【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、エチレン系重合体パウダーの物性の評価方法について説明する。
【0046】
[エチレン系重合体パウダーの粘度平均分子量(Mv)の測定方法]
エチレン系重合体パウダーの分子量は、ISO1628−3(2010)従って、以下に示す方法によって求めた。
【0047】
まず、溶融管にエチレン系重合体パウダー10mgを秤量し、溶融管を窒素置換した後、20mLのデカヒドロナフタレン(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを1g/Lとなるように加えたもの)を加え、150℃で2時間攪拌して該エチレン系重合体パウダーを溶解させた。該エチレン系重合体パウダーの溶液を135℃の恒温槽で、キャノン−フェンスケの粘度計(柴田科学器械工業社製:製品番号−100)を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。同様に、上記エチレン系重合体パウダー量を7mg、5mg、3mgと変えたサンプルついても同様に標線間の落下時間(ts)を測定した。ブランクとしてデカヒドロナフタレンのみの落下時間(tb)を測定した。以下の式に従って求めたエチレン系重合体パウダーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)(単位:g/dL)とエチレン系重合体パウダーの還元粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿し、極限粘度[IV]を求めた。
ηsp/C=(ts/tb−1)/C (単位:dL/g)
この極限粘度を下記式に代入し粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=(5.34×10
4)×[η]
1.49
【0048】
[エチレン系重合体パウダーの硫黄含有量の測定]
エチレン系重合体パウダーを100mg秤量し、燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを薄い過酸化水素を含む純水に吸収させ、吸収液の一部を自動的にイオンクロマトグラフに注入し測定した。
燃焼システム :燃焼炉(SQ−1型)、吸収ユニット(HSU−35型)
燃焼管 :石英製
燃焼炉温度 :移動炉内400→900℃、16分 固体炉内 1,000℃、4 分
イオンクロマトシステム:ICA−2000東亜ディーケーケー(株)製
カラム :Shodex IC SI−90 4E
(4.0mm ID*250mm) 35℃
溶離液 :1.0mMol/L Na
2CO
3 1.7mMol/L NaHCO
3
流速 :1.2ml/min
注入量 :100μl
吸収液 :少量のH
2O
2添加純水(25ml+15ml、total40ml)
検出 :電気伝導度検出
尚、検量線作成には標準試料(C
12H
8NO
2FClBrS、分子量364.62、S=8.79%)を用いた。
【0049】
[エチレン系重合体パウダーの塩素含有量の測定]
エチレン系重合体パウダーを自動試料燃焼装置(三菱化学アナリテック社製 AQF−100)で燃焼後、吸収液に吸収させ、その吸収液をイオンクロマトグラフ装置(ダイオネクス社製、ICS1500、カラム(分離カラム:AS12A、ガードカラム:AG12A)サプレッサー ASRS300)に注入させ全塩素含有量を測定した。
【0050】
[エチレン系重合体パウダーの腐食(耐錆性)試験]
上下に260mm*260mm*厚さ5mmのSUS鉄板と、300mm*300mm*厚さ0.1mmのアルミ箔、厚み50μmのPETマイラーを置き、その上に50mm*50mm*厚さ2mmのSUS316の鉄板(以下SUS板と記す)を4枚置き、エチレン系重合体パウダーを160g流し込み平らにならし、神藤金属鉱業所製圧縮成型機(型式SFA−37)を用いて、温度200℃にて、(1次加圧)圧力15MPa、300秒の条件で加圧した後脱気(0MPa)し、(2次加圧)圧力15MPa、5秒の条件で加圧した後脱気(0MPa)する操作を5サイクル行い、(3次加圧)圧力15MPa、900秒の条件で加圧して常圧にする、という工程で圧縮成型した後、同所圧縮成型機(同形式)の25℃に冷却された圧縮成型機にて15MPaで600秒冷却した。取り出した、エチレン系重合体パウダーと接触したSUS板を取り外した。
【0051】
温度60℃、湿度90%のEYELA製恒温恒湿槽の中に上記SUS板を入れ、一定時間後(20、40、60、120分)のサンプルの錆の発生状況を確認し以下の基準にて評価を実施した。
○:錆発生無
×:錆発生
【0052】
[エチレン系重合体パウダーの欠点測定]
100ccのポリカップに、エチレン系重合体パウダー4.0g、及び酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.012g(0.3質量%)投入して、ドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。さらに、該混合物に流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10
−5m
2/s)36.0g(ポリエチレン濃度10質量%)を投入し、室温にてスパチュラで撹拌することにより、均一なスラリーを得た。
【0053】
当該スラリーを190℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製4C150−01型)に投入し、窒素雰囲気下、回転数50rpmで30分間混練した。混練によって得られた混合物(ゲル)を165℃に加熱したプレス機で圧縮することにより、厚さ1.0mmのゲルシートを作製した。作製したゲルシートから10cm×10cmの試験片を切り出し、120℃に加熱した同時二軸テンター延伸機にセットし、3分間保持した。その後、12mm/secのスピードでMD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍(即ち、7×7倍)になるように延伸した。次に延伸後のシートをノルマルヘキサン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ノルマルヘキサンを乾燥除去した。抽出完了後の薄膜を室温で10時間乾燥した。乾燥後の薄膜を光にかざして、30cm×30cm中に存在する直径1mm以上の白点(溶け残り)の数をカウントした。
溶解性の評価は以下の基準で実施した。
○:欠点の数が、5個以下である。
×:欠点の数が、5個超である。
【0054】
[エチレン系重合体パウダーの耐変色性]
日本電色工業(株)製カラーマシーン(Z−300A型)を使用し、標準白板をレファレンスとして、同大きさの超高分子量エチレン系重合体のプレス成形体をサンプルとして測定し算出されるb値をもって、色の変化を確認する。
スガ試験機(株)製キセノンウェーザーメーター(形式X75)を用いキセノンランプ照射後50、100、250、500時間後のサンプルの色調変化をもって耐変色性とした。
耐変色性:○ b値<5
× b値≧5
【0055】
[参考例1]
触媒合成例1:固体触媒成分[A]の調製
(1)(A−1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で500rpmで攪拌しながら組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OC
4H
9)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄し、(A−1)担体を得た。
(2)固体触媒成分[A]の調製
上記(A−1)担体150gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg
5(C
4H
9)
11(OSiHCH
3)
2で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に400rpmで撹拌しながら1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1,100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。この固体触媒成分[A]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
【0056】
[参考例2]
触媒合成例2:メタロセン系触媒の調製
メタロセン系触媒は、以下の固体触媒[B]、液体成分[E]及び水添触媒[F](水素添加能を有する化合物)から構成される。
【0057】
(固体触媒[B]の調製)
固体触媒[B]の調製を行うにあたって、まず、下記シリカ担体[B1]、遷移金属化合物成分[C]、活性化剤[D]の調製を行った。
【0058】
((シリカ担体[B1]の調製))
シリカ担体[B1]の前駆体として、平均粒径7μm、比表面積660m
2/g、細孔容積1.4mL/g、圧縮強度7MPaのシリカを用いた。
【0059】
窒素置換した容量8Lオートクレーブに加熱処理後のシリカ(130g)をヘキサン2500mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーに、攪拌下20℃にて、ルイス酸性化合物であるトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1M)を195mL加えた。その後、2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させて、トリエチルアルミニウムを吸着させたシリカ担体[B1]のヘキサンスラリー2695mLを調製した。
【0060】
((遷移金属化合物成分[C]の調製))
遷移金属化合物(C−1)として、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「錯体1」と略称する)を使用した。また、有機マグネシウム化合物(C−2)として、組成式Mg(C
2H
5)(C
4H
9)(以下、「Mg1」と略称する)を使用した。
【0061】
200mmolの錯体1をイソパラフィン炭化水素(エクソンモービル社製アイソパーE)1000mLに溶解し、これにMg1のヘキサン溶液(濃度1M)を40mL加え、更にヘキサンを加えて錯体1の濃度を0.1Mに調整し、遷移金属化合物成分[C]を得た。
【0062】
((活性化剤[D]の調製))
ボレート化合物(D−1)として、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と略称する)17.8gをトルエン156mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液に(D−2)としてエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液15.6mLを室温で加え、さらにトルエンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるように調整した。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む活性化剤[D]を調製した。
【0063】
上記操作により、シリカ担体[B1]、遷移金属化合物成分[C]、活性化剤[D]を得、そして、固体触媒[B]を次のようにして調製した。
シリカ担体[B1]のスラリー2695mLに、25℃にて400rpmで撹拌しながら、活性化剤[D]219mLと、遷移金属化合物成分[C]175mLと、を別のラインから定量ポンプを用い、同時に添加し、添加時間30分で、その後、3時間反応を継続することにより、固体触媒[B]を調製した。
【0064】
(液体成分[E]の調製)
有機マグネシウム化合物[E1]として、組成式AlMg
6(C
2H
5)
3(C
4H
9)
12(以下、「Mg2」と略称する)を使用した。
200mLのフラスコに、ヘキサン40mLとMg2を、MgとAlの総量として38.0mmolを攪拌しながら添加し、20℃でメチルヒドロポリシロキサン(25℃における粘度20センチストークス;以下、「シロキサン化合物」と略称する)2.27g(37.8mmol)を含有するヘキサン40mLを攪拌しながら添加し、その後80℃に温度を上げて3時間、攪拌下で反応させることにより、液体成分[E]を調製した。
【0065】
(水添触媒[F]の調製)
窒素置換した攪拌機付の容量2.0LのSUSオートクレーブに、チタノセンジクロライド37.3gをヘキサン1Lで導入した。500rpmで撹拌しながら、トリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライドの(9:1)の混合物0.7mol/L、429mLを室温で、1時間かけてポンプで添加した。添加後71mLのヘキサンでラインを洗浄した。1時間撹拌を継続し、濃青色の均一な100mM/L溶液[F]を得た。
【0066】
[実施例1]
3枚後退翼付の撹拌装置と3枚邪魔板が付いたベッセル型300L重合反応器を用いた。重合反応器の撹拌速度は120prmとした。重合温度はジャケット冷却により75℃に保った。溶媒としてノルマルヘキサンを60L/時間で供給した。固体触媒[B]を生産速度が10kg/時間となるように供給した。固体触媒には、Stadis450をノルマルヘキサンで希釈したものを、固体触媒に対して10wt%で添加した。液体成分[E]をMgとAlの総量として6mmol/時間で供給した。水素は固体触媒[B]のフィード配管に4NL/時間で供給した。重合温度75℃、重合圧力0.8MPaG、平均滞留時間2.3時間の条件で、エチレンを供給し連続重合を行った。重合反応器内の重合スラリーは、重合反応器内のレベルが一定に保たれるよう圧力0.05MPaG、温度60℃のフラッシュタンクに導き、未反応のエチレン、水素を分離した。次にエチレン系重合体スラリーは、フラッシュタンクからポンプにより連続的に遠心分離機に送り、ポリマーと溶媒を分離し、分離されたエチレン系重合体パウダーは、80℃に制御された乾燥機に送り、窒素ブローしながら乾燥させた。
【0067】
触媒の重合活性は、9,600g/gsで、得られたエチレン系重合体パウダーPE1の粘度平均分子量は300,000、嵩密度は0.32g/cm
3であった。結果は、表1に記載する。
【0068】
[実施例2]
水素フィード配管に、別途水添触媒[F]を反応器内濃度が0.3μmol/Lとなるように供給した以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE2を得た。結果は、表1に記載する。
【0069】
[実施例3]
水添触媒のフィード量を重合反応器内濃度で0.6μmol/Lとした以外は、実施例1と同様に行ないエチレン系重合体パウダーPE3を得た。結果は、表1に記載する。
【0070】
[実施例4]
水添触媒のフィード量を重合反応器内濃度で4.0μmol/Lとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE4を得た。結果は、表1に記載する。
【0071】
[実施例5]
α−オレフィンとして、1−ブテンを、系内のエチレンに対する濃度(α−オレフィン/(エチレン+α−オレフィン))として0.13mol%フィードとした以外は、実施例4と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE5を得た。結果は、表1に記載する。
【0072】
[実施例6]
フラッシュタンクにStadis450をエチレン系重合体に対して10g/hにて添加した以外は、実施例3と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE6を得た。結果は、表1に記載する。
【0073】
[実施例7]
固体触媒に添加するStadis450の代わりに、「ジノニルナフタレンスルホン酸」を用いた以外は実施例1と同様に行いエチレン系共重合体パウダーPE7を得た。結果は、表1に記載する。
【0074】
[比較例1]
固体触媒にStadis450を添加せずにおこなった以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE8を得た。重合反応器からの抜取がしばしば詰まる傾向にあった。結果は、表1に記載する。
【0075】
[比較例2]
重合反応器に別途水素を気相から添加し、重合反応器内のエチレンに対する濃度(水素/エチレン+水素)として1,700ppmとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE9を得た。結果は、表1に記載する。
【0076】
[比較例3]
固体触媒にStadis450を添加せず、別途液体成分[E]の供給配管に、重合生産速度に10kg/h対して25ppmとなる様添加した以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE10を得た。結果は、表1に記載する。
【0077】
[比較例4]
重合反応器の撹拌速度を500prmとした以外は、実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE11を得た。結果は、表1に記載する。
【0078】
[比較例5]
実施例1と同様の重合反応器を使用した。重合温度はジャケット冷却により78℃に保った。ヘキサンは60L/Hrで重合器に供給した。固体触媒成分[A]を1g/hと、助触媒成分としてトリイソブチルアルミニウムとジイソブチルアルミニウムハイドライド(9:1)の混合物0.7mol/Lを10mmol/Hrの速度で固体触媒成分[A]とは別の導入ラインにより添加した。固体触媒には、Stadis450をノルマルヘキサンで希釈したものを、固体触媒に対して10wt%で添加した。エチレンを連続的に供給して重合圧力を0.35MPaに保った。エチレン系重合体の製造速度は10kg/Hrを保ち、エチレン系重合体パウダーPE12を得た。結果は、表1に示す。
【0079】
[比較例6]
固体触媒に添加するStadis450の添加量を30wt%とし、さらに重合反応器に別途Stadis450を生産速度10kg/hrに対して10g/hr添加した以外は実施例1と同様に行いエチレン系重合体パウダーPE13を得た。結果は、表1に記載する。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示す結果から明らかなように、粘度平均分子量、硫黄含有量及び塩素含有量/硫黄含有量を所定の範囲内にした実施例1〜7は、それらを範囲外とした比較例1〜6と比較して、耐錆性が良く、欠点個数が少なく、耐変色性が良いことが分かった。