特許第6843660号(P6843660)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843660エチレン系重合体パウダー及びその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843660
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】エチレン系重合体パウダー及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20210308BHJP
   H01M 50/409 20210101ALI20210308BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C08F10/02
   H01M2/16 P
   D01F6/04
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-56517(P2017-56517)
(22)【出願日】2017年3月22日
(65)【公開番号】特開2018-158989(P2018-158989A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加賀 匠
(72)【発明者】
【氏名】藤原 昭夫
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055287(JP,A)
【文献】 特開2015−180716(JP,A)
【文献】 特開2015−168755(JP,A)
【文献】 特開2015−101680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/04
C08F 10/02
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)粘度平均分子量が200,000以上であり、
2)硫黄含有量が0.10以上50ppm以下の範囲であり、
3)塩素含有量/硫黄含有量の比が0.010以上10以下の範囲である、
エチレン系重合体パウダーであって、
該エチレン系重合体パウダー中の塩素含有量が10ppm以下である、エチレン系重合体パウダー
【請求項2】
エチレン単独重合体(A);及びエチレン共重合体(B)のいずれか一方であって、
該エチレン共重合体(B)は、
a)エチレン75.0重量%以上100質量%未満と、
b)炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH2
CHR(但し、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素
数4〜20の直鎖状、分岐状又は環状のジエン、よりなる群から選ばれる少なくとも1種
のオレフィンであるコモノマー0質量%超25.0重量%以下と、
を共重合して得られる、請求項1に記載のエチレン系重合体パウダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、成形体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、リチウムイオン二次電池用セパレーター。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、繊維。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、プレス成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン系重合体パウダー及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子量エチレン系重合体は、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、パイプ等多種多様な用途に用いられている。特に鉛蓄電池やリチウムイオン電池に代表される二次電池のセパレーター用微多孔膜及び高強度繊維の原料として、高分子量エチレン系重合体パウダーが用いられている。高分子量エチレン系重合体パウダーが用いられている理由としては、分子量が高いため、延伸加工性に優れ、強度が高く、化学的安定性が高く、かつ長期信頼性に優れること等が挙げられる。
【0003】
これら高分子量エチレン系重合体パウダーは、分子量が高いので射出成型等による加工が困難であり、それゆえに、プレス成形や押出し成形の他、溶剤に溶解して成型することが多い。産業界、特に、リチウムイオン二次電池セパレーター及び高強度繊維の業界では、高い需要成長とともに、低コスト化が強く求められており、高い生産性が強く望まれている。また、特にリチウムイオン二次電池セパレーター及び高強度繊維では、長期信頼性の観点から、膜厚や繊維径等、高い製品寸法安定性が強く望まれている。
【0004】
近年、高分子量エチレン系重合体パウダーが、それを用いたリチウムイオン二次電池セパレーター及び高強度繊維等の原料として開発されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−212373号公報
【特許文献2】国際公開第2004/081064号
【特許文献3】国際公開第2015/005287号
【特許文献4】特開2014−040577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、微多孔膜や高強度繊維等に使用される超高分子量のエチレン系重合体パウダー(以下、「エチレン系重合体パウダー」とも称す)は、未溶融物の無いことや、製造工程中に延伸工程が含まれうる高強度繊維の用途においては、延伸後の繊維が、糸切れや毛羽立ちが少ない均一な繊維であることが望まれている。一方、エチレン系重合体パウダーにはステアリン酸カルシウムなどの塩素キャッチャー剤を添加することが一般的である。しかし微多孔膜や高強度繊維の用途等においては、ポリマーの溶解後に回収リサイクルされる溶媒中にステアリン酸カルシウムが濃縮されることがあり、濃縮したステアリン酸カルシウムが成形体中に存在すると欠点(例えば微多孔膜中の比較的大きな穴(す)や高強度繊維の糸切れ等)が生じ得るため、ステアリン酸カルシウムなどの塩素キャッチャー剤を添加しないことを要望されている。しかし、従来のチーグラー・ナッタ型の触媒を用いて製造されるエチレン系重合体パウダーは、固体触媒にチタン−塩素を含むため、塩素キャッチャー剤を添加しない場合、高強度繊維の成型機や延伸ロールなどで錆が発生し、ロール等の掃除で生産加工機を停止することにより、連続して加工することができず、生産性に劣る問題がある。
【0007】
また、成形品にチタン−塩素が多く残存すると、成形直後や成形後、白色から黄色への調変化を起こすことが知られており、加工後の色調変化抑制も求められている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、溶融時の未溶融物、延伸加工時の糸切れや毛羽立ちが十分少なく、延伸後の強度が高く、ステアリン酸カルシウムなどの塩素キャッチャー剤を用いなくても、高生産性で生産加工機での長期連続安定運転が可能で、成形品の色調変化を抑制できる、エチレン系重合体パウダー、及び、そのようなエチレン系重合体パウダーを用いて得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、所定の超高
分子量エチレン系重合体パウダーであれば上記課題を解決できることを見出して、本発明
を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
1)粘度平均分子量が200,000以上であり、
2)硫黄含有量が0.10以上50ppm以下の範囲であり、
3)塩素含有量/硫黄含有量の比が0.010以上10以下の範囲である、
エチレン系重合体パウダーであって、
該エチレン系重合体パウダー中の塩素含有量が10ppm以下である、エチレン系重合体パウダー
〔2〕
エチレン単独重合体(A);及びエチレン共重合体(B)のいずれか一方であって、
該エチレン共重合体(B)は、
a)エチレン75.0重量%以上100質量%未満と、
b)炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH2
CHR(但し、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素
数4〜20の直鎖状、分岐状又は環状のジエン、よりなる群から選ばれる少なくとも1種
のオレフィンであるコモノマー0質量%超25.0重量%以下と、
を共重合して得られる、上記〔1〕に記載のエチレン系重合体パウダー。
〔3〕
上記〔1〕又は〔2〕に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、成形体。
〔4〕
上記〔1〕又は〔2〕に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、リチウムイオン二次電池用セパレーター。
〔5〕
上記〔1〕又は〔2〕に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、繊維。
〔6〕
上記〔1〕又は〔2〕に記載のエチレン系重合体パウダーを用いて得られる、プレス成型品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融時の未溶融物、延伸加工時の糸切れや毛羽立ちが十分少なく、延伸後の強度が高く、ステアリン酸カルシウムなどの塩素キャッチャー剤を用いなくても、高生産性で生産加工機での長期連続安定運転が可能で、成形品の色調変化を抑制できる、エチレン系重合体パウダー、及び、そのようなエチレン系重合体パウダーを用いて得られる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく。その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
〔エチレン系重合体パウダー〕
本実施形態に係るエチレン系重合体パウダーは、下記1)〜3)を満たす。
1)粘度平均分子量が200,000以上である;
2)該ポリマー中の硫黄含有量が0.10〜50ppmの範囲である;
3)該ポリマー中の塩素含有量/硫黄含有量比が0.010〜10の範囲である;
上記構成を有することにより、本実施形態に係るエチレン系重合体パウダーは、成形時の未溶融物が無く、得られる成形体の強度に優れ、成形時の糸切れや毛羽たちが少なく製品ロスが少ない。更には、エチレン系重合体パウダー中に塩素が少ないことにより、成型機・加工機の錆(金属腐食)を抑制でき、当該成型機・加工機を停止しなくてもよいので長期連続運転、具体的には成型品、例えばゲル紡糸繊維、リチウムイオン電池セパレーター等の加工品を連続で安定して生産することができる。また、塩素が少ないことにより、成形品の変色が少なく、製品としての品質の変化の十分少ないものが得られる。
【0013】
[粘度平均分子量(Mv)]
粘度平均分子量(Mv)は200,000以上である。粘度平均分子量(Mv)は、200,000以上15,000,000以下であることが好ましく、250,000以上10,000,000以下であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が200,000以上であることにより、本実施形態のエチレン系重合体パウダーが超高分子量となり、成形品の強度が向上する。また、粘度平均分子量が、15,000,000以下であることにより、延伸加工性が向上する。さらに粘度平均分子量が上記範囲であることにより、生産性により優れ、成形した場合には、延伸性及び膜強度により優れる。このような特性を有するエチレン系重合体パウダーは、例えばリチウムイオン二次電池セパレーターや高強度繊維に好適に用いることがでる。
【0014】
粘度平均分子量を上記範囲に制御する方法としては、エチレン系重合体パウダーを重合する際の反応器の重合温度を変化させることが挙げられる。一般には、重合温度を高温にするほど粘度平均分子量は低くなる傾向にあり、重合温度を低温にするほど粘度平均分子量は高くなる傾向にある。
【0015】
また、エチレン系重合体パウダーを重合する際に連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤を添加することで、同一重合温度でも生成するエチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量を低く制御できる。
【0016】
そしてまた、エチレン系重合体パウダーを製造する際の重合反応器内の連鎖移動剤(例えば水素など)を極力少なくするか、連鎖移動剤除去として水素添加能を有する化合物(水添触媒)を用いるなどの方法がある。特にメタロセン触媒を用いて重合する場合、重合初期活性が高いため、重合反応器に導入されたとき、触媒の分散不良などにより塊状のスケールを生成し易い。これを抑制するため、特開2000−198804号公報で重合反応器に入る前に、触媒と水素とを事前に混合しておくことが提案されているが、エチレン系重合体パウダーを重合する際には、導入された水素が重合系で連鎖移動剤として働き、エチレン系重合体パウダーの高分子量化を抑制する。エチレン系重合体パウダーを安定的に効率よく重合するためには、この水素を連鎖移動剤除去として水素添加能を有する化合物を添加することが必要である。すなわち水素添加能を有する化合物にて、エチレンを水素で水添化することで、エタンに消費され、重合系内の水素を除去することができる(例えば、国際公開第2004/081064号参照)。
【0017】
本実施形態に係るエチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量(Mv)は、デカヒドロナフタレン溶液中にエチレン系重合体パウダーを異なる濃度で溶解させ、135℃で求めた還元粘度を濃度0に外挿して求めた極限粘度[η](dL/g)から、以下の数式Aにより算出することができる。より詳細には、実施例に記載の方法により求めることができる。
Mv=(5.34×10)×[η]1.49 ・・・数式A
【0018】
[硫黄含有量]
本実施形態のエチレン系重合体パウダーの硫黄含有量は、0.10ppm以上50ppm以下であることが好ましく、0.10ppm以上40ppm以下であることがより好ましく、0.10ppm以上30ppm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態において、理由は定かではないが、この硫黄成分がポリマー中に存在することで、成形品加工機の錆の抑制や成形品の色調変化を抑制する効果、成形品中の未溶融物や糸切れや毛立ちの要因となり得る、重合反応器内の淀み部分などに付着して重合成長する異常重合物等を抑制する効果が有ることが見出された。そして、この効果をより十分に発揮させるには、硫黄成分をポリマー中に存在させるとともに、その含有量を0.10ppm以上の範囲にすることがよいこと、また、硫黄含有量を50ppm以下とすることにより、触媒活性が低下して色調変化することを抑制することができることが見出された。
【0020】
また、エチレン系重合体パウダー中の硫黄成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン系重合体パウダーを重合する際に重合系に添加し得る、硫黄成分を含有する硫黄化合物を由来とすることができ、当該硫黄化合物としては、有機硫黄化合物が好ましい。有機硫黄化合物としては、チオエーテル、チオフェン、チオール、スルホキシド、スルホン及びチオケトン、スルホン酸やスルホン酸エステル及びアミド化合物が好ましい。特に、スルホン酸やスルホン酸エステル及びアミド化合物がより好ましい。このような化合物として、エチレン系重合体パウダーを重合する際に、重合反応器へのポリマーの静電気付着を抑制するためInnospec社製(代理店丸和物産)のStadis450等の静電気防止剤を使用することも可能であり、このStadsi450等の静電気防止剤の中には、硫黄化合物の成分が存在する。
【0021】
そして、硫黄含有量については、重合して得られたパウダー内に硫黄成分が効果的に含有されやすくする観点から、助触媒と共に硫黄化合物を重合系に添加する方法、固体触媒と硫黄化合物を同一ラインないし近いラインで重合系に添加する方法、固体触媒中に硫黄化合物を混合した混合物を重合系に添加する方法、固体触媒と硫黄化合物を重合系の撹拌を低速で行うことにより、エチレン系重合体中の硫黄含有量を制御することができる。
【0022】
なお、上記硫黄含有量の制御する方法としての、固体触媒と硫黄化合物を近いラインで重合系に添加する方法について、当該「近いライン」とは、固体触媒と硫黄化合物を重合系に供給するラインの供給口を、例えば重合反応器の直径の10%以下の距離とすることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0023】
また、エチレン系重合体パウダーの硫黄含有量を上記範囲に制御する別の方法としては、重合活性を上げる方法、つまり、重合触媒や助触媒、重合温度、重合圧力、スラリー濃度、滞留時間などにより制御する方法が挙げられる。重合触媒としてはメタロセン系触媒を使用することが好ましい。
【0024】
なお、パウダーの硫黄含有量や後述の塩素含有量は、それぞれ硫黄原子や塩素原子を含む化合物のパウダーに対する含有量ではなく、それぞれ硫黄原子や塩素原子のパウダーに対する含有量を指す。
【0025】
[塩素含有量]
本実施形態のエチレン系重合体パウダーの塩素含有量は、10ppm以下であることが好ましく、8ppm以下であることがより好ましく、6ppm以下であることがさらに好ましい。塩素含有量を10ppm以下とすることにより、成形機の錆抑制や成形品の色調変化を抑制できる。
【0026】
なお、エチレン系重合体パウダーの塩素含有量を上記範囲に制御する方法としては、重合活性を上げる方法、つまり、重合触媒や助触媒、重合温度、重合圧力、スラリー濃度、滞留時間などにより制御する方法が挙げられる。重合触媒としてはメタロセン系触媒を使用することが好ましい。
【0027】
[塩素含有量/硫黄含有量]
本実施形態のエチレン系重合体パウダーの塩素含有量/硫黄含有量比は、0.010以上10以下であることが好ましく、0.050以上10以下であることがより好ましく、0.10以上10以下であることがさらに好ましい。エチレン系重合体パウダー中の塩素含有量/硫黄含有量の比を上記範囲にすることで、理由は定かではないが、塩素に対し硫黄が一定割合存在することとなり、ポリエチレン中の触媒由来の塩素による色調変化を抑制することができると推定される。
【0028】
エチレン系重合体パウダー中の塩素含有量/硫黄含有量比を制御する方法としては、助触媒と共に硫黄化合物を重合系に添加する方法、固体触媒と硫黄化合物を同一ラインないし近いラインで重合系に添加する方法、固体触媒中に硫黄化合物を混合した混合物を重合系に添加する方法、固体触媒と硫黄化合物を重合系の撹拌を低速で行うことにより、エチレン系重合体パウダー中の塩素含有量/硫黄含有量の比を制御することができる。
【0029】
また、エチレン系重合体パウダーの塩素含有量/硫黄含有量の比を上記範囲に制御する別の方法としては、重合活性を上げる方法、つまり、重合触媒や助触媒、重合温度、重合圧力、スラリー濃度、滞留時間などにより制御する方法が挙げられる。重合触媒としてはメタロセン系触媒を使用することが好ましい。
【0030】
[エチレン系重合体パウダーのコモノマー濃度]
本明細書中において、重合体を構成する各単量体単位の命名は、単量体単位が由来する単量体の命名に従う。例えば、「エチレン単位」とは、単量体であるエチレンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、エチレンの二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。また、「コモノマー単位」とは、単量体であるコモノマーを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味し、その構造は、コモノマーに含まれるオレフィンの二つの炭素が重合体主鎖となっている分子構造である。
【0031】
本実施形態で用いるエチレン系重合体パウダーとしては、特に限定されないが、具体的には、エチレン単独重合体、及びエチレンと、エチレンと共重合可能なオレフィンと、の共重合体が挙げられる。エチレンと共重合可能なオレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数3〜20のα−オレフィン、炭素数3〜20の環状オレフィン、式CH=CHR(ここで、Rは炭素数6〜20のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数4〜20のジエン、からなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンが挙げられる。当該ジエンは、直鎖状、分岐状又は環状である。この中でも、共重合可能なオレフィンとしては、微多孔膜や高強度繊維に代表される成形体の耐熱性及び強度の観点から、プロピレン及び1−ブテンが好ましい。エチレン系重合体パウダーがエチレンとオレフィンとの共重合を含む場合は、共重合体パウダーに占めるエチレンのモル比は、75質量%以上100質量%未満が好ましく、90質量%以上100質量%未満がより好ましく、5質量%以上100質量%未満がさらに好ましい。エチレン系重合体パウダーがエチレンとオレフィンとの共重合を含む場合において、エチレンのモル比が上記範囲内であることにより、耐熱性及び/又は強度により優れる傾向にある。
【0032】
エチレン系重合体パウダー中のb)コモノマー含有量を上記範囲に制御する方法としては、重合反応器内に添加する、b)コモノマー/[エチレン+b)コモノマー](モル%)を変化させることが挙げられる。通常のチーグラー・ナッタ触媒を用いたエチレン系重合体パウダーの製造では、b)コモノマーにより分子量が低下する傾向にある。これはb)コモノマーが一部連鎖移動剤として作用するためであると考えられる。エチレン系重合体パウダーの分子量を高めるには、できるだけb)コモノマーの含有量を少なくすることが好ましい。一方、メタロセン触媒では、分子量の制御は水素添加能を有する化合物の添加などで実施可能であるので、高分子量を維持したまま、b)コモノマー含有量の高い領域まで製造可能である。
【0033】
なお、b)コモノマー単位の含有量の測定は、G.J.RayらのMacromolecules, 10, 773 (1977)に開示された方法に準じて行われ、b)コモノマー単位の含有量は、13C−NMRスペクトルにより観測されるメチレン炭素のシグナルを用いて、その面積強度より算出することができる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
[エチレン系重合体パウダーの製造方法]
本実施形態に係るエチレン系重合体パウダーの製造に使用される触媒成分は、特に限定されず、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて製造することが可能であり、後述するメタロセン触媒システムを用いて製造することが好ましい。チーグラー・ナッタ触媒及びメタロセン触媒としては、例えば、特許第5782558号公報や国際公開第2015/005287号公報等に開示されているチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用することができる。
【0035】
前記触媒成分は、固体触媒成分、及び、有機金属化合物成分(以下、触媒と省略する)をエチレン系重合体パウダーの重合条件下である重合系内に添加する際には、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、予め両者を混合させた後に重合系内に添加してもよい。また組み合わせる両者の比率は、特に限定されないが、固体触媒中のチタン成分に対する有機金属化合物成分のモル比は、1以上500以下が好ましく、10以上200以下がより好ましく、10以上100以下がさらに好ましい。両者を混合させる他の目的としては、保存タンクや配管等への静電付着を防止することも挙げられる。
【0036】
エチレン系重合体パウダーの製造方法における重合法としては、懸濁重合法により、エチレンを重合し、又はエチレンとb)コモノマーとを共重合する方法が挙げられる。重合法は、重合熱を効率的に除熱する観点から、懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0037】
上記不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体的には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態のエチレン系重合体パウダーを得るための製造方法における重合温度は、40℃以上100℃以下であることが好ましく、50℃以上95℃以下であることがより好ましく、60℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。重合温度が40℃以上であることにより、工業的に効率的な製造が可能である。重合温度が100℃以下であることにより、重合ポリマーが一部溶融した、抜出ラインを詰めるような塊状のスケールを抑制でき、連続的な安定した製造が可能である。
【0039】
本実施形態のエチレン系重合体パウダーを得るための製造方法における重合圧力は、常圧以上2MPa以下であることが好ましく、0.2MPa以上1.5MPa以下であることがより好ましく、0.3MPa以上1.0MPa以下であることがさらに好ましい。重合圧力が常圧以上であることにより、触媒残渣となる金属成分や塩素量の少ないエチレン系重合体パウダーが得られる傾向にある。重合圧力が2MPa以下であることにより、重合反応器内での急重合による塊状のスケールを発生させることがなくエチレン系重合体パウダーを安定的に生産できる傾向にある。
【0040】
一般的にエチレン系重合体パウダーを重合する際には、重合反応器へのポリマーの静電気付着を抑制するためInnospec社製(代理店丸和物産)のStadisやSTATSAFE等の静電気防止剤を使用することも可能である。StadisやSTATSAFE等の静電気防止剤は、不活性炭化水素媒体に希釈したものをポンプ等により重合反応器に添加することもできる。この際の添加量は、単位時間当たりのエチレン系重合体パウダーの生産量に対して、1ppm以上500ppm以下が好ましく、10ppm以上250ppm以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態のエチレン系重合体パウダーを含むスラリーは重合反応器から定量的に抜出し、遠心分離機等を用いて溶媒と分離後、乾燥機に送られる。この際の、溶媒含有率は、20重量%以上50重量%に制御することが好ましい。
【0042】
本実施形態のエチレン系重合体パウダーを得るための、重合後の乾燥方法としては、できるだけ熱をかけない乾燥方法が好ましい。乾燥機の形式としては、ロータリーキルン方式やパドル方式や流動乾燥機などが好ましい。乾燥温度としては50℃以上150℃以下が好ましく、70℃以上100℃以下がさらに好ましい。また乾燥機に窒素等の不活性ガスを導入し乾燥を促進することも効果的である。その際に、固体触媒の失活剤としてスチーム等を同伴させる方法も更に効果的である。
【0043】
本実施形態のエチレン系重合体パウダーは、必要に応じて、公知の各種添加剤を添加して用いてもよい。上記添加剤としては、熱安定剤、滑剤、及び、塩化水素吸収剤等が挙げられる。上記熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;や、ビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、2−(2−ヒドロキシ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤;等が挙げられる。また、上記滑剤や上記塩化水素吸収剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩等が好適に挙げることができる。
【0044】
[エチレン系重合体パウダーの成形体]
本実施形態においては、上記のエチレン系重合体パウダーを用いて、成型体を得ることができ、具体的には、リチウムイオン電池セパレーター、繊維(高強度繊維など)及びプレス成型品を得ることができる。上記のエチレン系重合体パウダーを用いることにより、上記の成型品を製造する際、プレス板やゲル紡糸、リチウムイオン電池セパレーター等の成型機廻りの金属腐食を抑制でき、それゆえに、連続的に安定して生産された成形品を得ることができる。また、エチレン系重合体パウダー中に塩素が少ないので、成形品の変色が少なく、製品としての品質の変化の無いものが得られる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、エチレン系重合体パウダーの物性の評価方法について説明する。
【0046】
[エチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量(Mv)の測定方法]
エチレン系重合体パウダーの分子量は、ISO1628−3(2010)従って、以下に示す方法によって求めた。
【0047】
まず、溶融管にエチレン系重合体パウダー10mgを秤量し、溶融管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを1g/Lとなるように加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌して該エチレン系重合体パウダーを溶解させた。該エチレン系重合体パウダーの溶液を135℃の恒温槽で、キャノン−フェンスケの粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号−100)を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、上記エチレン系重合体パウダー量を7mg、5mg、3mgと変えたサンプルついても同様に標線間の落下時間(ts)を測定した。ブランクとしてデカヒドロナフタレンのみの落下時間(tb)を測定した。以下の式に従って求めたエチレン系重合体パウダーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とエチレン系重合体パウダーの還元粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿し、極限粘度[IV]を求めた。
ηsp/C=(ts/tb−1)/C (単位:dL/g)
この極限粘度を下記式に代入し粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=(5.34×10)×[η]1.49
【0048】
[エチレン系重合体パウダーの硫黄含有量の測定]
エチレン系重合体パウダーを100mg秤量し、燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを薄い過酸化水素を含む純水に吸収させ、吸収液の一部を自動的にイオンクロマトグラフに注入し測定した。
燃焼システム :燃焼炉(SQ−1型)、吸収ユニット(HSU−35型)
燃焼管 :石英製
燃焼炉温度 :移動炉内400→900℃、16分 固体炉内 1,000℃、4 分
イオンクロマトシステム:ICA−2000東亜ディーケーケー(株)製
カラム :Shodex IC SI−90 4E
(4.0mm ID*250mm) 35℃
溶離液 :1.0mMol/L NaCO 1.7mMol/L NaHCO
流速 :1.2ml/min
注入量 :100μl
吸収液 :少量のH添加純水(25ml+15ml、total40ml)
検出 :電気伝導度検出
尚、検量線作成には標準試料(C12NOFClBrS、分子量364.62、S=8.79%)を用いた。
【0049】
[エチレン系重合体パウダーの塩素含有量の測定]
エチレン系重合体パウダーを自動試料燃焼装置(三菱化学アナリテック社製 AQF−100)で燃焼後、吸収液に吸収させ、その吸収液をイオンクロマトグラフ装置(ダイオネクス社製、ICS1500、カラム(分離カラム:AS12A、ガードカラム:AG12A)サプレッサー ASRS300)に注入させ全塩素含有量を測定した。
【0050】
[エチレン系重合体パウダーの腐食(耐錆性)試験]
上下に260mm*260mm*厚さ5mmのSUS鉄板と、300mm*300mm*厚さ0.1mmのアルミ箔、厚み50μmのPETマイラーを置き、その上に50mm*50mm*厚さ2mmのSUS316の鉄板(以下SUS板と記す)を4枚置き、エチレン系重合体パウダーを160g流し込み平らにならし、神藤金属鉱業所製圧縮成型機(型式SFA−37)を用いて、温度200℃にて、(1次加圧)圧力15MPa、300秒の条件で加圧した後脱気(0MPa)し、(2次加圧)圧力15MPa、5秒の条件で加圧した後脱気(0MPa)する操作を5サイクル行い、(3次加圧)圧力15MPa、900秒の条件で加圧して常圧にする、という工程で圧縮成型した後、同所圧縮成型機(同形式)の25℃に冷却された圧縮成型機にて15MPaで600秒冷却した。取り出した、エチレン系重合体パウダーと接触したSUS板を取り外した。
【0051】
温度60℃、湿度90%のEYELA製恒温恒湿槽の中に上記SUS板を入れ、一定時間後(20、40、60、120分)のサンプルの錆の発生状況を確認し以下の基準にて評価を実施した。
○:錆発生無
×:錆発生
【0052】
[エチレン系重合体パウダーの欠点測定]
100ccのポリカップに、エチレン系重合体パウダー4.0g、及び酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.012g(0.3質量%)投入して、ドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。さらに、該混合物に流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)36.0g(ポリエチレン濃度10質量%)を投入し、室温にてスパチュラで撹拌することにより、均一なスラリーを得た。
【0053】
当該スラリーを190℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製4C150−01型)に投入し、窒素雰囲気下、回転数50rpmで30分間混練した。混練によって得られた混合物(ゲル)を165℃に加熱したプレス機で圧縮することにより、厚さ1.0mmのゲルシートを作製した。作製したゲルシートから10cm×10cmの試験片を切り出し、120℃に加熱した同時二軸テンター延伸機にセットし、3分間保持した。その後、12mm/secのスピードでMD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍(即ち、7×7倍)になるように延伸した。次に延伸後のシートをノルマルヘキサン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ノルマルヘキサンを乾燥除去した。抽出完了後の薄膜を室温で10時間乾燥した。乾燥後の薄膜を光にかざして、30cm×30cm中に存在する直径1mm以上の白点(溶け残り)の数をカウントした。
溶解性の評価は以下の基準で実施した。
○:欠点の数が、5個以下である。
×:欠点の数が、5個超である。
【0054】
[エチレン系重合体パウダーの耐変色性]
日本電色工業(株)製カラーマシーン(Z−300A型)を使用し、標準白板をレファレンスとして、同大きさの超高分子量エチレン系重合体のプレス成形体をサンプルとして測定し算出されるb値をもって、色の変化を確認する。
スガ試験機(株)製キセノンウェーザーメーター(形式X75)を用いキセノンランプ照射後50、100、250、500時間後のサンプルの色調変化をもって耐変色性とした。
耐変色性:○ b値<5
× b値≧5
【0055】
[参考例1]
触媒合成例1:固体触媒成分[A]の調製
(1)(A−1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で500rpmで攪拌しながら組成式AlMg(C11(OCで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(A−1)担体を得た。
(2)固体触媒成分[A]の調製
上記(A−1)担体150gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg(C11(OSiHCHで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に400rpmで撹拌しながら1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。この固体触媒成分[A]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0056】
[参考例2]
触媒合成例2:メタロセン系触媒の調製
メタロセン系触媒は、以下の固体触媒[B]、液体成分[E]及び水添触媒[F](水素添加能を有する化合物)から構成される。
【0057】
(固体触媒[B]の調製)
固体触媒[B]の調製を行うにあたって、まず、下記シリカ担体[B1]、遷移金属化合物成分[C]、活性化剤[D]の調製を行った。
【0058】
((シリカ担体[B1]の調製))
シリカ担体[B1]の前駆体として、平均粒径7μm、比表面積660m/g、細孔容積1.4mL/g、圧縮強度7MPaのシリカを用いた。
【0059】
窒素置換した容量8Lオートクレーブに加熱処理後のシリカ(130g)をヘキサン2500mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーに、攪拌下20℃にて、ルイス酸性化合物であるトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1M)を195mL加えた。その後、2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させて、トリエチルアルミニウムを吸着させたシリカ担体[B1]のヘキサンスラリー2695mLを調製した。
【0060】
((遷移金属化合物成分[C]の調製))
遷移金属化合物(C−1)として、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「錯体1」と略称する)を使用した。また、有機マグネシウム化合物(C−2)として、組成式Mg(C)(C)(以下、「Mg1」と略称する)を使用した。
【0061】
200mmolの錯体1をイソパラフィン炭化水素(エクソンモービル社製アイソパーE)1000mLに溶解し、これにMg1のヘキサン溶液(濃度1M)を40mL加え、更にヘキサンを加えて錯体1の濃度を0.1Mに調整し、遷移金属化合物成分[C]を得た。
【0062】
((活性化剤[D]の調製))
ボレート化合物(D−1)として、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する)17.8gをトルエン156mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液に(D−2)としてエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液15.6mLを室温で加え、さらにトルエンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるように調整した。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む活性化剤[D]を調製した。
【0063】
上記操作により、シリカ担体[B1]、遷移金属化合物成分[C]、活性化剤[D]を得、そして、固体触媒[B]を次のようにして調製した。
シリカ担体[B1]のスラリー2695mLに、25℃にて400rpmで撹拌しながら、活性化剤[D]219mLと、遷移金属化合物成分[C]175mLと、を別のラインから定量ポンプを用い、同時に添加し、添加時間30分で、その後、3時間反応を継続することにより、固体触媒[B]を調製した。
【0064】
(液体成分[E]の調製)
有機マグネシウム化合物[E1]として、組成式AlMg(C(C12(以下、「Mg2」と略称する)を使用した。
200mLのフラスコに、ヘキサン40mLとMg2を、MgとAlの総量として38.0mmolを攪拌しながら添加し、20℃でメチルヒドロポリシロキサン(25℃における粘度20センチストークス;以下、「シロキサン化合物」と略称する)2.27g(37.8mmol)を含有するヘキサン40mLを攪拌しながら添加し、その後80℃に温度を上げて3時間、攪拌下で反応させることにより、液体成分[E]を調製した。
【0065】
(水添触媒[F]の調製)
窒素置換した攪拌機付の容量2.0LのSUSオートクレーブに、チタノセンジクロライド37.3gをヘキサン1Lで導入した。500rpmで撹拌しながら、トリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドの(9:1)の混合物0.7mol/L、429mLを室温で、1時間かけてポンプで添加した。添加後71mLのヘキサンでラインを洗浄した。1時間撹拌を継続し、濃青色の均一な100mM/L溶液[F]を得た。
【0066】
[実施例1]
3枚後退翼付の撹拌装置と3枚邪魔板が付いたベッセル型300L重合反応器を用いた。重合反応器の撹拌速度は120prmとした。重合温度はジャケット冷却により75℃に保った。溶媒としてノルマルヘキサンを60L/時間で供給した。固体触媒[B]を生産速度が10kg/時間となるように供給した。固体触媒には、Stadis450をノルマルヘキサンで希釈したものを、固体触媒に対して10wt%で添加した。液体成分[E]をMgとAlの総量として6mmol/時間で供給した。水素は固体触媒[B]のフィード配管に4NL/時間で供給した。重合温度75℃、重合圧力0.8MPaG、平均滞留時間2.3時間の条件で、エチレンを供給し連続重合を行った。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器内のレベルが一定に保たれるよう圧力0.05MPaG、温度60℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、水素を分離した。次にエチレン系重合体スラリーは、フラッシュタンクからポンプにより連続的に遠心分離機に送り、ポリマーと溶媒を分離し、分離されたエチレン系重合体パウダーは、80℃に制御された乾燥機に送り、窒素ブローしながら乾燥させた。
【0067】
触媒の重合活性は、9,600g/gsで、得られたエチレン系重合体パウダーPE1の粘度平均分子量は300,000、嵩密度は0.32g/cmであった。結果は、表1に記載する。
【0068】
[実施例2]
水素フィード配管に、別途水添触媒[F]を反応器内濃度が0.3μmol/Lとなるように供給した以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE2を得た。結果は、表1に記載する。
【0069】
[実施例3]
水添触媒のフィード量を重合反応器内濃度で0.6μmol/Lとした以外は、実施例1と同様に行ないエチレン系重合体パウダーPE3を得た。結果は、表1に記載する。
【0070】
[実施例4]
水添触媒のフィード量を重合反応器内濃度で4.0μmol/Lとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE4を得た。結果は、表1に記載する。
【0071】
[実施例5]
α−オレフィンとして、1−ブテンを、系内のエチレンに対する濃度(α−オレフィン/(エチレン+α−オレフィン))として0.13mol%フィードとした以外は、実施例4と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE5を得た。結果は、表1に記載する。
【0072】
[実施例6]
フラッシュタンクにStadis450をエチレン系重合体に対して10g/hにて添加した以外は、実施例3と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE6を得た。結果は、表1に記載する。
【0073】
[実施例7]
固体触媒に添加するStadis450の代わりに、「ジノニルナフタレンスルホン酸」を用いた以外は実施例1と同様に行いエチレン系共重合体パウダーPE7を得た。結果は、表1に記載する。
【0074】
[比較例1]
固体触媒にStadis450を添加せずにおこなった以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE8を得た。重合反応器からの抜取がしばしば詰まる傾向にあった。結果は、表1に記載する。
【0075】
[比較例2]
重合反応器に別途水素を気相から添加し、重合反応器内のエチレンに対する濃度(水素/エチレン+水素)として1,700ppmとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE9を得た。結果は、表1に記載する。
【0076】
[比較例3]
固体触媒にStadis450を添加せず、別途液体成分[E]の供給配管に、重合生産速度に10kg/h対して25ppmとなる様添加した以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE10を得た。結果は、表1に記載する。
【0077】
[比較例4]
重合反応器の撹拌速度を500prmとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE11を得た。結果は、表1に記載する。
【0078】
[比較例5]
実施例1と同様の重合反応器を使用した。重合温度はジャケット冷却により78℃に保った。ヘキサンは60L/Hrで重合器に供給した。固体触媒成分[A]を1g/hと、助触媒成分としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライド(9:1)の混合物0.7mol/Lを10mmol/Hrの速度で固体触媒成分[A]とは別の導入ラインにより添加した。固体触媒には、Stadis450をノルマルヘキサンで希釈したものを、固体触媒に対して10wt%で添加した。エチレンを連続的に供給して重合圧力を0.35MPaに保った。エチレン系重合体の製造速度は10kg/Hrを保ち、エチレン系重合体パウダーPE12を得た。結果は、表1に示す。
【0079】
[比較例6]
固体触媒に添加するStadis450の添加量を30wt%とし、さらに重合反応器に別途Stadis450を生産速度10kg/hrに対して10g/hr添加した以外は実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE13を得た。結果は、表1に記載する。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示す結果から明らかなように、粘度平均分子量、硫黄含有量及び塩素含有量/硫黄含有量を所定の範囲内にした実施例1〜7は、それらを範囲外とした比較例1〜6と比較して、耐錆性が良く、欠点個数が少なく、耐変色性が良いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のエチレン系重合体パウダーは、高生産性での連続製造が可能で、微多孔膜や高強度繊維などの強度が高く、成型加工機の錆を発生させることなく、長期連続安定生産が可能であることから、成形後の変色性も少ないく、リチウムイオン二次電池用微多孔膜やロープ、ネット、防弾衣料、防護衣料、防護手袋、繊維補強コンクリート製品、ヘルメット等に使用される高強度繊維用途等の広い用途において、産業上の利用可能性を有する。