特許第6843629号(P6843629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843629
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】非正視治療の追跡方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20210308BHJP
   G06Q 50/22 20180101ALI20210308BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20210308BHJP
   A61B 3/028 20060101ALI20210308BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20210308BHJP
【FI】
   G16H20/00
   G06Q50/22
   G02C7/04
   A61B3/028
   G06Q10/04
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-12205(P2017-12205)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-138977(P2017-138977A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】15/007,660
(32)【優先日】2016年1月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ノエル・エイ・ブレナン
(72)【発明者】
【氏名】キャレド・シェハーブ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・アール・リッチー
(72)【発明者】
【氏名】リサ・エイ・ジョンズ−ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】ロレイン・ティー・シンノット
(72)【発明者】
【氏名】シュ・チェン
【審査官】 石川 正二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−522679(JP,A)
【文献】 特表2016−533235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H10/00−80/00
G06Q10/00−99/00
A61B 3/028
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の屈折異常の進行を推定し、追跡する方法であって、
基準集団と比較することによって、少なくとも前記個人の年齢の関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定することと、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定することと、
前記予測SPHEQの軌跡を前記基準集団と比較することと、
前記予測SPHEQの軌跡を、非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較し、それによって前記所定期間にわたる可能性のある治療の利点を示すことと、を含む、方法。
【請求項2】
前記所定期間にわたる前記予測SPHEQの軌跡の誤差の確率を推定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定し、基準集団と比較することと、
更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
所与の非正視抑制治療を使用している間の前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定し、基準集団と比較することと、
更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することによって、所定期間にわたる実際の治療の利点を示すことと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
SPHEQのパーセンタイルの前記推定は、年齢と、国、地域、性別、民族性、又は両親の履歴のうちの少なくとも1つとの関数として球面等価屈折データを含む選択されたデータセットからSPHEQの集団基準パーセンタイルをモデリングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記集団基準パーセンタイルは選択されたパーセンタイルきざみの曲線を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡の前記推定は、前記個人のベースライン年齢及びベースラインSPHEQの関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡の前記推定は、前記個人のベースライン年齢、ベースラインSPHEQ、及び過去の屈折の履歴の関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記過去の屈折の履歴は一年当たり0.5D〜1.5Dの進行率を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非正視抑制治療は近視抑制眼用レンズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記近視抑制眼用レンズは近視抑制コンタクトレンズを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記予測SPHEQの軌跡と非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記表示はスマートデバイスのグラフィックユーザーインターフェース上である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
周期的間隔で所与の非正視抑制治療を使用している間の前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定することと、
各々の間隔で更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することと、
安全性の高いサーバ又はデータベースに各々の間隔での前記更新済みの予測SPHEQの軌跡を含むデータを保存することと、を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記保存済みデータを閲覧する認証を受けたユーザーにアクセスを提供することを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記認証を受けたユーザーはアイケア提供者、顧客、両親、又は小児のうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
年齢とSPHEQ屈折測定値とを含む前記保存済みデータを第三者に提供することと、
前記非正視抑制治療の有効性についての臨床データを含むデータベースを更新することと、を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
複数の小児、及び/又は複数の非正視治療の選択肢についてのデータを保存することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するコンピュータ実装方法であって、
選択されたデータセットからのデータをモデリングすることにより基準集団と比較することによって、個人の年齢と、国、地域、性別、民族性、又は両親の履歴のうちの少なくとも1つとの関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定することと、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定することと、
グラフィックユーザーインターフェース上に、前記予測SPHEQの軌跡と非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示することと、を含む、方法。
【請求項20】
個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するシステムであって、
将来の所定期間にわたる予測球面等価屈折(SPHEQ)の軌跡と近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡とを推定するサーバと、
前記サーバからのデータを記憶する少なくとも1つのデータベースと、
ネットワークを介して前記サーバと通信し、将来の所定期間にわたる前記予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を使用した前記予測SPHEQの軌跡との比較を表示するグラフィックユーザーインターフェースを備えるスマートデバイスと、を備える、システム。
【請求項21】
個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するコンピュータプログラム製品であって、
非一時的コンピュータ可読記憶媒体と、
基準集団と比較することによって、少なくとも前記個人の年齢の関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定するための第1のプログラム命令と、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定するための第2のプログラム命令と、
前記予測SPHEQの軌跡を前記基準集団と比較するための第3のプログラム命令と、
前記予測SPHEQの軌跡を、非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較し、それによって前記所定期間にわたる可能性のある治療の利点を示すための第4のプログラム命令と、を備え、
前記第1、第2、第3、及び第4のプログラム命令は前記非一時的コンピュータ可読記憶媒体に記憶されている、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非正視の追跡のための方法及びシステムに関し、より具体的には、近視抑制治療の追跡のための方法及びシステムに関する。
【0002】
この追跡方法及びシステムは、例えば人口統計データ及び/又は近視抑制治療の選択肢に基づいて将来にわたる個人の所定期間の潜在的屈折異常を推定するものである。この追跡方法及びシステムによって、アイケア提供者(ECP)が治療効果を実証し、追跡して近視の進行を遅らせ、また個人が近視抑制治療の長期的な利点を理解することが可能になる。
【背景技術】
【0003】
視力低下に至る一般的な状態としては、近視及び遠視が挙げられ、近視及び遠視については、眼鏡、又はハード若しくはソフトコンタクトレンズの形態の矯正レンズが処方される。上記状態は、一般的に、眼の長さと眼の光学要素の焦点との不均衡と説明される。近視眼は、網膜平面の前で焦点を結び、遠視眼は、網膜平面の後で焦点を結ぶ。近視が典型的に発症するのは、眼の軸長が、眼の光学構成要素の焦点距離よりも長くなる、即ち、眼が、伸びすぎるからである。遠視が典型的に発症するのは、眼の軸長が、眼の光学構成要素の焦点距離と比較して短すぎる、即ち、眼が、十分な長さにならないからである。
【0004】
近視は、世界の多くの地域で高い罹患率を有する。この状態に関して最も懸念されるのが、例えば、5又は6ジオプターを超える高度近視への進行の可能性であり、高度近視は、視覚補助具なしで機能する能力に劇的に影響を与える。また、高度近視は、網膜疾患、白内障、及び緑内障のリスク増加と関連する。
【0005】
矯正レンズは、それぞれ、近視を矯正するために網膜平面の前から、又は、遠視を矯正するために網膜平面の後ろから焦点を移すことによってよりはっきりした像を網膜平面に描くように眼の総焦点(gross focus)を変えるために使用される。しかしながら、上記状態の矯正アプローチは、上記状態の原因に対応するのではなく、単に補綴であり、つまり、症状に対応することを目的とする。
【0006】
大部分の眼は、単純近視、又は、単純遠視を有するのではなく、近視性単乱視、又は、遠視性単乱視を有する。焦点の乱視誤差が原因となって、点光源の像が、異なる焦点距離で2つの相互に垂直な線として形成される。以下で論じる内容では、近視及び遠視という用語は、それぞれ、単純近視及び近視性単乱視、並びに遠視及び遠視性単乱視を含んで使用される。
【0007】
正視は、無限遠の物体が、水晶体が弛緩した状態で相対的に鮮明に焦点が合っているはっきりした視覚の状態を説明する。通常の、つまり正常視の大人の眼では、開口、つまり瞳孔の中央、つまり軸傍領域を通る遠くの物体及び近くの物体の両方からの光が、倒立像が感知される網膜平面近傍で眼の内側の水晶レンズによって集束される。しかしながら、大部分の通常の眼は、正の縦球面収差を、一般的に5mmの開口について約+0.5ジオプター(D)の領域において示すことが観察され、つまり、開口、つまり、瞳孔周辺にて開口、つまり、瞳孔を通る光線は、眼が無限大に焦点が合わされたとき、網膜平面の前で+0.5Dで集束される。本明細書で使用するとき、尺度Dは、メートル単位のレンズ又は光学システムの焦点距離の反数と定義されたジオプトリー度数である。
【0008】
正常な眼の球面収差は、一定でない。例えば、調節(主として水晶体に対する変更を介して導き出される眼の光出力の変化)が原因となって、球面収差が、正から負に変わる。
【0009】
米国特許第6,045,578号は、正の球面収差をコンタクトレンズに付加することにより、近視の進行を低減、又は抑制することを開示している。この方法は、視覚系の球面収差を変化させて、眼の長さの延伸を変えることを含む。換言すれば、球面収差によって、正視化を調節することができる。このプロセスにおいて、近視眼の角膜には、レンズの中心から離れると大きくなるジオプトリー度数を有するレンズが装着される。レンズの中心部分に入射する近軸光線は、眼の網膜上に集められ、物体の鮮明な像を生成する。角膜の周辺部分に入射する周縁光線は、角膜と網膜との間の平面内に集められ、網膜上に、その像の正の球面収差を生成する。この正の球面収差は、眼の延伸を阻止する傾向がある、眼に対する生理学的効果を及ぼすことで、近視眼がより長く延伸する傾向を軽減する。
【0010】
近視抑制治療の効果を実証し、追跡するために、将来にわたる個人の所定期間の潜在的屈折異常を推定する必要が依然として存在する。特定の近視抑制治療の可能性のある長期的効果の利点をECP、両親、及び患者に理解させる必要もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、将来の期間にわたる近視進行を推定し、しかも近視の進行を遅らせるために治療効果を実証し、追跡できる方法を提供することによって、先行技術の限界を克服するものである。
【0012】
本発明の一態様によれば、個人の屈折異常の進行を推定し、追跡する方法が提供される。少なくとも個人の年齢の関数として球面等価屈折(Spherical Equivalent Refraction)(SPHEQ)のパーセンタイルは、基準集団との比較によって推定される。将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡が推定される。予測SPHEQの軌跡が基準集団と比較される。予測SPHEQの軌跡は非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較され、それによって所定期間にわたる可能性のある治療の利点が示される。
【0013】
本発明の別の態様によれば、方法は所与の非正視抑制治療を使用している間の個人の実際のSPHEQ屈折履歴を測定することと、基準集団と比較することと、更新された予測SPHEQの軌跡を推定し、それによって、所定期間にわたる実際の治療の利点を示すこととを含む。
【0014】
本発明の一態様によれば、非正視抑制治療は、例えば近視抑制コンタクトレンズなどの近視抑制用眼用レンズを含み得る。
【0015】
本発明の別の態様によれば、方法は予測SPHEQの軌跡と非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示することを含む。
【0016】
本発明の一態様によれば、個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するシステムが提供される。サーバは将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡とを推定する。少なくとも1つのデータベースがサーバからのデータを記憶する。ネットワークを介してサーバと通信するスマートデバイスは、将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示するグラフィックユーザーインターフェースを有している。
【0017】
本発明の目的は、小児が使用できる眼用レンズのタイプに応じて所定期間にわたる近視進行の推定のための使い易く、信頼できる方法を提供することにある。予測される屈折軌跡に関する進行の速さ、又は遅さの確率も提示され得る。
【0018】
本発明の別の目的は、特定のタイプの近視抑制治療の選択肢による近視の予測進行度を示すことによって、ECP又は両親が近視抑制治療及び/又は眼用レンズを選択することを補助することにある。
【0019】
本発明の別の目的は、近視抑制治療の効果をモニタすることにある。
【0020】
本発明の更に別の目的は、国、地域、性別、民族、両親の履歴、又は近視の進行に関連する他の人口統計的、又は環境上の要因のうちの少なくとも1つに基づいて基準集団に対する近視を追跡する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の上述及び他の特徴と利点は、添付図面に例証されるような、本発明の好ましい実施形態の以下のより詳しい記載から明白となるであろう。
図1】5.5歳から14.5歳の小児について選択されたデータセットからの球面等価屈折(SPHEQ)値に適合するパーセンタイル曲線のサブセットを示す図である。
図2A】8歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった9歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図2Aに、またシナリオ2は図2Bに示されている。
図2B】8歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった9歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図2Aに、またシナリオ2は図2Bに示されている。
図3A】9歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった10歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図3Aに、またシナリオ2は図3Bに示されている。
図3B】9歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった10歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図3Aに、またシナリオ2は図3Bに示されている。
図4A】10歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった11歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図4Aに、またシナリオ2は図4Bに示されている。
図4B】10歳のときの球面等価屈折(SPHEQ)が−1.0Dであった11歳のパーセンタイル予測をグラフ表示した図である。シナリオ1は図4Aに、またシナリオ2は図4Bに示されている。
図5A】5年間(すなわち14歳まで)球面等価屈折(SPHEQの)が−1.0Dであった8、9及び10歳の小児のSPHEQ予測をグラフ表示した図である。50%及び90%のSPHEQ信頼性ウインドウも示されている。
図5B】5年間(すなわち14歳まで)球面等価屈折(SPHEQの)が−1.0Dであった8、9及び10歳の小児のSPHEQ予測をグラフ表示した図である。50%及び90%のSPHEQ信頼性ウインドウも示されている。
図5C】5年間(すなわち14歳まで)球面等価屈折(SPHEQの)が−1.0Dであった8、9及び10歳の小児のSPHEQ予測をグラフ表示した図である。50%及び90%のSPHEQ信頼性ウインドウも示されている。
図6】従来の近視矯正を用いた90%の信頼性と共に7歳でが−1.14D〜−2.45DのSPHEQを有するものと予測される6歳の予測軌跡をグラフ表示した図である。予測軌跡は、−5.14Dの予測SPHEQで14歳まで続く。予測軌跡は0.1〜50の範囲のパーセンタイル曲線のサブセットに重ねられる。
図7】近視抑制治療を用いて14歳で−3.07DのSPHEQを有するものと予測される6歳の予測軌跡を有する図6を示す。
図8】追跡された実際のSPHEQと、更新された予測に基づき14歳でSPHEQが−2.24Dであると予測される従来の近視矯正と近視抑制治療の予測軌跡との対比を示す図である。
図9】本発明の一実施形態によるシステムの概略図を示す。
図10】本発明の少なくとも1つの実施形態を実施するための代表的なハードウェア環境を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は非正視の追跡のための方法及びシステムに関し、より具体的には、近視治療の追跡のための方法及びシステムに関する。追跡方法及びシステムは、個人の将来の所定期間にわたる基準集団に対する潜在的な屈折異常を推定し、1)ECPが屈折の進行を予測及び追跡すると共に、近視の進行を遅らせるために治療の効果を実証及び追跡することを可能にし、及び/又は2)患者若しくは両親が近視抑制治療の長期にわたる利点を理解できるようにする。
【0023】
以下の説明は近視を対象としているが、本発明はそれに限定されるものではなく遠視又は乱視などの他の屈折異常にも適用できよう。加えて、以下の説明は個人の、特に年齢が約6歳から14歳の小児についての追跡方法を対象としている。
しかし、追跡方法は利用可能なデータセットに応じて低年齢児、年長の青年、又は若年成人にも適用できよう。
【0024】
本発明によれば、小児の潜在的な屈折異常の進行を推定し、追跡する方法は、
基準集団と比較することによって、少なくとも小児の年齢の関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定することと、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定することと、
予測SPHEQの軌跡を、近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較し、それによって所定期間にわたる可能性のある治療の利点を示すことと、を含む。
【0025】
A.基準集団に対するSPHEQのパーセンタイルの推定
本発明によれば、基準集団と比較することによって、少なくとも小児の年齢の関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルが判定される。小児のp%のSPHEQ値が小児のSPHEQ以下ならば、小児のSPHEQの集団基準パーセンタイルはpパーセンタイルである。
【0026】
基準集団のパーセンタイルを推定するため、選択されたデータセットが利用される。本発明によれば、年齢と民族性との関数としてSPHEQのパーセンタイルを推定するために、民族性と屈折異常の経時的推定に関する共同研究(CLEERE)のデータセット又はそのサブセットを使用し得る。例えば、選択されるデータセットは、年齢が5.5歳〜14.5歳の白人、黒人、ヒスパニック、アジア人、又はネイティブアメリカンの小児のすべてのCLEEREの観察を含み得る。
【0027】
選択されたデータセットは基準集団パーセンタイル曲線を得るためにモデリングされる。本発明の特定の実施形態によれば、例えばSAS(登録商標)のPROC QUANTREGを使用して0.1〜99.9の0.1きざみで基準集団パーセンタイル曲線と適合し得る。年齢の一次モデルを用いて0.1〜0.4、及び94.6〜99.9のパーセンタイル曲線と適合し得る;年齢の二次モデルを用いて0.5〜4.5、及び45.6〜94.5のパーセンタイル曲線と適合し得る;また、年齢の三次モデルを用いて4.6〜45.5のパーセンタイル曲線と適合し得る。モデルの複雑さのこれらのバリアントは、統計学的に有意ではない高次多項式の枝刈の結果であることがある。他のモデル、及び他のきざみを用いてもよいことが理解されよう。基準集団パーセンタイル曲線と適合させるには、例えばCRANパッケージGAMLSS(位置、尺度及び形状についての一般加法モデル)などの他のプラットフォームも使用し得る。
【0028】
図1は、選択されたCLEEREデータセットからの年齢の関数としてSPHEQ値が重ねられるモデリングされた基準集団のパーセンタイル曲線のセットを示している。
【0029】
選択されたCLEEREサンプルの民族性の分布は米国の分布とは適合しないことがあることに留意されたい。サンプル層中の比率が対象となる基準集団の比率と適合しない場合は、データによる推定には偏差が生じ得る。偏差は各層に特有の重みで補正され得る。重みの一般的な形態は(NkN)/(nk/n)であり、ただしkは層を示し、Nは集団のサイズを表し、Nkは集団層のサイズを表し、nはサンプルのサイズを表し、nkはサンプル層のサイズを表す。この重み形態は、CLEEREサンプル中の民族性分布を米国の分布により匹敵するものにするために使用され得る。米国の民族別集団(Nk/N)はhttp://www.childstats.gov/americaschildren/tables/pop3.aspに由来する。
【0030】
CLEEREの他の匹敵するデータセット又はサブセットを選択して、例えば国、地域、性別、民族性、又は両親の履歴のうちの少なくとも1つに合わせた、又はそれに基づく他の基準集団に必要なデータが提供され得ることを理解されたい。CLEEREのデータセットと組み合わせて使用し得る既存のデータセット(1つ又は複数)の例は、シンガポール近視危険因子コホート(SCORM);シドニー近視調査(SMS)及びシドニー思春期血管眼疾患調査(SAVES);北アイルランド小児屈折異常(NICER);又はアンヤン小児眼科調査(Anyang)である。
【0031】
本発明の別の実施形態によれば、入力データの関数として球面等価屈折(SPHEQ)が推定され得る。入力データは年齢;最初の光屈折の年齢;現在及び/又は以前の乾性屈折値;現在及び/又は以前の乾性検影法;現在及び/又は以前の自動屈折;現在及び/又は以前の調節摩擦顕性屈折;現在及び/又は以前の調節摩擦検影法;現在及び/又は以前の調節摩擦自動屈折;性別;人種及び/又は民族群;居住国;都市部又は農村部の住所;近視の両親の数;近視の兄弟の数;細かい仕事の活動レベル;細かい仕事の活動レベル(例えば一日、一週間、又は一月当たり戸外で費やした時間);現在及び/又は以前の眼軸長;使用中の現在の近視矯正、及び/又は近視進行防止の種類;屈折の進行に関連すると思われる他の人口統計的、又は環境変数、及び代替の補正又は防止の選択肢からなる群から選択される1つ又は2つ以上のデータでよい。
【0032】
したがって、特定の小児の球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルは、測定されたSPHEQとモデリングされた基準集団のパーセンタイル曲線との比較によって推定することができる。
【0033】
B.予測SPHEQ/パーセンタイル値及び軌跡の推定
SPHEQ基準集団パーセンタイルを推定するために用いられる選択されたデータセットは、将来の所定期間(例えばK+1歳又はk+n歳、ただしnは整数である、予測された将来のSPHEQ値)にわたる予測SPHEQの軌跡又は予測を推定するためにも使用され得る。
【0034】
本発明の特定の実施形態では、選択されたデータセットは、ベースライン/現在の年齢、及び年齢kでのベースラインSPHEQの関数としてk+1歳での第1のSPHEQモデルに適合するように用いられ得る(シナリオ1)。k+1歳での第2のSPHEQモデルは、ベースライン/現在の年齢、k歳でのベースラインSPHEQ、及びSPHEQの過去の履歴を用いて適合し得る(シナリオ2)。過去の履歴については、k歳とk−1歳との間の測定された球面等価変化率が用いられ得る。シナリオ1及び/又はシナリオ2は、同じ被験者からの反復的な測定での相関性を考慮して変量効果を含み得る。モデルは変量効果を有する線形回帰を用いてSAS(登録商標)のPROC GLIMMIXによって適合され得る。他のモデル及びRなどの適合プラットフォームを用いてもよいことが理解されよう。
【0035】
予測値に関する予測誤差分布を推定するため、Jiang et al.,Distribution−free Prediction Intervals in Mixed Linear Models,Statistica Sinica,12(2002),537〜553に開示されている方法によって誤差分布(確率)を得ることができる。
【0036】
図2A〜4Bは、ベースライン年齢が8歳(図2A〜4B);9歳(図3A〜3B)、又は10歳(図4A〜4B)で、ベースラインSPHEQが−1.0Dの小児についてのk+1歳での予測SPHEQ/パーセンタイル値をグラフ表示している。各々のベースライン年齢について、シナリオ1の予測は第1のパネル内にある(図2A、3A、及び4A)。シナリオ2は2つのパネル内にあり、0.5Dの変化率は左側に示され、1.5Dの変化率は右側に示されている(図2B、3B、及び4B)。
【0037】
図2A〜2Bは、8歳のときのベースラインSPHEQが−1.0Dであった9歳についての予測SPHEQ/パーセンタイル値をグラフ表示した図である。シナリオ1(図2A)は上のパネルに、またシナリオ2(図2B)は下のパネルに示されている。−1.0DのベースラインSPHEQは年齢が8歳のSPHEQ値の5.1パーセンタイルである。
【0038】
図2Aでは、9歳での予測SPHEQは−1.6Dであり、これは4.9パーセンタイルである。実線はSPHEQのベースラインと予測値とを結んでいる。予測誤差区間は点線の端点で示されている。パネルの右端のパーセンテージの欄は、予測される将来の結果が左のパーセントに対する区間にある確率を示している。例えば、翌年のSPHEQが−1.8D〜−1.3Dになる可能性は50%であり、これは9歳でそれぞれ4.2及び6.1パーセンタイルである。翌年のSPHEQが−2.3D〜−1.0Dになる可能性は90%であり、これは9歳でそれぞれ7.9及び2.8パーセンタイルである。
【0039】
図2Bには、図2Aと同じ被験者についてであるが、変化率を考慮に入れた2つの例が示されている。左側では変化率は0.5Dであり、右側では変化率は1.5Dである。変化率が0.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.3D〜−1.0Dになる可能性は90%であり、これはそれぞれ3.0及び8.0パーセンタイルである。変化率が1.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.4D〜−1.2Dになる可能性は90%であり、これはそれぞれ2.6及び7.0パーセンタイルである。
【0040】
図3A〜3Bは、9歳のときの基準SPHEQが−1.0Dであった10歳についての予測SPHEQ/パーセンタイル値をグラフ表示した図である。シナリオ1は図3Aに、またシナリオ2は図3Bに示されている。−1.0DのベースラインSPHEQは9歳のSPHEQ値の8.1パーセンタイルである。
【0041】
図3Aでは、予測SPHEQは−1.5Dであり、これは10歳で7.7パーセンタイルである。翌年のSPHEQが−1.8D〜−1.3Dになる可能性は50%であり、これは10歳でそれぞれ6.6及び9.3パーセンタイルである。翌年のSPHEQが−2.3D〜−1.0Dになる可能性は90%であり、これは10歳でそれぞれ4.6及び11.7パーセンタイルである。
【0042】
図3Bには、図3Aと同じ被験者についてであるが、変化率を考慮に入れた2つの例が示されている。変化率が0.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.2D〜−0.9Dになる可能性は90%であり、これは10歳では、それぞれ4.7及び11.9パーセンタイルである。変化率が1.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.3D〜−1.0Dになる可能性は90%であり、これは10歳では、それぞれ4.4及び11パーセンタイルである。
【0043】
図4A〜4Bは、10歳のときの基準SPHEQが−1.0Dであった11歳についての予測SPHEQ/パーセンタイル値をグラフ表示した図である。シナリオ1は図4Aに、またシナリオ2は図4Bに示されている。−1.0DのベースラインSPHEQは10歳のSPHEQ値の11.2パーセンタイルである。
【0044】
図4Aでは、予測SPHEQ値は−1.5Dであり、これは10歳で10.6パーセンタイルである。翌年のSPHEQが−1.7D〜−1.2Dになる可能性は50%である。翌年のSPHEQが−2.2D〜−1.0Dになる可能性は90%である。
【0045】
図4Bには、図4Aと同じ被験者についてであるが、変化率を考慮に入れた2つの例が示されている。変化率が0.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.1D〜−1.0Dになる可能性は90%である。変化率が1.5Dである場合は、翌年のSPHEQが−2.2D〜−1.0Dになる可能性は90%である。
【0046】
【表1】
【0047】
図5A〜5Cは図2A〜4Bに示したものと同様のデータをグラフ表示しているが、ベースライン年齢から5年(又は14歳まで)の期間にわたって延長したSPHEQの軌跡を対象としている。SPHEQ及び年齢の関数としてSPHEQの軌跡又は予測が50%と90%の信頼性ウインドウと共に示されている。
【0048】
C.予測SPHEQ軌跡と基準集団との比較
本発明の例示的実施形態によれば、説明と追跡のために予測SPHEQ軌跡を基準集団のパーセンタイルと比較し得る。
【0049】
図6は、7歳での−1.1D〜−2.4Dの予測区間が90%である、SPHEQが−1.73Dであると予測される6歳のSPHEQのベースライン−1.0Dについての予測SPHEQの軌跡を示している。予測SPHEQの軌跡は0.1〜50パーセンタイルの範囲の図1のパーセンタイル曲線のサブセットに重ねられる。予測軌跡は、−5.14Dの予測SPHEQで14歳まで続く。
【0050】
従来の近視矯正は近視の進行を治療しないため、図6はECP及び両親が近視進行の長期的影響と、同じ初期SPHEQパーセンタイルレベルの集団に対する可能性の高い端点とを視覚化するのに役立つであろう。
【0051】
D.近視抑制治療の影響の可能性の比較
本発明によれば、従来の近視矯正での予測SPHEQの軌跡が、近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較され、それによって所定期間にわたる可能性のある治療の利点が示される。
【0052】
例えば、従来の近視矯正を継続している小児の予測SPHEQの軌跡(例えば図6)が、近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較され得る(例えば図7)。近視抑制治療は、近視抑制コンタクトレンズなどの近視抑制眼用レンズでもよい。他の近視抑制治療は光学、薬剤、環境、又は他の介入を含み得る。特定の実施形態では、50%の治療有効性もたらすことが臨床的に実証された近視抑制治療からのデータを使用し得る。他の近視抑制治療、及び/又は有効性(例えば60%又は80%)の値を用いてもよいことが理解されよう。
【0053】
図7は、6歳で−1.0Dであり、次の8年間にわたって−5.7Dまで低下する一般集団の1パーセンタイルのSPHEQを示している。−1.0Dから始まり、14歳で−5.14Dまで進行した6歳について従来の近視矯正を使用した予測SPHEQの軌跡も示されている。最後に、6歳でSPHEQ−1.0Dから始まり14歳での予測SPHEQが−3.07Dの近視抑制治療を使用した小児についての予測SPHEQの軌跡が示されている。したがって、14歳での近視の端点での予測低減値は2D超である。
【0054】
したがって、本発明の方法及びシステムは、基準集団に対する任意の年齢の小児の近視の視覚表示を提供し、かつ従来の及び/又は近視抑制治療の選択肢での近視進行の見通し、並びに年齢及び/又は個人因子に基づく上記の入力データなどの潜在的なSPHEQの端点を提供する。
【0055】
E.近視抑制治療の予測される影響の推定
本発明によれば、近視抑制治療の最も可能性が高い影響と利点が推定され得る。所定期間にわたって、特定の近視抑制治療を受けた小児の実際のSPHEQ屈折の履歴が測定され得る。次いで予測SPHEQの軌跡が再計算され、初期の予測SPHEQの軌跡と基準集団のパーセンタイルとが比較され得る。
【0056】
図8は、実線で作図された10歳までの4年間の経過観察を示す実際に測定されたSPHEQデータを含み、それによって、近視抑制治療を使用している間の実際のSPHEQの履歴を追跡する、図7と同じ小児の図である。この例では、小児の近視抑制治療は予測SPHEQの軌跡よりも良好に実施され、近視の進行は従来の近視矯正よりも70%抑制された。更に、点線は測定された小児近視進行率に基づいて更新された予測SPHEQの軌跡の表示である。更新された予測に基づき、小児のSPHEQは14歳で−2.24Dであると予測されている。
【0057】
したがって、本発明は、近視抑制治療の継続的な利点の視覚化に役立ち、かつECPが顧客又は両親の予測を管理するのに役立つ。より重要な点は、本発明が近視抑制治療の選択肢の成功又は失敗、及び基準集団と予測SPHEQの端点に対する小児の近視の進行を更新し得ることである。
【0058】
F.更なる方法
前述のように、本発明は選択された近視抑制治療の利点を視覚化するのに役立つ。したがって、本発明は任意の図面(例えば図6〜8)、入力データ、出力データ、又はこれらのいずれかの組み合わせを印刷又は表示することを可能にする。
【0059】
入力データは前述の通りのデータでよい。出力データは、基準集団に対する現在のパーセンタイル、基準集団の50パーセンタイルの屈折から離れたジオプターの現在の偏差、現在の年齢から始まり、所定の将来の年齢へと続く最も可能性が高いSPHEQパーセンタイルの軌跡、現在の年齢から始まり、所定の将来の年齢へと続く最も可能性が高いSPHEQの軌跡、各々の将来の年齢について、将来の観察が指定レベルの信頼性でその範囲に含まれる可能性のある予測区間、近視抑制治療が現在又は将来の年齢で開始される場合の予測SPHEQパーセンタイルの軌跡、近視抑制治療が現在又は将来の年齢で開始される場合の予測SPHEQ屈折の軌跡、予測区間を伴う屈折/パーセンタイルの軌跡、及び近視抑制治療を伴う実際の屈折/パーセンタイルの軌跡、からなる群から選択される1つ又は2つ以上であってよい。
【0060】
したがって、特に予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を印刷又は表示することができる。印刷出力又はディスプレイは、表、グラフ、又は円グラフなどの任意の適宜の形式のものでよい。ディスプレイはコンピュータ又はスマートデバイス(例えばタブレットコンピュータ、スマートフォン、携帯情報端末、ウェアラブルデジタルデバイス、ゲーム機器、TV)のグラフィックユーザーインターフェース上で行い得る。特定の実施形態では、ディスプレイはアイケア提供者のコンピュータ又はスマートデバイス上で、及びユーザーのコンピュータ又はスマートデバイス上で同期され得る。
【0061】
本発明によって、特定の近視抑制治療を使用した小児を継続的にモニタすることが可能になる。例えば、所定の近視抑制治療を使用している間の小児の実際のSPHEQ屈折の履歴は、周期的間隔(例えば毎週、毎月、毎年)で測定され得る。予測SPHEQの軌跡は各々の間隔で判定される。SPHEQ測定を含むデータ、各間隔での更新された予測SPHEQの軌跡、及び任意の入力及び/又は出力データはセキュアサーバ及び/又はデータベースに保存し得る。継続的なモニタリングは、複数の小児、及び複数の近視抑制治療について行なわれ得る。
【0062】
本発明によれば、認証ユーザーには、例えばセキュアサーバ及び/又はデータベースへのアクセスを可能にするウェブリンク又はソフトウェアアプリケーション(例えばスマートデバイスにダウンロード可能なアプリ)を介して保存済みデータへのアクセスが付与される。認証ユーザーにはアイケア提供者、顧客、両親、又は小児が含まれ得る。
【0063】
保存済みデータ又はそのサブセットは、1つ又は2つ以上の近視抑制治療の有効性についての臨床データを含むデータベースを設置するため使用し得る。特定の実施形態では、保存済みのデータ又はそのサブセットは進行中のデータ分析のために第三者に提供され得る。この場合は、例えば数字、又は英数字識別子を用いることによって小児のプライバシーが保護されるようにデータを匿名にし得る。
【0064】
ある実施形態では、いずれの近視抑制治療も拒んだ小児についてのデータを利用して、上記の選択されたデータベースのうちの1つ又は2つ以上、例えばCLEEREデータセットを継続的に更新し得る。
【0065】
G.近視追跡のためのシステム及びコンピュータ環境
本発明はまた、近視追跡のためのシステムを対象としている。図9は本発明の一実施形態によるシステム100の概略図である。システム100は入力データを受信し、上記の工程のうちの1つ又は2つ以上などのデータ分析を行い、データを出力するためのサーバ105を備えている。入力データ及び出力データは少なくとも1つのデータベース110に記憶又は保存され得る。入力及び/又は出力データはコンピュータ115にインストールされたソフトウェアアプリケーション(例えばECPのオフィス内のコンピュータ)によって、スマートデバイス120にダウンロード可能なソフトウェアアプリケーション(アプリ)によって、又はネットワーク130を介してアクセス可能なセキュアウェブサイト又はウェブリンク125によって、アクセスされ得る。入力及び/又は出力データはコンピュータ又はスマートデバイスのグラフィックユーザーインターフェース上に表示され得る。
【0066】
特定の実施形態では、個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するためのシステムは、将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡、及び近視抑制治療を用いた予測SPHEQの軌跡を推定するためのサーバと、サーバからのデータを記憶するための少なくとも1つのデータベースと、ネットワークを介してサ−バと通信し、将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を用いた予測SPHEQの軌跡との比較を表示するためのグラフィックユーザーインターフェースを備えるスマートデバイスとを備えている。
【0067】
本開示に基づく当業者には理解されるように、本発明の態様はシステム、方法、又はコンピュータプログラム製品として実施され得る。したがって、本発明の態様は完全なハードウェアの実施形態、ソフトウェアの実施形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなど)で動作するプロセッサ、又は本明細書では一般に「回路」、「モジュール」、又は「システム」と呼ばれ得るソフトウェアとハードウェアとを組み合わせた実施形態をとり得る。更に、本発明の態様は、1つ又は2つ以上のコンピュータ可読媒体中に具現化されたコンピュータプログラム製品の形態をとってもよく、この媒体は、コンピュータ可読プログラムコードが内部に具現化されている。
【0068】
1つ又は2つ以上のコンピュータ可読媒体の任意の組み合わせが利用されてもよい。このコンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読信号媒体又はコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。コンピュータ可読記憶媒体は、限定されるものではないが、例えば、電子、磁気、光学、電磁気、赤外、若しくは半導体システム、機器、若しくはデバイス、又は前述の任意の好適な組み合わせであってもよい。コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例(包括的なリスト)には、以下、すなわち1本又は2本以上の配線を有する電気接続、携帯用コンピュータディスケット、ハードデイスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、消去可能なプログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、光ファイバ、携帯コンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD−ROM)、光記憶装置、磁気記憶装置、又は上記の任意の適宜の組み合わせが含まれよう。本開示の文脈で、コンピュータ可読媒体は、命令実行システム、装置、又はデバイスによって、又はこれと接続して使用するためのプログラムを含み、又は記憶することができる。
【0069】
本発明の態様のための動作を実行するためのコンピュータプログラムコードは、Java、Smalltalk、C++、C#、Transact−SQL、XML、PHPなどのオブジェクト指向プログラミング言語を含む1つ又は2つ以上のプログラミング言語、及び「C」プログラミング言語又は類似のプログラミング言語などの従来の手続き型プログラミング言語のいずれかの組み合わせで書き込み得る。プログラムコードは、完全にユーザーのコンピュータ上で、部分的にユーザーのコンピュータ上で独立したソフトウェアパッケージとして、部分的にユーザーのコンピュータ上で、部分的にはリモートコンピュータ上で、又は完全にリモートコンピュータ上又はサーバ上で実行され得る。
【0070】
後者のシナリオでは、リモートコンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)又はワイドエリアネットワーク(WAN)を含む任意のタイプのネットワークを介してユーザーのコンピュータに接続されてもよく、又は(例えばインターネットサービスプロバイダを利用したインターネットを介して)外部コンピュータ接続されてもよい。
【0071】
コンピュータプログラム命令は汎用コンピュータ、専用コンピュータ、又は他のプログラム可能なデータ処理機器のプロセッサに提供されて、命令がコンピュータ、又は他のプログラム可能データ処理機器のプロセッサで実行され、指定の機能/動作を実施するための手段を生成し得る。
【0072】
これらのコンピュータプログラム命令はまた、コンピュータ、他のプログラム可能なデータ処理機器、又は他のデバイスが特定の方法で機能するように指示して、コンピュータ可読媒体に記憶されている命令が特定の機能/動作を実施する命令を含むメ−カーの製品を生成できるようにコンピュータ可読媒体に記憶され得る。
【0073】
これらのコンピュータプログラムの命令をコンピュータ、他のプログラム可能なデータ処理機器、又は他のデバイス上にロードして、一連の操作工程をそのコンピュータ、他のプログラム可能な機器、又は他のデバイス上で実施させ、コンピュータ実施プロセスを生成させて、そのコンピュータ又は他のプログラム可能な機器上で実行される命令が、定められている機能/動作を実施するプロセスをもたらすようにしてもよい。
【0074】
次いで図10を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態を実施するための代表的なハードウェア環境が示されている。この概略図は、本発明の少なくとも1つ実施形態による情報処理/コンピュータシステムのハードウェア構成を示している。システムは少なくとも1つのプロセッサ又中央処理ユニット(UPU)10を備えている。CPU10は、ランダムアクセスメモリ(RAM)14、リードオンリーメモリ(ROM)16、及び入力/出力(I/O)アダプタ18へのシステムバス12に相互接続されている。I/Oアダプタ18は、ディスクユニット11及びテープドライブ13、又はシステムによって可読である他のプログラム記憶デバイスなどの周辺機器に接続することができる。システムはプログラム記憶デバイス上の本発明による命令を読取り、これらの命令に従って本発明の少なくとも1つの方法論を実行することができる。システムは更に、キーボード15、マウス17、スピーカ24、マイクロフォン22、及び/又はタッチスクリーンデバイス(図示せず)などの他のユーザーインターフェースデバイスをバス12に接続してユーザー入力を収集するユーザーインターフェースアダプタ19を含んでいる。加えて、通信アダプタ20はバス12をデータ処理ネットワーク25に接続し、ディスプレイアダプタ21はバス12を、例えばモニタ、プリンタ、又は送信機などの出力デバイスとして具現化し得るディスプレイデバイス23に接続する。
【0075】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的でのみ使用され、限定を意図するものではない。本明細書で使用するとき、文脈上特に明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の形態をも含むものとする。基本用語「含む」及び/又は「有する」は、本明細書で用いられる場合、記載された特徴、完全体、工程、動作、要素、及び/又は構成部品の存在を特定するものであるが、1つ又は2つ以上の他の特徴、完全体、工程、動作、要素、構成要素及び/又はそれらの群の存在を除外するものではないことを理解されたい。
【0076】
本明細書で用いられる「通信する」は、1つ又は2つ以上の追加の構成要素を介して(又はネットワークを経て)間接的に、又は通信すると記載された2つの構成要素間で直接的に物理的接続、又は無線接続を含む。
【0077】
ここで図示及び説明した実施形態は、最も実用的で好ましい実施形態と考えられるが、当業者であれば、ここに図示及び開示した特定の設計及び方法からの変更はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、記載し例証した特定の構成に限定されないが、添付の特許請求の範囲に含まれ得るすべての修正と一貫するように構成されているべきである。
【0078】
〔実施の態様〕
(1) 個人の屈折異常の進行を推定し、追跡する方法であって、
基準集団と比較することによって、少なくとも前記個人の年齢の関数として球面等価屈折(Spherical Equivalent Refraction)(SPHEQ)のパーセンタイルを推定することと、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定することと、
前記予測SPHEQの軌跡を前記基準集団と比較することと、
前記予測SPHEQの軌跡を、非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較し、それによって前記所定期間にわたる可能性のある治療の利点を示すことと、を含む、方法。
(2) 前記所定期間にわたる前記予測SPHEQの軌跡の誤差の確率を推定することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定し、基準集団と比較することと、
更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することと、を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 所与の非正視抑制治療を使用している間の前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定し、基準集団と比較することと、
更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することによって、所定期間にわたる実際の治療の利点を示すことと、を更に含む、実施態様1に記載の方法。
(5) SPHEQのパーセンタイルの前記推定は、年齢と、国、地域、性別、民族性、又は両親の履歴のうちの少なくとも1つとの関数として球面等価屈折データを含む選択されたデータセットからSPHEQの集団基準パーセンタイルをモデリングすることを含む、実施態様1に記載の方法。
【0079】
(6) 前記集団基準パーセンタイルは選択されたパーセンタイルきざみの曲線を含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡の前記推定は、前記個人のベースライン年齢及びベースラインSPHEQの関数である、実施態様1に記載の方法。
(8) 将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡の前記推定は、前記個人のベースライン年齢、ベースラインSPHEQ、及び過去の屈折の履歴の関数である、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記過去の屈折の履歴は一年当たり0.5D〜1.5Dの進行率を含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記非正視抑制治療は近視抑制眼用レンズを含む、実施態様1に記載の方法。
【0080】
(11) 前記近視抑制眼用レンズは近視抑制コンタクトレンズを含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記予測SPHEQの軌跡と非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(13) 前記表示はスマートデバイスのグラフィックユーザーインターフェース上である、実施態様12に記載の方法。
(14) 周期的間隔で所与の非正視抑制治療を使用している間の前記個人の実際のSPHEQ屈折の履歴を測定することと、
各々の間隔で更新済みの予測SPHEQの軌跡を推定することと、
安全性の高いサーバ又はデータベースに各々の間隔での前記更新済みの予測SPHEQの軌跡を含むデータを保存することと、を更に含む、実施態様4に記載の方法。
(15) 前記保存済みデータを閲覧する認証を受けたユーザーにアクセスを提供することを更に含む、実施態様14に記載の方法。
【0081】
(16) 前記認証を受けたユーザーはアイケア提供者、顧客、両親、又は小児のうちの少なくとも1つを含む、実施態様14に記載の方法。
(17) 年齢とSPHEQ屈折測定値とを含む前記保存済みデータを第三者に提供することと、
前記非正視抑制治療の有効性についての臨床データを含むデータベースを更新することと、を更に含む、実施態様14に記載の方法。
(18) 複数の小児、及び/又は複数の非正視治療の選択肢についてのデータを保存することを含む、実施態様14に記載の方法。
(19) 個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するコンピュータ実装方法であって、
選択されたデータセットからのデータをモデリングすることにより基準集団と比較することによって、個人の年齢と、国、地域、性別、民族性、又は両親の履歴のうちの少なくとも1つとの関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定することと、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定することと、
グラフィックユーザーインターフェース上に、前記予測SPHEQの軌跡と非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡との比較を表示することと、を含む、方法。
(20) 個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するシステムであって、
将来の所定期間にわたる予測球面等価屈折(SPHEQ)の軌跡と近視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡とを推定するサーバと、
前記サーバからのデータを記憶する少なくとも1つのデータベースと、
ネットワークを介して前記サーバと通信し、将来の所定期間にわたる前記予測SPHEQの軌跡と近視抑制治療を使用した前記予測SPHEQの軌跡との比較を表示するグラフィックユーザーインターフェースを備えるスマートデバイスと、を備える、システム。
【0082】
(21) 個人の屈折異常の進行を推定し、追跡するコンピュータプログラム製品であって、
非一時的コンピュータ可読記憶媒体と、
基準集団と比較することによって、少なくとも前記個人の年齢の関数として球面等価屈折(SPHEQ)のパーセンタイルを推定するための第1のプログラム命令と、
将来の所定期間にわたる予測SPHEQの軌跡を推定するための第2のプログラム命令と、
前記予測SPHEQの軌跡を前記基準集団と比較するための第3のプログラム命令と、
前記予測SPHEQの軌跡を、非正視抑制治療を使用した予測SPHEQの軌跡と比較し、それによって前記所定期間にわたる可能性のある治療の利点を示すための第4のプログラム命令と、を備え、
前記第1、第2、第3、及び第4のプログラム命令は前記非一時的コンピュータ可読記憶媒体に記憶されている、コンピュータプログラム製品。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10