特許第6843871号(P6843871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843871多段ディスクにスロットをPECMによって加工するためのツール、電解加工アセンブリ、および前記ツールを含む機械、ならびに、前記ツールを使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843871
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】多段ディスクにスロットをPECMによって加工するためのツール、電解加工アセンブリ、および前記ツールを含む機械、ならびに、前記ツールを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/04 20060101AFI20210308BHJP
   B23H 9/10 20060101ALI20210308BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20210308BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20210308BHJP
   F01D 5/06 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B23H3/04 A
   B23H9/10
   F01D25/00 X
   F02C7/00 D
   F01D5/06
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-537730(P2018-537730)
(86)(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公表番号】特表2018-535842(P2018-535842A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】FR2016052600
(87)【国際公開番号】WO2017060651
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】1559541
(32)【優先日】2015年10月7日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(73)【特許権者】
【識別番号】518120588
【氏名又は名称】ペムテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルコント,ジャンビエ
(72)【発明者】
【氏名】ランシック,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】タロン,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】クラフト,ユーリー
(72)【発明者】
【氏名】グリュッツマッハー,アンドレアス
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/202862(WO,A1)
【文献】 特開平03−184726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 3/04
B23H 9/10
F01D 5/06
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)であって、少なくとも第1のリング(20)と第2のリング(20)とを備え、第1のリング(20)と第2のリング(20)との各々が、ディスクの軸周りに同軸に配置されるとともに、ディスク(1)の異なる直径の2つの段のそれぞれを加工するためのカソードとして作用するように構成され、各リングが、複数の径方向加工突起(22)を有する内周を有し、第1のリング(20)と第2のリング(20)とが、互いにしっかりと固定されていることを特徴とする、電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)。
【請求項2】
径方向の突起が、ディスクの軸に沿って軸方向に見るとマッシュルーム形状である、請求項1に記載の、電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)。
【請求項3】
リングが内部に固定されたカバー(30)をさらに備え、前記カバーが、リングの周りに配置されるとともに、突起周りを流れる電解質が径方向に噴出することを防止するように構成されている、請求項1または請求項2に記載の、電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)。
【請求項4】
カバー(30)が、絶縁要素(50)によって互いから電気的に絶縁されている、少なくとも2つの部分を含み、第1のリングと第2のリングとが、これら部分のそれぞれに固定されている、請求項3に記載の、電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)。
【請求項5】
前記カバー(30)に固定され、電解質を突起(22)上に噴出させるための流体注入通路(42)を含む、少なくとも2つの可動プロテクタ(40)をさらに含み、前記2つの可動プロテクタ(40)が、前記第1のリング(20)と前記第2のリング(20)とそれぞれ隣接している、請求項3または請求項4に記載の、電解加工によって多段ディスク(1)にスロットを形成するための機械設備(10)。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の機械設備(10)と、多段ディスク(1)と、ディスク(1)上に固定されるとともに、ディスク(1)を電解質から保護するように構成された、少なくとも1つの固定プロテクタ(60)と、を備えたアセンブリ。
【請求項7】
電解加工のための機械(100)であって、多段ディスク(1)を固定することを可能にする支持部(140)と、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の機械設備(10)と、この機械設備(10)と支持部(140)に固定されたディスク(1)との間の相対移動を生じることが可能であるアクチュエータ(110)であって、ディスクが少なくとも部分的に機械設備(10)の内側にある、アクチュエータ(110)と、電解質回路(120)と、電気回路(130)と、を備え、機械(100)が、前記移動の間に、電解加工により、ディスク(1)の第1の段(1A)を、第1のリングを使用して加工することを可能にするとともに、ディスク(1)の第2の段(1B)を、第2のリングを使用して加工することを可能にするように構成されている、電解加工のための機械(100)。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の機械設備(10)を使用して、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成する方法であって、
a)前記少なくとも2つのリング(20)の第1のリングが、加工されることになるディスクの第1の段(1B)の近位にあるような方式で、機械設備(10)を配置するステップと、
b)機械設備をディスクに対し、ディスクの軸に沿って移動させることにより、電解加工によってディスクの第1の段(1B)を加工するステップと、
c)前記少なくとも2つのリング(20)の第2のリングが、加工されることになるディスクの第2の段(1A)の近位にあるような方式で、機械設備(10)を配置するステップと、
d)機械設備をディスクに対し、ディスクの軸に沿って移動させることにより、電解加工によってディスクの第2の段(1A)を加工するステップと、
を含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成する方法であって、
ステップb)の間に第1のリングが加工ている間、第2のリングへの電気および電解質の供給を遮断するステップと、
ステップd)の間に第2のリングが加工ている間、第1のリングへの電気および電解質の供給を遮断するステップと、
をさらに含む、方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成する方法であって、ステップb)および/またはステップd)の加工の間、ディスクに対する機械設備の移動が、ディスク(1)の軸周りのらせん状の移動である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成するための機械設備、アセンブリ、および、そのような機械設備を含む機械、ならびに、そのような機械設備を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多段ディスクは通常、直径が最大の段に関しては、ブローチ加工またはミリング加工と、その後の面取り(エッジをまるくすること)によって加工され、直径が最小の段の加工に関しては、ミリング加工と、その後の面取り(ブローチ加工なし)によって加工される。各段に関し、複数の加工作業が必要であり、特に、ブローチ加工またはミリング加工の各作業の後は、ばり取り作業が必要である。これら技術的解決策は、かなりの作業コストを生じ、製造に時間がかかり、また、ミリング加工ツールの破損のリスクもあるという欠点がある。
【0003】
これら欠点を和らげる役割を果たす別の既知の技術は、パルス電解加工(PECM)を含んでいる。仏国特許出願公開第3006925号明細書の文献には、単一段の部分において、スロットを形成するために、この技術的解決策を使用するデバイスおよび方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】仏国特許出願公開第3006925号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、本発明の目的は、従来の方法の欠点を改善し、比較的シンプルな方式で、比較的短時間の内に、そして一方では、安価なコストの機械設備および機械を使用して、多段ディスクの様々な段の加工を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、最初に、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成するための機械設備であって、少なくとも第1のリングと第2のリングとを備え、第1のリングと第2のリングとの各々が、ディスクの軸周りに同軸であるとともに、カソードとして作用するように構成され、各リングが、複数の径方向加工突起を有する内周を有し、第1のリングと第2のリングとが、互いにしっかりと固定されている、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成するための機械設備によって達成される。
【0007】
「互いにしっかりと固定されている(rigidly secured to each other)」との用語は、機械設備が移動した際に第1のリングと第2のリングとが同時かつ一致した方式で移動するような方式で、第1のリングと第2のリングとが固定されていることを意味するために使用される。径方向加工突起の形状は、ディスクの軸に沿って軸方向に見た際に、多段ディスク内に形成されることになるスロットの形状に対応している。さらに、第1のリングの内径は、ディスクの第1の段の外径にほぼ等しく、第2のリングの内径は、ディスクの第2の段の外径にほぼ等しい。したがって、機械設備が多段ディスクの軸に沿って移動する際に、カソードとして作用する第1のリングは、電解加工により、ディスクの第1の段にスロットを形成する役割を果たし、カソードとして作用する第2のリングは、電解加工により、ディスクの第2の段にスロットを形成する役割を果たす。
【0008】
機械設備により、電解加工の、2つの連続しているか同時のシークエンスにより、多段ディスクの各段のスロットを加工することが可能になる。このシークエンスは有利には、上に規定した単一ピースの機械設備によって実施される。
【0009】
特定の実施形態では、径方向の突起は、ディスクの軸に沿って軸方向に見るとマッシュルーム形状である。
【0010】
加工の間、PECM方法を使用して、前記マッシュルーム形状の突起に沿って流れる電解質が注入される。同時に、電流がアノード(具体的には多段ディスク)からカソードに流される。この電流を通すことにより、ディスクの、カソードに面して配置されている部分から金属原子が剥離し、それにより、加工後に、多段ディスクの各段のスロットが、リングからの突起によって規定されたマッシュルーム形状を呈するようになる。さらに、径方向の突起は、第1のリングと第2のリングとの間で異なる寸法を有するマッシュルーム形状とすることができる。さらに、径方向の突起は、この形状には限定されず、これら突起の形状は、加工後に多段ディスクの各段のスロットに所望の形状に応じて異なる場合がある。
【0011】
特定の実施形態では、機械設備は、リングが内部に固定されたカバーをさらに備え、前記カバーが、リングの周りに配置されるとともに、突起周りを流れる電解質が径方向に噴出することを防止するように構成されている。
【0012】
カバーは、機械設備の外側シェルを構成し、加工されるディスク、リング、および、このリングに沿って流れる電解質を包含する。さらに、リングがカバーの内周に固定されていることから、カバーが移動すると、リングが同時に移動する。さらに、カバーは、電解質を注入し、排出することを可能にするように、複数の通路を含んでいる。
【0013】
特定の実施形態では、カバーは、絶縁要素によって互いから電気的に絶縁されている、少なくとも2つの部分を含み、第1のリングと第2のリングとが、これら部分のそれぞれに固定されている。
【0014】
このため、機械設備により、異なる電気的パラメータで、かつ、概して同時ではなく、ディスクの第1の段と第2の段とを加工することが可能になる。絶縁要素は、2つのカバー部分間に介在するとともに、ディスクの軸に沿っての、第1のリングと第2のリングとの間のゾーンに位置するような方式で、配置されている。実施の際には、リングの一方が加工のために使用され、したがって、電力が供給される間、他方のリングには電力が供給されない。このため、ディスクの特定のゾーンの望ましくない加工を避けている。
【0015】
特定の実施形態では、機械設備は、前記カバーに固定され、電解質を突起上に噴出させるための流体注入通路を含む、少なくとも2つの可動プロテクタをさらに含み、前記2つの可動プロテクタが、前記第1のリングと前記第2のリングとにそれぞれ隣接している。
【0016】
少なくとも2つの可動プロテクタは概して、カバーの内周に固定され、これら可動プロテクタの内周において、可動プロテクタは、第1のリングと第2のリングとの形状にそれぞれ同一である形状の複数の径方向の突起をそれぞれ有している。機械設備が移動する間、リングは、リングの1つがディスクの1つの段を加工し、前記リングに隣接する絶縁プロテクタが同様に移動し、ちょうど加工されたスロット内に突出するような方式で、移動する。可動プロテクタはこうして、すでに加工されたスロットの部分上に電解質が噴出することを防止し、結果として、前記スロット部分の望ましくない加工を避けている。
【0017】
本開示は、機械設備と、多段ディスクと、ディスク上に固定されるとともに、ディスクを電解質から保護するように構成された、少なくとも1つの固定プロテクタと、を備えたアセンブリをも提供する。
【0018】
固定プロテクタは、ディスクを電解質から保護する役割を果たし、加工されるディスクの段に隣接する表面の望ましくない加工を避ける、非導電性材料である。固定プロテクタは、電解質をカバーの排出通路に向けることにより、加工後に溶解した物質を伴って電解質を排出する役割も果たすことができる。
【0019】
本開示は、電解加工のための機械であって、多段ディスクを固定することを可能にする支持部と、機械設備と、この機械設備と支持部に固定されたディスクとの間の相対移動を生じることが可能であるアクチュエータであって、ディスクが少なくとも部分的に機械設備の内側にある、アクチュエータと、電解質回路と、電気回路と、を備え、機械が、前記移動の間に、電解加工により、ディスクの第1の段を、第1のリングを使用して加工することを可能にするとともに、ディスクの第2の段を、第2のリングを使用して加工することを可能にするように構成されている、電解加工のための機械をも提供する。
【0020】
本開示は、機械設備を使用して、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成する方法であって、
a)前記少なくとも2つのリングの第1のリングが、加工されることになるディスクの第1の段の近位にあるような方式で、機械設備を配置するステップと、
b)機械設備をディスクに対し、ディスクの軸に沿って移動させることにより、電解加工によってディスクの第1の段を加工するステップと、
c)前記少なくとも2つのリングの第2のリングが、加工されることになるディスクの第2の段の近位にあるような方式で、機械設備を配置するステップと、
d)機械設備をディスクに対し、ディスクの軸に沿って移動させることにより、電解加工によってディスクの第2の段を加工するステップと、を含む、電解加工によって多段ディスクにスロットを形成する方法をも提供する。
【0021】
この方法により、ツールを変更する必要なく、すべてのステップを実施することが可能になる。このことは、製造時の時間の節約に繋がる。
【0022】
特定の実施形態では、本方法は、
ステップb)の間に第1のリングが加工ている間、第2のリングへの電気および電解質の供給を遮断するステップと、
ステップd)の間に第2のリングが加工ている間、第1のリングへの電気および電解質の供給を遮断するステップと、をさらに含んでいる。
【0023】
これらステップにより、リングの1つが加工ている間、ディスクの特定のゾーンの望ましくない加工を避けることが可能になる。
【0024】
特定の実施では、ステップb)および/またはステップd)の加工の間、ディスクに対する機械設備の移動は、ディスクの軸周りのらせん状の移動である。
【0025】
本発明およびその利点は、非限定的例として与えられる本発明の様々な実施形態の、以下の詳細な説明を読むことにより、よりよく理解することができる。詳細な説明では、添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】多段ディスクの断片的な斜視図である。
図2A】スロットを加工する前のディスクの簡略化した図である。
図2B】スロットを加工した後のディスクの簡略化した図である。
図3】多段ディスクにスロットを形成するための機械設備の断面図である。
図4】リングの一部および絶縁プロテクタの一部の、より詳細な図である。
図5】電解加工のための機械の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、加工後の多段ディスクの斜視図である。多段ディスクは、この例では、小直径段1Aと大直径段1Bとを含み、段の各々には、複数のスロット2がある。このタイプのディスクの構造では、通常の技術(ブローチ加工、ミリング加工)を使用する場合、他の段に損傷を生じることなく、1つの段にスロットを形成することは困難であることを理解することができる。
【0028】
図2Aおよび図2Bは、パルス電解加工(PECM)を使用する既知の電気化学的方法により、スロット2を加工する前(図2A)と、スロット2を加工した後(図2B)との、ディスク1の1つの段の、簡略化した図である。カソードとして作用するリング20は、パルス電流を通し、圧力下の電解質が、リング20とディスク1との間を、加工のために流れる。最初は、リング20は、高い位置、すなわち、ディスク1の頂部に位置している(図2A)。その後に、リング20は、ディスク1の軸に沿ってディスク1に向かって平行移動し、軸に対するらせん状の経路に沿う。リングがディスクと同じ高さになると、連続的な電流パルスが電解質内に生じる。リング20がカソードとして作用し、ディスク1がアノードとして作用している状態では、イオン溶解が生じる。加工後は、リング20は、低い位置、すなわち、ディスク1の下に位置している(図2B)。
【0029】
この原理での加工は、図3に示すように、本発明に従って、機械設備10によって使用される。この機械設備は、ディスク1の大直径段1B、次いで、ディスク1の小直径段1Aを連続して加工する役割を果たす。図3は、機械設備10の2分の1を断面で示している。この機械設備は、リングの軸(軸X)周りに、軸に関して対称な方式で配置されている。リング20およびディスク1も、同じ軸X周りに、軸に関して対称な方式で配置されている。機械設備10は、ディスク1の周りに配置されて示されており、ディスク1に対し、軸Xに沿って移動可能に構成されている。
【0030】
機械設備10は、特に、カバー30を含んでいる。このカバー30は、軸X周りに、軸に関して対称な方式で配置され、ディスク1を囲んでいる。第1のリング20および第2のリング20は、カバー30の内周に固定されている。したがって、機械設備が移動する間、カバー30の移動により、両方のリング20が同時に移動する。第1のリングは、ディスク1の第1の段1Aを加工する役割を果たし、第2のリングは、ディスク1の第2の段1Bを加工する役割を果たす。
【0031】
カバー30の周全体の周りでは、カバー30は、複数の注入通路36と、複数の排出通路38とを有している。複数の注入通路36により、機械設備に電解質が供給される。複数の排出通路38を通して、電解質が排出される。各排出通路38は、少なくとも1つの溝38aと、排出穴38bとを備えている。溝38aは、機械設備の軸Xに平行な向きに配置されており、排出穴38bは、軸Xに垂直な径方向に配置されている。電解質の流れは、図3に矢印で示されている。カバー30は、第1の部分32と第2の部分34とを備えている。部分32と部分34とは、環状の絶縁要素50により、互いから電気的に絶縁されている。絶縁要素50は、前記部分32と前記部分34との間に介在している。第1のリングが第1のカバー部分32に固定され、第2のリングが第2のカバー部分34に固定されていることから、2つのリングは、結果として、絶縁要素50によって互いから電気的に絶縁されている。このため、2つのリングの一方が加工され、ひいては電力が供給されている間、他方のリングに電力が供給される必要はなく、これにより、ディスク1の特定のゾーンの望ましくない加工を避けている。
【0032】
機械設備10は、カバー30の内周に同様に固定された、2つの可動プロテクタ40をも有している。したがって、機械設備が移動する間、カバー30の移動により、両方の可動プロテクタ40が同時に移動する。図4に示すように、プロテクタは、機械設備の軸Xに沿って見ると、リング20と形状が同一である。すなわち、プロテクタは、形状が環状であり、プロテクタは、その内周に複数の径方向のプロテクタの突起44を有している。各可動プロテクタ40は、それぞれのリング20と隣接しており、可動プロテクタ40は、リング20の上に、機械設備の軸Xに沿って位置している。機械設備が移動している間は、可動プロテクタとリングとは、単一のユニットとして同時に移動する。このため、リング20および可動プロテクタ40によって構成されたアセンブリは、その内周に複数の径方向の突起を有する環状部を形成する。これら径方向の突起は、ディスク1の各段で加工される各スロットの形状および寸法を有している。
【0033】
さらに、可動プロテクタ40は、複数の流体注入通路42を有しており、流体注入通路42の各々は、互いに連通した径方向の通路部分42aと軸方向の通路部分42bとを有している。径方向の通路部分42aは、機械設備の軸Xに垂直な向きに配置されており、軸方向の通路部分42bは、軸Xに平行な向きに配置されている。流体注入通路42は、流体を径方向のプロテクタの突起44の各々に供給するような方式で配置されている。軸方向の通路部分42bの各々は、リング20の突起32の各々の上に開くような方式で配置されている。このリング20はそれぞれ、図4に見ることができるように、可動プロテクタ40の径方向の突起44に隣接している。径方向の通路部分42aは、カバー30の注入通路36上にそれぞれ開くような方式で配置されている。したがって、リングが加工のために使用されている間は、リングには、カバー30の注入通路36から、流体注入通路42を介して電解質が供給される。電解質は、次いで、排出される前にリングの突起22の周りを流れることができる。やはり、加工されているリングが軸Xに沿って移動する際には、リングに隣接した絶縁プロテクタ40が、同時に移動し、ちょうどディスク1に加工されたスロット内に入り込んでいる。このため、絶縁プロテクタ40は、ちょうど加工したスロット部分上を電解質が流れることを防止し、こうして、これら部分の過度な加工を防止することにより、このスロット部分を保護する役割を果たし、結果として、スロットの加工の品質を維持する。
【0034】
固定プロテクタ60は、やはり、ディスク1の2つの段の間で、ディスク1の外周上に配置されている。プロテクタ60は、ディスク1の周りの環状部分を形成している。この環状部分は、環状部分がディスク上の定位置に置かれた後に、ともに固定される2つの部分で形成され得、それにより、ディスク1の外周周りへの設置および固定を促進するようになっている。これら2つの部分の固定手段は、レバーラッチもしくはクランプリング、または任意の他の均等の手段である場合がある。電気的に絶縁されている場合があるプロテクタ60は、電解質がディスク1の加工されないゾーン上を流れることを防止することにより、このゾーンを保護する役割を果たす。さらに、固定プロテクタ60は、電解質をカバー30の排出通路38に向け、それにより、溶解した物質を伴う電解質の排出を促す役割を果たす、突起62を含み得る。クランプリング62aは、要素60および要素62をともに配置するとともに保持する役割を果たす。シーリングガスケット60aは、やはり、プロテクタ60の周りに配置され、それにより、カバー30とプロテクタ60との間の接触部分におけるシーリングを提供するようになっている。機械設備10、多段ディスク1、および固定プロテクタ60で形成されたアセンブリは、小直径段1A上に位置するとともに固定された、ディスク1の頂部を保護する頂部固定プロテクタ64と、大直径段1Bの下に位置するとともに、プロテクタ60と同じ方式で、ディスク1の周りに固定されている、ディスク1の底部を保護する、やはり底部固定プロテクタ66との、両方をも含み得る。ディスク1の加工されないゾーンの上を電解質が流れることを防止することにより、これら様々な固定プロテクタがこれらゾーンを保護する役割を果たす。
【0035】
図5は、機械設備10を多段ディスクに対して、機械設備の軸Xに沿って軸方向に移動することが可能であるアクチュエータ110を含む、電解加工のための機械100を示している。このアクチュエータは、垂直軸アクチュエータである場合がある。
【0036】
タンク122を含む電解質回路120は、供給回路121を介してリング20に電解質を供給し、排出回路125を介して電解質を排出する役割を果たす。
【0037】
具体的には、回路120は、第1のリングのみに電解質が供給される第1の位置と、第2のリングのみに電解質が供給される第2の位置との間で変更することができるセレクタバルブ124を有している。
【0038】
この後に、供給回路121では、電解質がポンプ123により、タンク122からポンプされる。電解質は次いで、セレクタバルブ124により、頂部の段1Aと底部の段1Bとのいずれを加工することが望まれているかに応じて、頂部プロテクタ40の注入通路36に向けられるか、あるいは、底部プロテクタ40の通路に向けられる。
【0039】
使用時には、電解質はこのため、プロテクタ40の流体注入通路42を通して流れ、次いで、リング20の突起22、および、ディスクの加工されることになる段(状況に応じて、段1Aまたは段1B)の上を流れ、それにより、その段が漸次加工されることを可能にする。
【0040】
最後に、電解質は、(段1Aを加工している間は)カバーの排出通路38を介して、または、(段1Bを加工している間は)大直径段1Bの下に位置する機械設備10の底部ゾーンを介して排出される(排出回路125)。
【0041】
電気回路130はやはり、リング20に電気的に電力を供給する役割を果たす。回路130は、供給源135によって第1のリングのみに電力が供給される第1の位置と、第2のリングのみに電力が供給される第2の位置との間で変更することができる電気スイッチ132を含んでいる。
【0042】
このため、機械100は、ディスク1の第1の段1Aを、第1のリングを使用して加工することを可能にするとともに、第2の段1Bを、第2のリングを使用して加工することを可能にするように構成されている。
【0043】
ディスクは、以下のように加工される。
【0044】
ディスク1は最初に、ターンテーブルで構成された支持部140上に置かれ、ディスクが軸X周りに回転することを可能にする。こうして、アクチュエータ110による加工の間、機械設備10が軸Xに沿って平行移動する際に、機械設備10はディスク1に対するらせん状の経路をたどり、それにより、スロットに関する所望の形状を得ることを可能にしている。
【0045】
最初に、機械設備10は、第2のリングが、加工されることになるディスクの大直径段1Bの近位にあるような方式で配置される。このために、第2のリングは、段1Bの頂部表面上に、軸Xに沿って0.01ミリメートル(mm)から0.2mmの距離に配置される。
【0046】
段1Bは次いで、以下の動作を同時に行うことによって加工される。機械100により、アクチュエータ110によって機械設備10を軸Xに沿って移動させる。ディスク1をターンテーブル140によって回転させる。そして、第2のリングに電解質および電力を供給する。これら組み合わせられた動作により、段1Bを電気化学的に加工する。この加工動作の間、第1のリングには電解質が供給されず、また、電力が供給されない。第2のリングが軸Xに沿って段1Bの底部表面の下に移動すると、段1Bのスロットの加工が終了する。このため、第2のリングにはもはや電解質が供給されず、また、もはや電力が供給されない。
【0047】
その後に、機械設備10は、第1のリングが段1Aの近位にあるような方式で配置される。このために、第1のリングは、第1の段1Aの頂部表面上に、軸Xに沿って0.01mmから0.2mmの距離に配置される。
【0048】
第1の段の加工の間のように、機械100により、こうして、アクチュエータ110によって機械設備10を軸Xに沿って移動させ、第1のリングに電解質と電力とを同時に供給し、それにより、段1Aを電気化学的に加工することができるようになっている。段1Aが第1のリングによって加工されている間、第2のリングには電解質が供給されず、また、電力が供給されない。第1のリングが軸Xに沿って段1Aの底部表面の下に移動すると、段1Aのスロットの加工が終了する。このため、第1のリングにはもはや電解質が供給されず、また、もはや電力が供給されない。多段ディスク1の段の加工はこうして終了する。
【0049】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、特許請求の範囲に規定された本発明の全体的な範囲を超えることなく、これら実施形態に変更および変形を行い得ることは明らかである。具体的には、図示され、かつ/または、言及された、様々な実施形態の個別の特徴は、さらなる実施形態では組み合わせられ得る。したがって、詳細な説明および図面は、限定的というよりはむしろ、説明的ものとして解されるものとする。
【0050】
方法を参照して説明した特徴のすべてが、単一であるか組合せで、機械設備に置き換えるか、その逆を行うことができ、機械設備を参照して説明した特徴のすべてが、単一であるか組合せで、方法に置き換えることができることも、明らかである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5