特許第6843622号(P6843622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843622
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】パップ剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/618 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20210308BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   A61K31/618
   A61K9/70 405
   A61K47/10
   A61K47/32
   A61K47/42
   A61P29/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-566128(P2016-566128)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2015084970
(87)【国際公開番号】WO2016104226
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年12月21日
【審判番号】不服2020-1240(P2020-1240/J1)
【審判請求日】2020年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-258878(P2014-258878)
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】鶴島 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 靖久
(72)【発明者】
【氏名】義永 隆明
【合議体】
【審判長】 滝口 尚良
【審判官】 石井 裕美子
【審判官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126341(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/125667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/090782(WO,A1)
【文献】 特開昭59−110616(JP,A)
【文献】 特公平4−36134(JP,B2)
【文献】 特開2012−211096(JP,A)
【文献】 特開昭59−40853(JP,A)
【文献】 特開2004−256396(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/77741(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/27840(WO,A1)
【文献】 国際公開第97/28793(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布上に膏体層を備えるパップ剤であって、
前記膏体層は、サリチル酸グリコール、水溶性高分子、水、ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)及びグリセリンを含有し、
グリセリンの含有量が、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍であり、
前記膏体層のpHは4.7〜5.1である、パップ剤(但し、インドメタシンを含有するパップ剤と、ポリアクリル酸及び/又はポリアクリル酸塩とこれと異なる他の水溶性高分子物質とを互に異なる金属イオン種を有する多価金属塩でそれぞれ架橋させてなる湿布剤と、を除く。)。
【請求項2】
前記グリセリンの含有量は、質量基準で、前記サリチル酸グリコールの含有量の8〜14倍である、請求項1に記載のパップ剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子は、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸中和物を含む、請求項1又は2に記載のパップ剤。
【請求項4】
前記膏体層が、ソルビトールをさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のパップ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パップ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パップ剤は、基布上に薬剤を含む膏体を塗布して製造される貼付剤の一種であり、一般に、水分を多く含んでおり膏体に厚みがある。パップ剤はこのような構成を有していることから、有効成分の皮膚透過が促進され、皮膚への刺激が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−114647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、サリチル酸グリコールを含有するパップ剤では、膏体層中におけるサリチル酸グリコールの保存安定性が低く、長時間保存した後に鎮痛作用を充分に発揮できない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、サリチル酸グリコールの保存安定性に優れたパップ剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基布上に膏体層を備えるパップ剤であって、上記膏体層は、サリチル酸グリコール、水溶性高分子、水及びグリセリンを含有し、グリセリンの含有量が、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍である、パップ剤を提供する。
【0007】
本発明のパップ剤においては、上述の成分を必須とした上で、サリチル酸グリコールとグリセリンとの含有比が特定割合になるような構成を有している。このような構成に基づいて、サリチル酸グリコールの保存安定性が顕著に向上する。
【0008】
なお、グリセリンの含有量を、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜14倍とすることで、サリチル酸グリコールの保存安定性を更に高めることができる。
【0009】
上記膏体層のpHは、4.7〜5.1であることが好ましく、4.9〜5.1であることがより好ましい。pHが4.7以上(更には4.9以上)で膏体の凝集力がより優れる傾向があり、pHが5.1以下であるとサリチル酸グリコールの保存安定性がより優れる傾向がある。
【0010】
また、上記膏体層は、ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)を含有することが好ましい。膏体層がポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)を含有することにより、長時間経過した後でも付着力が維持される。
【0011】
上記水溶性高分子は、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸中和物を含むことが好ましい。これらの成分を含むことにより、サリチル酸グリコールの保存安定性を高めた状態で、付着性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るパップ剤によれば、サリチル酸グリコールの保存安定性に優れ、長時間保存した後であっても充分な鎮痛作用を発揮できる。また、パップ剤に求められる保湿性も確保される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、一実施形態を示して、本発明を説明する。
【0014】
本明細書中、サリチル酸グリコールの保存安定性とは、60℃において1か月保管した後のサリチル酸グリコールの含有量が、パップ剤の調製時と比較して89%以上であることを意味する。
【0015】
本発明の一実施形態は、基布上に膏体層を備えるパップ剤であって、上記膏体層は、サリチル酸グリコール、水溶性高分子、水及びグリセリンを含有し、グリセリンの含有量が、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍である、パップ剤である。
【0016】
基布としては、例えば、織布、不織布、樹脂フィルム、発泡シート及び紙が挙げられ、織布としては、例えば、編布が挙げられる。基布として織布、不織布又は樹脂フィルムを使用する場合、その素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、レーヨン、ポリウレタン及び綿が挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、基布は単層構造を有するものでもよく、多層構造を有するものでもよい。基布の素材としては、ポリエステルがより好ましい。
【0017】
基布としては、不織布又は織布が好ましく、所定の伸長回復率を有する不織布又は織布が特に好ましい。ここで、伸長回復率とは、「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」にしたがって測定される値である。伸長回復率を有する不織布又は織布を用いることで、関節等の可動部に貼付した際に、貼付部位の動きに応じて、基布が伸縮するため、好ましい。
【0018】
基布が不織布である場合、50%伸長時荷重は、例えば、縦方向(長軸方向)1〜5N/2.5cmであり、横方向(短軸方向)0.1〜3N/2.5cmであることが好ましい。また、50%伸長回復率は、例えば、60〜99%であり、65〜95%であることが好ましく、70〜90%であることがより好ましい。好適な基布の目付は、例えば、80〜120g/mであり、90〜110g/mであることが好ましい。好適な基布の厚みは、例えば、0.5〜2mmである。また、基布の剛軟度(剛軟度の測定方法はJIS L 1096 45°カンチレバー法による。)は、例えば、縦方向(長軸方向)20〜40mm、横方向(短軸方向)10〜35mmとすることができ、好ましくは縦方向(長軸方向)25〜35mm、横方向(短軸方向)15〜30mmである。
【0019】
基布として織布、特に編布を用いる場合には、例えば編目を丸編み、経(タテ)編み、緯(ヨコ)編み等により集合させて布状に加工した編布も含まれる。編布の好ましい例としては、ポリエステル系、ナイロン系、ポリプロピレン系、レーヨン系等の材料を1種または2種以上組み合わせてなる編布が挙げられ、中でも薬物との相互作用が少ない、ポリエステル系のポリエチレンテレフタレートからなる編布がより好ましい。
【0020】
特に、基布が織布である場合、50%伸長時荷重は、例えば、縦方向(長軸方向)1〜5N/2.5cmであり、横方向(短軸方向)0.1〜3N/2.5cmであることが好ましい。また、50%伸長回復率は、例えば、60〜99%であり、65〜95%であることが好ましく、70〜90%であることがより好ましい。また、基布の剛軟度は、例えば、縦方向(長軸方向)10〜30mm、横方向(短軸方向)10〜30mmとすることができ、好ましくは縦方向(長軸方向)15〜25mm、横方向(短軸方向)15〜25mmである。
【0021】
水を含有する膏体を織布に展延すると織布の網目を通して、水が染み出してくる虞があるが、ポリエチレンテレフタレート織布の目付けを80〜150g/mとすることにより膏体に含有される水が確実に織布の網目を通して染み出すことなく展延できる傾向があり、かつ織布と膏体の間の投錨性を維持することができる。
【0022】
また、ポリエチレンテレフタレート織布は、縦方向(長軸方向)モジュラスが2〜12N/5cm、横方向(短軸方向)モジュラスが2〜8N/5cmであるのが好ましい(モジュラスの測定方法はJIS L 1018による。)。2N/5cm(縦方向)または2N/5cm(横方向)より低いモジュラスであると膏体を塗布する際に織布が延びて網目に粘着剤が染み込み、パップ剤としての機能が低下する場合がある。また、12N/5cm(縦方向)または8N/5cm(横方向)より高いモジュラスであると伸縮性が劣り、屈曲部へ適用した際に皮膚の伸張に追随しにくくなる場合がある。
【0023】
膏体層に含まれるサリチル酸グリコールは、非ステロイド系消炎鎮痛剤の1種であり、炎症の症状を緩和する効果を有する。また、サリチル酸グリコールは、消炎鎮痛作用を有する化合物であり、サリチル酸メチルよりも水溶性に優れる。
【0024】
膏体層は、水溶性高分子を含有するが、この水溶性高分子は、親水性基を有する高分子を意味する。親水性基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられる。水溶性高分子を含有することにより、パップ剤中の水分をより長時間、保持することができる。
【0025】
水溶性高分子としては、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸中和物(これらを「水溶性アクリルポリマー」と呼ぶ場合がある。)を含むことが好ましい。膏体層がポリアクリル酸又はその中和物を含むことにより、付着性により優れるパップ剤を得ることができる。
【0026】
水溶性高分子としてポリアクリル酸が含まれる場合、その含有量は、膏体層の全質量を基準として1〜5質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。水溶性高分子の含有量を1質量%以上にすることにより、膏体層の成型性及び保型性がより向上する傾向があり、ポリアクリル酸の含有量を5質量%以下にすることにより、膏体層の硬度が高くなりにくく、皮膚への密着性がより高くなる傾向がある。
【0027】
ポリアクリル酸中和物は、ポリアクリル酸完全中和物であっても、ポリアクリル酸部分中和物であっても、これらの混合物であってもよい。ポリアクリル酸中和物としては、ポリアクリル酸塩が挙げられ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0028】
ポリアクリル酸中和物としては、初期的な付着力も経時的な付着力も高くなることから、ポリアクリル酸部分中和物が好ましい。ポリアクリル酸部分中和物は、1つのポリマー鎖において、アクリル酸に由来する構造単位とアクリル酸塩に由来する構造単位が任意の割合で存在しているものである。ポリアクリル酸部分中和物としては、1つのポリマー鎖中のカルボキシ基のうち、20〜80モル%が中和されたものを用いることが好ましい。
【0029】
水溶性高分子としてポリアクリル酸中和物が含まれる場合、その含有量は、膏体層の全質量を基準として1〜6質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。ポリアクリル酸中和物の含有量を1質量%以上にすることにより、ポリアクリル酸中和物の付着力が充分に得られるようになり、ポリアクリル酸中和物の含有量を6質量%以下にすることにより、膏体層の成型性及び保型性が向上する。なお、水溶性高分子として、ポリアクリル酸とポリアクリル酸中和物(好ましくはポリアクリル酸部分中和物)とを併用する場合の、それぞれの好適な含有量についても上記の通りである。
【0030】
水溶性高分子としては、水溶性アクリルポリマー以外のもの、例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(カルメロースナトリウム)、メチルセルロース、カラギーナンを含んでいてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水溶性高分子としては、カルメロースナトリウム、ゼラチン又はポリビニルアルコールが好ましい。なお、これらは水溶性アクリルポリマーと組み合わせて用いてもよい。
【0031】
水溶性高分子として水溶性アクリルポリマー以外の水溶性高分子が含まれる場合、その含有量は、膏体層の質量を基準として、3〜10質量%であることが好ましい。水溶性高分子の含有量が3質量%以上であると、膏体層の凝集力が高くなりやすい傾向があり、10質量%以下であると、膏体層に含有するサリチル酸グリコールが均一に分散しやすい傾向がある。
【0032】
グリセリンは、パップ剤の膏体層からの水分の蒸発を抑制する効果を発揮する。グリセリンの含有量は、膏体層の質量を基準として、3〜70質量%であることが好ましく、4〜60質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、グリセリンの含有量は、サリチル酸グリコールの含有量に対して、質量基準で、8〜15倍であることが好ましく、8〜14倍であることがより好ましく、8〜13.6倍であることがさらに好ましい。
【0034】
膏体層が水を含有することにより、サリチル酸グリコールの皮膚透過性が向上し、炎症症状の1種である熱感を緩和するだけでなく、サリチル酸グリコールの消炎鎮痛作用がより効果的に発揮される。
【0035】
水の含有量は、膏体層の質量を基準として、10〜90質量%であることが好ましく、15〜88質量%であることがより好ましく、18〜85質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
膏体層の質量は、例えば、214〜1000g/mであってもよく、400〜1000g/mであってもよく、400〜650g/mであってもよい。好ましくは、400〜650g/mとすることにより、フィット感良く、より長期間の付着性を向上することができる。膏体層の質量が上記範囲であれば、パップ剤全体の厚みを小さくすることができ、皮膚に追従しやすく、さらに、貼付した際に周縁部との段差が小さくなるため、剥離しにくい傾向にある。
【0037】
膏体層は、ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)をさらに含有してもよい。従来のパップ剤は膏体層の重量が小さいと、水含有量が低下しやすく、付着力が低下しやすい。しかしながら、膏体層がポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)を含有することにより、膏体層の質量が比較的小さい場合であっても、長時間経過した後でも充分な付着力が維持されやすい傾向にある。
【0038】
ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)としては、媒体として水を用いた水性エマルジョンが好ましい。ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)エマルジョンとしてはまた、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを界面活性剤又は保護コロイドとして用いたエマルジョンであることが好ましい。また、媒体の沸点以上の加熱(例えば、105℃で3時間)による蒸発残留物(不揮発分)が57〜61%であることが好ましい。このようなエマルジョンとしては、ニカゾールTS−620(商品名、日本カーバイド工業株式会社製)が挙げられる。医薬品添加物規格(2013年)によれば、ニカゾールTS−620を水浴上で蒸発乾固した後、105℃で3時間乾燥するとき、蒸発残留物の量が57〜61%である。
【0039】
膏体層のpHは4.7〜5.1であることが好ましく、4.9〜5.1であることがより好ましい。pHを4.7以上にすることで、皮膚への刺激性が少なくなり、pHを5.1以下にすることにより、パップ剤の成型性及び保型性を向上させることができる。特に、基布が織布、特に編布の場合には、膏体層を形成する際に染み出しを生じることがあるが、pHが4.9〜5.1である場合には染み出しが抑制される傾向にある。なお、pHは、例えば、日本薬局方一般試験法のpH測定法に準じ、ガラス複合電極を用い、試料を精製水で20倍に希釈して測定することができる。
【0040】
膏体層には、さらにその他の成分として他の薬剤、溶解補助剤、架橋剤、保湿剤、清涼化剤、安定化剤、無機粉体、着色料、着香料、pH調整剤等を添加してもよい。
【0041】
他の薬剤としては、経皮吸収性を有するものであればよく、例えば、フェルビナク、フルルビプロフェン、ジクロフェナク、ジクロフェナクナトリウム、サリチル酸メチル、インドメタシン、ケトプロフェン、イブプロフェン等の非ステロイド系抗炎症剤またはこれらのエステル、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム等の鎮痛剤、リドカイン、ジブカイン等の局所麻酔剤、塩化スキサメトニウム等の筋弛緩剤、クロトリマゾール等の抗真菌剤、クロニジン等の降圧剤、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等の血管拡張剤、ビタミンA、ビタミンE(トコフェロール)、酢酸トコフェロール、ビタミンK、オクトチアシン、酪酸リボフラビン等のビタミン類、プロスタグランジン類、スコポラミン、フェンタニール、トウガラシエキス、ノニル酸ワニリルアミドなどが挙げられる。
【0042】
また、膏体層は、エイジツエキス、オレンジエキス、オレンジ果汁、キイチゴエキス、キウイエキス、キューカンバーエキス、クチナシエキス、グレープフルーツエキス、サンザシエキス、サンショウエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウネズエキス、タイソウエキス、デュークエキス、トマトエキス、ブドウエキス、ヘチマエキス、ライム果汁、リンゴエキス、リンゴ果汁、レモンエキス、レモン果汁等のフルーツ由来成分、水溶性プラセンタエキス、アラントイン、レシチン、アミノ酸類、コウジ酸、タンパク質、糖類、ホルモン類、胎盤抽出物、アロエおよびカンゾウ等の各種生薬からの抽出成分、アシタバエキス、アボカドエキス、アマチャエキス、アルテアエキス、アルニカエキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウコンエキス、ウーロン茶エキス、オウゴンエキス、オウバクエキス、オオムギエキス、オランダカラシエキス、海藻エキス、加水分解エラスチン、加水分解コムギ末、加水分解シルク、カモミラエキス、カワラヨモギエキス、カンゾウエキス、カルカデエキス、グアノシン、クマザサエキス、クルミエキス、クレマティスエキス、酵母エキス、ゴボウエキス、コンフリーエキス、コケモモエキス、サイコエキス、臍帯抽出液、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンザシエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、ショウブ根エキス、シラカバエキス、スギナエキス、スイカズラエキス、セイヨウキズタエキス、セイヨウサンザシエキス、セイヨウニワトコエキス、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、タイソウエキス、タイムエキス、チョウジエキス、チガヤエキス、チンピエキス、トウヒエキス、ドクダミエキス、納豆エキス、ニンジンエキス、ノバラエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、パセリエキス、蜂蜜、パリエタリアエキス、ヒキオコシエキス、ビサボロール、フキタンポポエキス、フキノトウエキス、ブクリョウエキス、ブッチャーブルームエキス、プロポリス、ペパーミントエキス、ボダイジュエキス、ホップエキス、マツエキス、マロニエエキス、ミズバショウエキス、ムクロジエキス、モモ葉エキス、ヤグルマギクエキス、ユーカリエキス、ユズエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、レタスエキス、レンゲソウエキス、ローズエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ローヤルゼリーエキスなどを含んでもよい。
【0043】
溶解補助剤は、膏体層に含まれる成分が析出しないように添加するものである。溶解補助剤としては、例えば、クロタミトン;N−メチルピロリドン;ポリエチレングリコール(PEG)、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコール;ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジエチル等の脂肪酸エステル;モノステアリン酸ポリエチレングリコール等のオキシアルキレン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリソルベート80などの界面活性剤を挙げることができる。これらの溶解補助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶解補助剤の含有量は、膏体層の質量を基準として、0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0044】
架橋剤は、ポリアクリル酸もしくはその中和物、又はポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)の架橋反応の進行度を調整するために添加するものであり、架橋剤の含有量を調整することにより、パップ剤の皮膚への追従性を調整することができる。架橋剤としては、パップ剤として一般に用いられているものを用いることができる。
【0045】
保湿剤としては、時間の経過に伴う膏体層からの水分の蒸発を抑制できるものであれば、特に制限はない。保湿剤としては、例えば、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等の多価アルコールが挙げられる。これらの保湿剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組も合わせて用いてもよい。保湿剤の含有量は、膏体層の質量を基準として、3〜70質量%であることが好ましい。
【0046】
清涼化剤は、パップ剤を使用するときに、使用者に冷感、清涼感をもたらすものであり、芳香を有するものであってもよい。清涼化剤としては、例えば、チモール、l−メントール、dl−メントール、l−イソプレゴール、ハッカ油等を挙げることができ、l−メントールを用いることが好ましい。清涼化剤の含有量は、膏体層の質量を基準として、0.5〜3質量%であることが好ましい。
【0047】
安定化剤は、光(特に、紫外線)、熱又は酸素に対して、生理活性物質の保存安定性を向上させるものである。安定化剤としては、例えば、オキシベンゾン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、エデト酸ナトリウム、UV吸収剤(例えば、ジベンゾイルメタン誘導体)等が挙げられる。安定化剤の含有量は、膏体層の質量を基準として、0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0048】
無機粉体は、パップ剤を使用したときのべたつき感を調整する、又は膏体層の基布側への染み出しを抑制するために添加される。無機粉体としては、例えば、アルミナ、軽質シリカ、酸化チタン、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。無機粉体の含有量は、膏体層の質量を基準として、0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0049】
パップ剤は、剥離ライナーを備えていてもよい。剥離ライナーは、膏体層を中心にして、基布と反対側の面に積層されている。剥離ライナーを備えていると、保管時において、膏体層中の水の含有量が低下するのを抑制でき、膏体層へのゴミ等の付着を低減することができる傾向がある。
【0050】
剥離ライナーの素材としては、特に限定されず、当業者に一般的に知られているライナーを用いることができる。剥離ライナーの素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、紙が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
パップ剤は、パウチの内部で保管されていてもよい。パウチの内部に保管されることで、膏体層中の水の含有量の低下を抑制することでき、膏体層へのゴミ等の付着を低減することができる。
【0052】
本実施形態のパップ剤は、例えば、以下のように製造することができる。すなわち、サリチル酸グリコール、水溶性高分子(ポリアクリル酸及び/又はその中和物等)、水及びグリセリンを混合し、必要により上述のその他の成分を添加して膏体液を得る。次に、得られた膏体液を剥離ライナー上に均一に展延し、その上に基布を積層して、剥離ライナーを剥離することにより膏体層を基布上に形成させて、パップ剤を得ることができる。
【0053】
また、本発明は、基布上に膏体層を備えるパップ剤の製造方法であって、サリチル酸グリコール、水溶性高分子、水及びグリセリンを混合して得られる膏体液から膏体層を形成する工程を含み、グリセリンの含有量が、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍である、パップ剤の製造方法も提供する。
【0054】
グリセリンの含有量は、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍であることが好ましく、8〜14倍であることがより好ましく、8〜13.6倍であることがさらに好ましい。また、膏体層のpHが4.7〜5.1となるように調整することが好ましく、4.9〜5.1となるように調整することがより好ましい。膏体液は、ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)を含有してもよい。水溶性高分子は、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸中和物を含むことが好ましい。
【0055】
さらに、本発明は、基布上に膏体層を備えるパップ剤における、サリチル酸グリコールの保存安定性の向上方法であって、サリチル酸グリコール、水溶性高分子、水及びグリセリンを混合して得られる膏体液から膏体層を形成することと、グリセリンの含有量が、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍であることと、を含む、方法も提供する。
【0056】
グリセリンの含有量は、質量基準で、サリチル酸グリコールの含有量の8〜15倍であることが好ましく、8〜14倍であることがより好ましく、8〜13.6倍であることがさらに好ましい。また、膏体層のpHが4.7〜5.1となるように調整することが好ましく、4.9〜5.1となるように調整することがより好ましい。膏体液は、ポリ(アクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル)を含有してもよい。水溶性高分子は、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸中和物を含むことが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明する。
【0058】
(パップ剤の調製)
表1の記載の組成にしたがい、各成分を十分に混合し、膏体液を調製した。得られた膏体液を剥離ライナー上に均一に展延し、その上に基布を積層して、剥離ライナーを剥離することにより、実施例1〜8及び比較例1、2のパップ剤をそれぞれ得た。
【0059】
【表1】
【0060】
(評価)
日本薬局方の記載に準じて、得られたパップ剤の膏体層のpHを測定し、その値を表2に示した。また、各パップ剤を60℃にて1か月間保管した後、膏体層に含まれるサリチル酸グリコールの含有量をガスクロマトグラフ法にて測定した。調製時のパップ剤におけるサリチル酸グリコールの含有量(初期値)に対する、保管後のパップ剤におけるサリチル酸グリコールの含有量を表2に示した。
【0061】
実施例1〜3のパップ剤を比較すると、グリセリンの含有量が同じパップ剤であっても、酒石酸の含有量が多いと、膏体層のpHが低くなり、サリチル酸グリコールの保存安定性が高くなった。また、実施例1、4、6、8のパップ剤を比較すると、グリセリンの含有量が低下し、サリチル酸グリコールの保存安定性が向上した。一方、膏体層に占めるグリセリンの含有量が35質量%である比較例1のパップ剤では、サリチル酸グリコールの保存安定性が低下した。また、膏体層に占めるグリセリンの含有量が10質量%である比較例2のパップ剤では、サリチル酸グリコールの保存安定性は高いものの、保湿性がパップ剤として充分ではなかった。
【0062】
【表2】
【0063】
(パップ剤の調製)
表3の記載の組成にしたがい、各成分を十分に混合し、膏体液を調製した。得られた膏体液を剥離ライナー上に均一に展延し、その上に基布を積層して、剥離ライナーを剥離することにより、実施例9〜12のパップ剤をそれぞれ得た。
【0064】
【表3】
【0065】
(評価)
日本薬局方の記載に準じて、得られたパップ剤の膏体層のpHを測定し、その値を表4に示した。また、各パップ剤を60℃にて1か月間保管した後、膏体層に含まれるサリチル酸グリコールの含有量をガスクロマトグラフ法にて測定した。調製時のパップ剤におけるサリチル酸グリコールの含有量に対する、保管後のパップ剤におけるサリチル酸グリコールの含有量を表4に示した。
【0066】
【表4】
【0067】
実施例11のパップ剤は、実施例9のパップ剤と比較して、グリセリンの含有量が低く、サリチル酸グリコールの安定性がより改善した。この傾向は、実施例10及び12のパップ剤においても、同様であった。