特許第6843811号(P6843811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843811
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】撒積貨物船の船艙壁面清掃装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 57/00 20060101AFI20210308BHJP
   B63B 25/04 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B63B57/00 Z
   B63B25/04 Z
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-190470(P2018-190470)
(22)【出願日】2018年9月19日
(65)【公開番号】特開2020-45081(P2020-45081A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2020年9月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511308266
【氏名又は名称】岬環境プラン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 利之
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平5−76582(JP,U)
【文献】 特開平6−127702(JP,A)
【文献】 特開昭63−184593(JP,A)
【文献】 特表2009−505901(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0111015(EP,A1)
【文献】 特開2019−199247(JP,A)
【文献】 “BC HOLD CLEANING BOOM - 18”,BC TAECHANG INDUSTRIAL CORP.,2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 57/00−57/02,25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撒積貨物船の揚荷後に船艙内の壁面に付着残留してしまう残留物を清掃する船艙壁面清掃装置において、最長伸張時に前記船艙の高さにほぼ相当する長さを備えた伸縮式のアームと、船艙床面上に置かれ該アームの下端部を支持する基部台車と、ハッチコーミング上面に据えられ、該アームを吊上げ保持するための吊上げワイヤーを留める上部懸架台と、で構成され、
該アームを船艙壁面に立て掛けた状態で該アームの長さを変化させることにより、該アームの先端を船艙壁面の高所に至るまでの任意の高さに接触させて、そこに取付けた各種清掃器具にて船艙壁面の清掃を可能とすることを特徴とする船艙壁面清掃装置。
【請求項2】
前記アームの下端は前記基部台車にヒンジで結合され、該アームを伸縮させるための伸縮駆動機構を該アームの下端部に有し、該アームを伸す又は縮めることにより、該アーム先端が前記船艙壁面に接触しながら上方又は下方に移動することを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項3】
前記上部懸架台より懸垂された前記吊上げワイヤーが前記アームのほぼ中央付近に取付けられた滑車を通じて前記基部台車に据えられたドラムに巻き取られ、該吊上げワイヤーを巻き取ることにより該アームの仰角を大きくし、該アームの先端を前記船艙壁面から離せることを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項4】
前記吊上げワイヤーは常に弛みのない状態で前記ドラムに巻取り、前記アームを吊上げ支持できる状態にしておくことにより、該アームが長く伸張した状態で横に転倒するのを防ぐことを特徴とする請求項3に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項5】
前記上部懸架台は走行車輪を有し、前記ハッチコーミング上面を軌道としてハッチ開口四周に沿って周回移動することができ、前記船艙床面上の前記基部台車を移動し、これに追従して該上部懸架台を移動することにより、前記アームは前記吊上げワイヤーで支持された状態で前記船艙壁面に沿って横移動することを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項6】
前記上部懸架台は、前記ハッチコーミング上面の軌道上から前記走行車輪が外れることを防ぐため、ハッチコーミングの外側側面まで伸びた横ずれ防止腕を有することを特徴とする請求項5に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項7】
前記アームの先端には清掃器具取付台を設け、該清掃器具取付台には棒状の回転ブラシ、圧縮エア噴射ノズル、洗浄水噴射ノズル、などの清掃器具を取付けることにより、前記船艙壁面に付着した残留物を、掻き落とし、吹き飛ばし、海水または清水洗浄できることを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項8】
前記清掃器具取付台を前記アームの先端部にヒンジで結合し、該アームの伸張に比例して該清掃器具取付台が該アームに対し徐々に大きな角度を保ち、取付けた前記清掃器具の清掃効果を減じないようにしたことを特徴とする請求項7に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項9】
前記アームの先端付近の両側からハの字状に2本の長い操作ロープを繋ぎ、これらを前記船艙床面上にいる作業員が牽引操作することにより、該アームの先端の左右位置の微調整を行い、前記船艙壁面の狙った点に正確に接するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【請求項10】
前記基部台車が前記アームから力を受けて横ずれすることを防ぐため、該基部台車の下面に永久磁石を取付け、前記船艙床面に吸着させ、横ずれを制動することを特徴とする請求項1に記載の船艙壁面清掃装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型撒積貨物船の船艙壁面を清掃するのに適した船艙壁面清掃装置に関する。
【技術背景】
【0002】
主に外航海運にて運航されている大型の撒積貨物船は石炭、穀物などの貨物を揚げ荷した後、次に異なる種類の貨物を積む場合は船艙内を全面的に清掃する必要があるが、その作業は本船乗組員又は外部の清掃作業員にて単純な清掃用具を用い人力にて行うのが一般的である。撒積貨物船の船艙壁面はフレームなどの骨材で構成されているため、積荷の残留物が付着しやすく、特に、高所に付着している場合、これらを取り除くには高所作業車や足場の設置が必要であり、手間が掛かると共に高所作業となるため危険な作業となる。
【0003】
船艙内の高所作業への対応としては専用の作業足場装置を設置するもの(例えば、特許文献1〜4参照)や上甲板の開口部より作業装置を吊下げるのも(例えば、特許文献5、6参照)が提案されているが、いずれも清掃作業に特化したものではく、工作工事作業のためのものであり、装置の設置及び移動に多大な労力を要する。また、作業足場装置では作業者に対する足場上での高所作業の危険性は依然として解消できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭51−80899
【特許文献2】特開昭52−13295
【特許文献3】特開昭52−14029
【特許文献4】特開昭61−183561
【特許文献5】特開昭60−197480
【特許文献6】実開昭61−85594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撒積貨物船は多種多様な貨物を運送するので、積荷の種類が変わる場合は船艙内の清掃が必要となる場合が多く、その清掃作業に要する日数と作業コストは運航上の負担になると共に、船艙壁面の高所の清掃は危険な作業でもある。特に、揚荷出港後、次の積み地に向かう航海中に乗組員により清掃作業を行う場合、動揺する船艙内での高所作業はさらに危険度が増すことになる。
【0006】
本発明は上述した問題点に鑑みて創案されたものであり、装置自体が比較的軽量で乗組員による船艙内への設置や船艙間の移動が容易にて、船艙壁面清掃における高所作業の解消と清掃作業全体の省力化・迅速化を図ることができる、船艙壁面清掃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、撒積貨物船の揚荷後に船艙内の壁面に付着残留してしまう残留物を清掃する船艙壁面清掃装置において、船艙壁面の最上部に届く長さを備えた伸縮式のアームと、船艙床面上に置かれ該アームの下端部を支持する基部台車と、ハッチコーミング上面に据えられ、該アームを吊上げ保持するための吊上げワイヤーを留める上部懸架台と、で構成され、該アームを船艙壁面に立て掛けた状態で該アームの長さを変化させることにより、該アームの先端を船艙壁面の高所に至るまでの任意の高さに接触させて、そこに取付けた各種清掃器具にて船艙壁面の清掃を可能とすることを特徴とする船艙壁面清掃装置が提供される。
【0008】
前記アームの下端は前記基部台車にヒンジで結合され、該アームを伸縮させるための伸縮駆動機構を該アーム下端部に有し、該アームを伸す又は縮めることにより、該アーム先端が壁面に接触しながら上方又は下方に移動するようにしてもよい。
【0009】
前記アームの先端にはローラーを取付け、船艙壁面とは該ローラーを介して接することにより、摩擦抵抗を減じ滑らかに壁面を上下するようにしてもよい。
【0010】
前記上部懸架台より懸垂された前記吊上げワイヤーは前記アームのほぼ中央付近に取付けられた滑車を通じて前記基部台車に据えられたドラムに巻き取られており、該吊上げワイヤーを巻き取ることにより該アームの仰角を大きくし、該アームの先端を壁面から離すことができるようにしてもよい。
【0011】
前記吊上げワイヤーは常に弛みのない状態で前記ドラムに巻取り、前記アームを吊上げ支持できる状態にしておくことにより、該アームが長く伸張した状態で横に転倒することを防ぐ役目を果たすようにしてもよい。
【0012】
撒積貨物船のハッチカバーは通常、船首と船尾方向に折畳まれて開閉するエンドホールディングタイプ、又は舷側方向に水平に開閉するサイドスライディングタイプであるが、いずれもハッチカバー全開時はハッチコーミング上面が完全に露出した状態となる。
前記上部懸架台は走行車輪を有し、ハッチコーミング上面を軌道としてハッチ開口四周に沿って周回移動することができ、船艙床面上の前記基部台車を移動し、これに追従して該上部懸架台を移動することにより、前記アームは前記吊上げワイヤーで支持された状態で船艙壁面に沿って横移動するようにしてもよい。
【0013】
前記上部懸架台には、ハッチコーミング上面の軌道上から前記走行車輪が外れることを防ぐため、ハッチコーミングの外側側面まで伸びた横ずれ防止腕を取付けてもよい
【0014】
前記アームの先端には清掃器具取付台を設け、該清掃器具取付台には棒状の回転ブラシ、圧縮エア噴射ノズル、洗浄水噴射ノズル、などの清掃器具を取付けることにより、船艙壁面に付着した残留物を、掻き落とし、吹き飛ばし、海水または清水洗浄できるようにしてもよい。
【0015】
前記アームは船艙壁面と接触しながら伸張する(即ち、該アームの先端が船艙壁面の高所に達する)につれて、壁面となす角度は徐々に浅くなり、前記清掃器具取付台を該アーム先端部に固定して取付けたのでは、取付けた前記清掃器具の壁面に対する角度も徐々に浅くなってしまい清掃効果が減じてしまう。そこで、該清掃器具取付台を該アーム先端部にヒンジで結合し、該アームの伸縮駆動機構を利用し、伸張に比例して該清掃器具取付台が該アームに対し徐々に大きな角度を保つようにしてもよい。
【0016】
前記アームの先端付近の両側からハの字状に2本の長い操作ロープを繋ぎ、これらを船艙床面上にいる作業員が牽引操作することにより、該アームの先端の左右位置の微調整を行い、船艙壁面の狙った点に正確に接するようにしてもよい。
【0017】
前記アーム先端を船艙壁面に接した状態で伸した時、及び該アーム先端に取付けた前記清掃器具の作動時(前記回転ブラシが船艙壁面から受ける反力や前記洗浄水噴射ノズルの噴射水流からの反動が生じる)に、前記基部台車は該アームから力を受けて横ずれが生じる虞があるので、該基部台車の下面に取付けた永久磁石を船艙床面に吸着させ、これを制動してもよい。尚、該永久磁石は上下に可動し、該基部台車を動かす時は船艙床面から離すようにしてもよい。
【0018】
前記上部懸架台はハッチコーミングに沿って周回移動し、ハッチコーミングのコーナーでは掛け替える必要があるが、この時は前記アームを縮小し水平に近い状態で先端を壁面に預けて転倒の危険がないようにしてから、前記吊上げワイヤーを繰り出し充分緩めて該上部懸架台の掛け替えを行なうようにしてもよい。
【0019】
前記アームの下端部は前記基部台車とヒンジで連結されているが、そのままでは船艙内への搬出入や不使用時の収納に不便であり、該ヒンジの軸芯ピンを取り外し式として、該アームと該基部台車は分離できるようにしてもよい。
【本発明の効果】
【0020】
本発明に係わる船艙壁面清掃装置によれば、船艙壁面を高所まで迅速に清掃でき、かなりの省力化を図れると共に、船艙壁面高所の清掃に係わる従来の危険な高所作業を解消することができる。
【0021】
さらに、本発明によれば、船艙壁面に付着した残留物の性状に応じ、回転ブラシによる掻き落とし、圧縮エア噴射ノズルによる吹き飛ばし、洗浄水噴射ノズルによる海水又は清水洗浄までの一連の作業を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係わる船艙壁面清掃装置を示す全体構成図である。
図2】船艙壁面清掃装置が船艙内を周回しながら稼働する状況を示す平面図である。
図3】船艙壁面清掃装置の基部台車の詳細を示す図であり、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は正面図である。
図4】船艙壁面清掃装置の上部懸架台の詳細を示す図であり、(a)はハッチコーミング上面に据えられた状態での側面図、(b)は船艙側より見た正面図、(c)は外舷側より見た正面図である。
図5】船艙壁面清掃装置の4つの単位アームで構成された4連式のアームの詳細を示す図であり、(a)は縮小状態での側面図、(b)は各単位アームの詳細を示す平面図、(c)はアームの後端部、及び前端部の断面図、(d)は清掃器具取付台に傾斜角度を付ける機構を示す平面図、及び側面図、(e)はアームの伸縮動作を駆動するワイヤリングシステム(清掃器具取付台の傾斜角度付けも含む)を示す説明図である。
図6】清掃器具の作業詳細を示す図であり、(a)は回転ブラシとその作業要領、(b)は圧縮エア噴射ノズルとその作業要領、(c)は洗浄水噴射ノズルとその作業要領、を示す正面図および側面図である。
図7】船艙壁面清掃装置を船艙内に吊り下ろし、設置する要領を示す説明図であり、(a)は搬入、組立て要領を示し、(b)は設置が完了し、アームを伸張し清掃作業に入る要領を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1図7を用いて説明する。ここで図1は本発明の一実施形態に係わる船艙壁面清掃装置を示す全体構成図である。
【0024】
本発明の一実施形態に係わる船艙壁面清掃装置1は、撒積貨物船の揚荷後に船艙壁面に付着した積荷の残留物を取り除き清掃するための各種の清掃器具を船艙壁面の高所に至るまで接触又は近接させるための装置であって、図1に示したように、船艙壁面の最上部に届く長さの伸縮式のアーム2と、船艙床面上に置かれアーム2の下端部を支持する基部台車4と、ハッチコーミング上面9に据えられ、アーム2を吊上げ保持するための吊上げワイヤー6を留める上部懸架台5と、アーム2の先端付近の両側に繋がれた2本の操作ロープ7と、で構成され、
アーム2を船艙壁面に立て掛けた状態で伸すことにより、その先端は船艙壁面に接しながら高所にまで届き、そこに取付けた各種清掃器具8にて船艙壁面の清掃を可能とするものである。
【0025】
アーム2は船艙壁面に立て掛けられた状態となるが、ハッチコーミング上面9に据えられた上部懸架台5に留められた吊上げワイヤー6にも吊上げ支持されており、長く伸張されたアーム2が横に転倒するのを防いでいる。
【0026】
ハッチカバー全開時はハッチコーミング上面9が完全に露出した状態となり、図2に示したように、ハッチコーミング上面9を軌道として上部懸架台5をハッチ開口四周に沿って周回移動させることができ、移動可能な基部台車4に下端部を載せたアーム2は吊上げワイヤー6で吊上げ支持された状態で横移動ができ、アーム2の先端を壁面隅部も含め4つの壁面のいずれにも接触させることができる。
尚、アーム2の先端を壁面から離すと、吊上げワイヤー6で吊上げ支持されたアーム2は基部台車4を支点に不安定な首振り運動を呈し易くなるので、左右に繋がれた操作ロープ7で制動制御する。
【0027】
図3に示したように、基部台車4は4つのタイヤ車輪41を有し、その進行方向から90°真横の方向にアーム2が配置され、ヒンジ軸芯ピン21でアーム2の下端部と連結される。基部台車4には吊上げワイヤー6を巻き取るドラムB62が取付けられ、駆動チェーン及びスプロケット64を介し、手動回転ハンドル63で回転駆動される。また、アーム2の伸縮を駆動するエアモーター32をアーム2の最後部に取付ける。エアモーター操作レバー32aを手動回転ハンドル63の近くに配置し、一人の作業者で双方が操作できるようにする。
【0028】
尚、ヒンジ軸芯ピン21は取り外し式とし、アーム2と基部台車4は分離可能として、船艙内への搬出入や収納時に取り扱い易いようにしてもよい。
【0029】
基部台車4の底部には上下可動式の永久磁石42を取付け、これを船艙床面に吸着させることにより、基部台車4を制動し、横ずれを防ぐようにする。これはアーム2の先端を船艙壁面に接した状態で伸張した時、及びアーム2の先端に取付けた各種清掃器具8の作動時(回転ブラシ81が船艙壁面から受ける反力や、洗浄水噴射ノズル83の噴射水流からの反動が生じる)に、基部台車4はアーム2から力を受け横ずれが生じる虞があるためである。尚、永久磁石42はフットレバー43で上下に可動させ、基部台車4を動かす時は船艙床面から離し、制動を解くものとする。また、永久磁石42には磁力のオン・オフが可能なリフティングマグネットを使用してもよい。
【0030】
上部懸架台5は、図4(a)に示したように、ハッチコーミング上面9を跨ぐ様に据えられ、ハッチコーミング内側に伸びた脚部51で吊上げワイヤー6を吊下げ、ハッチコーミング外側を横ずれ防止腕54が抱え、脱落しないようにする。上部懸架台5は、2個の走行車輪53を有し、脚部51にはローラー52を取付け、横ずれ防止腕54にもローラー55を取付け、ハッチコーミング上面9を軌道としてハッチカバー用のコンプレッションバー91に沿って、手動にて移動させることができる。
尚、図4(b)は船艙側より見た正面図、図4(c)は外舷側より見た正面図を示す。
【0031】
図5はアーム2の詳細を示す図であるが、4本の梯子形状の単位アームで構成され、ワイヤー牽引式のスライド機構にて伸縮する。尚、ここでは、アーム2を4連式としたが、収納時の利便性を高めるため、単位アーム長さを短くし、連数を増やしてもよい。
また、ここでは、構造が簡単なワイヤー牽引式のスライド機構としたが、クレーンのブームに使われているシリンダー駆動による多段内挿式伸縮機構(所謂、テレスコピックブーム)としてもよい。
【0032】
図5(a)は最短に縮小した状態の側面図であり、最下段の単位アームの後端に伸縮機構のワイヤー巻取りドラムA31、および駆動用のエアモーター32を取付ける。
【0033】
図5(b)は各単位アームの詳細を示す平面図であるが、伸縮機構のワイヤリングシステムの為の滑車23、スライド機構の為のスライド金具25aと25bを単位アームの後端付近、および前端付近に取付け、最長伸張時の各単位アームの重なり寸法を維持するためのストッパー金具26を取付ける。また、最上段の単位アームの前端にはローラー24を取付け、船艙壁面との接触時の摩擦を減じ、アーム2の伸縮動作が円滑に行えるようにする。さらに、前端部に各種清掃器具8を取付ける為の清掃器具取付台27を設ける。
【0034】
また、吊上げワイヤー6は上部懸架台5より逆V字状に2本下ろされ、2段目の単位アームの前端付近の縦枠両側に取付けられた滑車22を経由し、基部台車4に設けられたドラムBに繋がれる。吊上げワイヤー6を2本とし滑車22まで逆V字状に吊ることで、アーム2を吊上げた際の横振れを減じることができる。
【0035】
図5(c)はアーム2の断面図であり、単位アームの縦枠断面はコの字形状とし、スライド金具25a、25bにて上下の縦枠を互いに把持して、スライド機構を構成する。単位アームの後端付近に取付けるスライド金具25aは上の縦枠に固定された金具がその下の縦枠を把持し、前端付近に取付けるスライド金具25bは下の縦枠に固定された金具がその上の縦枠を把持する。
【0036】
図5(d)は最上段の単位アームの先端にヒンジで結合された清掃器具取付台27に傾斜角度を付ける機構を示す平面図、並びに側面図である。最上段の単位アームにもアーム伸縮のためのワイヤリングシステムと同様のワイヤリングを施し、この一部を駆動チェーン35aとしスプロケット36を回転し、これに連結された傘歯車37とボールネジ38により、ロッド39が清掃器具取付台27の後縁を押し上げ傾斜角度を付けていく。アーム2最短縮小の場合(水平に近い姿勢となる)は清掃器具取付台27のアーム2となす角度は0°であり、アーム2が伸張するに連れてその角度は大きくなる。
【0037】
図5(e)はアーム2の伸縮機構を構成するワイヤリングシステムを示す説明図である。最下段の単位アームと2段目の単位アームにおいては、2段目の単位アームの後端部から、最下段の単位アーム前方の滑車23を経由した伸張用ワイヤー34aと、縮小用ワイヤー34bがドラムA33に互いに逆巻きに巻き取られている。さらに、2段目の単位アームにおいては、前方の滑車23を経由した伸張用ワイヤー34a及び後方の滑車23を経由した縮小用ワイヤー34bで、その上の単位アームの後端部及びその下の単位アームの前端部がループ状に連結され、3段目の単位アームも全く同様にその上下の単位アームがループ状に連結されている。このワイヤリングシステムにより、ドラムA33を回転させて伸張用ワイヤー34aを巻取り、同時に縮小用ワイヤー34bを繰出すとアーム2は各単位アームが連動して伸張し、逆に、縮小用ワイヤー34bを巻取り、同時に伸張用ワイヤー34aを繰出すとアーム2は縮小する。
【0038】
また、最上段の単位アームには、後方の滑車23を経由したワイヤー35bと、前方のスプロケット36を経由した駆動チェーン35aとが、その下の単位アーム前端に結ばれループ状に張られる。これにより、アーム2の伸縮に伴いスプロケット36が回転駆動され、清掃器具取付台27に傾斜角度を付ける為の駆動力を得ることができる。
【0039】
図6は船艙内船側壁面の最高所を例に、伸張されたアーム2の先端の清掃器具取付台27に取付けた各種清掃器具8の清掃要領を示す説明図である。(a)はエアモーター駆動の回転ブラシ81で残留物を掻き落とす要領を示し、(b)は圧縮エア噴射ノズル82で残留物を吹き飛ばす要領を示し、(c)は洗浄水噴射ノズル83で洗浄する要領を示している。尚、上述したとおり、清掃器具取付台27はアーム2の伸張に応じ、自動的に傾斜角度を保つ機構を有しており、各種清掃器具8の清掃効果を高めている。
【0040】
尚、図6(a)のエアモーター駆動の回転ブラシ81、及び圧縮エア噴射ノズル82への圧縮エア供給は、エアモーター32へ上甲板より供給された圧縮エアを基部台車4上で分岐しホースを繋ぎ供給し、基部台車4上でオン・オフ操作ができるようにしてもよい。
【0041】
図6に示したように、各清掃作業ともホールドフレーム94の間隔毎に作業する必要があるが、伸張したアーム2の撓みを利用し、操作ロープ7を引いて清掃器具8を左右に振って対応する。尚、隣りのホールドフレーム94間に移る場合は、吊上げワイヤー6を巻取り、アーム2の先端を壁面から少し離した状態で、基部台車4と上部懸架台5を移動させ、アーム2を横移動する。
【0042】
図6(c)の洗浄水噴射ノズル83は船艙壁面に近接させることができるので、特段、高圧噴射とする必要は無く、撤積貨物船に通常設備されている雑用海水供給管、及び雑用清水供給管の水圧で効果的に洗浄できる。
【0043】
図7は清掃壁面清掃装置1を船艙内に搬入する要領を示す説明図である。
(a)に示したように、本船装備のダビット等を利用し、基部台車4とアーム2を分離した状態で船艙内に搬入し、船艙床面上で両者をヒンジ軸芯ピン21にて結合する。
次に、上部懸架台5をハッチコーミング上面に据え、吊上げワイヤー6を下ろし、吊上げワイヤー6の作用点となる滑車22を経由し端部を吊上げワイヤードラム62に繋ぐ。また、操作ロープ7をアーム2の先端付近に繋ぐ。さらに、上甲板から圧縮エア供給ホースを下ろし、エアモーター32に結合し、準備完了となる。尚、本船装備のダビットに代え、本船装備のクレーンを利用してもよい。
【0044】
ハッチコーミングのコーナー部で上部懸架台5を据え付け替える時は、アーム2を縮小し水平に近い状態で先端を壁面に預けて転倒の危険がないようにしてから、吊上げワイヤー6を繰り出し充分緩めて、上部懸架台5を掛け替える。
【0045】
尚、図4(a)においてはエンドホールディングタイプのハッチカバーを装備した撒積貨物船を前提としている。サイドローリングタイプの撒積貨物船においてはハッチコーミング上面にローラーレールウエイ93が無いなど艤装品や形状に違いはあるが、基本的には同様の方法で対応できる。
【符号の説明】
【0046】
1 船艙壁面清掃装置
2 アーム
21 ヒンジ軸芯ピン
22 吊上げワイヤー用滑車
23 伸縮ワイヤー用滑車
24 アーム先端ローラー
25a スライド金具(後部用)
25b スライド金具(前部用)
26 ストッパー金具
27 清掃器具取付台
3 アーム伸縮機構
31 圧縮エア供給ホース
32 エアモーター
32a エアモーター操作レバー
33 ドラムA
34a アーム伸張用ワイヤー
34b アーム縮小用ワイヤー
35a 駆動チェーン
35b 駆動ワイヤー
36 スプロケット
37 傘歯車
38 ボールネジ
39 ロッド
4 基部台車
41 タイヤ車輪
42 永久磁石
43 フットレバー
5 上部懸架台
51 脚部
52 内側ローラー
53 走行車輪
54 横ずれ防止腕
55 外側ローラー
6 吊上げワイヤー
61 ワイヤー保護柔軟パイプ
62 ドラムB
63 手動回転ハンドル
64 駆動チェーン及びスプロケット
7 操作ロープ
8 清掃器具
81 回転ブラシ
82 圧縮エア噴射ノズル
83 洗浄水噴射ノズル(海水及び清水)
9 ハッチコーミング上面
91 コンプレッションバー
92 ハッチカバーガイド
93 ローラーレールウエイ(ハッチカバー走行用)
10 ホールドフレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7