(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で述べる形状、寸法、材質等は、説明のための例示であって、エスカレーターの踏板溝清掃装置の仕様等に合わせ、適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、エスカレーター10の構成を示す図である。エスカレーター10は、建物の上層階の乗降口と下層階の乗降口との間を移動する複数の踏段12に利用者を乗せて運搬する昇降運搬装置である。利用者が乗る側、つまり上層階と下層階を結んで踏段12が移動する移動通路側には、欄干14と移動手摺16が移動通路の両側に配置され、移動通路の裏側、つまり建物の構造体の内部側にはトラス50が設けられる。
【0020】
図1に、走行方向と軸方向と高さ方向とを示す。走行方向は踏段12が走行する方向であり、走行方向の両側を区別するときは、下層階に向かう方向を一方側と呼び、上層階側に向かう方向を他方側と呼ぶ。軸方向は、後述する下部スプロケット54の回転軸58、溝清掃ブラシ部80の清掃軸部82、踏段軸28等の軸部の延びる方向であり、走行方向に直交する方向である。軸方向の両側は、下層階側から上層階側を見た方向における左側と右側とで区別する。高さ方向は、建物の上層階側と下層階側に関する方向である。
【0021】
踏段12は、ステップとも呼ばれ、無端ループ状の踏段チェーン20に複数個取り付けられた利用者運搬用の移動段である。
図2は、踏段12の斜視図である。踏段12は、利用者が足を載せる踏板22と、蹴り出しに対応するライザー24とがフレーム26によって一体化されたものである。
図2に示す踏段軸28は、フレーム26に回動自在に支持され、踏段チェーン20に接続される軸であり、踏段チェーン20から突き出した先端に追従ローラ30が取付けられる。ガイドローラ32は、図示しない踏段ガイドレールに案内されるローラである。
【0022】
踏板22において利用者が足を載せる上面の面積は、踏板22の走行方向に沿った寸法を奥行寸法Lsとし、軸方向に沿った長さを幅寸法Wsとして、(Ls×Ws)である。奥行寸法Lsは、利用者の足のつま先からかかとまでの長さに応じた十分な長さで足りるので、エスカレーター10の機種によらずほぼ一定値で、約400mmである。幅寸法Wsは、エスカレーター10の移動通路の幅寸法に相当し、小型機種ではWsは小さく、大型機種ではWsは大きい。
【0023】
図2において、踏板22には、利用客の足元のすべり止めを兼ねる踏板溝36が設けられる。踏板溝36は、踏板22において軸方向である幅方向に並び、走行方向に平行に延びる。踏板溝36は、溝深さdと溝幅Wdとを有する。踏板22の最上面を踏板面34と呼び、溝の底面を溝底面35と呼ぶと、溝深さdは、踏板面34と溝底面35との間の
高さ差に相当する。寸法の一例を挙げると、溝深さdは約11mm、溝幅Wdは約6mmである。
【0024】
図1に戻り、トラス50は、建物の構造体の内部側において、上層階から下層階に渡って設けられ、踏段12の移動機構、移動手摺16の移動機構等が配置される空間である。トラス50は、上層階側水平部と下層階側水平部とその間を接続する傾斜部とで構成される。
図1では図示を省略したが、上層階側水平部には、駆動モータや、駆動モータによって駆動される駆動スプロケット等が配置される上部機械室が設けられる。下層階側水平部には、下部機械室52が設けられ、下部スプロケット54が配置される。傾斜部には、駆動スプロケットと下部スプロケット54との間に掛け渡される踏段チェーン20等が配置される。
【0025】
図3は、下部機械室52を走行方向の一方側から見た正面図である。
図4は、下部機械室52を軸方向の左側から見た側面図である。
【0026】
下部機械室52においては、踏段チェーン20が下部スプロケット54の外周の歯部56に噛み合う。踏段チェーン20は、駆動スプロケットの回転駆動力によって移動駆動されるので、踏段チェーン20によって下部スプロケット54が回転軸58の周りに回転駆動される。下部機械室52においては踏段チェーン20の走行方向が反転するので、これに伴い、踏段チェーン20に踏段軸28を介して接続される複数の踏段12も、下部機械室52において踏板22の法線方向が反転する。
【0027】
例えば、欄干14の間の踏段12の走行方向を他方側から一方側に向う方向とする。この場合には、複数の踏段12の踏板22の法線方向は、高さ方向の上層階側を向いている状態から、下部スプロケット54の回転に伴って、走行方向の一方側を向くようになり、その後、高さ方向の下層階側を向く状態に移る。欄干14の間の踏段12の走行方向が一方側から他方側に向う方向の場合は、複数の踏段12の踏板22の法線方向は、高さ方向の下層階側を向いている状態から、走行方向の一方側を向くようになり、その後、高さ方向の上層階側を向く状態に移る。
【0028】
下部機械室52に設けられるエスカレーターの踏板溝清掃装置70は、下部機械室52における複数の踏段12の反転過程を利用して、各踏段12の踏板22の踏板溝36の清掃を行う装置である。以下では、特に断らない限り、エスカレーターの踏板溝清掃装置70を、踏板溝清掃装置70と呼ぶ。踏板溝清掃装置70は、スプロケット側回転体72、ブラシ側回転体74、支持台76,77、駆動力伝達部78、及び、溝清掃ブラシ部80を含む。
図5に、
図1から踏板溝清掃装置70の部分を抜き出して示す。
図6は、溝清掃ブラシ部80の分解図である。
【0029】
スプロケット側回転体72は、下部スプロケット54に取付けられ下部スプロケット54と一体となって回転する環状回転体である。スプロケット側回転体72の外周面は、駆動力伝達部78が掛け渡される面である。駆動力伝達部78が掛け渡されるスプロケット側回転体72の外径をD
0とすると、D
0は下部スプロケット54の外径よりも小さく設定される。
【0030】
スプロケット側回転体72を下部スプロケット54に取り付ける方法は、ねじ止めの他、下部スプロケット54が鉄材料であるときは磁石の磁気的吸引力を利用してもよい。スプロケット側回転体72は1つの環状回転体としてもよいが、例えば、既設のエスカレーター10に新たに踏板溝清掃装置70を設置する場合等においては、
図1、
図4に示すように、1つの環状回転体を複数の部分環状体に分割したものを組み合わせてもよい。かかるスプロケット側回転体72は、適当な強度を有する金属材料を所定の形状に成形して得られる環状回転体を用いることができる。金属材料としては、鋼材等が用いられる。
【0031】
ブラシ側回転体74は、溝清掃ブラシ部80と一体となって回転する回転体である。ブラシ側回転体74の外周面は、駆動力伝達部78が掛け渡される面である。駆動力伝達部78が掛け渡されるブラシ側回転体74の外径をD
1とすると、(D
0/D
1)が駆動力伝達部78によって回転駆動力が伝達されるときの増速比である。ここでは、ブラシ側回転体74を一様な外径D
1を有する軸としたが、駆動力伝達部78が掛け渡される部分の外径を異ならせてもよい。これによって、増速比の変更の自由度が増す。かかるブラシ側回転体74は、適当な強度を有する金属材料を所定の外径に成形して得られる回転体を用いることができる。金属材料としては、鋼材等が用いられる。
【0032】
支持台76,77は、下部機械室52の床面において軸方向に沿って所定の間隔を離して配置され、ブラシ側回転体74の両端部を回転自在に支持する支持部材である。
【0033】
駆動力伝達部78は、スプロケット側回転体72の外周面と、ブラシ側回転体74の外周面との間に掛け渡され、下部スプロケット54の回転駆動力をブラシ側回転体74に伝達するベルトである。回転駆動力の伝達効率を上げるために、スプロケット側回転体72の外周面とブラシ側回転体74の外周面のそれぞれに凹凸歯を設け、ベルトとして凹凸歯を有するタイミングベルトを用いることがよい。場合によっては、タイミングベルトに代えて適当なチェーンを用いてもよい。
【0034】
駆動力伝達部78は、スプロケット側回転体72とブラシ側回転体74との間に掛け渡されるので、スプロケット側回転体72の回転方向とブラシ側回転体74の回転方向とは同じ方向になる。
図5にその一例を示す。軸方向の左側からみて、スプロケット側回転体72が円弧状矢印で示すように時計方向に回転すると、駆動力伝達部78も円弧状矢印で示すように時計方向に回転する。したがって、ブラシ側回転体74も円弧状矢印で示すように時計方向に回転する。スプロケット側回転体72が反時計方向に回転すれば、ブラシ側回転体74も反時計方向に回転する。特別な回転反転機構を設けずに、スプロケット側回転体72とブラシ側回転体74とを駆動力伝達部78で直結することでスプロケット側回転体72の回転方向とブラシ側回転体74の回転方向とは同じ方向になる。このことは、後述するように、踏板22の踏板溝を清掃する際に有利となる。
【0035】
溝清掃ブラシ部80は、踏板22の踏板溝36を清掃するための回転ブラシ体である。溝清掃ブラシ部80の分解図を
図6に示し、溝清掃ブラシ部80の断面図を
図7に示す。溝清掃ブラシ部80は、ブラシ側回転体74によって回転駆動される清掃軸部82と、清掃軸部82の外周面に配置されるブラシ毛部84とを含む。
【0036】
清掃軸部82は、中心にブラシ側回転体74が挿入されて固定される内径穴を有する軸体である。清掃軸部82の内径穴の直径はブラシ側回転体74の外径D
1と同じである。清掃軸部82をブラシ側回転体74に固定する方法は、ねじ止め、キー溝とキーの組合せ、焼嵌め等を用いることができる。清掃軸部82の外径D
2は、ブラシ毛部84の内径と同じである。かかる清掃軸部82は、適当な強度を有する金属材料を所定の形状に成形して得られる軸体を用いることができる。金属材料としては、鋼材等が用いられる。
【0037】
ブラシ毛部84は、清掃軸部82の外径D
2と同じ内径の穴を有するプラスチック製の環状体86と、環状体86の外周に配置された多数のブラシ毛88とを含む。ブラシ毛88の先端を包絡する円筒形の外径がブラシ毛部84の外径D
4である。ブラシ毛部84の外径D
4は、溝清掃ブラシ部80の外径でもある。
【0038】
ブラシ毛88は、踏板22を傷付けないように、非金属製であることが好ましい。例えば、適当に細い外径を有する細長いプラスチック毛を用いることができる。これに代えて、棕櫚繊維等の繊維をブラシ毛88として用いてもよい。ブラシ毛88を環状体86の外周に配置する方法としては、プラスチック毛を用いるときは、環状体86と複数のブラシ毛88とを一体成型することができる。棕櫚繊維等の繊維をブラシ毛88として用いるときは、一種のインサートモールド法により、樹脂製の環状体86にブラシ毛88を埋め込み成形することができる。いずれの方法によっても、プラスチック製の環状体86の外周面にブラシ毛88の根元が配置されるので、
図7では、樹脂製の環状体86の外径をD
3と示す。ブラシ毛88の長さLbは、{(D
4−D
3)/2}である。
【0039】
ブラシ毛部84は、清掃軸部82に対し、交換可能に取り付けられる。これにより、ブラシ毛88が摩耗等した場合でも、新しいブラシ毛部84に交換することができる。交換可能とする方法としては、ねじ止め法を用いることができる。
【0040】
図7に示すように、溝清掃ブラシ部80の中心軸と、ブラシ側回転体74の中心軸とは同軸である。また、溝清掃ブラシ部80においては、清掃軸部82の中心軸とブラシ毛部84の中心軸は同軸であり、全てのブラシ毛88は同じ長さLbを有する。溝清掃ブラシ部80と踏板22の関係については、
図3に示すように、溝清掃ブラシ部80は、下部機械室52において反転過程の踏段12の踏板22の溝部である踏板溝36に向かい合い、複数の踏板溝36が並ぶ軸方向を踏板22の幅方向として踏板22の幅方向の全体に渡って配置される。溝清掃ブラシ部80の軸方向に沿った長さWcは、
図3に示すように、踏段12における踏板22の軸方向に沿った長さWsよりも長く設定される。
【0041】
溝清掃ブラシ部80の中心軸とブラシ側回転体74の中心軸とは同軸である溝清掃ブラシ部80を用いたときの踏板22と溝清掃ブラシ部80との接触関係の時間的変化を、動作モデル図である
図8から
図10を用いて説明する。
図8から
図10の各図においては、下部スプロケット54の回転軸58、踏段チェーン20、走行方向に沿って隣接して配置される3つの踏板22A,22B,22C、ブラシ側回転体74、溝清掃ブラシ部80のみを図示した。溝清掃ブラシ部80との接触関係は、踏板22Bについて述べ、踏板22A,22Cは、踏板22Bの前後関係についての単なる参考として示した。
【0042】
図8から
図10の各図は、下部機械室52を軸方向の左側から見た図である。各図において、踏段チェーン20は図示しない駆動スプロケットの回転駆動力によって矢印に示す方向に搬送速度Vで移動する状態である。
【0043】
搬送速度Vはエスカレーター10の運行モード等によって異なるが、通常の搬送速度Vの一例は、(30m/分=50cm/s)である。踏板22の走行方向に沿った奥行寸法Lsは約40cmであるので、1枚の踏板22の奥行寸法Lsを移動する時間は、約0.8sである。踏板22が下部機械室52において反転過程にあるとき、1枚の踏板22が奥行寸法Lsに相当する回転を行う時間もほぼ約0.8sで一定である。そこで、下部スプロケット54の回転軸58周りに1枚の踏板22がその奥行寸法Lsに相当する回転を行ったときの回転時間を、奥行寸法回転時間t
0と呼ぶ。
【0044】
図8は、踏板22Bの奥行方向の一方端(黒丸を付した)が溝清掃ブラシ部80に接触し始めた時点を示す図である。反転状態にある各踏板22A,22B,22Cにおいては、奥行方向の一方端または他方端から下部スプロケット54の回転軸58までの距離は、踏板22の奥行方向の他のどの位置についての下部スプロケット54の回転軸58までの距離よりも長い。すなわち、
図8の時点では、踏板22Bの奥行方向の一方端は、溝清掃ブラシ部80に最も深く接触する。
【0045】
図9は、
図8の状態から、踏板22Bが奥行寸法回転時間t
0の約半分に相当する時間(t
0/2)で回転したときについて、踏板22Bと溝清掃ブラシ部80との接触関係を示す図である。奥行寸法回転時間t
0で回転する回転角度をθ
0として、(t
0/2)の間に回転した回転角度(θ
0/2)を
図9に示す。
【0046】
この時点では、踏板22Bは、奥行方向のほぼ中央の位置で溝清掃ブラシ部80と接触する。反転状態にある各踏板22A,22B,22Cにおいては、奥行方向の中央の位置から下部スプロケット54の回転軸58までの距離は、踏板22の奥行方向の他のどの位置についての下部スプロケット54の回転軸58までの距離よりも短い。すなわち、踏板22Bの奥行方向の中央の位置は、溝清掃ブラシ部80に最も浅く接触する。
【0047】
踏板22Bは、溝清掃ブラシ部80に対向する位置にある。この状態における踏板22Bは、
図9において矢印の方向に搬送速度Vで移動する。移動する方向は、高さ方向について上層階側から下層階側に向かっている。一方、溝清掃ブラシ部80の回転方向は、駆動力伝達部78の動作の説明において述べたように、ブラシ側回転体74の中心軸周りに時計方向である。溝清掃ブラシ部80が踏板22Bに接触する箇所における移動方向は、高さ方向について下層階側から上層階側に向かっている。すなわち、溝清掃ブラシ部80に対向する踏板22Bの搬送速度Vで移動する方向は、溝清掃ブラシ部80の周方向速度の方向と逆方向になる。換言すると、溝清掃ブラシ部80は、対向する踏板22Bの移動方向と逆方向に回転駆動されている。これを踏板溝36の清掃速度について述べると、清掃速度は、(踏板22Bの移動速度)に(溝清掃ブラシ部80の周方向回転速度)が加算される。仮に、溝清掃ブラシ部80が、対向する踏段の移動方向と同じ方向に回転駆動されていると、清掃速度は、(踏板22Bの移動速度)から(溝清掃ブラシ部80の周方向回転速度)が減算される。したがって、溝清掃ブラシ部80は、対向する踏板22Bの移動方向と逆方向に回転駆動されることで、踏板溝36の清掃効率が向上する。このことは、他の踏板22A,22Cについても同様である。
【0048】
図10は、
図9からさらに進み、
図8の状態から、踏板22Bが奥行寸法回転時間t
0で回転したときについて、踏板22Bと溝清掃ブラシ部80との接触関係を示す図である。この時点では、踏板22Bは、奥行方向の他方端(黒丸を付した一方端に対し奥行方向に沿って反対側の端部)が溝清掃ブラシ部80に接触している。奥行方向の他方端から下部スプロケット54の回転軸58までの距離は、
図8で述べた奥行方向の一方端から下部スプロケット54の回転軸58までの距離と同じである。すなわち、
図8と同様に、
図10の時点では、踏板22Bの奥行方向の一方端は、溝清掃ブラシ部80に最も深く接触する。なお、踏板22Bについての
図10の状態は、すぐ後に隣接する踏板22Aについての
図8の状態と同じである。すなわち、下部スプロケット54が引き続き回転すると、踏板22Aが、
図8、
図9、
図10で述べた内容に従って、順次、溝清掃ブラシ部80に接触する。
【0049】
踏板22は円弧状に湾曲してなく平板状であるので、踏板22と溝清掃ブラシ部80との間の最近接距離は、下部スプロケット54の回転軸58から踏板22までの距離と同様に、踏板22が下部スプロケット54の回転軸58周りに回転するにつれて変動する。溝清掃ブラシ部80の中心軸とブラシ側回転体74の中心軸とが同軸であると、奥行寸法回転時間t
0の内で、踏板22に対しブラシ毛88の先端が軽く接触するときと、ブラシ毛88が踏板22に強く押し付けられるときとが生じる。これが各踏板22について繰り返されると、ブラシ毛の変形や摩耗が生じやすい。
【0050】
図11は、踏板22に対する溝清掃ブラシ部80の接触状態について、奥行寸法回転時間t
0の範囲の時間経過に対応させて示す図である。各図において、縦軸は、下部スプロケット54の回転軸58周りの踏板22の回転に関する時間tで、フルスケールは奥行寸法回転時間t
0である。ここでは、
図8から
図10に合わせ、踏板22Bについて述べる。
【0051】
図11(a)は、踏板22Bが溝清掃ブラシ部80と向かい合う部位と下部スプロケット54の回転軸58との間の距離Rpの変動と、踏板22Bの回転に関する時間tとの関係を示す図である。距離Rpの変動は、
図8から
図10で述べたように奥行寸法回転時間t
0を一周期とする変動特性90を有する。ここで、距離Rpは、下部スプロケット54の回転軸58から踏板22Bの踏板溝36の溝底面35までの距離とする。変動特性90の変動最大幅ΔRpは、
図8から
図10に示すように下部スプロケット54の半周当り約3枚の踏板22A,22B,22Cが配置される例では、踏板22の奥行寸法Lsを約400mmとして、数10mmの大きさとなり、溝深さdの数倍の大きさである。これは説明のための一例であり、エスカレーター10の仕様によって異なる値となる。
【0052】
図11(b)と(c)は、溝清掃ブラシ部80の中心軸とブラシ側回転体74の中心軸とが同軸の溝清掃ブラシ部80を用いたときについて、踏板22Bと溝清掃ブラシ部80との接触関係を示す図である。ここで、時間t=0のときのブラシ側回転体74の回転角度をθ
1として、時間tの経過とともに変化するθ
1の値によってブラシ側回転体74の回転状態を示す。初期状態は、時間t=0のときにθ
1=0度で、そのときに踏板22Bと接触する位置を
黒三角マークで示す。時間経過とともにブラシ側回転体74と一体となって溝清掃ブラシ部80が時計方向に回転し、黒三角マークもブラシ側回転体74の中心軸周りに時計方向に回転する。
【0053】
図11(b)は、奥行寸法回転時間t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数が1のときを示す図である。ブラシ側回転体74と一体になって回転する溝清掃ブラシ部80の回転角度は、t=0においてθ
1=0度の状態から、t=(t
0/4)のときθ
1=90度となる。以下、t=(t
0/2)のときθ
1=180度となり、t=(3t
0/4)のときθ
1=270度となる。そして、t=t
0でθ
1=360度となってθ
1=0度の初期状態に戻る。
【0054】
ここで、溝清掃ブラシ部80が踏板22Bと接触する状態は、溝清掃ブラシ部80の輪郭線が変動特性90と交わる位置で示される。すなわち、θ
1=180度のときに、踏板22Bに対しブラシ毛88の先端が軽く接触し、θ
1=0度と360度とにおいて、ブラシ毛88が踏板22Bに強く押し付けられる。θ
1=90度と270度においては、踏板22Bに対しブラシ毛88の先端が中間程度の接触となる。これは、
図8から
図10で述べた内容と一致する。
【0055】
θ
1が360度となると、次の踏板22Aについてθ
1=0度となり、これがθ
1=360度となると、さらに次の踏板22についてθ
1=0度となり、これが繰り返される。したがって、全ての踏板22との接触において、溝清掃ブラシ部80の回転角度θ
1が180度のときに、踏板22に対しブラシ毛88の先端が常に軽く接触し、θ
1=0度と360度とにおいて、ブラシ毛88が踏板22に常に強く押し付けられる。このように溝清掃ブラシ部80の特定の箇所において、ブラシ毛88が強く押し付けられることが繰り返されると、ブラシ毛88の変形や摩耗が生じやすい。上記は、奥行寸法回転時間t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数が1のときの例であるが、t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数が整数回転数であっても同様である。
【0056】
溝清掃ブラシ部80の特定の箇所においてブラシ毛88が強く押し付けられることを抑制するには、t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数を非整数回転数とすればよい。
図11(c)は、奥行寸法回転時間t
0に対応するブラシ側回転体の回転数が2.5のときを示す図である。θ
1の数字、
黒三角マークの内容は
図11(b)と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0057】
図11(c)の例では、奥行寸法回転時間t
0の間に、溝清掃ブラシ部80は2.5回回転する。溝清掃ブラシ部80の回転角度は、t=0においてθ
1=0度の状態から、2.5回回転して、t=t
0でθ
1=180度となる。
図8から
図10で示したのと同様に踏板22Bについて述べると、踏板22Bとの接触において、溝清掃ブラシ部80の回転角度θ
1が90度のときに、踏板22Bに対しブラシ毛88の先端が軽く接触し、θ
1=0度と180度とにおいて、ブラシ毛88が踏板22Bに強く押し付けられる。
【0058】
踏板22Bの次の踏板22Aの初期状態は、t=0でθ
1=180度となり、踏板22Bと初期状態がθ
1で180度ずれる。したがって、踏板22Aとの接触において、溝清掃ブラシ部80の回転角度θ
1が270度のときに、踏板22
Bに対しブラシ毛88の先端が軽く接触し、θ
1=180度と0度とにおいて、ブラシ毛88が踏板22Bに強く押し付けられる。つまり、踏板22に対しブラシ毛88の先端が軽く接触する回転角度θ
1は、異なる踏板22において異なっており、踏板22に対しブラシ毛88が強く押し付けられる回転角度θ
1も異なる踏板22において異なっている。したがって、ブラシ毛88が踏板22に強く押し付けられる箇所が複数枚の踏板22を清掃する間に平均化され、ブラシ毛の寿命が延びる。上記は、奥行寸法回転時間t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数が2.5のときの例であるが、t
0に対応するブラシ側回転体74の回転数が他の非整数回転数であっても同様である。
【0059】
溝清掃ブラシ部80の全周に渡って踏板22に対してブラシ毛88が均一の強さで当るようにするには、溝清掃ブラシ部80の中心軸がブラシ側回転体74の中心軸に対し偏心して取り付けられる構成とすればよい。
図11(d)は、偏心の大きさΔSを、変動特性90の変動最大幅ΔRpの半分に設定した溝清掃ブラシ部100を用いたときの踏板22Bと溝清掃ブラシ部100との接触関係を示す図である。θ
1の数字、
黒三角マークの内容は
図11(b)と同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0060】
図11(d)の例では、奥行寸法回転時間t
0の間に、溝清掃ブラシ部100は1回転する
。溝清掃ブラシ部100が踏板22Bと接触する状態は、溝清掃ブラシ部100の輪郭線が変動特性90と交わる位置で示されるが、ΔS=(ΔRp/2)に設定してあるので、常に、踏板22Bに対しブラシ毛88の先端が軽く接触している。軽く接触している状態として、ブラシ毛88の先端が踏板22Bの踏板溝36
の溝底面35に接触する程度とすることで、溝清掃ブラシ部100は、踏板22Bの奥行寸法Lsの全体に渡って、踏板溝36の清掃を十分に行うことができる。
【0061】
図12は、
図7に対応する図で、溝清掃ブラシ部100の断面図である。ここでは、清掃軸部82は、
図7と同じ内容とし、ブラシ毛部102を清掃軸部82に対して偏心させる。ブラシ毛部102は清掃軸部82に対して交換可能であることは、
図7の溝清掃ブラシ部80と同じである。ブラシ毛部102においては、プラスチック製の環状体104を偏心させた形状とし、ブラシ毛106の長さLbを環状体104の全周に渡って同一とした。この場合のブラシ毛106の長さLbは、踏板溝36の溝深さdよりも長く設定する。なお、
図7に示す溝清掃ブラシ部80の中心軸とブラシ側回転体74の中心軸とが同軸の場合には、ブラシ毛88の長さLbは、
図11(a)で述べた変動特性90の変動最大幅ΔRpよりも長く設定する。ここで変動最大幅ΔRpは、踏板溝36の溝深さdよりも長い。
【0062】
図12の構成に代えて、プラスチック製の環状体104は偏心させずに清掃軸部82と同軸とし、溝清掃ブラシ部100の外周輪郭線が清掃軸部82に対して偏心するように、ブラシ毛106の長さを環状体104の全周に渡って異なる長さとしてもよい。
【0063】
図13から
図15は、
図12の溝清掃ブラシ部100を用いたときの踏板22Bと溝清掃ブラシ部100との接触関係を示す図である。これらの図は、溝清掃ブラシ部80を用いたときの
図8から
図10に対応し、溝清掃ブラシ部80が溝清掃ブラシ部100に置き替わったことを除き、それ以外の内容は同じであるので、溝清掃ブラシ部100について変化した内容を中心に説明し、
図8から
図10に述べた内容と重複する部分の説明を省略する。
【0064】
図13は
図8に対応し、踏板22Bの奥行方向の一方端(黒丸を付した)が溝清掃ブラシ部100に接触し始めた時点を示す図である。この時点の状態は、
図11(d)におけるt=0の状態に対応し、踏板22Bの奥行方向の一方端は、溝清掃ブラシ部80に軽く接触している。
【0065】
図14は
図9に対応し、
図13の状態から、踏板22Bが奥行寸法回転時間t
0の約半分に相当する時間(t
0/2)で回転したときについて、踏板22Bと溝清掃ブラシ部80との接触関係を示す図である。この時点の状態は、
図11(d)におけるt=(t
0/2)の状態に対応し、踏板22Bの奥行方向の中央の位置は、溝清掃ブラシ部80に軽く接触している。
【0066】
図15は
図10に対応し、
図14の状態から進んで、
図13の状態から、踏板22Bが奥行寸法回転時間t
0で回転したときについて、踏板22Bと溝清掃ブラシ部80との接触関係を示す図である。この時点の状態は、
図11(d)におけるt=t
0の状態に対応し、踏板22Bの奥行方向の他方端は、溝清掃ブラシ部80に軽く接触している。
【0067】
このように、溝清掃ブラシ部100の中心軸がブラシ側回転体74の中心軸に対し偏心して取り付けられる構成とすることで、奥行寸法回転時間t
0の間、踏板22Bは、溝清掃ブラシ部80に常に軽く接触している。
【0068】
上記構成のエスカレーターの踏板溝清掃装置70によれば、エスカレーター10が運転中に自動的に踏板溝36を清掃できる。