特許第6843715号(P6843715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843715
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】車両用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/32 20060101AFI20210308BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01Q1/32 A
   B60J1/00 G
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-164258(P2017-164258)
(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-41358(P2019-41358A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】土居 亮吉
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−217003(JP,A)
【文献】 特開2008−120253(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/190064(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第04323239(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
H01Q 1/22
H01Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の金属枠に嵌め込まれるガラス板と、
前記ガラス板に配置され、複数の水平加熱線を有するデフォッガと、
前記ガラス板における前記デフォッガの上方または下方の領域に配置されるノイズ遮蔽パターンと、
を備え、
前記ノイズ遮蔽パターンは、
水平方向延びる第1導体と、
前記第1導体の中央付近から垂直方向に延び、合計長さが300mm以上の第2導体と、を有する、窓ガラス。
【請求項2】
前記ノイズ遮蔽パターンは、前記デフォッガと所定間隔をおいて配置された第3導体をさらに備え、
前記第2導体は、電気的に結合されている第1部位と第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第1導体と前記第3導体とを連結し、
前記第2部位は、前記第1部位とは分断され、前記デフォッガの少なくとも1つの水平加熱線と交差している、請求項1に記載の窓ガラス。
【請求項3】
前記第2導体の前記第1部位と前記第2部位とは、容量結合されている、請求項2に記載の窓ガラス。
【請求項4】
前記第3導体と前記デフォッガとの距離が30mm以下である、請求項3に記載の窓ガラス。
【請求項5】
前記第3導体と前記デフォッガとの距離が10mm以下である、請求項3に記載の窓ガラス。
【請求項6】
前記第3導体と前記デフォッガとの距離が10mm以上30mm以下である、請求項3に記載の窓ガラス。
【請求項7】
前記ノイズ遮蔽パターンは、前記デフォッガの上方に配置されている、請求項1から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項8】
前記ガラス板において、前記デフォッガの上方または下方の前記ノイズ遮蔽パターンが配置されている領域の上下方向の長さは、100mm以上200mm以下である、請求項1から7のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項9】
前記第2部位の長さが、30mm以上600mm以下である、請求項3から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項10】
前記第2導体は、前記第1導体の中心から水平方向に100mm以内の範囲に連結されている、請求項1から9のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項11】
前記車両の前記ガラス板以外の箇所に設けられたアンテナと同じメディアの電波を受信し、前記ガラス板に配置されるサブアンテナをさらに備え、
前記第2導体は、前記第1導体の中心よりも前記サブアンテナから離れた側に配置されている、請求項1から9のいずれかに記載の窓ガラス。
【請求項12】
前記デフォッガの少なくとも1つの水平加熱線と交差する複数の垂直エレメントをさらに備えている、請求項3から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に取り付けられる車両用の窓ガラス(特に、リアガラス)は、金属枠に嵌め込まれているが、ガラス板は誘電体であるため、デフォッガなどの導体が配置されていない領域が、車内の電子機器(例えば、USBチャージャーなど)からのノイズを受信し、これを車外に再放射する現象が生じることが知られている。すなわち、ガラス板とこれを囲む金属枠がスロットアンテナとして機能し、電波を車外に再放射する。これにより、車外の外部アンテナがノイズを受信することになる。これを防止するため、例えば、特許文献1の窓ガラスでは、デフォッガの上方にノイズ遮蔽パターンを配置し、これによって、車内からのノイズを反射し、車外の外部アンテナに入るノイズを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような窓ガラスであっても、車外のアンテナのノイズの低減は十分ではなく、改善の余地があった。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、車両の金属枠に取り付けられた窓ガラスであって、車外のアンテナのノイズを低減することが可能な、車両用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.金属枠に嵌め込まれるガラス板と、
前記ガラス板に配置され、複数の水平加熱線を有するデフォッガと、
前記ガラス板における前記デフォッガの上方または下方の領域に配置されるノイズ遮蔽パターンと、
を備え、
前記ノイズ遮蔽パターンは、
水平方向延びる第1導体と、
前記第1導体の中央付近から垂直方向に延び、合計長さが300mm以上の第2導体と、
を有する、窓ガラス。
【0006】
なお、合計長さとは、連続的に延びる第2導体の長さ、あるいは第2導体が容量結合された複数のエレメントに分断されている場合の合計長さを意味する。また、本発明に係る窓ガラスは、例えば、車外面にアンテナが設けられた車両の金属枠に取り付けられる窓ガラスとすることができる。
【0007】
項2.前記ノイズ遮蔽パターンは、前記デフォッガと所定間隔をおいて配置された第3導体をさらに備え、
前記第2導体は、電気的に結合されている第1部位と第2部位とを有し、
前記第1部位は、前記第1導体と前記第2導体とを連結し、
前記第2部位は、前記第1部位とは分断され、前記デフォッガの少なくとも1つの水平加熱線と交差している、項1に記載の窓ガラス。
【0008】
項3.前記第2導体の前記第1部位と前記第2部位とは、容量結合されている、項2に記載の窓ガラス。
【0009】
項4.前記第3導体と前記デフォッガとの距離が30mm以下である、項3に記載の窓ガラス。
【0010】
項5.前記第3導体と前記デフォッガとの距離が10mm以下である、項3に記載の窓ガラス。
【0011】
項6.前記第3導体と前記デフォッガとの距離が10mm以上30mm以下である、項3に記載の窓ガラス。
【0012】
項7.前記ノイズ遮蔽パターンは、前記デフォッガの上方に配置されている、項1から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【0013】
項8.前記ガラス板において、前記デフォッガの上方または下方の前記ノイズ遮蔽パターンが配置されている領域の上下方向の長さは、100mm以上200mm以下である、項1から7のいずれかに記載の窓ガラス。
【0014】
項9.前記第2部位の長さが、30mm以上600mm以下である、項3から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【0015】
項10.前記第2導体は、前記第1導体の中心から水平方向に100mm以内の範囲に連結されている、項1から9のいずれかに記載の窓ガラス。
【0016】
項11.前記車両の前記ガラス板以外の箇所に設けられたアンテナと同じメディアの電波を受信し、前記ガラス板に配置されるサブアンテナをさらに備え、
前記第2導体は、前記第1導体の中心よりも前記サブアンテナから離れた側に配置されている、項1から9のいずれかに記載の窓ガラス。
【0017】
項12.前記デフォッガの少なくとも1つの水平加熱線と交差する複数の垂直エレメントをさらに備えている、項3から6のいずれかに記載の窓ガラス。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る車両用窓ガラスによれば、車外のアンテナのノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る車両用窓ガラスの一実施形態である自動車のリアガラスの正面図である。
図2図1の他の例を示すリアガラスの正面図である。
図3】実施例1に係る窓ガラスの正面図である。
図4】比較例1に係る窓ガラスの正面図である。
図5】比較例2に係る窓ガラスの正面図である。
図6】電界強度の測定のためのシミュレーションのモデルを示す図である。
図7】実施例1,比較例1〜3の、周波数が85MHzでのY軸線上の電界強度を示すグラフである。
図8】実施例1,比較例1〜3の、窓ガラスから250〜2500mm離れた位置での電界強度の平均を示すグラフである。
図9】実施例1〜5、比較例4〜6の、窓ガラスから250〜2500mm離れた位置での電界強度の平均を示すグラフである。
図10】第3水平エレメントと最上部加熱線の距離とノイズ遮蔽性能との関係を示すグラフである。
図11】垂直線の数と電界強度との関係を示すグラフである。
図12】実施例11〜14を示す窓ガラスの正面図である。
図13】シャークフィンアンテナでのH偏波の受信感度を示すグラフである。
図14】シャークフィンアンテナでのV偏波の受信感度を示すグラフである。
図15】FMサブアンテナでのH偏波の受信感度を示すグラフである。
図16】FMサブアンテナでのV偏波の受信感度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る車両用窓ガラスの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る車両用窓ガラスが適用される自動車のリアガラスの正面図である。なお、以下では、説明の便宜のため、図1の向きを基準に、図1の上下方向を、上下方向または垂直方向、図1の左右方向を、左右方向または水平方向と称することがあるが、この向きは、本発明を限定するものではない。
【0021】
<1.車両>
本実施形態に係る窓ガラスが取り付けられる車両には、天井にシャークフィンアンテナ、ポールアンテナ等の外部アンテナが設けられており、この外部アンテナは、FMメインアンテナとして機能する。但し、FM以外のAM、DAB、デジタルテレビ、GPSなどの各種メディアに係る電波を受信することもできる。また、この窓ガラスが取り付けられる窓枠は、金属枠によって構成されている。さらに、この車両には、各種の電子機器(カーナビゲーションシステム、車載カメラ、USBチャージャー等)が積載されている。
【0022】
<2.車両用窓ガラス>
図1に示すように、本実施形態に係る車両用窓ガラスは、ガラス板1上に、デフォッガ2、及びノイズ遮蔽パターン3が、配置されている。以下、各部材について、順に説明する。
【0023】
<2−1.ガラス板>
ガラス板1は、自動車用の公知のガラス板を利用することができる。例えば、ガラス板1として、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラス若しくはグリーンガラス、又はUVグリーンガラスが利用されてもよい。ただし、このようなガラス板1は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、日射吸収率、可視光線透過率などが安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
【0024】
(クリアガラス)
SiO2:70〜73質量%
Al23:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe23に換算した全酸化鉄(T−Fe23):0.08〜0.14質量%
【0025】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe23に換算した全酸化鉄(T−Fe23)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO2の比率を0〜2質量%とし、TiO2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl23)をT−Fe23、CeO2及びTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0026】
なお、ガラス板1の種類は、クリアガラス又は熱線吸収ガラスに限られず、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、ガラス板1は、アクリル系、ポリカーボネート系等の樹脂窓であってもよい。
【0027】
また、このようなガラス板1は、単一のガラス板で構成するほか、複数のガラスで樹脂などの中間膜を挟持した合わせガラスであってもよい。
【0028】
<2−2.デフォッガ>
次に、デフォッガ2について説明する。図1に示すように、デフォッガ2は、ガラス板1における上下方向の中央付近に配置されており、ガラス板1の左右方向全体に亘って延びるように形成されている。具体的には、このデフォッガ2は、ガラス板1の両側縁に沿って上下方向に延びる一対の給電用のバスバー21a,21bを備えている。両バスバー21a,21bの間には、複数の水平加熱線22が所定間隔をおいて平行に配置されており、バスバー21a,21bからの給電により、防曇用の熱が発生するようになっている。
【0029】
また、このデフォッガ2には、これら水平加熱線22を水平方向に概ね2等分するように、上下方向に延びる垂直線(第2部位)23が設けられている。また、垂直線23は、最も上方にある水平加熱線(以下、最上部加熱線という)221と、最も下方にある水平加熱線(以下、最下部加熱線という)222とを結ぶように延びているが、ガラス板1を加熱する機能は有さず、後述するように、ノイズ遮蔽パターン3の一部を構成する。なお、垂直線23は、全ての水平加熱線と交差していなくてもよく、例えば、上下方向の長さが30〜600mmであることが好ましい。
【0030】
<2−3.ノイズ遮蔽パターン>
次に、ノイズ遮蔽パターン3について説明する。ノイズ遮蔽パターン3は、デフォッガ2の上方の領域に配置されている。この領域の上下方向の長さは、例えば、100〜200mmとすることができる。そして、この領域に配置されるノイズ遮蔽パターン3は、ガラス板1の上辺に沿って水平に延びる線状の第1水平エレメント(第1導体)31と、デフォッガ2の最上部加熱線221と所定間隔をおいて平行に延びる線状の第2水平エレメント(第3導体)32と、第1水平エレメント31と第2水平エレメント32とを連結するように上下方向に延びる線状の垂直エレメント(第1部位)33と、を備えている。第1水平エレメント31と第2水平エレメント32とは、ほぼ同じ長さに形成されている。垂直エレメント33は、第1水平エレメント31と第2水平エレメント32の中央同士を連結するように延びており、上述したデフォッガ2の垂直線23と対応する位置に配置されている。これら垂直エレメント33と垂直線23とは、分断されているが、これらを合わせて、以下、垂直導体(第2導体)と称することとする。
【0031】
第1水平エレメント31と第2水平エレメント32との間の長さは、例えば、100〜200mmとすることができる。また、第2水平エレメント32と最上部加熱線221との距離Eは、30mm以下であることが好ましい。例えば、この距離Eを10〜30mmとすることができ、あるいは10mm以下とすることもできる。この距離Eを30mmとすると、デフォッガ2とノイズ遮蔽パターン3とを容量結合することができる。
【0032】
垂直エレメント33の上下方向の長さは、例えば、100〜200mmとすることができる。また、垂直エレメント33と垂直線23との合計長さ、つまり垂直導体の長さは、300mm以上とすることができる。さらに、垂直エレメント33は、垂直線23から左右方向に多少ずれてもよく、例えば、垂直線23から左右方向にそれぞれ100mm以内の範囲に配置することができる。
【0033】
<2−4.材料>
上記のようなデフォッガ2及びノイズ遮蔽パターン3は、線材を組み合わせることで構成されているが、これらは導電性を有する導電性材料をガラス板1の表面に所定のパターンを有するように積層することで形成することができる。そのような材料としては、導電性を有していればよく、実施形態に適宜選択可能であり、一例として、銀、金、白金等を挙げることができる。具体的には、例えば、銀粉末、ガラスフリット等を含む導電性の銀ペーストをガラス板1の表面に印刷し焼成することによって形成することができる。
【0034】
<2−5.製造方法>
次に、本実施形態に係る窓ガラスの製造方法を説明する。本実施形態に係る窓ガラスのガラス板1は、プレスによって成形するプレス成形工法、ガラス板1の自重で曲げる自重曲げ工法等によって成形することができる。
【0035】
ここで、それぞれの工法においてガラス板1を成形する際には、ガラス板1は加熱炉内で軟化点付近まで加熱される。この加熱炉内に搬入される前には、ガラス板1は、平板状に形成されており、上述した各材料用のペースト、例えば、銀ペーストが、このガラス板1の表面に印刷される。そして、ガラス板1を加熱炉内に搬入することで、ガラス板1を成形するとともに、ガラス板1に印刷された銀ペーストを焼成して、デフォッガ2、及びノイズ遮蔽パターン3を形成することができる。
【0036】
<3.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。ガラス板1は金属枠に嵌め込まれた誘電体であるため、デフォッガ2などの導体が配置されていない領域が、車内の電子機器(例えば、USBチャージャーなど)からのノイズを受信し、これを車外に再放射する現象が生じることが知られている。すなわち、ガラス板1とこれを囲む金属枠がスロットアンテナとして機能し、電波を車外に再放射する。これにより、車外の外部アンテナがノイズを受信することになる。
【0037】
そこで、本実施形態では、ガラス板1に上記のようなノイズ遮蔽パターン3を配置することで、ガラス板1からの電波の再放射を防止している。すなわち、ノイズ遮蔽パターン3が、車内からのノイズを反射する遮蔽板として機能し、これによって、ガラス板1に照射されるノイズを反射するため、全体としてガラス板1を透過する電波を減衰させることができる。その結果、車外の外部アンテナに入るノイズを低減することができる。すなわち、スロットアンテナとしての動作を制限し、電波の再放射を低減することができる。
【0038】
特に、本実施形態では、ノイズ遮蔽パターン3における垂直エレメント33とデフォッガ2の垂直線23とが容量結合し、合計長さを300mm以上としているため、種々の周波数域で、電波の再放射を低減することができる。ここで、本実施形態の特徴として、ノイズ遮蔽パターンの垂直エレメントが、デフォッガとは直接接続されていないことが挙げられる。例えば、垂直エレメントと垂直線とが直接接続されると、デフォッガの水平加熱線に沿って強い電流の分布が生じることが本発明者によって確認されている。これにより、特定の周波数域では、ノイズ低減効果が確認されるものの、ノイズを低減すべき周波数域の調整を行うことができないことが見出された。すなわち、水平加熱線の長さが決まっているため、その長さに基づいて流れる電流が固定的になり、ノイズ遮蔽パターンやデフォッガの垂直線には十分に電流が流れない。そのため、特定の周波数域以外では、金属枠に依然として弱くない電流分布が生じ、ノイズを再放射することが確認されている。
【0039】
一方、垂直導体として機能する垂直エレメントと垂直線との合計長さが300mmより短いと、ノイズを十分に反射できないことも本発明者により確認されている。すなわち、この合計長さは、FM放送波のλ/4(λ:FM放送波の波長)よりも短いため、FM波に対するノイズを十分に反射できない。例えば、垂直エレメントと垂直線との間の距離が長く、容量結合されていない場合には、垂直エレメントと垂直線とは電気的に分離されたものとなり、合計長さが300mmより小さくなる。したがって、十分にノイズ反射効果を得ることができない。
【0040】
これに対して、本実施形態では、垂直エレメント33と垂直線23とは直接接続されていないが、容量結合により導体としての実質的な長さが300mm以上となっている。すなわち、FM放送波のλ/4以上となっている。そのため、この窓ガラスは、車内からのノイズを十分に反射することができ、ガラス板及び金属枠がスロットアンテナとして動作するのを抑制することができる。また、垂直エレメント33と垂直線23とは直接接続されていないため、デフォッガ2の水平加熱線23に所定の電流が流れるのを防止することができ、垂直エレメント23や垂直線33にも電流を分布させることができる。これにより、十分なノイズ反射効果を得ることができる。また、垂直エレメント23と垂直線33との合計長さを調整することで、種々の周波数域でのノイズを低減することができる。例えば、短波長に対しては、垂直線23の長さを長くすることが好ましい。
【0041】
また、ガラス板1においては、金属が配置されていない領域の面積が、再放射に影響を与えることが知られている。この点、デフォッガ2の上方の領域が、上記のように100〜200mmであると、再放射が大きくなるが、この領域に上記のようなノイズ遮蔽パターン3を配置することで、再放射を効果的に低減することができる。
【0042】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0043】
<4−1>
上記実施形態では、デフォッガ2の垂直線23を1本としているが、他に1以上の垂直線を設けることもできる。
【0044】
<4−2>
上記実施形態では、ノイズ遮蔽パターン3の垂直エレメント33と、デフォッガ2の垂直線23との合計長さを300mm以上としているが、例えば、垂直エレメント33の長さを300mm以上とすることもでき、このようにしても上記実施形態と同様の効果を得ることができる。この場合、垂直エレメント33が単独で300mm以上の長さを有しているため、垂直エレメント33と垂直線23とは容量結合していなくてもよい。
【0045】
<4−3>
上記実施形態のデフォッガ2の形態は一例であり、水平加熱線22の数、水平加熱線22と垂直線23との交差数などは、特には限定されない。また、受信感度を向上するために、追加のエレメントを適宜設けることもできる。
【0046】
<4−4>
上記実施形態では、外部アンテナをFMメインアンテナとしているが、例えば、FMサブアンテナをガラス板に配置することもできる。図2は、その一例であり、FMサブアンテナ4が設けられている。このFMサブアンテナ4は、左側のバスバー21aの上方にチューナーに接続された給電部41を有し、この給電部41から最上部加熱線221と第2水平エレメント32との間に延びる水平エレメント42を有している。この水平エレメント42は、垂直線33の近傍まで延びている。このようなFMサブアンテナ4を設けると、FM放送波に対する周波数特性を向上することができる。また、FMサブアンテナ4の形状は特には限定されず、例えば、複数のエレメントを組み合わせた種々の形状が可能である。
【0047】
<4−5>
ノイズ遮蔽パターン3やFMサブアンテナ4は、デフォッガ2の上方ではなく、下方に配置することもできる。
【0048】
<4−6>
上記実施形態では、FMアンテナについて言及したが、外部アンテナやサブアンテナについては、FM以外のメディアについても適用することができ、例えば、AM,DAB,デジタルテレビなどにも適用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
<1.ガラス板と金属枠によるノイズの発生>
まず、ガラス板と金属枠によるノイズの発生について検討した。ここでは、図3図5に示すようなシミュレーションのモデルを作成した。図中の数字の単位は、mmである。図3は、実施例1に係る窓ガラスであり、ガラス板にデフォッガとノイズ遮蔽パターンとを配置している。デフォッガには3本の垂直線が設けられている。図4は比較例1であり図3の実施例1との相違は、垂直エレメントと垂直線とを直接接続している点である。図5は比較例2であり、ガラス板に実施例1と同様のデフォッガのみ配置している。以上の実施例1,比較例1,2は図示を省略するが、金属枠に窓ガラスが嵌め込まれている。一方、比較例3は、比較例2と同じ窓ガラスであるが、金属枠を設けていない。
【0051】
そして、図6に示すように、これら実施例1及び比較例1〜3に係る窓ガラスに対し、一方の面側から、これらに垂直なY軸線に沿ってV偏波を照射し、Y軸線上の電界分布を電磁界シミュレーションにより算出した。結果は、図7に示すとおりである。
【0052】
図7は周波数が90MHzでのY軸線上の電界強度を示している。同図に示すように、金属枠のない比較例3はスロットアンテナとして動作しないため、電界強度分布はいずれの位置でも0であった。一方、ガラス板にデフォッガのみを配置した比較例2は、ガラス板及び金属枠がスロットアンテナとして作用し、ガラス板を通過した領域で電界強度が一旦上昇しており、これが外部アンテナにノイズとして影響を与えると考えられる。比較例1は、ガラス板を通過した領域で、ガラス板から離れるほど電界強度が低下しているが、低下の度合いは大きくない。一方、実施例1は、比較例1と比べ、ガラス板を通過した領域で、ガラス板から離れるほど電界強度が大きく低下している。したがって、実施例1のノイズ遮蔽パターンが有効に作用していることが分かる。
【0053】
次に、上記実施例1及び比較例1〜3について、Y=250〜2500mmでの周波数ごとの電界強度の平均を算出した。結果は、図8に示すとおりである。同図に示すように、比較例2はいずれの周波数でも電界強度が高い。また、比較例1は70〜80MHzでの電界強度は低いが、それよりも大きい周波数、特に、海外のFM周波数域(88〜108MHz)では電界強度が大きくなっている。一方、実施例1では、70〜80MHzでの電界強度はやや高いが、それよりも大きい周波数では電界強度が比較例1よりも大きくなっている。したがって、70〜125MHzの周波数域全体で見ると、実施例1は比較例1よりも全体として電界強度が低下していることが分かる。
【0054】
<2.垂直導体の長さの検討>
次に、垂直導体の長さについて検討した。ここでは、実施例1〜5、比較例4,5を準備した。実施例1〜5、比較例4,5は、ともに垂直エレメントの長さが150mmであるが、デフォッガの垂直線の長さが相違する。垂直線以外の寸法は、実施例1〜5、比較例4,5において同じである。各例において、垂直エレメントと垂直線の間には、実施例1と同様に5mmの隙間が形成されている。また、垂直線は、デフォッガの最上部加熱線を起点とし、下方に延びている。さらに、比較例6として、ノイズ遮蔽パターンを設けず、垂直導体の長さが0mmのものも準備した。具体的な垂直線の長さは、以下の通りである。
【0055】
・実施例1:510mm(垂直導体の長さ:655mm)
・実施例2:420mm(垂直導体の長さ:575mm)
・実施例3:330mm(垂直導体の長さ:485mm)
・実施例4:240mm(垂直導体の長さ:395mm)
・実施例5:150mm(垂直導体の長さ:305mm)
・比較例4:60mm(垂直導体の長さ:215mm)
・比較例5:0mm(垂直導体の長さ:155mm)
・比較例6:0mm(垂直導体の長さ:0mm)
【0056】
そして、これら実施例1〜5と比較例4〜6に係る窓ガラスを車両に取り付けた。また、車両のルーフに磁石によってポールアンテナ(アンテナ長さ700mm)を固定するとともに、車内のリアシートの足元に磁石によってノイズ源を模擬したポールアンテナ(アンテナ長さ700mm)を固定した。そして、これらポールアンテナの間の電波透過率を測定し、比較例6での電波透過率を0dBとしたときの偏差(S21)を算出した。結果は、図9に示すとおりである。
【0057】
図9に示すように、垂直導体の長さが300mm未満である比較例4,5は、日本のFM周波数域(76〜88MHz)全体に亘って、ノイズ(電波透過率)が高いことが分かる。実施例1〜5は、FM周波数域のいずれかにおいてノイズが低かった。一方、海外のFM周波数域(88〜108MHz)では、垂直導体の長さが450mm以上である実施例1〜3において、特にノイズが低いことが分かる。
【0058】
<3.垂直エレメントと垂直線との距離の検討>
次に、垂直エレメントと垂直線との距離Eについて検討した。ここでは、実施例1、6〜8と比較例7,8について検討した。いずれもデフォッガ及びノイズ遮蔽パターンの形状は実施例1と同じであり(比較例7を除く)、垂直エレメントと垂直線との距離Bが相違する。具体的には、実施例1、6〜8では、それぞれEを5,10,20,30mmとした。また、比較例8はE=50mmとした。
【0059】
そして、これら実施例1、6〜8と比較例7,8に係る窓ガラスを車両に取り付けた。また、車両のルーフに磁石によってポールアンテナ(アンテナ長さ700mm)を固定するとともに、車内のリアシートの足元に磁石によってノイズ源を模擬したポールアンテナ(アンテナ長さ700mm)を固定した。そして、これラポールアンテナの間の電波透過率を測定し、比較例7での電波透過率を0dBとしたときの偏差(S21)を算出した。結果は、図10に示すとおりである。
【0060】
同図に示すように、比較例8は、約94MHz及び約106MHz付近では、ノイズが低下しているが、それ以外の周波数では概ねノイズが大きかった。一方、実施例1,6は全周波数に渡って概ねノイズが小さかった。また、実施例7,8は96MHz付近ではノイズが大きく低下しているが、実施例1,6に比べ、約88〜92MHz付近でノイズが大きかった。したがって、距離Eが小さいほど、特に、Bが10mm以下では、全周波数に亘って、ノイズが低下することが分かった。一方、距離Eが10〜30mmでは、全体的な電界強度はやや高いものの、特定の周波数、つまり96MHz付近では電界強度を大きく低減できることが分かる。したがって、特定の周波数域での電界強度を低減するのに適している。なお、比較例8は、垂直エレメントと垂直線とが離れすぎ、容量結合していないと考えられる。
【0061】
<4.垂直線の数の検討>
垂直線の数について、実施例1,9,10及び比較例7を用いて検討した。実施例1は上記のように3本の垂直線を有している。実施例9は、中央の垂直線のみ有しており、実施例10は、デフォッガの中央から右側に400mm離れた位置、及び左側に400mm離れた位置の2カ所に垂直線が配置されている。これら実施例1,9,10及び比較例7に対し、上記試験1と同様のシミュレーションを行った。結果は、図11に示すとおりである。
【0062】
図11に示すように、実施例1,9,10においては、垂直線の数の相違による電界強度の大きな差は生じなかった。
【0063】
<5.垂直エレメントの水平位置の検討>
次に、FMサブアンテナを設けた実施例11〜14について、垂直エレメントの水平位置の検討を行った。実施例11〜14は、実施例1と同様のノイズ遮蔽パターン及びデフォッガを有しており、さらにFMサブアンテナを有している。そして、図12では、実施例11〜14の垂直エレメントの位置を示している。実施例11は、実施例1と同じ位置に垂直エレメントが設けられている。実施例12は、垂直エレメントの水平位置を実施例11から左側へ50mmずらしている。実施例13は、垂直エレメントの水平位置を実施例11から右側へ50mmずらしている。また、実施例14は、垂直エレメントの水平位置を実施例11から右側へ100mmずらしている。
【0064】
そして、これら、実施例11〜14に係る窓ガラスを車両に取り付け、車両の天井に設けたシャークフィンアンテナ及びFMサブアンテナサブアンテナにおけるFM周波数域(88〜108MHz)での受信感度を実測した。すなわち、車両に対して電波(V偏波、H偏波、斜め偏波、等)を放射し、受信感度を測定した。測定に当たっての条件は以下の通りである。
・アンテナが実装された窓ガラスの取付角:水平方向に対して23度傾斜
・角度分解能:角度3度毎に自動車を360度回転させて測定
・電波の発信位置とアンテナとの仰角:1.9度(地面と水平方向を0度、天頂方向を90度とする)
【0065】
結果は、図13図16に示すとおりである。図13及び図14は、それぞれシャークフィンアンテナでのH偏波及びV偏波の受信感度を示し、図15及び図16は、それぞれFMサブアンテナでのH偏波及びV偏波の受信感度を示している。
【0066】
図13及び図14に示すように、シャークフィンアンテナでの受信感度は、垂直エレメントの位置が変わっても、いずれも大差がなかった。一方、図15及び図16に示すように、FMサブアンテナでの受信感度は、垂直エレメントの位置により相違があった。すなわち、垂直エレメントをFMサブアンテナ側にずらした実施例8は、H偏波及びV偏波ともに、受信感度が低下している。一方、実施例11,13,14のように、垂直エレメントをFMサブアンテナから離すほど、H偏波及びV偏波ともに、受信感度が向上していることが分かった。したがって、FMサブアンテナを設ける場合には、垂直エレメントは、垂直線よりもサブアンテナから離れた側に配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
1 :ガラス板
2 :デフォッガ
3 :ノイズ遮蔽パターン
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
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図16