(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置を示す構成図である。
図1中、レーザ光の光軸を実線又は二点鎖線で示し、熱輻射を粗い破線で示し、制御線及び測定結果の信号線を細かい破線で示す。
【0014】
本実施形態のレーザ加工装置1は、半導体素子材料のウェハを加工対象物41として、加工対象物41にレーザ光を照射してアニール処理を行うレーザアニール装置である。レーザ加工装置1は、制御部10、レーザ光源21、透過率変更部としてのアッテネータ22、走査部としての走査光学系23、ダイクロイックミラー24、レンズ25、26、熱輻射測定部27、ステージ31、全反射ミラー33及びパワーメータ34を備える。
【0015】
レーザ光源21は、例えばYAGレーザ等の固体レーザ又はCO2レーザ等のガスレーザであり、加工対象物41の表面部を高温に加熱するレーザ光を出力する。レーザ光源21は、例えば波長808nmなど波長が可視光波長域の上界にある近赤外ビームを出力する。レーザ光源21はレーザ発振器と呼んでもよい。
【0016】
アッテネータ22は、レーザ光の透過光量を変更可能なモジュールである。アッテネータ22は、制御信号に基づいてレーザ光の反射率又は吸収率を変化させ、これによりレーザ光の透過光量を連続的に変更できる。
【0017】
走査光学系23は、例えばガルバノミラーを含み、レーザ光の照射位置すなわち被加工位置P0を例えばステージ31の上面に沿った2方向へ変更できる。
【0018】
ダイクロイックミラー24は、レーザ光源21の出力波長の光を反射し、熱輻射を含む赤外領域の光を透過する。透過する赤外領域の波長は、例えば2〜3μmなどであり、赤外領域のうち加工対象物41(例えば単結晶ウェハ)の吸収の少ない波長が設定される。
【0019】
レンズ25は、例えばFθレンズであり、被加工位置へレーザ光を収束させる。また、レンズ25は、加工対象物の被加工位置P0から熱輻射を集光する。
【0020】
レンズ26は、レンズ25により集光され、ダイクロイックミラー24を透過した熱輻射を熱輻射測定部27へ収束させる。
【0021】
熱輻射測定部27は、例えば赤外線センサであり受光部に入力された熱輻射の強度を測定する。
【0022】
ステージ31は、加工対象物41を保持する台であり、レーザ光の光軸と交差する2方向へ移動可能に構成されている。ステージ31は、加工対象物41を保持する領域と異なる箇所に、全反射ミラー33を保持している。
【0023】
全反射ミラー33は、ステージ31の駆動によって、レーザ光の照射位置(レンズ25から照射されるレーザ光の光軸位置)まで移動できる。全反射ミラー33は、レーザ光の照射位置において、レーザ光を反射してパワーメータ34へ送る。
図1では、二点鎖線により全反射ミラー33がレーザ光の照射位置へ移動したときのレーザ光の光軸を示している。
【0024】
パワーメータ34は、レーザ光を受光してレーザ光のパワーを測定する。パワーとは、レーザ光の単位時間当たりのエネルギーを意味する。
【0025】
制御部10は、プログラムが格納された記憶装置、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)、作業用のメモリ、制御信号及び検出信号の入出力を行うI/O、ならびに、種々の機能回路を有するコンピュータである。制御部10は、レーザ光源21の駆動制御と、走査光学系23の駆動制御と、アッテネータ22の制御とを行う。さらに、制御部10は、熱輻射測定部27の測定値及びパワーメータ34の測定値を入力する
【0026】
図2は、制御部の内部構成の一部を示すブロック図である。
【0027】
制御部10は、さらに、目標値設定部11と、フィードバック制御部12とを有する。
【0028】
目標値設定部11は、加工処理中に加工対象物から放射される熱輻射の目標値を計算する。熱輻射の目標値は、例えば、加工対象物の理想の加熱温度に対応する一定値に設定される。あるいは、理想の加熱温度が走査位置に応じて異なる場合、熱輻射の目標値は、走査位置に応じて変化する値に設定されてもよい。理想の加熱温度は、ユーザから制御部10に入力される加工データに含まれていてもよい、加工データに含まれる種々のパラメータから目標値設定部11が計算してもよい。加工データとは、加工対象物の何処にどのようにレーザ光を照射するかを定められたデータであり、ユーザが作成する。目標値設定部11は、レーザ光が加工対象物に照射される走査期間において目標値をフィードバック制御部12へ出力する。
【0029】
フィードバック制御部12は、目標値設定部11が設定した目標値と、熱輻射測定部27の測定値とを入力する。フィードバック制御部12は、入力された目標値と測定値との差に基づいて、この差が小さくなるようにフィードバック処理を行ってアッテネータ制御信号を生成する。アッテネータ制御信号は、アッテネータ22へ送られて、アッテネータ22がレーザ光を透過する量を制御する。フィードバック制御部12は、例えばPID(Proportional-Integral-Differential)制御により、アッテネータ制御信号を生成する構成としてもよい。
【0030】
<動作説明>
上記構成のレーザ加工装置1によれば、先ず、加工対象物41のアニール処理の前の段階で、レーザ光源21の出力調整が行われる。出力調整の際には、ステージ31が移動して全反射ミラー33がレーザ光の照射位置に配置され、アッテネータ22が所定の透過率(例えば100%)に制御される。そして、制御部10が、レーザ光源21からレーザ光を出射させ、かつ、パワーメータ34の測定値を入力し、レーザ光のパワーが設定値になるようにレーザ光源21の出力が調整される。
【0031】
続いて、ステージ31に保持された加工対象物41がレーザ光の照射位置に配置された状態で、加工対象物41のアニール処理が開始される。アニール処理では、制御部10の制御によりレーザ光源21からレーザ光が出射される。すると、レーザ光は、アッテネータ22、走査光学系23、ダイクロイックミラー24及びレンズ25を経由して、加工対象物41の被加工位置P0に照射される。レーザ光が照射されると、加工対象物41の被加工位置P0が加熱され、被加工位置P0から熱輻射が放射される。この熱輻射は、レンズ25、ダイクロイックミラー24及びレンズ26を経由して熱輻射測定部27に送られ、熱輻射測定部27が熱輻射の量を測定する。制御部10は、レーザ光源21の駆動を継続しながら走査光学系23を制御し、レーザ光の照射位置を加工データに設定された走査経路に沿って変更する。
【0032】
レーザ光源21の駆動が継続される間、フィードバック制御部12は、熱輻射測定部27の測定値と、目標値設定部11が設定した目標値とを入力し、これらの差が小さくなるようにアッテネータ制御信号を生成する。そして、アッテネータ制御信号によりアッテネータ22を通過するレーザ光の透過量が制御され、これにより、被加工位置P0に照射されるレーザ光のパワーが調整されて、被加工位置P0の加熱温度が、予め設定された理想の温度に近づくように制御される。
【0033】
ここで、このような制御を行わずにアニール処理を行った場合に、加工対象物41から放射される熱輻射量について説明する。
【0034】
図3は、一定の強度のレーザ光をウェハの表面部に走査したときに測定された温度分布の一例を示すもので、(A)はウェハ全体の図、(B)は範囲Cの拡大図である。
図3(A)、
図3(B)はグレーの濃淡により温度の高低を表わす。濃い方が低温を表わす。
図3の例は、走査経路L1がX方向に延び、複数の走査経路L1がY方向に並び、レーザ光がこれらの走査経路L1に沿って走査した場合を示す。レーザ光の照射位置は、各走査経路L1の縁部で折り返されて、隣接する走査経路L1に移動し、隣接する2つの走査経路L1では走査方向が逆転する。
【0035】
このような走査パターンにおいては、レーザ光の強度が一定であっても、
図3(A)に示すように、加工対象物41の縁部分が中央部よりも高い温度になる。これは、
図3(B)に示すように、加工対象物41の縁部では、レーザ光が中央から端へ向かってレーザ光が走査した後、この周辺に熱が残留している間に、隣接する走査経路L1に沿って、レーザ光が端から中央へ向かって走査することによる。つまり、残留熱にレーザ光の熱が加わるためと考えられる。
【0036】
図4は、3つの走査パターンに対応する熱輻射の測定値のグラフを示す。
図5は、
図4の3つの走査パターンのうち、(A)は「Plus」の走査パターン、(B)は「Minus」の走査パターン、(C)は「Raster」の走査パターンをそれぞれ示す説明図である。
図4の各グラフは、縦軸に熱輻射測定部27のセンサ電圧を示し、横軸に測定No.を示す。測定No.とは、各測定値に時系列に付加した通し番号である。
図4の3つのグラフ線は、
図5(A)〜
図5(C)の走査パターンで計測された測定値を表わす。
【0037】
上述した
図3(A)、
図3(B)の例は、
図5(C)の走査パターンを適用したときの例に相当する。この場合の熱輻射の測定値を時系列に並べると、
図4の「Raster」のグラフになる。
図4の落ち込み箇所n1〜n3は、1つの直線状の走査経路L1から隣接する直線状の走査経路L1に移るときを示している。
図4の「Raster」のグラフから走査経路L1を折り返した直後の熱輻射が高くなっていることが分かる。
【0038】
また、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、一方向(「Plus」)の走査パターン、又はその逆方向(「Minus」)の走査パターンとした場合でも、レーザ光の強度が一定であると、
図4に示すように、熱輻射の量は均一にならない。さらに、
図4のグラフから一方向の走査と逆方向の走査とで熱輻射の現れ方に差異が生じることが分かる。これは、レーザ光のビーム形状が走査方向に沿った一方と他方とで完全に対称とならず、レーザ光の走査方向によって、同一点に照射されるレーザ光の強度の時間的な変化パターンに差異が生じるためと考えられる。ビーム形状とは、レーザ光のスポット内の強度分布を意味し、ビームプロファイルとも呼ばれる
【0039】
このように、一定のパワーのレーザ光でアニール処理を行った場合、走査パターン又は走査方向によって、加工対象物の表面部の加熱温度は不均一になる。
【0040】
一方、本実施形態のレーザ加工装置1によれば、熱輻射の測定値に基づくフィードバック制御によって、熱輻射の測定値が目標値に近づくよう、被加工位置P0に照射されるレーザ光の光量が制御される。これにより、
図3と
図4に示したような加工対象物の表面部の加熱温度の不均一さが低減され、例えば各部の加熱温度を均一に近づけることができるなど、適切な加熱処理を実現できる。
【0041】
以上のように、本実施形態のレーザ加工装置1によれば、熱輻射の測定値に基づくアッテネータ22の制御によって、加工対象物41の被加工位置P0を適切な温度に加熱処理できる。これにより、加工対象物41の表面部の各部を、例えば均一な加熱温度にできるなど、適切な加熱温度でアニール処理することが可能になる。
【0042】
また、本実施形態のレーザ加工装置1によれば、フィードバック制御部12が目標値と熱輻射の測定値との差に基づいてアッテネータ22を制御するので、目標値の設定により加熱温度を容易に設定変更することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、レーザアニール装置に本発明を適用した構成を一例に説明した。しかし、本発明は、レーザ光を照射して溶接又はソルダリングを行うレーザ溶接装置又はレーザソルダリング装置にも同様に適用できる。さらに、本発明は、レーザ光を照射して基板に孔を形成するレーザドリル装置にも適用することができる。レーザドリル装置は、例えばレーザ光のパルスを一箇所に複数回照射して孔を形成するが、1回目のレーザ光のバルス出力のときに測定された熱輻射の量に基づいて、2回目以降のレーザ光の透過量を制御することができる。このような制御により、孔を形成する基板の位置に応じてレーザ光による加熱量が適切な値から外れる場合に、2回目以降のレーザ光による加熱量を適切な値にして各孔を均一な品質で形成することが可能となる。
【0044】
また、上記実施形態では、走査部として、レーザ光の照射位置を変化させる走査光学系23を示した。しかし、本発明に係る走査部は、加工対象物41を動かすことでレーザ光が照射される位置を変化させる構成であってもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。