特許第6843787号(P6843787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843787
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】低Z原子による腸管CT造影材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/04 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20210308BHJP
【FI】
   A61K49/04
   A61K9/06
   A61K9/10
   A61K9/107
   A61K47/34
   A61K49/04 210
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-38401(P2018-38401)
(22)【出願日】2018年3月5日
(62)【分割の表示】特願2016-503369(P2016-503369)の分割
【原出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-90624(P2018-90624A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2018年3月27日
(31)【優先権主張番号】61/790,734
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/798,392
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】イエ,ベンジャミン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】フ,ヤンジュン
(72)【発明者】
【氏名】デサイ,テジャル
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−508924(JP,A)
【文献】 米国特許第03592185(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0258907(US,A1)
【文献】 特開2003−160512(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/080260(WO,A1)
【文献】 特表平07−509716(JP,A)
【文献】 特開昭63−255237(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/101524(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02127682(EP,A1)
【文献】 Kathryn E. deKrafft,Zr- and Hf-based nanoscale metal?organic frameworks as contrast agents for computed tomography,Journal of materials chemistry, (2012 Jan 01) Vol. 22, No. 35, pp. 18139-18144.,2012年
【文献】 Chemistry of Materials, 2012, Vol.24 No.19 p.3772-3779
【文献】 Advanced Functional Materials, 2008, Vol.18 No.23 p.3745-3758
【文献】 Nature Nanotechnology, 2013.05, Vol.8 No.5 p.363-368
【文献】 Chem Rev., 2008, Vol.108, p.2064-2110
【文献】 Gamarra L F,Characterization of superparamagnetic iron oxide coated with silicone used as contrast agent for mag,JOURNAL OF NANOSCIENCE AND NANOTECHNO,,20100201,Vol: 10, Nr: 2, Page(s): 1153 - 1158,,2010年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管CT造影媒体製剤であって、
(a)微粒子およびナノ粒子を含む腸管造影媒体であって、前記粒子はシリカからなるコアを含み、該腸管造影媒体は、1.2〜1.5の80:140kVpのCT値の比を有し、前記粒子は前記製剤の腸管投与に適合する水溶性ポリマーでコーティングされ、前記水溶性ポリマーは、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エステル)ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニル)ポリマー、ポリ(エチレンイミン)ポリマー、ポリ(アクリル)ポリマー、ポリ(シロキサン)ポリマー、タンパク質、デンドリマーおよびそれらの組合せから選択される一員である、分子量3,000ダルトン未満の有機分子を含み、前記粒子は前記製剤の30%(w/w)から70%(w/w)を構成する、腸管造影媒体と、
(b)前記粒子がその中に分散した薬学的に許容されるビヒクルと
を含む腸管CT造影媒体製剤。
【請求項2】
前記製剤が懸濁液、コロイド、エマルジョン、ヒドロゲルおよびそれらの組合せから選択される形態である、請求項1に記載の腸管CT造影媒体製剤。
【請求項3】
前記薬学的に許容されるビヒクルが水性媒体を含み、腸管における前記製剤の脱水を遅延させる添加剤、香味剤、増粘剤、懸濁化剤、流動化剤、pH緩衝剤およびそれらの組合せをさらに含む、請求項1又は2に記載の腸管CT造影媒体製剤。
【請求項4】
コントラストが強調された対象のCT画像を取得する方法であって、
請求項1からのいずれか一項に記載の前記腸管CT造影媒体製剤の診断的有効量を投与された前記対象の前記CT画像を取得するステップと
を含む、方法。
【請求項5】
前記対象は、前記腸管CT造影媒体と異なる第2のCT造影媒体がさらに投与されたものであり、前記第2のCT造影媒体が経口投与、髄腔内投与、膀胱内投与、腸管投与、肛門投与および血管内投与から選択される経路を通して投与される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のCT造影媒体がヨウ素系造影媒体、Ba系、Gd系、W系、Bi系およびTa系造影媒体から選択される一員である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記腸管CT造影媒体および前記第2のCT造影媒体が前記画像において互いに識別可能である、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記対象は、前記腸管CT造影媒体製剤が、
(a)口、膣、膀胱、直腸および尿道から選択される天然の体腔;
(b)回腸嚢、および人工膀胱から選択される手術によって創造されたスペース;または
(c)カテーテル、チューブ、リザバー、パウチおよびポンプから選択される医用デバイス
を通して送達することによって投与されたものである、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(a)請求項1からのいずれか一項に記載の腸管CT造影媒体製剤を含む第1のバイアル;
(b)第2のCT造影媒体を含む第2のバイアル;および
(c)前記腸管CT造影媒体、前記第2のCT造影媒体またはそれらの組合せを処方するための指示書
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
[0001] 本出願は、2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/790734号および2013年3月15日に出願された米国仮特許出願第61/798392号の優先権を主張する。それぞれの開示はあらゆる目的のため、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
[0002] コンピュータ断層撮影(CT)は、緊急の傷害トリアージ、腹部疼痛の評価、および炎症性または虚血性腸管の評価等の多くの普遍的な臨床計画の評価のための他の全ての診断試験を凌駕している。CT撮像のための造影材料の開発は、特に内臓がよりあわされた構造を示す腹部および骨盤において医学的撮像を大幅に改革した。CT用の造影材料の価値が証明されているにも関わらず、実質的に改善された臨床用薬剤は過去20年の間、導入されていない。市販のCT造影材料は全て、ヨウ素系(血管内または腸内)またはバリウム系(腸内のみ)である。
【0003】
[0003] 現行の臨床用CT造影材料の基本的な限界は、それらが相互に、または金属片、石灰化、手術用ステープルラインまたはインプラント等の他の放射線不透過構造体との識別ができないことである。低エネルギーおよび高エネルギーのX線スペクトルで撮像した際に異なる材料によって生じるX線の減弱の差異に基づいて、撮像したボクセルを物質弁別することができる、現在広まりつつある臨床技術である二重エネルギーCT(DECT)または多重エネルギーCTにおいても、ヨウ素系およびバリウム系の造影材料は、低エネルギーおよび高エネルギーのX線スペクトルで撮像した際のX線の減弱において同様の差異を有するので、相互に識別することは容易ではないことがある。大部分のDECTスキャナーについて、低エネルギーおよび高エネルギーのX線スペクトルは、管電圧をそれぞれ80kVpおよび140kVpに設定することによって得られる。80kVpおよび140kVpで撮像した際のCT撮像における個々の材料のX線の減弱の差異は、その80:140kVpのCT数の比と称され得る。ヨウ素とバリウムの80:140kVpのCT数の比は事実上同一であり、そのためX線の減弱が一次的にヨウ素およびバリウムによる場合には、造影材料の正確な分離が妨げられる。この制限によって臨床的な混乱および遅延が生じる。たとえば、経口バリウム造影材料と静脈内ヨウ素造影材料で強調したCTスキャンが腹膜内への造影材料のリークを示した場合、そのリークが、それぞれ臨床的な緊急事態であるが、全く異なる処置を必要とするものである出血(ヨウ素)、腸管穿孔(バリウム)、または尿道の損傷(排泄されたヨウ素)のいずれによるものか曖昧なことがある。そのような曖昧さを解決するために、時間の損失および治療の機会を犠牲にしてスキャンを繰り返さなければならないことが多い。CTスキャンの繰り返しは、放射線量を追加することにもなる。CT放射線量についての公衆の関心の増大により、CT線量の低減に焦点を当てた2011年のNIHのサミットが行われた。多重エネルギーまたはスペクトル撮像が可能なCTスキャナーが開発されているが、改善された能力をもってしても、これらの新規なCT技術はヨウ素系とバリウム系の造影材料を容易に識別することはできそうにない。
【0004】
[0004] 広範囲の疾患における腸管外の液体の集積および集塊を検知するために腸管CT造影材料が高い価値を有することには、議論の余地がない。腸管と似た腫瘍、膿瘍、および血腫は、CTを解釈する上においてよく知られた診断上の陥穽である。腸管造影材料の価値にも関わらず、明るい腸管造影材料は逆説的に、1)造影材料のリークが血管の出血によるものか、腸管腔に由来するものかが不明確であり得る傷害、2)強調されない腸管壁が明るい管腔内腸管造影材料によって不明瞭になり得る腸管の虚血および梗塞、3)IV造影材料による腸管壁の超強調が疾患の活性の最も信頼できる特徴である、腸管の感染、4)腸管または強調している腫瘍へのヨウ素系造影材料の管外遊出が腸管造影材料の存在によって遮蔽される腸管出血、5)腸管造影材料が3次元の再構成を制限するCT血管造影など、疾患の中でも最も重篤なものについての静脈内造影CTによる知見を不明瞭にしてしまう。
【0005】
[0005] 現行の腸管CT造影材料のさらなる限界としては、毒性およびその他の合併症が挙げられる。バリウム剤はリークした部位において重篤な、致命的にもなり得る腹膜炎を惹起し、または感染症を悪化させることがあり、部分的な腸閉塞を完全な腸閉塞に転化することがある。ヨウ素剤は不注意に吸引すると重篤で致命的でさえある肺炎を惹起し、生命を脅かすアレルギー型反応を惹起することもあり、この心配のため、以前に反応を起こしたことがある患者の1%までにその使用が制限されている。これは、部分的にはこれらの薬剤の浸透圧が高いことに関連しているようである。さらに、これらの薬剤のいくつかは褐色であり、または味が悪い。ある患者(1〜3%まで)はヨウ素系造影材料に反応する。
【0006】
[0006] ヨウ素剤およびバリウム剤と同時に使用でき、しかもこれらと識別できる安全な臨床用腸管造影材料の開発は、傷害患者および数百万人の広範な疾患の患者のDECT撮像を直ちにかつ劇的に変化させるであろう。複数の体内コンパートメントに注入して、単一DECTまたは多重エネルギーCT検査によって同時に検査し、迅速かつ確信できる診断のためのそれぞれのシステムの時宜を得た高解像度の完全に同時登録できる解剖学的画像を得ることができ、外傷、浸潤性腫瘍、手術の合併症、および炎症性疾患による多臓器損傷を迅速かつ正確に評価することができるように臨床医の能力を変容することになる。
【0007】
[0007] CT撮像とともに用いるために試験された非ヨウ素系材料としては、タングステン、タンタル、ビスマス、ガドリニウム等のランタニド、および金、その他の、広範囲の高原子番号(Z)の元素が挙げられる(Yu S, Watson A. Metal-Based X-ray Contrast Media. Chem Rev. 1999; 99(9):2353-2378およびMongan J, Rathnayake S, Fu Y, Wang R, Jones EF, Gao DW, Yeh BM. In vivo Differentiation of Complementary Contrast Media at Dual-Energy CT. Radiology. 2012;265(1): 267-272)。低原子番号の元素による材料は、CTまたはDECT造影強調用途についての注目または研究上の興味を受けてこなかった。
【0008】
[0008] 画像の質および有用性に関しては、ヨウ素系腸管造影材料は文脈による以外にはDECTによって血管内ヨウ素剤と容易には識別できない。バリウム系腸管造影材料は文脈による以外には血管内ヨウ素剤と容易には識別できない。腸管から周囲組織へのバリウムの遊出はアジュバントとして作用し、感染および膿瘍を大幅に悪化させる。遊出したバリウムは組織の肉芽形成を惹起することがある。バリウムはしばしば粗い不均一なパターンで腸壁に凝集し(コーティングし)、それにより撮像にアーチファクトを惹起し、または腸管の外観を分かりにくくする。管内に遊出したバリウム(損傷を受けた腸管から外にリークし、血流中に入ったバリウム)は、肺または肝に微小血栓を惹起し、長く留まることがある。バリウムの懸濁液は容易に分離し、摂取の直前に振盪する必要がある。バリウム剤は口の中およびその周りに、および衣服の上に白いチョーク状の残留物を残す。
【0009】
[0009] 腸管壁の強調/非強調CT撮像のための静脈内造影剤に干渉しない経口/腸管造影剤は、腹部のCT撮像へのアプローチにおいて劇的なフレームシフトを惹起し、DECTによる腹部撮像を劇的に改善することになる。二重エネルギーCTは比較的新しい技術であり、実用的な臨床用DECTスキャナーが利用可能になってから10年も経っていない。現在のところ、大部分の放射線科医は、腸管を他の腹腔内構造物(遊離の液体、小胞状の集積物、卵巣、腫瘍等)と識別するための日常の腹骨盤CTスキャンに腸管造影剤を用いている。しかし、この腸管造影剤は腸管壁の血管強調/非強調を不明瞭にし、それにより腸管の感染、腫瘍、虚血、およびその他の病変の評価のためのCTの有効性を低下させている。また、遊出した造影材料はそれが腸管からか、血管からか、またはその両方から来たのか、不明瞭である。現在のところ、ヨウ素系またはバリウム系の造影材料を補完できる実現可能な造影材料は入手できない。
【発明の概要】
【0010】
[0010] 本発明は、ヒトへの使用に適した腸管CT(またはDECT)造影材料として低原子番号の化合物を用いる、安全かつ有効な製剤を提供することによって、これらのおよびその他の課題を解決する。種々の実施形態においては、本発明は現行の腸管造影媒体の陥穽のない、CTによる腸管造影の利点を提供する。経口造影剤の利点としては、腸管リークの識別が優れていること、膿瘍等の管腔外集積物が検出できること、腹骨盤内腫瘍および集塊の検出ができること、腸内通過時間の評価ができること、腸閉塞の転移点の評価ができること、腸管壁の肥厚化の評価が優れていることが挙げられる。腸管造影剤の陥穽としては、ヨウ素系またはバリウム造影材料の毒性(下記参照)または、血管内造影材料が同時に投与された場合に、腸管壁の虚血もしくは腸管の炎症の決定的に重要な発見が不明瞭になること、腹骨盤の血管構造が不明瞭になること、CT血管造影の3次元の再構成を妨害すること、管外に遊出した造影材料の起源が曖昧なこと、および現に起こっている管腔内消化管出血が不明瞭になることが挙げられる。
【0011】
[0011] 低原子番号の薬剤を用いることにより、大部分の高原子番号の薬剤の使用に勝る多くの利点がある。1)コストが低いことがある。2)毒性をもっと低くできる。3)低原子番号の多くの薬剤が既に食品または市販薬に用いられている。低原子番号の薬剤は日常のCT用に高原子番号の薬剤を置き替えることができる。
【0012】
[0012] CT用の腸管薬剤は、いくつかの理由により一般に注射用薬剤より安全性が高い。1)腸管造影に必要な用量および濃度は血管内薬剤よりも実質的に低い。腹部CTスキャン用の典型的な静脈内ヨウ素剤の投与は、ヨウ素350mg/造影剤mLの150mL(用量52g)を必要とする。典型的な経口用量は僅かヨウ素10mg/造影剤mLの800mL(全ヨウ素用量8g)である。2)腸管壁を通して血管系に吸収される造影材料の量は極めて少ない。3)腸管造影材料に関する粘度および浸透圧の懸念は少ない。4)全ての血管内薬剤に見られる腎毒性は腸管薬剤には考えにくい。5)腸管では血管内投与よりもアナフィラキシーおよび免疫反応は極めて起こりそうにない。
【0013】
[0013] さらに、本発明の非ヨウ素、非バリウムの腸管薬剤によって、臨床CTに用いた場合に、腸管および血管内またはその他の体内コンパートメント薬剤を同時に投与できるという利点が提供され、しかも薬剤は二重または多重エネルギーCTによって容易に相互識別することができる。薬剤は体内に同時に存在する場合に撮像されるように投与されるので、1つの実施形態においては、コントラストが強調された領域の画像が本質的に完全に同時登録され、評価のために得られる情報は、それぞれの造影材料を別々に送達し、撮像して個別のCTスキャンを行った場合よりも多い。さらに、1つの例示的な実施形態においては、放射線量は2つの個別のスキャンによって送達した場合の半分になる。種々の実施形態においては、本発明の媒体および製剤によってCTスキャンの繰り返しが可能になり、以前に送達された異なる材料を用いた経口造影剤によって惹起される曖昧さが低減される。
【0014】
[0014] 本発明の製剤および方法はまた、繰り返し/フォローアップのスキャンの必要性を低減することにより、放射線量を低減できるという利点がある。
【0015】
[0015] 1つの例示的な実施形態において、本発明は腸管造影媒体製剤を提供する。1つの例示的な製剤は、(a)微粒子およびナノ粒子から選択される材料の本質的に水不溶性の粒子を含む腸管造影媒体を含む。例示的な粒子は、原子番号6〜52の元素の複数の原子を含む材料を含む。種々の実施形態において、粒子は投与を必要とする対象への製剤の腸管投与に適合する材料でコーティングされる。1つの例示的な実施形態においては、造影媒体は、粒子がその中に製剤化される、薬学的に許容されるビヒクルの中に組み込まれる。
【0016】
[0016] 1つの例示的な実施形態においては、本発明によって、膣もしくは膀胱等の天然の、または人工膀胱等の手術によって創造された、またはチューブ、カテーテル、パウチ、リザバー、もしくはポンプ等の人工の医用デバイスであってよい、他の体腔に送達することもできる造影媒体製剤が提供される。
【0017】
[0017] 本発明の追加的な例示の利点、対象および実施形態は、以下の記述によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】[0018]ポリエチレングリコールでコーティングされたSiO微粒子である。コーティングはシロキサン結合による。
図2】[0019]長いアルキル鎖(C18)でコーティングされたSiO微粒子である。コーティングはシロキサン結合による。
図3】[0020]ウサギのCTにおいてシリカ腸管造影剤とヨウ素系血管内造影剤とを識別する2物質弁別を示す図である。従来のCT画像(左端の画像)では、腸管造影材料と血管内造影材料とは文脈による以外には識別が困難である。両方の材料は白色に見え、X線の減弱が大きいことを示している。標準的なGeneral Electric社の二重エネルギーCTスキャンであるDECT2物質弁別では、シリカ腸管造影剤は水マップ(上中)およびヨウ素マップ(上右の画像)の両方に見られ、それにより、ヨウ素マップのみに見られるヨウ素系血管内造影剤と識別できる。改良されたGeneral Electric社のDECT2物質弁別画像(下列)では、シリカ造影材料はシリカマップ(下中の画像)のみに現われ、これはまた画像の軟組織および水の成分を示している。ヨウ素マップ(下右)は血管内ヨウ素系造影材料を示している。General Electric社のソフトウェアはこの点においてガスを明るい白色のシグナルとして表示していることに注目されたい。この市販のソフトウェアをさらに改良することにより、このシグナルを誤って帰属することを防ぐことができる(次図参照)。
図4】[0021] ウサギのCTにおいてシリカ腸管造影剤とヨウ素系血管内造影剤とを識別する3物質弁別を示す図である。従来のCT画像(左中の画像)では、腸管造影材料と血管内造影材料とは文脈による以外には識別が困難である。両方の材料は白色に見え、X線の減弱が大きいことを示している。改良されたソフトウェアアルゴリズムを用いて実施した二重エネルギーCTスキャンの3物質弁別では、ヨウ素系血管内造影剤マップ(右上の画像)、シリカ腸管造影剤マップ(右中の画像)、および軟組織マップ(右下の画像)は、2つの造影材料の異なる分布を明らかに示している。血管内造影材料による腸管壁の強調は、従来のCT画像では不明瞭であるが、ヨウ素系血管内造影剤マップ上で見られる。3つの物質は容易に識別でき、完全に同時登録される。同時登録が完全であるので、評価のために得られる情報は、それぞれの造影材料を別々に送達して個別のCTスキャンを行った場合よりも多い。さらに、放射線量は2つの個別のスキャンによって送達した場合の半分になる。
図5】[0022] CTにおいてシリカ腸管造影剤とヨウ素系血管内造影剤とを識別する3物質弁別を用いて評価した別のウサギを示す図である。従来のCT画像(左中の画像)では、腸管造影材料と血管内造影材料とは文脈による以外には識別が困難である。両方の材料は白色に見え、X線の減弱が大きいことを示している。二重エネルギーCTスキャンの3物質弁別では、ヨウ素系血管内造影剤マップ(右上の画像)、シリカ腸管造影剤マップ(右中の画像)、および軟組織マップ(右下の画像)は、2つの造影材料の異なる分布を明らかに示している。血管内造影材料による腸管壁の強調は、従来のCT画像では不明瞭であるが、ヨウ素系血管内造影剤マップ上で見られる。3つの物質は容易に識別でき、完全に同時登録される。同時登録が完全であるので、評価のために得られる情報は、それぞれの造影材料を別々に送達して個別のCTスキャンを行った場合よりも多い。さらに、放射線量は2つの個別のスキャンによって送達した場合の半分になる。
図6】[0023] ウサギのCTにおいてMg(OH)腸管造影剤とヨウ素系血管内造影剤とを識別する2物質弁別を示す図である。従来のCT(第1欄、上が横断画像、下が冠状画像)は、腸管のMgと血管内のヨウ素系造影材料が互いに重なった、分かりにくい見掛けを示している。軟組織/マグネシウムのマップは、血管内ヨウ素化造影材料からのシグナルを妨害することなく、腸管内のマグネシウム造影材料を示している。ヨウ素マップ(右欄)は、従来のCT画像においては腸管造影材料によって不明瞭となっていた小分岐を含む血管の詳細な表示を含む高解像度のCT血管造影図を示している。ヨウ素マップはまた、従来のCT画像においては腸管造影材料によって不明瞭となっていた腸管壁の強調を、ヨウ素系造影剤によって示している。これら後者の表示は、従来の腸管および血管内造影剤を同時に送達する従来のCTによって得ることは不可能である。MIPは最大値投影法である。
図7】[0024]本発明においてCT造影材料として用いられる低Z化合物の例示的なリストを表にしたものである。
図8】[0025]Swiss−Websterマウスの非GLP研究におけるバリウム2.1%w/vまたはPEG−350でコーティングされたSiO微粒子の高用量胃内強制投与(5%w/wPEG5000および3%w/wD−ソルビトールの媒体中の50%w/w懸濁液として)である。各データ点は3匹のマウスの平均である。1日目と2日目に4倍用量を投与し、合計19日後に観察したマウス(左図)、または14日間2倍の日用量を投与し、合計17日後に観察したマウス(右図)において明らかな毒性は見られなかった。それぞれの群において、対照マウス(硫酸バリウム2.1%w/v)と比較してSiOを投与されたマウスの成長曲線の軌跡に有意差は見られなかった。犠牲死させたマウスのいずれにも、全体として内臓の損傷は見られなかった。
図9】[0026]例としての不活性材料の、異なるX線管電圧におけるCT値および80:140kVpのCT値の比である。CT値は、市販の臨床用CTスキャナーにおいて管電圧80、100、120、および140kVpで測定した。これらの例示的な材料から作られた粒子は、ヨウ素剤またはバリウム剤の80:140kVpのCT値の比と比較して大きなCT値の比の差異に基づいてヨウ素剤またはバリウム剤と識別できる新規なCT造影剤として役立つ。例示的なヨウ素剤およびバリウム剤は、表の最後の2行に示してある。
図10】[0027]例示的なシリカ微粒子とそのCT値および80:140kVpのCT値の比である。CT値は、市販の臨床用CTスキャナーにおいてCT管電圧80、100、120、および140kVpで測定した。全ての粒子は35%(w/w)SiOの濃度で水に懸濁した。3種のシリカ微粒子:結晶シリカ(直径1〜5μm、US Silica)、溶融非晶質シリカ(直径3〜5μm)、および球状非晶質シリカ(直径1〜2μm)を用いた。それぞれの種類のシリカについて、3通りのバージョン:水中に懸濁した元の非コーティングバージョンのシリカ、PEG350シランでコーティングし、水中に懸濁したシリカであるコーティングバージョンA、およびPEG350シランでコーティングし、水中への粒子の懸濁を改善するために水性ビヒクル(5wt%のmPEG5000および3wt%のD−ソルビトール)に懸濁したシリカであるコーティングバージョンBを製剤化し、試験した(非晶質シリカについては沈降物/浮遊物はない)。特に注目すべきこととして、試験した非晶質溶融シリカ微粒子は、この試験サイズの範囲である1〜5ミクロンにおいて、非晶質シリカの沈降およびペレット形成の程度が結晶質のものより著しく少ないと思われるので、試験した結晶シリカよりも有利である(両方の種類のシリカは同様の比重を有することに注意されたい)。結晶シリカは、非晶質シリカまたは溶融シリカよりも高い癌原性および肺線維症のリスクを伴うことがよく知られているので、非晶質シリカが好ましい選択である。[0028]さらに、非コーティングまたはPEG350(またはPEG2000)でコーティングされた、より大きな直径のシリカ粒子(50ミクロン、Spectrum Chemicals Inc.)でさえも、水中に懸濁した後、極めて容易に沈降することが見出され、コーティングの有無に関わらず粒子サイズが懸濁安定性を支配していることが示された。このことは理論計算とよく一致している。好ましいサイズ範囲は直径1〜5ミクロン、より好ましくは直径約1ミクロンである。好ましい製剤は均一かつ安定なシリカ懸濁液である。
図11】[0029]General ElectricおよびSiemensの二重エネルギーCTスキャナーでスキャンした際に、例示的な低原子番号材料は同様のCT値および80:140kVpのCT値の比を示す。CT値は、市販の臨床用二重エネルギーCTスキャナーにおいてCT管電圧80、100、120、および140kVpで測定した。General Electricの装置については、スキャナーは750HDであった。Siemensの装置については、スキャナーはSomatom Definitionであった。シリカコロイド(Ludox(登録商標)TM-50)はAldrich Inc.製の水中50%w/wである。コーティングされた非晶質シリカは、蒸留水中35%w/wの懸濁液とした、ポリエチレングリコール350シランでコーティングされた3〜5ミクロンの溶融シリカ(Henan Hengxing Inc, China)である。非晶質球状シリカはAmerican Elements Inc(Los Angeles, CA)製の1〜2ミクロンであり、蒸留水中35%w/wの懸濁液とした。水酸化マグネシウムは、水中Mg(OH)の60%w/w懸濁液としたMartin Marieta Magnesia Inc(Baltimore, MD)製の「UtiliMag H」である。
図12】[0030]負に帯電したコーティングを作成するためのアニオン性シランによる表面コーティングされたシリカ微粒子の例示的なスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I.序論
[0031] 二重エネルギーおよびスペクトルCTは、現代のスキャナーでは標準的な性能である。現行の二重エネルギー技術により、2種以上の異なる管電圧(80および140kVp等)で患者を同時に撮像することが可能である。これらの管電圧から得られるX線エネルギースペクトルを、たとえばスズフィルターを用いて低または高kVpのX線ビームを選択的にフィルターすることによってさらに改変して、より良いスペクトル分離を達成することができる。二重エネルギーおよびスペクトルCT撮像は、X線スペクトルの異なる部分におけるX線の減弱を定量するサンドイッチ検出器または光子計数等の他の方法によっても得ることができる。体内の物質は、その高管電圧と低管電圧のCT値の比(たとえば80:140kVpのCT値の比)の差異に基づいて識別される。この差異は物質中の原子の原子番号に関連している。臨床用CTスキャナーについてのCT値の比のシミュレーションにより、ヨウ素およびバリウムは、現行の臨床用スキャナーについてHounsfield単位として測定される最大の80:140kVpのCT値の比が近いことが分かる。より大きく異なる比を有する材料は、DECTによってより明確に識別される。したがってヨウ素およびバリウムは、80:140kVpのCT値の比が約1.0である水または大部分の軟組織と極めてよく識別することができる。造影材料に組み込んでヨウ素およびバリウムと識別することができる理想的な元素は、1.0に近い比(高原子番号、たとえば71〜83、または低原子番号、たとえば3〜20に対応する)を有することになる。
【0020】
[0032] 二重エネルギーまたはスペクトルCTによって撮像される材料は、関連する方法によってデジタル分離することができる。最も単純なものは2物質分別であり、ここではそれぞれのボクセルからのシグナルは、80:140kVp(低エネルギー対高エネルギー)のCT値の比に基づいて1つの材料または別の材料に比例的に割り付けられる。この方法によって2つの画像、即ち1つの材料に割り付けられたシグナルを表わす画像と、他の材料に割り付けられたシグナルを表わす他の画像が生じる。3つの材料の80:140kVp(低エネルギー対高エネルギー)のCT値の比および3つの材料の比例密度の合計が1.0であるという仮定に基づき、やや複雑な3物質分別法を用いて3つの材料を分離することができる。3物質弁別または2物質弁別を反復適用することによって多物質弁別が得られ、3つ以上の材料のCTシグナルへの寄与分の値を求めることができる。これらの方法は全て、仮想単色CT画像を生成するためにも用いることができる。仮想単色CT画像とは、対象物が全て物質弁別法で仮定した材料からなっていると仮定して、種々の単色CT撮像において撮像された対象物がどのように見えるかを表わす推定した画像である。
【0021】
[0033] 高原子番号元素の中で、タンタル(Ta、Z=73)、タングステン(W、Z=74)、ビスマス(Bi、Z=83)および金(Au、Z=79)は、最も毒性が低い元素に含まれる。金は一般に不活性であるが、大量の造影材料として用いるには高価すぎる。これらの元素から作られたナノ粒子または懸濁液は、1.0〜1.2の80:140kVpのCT値の比を有し、ヨウ素系(1.70)およびバリウム系(1.71)の造影材料と識別するのによく適しており、毒性が最低限で、臨床使用に必要な安全性の要求におそらく合致している。このような造影材料の80:140kVpのCT値の比は水および軟組織に極めて類似しているので、コントラストに特化したソフトウェアの最適化をしなくても、いずれのCTスキャナー販売業者から入手できる市販のヨウ素対軟組織密度の物質弁別によっても、ヨウ素とこれらの薬剤との極めて良好な、ないし優れた分離が得られる。これらの薬剤から得られるシグナルは、2物質弁別分離において、常にではなくても殆どの場合に「水/軟組織」密度マップに見られるが、ヨウ素マップには見られない。これらの高Z薬剤の弱点は、それぞれの元素の種々の化合物および製剤がX線またはCT造影材料における使用に対して既に記載されていることである。高Z薬剤のさらなる弱点は、一般にコストが高く、患者の安全性への懸念があることである。
【0022】
[0034] 注目すべきことに、低Z元素はCTまたはX線造影材料のためのレポーター原子としては記載されていなかった。しかし本発明により、腸管造影剤のための安全で有効な材料を提供する低Z元素(およびこれらの元素の組成物)の安全な製剤が提供される。例示的な実施形態においては、これらの製剤は約1.05〜1.3の80:140kVpのCT値の比を有する。したがってこれらの材料は、単純な2物質弁別によって従来の市販のヨウ素系およびバリウム系造影材料と容易に識別される。さらに、約1.2を超える80:140kVpのCT値の比を有する材料は、3物質弁別および多物質弁別によって、水および軟組織、ならびにヨウ素系/バリウム系造影材料とも識別されることもある。おそらく、CT技術におけるさらなる進歩により、種々のX線エネルギースペクトルにおいて異なるX線吸収比を有する材料を識別できる可能性が増大することになる。
【0023】
[0035] 医療用診断撮像において、造影材料のX線減弱係数、したがって固定された濃度におけるCT値(CTシグナルの尺度)は、材料の実効原子番号とともに指数的に増加する(R. C. Murty, Effective atomic numbers of heterogeneous materials, Nature. 1965; 207, 398-399)。材料の実効原子番号は、撮像の際の材料のX線減弱に最も影響する材料中の原子であるレポーター原子(単数または複数)に大きく依存する。歴史的には、ヨウ素(Z=53)またはバリウム(Z=56)等の高原子番号のレポーター原子のみが、水または軟組織よりも実質的に大きなCT値を有する造影材料である「ポジティブ」造影材料のためのレポーター原子として用いられてきた。高濃度の低原子番号材料はポジティブ造影材料としてのCTにおける使用について記載されていなかった。本発明により初めて、二重エネルギーおよびスペクトルCTを含むX線およびCT撮像のための低Z番号元素による効果的かつ低コストの腸管造影媒体、およびこの媒体の製剤が提供される。
【0024】
II.定義
[0036] 他に定義しない限り、本明細書において用いる全ての技術用語および科学用語は、一般に本発明が属する分野の当業者によって普遍的に理解される同じ意味を有する。一般に、本明細書で用いる命名法ならびに有機化学、薬学的製剤、および医学撮像における実験室的手順は、当技術分野において公知で一般に用いられるものである。
【0025】
[0037] 本明細書において用いられる冠詞、1つの(「a」および「an」)は、その冠詞の文法的対象の1または複数(即ち、少なくとも1)を指す。例として「1つの元素」は、1つの元素または2つ以上の元素を意味する。ヨウ素、バリウムまたは52より大きいZを有する他の原子を含む造影剤は、例示的な「高Z」材料である。
【0026】
[0038] 「高Z」または「低Z」という指定は、レポーター原子の原子番号と、現行のCTおよびX線撮像のために入手可能な臨床用造影剤において最も普遍的に用いられているレポーター原子であるヨウ素(Z=53)およびバリウム(Z=56)の原子番号との比較に基づく。
【0027】
[0039] 「疾患」は、動物がホメオスターシスを維持できない動物の健康状態であり、その疾患が改善しなければその動物の健康が悪化し続ける状態である。
【0028】
[0040] 本発明の腸管造影媒体を患者に投与する文脈において本明細書で用いる「半減期」または「t1/2」という用語は、患者における薬剤の腸管内濃度が半減するために必要な期間と定義される。多重クリアランス機構、再分布、および当技術分野で公知の他の機構によっては、造影媒体に関連する2つ以上の半減期があってよい。「半減期」のさらなる説明は、Pharmaceutical Biotechnology(1997, DFA CrommelinおよびRD Sindelar編、Harwood Publishers, Amsterdam, 101-120頁)に見られる。
【0029】
[0041] 本明細書において用いる「腸管造影媒体製剤」は、他に記述しない限り、少なくとも1つの腸管造影媒体および媒体を懸濁する少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み、本明細書に記載した腸管造影媒体をたとえば粉末、エマルジョンまたはすり潰した状態で、対象に投与するために使用する前に、薬学的に許容されるビヒクルに溶解または懸濁することによって調製された、対象に投与するための薬学的に許容される液体製剤を意味する。好ましくは、懸濁媒体は水性である。
【0030】
[0042] 腸管造影媒体を患者に投与する文脈において本明細書で用いる用語「滞留時間」は、腸管造影媒体が投与後に患者の体内に滞留する平均時間として定義される。
【0031】
[0043] 「水溶性」という用語は、水中でいくらかの検出可能な程度の溶解性(たとえば本明細書において1g/lより大)を有する部分を指す。水溶性を検出および/または定量する方法は当技術分野で公知である。例示的な水溶性ポリマーとしては、ペプチド、糖類、ポリ(エーテル)、ポリ(アミン)、ポリ(カルボン酸)等が挙げられる。ペプチドは混合シーケンスを有してもよく、単一のアミノ酸、たとえばポリ(リジン)からなっていてもよい。同様に、糖類は混合シーケンスでもよく、単一の糖サブユニット、たとえばデキストラン、アミロース、キトサン、およびポリ(シアル酸)からなっていてもよい。例示的なポリ(エーテル)としては、ポリ(エチレングリコール)がある。ポリ(エチレンイミン)は例示的なポリアミンであり、ポリ(アスパラギン酸)は代表的なポリ(カルボン酸)である。
【0032】
[0044] 「ポリ(アルキレンオキシド)」は、ポリエーテル主鎖を有する化合物の群を指す。本発明において用いるポリ(アルキレンオキシド)化学種は、たとえば直鎖および分枝鎖の化学種を含む。さらに、例示的なポリ(アルキレンオキシド)化学種は、末端に1または複数の活性な、活性化可能な、または不活性な基を有し得る。たとえば、ポリ(エチレングリコール)はエチレンオキシドサブユニットの繰り返しからなっており、いずれかの末端に活性な、活性化可能な、または不活性な部分を追加的に含んでよく、含まなくてもよい。有用なポリ(アルキレンオキシド)化学種としては、1つの末端が不活性基で「キャップ」されたもの、たとえばモノメトキシ−ポリ(アルキレンオキシド)が挙げられる。分子が分枝化学種の場合、これはアルキレンオキシド鎖の末端に複数の活性な、活性化可能な、または不活性な基を含んでよく、活性な基は同じでも異なっていてもよい。ヘテロ二官能性である直鎖ポリ(アルキレンオキシド)化学種の誘導体も、当技術分野において知られている。
【0033】
[0045] 本明細書においては、「薬学的に許容されるキャリア」は、複合体と組み合わせたときに複合体活性の活性を保持し、対象の免疫系と反応しない任意の材料を含む。例としては、これだけに限らないが、リン酸塩緩衝食塩液、水、油/水エマルジョン等のエマルジョン、および種々の型の湿潤剤等の、任意の標準的な薬学的キャリアが挙げられる。その他のキャリアとしては、無菌溶液、コーティング錠剤を含む錠剤およびカプセルも挙げられる。典型的にはこれらのキャリアはデンプン、ミルク、砂糖、ある種の粘土、ゼラチン、ステアリン酸もしくはその塩、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム、タルク、植物油脂、ガム、グリコール等の賦形剤、またはその他の既知の賦形剤を含む。これらのキャリアは香味剤、テクスチュア、および着色剤または他の成分を含んでもよい。これらのキャリアを含む組成物は、従来公知の方法によって製剤化される。
【0034】
[0046] 本明細書において、「投与する」は対象への経口投与、坐薬としての投与、局所的接触、静脈内、腹腔内、筋肉内、病巣内、鼻腔内もしくは皮下投与、髄腔内投与、または徐放デバイス、たとえばミニ浸透圧ポンプの埋め込みを意味する。
【0035】
[0047] 本明細書において、「腸管造影媒体」という用語は、少なくとも1つのX線吸収物質および任意選択により、それ自体他の成分、たとえば風味遮蔽剤、抗酸化剤、湿潤剤、乳化剤等を含んでもよい少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む、乾燥した、または懸濁していない成分もしくは成分の混合物を意味すると理解される。「乾燥した懸濁混合物」は次いで懸濁媒体に溶解または懸濁され、本発明の腸管造影媒体製剤が形成される。本明細書において、「懸濁媒体」および「薬学的に許容される賦形剤」等の用語は、その中に腸管造影媒体の成分(単数または複数)が懸濁される媒体を指す。
【0036】
[0048] 本明細書において「コーティング」および「コーティングされた」という用語は、酸性または中性または塩基性のpH値を有する環境の中で生体親和性であるコーティングを含むと理解される。
【0037】
[0049] 本明細書において「粒子」(単数および複数)という用語は、結晶、ビーズ(平滑、円形または球状の粒子)、ペレット、球、および顆粒等の、約1nmを超える任意の形状の自由に流れる物質を指す。
【0038】
[0050] 本明細書において「風味遮蔽」という用語は、不愉快な風味を有する本発明の腸管造影媒体を含み、口に入れやすいように処理された、および/または腸管造影媒体を口の中では実質的に放出しないが、たとえば胃内または腸管内で放出する、任意の製剤もしくは粒子、または経口薬学的組成物を指す。
【0039】
[0051] 本明細書において「不愉快な、および/または苦い風味」は、大多数の患者が、摂取後に腸管造影媒体が不愉快な、および/または苦い、および/または極めて苦い風味を有していると判断することを意味する。
【0040】
[0052] 現行の臨床用CTスキャナーは、撮像のために種々のX線スペクトルを発生させることができる。エネルギースペクトルは主として機械の管電圧(kVp)の設定に依存し、典型的には80〜140kVpの範囲である。これらのkVpの設定によってCTスキャナーはエネルギーのスペクトルを有するX線を発生し、最大エネルギーのX線は管電圧の設定が80kVpのとき80keV、140kVpのとき140keVである。X線スペクトルは、たとえばX線をアルミニウム、銅、またはスズ等のフィルターに通すことによって変調することができる。既知の材料を通過する任意の所与の単色X線エネルギーについて、X線減弱の程度はBeer−Lambertの法則によって定義され、a)原子の密度、b)X線が材料を通過する距離、およびc)その特定のX線エネルギーにおける特定の原子または材料についてのX線減弱係数に比例する。所与のスキャナーについての任意の所与のkVpの設定においてX線スペクトルは比較的一定であるので、任意の所与の材料について80kVpと140kVpにおけるX線減弱の比を決定することができる。一般に、アルミニウムまたは銅のフィルターを用いた標準的なCTスキャナーで撮像した場合、ヨウ素とバリウムの80:140kVpのCT値の比は約1.7〜1.8であるが、140kVpでの撮像にスズフィルターを用いた場合には、実質的に大きな80:140kVpのCT値の比が得られる(A. N. Primak, J. C. Ramirez Giraldo, X. Liu, L. Yu, and C. H. McCollough. Improved dual-energy material discrimination for dual-source CT by means of additional spectral filtration. Med. Phys. 36 (4),1359-1369頁. April 2009)。CTにおける任意の所与のX線スペクトルについて水のCT値はHounsfield単位で0と定義されているので、定義により水の80:140kVpのCT値の比は1.0である。周期表の元素は、約0.9〜1.8の範囲の80:140kVpのCT値の比を有している。より広く分散した80:140kVpのCT値の比を有する材料は、二重エネルギーまたはスペクトルCTにおいてより容易に識別される。二重エネルギーCTを得るための他の方法としては異なる管電圧設定の選択(たとえば100kVpおよび140kVp)があり、これにより80kVpおよび140kVpの二重エネルギーCTと同様の結果が得られる。二重または多重エネルギーCTを得るための代替の方法としては、X線スペクトルを改変してエネルギースペクトルをより大きく分離させることができ(たとえばkVp設定管の1つにスズフィルターを適用することによって)、または他の方法を利用して異なるエネルギーのX線の吸収量を定量することができる(たとえばX線検出器の上層が低エネルギーのX線をブロックし、それにより下層を照射するX線のスペクトルを変調するサンドイッチ検出器、光子計数検出器)。これらの他の方法の使用はヨウ素系材料とバリウム系材料を識別するにはまだ限定的であり、大きく異なる原子番号を有する原子を含む材料ではより良く識別することができる。
【0041】
III.実施形態
A.組成物
[0053] 1つの例示的な実施形態において、本発明は腸管造影媒体、および現在入手可能な他の造影材料と容易に識別できるその製剤を提供する。本発明は腸管造影媒体製剤を参照することによって説明される。1つの例示的な製剤は、(a)微粒子およびナノ粒子から選択される材料の本質的に水不溶性の粒子を含む腸管造影媒体を含む。例示的な粒子は、原子番号52未満、たとえば6〜52、好ましくは30未満の元素の複数の原子を含む材料を含む。種々の実施形態においては、粒子は投与を必要とする対象への製剤の腸管投与に適合する材料でコーティングされる。
【0042】
[0054] 1つの例示的な実施形態において、造影媒体を構成する元素は、任意選択により原子番号12〜39の元素を含む。本発明の造影媒体において使用される例示的な元素としては、限定するものではないが、Mg、Al、Si、P、Ca、Sc、Ti、Fe、Zn、Br、SrおよびYが挙げられる。
【0043】
[0055] 種々の実施形態において、元素はX線を吸収し、または減弱させる能力によって選択される。
【0044】
[0056] 1つの例示的な実施形態において、造影媒体は、前記粒子を懸濁させる、薬学的に許容されるビヒクルの中に製剤化される。1つの例示的な実施形態において、元素は銀(Z=47)ではない。
【0045】
[0057] 粒子中の原子の集団は変化してよく、正しい元素粒子の構成は当業者には容易に決定できる。1つの例示的な実施形態において、複数の原子は第1の原子番号を有する第1の原子の副集団と、第2の原子番号を有する第2の原子の副集団とを含む。第1の原子番号と第2の原子番号は異なる原子番号である。
【0046】
[0058] 1つまたは複数の低Z元素は、互いに、または他の原子と組み合わせてもよい。たとえば、1つの実施形態において、本発明は前記元素と化合物を形成する酸素および硫黄から選択される1または複数の原子をさらに含む材料を提供する。本発明の造影媒体は、1つまたは複数の炭素系成分(たとえばリガンド)を含み得る。種々の実施形態において、造影媒体は酸化物、炭酸塩、ホウ酸塩、水酸化物、リン酸塩、および元素の有機酸の塩から選択される。
【0047】
[0059] 種々の実施形態において、本発明の腸管造影媒体は、水溶性ポリマーを含むコーティングを含む。当業者には認識されるように、本発明における応用に適した水溶性ポリマーとしては、限定するものではないが、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エステル)ポリマー、多糖、タンパク質、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニル)ポリマー、ポリ(エチレンイミン)ポリマー、ポリ(アクリル)ポリマー、ポリ(シロキサン)ポリマー、PAMAMデンドリマーおよびその他のデンドリマー、ならびにそれらの組合せ、ならびに以下に議論する水溶性ポリマーが挙げられる。
【0048】
[0060] 水溶性ポリマーであってもなくても、本発明の造影媒体に組み込まれるポリマーは、実質的に任意の分子量を有してよい。たとえば約2kd〜約1,000kdダルトン、たとえば約1.5kd〜約500kd、たとえば約2kd〜約100kd、たとえば約3kd〜約70kdの分子量範囲内のポリマーが、本発明において使用される。
【0049】
[0061] 1つの例示的な実施形態において、コーティングは分子量約3kd未満、約2kd未満または約1.5kd未満の有機分子を含む。1つの例示的な実施形態において、コーティングは有機酸(またはアルコール、アミン)およびその誘導体またはアナログ、オリゴ糖ならびにそれらの組合せから選択される一員である、分子量約3kd未満、約2kd未満または約1.5kd未満の有機分子を含む。
【0050】
[0062] 1つの例示的な実施形態において、コーティングはタンパク質、たとえばアルブミンである。
【0051】
[0063] 本発明の有用な粒子は特定のサイズを有し、サイズの範囲内に入ることが分かる。1つの例示的な実施形態において、本発明の粒子の直径は約1nm〜約500ミクロン、たとえば1nm〜約500ミクロン、たとえば1ミクロン〜約50ミクロンであり、それぞれの単一の直径の値および全ての端点を超えたより大きな範囲内のそれぞれの直径の範囲を包含する。種々の実施形態において、粒子は約50ミクロンより大きい。さらなる有用な粒子サイズとしては、たとえば約5ミクロン〜約50ミクロン、たとえば約30ミクロン〜約50ミクロンが挙げられる。
【0052】
[0064] 本発明の製剤は任意の種類の懸濁液、コロイド、エマルジョン、または溶液の形態を取り得る。本発明の製剤がビヒクルとの混合物である場合、製剤は懸濁液、コロイド、エマルジョン、ヒドロゲルおよびそれらの組合せから選択される形態である。本発明の製剤は、単一の腸管造影媒体または2つ以上の腸管造影媒体を含み得る。媒体は任意の有用な濃度の尺度に従って、同様の濃度で存在し得る。1つの例示的な実施形態は、造影媒体中において1つまたは複数の元素の異なる濃度を含む。したがって、種々の実施形態において、前記製剤の重量の約10%(w/w、重量%として表わし、たとえば全造影製剤約100g中に造影剤化合物が約10g含まれる)〜約90%(w/w)が前記粒子である。1つの例示的な実施形態において、製剤は約30%(w/w)〜約50%(w/w)の粒子を含む。本発明の製剤は薬学的に許容されるビヒクル中に懸濁した本発明の粒子の集団を含む。ビヒクルは他の任意の有用な成分を含む。たとえばいくつかの実施形態において、ビヒクルは水性媒体を含み、製剤に第2の特性を付与する、たとえば腸管における前記製剤の脱水を遅延させる、香味を提供する、懸濁液を安定化する、懸濁液の流動性を向上させる、懸濁液の粘度を増大させる、pH緩衝性を提供する添加剤、およびそれらの組合せをさらに含む。
【0053】
[0065] 注目すべきことに、低Z番号元素はCTまたはX線造影材料のためのレポーター原子としては記載されていなかった。しかし種々の実施形態において、本発明により、腸管造影剤のための安全で有効な材料への低Z番号元素(およびこれらの元素の組成物)の安全な製剤が提供され、例示的な製剤は約1.05〜約1.4の80:140kVpのCT値の比を有する。したがってこれらの材料は、単純な2物質弁別によって従来の市販のヨウ素系およびバリウム系造影材料と容易に識別される。さらに、約1.2〜約1.5の80:140kVpのCT値の比を有する例示的な造影媒体は、3物質弁別および多物質弁別によって、水および軟組織、ならびにヨウ素系/バリウム系造影材料とも識別される。
【0054】
[0066] 本発明の製剤は分子的にも機能的にも独特であり、両方の特徴によって認識され得る。たとえば1つの実施形態において、腸管造影媒体は約1.7以下の80:140のkVpのCT値の比を有する。この比の例示的な有用な値を有する粒子としては、約0.9〜約1.7、たとえば約0.95〜約1.4、たとえば約1.0〜約1.3の比を有するものが挙げられる。この量は、当業者によって本発明の任意の造影媒体について容易に決定できる。
【0055】
[0067] 種々の実施形態において、本発明の製剤は、低kVpの画像にアルミニウムまたは銅のフィルター、高kVpの撮像にスズのフィルターなど、低kVpと高kVpの撮像に異なるフィルターを用いる二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーによって撮像される。そのような選択的フィルターを用いることにより、低kVpおよび高kVpのX線撮像ビームのスペクトルをより大きく分離することができ、本発明の製剤と従来のヨウ素系またはバリウム系造影材料ならびに水および軟組織との優れた物質弁別分離が可能になる。
【0056】
[0068] 1つの例示的な実施形態において、本発明の製剤は、第1の造影媒体と異なる第2の造影媒体を含む。第2の造影媒体は薬学的に許容されるビヒクルに可溶または不溶であり得る。第2の造影媒体が粒子状薬剤である場合、第2の造影媒体は第1の造影媒体に対して粒子のコアに異なる原子を含み、異なるコーティングを有し、異なる直径であり得る。第2の造影媒体はヨウ素系、Ba系、Gd系、W系、またはTa系造影媒体の1または複数であってもよい。
【0057】
[0069] 1つの例示的な実施形態において、第2の造影媒体はMg系媒体、たとえばMg(OH)である。
【0058】
[0070] 本発明の範囲内には、単一用量投与のために設計された製剤が含まれる。これらの単位用量フォーマットには、これらを投与する対象に検出可能なコントラストを与えるために十分な量の本発明の製剤が含まれる。1つの例示的な実施形態において、単位用量製剤には、単位用量が投与された対象の診断画像を診断として意味のある方式で強調するために十分な造影媒体を保持する容器が含まれる。容器はバイアル、注入バッグまたはその他の任意の適当な容器であってよい。造影媒体は処方済み液体、濃縮物、または粉末の形態であってよい。1つの例示的な実施形態において、対象の体重は約70kgである。1つの例示的な実施形態において、画像は対象の腹部、対象の骨盤、またはそれらの組合せを通して測定される。
【0059】
[0071] 本明細書に記載した製剤のいずれも、種々の経路のいずれを通る投与のためにも処方され、使用され得る。例示的な投与経路としては、経口、直腸、経膣、血管内、髄腔内、膀胱内等が挙げられる。
【0060】
[0072] 高濃度の低原子番号材料はポジティブ造影材料としてのCTにおける使用について記載されていなかった。1つの例示的な実施形態において、製剤中の低Z造影材料は高濃度であり、X線減弱元素の原子(「キー原子」または「レポーター原子」)としてたとえば約100〜約900mg/g、たとえば約150〜約500mg/g、たとえば約200〜約300mg/gである。1つの例示的な実施形態において、粒子は製剤の約30%(w/w)〜約70%(w/w)、たとえば約40%(w/w)〜約60%(w/w)を占める。本明細書における濃度は、X線の減弱(吸収/散乱)の大部分に寄与する造影材料中のキー元素、即ち、必ずではないが通常、分子中で最高の原子番号を有する元素の濃度を指す。X線の減弱はX線スペクトルに関する個々の原子のX線減弱係数と造影製剤中の原子の濃度との積の関数である。
【0061】
[0073] 低Z材料は、医用CTに用いられるX線をヨウ素、バリウム、ガドリニウム、またはその他の原子等の高Z材料ほどには減弱しないので、CTにおいて高Z材料と同様に強いX線減弱を得るためには、より高いモル濃度の低Z材料が必要である。したがって、1つの例示的な実施形態において、本発明は既知の腸管造影媒体製剤中の高Z元素の濃度よりも高い濃度の低Z元素を有する腸管造影剤の製剤を提供する。
【0062】
[0074] 撮像のための造影材料は、広範囲の患者および疾患状態に対して極めて安全でなければならない。患者が疾患を有していても比較的健康であっても、傷害および毒性のリスクが少ない撮像の研究から、全ての患者が大きな恩恵を受けることになる。1つの例示的な実施形態において、本発明は良好な安全マージンであり、従来のヨウ素系およびバリウム系造影剤のLD50に匹敵する、LD50が約5g/kgを超える腸管造影媒体を提供する。
【0063】
[0075] 種々の実施形態において、本発明の造影媒体および好ましくはその製剤は、広いpH範囲(たとえば約1.5〜約9)にわたって化学的安定性を示す。胃は腸の内容物を1.5という低いpHに曝し、胆汁および小腸は腸の内容物を9までの高いpHに曝すことがある。物理化学的安定性は安全性の重要な要素であり、反応または有害事象のリスクを最小化する助けになる。消化管の中で材料の過剰な溶解もしくは分解が起こり、または分解生成物に毒性がある可能性があれば、副作用が起こり得る。
【0064】
[0076] 種々の実施形態において、本発明は、対象領域内において低Z元素の濃度が本質的に減少しないままに撮像実験を完了することができるために十分に長いt1/2を有する造影媒体および造影媒体の製剤を提供する。種々の実施形態において、本発明は、投与された低Z原子の本質的に全てが対象の身体によって変化(代謝、加水分解、酸化、その他)を受ける前に対象の身体から除去されるために十分に短いインビボ滞留時間を有する造影媒体および製剤を提供する。
【0065】
[0077] 種々の実施形態において、製剤の腸内通過時間は、正常な対象において12時間未満である。1つの例示的な実施形態において、腸内通過時間を早めるために、製剤にはソルビトール、ポリエチレングリコールまたはその両方が含まれる。
【0066】
[0078] 1つの例示的な実施形態において、本発明は、投与された低Z原子の大部分が対象の身体によって変化を受ける前に消化管を通じて除去され、溶解したまたは変化を受けた部分が尿道から排泄されるようにゆっくりと溶解する造影媒体を提供する。1つの例示的な実施形態は約12mg/lという低い溶解度を有するMg(OH)であり、遊離のマグネシウムイオンは正常な腎機能を有する患者においては腎によって迅速に尿に排泄される。
【0067】
[0079] 1つの例示的な実施形態において、本発明は酸化物のコア、たとえばSiOのコアを有する腸管造影媒体を提供する。種々の実施形態において、酸化物コアはコーティングされる。コアはポリマーまたは本明細書で議論する小分子でコーティングされ得る。好ましい実施形態において、基礎を成すコアは本質的に無毒である。SiO等の酸化物の毒性は極めて低く、SiOの腸管内LD50は測定不可能である。
【0068】
[0080] 1つの例示的な実施形態において、本発明の製剤には現行の均一分散液/製剤に伴うリスクがない。たとえば、現行の製剤を用いる現行の方法においては、不均一な分散液は、異常な知見と見誤る、または異常な知見を覆い隠す可能性がある撮像のアーチファクトを惹起することがある。さらに、バリウム造影剤は、凝集し、または腸の粘膜をコーティングする傾向があり、これらはCTにおいて撮像のアーチファクトを惹起することがある。
【0069】
[0081] 本発明の薬学的製剤は任意選択により、賦形剤ならびに1または複数の甘味剤、香味剤および/または苦いもしくは不愉快な風味を遮蔽する追加的矯味剤、懸濁化剤、流動促進剤、抗酸化剤、保存剤およびその他の従来の賦形剤等のその他の成分を必要に応じて含んでよい。
【0070】
[0082] 本発明の懸濁液は任意選択により、1または複数の抗酸化剤、必要であれば矯味剤、甘味剤、流動促進剤、懸濁化剤、および保存剤を含んでよい。
【0071】
[0083] 認識されるように、上記の任意成分は、本発明の粉末製剤、および/または本発明の経口懸濁液に添加してよい。
【0072】
[0084] 本明細書における使用に好適な抗酸化剤としては、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、システイン塩酸塩、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、フマル酸、酒石酸、マレイン酸、リンゴ酸、EDTA等の本目的に適した当技術分野で知られた任意の従来の薬剤が挙げられ、メタ重亜硫酸ナトリウムまたは重亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0073】
[0085] 抗酸化剤は、当業者には明らかなように製剤を酸化から保護する量で使用できる。
【0074】
[0086] 本発明の製剤における使用のための甘味剤は、本目的のため当技術分野で知られた任意の従来の薬剤でよく、スクロース、フルクトース、デキストロース、キシリトール、ソルビトール、またはマニトール等の天然の甘味剤、ならびにアスパルテーム、アセサルフェームK、スクラロース(sucrolose)等の人工甘味剤等の任意の適合する甘味剤の群から選択され得る。キシリトールおよびアスパルテームが好ましい甘味剤である。
【0075】
[0087] 風味をさらに改善するために香味剤および香味改良剤または矯味剤を用いてもよい。これらは本目的のため当技術分野で知られた任意の従来の薬剤でよく、これだけに限らないが、オレンジ香味、アプリコット香味、チョコレート香味、メープル香味、バニラ香味、リコリス香味、オレンジバニラ香味、クレームドミント、チェリー香味、チェリーバニラ香味、ベリーミックス香味、パッションフルーツ香味、マンダリンオレンジ香味、バブルガム香味、トロピカルパンチ香味、ブドウのジュースコンパウンド、ブドウ香味、人工ブドウ香味、ブドウバブルガム香味、ツッティフルッティ香味、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0076】
[0088] 懸濁化剤は本目的のため当技術分野で知られた任意の都合のよい薬剤であってよく、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギネート、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムから選択することができ、カルボキシメチルセルロースナトリウム(「NaCMC」)が好ましい。懸濁化剤は粉末製剤の約0〜約20重量%、および経口懸濁液の約0〜約10重量%の範囲の量で用いることができる。
【0077】
[0089] 保存剤は本目的のため当技術分野で知られた任意の都合のよい薬剤であってよく、メチルパラベンおよびプロピルパラベン、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム等の、活性薬剤と親和性のある任意の化合物からなる群から選択することができ、メチルパラベンが好ましい。
【0078】
[0090] 本発明はまた、臨床および/または研究の設定における使用のためのキットを提供する。1つの例示的なキットには、(a)本発明の腸管造影媒体を含む第1のバイアル、および(b)腸管造影媒体を使用し、および/または処方するための指示書が含まれる。種々の実施形態において、キットは第2の造影媒体を含む第2のバイアル、および臨床または研究の設定において第1および第2の腸管造影媒体を投与し、および/または処方するための指示書をさらに含む。
【0079】
[0091] 第2のバイアルに含まれる造影媒体は、薬学的に許容されるビヒクルに可溶または不溶であり得る。第2の造影媒体が粒子状薬剤である場合、第2の造影媒体は第1の造影媒体に対して粒子のコアに異なる原子を含み、異なるコーティングを有し、異なる直径であり得る。第2の造影媒体はヨウ素系、Ba系、Gd系、W系、Bi系またはTa系造影媒体の1または複数であってもよい。
【0080】
[0092] 1つの例示的な実施形態において、第2の造影媒体はMg系媒体、たとえばMg(OH)である。
【0081】
[0093] 本発明のコーティングされた造影媒体の形成において有用な活性化粒子について、本明細書で議論する。説明を明確にするために、活性化され、引き続いて改質グループ(たとえば水溶性ポリマー)によって改質された(「コーティングされた」)粒子の調製を中心に議論する。特に、ポリ(エチレングリコール)部分を含む改質された糖の調製を中心に議論する。当業者であれば、本明細書で説明する方法は活性化粒子およびそのポリマー複合体の調製に広く適用可能であることを認識するであろう。したがって議論は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0082】
[0094] 一般に、粒子および改質グループは反応性基の使用によって一緒に連結され、これらは典型的には連結プロセスによって新規な有機官能基または非反応性化学種に転換される。本発明を実施するために有用な反応性基および反応の種類は、一般にバイオコンジュゲート化学の技術において公知のものである。粒子を活性化するために利用可能な現在好ましい反応の種類は、比較的穏和な条件下で進行するものである。これらには、これだけに限らないが、求核置換(たとえばアミンおよびアルコールとアシルハライド、活性エステルとの反応)、求電子置換(たとえばエナミン反応)、ならびに炭素−炭素および炭素−ヘテロ原子多重結合への付加(たとえばMichael反応、Diels-Alder付加)が含まれる。これらの、およびその他の有用な反応は、たとえばSmithおよびMarch、ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY,第5版、John Wiley & Sons,New York,2001;Hermanson、BIOCONJUGATE TECHNIQUES,Academic Press,San Diego,1996;およびFeeneyら、MODIFICATION OF PROTEINS;Advances in Chemistry Series,198巻、American Chemical Society,Washington,D.C.,1982に議論されている。
【0083】
[0095] 活性化粒子または改質グループから吊り下がった有用な反応性官能基としては、これだけに限らないが、
(a)カルボキシル基およびその種々の誘導体、たとえばこれだけに限らないが、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステル、酸ハライド、アシルイミダゾール、チオエステル、p−ニトロフェニルエステル、アルキル、アルケニル、アルキニルおよび芳香族エステル;
(b)ヒドロキシル基、これはたとえばエステル、エーテル、アルデヒド等に転換できる;
(c)ハロアルキル基、ここでハライドは後でたとえばアミン、カルボキシレートアニオン、チオールアニオン、カルバニオン、またはアルコキシドイオン等の求核基に置き換えられ、それによりハロゲン原子の官能基における新たな基の共有結合をもたらすことができる;
(d)ジエノフィル基、これはたとえばマレイミド基等、Diels−Alder反応に寄与することができる;
(e)アルデヒドまたはケトン基、これはたとえばイミン、ヒドラゾン、セミカルバゾンまたはオキシム等のカルボニル誘導体の生成によって、またはGrignard付加もしくはアルキルリチウム付加等の機構によって、引き続く誘導体化が可能である;
(f)スルホニルハライド基、これは引き続いてアミンと反応させ、たとえばスルホンアミドを生成するためである;
(g)チオール基、これはたとえばジスルフィドに転換し、またはアルキルおよびアシルハライドと反応させることができる;
(h)アミンまたはスルフヒドリル基、これはたとえばアシル化、アルキル化または酸化することができる;
(i)アルケン、これはたとえば環化付加、アシル化、Michael付加等をさせることができる;および
(j)エポキシド、これはたとえばアミンおよびヒドロキシル化合物と反応させることができる;
が挙げられる。
【0084】
[0096] 反応性官能基は、保護基の存在によって反応に関与することから保護することができる。特定の官能基をどのように保護して、これが選択された反応条件の組に干渉しないようにするかについて、当業者は理解している。有用な保護基の例については、たとえばGreeneら、PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS,John Wiley & Sons,New York,1991を参照されたい。
【0085】
[0097] 改質およびコーティングされた粒子への例示的な経路を図1および図2に示す。
【0086】
[0098] 1または複数の改質グループを粒子に結合させるためのPEGの反応性誘導体(またはその他のポリマーまたはコーティング)の使用は、本発明の範囲内である。本発明は反応性PEGアナログの同一性によって限定されない。ポリ(エチレングリコール)の多くの活性化誘導体が市販され、また文献にある。本発明において有用な基質を調製するための適切な活性化PEG誘導体を選択し、必要であれば合成することは当業者の能力の十分な範囲内である。Abuchowskiら、Cancer Biochem.Biophys.,7:175−186(1984);Abuchowskiら、J. Biol.Chem.,252:3582−3586(1977);Jacksonら、Anal.Biochem.,165:114−127(1987);Koideら,Biochem Biophys.Res.Commun.,111:659−667(1983)、トレシレート(Nilssonら、Methods Enzymol., 104: 56-69 (1984); Delgadoら、Biotechnol. Appl. Biochem., 12: 119-128 (1990))、N−ヒドロキシスクシンイミド由来活性エステル(Buckmannら、Makromol. Chem., 182: 1379-1384 (1981); Joppichら、Makromol. Chem., 180: 1381-1384 (1979); Abuchowskiら、Cancer Biochem. Biophys., 7: 175-186 (1984); Katreら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84: 1487-1491 (1987); Kitamuraら、Cancer Res., 51: 4310-4315 (1991); Boccuら、Z. Naturforsch., 38C: 94-99 (1983))、カーボネート(Zalipsky ら、POLY(ETHYLENE GLYCOL) CHEMISTRY: BIOTECHNICAL AND BIOMEDICAL APPLICATIONS, Harris編、Plenum Press, New York, 1992, 347-370頁; Zalipskyら、Biotechnol. Appl. Biochem., 15: 100-114 (1992); Veroneseら、Appl. Biochem. Biotech., 11: 141-152 (1985))、イミダゾリルフォーメート(Beauchampら、Anal. Biochem., 131: 25-33 (1983); Bergerら、Blood, 71: 1641-1647 (1988))、4−ジチオピリジン(Woghirenら、Bioconjugate Chem., 4: 314-318 (1993))、イソシアネート(Byunら、ASAIO Journal, M649-M-653 (1992))およびエポキシド(Noishikiらに発行された米国特許第4806595号(1989))を参照されたい。その他の連結基としては、アミノ基と活性化PEGとの間のウレタン結合が挙げられる。Veroneseら、Appl.Biochem.Biotechnol.,11:141−152(1985)を参照されたい。
【0087】
[0099] 本発明の粒子コーティングには1または複数のポリマーが含まれ得る。ポリマーによる薬剤送達システムは当技術分野で知られている。たとえばDunnら編、POLYMERIC DRUGS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS,ACS Symposium Series,469巻,American Chemical Society,Washington,D.C.1991を参照されたい。実質的に任意の既知の水不溶性ポリマーが本発明の造影媒体に適用可能であることが当業者には認識されよう。
【0088】
[00100] 代表的なポリマーとしては、これだけに限らないが、ポリホスファジン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、ポリ(オクタデシルアクリレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、プルロニクスおよびポリビニルフェノールならびにそれらのコポリマーが挙げられる。
【0089】
[00101] 合成によって改質され、本発明の造影媒体において使用される天然ポリマーとしては、これだけに限らないが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、およびニトロセルロースが挙げられる。合成によって改質される天然ポリマーの幅広い種類の中の好ましいものとしては、これだけに限らないが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローススルフェートナトリウム塩、ならびにアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルのポリマーならびにアルギン酸が挙げられる。
【0090】
[00102] 本明細書で議論したこれらの、およびその他のポリマーは、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO.)、Polysciences (Warrenton, PA.)、Aldrich (Milwaukee, WI.)、Fluka(Ronkonkoma, NY)およびBioRad(Richmond, CA)等の販売業者から容易に入手でき、またはこれらの業者から入手したモノマーから標準的な手法で合成することができる。
【0091】
[00103] 種々の実施形態において、粒子は1または複数の生分解性または生体吸収性ポリマーによってコーティングされる。本発明の粒子において使用される代表的な生分解性ポリマーとしては、これだけに限らないが、ポリラクチド、ポリグリコリドおよびそれらのコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド−co−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルソエステル、それらのブレンドおよびコポリマーが挙げられる。
【0092】
[00104] 本発明の目的のため、「生体吸収性分子」という用語は、身体によって代謝され、または分解されて、吸収され、および/または正常な排泄経路を通って除去されることが可能な領域を含む。そのような代謝生成物または分解生成物は、好ましくは身体に実質的に無毒である。
【0093】
[00105] 生体吸収性領域は、コポリマー組成物が全体として水溶性にならない限り、疎水性または親水性であってよい。したがって、生体吸収性領域は、ポリマーが全体として水不溶性のままであるということを優先して選択される。したがって、相対的な特性、即ち含まれる官能基の種類、および生体吸収性領域と親水性領域の相対的な割合は、有用な生体吸収性組成物が水不溶性のままであることが保証できるように選択される。
【0094】
[00106] 例示的な吸収性ポリマーとしては、たとえばポリ(α−ヒドロキシ−カルボン酸)/ポリ(オキシアルキレン)の合成によって製造された吸収性ブロックコポリマーが挙げられる(Cohnら,米国特許第4826945号参照)。これらのコポリマーは非架橋で水溶性であり、したがって分解したブロックコポリマー組成物は身体によって排泄され得る。Younesら、J Biomed.Mater.Res.21:1301−1316(1987);およびCohnら、J Biomed.Mater.Res.22:993−1009(1988)参照。
【0095】
[00107] 現在のところ好ましい生体吸収性ポリマーとしては、ポリ(エステル)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミド)、ポリ(エステル−アミド)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルソエステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(チオエステル)、多糖およびそれらの混合物から選択される1または複数の成分が挙げられる。さらにより好ましくは、生体吸収性ポリマーにはポリ(ヒドロキシ)酸成分が含まれる。ポリ(ヒドロキシ)酸の中で、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリ酪酸、ポリ吉草酸ならびにそれらのコポリマーおよび混合物が好ましい。
B.方法
【0096】
[00108] 本発明はまた、本発明の製剤を用いて、本発明の製剤が投与される対象から臨床的に意義のあるCT画像を取得し、強調する方法を提供する。したがって、1つの例示的な実施形態において、本発明はコントラストが強調された対象のCT画像を取得する方法を提供する。本方法には、前記本発明の腸管造影媒体製剤の診断的有効量を対象に投与するステップと、対象のCT画像を取得するステップとを含む。種々の実施形態において、腸管造影媒体は、DECT撮像実験における前記画像で約1.7以下の80:140kVpのCT値の比を有する。
【0097】
[00109] 1つの例示的な実施形態において、本発明は、本発明の造影媒体がその中に分布する対象の領域を通してコントラストが強調された対象のCT画像を提供する。
【0098】
[00110] 本発明の画像、および本発明の方法によって取得された画像は、本発明の造影媒体を用いる。画像は対象の身体の任意の部分を通して取得される。1つの例示的な方法において、画像は対象の腹部および/または骨盤からのものである。
【0099】
[00111] 本発明はまた、CT画像を後処理して、本発明の造影媒体によって生成したCTシグナルを、軟組織、体液、または別の造影媒体によって生成したCTシグナルからデジタル分離する方法を提供する。種々の実施形態において、本発明の造影材料によって生成したCTシグナルを、別の造影媒体または体組織によって生成したCTシグナルから分離するために、2物質弁別もしくは3物質弁別または仮想単色画像およびそれらの組合せが用いられる。本発明の1つの例示的な実施形態において、物質弁別画像の後処理によって、本発明の造影材料からのCTシグナルが強調され、または他の造影材料もしくは体組織によって生成したCTシグナルから差し引かれた新たなCT画像が生成される。本発明の1つの例示的な実施形態において、物質弁別画像の後処理によって、本発明の造影材料以外の造影材料からのCTシグナルが強調され、または本発明の造影材料もしくは体組織によって生成したCTシグナルから差し引かれた新たなCT画像が生成される。
【0100】
[00112] 1つの例示的な実施形態において、本発明の造影剤は、対象に投与された後、二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像される。
【0101】
[00113] 種々の実施形態において、本発明の造影剤は、対象に投与された後、X線ビームのエネルギースペクトルを改変する種々の材料または厚みを有するフィルターを有する二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像される。X線ビームのエネルギースペクトルをフィルターする例示的な材料としては、これだけに限らないが、アルミニウム、銅、またはスズが挙げられる。
【0102】
[00114] 1つの例示的な実施形態において、本発明の造影剤は、対象に投与された後、二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像され、画像は後処理されて、対象に投与された他の造影剤または対象の軟組織から造影剤がデジタル分離される。
【0103】
[00115] ある実施形態において、本発明の造影剤は、対象に投与された後、二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像され、画像は後処理され、画像または投射空間CTデータから得られた2物質弁別、3物質弁別、または多物質弁別を用いて、対象に投与された他の造影剤または対象の軟組織から造影剤がデジタル分離される。
【0104】
[00116] 種々の実施形態において、造影剤は対象に投与された後、二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像され、画像は後処理され、仮想単色画像を用いて、対象に投与された他の造影剤または対象の軟組織から造影剤がデジタル分離される。
【0105】
[00117] 本発明はまた、本発明の造影剤が対象に投与された後、二重エネルギーまたはスペクトルCTスキャナーを用いて撮像され、画像が後処理され、画像または投射空間CTデータと仮想単色画像との組合せを用いて、他の造影剤または対象の軟組織から造影剤がデジタル分離される実施形態を提供する。
【0106】
[00118] 本発明の造影媒体および製剤の利点の1つは、任意の所望の経路を通る1または複数の追加的な造影剤の投与との適合性である。種々の実施形態において、本方法は腸管造影媒体と異なる第2の造影媒体を対象に投与するステップをさらに含む。種々の実施形態において、第2の造影媒体は血管内投与、腸管内投与、肛門投与ならびに天然の(たとえば膣、膀胱)、手術で作成された(たとえば人工膀胱、回腸嚢)、または人工の(たとえばカテーテル、リザバー、チューブ、またはポンプ等の医用デバイス)、様々な体腔への投与から選択される経路を通して投与される。複数の造影材料は異なる体内コンパートメントに投与され得る。1つの例示的な実施形態において、第2の造影媒体はヨウ素系またはバリウム系媒体であり、第3の造影媒体はタンタル系またはタングステン系造影媒体である。
【0107】
[00119] 1つの例示的な実施形態において、第1および第2の造影剤は、第1および第2の造影媒体が分布する領域を包含する画像の組において互いに識別可能である。1つの例示的な第2の造影媒体はヨウ素系造影媒体である。
【0108】
[00120] 第2の造影媒体は薬学的に許容されるビヒクルに可溶または不溶であり得る。第2の造影媒体が粒子状薬剤である場合、第2の造影媒体は第1の造影剤に対して粒子のコアに異なる原子を含み、異なるコーティングを有し、異なる直径であり得る。第2の造影媒体はヨウ素系、Ba系、Gd系、W系、またはTa系造影媒体の1または複数であってもよい。
【0109】
[00121] 1つの例示的な実施形態において、第2の造影媒体はヨウ素系またはバリウム系媒体である。
【0110】
[00122] 以下の実施例は、本発明の例示的実施形態を説明するために提供され、本発明の範囲を定義も限定もするものではない。
【実施例】
【0111】
実施例1
シリカ系薬剤
[00123] シリカ系造影材料の開発は、コロイドナノ粒子材料(粒子サイズ100〜200nm)、たとえばSiO 50wt%という高濃度のLUDOXまたはSYTON製剤(Sigma-Aldrich Inc.)を含む市販のSiO粒子から開始した。これは80〜140kVp(CTスキャナーの管電圧)で670〜520HUのCT値、およびヨウ素系造影剤(80:140kVpのCT値の比が約1.7)と比較して識別可能な約1.3の80:140kVpのCT値の比を有する。これらの材料は受け入れ時のpH9〜10において高度に安定であるが、pHを2〜7の範囲に変更した後、1時間以内(pH 5.0)または数時間以内(pH 7.0)に架橋して硬いゲルとなることが分かった(Iler RK. The chemistry of silica: solubility, polymerization, colloid, and surface properties and biochemistry. John Wiley & Sons, 1979,366頁参照)。50mMの炭酸塩緩衝液(pH 9.0)等のpH緩衝液を用いることによって、見かけ上ゲル化を防止することはできるが、インビボにおいてこの重大な安全上のリスクを確実に除去することはできないことがある。したがって、安全で容易に入手/合成できるコーティング剤を用いて化学的不活性または安定性を有する製剤を製造するため、これらのSiOナノ粒子/微粒子の表面化学改質を行った。図1および図2を参照されたい。
【0112】
化学的改質の手順
方法A
[00124] モノメトキシPEG350(「m-PEG」、8.9g、Sigma-Aldrich)を無水ベンゼンとの共沸蒸留によって乾燥し、次いで無水ジクロロメタン(100mL)に溶解し、0℃に冷却した。この冷却した溶液に4−ニトロフェニルクロロフォーメート(ジクロロメタン25mL中10.1g)を加え、次に無水ピリジン(30mL)を加えた。0〜5℃で一夜反応させた後、混合物をロータリーエバポレーター(水浴40℃)で約50mLまで濃縮し、無水エーテル(200mL)を加えることによって生成物を沈殿させ、次いで30分間、−20℃に冷却した。沈殿を濾過し、冷エーテルで洗浄し、次いで真空乾燥して、m−PEG350モノカーボネートとして白色固体を得た(収量11.6g)。
【0113】
[00125] 上記のm−PEG350モノカーボネート(7.5g)の無水クロロホルム(50mL)溶液に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3.2g)を加えた。湿気を防いで混合物を4時間、室温で撹拌した。反応が完了した後、黄色の溶液を約20mLまで蒸発させ、無水エーテル(100mL)を加えてシロップ状の生成物を得た。シロップをクロロホルム(15mL)に再溶解し、エーテルで再沈殿し、真空乾燥してm−PEG350−トリエトキシシランコーティング剤として淡黄色のシロップ(8.1g)を得た。その構造をH−1 NMR(400MHz、CDCl):0.6、1.7、2.9ppm(SiCHCHCHN)、1.1および3.9ppm(OCHCH)、3.6ppm(PEG)によって確認した。同様に、m−PEG2000−トリエトキシシランを合成し、特性決定した。
【0114】
[00126] シリカナノ粒子(非晶質SiO 100g、市販のLUDOXシリカコロイド、Sigma-Aldrich、100〜200nm、からアセトンで沈殿した。)を、穏やかに撹拌しながら室温でN,N−ジメチルホルムアミド200mLと混合した。PEG−トリエトキシシラン剤(5.0g、量は粒子の比表面積、したがって粒子サイズによる)を懸濁混合物に加えた。激しく撹拌しながら、この懸濁液に、新たに混合したDMF20mL中のアンモニア溶液(29.1%、10.0mL)を、滴下ロートを用いて30分で滴下添加した。コーティング反応を室温で24時間継続した。30分放置後、上清を廃棄し、次いでアセトン(約200mL)を加えて、コーティングされたシリカ粒子を完全に沈殿させた。粗製の粒子生成物を遠心(1分、3000rpm)によって分離し、次いでさらなる洗浄サイクルのためにアセトンに再懸濁した。この精製プロセスを、湿ったpH試験紙による試験でアンモニアが検出されなくなるまで3〜4回繰り返した。得られた淡黄色の沈殿を、UV(210nm)で上清中にPEG−シラン剤が検出されなくなるまで、蒸留水で4〜5回、さらに洗浄した。それぞれの洗浄サイクルは遠心(1分)およびボルテックスによる水への再懸濁(30秒)からなっていた。アセトンによる洗浄、次いで沈殿の真空乾燥の後、PEG350でコーティングされたシリカ微粒子を白色粉末として得た(収量80.6g)。コーティングされたシリカの濃縮懸濁液(DO中35%w/w)のH−1 NMRにより、粒子上にPEGコート(3.6ppm)が存在していることが確かめられた。
【0115】
[00127] 化学的不活性の確認:PEGでコーティングされたシリカ微粒子生成物(2g)の蒸留水2g中の懸濁液を調製し、次いでそのpHを5.2に調整した。14日間、ゲル化は全く見られなかった。非改質シリカコロイド(LUDOX−50)を用いて同時に行った対照実験では、そのpHを受け入れ時の元の9から5.2に調整した後、ちょうど60分で硬いゲルが生じた。このように架橋反応性がなくなったことにより、このナノ粒子についてPEGコーティングが成功したことが確認された。その特性を以下にまとめる。
処方:
蒸留水中または3%ソルビトール溶液中または1〜2%メチルセルロース溶液中のSiO 300〜500mg/g。
X線減弱:
同濃度の非コーティングSiO製剤と同じ。
80:140kVpのCT値の比:
非コーティングSiO製剤と同じ(約1.3)。
化学的安定性:
pH1.5〜9.0でゲル化は見られなかった。
1M NaOH溶液の添加による即時の沈殿は見られなかった。非コーティングシリカナノ粒子コロイドの場合には、過剰のシラノール基の存在により沈殿が見られた。
水性懸濁液の物理的安定性:
ボルテックスまたは撹拌後、室温で3時間を超えても顕著な沈殿は生じなかった。
【0116】
方法B
[00128]
結晶シリカMin−U−Sil−5(平均粒子サイズ1.4ミクロン、US Silica Inc, Frederick, MD)を0.5N HCl中に2時間浸漬し、次いで上清がpH中性で塩素イオンを含まなくなるまで、遠心により蒸留水で洗浄した。次いで沈殿をアセトンで洗浄し、さらに真空乾燥した。この工程は表面のシラノール基を活性化し、また可能性のある水溶性不純物を除去するためのものである。
【0117】
[00129] 上記のように処理した結晶シリカ(100g、粒子サイズ約1.4ミクロン)を激しく撹拌しながらアセトン300mLと混合し、次いで少量(1.0mL)の水を導入した。激しく撹拌しながらPEG350−トリエトキシシラン剤(3.0g)を加え、次いでアンモニア溶液(29%)3〜4滴を加えた。反応液を室温で24時間保持した。その後29%アンモニア6.0mLを混合物に加え、撹拌を30分継続した。反応が完了した後、上述の方法Aと同様に後処理手順を行った。
【0118】
[00130] 同様に、非晶質溶融シリカ微粒子(3〜5ミクロン、Henan, China)および合成非晶質球状シリカ微粒子(1〜2ミクロン、American Elements Inc, Los Angeles, CA)を、上述のようにPEG350−シランでコーティングした。
【0119】
方法C
高分子量PEGコーティング(たとえばPEG2000)の導入。結晶シリカMin−U−Sil−5(平均粒子サイズ1.4ミクロン、US Silica Inc, Frederick, MD)を、上述のように前処理し、精製した(方法B参照)。
【0120】
[00131] 上記のように処理し、乾燥した結晶シリカ(100g、粒子サイズ約1.4ミクロン)を、激しく撹拌しながら乾燥DMF200mLと混合した。この懸濁混合物にPEG2000−トリエトキシシラン剤(12.5g)を加えた。混合物を80〜85℃に加熱し、次いでこの温度に24時間保持した。混合物を室温に冷却した後、DMF20mL中のアンモニア溶液(6.0mL、29%w/w)を30分で滴下添加し、次いで反応を室温でさらに6時間継続した。反応が完了した後、方法A(または方法B)と同様に後処理手順を行った。
【0121】
[00132] 異なる市販のC−18型疎水性シラン化剤、即ちオクタデシルトリエトキシシランを用いたこと以外、上の図1に記載したものと同様の化学的改質スキーム(図2)。
【0122】
[00133] シリカ微粒子懸濁液の物理的安定性を改善するためにシリカ粒子の表面に負電荷を導入することを意図し、合成され親水性であるがアニオン性のシラン化剤を用いたこと以外、上述のものと同様の化学的改質スキーム(図12)。コーティングの手順は上述の方法AまたはBと同様である。
【0123】
[00134] 注目すべきことに、このアニオン性シランは市販の化学物質から容易に合成できた。アミノプロピルトリエトキシシラン(5.5g)を無水THF30mLに溶解した。この溶液に、撹拌しながら無水コハク酸(2.9g)およびピリジン(2mL)を連続的に加えた。反応を室温で4時間続けた。減圧下でロータリーエバポレーター(水浴50℃未満)にかけた後、残渣を真空乾燥してシロップ状の生成物(10.5g)を得た。その構造をH−1 NMR(400MHz、DO):0.6、1.6、3.0ppm(SiCHCHCHN)、1.2および3.9ppm(OCHCH)、2.5ppm(COCHCHCO)で確認した。
【0124】
実施例2
高濃度のMg(OH)微粒子製剤
[00135] マグネシウムを含む一般的な市販薬はMg(OH)を含んでおり、これは低Z造影材料の基盤としては良い選択であるが、入手可能な市販薬の濃度(Mgとして数十mg/mLの範囲)は、CT造影材料としての効果的な使用には低すぎる。したがって、高濃度のMg系製剤が必要である。1つの例は高濃度のMg(OH)懸濁液であり、これはおそらくその水溶性が低いため、明らかな毒性または不快感を観察することなしに、ウサギモデルの試験で成功を収めた。Mg(OH)は元の60wt%懸濁液(即ち、処方された均一な懸濁液100g中、水酸化マグネシウム60g、購入し80kVpのCTで約700HUと測定した)から400−HUの均一な懸濁液として希釈した。Mg(OH)微粒子の利点は、溶解が遅く、したがってMgへの全身的な曝露が少ないことである。さらに、正常な腎機能が存在すれば、吸収されたMgは腎によって容易に排泄され、それにより全身毒性のリスクが最小化される。腸管内Mg(OH)の最も一般的な副作用は、下痢および脱水である。注目すべきことに、硫酸マグネシウム(MgSO)の形態の比較的高用量の静脈内マグネシウムは、臨床的に子癇前症に対して出産のプロセスを遅くするために子宮収縮抑制剤として投与され、母親および胎児に対して安全であることが示されてきた。静脈内MgSOの用量は負荷用量約6g、1〜2g/時間であり、Mg負荷用量1.2gおよびMg 0.2〜0.4g/時間と等価である。生理学的な中性のpH範囲ではMg(OH)の水溶性は低いので、Mg(OH)からのMgの全身的吸収は、そのようなMgSOによる処置において見られるより数百分の1少ないであろう。経口造影剤に必要なMgの予想される典型的な用量は、Mgとして約160g(比重1.3として40wt%Mg(OH)が800mL)である。改質しない場合のMg(OH)の水溶液中への予想される溶解速度は、この薬剤の溶解度が室温で12mg/Lであるので、非常に遅い。腸の容積は約3Lであるので、腸管を通してのMgの最大吸収は、明らかに心配のあるレベルには到達しない。それは特に正常な腎機能を有する患者においては遊離の血管内Mgイオンは容易かつ迅速に尿に排泄されるからである。
【0125】
[00136] 製剤をさらに最適化するため、Mg(OH)を緩衝剤または制酸剤(最小量の炭酸塩、ナトリウム塩)とともに送達して胃の酸性環境を中和するか、またはプロトンポンプ阻害剤とともに送達して胃における酸の産生を阻害することによって、Mg(OH)の溶解をさらに遅くすることができる。
【0126】
実施例3
[00137] コンピュータシミュレーションによって、レポーター原子として高(Z=70〜82)または低(Z<25)原子番号を有する原子を含む造影剤は、理論的にはヨウ素系またはバリウム系(それぞれZ=53および56)造影剤の優れた補完物になり得ることが示された。注目すべきことに、現在臨床的に入手可能な唯一のCT造影材料は、レポーター原子としてヨウ素またはバリウムを用いている。これらの高原子番号または低原子番号レポーター原子を含む造影剤は、ヨウ素系またはバリウム系造影材料に比べて、kVpの低い設定および高い設定に対して、明らかに異なるX線CT値の比を示す。ヨウ素系およびバリウム系の造影材料は、約1.75の80:140kVpのCT値の比(「80:140kVp比」)を示す。高原子番号および低原子番号の薬剤は、1.35未満の80:140kVp比を示すことになる。注目すべきことに、水の80:140kVp比は定義により1.0である。ヨウ素系およびバリウム系造影材料は、周期表の元素の中で最大の理論的80:140kVp比を有する。注目すべきことに、従来のCTスキャンにおいては、造影材料は全て同じように見える。それらは全て、存在する場合にはX線減弱の増大を惹起し、文脈によらなければ識別することができない。
【0127】
[00138] インビトロの実験により、明らかに異なる80:140kVp比を有する2つの造影材料の濃度は、対になる造影材料の異なる濃度の混合溶液を作成すれば、互いに類似した80:140kVp比を有する造影剤と比べて、DECTにより、もっと正確に定量できることが示された。換言すれば、極めて類似した80:140kVp比を有する造影材料であるヨウ素系およびバリウム系剤の濃度は、両方の材料を同じCTスキャンで撮像すると、あまり精度よく定量することができない。しかし、ヨウ素系およびタングステン系の造影材料の濃度は、混合溶液中で僅かに4%の誤差で定量できる。注目すべきことに、従来のCTスキャンでは、2つの異なる造影材料は、混合した場合には識別/定量することはできない。
【0128】
[00139] ラットモデルを用いたインビボ実験により、連続的に注入された血管内造影剤(タングステン系、次いでヨウ素系)は、CTで血管床の異なる部分(1つは動脈、1つは静脈/血液プールの強調相)においてDECTによって識別することができ、それにより単一のDECTスキャンで多相のCTスキャンが得られ、そのため対象への照射線量を低減すると同時に診断価値を改善することができる(従来のCTの場合、多相検査のためには血管内造影材料が主として動脈系に、次いで再び静脈系に存在するときに、複数回のCTスキャン取得を調節する必要がある)。
【0129】
[00140] ウサギのモデルにおいて、顕著に異なる80:140kVp比を有する対となる相補的な造影剤、即ち腸管内にある1つの造影材料および血管内にある1つの造影材料は、DECTによって容易に識別でき、それにより、腸管腔内に高密度の相補的造影材料が存在するにも関わらず、血管内造影材料による腸管壁の強調を可視化することができることが示された。注目すべきこととして、腸管造影材料および血管内造影材料の両方が存在する従来のCTにおいては、高密度の腸管造影材料が存在する場合には血管内造影材料による腸管壁の強調の程度は可視化できない。3種以上の異なる造影剤(たとえばヨウ素系、ガドリニウム系、タングステン系)は、ヨウ素系が血管内に、ガドリニウム系が膀胱内に、タングステン系が腸管内にある場合のように、DECTで識別できることも示された。
【0130】
[00141] また上記モデルについて注目すべきことして、腸管造影材料は水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、およびシリカ(二酸化ケイ素)等の低原子番号材料の濃縮懸濁液/コロイドから作成できることが示された。これは極めて新規な知見である。発表された/入手可能な全ての臨床および前臨床のX線造影材料は中〜高原子番号原子(ヨウ素、バリウム、金、タンタル、ビスマス、タングステン、トリウム、その他)を用いている。これまで低原子番号剤が開発/記述されなかった理由は、そのために造影材料が歴史的に開発されてきた単純フィルムX線とCTとの差異によるものであろう。造影材料を検出する感度はCTの方がずっと大きい(10倍以上)。したがって、低原子番号剤によって惹起される比較的低いレベルのX線減弱は単純フィルムX線写真術においてはあまり目立たず、そのため過去において考慮されなかった。低濃度の高原子番号剤は、低原子番号剤よりもずっと容易にX線をブロックし/減弱させる。また、大部分の化学者を含む当分野の研究者にとっては、高原子番号剤で比較的低い濃度の懸濁液/コロイドを作成するのと比較して、これらの低原子番号剤で通常以上に高濃度で安定な懸濁液/コロイドをどのようにして作成するかは明白ではない。CT造影材料として使用するために極めて高い物理的密度または濃度の低原子番号剤を用いることは、これまで記載されていなかった。低原子番号剤を用いることの利点は、これらの薬剤の多くが極めて安価であり、腸管への使用について極めて毒性が低いことが知られていることである(マグネシウムミルクは毒性が最小限の市販薬である。シリカは、特に丸くされた/卵型の/非晶質の粒子を用いる場合、および溶液で用いる場合には毒性が極めて低い(粉末として棒状の粒子を用い、吸入する場合には珪肺症が起こることがある))。
【0131】
[00142] ウサギの腹部損傷モデルを用いたDECTにおいて、対となる相補的なCT造影材料、即ち腸管内にある1つの造影材料および血管内にある1つの造影材料は、遊出した造影材料が腸管リークか、血管リークか、またはその両方かを決定する感度および特異性を顕著に増大させることができることが示された。これらのウサギのDECT画像を見せられた訓練中の初年度の放射線科研修医は、従来のCT画像しか有しない経験ある学部の腹部損傷放射線科医よりも、遊出した造影材料の起源の診断における精度について勝っていた。さらに、経験ある学部の放射線科医は、DECT画像を見せられた場合に、従来のCT画像のみを見せられた場合に比べて改善された成績を示した。血管内ヨウ素系造影材料による腸管壁の強調は、低原子番号の腸管造影材料を含む腸管については測定できるが、ヨウ素系またはバリウム系腸管造影材料については測定できないことも示された。
【0132】
[00143] 種々の例示的な実施形態および実施例を参照して本発明を説明した。当業者には明白なように、本発明のその他の実施形態および変形は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなしに、当業者によって考案することができる。添付した特許請求の範囲は、全てのそのような実施形態および等価の変形を含むと解釈すべきである。
【0133】
[00144] 本明細書に引用した全ての特許、特許出願、および出版物の開示は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
図1
図2
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図12