特許第6843841号(P6843841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843841
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】人工毛用樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   A41G3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-511926(P2018-511926)
(86)(22)【出願日】2017年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2017008943
(87)【国際公開番号】WO2017179340
(87)【国際公開日】20171019
【審査請求日】2020年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-80124(P2016-80124)
(32)【優先日】2016年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】塚原 愛
(72)【発明者】
【氏名】堀端 篤
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】 永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−126786(JP,A)
【文献】 特開2006−144211(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/180281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル(A)100質量部と、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化フェノール樹脂及びポリジブロモフェニレンオキシドより選択される少なくとも1種の臭素含有難燃剤(B)5〜40質量部を含み、前記ポリエステル(A)の設定温度285℃、ピストンスピード200mm/min、キャピラリー長20mm、キャピラリー径1mmの条件で測定した溶融粘度が80〜300Pa・sであることを特徴とする難燃性人工毛用樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ樹脂及び臭素化フェノキシ樹脂より選択される少なくとも1種の臭素含有難燃剤(C)0.1〜15質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、平均粒子径0.5〜1.5μmの難燃助剤(D)を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの質量比が40/60〜98/2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートの質量比が40/60〜98/2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物を含む繊維状成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維状成形体を含むかつら。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛用樹脂組成物及びその形成品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、人工毛髪用繊維を構成する素材として、塩化ビニル樹脂が記載されている。塩化ビニル樹脂は、加工性、低コスト性、透明性等が優れている。
【0003】
しかし、塩化ビニル樹脂を素材とした人工毛髪用繊維は、ヘアアイロンなどに対する耐熱性が悪く、100℃以上の温度設定が通常であるヘアアイロンなどでカ−ルを行なった場合、繊維の融着、ちぢれなどが生じ、その結果、繊維のいたみ、切れが発生する場合があった。
【0004】
一方、ポリエステル樹脂を素材とした人工毛髪繊維は、ヘアアイロンに対する耐熱性が改善されている。しかしながら、ポリエステルは易燃性であるため、火炎や溶融した樹脂との接触によるヤケドの危険性があることから、難燃性を付与することが望まれている。
【0005】
特許文献2にはポリエステルと臭素含有難燃剤およびアンチモン化合物を含有する樹脂組成物からなる難燃性ポリエステル繊維が開示されている。ポリエステルに臭素含有難燃剤およびアンチモン化合物を添加することで、ポリエステルの難燃性が解決されている。
【0006】
ポリエステルを素材とした人工毛髪用繊維は、ヘアアイロンに対する耐熱性を有しているが、前述のように易燃性であるため、難燃性を付与することが着用者の安全の観点より望ましい。
ポリエステルに難燃性を付与しようとする場合、難燃剤を添加することが一般的に行われている。難燃剤としては、臭素系難燃剤やリン系難燃剤、窒素系難燃剤や水和金属化合物などが市販されているが、臭素系難燃剤と難燃助剤の組み合わせが最も難燃性の付与効果が高いとされている。
しかしながら、ポリエステルと臭素系難燃剤は相溶性のない組み合わせのため、溶融混練した場合にポリエステル樹脂中で臭素系難燃剤の分散が不十分となり、透明性や櫛通り性が悪いという問題点があった。
【0007】
透明性は、アンチモン化合物の平均粒子径や添加量を限定することで、ある程度は解決されているが、塩化ビニル繊維やナイロン繊維に比べると透明性が悪く、人工毛髪用繊維として使用するには不十分であった。また、櫛通り性は、種々のシリコーン系油剤を繊維に塗布する事で、ある程度は解決されているが、シリコーン系油剤は易燃性であるため、難燃性が低下してしまうという問題点があった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−156149号公報
【特許文献2】特開2006−144211号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、人毛に似た良好な透明性および櫛通り性を有し、かつ難燃性に優れた難燃性人工毛用樹脂組成物及びその成形体を提供するものである。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)ポリエステル(A)100質量部と、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化フェノール樹脂及びポリジブロモフェニレンオキシドより選択される少なくとも1種の臭素含有難燃剤(B)5〜40質量部を含み、前記ポリエステル(A)の溶融粘度が80〜300Pa・sであることを特徴とする難燃性人工毛用樹脂組成物。
(2)さらに、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ樹脂及び臭素化フェノキシ樹脂より選択される少なくとも1種の臭素含有難燃剤(C)0.1〜15質量部を含有することを特徴とする(1)に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
(3)さらに、平均粒子径0.5〜1.5μmの難燃助剤(D)を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
(4)前記ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの質量比が40/60〜98/2であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
(5)前記ポリエステル(A)がポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートの質量比が40/60〜98/2であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか一項に記載の難燃性人工毛用樹脂組成物を含む繊維状成形体。
(7)(6)に記載の繊維状成形体を含むかつら。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかる一実施形態の難燃性人工毛用樹脂組成物は、ポリエステル(A)100質量部と、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化フェノール樹脂及びポリジブロモフェニレンオキシド剤より選択される少なくとも1種を含む臭素含有難燃剤(B)5〜40質量部を含み、前記ポリエステル(A)の溶融粘度が80〜300Pa・sであることを特徴とする。
【0012】
(ポリエステル(A))
ポリエステル(A)は、特に限定はなく、芳香族または脂肪族多官能カルボン酸と多官能グリコールより得られるポリエステル樹脂以外に、ヒドロキシカルボン酸系のポリエステル樹脂を含む。前者の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびこれらのその他の共重合体が挙げられる。
ある実施態様において、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート及び/またはこれらを主体とし(主体とは、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有することをいう。)、少量の共重合成分を含有する共重合ポリエステルをポリエステル(A)として用いることができるが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが、繊維の触感、入手の容易性、およびコストの点から、特に好ましい。
【0013】
本発明にかかる一実施態様において、ポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートとを混合した樹脂であり、より人毛に似た良好な触感となる。
【0014】
ある実施態様において、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの質量比またはポリエチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートの質量比は、40/60〜98/2が好ましく、さらに好ましくは、65/35〜96/4である。ポリエチレンテレフタレートの質量比が40/60以上であれば、一定以上の耐熱性が得られる傾向があり、98/2以下とすることで、触感を改善する効果が得られる傾向がある。
【0015】
前記共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸、それらの誘導体、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸、その誘導体、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどがあげられる。
【0016】
前記共重合ポリエステルは、通常、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体に少量の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、安定性、操作の簡便性の点から好ましいが、主体となるテレフタル酸および/またはその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、さらに少量の共重合成分であるモノマーまたはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0017】
ある実施形態において、ポリエステル(A)は、樹脂組成物に対して50質量%以上、60質量%以上、又は80質量%以上含有される。
【0018】
ポリエステル(A)の溶融粘度としては、80〜300Pa・sであり、好ましくは100〜250Pa・sであり、より好ましくは120〜170Pa・sである。溶融粘度が80Pa・s以上であれば、十分なせん断がかかり、臭素含有難燃剤の分散性が良好となり、櫛通り性も良好となる傾向がある。溶融粘度が300Pa・s以下であれば、臭素含有難燃剤との粘度差が少なくなることで、臭素含有難燃剤の分散性が良好となり、櫛通り性も良好となる傾向がある。
【0019】
本実施形態における溶融粘度とは、吸水率が100ppm以下になる様に除湿乾燥したペレットを、サンプル量20cc、設定温度285℃、ピストンスピード200mm/min、キャピラリー長20mm、キャピラリー径1mmの条件で測定した値である。測定機器は東洋精機製作所社製のキャピログラフ1Dを用いた。
【0020】
(臭素含有難燃剤(B))
臭素含有難燃剤(B)としては、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化フェノール樹脂およびポリジブロモフェニレンオキシドが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。臭素含有難燃剤(B)を用いることで、従来の難燃性人工毛髪用繊維の課題であった、透明性および櫛通り性を改善することができる。
【0021】
臭素含有難燃剤(B)の配合量は、ポリエステル(A)100質量部に対し、5〜40質量部であり、好ましくは、10〜30質量部であり、より好ましくは15〜25質量部である。臭素含有難燃剤(B)の配合量が5質量部以上であれば、難燃性が得られ、40質量部以下であれば、触感が悪くならない。
【0022】
(臭素含有難燃剤(C))
本実施態様の難燃性人工毛用樹脂組成物は、臭素含有難燃剤(C)を含有してもよい。臭素含有難燃剤(C)としては、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ樹脂及び臭素化フェノキシ樹脂が挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。臭素含有難燃剤(C)を配合することにより、より低光沢性をもつ人毛に似た外観を付与することができる。
【0023】
ある実施態様において、臭素含有難燃剤(C)の配合量は、ポリエステル(A)100質量部に対し、0.1〜15質量部であり、0.3〜5.0質量部が好ましく、0.5〜3.0質量部がより好ましい。臭素含有難燃剤(C)の配合量が0.1質量部以上であれば、低光沢性を付与する効果が得られ、15質量部以下であれば、透明性、および櫛通り性が悪くなりにくい。
【0024】
(難燃助剤(D))
本実施態様の難燃性人工毛用樹脂組成物は、燃助剤(D)を含有してもよい。難燃助剤(D)としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛が好ましく、三酸化アンチモン及びアンチモン酸ナトリウムが、難燃性と透明性の観点からより好ましい。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。難燃助剤(D)を配合することにより、より難燃性を向上させることができる。
【0025】
ある実施態様において、難燃助剤(D)の平均粒子径は0.5〜3.5μmであり、0.6〜1.8μmが好ましく、0.7〜1.5μmがより好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であれば、凝集が起こりにくく均一分散させることができるため、難燃性の不均一化が起こりにくくなる。平均粒子径が3.5μm以下であれば、これを基点とした糸切れが起こりにくい。
【0026】
ある実施態様において、難燃助剤(D)の配合量は、ポリエステル(A)100質量部に対し、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.3〜5質量部であり、より好ましくは0.5〜3質量部である。難燃助剤の配合量が0.1質量部以上であれば、難燃性向上の効果が得られ、10質量部以下であれば、透明性が悪くなりにくい。
【0027】
本実施形態における難燃助剤(D)の平均粒子径は、蒸留水に0.05wt%の液体洗剤を加えて作製した分散剤液100mlに、難燃助剤を適量滴下してよく馴染ませ、さらに蒸留水40mlを加えた後、160Wの出力の超音波発生装置で2分間照射させることで作製した懸濁液を、レーザー回折式粒度分布測定法で測定した値である。測定機器は日機装社製のマイクロトラックMT3300EXIIを使用した。
【0028】
本実施形態で用いられる人工毛用樹脂組成物には、必要に応じて添加剤、例えば、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、染料、可塑剤、潤滑剤等を含有させることができる。顔料、染料等の着色剤を含有させることにより、予め着色された繊維(いわゆる原着繊維)を得ることができる。
【0029】
本実施形態の人工毛用樹脂組成物は、かつら、ヘアウィッグ、つけ睫毛及びつけ髭等のつけ毛等の人工毛の製造に用いることができる。
【0030】
(人工毛用樹脂組成物及びその繊維状成形体の製造方法)
以下に、ある実施態様における難燃性人工毛用樹脂組成物及びその繊維状成形体の製造工程の一例を説明する。
【0031】
本発明にかかる一実施形態の樹脂組成物は、例えば、ポリエステル(A)および臭素含有難燃剤(B)をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。前記混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。人工毛用繊維は、ポリエステルの種類により適正な温度条件のもと、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0032】
ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート、臭素含有難燃剤としてポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)を100質量部/20質量部の割合で用いた場合は、押出機、口金、必要に応じてギヤポンプなどの溶融紡糸装置の温度を260〜290℃として溶融紡糸し、冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを実施しながら、引き取り速度を調整して、未延伸糸が得られる。溶融紡糸装置の温度は、ポリエステルの固有粘度や、ポリエステルと臭素含有難燃剤の質量比に応じて、適宜調整することができる。また、水槽による冷却に関らず、冷風での冷却による紡糸も可能である。冷却水槽の温度、冷風の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。
溶融紡糸の際、単純な円形のみならず、ノズル孔が特殊形状の紡糸ノズルを用い、人工毛繊維の断面形状を繭型、Y型、H型、X型、花びら型等の異形にすることもできる。
【0033】
得られた未延伸糸は、繊維の引張強度を向上させるために延伸処理を行う。延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取ってから溶融紡糸工程とは別の工程にて延伸する2工程法や、ボビンに巻き取ることなく溶融紡糸工程から連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。また、延伸処理は、1度で所定の延伸倍率まで延伸する1段延伸法、または、2回以上の延伸によって所定の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行なわれる。熱延伸処理を行なう場合における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0034】
本実施形態の人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体の繊度は、10〜150dtexが好ましく、より好ましくは30〜150dtexであり、さらに好ましくは35〜120dtexである。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の人工毛用樹脂組成物及びその成形体の実施例を、比較例と対比しつつ表を用いて、詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例等で用いた各種原料は以下の通りである。
【0037】
<ポリエステル(A)>
ポリエチレンテレフタレート(自社製、溶融粘度65Pa・s)
ポリエチレンテレフタレート(三井化学製、J125S、溶融粘度145Pa・s)
ポリエチレンテレフタレート(自社製、溶融粘度280Pa・s)
ポリエチレンテレフタレート(三井化学製、J055、溶融粘度450Pa・s)
ポリブチレンテレフタレート(デュポン製、S600F20、溶融粘度118Pa・s)
ポリトリメチレンテレフタレート(デュポン製、ソロナEP3301NC010、溶融粘度132Pa・s)
【0038】
<臭素含有難燃剤(B)>
ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)(ICL JAPAN製、FR−1025)
臭素化フェノール樹脂(ケムチュラ・ジャパン製、Emerald1000)
ポリジブロモフェニレンオキシド(第一工業製薬製、ピロガードSR−460B)
【0039】
<臭素含有難燃剤(C)>
臭素化ポリスチレン(マナック製、PS1200)
エチレンビステトラブロモフタルイミド(UNIBROM製、EcoFlameB−951)
ビス(ペンタブロモフェニル)エタン(アルベマール日本製、SAYTEX8010)
臭素化エポキシ樹脂(阪本薬品工業製、SR−T20000)
臭素化フェノキシ樹脂(新日鉄住金化学製、YPB−43C)
【0040】
<難燃助剤(D)>
三酸化アンチモン(日本精鉱製、PATOX−KF、平均粒子径0.8μm)
三酸化アンチモン(日本精鉱製、PATOX−K、平均粒子径1.2μm)
三酸化アンチモン(日本精鉱製、PATOX−P、平均粒子径3.0μm)
アンチモン酸ナトリウム(日本精鉱製、SA−A平均粒子径2.0μm)
【0041】
<実施例1>
吸湿率が100ppm未満になる様に乾燥したポリエステル(A)であるポリエチレンテレフタレート(三井化学製、J125S、溶融粘度145Pa・s)100質量部及び臭素含有難燃剤(B)であるポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)(ICL JAPAN製、FR−1025)7質量部をブレンドした後、φ30mm二軸押出機を用いて混練し、紡糸用の原料ペレットを得た。
【0042】
ついで、吸水率が100ppm以下になる様に原料ペレットを除湿乾燥した後、φ40mm単軸溶融紡糸機を用いて270℃で溶融紡糸し、穴径0.5mm/本のダイスから排出した溶融樹脂を、約30℃の水槽を通して冷却しながら、吐出量と巻き取り速度を調整し、設定繊度の未延伸糸を作製した。
【0043】
得られた未延伸糸を85℃で延伸し、その後、150℃でアニールを行い、所定度の人工毛用繊維を得た。延伸倍率は3倍、アニール時の弛緩率は3%にて行った。アニール時の弛緩率とは、(アニール時の巻き取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)で算出される値である。
【0044】
得られた人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体について、後述する評価方法及び基準に従って、難燃性、透明性、触感、櫛通り性及び光沢の評価を行った。
【0045】
<実施例2〜24>
配合を表1に示すように設定した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜24に係る人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を作製し、評価した。
【0046】
<比較例1>
ポリエステル(A)としてポリエチレンテレフタレート(自社製、溶融粘度65Pa・s)を使用した以外は、実施例2と同様にして作製した。その結果、櫛通り性が悪くなった。ポリエステル(A)の溶融粘度が低いため十分なせん断がかからず、臭素含有難燃剤の分散性が不良となったためと考えられる。
【0047】
<比較例2>
ポリエステル(A)としてポリエチレンテレフタレート(三井化学製、J055、溶融粘度450Pa・s)を使用した以外は、実施例2と同様にして作製した。その結果、櫛通り性が悪くなった。ポリエステル(A)の溶融粘度が高いためポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)との粘度差が大きくなり、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)の分散性が不良になったためと考えられる。
【0048】
<比較例3>
ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)(ICL JAPAN製、FR−1025)の配合量を3質量部とした以外は、実施例1と同様にして作製した。その結果、難燃性が得られなかった。
【0049】
<比較例4>
ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)(ICL JAPAN製、FR−1025)の配合量を45質量部とした以外は、実施例1と同様にして作製した。その結果、触感が悪くなった。
【0050】
<比較例5>
臭素含有難燃剤(B)を配合せず、臭素化ポリスチレン(マナック製、PS1200)の配合量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして作製した。その結果、透明性と櫛通り性が悪くなった。
【0051】
<比較例6>
臭素含有難燃剤(B)を配合せず、臭素化エポキシ樹脂(阪本薬品工業製、SR−T20000)の配合量を20質量部とした以外は、実施例1と同様にして作製した。その結果、透明性と櫛通り性が悪くなった。
【0052】
評価結果を表1〜4に示す。
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表1〜4中の各評価項目についての評価方法とその基準は、以下の通りである。
【0057】
<難燃性>
難燃性は、実施例・比較例の人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を長さ300mm、重量2gに束ね、この繊維束の一端を固定して垂直にたらし、その下端に長さ20mmの炎を5秒間接触させた後、離した後の延焼時間を測定して、次の評価基準で評価した。結果は、10回測定した結果の平均値を使用した。
◎:延焼時間が1秒未満
○:延焼時間が1秒以上7秒未満
×:延焼時間が7秒以上
【0058】
<透明性>
透明性は、人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を長さ250mm、重量20gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)が目視により人毛と比較評価を行い、次の評価基準で評価した。
◎:人毛と同様、または概ね人毛に近い透明性を有する。
○:細かく比較すると人毛よりも若干の白濁が認められるが、概ね人工毛髪用繊維としての使用に耐えうる透明性を有する。
×:一見して、明らかに白濁しており、人毛との差異が認められる。
【0059】
<触感>
触感は、人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を長さ250mm、重量20gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによる判定で、次の評価基準で評価した。
◎:技術者9人以上が、触感が良いと評価したもの
○:技術者の7人又は8人が、触感が良いと評価したもの
×:技術者の6人以下が、触感が良いと評価したもの
【0060】
<櫛通り性>
櫛通り性は、人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を長さ300mm、重量2gに束ね、この繊維束に櫛を通した時の、抵抗や繊維の絡まりを評価した。
◎: 抵抗がなく、繊維が絡まない
○:やや抵抗があるが、繊維が絡まない
×: 抵抗がある、または繊維が絡まる
【0061】
<光沢>
光沢は、人工毛用樹脂組成物の繊維状成形体を長さ250mm、重量20gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)が太陽光の下で観察し、目視により人毛と比較評価を行い、次の評価基準で評価した。
◎:人毛と同様な光沢感を有する
○:人毛と比較すると差異が認められるが、概ね人毛に近い光沢を有する
【0062】
上記実施例及び比較例に示すように、ポリアルキレンテレフタレートまたはポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルの1種以上からなるポリエステル(A)100質量部と、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、臭素化フェノール樹脂及びポリジブロモフェニレンオキシドより選択される少なくとも1種を含む臭素含有難燃剤(B)5〜40質量部とを含み、前記ポリエステル(A)の溶融粘度が80〜300Pa・sであることを特徴とする難燃性人工毛用樹脂組成物を用いることで、難燃性、透明性、および櫛通り性に優れた人工毛用樹脂組成物を含む繊維状成形体が得られることがわかった。
さらに、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ樹脂および、臭素化フェノキシ樹脂から選択される臭素含有難燃剤(C)を0.1〜15質量部配合する事で、光沢を人毛に一層近づけることができることが分かった。
さらに、ポリエステル(A)について、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートを混合した樹脂とすることで、触感を人毛に一層近づけることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の人工毛用樹脂組成物を利用することで、人毛に似た良好な透明性や櫛通り性を有し、かつ難燃性に優れた人工毛製品等を得ることができる。