(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
JNK阻害剤
第1の態様において、本発明は、療法によるヒト又は動物の身体の疾患の処置のため、特に、本明細書に開示される疾患/障害の処置のための方法における使用のための、
以下の一般式:
X1−X2−X3−R−X4−X5−X6−L−X7−L−X8(配列番号1)
(式中、
X1はアミノ酸R、P、Q及びrから選択されるアミノ酸であり、
X2はアミノ酸R、P、G及びrから選択されるアミノ酸であり、
X3はアミノ酸K、R、k及びrから選択されるアミノ酸であり、
X4はアミノ酸P及びKから選択されるアミノ酸であり、
X5はアミノ酸T、a、s、q、kから選択されるアミノ酸であるか、又は存在せず、
X6はアミノ酸T、D及びAから選択されるアミノ酸であり、
X7はアミノ酸N、n、r及びKから選択されるアミノ酸であり、
X8はF、f及びwから選択されるアミノ酸であるが、
但し、X1、X2、X3、X5、X7及びX8からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個又は6個はD−アミノ酸である、好ましくは、X3、X5、X7及びX8からなる群から選択されるアミノ酸の少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個又は4個はD−アミノ酸である)
の阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むJNK阻害剤に関する。
【0033】
本発明によるJNK阻害剤の阻害的(ポリ)ペプチド配列は、L−アミノ酸を含み、多くの実施形態においては、D−アミノ酸を含む。別途特定されない限り、L−アミノ酸残基は、本明細書では大文字で示されるが、D−アミノ酸残基は小文字で示される。グリシンは大文字又は小文字で示してもよい(D−又はL−グリシンは存在しないため)。本明細書に開示されるアミノ酸配列は、別途特定されない限り、常にN末端からC末端に向かって(左から右へ)記載される。与えられるアミノ酸配列は、C及び/又はN末端で改変又は非改変、例えば、C末端でのアセチル化及び/又はN末端でのアミド化若しくはシステアミドによる改変を行ってもよい。本明細書に開示されるアミノ酸配列のC及び/又はN末端におけるそのような想定できるが任意の改変は、明確化のために、特に示さない。
【0034】
本発明のJNK阻害剤は、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)の(ポリ)ペプチド阻害剤である。前記阻害剤は、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)のキナーゼ活性を阻害する、すなわち、例えば、JNK活性を遮断することにより、c−Jun、ATF2及び/又はElk−1などのJNK基質のリン酸化の程度を抑制する、又は低下させる。当業者は、本明細書で使用される用語「阻害剤」はc−Jun N末端キナーゼ(JNK)分子及び/又はキナーゼ活性を不可逆的に破壊する化合物を含まないことを理解できる。したがって、本発明の阻害剤のJNK阻害活性は、典型的には、競合的又は非競合的な様式でJNKに結合する化合物を指す。更に、本明細書で使用される用語「JNK活性の阻害」は、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)のキナーゼ活性の阻害を指す。
【0035】
更に、本明細書で使用される場合、JNK阻害剤は、アミノ酸のポリマー、すなわち、(ポリ)ペプチド配列の少なくとも1つの機能単位を含む。更に、この少なくとも1つの機能的なアミノ酸のポリマーは、JNK活性の阻害を提供する。前記阻害的(ポリ)ペプチド配列のアミノ酸モノマーは通常、ペプチド結合により互いに連結されるが、阻害活性(JNK活性の阻害)が全体として失われることがない、すなわち、得られる化学的実体が依然として本明細書に機能的に定義されるJNK阻害剤として適格であるという条件で、前記ペプチド結合又は側鎖残基の(化学的)改変が許容される。用語「ポリ(ペプチド)」は、(ポリ)ペプチド単位の長さを限定すると解釈されるべきではない。好ましくは、本発明のJNK阻害剤の阻害的(ポリ)ペプチド配列は、500、490、480、470、460、450、440、430、420、410、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、300、290、280、270、260、250、240、230、220、210、200、190、180、170、160、150、140、130、120、110、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、又は12アミノ酸未満である。好ましくは、阻害的(ポリ)ペプチド配列は、10個以上のアミノ酸残基、より好ましくは、11個以上のアミノ酸残基を有する。
【0036】
更に、本発明の「JNK阻害剤」は、JNK活性を阻害し、例えば、c−Jun基質(配列番号198)のヒトJNK媒介性リン酸化の阻害に関して、
a)ヒトJNK1の阻害に関して3000nM未満、より好ましくは2000nM未満、更により好ましくは1000nM未満、更により好ましくは500nM未満、更により好ましくは250nM未満、更により好ましくは200nM未満、更により好ましくは150nM未満、最も好ましくは100nM未満、
b)ヒトJNK2の阻害に関して3000nM未満、より好ましくは2000nM未満、更により好ましくは1000nM未満、更により好ましくは500nM未満、更により好ましくは250nM未満、更により好ましくは200nM未満、更により好ましくは150nM未満、最も好ましくは100nM未満、及び/又は
c)ヒトJNK3の阻害に関して3000nM未満、より好ましくは2000nM未満、更により好ましくは1000nM未満、更により好ましくは500nM未満、更により好ましくは250nM未満、更により好ましくは200nM未満、更により好ましくは150nM未満、最も好ましくは100nM未満
のIC50値を示す。
【0037】
いくつかの適用では、阻害剤は、上記の定義によるJNK1ではなく、上記の定義によるヒトJNK2及び/又はヒトJNK3を阻害することが好ましい。
【0038】
JNK活性が阻害されるか否かを、当業者は、容易に評価することができる。当技術分野で公知のいくつかの方法が存在する。一例は、放射性キナーゼアッセイ又は非放射性キナーゼアッセイ(例えば、Alphaスクリーン試験;例えば、Guenatら、J Biomol Screen、2006;11:1015〜1026頁を参照されたい)である。
【0039】
したがって、本発明によるJNK阻害剤は、例えば、配列番号2〜配列番号27のいずれかの阻害的(ポリ)ペプチド配列を含んでもよい(表1を参照されたい)。
【0041】
本発明によるJNK阻害剤は、配列番号1〜27から選択される配列、特に、配列番号8との少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95%の配列同一性を有する阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むJNK阻害剤(バリアント)であってもよいが、但し、好ましくは、配列番号1〜27から選択されるそれぞれの配列に関して、配列同一性を有するそのような阻害的(ポリ)ペプチド配列は、
a)4位のL−アルギニン(R)残基を維持する、
b)8位及び10位(配列番号25〜27に関しては7位及び9位)の2個のL−ロイシン(L)残基を維持する、
c)配列番号1のX1、X2、X3、X5、X7及びX8からなる群から選択されるアミノ酸に対応するそれぞれの位置並びに配列番号2〜27中のそれぞれの位置に1、2、3、4、5又は6個のD−アミノ酸を示す、より好ましくは、配列番号1のX3、X5、X7及びX8からなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置並びに配列番号2〜27中のそれぞれの位置に1、2、3又は4個のD−アミノ酸を示す、並びに
d)JNK活性を依然として阻害する(すなわち、本明細書に定義されるJNK阻害剤である)。
【0042】
確かに、本明細書に開示されるバリアント(特に、上記の定義内で、配列番号1〜27から選択される配列とのある特定の程度の配列同一性を共有する阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むJNK阻害剤バリアント)は、好ましくは、それぞれの参照配列との100%未満の配列同一性を共有する。
【0043】
前記定義を考慮して、また、明確化のために、好ましくは、配列番号1〜27を含むJNK阻害剤の変化したバリアントでなくてもよい残基(上記定義のa)及びb)を参照されたい)は、表1中で下線を付される。
【0044】
非同一のアミノ酸は、好ましくは、保存的アミノ酸置換の結果である。
【0045】
本明細書で使用される場合、保存的アミノ酸置換は、群のメンバー間での置換が分子の生物活性を保持するような、十分に類似する物理化学的特性を有する群内のアミノ酸残基を含んでもよい(例えば、Grantham, R.(1974)、Science 185、862〜864頁を参照されたい)。特に、保存的アミノ酸置換は、好ましくは、アミノ酸が同じクラスのアミノ酸(例えば、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、極性アミノ酸、脂肪族側鎖を有するアミノ酸、正又は負に荷電した側鎖を有するアミノ酸、側鎖中に芳香族基を有するアミノ酸、水素架橋に進入することができる側鎖、例えば、ヒドロキシル機能を有する側鎖を有するアミノ酸など)を起源とする置換である。保存的置換は、本発明の場合、例えば、塩基性アミノ酸残基(Lys、Arg、His)を別の塩基性アミノ酸残基(Lys、Arg、His)に置換すること、脂肪族アミノ酸残基(Gly、Ala、Val、Leu、Ile)を別の脂肪族アミノ酸残基に置換すること、芳香族アミノ酸残基(Phe、Tyr、Trp)を別の芳香族アミノ酸残基に置換すること、トレオニンをセリンで、又はロイシンをイソロイシンで置換することである。更なる保存的アミノ酸交換は、当業者には公知である。好ましくは、異性体形態を維持するべきであり、例えば、Kは好ましくはR又はHに置換され、kは好ましくはr及びhに置換される。
【0046】
JNK阻害剤バリアントに関する上記定義内の更なる可能な置換は、例えば、以下のものである:
a)配列番号1のX1、X2、X3、X4、X5、X6、X7及び/又はX8の1つ、2つ又はそれ以上若しくは配列番号2〜27から選択されるそれぞれの配列内の対応する位置がA又はaに置換される;
b)配列番号1のX1若しくはX8又は配列番号2〜27から選択されるそれぞれの配列内の対応する位置が欠失される;
c)配列番号1のX5又は配列番号2〜27から選択されるそれぞれの配列内の対応する位置がE、Y、L、V、F又はKである;
d)配列番号1のX5又は配列番号2〜27から選択されるそれぞれの配列内の対応する位置がE、L、V、F又はKである;又は
e)配列番号1のX1、X2、X3の1、2若しくは3つ又は配列番号2〜27から選択されるそれぞれの配列内の対応する位置が天然アミノ酸である。
【0047】
本明細書で使用される用語「配列同一性%」は、以下のように理解する必要がある:配列間の最大相関を得るよう、比較しようとする2つの配列を整列させる。これは、一方又は両方の配列に「ギャップ」を挿入して、アラインメントの程度を増強することを含んでもよい。次いで、同一性%を、比較されるそれぞれの配列の全長にわたって(いわゆるグローバルアラインメント)(これは、同じか、若しくは類似する長さの配列にとって特に好適である)又はより短い規定の長さにわたって(いわゆるローカルアラインメント)決定することができる(これは、等しくない長さの配列にとってより好適である)。上記の状況において、クエリアミノ酸配列に対する少なくとも、例えば、95%の「配列同一性」を有するアミノ酸配列は、対象アミノ酸配列の配列が、対象アミノ酸配列がクエリアミノ酸配列のそれぞれの100アミノ酸あたり最大5個のアミノ酸変化を含んでもよいことを除いて、クエリ配列と同一であることを意味することが意図される。換言すれば、クエリアミノ酸配列に対する少なくとも95%同一の配列を有するアミノ酸配列を得るために、対象配列中の最大5%(100個のうちの5個)のアミノ酸残基を、挿入するか、又は別のアミノ酸で置換するか、又は欠失させてもよい。配列同一性を決定するために、L−アミノ酸のD−アミノ酸への置換(及びその逆)は、それが単に全く同じアミノ酸のD−(又はL−異性体)である場合であっても、非同一の残基をもたらすと考えられる。
【0048】
2つ以上の配列の同一性及び相同性を比較するための方法は、当技術分野で周知である。2つの配列が同一であるパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを使用することによって決定することができる。使用することができる数学的アルゴリズムの好ましいが非限定的な例は、Karlinら(1993)、PNAS USA、90:5873〜5877頁のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、BLASTファミリーのプログラム、例えば、ncbi.nlm.nih.govのワールドワイドウェブサイトのNCBIのホームページを介してアクセス可能なBLAST又はNBLASTプログラム(Altschulら、1990、J.Mol.Biol.215、403〜410頁又はAltschulら(1997)、Nucleic Acids Res、25:3389〜3402頁も参照されたい)及びFASTA(Pearson(1990)、Methods Enzymol.183、63〜98頁;Pearson及びLipman(1988)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 85、2444〜2448頁)中に組み込まれている。ある特定の程度まで他の配列と同一である配列を、これらのプログラムにより同定することができる。更に、Wisconsin Sequence Analysis Package、バージョン9.1(Devereuxら、1984、Nucleic Acids Res.、387〜395頁)中で利用可能なプログラム、例えば、BESTFIT及びGAPプログラムを使用して、2つのポリペプチド配列間の同一性%を決定することができる。BESTFITは、(Smith及びWaterman(1981)、J.Mol.Biol.147、195〜197頁)の「部分的相同性」アルゴリズムを使用し、2つの配列間の類似性の最良の単一領域を発見するものである。
【0049】
確かに、本発明によるJNK阻害剤は、本明細書で定義されるJNK活性を阻害する能力が失われていない限り、上記の阻害的(ポリ)ペプチド配列に加えて、更なる配列又は配列エレメント、ドメイン、標識(例えば、蛍光標識又は放射性標識)、エピトープなどを含んでもよい。例えば、本発明によるJNK阻害剤は、トランスポーター配列を含んでもよい。本明細書で使用される「トランスポーター配列」は、生体膜を横断して結合する分子の転位を提供する(ポリ)ペプチド配列である。したがって、トランスポーター配列を含む本発明によるJNK阻害剤は、好ましくは、生体膜を横断して転位することができる(例えば、コンジュゲートしたカーゴ化合物)。したがって、本発明のそのようなJNK阻害剤は、細胞、細胞内コンパートメント、及び/又は細胞の核により容易に進入することができる。
【0050】
前記トランスポーター配列は、例えば、好ましくは共有結合により、JNK阻害剤の阻害的(ポリ)ペプチド配列のN末端に(例えば、直接的に)又はC末端に(例えば、直接的に)連結することができる。また、トランスポーター配列と阻害的(ポリ)ペプチド配列は、離れた位置にあってもよく、例えば、中間配列又はリンカー配列により隔てられていてもよい。また、特に、JNK阻害剤がより複雑な分子(例えば、いくつかのドメインを含む、多量体コンジュゲートなどである)である場合、トランスポーター配列は、JNK阻害剤分子中の全体として阻害的(ポリ)ペプチド配列とは他の場所に位置してもよいことも企図される。また、トランスポーター配列と阻害的(ポリ)ペプチド配列は重複してもよいことも企図される。しかしながら、JNK阻害的部分のJNK阻害活性を維持する必要がある。そのような重複する場合の例は、以下に更に記載される。
【0051】
本発明のJNK阻害剤と共に使用するためのトランスポーター配列は、限定されるものではないが、HIV TAT(HIV)、例えば、TATタンパク質(例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,804,604号及び第5,674,980号に記載されている)などの天然タンパク質、HSV VP22(単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex))(例えば、WO97/05265;Elliott及びO’Hare、Cell 88:223〜233頁(1997)に記載されている)、非ウイルスタンパク質(Jacksonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10691〜10695頁(1992))に由来するトランスポーター配列、アンテナペディア、特にドロソフィラ・アンテナペディア(Drosophila antennapedia)(例えば、そのアンテナペディア担体配列)、FGF、ラクトフェリンなど、又は塩基性ペプチド、例えば、少なくとも5若しくは少なくとも10若しくは少なくとも15アミノ酸、例えば、5〜15アミノ酸、好ましくは10〜12アミノ酸の長さを有するペプチドに由来するトランスポーター配列から選択することができる。そのようなトランスポーター配列は、好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは85%若しくは更には90%の塩基性アミノ酸、例えば、アルギニン、リシン及び/又はヒスチジンを含むか、又は例えば、VP22に由来する、PTD−4タンパク質若しくはペプチドに由来する、RGD−K
16に由来する、PEPT1/2若しくはPEPT1/2タンパク質若しくはペプチドに由来する、SynB3若しくはSynB3タンパク質若しくはペプチドに由来する、PC阻害剤に由来する、P21由来タンパク質若しくはペプチドに由来する、又はJNK1タンパク質若しくはペプチドに由来する、RRRRRRRRR(R
9;配列番号152)、RRRRRRRR(R
8;配列番号153)、RRRRRRR(R
7;配列番号154)、RRRRRR(R
6、配列番号155)、RRRRR(R
5、配列番号156)などのアルギニンに富むペプチド配列から選択することができる。
【0052】
本発明のJNK阻害剤における使用のためのトランスポーター配列の例は、特に、限定されるものではないが、HIV−1 TATタンパク質に由来する塩基性トランスポーター配列である。好ましくは、HIV−1 TATタンパク質の塩基性トランスポーター配列は、例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,804,604号及び第5,674,980号に記載された、ヒト免疫不全ウイルスHIV−1 TATタンパク質に由来する配列を含んでもよい。この状況において、完全長HIV−1 TATタンパク質は、HIV TAT遺伝子の2個のエクソンによりコードされる86個のアミノ酸残基を有する。TATアミノ酸1〜72はエクソン1によりコードされ、アミノ酸73〜86はエクソン2によりコードされる。完全長TATタンパク質は、2個のリシン及び6個のアルギニンを含有する塩基性領域(アミノ酸49〜57)と、7個のシステイン残基を含有するシステインリッチ領域(アミノ酸22〜37)により特徴づけられる。塩基性領域(すなわち、アミノ酸49〜57)は、核局在化にとって重要であると考えられた。Ruben,S.ら、J.Virol.63:1〜8頁(1989);Hauber,J.ら、J.Virol.63 1181〜1187頁(1989)。システインリッチ領域は、in vitroで金属結合ダイマーの形成を媒介し(Frankel,A.D.ら、Science 240:70〜73頁(1988);Frankel,A.D.ら、Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:6297〜6300頁(1988))、トランス活性化因子としてのその活性にとって必須である(Garcia,J.A.ら、EMBO J.7:3143頁(1988);Sadaie,M.R.ら、J.Virol.63:1頁(1989))。他の調節タンパク質と同様、N末端領域は細胞内プロテアーゼに対する保護に関与してもよい(Bachmair,A.ら、Cell 56:1019〜1032頁(1989))。本発明のJNK阻害剤における使用のための好ましいTATトランスポーター配列は、好ましくは、TAT塩基性領域アミノ酸配列(天然のTATタンパク質のアミノ酸49〜57)の存在;TATシステインリッチ領域アミノ酸配列(天然のTATタンパク質のアミノ酸22〜36)の非存在及びTATエクソン2によりコードされるカルボキシ末端ドメイン(天然のTATタンパク質のアミノ酸73〜86)の非存在により特徴づけられる。より好ましくは、本発明のJNK阻害剤中のトランスポーター配列を、TAT残基48〜57若しくは49〜57を含有するアミノ酸配列又はそのバリアントから選択することができる。
【0053】
好ましくは、所与の本発明のJNK阻害剤中のトランスポーター配列は、例えば、プロテアーゼに対する安定性を改善するために、D−アミノ酸も示す。特に好ましくは、D−及びL−アミノ酸を変化させる特定の順序を示すトランスポーター配列である。D−及びL−アミノ酸を変化させるそのような順序(モチーフ)は、限定されるものではないが、配列番号28〜30のいずれか1つのパターンに従ってもよい:
d
lLLL
xd
mLLL
yd
n(配列番号28);
dLLLd(LLLd)
a(配列番号29);及び/又は
dLLLdLLLd(配列番号30);
(式中、
dはD−アミノ酸であり;
LはL−アミノ酸であり;
aは0〜3、好ましくは0〜2、より好ましくは0、1、2又は3、更により好ましくは0、1、又は2、最も好ましくは1であり;
l、m及びnは互いに独立に1又は2、好ましくは1であり;
x及びyは互いに独立に0、1又は2、好ましくは1である)。
【0054】
D−及びL−アミノ酸の前記順序(モチーフ)は、トランスポーター配列が合成される時、関連するようになる、すなわち、アミノ酸配列(すなわち、側鎖残基の型)は未変化のままであるが、それぞれの異性体は代替される。例えば、HIV TATに由来する公知のトランスポーター配列は、RKKRRQRRR(配列番号43)である。それへの配列番号30のD−/L−アミノ酸順序の適用により、rKKRrQRRr(配列番号46)が得られる。
【0055】
特定の実施形態においては、本発明のJNK阻害剤のトランスポーター配列は、rXXXrXXXr(配列番号31):
(式中、
rはD−鏡像異性アルギニンであり;
Xは任意のL−アミノ酸(グリシンを含む)であり;
それぞれのXは個別に、また配列番号31内の他の任意のXとは独立に選択してもよい)
に記載の少なくとも1つの配列を含んでもよい。好ましくは、配列番号31内の前記6個のXのL−アミノ酸のうちの少なくとも4個は、K又はRである。別の実施形態においては、本発明によるJNK阻害剤は、トランスポーター配列rX
1X
2X
3rX
4X
5X
6r(配列番号32)(式中、X
1はKであり、X
2はKであり、X
3はRであり、X
4、X
5及びX
6は互いに独立に選択される任意のL−アミノ酸(グリシンを含む)である)を含む。同様に、本発明によるJNK阻害剤のトランスポーター配列は、配列rX
1X
2X
3rX
4X
5X
6r(配列番号33)(式中、X
4はQであり、X
5はRであり、X
6はRであり、X
1、X
2及びX
3は互いに独立に選択される任意のL−アミノ酸(グリシンを含む)である)を含んでもよい。本発明のJNK阻害剤はまた、配列rX
1X
2X
3rX
4X
5X
6r(配列番号34)(式中、1、2、3、4、5又は6個のXアミノ酸残基は、X
1がKであり、X
2がKであり、X
3がRであり、X
4がQであり、X
5がRであり、X
6がRである、からなる群から選択されるが、上記の基から選択されなかった残りのXアミノ酸残基は任意のL−アミノ酸(グリシンを含む)であってもよく、互いに独立に選択される。X
1は、次いで、好ましくはYであり、及び/又はX
4は好ましくはK若しくはRである。
【0056】
本発明のJNK阻害剤分子中での使用のためのトランスポーター配列の例を、限定されるものではないが、以下の表2に与えられる配列(配列番号31〜170)又はその任意の断片若しくはバリアント若しくは化学的に改変された誘導体(好ましくは、それは生体膜を横断して転位する機能を保持する)から選択することができる。
【0057】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0058】
上記のように、トランスポーター配列を、表2の上記配列の断片又はバリアントから選択することもできる(但し、そのような断片又はバリアントは、好ましくは生体膜を横断する転位を提供する機能を保持する)。この特定の状況において、これらのトランスポーター配列のバリアント及び/又は断片は、好ましくは、表2に定義されたそのようなトランスポーター配列との、配列の全長にわたって、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するペプチド配列を含む。この特定の状況において、表2に定義されたトランスポーター配列の「断片」は、好ましくは、そのトランケートされた配列、すなわち、元の配列のアミノ酸配列と比較してN末端、C末端及び/又は配列内的にトランケートされたアミノ酸配列と理解されるべきである。
【0059】
更に、上記で定義されたトランスポーター配列又はその断片の「バリアント」は、好ましくは、バリアントのアミノ酸配列が、1つ又は複数の置換(又は必要に応じて、挿入及び/又は欠失)されたアミノ酸などの、1つ又は複数の突然変異において、本明細書に定義される元のトランスポーター配列又はその断片と異なる配列と理解されるべきである。好ましくは、上記に定義されたそのようなトランスポーター配列のバリアントは、それぞれの元の配列と比較して同じ生物学的機能又は特異的活性を有する、すなわち、例えば、細胞又は核への輸送を提供する。この状況において、上記で定義されたそのようなトランスポーター配列のバリアントは、例えば、約1〜50、1〜20、より好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜5、4、3、2又は1個のアミノ酸の変更を含んでもよい。上記で定義されたそのようなトランスポーター配列のバリアントは、好ましくは、保存的アミノ酸置換を含んでもよい。保存的アミノ酸置換の概念は、当技術分野で公知であり、JNK阻害的(ポリ)ペプチド配列について既に上記されており、したがって、ここでも適用される。
【0060】
本発明のJNK阻害剤中に組み込まれるトランスポーター配列の長さは変化してもよい。一部の実施形態においては、本発明によるJNK阻害剤のトランスポーター配列は150個未満、140個未満、130個未満、120個未満、110個未満、100個未満、90個未満、80個未満、70個未満、60個未満、50個未満、40個未満、30個未満、20個未満、及び/又は10個未満のアミノ酸長であることが企図される。
【0061】
当業者は、特定のトランスポーター配列が本発明によるJNK阻害剤の状況において依然として機能的であるかどうかを、容易に決定することができる。例えば、トランスポータードメインを含むJNK阻害剤を、細胞中で容易に検出することができる標識、例えば、GFPなどの蛍光タンパク質、放射性標識、酵素、フルオロフォア、エピトープなどに融合することができる。次いで、トランスポーター配列と標識とを含むJNK阻害剤を、細胞中にトランスフェクトするか、又は培養上清に添加し、生物物理学的及び生化学的な標準的な方法(例えば、フローサイトメトリー、(免疫)蛍光顕微鏡など)を使用することにより、細胞膜の透過をモニタリングすることができる。
【0062】
トランスポーター配列を含む本発明によるJNK阻害剤の特定例を、表3に記載する。
【0064】
上記のように、本発明の特定の実施形態においては、トランスポーター配列と阻害的(ポリ)ペプチド配列は重複してもよい。換言すれば、トランスポーター配列のN末端は阻害的(ポリ)ペプチド配列のC末端と重複してもよく、又はトランスポーター配列のC末端は阻害的(ポリ)ペプチド配列のN末端と重複してもよい。後者の実施形態が特に好ましい。好ましくは、トランスポーター配列は、1、2又は3個のアミノ酸残基により、阻害的(ポリ)ペプチド配列と重複する。そのようなシナリオにおいては、所与のトランスポーター配列は、1位(X1)、1位及び2位(X1、X2)、1位、2位及び3位(X1、X2、X3)で配列番号1又はその対応するバリアントと重複してもよい。
【0065】
配列番号174、175、178、179、180、181、182、183、184、188、189及び190は、トランスポーター配列と阻害的(ポリ)ペプチド配列とが重複する本発明によるJNK阻害剤の例であり、例えば、
rKKRrQRRrRPTTLNLf(配列番号174)は、配列番号46(下線部)と配列番号11(斜体部)の重複である。
【0066】
本発明のJNK阻害剤は、配列番号171〜190に記載のJNK阻害剤のいずれか1つのバリアントであるJNK阻害剤から選択することもできる。好ましくは、そのようなバリアントは、配列番号171〜190、特に配列番号172の配列と少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するが、但し、配列番号171〜190の前記配列内の阻害的(ポリ)ペプチド配列(配列番号1の参照阻害的(ポリ)ペプチド配列及び配列番号2〜27の特定例を参照されたい)に関して、そのような配列は、
a)阻害的(ポリ)ペプチド配列内の4位にL−アルギニン(R)残基を維持する、
b)阻害的(ポリ)ペプチド配列内の8位及び10位(配列番号25〜27に関しては7位及び9位)に2個のL−ロイシン(L)残基を維持する、
c)配列番号1のX1、X2、X3、X5、X7及び/又はX8からなる群から選択されるアミノ酸に対応するそれぞれの位置及び配列番号2〜27中のそれぞれの位置で少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個又は6個のD−アミノ酸を示す、より好ましくは、配列番号1のX3、X5、X7及びX8からなる群から選択されるアミノ酸に対応する位置及び配列番号2〜27中のそれぞれの位置で少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個又は4個のD−アミノ酸を示す、並びに
d)JNK活性を阻害する(すなわち、本明細書で定義されるJNK阻害剤である)、
配列同一性を有する。
【0067】
前記定義を考慮して、また、明確化のために、好ましくは配列番号171〜190を含むJNK阻害剤のバリアント中で変更されない残基(上記定義におけるa)及びb)を参照されたい)は、表3中で下線を付される。
【0068】
配列番号171〜190を含むJNK阻害剤のバリアント中の非同一のアミノ酸は、好ましくは、保存的アミノ酸置換の結果である(上記を参照されたい)。確かに、上記の更なる可能な置換もまた、配列番号171〜190を含むJNK阻害剤のバリアントについて企図される。同様に、本発明は確かに、阻害的(ポリ)ペプチド配列中にない、又は阻害的(ポリ)ペプチド配列中に限定されない元の配列に由来するが、トランスポーター配列中にバリアント残基を示す、配列番号171〜190に記載のJNK阻害剤のいずれか1つのバリアントも企図する。トランスポーター配列のバリアント及び断片について、本明細書のそれぞれの開示が関連する。
【0069】
前記したように、本発明によるJNK阻害剤のトランスポーター配列及びJNK阻害的(ポリ)ペプチド配列は、必ずしも互いに直接連結されるとは限らない。それらを、例えば、中間配列又は連結(ポリ)ペプチド配列によって連結することもできる。阻害的(ポリ)ペプチド配列と、トランスポーター配列などの他の(機能的)配列とを分離する好ましい中間配列又は連結配列は、ヘキサマー、ペンタマー、テトラマー、トリペプチド又はジペプチド又は単一のアミノ酸残基のような、10アミノ酸長未満の短いペプチド配列からなる。特に好ましい中間配列は、全てL−アミノ酸形態のみであるか、若しくはD−アミノ酸形態のみであるか、又はD−アミノ酸とL−アミノ酸が混合した、1、2又はそれ以上のコピーのジ−プロリン、ジ−グリシン、ジ−アルギニン及び/又はジ−リシンである。あるいは、他の公知のペプチドスペーサー又はリンカー配列を同様に用いることができる。
【0070】
本発明による特に好ましいJNK阻害剤は、配列番号8(又は上記で更に定義された範囲及び制限を有する、配列番号8との配列同一性を共有する配列)と、トランスポーター配列とを含む。トランスポーター配列は、好ましくは、配列番号31〜170のいずれか1つ又は本明細書で定義されたそのバリアント、更により好ましくは、配列番号31〜34及び配列番号46〜151のいずれか1つから選択される。本発明によるJNK阻害剤の特に好ましい実施形態は、配列番号8と配列番号46(又は上記で定義された範囲及び制限内でそれに対するそれぞれの配列同一性を共有する配列)を含むJNK阻害剤である。好ましい例は、本明細書で定義されるトランスポーター配列及び/又は阻害的(ポリ)ペプチド配列において変化する配列番号172の配列又はそのそれぞれのバリアントを含むJNK阻害剤である。
【0071】
更なる態様において、本発明は、
a)RPTTLNLF(配列番号191)、KRPTTLNLF(配列番号192)、RRPTTLNLF及び/又はRPKRPTTLNLF(配列番号193)からなる配列群から選択される配列を含む阻害的(ポリ)ペプチドと、
b)トランスポーター配列、好ましくは、表2に開示されたトランスポーター配列又はそのバリアント/断片から選択される、更により好ましくは、配列番号31〜34及び配列番号46〜151又はそのそれぞれのバリアント若しくは断片から選択されるトランスポーター配列と
を含むJNK阻害剤に関する。
【0072】
トランスポーター配列と阻害的(ポリ)ペプチド配列は重複してもよい。本発明の前記実施形態のための好ましいトランスポーター配列は、特に、好ましくは、阻害的(ポリ)ペプチド配列のN末端に(共有的に)連結された(例えば、直接的に)、配列番号46のトランスポーター配列である。
【0073】
本発明のJNK阻害剤はまた、配列GRKKRRQRRRPPKRPTTLNLFPQVPRSQD(配列番号194)、又は配列GRKKRRQRRRPTTLNLFPQVPRSQD(配列番号195)を含むか、又はそれからなるJNK阻害剤であってもよい。
【0074】
更なる態様において、本発明は、rKKRrQRr(配列番号148)、rKKRrQRrK(配列番号149)、及び/又はrKKRrQRrR(配列番号150)からなる配列群から選択されるトランスポーター配列を含む(ポリ)ペプチドに関する。
【0075】
本明細書で使用される場合、本明細書に開示される配列又は所与の配列番号を「含む」は、通常、(少なくとも)1コピーの前記配列が、例えば、JNK阻害剤分子中に存在することを意味する。例えば、1つの阻害的(ポリ)ペプチド配列は通常、JNK活性の十分な阻害を達成するのに十分なものである。しかしながら、得られる分子がJNK活性を阻害する全体的な能力が無効化されない限り(すなわち、それぞれの分子が依然として本明細書に定義されるJNK阻害剤である限り)、2コピー以上のそれぞれの配列(例えば、異なるか、若しくは同じ型の2コピー以上の阻害的(ポリ)ペプチド配列及び/又は異なるか、若しくは同じ型の2コピー以上のトランスポーター配列)を、本発明の(ポリ)ペプチドのために用いることができることが本発明によって企図される。
【0076】
本発明のJNK阻害剤は、当技術分野で周知の方法、例えば、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)戦略を使用する固相ペプチド合成による化学的合成、すなわち、Fmoc脱保護とFmoc−アミノ酸カップリングのサイクルの連続周回により取得又は生成することができる。そのようなペプチド合成を提供する市販のサービスは、多くの会社、例えば、PolyPeptide社(Straβboug、France)によって提供されている。
【0077】
本発明による使用のためのJNK阻害剤は、任意選択で、特に、阻害的(ポリペプチド)配列のアミノ酸残基で更に改変してもよい。可能な改変は、例えば、
(i)放射性標識、すなわち、放射性リン酸化又は硫黄、水素、炭素、窒素などを用いる放射性標識;
(ii)有色色素(例えば、ジゴキシゲニンなど);
(iii)蛍光基(例えば、フルオレセインなど);
(iv)化学発光基;
(v)固相上への固定のための基(例えば、His−タグ、ビオチン、ストレプタグ、フラッグタグ、抗体、エピトープなど);
(vi)PEG化;
(vii)グリコシル化;
(viii)ヘシル化;
(ix)プロテアーゼ切断部位(例えば、JNK阻害剤の制御放出のため);
(x)ペプチド主鎖改変(例えば、(ΨCH
2−NH)結合);
(xi)アミノ酸側鎖残基の保護;
(xii)N−及び/又はC−末端の保護(例えば、N末端アミド化又はC末端アセチル化);
(xiii)(i)〜(xii)の下で記載された2つ以上の要素の組合せ
からなる群の項目(i)〜(xiii)の1つ又は複数から選択することができる。
【0078】
(i)〜(xi)から選択される改変及び(i)〜(xi)の下で記載された2つ以上の要素の組合せが特に好ましい。この状況において、本発明は、更なる態様において、(i)〜(xi)から選択される改変で改変された、又は(i)〜(xi)の下で記載された2つ以上の要素の組合せで改変された本明細書に開示されるJNK阻害剤、及びそのような改変されたJNK阻害剤を含む医薬組成物(以下を参照)に関する。
【0079】
医薬組成物
本発明に従って定義されたJNK阻害剤を、本明細書に定義される任意の疾患の予防又は治療において適用することができる医薬組成物に製剤化することができる。典型的には、本発明に従って使用されるそのような医薬組成物は、活性成分として、本明細書に定義されるJNK阻害剤、特に、本明細書に定義される、配列番号1による阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むか、又はそれからなるJNK阻害剤を含む。好ましくは、活性化合物は、任意選択で、任意の好適なトランスポーター配列との(共有的)コンジュゲーション(リンカー配列を介する、又はそれを用いない)にある、配列番号2〜27のいずれか1つの阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むか、又はそれからなるJNK阻害剤である;トランスポーター配列が結合される場合、配列番号171〜190のいずれか1つに記載の配列のいずれか、又は本明細書で定義されるそのバリアント、好ましくは、配列番号172の配列、又は本明細書で定義されるそのバリアントを選択することができる。
【0080】
本発明の発明者らは、本明細書で定義されるJNK阻害剤が、特に、トランスポーター配列に融合された場合、本発明の疾患に関与する細胞中への特に顕著な取込み率を示すことを更に見出した。したがって、対象に投与される医薬組成物中のJNK阻害剤の量を、限定されるものではないが、その組成物内で低用量に基づいて用いることができる。したがって、投与される用量は、DTS−108などの、当技術分野で公知のペプチド薬(Florence Meyer−Losicら、Clin Cancer Res.、2008、2145〜53頁)についてよりもはるかに低いものであってもよい。それにより、例えば、潜在的な副反応の軽減及び費用の軽減が、本発明の(ポリ)ペプチドによって達成される。
【0081】
好ましくは、例えば、対象に1日ベースで投与される(体重1kgあたりの)用量は、約10mmol/kgまで、好ましくは約1mmol/kgまで、より好ましくは約100μmol/kgまで、更により好ましくは約10μmol/kgまで、更により好ましくは約1μmol/kgまで、更により好ましくは約100nmol/kgまで、最も好ましくは約50nmol/kgまでの範囲にある。
【0082】
したがって、用量範囲は、好ましくは、約0.01pmol/kg〜約1mmol/kg、約0.1pmol/kg〜約0.1mmol/kg、約1.0pmol/kg〜約0.01mmol/kg、約10pmol/kg〜約1μmol/kg、約50pmol/kg〜約500nmol/kg、約100pmol/kg〜約300nmol/kg、約200pmol/kg〜約100nmol/kg、約300pmol/kg〜約50nmol/kg、約500pmol/kg〜約30nmol/kg、約250pmol/kg〜約5nmol/kg、約750pmol/kg〜約10nmol/kg、約1nmol/kg〜約50nmol/kg、又は前記値のいずれか2つの組合せであってもよい。
【0083】
この状況において、上記医薬組成物を使用する場合の処置の処方、例えば、用量に関する決定などは、典型的には、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内にあり、典型的には、処置される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与方法及び医師に公知の他の因子を考慮に入れる。上記の技術及びプロトコールの例は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、第16版、Osol,A.(編)、1980に見出すことができる。したがって、本発明に従って使用される医薬組成物の成分に関する「安全かつ有効な量」は、本明細書に定義されるJNKシグナリングと強く関連する疾患又は障害の正の改変を有意に誘導するのに十分である、これらの化合物の各々又は全部の量を意味する。しかしながら、同時に、「安全かつ有効な量」は、重篤な副作用を回避する、すなわち、利益とリスクとの合理的な関係を許容する程度に十分に少ないものである。これらの限界の決定は、典型的には、合理的な医学的判断の範囲内にある。そのような成分の「安全かつ有効な量」は、付随する医師の知識及び経験の範囲内で、処置しようとする特定の状態、また、処置しようとする患者の年齢及び身体状態、状態の重症度、処置の期間、付随する療法の性質、使用される特定の薬学的に許容される担体の性質、並びに同様の因子に関連して変化する。本発明による医薬組成物は、ヒトのために、また、獣医学的目的のために本発明に従って使用することができる。
【0084】
本発明に従って使用される医薬組成物は、1つ又は複数のJNK阻害剤に加えて、当業者に周知の(適合性の)薬学的に許容される担体、賦形剤、バッファー、安定剤又は他の材料を更に含んでもよい。
【0085】
これに関連して、「(適合性の)薬学的に許容される担体」という表現は、好ましくは、液体又は非液体ベースの組成物を含む。用語「適合性」とは、本明細書で使用される医薬組成物の構成要素が、通常の使用条件下で組成物の薬学的有効性を実質的に低下させる相互作用が起こらないような様式で、上記に定義された薬学的に活性な成分及び1つの別の成分と混合され得ることを意味する。薬学的に許容される担体は、勿論、それらを、処置される人への投与にとって好適なものにするのに十分に高い純度及び十分に低い毒性を有する必要がある。
【0086】
本明細書で使用される医薬組成物が液体形態にある場合、薬学的に許容される担体は、典型的には、1つ又は複数の(適合性の)薬学的に許容される液体担体を含む。組成物は、(適合性の)薬学的に許容される液体担体として、例えば、発熱源を含まない水;等張性食塩水、すなわち、0.9%NaClの溶液、又は緩衝化(水性)溶液、例えば、リン酸緩衝溶液、クエン酸緩衝溶液など、例えば、ラッカセイ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及びカカオ由来油などの植物油;例えば、ポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコールなどのポリオール;アルギン酸などを含んでもよい。特に、本明細書で使用される医薬組成物の注射及び/又は輸注のために、バッファー、好ましくは、水性バッファー、及び/又は0.9%NaClを使用することができる。
【0087】
本明細書で使用される医薬組成物が固体形態で提供される場合、薬学的に許容される担体は、典型的には、1つ又は複数の(適合性の)薬学的に許容される固体担体を含む。組成物は、(適合性の)薬学的に許容される固体担体として、例えば、1つ若しくは複数の適合性の固体若しくは液体充填剤若しくは希釈剤を含んでもよく、又は人への投与にとって好適である、封入化合物を同様に使用することができる。そのような(適合性の)薬学的に許容される固体担体のいくつかの例は、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;例えば、トウモロコシデンプン又はジャガイモデンプンなどのデンプン;例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;粉末化トラガカント;モルト;ゼラチン;獣脂;例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムなどの固形流動促進剤;硫酸カルシウムなどである。
【0088】
(適合性の)薬学的に許容される担体又は他の材料の正確な性質は、投与経路に依存してもよい。(適合性の)薬学的に許容される担体の選択は、したがって、原理的には本発明に従って使用される医薬組成物が投与される様式によって決定することができる。様々な可能な投与経路は、参照により本明細書に組み込まれるFDAの「投与経路」一覧(FDA:Data Standards Manual − Drug Nomenclature Monographs − Monograph Number:C−DRG−00301;Version Number 004)に列挙されている。特に、非ヒト動物のための適切な投与経路を選択するための更なる指針を、これも参照により本明細書に組み込まれる、Turner PVら(2011) Journal of the American Association for Laboratory Animal Science、Vol.50、No 5、600〜613頁に見出すことができる。投与経路に関する好ましい例としては、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、若しくは経皮経路などの非経口経路(例えば、注射による)、又は経口、若しくは直腸経路などの経腸経路、経鼻、若しくは鼻内経路などの局部経路、又は表皮経路若しくはパッチ送達などの他の経路が挙げられる。また、(特に、眼に関連する疾患については)滴下、硝子体内、及び結膜下投与も企図される。同様に、投与は、例えば、耳に関連する疾患を処置する場合はいつでも、鼓室内で行ってもよい。
【0089】
本発明に従って使用される医薬組成物は、例えば、全身的に投与することができる。一般に、全身投与のための経路としては、例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、皮下、皮内、経皮、又は経粘膜経路などの非経口経路(例えば、注射及び/又は輸注による)、並びに経口、消化管又は直腸経路などの経腸経路(例えば、錠剤、カプセル、坐剤として、栄養管、胃瘻造設術による)が挙げられる。全身投与により、システム全体の作用を達成することができ、非常に都合のよいことが多いが、状況に応じて、望ましくない「副作用」も誘発し得る、及び/又は局所投与と比較してより高濃度の本発明によるJNK阻害剤が必要となり得る。全身投与は一般に、そのシステム全体の作用のため、本明細書に記載の疾患/障害の予防及び/又は治療にとって適用可能である。全身投与の好ましい経路は、静脈内、筋肉内、皮下、経口及び直腸投与であり、静脈内及び経口投与が特に好ましい。
【0090】
本発明に従って使用される医薬組成物は、例えば、局部的、例えば、局所的に投与することもできる。局所投与は、典型的には、皮膚又は粘膜などの体表面への適用を指すが、より一般的な用語「局部投与」は、身体の特定の部分での、及び/又はそれへの適用を更に含む。局所適用は、本明細書に定義される皮膚及び/又は皮下組織の疾患及び/又は障害並びにある特定の口腔疾患及び/又は粘膜と関連する、若しくは粘膜によって接近可能である疾患の治療及び/又は予防にとって特に好ましい。
【0091】
局部投与のための経路としては、例えば、経鼻、又は鼻内経路などの吸入経路、眼科用薬物及び耳用薬物、例えば、点眼薬及び点耳薬、体内の粘膜を介する投与など、又は表皮経路、経皮経路(皮膚への適用)又はパッチ送達などの他の経路、並びに他の局部適用、例えば、治療しようとする臓器又は組織への注射及び/又は輸注などが挙げられる。局部投与においては、副作用は典型的には大部分回避される。ある特定の投与経路、例えば、吸入は、局部効果と全身効果の両方を提供することができることは注目すべきである。
【0092】
本発明に従って使用される医薬組成物のための投与経路を、予防又は治療しようとする疾患/障害に応じて、望ましい適用位置に従って選択することができる。
【0093】
例えば、経腸投与は、適用位置としての消化管を指し、経口(p.o.)、消化管及び直腸投与を含み、それにより、これらのものは典型的には全身投与経路であり、一般に、本明細書に記載の疾患の予防/治療に適用可能である。更に、本明細書に記載される消化管の疾患/障害、例えば、消化管の炎症疾患、代謝疾患、特に、消化管のがん及び腫瘍疾患などを予防及び/又は治療するためには、経腸投与が好ましい。例えば、経口経路は通常、患者にとって最も簡便であり、かかる費用が最も低い。したがって、経口投与は、適用可能な場合、簡便な全身投与として好ましい。経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末又は液体形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンなどの上記で定義された固体担体と、任意選択でアジュバントとを含んでもよい。経口投与のための液体医薬組成物は一般に、水、鉱油、動物又は植物油、鉱油又は合成油などの、上記で定義された液体担体を含んでもよい。生理食塩溶液、デキストロース又は他のサッカリド溶液又はエチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含有させてもよい。
【0094】
更に、経腸投与はまた、腸に達しない消化管に近い適用位置、例えば、舌下、唇下、頬又は歯肉内適用も含む。そのような投与経路は、口腔病学、すなわち、本明細書に開示されるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防することができる口腔の疾患/障害、例えば、一般的な歯髄炎、特に、急性歯髄炎、慢性歯髄炎、増殖性歯髄炎、潰瘍性歯髄炎、不可逆性歯髄炎及び/又は可逆性歯髄炎;インプラント周囲炎;一般的な歯周炎、特に、慢性歯周炎、複合歯周炎、単純歯周炎、侵攻性歯周炎、及び/又は例えば、歯髄起源の根尖性歯周炎;歯周症、特に、若年性歯周炎;一般的な歯肉炎、特に、急性歯肉炎、慢性歯肉炎、プラーク性歯肉炎、及び/又は非プラーク性歯肉炎;歯冠周囲炎、特に、急性及び慢性歯冠周囲炎;唾液腺炎;耳下腺炎、特に、感染性耳下腺炎及び自己免疫性耳下腺炎;一般的な口内炎、特に、アフタ性口内炎(例えば、マイナー若しくはメジャー)、ベドナーアフタ、再発性壊死性粘膜腺周囲炎、再発性アフタ性潰瘍、疱疹状口内炎、壊疽性口内炎、義歯性口内炎、潰瘍性口内炎、水疱性口内炎及び/又は歯肉口内炎;粘膜炎、特に、抗新生物療法に起因する、(他の)薬物に起因する、若しくは放射線に起因する粘膜炎、潰瘍性粘膜炎及び/又は口腔粘膜炎;一般的な口唇炎、特に、唇のひび割れ、光線口唇炎、口角炎、湿疹性口唇炎、感染性口唇炎、肉芽腫性口唇炎、薬物関連口唇炎、剥脱性口唇炎、腺性口唇炎、及び/又は形質細胞性口唇炎;特に、口腔及び/又は口唇の蜂巣炎(細菌感染);剥離性障害、特に、剥離性歯肉炎;並びに/又は顎関節障害における適用にとって好ましい。これらの投与経路によって本発明に従って治療及び/又は予防される特に好ましい疾患は、歯周炎、特に、慢性歯周炎、粘膜炎、口腔剥離性障害、口腔扁平苔癬、尋常性天疱瘡、歯髄炎、口内炎、顎関節障害、及びインプラント周囲炎から選択される。
【0095】
例えば、歯茎(歯肉)への注射による、例えば、歯肉内投与が、例えば、歯周炎を予防及び/又は治療するための口腔病学適用において好ましい。例えば、口腔の障害/疾患、特に、歯周炎を、100ng/kg〜100mg/kg、好ましくは、10μg/kg〜10mg/kgの(体重1kgあたり)用量の本発明によるJNK阻害剤を含む上記で定義された医薬組成物の舌下、唇下、頬又は歯肉内適用、特に、歯肉内適用によって予防又は治療することができる。
【0096】
あるいは、本明細書に記載の口腔の疾患を、本明細書に開示されるJNK阻害剤又はそれぞれの医薬組成物の全身投与、好ましくは、局所投与によって治療及び/又は予防することもできる。
【0097】
更に、経腸投与はまた、厳密な経腸投与、すなわち、腸への直接的投与も含み、全身並びに局部投与のために用いることができる。
【0098】
更に、本発明による疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療において使用される、本発明によるJNK阻害剤は、中枢神経系(CNS)に投与することができる。そのような投与経路は、特に、硬膜外(ペリデュラル)、CSF内(脳脊髄液内)、脳室内(イントラベントリキュラー)、くも膜下及び大脳内投与、例えば、特定の脳領域への投与を含み、それにより、血液脳関門に関する問題を回避することができる。処置しようとする疾患/障害が本明細書で特定される神経疾患、神経系疾患及び/又は神経変性疾患である場合、そのようなCNS投与経路が好ましい。
【0099】
更に、本発明による疾患及び/又は障害の予防及び/又は治療において使用される、本発明によるJNK阻害剤は、眼に、眼の中に、又は眼の上に投与することができる。そのような投与経路は、局所、例えば、結膜上に適用される点眼、並びに、例えば、注射、輸注及び/又は滴下による硝子体内(IVT)、結膜下、及び後方強膜近傍(posterior juxtascleral)投与並びに/又は局部持続放出薬物送達(例えば、結膜下経路の場合)を含み、それにより、点眼(局所適用のため)、硝子体内(IVT)及び結膜下投与経路が特に好ましい。結膜下経路は、硝子体内経路よりも安全で侵襲性が低いが、硝子体内経路は、結膜及び眼窩の血管及び組織の存在のため、結膜下経路よりも全身曝露が少ない。
【0100】
眼への/眼の中への局部投与は、本明細書に開示される治療及び/又は予防しようとする眼に関連する疾患/障害、例えば、特に、滲出型又は非滲出型の加齢黄斑変性(AMD);網膜色素線条;前部虚血性視神経症;前部ブドウ膜炎;白内障、特に、加齢型白内障;中心性滲出性脈絡網膜症;中心性漿液性網脈絡膜症;霰粒腫;先天性脈絡膜欠如;脈絡膜炎;脈絡膜硬化症;結膜炎;毛様体炎;糖尿病性網膜症;ドライアイ症候群;眼内炎;上強膜炎;眼感染症;白点状眼底;脳回転状網膜脈絡膜萎縮;麦粒腫;眼瞼の炎症疾患;脈絡膜の炎症疾患;毛様体の炎症疾患;結膜の炎症疾患;角膜の炎症疾患;虹彩の炎症疾患;涙腺の炎症疾患;眼窩骨の炎症疾患;強膜の炎症疾患;硝子体の炎症疾患;ブドウ膜の炎症疾患;網膜の炎症疾患;中間部ブドウ膜炎;虹彩炎(irititis);角膜炎;レーバー病;多巣性脈絡膜炎;眼筋の筋炎;新生血管黄斑症(例えば、高度近視、傾斜乳頭症候群、脈絡膜骨腫などにより引き起こされる);NMDA誘導性網膜毒性;非慢性又は慢性炎症性眼疾患;小口病;視神経疾患;眼窩蜂巣炎;全眼球炎;全ブドウ膜炎;後発白内障;後嚢混濁(PCO)(白内障術後合併症);後部ブドウ膜炎;眼内炎症、特に、術後眼内炎症;増殖性硝子体網膜症;網膜動脈閉塞;網膜剥離;網膜疾患;網膜傷害;網膜細動脈瘤;網膜色素上皮剥離;網膜静脈閉塞;網膜炎;網膜色素変性;白点状網膜炎;網膜症、特に、未熟児網膜症及び糖尿病性網膜症;強膜炎;スタルガルト病;炎症化した眼外傷及び/又は眼外傷端部の処置;眼の手術又は外傷後の眼内炎症の処置;ブドウ膜炎;卵黄様黄斑ジストロフィーなどにとって特に好ましい。
【0101】
ドライアイの処置のために、涙液欠乏性ドライアイ又は涙液蒸発性ドライアイ疾患に対処するのが好ましい。涙液欠乏性ドライアイは、シェーグレン症候群ドライアイ又は非シェーグレン症候群ドライアイを指してもよい。非シェーグレン症候群ドライアイは、一次若しくは二次涙腺機能不全又は涙腺管の閉塞により引き起こされ得る。涙液蒸発性ドライアイは、内在性の原因、例えば、マイボーム腺機能不全、低い瞬目率若しくは瞼裂の障害、又は外来性の原因、例えば、眼表面障害、レンズ着用若しくはアレルギー性鼻炎を有し得る。特に、シェーグレン又は非シェーグレンドライアイ症候群は、本発明によって処置される。
【0102】
特に、ドライアイ症候群、ブドウ膜炎、特に、前部及び/又は後部ブドウ膜炎、加齢黄斑変性(AMD)、特に、滲出型及び非滲出型のAMD、網膜症、特に、未熟児網膜症及び糖尿病性網膜症、並びに術後又は外傷後の眼炎症、特に、術後又は外傷後の眼内炎症は、好ましくは、滴下、例えば、点眼薬による眼の中への及び/又は眼の上への局部投与並びに/又は例えば、注射若しくは滴下による硝子体内及び/又は結膜下投与により、本発明に従って使用されるJNK阻害剤によって予防及び/又は治療される。滴下投与、例えば、点眼薬、及び/又は例えば、注射による結膜下投与は、好ましい投与経路である。
【0103】
これらの投与経路について、特に、滴下、例えば、点眼薬、硝子体内及び/又は結膜下投与について、本発明によるそれぞれの医薬組成物は、好ましくは、10ng〜100mg、より好ましくは100ng〜10mg、更により好ましくは1μg〜5mg、特に好ましくは100μg〜1mgの範囲、例えば、0.1、0.2又は0.4mgの眼あたりの用量の本発明によるJNK阻害剤、好ましくは、配列番号172の配列に記載のJNK阻害剤を含む。そのような用量の単回投与又はより多くの投与、特に、2、3、4若しくは5回投与が好ましく、その後の用量を処置スケジュールの異なる日に投与することができる。
【0104】
例えば、ヒトにおける硝子体内及び/又は結膜下投与については、JNK阻害剤の単回用量(眼あたり)は、好ましくは、1μg〜5mg、好ましくは50μg〜1.5mg、より好ましくは500μg〜1μg、最も好ましくは800μg〜1mgの範囲にある。特に、結膜下注射のための注射容量は、例えば、100μl〜500μl、例えば、250μlであってもよい。
【0105】
ヒトにおける滴下、例えば、点眼薬については、JNK阻害剤の単回用量(眼あたり)は、好ましくは、1μg〜5mg、好ましくは10μg〜1.5mg、より好ましくは50μg〜1mg、最も好ましくは100μg〜600μgの範囲にある。滴下による治療及び/又は予防においては、単回用量又は反復用量は、数週間、好ましくは2〜4週間、より好ましくは3週間にわたって、好ましくは、毎日、例えば、1日2〜4回を毎日、好ましくは1日3回を毎日投与することができる。そのような投与は、例えば、ドライアイ症候群を治療及び/又は予防するのに特に有用である。
【0106】
特に、点眼薬としての局所眼投与については、必要に応じて、両眼又は一方の眼のみに適用することができ、本発明によるJNK阻害剤を含む医薬組成物は、典型的には、溶液、好ましくは、例えば、(滅菌)0.9%NaClを含む眼科用溶液である。そのような医薬組成物は、特に、0.001%〜10%の本明細書に記載のJNK阻害剤、好ましくは0.01%〜5%の本明細書に記載のJNK阻害剤、より好ましくは0.05%〜2%の本明細書に記載のJNK阻害剤、更により好ましくは0.1%〜1%の本明細書に記載のJNK阻害剤を含む。前記点眼薬は、1回又は反復的に投与してもよく、反復投与が好ましい。一般に、投与は、必要性に依存し、例えば、要求に応じてもよい。反復投与においては、後の用量を、処置スケジュールの異なる日に投与してもよく、同じ日に、単回用量又は1回より多い単回用量、特に、2、3、4又は5、好ましくは2又は3回用量を投与してもよく、そのような反復投与は、好ましくは、1又は複数の時間、例えば、2、3、4、5、6、7又は8時間の間隔を空ける。
【0107】
更に、本明細書に記載の眼疾患は、勿論、本発明によるJNK阻害剤の全身適用によって治療及び/又は予防することもできる(本明細書に記載の他の疾患/障害にも適用される)。眼疾患における全身投与、特に、静脈内投与のための用量は、好ましくは、0.001mg/kg〜10mg/kg、より好ましくは0.01mg/kg〜5mg/kg、更により好ましくは0.1mg/kg〜2mg/kgの範囲である。そのような用量は、例えば、ブドウ膜炎を治療及び/又は予防するのに特に有用であり、処置スケジュールは単回用量又は反復用量を含んでもよく、後の用量を処置スケジュールの異なる日に投与してもよい。
【0108】
例えば、ブドウ膜炎の治療及び/又は予防において、特に、静脈内で、1回より多い用量を適用する場合、その用量は、典型的には、少なくとも1日の間隔、好ましくは少なくとも2日の間隔、より好ましくは少なくとも3日の間隔、更により好ましくは少なくとも4日、少なくとも5日、又は少なくとも6日の間隔、特に好ましくは少なくとも1週間の間隔、最も好ましくは少なくとも10日の間隔を空ける。
【0109】
典型的には、予防及び/又は治療しようとする疾患並びにそれぞれの薬物動態に従って選択される、本発明によるJNK阻害剤の使用のための他の投与経路としては、限定されるものではないが、例えば、特に、乾癬、湿疹、皮膚炎、座瘡、口腔内潰瘍、紅斑、扁平苔癬、サルコイドーシス、血管炎、及び成人線状IgA病から選択される、本明細書で定義される(本明細書に記載される)皮膚疾患のための経皮適用(皮膚上への)及び/又は病変内適用(皮膚病変中への);例えば、呼吸器系の疾患及び特に、肺疾患、例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、喘息、呼吸器系を含む慢性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、炎症性肺疾患、肺炎、及び肺線維症のための経鼻投与;例えば、関節炎、特に、若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎及び関節リウマチ、並びに関節症、及び変形性関節症における関節内投与(関節腔への);例えば、泌尿器系、特に、膀胱の疾患のための膀胱内投与(すなわち、膀胱への);心臓内投与、静脈内投与、膣内投与、及び皮内投与が挙げられる。
【0110】
一般に、投与方法は、上記の様々な因子、例えば、選択される薬学的担体及び薬学的調製物(例えば、液体、錠剤などとしての)の性質並びに投与経路に依存する。例えば、本発明によるJNK阻害剤を含む医薬組成物を、液体として、例えば、0.9%NaCl中の本発明によるJNK阻害剤の溶液として調製することができる。液体医薬組成物を、様々な方法により、例えば、スプレー(例えば、吸入、鼻内などの経路のため)として、局所適用のための流体として、ボーラス注射などの注射により、例えば、ポンプを使用する輸注により、滴下によるだけでなく、p.o.により、例えば、ドロップ又は飲用溶液として、パッチ送達系などにおいて投与することができる。したがって、投与のために、特に、注射及び/又は輸注のために、様々なデバイス、例えば、注射筒(予め充填された注射筒など);注射デバイス(例えば、INJECT−EASET(商標)及びGENJECTT(商標)デバイス);輸注ポンプ(例えば、Accu−Chek(商標)など);インジェクターペン(GENPENT(商標)など);無針デバイス(例えば、MEDDECTOR(商標)及びBIOJECTOR(商標));又は自己注射器を使用することができる。
【0111】
使用される医薬組成物の好適な量は、動物モデルを用いる日常的な実験によって決定することができる。そのようなモデルとしては、限定されるものではないが、例えば、ウサギ、ヒツジ、マウス、ラット、イヌ、スナネズミ、ブタ、及び非ヒト霊長類モデルが挙げられる。投与のため、特に、注射及び/又は輸注のための好ましい単位剤形としては、水、生理食塩水又はその混合物の滅菌溶液が挙げられる。そのような溶液のpHは、約7.4に調整するべきである。投与のため、特に、注射及び/又は輸注のための好適な担体としては、ヒドロゲル、制御放出又は遅延放出のためのデバイス、ポリ乳酸及びコラーゲンマトリックスが挙げられる。局所適用のための好適な薬学的に許容される担体としては、ローション、クリーム、ゲルなどにおける使用にとって好適であるものが挙げられる。化合物を経口投与しようとする場合、錠剤、カプセルなどが好ましい単位剤形である。経口投与のために使用することができる、単位剤形の調製のための薬学的に許容される担体は、先行技術において周知である。その選択は、本発明の目的にとって重要ではない、味、費用及び保存性などの二次的な考察に依存し、当業者は、困難なく行うことができる。
【0112】
静脈内、筋肉内、腹腔内、皮膚若しくは皮下注射及び/又は輸注、又は罹患部位での注射及び/又は輸注、すなわち、局部的注射/輸注のために、活性成分は、発熱源を含まず、好適なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に許容される水性溶液の形態にある。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、特に、0.9%NaCl、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性ビヒクルを使用して好適な溶液を調製することができる。必要に応じて、保存剤、安定剤、バッファー、酸化防止剤及び/又は他の添加物を含有させることができる。それが個体に投与される本発明による他の薬学的に有用な化合物であるポリペプチド、ペプチド、又は核酸分子であろうとなかろうと、投与は好ましくは「予防有効量」又は「治療有効量」(場合によって)にあり、これは個体に対して利益を示すのに十分なものである。投与される実際の量、並びに投与の速度及び時間経過は、処置されるものの性質及び重症度に依存する。例えば、ヒトにおけるi.v.投与のために、体重1kgあたり1mgまでの単回用量、より好ましくは、体重1kgあたり500μgまで、更により好ましくは体重1kgあたり100μgまで、例えば、体重1kgあたり100ng〜1mgの範囲、より具体的には、体重1kgあたり1μg〜500μgの範囲、更により具体的には、体重1kgあたり5μg〜100μgの範囲が好ましい。そのような用量は、例えば、注射及び/又は輸注として、特に、輸注として投与することができ、輸注の持続時間は、例えば、1〜90min、好ましくは10〜70min、より好ましくは30〜60minで変化する。
【0113】
更に、本発明に従って使用される医薬組成物は、更に、すなわち、本明細書に定義されるJNK阻害剤のいずれか1つ若しくは複数、及び/又は上記で定義されたそのバリアント、断片若しくは誘導体、核酸、細胞又はベクター及び/又は核酸をトランスフェクトされた細胞に加えて、任意選択で、それぞれの疾患においても有用である、更なる「活性成分」も含んでもよい。これに関連して、本発明による医薬組成物は、本発明による疾患の療法において、更なる「活性成分」を含む更なる医薬組成物と組み合わせることもできる。例えば、本発明によるJNK阻害剤を含む医薬組成物を、独立型療法として、又はコルチコステロイド、好ましくはグルココルチコイド、例えば、デキサメタゾンと組み合わせて、術後眼内炎症において使用することができる。更に、例えば、本発明によるJNK阻害剤及び/又はキメラペプチドを含む医薬組成物は、好ましくは、独立型療法として、又はPKR阻害剤と組み合わせて、任意選択で、本発明によるJNK阻害剤及びアミロイド低下剤を含むPKR阻害剤に加えて、アルツハイマー病及び/又は軽度認知障害、特に、アルツハイマー病に起因するMCIの予防及び/又は治療において使用することができる。PKR阻害剤は、特に、ペプチド、例えば、Polypeptide Groupによる「SC1481」である。アミロイド低下剤としては、β−セクレターゼ(BACE1)阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤(GSI)及びモジュレーター(GSM)が挙げられる。現在、臨床試験にあるそのようなアミロイド低下剤の非限定例を、Vassar R.(2014) BACE1 inhibitor drugs in clinical trials for Alzheimer’s disease. Alzheimers Res Ther.;6(9):89頁及び/又はJia Q、Deng Y、Qing H(2014) Potential therapeutic strategies for Alzheimer’s disease targeting or beyond β−amyloid: insights from clinical trials. Biomed Res Int. 2014;2014:837157頁から読み出すことができ、例えば、ピオグリタゾン、CTS−21166、MK8931、LY2886721、AZD3293、E2609、NIC5−15、ベガセスタット、CHF5074、EVP−0962、アトルバスタチン、シンバスタチン、エタゾレート、エピガロカテキン−3−ガレート(EGCg)、Scyllo−イノシトール(ELND005/AZD103)、トラミプロセート(3APS)、PBT2、Affitope AD02、及びAffitope AD03が挙げられる。組合せ療法の場合、組み合わされる活性成分のための別々の医薬組成物がより良好な個々の用量にとって好ましいが、便宜上、組み合わされる活性成分を含む単一の医薬組成物も想定できる。組み合わされる活性成分のための別々の医薬組成物の場合、本発明によるJNK阻害剤の投与は、別々の医薬組成物中に含まれる他の活性成分、例えば、PKR阻害剤、アミロイド低下剤又はグルココルチコイドの投与の前、間(同時若しくは重複投与)又は後であってもよい。JNK阻害剤の投与「前」の投与は、好ましくは、JNK阻害剤の投与が始まる前の24h以内、より好ましくは12h以内、更により好ましくは3h以内、特に好ましくは1h以内、最も好ましくは30min以内を意味する。JNK阻害剤の投与「後」の投与は、好ましくは、JNK阻害剤の投与が終了した後の24h以内、より好ましくは12h以内、更により好ましくは3h以内、特に好ましくは1h以内、最も好ましくは30min以内を意味する。
【0114】
本発明によるJNK阻害剤の使用における特に好ましい態様は(例えば、更なるトランスポーター配列を潜在的に含む、配列番号2〜27の配列のいずれかによる阻害的(ポリ)ペプチド配列、好ましくは、配列番号171〜190のいずれか1つによる配列のいずれか、又は本明細書に定義されるそのバリアント、より好ましくは配列番号172の配列、又は本明細書に定義されるそのバリアントを含む)(限定されるものではないが)以下の疾患/障害の予防及び/又は治療を含む。
【0115】
(i)口腔及び/又は顎骨の疾患、特に、(i)一般的な歯髄炎、特に、急性歯髄炎、慢性歯髄炎、増殖性歯髄炎、潰瘍性歯髄炎、不可逆性歯髄炎及び/又は可逆性歯髄炎;(ii)インプラント周囲炎;(iii)一般的な歯周炎、特に、慢性歯周炎、複合歯周炎、単純歯周炎、侵攻性歯周炎、及び/又は例えば、歯髄起源の根尖性歯周炎;歯周症、特に、若年性歯周炎;(iv)一般的な歯肉炎、特に、急性歯肉炎、慢性歯肉炎、プラーク性歯肉炎、及び/又は非プラーク性歯肉炎;(v)歯冠周囲炎、特に、急性及び慢性歯冠周囲炎;唾液腺炎;耳下腺炎、特に、感染性耳下腺炎及び自己免疫性耳下腺炎;(vi)一般的な口内炎、特に、アフタ性口内炎(例えば、マイナー若しくはメジャー)、ベドナーアフタ、再発性壊死性粘膜腺周囲炎、再発性アフタ性潰瘍、疱疹状口内炎、壊疽性口内炎、義歯性口内炎、潰瘍性口内炎、水疱性口内炎及び/又は歯肉口内炎;(vii)粘膜炎、特に、抗新生物療法に起因する、(他の)薬物に起因する、若しくは放射線に起因する粘膜炎、潰瘍性粘膜炎及び/又は口腔粘膜炎;(viii)一般的な口唇炎、特に、唇のひび割れ、光線口唇炎、口角炎、湿疹性口唇炎、感染性口唇炎、肉芽腫性口唇炎、薬物関連口唇炎、剥脱性口唇炎、腺性口唇炎、及び/又は形質細胞性口唇炎;並びに(ix)特に、口腔及び/又は口唇の蜂巣炎(細菌感染);剥離性障害、特に、剥離性歯肉炎;並びに/又は顎関節障害から選択される口腔及び/又は顎骨の炎症疾患。それにより、歯周炎、インプラント周囲炎、歯肉炎、口内炎及び粘膜炎が好ましく、歯周炎が特に好ましい;ここで、口腔及び/又は顎骨の疾患の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、100μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは、1mg/kg〜10mg/kg、更により好ましくは、2mg/kg〜5mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で適用され、好ましくは、歯肉内又は局所、特に好ましくは、歯肉内に適用される。
【0116】
(ii)特に、(i)糸球体腎炎、例えば、非増殖性糸球体腎炎、特に、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、巣状分節状糸球体ヒアリン変性及び/又は硬化症、巣状糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、及び/又は菲薄基底膜病、及び増殖性糸球体腎炎、特に、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、デンスデポジット糸球体腎炎(膜性増殖性糸球体腎炎II型)、管外糸球体腎炎(半月体形成性糸球体腎炎)、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、特に、I型RPGN、II型RPGN、III型RPGN、及びIV型RPGN、急性増殖性糸球体腎炎;感染後糸球体腎炎、及び/又はIgA腎症(ベルガー病);急性腎炎症候群;急速進行性腎炎症候群;反復性及び持続性血尿;慢性腎炎症候群;ネフローゼ症候群;特定の形態学的病変を有するタンパク尿;糸球体炎;糸球体症;糸球体硬化症;(ii)一般に、急性腎臓傷害(「AKI」、「急性腎不全」又は「急性腎臓不全」とも呼ばれる)、特に、腎前性AKI、内因性AKI、腎後性AKI、腎尿細管壊死、例えば、急性腎尿細管壊死、腎尿細管壊死を伴うAKI、皮質壊死、例えば、急性皮質壊死及び腎皮質壊死を伴うAKI、髄質壊死、例えば、髄質(乳頭)壊死、急性髄質(乳頭)壊死及び慢性髄質(乳頭)壊死を伴うAKI、若しくは他のAKI;又は(iii)特に、膜性腎症、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎症、鎮痛薬性腎症、CFHR5腎症、造影剤誘導腎症、アミロイド腎症、逆流性腎症及び/又はメソアメリカ腎症糖尿病性腎症、糖尿病性腎症から選択される腎症から選択される腎臓疾患(腎疾患)。それにより、好ましくは、予防及び/又は治療される障害/疾患は、糸球体腎炎又は急性腎臓傷害であり、ここで、腎臓疾患(腎臓病)の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、10μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは、100μg/kg〜10mg/kg、更により好ましくは、1mg/kg〜5mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で、適用可能な場合、反復的に、例えば、数日若しくは数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10日間及び/又は週間にわたって毎日又は毎週適用され、好ましくは、全身的に、例えば、i.v.又はs.c.で適用される。
【0117】
(iii)眼の疾患、特に、(i)ドライアイ症候群;(ii)ブドウ膜炎、特に、前眼部、中間部及び/又は後眼部ブドウ膜炎、交感性ブドウ膜炎及び/又は全ブドウ膜炎、好ましくは、前部及び/又は後部ブドウ膜炎;(iii)滲出性及び/又は非滲出性加齢黄斑変性を含む加齢黄斑変性(AMD)、好ましくは、滲出型若しくは非滲出型の加齢黄斑変性;(iv)特に、糖尿病性網膜症、(動脈高血圧誘発性)高血圧性網膜症、滲出性網膜症、放射線誘発性網膜症、日光誘発性日光網膜症、外傷誘発性網膜症、例えば、プルチェル網膜症、未熟児網膜症(ROP)及び/又は過粘稠度関連網膜症、非糖尿病性増殖性網膜症、及び/又は増殖性硝子体網膜症;それにより、糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症(ROP)が好ましく、糖尿病性網膜症が特に好ましい;並びに/又は(v)特に、眼に対して、及び/又は眼の中で行われた手術の後、例えば、白内障手術、レーザー眼科手術、緑内障手術、屈折矯正手術、角膜手術、硝子体−網膜手術、眼筋手術、眼形成手術、及び/又は特に、複雑な眼の手術の後の涙器を含む手術の後並びに/又は複雑でない眼の手術の後の、眼の術後炎症;それにより、術後眼内炎症が好ましい;ここで、眼の疾患の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、単回適用、例えば、注射若しくは滴下により、好ましくは、0.01μg/眼〜10mg/眼、より好ましくは、0.1μg/眼〜5mg/眼、更により好ましくは、1μg/眼〜2mg/眼、特に好ましくは、50μg/眼〜1.5mg/眼、最も好ましくは、100μg/眼〜1mg/眼の範囲の用量で適用されるが、必要に応じて、反復的に、例えば、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間にわたって、毎日、2若しくは3日毎に、若しくは毎週適用され、好ましくは、眼の中若しくは眼の上に、好ましくは、硝子体内若しくは結膜下、より好ましくは、結膜下に適用される;並びに/又はJNK阻害剤は、好ましくは、両眼若しくは片目のみに適用してもよい点眼薬として適用される;ここで、本発明によるJNK阻害剤を含む医薬組成物は、典型的には、例えば、(滅菌)0.9%NaClを含む溶液、好ましくは、眼科用溶液であり、医薬組成物は、特に、ドライアイ症候群を治療及び/又は予防するための、特に、0.001%〜10%の本明細書に記載のJNK阻害剤、好ましくは、0.01%〜5%の本明細書に記載のJNK阻害剤、より好ましくは、0.05%〜2%の本明細書に記載のJNK阻害剤、更により好ましくは、0.1%〜1%の本明細書に記載のJNK阻害剤を含む;及び/又はJNK阻害剤は、好ましくは、全身的に、特に、静脈内に適用され、それにより、用量は、好ましくは0.001mg/kg〜10mg/kg、より好ましくは0.01mg/kg〜5mg/kg、更により好ましくは0.1mg/kg〜2mg/kgの範囲であり、それにより、そのような投与は、例えば、ブドウ膜炎を治療及び/又は予防するのに特に有用であり、それにより、処置スケジュールは、単回用量又は反復用量を含み、それにより、後の用量は処置スケジュールの異なる日に投与することができる。
【0118】
(iv)特に、一般的な乾癬、例えば、尋常性乾癬(psoriasis vulgaris)、貨幣状乾癬、尋常性乾癬(plaque psoriasis)、汎発性膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹、Von Zumbusch病、連続性肢端皮膚炎、滴状乾癬、乾癬性関節症、遠位指節間乾癬性関節症、乾癬性破壊性関節炎、乾癬性脊椎炎、乾癬性若年性関節症、一般的な乾癬性関節症、及び/又は曲げ乾癬;一般的な類乾癬、例えば、大斑型類乾癬、小斑型類乾癬、網状類乾癬、苔癬状粃糠疹及びリンパ腫様丘疹症;バラ色粃糠疹;扁平苔癬及び他の丘疹落屑性障害、例えば、毛孔性紅色粃糠疹、光沢苔癬、線状苔癬、念珠状紅色苔癬、及び小児丘疹性先端皮膚炎から選択される皮膚の疾患、特に、丘疹落屑性障害。好ましくは、予防及び/又は治療される障害/疾患は、乾癬、例えば、尋常性乾癬、貨幣状乾癬、尋常性乾癬、汎発性膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹、Von Zumbusch病、連続性肢端皮膚炎、滴状乾癬、乾癬性関節症、遠位指節間乾癬性関節症、乾癬性破壊性関節炎、乾癬性脊椎炎、乾癬性若年性関節症、一般的な乾癬性関節症、及び/又は曲げ乾癬である;ここで、皮膚疾患の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、1μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは10μg/kg〜10mg/kg、更により好ましくは50μg/kg〜5mg/kg、特に好ましくは100μg/kg〜1mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で、適用可能な場合、反復的に、数日間又は数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10日間及び/又は週間にわたって、例えば、毎日、又は毎週、好ましくは、毎日適用され、好ましくは、全身、例えば、i.v.、p.o.又はs.c.、及び/又は局所、経皮、及び/又は病変内に(例えば、皮膚病変中に)適用される。
【0119】
(v)特に、一般的な関節炎、変形性関節症(変性関節疾患)、敗血症性関節炎、関節リウマチ、乾癬性関節炎、及び関連する自己免疫疾患及び関節炎から選択される、関節炎及び関節の疾患/障害;ここで、皮膚疾患の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、1μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは10μg/kg〜50mg/kg、更により好ましくは50μg/kg〜10mg/kg、特に好ましくは100μg/kg〜5mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で、適用可能な場合、反復的に、数日間又は数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10日間以上及び/又は週間以上にわたって、例えば、毎日、又は毎週適用され、好ましくは、全身的に、例えば、i.v.、p.o.又はs.c.で、特に好ましくは、i.v.で適用される。
【0120】
(vi)特に、(i)一般的な肝臓がん及び肝臓癌、特に、肝臓転移、肝臓細胞癌、肝細胞癌、ヘパトーマ、肝内胆管癌、胆管癌、肝芽腫、(肝臓の)血管肉腫、及び他の特定の、若しくは非特定の肝臓の肉腫及び癌腫;(ii)前立腺がん及び/又は前立腺癌;並びに/又は(iii)一般的な結腸がん及び結腸癌、特に、盲腸癌、虫垂癌、上行結腸癌、肝湾曲部癌、横行結腸癌、脾湾曲部癌、下行結腸癌、S状結腸癌、結腸の重複部位の癌腫及び/又は結腸の悪性カルチノイド腫瘍から選択される、がん及び腫瘍疾患;ここで、がん及び腫瘍疾患の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、1μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは10μg/kg〜50mg/kg、更により好ましくは0.1mg/kg〜20mg/kg、特に好ましくは0.1mg/kg〜5mg/kg[マウス用量!]の範囲の用量(体重1kgあたり)で、適用可能な場合、反復的に、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10週間にわたって、例えば、毎日、2又は3日又は週毎に適用され、好ましくは、全身的に、例えば、p.o.、i.v.又はs.c.で適用される。
【0121】
(vii)泌尿器系の疾患及び/又は障害、特に、尿管炎;尿路感染(膀胱感染、急性膀胱炎);一般的な膀胱炎、特に、間質性膀胱炎、ハナー潰瘍、三角炎及び/又は出血性膀胱炎;尿道炎、特に、非淋菌性尿道炎若しくは淋菌性尿道炎;膀胱痛症候群;IC/PBS;尿道症候群;並びに/又は後腹膜線維化症;好ましくは、IC/PBS;ここで、泌尿器系の疾患及び/又は障害の治療及び/又は予防のために、好ましくは、IC/PBSの治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、(i)全身的に、より好ましくは静脈内に、例えば、静脈内注射により、100ng/kg〜10mg/kg、より好ましくは1μg/kg〜5mg/kg、更により好ましくは10μg/kg〜2mg/kg、特に好ましくは0.1mg/kg〜1mg/kg、最も好ましくは0.2mg/kg〜0.5mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で適用され、好ましくは、単回用量で投与されるが、適用可能な場合、好ましくは、反復的に、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間にわたって、例えば、毎日、2若しくは3日若しくは週毎に投与される;又はJNK阻害剤はまた、好ましくは、(ii)膀胱内に、より好ましくは、膀胱内輸注により、好ましくは、10μg/ml〜1000mg/ml、より好ましくは50μg/ml〜500mg/ml、更により好ましくは100μg/ml〜100mg/ml、特に好ましくは0.5mg/ml〜50mg/mlの濃度で、好ましくは、0.1〜1000mg、より好ましくは0.5〜500mg、更により好ましくは1〜100mg、特に好ましくは2〜10mgの単回用量で適用されるが、適用可能な場合、好ましくは、反復的に、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間にわたって、例えば、毎日、2若しくは3日若しくは週毎に投与される。
【0122】
(viii)神経障害、神経系障害又は神経変性障害、特に、神経変性疾患、好ましくは、アルツハイマー病、例えば、早発型アルツハイマー病、遅発型アルツハイマー病、老年型及び初老期型アルツハイマー認知症、及び/又は軽度認知障害、特に、アルツハイマー病に起因する軽度認知障害;ここで、神経障害、神経系障害又は神経変性障害の治療及び/又は予防のために、JNK阻害剤は、好ましくは、1μg/kg〜100mg/kg、より好ましくは10μg/kg〜50mg/kg、更により好ましくは100μg/kg〜10mg/kg、特に好ましくは500μg/kg〜1mg/kgの範囲の用量(体重1kgあたり)で適用され、JNK阻害剤は、好ましくは、適用可能な場合、1回又は反復的に、好ましくは、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間以上にわたって毎週(週1回)、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間以上にわたって隔週(2週に1回)、数カ月、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10カ月以上にわたって毎月(月に1回)、数カ月、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10カ月以上にわたって6週間毎に(6週間毎に1回)、数カ月、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10カ月以上にわたって2カ月毎に(2カ月に1回)又は数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間以上にわたって3カ月毎に(3カ月に1回)、より好ましくは、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間以上にわたって毎週(週1回)、数週間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10週間以上にわたって隔週(2週に1回)、数カ月、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10カ月以上にわたって毎月(月1回)、更により好ましくは、数カ月、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10カ月以上にわたって毎月(月1回)投与され、好ましくは、全身的に、例えば、i.v.、p.o.、i.m.、s.c.又はCSF内(脳脊髄液内)で適用され、更に、神経障害、神経系障害又は神経変性障害、特に神経変性疾患、好ましくは、アルツハイマー病、例えば、早発型アルツハイマー病、遅発型アルツハイマー病、老年型及び初老期型アルツハイマー認知症、及び/又は軽度認知障害、特に、アルツハイマー病に起因する軽度認知障害の治療及び/又は予防のために、本発明のJNK阻害剤を、独立型療法として投与してもよいが、本発明のJNK阻害剤を、他の薬剤、例えば、PKR阻害剤、例えば、Polypeptide Groupによる「SC1481」と組み合わせて、任意選択で、本発明によるJNK阻害剤及びアミロイド低下剤を含むPKR阻害剤に加えて投与することもでき、それにより、アミロイド低下剤は、β−セクレターゼ(BACE1)阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤(GSI)及びモジュレーター(GSM)を含み、現在、臨床試験にある、そのような阻害剤の例を、Vassar R.(2014) BACE1 inhibitor drugs in clinical trials for Alzheimer’s disease. Alzheimers Res Ther.;6(9):89頁又はJia Q、Deng Y、Qing H(2014) Potential therapeutic strategies for Alzheimer’s disease targeting or beyond β−amyloid: insights from clinical trials. Biomed Res Int. 2014;2014:837157頁から読み出すことができる。
【0123】
本明細書に定義される疾患の予防及び/又は治療は、典型的には、上記で定義された医薬組成物の投与を含む。本発明のJNK阻害剤は、対象におけるJNK活性をモジュレートする。用語「モジュレート」は、特に、例えば、更なるトランスポーター配列を潜在的に含む、配列番号2〜27の配列のいずれかによる阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むか、又はそれからなる少なくとも1つのJNK阻害剤を使用する、又は、トランスポーター配列が結合する場合、好ましくは、配列番号171〜190のいずれか1つによる配列のいずれか、又は本明細書に定義されるそのバリアント、特に好ましくは、配列番号712による配列、又は本明細書に定義されるそのバリアントを使用する、細胞中の天然のc−jun、ATF2及びNFAT4結合部位の競合的阻害剤としての、本明細書に開示される疾患のいずれかにおけるc−jun、ATF2又はNFAT4のリン酸化の抑制を含む。用語「モジュレート」はまた、限定されるものではないが、c−jun、ATF2、又はNFAT4及びc−jun、AFT2及びc−fosから作られるAP−1複合体などのその関連するパートナーから作られる転写因子のヘテロ−及びホモ複合体の抑制も含む。
【0124】
上記に開示された医薬組成物を用いる対象の処置は、典型的には、対象への前記医薬組成物の(「治療有効」)量を(in vivoで)投与することにより達成することができ、ここで、対象は、例えば、ヒト対象又は動物であってもよく、ヒトが特に好ましい。動物は、好ましくは、非ヒト哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ又はブタである。用語「治療有効」とは、医薬組成物の活性成分が本明細書で考察される疾患及び障害を改善するのに十分な量のものであることを意味する。
【0125】
別の好ましい実施形態によれば、本発明のJNK阻害剤、例えば、更なるトランスポーター配列を潜在的に含む、配列番号2〜27の配列のいずれかによる阻害的(ポリ)ペプチド配列を含むか、又はそれからなるJNK阻害剤(トランスポーター配列が結合する場合、配列番号171〜190のいずれか1つによる配列のいずれか、又は本明細書に定義されるそのバリアントが好ましく、配列番号172による配列、又は本明細書に定義されるそのバリアントが特に好ましい)は、移植前に組織又は臓器の処置のために使用することができる。好ましくは、移植しようとする臓器及び/又は組織の単離、輸送、かん流、埋め込みなどのための溶液は、好ましくは、1〜1000μMの範囲、より好ましくは10〜500μMの範囲、更により好ましくは50〜150μMの範囲の濃度の、本発明によるJNK阻害剤を含む。本発明のこの態様について、移植片は、腎臓、心臓、肺、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、肝臓、血液細胞、骨髄、角膜、事故で切断された四肢、特に、指、手、足、顔、鼻、骨、心臓弁、血管又は腸移植片、好ましくは、腎臓、心臓、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、又は皮膚移植片である。例えば、本発明によるJNK阻害剤を、膵島の単離のための溶液中に含有させることができる。そのような溶液を、例えば、単離前に膵管中に注射することができる。更に、本発明によるJNK阻害剤を含有する溶液が臓器及び/又は組織の単離、輸送、かん流、移植などにおいて適用される場合、特に、虚血時間が15minを超える場合、より好ましくは、虚血時間が20minを超える場合、更により好ましくは虚血時間が少なくとも30minである場合、好ましい。これらの虚血時間を温虚血及び/又は冷虚血時間に適用することができるが、それらを温虚血時間(WIT)にのみ適用する場合、それが特に好ましく、WITは、ドナーの死の間、特に、交差クランピングの、又は心臓が鼓動していないドナーにおける心停止の時間から、冷かん流が開始されるまでに経過する時間の長さ及び氷からの臓器の取り出しから、再かん流までの、埋め込みの間の虚血を指す。
【0126】
疾患及び障害
本発明は、療法によるヒト又は動物の身体、特に、ヒト身体の処置のための方法における、上記に開示されたJNK阻害剤又はそれを含有する医薬組成物の特異的使用(又は使用方法)に関する。上記のように、JNKシグナリングは、多くの多様な疾患状態及び障害に関与し、前記シグナリングの阻害はこれらの多くについて提唱され、成功裏に試験されてきた。本発明者らは、本明細書に開示されるJNK阻害剤が、以下に開示される疾患の処置のための有効なJNK阻害剤であることを見出した。
【0127】
本明細書で使用される場合、療法によるヒト又は動物の身体の処置は、それぞれの対象の任意の種類の治療的処置を指す。それは、例えば、疾患又は症状の開始、すなわち、典型的には、患者における疾患の発現前の防止(予防)を含む。この用語はまた、所与の疾患の症状の「単なる」処置も含み、すなわち、処置は疾患及び症状の基礎となる原因を必ずしも治癒させることなく、疾患と関連する症状を軽減することにより発病を改善する。確かに、疾患の基礎となる原因の治癒もまたこの用語に包含される。この用語はまた、それぞれの疾患の進行を遅延させる、又は更には停止させる処置も包含する。
【0128】
一実施形態においては、本発明によるJNK阻害剤を、例えば、予測できる障害の潜在的な開始の前、例えば、計画的な外科的介入又は計画的なストレス刺激への曝露の前に予防的に投与することができる。外科的介入は、例えば、それぞれの創傷又は近隣の組織の炎症のリスクを持ち得る。放射線のようなストレス刺激への曝露は、罹患した組織及び細胞のアポトーシスを誘導し得る。そのようなシナリオでは、本発明によるJNK阻害剤は、例えば、前もって約4週間まで少なくとも1回投与してもよい。JNK阻害剤は、例えば、前もって少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも1週間、少なくとも2週間又は4週間投与してもよい。
【0129】
本明細書に開示されるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される疾患及び障害は、急性的又は慢性的なものであってもよい。
【0130】
本発明のJNK阻害剤は、一般に、眼の疾患、骨の疾患、神経疾患、神経系疾患、神経変性疾患、皮膚の疾患、免疫及び/又は自己免疫疾患、眼の疾患、口腔の疾患、腎臓の疾患、泌尿器系の疾患、炎症疾患、代謝疾患、心血管疾患、増殖性疾患(特に、がん及び腫瘍)、耳の疾患、腸の疾患、呼吸器系の疾患(例えば、肺疾患)、感染症、及び様々な他の疾患などの、様々な臓器の疾患の治療及び/又は予防のために使用することができるが、本発明は、特に、以下の疾患を指す。
【0131】
本発明の分子により治療及び/又は予防される疾患のうち、皮膚疾患及び皮下組織の疾患、特に、炎症性皮膚疾患、より具体的には、湿疹、乾癬、皮膚炎、座瘡、口腔潰瘍、紅斑、扁平苔癬、サルコイドーシス、血管炎及び成人線状IgA疾患から選択される皮膚疾患が記載される。皮膚炎は、例えば、アトピー性皮膚炎又は接触皮膚炎を包含する。特に、本明細書に記載のJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される皮膚疾患及び皮下組織の疾患を、一般的な丘疹落屑性障害、特に、一般的な乾癬、例えば、尋常性乾癬、貨幣状乾癬、尋常性乾癬、汎発性膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹、Von Zumbusch病、連続性肢端皮膚炎、滴状乾癬、乾癬性関節症、遠位指節間乾癬性関節症、乾癬性破壊性関節炎、乾癬性脊椎炎、乾癬性若年性関節症、一般的な乾癬性関節症、及び/又は曲げ乾癬、一般的な類乾癬、例えば、大斑型類乾癬、小斑型類乾癬、網状類乾癬、苔癬状粃糠疹及びリンパ腫様丘疹症;バラ色粃糠疹;扁平苔癬及び他の丘疹落屑性障害、例えば、毛孔性紅色粃糠疹、光沢苔癬、線状苔癬、念珠状紅色苔癬、及び小児丘疹性先端皮膚炎;湿疹;一般的な皮膚炎、特に、アトピー性皮膚炎、例えば、ベニエー痒疹、アトピー性又は広範性神経皮膚炎、曲げ湿疹、乳児湿疹、内因性湿疹、アレルギー性湿疹、他のアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、例えば、頭部脂漏、乳児脂漏性皮膚炎、他の脂漏性皮膚炎、おむつ皮膚炎、例えば、おむつ紅斑、おむつ発疹及び乾癬様おむつ発疹、特に、金属に起因する、接着剤に起因する、化粧品に起因する、皮膚と接触した薬物に起因する、染料に起因する、他の化学製品に起因する、皮膚と接触した食品に起因する、食品以外の植物に起因する、動物のフケに起因する、及び/又は他の薬剤に起因する、アレルギー性接触皮膚炎、特に、洗剤に起因する、油及びグリースに起因する、溶媒に起因する、化粧品に起因する、皮膚と接触した薬物に起因する、他の化学製品に起因する、皮膚と接触した食品に起因する、食品以外の植物に起因する、金属に起因する、及び/又は他の薬剤に起因する、刺激性接触皮膚炎、非特定接触皮膚炎、剥脱性皮膚炎、皮膚炎、例えば、内部的に摂取された物質に起因する、特に、薬物及び医薬品に起因する、摂取された食品に起因する、他の物質に起因する、全身及び局部皮膚発疹、貨幣状皮膚炎、壊疽性皮膚炎、疱疹状皮膚炎、乾燥肌皮膚炎、人工皮膚炎、口囲皮膚炎、皮膚及び皮下組織の放射線関連障害、鬱滞性皮膚炎、慢性単純性苔癬及び痒疹、掻痒、発汗異常症、皮膚自己感作、感染性皮膚炎、間擦性紅斑及び/又は白色粃糠疹;蜂巣炎(皮膚を含む細菌感染);リンパ管炎、特に、急性又は慢性リンパ管炎;一般的な脂肪織炎、特に、血管炎を伴わない小葉性脂肪織炎、例えば、以前はウェーバー・クリスチャン病と呼ばれた急性脂肪織炎及び全身性結節性脂肪織炎、血管炎を伴う小葉性脂肪織炎、血管炎を伴わない中隔性脂肪織炎及び/又は血管炎を伴う中隔性脂肪織炎;リンパ節炎、特に、急性リンパ節炎;毛巣嚢胞及び毛巣瘻;一般的な膿皮症、特に、壊疽性膿皮症、増殖性膿皮症、壊疽性皮膚炎、膿性皮膚炎、敗血性皮膚炎及び化膿性皮膚炎;紅色陰癬;臍炎;天疱瘡、特に、尋常性天疱瘡、増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡、ブラジル天疱瘡、紅斑性天疱瘡、薬物誘発性天疱瘡、IgA天疱瘡、例えば、角層下膿疱症及び表皮内好中球IgA天疱瘡、及び/又は腫瘍随伴性天疱瘡;一般的な座瘡、特に、尋常性座瘡、集簇性座瘡、痘瘡状座瘡、粟粒性壊死性座瘡、熱帯性座瘡、小児座瘡、若年性女子表皮剥離性座瘡、ピッカー座瘡、及び/又はケロイド座瘡;口腔及び他の皮膚潰瘍;一般的な蕁麻疹、特に、アレルギー性蕁麻疹、特発性蕁麻疹、寒冷及び高温に起因する蕁麻疹、皮膚描記性蕁麻疹、振動性蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、及び/又は接触性蕁麻疹;一般的な紅斑、特に、多形性紅斑、例えば、非水疱性多形性紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症(ライエル)、及びスティーブンス・ジョンソン症候群−中毒性表皮壊死症重複症候群、結節性紅斑、中毒性紅斑、遠心性環状紅斑、有縁性紅斑及び/又は他の慢性模様状紅斑;日焼け及び紫外線照射に起因する他の急性皮膚変化;非イオン化放射線への慢性曝露に起因する皮膚変化;放射線皮膚炎;毛嚢炎;毛包周囲炎;偽性毛嚢炎;化膿性汗腺炎;サルコイドーシス;血管炎;成人線状IgA疾患;酒さ、特に、口囲皮膚炎、鼻瘤、及び他の酒さ;並びに/又は皮膚及び皮下組織の卵胞嚢胞、特に、粉瘤腫、毛嚢胞、トリコデルマ嚢胞、多発性脂腺嚢腫、皮脂嚢胞及び/又は他の卵胞嚢胞から選択することができる。
【0132】
本発明のJNK阻害剤を用いて処置することができる好ましい皮膚疾患の例は、乾癬及び紅斑性狼瘡である。より一般的な用語では、好ましくは、本明細書に開示されるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防することができる皮膚疾患及び皮下組織の疾患は、丘疹落屑性障害である。これらのものとしては、類乾癬、バラ色粃糠疹、扁平苔癬並びに他の丘疹落屑性障害、例えば、毛孔性紅色粃糠疹、光沢苔癬、扁平苔癬、念珠状紅色苔癬、及び小児丘疹性先端皮膚炎が挙げられる。好ましくは、本発明によるJNK阻害剤により治療及び/又は予防される疾患は、乾癬及び類乾癬の群から選択され、それにより、乾癬が特に好ましい。乾癬の例としては、尋常性乾癬、貨幣状乾癬、尋常性乾癬、汎発性膿疱性乾癬、疱疹状膿痂疹、Von Zumbusch病、連続性肢端皮膚炎、滴状乾癬、乾癬性関節症、遠位指節間乾癬性関節症、乾癬性破壊性関節炎、乾癬性脊椎炎、乾癬性若年性関節症、一般的な乾癬性関節症、及び/又は曲げ乾癬が挙げられる。類乾癬の例としては、大斑型類乾癬、小斑型類乾癬、網状類乾癬、苔癬状粃糠疹及びリンパ腫様丘疹症が挙げられる。
【0133】
特に、心臓、腎臓、及び皮膚(組織)、肺、膵臓、肝臓、血液細胞(例えば、血小板、白血球、赤血球などの任意の種類の血液細胞)、骨髄、角膜、事故で切断された四肢(指、手、足、顔、鼻など)、あらゆる型の骨、心臓弁、血管、腸の断片又は腸そのものの組織又は臓器移植時の(抗炎症)処置が、本発明の分子により処置可能である。そのような処置は、例えば、移植片対宿主又は宿主対移植片反応が臓器/組織移植時に起こる場合はいつでも適切であると考えられる。また、本発明の分子の使用を、特に、皮膚(又は膵臓、肝臓、肺、心臓、腎臓)移植片対宿主又は宿主対皮膚(又は膵臓、肝臓、肺、心臓、腎臓)移植片反応の場合における移植手術を行う場合はいつでも用いることができる。
【0134】
神経変性疾患のうち、特に、慢性炎症、タウオパシー及びアミロイドーシス並びにプリオン病と関連するものが、本発明の分子によって対処される。他のそのような神経変性疾患は、様々な型の認知症、例えば、前頭側頭型認知症及びレビー小体型認知症、統合失調症及び双極性障害、脊髄小脳失調、脊髄小脳萎縮症、多系統萎縮症、運動ニューロン疾患、大脳皮質基底核変性症、進行性核上麻痺又は遺伝性痙性対麻痺を指す。別の分野の適応は、疼痛(例えば、神経障害型、偶発型、突出型、心因型、幻想型、慢性型又は急性型の疼痛)である。別の分野の使用は、特に、膀胱機能の喪失(例えば、尿失禁、過活動膀胱、間質性膀胱炎若しくは膀胱がん)を処置するための膀胱疾患又は口内炎の処置である。
【0135】
本発明の分子は、線維性疾患又は線維症並びに、特に、肺、心臓、肝臓、骨髄、縦隔、後腹膜、皮膚、腸、関節、及び肩線維症の処置のために用いられる。
【0136】
口腔及び顎/下顎の炎症疾患は一般に、本発明の分子によって処置可能であるが、歯肉炎、骨壊死(例えば、顎骨の)、インプラント周囲炎、歯髄炎、及び歯周炎が、治療目的でのこれらの本発明の分子の使用にとって特に好適である。特に、本明細書に記載のJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される口腔又は顎骨の疾患及び/又は障害を、一般的な歯髄炎、特に、急性歯髄炎、慢性歯髄炎、増殖性歯髄炎、潰瘍性歯髄炎、不可逆性歯髄炎及び/又は可逆性歯髄炎;インプラント周囲炎;一般的な歯周炎、特に、慢性歯周炎、複合歯周炎、単純歯周炎、侵攻性歯周炎、及び/又は例えば、歯髄起源の根尖性歯周炎;歯周症、特に、若年性歯周炎;一般的な歯肉炎、特に、急性歯肉炎、慢性歯肉炎、プラーク性歯肉炎、及び/又は非プラーク性歯肉炎;歯冠周囲炎、特に、急性及び慢性歯冠周囲炎;唾液腺炎;耳下腺炎、特に、感染性耳下腺炎及び自己免疫性耳下腺炎;一般的な口内炎、特に、アフタ性口内炎(例えば、マイナー若しくはメジャー)、ベドナーアフタ、再発性壊死性粘膜腺周囲炎、再発性アフタ性潰瘍、疱疹状口内炎、壊疽性口内炎、義歯性口内炎、潰瘍性口内炎、水疱性口内炎及び/又は歯肉口内炎;粘膜炎、特に、抗新生物療法に起因する、(他の)薬物に起因する、若しくは放射線に起因する粘膜炎、潰瘍性粘膜炎及び/又は口腔粘膜炎;一般的な口唇炎、特に、唇のひび割れ、光線口唇炎、口角炎、湿疹性口唇炎、感染性口唇炎、肉芽腫性口唇炎、薬物関連口唇炎、剥脱性口唇炎、腺性口唇炎、及び/又は形質細胞性口唇炎;特に、口腔及び/又は口唇の蜂巣炎(細菌感染);剥離性障害、特に、剥離性歯肉炎;並びに/又は顎関節障害から選択することができる。
【0137】
更に、ポリープは、本発明の分子を使用することによって効率的に処置可能である。
【0138】
また、腎臓の炎症性又は非炎症性病態生理も、本発明の分子を使用することによって効率的に処置される。特に、疾患は、一般的な糸球体腎炎、特に、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、一般的な急性腎臓傷害(「AKI」、「急性腎不全」又は「急性腎臓不全」とも呼ばれる)、特に、腎前性AKI、内因性AKI、腎後性AKI、腎尿細管壊死、例えば、急性腎尿細管壊死、腎尿細管壊死を伴うAKI、皮質壊死、例えば、急性皮質壊死及び腎皮質壊死を伴うAKI、髄質壊死、例えば、髄質(乳頭)壊死、急性髄質(乳頭)壊死及び慢性髄質(乳頭)壊死を伴うAKI、又は他のAKI;一般的な腎症、特に、膜性腎症又は糖尿病性腎症、一般的な腎炎、特に、ループス腎炎、腎盂腎炎、間質性腎炎、尿細管間質性腎炎、慢性腎炎又は急性腎炎、並びに微小変化型疾患及び巣状分節状糸球体硬化症からなる群から選択される。更に、本明細書に記載のJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される腎臓の疾患及び/又は障害(腎疾患)を、一般的な糸球体腎炎、例えば、非増殖性糸球体腎炎、特に、微小変化型疾患、巣状分節状糸球体硬化症、巣状分節状糸球体ヒアリン変性及び/又は硬化症、巣状糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、及び/又は菲薄基底膜病、及び増殖性糸球体腎炎、特に、膜性増殖性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、管内増殖性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、デンスデポジット病(膜性増殖性糸球体腎炎II型)、管外糸球体腎炎(半月体形成性糸球体腎炎)、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)、特に、I型RPGN、II型RPGN、III型RPGN、及びIV型RPGN、急性増殖性糸球体腎炎;感染後糸球体腎炎、及び/又はIgA腎症(ベルガー病);急性腎炎症候群;急速進行性腎炎症候群;反復性及び持続性血尿;慢性腎炎症候群;ネフローゼ症候群;特定の形態学的病変を有するタンパク尿;糸球体炎;糸球体症;糸球体硬化症;一般的な急性腎臓傷害(「AKI」、「急性腎不全」若しくは「急性腎臓不全」とも呼ばれる)、特に、腎前性AKI、内因性AKI、腎後性AKI、腎尿細管壊死、例えば、急性腎尿細管壊死、腎尿細管壊死を伴うAKI、皮質壊死、例えば、急性皮質壊死及び腎皮質壊死を伴うAKI、髄質壊死、例えば、髄質(乳頭)壊死、急性髄質(乳頭)壊死及び慢性髄質(乳頭)壊死を伴うAKI、若しくは他のAKI;慢性腎臓病;一般的な腎症、特に、膜性腎症、糖尿病性腎症、IgA腎症、遺伝性腎症、鎮痛薬性腎症、CFHR5腎症、造影剤誘導腎症、アミロイド腎症、逆流性腎症及び/又はメソアメリカ腎症;一般的な腎炎、特に、ループス腎炎、腎盂腎炎、間質性腎炎、尿細管間質性腎炎、慢性腎炎若しくは急性腎炎、びまん性増殖性腎炎、及び/又は巣状増殖性腎炎、尿細管間質性腎炎、感染性間質性腎炎、腎盂炎、腎盂腎炎、間質性腎炎;尿細管症、尿細管炎、特に、RTA(RTA1及びRTA2)、ファンコニ症候群、バーター症候群、ギッテルマン症候群、リドル症候群、腎性尿崩症、腎乳頭壊死、水腎症、膿腎症及び/又は急性尿細管壊死慢性腎疾患(CKD);グッドパスチャー症候群(抗糸球体基底膜抗体病);多発性血管炎を伴う肉芽腫症;顕微鏡的多発性血管炎;並びに/又はチャーグ・ストラウス症候群から選択することができる。
【0139】
糸球体腎炎とは、いくつかの腎疾患を指し、それにより、多くの疾患が腎臓中の糸球体又は小血管のいずれかの炎症を特徴とするが、必ずしも全ての疾患が炎症成分を有するとは限らない。急性腎臓傷害(「AKI」、「急性腎不全」又は「急性腎臓不全」とも呼ばれる)は、腎臓機能の突然の消失であり、腎虚血/再かん流傷害モデルにおいて調査されることが多い。腎症、すなわち、腎臓の損傷又は腎臓の疾患は、非炎症性腎症であるネフローゼ、及び炎症性腎臓病である腎炎も含む。
【0140】
本発明の分子により効率的に処置される疾患又は障害のうち、より多数の疾患又は障害を、炎症プロセスと関連付けることができるが、必ずしもそのような炎症プロセスと関連する必要があるとは限らない。以下の疾患又は障害が、本発明の分子の使用により処置可能であるとこれに関して特に開示される:アジソン病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、筋萎縮性側索硬化症、抗リン脂質症候群、アトピー性アレルギー、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性心筋症、自己免疫性腸疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ球増殖性症候群、自己免疫性多内分泌症候群、自己免疫性プロゲステロン皮膚炎、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性蕁麻疹、バロー同心円性硬化症、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素症、補体第2成分欠損症関連疾患、クッシング症候群、ドゴー病、有痛脂肪症、好酸球性肺炎、後天性表皮水疱症、新生児溶血性疾患、クリオグロブリン血症、エバンス症候群、進行性骨化性線維形成異常症、消化管類天疱瘡、グッドパスチャー症候群、橋本脳症、妊娠性類天疱瘡、Hughes−Stovin症候群、低ガンマグロブリン血症、ランバート・イートン筋無力症候群、硬化性苔癬、限局性強皮症、急性痘瘡状苔癬状粃糠疹、重症筋無力症、ナルコレプシー、神経性筋緊張病、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、Parry−Romberg症候群、悪性貧血、POEMS症候群、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、むずむず脚症候群、後腹膜線維化症、自己免疫性多内分泌症候群2型、全身硬直症候群、Susac症候群、熱性好中球性皮膚症、シデナム舞踏病、血小板減少症、及び白斑。
【0141】
任意の種類の炎症性眼疾患を、本発明の分子の使用によって処置することができるが、以下の眼関連疾患が特に開示される:角膜手術後の炎症、非感染性角膜炎、網脈絡膜炎症、及び交感性眼炎。より一般的な用語では、本明細書に記載されるJNK阻害剤を使用して、特に、ブドウ膜炎、特に、前部、中間部及び/又は後部ブドウ膜炎、交感性ブドウ膜炎及び/又は全ブドウ膜炎;一般的な強膜炎、特に、前部強膜炎、角膜辺縁性強膜炎、後部強膜炎、及び角膜障害を伴う強膜炎;一般的な上強膜炎、特に、一過性周期性上強膜炎及び結節性上強膜炎;網膜炎;一般的な結膜炎、特に、急性結膜炎、粘液膿性結膜炎、アトピー性結膜炎、中毒性結膜炎、偽膜性結膜炎、漿液性結膜炎、慢性結膜炎、巨大乳頭結膜炎、濾胞性結膜炎、春季結膜炎、眼瞼結膜炎、及び/又は瞼裂斑炎;一般的な非感染性角膜炎、特に、角膜潰瘍、表層角膜炎、黄斑角膜炎、糸状角膜炎、雪眼炎、点状角膜炎、角結膜炎、例えば、曝露性角結膜炎、ドライアイ症候群(乾性角結膜炎)、神経栄養性角結膜炎、結節性眼炎、フリクテン性角結膜炎、春季角結膜炎及び他の角結膜炎、間質性結膜炎及び深層角膜炎、硬化性角膜炎、角膜血管新生及び他の角膜炎;一般的な虹彩毛様体炎、特に、急性虹彩毛様体炎、亜急性虹彩毛様体炎及び慢性虹彩毛様体炎、原発性虹彩毛様体炎、再発性虹彩毛様体炎及び続発性虹彩毛様体炎、水晶体起因性虹彩毛様体炎、フックス虹彩異色性毛様体炎、フォークト・小柳症候群;虹彩炎;一般的な脈絡網膜炎症、特に、限局性脈絡網膜炎症及び播種性脈絡網膜炎症、脈絡網膜炎、脈絡膜炎、網膜炎、網膜脈絡膜炎、後部毛様体炎、原田病、感染症及び寄生虫疾患における脈絡網膜炎症;特に、眼に対して、及び/又は眼の中で行われた手術の後、例えば、白内障手術、レーザー眼科手術、緑内障手術、屈折矯正手術、角膜手術、硝子体−網膜手術、眼筋手術、眼形成手術、及び涙器を含む手術の眼の術後炎症、特に、術後眼内炎症、好ましくは、複雑な眼の手術及び/又は複雑ではない眼の手術の後の術後眼内炎症、例えば、処置後のブレブの炎症;眼の網膜を損傷する炎症疾患;網膜血管炎、特に、イールズ病及び網膜血管周囲炎;一般的な網膜症、特に、糖尿病性網膜症、(動脈高血圧誘発性)高血圧性網膜症、滲出性網膜症、放射線誘発性網膜症、日光誘発性日光網膜症、外傷誘発性網膜症、例えば、プルチェル網膜症、未熟児網膜症(ROP)及び/又は過粘稠度関連網膜症、非糖尿病性増殖性網膜症、及び/又は増殖性硝子体網膜症;濾過胞炎;眼内炎;交感性眼炎;麦粒腫;霰粒腫;眼瞼炎;まぶたの皮膚炎及び他の炎症;涙腺炎;涙管炎、特に、急性及び慢性涙小管炎;涙嚢炎;眼窩の炎症、特に、眼窩の蜂巣炎、眼窩の骨膜炎、眼窩のテノン嚢炎、眼窩の肉芽腫及び眼窩筋炎;化膿性内眼球炎及び寄生虫性眼内炎;並びに一般的な黄斑及び/又は後極の変性と関連する疾患及び/又は障害、特に、加齢黄斑変性(AMD)、特に、滲出型若しくは非滲出型の加齢黄斑変性、滲出性及び/又は非滲出性加齢黄斑変性、及び白内障から選択される、眼の炎症性及び非炎症性疾患を治療及び/又は予防することができる。
【0142】
「非滲出型」の進行性AMDは、網膜の下の網膜色素上皮層の萎縮の結果生じ、眼の中心部分の光受容体(桿体及び錐体)の喪失により失明を引き起こす。新血管の「滲出型」の進行性AMDは、ブルッフ膜を介して、脈絡膜毛細血管における異常な血管増殖(脈絡膜血管新生)に起因する失明を引き起こし、最終的には、黄斑下の血液及びタンパク質の漏出をもたらす。これらの血管からの出血、漏出、及び瘢痕化は、未処置のまま放置した場合、最終的には光受容体に対する不可逆的損傷及び急速な失明を引き起こす。本発明の分子は、両方の型のAMDを処置するのに好適である。
【0143】
特に、本発明のJNK阻害剤を使用して、ドライアイ症候群(DES)を治療及び/又は予防することができる。乾燥角膜炎、眼球乾燥症、乾性角結膜炎(KCS)又は乾性角膜とも呼ばれる、ドライアイ症候群(DES)は、眼の乾燥により引き起こされ、次いで、涙液産生の減少又は涙液層蒸発の増加により引き起こされる眼疾患である。ドライアイ症候群の典型的な症状は、乾燥、焼けるような眼の痛み及び砂が入ったような眼の刺激である。ドライアイ症候群は、眼の表面の炎症と関連することが多い。ドライアイ症候群が未処置のままであるか、又は重症になった場合、それは視力低下又は更には失明をもたらす眼の損傷を引き起こし得る合併症をもたらし得る。未処置のドライアイ症候群は、特に、眼の上皮における病理学的事例、扁平上皮化生、杯細胞の喪失、角膜表面の肥厚化、角膜びらん、点状角膜症、角膜上皮欠損、角膜潰瘍、角膜血管新生、角膜瘢痕化、角膜菲薄化、及び更には角膜穿孔をもたらし得る。本発明によるJNK阻害剤を、例えば、加齢、糖尿病、コンタクトレンズ若しくは他の原因に起因する、及び/又は眼の手術若しくは外傷の後、特に、単にレーザー眼科手術と一般的に呼ばれるレーシック(レーザー光線による近視手術)の後のドライアイ症候群の治療及び/又は予防において用いることができる。
【0144】
ドライアイの標準的な処置は、人工涙液、シクロスポリン(特に、シクロスポリンA;例えば、Restasis(登録商標));自己血清点眼薬;潤滑眼軟膏剤の投与及び/又は例えば、点眼薬若しくは眼軟膏剤の形態での(コルチコ)ステロイドの投与を含んでもよい。したがって、本発明はまた、本明細書で定義されたJNK阻害剤と、ドライアイの標準処置、特に、上記の処置のいずれか1つとの組合せ投与を含む、ドライアイ症候群の処置方法における本明細書に記載のJNK阻害剤の使用にも関する。特に好ましいのは、シクロスポリンA、最も好ましくは人工涙液との組合せである。組合せ投与は、平行投与及び/又は事後投与(最初に本明細書に記載のJNK阻害剤、次いで、(コルチコ)ステロイドの投与、又はその逆)を含む。確かに、事後投与と平行投与を組み合わせてもよく、例えば、処置を本明細書に記載のJNK阻害剤から開始し、処置の経過の後の時点で、(コルチコ)ステロイドを平行して投与する、又はその逆である。
【0145】
特に、本発明のJNK阻害剤を使用して、眼の強膜、角膜、虹彩、毛様体、網膜及び/又は脈絡膜の炎症疾患を治療及び/又は予防することができる。好ましくは、本発明のJNK阻害剤を使用して、ブドウ膜炎、すなわち、ブドウ膜の炎症を治療及び/又は予防することができる。ブドウ膜は、眼の中央の有色素血管構造からなり、虹彩、毛様体、及び脈絡膜を含む。典型的には、ブドウ膜炎は、前部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎、及び/又は全ブドウ膜炎として分類され、それにより、後者は、ブドウ膜の全ての層の炎症である。更に、ブドウ膜炎は、一方の眼への外傷後の両眼の両側性びまん性肉芽腫性ブドウ膜である、交感性眼炎(交感性ブドウ膜炎)を含む。本発明のJNK阻害剤を用いて処置される特に好ましい前部ブドウ膜炎としては、虹彩毛様体炎及び虹彩炎が挙げられる。虹彩炎は、前室及び虹彩の炎症である。虹彩毛様体炎は、虹彩炎と同じ症状を呈するが、硝子体腔における炎症も含む。本発明のJNK阻害剤を用いて予防及び/又は治療される虹彩毛様体炎の例としては、限定されるものではないが、急性虹彩毛様体炎、亜急性虹彩毛様体炎、及び慢性虹彩毛様体炎、原発性虹彩毛様体炎、再発性虹彩毛様体炎、及び続発性虹彩毛様体炎、水晶体起因性虹彩毛様体炎、フックス虹彩異色性毛様体炎、フォークト・小柳症候群が挙げられる。扁平部炎としても知られる、中間部ブドウ膜炎は、特に、扁平部への炎症物質の「雪だまり(snowbanking)」又は沈着を伴うこともある、硝子体腔における細胞の炎症である硝子体炎を含む。後部ブドウ膜炎としては、特に、網膜及び脈絡膜の炎症である脈絡網膜炎、並びに脈絡膜炎(脈絡膜のみ)が挙げられる。より一般的な用語では、本明細書に開示されるJNK阻害剤を使用して、一般的な脈絡網膜炎、例えば、限局性及び/又は播種性脈絡網膜炎症、脈絡網膜炎、脈絡膜炎、網膜脈絡膜炎、後部毛様体炎、原田病、感染症及び寄生虫疾患における脈絡網膜炎症並びに/又は網膜炎、すなわち、網膜の炎症を治療及び/又は予防することができる。網膜炎、特に、網膜血管炎、例えば、イールズ病及び網膜血管周囲炎に加えて、一般に眼の網膜を損傷する炎症疾患が含まれる。本明細書に開示されるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される眼の強膜、角膜、虹彩、毛様体、網膜及び/又は脈絡膜の更なる炎症疾患としては、強膜炎、すなわち、強膜の炎症、例えば、前部強膜炎、角膜辺縁性強膜炎、後部強膜炎、角膜障害を伴う強膜炎及び穿孔性強膜軟化症;上強膜炎、特に、一過性周期性上強膜炎及び結節性上強膜炎;並びに角膜の炎症である角膜炎、特に、角膜潰瘍、表層角膜炎、黄斑角膜炎、糸状角膜炎、雪眼炎、点状角膜炎、角結膜炎、例えば、曝露性角結膜炎、乾性角結膜炎(ドライアイ)、好中球性角結膜炎、結節性眼炎、フリクテン性角結膜炎、春季角結膜炎及び他の角結膜炎、間質性角膜炎及び深層角膜炎、硬化性角膜炎、角膜血管新生及び他の角膜炎が挙げられる。
【0146】
更に、本明細書に開示されるJNK阻害剤は、眼の術後(若しくは「処置後」)又は外傷後炎症を治療及び/又は予防するのに特に有用である。「術後」とは、特に、眼に対して、及び/又は眼の中で行われた手術、例えば、白内障手術、レーザー眼科手術、緑内障手術、屈折矯正手術、角膜手術、硝子体−網膜手術、眼筋手術、眼形成手術、及び/又は涙器を含む手術を指す。好ましくは、「術後」において言及される手術は、複雑な眼の手術及び/又は複雑ではない眼の手術である。特に好ましくは、例えば、(限定されるものではないが)処置後のブレブの炎症であってもよい、術後又は外傷後眼内炎症を治療及び/又は予防するための本明細書に開示されるJNK阻害剤の使用である。
【0147】
本発明によるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防される別の特に好ましい眼疾患は、網膜症である。網膜症の非限定例としては、糖尿病性網膜症、高血圧性網膜症(例えば、動脈高血圧誘発性)、滲出性網膜症、放射線誘発性網膜症、日光誘発性日光網膜症、外傷誘発性網膜症、例えば、プルチェル網膜症、未熟児網膜症(ROP)及び/又は過粘稠度関連網膜症、非糖尿病性増殖性網膜症、及び/又は増殖性硝子体網膜症が挙げられる。本明細書に開示されるJNK阻害剤は、それぞれ、糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症の治療及び/又は予防にとって特に好ましい。
【0148】
以前は水晶体後部線維増殖症(RLF)として知られた、未熟児網膜症(ROP)は、一般に、新生児集中治療を受けている未熟児で生まれた新生児が罹患する眼の疾患である。それは、瘢痕化及び網膜剥離をもたらし得る網膜血管の無秩序な増殖によって引き起こされると考えられている。ROPは、軽度で寛解することがあるが、重症例では失明をもたらし得る。そのようなものとして、全ての早産児は、ROPのリスクがあり、非常に低い出生時体重は更なる危険因子である。酸素毒性と相対的低酸素状態の両方が、ROPの発症に寄与し得る。本発明の分子は、ROPを処置するのに好適である。
【0149】
更に、本発明の分子は、あらゆる型の網膜症、特に、糖尿病誘発性網膜症、動脈高血圧誘発性高血圧性網膜症、放射線誘発性網膜症(イオン化放射線への曝露に起因する)、日光誘発性日光網膜症(日光への曝露)、外傷誘発性網膜症(例えば、プルチェル網膜症)及び異常タンパク血症を引き起こす障害において見られるような過粘稠度関連網膜症を処置するのに特に好適である。
【0150】
更に、本明細書に開示されるJNK阻害剤は、関節炎並びに関節の関連疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防するのに特に有用である。関節炎は、1つ又は複数の関節の炎症を含む関節障害の形態である。100を超える異なる形態の関節炎が存在する。最も一般的な形態である変形性関節症(変性関節疾患)は、関節への外傷、関節の感染、又は加齢の結果である。他の関節炎形態は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、及び関連する自己免疫疾患である。敗血性関節炎は、関節感染により引き起こされる。関節痛が原発性であり、主な特徴と考えられるいくつかの疾患が存在する。一般に、ある人が「関節炎」を有する場合、それは、彼らが、変形性関節症、関節リウマチ、痛風及び偽痛風、敗血性関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、スティル病を含むこれらの疾患の1つを有することを意味する。関節痛はまた、他の疾患の症状であってもよい。この場合、関節炎は主疾患にとって二次性のものであると考えられる;これらのものとしては、乾癬(乾癬性関節炎)、反応性関節炎、エーラー・ダンロス症候群、ヘモクロマトーシス、肝炎、ライム病、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、炎症性腸疾患(クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、発熱を繰り返す高免疫グロブリンD血症、サルコイドーシス、ウィップル病、TNF受容体関連周期性症候群、ウェゲナー肉芽腫症(及び他の多くの血管炎症候群)、家族性地中海熱及び全身性エリテマトーデスが挙げられる。未分化関節炎は、周知の臨床疾患カテゴリーに適合しない関節炎であり、おそらく確定リウマチ疾患の初期段階である。
【0151】
特に、本明細書に開示されるJNK阻害剤を用いて治療及び/又は予防することができる、関節炎と関連する疾患及び/又は障害を、化膿性関節炎、特に、ブドウ球菌性関節炎及び多発性関節炎、肺炎球菌性関節炎及び多発性関節炎、他の連鎖球菌性関節炎及び多発性関節炎、並びに他の細菌に起因する関節炎及び多発性関節炎;一般的な感染症及び寄生虫疾患における関節の直接的感染;感染後及び反応性関節症、特に、腸バイパス形成術後の関節症、赤痢後関節症、免疫化後関節症、ライター病、及び他の反応性関節症;炎症性多発性関節症、特に、リウマチ因子を伴う関節リウマチ、例えば、フェルティ症候群、関節リウマチを伴うリウマチ性肺疾患、関節リウマチを伴うリウマチ性血管炎、関節リウマチを伴うリウマチ性心疾患、関節リウマチを伴うリウマチ性筋疾患、関節リウマチを伴うリウマチ性多発性神経障害、他の臓器及び系の障害を伴う関節リウマチ、臓器又は系の障害を伴わないリウマチ因子を伴う関節リウマチ;他の関節リウマチ、例えば、リウマチ因子を伴わない関節リウマチ、成人スティル病、リウマチ性滑液包炎、リウマチ結節、炎症性多発性関節症、腸疾患性関節症;若年性関節炎、例えば、詳細不明の若年性関節リウマチ、若年性強直性脊椎炎、全身型若年性関節リウマチ、若年性リウマチ性多発性関節炎(血清反応陰性)、及び少関節型若年性関節リウマチ;慢性痛風、例えば、特発性慢性痛風、鉛誘発性慢性痛風、薬物誘発性慢性痛風、腎障害に起因する慢性痛風、;痛風、例えば、特発性痛風、鉛誘発性痛風、薬物誘発性痛風、腎障害に起因する痛風;他の結晶性関節症、例えば、家族性及び他の軟骨石灰化症;他の関節症、例えば、カシン・ベック病、絨毛結節性滑膜炎(色素性)、回帰性リウマチ、間欠性関節水腫、外傷性関節症;他の関節炎、例えば、多発性関節炎及び単関節炎;他の関節症、例えば、シャルコー関節;変形性関節症、特に、多発性変形性関節症、例えば、一次性全身性(変形性)関節症、ヘバーデン結節、ブシャール結節、二次性多発性関節炎及びびらん性関節炎、臀部の変形性関節症、膝の変形性関節症、第一手根中手関節の変形性関節症、一次性、二次性及び外傷後変形性関節症;並びに他の関節障害、特に、手指及び足指の後天的変形、例えば、槌指、ボタン穴変形、スワンネック変形、外反母趾、膝蓋骨の障害、膝関節内障、関節強直、寛骨臼突出;並びに他の関節障害、例えば、関節血症、関節瘻、動揺関節(flial joint)、及び骨棘から選択することができる。
【0152】
本発明の分子の使用により処置される炎症関連疾患の更なるクラスは、以下のもの:急性播種性脳脊髄炎、抗合成酵素症候群、自己免疫性肝炎、自己免疫性末梢神経障害、膵炎、特に、自己免疫性膵炎、ビッカースタッフ型脳炎、ブラウ症候群、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、骨髄炎、特に、慢性再発性多発性骨髄炎、チャーグ・ストラウス症候群、コーガン症候群、巨細胞性動脈炎、CREST症候群、血管炎、特に、皮膚小血管性血管炎又は蕁麻疹様血管炎、皮膚炎、特に、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、全身性強皮症、ドレスラー症候群、薬物誘発性全身性エリテマトーデス、円板状紅斑性狼瘡、腱付着部炎、好酸球性筋膜炎、胃腸炎、特に、好酸球性胃腸炎、結節性紅斑、特発性肺線維症、胃炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、汗腺膿瘍、特発性炎症性脱髄疾患、筋炎、特に、封入体筋炎、膀胱炎、川崎病、扁平苔癬、ルポイド肝炎、マジード症候群、メニエール病、顕微鏡的多発性血管炎、混合性結合組織疾患、脊髄炎、特に、神経脊髄炎、例えば、視神経脊髄炎、甲状腺炎、特に、オード甲状腺炎、リウマチ、特に、回帰性リウマチ、パーソナージュ・ターナー症候群、静脈周囲性脳脊髄炎、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎、肝硬変、特に、原発性胆汁性肝硬変、胆管炎、特に、原発性硬化性胆管炎、進行性炎症性神経障害、ラスムッセン脳炎、軟骨炎、特に、多発性軟骨炎、例えば、再発性多発性軟骨炎、反応性関節炎(ライター病)、リウマチ熱、サルコイドーシス、シュニッツラー症候群、血清病、脊椎炎、特に、強直性脊椎炎、脊椎関節症、高安動脈炎、トローザ・ハント症候群、横断性脊髄炎、及び肉芽腫症、特に、ウェゲナー肉芽腫症である。
【0153】
本発明の最も好ましい実施形態においては、本発明の分子は、以下の疾患又は障害:皮膚の持続性又は急性炎症疾患、特に、乾癬、ドライアイ疾患(ドライアイ症候群)、ブドウ膜炎、眼の網膜を損傷する持続性又は急性炎症疾患、網膜症、特に、糖尿病性網膜症又は他の疾患により引き起こされる網膜症、加齢黄斑変性(AMD)、特に、滲出型又は非滲出型の加齢黄斑変性、未熟児網膜症(ROP)、口腔の持続性又は急性炎症疾患、特に、インプラント周囲炎、歯髄炎、歯周炎、組織又は臓器移植時、特に、心臓、腎臓、及び皮膚(組織)移植時の抗炎症処置、心臓、腎臓又は皮膚(組織)移植時の移植片拒絶、炎症性脳疾患及び/又はタウオパシーの処置のために、特に、一般的なアルツハイマー病、例えば、早発型アルツハイマー病、遅発型アルツハイマー病、老年型及び初老期型アルツハイマー認知症、代謝障害、腎臓の疾患、特に、糸球体腎炎及び急性腎臓傷害、及び関節症/関節炎、特に、反応性関節炎、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、及び乾癬性関節炎の処置のために使用される。
【0154】
したがって、特に好ましい実施形態においては、予防及び/又は治療される障害/疾患は、神経変性疾患、特に、タウオパシー、好ましくは、アルツハイマー病、例えば、早発型アルツハイマー病、遅発型アルツハイマー病、老年型及び初老期型アルツハイマー認知症である。
【0155】
アルツハイマー病(AD)は、記憶障害及び認知症と共に進行性の認知低下をもたらす破壊的な神経変性障害である。神経病理学的病変は、β−アミロイド(Aβ)ペプチドにより形成される老人斑の細胞外沈着、及び高リン酸化タウタンパク質から構成される細胞内神経原線維変化(NFT)を特徴とする(Duyckaertsら、2009、Acta Neuropathol 118:5〜36頁)。アミロイドカスケード仮説によれば、ADにおける神経変性は、ベータ部位APP切断酵素1(BACE1)及びプレセニリン1の活性を介してプロセシングする異常なアミロイド前駆体タンパク質(APP)と関連し、Aβ斑を形成する前に線維状Aβペプチドに蓄積する毒性Aβオリゴマーの産生をもたらし得る。Aβの蓄積は、シナプス機能障害、NFT形成をもたらすキナーゼ活性の変化、ニューロン脱落及び認知症をもたらし得る(Hardy及びHiggins、1992、Science 256:184〜5頁)。したがって、ADの発病は、Aβの蓄積によって誘発されると考えられ、Aβは様々なサイズのものであってよいオリゴマーに自己凝集し、実質及び血管中で拡散斑及び老人斑を形成する。Aβオリゴマー及び斑は強力なシナプス毒性を有し、プロテアソーム機能を遮断し、ミトコンドリア活性を阻害し、細胞内Ca
2+レベルを変化させ、炎症プロセスを刺激する。Aβの正常な生理機能の喪失はまた、ニューロン機能障害に寄与すると考えられる。Aβは、微小管関連タンパク質タウのリン酸化を調節するシグナリング経路と相互作用する。タウの高リン酸化は、軸索内輸送の調節におけるその正常な機能を破壊し、神経原線維変化(NFT)及び毒性種の可溶性タウの蓄積をもたらす。更に、プロテアソームによる高リン酸化タウの分解は、Aβの作用によって阻害される。したがって、これらの2つのタンパク質及びその関連するシグナリング経路は、ADのための重要な治療標的である。
【0156】
C−Jun N末端キナーゼ(JNK)は、3つの遺伝子JNK1、JNK2及びJNK3によりコードされ、mRNA選択的スプライシングによって10の異なるアイソフォームとして発現されるセリン−トレオニンタンパク質キナーゼであり、それぞれのアイソフォームは短い形態(46kDa)及び長い形態(54kDa)として発現される(Davis、2000、Cell 103:239〜52頁)。JNK1及びJNK2は遍在性であるが、JNK3は主に脳において発現される(Kyriakis及びAvruch、2001、Physiol Rev 81:807〜69頁)。JNKは、紫外線ストレス、サイトカイン及びAβペプチドなどの細胞外刺激によるMAPキナーゼ活性化を介するリン酸化により活性化され(pJNK)、それらは遺伝子発現調節、細胞増殖及びアポトーシスなどの複数の機能を有する(Dhanasekaran及びReddy、2008、Oncogene 27:6245〜51頁)。
【0157】
本発明によれば、本発明によるJNK阻害剤は、タウの高リン酸化、したがって、ニューロン脱落を減少させると推測される。したがって、本発明によるJNK阻害剤は、タウオパシーを治療及び/又は予防するのに有用であり得る。タウオパシーは、ヒトの脳におけるタウタンパク質の病理学的凝集と関連する神経変性疾患のクラスである。最も知られるタウオパシーは、タウタンパク質がタウタンパク質の高リン酸化により形成される神経原線維変化(NFT)の形態でニューロン内に沈着するアルツハイマー病(AD)である。ADにおけるNFTの関与の程度は、ブラークステージによって定義される。ブラークステージI及びIIは、NFTの関与が主に脳の内側嗅領域(transentorhinal region)に限定される場合に使用され、海馬などの辺縁領域の関与がある場合にはステージIII及びIVが使用され、広範囲に及ぶ新皮質の関与がある場合にはステージV及びVIが使用される。これは、異なって進行する老人斑関与の程度と混同されるべきではない。したがって、JNK阻害剤を、タウオパシー、特に、NFTが関与するアルツハイマー病、例えば、ブラークステージIを有するAD、ブラークステージIIを有するAD、ブラークステージIIIを有するAD、ブラークステージIVを有するAD及び/又はブラークステージVを有するADを治療及び/又は予防するために本発明に従って使用することができる。
【0158】
更なるタウオパシー、すなわち、神経原線維変化(NFT)が一般的に観察され、したがって、本発明によるJNK阻害剤によって治療及び/又は予防することができる状態としては、PHF(対になったらせん状フィラメント)タウよりもむしろ真っ直ぐなフィラメントを有する進行性核上麻痺;ボクサー認知症(慢性外傷性脳症);検出可能なβ−アミロイド斑を含まない、第17染色体と関連する前頭側頭型認知症及びパーキンソン病;Lytico−Bodig病(グアム−パーキンソン認知症複合);ADと類似するNFTを含むが、斑は有さない神経原線維変化型老年期認知症;神経節膠腫及び神経節細胞腫;髄膜血管腫症;亜急性硬化性全脳炎;並びに/又は鉛脳症、結節硬化症、ハラーフォルデン・シュパッツ病、及びリポフスチン症が挙げられる。本発明によるJNK阻害剤によって治療及び/又は予防することができる更なるタウオパシーとしては、ピック病;大脳皮質基底核変性症;嗜銀顆粒性認知症(AGD);前頭側頭型認知症及び前頭側頭葉変性症が挙げられる。ピック病及び大脳皮質基底核変性症においては、タウタンパク質は、膨張した、又は「風船化した」ニューロン内に封入体の形態で沈着する。アルツハイマー病の型として考えられることもあり、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、及びまたピック病などの他のタウオパシーと同時に存在し得る別の型の認知症である嗜銀顆粒性認知症(AGD)は、脳組織の顕微鏡検査上での豊富な嗜銀顆粒及びコイル体の存在を特徴とする。非アルツハイマー型タウオパシーは、「ピック複合」として一緒に分類されることもある。
【0159】
また、本発明によれば、本発明によるJNK阻害剤によって予防及び/又は治療される障害/疾患が、軽度認知障害(MCI)、特に、アルツハイマー病に起因するMCIであることも好ましい。典型的には、軽度認知障害(MCI)は、アルツハイマー病とは異なる、すなわち、軽度認知障害(MCI)は、典型的には、アルツハイマー病ではないが、それ自体、F06.7においてICD−10によって分類される疾患である。ICD−10(F06.7)においては、MCIは、記憶障害、学習困難、及び短い期間を超えて仕事に集中する能力の低下を特徴とする障害と記載される。精神的作業が試みられる場合に精神的疲労の顕著な感覚があることが多く、新しい学習が、客観的に成功している場合であっても、主観的には難しいとわかっている。これらの症状はいずれもそれほど重篤ではなく、認知症(F00−F03)又はせん妄(F05.−)のいずれかの診断を行うことができる。この障害は、脳と全身の両方で様々な感染及び身体障害に先行する、付随する、又はその後に続くものであってもよいが、脳の関与の直接的証拠は必ずしも存在しない。それを、その異なる病因、より厳密な範囲の一般的にはより軽度の症状、及び通常はより短い持続期間により、脳炎後症候群(F07.1)及び脳震とう後症候群(F07.2)と区別することができる。軽度認知障害(MCI)、特に、アルツハイマー病に起因するMCIは、記憶及び思考技術を含む認知能力の、わずかであるが顕著で測定可能な低下を引き起こす。MCIは、個体の年齢及び教育に基づいて予測されるが、その日常活動を妨害するには有意に十分ではないものを超えるあらゆる型の認知障害の開始及び進化を含む。MCIの診断は、例えば、Albert MS、DeKosky ST、Dickson D、Dubois B、Feldman HH、Fox NC、Gamst A、Holtzman DM、Jagust WJ、Petersen RC、Snyder PJ、Carrillo MC、Thies B、Phelps CH(2011)The diagnosis of mild cognitive impairment due to Alzheimer’s disease: recommendations from the National Institute on Aging−Alzheimer’s Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer’s disease;Alzheimers Dement.;7(3):270〜9頁により記載されている。MCIは、あらゆる型の認知症の開始時にあってもよく、又は認知症の臨床症状をもたらすことなく時間と共に消失し得る一時的な(ephemeric)形態の認知障害を示す。MCIを有する人は、アルツハイマー病又は別の認知症を発症するリスクが高く、特に、アルツハイマー病を発症するリスクが高いが、認知症、特に、アルツハイマー病を必ず発症するとは限らない。軽度認知障害を処置するための薬剤は、米国食品医薬品局(FDA)によって現在認可されていない。アルツハイマー病の症状を処置するために認可された薬物は、MCIの認知症への進行を遅延させるか、又は防止する際にいかなる持続的な利益も示していない。
【0160】
また、本発明のJNK阻害剤は、特に、尿管炎;尿路感染(膀胱感染、急性膀胱炎);一般的な膀胱炎、特に、間質性膀胱炎、ハナー潰瘍、三角炎及び/又は出血性膀胱炎;尿道炎、特に、非淋菌性尿道炎若しくは淋菌性尿道炎;膀胱痛症候群;IC/PBS;尿道症候群;並びに/又は後腹膜線維化症、特に、一般的な膀胱炎、特に、間質性膀胱炎から選択される泌尿器系の疾患及び/又は障害の処置のために使用することもできる。これに関連して、間質性膀胱炎(IC)が症状及び重症度において非常に異なることがわかっており、したがって、多くの研究者が、それが1つではなく、いくつかの疾患であると考えている。近年では、科学者は、ICの最も厳密な定義を満たさなくてもよい痛みのある泌尿器症状を伴う事例を記載するために用語「膀胱痛症候群」(BPS)又は「疼痛膀胱症候群」(PBS)を使用し始めている。用語「IC/PBS」は、感染又は尿路結石などの他の原因に帰することができない尿路疼痛の全ての事例を含む。間質性膀胱炎、又はICの用語は、典型的には、例えば、米国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)により確立された、全てのIC基準を満たす事例を記述する場合にのみ使用される。
【0161】
また、本発明のJNK阻害剤は、代謝障害の処置、例えば、糖尿病(1型又は2型、特に、1型)、ファブリ病、ゴーシェ病、低体温症、異常高熱、低酸素症、脂質性組織球増殖症、リピドーシス、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症、ニーマン・ピック病、肥満、及びウォルマン病の処置のために使用することもできる。より一般的には、代謝障害は、遺伝型のものであってよく、又は炭水化物代謝の後天的障害、例えば、グリコーゲン蓄積症、アミノ酸代謝の障害、例えば、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、グルタル酸血症1型、尿素サイクル異常症又は尿素サイクル障害、例えば、カルバモイルリン酸シンテターゼI欠損症、有機酸代謝の障害(有機酸尿)、例えば、アルカプトン尿症、脂肪酸酸化及びミトコンドリア代謝の障害、例えば、中鎖アシルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ欠損症(MCADDと短縮されることが多い)、ポルフィリン代謝の障害、例えば、急性間欠性ポルフィリン症、プリン又はピリミジン代謝の障害、例えば、レッシュ・ナイハン症候群、ステロイド代謝の障害、例えば、リポイド先天性副腎過形成、又は先天性副腎過形成、ミトコンドリア機能の障害、例えば、キーンズ・セイアー症候群、ペルオキシソーム機能の障害、例えば、ツェルヴェーガー症候群、又はリソソーム蓄積障害、例えば、ゴーシェ病又はニーマン・ピック病であってよい。
【0162】
また、本発明のJNK阻害剤は、特に、一般的な固形腫瘍;一般的な血液腫瘍、特に、白血病、例えば、急性リンパ球性白血病(L1、L2、L3)、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、前骨髄球性白血病(M3)、単球性白血病、骨髄芽球性白血病(M1)、骨髄芽球性白血病(M2)、巨核芽球性白血病(M7)及び骨髄単球性白血病(M4);骨髄腫、例えば、多発性骨髄腫;リンパ腫、例えば、非ホジキンリンパ腫、菌状息肉腫、バーキットリンパ腫、及びホジキン症候群;膵臓がん、特に、膵臓癌;卵巣がん、特に、卵巣癌;一般的な肝臓がん及び肝臓癌、特に、肝臓転移、肝臓細胞癌、肝細胞癌、ヘパトーマ、肝内胆管癌、胆管癌、肝芽腫、血管肉腫(肝臓の)、及び他の特定又は不特定の肝臓の肉腫及び癌腫;皮膚がん;メラノーマ、特に、悪性メラノーマ;扁平上皮癌;グリア芽腫;一般的な結腸がん及び結腸癌、特に、盲腸癌、虫垂癌、上行結腸癌、肝湾曲部癌、横行結腸癌、脾湾曲部癌、下行結腸癌、S状結腸癌、結腸の重複部位の癌腫及び/又は結腸の悪性カルチノイド腫瘍;前立腺がん及び前立腺腫瘍、特に、前立腺癌から選択される、新生物、特に、がん(悪性新生物)及び/又は腫瘍疾患;並びに特に、聴神経鞘腫、肺癌;腺癌;肛門癌;気管支癌;頸部癌;子宮頸がん;星状細胞腫;基底細胞腫;Bcr−Abl形質転換を伴うがん;膀胱がん;芽細胞腫;骨肉腫;脳転移;脳腫瘍;乳がん;カルチノイド;子宮頸がん;子宮体癌;頭蓋咽頭腫;CUP症候群;ウイルス誘発性腫瘍;EBV誘発性B細胞リンパ腫;子宮内膜癌;赤白血病(M6);食道がん;胆嚢がん;消化管がん;消化管間質腫瘍;消化管腫瘍;泌尿生殖器がん;緑内障;グリオーマ;頭頸部腫瘍;B型肝炎誘発性腫瘍;肝細胞又は肝細胞性癌;肝癌;ヘパトーマ;ヘルペスウイルス誘発性腫瘍;HTLV−1誘発性リンパ腫;HTLV−2誘発性リンパ腫;インスリノーマ;腸がん;カポジ肉腫;腎臓がん;腎臓癌;喉頭がん;白血病;眼瞼腫瘍;肺がん;リンパがん;乳腺癌;マントル細胞リンパ腫;神経線維腫症;髄芽細胞腫;髄膜腫;中皮腫;非小細胞癌;非小細胞肺癌;食道がん;食道癌;乏突起膠腫;パピローマウイルス誘発性癌;陰茎がん;下垂体部腫瘍;形質細胞腫;直腸腫瘍;直腸癌;腎細胞癌;網膜芽腫;肉腫;シュネーベルガー病;小細胞肺癌;小腸がん;小腸腫瘍;軟部組織腫瘍;棘細胞がん;扁平上皮癌;胃がん;精巣がん;咽喉がん;胸腺腫;甲状腺がん;甲状腺癌;舌がん;未分化AML(MO);尿道がん;子宮がん;膣がん;フォン・ヒッペル・リンドウ病;外陰部がん;ウィルムス腫瘍;色素性乾皮症から選択される更なるがん及び/又は腫瘍疾患の処置のために使用することもできる。
【0163】
当業者は、上記の疾患状態及び障害が1つを超える上記の疾患クラスに属してもよいことを容易に理解できる。例えば、気管支癌は、確かに、増殖性疾患だけでなく、肺疾患を含む呼吸器系の疾患群にも属する。したがって、個々の疾患の上記分類は、限定的又は結論的であると考えられるのではなく、例示的な性質だけのものであると考えられる。あるクラスに記載される個々の疾患状態は事実上、別のクラスの疾患状態における処置としての本発明のJNK阻害剤の適用のための好適な例でもあることを除外しない。当業者は、異なる疾患状態及び障害を一致する分類に容易に割り当てることができる。
【0164】
最後に、上記のように、本発明は、様々な疾患状態及び障害の治療及び/又は予防のための本明細書に定義されるJNK阻害剤の使用を企図する。本発明は、非ヒト動物を免疫するため、例えば、モノクローナル抗体の生成のために本明細書に定義されるJNK阻害剤を使用することを企図しない。そのような方法は、ここでは、療法による動物体の処置のための方法であるとは考えない。
【0165】
組織及び臓器移植
別の態様によれば、本発明は、移植前の組織又は臓器移植片の(in vitroでの)処置のための本明細書に定義されるJNK阻害剤を提供する。用語「移植前」は、単離の時間及びかん流/輸送の時間を含む。したがって、「移植前」の組織又は臓器移植片の処置は、例えば、単離中及び/又はかん流中及び/又は輸送中の処置を指す。特に、組織又は臓器移植片の単離に使用される溶液並びに組織又は臓器移植片のかん流、輸送及び/又はさもなければ処置に使用される溶液は、好ましくは、本発明によるJNK阻害剤を含有することができる。
【0166】
移植において、許容される冷虚血時間(CIT)及び許容される温虚血時間(WIT)は、重要な役割を果たす。CITは、ドナーから臓器が取り出される間、特に、冷溶液による臓器のかん流/処置の時間から、レシピエントへのその移植までに経過する時間の長さである。WITは、一般に、常温条件下での細胞及び組織の虚血を記述するために使用される用語である。特に、WITは、ドナーの死亡の間、特に、交差クランピング又は心臓が鼓動していないドナーにおける心停止の時間から、冷かん流が開始されるまでに経過する時間の長さを指す。更に、WITはまた、氷からの臓器の取り出しから、再かん流までの、埋め込みの間の虚血を指してもよい。同種移植においては、通常、脳死ドナーを起源とする移植片は、典型的には、WITにはかけられないが、8〜12hのCIT(調達病院から単離実験室までの輸送に必要な時間)を有する一方、心臓が鼓動していないドナーからの移植片は、典型的には、より長いWIT及びまた8〜12hのCITに曝露される。しかしながら、そのような移植は、WITに起因する損傷に関する関心のため、現在は日常的に使用されていない。自己移植においては、WITを行ってもよいが、CITは通常限られる(例えば、慢性膵炎を有する患者における膵島自己移植においては、典型的には1〜2h)。
【0167】
ドナーに応じて、臓器及び/又は組織は、移植前に可変量の時間にわたって血液をかん流させず、虚血をもたらす。虚血は、移植、例えば、腎臓移植に付随する不可避の事象である。虚血変化は、重症血行動態障害と関連する脳死から始まる:頭蓋内圧の増大は徐脈及び心拍出量の減少をもたらす;クッシング反射は、頻脈及び血圧の上昇を引き起こす;短期間の安定化後、全身血管抵抗は低血圧と共に低下し、心停止をもたらす。フリーラジカル媒介性傷害は、炎症性サイトカインを放出させ、先天性免疫を活性化する。これらの変化−初期先天性応答及び虚血組織損傷は全て、適応反応の発達において役割を果たし、次いで、移植片拒絶をもたらし得ると提言されている。移植前の様々な期間の臓器及び/又は組織の低温保存は、虚血組織損傷を増大させる。虚血傷害の最終段階は、再かん流の間に起こる。虚血傷害のエフェクター相である再かん流傷害は、初期の損傷の数時間又は数日後に生じる。修復及び再生プロセスは、細胞アポトーシス、自食作用、及び壊死と共に起こる;臓器の運命は、細胞死又は再生が優勢になるかどうかに依存する。全プロセスは、虚血−再かん流(I−R)傷害と記載されている。それは、移植される臓器又は組織の初期だけでなく、後期機能にも大きく影響する。したがって、I−R傷害の防止は、ドナーの事前処置による臓器回収の前に既に開始することができる。
【0168】
移植片を、本発明によるJNK阻害剤により(予備)処置して、宿主に移植されるまで、その生存性及び機能性を改善することができることがわかった。本発明のその態様について、移植片は、特に、腎臓、心臓、肺、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、肝臓、血液細胞、骨髄、角膜、事故で切断された四肢、特に、指、手、足、顔、鼻、骨、心臓弁、血管又は腸移植片、好ましくは、腎臓、心臓、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、又は皮膚移植片である。
【0169】
更に、更なる態様において、本発明は、移植中又は移植後の、組織若しくは臓器移植片、又は組織若しくは臓器移植を受けた動物若しくはヒトの処置のための本明細書に定義されるJNK阻害剤を提供する。用語「移植後」とは、特に、臓器又は組織、例えば、腎臓の再かん流を指し、それにより、再かん流は、例えば、それぞれの血流のクランプを外すことにより始まる。移植後の本発明によるJNK阻害剤を用いる処置は、特に、再かん流後の最大4時間、好ましくは再かん流後の最大2時間、より好ましくは再かん流後の最大1時間及び/又は移植の次の日での時間間隔を指す。移植後、例えば、腎臓移植後の処置のために、本発明によるJNK阻害剤を、例えば、全身的に、特に、静脈内に、0.01〜10mg/kgの範囲、好ましくは0.1〜5mg/kgの範囲、より好ましくは、0.5〜2mg/kgの範囲の用量で、単回用量又は反復用量として、本明細書に記載の医薬組成物として組織又は臓器移植を受けた動物又はヒトに投与することができる。
【0170】
本発明のその態様について、移植片は、特に、腎臓、心臓、肺、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、肝臓、血液細胞、骨髄、角膜、事故で切断された四肢、特に、指、手、足、顔、鼻、骨、心臓弁、血管又は腸移植片、好ましくは、腎臓、心臓、膵臓、特に、膵島(ランゲルハンス島とも呼ばれる)、又は皮膚移植片である。
【0171】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態によってその範囲を限定されるべきではない。実際、本明細書に記載のものに加えて、本発明の様々な改変が、前記説明及び添付の図面から当業者には明らかとなるであろう。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内にある。
【0172】
本明細書で引用された全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0173】
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似するか、又は等価である方法及び材料を、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書に記載の全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が制御するものとする。更に、材料、方法、及び実施例は例示に過ぎず、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0174】
以下では、本発明の種々の実施形態及び態様を例示する特定の実施例を示す。しかし、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態の範囲に限定されないものとする。実際、本発明の種々の改変は、本明細書に記載のものに加えて、前述の説明、添付の図面及び以下の実施例から当業者には容易に明らかになる。このような全ての改変が、添付の特許請求の範囲内に入る。
【実施例1】
【0175】
JNK阻害剤配列番号172の合成
例示的な実施例として、配列番号172を有するJNK阻害剤の合成を以下に示す。当業者には、前記合成がまた、本発明による任意の他のJNK阻害剤の合成について用いられ、かつ容易に適合され得ることは公知である。
【0176】
配列番号172を有するJNK阻害剤は、Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)ストラテジーを用いて固相ペプチド合成によって製造した。ペプチドと樹脂との間のリンカーは、Rinkアミドリンカー(p−[Fmoc−2,3−ジメトキシベンジル]−フェノキシ酢酸)であった。ペプチドは、連続的Fmoc脱保護及びFmoc−アミノ酸カップリングサイクルによって合成した。合成の終わりに、完成したペプチドをトリフルオロ酢酸(TFA)によって直接切断して、粗C末端アミドを得、次いで、これを分取逆相HPLCによって精製した。精製した画分を、均一なバッチ中にプールし、これをイオン交換クロマトグラフィーによって処理してその酢酸塩を得た。次いで、そのペプチドを凍結乾燥した。
【0177】
1.1 ペプチドの固相合成
注記した場合以外は、製造は、空気濾過環境中、室温(22℃±7℃)で行った。合成の規模は、約1gという精製されたペプチドの期待収率について、樹脂に対して0.7ミリモルの出発アミノ酸であった。合成は、機械的撹拌及び/又は窒素バブリングを用いるガラス濾板(fritted disk)を装備した30〜50mLのリアクター中で、手動で行った。
【0178】
1.2 樹脂の調製
p−メチルベンズヒドリルアミド樹脂(MBHA−樹脂)を最初に、ジクロロメタン/ジメチルホルムアミド/ジイソプロピルエチルアミン(diisoproplyethylamine)を用いて窒素下で洗浄した。次いでその洗浄された樹脂を、PyBOB(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)/ジイソプロピル−エチルアミン/1−ヒドロキシベンゾトリアゾール中で、Rinkアミドリンカー(p−[Fmox−2,4−ジメトキシベンジル]−フェノキシ酢酸)にカップリングして、Fmoc−Rinkアミド−MBHA樹脂を得た。
【0179】
1.3 アミノ酸のカップリング
アミノ酸を、以下のサイクルを用いて樹脂にカップリングした:
Fmoc−Rinkアミド−MBHA樹脂を、35%(v/v)ピペリジン/ジメチルホルムアミド中で、続いてジメチルホルムアミドで洗浄することによって脱保護した。その脱保護反応は、約16分かかった。Fmoc−脱保護のアミノ酸(例えば、ジメチルホルムアミド/ジクロロメタン(50/50)中の2当量のアミノ酸及びHOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)をその樹脂に添加し、続いて、2当量のカップリング剤ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を添加した。カップリング反応は、添加されるそれぞれのアミノ酸に応じて、1時間から一晩かかった。容積は、各サイクル後に、0.5mL/100mgのペプチド樹脂を基準に算出し、調節した。カップリング後、その樹脂を、DMFを用いて3回洗浄した。カップリングの完了は、一級アミンに対してニンヒドリン試験(又はKaiser試験1)及び二級アミンに対してクロラニル試験2によって試験した。いくつかの場合には、クロラニル試験は、安全性の対照としてニンヒドリン試験を伴ってもよい。カップリング試験が反応の不完全性を示した場合、ジメチルホルムアミド/ジクロロメタン及びジイソプロピルエチルアミン中の、過剰量未満(0.5〜1当量)のアミノ酸、PYBOP、HOBTを用いて、カップリングを繰り返した。樹脂の官能性を、測定し、一般には、樹脂のもともとのローディング次第で、0.6〜0.2meq/gであった。最後のアミノ酸がカップリングした後、ペプチド樹脂を、通常どおり脱保護し、次いで、DCMを用いて5回洗浄した後に、30℃、減圧下で、オーブン中で乾燥した。そのペプチド樹脂を乾燥した後、固相合成の収率を、樹脂の最初のローディングから算出した理論上の重量増大と比較した、ペプチド樹脂の重量増大の比として算出した。その収率は、100%に近い場合がある。
【0180】
1.4 切断及び脱保護
ペプチドを、室温で4時間、TFA/K試薬とも呼ばれる、トリフルオロ酢酸/1,2−エタンジチオール(ethanedthiol)/チオアニソール/水/フェノール(88/2.2/4.4/4.4/7(v/v))の混合物中で樹脂から切断した。その反応容積は、ペプチド樹脂100mgあたり1mLであった。この試薬への樹脂の添加の間、その混合温度を30℃未満に維持するように調節した。
【0181】
1.5 樹脂からのペプチドの抽出:
ペプチドを、ガラス濾板(fritted disc)を通した濾過によって樹脂から抽出した。ロータリーエバポレーター(rotavapor)でその容積の1/3まで濃縮した後、そのペプチドを、冷t−ブチルメチルエーテルで沈殿させ、濾過した。次いで、その粗ペプチドを、30℃、減圧下で乾燥した。
【0182】
1.6 分取HPLC精製:
次いで、粗ペプチドを、逆相HPLCによって、≧95%の純度に精製した。その精製された画分を、ロータリーエバポレーター(rotavaporator)で濃縮し、凍結乾燥した。
【0183】
1.7 イオン交換クロマトグラフィー
配列番号172の配列を有する、精製されたペプチドの濃縮された凍結乾燥のプールを、水中に溶解し、Dowexアセテート、50〜100メッシュ樹脂上でのイオン交換クロマトグラフィーによって精製した。
【0184】
合成に必要な出発試薬は以下であった:
【0185】
【0186】
本発明の他のJNK阻害剤は、同様の方式で調製してもよい。
【実施例2】
【0187】
本発明による選択されたJNK阻害剤の阻害有効性
以下では、本発明によるJNK阻害剤の阻害有効性をどのように測定したかを記述する標準的な操作手順を示す。この方法によって、in vitroで、非放射性標準化アッセイにおいて、候補化合物がJNKによるc−Jun特異的基質のリン酸化を低下させる能力を測定することが可能になる。更に、阻害性効果(IC50)及びJNKの選択化合物のKiを決定する方法が図示される。この方法は、候補化合物が、JNK活性を阻害するか否かを確証するために適切である。そして当業者は、その具体的な目的及び必要性のために以下の方法を適合する方法を確実に理解する。
【0188】
2.1 材料
アルファスクリーン(AlphaScreen)試薬及びプレート:
− His−JNK1(ref 14−327、Upstate、100μl中に10μg:濃度:2.2μM)最終5nM
− His−JNK2(ref 14−329、Upstate、100μl中に10μg:濃度:2μM)最終5nM
− His−JNK3(ref 14−501、Upstate、100μl中に10μg:濃度:1.88μM)最終5nM
− 抗ホスホ−cJun(ref 06−828、Upstate、ロットDAM1503356、濃度:44.5μM)最終10nM
− ビオチン−cJun(29−67):
配列:ビオチン−SNPKILKQSMTLNLADPVGSLKPHLRAKNSDLLTSPDVG(配列番号198)、ロット100509(mw4382.11、P 99.28%)H
2O中に溶解、濃度:10mM)最終30nM
− ATP(ref AS001A、Invitrogen、ロット50860B、濃度100mM)最終5μM
− SADビーズ(ref 6760617M、PerkinElmer、ロット540−460−A、濃度5mg/ml)最終20μg/ml
− AprotAビーズ(ref 6760617M、PerkinElmer、ロット540−460−A、濃度5mg/ml)最終20μg/ml
− Optiplate 384ウェルホワイトプレート(ref 6007299、PerkinElmer、ロット654280/2008)
− ペプチド希釈のための96ウェルプレート(ref 82.1581、Sarstedt)
− TopSeals−A(ref 6005185、Perkin Elmer、ロット65673)
− 生物発光エネルギー移動読み取り
− 生物発光エネルギー移動は、Fusion Alphaプレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
【0189】
ピペット:
− 電子EDP3ピペット20−300(Ref 17007243;Rainin)を用いて、プレート中に酵素抗体混合物(Enzme−Antibody mix)、基質ATP混合物(Subtrate−ATP mix)及びビーズを充填した。
− PIPETMAN(登録商標)Ultraマルチチャネル8X20(Ref 21040;Gilson)を用いて、プレート中に、阻害性化合物を充填した。
【0190】
バッファー及び溶液
− キナーゼバッファー:20mM Tris−base pH7.4、10mM MgCl
2、1mM DTT、100μM Na
3VO
4、0.01%Tween、(1%DMSO)
− 停止バッファー:20mM Tris−base pH7.4、200mM NaCl、80mM EDTA−K(NaOHの代わりにKOHを用いてpH8)、0.3%BSA
− JNK希釈キナーゼバッファー:50mM Tris−base pH7.4、150mM NaCl、0.1mM EGTA、0.03%Brij−35、270mM スクロース、0.1%β−メルカプトエタノール。
【0191】
2.2 方法
ペプチドの阻害性効果を評価するために、標準のAlphaScreenアッセイ(例えば、Guenaら、J Biomol Screen、2006;11:1015〜1026頁を参照のこと)を行った。異なる成分を調製し、引き続き示したとおり混合した。そのプレートを密閉して、以下のとおりインキュベートした:
5μl JNK+抗体
5μl TPキナーゼ±阻害剤 プレインキュベーション 30分
5μl ビオチン−cJun+ATP インキュベーション 24℃で60分
10μl ビーズSAD+AプロテインA インキュベーション 24℃暗野で60分
【0192】
混入を回避するために、混合物は、ウェルの異なるコーナーでピペットを用いて添加した。各々の混合物によるプレートの充填後、そのプレートをタッピングして(片側を保持して、反対側をテーブルにタップして)、混合物をウェルの壁に落とした。
【0193】
生物発光エネルギー移動は、Fusion Alphaプレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
【0194】
全ての化合物は、JNKの各々のアイソフォームについて3つの独立した実験において少なくとも三連で試験すべきである。試験すべき化合物の可能性のある濃度は、0、0.03nM、0.1nM、0.3nM、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1μM、3μM、10μM、30μM、及び100μMであった。対照は、JNKなしか、又は基質(c−Jun)なしのいずれかの試料であった。
【0195】
混合物調製
JNK1、JNK2及びJNK3 5nM
Biotin−cJun 30nM
ATP 5μM;抗ホスホ−cJun(S63)10nM
Bille SAD/AプロテインA 20μg/ml
【0196】
抗体[最終]=10nM(抗ホスホcJun(S63))
検出部分:[混合物]×5(25μlの最終容積中で5μl)
[ストック]=44.5μM(ref 06−828、Upstate、ロットDAM1503356)
10nM→キナーゼバッファー中で50nM
【0197】
JNK1、JNK2及びJNK3[最終]=5nM
反応部分:[混合物]×3(15μlの最終容積中で5μl)
[ストック]=JNK1について2.2μM(ref 14−327、Upstate、ロットD7KN022CU)
JNK2について2.0μM(ref 14−329、Upstate、ロット33221CU)
JNK3について1.88μM(ref 14−501、Upstate、ロットD7CN041CU)
5nM→抗体バッファー中で15nM
【0198】
阻害剤:
反応部分:[混合物]×3(15μlの最終容積中で5μl)
[ストック]=10mM
100μM→キナーゼバッファー中で300μM
30μM→キナーゼバッファー中で90μM
10μM→キナーゼバッファー中で30μM
・・・
0.03nM→キナーゼバッファー中で0.09nM
及び0nM→キナーゼバッファー
【0199】
2系列の10倍連続希釈を96ウェルプレート中で行い、1つは、300μM〜0nMで開始し、2番目は、90μM〜0.03nMで開始した。ペプチドは、384プレート中に、8チャネルマルチピペット(ref F14401、Gilson、8X20)を用いて添加する。
【0200】
ATP[最終]=5μM
反応時間:[混合物]×3(15μlの最終容積中で5μl)
[ストック]=100mM(ref AS001A、Invitrogen、ロット50860B)
5μM→キナーゼバッファー中で15μM
【0201】
Biotin c−Jun[最終]=30nM
反応部分:[混合物]×3(15μlの最終容積中で5μl)
[ストック]=10mM
30nM→ATPバッファー中で30nM
【0202】
ビーズSAD/AプロテインA[最終]=20μg/ml(Light sensitive)
検出部分:[混合物]×2.5(25μlの最終容積中で10μl)
[ストック]=5mg/ml→20μg/ml 停止バッファー中で50μg/ml
暗屋(緑色の光)の中、又は暗野中の混合物。
【0203】
IC50曲線の分析:
この分析は、以下の式を用いて、GraphPad Prism4ソフトウェアによって行った:
S字形用量応答(制約なし)。
Y=ボトム+(トップ−ボトム)/(1+10^((LogEC50−X)))
【0204】
異常値データは、グラブス(Grugg’s)検定を用いて回避した。
【0205】
IC50の比較:
この分析は、以下の検定を用いるGraphPad Prism4ソフトウェアによって行った:一元ANOVA検定の後に、テューキー多重比較検定を続けた。P<0.05を、有意とみなした。
【0206】
JNKについてのATPのKm及びビオチン−cJun特異的ペプチドのKmは、レポートAlphaScreen標準化アッセイで決定した。
【0207】
KiとIC50との間の数学的関係(Ki=IC50/(1+([基質]/基質のKm))を用いて、Ki値を算出してもよい。
【実施例3】
【0208】
内在化実験及び分析
3.1 取り込み実験の材料及び方法
a)細胞株:
この実験に用いた細胞株は、HL−60(Ref CCL−240、ATCC、ロット116523)であった。
【0209】
b)培養培地及びプレート
RPMI(Ref 21875−091、Invitrogen、ロット8296)又はDMEM(Ref 41965、Invitrogen、ロット13481)に以下を補充した:
10%FBS(Ref A64906−0098、PAA、ロットA15−151):2008年4月4日に、56℃で、30分非動化。
1mMのピルビン酸ナトリウム(RefS8636、Sigma、ロット56K2386)
ペニシリン(100単位/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)(Ref P4333、Sigma、ロット106K2321)
PBS 10X(Ref 70011、Invitrogen、ロット8277):無菌H
2Oで1×希釈
トリプシン−0.05%EDTA(Ref L−11660、PAA、ロットL66007−1194)
6ウェルの培養プレート(Ref 140675、Nunc、ロット102613)
24ウェル培養プレート(Ref 142475、Nunc、ロット095849)
96ウェル培養プレート(Ref 167008、Nunc、ロット083310)
タンパク質用量決定用の96ウェルプレート(Ref 82.1581、Sarstedt)
蛍光測定のための96ウェルプレート(Ref 6005279、Perkin Elmer)
【0210】
c)溶液
ポリ−D−リシンコーティング溶液(Sigma P9011 ロット095K5104):1×PBS中で25μg/mlの最終希釈
酸性洗浄バッファー:0.2Mのグリシン、0.15MのNaCl、pH3.0
Ripa溶解バッファー:10mMのNaH
2PO
4 pH7.2、150mMのNaCl、1%Triton X−100、1mMのEDTA pH8.0、200μMのNa
3VO
2、0.1%SDS、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Ref 11873580001、Roche、ロット13732700)
【0211】
d)顕微鏡及び蛍光プレートリーダー
細胞は、倒立顕微鏡(Axiovert 40 CFL;Zeiss;20X)を用いて観察しカウントした。
蛍光は、Fusion Alphaプレートリーダー(Perkin Elmer)を用いて読み取った。
【0212】
e)方法
FITC標識されたペプチド内在化は、懸濁細胞で調べた。細胞は、ポリ−DL−リシンコーティングしたディッシュ中に、1×10
6細胞/mlの濃度でプレーティングした。次いでプレートを、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で24時間インキュベートした後に、既知濃度のペプチドを添加した。ペプチド添加後、その細胞を、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で、30分、1時間、6時間又は24時間インキュベートした。次いで、細胞を酢酸バッファー(0.2M グリシン、0.15M NaCl、pH3.0)を用いて2回洗浄して、細胞表面吸着ペプチドを除去した(Kameyamaら、(2007)、Biopolymers、88、98〜107頁を参照のこと)。酸性バッファーを用いたのは、塩基性アミノ酸が豊富なペプチドは細胞表面上に強力に吸着し、内在化されたペプチドの過大評価につながる場合が多いからである。こうして、酸性バッファーを用いる細胞洗浄を使用して、細胞表面に吸着されたペプチドを除去した。
【0213】
酸洗浄を、Fab/細胞浸透性ペプチドコンジュゲートの細胞取り込みを決定するのに行い、続いて、2回のPBS洗浄を行った。細胞は、RIPA溶解バッファーの添加で破砕した。次いで、内在化されたペプチドの相対量を、バックグラウンドの差引き及びタンパク質含量正規化の後に蛍光によって決定した。
したがってこのステップは以下の通りである:1.細胞培養
2.酸性洗浄及び細胞抽出物
3.蛍光プレートリーダーによるペプチド内在化の分析
【0214】
f)細胞培養及びペプチド処理
6ウェル培養プレートは、3mlのポリ−D−Lys(Sigma P9011;PBS中に25μg/ml)を用いて、24ウェルプレートは、600μlを用いて、及び96ウェルプレートは、125μlを用いてコーティングし、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で、4時間インキュベートした。
【0215】
4時間後、そのディッシュを、それぞれ6、24又は96のウェルプレートについて、3.5mlのPBS、700μl又は150μlのPBSを用いて、2回洗浄した。
【0216】
細胞を、懸濁細胞について1’000’000細胞/mlのプレーティング密度で2.4mlの培地(RPMI)中、ディッシュにプレーティングした。接種後、そのプレートを、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で、24時間インキュベートした後、ペプチドを添加した。付着細胞は、処理の日には90〜95%の密度でなければならず、DMEM中にプレーティングした。
【0217】
【表5】
【0218】
その細胞を、所望の濃度のFITC標識ペプチド(H
2O中で10mMの濃度のストック溶液)で処理した。
【0219】
ペプチド添加後、その細胞を、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で、0〜24時間(例えば、30分、1時間、6時間又は24時間)インキュベートした。
【0220】
酸性洗浄及び細胞抽出物:
抽出物を氷上で冷却した。
【0221】
懸濁細胞(又はディッシュによく付着しない細胞):
細胞を「ファルコン15ml」に移行する。最大の細胞を回収するために、ディッシュを1mlのPBSで洗浄する。
最大2400rpmで2分細胞を回収する。
1mlの冷PBS中に細胞を懸濁する。
細胞をコーティングした「エッペンドルフチューブ」(1mlのポリD−Lysで4時間コーティングし、1mlのPBSで2回洗浄した)に移す。
1mlの冷酸性洗浄バッファーを用いて3回洗浄し、最大2400rpmで2分間遠心分離する。
「エッペンドルフ」中の細胞の広がりに注意する。
1mlの冷PBSで2回洗浄して、中和する。
50μlの溶解RIPAバッファーを添加する。
かき混ぜながら氷上で30分〜1時間インキュベートする。
【0222】
付着細胞:
3ml、1ml又は200μl(それぞれ、6、24又は96ウェルプレートについて)の冷酸性洗浄バッファーを用いて3回洗浄する。ディッシュからはがれる細胞に注意する。
1mlの冷PBS(それぞれ、6、24又は96ウェルプレートについて)を用いて2回洗浄して、中和する。
50μlの溶解RIPAバッファーを添加する。
かき混ぜながら氷上で30分〜1時間インキュベートする。
冷スクラッパーを用いて細胞をスクラップする。24及び96ウェルのプレートを、4000rpmで4°で15分間、直接遠心分離して細胞破片を除去した。次いで、上清(24又は96ウェルのプレートについてそれぞれ、100又は50ml)を、直接、ダーク96ウェルプレートに移した。そのプレートを、蛍光プレートリーダー(Fusion Alpha、Perkin Elmer)で読み取った。
溶解液を、コーティングした「エッペンドルフ」(1mlのポリD−Lysで4時間コーティングし、1mlのPBSで2回洗浄した)に移す。
次いで、溶解した細胞を4℃で、10000gで30分間遠心分離して、細胞破片を除去した。上清を除去して、−80℃で、コーティングした「エッペンドルフチューブ」(1mlのポリD−Lysで4時間コーティングし、1mlのPBSで2回洗浄した)に保存した。
【0223】
蛍光プレートリーダーによるペプチド内在化の分析:
各々のタンパク質抽出物の含量を、製造業者の指示に従って、標準BCAアッセイ(Kit N°23225、Pierce)によって決定した。
各々の試料の相対的な蛍光を、各試料の10μlを、蛍光プレートリーダー(Fusion Alpha、Perkin Elmer)での読み取り、バックグラウンドの差引き、及びタンパク質濃度による正規化の後に決定する。
【0224】
3.2 取り込み実験
HL−60細胞株の細胞へのFITC−標識TAT由来トランスポーター構築物の時間依存性の内在化(取り込み)は、配列番号52〜96、43及び45〜47の配列トランスポーターペプチドを用いて上記のとおり行った。これらの配列は、表4に以下に列挙する。
【0225】
【表6-1】
【表6-2】
【0226】
上記の表では、Dアミノ酸が、それぞれのアミノ酸残基の前に小文字の「d」によって示される(例えば、dR=D−Arg)。
【0227】
少数の配列に関しては、合成は、技術的理由により最初のアプローチでは失敗した。これらの配列は、
図6に、1、2、3、4、5、6、7、8、43、52、53、54、55、56、57、85、86、87、88、89、及び90として略記してある。全ての残りの配列を、内在化実験に用いた。
【0228】
結果を
図6に示す。
【0229】
図6でわかるとおり、インキュベーションの24時間後、コンセンサス配列rXXXrXXXr(配列番号31)を有する全てのトランスポーターが、L−TATトランスポーター(配列番号43)よりも高い内在化能力を示した。Hela細胞を、96ウェルプレート中で10mM r3−L−TAT−由来トランスポーターとともに24時間インキュベートした。次いで、その細胞を、酸性バッファー(0.2M グリシン、0.15M NaCl、pH3.0)を用いて2回、及びPBSを用いて2回洗浄した。細胞を、RIPA溶解バッファーの添加によって破壊した。次いで、内在化されたペプチドの相対量を、各々の抽出物の蛍光強度の読み取り(Fusion Alphaプレートリーダー;PerkinElmer)、続いて、バックグラウンドの差引きによって決定した。
【0230】
図6でわかるとおり、1つの位置が、最高のトランスポーター活性、及びトランスポーター活性の動態の改善に重要であると思われる:2位のY(配列番号142に対応するペプチド番号91)。
【0231】
この実験の結果からの結論は以下のとおりである:
・ 24時間インキュベーション後、コンセンサス配列rXXXrXXXr(配列番号31)を有する全てのトランスポーター(可能性のある配列の選択については表2を参照のこと)は、L−TATトランスポーター(配列番号43)よりも高い内在化能力を示した(
図6)。これらの結果によって、コンセンサス配列rXXXrXXXr(配列番号31)が完全に確証される。
・ 1つの位置は、最高のトランスポーター活性に関して重要である(
図6):2位のY(配列番号14に対応する配列91)。
【0232】
したがって、表4に示されるこのようなTAT由来配列が好ましく、これは、特に、この配列が9aaを示し、かつコンセンサス配列rXXXrXXXr(配列番号31)を有する場合、2位でYを示す。
【実施例4】
【0233】
サイトカイン及びケモカイン放出の測定
以下では、ヒト細胞(血液、WBC、PBMC、精製された初代リンパ球、細胞株、・・・)からのリガンド誘発性分泌後、いくつかのヒトサイトカインの放出量をどのように測定したかを記述する手順を示す。
【0234】
用いた技術は、抗体の2つの層(すなわち、捕捉抗体及び検出抗体)の間の抗原の量を測定することを可能にするサンドイッチELISAである。少なくとも2つの抗体がサンドイッチ中で作用するので、測定される抗原は、抗体に結合可能な少なくとも2つの抗原性部位を含まなければならない。モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれが、サンドイッチELISAシステムにおいて、捕捉抗体及び検出抗体として用いられてもよい。モノクローナル抗体は、抗原中のわずかな相違の微細な検出及び定量を可能にする単一のエピトープを認識する。ポリクローナルは、できる限り多くの抗原を引き下ろすための捕捉抗体として用いられることが多い。サンドイッチELISAの利点は、試料を分析前に精製する必要がなく、このアッセイは、極めて鋭敏であり得る(直接又は間接的よりも最大2〜5倍鋭敏である)ということである。
【0235】
この方法を用いて、in vitro/細胞培養において、本発明のJNK阻害剤の効果を決定してもよい。非毒性用量で、化合物の有効性は、非処理試料と比較したサイトカインレベルの低下(光学密度(450nmでの吸光度)の変動)によって示され、ELISAによってモニターされる。結果は、ng/mlで表される。
【0236】
4.1 材料
・ 96ウェルプレート:
上清収集のため(Ref 82.1581、Sarstedt)
ELISAのため(F96 maxisorp、Ref 442404、Nunc)
・ TopSeal−A:96ウェルマイクロプレートシール(Ref 600585、PerkinElmer)。
・ ELISA試薬
コーティングバッファーELISA:0.1M 炭酸ナトリウム(NaCarbonate)pH9.5(=1リットルのH2O中、7.13gのNaHCO
3(ref 71627、Fluka)+1.59gのNa
2CO
3(ref 71345、Fluka)、濃縮NaOHを用いてpH9.5に)
洗浄バッファー ELISA:1×PBS +0.01%Tween20。1リットルの1×PBS(PBS10×:ref 70011、GIBCO)を調製し、100ulのTween20(ref P1379、Sigma)を、磁気撹拌装置で混合しながらゆっくり添加する)
アッセイ希釈液:1×PBS+10%FBS(Ref A15−151、PAA、56℃で、30分非動化)
DAKO TMB(ref S1599、DAKO):市販の基質溶液
停止溶液:1M H
3PO
4(→200mlについて=177mlのH
2O+23mlのH
3PO
4 85%(ref 345245、Aldrich)。
・ ELISAキット(20プレートについての試薬)
IFN−γ:ヒトIFN−γELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555142、DB)。
IL−1β:ヒトIL−1β ELISAセットII、BD OptEIA(商標)(ref 557953、BD)
IL−10:ヒトIL−10 ELISAセットII、BD OptEIA(商標)(ref 555157、DB)。
IL−12:ヒトIL−12(p70)ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555183、DB)。
IL−15:ヒトIL−15 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 559268、DB)。
IL−2:ヒトIL−2 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555190、DB)。
IL−4:ヒトIL−4 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555194、DB)。
IL−5:ヒトIL−5 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555202、DB)。
IL−6:ヒトIL−6 ELISAセットI、BD OptEIA(商標)(ref 555220、DB)。
IL−8:ヒトIL−8 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555244、DB)。
MCP−1:ヒトMCP−1 ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555179、BD)
TNF−α:キットヒトTNF ELISAセット、BD OptEIA(商標)(ref 555212、DB)。
・ 吸光度読み取り:吸光度は、Fusion Alphaプレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
・ リピート式ピペット、デジタルピペット又はマルチチャネルピペット。
【0237】
4.2 方法
試料の調製
この試料は、培養されたヒト細胞(典型的には、全血、WBC、PBMC、WBCの精製されたサブタイプ、癌性細胞株)由来の培養培地上清である。遠心分離(400g 5分 4℃)によって粒子状物質を除去し、直ちにアッセイするか、又は試料を−20℃で保管する。凍結解凍サイクルの反復は避ける。
【0238】
使用の1時間前、氷上で試料を解凍し、これらを遠心分離する。ステップ11では、アッセイ中の試料をプレートに直接希釈する(最初にアッセイ希釈液次いで試料を添加し、ピペットで上下する)。
【0239】
標準の調製
凍結乾燥した標準を室温に温めた後、バイアルを注意深く開けて、材料の喪失を回避する。提唱される容積の脱イオン水を有する凍結乾燥された標準を再構成して、ストック標準を得る。この標準を、希釈する前に、少なくとも15分間平衡にさせる。穏やかにボルテックスして混合する。再構成後、1バイアルあたり50μlでポリプロピレンバイアル中に標準のストックを直ちにアリコートし、−20℃で最大6カ月間凍結する。必要な場合は、アリコートにする前/凍結する前に最大8時間、2〜8℃で保管する。再構成された標準は室温に置かない。
使用直前に、試薬希釈液中で2倍階段希釈を用いて10点の標準曲線を調製する。4000pg/mlという高い標準が推奨される。
【0240】
検出混合物の調製
ビオチン/SAv試薬の一工程インキュベーション。必要な容積の検出抗体をアッセイ希釈液に添加する。使用前15分以内に、必要な量の酵素試薬を添加し、ボルテックスするか、又はよく混合する。推奨される希釈については、ロットに特定の指示/分析証明書を参照のこと。使用後に残りの作業用検出物を廃棄する。
【0241】
捕捉抗体でのコーティング
1.コーティングバッファー中で希釈した1ウェルあたり100μLの捕捉抗体を用いてPVCマイクロタイタープレートのウェルをコーティングする。推奨される抗体コーティング希釈については、ロットに特定の指示/分析証明書を参照のこと。
2.プレートを接着性プラスチックでカバーし、4℃で一晩インキュベートする。
3.コーティング溶液を除去し、ウェルを150μlの洗浄バッファーで充填することによってプレートを洗浄する。
4.溶液又は洗浄液を、シンク上でプレートをはじく(flicking)ことによって除去する。
5.そのプロセスを2回繰り返し、合計3回洗浄する。
6.最終の洗浄後、ペーパータオル上でプレートを叩くことによって残りの洗浄バッファーを除去する。
【0242】
ブロッキング
7.コーティングされたウェル中の残りのタンパク質結合部位を、1ウェルあたり100μlの試薬希釈液を添加することによってブロックする。
8.プレートを接着性プラスチックでカバーし、室温で1時間インキュベートする。
9.インキュベーションの間、標準の調製を開始する。
【0243】
試料の添加
10.ステップ3のとおり、150μlの洗浄バッファーを用いて1回洗浄する。プレートはこれで試料添加のために準備される。
11.アッセイ希釈における50μlの適切に希釈された試料を、各々のウェルに添加する。正確な定量的結果のために、常に、未知の試料のシグナルを標準曲線のものに対して比較する。標準(三連)及びブランクを、正確性を保証するために各々のサイトカインで試行しなければならない。
12.プレートを接着性プラスチックでカバーし、室温で2時間インキュベートする。
【0244】
検出抗体及び二次抗体とのインキュベーション
13.ステップ3と同様に150μlの洗浄バッファーを用いてプレートを4回洗浄する。
14.推奨される希釈で(ロットに特定の指示/分析証明書を参照のこと)で各々のウェルに50μlの検出混合物(アッセイ希釈液中の検出抗体+二次ストレプトアビジン−HRP抗体)を添加する。
15.接着性プラスチックでプレートをカバーし、室温で、光防御して1時間インキュベートする。
16.ステップ3のとおり150μlの洗浄バッファーを用いてプレートを6回洗浄する。
17.各々のウェルに50μlのDAKO TMB溶液を添加し、密閉せずに、暗所で、室温で、15〜20分間、インキュベートする。
18.各々のウェルに50μlの停止溶液を添加する。プレートを穏やかにタップして、徹底的な混合を保証する。
19.プレートミキサーで、500rpmで5分間、プレートを混合する。
20.450nmで光学密度を読み取る。(プログラム:Cytokine_ELISA、FusionAlphaプレートリーダー)。
【0245】
データ分析
各々の標準の対照及び各々の試料についての三連の読み取りを平均する。平均ゼロ標準光学密度(O.D.)を差引きする。O.Dの対数に対してサイトカイン濃度の対数をプロットする標準曲線を作成し、最良適合線を、回帰分析によって決定してもよい。試料を希釈した場合、標準曲線からの濃度読み取りには、希釈係数を掛けなければならない。標準曲線は、アッセイした試料の各々のセットについて作成すべきである。異常値のデータは、グラブス検定を用いて回避した。次いで、SDの2倍のインターバルになかったデータは破棄した。陽性対照が、以前に観察されたデータを示した場合、独立した実験を考慮する。独立した実験をプールする(N>3)。
データは、阻害剤処理なしで、誘発した条件と比較して、pg/mlのサイトカイン放出又は%で示す。
【実施例5】
【0246】
THP1分化−サイトカイン放出のための刺激
以下では、LPSによって6時間チャレンジされたヒトのPMA分化したTHP1細胞からのサイトカイン産生をどのように誘発して、本発明のJNK阻害剤、特に配列番号172を有するJNK阻害剤が刺激誘発性のサイトカイン放出を低下する能力を試験したかを記述する手順を示す。THP1細胞を、サイトカイン放出の読み出しのために異なるリガンドによってex−vivoで刺激した。非毒性用量では、JNK阻害剤有効性は、非処理試料と比較したサイトカインレベルの低下で示され、ELISAでモニターされる。化合物の毒性は、紫色を生じるテトラゾリウム(tretazolium)塩(MTS)のホルマザンへの還元によって評価する。
【0247】
手順:
a.材料
・ 細胞株:THP−1(Ref TIB−202、ATCC、ロット57731475)
・ 培養培地、試薬及びプレート
RPMI(Ref 21875−091、Invitrogen)以下を補充:
10%FBS(Ref A15−151、PAA):56℃で30分非動化した。
10mM Hepes(Ref H0887、Sigma)
50M β−メルカプトエタノール(Ref 63690、Fluka:14.3Mでストックする):−20℃でストックされた、PBS中50mM アリコートを560μl添加
1mM ピルビン酸ナトリウム(Ref S8636、Sigma)
ペニシリン(100単位/ml)/ストレプトマイシン(100μg/ml)(Ref P4333、Sigma)
次いで、RPMI培地を、0.22Mのフィルター(Ref SCGPU05RE、Millipore)で濾過する。
PBS 10×(Ref 70011、Invitrogen):無菌H
2Oで1×希釈した
DMSO:Ref 41444、Fluka
PMA(ホルボール12−ミリステート13−アセテート、Ref P1585、Sigma、濃度1mM=−20℃でDMSO中で616.8ug/ml)。RPMI中で最終濃度の100nMで直接用いる(10mlの培地中で1ul)。
LPSウルトラピュア(Lipopolysaccharide、Ref tlrl−eklps、Invivogen、濃度5mg/ml):LPSのストック溶液:4℃で、PBS中で3μg/ml。直接用いて、RPMI培地中で40ng/mlの4×濃縮溶液を調製する(分1800μl/プレート;5プレート:125μlのLPS3g/ml+9250μlのRPMI)。
96ウェルプレート:
接着細胞培養のため(Ref 167008、Nunc)
上清を収集するため(Ref 82.1581、Sarstedt)
ELISAのため(F96 maxisorp、Ref 442404、Nunc)
コーティング溶液:ポリ−D−リシン(Ref P9011、Sigma):1×PBS中で25μg/mlに最終希釈
【0248】
・ ELISA試薬及びキット
コーティングバッファーELISA:0.1M 炭酸ナトリウムpH9.5(=1リットルのH2O中、7.13gのNaHCO
3(ref 71627、Fluka)+1.59gのNa
2CO
3(ref 71345、Fluka)、濃縮NaOHを用いてpH9.5に)
洗浄バッファーELISA:1×PBS+0.01%Tween20(ref P1379、Sigma、ロット094K0052)(=1リットルの1×PBSを調製し、磁気攪拌機で混合しながら、100ulのTween20をゆっくり添加する)
アッセイ希釈:1×PBS+10%FBS(Ref A15−151、PAA、56℃で、30分、非動化)。
DAKO TMB(ref S1599、DAKO):市販の基質溶液
停止溶液:1M H
3PO
4(→200mlのために=177mlのH
2O+23mlの85%H
3PO
4(ref 345245、Aldrich)。
TNF−:KitヒトTNF ELISAセット、BD OptEIA(ref 555212、DB)。
・ 細胞毒性測定:CellTiter96試薬(ref G3581、Promega)
・ 対照化合物:SP600125(ref ALX−270−339−M025、Alexis、濃度:20mM DMSO)
・ 吸光度読み取り:吸光度は、FusionAlphaプレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
・ リピート式ピペット、デジタルピペット、又はマルチチャネルピペット。
・ TopSeal−A:96ウェルマイクロプレートシール(Ref 600585、PerkinElmer)。
【0249】
b.方法
ウェルのコーティング
プレートを、200μlのポリD−リシン(1×)でコーティングし、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度で2時間インキュベートした。
【0250】
細胞プレーティング
2時間後、ウェルを、200lの1×PBSを用いて2回洗浄した(直ちに用いるか、又は使用するまで37℃で200lの1×PBSとともに置いておく、ただし3日以下)。
細胞をカウントした。所望の数の細胞を採取し、必要な量の培地に再懸濁して、1’000’000細胞/mlの希釈を得た。100nM PMAを添加して、懸濁単球から接着マクロファージへのTHP1の分化を誘発した。その細胞を、100lの培地中で、100’000細胞/ウェルのプレーティング密度でウェルにプレーティングした。接種後、プレートを、37℃、5%CO2及び100%の相対湿度で3日間インキュベートして、それらを分化させた後に、実験薬物を添加した。
【0251】
細胞処理
3日後、接着細胞を顕微鏡で観察した。PMAを含有する培地を吸引し、PMAなしの100lの新鮮なRPMI培地で置き換えた(1×PBSによる洗浄工程なし)。
【0252】
実験薬を、H
2O又はDMSO中で10mMの濃度で調製し、−80℃で保管した。各々の毎日の使用の前に、JNK阻害剤の1アリコートを解凍し、希釈して、RPMI培地中で4×濃縮溶液(120M)にし、次いでRPMI中で所望の濃度にした。SP600125を希釈して、RPMI培地中で4×濃縮溶液(40M)にし、次いで0.8%DMSOを含有するRPMI中で所望の濃度にした。
【0253】
プレートを、50μlの培地、又は4×の最終の所望の薬物濃度の溶液で処理した(JNK化合物については、0、100nM、1、3、10若しくは30Mの最終、又はSP600125陽性対照については、0、10、100nM、1、3若しくは10Mの最終)。薬物添加後、プレートを、更に1時間、37℃、5%CO
2及び100%の相対湿度でインキュベートした。
【0254】
1時間後、TNFの分泌を、LPSウルトラピュアの50lの4×濃縮希釈(3ng/ml最終)の添加によって誘発した。
【0255】
アッセイ
6時間後、100lの上清を、新しい96ウェルプレートに移した。これらのプレートを密閉し、−20°でサイトカインの分泌のELISAによる分析まで−20°で保管した(例えば、実施例4を参照のこと)。
【0256】
化合物の細胞毒性効果は、MTS吸光度で評価し(例えば、実施例4を参照のこと)、細胞は、倒立顕微鏡(Axiovert 40CFL;Zeiss;10X)を用いて観察した。
【0257】
データ分析
データの分析は、ELISAで示したとおり行った(実施例4を参照のこと)。要するに、ELISAに関して:各々の標準の対照及び各々の試料について三連の読み取りを平均する。平均ゼロ標準光学密度(O.D)を差引きする。O.Dの対数に対してサイトカイン濃度の対数をプロットする標準曲線を作成し、最良適合線を、回帰分析によって決定してもよい。試料を希釈した場合、標準曲線からの濃度読み取りには、希釈係数を掛けなければならない。標準曲線は、アッセイした試料の各セットについて作成しなければならない。異常値データは、グラブス検定を用いて回避した。次いで、SDの2倍のインターバルになかったデータを破棄した。陽性対照が以前に観察されたデータを示した場合、独立した実験を考慮する。独立した実験をプールする(N>3)。
【0258】
細胞毒性効果の評価に関して:サイトカイン放出実験分析について考慮した各々の独立した実験の各々のプレートで、培地単独の吸光度の平均を、バックグラウンドとみなし、各々の吸光度値に対して差引きした。各々の化合物の非処理細胞の三連の平均を、100%生存率とみなした。各々の化合物の三連の平均を、その100%で正規化した。異常値データは、グラブス検定を用いて回避した。次いで、SDの2倍のインターバルになかったデータを破棄した。独立した実験をプールする(N>3)。
【0259】
条件の全ての統計学的比較は、以下の検定を用いるGraphPad Prism4ソフトウェアで行った:1元ANOVA検定の後にテューキー多重比較検定を続けた。P<0.05を有意とみなした。
【実施例6】
【0260】
初代ラット又はヒト全血細胞における配列番号172のJNK阻害剤及びTNFα放出
全血は、クエン酸ナトリウムを含む事前標識した真空チューブに接続した静脈穿刺を用いて、麻酔したラット又はヒト健常ボランティアから収集する。チューブを、7〜8回反転させて穏やかに混合し;次いで刺激するまでRTで保持する。配列番号172のJNK阻害剤を調製して、PBS中で6倍濃縮し、30μl/ウェルの混合物を96ウェルプレートに添加する。全血をPBS中で1:2に希釈し、120μlの希釈した血液を、PBS単独か又は配列番号172のJNK阻害剤を事前に添加したかのいずれかの各々のウェルに添加する。全血を37℃;85rpm(Stuart OrbitalインキュベーターSI500)で60分間インキュベートする。活性化因子(LPS)を調製し、30μl/ウェルのLPSを6倍濃縮する。60分のインキュベーション後、LPSを血液に添加し、血液をピペットで上下して混合し、次いでかき混ぜながら(85rpm)、37℃で4時間保持する。4時間のインキュベーション後、このプレートを、約770g、4℃で、事前に冷却した遠心分離器中で15分間遠心分離する。上清を最終的に収集し、サイトカイン測定まで−20℃で保持する。次いで、サイトカイン(IL−6、IL−2、IFNγ及びTNFα)を、標準的なElisaキット(例えば、R&D Systems製:DuoSet Elisas;又はBD Biosciences製:BD Opteia Set Elisa)を用いて測定した。結果は、測定したサイトカインの上清のpg/mlとして表す。
【0261】
同様の実験を活性化因子/刺激因子としてLPSの代わりにPMA+イオノマイシンを用いて行った。
【実施例7】
【0262】
本明細書に開示される特定のJNK阻害剤の半減期
配列番号196、197、及び172の配列を有するJNK阻害剤(0.1mMの最終濃度)をヒト血清(1×PBS中で10%及び50%)中で消化した。その実験は、Tugyiら(Proc Natl Acad Sci USA、2005、413〜418頁)に記載のとおり行った。残りのインタクトなペプチドは、UPLC−MSによって定量した。安定性は、配列番号196、197、及び172について同じく、ただし2つの別のアッセイで評価した。配列番号196を有するJNK阻害剤は、6時間内にアミノ酸残基に完全に分解されたが、配列番号172を有するJNK阻害剤は、14日後にのみ完全に分解された。配列番号197を有するJNK阻害剤は、30日後まだ安定であった。
【実施例8】
【0263】
ラット初代T細胞におけるCD3/CD28−誘発性IL−2放出の配列番号172の配列を有するJNK阻害剤による用量依存性の阻害
対照動物を屠殺し、リンパ節(LN)を回収して、完全なRPMI培地中で保持した。LNを、5mlピストンを用いて70μmフィルター上で完全なRPMIでスマッシュした。数滴の培地を添加して、濾過器を湿潤に維持した。細胞を450g、4℃で7分間、遠心分離した。ペレットを、5mlの新鮮な培地中に再懸濁した。細胞を、細胞濾過器を再度通過させた。細胞のアリコートをカウントし、一方では、細胞を1400rpm、4℃で再度10分間遠心分離した。細胞を、MACSバッファー中に再懸濁した(10
7個の細胞あたり、80μlのMACSバッファー)。一千万個の細胞あたり、10μlの抗ラットMHCマイクロビーズを添加し、細胞を、4°〜8℃で15分間インキュベートした。細胞を、15mlのMACSバッファーで洗浄し、700g、4℃で7分間遠心分離した。ペレットを、10
8個の細胞あたり500μlのMACSバッファー中に再懸濁した。動物1匹あたり1つのLSカラムを、MACSセパレーターの磁場に置いた。カラムを最初に、3mlのMACSバッファーですすいだ。1つのチューブを、氷中でカラムの下に置いて、細胞=T細胞を収集した(ネガティブ選択、それによって、我々は、溶出されるものを収集する)。細胞懸濁物を添加して、溶出物を氷上に収集した。カラムを、3mLのMACSバッファーを用いて3回洗浄した。溶出したT細胞を、700g、4℃で7分間遠心分離した。再懸濁した細胞をカウントし、100μlの完全培地中で200000細胞/ウェルの密度でプレーティングした。プレートを、2μg/mLのCD3抗体を用いて実験前日にプレコーティングし、実験日、プレートを、PBSを用いて3回洗浄した。細胞を、100μlの(ポリ)ペプチドJNK阻害剤(配列番号172)を用いて処理して、1時間、2倍濃縮した後に、リガンド活性化した。(ポリ)ペプチドJNK阻害剤(配列番号172)による予備処理の1時間後、次いで細胞を、24時間、2μg/mLの抗CD28抗体で刺激した。刺激の24時間後、上清を収集し、分析するまで−20℃で保管した。次いで、サイトカインを、標準的なElisaキットを用いて測定した。結果は、測定されたサイトカインの上清のpg/mlとして表す。
【0264】
更なる実験では、本質的に上記で示されるのと同じプロトコールを用いたが、配列番号172を有する(ポリ)ペプチドJNK阻害剤に加え、配列番号197の配列を有するJNK阻害剤、及び薬物分子SP600125も試験し、それによってCD3/CD28−誘発性IL−2放出の阻害に対するそれらの阻害剤の効果を比較することを可能にした。
【実施例9】
【0265】
ヒト全血中でのJNK阻害剤及びTNFα/IL−2放出:
ヒト健常ボランティア由来の全血を、クエン酸ナトリウムを含有する事前標識した真空チューブに接続した静脈穿刺を用いて収集した。そのチューブを7〜8回反転させて穏やかに混合する;次いで、刺激するまでRTで保持する。350μlのRPMI+P/Sを1,2ml−96−ウェルプレートに添加した。10倍濃縮の配列番号172を、RPMI+P/S(1ウェルあたり50μl)中に調製した。50μlを、1.2ml−96ウェルプレートに添加した。次いで、50μlの全血を、培地単独又はJNK阻害剤のいずれかを以前に添加した各々のウェルに添加した。全血を、37℃、5%CO2で60分間インキュベートした。RPMI+P/S中に希釈した50μl/ウェルのリガンドを、10倍濃縮した最終希釈に対応して調製した。インキュベーションの60分後、リガンドを添加し;次いで、血液をピペットで上下することによってウェルを混合した。全血を、37℃で3日間インキュベートした(1日1回、各々のウェルをピペットで上下することによってウェルを混合した)。インキュベーションの終わりに、プレートを混合し、次いで、事前に冷却した遠心分離器中で2500rpm、4℃で15分間遠心分離した。次いで、サイトカインを、標準的なElisaキットを用いて測定した。結果は、測定したサイトカインの上清のpg/mlとして表す。
【0266】
同様の実験を、わずかに改変して行った。CD3/CD8刺激の場合、CD3抗体を、PBS中で、一晩4℃で2μg/mLでコーティングした。実験の日、ウェルを、PBSを用いて3回洗浄し、使うまで37℃でPBS中に置いておいた。CD28抗体を、2μg/mLの最終濃度で配列番号172に1時間後に添加した;上清を、刺激の3日後に収集した。
【実施例10】
【0267】
エンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)のラットモデルにおける抗炎症性力価
配列番号172のJNK阻害剤の抗炎症性力価を、静脈内投与後にアルビノラットで試験した(EIU/LPSモデル)。この研究の目的は、エンドトキシン誘発性ブドウ膜炎アルビノラットモデルにおける炎症性応答に対する配列番号172の単回静脈内注射(0.015、0.18、及び1.80mg/kg)の効果を決定して、先行技術の配列番号197のJNK阻害剤(2mg/kg)で得たものに対するそれらの影響を比較することであった。更に対照として、リン酸デキサメタゾンナトリウム(phosphate sodic dexamethasone)(「参照」)及びビヒクル(0.9%NaCl)を使用した。
【0268】
60(60)例の雄性Lewisラットを、各々10(10)匹の動物の6(6)つの群に無作為に分けた。0.9%NaCl(ビヒクル、「対照」)、2mg/kgの配列番号197、及び3つの濃度(1.80mg/kg、0.18mg/kg及び0.015mg/kg)の配列番号172を、EIU誘発の直前(誘発の日)に静脈内注射によって投与した。したがって、リン酸デキサメタゾンナトリウム(phosphate sodicデキサメタゾン)(20μg/眼、5μl;「参照」)を、EIU誘発の直前(誘発の日)に両眼に、単回の結膜下注射によって投与した。EIUは、リポポリサッカライド(LPS、1mg/kg)の足蹠注射によって誘発した。LPS注射の24時間後、炎症性応答を、臨床スコアリングによって評価した。
【0269】
臨床的な眼の炎症の強度は、各々の眼について0〜4のスケールでスコア付けした。
等級0 炎症なし
等級1 わずかな光彩及び結膜の血管拡張
等級2 フレアを伴う軽度の光彩及び結膜の血管拡張
等級3 フレアを伴う強度の光彩及び結膜の血管拡張
等級4 強度の炎症反応
(+1)フィブリン形成及び瞳孔閉鎖
【0270】
LPS誘発の24時間後、ビヒクルで処置したラットの臨床スコアは、3.6±0.2(平均±SEM、n=20)、中央値が4(範囲、2〜5)であった。眼の炎症の重症度における有意な低下(p<0.001)は、配列番号197(2mg/kg)を用いた誘発及び静脈内処置後24時間で検出され(平均スコア:2.2±0.3、中央値:2)、これは、ビヒクル群で観察されたスコアと比較したEIUスコアの40%低下に相当していた。配列番号172による静脈内処置はまた、ほぼ同じ用量(1.80mg/kg)で、眼の炎症の重症度を42%、有意に低下した(平均スコア:2.1±0.3、中央値:2、p=0.001)。それより下の用量(0.18及び0.015mg/kg)は、それぞれ炎症を33%(平均スコア:2.4±0.3、中央値:2)及び36%(平均スコア:2.3±0.3、中央値:2)低下した。その低下は、p<0.001で有意であった。
【0271】
陽性対照薬として用いられるデキサメタゾン(20μg/眼)による結膜下処置も、臨床スコアを79%、有意に低下した(平均スコア:0.8±0.2、中央値:0.5、p<0.001)。
【0272】
これらの実験条件下で、配列番号197の2mg/kgの単回の静脈内注射は、前眼房で観察されたエンドトキシン誘発性炎症を部分的に防いだと言うことができる。比較して、0.015、0.18、1.80mg/kgで静脈内注射された配列番号172もまた、前眼房中でエンドトキシン誘発性炎症を低下した。
【実施例11】
【0273】
慢性的に樹立したII型コラーゲン関節炎のラットモデルにおける14日後のJNK阻害剤の静脈内投与後の用量応答性効果
ラットコラーゲン関節炎は、前臨床若しくは臨床研究のいずれかのもとにあるか、又はこの疾患の治療剤として現在用いられている、多くの抗関節炎剤の前臨床試験のために広く用いられている、多発性関節炎の実験モデルである。このモデルの特徴は、信頼できる発病及び頑強な進行、容易に測定可能な多関節炎症、パンヌス形成に関連する顕著な軟骨破壊、並びに軽度から中度の骨再吸収及び骨膜の骨増殖である。
【0274】
ラットにおいて樹立されたII型コラーゲン関節炎で生じる、炎症(足の腫脹)、軟骨破壊、及び骨再吸収の阻害のための14日間(関節炎d1〜14)について毎日投与された(QD)配列番号172のJNK阻害剤の静脈内(IV)有効性は、前記実験モデルで決定した。
【0275】
動物(関節炎について1群あたり8匹)を、イソフルランで麻酔し、2mg/mlのウシII型コラーゲン(Elastin Products、Owensville、Missouri)を含有する300μlのフロイント不完全アジュバント(Difco、Detroit、MI)を尾の基部に及び背中の2つの部位に第0及び6日に注射した。研究の第10日に(関節炎d0)、関節炎の発病が生じ、ラットを処置群に無作為化した。各々の群への無作為化は、足首関節の腫脹が少なくとも1つの後足で明らかに樹立された後に行った。
【0276】
II型コラーゲン関節炎が樹立された雌性Lewisラットを、ビヒクル(0.9%NaCl)、配列番号172(0.01、0.1、1、若しくは5mg/kg)、又は参照化合物デキサメタゾン(Dex、0.05mg/kg)を用いて、静脈内(IV)経路で関節炎第1〜14日に毎日(QD)処置した。動物を、関節炎第14日に終わらせた。有効性評価は、動物の体重、毎日の足首のノギス測定、曲線下面積(AUC)で表した足首の直径、最終足重量、並びに選択された群の足首及び膝の組織病理学的評価に基づいた。
【0277】
関節のコラーゲン関節炎の足首及び膝のスコアリングは、以下の基準に従って、炎症、パンヌス形成及び骨再吸収について0〜5の所定のスコアである。
【0278】
膝及び/又は足首の炎症
0 正常
0.5 最小限局性炎症
1 滑膜/関節周囲組織における炎症性細胞の最小湿潤
2 軽度湿潤
3 中度浮腫を伴う中度湿潤
4 顕著な浮腫を伴う顕著な湿潤
5 重度の浮腫を伴う重度の湿潤
【0279】
足首のパンヌス
0 正常
0.5 軟骨及び軟骨下骨におけるパンヌスの最小浸潤、辺縁領域にのみ影響し、かつ少数の関節にのみ影響する
1 軟骨及び軟骨下骨におけるパンヌスの最小浸潤、主に辺縁領域に影響する
2 軽度湿潤(辺縁領域の脛骨又は足根骨の1/4未満)
3 中度湿潤(辺縁領域で罹患した脛骨又は小さい足根骨の1/4〜1/3)
4 顕著な浸潤(辺縁領域で罹患した脛骨又は足根骨の1/2〜3/4)
5 重度の浸潤(辺縁領域で罹患した脛骨又は足根骨の3/4超、全体的な構造の重度の変形)
【0280】
膝のパンヌス
0 正常
0.5 軟骨及び軟骨下骨におけるパンヌスの最小浸潤、辺縁領域にのみ影響し、かつ少数の関節にのみ影響する
1 軟骨及び軟骨下骨におけるパンヌスの最小浸潤、約1〜10%の軟骨表面又は軟骨下骨が罹患する
2 軽度炎症(脛骨又は大腿骨の表面又は軟骨下領域の最大1/4にわたって広がる)、約11〜25%の軟骨表面又は軟骨下骨が罹患する
3 中度浸潤(脛骨又は大腿骨の表面又は軟骨下領域のうち1/4を超えて、ただし1/2未満まで広がる)、約26〜50%の軟骨表面又は軟骨下骨が罹患する
4 顕著な浸潤(脛骨又は大腿骨の表面のうち1/2〜3/4まで広がる)、約51〜75%の軟骨表面又は軟骨下骨が罹患する
5 重度の浸潤 約76〜100%の軟骨表面又は軟骨下骨が罹患する
【0281】
足首の軟骨損傷(小さい足根骨に対する強調)
0 正常
0.5 Tブルー染色の最小の低下、辺縁領域にのみ影響し、かつ少数の関節にのみ影響する
1 最小=トルイジンブルー染色の最小から軽度の損失で、明白な軟骨細胞喪失もコラーゲン崩壊もない
2 軽度=トルイジンブルー染色の軽度の喪失で、限局性の軽度(表層性)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴う
3 中度=トルイジンブルー染色の中度の喪失で、多巣性の中度(中間領域までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴い、より小さい足根骨が、1/2〜3/4の深さまで罹患し、全層喪失はまれな領域である
4 顕著=トルイジンブルー染色の顕著な喪失で、多巣性の顕著な(深部領域までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴い、1又は2つの小さい足根骨表面が、軟骨の全層喪失を有する
5 重度=トルイジンブルー染色の重度の拡散喪失で、多巣性の重度の(潮汐点までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴い、2つを超える軟骨表面が罹患する。
【0282】
膝の軟骨損傷
0 正常
0.5 Tブルー染色の最小の低下、辺縁領域にのみ影響する
1 最小=トルイジンブルー染色の最小から軽度の損失で、明白な軟骨細胞喪失もコラーゲン崩壊もない
2 軽度=トルイジンブルー染色の軽度の喪失で、限局性の軽度(表層性)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴い、罹患した軟骨の50%の深さのわずかな小さい領域がある場合がある
3 中度=トルイジンブルー染色の中度の喪失で、多巣性から散在性であって中度(中間領域までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴い、1〜2の小さい領域の全層喪失がある場合があり、表面の全幅の1/4未満であって、かつ全表面の全幅の25%以下に罹患している
4 顕著=トルイジンブルー染色の顕著な喪失で、多巣性から拡散であって、顕著な(深部領域までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を伴うか、又は1表面でのほぼ全層喪失及び他での部分喪失を伴い、合わせて全表面の幅の50%未満の全層喪失がある。
5 重度=トルイジンブルー染色の重度の散在で、多巣性の重篤な(潮汐点までの深さ)軟骨細胞喪失及び/又はコラーゲン崩壊を、大腿骨及び/又は脛骨の両方で伴い、合わせて全表面の幅のうち50%よりも大きい全層喪失がある。
【0283】
足首の骨再吸収
0 正常
0.5 最小の再吸収は、辺縁領域にのみ罹患し、少数の関節にのみ罹患する
1 最小=再吸収の小領域、低倍率では容易に明らかにならず、破骨細胞はまれ
2 軽度=再吸収の領域がより多く、低倍率では容易に明らかにならず、破骨細胞はより多く、辺縁領域では脛骨又は足根骨の1/4未満が再吸収される
3 中度=皮質で全層欠損のない髄質小柱及び皮質骨の明白な再吸収、ある程度の髄質小柱の喪失、低倍率で明白な病変、破骨細胞がより多く、脛骨又は足根骨のうち1/4〜1/3が辺縁領域で罹患
4 顕著=全層が、皮質骨で欠損しており、残りの皮質表面の輪郭のゆがみを伴う場合が多く、髄様骨の顕著な喪失、多数の破骨細胞、脛骨又は足根骨のうち1/2〜3/4が辺縁領域で罹患
5 重度=全層が、皮質骨で欠損しており、残りの皮質表面の輪郭のゆがみを伴う場合が多く、髄様骨の顕著な喪失、多数の破骨細胞、脛骨又は足根骨のうち3/4超が辺縁領域で罹患、全体的な構造の重度のゆがみ
【0284】
膝の骨再吸収
0 正常
0.5 最小の再吸収は、辺縁領域にのみ影響する
1 最小=再吸収の小領域、低倍率では容易に明らかにならず、軟骨下骨の総関節幅のうち約1〜10%が罹患
2 軽度=再吸収の領域がより多く、軟骨下骨の明確な喪失、軟骨下骨の総関節幅のうち約11〜25%が罹患
3 中度=軟骨下骨の明白な再吸収、軟骨下骨の総関節幅のうち約26〜50%が罹患
4 顕著=軟骨下骨の明白な再吸収、軟骨下骨の総関節幅のうち約51〜75%が罹患
5 重度=破壊に起因する全関節のゆがみ、軟骨下骨の総関節幅のうち約76〜100%が罹患
【0285】
結果:
疾患対照群における疾患の重症度は、第1〜5日で増大し、第4〜5日では、一日の増大が最大であった。次いで、漸増的な増大は、より小さく、第7日にピークであった。そのポイントから前へ、急性の腫脹は一般には低下し、キャリパーの測定は低下した。処置群は、この一般的なパターンに同様に従った。
【0286】
体重低下が全ての疾患群で観察されたが、正常な対照群は、体重が増加した。体重低下は、ビヒクル処置した疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172で処置したラットでは、有意に(25%、ANOVAでp<0.05)阻害された。スチューデントのt検定を用いて疾患対照と比較した場合、体重低下の阻害もまた、1mg/kgの配列番号172(21%、p<0.05)又はDex(21%、p<0.05)で処置したラットで有意であった。配列番号172での処置の結果は、このパラメータについて用量反応性であった。
【0287】
毎日の足首の直径測定は、疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172(第4〜12日、p<0.05)又はDex(d3〜14、p<0.05)で処置したラットについては正常に向けて有意に(2元RM ANOVAでp<0.05)低下した。
【0288】
足首の直径のAUCは、疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172(43%低下)、1mg/kgの配列番号172(27%)、又はDex(97%)で処置したラットに関しては正常に向けて有意に(ANOVAでp<0.05)低下した。配列番号172での処置の結果は、このパラメータに関して用量反応性であった。
【0289】
最終の足の重量は、疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172(26%低下)又はDex(114%)で処置したラットに関して正常に向けて有意に(ANOVAでp<0.05)低下した。配列番号172での処置の結果は、このパラメータに関して用量反応性であった。
【0290】
相対的な肝臓重量は、疾患対照と比較していずれの処置群のラットでも有意に影響されなかった(ANOVAによる)。
【0291】
体重に対する脾臓重量は、疾患対照と比較して、Dexで処置したラットについて有意に(ANOVAによってp<0.05)低下した。Dex処置したラットの相対的な脾臓重量はまた、正常な対照と比較しても有意に低下した。相対的な脾臓重量は、配列番号172で処置されたラットでは有意に影響されなかった。
【0292】
体重に対する胸腺重量は、疾患対照と比較して、Dexで処置したラットについて有意に(ANOVAによってp<0.05)低下した。Dex処置したラットの相対的な胸腺重量はまた、正常な対照と比較しても有意に低下した。相対的な胸腺重量は、配列番号172で処置されたラットでは有意に影響されなかった。
【0293】
全ての足首の組織病理学パラメータは、疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172(合計スコアの25%低下)で処置したラットについて、正常に向けて有意に(マン・ホイットニーU検定による)低下した。
【0294】
全ての膝組織病理学パラメータは、疾患対照と比較して、5mg/kgの配列番号172(合計スコアの73%低下)で処置したラットについて、正常に向けて有意に(マン・ホイットニーU検定による)低下した。
【0295】
この研究の結果によって、配列番号172(5mg/kg)での毎日の静脈内処置が、ラットにおいて、樹立されたII型コラーゲン関節炎に関連する臨床及び組織病理学パラメータに有意な有益な効果を有することが示された。配列番号172(1mg/kg)での処置は、結果として、有意に低下した足首の直径のAUCを生じた。足首の直径に対する有益な効果は、疾患対照動物において第7日以後の腫脹の低下にかかわらず、最大第12日まで観察された。配列番号172での処置の結果は、用量反応性であった。
【0296】
配列番号172での処置は、デキサメタゾンと異なり臓器の重量に有害な影響を有さなかった。
【実施例12】
【0297】
配列番号197の全−D−レトロ−インベルソJNK阻害剤(ポリ)ペプチド及び配列番号172のJNK阻害剤(ポリ)ペプチドの、マウスにおけるドライアイのスコポラミン誘発性モデルにおける3つの用量での効果
研究の概念
この研究の目的は、2つの異なる化合物である、配列番号197の全−D−レトロ−インベルソJNK阻害剤(ポリ)ペプチド及び配列番号172のJNK阻害剤(ポリ)ペプチドの、スコポラミン誘発性ドライアイのマウスモデルにおける3つの用量レベルでの効果を評価することであった。
【0298】
配列番号197及び配列番号172のペプチドを、ドライアイのこのマウスモデルにおいて有効性に関して試験した。このペプチドは両方とも、低、中及び高用量で試験した。配列番号197のペプチドに関しては、低、中及び高用量レベルについて処方試料で測定した濃度は、それぞれ、0.06%(w/v)、0.25%(w/v)及び0.6%(w/v)であり、配列番号172のペプチドに関しては、低、中及び高用量レベルについて処方試料で測定した濃度は、それぞれ、0.05%(w/v)、0.2%(w/v)及び0.6%(w/v)であった。陰性対照としても役立つビヒクルは、注射用0.9%塩化ナトリウム(USP)であった。
【0299】
この研究は、全部で9つの群の雌性C57BL/6マウスから構成され、これは、各々12匹のマウスの8つの群と、4匹のマウスの追加の群とを含んだ。両側性の短期間のドライアイを、スコポラミン臭化水素酸塩(Sigma−Aldrich Corp.、St.Louis、MO)注射(皮下(SC)、毎日4回、0.5mg/用量、第0〜21日)及びマウスを一定気流の乾燥環境への曝露の組合せによって誘発した。第1日に開始して、1〜8群のマウスは、21日間、毎日3回(TID)、ビヒクル(0.9%滅菌生理食塩水;陰性対照物);配列番号197のペプチド(0.06%、0.25%及び0.6%)、配列番号172のペプチド(0.05%、0.2%及び0.6%);又はシクロスポリン(0.05%;陽性対照、免疫系の活性を低下するために用いられる免疫抑制薬物)の両側の局所の眼(両眼;OU)投与(5μL/眼/用量)を用いて処置した。
【0300】
生存中(処置)期間の間、臨床的な観察を、毎日1回記録した;角膜フルオレセイン染色による細隙灯検査(SLE)、涙液層破壊時間試験(TBUT)、及びフェノールレッド糸試験(PRTT)を、1週間に3回行った。第22日に剖検を行った;眼、眼瞼、結膜及び涙腺を、各々の動物の両眼から収集した。右眼(右眼、oculus dexter;OD)由来の組織を固定し、次いで顕微鏡で評価した。左眼(左眼、oculus sinister;OS)由来の組織を、液体窒素中で急速凍結し、後に分析ができるように−80℃で凍結保存した。
【0301】
【表7】
【0302】
方法
1.用量調製
配列番号197の(ポリ)ペプチドは、Polypeptide Laboratories(フランス)から、300.65mgの乾燥粉末を含有する1.5mLの透明なプラスチックのマイクロフュージバイアルとして入手した。
【0303】
配列番号172の(ポリ)ペプチドは、Polypeptide Laboratories(フランス)から、302.7mgの乾燥粉末を含有する1.5mLの透明なプラスチックのマイクロフュージバイアルとして入手した。
【0304】
研究開始の前に、配列番号172の(ポリ)ペプチド及び配列番号197の(ポリ)ペプチドは、滅菌生理食塩水(ビヒクル)中で処方した。各々の濃度での投与溶液は、0.2μmフィルターを用いて滅菌し、複数の事前標識バイアルにアリコートし、−20℃で凍結した。配列番号197のペプチドの処方試料中で測定した濃度は、0.058%、0.25%及び0.624%であって、0.06%、0.25%及び0.6%に丸めた。配列番号172のペプチドの処方試料中で測定した濃度は、0.053%、0.217%及び0.562%であって、0.05、0.2%及び0.6%に丸めた。
【0305】
投与の各々の日に、1セットの投与溶液を解凍し、その日の用量投与のために用いた。対照(ビヒクル、シクロスポリン)を投与のために準備した;用量調製は必要がなかった。
【0306】
2.細隙灯検査(SLE)
研究に入る前に、各々の動物に、SLE及び間接的な眼科検査を、局所適用フルオレセインを用いて実施した。眼科的知見は、ドレイズスケール眼科スコアリングを用いて記録した。SLE及びドレイズスコアリングは、生存中の期間中、1週間に3回繰り返した。
【0307】
3.涙液層破壊時間(TBUT)試験及びその後の角膜検査
TBUT試験は、角膜へのフルオレセインの適用後の完全なまばたきと、涙液層中の第一のランダムな乾燥スポットの出現との間の時間経過の秒数を測定することによって毎週3回行った。TBUTを行うために、0.1%液体ナトリウムフルオレセインを、結膜嚢に滴下し、眼瞼を手技的に3回閉じ、次いで、角膜を覆う連続のフルオレセイン含有涙液層を開いたまま保持し、層が破壊する(乾燥スポット又はストリークの出現)のに必要な時間(秒)を記録した。少なくとも90秒後、0.1%フルオレセインの滴を角膜に更に再滴下した後、角膜上皮の損傷を、コバルトブルーフィルターを有する細隙灯を用いて等級付けし;次いで角膜をドレイズ眼スケールについてスコア付けした。
【0308】
4.フェノールレッド糸涙液試験(PRTT)
涙液生成を、PRTT試験ストリップ(Zone−Quick;メニコン、日本、名古屋)を用いて、両眼で週に3回測定した。その日の最初の処置の前に、細隙灯生体顕微鏡のもとで30秒間各々の眼の結膜円蓋の外眼角に糸を適用した。トレッドの上の涙移動(すなわち、濡れた綿の糸の長さ)は、ミリメートルのスケールを用いて測定した。
【0309】
5.剖検及び病理
第22日の剖検では、眼球、涙腺、眼瞼、及び結膜を含む各々の動物由来の両眼を切除した。右眼及び関連の組織を、改変ダビッドソン溶液中への浸漬、続いて、10%中性緩衝化ホルマリン(NBF)へ移すことによって固定した。この右眼の固定した組織を、脱水し、パラフィンに包埋し、3〜5μmの厚みで切片にし、スライドに装填した組織をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。染色したスライドを、光学顕微鏡で評価した。詳細かつ完全な組織病理学的評価を、眼の全部分で行い、少なくとも2つの切片のレベルを、各々の右眼について組織病理学的に検査した。角膜、結膜及び角膜の上皮(杯状細胞を含む)、並びに涙腺には特に注意を払った。これらの組織は、0〜4のスケールに基づいて損傷についてスコア付けし、ここで0は正常、1は最小、2は軽度、3は中度、4は重度であった。各々の角膜について、スコアは、角膜の上皮の厚み及び角膜炎症に基づいた。結膜を侵食及び炎症について、並びに杯状細胞の有無についてスコア付けした。
【0310】
結果
スコポラミン(0.5mg/用量)の毎日4回のSC投与は、雌性C57BL/6マウスで、水性涙液生成容積の低下及び涙の物理化学的特性の変化で特徴付けられる、ドライアイ症候群を誘発し、それらのマウスは、眼を効果的に潤滑にして保護することを可能にする安定な涙液層を維持することが難しくなった。
【0311】
1.涙液層破壊時間(TBUT)試験(Teat)及び角膜検査
涙液層破壊時間試験(TBUT)は、ドライアイの誘発の前、並びにドライアイ誘発後第2、4、7、9、11、14、16、18及び21日に再度行った。スコポラミンの投与(ドライアイ誘発)の開始後、TBUT平均値は、全ての動物で低下し始めたが、第6群(配列番号172の中間用量)ではより緩徐に低下するようであった。第5、6、7群(配列番号172のペプチドの低用量、中用量及び高用量)及び第8群(シクロスポリン)のTBUTの平均最下点は、第7日に生じ、同様の値に達した(それぞれ、6.6±0.4、6.7±0.4、6.7±0.3、及び6.4±0.4s)。その後、これらの群のTBUT平均は、第9日にピークまで増大した。第6群及び第7群(配列番号172の中用量及び高用量群)のTBUT平均は、第8群、シクロスポリン群(8.5±0.3s)よりも高い値まで上昇した(それぞれ、10.0±0.7s及び9.9±0.8s)が、第5群、配列番号172の低用量のピークTBUT平均(8.0±0.4s)は、第8群(シクロスポリン)のものよりわずかに低かった。中用量及び高用量の配列番号197処置動物、第3群及び第4群のTBUT平均は、投与の開始後に低下し続けて、第9日に最下点に達したが、低用量の第2群は、第9日に増大した。配列番号172処置動物の低用量、中用量及び高用量(それぞれ、第2群、第3群及び第4群)のTBUT平均は、ビヒクル群を上回り、一般には、配列番号172処置動物の低用量、中用量及び高用量の平均より下であった。
【0312】
第7日から第21日のTBUT値に関する曲線下面積(AUC)を用いて、種々の処置をビヒクル対照と比較した場合、配列番号172のペプチドの中用量、低用量、及び高用量(それぞれ、0.05%、0.2%及び0.6%)での処置、第5群、第6群及び第7群、並びにシクロスポリン(0.05%)で処置した動物、第8群は、TBUT AUCの有意な増大を示した(Kruskal−Wallis nonparametric ANOVA)。配列番号172のペプチドは、TBUTの用量依存性の増大を生じると思われ、ここで中用量及び高用量は、同様の効果を生じることが多い。更に、シクロスポリン処置群と、配列番号172の3つの用量水準で処置した群と、非誘発性の群(第5、6、7、8及び9群)との間のTBUT AUCには有意な相違はなかった。この知見によって、配列番号172のペプチドの3つの用量全て及びシクロスポリンが、このドライアイモデルにおけるTBUT変化の背景にある眼科学的変化の改善又は逆転において、ほぼ等しく有効であったことが示唆される。
【0313】
配列番号197のペプチドの低用量、中用量及び高用量のレベルで処置した群(第2〜4群)は、TBUTにおいてわずかに一般的に用量依存性の増大を示し、この増大は、配列番号172又はシクロスポリンで処置された動物よりもほぼ2日遅く増大を開始した。
【0314】
【表8】
【0315】
2.フェノールレッド糸涙液試験(PRTT)
PRTT試験は、ドライアイの誘発前、並びに第2、4、7、9、11、14、16、18及び21日に再度行った。第0日から第4日のPRTT値は、ドライアイを誘発させた全てのマウスで低下し、このことは、スコポラミンの投与及びブロワーで生み出された気流の増大した乾燥環境への曝露後に、涙液の生成が低下したことを示している。ほとんどの群でのPRTTの最下点は、ほぼ第7日に生じた。PRTTは、ビヒクル対照群(第1群)で低下を続け、第14日に最下点に達した。最下点の後、全てのドライアイ群で増大があった。これらの知見によって、化合物処置の開始より1日早いスコポラミン処置の開始は、ドライアイ症候群に関連する眼の生理学的変化を開始するのに十分であったことが示される。シクロスポリン処置群がほぼ第7日にまたがって他の群と同様のPRTTの低下を示した場合でさえも、次いで第11〜14日にはピークまで増大し、その後わずかに低下した。最終のPRTT試験(第21日)では、シクロスポリン(第8群)、並びに第6群及び第7群は全て、同様のPRTT値を有し、これによって、中用量及び高用量の配列番号172のペプチドの処置の両方とも、このマウスドライアイモデルで水性涙液生成の増大においてシクロスポリンと同様の治療効果を有することが示唆される。
【0316】
低用量、中用量又は高用量の配列番号172のペプチドで処置した動物は、ビヒクル処置動物と比較して有意により多く水性涙液を生じた。したがって、TBUTと同様に、配列番号172のペプチドは、このモデルにおける水性涙液の生成において一般的に用量関連の有意な増大を生じた。
【0317】
低用量、中用量又は高用量のレベルの配列番号197のペプチドで処置した群(0.06%、0.25%及び0.6%、それぞれ第2、3及び4群)は、PRTTにおいて一般的に用量依存性の増大を示した。
【0318】
【表9】
【0319】
3.組織病理学
ここでは、組織学的変化は、一般に角膜に限定された。角膜における知見は、角膜の上皮表面の角質化、角膜上皮の肥厚、角膜上皮の細胞充実度の増大、上皮細胞代謝回転と一致した基底上皮層の有糸分裂の軽度の頻度増大から構成された。これらの知見は、角膜乾燥及び角膜表面刺激作用に対する生理学的適応応答の指標である。表面潰瘍化、角膜実質浮腫及び角膜への炎症性浸潤は、この研究では見られなかった。第9群、未処置群(正常なマウス、スコポラミン処置なし)における眼は、正常限界内であった。全ての群にまたがって散らばった眼瞼のある程度の最小の非化膿性炎症があったが、眼の結膜、網膜、涙腺及び他の部分は、正常な限界内であった。杯状細胞は、全ての群で限界内であると思われた。杯状細胞は、涙がより強く、より粘着性の膜を形成することを助ける、ムチンの主なプロデューサーである。
【0320】
軽度から中度の角膜変化が、未処置の正常な眼の群(第9群)を除いて全ての群で注目され、第1群、ビヒクル処置群、及び第2群、低用量の配列番号197のペプチドでは、他の処置群に比較して、わずかに重症度が高かった。これらの知見は、角膜に対する涙液産生の増大のポジティブな有益効果と一致していた。
【0321】
いずれかの他の処置が、シクロスポリンに対して「同様のスコア低下」を生じたか否かを決定するために、種々の処置群の組織学的スコアを、シクロスポリン群における組織学的スコアと比較した場合、第4、6及び7群は、シクロスポリン群スコアと有意に異なることはないことが見出された。したがって、これらの3つの処置、中用量及び高用量の配列番号172のペプチド、及び高用量の配列番号197のペプチドは、シクロスポリン後に、このマウスドライアイモデルと関連する角膜の変化を軽減/緩和するのに最も有効であった。
【実施例13】
【0322】
ラットにおけるアドリアマイシン誘発性腎症に対するJNK阻害剤の効果
アドリアマイシン処置は、ラット及びマウスにおいて糸球体疾患を誘発し、ヒト巣状分節状糸球体硬化症(FSGS)を模倣する。このモデルでは、管状及び間質性の炎症病変が、部分的には重度のタンパク尿に起因して、疾患経過の間に生じる。治療がなければ、腎臓疾患は、8週間以内に末期腎不全に進行する。有足細胞損傷は、糸球体硬化症につながるシークエンスの最初の段階の1つである。この研究の目的は、JNK阻害剤が、腎の病変及び腎不全の発達を防げるか否かを検討することであった。
【0323】
方法
30例の雄性Sprague−Dawleyラット(Charles River)をこの研究で用いた(10匹のラットの3つの群に分けた)。腎症は、第0日のアドリアマイシン10mg/kgの単回静脈内注射によって誘発された。配列番号172のJNK阻害剤(2mg/kg;0.9%NaCl中)又はビヒクルを、第0日に尾静脈に静脈内投与した。投与容積は0.2mlであった。
【0324】
以下の表は、ランダムな割り付けをまとめている:
【0325】
【表10】
【0326】
各日に、全ての動物の一般的な挙動及び外観を観察した。動物の健康をモニターした(瀕死の動物、体重の異常で重大な低下、物質の主な不耐性など)。除外したラットはいなかった。
【0327】
眼窩後血液を、1群あたり4匹のラットから第7、14、28、42及び56日に採取した。血清クレアチニン濃度、血液尿及びタンパク尿を、Advia Chemistry 1650の適切なキット(Bayer Healthcare AG、Leverkusen、Germany)を用いて測定した。
【0328】
1群あたり2匹のラットを、第7、14、28、42及び56日に麻酔後に屠殺した。動物の屠殺後、両方の腎臓を採取した。組織病理学的検査のために、固定した組織標品を段階的アルコール溶液中で脱水して、トルエン中で浄化して、パラフィンに包埋した。切片(4μm)を、過ヨウ素酸(PAS)で染色し、マッソン(Masson)トリクローム染色を行って、コラーゲン沈着を検出した。糸球体及び尿細管間質性硬化症を、顕微鏡下で定量した。
【0329】
結果を、Microsoft Excel(登録商標)ソフトウェアを用いて、個別にまとめたデータの表の形式で表した。数値の結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。試験した動物が少数だったので、統計的な解析は行わなかった。
結果:
疾患の進行中の腎機能に対する配列番号172のJNK阻害剤の効果:尿及びクレアチニン血清レベルを測定して、腎臓疾患の経過の間の腎機能を研究した。クレアチニンは、熱量測定の量を邪魔するので、腎機能の繊細な指標である尿素のみを分析した。尿の血清レベルは未処置のラットでは顕著に安定であるが(5mmol/l未満)、ADRは尿素レベルの進行性の増大を誘発し、これは第28日から第41日の25mmol/lまで、次いで第56日の48mmol/lまで急激に上昇し、これは末期腎不全を反映している(
図38B)。他方では、配列番号172のJNK阻害剤で処置したラットは、疾患の経過にまたがって10mmol/l未満の尿血清レベルを示した(
図38B)。これらの結果によって、配列番号172のJNK阻害剤は、腎臓疾患及び腎不全の進行を防ぐことが示唆される。
【0330】
組織病理学的知見(PAS及びマッソントリクローム染色):
ADR誘発性の構造変化を、光学顕微鏡下で評価した。生理食塩水処置した対照のラットは、形態学的に正常な糸球体及び小管を示した。第8日に、光学顕微鏡の検査によって、ADRネフローゼ群における巣状分節状糸球体硬化及びタンパク性円柱を有するいくつかの領域が示された。対照的に、いくつかの小管は、配列番号172のJNK阻害剤で処置したラットではタンパク質で充填され、糸球体は、メサンギウム細胞過多がないか又は離散している正常な構造を示したが、小管構造及び間質は、病理学的変化を示さなかった(
図39)。第14日までに、ADR処置ラットは、進行性の糸球体硬化症、ヒアリン沈着、管拡張及び円柱形成を示した。糸球体硬化症の程度は、この群では劇的に悪化して、第29日及び第41日までにほとんどの糸球体で、重度の尿細管萎縮及び間質性線維症に関連する、糸球体房とボーマン腔との間の明らかな接着をともなうびまん性になった。第56日に、びまん性糸球体硬化が、全ての糸球体で観察された(
図40)。しかし、配列番号172のJNK阻害剤処置したラットは、第8日に相対的に正常な外観を有し、ADR処置ラットと比較して第56日に、少数の限局性かつ部分的な糸球体硬化症及び尿細管間質性線維症を発症した。全体として、これらの結果によって、配列番号172のJNK阻害剤が糸球体及び尿細管間質性の線維症の発症を防ぎ、かつこの群における腎機能の保存を説明し得ることが強く示唆される。
【0331】
この検証の結果、配列番号172のJNK阻害剤が、ADRによって誘発される糸球体及び尿細管間質性損傷の進行を防ぐという証拠が得られる。更に、この分子は、腎機能を保存する。
【実施例14】
【0332】
マウスにおけるイミキモド誘発性乾癬に対するJNK阻害剤の評価
TLR7及びTLR8のリガンドであるイミキモド(IMQ)は、免疫応答の強力な修飾因子である。イミキモドは、多くの動物モデルで強力な抗ウイルス及び抗腫瘍効果が実証されている。Van der Fitsら(The Journal of Immunology 2009、182、5836〜5845頁)によって、BALB/cマウスにおけるIMQの局所適用が、乾癬を誘発し、ヒト乾癬病変とよく似ていることが実証された。
【0333】
方法
雌性BALB/cAnNCrlマウス(Charles River、研究開始時に8〜10週齢)を以下の群(処置スケジュール)に割り当てた:
【0334】
【表11】
【0335】
更に、5匹の動物の群は処置していない(「ナイーブな」群)。
【0336】
IMQの局所適用が、皮膚炎症を誘発したか否かを実証することは、乾癬に特徴的な構造的特徴をともない、IMQクリーム(約62.5mgのイミキモドクリーム5%)は、BALB/cマウスの剃毛した皮膚の背及び右耳に6日連続で塗布された(第2〜7日まで)。
【0337】
この実験では、2つの陽性対象を利用した。最初に、プレドニゾロン10mg/kg(精製水中、ビヒクル:1%ヒドロキシエチルセルロース、0.25%ポリソルベート80、及び0.05%消泡剤(Antifoam))を、毎日、経口で投与した(「プレドニゾロン」群)。第2に、デキサメタゾンを、静脈内経路を介して第1、4及び7日に、0.5mg/kg(ビヒクル:滅菌0.9%NaCl)で投与した。
【0338】
配列番号172のJNK阻害剤(「配列番号172」)を、0.9%NaCl中に溶解した。3つの異なる用量(上記の群の表を参照のこと)を投与するために、連続希釈した(1:10倍)。配列番号172のJNK阻害剤は、易溶解性であり、溶液から析出しなかった。3つの異なる用量の配列番号172のJNK阻害剤(0.02、0.2及び2mg/kg)を、第1、4及び7日にそれぞれの群に静脈内投与した。
【0339】
第8日に、動物を屠殺し、組織(耳)を10%中性緩衝化ホルマリン中に固定した。組織病理学のために、ヘマトキシリン−及び−エオシン−染色した切片(横断)を準備して、全動物から収集した組織について顕微鏡検査を行った。組織病理学のための方法及び終点は、炎症、表皮過形成、表皮角質増殖(不全角化ではない)が重症度等級で観察され記録されるという点で、van der Fits(2009)の論文に同様に記載されており、それによって、Van der Fitsら(The Journal Immunology 2009、182、5836〜5845頁)からのそれぞれの方法論が参照によって本明細書に援用される。組織病理学的等級付けスコアは、二次炎症プロセスを有する動物で皮膚又は耳のいずれかについて除外された(全層の表皮潰瘍)。スコアを群で平均して、標準偏差及び統計学的有意差を算出した。
図41のグラフでは、群平均(+/−)標準偏差(SD)が下に描写されることが示される。マウス(BALB/c)の背面からのホルマリン固定、パラフィン包埋した皮膚を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色で染色し、顕微鏡的に評価した。上記の参照からの重要な相違、及びこの研究の観察を詳細に記載するため:角質増殖は、正常角化(核の保持なし)又は不全角化(核が保持される)として具体的に定義してもよい。いずれも種々の解剖学的位置で、種に応じて正常に生じ得る;しかし、両方の条件とも特に疾患状態では十分定義される。van der Fitsの論文は、それらのイミキモド(IMQ)誘発性乾癬モデルを、ヒトの条件でみられるものと同様の不全角化角質増殖を生じるものとして記載しており、それがこの研究の規定の終点であった。しかし、Danilenkoら(Veterinary Pathology 2008 45:563頁)は、多くのげっ歯類乾癬モデルが正常角化角質増殖を有することを示した。現実に、同じ病変が時に、両方の種類の角質増殖を示す場合があり得、この研究におけるげっ歯類は、まれな、多病巣の不全角化を伴う原発性の正常角化角質増殖を有した。より一般的な用語「角質増殖」は終点の等級付けに用いられ、本文中では、どの種類がみられたか(主に正常角化)を記述する。van der Fitsの論文からの別の相違は、それらがヒト患者を、その表皮の顆粒層で顆粒化の減少を有すると記載しているということである(彼らの研究では、げっ歯類の皮膚は、同様であると報告された);しかし、この研究、及びDanilenkoのレビューでは、乾癬の多くのげっ歯類モデルがこの層における顆粒化の増大(顆粒層肥厚)を示すか、又はこの層自体が過形成である。
【0340】
顕微鏡的組織病理学的終点は以下のように等級付けした:
1=MI=最小
2=SL=わずか
3=MO=中度
4=MA=顕著
5=SE=重度
【0341】
結果
配列番号172のJNK阻害剤中用量群(統計学的に有意)及び配列番号172のJNK阻害剤高用量群は、ビヒクル−IMQ投与群と比較して耳の炎症が低下していた(
図41)。また、陽性対照群、すなわち、プレドニゾロン群及びデキサメタゾン群は、ビヒクル−IMQ投与群と比較して耳の炎症の低下を示した(両方とも統計学的に有意、
図41)。一般には、真皮に存在した炎症は、より少ない好中球と混合されたリンパ球及びマクロファージから構成された。表皮中の炎症はそれほど一般的でなく、主に好中球であって、角膜内の層(正常角化層)に、及び表皮内にマンロー微小膿瘍(Munro’s microabscesses)として存在した。炎症はナイーブな群には存在しなかった。
【0342】
耳の表皮過形成の最小低下がまた、配列番号172のJNK阻害剤の中用量群で観察され、これは、プレドニゾロン群及びデキサメタゾン群で観察されたものよりわずかに低かった。配列番号172のJNK阻害剤の中用量及びプレドニゾロン群は、ビヒクル−IMQ投与群のものより低かったが、それらは統計学的に有意ではなかった。表皮角質増殖に関して耳について配列番号172のJNK阻害剤で処置した用量応答としてあからさまな相違は示されなかったが、配列番号172のJNK阻害剤の低用量群、プレドニゾロン、及びデキサメタゾン群は、ビヒクル−IMQ投与群と比較して平均等級の低下が最小であった。ナイーブ群は、顕微鏡的に正常であった。
【実施例15】
【0343】
腎虚血/再かん流病変に対するJNK阻害剤の効果
腎虚血/再かん流(腎I/R)障害は、急性腎不全としても公知の、急性腎障害(AKI)の一般的に使用されるモデルである。急性腎障害に対する腎I/R障害を試験する研究の臨床関連性に加えて、実験的な腎I/R障害はまた、腎移植を受けている患者で生じる状態を評価するために用いられる重要なモデルでもある。ドナー次第で、移植された腎臓は、移植前の種々の時間の間、血液をかん流されない。AKIは、患者でこのような深刻な影響を有し、全ての移植された腎臓は、腎I/R障害をある程度まで経験するので、ヒトの健康に対するこの種の研究の臨床的な関連性及び移行の重要性は極めて高い。したがって、この研究の目的は、ラットにおける実験的な腎虚血/再かん流に対して配列番号172のJNK阻害剤の影響を検討することである。
【0344】
この目的を達成するために、26匹の雄性Wistarラット(5〜6週齢、Charles River)を、以下の群に割り当てる:
【0345】
【表12】
【0346】
腎虚血は、傷をつけないクランプを用いて両方の腎茎をクランピングすることによって誘発する(壊疽の誘発)。1つの固有の用量の配列番号172のJNK阻害剤(2000μg/kg)を、第0日に、傷をつけないクランプを用いた両方の腎茎のクランピング期間の1時間後(再かん流後)、尾静脈に静脈内(IV)投与する。投与容積は2ml/kgである。ヘパリン(5000IU/kg)を、クランピングの1時間前に腹腔内に投与する。
【0347】
各日に、全ての動物の一般的な挙動及び外観を観察する。動物の健康が研究の継続と適合しない場合(瀕死の動物、体重の異常で重大な低下、物質の主な不耐性など)、動物は、治験医師の責任のもとで倫理的に屠殺する。個々のラットは、代謝ケージで飼育する(Techniplast、France)。尿を24時間ごとに最大72時間まで収集する。血液試料は、尾静脈から、再かん流前、次いで再かん流の24時間及び72時間後に得る。両方の期間の終わりに(24及び72時間)、1群あたり5匹のラット(第1群については3匹)を屠殺する。動物屠殺後、両方の腎臓を収集する。1群あたり5匹のラット(第1群については3匹)を各時点で用いる(再かん流後24時間及び72時間)。腎機能の評価のために、血清クレアチニン(μmol/ml)又は尿素濃度(mmol/mL)を、適切なキット(Bayer Healthcare AG、Leverkusen、Germany)を用いて測定する。タンパク尿及びアルブミン尿の評価のために、タンパク尿及びアルブミン尿は、Advia Chemistry 1650の適切なキット(Bayer Healthcare AG、Leverkusen、Germany)を用いて行う。
【0348】
組織学的病変の評価は、再かん流24時間及び72時間後に行う。光学顕微鏡のために、腎臓をDubosq−Brazil中で16時間インキュベートし、脱水し、パラフィンに包埋し、切片に切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)又は過ヨウ素酸シッフ(PAS)試薬で染色する。各々の染色について、3つの切片を分析する。
【0349】
免疫組織化学分析のために、腎臓試料を、Dubosq Brazil中で16時間固定し、引き続き脱水し、パラフィンに包埋する。抗原賦活化は、15分間、500Wのマイクロ波オーブン中で煮沸中の0.01Mクエン酸バッファー中にスライドを浸漬することによって行う。内因性のペルオキシダーゼ活性をメタノールに含まれる0,3%H
2O
2で30分間ブロックする。スライドを、アビジン−ビオチン溶液からなるブロッキング試薬とともに30分間、及び正常なブロッキング血清とともに20分間インキュベートする。免疫検出のために、スライドを一晩、抗体とともに、次いでビオチン化二次抗体とともにインキュベートする。アビジン−ビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(Vectastain ABC Reagent、Vector Laboratories;Burlingame、CA)及び3,3’−ジアミノベンジジン(Sigma Biochemicals;St Louis、MO)を、色素原として、免疫反応の可視化のために適用する。スライドをヘマトキシリンで対比染色する。一次抗体の省略を陰性対照とみなす。
【0350】
免疫蛍光標識は、10分間アセトン中で固定した腎組織の4mm厚のクリオスタット切片で行い、30分間室温で空気乾燥し、次いでPBS中で3分間インキュベートし、PBS中の1%BSA中でブロックする。その切片を、室温で1時間示した抗体とともにインキュベートし、PBS中で洗浄し、レッドテキサスコンジュゲートの二次抗体とともにインキュベートする。切片は、免疫蛍光分析のために蛍光顕微鏡(Zeiss)で検査する。
【0351】
有足細胞の損傷、炎症及び腎線維症に特異的ないくつかのマーカー(RelA、TGFβ、TNFα、マッソントリクローム)の発現を、免疫組織化学及び免疫蛍光によって評価する。腎臓におけるTNF、IL6、CXCL1(KC)、CXCL2(MIP−2)及びMCP1の定量的転写プロファイルを決定する。
【実施例16】
【0352】
ラット歯周炎モデルにおける炎症反応に対するJNK阻害剤の阻害性効果
この研究の目的は、ラットにおける歯周炎モデルで誘発された炎症に対する配列番号172のJNK阻害剤の影響を検討することである。
【0353】
30匹のSprague−Dawleyラット(雄性、42〜56日齢)を、この研究で用いる(10匹のラットの4つの群に分ける)。実験的な歯周炎は、10日間の第0日に第一臼歯(1匹の動物あたり1つの臼歯)の周囲に置いた結紮によって誘発される。1用量の4mg/kgの配列番号172のJNK阻害剤(ビヒクルとして0.9%NaCl中)を、第10日に歯肉内に(IGV)投与する。投与容積は10μlである。投与は、第一臼歯を囲む付着した歯肉にIGVで行う。
【0354】
以下の表は、無作為な割り付けをまとめる:
【0355】
【表13】
【0356】
各日に、全ての動物の一般的な挙動及び外観を観察する。動物の健康が研究の継続と適合しない場合(瀕死の動物、体重の異常で重大な低下、物質の主な不耐性など)、動物は、治験医師の責任のもとで倫理的に屠殺する。歯周炎の炎症の様相は、第0、10及び17日に歯肉組織の巨視的観察によって分析する。プラーク指数及び歯肉炎指数を、第0、10及び17日に、臨床スコアリングを用いて、歯周部臨床指数として測定する。
【0357】
第17日に、動物を屠殺し、試料を収集する。歯肉組織を、全動物で生体分子分析のために切り出す。安楽死の後、下顎骨を、組織学的評価のために切り出す。炎症細胞の評価のために、炎症細胞の定量を、組織形態計測学的な測定によって行う。炎症性タンパク質レベルの評価のために、炎症性タンパク質(p−JNK、TNF、IL−1、IL−10、MMP−8、MMP−9)のレベルを、歯肉組織のホモジネートから測定する。組織破壊の評価のために、骨組織破壊を、放射線学的分析(マイクロ−CT)によって1群あたり3匹の動物で評価する。歯周部の複合体破壊を、組織学的分析によって評価する。骨微細構造の評価のために、骨小柱測定(厚さ、分離)を、第0、10及び17日に1群あたり3匹の動物で放射線学的分析(マイクロ−CT)によって評価する。口腔の細菌の特定のために、歯のポケットにおける細菌集団を、第0、10及び17日に、9つの歯周病原菌に対するDNAプローブ(リアルタイムPCR)によって特定する。コラーゲンのフレームワークのために、総コラーゲン量の測定は、偏光顕微鏡を用いて行う。コラーゲンI/コラーゲンIII比を、組織形態計測分析によって評価する。
【実施例17】
【0358】
ラットにおけるエンドトキシン誘発性ブドウ膜炎(EIU)モデルでの配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の作用期間の評価
24(18)の雌性Lewisラット(36の眼)を無作為に、各々3匹の動物の6つの群に分けた。EIUを、200μgのLPS(サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)由来のリポポリサッカライド、Sigma−Aldrich、France)(2mg/ml)を含有する100μlの滅菌の発熱性物質なしの生理食塩水の単回足蹠注射によって誘発した。
【0359】
動物を、尾静脈中に1mg/kgの単回用量(投与溶液1ml/kg)で配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の静脈内注射によってEIU誘発の48時間、1週、2週又は4週前に処置した。デキサメタゾン2mg/kg又はビヒクル(0.9%NaCl)を、EIU誘発の直前に静脈内に注射した。
【0360】
EIUに対する配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の効果は、誘発の24時間後の臨床スコアリング及びPMN細胞定量を用いて評価した。眼の検査は、細隙灯によって24時間で、すなわち、このモデルにおける疾患の臨床ピークで行った。臨床的な眼の炎症の強度は、各々の眼について0〜5のスケールでスコア付けした:
等級0:炎症なし、
等級1:最小の虹彩及び結膜の血管拡張があるが、前眼房(AC)ではフレアも細胞も観察されない、
等級2:中度の虹彩及び結膜の血管拡張があるが、ACではフレアも細胞も証拠がない、
等級3:強度の虹彩の血管拡張の存在、フレア及び細隙灯あたり10未満の細胞、ACの領域、
等級4:等級3より重度の臨床徴候の存在、ACで10を超える細胞が、前房蓄膿の形成の有無を伴う、
等級5:強度の炎症反応の存在、ACにおけるフィブリン形成及び瞳孔の完全な閉鎖。
【0361】
臨床評価は、盲検方式で行った。
【0362】
組織学的に、18の眼球(動物1匹あたり1つ)を収集し、4%パラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で、室温で1時間固定した後に、PBS中で一晩すすいだ。翌日、試料を、最適切断温度(OTC)の化合物(Tissue−Tek(登録商標)、Sakura Finetek、Zoeterwoude、Netherland)に包埋し、視神経レベルでクリオスタット(Leica CM 3050S、France)を用い、組織学のためにスーパーフロストスライドに装着した。DAPI(Sigma−Aldrich、France)による核染色の後、切片をPBS/グリセロール(1/1)中に装着し、蛍光光学顕微鏡(FXA Microphot、Nikon、USA)で観察した。デジタル化した顕微鏡写真を、デジタルカメラ(Spot、BFI Optilas、France)を用いて得た。DAPIで染色したそれらの核の形状によって特定したPMN細胞を、組織学的切片上で定量した。分析は、視神経頭部レベルで1つの眼あたり2つの異なる切片で行った。
【0363】
LPS誘発の24時間後、ビヒクル処置ラットの臨床スコアは、4.6±0.2(平均±SEM、n=8)であった。低下は、(ビヒクル処置した眼の等級 − 試験品で処置した眼の等級)/(ビヒクル処置した眼の等級)として算出した。眼の炎症の重症度における有意な低下(
*p<0.05、
**p<0.01)が、EIU誘発の48時間前に投与された、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)(1mg/kg)での誘発及び静脈内処置の24時間後に検出され(平均スコア:2.8±0.3)、これは、ビヒクル群において、EIU誘発の1週間前に投与された、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)(1mg/kg)での誘発及び静脈内処置の24時間後に観察されたスコア(平均スコア:3.3±0.3)と比較してEIUスコアの40%(
**)低下に相当し、ビヒクル群において、EIU誘発の2週間前に投与された、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)(1mg/kg)での誘発及び静脈内処置の24時間後に観察されたスコア(平均スコア:3.0±0.2)と比較してEIUスコアの27%(
*)低下に相当し、ビヒクル群において観察されたスコアと比較してEIUスコアの35%(
**)低下に相当した。しかし、EIU誘発の4週間前に投与された、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)(1mg/kg)での誘発及び静脈内処置の24時間後には有意な低下は観察されず(平均スコア:4.2±0.1)、これは、ビヒクル群において観察されたスコアと比較してEIUスコアの9%低下に相当した。
【0364】
陽性対照薬物として用いた、EIU誘発の直前のデキサメタゾン(2mg/kg)による単回静脈内処置もまた、臨床スコアを69%、有意に低下した(平均スコア:1.4±0.2、p<0.01)。
【0365】
組織学的検討において、PMN細胞数は、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)が、EIU誘発の4週間前(p<0.05)及び2週間前(p<0.01)に投与された場合、有意に低下した。したがって、PMN細胞の数は、デキサメタゾンがEIU誘発の直前に投与された場合、有意に低下した。
【0366】
結論:この研究の目的は、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)(1mg/kg)の、ラットでのエンドトキシン誘発性のブドウ膜炎(EIU)モデルにおける抗炎症としての作用期間を評価することであった。EIUに対するXG−104の効果は、誘発の24時間後の臨床スコアリング及びPMN細胞定量を用いて評価した。LPSチャレンジの48時間、1週間及び2週間後のXG−104処置の眼の平均臨床スコアは、それぞれ、40%、27%及び35%低下でビヒクル群の平均スコアから有意に異なった。PMN細胞の数は、それぞれ、EIU誘発の、2週間及び4週間前にXG−104を投与した場合、有意に低下し、それぞれ、ビヒクル処置群と比較して88%及び69%低下であった。デキサメタゾンは、LPSチャレンジの直前に投与した場合、臨床スコア及びPMN細胞数を有意に低下した。したがって、XG−104の作用期間は、2〜4週間であることが実証された。
【実施例18】
【0367】
腎虚血/再かん流病変に対する配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の効果
腎虚血/再かん流(腎I/R)障害は、急性腎不全としても知られる、急性腎障害(AKI)の一般的に使用されるモデルである。急性腎障害に対して腎I/R障害を検査する研究の臨床関連性に加えて、実験的な腎I/R障害はまた、腎移植を受けている患者で生じる状態を評価するために用いられる重要なモデルでもある。ドナー次第で、移植された腎臓は、移植前に種々の時間の間、血液をかん流されない。AKIは、患者でこのような深刻な影響を有し、全ての移植された腎臓は、腎I/R障害をある程度まで経験するので、ヒトの健康状態に対するこの種の研究の臨床的な関連及び移行の重要性は極めて高い。したがって、この研究の目的は、ラットにおける実験的な腎虚血/再かん流に対する配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の影響を検討することである。
【0368】
26(26)匹の雄性Wistarラット(5〜6週齢)を、この研究で用いた(10匹のラットの2つの群及び6匹のラットの1つの群に分けた)。ラットを、標準のケージで飼育し、食物及び水道水に自由にアクセスさせた。各日に、全動物の一般的な挙動及び外観を観察した。動物の健康をモニターした(瀕死の動物、体重の異常で重大な低下、物質の主な不耐性など)。取り除いたラットはいなかった。
【0369】
腎虚血は、傷をつけないクランプを用いて両方の腎茎をクランピングすることによって誘発した。配列番号172によるJNK阻害剤の2mg/kgの単回用量(ビヒクルとして0.9%NaCl中)又はビヒクルを、それぞれ、第0日に、傷をつけないクランプを用いた両方の腎茎のクランピング期間の1時間後(再かん流後)、尾静脈にIV注射によって投与した。投与容積は、2ml/kgであった。ヘパリン(5000UI/kg)を、クランピングの1時間前に腹腔内投与した(全群で)。
【0370】
以下の表は、無作為な割り付けをまとめる:
【0371】
【表14】
【0372】
試料収集のために、ラットを代謝ケージ(Techniplast、France)で個々に飼育した。尿は72時間で収集した。血液試料は、再かん流の前及び24時間後に尾静脈から得た。動物の屠殺後、両方の腎臓を収集した。
【0373】
タンパク尿及びアルブミン尿の評価のために、Advia Chemistry 1650の適切なキット(Bayer Healthcare AG、Leverkusen、Germany)を用いた。
【0374】
腎機能の評価のために、血液を再かん流の24時間後に尾静脈から収集した。血清クレアチニン(μmol/mL)及び尿素濃度(mmol/mL)を、適切なキット(Bayer Healthcare AG、Leverkusen、Germany)を用いて測定した。
【0375】
組織学的病変の評価は、再かん流の24時間及び72時間後に行った。
【0376】
光学顕微鏡のために、腎臓をDubosq−Brazil中で16時間インキュベートし、脱水し、パラフィンに包埋し、切片に切断し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で、又は過ヨウ素酸シッフ(PAS)で染色した。
【0377】
免疫組織化学のために、腎臓試料を、Dubosq Brazil中で16時間固定し、引き続き、脱水し、パラフィンに包埋した。抗原賦活化は、15分間、500Wのマイクロ波オーブン中で煮沸中の0.01Mクエン酸バッファー中にスライドを浸漬することによって行った。内因性のペルオキシダーゼ活性をメタノール中の0,3%H
2O
2で30分間ブロックした。スライドを、アビジン−ビオチン溶液からなるブロッキング試薬とともに30分間、及び正常なブロッキング血清とともに20分間インキュベートした。免疫検出のために、スライドを一晩、抗体とともに、次いでビオチン化二次抗体とともにインキュベートした。アビジンビオチン化西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(Vectastain ABC Reagent、Vector Laboratories;Burlingame、CA)及び3,3’−ジアミノベンジジン(Sigma Biochemicals;St Louis、MO)を、色素原として、免疫反応の可視化のために適用した。スライドをヘマトキシリンで対比染色した。一次抗体の省略を陰性対照とみなした。
【0378】
免疫蛍光標識は、10分間アセトン中で固定した腎組織の4mm厚のクリオスタット切片で行い、30分間室温で空気乾燥し、次いでPBS中で3分間インキュベートし、PBS中の1%BSA中でブロックした。その切片を、室温で1時間、示した抗体とともにインキュベートし、PBS中で洗浄し、レッドテキサスコンジュゲートの二次抗体とともにインキュベートした。切片は、蛍光顕微鏡(Zeiss)で検査する。
【0379】
更に、有足細胞の損傷、炎症及び腎線維症に特異的ないくつかのマーカー(RelA、TGFβ、TNFα、マッソントリクローム)の発現を、免疫組織化学及び免疫蛍光によって評価した。腎臓におけるTNFα、IL6、CXCL1(KC)、CXCL2(MIP−2)及びMCP1の定量的転写プロファイルを決定した。
【0380】
結果:
結果を
図42に示す。血清クレアチニン及び尿素は、虚血なしのビヒクル処置対照ラット(G1)と比較して、虚血24時間後にビヒクル処置した虚血ラット(G2)では増大した。他方では、配列番号172によるJNK阻害剤で処置された虚血性ラット(G3)は、未処置の虚血性ラット(G2)に対して、低い血清クレアチニン及び低い尿素を示した。これらの結果によって、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)は、虚血誘発性腎不全を防ぎ得ることが示唆される。
【実施例19】
【0381】
ヒト肝臓腫瘍細胞株に対する配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の抗腫瘍活性
この研究の目的は、MTSアッセイを用いて、ヒト肝細胞癌及びヒト肝癌細胞株に対して配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の細胞毒性活性を決定することである。
【0382】
ヒト肝細胞癌細胞株HepG2(由来:American Type Culture Collection、Manassas、Virginia、USA;HepG2細胞株は、1975年に肝細胞癌を有する15歳のアルゼンチン人少年の腫瘍組織から樹立し、この細胞株におけるB型肝炎ウイルスゲノムの証拠はない)、及びヒト肝癌細胞株PLC/PRF/5(由来:American Type Culture Collection、Manassas、Virginia、USA;PLC/PRF/5細胞株は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)を分泌する)を用いる。腫瘍細胞は、37℃、湿潤雰囲気(5%CO
2、95%空気)で単層として増殖する。培養培地は、10%のウシ胎仔血清(ref:3302、Pan)、0.1mMのNEAA(ref:BE13−114E、Lonza)及び1mMのNaPyr(ref:BE13−115E、Lonza)を補充されたEMEM(ref:BE12−611F、Lonza)である。細胞は、プラスチックのフラスコに付着される。実験使用のために、腫瘍細胞を、培養フラスコから、カルシウムもマグネシウムもないハンクス培地(ref:BE10−543F、Lonza)中のトリプシン−ヴェルセン(ref:BE02−007E、Lonza)を用いた5分の処理によって剥がし、完全培養培地の添加によって中和する。細胞を血球計数器でカウントし、その生存度を0.25%のトリパンブルー排除アッセイで評価する。
【0383】
腫瘍細胞を、平底マイクロタイトレーション96ウェルプレート(ref 167008、Nunc、Dutscher、Brumath、France)に最適の播種密度でプレーティングし、処置の前に24時間、+37℃、5%CO
2を含む湿潤雰囲気中で190μLの薬物なしの培養培地中でインキュベートする。
【0384】
配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の希釈、及び細胞を含有するプレートの分布を手動で行う。処理開始時点で、10μLの配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)希釈を、以下の最終濃度でウェルに添加する(両方の細胞株について):0、3.8×10
−4、1.5×10
−3、6.1×10
−3、2.4×10
−2、9.8×10
−2、0.4、1.6、6.3、25及び100μM。次いで、細胞を、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)を含有する200μLの最終容積の培養培地中で、+37℃、5%CO
2を含む湿潤雰囲気中で72時間インキュベートする。処理の終わりに、細胞傷害性活性をMTSアッセイで評価する。
【0385】
配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)のin vitroにおける細胞傷害性活性は、テトラゾリウム化合物(MTS、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)及びPMS(フェナジンメトサルフェート)と命名された電子カップリング試薬を用いてMTSアッセイによって明らかになる。MTTと同様に、MTSは、MTTとは異なり、処理なしで培養培地に直接可溶性であるホルマザン生成物へ細胞によって生体還元される。細胞処理の終わりに、ダルベッコのリン酸塩緩衝化生理食塩水(DPBS、ref:17−513F、Cambrex)中の、MTS(2mg/mLで20mL、ref:Gll 11、Promega、Charbonnieres、France)及びPMS(0.92mg/mLで1mL、ref:P9625、Sigma)の40μLの0.22μmのMTSの新鮮濾過された合わせた溶液を、各々のウェルに添加する。吸光度(Optical Density、OD)を、VICTOR3(商標)1420多重標識カウンター(Wallac、PerkinElmer、Courtaboeuf、France)を用いて各々のウェルにおいて490nmで測定する。
【0386】
MTSアッセイの個々のOD値を提供する。細胞傷害性指数(IC)についての用量応答は、以下のとおり表され:
IC=(OD
薬物−曝露されたウェル/OD
ビヒクル−曝露されたウェル)×100
ここで、IC
50とは、細胞増殖の50%阻害を得るための薬物濃度を指す。IC
50は、50%の細胞の細胞傷害性を得るのに必要な薬物濃度である。薬物応答曲線は、XLFit5(IDBS、英国)を用いてプロットし、示される。IC
50決定値は、片対数曲線からXLFit5ソフトウェアを用いて算出される。各々の個々のIC
50決定値、同様に平均±SD IC
50値も示す。
【0387】
図45は、MTSアッセイを用いる、HepG2及びPLC/PRF/5腫瘍細胞株に対するXG−104の細胞傷害性活性の決定の結果を示す。
【実施例20】
【0388】
乾癬のマウスモデルにおける配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の効果
この研究の目的は、乾癬のBK5.STAT3Cマウスモデルにおける、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の効果を評価することである。このモデルは、そのケラチン生成細胞が、Stat3の構成的に活性な形態を発現する、ヘテロ接合性のトランスジェニックマウスを用いる。
【0389】
乾癬は、血管の顕著な拡張症を伴う、ケラチン生成細胞及び血管形成の増殖の加速及び分化の変更によって特徴付けられる慢性の炎症性皮膚障害である。これは、皮膚と、T細胞、樹状細胞及び炎症性サイトカインによって媒介される免疫系との間の相互作用を通じて発症する。疾患のin vivoモデリングは、種々の程度の成功を伴って達成されている。異種移植術モデルは、ヒト疾患を最も反映するが、それらは、より込み入っておりかつ複雑である。最もヒトの乾癬に似ているトランスジェニックのマウスモデルの1つは、K5.STAT3Cモデルである。K5.STAT3Cマウスは、基底ケラチン生成細胞における転写因子Stat3の構成的に活性な形態を発現し、テープ剥離の際には、乾癬の特質を組織学的に繰り返す皮膚病変を発症する。ヒト乾癬においてのように、T細胞は、乾癬の表現型の誘発に重要な役割を果たした。ここで、化合物XG−104の有効性の評価は、乾癬のK5.STAT3Cマウスモデルで行った。
【0390】
この目的を達成するために、2つの独立した実験を行い、その各々が1つの実験あたり少なくとも15匹のマウスである(1群あたり5匹のマウス)。各々の実験では、BK5.STAT3Cヘテロ接合性トランスジェニックマウス(Tg(KRT5−Stat3*A661C*N663C)1Jdg;したがって以降では、K5.STAT3Cマウスと呼ぶ)を、以下の実験群1及び2に無作為に割り付け、野性型の同腹仔を、第3群に割り当てた:
【0391】
【表15】
【0392】
第1群(ビヒクル、BK5.STAT3Cトランスジェニックマウス):
ビヒクル(0.9%NaCl)を、第0日〜第5日に腹腔内注射によって、1日1回(QD)与える。
【0393】
第2群(XG−104、BK5.STAT3Cトランスジェニックマウス):
配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)を、第0日〜第5日に腹腔内注射によって1日1回(QD)与える。
【0394】
第3群(ビヒクル、FVB野性型マウス)
ビヒクル(0.9%NaCl)を、第0日〜第5日に腹腔内注射によって1日1回(QD)与える。
【0395】
第0日には、乾癬は、脱毛後のマウスの背中をテープではがす(12〜18回)ことによって誘発する。この目的を達成するために、マウスを、腹腔内にケタミン/キシラジンカクテル(それぞれ、100mg/kg及び10mg/kg)を用いて麻酔し、剃毛し、脱毛し、皮膚の損傷を、15回の穏やかなストロークのテープ剥離によって適用した。マウスを第0日麻酔直前、及びその後5日間1日1回、ビヒクル(生理食塩水)又はXG−104のいずれかで処置した。マウスを実験の5日後に脱臼により屠殺し、病変を組織学的評価のために切り取った。2つの独立した実験を、1群あたり5匹のマウスで行った(ビヒクル重量;tgビヒクル;tg XG−104)。
動物を第0日に1回秤量する。全ての動物は、この研究を通じて、毎日、病気健康の徴候を観察する。第5日に研究が終わった後、約1cm
2の皮膚生検(病変)を、各々のマウスの背中に収集して、最適切断温度(OCT)含有モジュールで包埋し、ドライアイス上で凍結し、クリオトームを用いて6μmのスライスに切片にし、H&Eで染色する。表皮厚(表皮肥厚症)は、2つの独立した実験によって盲検で組織学的に測定する。1匹のマウスについて1つのスライド及び10の異なる領域の切片を測定する。
【0396】
野性型同腹仔と比較して、テープ剥離は、ビヒクルで処置した全てのK5.STAT3Cマウスで肥厚した表皮(表皮肥厚症)を誘発し、これは、不全角化の顕著な部位を有していた(
図43A)。XG−104による処置は、両方の実験で表皮肥厚症を有意に低下した(
図43A)。両方の実験の値をプールすること(
図43B)で、統計学的有意差(p<0.001)を増大することによって観察に更なる力が加わる。更に、我々は、ビヒクルで処置したマウスと比較して、XG−104処置マウスで皮膚生検の程度を超えてなんら不全角化(角膜層における核の保持)が存在しないことを観察した(
図44)。まとめると、これらのデータによって、XG−104は、K5.STAT3Cマウスにおける乾癬表現型の誘発を効果的に阻害することができることが示される。
【0397】
したがって、この結果は、XG−104処置が、乾癬についてK5.STAT3Cマウスにおける乾癬表現型の発症をブロックするために重要であることを確認する。
【実施例21】
【0398】
各々の用量レベルの第I相試験の無作為、二重盲検プラシーボ対照における健常な男性ボランティアに投与される、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の単回及び反復の局所投与の安全性、耐容性及び薬物動態
この研究の主な目的は、健常な男性ボランティアにおけるXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)の昇順の用量の単回及び反復の滴下の耐容性及び安全性の決定を評価することであった。この研究の二次的な目的は、健常な男性ボランティアにおけるXG−104の昇順の用量の単回及び反復の滴下の全身的な薬物動態を評価することであった。
【0399】
XG−104は、滴下のための溶液(0.9%NaCl中)として調製した。0.9%NaClをプラシーボとして使用した。全部で49名の対象がこの研究に含まれ、この検証の「単回投与部分」では28名、及びこの研究の「多数回投与部分」では21名であった。単回投与部分では、含まれる28名の対象を、5つの群のうち1つの間で無作為化した:4つのXG−104群(0.1mg、0.2mg、0.4mg、0.8mg)(それぞれ、0.2、0.4、0.8及び1.6%)の各々における5名の対象、及びプラシーボ群における8名の対象。多数回投与部分では、含まれる21名の対象を、4つの群のうちの1つの間で無作為化した:3つのXG−104群(0.1mg、0.2mg、0.4mg)の各々における5名の対象、プラシーボ群における6名の対象。全ての対象が研究を完了した。
【0400】
この研究の「単回投与部分」では、0.1、0.2、0.4及び0.8mg(それぞれ、0.2、0.4、0.8及び1.6%)のXG−104の単回局所用量を試験した。XG−104又はプラシーボの単回投与は、第1日(D1)に行った(右眼に1滴)。単回投与部分では、対象は、約36時間、すなわち、第−1日(D−1)夜からD2朝まで入院した。第3日に通院による訪問を行って、研究はD4の訪問で終わった。
【0401】
この研究の「多数回投与部分」では、3つの用量レベルを試験した。用量は、以下のように単回投与部分の結果に応じて選択した:第1群:0.1mg(0.2%)、第2群:0.2mg(0.4%)、及び第3群:0.4mg(0.8%)。XG−104又はプラシーボをtid(「ter in die」−毎日3回)で、D1〜D21まで各回右眼に1滴投与した。この投与は、ほぼ午前8時、午前12時、及び午後8時に行った。複数回投与部分では、対象は、D−1夜からD22朝まで入院し、ここではこの研究の終わりは、D36(±2)の訪問であった。更に柔軟にするために、対象は、通院で数回の訪問を行う可能性があった。その場合、訪問は、以下であった:約36時間、D−1夜からD2朝までの入院、D2〜D7の通院による訪問、約36時間、D7夜からD9朝までの入院、D9〜D14の通院による訪問、約36時間、D14夜からD16朝までの入院、D16〜D20の通院による訪問、及び約36時間、D20夜からD22朝までの入院。この研究の終わりは、したがって、D36(±2)の訪問であった。
【0402】
評価した安全性パラメータとしては以下が挙げられた:健康診断;バイタルサイン(BP、PR);12−リード ECG(心電図);眼底、眼内圧、細隙灯検査、最高矯正視力、赤み;シルマーの涙液試験、TBUT(涙膜崩壊時間);臨床検査(血液学、止血、臨床化学と尿検査);有害事象;及び耐性の評価。
【0403】
評価した薬物動態学的パラメータには以下の血漿パラメータが挙げられた:C
max、T
max、AUC
0−12、AUC
0−24、AUC
t、AUC
inf、Kel、t
1/2、%AUCextra、V
d/F、Cl/F。
【0404】
結果:
1.薬物動態学的結果:
この研究では、600個のヒト血漿試料を分析して、XG−104を定量した。全ての標準的な試料、QC試料及び検量線パラメータは、合格基準を満たした。しかし、標品試料中で測定した全ての濃度は、LLOQ(定量化の下限:<40ng/mL)未満であった。
【0405】
2.安全性の結果:
2.1 単一投与部分
全研究期間の間、28名の対象のうち15名が、34例の有害事象の出現を報告した。これらのうち32例は、処置時に発現した有害事象(TEAE)であり、2例が非突発的(血液クレアチニンホスホキナーゼ上昇及び首の疼痛)であった。TAEAのうちでも、21例は、XG−104投与後、11例は、プラシーボ投与後に経験された。全てが軽度の強度であった。最も報告されたTEAEは、眼の障害であった:17例が右眼(処置された)で報告され、13例が左眼(処置なし)で報告された。右眼で報告されたTEAEのうち、3例はおそらく治験薬物投与(結膜炎(2)及び結膜の充血(1))に関連しており(全て、XG−104 0.8mg(1.6%)群)、14例は無関係(点状角膜炎(12):5例がプラシーボ群、2例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、2例がXG−104 0.2mg(0.4%)群、2例が、XG−104 0.4mg(0.8%)群、1例がXG−104 0.8mg(1.6%)群;及び0.1mg(0.2%)で眼の掻痒(1)、及び0.2mg(0.4%)群で結膜の充血(1))であった。左眼で報告された全てのTEAEは、治験薬投与とは無関係であった(点状角膜炎(12)、結膜の充血(1))。この研究中に深刻な有害事象は報告されなかった。臨床的に関連する知見は、臨床検査、バイタルサイン又はECGパラメータでは観察されなかった。
【0406】
XG−104の0.1mg、0.2mg、0.4mgの単回用量は、十分耐容され、XG−104の0.8mg(1.6%)の単回用量は、むしろよく耐容された(結膜炎のエピソードが2例)。反復投与における3つの用量レベルについての選択は以下であった:0.1mg、0.2mg及び0.4mg(それぞれ、0.2、0.4及び0.8%)。
【0407】
2.2 複数回投与部分
全研究期間の間、21名の対象のうち17名が、66例の有害事象の出現を報告した。これらのうち65例は、処置時に発現した有害事象(TEAE)であり、1例は、非突発的(点状角膜炎)であった。TEAEのうちでも、61例は、XG−104投与後、4例は、プラシーボ投与後に経験された。全てが軽度から中度の強度であった。最も報告されたTEAEは、眼の障害であった:44例が、右眼(処置された)で報告され、18例が左眼(処置なし)で報告された。右眼で報告されたTEAEのうち、3例はおそらく治験薬物投与に関連しており(XG−104 0.1mg(0.2%)群で結膜炎(2)、及びXG−104 0.2mg(0.4%)群で眼瞼の刺激(1))、39例は関係しないようであり(結膜の充血(21):6例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、5例がXG−104 0.2mg(0.4%)群、及び10例がXG−104 0.4mg(0.8%)群;点状角膜炎(17):6例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、6例がXG−104 0.2mg(0.4%)群、及び5例がXG−104 0.4mg(0.8%)群;XG−104 0.4mg(0.8%)群で結膜炎(1));2例は、無関係(点状角膜炎(2):1例がプラシーボ群、及び1例がXG−104 0.2mg(0.4%)群)であった。左眼で報告されたTEAEのうち、12例は、治験薬投与とは関係しないようであり(結膜充血(7):2例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、3例がXG−104 0.2mg(0.4%)群、及び2例がXG−104 0.4mg(0.8%)群;点状角膜炎(5):2例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、1例がXG−104 0.2mg(0.4%)群、及び2例がXG−104 0.4mg(0.8%)群);6例は、治験投与とは無関係であった(点状角膜炎(6):1例がプラシーボ群、1例がXG−104 0.1mg(0.2%)群、及び4例がXG−104 0.2mg(0.4%)群)。眼科的検査によって、全体的な投与効果が確認され(プラシーボ群では、異常な検査はより低い)、第3日〜第20日の間で増大していた。
【0408】
深刻な有害事象は、この研究の間には報告されなかった。臨床的に関連する知見は、臨床検査、生物学的パラメータ、バイタルサイン又はECGパラメータで観察されなかった。21名の健常な男性対象において、XG−104の反復用量のt.i.d.(0.1mg、0.2mg、0.4mg)はよく耐容された。
【実施例22】
【0409】
ドライアイの治療のためのJNK阻害剤の有効性及び安全性(臨床第II相)
多施設、無作為化、二重盲検、プラシーボ対照の、臨床第II相試験を行って、ドライアイの治療のための制御有害環境(CAESM)モデルにおいて、環境中で、及びャレンジの間、配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)の点眼液の有効性及び安全性を評価した。この研究の目的は、4週のTID処置期間の後、ドライアイの徴候及び症状の治療についてプラシーボと比較して、配列番号172によるJNK阻害剤の点眼液の有効性及び安全性を評価することである。
【0410】
「制御有害環境」モデルは、研究下で臨床条件を悪化させる環境チャレンジを提供するように設計し構築された環境である。一般には、制御有害環境(CAE)設計を用いて、臨床治験の間、環境、対象の活動、又は両方の組合せを制御し、それによって、ストレスのある環境を提供して、ドライアイの臨床症状及び徴候を悪化させることができる。このようなストレス試験は、短期間に薬理学的効果を達成するのに特に有益である。湿度、温度及び気流は、モニター及び操作できる環境的変数である。活動は、視覚的タスクを含んでもよく、まばたき頻度及び涙液層安定性がモニター可能である。したがって、制御有害事象(CAESM)モデルは、ドライアイの治療の検討のための、標準的な眼のチャレンジを(湿度、温度、気流、照明条件及び視覚タスクの調節によって)再現する臨床モデルである。CAEの重要な側面は、ドライアイ患者の小集団を識別するのにおけるその有用性である。環境的変化によってチャレンジした対象(例えば、CAEによって示されるもの)は、正常には、ある程度の生理学的補償を伴って反応し、以前の研究によって、これらの機構が環境的チャレンジについて適切に補償する能力は、ドライアイを伴うものにおいて低下されることが示された。
【0411】
この研究では、対象は、ドライアイと診断された対象(訪問1の前に少なくとも6カ月間ドライアイについて報告された病歴があり、訪問1の6カ月以内にドライアイ症状について点眼の使用の病歴又は使用の要望を有し、訪問1及び2で、CAESM前に評価されたOra Calibra(商標)Ocular Discomfort & 4−Symptom Questionnaireに対して、少なくとも1つの症状において2以上のスコアを報告し、訪問1及び2で、Ora Calibra(商標)スケールに対して結膜の赤みスコア=1を有し、訪問1及び2、CAESM前でOra Calibra(商標)Scaleによる少なくとも1つの領域で総角膜フルオレセイン染色スコア=2を有するなど)である。
【0412】
配列番号172によるJNK阻害剤(「XG−104」)、すなわち、XG−104 0.2%、XG−104 0.4%、及びXG−104 0.8%の点眼液の3つの異なる濃度を、プラシーボ(ビヒクル:0.9%NaCl)点眼有効性に対して比較する。訪問番号1、2、3及び4は、それぞれ第−7、1、15、及び29日に計画する。
【0413】
特に、Ora Calibra(商標)Scaleで測定した、ベースライン、好ましくは第29日の訪問4での最も悪い眼の、CAESM前からCAESM後へ下位領域への変化における角膜フルオレセイン染色、及び訪問1と訪問2との間の1週間の試行期間の間に好ましくは記録された対象の日記データから決定され、治療期間の間の訪問4(訪問の日を含まない)に先行する7日間にわたって評価された、最悪のドライアイ症状が、主な転帰の指標として役立つ。
【0414】
二次的な転帰の指標は、特に(i)フルオレセイン染色(Ora Calibra(商標)Scale及びNEI Scaleを用いる)において、好ましくは訪問3及び4で(CAESM前及びCAESM後;領域:中央、上位、下位(訪問3好ましくは訪問4のみは、一次終末点である)、一時的、鼻、角膜全体、結膜全体及び全体)、(ii)リサミングリーン染色(Ora Calibra(商標)Scale及びNEI Scaleを使用)、好ましくは訪問3及び4で(CAESM前及びCAESM後並びにCAESM前からCAESM後への変化;領域:中央、上位、下位、一時的、鼻、角膜全体、結膜全体及び全体)、(iii)涙液層破壊時間、好ましくは、訪問3及び4(CAESM前及びCAESM後)で、(iv)結膜の赤み、Ora Calibra(商標)Scaleを用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM前及びCAESM後)で、(v)眼瞼縁の赤み、Ora Calibra(商標)Scaleを用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM前及びCAESM後)で、(vi)涙液浸透圧、好ましくは訪問2及び4(CAESM後)で、(vii)まばたき頻度、Ora Calibra(商標)方法論を用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM前)で、(viii)眼球保護指数(OPI 2.0)、好ましくは訪問3及び4(CAESM前)で、Ora Calibra(商標)方法論を用いて、(ix)無麻酔シルマー試験、好ましくは訪問3及び4(CAESM前)で、滴下の快適性及び症状評価、Ora Calibra(商標)Scaleを無作為化に用いて、好ましくは訪問2及び3で、(x)眼表面疾患指数(OSDI)、好ましくは訪問3及び4(CAESM前)で、(xi)眼の不快性、Ora Calibra(商標)Scaleを用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM前及びCAESM後)で、(xii)眼の不快性、Ora Calibra(商標)Discomfort及び4−Symptom Questionnaireを用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM前及びCAESM後)で、(xiii)眼の不快性、Ora Calibra(商標)Scaleを用い、好ましくは訪問3及び4(CAESM曝露の間)に、並びに(xiv)毎日の日記、である。
【0415】
他の事前に特定された転帰の指標としては、特に、視力(ETDRS)を、好ましくは訪問1、2、3及び4(第−7、1、15、及び29日)(CAESM前)に、細隙灯生体顕微鏡を、好ましくは訪問1、2、3及び4(第−7、1、15、及び29)(CAESM前及びCAESM後)に、有害事象アンケート、拡張眼底検査生体顕微鏡を、好ましくは、訪問1及び4(第−7及び29日)、並びに眼内圧を、好ましくは訪問1及び4(第−7及び29日)に含む。
【実施例23】
【0416】
腎臓の両側虚血再かん流のラットモデルにおけるXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)の効果
この研究は、腎虚血/再かん流におけるXG−104の先行研究(実施例15)に基づく。この研究の目的は、腎臓の両側虚血再かん流のラットモデルにおける組織学的損傷に対するXG−104の効果を評価することであった。
【0417】
虚血再かん流(IR)障害は、複雑な現象であり、ヒトでの血管手術、臓器調達及び移植で遭遇する場合が多い。げっ歯類における腎臓の両側虚血再かん流(IR)の実験モデルは、腎機能障害及び尿細管変性によって特徴付けられる急性尿細管損傷につながる。本発明のモデルは、腎IR障害を防ぐ薬物候補の使用のための概念を迅速に証明するために頻用される。
【0418】
引き渡し時点で200〜250gと秤量した雄性Sprague−Dawleyラットを用いた(Charles River Laboratories、L’Arbresle、France)。動物は、実験の少なくとも5日前に実験室に運び、その間、実験条件に慣れさせた。この研究には、以下のように各々11〜12匹のラットの3つの群を含んだ。
【0419】
【表16】
【0420】
この試験設計は
図46に示す。
【0421】
腎臓の温虚血のプロトコールは、前に記載したものと同様であった(Pechman KRら、2009)。要するに、全身麻酔(ペントバルビタール;60mg/kg、i.p.及びアトロピン;1mg/kg、i.p.)のもとで、両方の腎茎を孤立させて、傷をつけないクランプを用いて40分間クランプした。この時間の後、クランプを解放して、再かん流を開始した。動物を、手術の間、温度調節システム(TCAT−2LV Controller、Physitemp Instruments、Clifton、NJ、USA)を用いて37℃で維持した。全ての動物を、両方の血管クランプの解放(再かん流)後、24時間で屠殺した。ニセの操作の動物は、腎臓血管のクランプなしで同じ外科手順を受けた。
【0422】
XG−104又はビヒクル(0.9%NaCl)を、尾静脈に(i.v.)2mg/kgの用量で、第2の血管クランプの解放の20分後に投与した。尾静脈への静脈内投与は、1mL/kgの容積を用いて行った。
【0423】
屠殺後、腎臓を取り出し、全ての結合組織及び嚢を浄化して、電子てんびん(VWR、France)で秤量した。1つの腎臓を、10%ホルマリン溶液(Sigma Aldrich、France)に少なくとも24時間移し、次いで、Histalim(Montpellier、France)で行う更なる組織学的分析のために70%エタノール中に移した。左右の腎臓は無作為に選択した。腎臓試料を、72時間の間、10%ホルマリン中で固定し、70%エタノールに移し、次いでHistalim(Montpellier、France)でパラフィンブロック中に包埋した。1ブロックあたり1つの長軸切片(3〜5μm)を作成した。パラフィン包埋した組織の腎臓切片は、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)によって染色した。全てのスライドを、×20の倍率で、浜松ホトニクス株式会社(日本、浜松)のNanozoomer 2.0 HTを用いてデジタル化した。各々の組織切片を、盲検方式で組織学的に検査して、尿細管の変化が存在するか否かを確認した。次いで、各々の知見の重症度を以下のとおり等級付けした:
尿細管の損傷スコアは、変性/壊死、尿細管上皮空胞形成、再生(塩基性尿細管)、及び尿細管円柱のいずれかから構成された:
0:尿細管の罹患が5%未満(バックグラウンド)
1:罹患した尿細管が5〜20%
2:罹患した尿細管が21〜40%
3:罹患した尿細管が41〜75%
4:罹患した尿細管が75%超
【0424】
図47に示すとおり、第2群(IR/ビヒクル)の動物は、ニセ/ビヒクル動物と比較して、尿細管の変性及び壊死、尿細管円柱形成、並びに塩基性尿細管を含む尿細管損傷の有意な増大を示した。XG−104は、尿細管損傷に対する、特に尿細管変性、壊死及び尿細管円柱形成に対する(
図47)、並びに総尿細管スコアに対する(
図48)有意な有益効果を示した。XG−104処置ラット(第3群)とビヒクル(第2群)動物との間の尿細管変性及び壊死に関する主な相違は、罹患した尿細管の数がより少なく、病変がほとんど皮髄境界部に限られており、表在皮質には拡大されないということである。第3群(IR/XG−104)の腎臓はまた、第2群(IR/ビヒクル)と比較した場合、尿細管円柱の重症度のスコアが低い。これらの組織学的変化の代表的な画像は、
図49に含まれる。
【0425】
特に、第1群(ニセ/ビヒクル)における尿細管変化は、3/12の動物における単一から少数の塩基性尿細管(スコア1)の存在に限られた(
図47)。この発生率は、ナイーブな若い成体の対照のラットでの予想される正常な限界内であり、元来は偶発的とみなされた。比較して、第2群(IR/ビヒクル)における全ての動物は、中度から顕著な(スコア3及び4)尿細管上皮の変性及び壊死(3.45±0.52)を示した。最も罹患した尿細管は皮髄境界部に集中しており、脱落した及び壊死性の上皮細胞の大きい塊を含有する尿細管によって組織学的に特徴付けられた。尿細管変性の病変はまた、最も重度の病変(スコア4)を有する動物のほとんどの皮質に存在した。尿細管変性に加えて、全ての動物は、管腔に多数の尿細管円柱を示した(スコア3)。少数から中程度の数の塩基性尿細管の存在(スコア1及び2、平均=1.36±0.67)も、第2群(IR/ビヒクル)の10/11の動物の皮質全体にわたって観察された。塩基性尿細管は、尿細管における早期の上皮再生の指標であった。第3群(IR/XG−104)に関して、尿細管病変は本質的に、第2群(IR/ビヒクル)で観察される病変と同じ性質及び外観であったが、一般には分布の重度は低かった。
【0426】
より具体的には、平均の尿細管上皮の変性/壊死スコアは、それぞれ、第3群(IR/XG−104)では2.67±0.65及び2.18±0.75であった。第2群(IR/ビヒクル)と第3群(IR/XG−104)との間の主な相違は、第3群ではいく匹かの動物が2というスコアを示したことであった(第3群では5/12及び第2群では0/11)。結局、第3群では、第2群の5/11と比較して、1/12の動物のみが、スコア4であった。組織学的に、第2群(IR/ビヒクル)と比較した第3群(IR/XG−104)の動物との間の尿細管変性及び壊死に関する主な相違は、罹患した尿細管の数がより少なく、病変がほとんど皮髄境界部に限られており、表在皮質には拡大されなかったということであった。第3群(IR/XG−104)の腎臓はまた、第2群(IR/ビヒクル)に比較した場合、尿細管円柱に関して示す重度スコアが低かった。実際は、尿細管円柱スコアは、第3群(IR/XG−104)では、2.50±0.52であった。対照的に、第2群(IR/ビヒクル)の尿細管円柱スコアは、3.00±0.00であった。第3群(IR/XG−104)における塩基性尿細管は、第2群で観察されたものと極めて類似していた。第3群(IR/XG−104)の平均塩基性尿細管スコアは、それぞれ、1.33±0.65及び1.73±0.47であり;第2群についてのスコアは、1.36±0.67であった(
図97)。
【0427】
より具体的には、平均の尿細管上皮の変性/壊死スコアは、それぞれ、第3群(IR/XG−104)で2.18±0.75であった。第2群(IR/ビヒクル)と第3群(IR/XG−104)との間の主な相違は、第3群ではいく匹かの動物が2というスコアを示したことであった(第3群では8/11及び第2群では0/11)。更に、第3群では、1/11がスコア1であった。結局、第3群では、第2群の5/11と比較して、1/11の動物のみが、スコア4であった。組織学的に、第2群(IR/ビヒクル)と比較した第3群(IR/XG−104)の動物との間の尿細管変性及び壊死に関する主な相違は、罹患した尿細管の数がより少なく、病変がほとんど皮髄境界部に限られており、表在皮質には拡大されなかったということであった。第3群(IR/XG−104)の腎臓はまた、第2群(IR/ビヒクル)に比較した場合、尿細管円柱に関して示す重度スコアが低かった。実際は、尿細管円柱スコアは、それぞれ、第3群(IR/XG−104)では、2.09±0.54であった。対照的に、第2群(IR/ビヒクル)の尿細管円柱スコアは、3.00±0.00であった。第3群(IR/XG−104)における塩基性尿細管の数は、第2群で観察されたものと極めて類似していた。第3群(IR/XG−104)の平均塩基性尿細管スコアは、1.73±0.47であり;第2群についてのスコアは、1.36±0.67(
図97)であった。
【0428】
4つの実験群のいずれでも、尿細管空胞形成は観察されなかった。したがって、第1群(ニセ/ビヒクル)の総尿細管スコアは、少数の動物だけが、なんら他の尿細管の変化なしで塩基性尿細管を示したので、予想より極めて低かった(0.25±0.45)。第2群では、総尿細管スコアは、4つの実験群のなかで最高であり、6〜9(7.82±0.98)に及んだ。第3群の総尿細管スコアは、第2群(IR/ビヒクル)で観察されたスコアより比較的低く、スコアは、4〜8(6.00±1.26)に及んだ。第2群(IR/ビヒクル)と第3群(IR/XG−104)との間で観察される相違は、生物学的に有意とみなした。
【0429】
まとめると、XG−104は、尿細管損傷に対して、並びに特に尿細管変性、壊死及び尿細管円柱形成に対して有意な有益な効果を示した。XG−104処置ラット(第3群)とビヒクル(第2群)IR動物との間の尿細管変性及び壊死に関する主な相違は、罹患した尿細管の数がより少なく、病変がほとんど皮髄境界部に限られており、表在皮質には拡大されなかったということであった。第3群(IR/XG−104)由来の腎臓はまた、第2群(IR/ビヒクル)に比較した場合、尿細管円柱に関して示す重度スコアが低かった。
【実施例24】
【0430】
意識下のラットで、シクロホスファミドによって誘発した急性膀胱炎モデルに対して膀胱内に投与したXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)の効果:内臓痛及び膀胱炎症の評価
本研究の目的は、雌性Sprague−Dawleyラットにおいて、急性のCYP誘発性膀胱炎における膀胱の疼痛及び炎症に対するXG−104(50mg/mL)での膀胱内処置の効果を評価することであった。この前臨床モデルは、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/PBS)の治療のための治療アプローチを試験するためによく用いられる。
【0431】
実験開始時に215±20gと秤量した、成体の雌性Sprague−Dawleyラット(Janvier Labs、Le Genest Saint Isle、France)を用いた。動物は、どの実験の開始の前にも少なくとも3日間実験条件に慣れさせた。動物を以下の4つの実験群に割り当てた(1群あたりn=10の動物):
【0432】
【表17】
【0433】
急性膀胱炎を誘発するために、5mL/kgの最終容積で150mg/kgの用量でCYPの単回i.p.注射を行った。対照のラットには、CYPと同じ実験条件下で生理食塩水を投与した(5mL/kgの最終容積、i.p.)。
【0434】
各々の実験の日に、ラットの体重を記録した。次いで、無作為の方式で、500μLのXG−104(50mg/mL)、イブプロフェン(50mg/mL)又はビヒクルを、イソフルラン麻酔(2%〜3%)のもとで30分間膀胱内に注入した。
【0435】
フォン・フレイフィラメント(von Frey filament)を用いる、関連の内臓痛のアセスメント:
固定した時刻(行動の応答における潜在的な概日変動を最小限にするために午前)、及び全動物の単一実験者試験を含む標準化された条件を適用して、行動に基づく疼痛の試験の変動性を最小限にした。異痛症及び痛覚過敏症を含む内臓痛を、膀胱付近の下腹部に、5秒の刺激間隔で漸増する力(1、2、4、6、8、10、26及び60g)の1セットの8つの較正したフォン・フレイフィラメントを適用することによって評価した。試験前に、各々の動物の機械的刺激のために設計した腹部領域を剃毛した。次いで、動物を、個々の透明なPlexiglasボックスの下の高くなったワイヤメッシュの床に置いて、フォン・フレイ試験を開始する前に少なくとも30分間慣れさせた。次いでフィラメントを、フィラメントがわずかに屈曲するのに十分な力でメッシュの床を通じて1〜2秒適用した。各々のフィラメントを3回試験した。注意を払って、膀胱の近辺で下腹部領域内の異なる領域を刺激して、脱感作を回避した。
【0436】
非侵襲性挙動を、以下のとおり各々の動物及び各々のフィラメントに関してスコア付けした。
【0437】
【表18】
【0438】
試験設計は、
図50Aに図解で示す。要するに、急性膀胱炎を、CYP注射(i.p.)で、D0で誘発した(上記のとおり)。XG−104、イブプロフェン又はビヒクルを、膀胱内に、CYP注射の直後に1回投与した(上記のとおり)。フォン・フレイ試験は、以下のとおり非盲検方式で行った:
・ D−1に、ラットを個々のPlexiglasボックスに最短30分間、及びフォン・フレイフィラメント適用に慣れさせて、新しい環境によるストレスのレベルを低下させた。
・ D0に、フォン・フレイ試験をCYP又は生理食塩水注射の15分前に行って、基礎の値(D0、T=−15分)を得た。
・ D1に、フォン・フレイ試験をCYP又は生理食塩水注射の24時間後に行って、CYP誘発性の内臓痛に対する試験化合物の効果を分析した(D1、T=+24h)。
・ フォン・フレイ試験(+24h)の直後に、ラットを血液試料収集のために麻酔し、次いで以下に記載のとおり屠殺して、膀胱を収集した。
【0439】
実験の終わりに、ラットを、ペントバルビタールの注射(54.7mg/mL、0.5mL/ラット、i.p.)、続いて頸椎脱臼によって屠殺した。膀胱を迅速に収集し、リポイド組織から浄化した。膀胱を秤量し、嚢の首で切断し、浮腫及び出血のスコア付けを行った(下の表を参照のこと)。最後に、壁の厚さを、嚢の壁を2つの外側のアゴの間において、デジタルノギスを用いて測定した。膀胱浮腫及び出血のスコアは、以下のとおりグレイの基準(Grayら、1986)から適応させた:
【0440】
【表19】
【0441】
侵害受容パラメータは以下のように表される:
【0442】
【表20】
【0443】
AUCは、GraphPad Prism(登録商標)(GraphPad Software Inc.、La Jolla、CA、USA)を用いて算出した。異痛症及び痛覚過敏を評価するためのAUC法は、
図50Bに図式的に示される。
【0444】
巨視的パラメータは、以下のとおり表される:
【0445】
【表21】
【0446】
結果:
CYP注射の前に、侵害受容パラメータにおいて、3つの異なるCYP注射の群の間で観察された有意な相違はなかった。CYP誘発性内臓痛に対するXG−104の効果を分析するために、侵害受容パラメータを、ビヒクル処置群とXG−104処置群との間で比較した。CYP注射の24時間後、侵害受容の閾値は、ビヒクルと比較してXG−104処置では有意に増大した(p<0.01、
図51A)。XG−104処置はまた、ビヒクルと比較してCYP注射ラットで侵害受容スコアを有意に低下した(p<0.001、
図51B)。更に、AUC1−8gは、ビヒクルと比較してXG−104処置によって有意に低下された(p<0.001、
図51C)。同様に、AUC8−60gは、ビヒクルと比較してXG−104処置によって低下された(p<0.01、
図51D)。CYP誘発性内臓痛に対するイププロフェンの効果を分析するために、侵害受容パラメータをビヒクル処置群とイブプロフェン処置群との間で比較した。侵害受容の閾値は、CYP注射ラットにおいてビヒクルと比較した場合、イブプロフェン処置によって有意に増大した(p<0.01、
図51A)。同様に、イブプロフェン群では、侵害受容スコアの有意な低下が、ビヒクルと比較した場合観察された(p<0.01、
図51B)。更に、AUC1−8g及びAUC8−60gは、ビヒクルと比較した場合、イブプロフェン処置によって有意に低下した(それぞれ、p<0.001及びp<0.05、
図51C及び
図51D)。
【0447】
更に、泌尿器の壁の厚さは、XG−104処置ラットでは有意に低下された(p<0.01、
図52A)。XG−104処置が誘発した泌尿器の壁の厚さ低下は、浮腫スコアの有意な低下を伴っていたが、ビヒクルと比較した場合、出血スコアの有意な変化は観察されなかった(浮腫及び出血スコアについて、それぞれ、p<0.05及びp>0.05、
図52B及び
図52C)。イブプロフェンに関しては、また有意な低下も、膀胱壁の厚さで、及び浮腫のスコアで観察された(p<0.001及びp<0.05、
図52A、B)。しかし、イブプロフェン処置群では、出血スコアに関して有意な変化は観察されなかった(p>0.05、
図52C)。赤みを帯びた尿がイブプロフェン処置群のいく匹かの動物で気付かれたことが注目される。
【0448】
まとめると、XG−104(50mg/mL)の膀胱内処置は、その注射の24時間後に、CYPによって誘発される内臓痛を有意に逆転した。XG−104は、異痛症及び痛覚過敏の両方を効率的に阻害した。分析した炎症パラメータでは、XG−104は、膀胱炎症(壁の厚さ)及び浮腫スコアを低下した。結論として、膀胱内に投与されたXG−104は、強力な抗侵害受容効果及び有意な抗炎症特性をIC/PBSの実験モデルで示した。
【実施例25】
【0449】
意識下のラットで、シクロホスファミドによって誘発した急性膀胱炎モデルに対して膀胱内に投与したXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)の効果:内臓痛の評価
本研究の目的は、雌性Sprague−Dawleyラットにおいて、急性のCYP誘発性膀胱炎における膀胱疼痛に対するXG−104(2mg/kg)での静脈内処置の効果を評価することであった。この前臨床モデルは、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/PBS)の治療のための治療アプローチを試験するためによく用いられる。
【0450】
実験開始時に215±20gと秤量した、成体の雌性Sprague−Dawleyラット(Janvier Labs、Le Genest Saint Isle、France)を用いた。動物は、どの実験の開始の前にも少なくとも3日間実験条件に慣れさせた。動物を以下の4つの実験群に割り当てた(1群あたりn=10の動物):
【0451】
【表22】
【0452】
急性膀胱炎を誘発するために、5mL/kgの最終容積中で150mg/kgの用量でCYPの単回のi.p.注射を行った。対照のラットには、CYPと同じ実験条件下で生理食塩水を投与した(5mL/kgの最終容積、i.p.)。
【0453】
各々の実験の日に、ラットの体重を記録した。次いで、無作為の方式で、XG−104(2mg/kg)、イブプロフェン(10mg/kg)又はビヒクルを、静脈内に、1mL/kgの容積で投与した。
【0454】
フォン・フレイフィラメントを用いる、関連の内臓痛のアセスメント:
固定した時刻(行動の応答における潜在的な概日変動を最小限にするために午前)、及び全動物の単一実験者試験を含む標準化された条件を適用して、行動に基づく疼痛の試験の変動性を最小限にした。異痛症及び痛覚過敏症を含む内臓痛を、膀胱付近の下腹部に、5秒の刺激感覚で漸増する力(1、2、4、6、8、10、26及び60g)の1セットの8つの較正したフォン・フレイフィラメントを適用することによって評価した。試験前に、各々の動物の機械的刺激のために設計した腹部領域を剃毛した。次いで、動物を、個々の透明なPlexiglasボックスの下の高くなったワイヤメッシュの床に置いて、フォン・フレイ試験を開始する前に少なくとも30分間慣れさせた。次いでフィラメントを、フィラメントがわずかに屈曲するのに十分な力でメッシュの床を通じて1〜2秒適用した。各々のフィラメントを3回試験した。注意を払って、膀胱の近辺で下腹部領域内の異なる領域を刺激して、脱感作を回避した。
【0455】
非侵襲性挙動を、以下のとおり各々の動物及び各々のフィラメントに関してスコア付けした。
【0456】
【表23】
【0457】
この試験設計は、上で特定したように、投与経路(膀胱内ではなく静脈内)及び用量においてのみ、実施例24のものとは異なる(
図50Aを参照のこと)。要するに、急性膀胱炎を、CYP注射(i.p.)で、D0に誘発した(上記のとおり)。XG−104、イブプロフェン又はビヒクルを、静脈内に、CYP注射の直後に1回投与した(上記のとおり)。フォン・フレイ試験は、以下のとおり非盲検方式で行った:
・ D−1に、ラットを個々のPlexiglasボックスに最短30分間、及びフォン・フレイフィラメント適用に慣れさせて、新しい環境によるストレスのレベルを低下させた。
・ D0に、フォン・フレイ試験をCYP又は生理食塩水注射の15分前に行って、基礎の値(D0、T=−15分)を得た。
・ D1に、フォン・フレイ試験をCYP又は生理食塩水注射の24時間後に行って、CYP誘発性の内臓痛に対する試験化合物の効果を分析した(D1、T=+24h)。
・ フォン・フレイ試験(+24h)の直後に、ラットを血液試料収集のために麻酔し、次いで下に記載のとおり屠殺して、膀胱を収集した。
【0458】
侵害受容パラメータは以下のように表わされる:
【0459】
【表24】
【0460】
AUCは、GraphPad Prism(登録商標)(GraphPad Software Inc.、La Jolla、CA、USA)を用いて算出した。異痛症及び痛覚過敏を評価するためのAUC法は、
図50Bに図式的に示される。
【0461】
結果:
CYP注射の前に、侵害受容パラメータにおいて、3つの異なるCYP注射の群の間で観察された有意な相違はなかった(p>0.05)。CYP誘発性内臓痛に対するXG−104の効果を分析するために、侵害受容パラメータを、独立して、ビヒクル処置群とXG−104処置群との間で比較した。CYP注射の24時間後、侵害受容の閾値は、ビヒクルと比較してXG−104処置では有意に増大した(p<0.01、
図53A)。XG−104処置は、ビヒクルと比較してCYP注射ラットで侵害受容スコアを有意に低下した(p<0.001、
図53B)。更に、AUC1−8gは、ビヒクルと比較してXG−104処置によって有意に低下された(p<0.001、
図53C)。同様に、AUC8−60gは、ビヒクルと比較してXG−104処置によって有意に低下された(p<0.01、
図53D)。
【0462】
まとめると、XG−104(2mg/mL)の静脈内処置は、その注射の24時間後に、CYPによって誘発される内臓痛をこのように有意に逆転した。XG−104は、異痛症及び痛覚過敏の両方を効率的に阻害した。イブプロフェン(10mg/kg)の静脈内投与では同様の効果が観察された。結論として、実験的な膀胱炎の前臨床モデルでは、XG−104は、有意な抗侵害受容性特性を示した。
【実施例26】
【0463】
βアミロイド誘発性ニューロンアポトーシス(アルツハイマー病モデル)に対するXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)の効果
この研究では、JNK活性化に対する、及びAβ
42細胞ストレス後のニューロンアポトーシスに対するJNK阻害剤XG−104の効果を決定した。
【0464】
この目的を達するために、初代マウス皮質ニューロン培養を、2μM又は25μMのいずれかのβアミロイド1−42(Aβ
42)に5時間曝露して、Aβ
42細胞ストレスを誘発した。ニューロンを、10μMのJNKの特異的な阻害剤、XG−104(配列番号172)の有無で前処理した。リン酸化JNK(pJNK)、総JNK(JNK)、切断PARP及びチューブリン(対照)のレベルを決定した。pJNK/JNKの比は、JNK活性の指標として役立った。アポトーシスの間増大することが公知である、切断されたタンパク質PARPのレベルは、ニューロンアポトーシスの指標として役立った。
【0465】
10μMのXG−104の有無によって前処理され、5時間の間2μM又は25μMのβアミロイド1−42(Aβ
42)のいずれかに曝露した、初代マウス皮質ニューロン培養のイムノブロット分析の結果を、
図54(A)に示す。
図54(B及びC)では、対応するヒストグラムが示され、これは、異なる実験群の総JNK(pJNK/JNK)に対するリン酸化JNKの比(B)、及び切断されたタンパク質PARPのレベル(C)を示している。興味深いことに、2μMのAβ
42の条件では、JNK活性の改変は観察されなかった。5μM及び10μMのXG−104による前処理は、JNK活性を、それぞれ29.2%及び60%低下した(
図54B)。ニューロンの25μMのAβ
42処理は、JNK活性を14%増大した(
図54B)。したがって、5μM及び10μMのXG−104での前処理は、JNK活性を、それぞれ、17.5%及び59.6%低下した。両方のAβ
42細胞ストレス条件では、10μMのXG−104濃度は、JNK活性を低下するのにより有効であった(
図54B)。
【0466】
ニューロンのアポトーシスは、アポトーシスの間増大する、切断されたタンパク質PARPのレベルによって測定した(
図54C)。5μM及び10μMのXG−104による前処理は、それぞれPARP切断を46.8%及び80.2%低下し、2μMのAβ
42及び、25μMのAβ
42ではそれぞれ、69%及び80.6%低下した。
【0467】
まとめると、このようにXG−104は、Aβ
42によって誘発されるニューロンアポトーシスを低下した。10μM濃度のXG−104は、アポトーシスを低下するために5μM濃度のXG−104よりも1.7倍有効であった。
【実施例27】
【0468】
βアミロイド誘発性のニューロンアポトーシス(アルツハイマー病モデル)に対するXG−104(配列番号172によるJNK阻害剤)を単独、又はPKR下方制御と組み合わせた効果
初代皮質ニューロン培養を得るために、E15.5マウス胚をPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)6%グルコース中で、氷上で解剖した。胚の皮質を小片に刻んで、PBSグルコーストリプシン(Sigma Aldrich、Saint−Louis、USA)を用いて20分間37℃で処理した。解離した皮質細胞を、B27、Glutamax及びペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco)を補充したNeurobasal培地中で培養した。ニューロンを37℃、5%CO
2で、ポリ−L−リシン(Sigma Aldrich)でプレコーティングしたペトリ皿上で、培養した。ニューロンを培養して、使用前に(7日)成熟させた。
【0469】
Aβ
42ストレスを誘発するために、2μMのAβ1−42(Thermo Fisher Scientific、MA、USA)を、皮質ニューロンに対して5時間の間用いた。Aβ42−1インバースペプチド(Thermo Fisher Scientific)を陰性の対照として用いた。Aβ1−42及びAβ42−1を、純水中に溶解して、使用前に37℃で48時間インキュベートした。
【0470】
JNKを阻害するために、皮質ニューロンを、10μMのXG−104とともに細胞ストレス処理の1時間前に前処理した。
【0471】
イムノブロット分析のために、細胞を、10nMのNaPi pH7.8、59nMのNaCl、1%Triton、0.5%DOC、0.1%SDS、10%グリセロール、0,1μMのカリクリンA、1mMのNa3VO4及び1×のプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma Aldrich)を含有する溶解バッファー中で、氷上で溶解した。溶解液を超音波処理して、15000g、4℃で10分間遠心分離した。上清のタンパク質濃度を、Micro BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)で決定した。30マイクログラムのタンパク質を、SDS−PAGEで分離して、ニトロセルロース膜に転写した。TBS 5%スキムミルクでブロックした後、膜を、JNKフル、c−Jun、PKR、eIF2α(Santa Cruz、Danvers、USA)、pJNK(Millipore、Billerica、USA)、phosphor eIF2α(Thermo Fisher Scientific)、PARP及びチューブリン(Cell Signaling、Danvers、USA)に対する一次抗体でプローブした。IR Dyes 800及び700(Rockland Immunochemical Inc、Gilbertsville、USA)抗体を、二次抗体として用いた。ブロットはOdyssey imagingシステム(LI−COR Biosciences、Lincoln、USA)で明らかにした。
【0472】
カスパーゼ3活性分析のために、変性性及び死滅したニューロン並びに細胞培地を含む培養細胞上清を、接着性のニューロン溶解物と並行して収集した。培養細胞上清を、15000g、4℃で10分間遠心分離した。次いで、ペレットを溶解バッファー中で再懸濁し、カスパーゼ3活性を、カスパーゼ3アッセイキット試薬及びプロトコール(Abcam、Cambridge、UK)を用いることによって測定した。
【0473】
結果:
Aβ
42ストレスのWT及びPKR
−/−ニューロンにおけるXG−104でのJNK及びc−JNK活性の低下
Aβ
42ペプチドによってストレスを受けたニューロン培養物中で、XG−104の有効性を検討した。XG−104を、10μMで用い、Aβ
42ストレスの誘発の1時間前に細胞培地に添加した。WTニューロンでは、JNK活性化は、Aβ
42ストレスの培養物中で、XG−104への曝露後に低下する(−60%、
図55A)。XG−104は、ペプチドなしでのストレスのWTニューロンと比較して、c−Junリン酸化を低下するために−29%の有効性(
図55C)、及びc−Jun発現を低下するために−62%の有効性(
図55D)を示した。PKR
−/−ニューロンでは、JNK活性化は、Aβ
42ストレスの培養物中で、XG−104によって低下される(−60%、
図55A)。PKR
−/−培養物中では、XG−104の使用は、c−Jun活性化を改変しないが(
図55C)、XG−104の使用は、Aβ
42ストレスの誘発後のc−Junタンパク質発現の62%の低下を示した(
図55D)。
【0474】
Aβ
42ストレスのWTニューロンにおけるJNK阻害後のニューロンのアポトーシスの低下
Aβ
42ペプチドで処理したWTニューロンニューロンの培養物中では、XG−104の使用は、アポトーシスを低下した。XG−104を用いて、Aβ
42処理のWTニューロンと比較して、切断されたカスパーゼ3発現レベルの61%低下(
図55E)、カスパーゼ3活性の78%低下(
図55F)、及び切断されたPARP発現レベルの77%低下(
図55G)が注目された。
【0475】
Aβ
42に起因するニューロンの死滅は、ニューロンにおけるPKR及びJNKの二重阻害の後に劇的に低下した
Aβ
42及びXG−104によって処理されたPKR
−/−ニューロンでは、PKR及びJNKの二重阻害の有効性を、ニューロンのアポトーシスについて評価した。Aβ
42ストレスのPKR
−/−ニューロンに対するXG−104の使用によって、Aβ
42処理したPKR
−/−ニューロンと比較して、切断されたカスパーゼ3の発現レベルの42%低下(
図55E)、カスパーゼ3活性の61%低下(
図55F)、及び切断されたPARP発現レベルの86%低下(
図55G)が示された。PKR及びJNKについて二重に阻害されたニューロンでは、切断されたカスパーゼ3、カスパーゼ3活性及びPARP発現レベルは、処理されたWTニューロンと比較して、それぞれ83%、87%及び93%低下した。