特許第6843794号(P6843794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843794
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】収差補正装置および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/153 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   H01J37/153 A
   H01J37/153 B
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-67698(P2018-67698)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-179650(P2019-179650A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂幸
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−243409(JP,A)
【文献】 特開2017−220413(JP,A)
【文献】 特開2011−108650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J37/00−37/02
37/05
37/09−37/18
37/21
37/24−37/244
37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿って配置された、第1多極子、第2多極子、第3多極子、および第4多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された第1転送レンズ系と、
前記第2多極子と前記第3多極子との間に配置された第2転送レンズ系と、
前記第3多極子と前記第4多極子との間に配置された第3転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、それぞれ三回対称場を発生させ、
前記第1多極子および前記第2多極子で発生した六次スリーローブ収差と、前記第3多極子および前記第4多極子で発生した六次スリーローブ収差と、が打ち消し合う、収差補正装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、前記第4多極子の順で配置され、
前記第1多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度と、前記第2多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度は等しく、
前記第2多極子が発生させる三回対称場の向きは、前記第1多極子が発生させる三回対称場を60°回転させた向きであり、
前記第3多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度と、前記第4多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度は等しく、
前記第4多極子が発生させる三回対称場の向きは、前記第3多極子が発生させる三回対称場を60°回転させた向きである、収差補正装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第2多極子が発生させる三回対称場の向きと前記第3多極子が発生させる三回対称場の向きとは同じである、収差補正装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記第2多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度は、前記第3多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の強度よりも小さい、収差補正装置。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、負の球面収差を発生させる、収差補正装置。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子で発生した三回非点収差と、前記第2多極子で発生した三回非点収差と、が打ち消し合い、
前記第3多極子で発生した三回非点収差と、前記第4多極子で発生した三回非点収差と、が打ち消し合う、収差補正装置。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子の各々が発生させる三回対称場により発生する六回非点収差と、
前記第1転送レンズ系、前記第2転送レンズ系、および前記第3転送レンズ系の各々に生じる球面収差と、前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子の各々が発生させる三回対称場より生じる収差とのコンビネーション収差により発生する六回非点収差と、
によって六回非点収差を補正する、収差補正装置。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、対物レンズ側から、前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、前記第4多極子の順で配置されている、収差補正装置。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子の各々が発生させる三回対称場は、三回対称性を持つ磁場、三回対称性を持つ電場、または、三回対称性を持つ、磁場と電場の重畳場である、収差補正装置。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、6極子、または12極子である、収差補正装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、それぞれ光軸に沿った厚みを有する、収差補正装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の収差補正装置を含む、荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差補正装置および荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)や走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)等の電子顕微鏡において、収差補正は、高分解能像を取得するうえで重要な技術である。
【0003】
例えば、非特許文献1〜非特許文献3には、六極子を2段配置した2段三回場型球面収差補正装置が開示されている。非特許文献1〜非特許文献3の球面収差補正装置では、対物レンズの正の球面収差を、六極子によって生じる負の球面収差で補正する。2段三回場型球面収差補正装置では、通常、幾何収差の次数が五次の六回非点収差が支配的な収差となって残るが、多極子の厚さ等を調整することにより、六回非点収差の補正が可能である。
【0004】
また、非特許文献4および非特許文献5には、三回対称場を3段配置した3段三回場型球面収差補正装置が開示されている。3段三回場型球面収差補正装置では、上記の2段三回場型球面収差補正装置では補正が難しい六回非点収差を、三回場を3段配置することで補正している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Rose, Optik, vol. 85 (1990) pp.19-24
【非特許文献2】H. Haider et al., Nature, vol.392 (1998) pp. 768-769
【非特許文献3】H. Muller, et al., Microsc. Microanal. 12, 442-455, (2006)
【非特許文献4】H. Sawada et al., Journal of Electron Microscopy, vol. 58 (2009) pp. 341-347
【非特許文献5】H. Sawada et al., Ultramicroscopy 110 (2010) 958-961
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、2段三回場型球面収差補正装置では、多極子の厚さ等を調整することにより、六回非点収差の補正が可能である。しかしながら、六回非点収差が補正されたとしても、幾何収差の次数が六次(波面収差の次数は七次)である六次スリーローブ収差は補正できず、これが収差補正範囲を制限する収差として残る。
【0007】
また、3段三回場型球面収差補正装置では、上述したように、六回非点収差を補正できる。しかしながら、3段三回場型球面収差補正装置においても、2段三回場型球面収差補正装置と同様に、六回非点収差を補正した後は、六次スリーローブ収差が支配的な収差として残る。
【0008】
本発明の目的は、六次スリーローブ収差を補正することができる収差補正装置および荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る収差補正装置の一態様は、
光軸に沿って配置された、第1多極子、第2多極子、第3多極子、および第4多極子と、
前記第1多極子と前記第2多極子との間に配置された第1転送レンズ系と、
前記第2多極子と前記第3多極子との間に配置された第2転送レンズ系と、
前記第3多極子と前記第4多極子との間に配置された第3転送レンズ系と、
を含み、
前記第1多極子、前記第2多極子、前記第3多極子、および前記第4多極子は、それぞれ三回対称場を発生させ、
前記第1多極子および前記第2多極子で発生した六次スリーローブ収差と、前記第3多極子および前記第4多極子で発生した六次スリーローブ収差と、が打ち消し合う
【0010】
このような収差補正装置では、第1多極子、第2多極子、第3多極子、および第4多極子がそれぞれ三回対称場を発生させるため、球面収差、および、六次スリーローブ収差を補正することができる。
【0011】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
前記収差補正装置の一態様を含む。
【0012】
このような荷電粒子線装置では、六次スリーローブ収差を補正することができ、分解能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】収差補正装置の構成を示す図。
図3】第1多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第2多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第3多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第4多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の関係を説明するための図。
図4】収差補正装置の機能を説明するための図。
図5】第2実施形態に係る電子顕微鏡の構成を示す図。
図6】収差補正装置の構成を示す図。
図7】第1多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第2多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第3多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差、第4多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の関係を説明するための図。
図8】収差補正装置の機能を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を照射して試料の観察、分析等を行う電子顕微鏡を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオンビーム等)を照射して試料の観察、分析等を行う装置であってもよい。
【0016】
1. 第1実施形態
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡1の構成を示す図である。
【0017】
電子顕微鏡1は、本発明に係る収差補正装置を含む。ここでは、本発明に係る収差補正装置として、収差補正装置100を含む場合について説明する。
【0018】
電子顕微鏡1は、図1に示すように、電子銃10と、集束レンズ20と、対物レンズ30と、試料ステージ40と、収差補正装置100と、中間・投影レンズ50と、検出器60と、を含んで構成されている。電子顕微鏡1では、収差補正装置100を、結像系の収差を補正するために用いている。
【0019】
電子銃10は、電子線を発生させる。集束レンズ20は、電子銃10から放出された電子線を集束する。集束レンズ20は、試料に電子線を照射するための照射系を構成している。対物レンズ30は、試料を透過した電子線で結像するための初段のレンズである。試料ステージ40は、試料を保持する。中間・投影レンズ50は、対物レンズ30ともに、試料を透過した電子線で結像するための結像系を構成している。中間・投影レンズ50は、観察室内の検出器60上に結像する。これにより、検出器60では、透過電子顕微鏡像を撮影することができる。
【0020】
収差補正装置100は、電子顕微鏡1の結像系に組み込まれている。収差補正装置100は、結像系(対物レンズ30)の球面収差を補正する。具体的には、収差補正装置100では、結像系の正の球面収差を、収差補正装置100が発生させる負の球面収差で打ち消すことができる。
【0021】
図2は、収差補正装置100の構成を示す図である。
【0022】
収差補正装置100は、図2に示すように、対物レンズ30の後段に配置されている。対物レンズ30と収差補正装置100(第1多極子110)との間には転送レンズ系32が配置されている。転送レンズ系32は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ32aおよび第2転送レンズ32b)で構成されている。
【0023】
収差補正装置100は、4段の多極子(第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140)と、3つの転送レンズ系(第1転送レンズ系150、第2転送レンズ系160、第3転送レンズ系170)と、を含む。
【0024】
第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140は、光軸Aに沿って配置されている。4段の多極子は、対物レンズ30側から、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140の順で配置されている。
【0025】
第1多極子110は、三回対称場を発生させる。三回対称場とは、場の強度が三回対称性を持つ場である。第1多極子110が発生させる三回対称場は、三回対称性を持つ電場、三回対称性を持つ磁場、または三回対称性を持つ、磁場と電場の重畳場である。第1多極子110は、例えば、6極子、または12極子である。なお、第1多極子110は、三回対称場を発生させることができれば、6極子や12極子に限定されない。
【0026】
第1多極子110は、光軸Aに沿った厚みを有する。ここで、厚みを持った多極子では、薄い多極子で発生する収差とは異なる収差がコンビネーション収差として現れる。三回対称場を発生させる多極子では、コンビネーション収差として負の球面収差が生じる。収差補正装置100では、この負の球面収差を利用して結像系の正の球面収差を補正する。また、光軸Aに沿った厚みを有し、三回対称場を発生させる多極子では、コンビネーション収差として負の球面収差に加えて、四次スリーローブ収差、六回非点、五次球面収差、および六次スリーローブ収差が発生する。
【0027】
第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140の構成は、第1多極子110の構成と同じである。すなわち、第2多極子120、第3多極子130、および第
4多極子140は、それぞれ三回対称場を発生させる。第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140は、それぞれ光軸Aに沿った厚みを有する。
【0028】
第1転送レンズ系150は、第1多極子110と第2多極子120との間に配置されている。第1転送レンズ系150は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ150a、第2転送レンズ150b)で構成されている。第1転送レンズ系150は、第1多極子110で形成された像と共役な像を第2多極子120に形成する。
【0029】
第2転送レンズ系160は、第2多極子120と第3多極子130との間に配置されている。第2転送レンズ系160は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ160a、第2転送レンズ160b)で構成されている。第2転送レンズ系160は、第2多極子120で形成された像と共役な像を第3多極子130に形成する。
【0030】
第3転送レンズ系170は、第3多極子130と第4多極子140との間に配置されている。第3転送レンズ系170は、一対の転送レンズ(第1転送レンズ170a、第2転送レンズ170b)で構成されている。第3転送レンズ系170は、第3多極子130で形成された像と共役な像を第4多極子140に形成する。
【0031】
なお、第1転送レンズ系150、第2転送レンズ系160、および第3転送レンズ系170を構成する転送レンズは、共役な像を形成できれば、回転対称(軸対称)なレンズであってもよいし、多極子レンズであってもよい。
【0032】
図3は、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の関係を説明するための図である。
【0033】
第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1の強度と、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の強度は、等しい。また、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の向きは、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1を60°回転させた向きである。すなわち、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2は、光軸Aまわりに、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1を60°回転させた場である。なお、多極子が発生させる三回対称場の向きは、多極子が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差の向きと同じである。すなわち、第2多極子120が発生させる三回対称場の向きは、第1多極子110が発生させる三回対称場を60°回転させた向きである。
【0034】
第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3の強度と、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の強度は、等しい。また、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の向きは、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3を60°回転させた向きである。すなわち、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4は、光軸Aまわりに、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3を60°回転させた場である。言い換えると、第3多極子130が発生させる三回対称場の向きは、第4多極子140が発生させる三回対称場を60°回転させた向きである。
【0035】
第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の向きは
、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3の向きと同じである。すなわち、第2多極子120が発生させる三回対称場の向きは、第3多極子130が発生させる三回対称場の向きと同じである。また、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の強度は、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3の強度よりも小さい。例えば、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の強度と、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3の強度との比B2:B3は、例えば、B2:B3=1:x、ただしxは0.4<x<0.8である。比B2:B3は、対物レンズ30の焦点距離、対物レンズ30の球面収差係数、転送倍率、転送レンズの焦点距離、転送レンズの球面収差係数、多極子の厚さ等に応じて設定される。
【0036】
図4は、収差補正装置100の機能を説明するための図である。収差補正装置100では、4段の多極子(第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140)において、上述した図3に示す三回非点収差B1,B2,B3,B4を発生させることによって、以下で説明するように、三回非点収差、球面収差、六回非点収差、六次スリーローブ収差を補正することができる。なお、図4に示す収差以外の収差(コマ収差、スター収差など)は、収差補正装置100に取り付けられている偏向コイル(図示せず)を用いて補正することができる。
【0037】
<三回非点収差A3>
第1多極子110および第2多極子120では、それぞれ三回非点収差が発生する。第1多極子110で発生した三回非点収差と、第2多極子120で発生した三回非点収差とは打ち消しあう。
【0038】
第3多極子130および第4多極子140では、それぞれ三回非点収差が発生する。第3多極子130で発生した三回非点収差と、第4多極子140で発生した三回非点収差とは打ち消しあう。したがって、収差補正装置100では、例えば、三回非点収差を零とすることができる。
【0039】
<球面収差O4>
第1多極子110は、負の球面収差を発生させる。同様に、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140は、それぞれ負の球面収差を発生させる。これら4段の多極子で発生させた負の球面収差で、結像系の正の球面収差を補正することができる。
【0040】
<六回非点収差A6>
第1多極子110が発生させる三回対称場により六回非点が発生する。同様に、第2多極子120が発生させる三回対称場により六回非点が発生する。同様に、第3多極子130が発生させる三回対称場により六回非点が発生する。同様に、第4多極子140が発生させる三回対称場により六回非点が発生する。また、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140が発生させる三回対称場同士のコンビネーション収差としても六回非点が発生する。
【0041】
また、第1転送レンズ系150、第2転送レンズ系160、第3転送レンズ系170には、それぞれ球面収差が生じる。この転送レンズ系で生じる球面収差と、多極子110,120,130,140が発生させる三回対称場により生じる収差とのコンビネーション収差により、六回非点収差が発生する。
【0042】
収差補正装置100では、上記の、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140の各々が発生させる三回対称場により発生する六回非点
収差と、転送レンズ系150,160,170に生じる球面収差と多極子が発生させる三回対称場より生じる収差とのコンビネーション収差により発生する六回非点収差と、のバランスをとることによって収差補正装置100全体として六回非点収差を補正する。これにより、例えば、収差補正装置100全体として、六回非点収差を零にすることができる。
【0043】
<六次スリーローブ収差R7>
収差補正装置100では、第1多極子110および第2多極子120で発生した六次スリーローブ収差と、第3多極子130および第4多極子140で発生した六次スリーローブ収差とが、打ち消しあう。これにより、収差補正装置100では、六次スリーローブ収差を補正することができ、例えば、収差補正装置100全体として、六次スリーローブ収差を零にすることができる。
【0044】
収差補正装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0045】
収差補正装置100は、三回対称場を発生させる第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140と、第1多極子110と第2多極子120との間に配置された第1転送レンズ系150と、第2多極子120と第3多極子130との間に配置された第2転送レンズ系160と、第3多極子130と第4多極子140との間に配置された第3転送レンズ系170と、を含む。そのため、収差補正装置100では、上述したように、結像系の球面収差を補正することができ、かつ、収差補正装置100で発生する六次スリーローブ収差を補正することができる。
【0046】
収差補正装置100は、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140は、対物レンズ30側から、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140の順で配置されている。また、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1の強度と、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2の強度は等しく、三回非点収差B2の向きは、三回非点収差B1を60°回転させた向きである。また、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3の強度と、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の強度は等しく、三回非点収差B4の向きは、三回非点収差B3を60°回転させた向きである。
【0047】
また、三回非点収差B2の向きと三回非点収差B3の向きとは同じである。また、三回非点収差B2の強度は、三回非点収差B3の強度よりも小さい。
【0048】
そのため、収差補正装置100では、結像系の球面収差を補正することができ、かつ、三回非点収差、六回非点収差、および六次スリーローブ収差を補正することができる。
【0049】
収差補正装置100では、第1多極子110および第2多極子120で発生した六次スリーローブ収差と、第3多極子130および第4多極子140で発生した六次スリーローブ収差と、が打ち消し合う。そのため、収差補正装置100では、六次スリーローブ収差を補正することができる。
【0050】
収差補正装置100では、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140は、負の球面収差を発生させる。そのため、収差補正装置100では、結像系の正の球面収差を打ち消すことができる。
【0051】
収差補正装置100では、第1多極子110で発生した三回非点収差と、第2多極子120で発生した三回非点収差と、が打ち消し合い、第3多極子130で発生した三回非点
収差と、第4多極子140で発生した三回非点収差と、が打ち消し合う。そのため、収差補正装置100では、三回非点収差を補正することができる。
【0052】
収差補正装置100では、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140の各々が発生させる三回対称場により発生する六回非点収差と、転送レンズ系150,160,170が発生させる球面収差と多極子110,120,130,140が発生させる三回対称場より生じる収差とのコンビネーション収差により発生する六回非点収差と、によって、六回非点収差を補正する。そのため、収差補正装置100では、六回非点収差を補正することができる。
【0053】
電子顕微鏡1は、収差補正装置100を含むため、電子顕微鏡像の分解能を向上できる。
【0054】
なお、上記では、4段の多極子(第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140)において、上述した図3に示す三回対称場を発生させることによって、球面収差や六次スリーローブ収差を補正する場合について説明したが、球面収差や六次スリーローブ収差を補正することができれば、三回対称場によって作られる三回非点収差B1,B2,B3,B4の関係は、図3に示す例に限定されない。
【0055】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図5は、第2実施形態に係る電子顕微鏡2の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡2において、第1実施形態に係る電子顕微鏡1の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0056】
電子顕微鏡2は、本発明に係る収差補正装置を含む。ここでは、本発明に係る収差補正装置として、収差補正装置200を含む場合について説明する。
【0057】
上述した電子顕微鏡1では、図1に示すように、収差補正装置100が結像系に組み込まれていた。
【0058】
これに対して、電子顕微鏡2では、図5に示すように、収差補正装置200が照射系に組み込まれている。
【0059】
電子顕微鏡2は、電子銃10と、集束レンズ20と、収差補正装置200と、対物レンズ30と、試料ステージ40と、中間・投影レンズ50と、検出器60と、を含んで構成されている。
【0060】
収差補正装置200は、電子顕微鏡2の照射系に組み込まれている。収差補正装置200は、照射系(対物レンズ30)の球面収差を補正する。具体的には、収差補正装置200では、照射系の正の球面収差を、収差補正装置200が発生させる負の球面収差で打ち消すことができる。
【0061】
図6は、収差補正装置200の構成を示す図である。
【0062】
収差補正装置200は、図6に示すように、対物レンズ30の前段に配置されている。収差補正装置200(第1多極子110)と対物レンズ30との間には転送レンズ系32が配置されている。転送レンズ系32は、2つの転送レンズ(第1転送レンズ32aおよび第2転送レンズ32b)で構成されている。
【0063】
収差補正装置200は、4段の多極子(第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140)と、3つの転送レンズ系(第1転送レンズ系150、第2転送レンズ系160、第3転送レンズ系170)と、を含む。
【0064】
第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140は、光軸Aに沿って配置されている。4段の多極子は、対物レンズ30側から、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、第4多極子140の順で配置されている。
【0065】
図6に示す収差補正装置200における4段の多極子の配置と、図2に示す収差補正装置100における4段の多極子の配置とは、対物レンズ30に関して対称となる。
【0066】
図7は、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3、第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の関係を説明するための図である。
【0067】
収差補正装置200において、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3、および第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の関係は、上述した収差補正装置100において、第1多極子110が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B1、第2多極子120が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B2、第3多極子130が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B3、および第4多極子140が発生させる三回対称場によって作られる三回非点収差B4の関係と同じである。
【0068】
すなわち、三回非点収差B1の強度と三回非点収差B2の強度は、等しい。また、三回非点収差B2の向きは、三回非点収差B1を60°回転させた向きである。また、三回非点収差B3の強度と三回非点収差B4の強度は、等しい。また、三回非点収差B4の向きは、三回非点収差B3を60°回転させた向きである。また、三回非点収差B2の向きは、三回非点収差B3の向きと同じである。また、三回非点収差B2の強度は、三回非点収差B3の強度よりも小さい。
【0069】
図8は、収差補正装置200の機能を説明するための図である。収差補正装置200では、4段の多極子(第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140)において、上述した図7に示す三回非点収差B1,B2,B3,B4を発生させることによって、以下で説明するように、三回非点収差、球面収差、六回非点収差、六次スリーローブ収差を補正することができる。
【0070】
<三回非点収差A3>
第1多極子110および第2多極子120では、それぞれ三回非点収差が発生する。第1多極子110で発生した三回非点収差と、第2多極子120で発生した三回非点収差とは打ち消しあう。
【0071】
第3多極子130および第4多極子140では、それぞれ三回非点収差が発生する。第3多極子130で発生した三回非点収差と、第4多極子140で発生した三回非点収差とは打ち消しあう。したがって、収差補正装置200では、例えば、三回非点収差を零とすることができる。
【0072】
<球面収差O4>
第1多極子110は、負の球面収差を発生させる。同様に、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140は、それぞれ負の球面収差を発生させる。これら4段の多極子で発生させた負の球面収差で、照射系の正の球面収差を補正することができる。
【0073】
<六回非点収差A6>
収差補正装置200では、収差補正装置100と同様に、第1多極子110、第2多極子120、第3多極子130、および第4多極子140の各々が発生させる三回対称場により発生する六回非点収差と、転送レンズ系に生じる球面収差と多極子が発生させる三回対称場より生じる収差とのコンビネーション収差により発生する六回非点収差と、のバランスをとることによって収差補正装置200全体として六回非点収差を補正する。これにより、例えば、収差補正装置200全体として、六回非点収差を零にすることができる。
【0074】
<六次スリーローブ収差R7>
収差補正装置200では、第1多極子110および第2多極子120で発生した六次スリーローブ収差と、第3多極子130および第4多極子140で発生した六次スリーローブ収差とが、打ち消しあう。これにより、収差補正装置200では、六次スリーローブ収差を補正することができ、例えば、収差補正装置200全体として、六次スリーローブ収差を零にすることができる。
【0075】
収差補正装置200は、例えば、以下の特徴を有する。
【0076】
収差補正装置200では、収差補正装置100と同様の作用効果を奏することができる。さらに、収差補正装置200では、照射系の収差を補正することができる。
【0077】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0078】
1…電子顕微鏡、2…電子顕微鏡、10…電子銃、20…集束レンズ、30…対物レンズ、32…転送レンズ系、32a…第1転送レンズ、32b…第2転送レンズ、40…試料ステージ、50…中間・投影レンズ、60…検出器、100…収差補正装置、110…第1多極子、120…第2多極子、130…第3多極子、140…第4多極子、150…第1転送レンズ系、150a…第1転送レンズ、150b…第2転送レンズ、160…第2転送レンズ系、160a…第1転送レンズ、160b…第2転送レンズ、170…第3転送レンズ系、170a…第1転送レンズ、170b…第2転送レンズ、200…収差補正装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8