内に、スプレーされる冷却水(w)とは異なる他の冷却水(wa)を流通させる冷却水流通路(17)を形成する。
【0007】
本第1発明において、炉内からの熱は、冷却水流通路を流通する他の冷却水に吸収されて内側側壁の所定領域には殆ど至らない。この結果、冷却室の底壁上に滞留する冷却水に内面が接する内側側壁領域において壁厚方向に大きな温度差が生じることがなくなり、この結果、内側側壁部分に大きな熱応力が生じるのが避けられる。
【0008】
本第2発明では、
炉蓋(1)内に中空の冷却室(1a)を形成し、当該冷却室(1a)の炉内に面する内側側壁(11)の内面に向けて冷却水(w)をスプレーして炉蓋(1)の温度上昇を防止したスプレー冷却式炉蓋において、スプレーされた後に前記冷却室(1a)の底壁(13)上に溜まる冷却水に前記内面が接する領域を少なくとも含む領域で、前記冷却室(1a)の内側側壁(11)の外方位置に水冷管(4)を設けて当該水冷管(4)内に、スプレーされる冷却水(w)とは異なる他の冷却水(wa)を流通させる冷却水流通路(17)を形成する。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明のスプレー冷却式炉蓋によれば、炉蓋内に形成された冷却室の内側側壁部分に大きな熱応力を生じることが避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態を示す、炉蓋外周部周壁の、周方向の一か所での断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態を示す、炉蓋外周部周壁の、周方向の一か所での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0014】
(第1実施形態)
図1にはアーク炉の炉蓋外周部周壁1の、周方向の一か所での断面図である。なお、符号Hは炉体の外周壁である。炉蓋の外周部周壁1は中空となってその内部が冷却室1aとしてある。冷却室1aには公知の構造でスプレーノズル12が配設されており、炉内に面する周壁1の内側側壁11の内面に向けて冷却水wが散布されて、内側側壁1の過度な温度上昇が抑えられている。
【0015】
散布された冷却水wは内側側壁11の内面に沿って流下して、冷却室1aの底壁12上に形成された環状排水路14中に溜まる。なお、本実施形態では内側側壁11はその下端部が外方へ傾斜する傾斜壁15となっており、その分、環状排水路14は狭幅となっている。
【0016】
排水吸引管2が冷却室の外側側壁16を貫通し下方へ湾曲させて設けてあり、その下端は環状排水路14に滞留している冷却水wb内に至っている。排水吸引管2は例えば図略のエゼクタポンプに連結されており、環状排水路14内の冷却水wbが排水吸引管2に吸引されて炉蓋外へ排出される。これにより、環状排水路14内に滞留する冷却水wbの水面の高さ位置はアーク炉の操業中ほぼ一定に保たれる。
【0017】
ところで、スプレーノズル12から散布される冷却水wは常に新たなものが強制供給されるために抜熱能力が高いのに対して、滞留した冷却水wbは緩慢な対流によるだけのために抜熱能力が低い。このため、環状排水路14に滞留する冷却水wbに触れている、当該冷却水wの水面w1以下の傾斜壁領域151では、炉内に面する外面と内面との間の壁厚方向で大きな温度差が生じて、この領域に大きな熱応力が生じるおそれがある。
【0018】
そこで、本実施形態では、滞留した冷却水wの水面w1以下の傾斜壁部分151を含む傾斜壁15の外方の炉内全周に、傾斜壁15全体を覆うように略L字断面のカバー体3を設けて冷却ジャケットとし、傾斜壁15の外周面との間の空間を冷却水流通路17としてここに他の冷却水waを供給している。ここで、カバー体3の材質はCuやAl等の熱伝達係数の大きいものが好ましい。
【0019】
このような構造としたことにより、炉内からの熱は、冷却水流通路17を流通する他の冷却水waに吸収されて傾斜壁15には殆ど至らない。この結果、環状排水路14に滞留する冷却水wbに接するその水面w1以下の傾斜壁領域151においても壁厚方向で大きな温度差が生じることはなくなり、傾斜壁15に大きな熱応力が生じるのが避けられる。
【0020】
(第2実施形態)
図2に示すように、本実施形態では、環状排水路14の傾斜壁15に接してその外方の炉内全周に、傾斜壁15の少なくとも滞留冷却水wbに接する領域151を遮蔽するように冷却水流通路17を内部に形成した水冷管4が設けてあり、水冷管4内に他の冷却水waが流通させてある。このような構造によっても上記第1実施形態と同様の作用効果が得られるとともに、冷却ジャケットのカバー体3よりも交換が簡単であるという効果がある。
【符号の説明】
【0021】
1…炉蓋、1a…冷却室、11…内側側壁、13…底壁、17…冷却水流通路、3…カバー体、4…水冷管、w…スプレー冷却水、w1…水面、wa…他の冷却水、wb…滞留冷却水。