(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カテーテルのような細い管の内面に抗菌性のある材料を十分に、かつ均一にコーティングすることは難しい。また、カテーテルの使用により抗菌性のある材料が溶出してしまうことで、継続的に十分な殺菌性能を得ることは難しい。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、カテーテルに対する新たな殺菌技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の殺菌装置は、カテーテル内部の液体を殺菌する殺菌装置であって、紫外線を照射する光源と、光源を内側に収容する筐体と、を備える。筐体は、筐体内部でカテーテルの一部が紫外線で照射されるように該カテーテルを保持する保持部と、光源から出射した紫外線を反射する反射部と、を有する。
【0008】
この態様によると、特段の処理がなされていないカテーテルを用いても、カテーテル内部の液体を殺菌できる。
【0009】
保持部に保持されるカテーテルを更に備えてもよい。カテーテルは、筐体内部で紫外線が照射される部分の紫外線透過率が10%以上となるように構成されていてもよい。これにより、カテーテルの全部を紫外線透過率が10%以上の材料で構成する必要がなく、カテーテルの材料コストの増大を抑制できる。カテーテルの材料としては、例えば、シリコーン系樹脂や、非晶質のフッ素系樹脂であってもよい。
【0010】
カテーテルは、筐体内部で紫外線が照射される部分の長さが25〜35mmであってもよい。これにより、カテーテル内の液体中を移動する細菌を殺菌するのに十分な時間が確保できる。
【0011】
筐体は、第1の筐体と、第2の筐体と、第1の筐体と第2の筐体とを連結する連結部と、を有してもよい。連結部は、保持部が露出するように、第1の筐体に対して第2の筐体が開いた状態と、保持部および反射部が露出しないように、第1の筐体に対して第2の筐体が閉じた状態と、を取り得るように構成されていてもよい。これにより、予め用意されたカテーテルや使用中のカテーテルに対して、後から殺菌装置を装着できる。
【0012】
第1の筐体および第2の筐体は、閉じた状態における当接部の境界がクランク状となるように構成されていてもよい。これにより、筐体内部に収容された光源から照射された紫外線が外部へ漏れることを抑制できる。
【0013】
反射部は、アルミニウム又はフッ素樹脂で構成されていてもよい。これにより、光源から直接カテーテルに照射されなかった紫外線も、反射部で反射されることでカテーテルを照射することが可能となり、紫外線の利用効率が向上し殺菌性能も向上する。
【0014】
筐体の内部は、円筒形または球形であってもよい。反射部は、筐体の内壁面であってもよい。これにより、反射部により反射された紫外線が筐体の中央部に向かいやすくなる。
【0015】
保持部は、円筒形または球形の中心軸と交わる位置で、筐体に配置されていてもよい。また、保持部は、中心軸に沿ってカテーテルを保持してもよい。これにより、筐体の中央部に向かう、反射部により反射された紫外線は、カテーテルに効率良く照射される。
【0016】
光源は、ピーク波長が200〜280nmの範囲にある深紫外線を発してもよい。これにより、カテーテル内の液体中を移動する細菌を効率良く殺菌できる。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カテーテルに対する新たな殺菌技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0021】
(尿道カテーテル)
図1は、尿道カテーテル使用時の感染経路を説明するための模式図である。
図1に示すように、尿道カテーテル10は、一端を尿道12から挿入し、先端が膀胱14に到達した状態で保持される。尿道カテーテル10の他端は蓄尿バッグ16に接続されている。尿道カテーテル10を使用する場合、様々な経路で細菌が体内に侵入する可能性がある。例えば、尿道カテーテル10を尿道12に挿入する際に、膀胱14内に細菌18が押し込まれたり、会陰や直腸に定着している細菌18が侵入したりする。あるいは、尿道カテーテル10の他端10aを蓄尿バッグ16に接続する接続部13や、蓄尿バッグ16の排液口16aから細菌18が侵入し、尿を介して膀胱14に到達するおそれもある。
【0022】
特に、尿道カテーテル10を長期間使用し続けると、接続部や蓄尿バッグ16の排液口16aから侵入した細菌18が尿を介して膀胱14まで到達する可能性が高まる。そこで、本願発明者は、尿道カテーテル10の経路の途中に殺菌装置を装着することで、尿路感染を防ぐことに想到した。
【0023】
(殺菌装置)
[第1の実施の形態]
図2は、第1の実施の形態に係る殺菌装置の外観図である。
図3は、
図2に示した殺菌装置の筐体を開いた状態を示す図である。
図4は、第1の実施の形態に係る殺菌装置の断面図である。
【0024】
第1の実施の形態に係る殺菌装置100は、尿道カテーテル10内部の液体(尿)を殺菌するものである。殺菌装置100は、紫外線を照射する光源20と、光源20を内側に収容する筐体22と、を備える。筐体22は、筐体内部で尿道カテーテル10の一部が紫外線で照射されるように尿道カテーテル10を保持する保持部24と、光源20から出射した紫外線を反射する反射部26と、を有する。
【0025】
これにより、特段の処理(例えば抗菌処理)がなされていない尿道カテーテル10を用いても、カテーテル内部の液体を殺菌できる。
【0026】
また、尿道カテーテル10は、筐体内部22aで紫外線が照射される部分10bの紫外線透過率が10%以上となるように構成されている。尿道カテーテル10の材料としては、例えば、シリコーン系樹脂や、非晶質のフッ素系樹脂であってもよい。これにより、尿道カテーテル10の全部を紫外線透過率が10%以上の材料で構成する必要がなく、カテーテルの材料コストの増大を抑制できる。
【0027】
尿道カテーテル10は、筐体内部22aで紫外線が照射される部分の長さLが10〜50mm、好ましくは15〜40mm、より好ましくは25〜35mmである。これにより、尿道カテーテル10内の液体中を移動する細菌を殺菌するのに十分な時間が確保できる。
【0028】
筐体22は、内部が円筒形状であり、内部空間の高さが10〜55mm、好ましくは15〜45mm、より好ましくは25〜40mmである。また、筐体22の内部空間の半径は10〜30mm、好ましくは10〜25mm、より好ましくは15〜20mmである。保持部24は、筐体22の中心軸Xと交わる位置に配置されている。また、保持部24は、中心軸Xに沿って尿道カテーテル10を保持している。
【0029】
筐体22の内面(内壁面)を構成する反射部26は、金属膜であるアルミニウムでコーティングされており、深紫外線であるピーク波長270nmの紫外線に対する反射率は約90%である。なお、筐体22自体を反射部26と同じ材料であるアルミニウムで構成することで、アルミニウムのコーティングをする必要がなくなり、放熱性も向上する。なお、アルミニウムはコスト、重量、放熱性の観点で反射部26の材料として好適であるが、耐紫外線の観点からPTFE等のフッ素樹脂を反射部26の材料として用いてもよい。
【0030】
また、円筒形の内側面に光源20として複数のLEDを分散して配置し、中心に向かって紫外線を照射すると、紫外線は円筒形の内面に当たり、約10%の減衰を伴いながら反射を繰り返す。これにより、実効的には元の光出力の約10倍の紫外線が円筒空間内を飛びかうことになる。
【0031】
また、筐体22が円筒形であるため、反射部26により反射された紫外線が筐体22の中央部に向かいやすくなる。つまり、筐体22の中央部に向かう、反射部26により反射された紫外線は、尿道カテーテル10に効率良く照射される。その結果、光源20から直接尿道カテーテル10に照射されなかった紫外線も、反射部26で反射されることで尿道カテーテル10を照射することが可能となり、紫外線の利用効率が向上し殺菌性能も向上する。
【0032】
LEDの光出力を10mWとした場合、円筒形の中心部に配置したカテーテルに光(紫外線)が照射されると、カテーテル表面で約1mW/cm
2以上の照度が得られる。尿道カテーテル10は、主にシリコーン系樹脂が用いられており、紫外線を吸収する成分を極力使用しない材料で構成されている。本実施の形態に係る尿道カテーテル10は、肉厚が1mm程度であり、ピーク波長が270nmの紫外線の透過率として10%/mmのものである。
【0033】
つまり、カテーテル内部の液体には照度0.1mW/cm
2の紫外線が照射されることになる。大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌等は約10〜20mJ/cm
2の紫外線を照射すると約99.9%の殺菌効果が期待できる。つまり、尿道カテーテル10内で200秒(約3.3分)の間、紫外線にさらすことで液体内の殺菌が可能となる。
【0034】
次に、カテーテル内における菌の移動速度について説明する。水のような粘度の液体内での平均自由行程は約10pmであり、液体中の拡散係数は10
−9m
2/s程度である。仮に菌がカテーテル内に侵入しうる場所と尿道との距離が10cmの場合、菌が拡散によって尿道に到達するためには8か月の時間がかかることになる。つまり、菌の移動が液体中の拡散によるものであれば、人への感染症は余り生じないことになる。そのため、カテーテル内の菌の移動は、拡散よりも液体の対流やカテーテルを物理的に動かした時の流動等によるものと推測される。
【0035】
統計的には尿道カテーテルを7日〜10日間装着しているとその半数が感染症になるとの報告がある。この結果から菌の移動速度を大まかに見積もる。カテーテル長を3mとし、7日ではなくもっと短い時間として1日間で菌が逆流するとした場合、菌の移動速度は3m/24時間=2.1mm/分となる。本実施の形態の円筒形筐体の高さが30mmの場合、筐体の中を通り過ぎるためには、30mm÷2.1mmで、約14分必要である。前述のように、LEDの光出力が10mWの場合、菌が筐体の中を通過する間に約85mJ/cm
2の紫外線を受けるため、ほぼ菌は全滅すると考えられる。また、約14分で10〜20mJ/cm
2の紫外線の照射を受ければいいと考えれば、LEDの光出力は2mW程度でも十分である。
【0036】
次に、筐体の構造について説明する。本実施の形態に係る筐体22は、
図2や
図3に示すように、第1の筐体28aと、第2の筐体28bと、第1の筐体28aと第2の筐体28bとを連結する連結部30と、を有している。連結部30は、保持部24が露出するように、第1の筐体28aに対して第2の筐体28bが開いた状態(
図3)と、保持部24および反射部26が露出しないように、第1の筐体28aに対して第2の筐体28bが閉じた状態(
図2)と、を取り得るように構成されている。これにより、
図3の状態で尿道カテーテル10を保持部24に載置し、第1の筐体28aと第2の筐体28bとを閉じることで、予め用意されたカテーテルや使用中のカテーテルに対して、後から殺菌装置100を装着できる。
【0037】
また、筐体22は、外側表面にフィン構造を設けてもよい。これにより、筐体22の外側の表面積が増大し、光源20が発する熱を外部へ効率良く逃がすことができる。
【0038】
[第2の実施の形態]
図5は、第2の実施の形態に係る殺菌装置の外観図である。
図6は、第2の実施の形態に係る殺菌装置の断面図である。
図7は、第2の実施の形態に係る殺菌装置の筐体の断面図である。
【0039】
第2の実施の形態に係る殺菌装置110は、第1の実施の形態に係る殺菌装置100と比較して、筐体の形状が球形である点が主な相違点である。殺菌装置110は、球形の筐体32と、筐体32を貫通するように設けられている尿道カテーテル10と、を有する。筐体32は、半球状の第1の筐体34aと、半球状の第2の筐体34bとを有する。
【0040】
第1の筐体34aおよび第2の筐体34bの内面には、複数の光源20が設けられている。各光源20は、発光面が尿道カテーテル10に向かうように配置されている。このように、筐体32の内面形状を球形とすることで反射部26により反射された紫外線が筐体32の中央部に向かいやすくなる。つまり、効率良く紫外線で尿道カテーテル10を照射できる。
【0041】
また、筐体32の尿道カテーテル10が貫通する上下開口の近傍には、光源20の光が外部へ漏れないように隙間を防ぐ遮蔽マスク36が設けられている。遮蔽マスク36は、例えば、可撓性の弾性部材(耐紫外線性能を有するゴムやプラスチック)、蛇腹構造の金属部材、レンズ絞り構造のような可動部材等である。本実施の形態では、遮蔽マスク36が保持部としても機能する。
【0042】
また、筐体32内部の光源20から照射された紫外線は、第1の筐体34aと第2の筐体34bとの当接部から漏れ出すおそれがある。そこで、第2の実施の形態に係る第1の筐体34aおよび第2の筐体34bは、
図7に示すように、閉じた状態における当接部38の境界がクランク状となるように構成されている。なお、当接部の境界は、直線(平坦面)でない方が好ましく、曲線(曲面)や凹凸面であってもよい。これにより、筐体32内部に収容された光源20から照射された紫外線が外部へ漏れることを抑制できる。
【0043】
なお、上述の各実施の形態に係る光源20に用いられるLEDが発する紫外線のピーク波長は、200〜400nmの範囲であり、好ましくは、200〜350nmの範囲であり、より好ましくは200〜280nmの範囲(深紫外線波長)である。特に、深紫外線は、カテーテル内の液体中を移動する細菌を効率良く殺菌できる。
【0044】
このように、各実施の形態に係る殺菌装置は、通常の尿道カテーテルに追加で装着し、紫外線を発するLEDを点灯させることで、尿道カテーテル内を逆流してくる細菌(雑菌)を殺菌できる。その結果、院内感染を防ぐことができるとともに、尿道カテーテルを長期間使用できる。加えて、患者にとっても痛みを伴うカテーテルの挿入、取り回し回数が減る利点もある。また、医療費の抑制にも有効となる。
【0045】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。