(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
用語「培地」および「細胞培養培地」は、細胞を培養または維持するために使用される栄養供給源をいう。当業者には理解されるように、栄養供給源は、細胞が増殖および/または生存のために必要とする成分を含むものであり得るか、または細胞の増殖および/または生存を補助する成分を含むものであり得る。ビタミン、必須または非必須アミノ酸および微量元素が培地成分の一例である。
【0021】
「既知組成の細胞培養培地」または「CDM」は、動物または植物由来の生成物、例えば動物血清および植物ペプトンなどを含んでいない特定の組成を有する培地である。当業者には理解され得るように、CDMはポリペプチド産生プロセスにおいて使用され得、その場合、細胞はCDMと接触しており、ポリペプチドをCDM中に分泌する。したがって、組成物はCDMとポリペプチド産物を含むものであってもよいこと、およびポリペプチド産物の存在によってCDMが未知組成にはならないことを理解されたい。
【0022】
「未知組成の細胞培養培地」は、その化学組成を特定することができず、動物または植物由来の1種類以上の生成物、例えば動物血清および植物ペプトンなどを含んでいてもよい培地をいう。当業者には理解され得るように、未知組成の細胞培養培地は、動物または植物由来の生成物を栄養供給源として含有していてもよい。
【0023】
細胞を「培養する」とは、細胞を細胞培養培地と、細胞の生存および/または成長および/または増殖に適した条件下で接触させることをいう。
【0024】
「バッチ培養」は、細胞培養のためのすべての成分(例えば、細胞およびすべての培養栄養物)が培養槽に培養プロセスの開始時に供給される培養をいう。
【0025】
語句「フェドバッチ細胞培養」は、本明細書で用いる場合、最初に細胞および培養培地を培養槽に供給し、培養プロセス中、培養終了前に定期的な細胞および/または生成物の収集を伴って、または伴わずにさらなる培養栄養物を培養物に連続的または離散的増分で供給するバッチ培養をいう。
【0026】
「灌流培養」は、細胞を培養物中に例えば濾過、封入、マイクロ担体への係留などによって拘束する培養であり、培養培地は連続的または断続的に培養槽内に導入され、培養槽から除去される。
【0027】
「培養槽」は、細胞の培養に使用される容器をいう。培養槽は、細胞の培養に有用である限り任意のサイズのものであり得る。
【0028】
本明細書で用いる場合、「ヒポタウリン類似体」は、ヒポタウリンと構造的に類似しているが、ヒポタウリンと化学組成において異なる(例えば、ヒポタウリンコア上の官能基または置換基の数、位置または化学的性質が異なる)化学物質化合物をいう。ヒポタウリン類似体は、ヒポタウリンと異なる化学的または物理的特性を有するものであっても有しないものであってもよく、ヒポタウリンと比べて細胞培養培地の活性改善されたもの(例えば、ヒポタウリンと比べて細胞培養培地中で作製されたポリペプチド(例えば、抗体)の着色強度がさらに低減されたもの)であってもそうでなくてもよい。例えば、ヒポタウリン類似体はヒポタウリンと比べて、より親水性のものであってもよく、改変された反応性を有するものであってもよい。ヒポタウリン類似体はヒポタウリンの化学的および/または生物学的に活性を模倣するものであってもよく(すなわち、同様または同一の活性を有するものであり得る)、一部の場合では、ヒポタウリンと比べて増大した、または低下した活性を有するものであってもよい。
【0029】
用語「力価」は、本明細書で用いる場合、細胞培養物によって産生された組換え発現されたポリペプチドの総量を所与の培地容量で除算したものをいう。力価は典型的には、培地1ミリリットルあたりのポリペプチドのミリグラムの単位で表示される。
【0030】
「核酸」は、本明細書で互換的に用いる場合、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいい、DNAおよびRNAが挙げられる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾型ヌクレオチドもしくは塩基および/またはその類似体、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによって、もしくは合成反応によってポリマー内に組み込まれ得る任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、修飾型ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびその類似体を含むものであってもよい。存在させる場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの合成前の行っても合成後に行ってもよい。
【0031】
「単離核酸」は、天然に存在しない組換え配列、または通常の状況外もしくは通常の状況から分離された天然に存在する配列を意味し、包含している。単離核酸分子は、自然界においてみられる形態または状況以外のものである。したがって、単離核酸分子は、天然細胞内に存在する場合の核酸分子と区別される。しかしながら、単離核酸分子は、そのタンパク質が通常発現される細胞に含まれた核酸分子であって、例えば、天然細胞のものとは異なる染色体内位置に存在する核酸分子を包含する。
【0032】
「単離された」タンパク質(例えば、単離型抗体)は同定され、その天然環境の成分から分離および/または回収されたものである。その天然環境の夾雑成分は、該タンパク質の研究用途、診断用途または治療用途に支障をきたし得る物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質が挙げられ得る。単離型タンパク質には組換え細胞内のインサイチュタンパク質が包含される。これは、該タンパク質の天然環境少なくとも1種類の成分は存在していないであろうからである。しかしながら、通常、単離型タンパク質は少なくとも1回の精製工程によって調製される。
【0033】
「精製(された)」ポリペプチドは、該ポリペプチドの純度が増大しており、その結果、その天然環境で存在しているよりもおよび/または実験室内条件下で最初に作製および/または合成および/または増幅されたときよりも純粋な形態で存在していることを意味する。純度は相対語であり、必ずしも絶対純度を意味しているのではない。
【0034】
「夾雑物」は、所望のポリペプチド生成物とは異なる物質をいう。夾雑物としては、限定されないが:宿主細胞物質、例えばCHOP;浸出タンパク質A;核酸;バリアント、断片、所望のポリペプチドの凝集体または誘導体;別のポリペプチド;内毒素;ウイルス夾雑物;細胞培養培地成分などが挙げられる。
【0035】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを示すために本明細書において互換的に用いている。該ポリマーは線状であっても分枝状であってもよく、修飾アミノ酸を含むものであってもよく、非アミノ酸が介在していてもよい。該用語はまた、天然状態で、または介入;例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質付加、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは修飾、例えば標識成分とのコンジュゲーションによって修飾されているアミノ酸ポリマーも包含している。また、この定義には、例えば、1種類以上のアミノ酸類似体(例えば、非天然アミノ酸など)ならびに当該技術分野で知られた他の修飾を含むポリペプチドも包含される。本明細書における定義に包含されるポリペプチドの例としては、哺乳動物タンパク質、例えば、レニン;成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α−1−アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;凝固因子、例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子、およびヴォン・ヴィレブランド因子;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;プラスミノーゲン活性化因子、例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA);ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子−αおよび−β;エンケファリナーゼ;ランテス(RANTES)(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−α);血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミン;ミュラー管退縮因子;レラキシンA−鎖;レラキシンB−鎖;プロレラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質、例えば、β−ラクタマーゼ;DNase;IgE;細胞傷害性T−リンパ球関連抗原(CTLA)、例えばCTLA−4;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモンまたは成長因子の受容体;タンパク質AまたはD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5、もしくは−6(NT−3、NT−4、NT−5、もしくはNT−6)、または神経成長因子、例えば、NGF−b;血小板由来成長因子(PDGF);線維芽細胞成長因子、例えば、aFGFおよびbFGF;上皮成長因子(EGF);トランスフォーミング成長因子(TGF)、例えば、TGF−αおよびTGF−β、例えば、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、またはTGF−β5;インスリン様成長因子−Iおよび−II(IGF−IおよびIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP);CDタンパク質、例えば、CD3、CD4、CD8、CD19およびCD20;エリスロポエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン−α、−β、および−γ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF;インターロイキン(IL)、例えば、IL−1からIL−10;スーパーオキシドジスムターゼ;T−細胞受容体;膜表面タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原、例えば、AIDSエンベロープの一部分など;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;インテグリン、例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4およびVCAM;腫瘍関連抗原、例えば、CA125(卵巣癌抗原)またはHER2、HER3またはHER4受容体;イムノアドヘシン;ならびに上記のいずれかのタンパク質の断片および/またはバリアントならびにタンパク質(例えば、上記のいずれかのタンパク質など)に結合する抗体(抗体断片を含む)などが挙げられる。
【0036】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(例えば、完全長モノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を包含している(所望の生物学的活性を示すものである限り)。抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体および/または親和性成熟抗体である。
【0037】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で用いる場合、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体、すなわち、微量に存在し得る起こり得る天然の変異以外は同一である集団を構成している個々の抗体をいう。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原性部位に指向される。さらに、種々の決定基(エピトープ)に指向される種々の抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の抗体の夾雑なしで合成され得るという点で好都合である。修飾語「モノクローナル」は、任意の具体的な方法によって抗体を作製することを要すると解釈されるべきでない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体はさまざまな手法によって、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、KohlerおよびMilstein, Nature, 256:495-97 (1975); Hongoら, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995), Harlowら, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版 1988); Hammerlingら, :Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas563-681 (Elsevier,N.Y., 1981))、細菌、真核生物 動物または植物の細胞内での組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照のこと);ファージディスプレイ技術(例えば、Clacksonら, Nature, 352: 624-628 (1991); Marksら, J. Mol. Biol. 222 : 581-597 (1992); Sidhuら, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Leeら, J. Mol, Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLeeら, J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004)を参照のこと、ならびにヒト免疫グロブリン配列をコードしているヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の一部または全部を有する動物においてヒト抗体またはヒト様抗体を作製するための技術(例えば、国際公開第1998/24893号;国際公開第1996/34096号;国際公開第1996/33735号;国際公開第1991/10741号;Jakobovitsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993); Jakobovitsら, Nature 362: 255-258 (1993); Bruggemannら, Year in Immunol. 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;および同第5661016号;Marksら, Bio/Technology 10: 779-783 (1992); Lonbergら, Nature 368: 856-859 (1994); Morrison, Nature 368: 812-813 (1994); Fishwildら, Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996); Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996);ならびにLonbergおよびHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)を参照のこと)などによって作製され得る。
【0038】
用語「薬学的製剤」は、活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される被検体に対して許容され得ないような毒性であるさらなる成分を含有していない調製物をいう。かかる製剤は滅菌である。
【0039】
「薬学的に許容され得る」担体、賦形剤または安定剤は、これらに曝露される細胞または哺乳動物に対して使用される投薬量および濃度で無毒性であるものである(Remington's Pharmaceutical Sciences (第20版), A. Gennaro編, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, PA)。多くの場合、生理学的に許容され得る担体は水性pH緩衝液である。生理学的に許容され得る担体の例としては、バッファー、例えばリン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリシン;単糖類、二糖類および他の糖質、例えばグルコース、マンノースもしくはデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトールもしくはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;および/または非イオン界面活性剤、例えばTween(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)およびPluronics(商標)が挙げられる。
【0040】
「滅菌された」製剤は、無菌状態またはあらゆる生きている微生物およびその胞子がないもしくは本質的にないものである。
【0041】
「無色またはわずかに着色した」液体は、定量的および/または定性的解析によって測定されるポリペプチドを含む液状組成物をいう。定性的解析としては目視検査、例えば、ポリペプチドを含む組成物と参照標準との比較が挙げられる。
【0042】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「a」、「an」および「the」は本文中にそうでないことを明示していない限り、その対応する複数の指示対象物を包含している。したがって、例えば、「a compound(化合物)」に対する言及は、2種類以上のかかる化合物の組合せなどが包含されていてもよい。
【0043】
本明細書に記載の本発明の態様および実施態様には、該態様および実施態様「を含む(comprising)」、「からなる(consisting)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」ものが包含されていることを理解されたい。
【0044】
本明細書において「約」値またはパラメータに対する言及は、該値またはパラメータ自体に関する実施態様を包含(および記載)している。例えば、「約X」に言及している記載は「X」の記載を包含している。数値範囲は、該範囲を規定している両端を含む。
【0045】
本発明の態様または実施態様が択一物のマーカッシュ群または他のグルーピングによって記載されている場合、本発明は、記載の群全体を一体として包含しているだけでなく、該群の個々の各構成員および主たる該群の考えられ得るすべての下位群も包含しており、主たる該群において構成員の1つ以上が存在していない群も包含している。また、本発明では、請求項に記載の発明において該群の構成員のいずれか1つ以上の明白な除外も想定される。
【0046】
II.細胞培養培地
本明細書において提供する細胞培養培地は、本明細書に詳述している方法(例えば、細胞の培養方法およびポリペプチドの作製方法)ならびに組成物(例えば、薬学的製剤)において有用性がみられ得る。培地成分は、許容され得る品質属性、例えば許容され得る着色強度のポリペプチド生成物(例えば、治療用タンパク質)をもたらし得るものであると確認されているものである。このような確認された培地成分の1種類以上が、許容され得る着色強度のポリペプチド産物を得るために使用され得る。本明細書で用いる場合、ポリペプチド生成物(例えば、ポリペプチドを含む組成物)の「許容され得る着色強度」は、ポリペプチド産物の規制機関の承認に必要とされる着色強度またはポリペプチド生成物のバッチのロット間の一貫性の評価における使用に所望される着色強度を示し得る。一部の実施態様では、1種類以上の培地成分が抗酸化剤である。一部の実施態様では、1種類以上の培地成分が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸、ケルシトリン水和物およびアミノグアニジンからなる群より選択される。一部の実施態様では、1種類以上の培地成分はヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体である。一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。一部の実施態様では、1種類以上の培地成分がタウリン、リポ酸還元型またはカルベジロールである。
【0047】
培地成分は細胞培養培地に、当該技術分野で知られた形態で添加され得る。例えば、ヒポタウリンはCAS番号300−84−5によって識別される化合物として供給され得、s−カルボキシメチルシステインはCAS番号638−23−3によって識別される化合物として供給され得、アンセリンはCAS番号10030−52−1によって識別される化合物として供給され得、ブチル化ヒドロキシアニソールはCAS番号25013−16−5によって識別される化合物として供給され得、カルノシンはCAS番号305−84−0によって識別される化合物として供給され得、リポ酸はCAS番号1200−22−2によって識別される化合物として供給され得、ケルシトリン水和物はCAS番号522−12−3によって識別される化合物として供給され得る。別の例として、ヒポタウリンの類似体または前駆体はs−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸および/またはタウリンなどで供給され得る。一部の実施態様では、s−カルボキシメチルシステインはCAS番号638−23−3によって識別される化合物として供給され、システアミンはCAS番号60−23−1によって識別される化合物として供給され、システインスルフィン酸はCAS番号1115−65−7によって識別される化合物として供給され、タウリンはCAS番号107−35−7によって識別される化合物として供給される。一部の実施態様では、表4に示す化合物は、CAS番号462−20−4によって識別されるリポ酸還元型またはCAS番号72956−09−3によって識別されるカルベジロールなどで供給される。一部の実施態様では、アミノグアニジンはCAS番号1937−19−5によって識別されるアミノグアニジン塩酸塩として供給される。本明細書において提供する培地成分は細胞培養培地に塩、水和物もしくは塩の水和物または当業者に知られた任意の他の形態として供給してもよい。また、培地成分を細胞培養培地に溶液、抽出物として、または固形形態で供給してもよい。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地は既知組成の培地である。本明細書における他の実施態様では、細胞培養培地は未知組成の培地である。
【0048】
一部の態様では、本発明は、本明細書において、以下の成分:(a)ヒポタウリン;(b)s−カルボキシメチルシステイン;(c)カルノシン;(d)アンセリン;(e)ブチル化ヒドロキシアニソール;(f)リポ酸;(g)ケルシトリン水和物;および(h)アミノグアニジンのうちの1種類以上を含む細胞培養培地を提供する。一部の実施態様では、細胞培養培地が、成分(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)のうちの2または3または4または5または6種類または各成分を含むものである。本明細書において提供する細胞培養培地は、成分(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)の任意の組合せを、あたかも1つ1つの組合せが具体的に個々に示されているかのごとく同じように含むものであり得ることを理解されたい。例えば、成分(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)および(h)のうちの4種類を含む細胞培養培地は、該成分のうちの少なくとも4種類が存在している限り該成分のどのような組合せを含むものであってもよいことを理解されたい。
【0049】
一部の態様では、本明細書において提供される細胞培養培地は、(a)ヒポタウリン;(b)s−カルボキシメチルシステイン;(c)カルノシン;(d)アンセリン;(e)ブチル化ヒドロキシアニソール;(f)リポ酸;(g)ケルシトリン水和物;および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される1種類以上の培地成分を表1に示す量で含むものである。培地は、表1の培地成分の任意の1種類以上(例えば、成分(a)−(h)のうちの任意の1種類以上、例えば、成分(a)、(b)、(c)、(d)および(e)を含む培地または成分(a)、(b)および(g)を含む培地または成分(a)−(h)のうちの1種類だけを含む培地)を表1に示した任意の量で、あたかも成分および量の1つ1つの組合せが具体的に個々に示されているかのごとく同じように含むものであり得ることを理解されたい。一態様において、細胞培養培地は既知組成の培地である。別の態様において、細胞培養培地は未知組成の培地である。一部の実施態様では、細胞培養培地が成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含むものであり、ここで(a)が少なくとも約0.0001mMからのヒポタウリンであり、(b)が少なくとも約0.0001mMからのs−カルボキシメチルシステインであり、(c)が少なくとも約0.0001mMからのカルノシンであり、(d)が少なくとも約0.0001mMからのアンセリンであり、(e)が少なくとも約0.0001mMからのブチル化ヒドロキシアニソールであり、(f)が少なくとも約0.0001mMからのリポ酸であり、(g)が少なくとも約0.0001mMからのケルシトリン水和物であり、(h)が少なくとも約0.0003mMからのアミノグアニジンである。一部の実施態様では、細胞培養培地が成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含むものであり、ここで(a)が約2.0mMから約50.0mMのヒポタウリンであり、(b)が約8.0mMから約12.0mMのs−カルボキシメチルシステインであり、(c)が約8.0mMから約12.0mMのカルノシンであり、(d)が約3.0mMから約5.0mMのアンセリンであり、(e)が約0.025mMから約0.040mMのブチル化ヒドロキシアニソールであり、(f)が約0.040mMから約0.060mMのリポ酸であり、(g)が約0.010mMから約0.020mMのケルシトリン水和物であり、(h)が約0.0003mMから約10mMのアミノグアニジンである。



【0050】
一部の態様では、本発明は、本明細書において、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択されるヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含む細胞培養培地を提供する。一部の態様において、細胞培養培地は、以下の成分:(a)ヒポタウリン;(b)s−カルボキシメチルシステイン;(c)システアミン;(d)システインスルフィン酸;および(e)タウリンのうちの1種類以上を含むものである。一部の実施態様では、細胞培養培地が成分(a)、(b)、(c)、(d)および(e)のうちの2または3または4種類または各成分を含むものである。本明細書において提供する細胞培養培地は、成分(a)、(b)、(c)、(d)および(e)の任意の組合せを、あたかも1つ1つの組合せが具体的に個々に示されているかのごとく同じように含むものであり得ることを理解されたい。例えば、成分(a)、(b)、(c)、(d)および(e)のうちの3種類を含む細胞培養培地は、該成分のうちの少なくとも3種類が存在している限り該成分のどのような組合せを含むものであってもよいことを理解されたい。ヒポタウリン類似体としては、例えば、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンが挙げられる。ヒポタウリン前駆体の例は当業者によく知られており、一部の態様では、ヒポタウリン前駆体はヒポタウリン類似体であり得る。
【0051】
一部の態様では、本明細書において提供される細胞培養培地はヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を表2に示す量で含むものである。培地は、表2の培地成分の任意の1種類以上(例えば、成分(a)−(e)の任意の1種類以上、例えば、成分(a)、(b)、(c)および(d)を含む培地または成分(a)、(b)および(c)を含む培地または成分(a)−(e)のうち1種類だけを含む培地)を表2に示した任意の量で、あたかも成分と量の1つ1つの組合せが具体的に個々に示されているかのごとく同じように含むものであり得ることを理解されたい。一部の実施態様では、細胞培養培地が、少なくとも約0.0001mMからの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体、例えば、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸および/またはタウリンを含むものである。一部の実施態様では、細胞培養培地が、約0.5mMから約500.0mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体、例えば、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸および/またはタウリンを含むものである。
【0052】
一部の態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は約0.0001mMから約0.5mMの濃度のリポ酸還元型を含むものである。一部の態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は約0.0001mMから約1.5mMの濃度のカルベジロールを含むものである。
【0053】
本明細書において提供する個々の培地成分は、細胞培養および/または細胞培養物からのポリペプチド産生のための1つ以上の好都合な特性がもたらされる量で存在させるのがよい。好都合な特性としては、限定されないが、細胞培養物中のポリペプチドの酸化の低減および/または本明細書において提供する細胞培養培地中で培養された細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の着色強度の低減が挙げられる。また、本明細書において提供する細胞培養培地の好都合な特性としては、1つ以上の製品属性、例えば、細胞によって産生されるポリペプチドの量(例えば、抗体力価)、ポリペプチドのグリコシル化(例えば、N−グリコシル化)プロフィール、組成物中のポリペプチドの荷電多様性、またはポリペプチドのアミノ酸配列の完全性に影響のない、該細胞培養培地中で培養された細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の着色強度の低減も挙げられる。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地中で細胞を培養するための1つ以上の好都合な特性は、細胞生存度、細胞によって産生されるポリペプチドの量、ポリペプチドのグリコシル化(例えば、N−グリコシル化)プロフィール、組成物中のポリペプチドの荷電多様性および/またはポリペプチドのアミノ酸配列の完全性に影響のない、細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の着色強度の低減である。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地中で細胞を培養するための1つ以上の好都合な特性は、細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の着色強度の低減および細胞培養物中のポリペプチドの酸化の低減である。このような好都合な特性は、本明細書に記載の目的のポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞の培養方法および細胞培養物中での目的のポリペプチドの作製方法に適用可能である。
【0054】
一部の態様において、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸、ケルシトリン水和物およびアミノグアニジンからなる群より選択される1種類以上の培地成分は本明細書において、細胞培養および/または細胞培養物からのポリペプチド産生のための1つ以上の好都合な特性がもたらされる量で提供される。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のヒポタウリンの量は約0.5mMから約100mM、約1.6mMから約90mM、約1.7mMから約80mM、約1.8mMから約70mM、約1.9mMから約60mM、約2.0mMから約50mMまたは約1.75mMから約50mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のs−カルボキシメチルシステインの量は約0.5mMから約120mM、約5.0mMから約15mM、約6.0mMから約14mM、約7.0mMから約13mMまたは8.0mMから約12mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のアンセリンの量は約0.5mMから約20mM、約2.0mMから約10mMまたは約3.0mMから約5.0mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のブチル化ヒドロキシアニソールの量は約0.005mMから約0.2mM、約0.02mMから約0.05mMまたは約0.025mMから約0.04mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のカルノシンの量は約0.5mMから約20mM、約6.0mMから約14mMまたは約8.0mMから約12mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のリポ酸の量は約0.01mMから約1.5mMのリポ酸、約0.036mMから約0.08mM、約0.038mMから約0.07mMまたは約0.04mMから約0.06mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のケルシトリン水和物の量は約0.005mMから約0.04mM、約0.01mMから約0.03mM、約0.015mMから約0.025mMまたは約0.01mMから約0.02mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のアミノグアニジンの量は約0.0003mMから約245mM、約0.003mMから約150mM、約0.03mMから約100mM、約0.03mMから約50mM、約0.03mMから約25mM、約0.03から約10mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸、ケルシトリン水和物およびアミノグアニジンからなる群より選択されるもう1種類の培地成分の量は表1に示したものである。
【0055】
一部の態様では、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される1種類以上の培地成分が本明細書において、細胞培養および/または細胞培養物からのポリペプチド産生のための1つ以上の好都合な特性がもたらされる量で提供される。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のヒポタウリンの量は約0.5mMから約100mM、約1.6mMから約90mM、約1.7mMから約80mM、約1.8mMから約70mM、約1.9mMから約60mM、約2.0mMから約50mMまたは約1.75mMから約50mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のs−カルボキシメチルシステインの量は約0.5mMから約120mM、約5.0mMから約15mM、約6.0mMから約14mM、約7.0mMから約13mMまたは約8.0mMから約12mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のシステアミンの量は約0.01mMから約300mM、約0.02mMから約1mM、約0.04mMから約0.8mM、約0.06mMから約0.6mM、約0.08mMから約0.4mMまたは約0.1mMから約0.2mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のシステインスルフィン酸の量は約0.1mMから100mM、約0.2mMから約10mM、約0.3mMから約1mM、約0.1mMから約1mM、約0.2mMから約0.8mMまたは約0.3mMから約0.6mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のタウリンの量は約0.5mMから500mM、約4.0mMから約100mMまたは約1.0mMから約10mMである。一部の実施態様では、1つ以上の好都合な特性がもたらされる細胞培養培地中のヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される1種類以上の培地成分の量は表2に示したものである。
【0056】
本明細書において細胞培養培地は一態様において、細胞培養物中でポリペプチドを産生させる方法に使用した場合、異なる培地中で産生させた場合の該ポリペプチドの品質属性と比べて1つ以上の有利な製品品質属性または好都合な特性をもたらすものである。一部の特定の培地成分の使用によって形成される反応性酸素種(ROS)によりポリペプチドの特定のアミノ酸が酸化され、酸化されたポリペプチド生成物が生成し得る。また、かかる酸化されたタンパク質種の存在により、任意の濃度で、例えば限定されないが約1mg/mL、約10mg/mL、約25mg/mL、約50mg/mLまたは約75mg/mLから100mg/mLまでのいずれかより高い濃度で製剤化されたポリペプチド生成物で特に有意であり得る着色強度などのタンパク質生成物の製品品質属性が改変され得る。一部の実施態様では、酸化されたタンパク質種の存在により、約100mg/mL、約125mg/mL、約150mg/mL、約175mg/mL、約200mg/mLまたは約250mg/mLのいずれかより高い濃度で製剤化されたポリペプチド生成物で特に有意であり得る着色強度などのタンパク質生成物の製品品質属性が改変され得る。本明細書に詳述している培地を用いて産生されたポリペプチドを含む組成物(例えば、少なくとも約1mg/mL、約10mg/mL、約50mg/mL、約100mg/mL、約150mg/mL,200mg/mLまたは約250mg/mLのポリペプチド、例えば抗体を含む組成物)の着色強度は、本明細書に記載のもの、または限定されないが米薬局方の色標準およびヨーロッパ薬局方の色標準に記載のものなどの色アッセイを用いて評価することができる。USP-24 Monograph 631 Color and Achromaticity. United States Pharmacopoeia Inc., 2000, p. 1926-1927およびCouncil of Europe. European Pharmacopoeia, 2008, 第7版 P.22(これらは出典明示によりその全体が本明細書に援用される)を参照のこと。本明細書における任意の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は、色アッセイによって測定したとき参照溶液と比べて低減された着色強度を有するポリペプチドを含む組成物の調製のために使用され得る。例えば、本明細書において提供される細胞培養培地を用いて産生されたポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)を含む組成物(例えば、薬学的製剤)の着色強度は、表1または表2の成分のうちの1種類以上を含むものでない細胞培養培地を用いて産生させたポリペプチドを含む組成物と比べて例えば限定されないが、少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%またはそれ以上の任意の量で低減され得る。
【0057】
市販の培地、例えば限定されないが、ハムF10(Sigma)、最小必須培地([MEM],Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地([DMEM],Sigma)、ルリアブロス(LB)およびテリフィック(TB)(細胞の培養に適したもの)に、本明細書に詳述したいずれかの培地成分を補給してもよい(例えば、提供するキットの使用により)。また、HamおよびWallace, Meth. Enz., 58:44 (1979)、BarnesおよびSato, Anal. Biochem., 102:255 (1980)、Vijayasankaranら, Biomacromolecules., 6:605:611 (2005)、Patkarら, J Biotechnology, 93:217-229 (2002)、米国特許第4767704号;同第4657866号;同第4927762号;または同第4560655号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;米国再発行特許第30985号;または米国特許第5122469号(これらのすべての開示内容は出典明示によりその全体が本明細書に援用される)に記載の任意の培地に、本明細書に詳述したいずれかの培地成分が補給され得る(例えば、提供するキットの使用により)。
【0058】
一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地はシスチンを含んでおり、システインを含んでいないものである。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地はクエン酸第二鉄を含んでおり、硫酸第一鉄を含んでいないものである。本明細書における一部の実施態様では、提供する細胞培養培地はシステインおよび硫酸第一鉄を含んでいないものである。一部の実施態様では、培地はシステインおよび硫酸第一鉄を含んでおらず、シスチンおよび/またはクエン酸第二鉄を含んでいるものである。本明細書における任意の実施態様において、細胞培養培地は基本培地または流加培地であり得る。アミノ酸、ビタミン類、微量元素および他の培地成分が、欧州特許第307247号または米国特許第6180401号に明示された範囲の1倍または2倍で使用され得、これらの文献は出典明示によりその全体が本明細書に援用される。
【0059】
また、本明細書において提供する任意の培地に、必要に応じてホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリンまたは上皮成長因子)、イオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸)、バッファー(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、微量元素(通常、マイクロモル濃度範囲の最終濃度で存在する無機化合物と定義する)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源を補給してもよい。一部の態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は、植物または動物に由来するタンパク質を含むものである。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養物は植物または動物に由来するタンパク質を含んでいない。また、任意の他の必要な補給物が、当業者にわかるであろう適切な濃度で含められ得る。
【0060】
III.本発明の方法および使用
本明細書において、目的のポリペプチドの作製のために本明細書において提供する細胞培養培地中で細胞を培養する方法を提供する。一部の態様において、目的のポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を培養するための方法であって、該方法が該細胞を細胞培養培地と接触させる工程を含み、該細胞培養培地が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、カルノシン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、リポ酸およびケルシトリン水和物からなる群より選択される成分のうちの1種類以上を含むものである方法を提供する。一部の実施態様では、目的のポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を培養するための方法であって、該方法が該細胞を細胞培養培地と接触させる工程を含み、該細胞培養培地が、(a)ヒポタウリン、(b)s−カルボキシメチルシステイン、(c)カルノシン、(d)アンセリン、(e)ブチル化ヒドロキシアニソール、(f)リポ酸;(g)ケルシトリン水和物;および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される成分のうちの1種類以上を含むものであり、成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含む該細胞培養培地により、該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が、成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含むものでない細胞培養培地中で培養された該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物と比べて低減される方法を提供する。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約0.1%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約5%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約10%から約30%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約5%から約75%低減される。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が(a)約2.0mMから約50.0mMの濃度のヒポタウリン、(b)約8.0mMから約12.0mMの濃度のs−カルボキシメチルシステイン、(c)約8.0mMから約12.0mMの濃度のカルノシン、(d)約3.0mMから約5.0mMの濃度のアンセリン、(e)約0.025mMから約0.040mMの濃度のブチル化ヒドロキシアニソール、(f)約0.040mMから約0.060mMの濃度のリポ酸、(g)約0.010mMから約0.020mMの濃度のケルシトリン水和物、および(h)約0.0003mMから約20mMの濃度のアミノグアニジンから選択される量の1種類以上の成分を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、(a)ヒポタウリン、(b)s−カルボキシメチルシステイン、(c)カルノシン、(d)アンセリン、(e)ブチル化ヒドロキシアニソール、(f)リポ酸;(g)ケルシトリン水和物;および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される1種類以上の成分を細胞培養培地に14日間の細胞培養サイクルの0日目に添加する。
【0061】
他の一部の態様では、目的のポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を培養するための方法であって、該細胞を、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含む細胞培養培地と接触させる工程を含む方法を提供する。一部の実施態様では、目的のポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を培養するための方法であって、該方法が該細胞を、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含む細胞培養培地と接触させる工程を含み、該ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含む該細胞培養培地により、該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含まない細胞培養培地中で培養された該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度と比べて低減される方法を提供する。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約0.1%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約5%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約10%から約30%低減される。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が少なくとも約0.0001mMからの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が約0.5mMから約500mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。一部の実施態様では、細胞培養培地が約1.0mMから約40mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。本明細書における一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を細胞培養培地に14日間の細胞培養サイクルの0日目に添加する。一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体は細胞培養培地に細胞培養サイクル過程全体にわたって漸増的に添加されない。
【0062】
また、本明細書において、ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を細胞培養培地中で培養する工程を含む目的のポリペプチドの作製方法であって、該細胞培養培地が、(a)ヒポタウリン、(b)s−カルボキシメチルシステイン、(c)カルノシン、(d)アンセリン、(e)ブチル化ヒドロキシアニソール、(f)リポ酸、(g)ケルシトリン水和物および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される成分のうちの1種類以上を含むものである方法を提供する。一部の実施態様では、ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を細胞培養培地中で培養する工程を含む目的のポリペプチドの作製方法であって、該細胞培養培地が、(a)ヒポタウリン、(b)s−カルボキシメチルシステイン、(c)カルノシン、(d)アンセリン、(e)ブチル化ヒドロキシアニソール、(f)リポ酸、(g)ケルシトリン水和物および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される成分のうちの1種類以上を含むものであり、成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含む該細胞培養培地により、該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が、成分(a)−(h)のうちの1種類以上を含むものでない細胞培養培地中で培養された該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物と比べて低減される方法を提供する。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約0.1%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約5%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約10%から約30%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約5%から約75%低減される。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が、(a)約2.0mMから約50.0mMの濃度のヒポタウリン、(b)約8.0mMから約12.0mMの濃度のs−カルボキシメチルシステイン、(c)約8.0mMから約12.0mMの濃度のカルノシン、(d)約3.0mMから約5.0mMの濃度のアンセリン、(e)約0.025mMから約0.040mMの濃度のブチル化ヒドロキシアニソール、(f)約0.040mMから約0.060mMの濃度のリポ酸、(g)約0.010mMから約0.020mMの濃度のケルシトリン水和物および(h)約0.0003mMから約20mMの濃度のアミノグアニジンから選択される量の1種類以上の成分を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、(a)ヒポタウリン、(b)s−カルボキシメチルシステイン、(c)カルノシン、(d)アンセリン、(e)ブチル化ヒドロキシアニソール、(f)リポ酸;(g)ケルシトリン水和物;および(h)アミノグアニジンからなる群より選択される1種類以上の成分を細胞培養培地に14日間の細胞培養サイクルの0日目に添加する。
【0063】
別の態様では、本明細書において、目的のポリペプチドの作製方法であって、該ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を細胞培養培地中で培養する工程を含む方法を提供する。一部の実施態様では、目的のポリペプチドの作製方法であって、該ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞を細胞培養培地中で培養する工程を含み、該細胞培養培地がヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものであり、該ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含む該細胞培養培地により、該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含まない細胞培養培地中で培養された該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度と比べて低減される方法を提供する。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約0.1%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が少なくとも約5%低減される。一部の実施態様では、該ポリペプチドを含む組成物の着色強度が約10%から約30%低減される。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が少なくとも約0.0001mMからの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、細胞培養培地が約0.5mMから約500mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。一部の実施態様では、細胞培養培地が約1.0mMから約40mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を含むものである。本明細書における一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。本明細書における一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を細胞培養培地に14日間の細胞培養サイクルの0日目に添加する。一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体は細胞培養培地に細胞培養サイクル過程全体にわたって漸増的に添加されない。
【0064】
本明細書における任意の実施態様において、本明細書に記載の方法に使用される細胞培養培地は既知組成の細胞培養培地であっても未知組成の細胞培養培地であってもよい。本明細書において提供する細胞培養培地は細胞培養基本培地または細胞流加培地として使用され得る。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は本細胞培養方法の細胞の増殖期に使用される。一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地は本細胞培養方法の細胞の産生期に使用される。本明細書における任意の方法において、細胞はCHO細胞などの哺乳動物細胞であり得る。一部の実施態様では、目的のポリペプチドは抗体またはその断片である。
【0065】
本明細書におけるさらなる実施態様では、目的のポリペプチドが回収される。回収されるポリペプチドを含む組成物を、本明細書に記載のような定量的または定性的色アッセイを用いた着色強度の評価の前に少なくとも1回の精製工程に供してもよい。一部の実施態様では、回収されるポリペプチドを含む組成物は液状組成物または非液状組成物である。一部の実施態様では、回収されるポリペプチドを含む液状組成物または非液状組成物は着色強度について、本明細書に記載のような、または当該技術分野で知られた色アッセイを用いて評価され得る。例えば、回収されるポリペプチドを含む非液状組成物は、後で着色強度の測定前に再構成される凍結乾燥組成物であり得る。本明細書における一部の実施態様では、本明細書において提供する細胞培養培地中で培養された細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の着色強度は、本明細書に記載の培地成分(例えば、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体)を含むものでない細胞培養培地中で培養された該細胞によって産生された該ポリペプチドを含む組成物の着色強度と比べて少なくとも0.1%低減される。一部の実施態様では、着色強度は少なくとも約0.1%、少なくとも約0.2%、少なくとも約0.3%、少なくとも約0.4%、少なくとも約0.5%、少なくとも約0.6%、少なくとも約0.7%、少なくとも約0.8%、少なくとも約0.8%または少なくとも約0.9%から約1.0%低減される。一部の実施態様では、着色強度は少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または少なくとも約90%から約100%低減される。一部の実施態様では、着色強度は約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%から約1.0%低減される。一部の実施態様では、着色強度は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約45%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%から約100%低減される。一部の実施態様では、着色強度は約1%から約10%、約5%から約15%、約5%から約20%、約5%から約25%、約5%から約30%、約5%から約35%、約5%から約40%、約5%から約45%、約5%から約50%、約10%から約20%または約15%から約25%低減される。一部の実施態様では、回収されるポリペプチドを含む組成物は無色またはわずかに着色した液体または組成物に見える。液体または組成物は、本明細書に記載のような色アッセイまたは当業者に知られた色アッセイを用いて無色またはわずかに着色していると判定され得る。さらなる一実施態様では、組成物は、本明細書に記載のような薬学的に許容され得る担体をさらに含んでいてもよい薬学的組成物である。
【0066】
また、本明細書に詳述しているポリペプチドの投与方法も提供する。例えば、個体にポリペプチドを含む製剤を投与するための方法であって、該製剤が該ポリペプチドを少なくとも約100mg/mL、少なくとも約125mg/mLまたは少なくとも約150mg/mLより高い濃度で有し、COCアッセイによって測定したときB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い着色強度値を有するものである方法を提供する。一部の態様では、COCアッセイによって測定される着色強度値は、限定されないが、B、BY、Y、GYまたはRのうちのいずれか1つであり得、ここで、値が大きいほど着色強度が小さいことを示す。目的のポリペプチドを含む製剤は注射に、例えば個体への皮下注射(例えば、ヒトへの皮下注射)に適したものであり得る。一部の態様において、目的のポリペプチドを含む注射に適した(例えば、皮下注射に適した)製剤は少なくとも100mg/mL、少なくとも125mg/mLまたは少なくとも150mg/mLより高い濃度であり、COCアッセイによって測定したときB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い着色強度値を有するものである。一部の態様では、COCアッセイによって測定される着色強度値は、限定されないが、B、BY、Y、GYまたはRのうちのいずれか1つであり得、ここで、値が大きいほど着色強度が小さいことを示す。
【0067】
全体において、例えば本発明の簡単な概要およびその他の箇所に他の方法を提供する。
【0068】
ポリペプチドの作製
本明細書において詳述している細胞培養培地は、ポリペプチド、例えば特定の抗体を作製するための細胞培養方法に使用され得る。該培地は、バッチ培養、フェドバッチ培養または灌流培養のいずれによるものであれ細胞培養方法に使用され得、任意のポリペプチド、例えば本明細書に記載のポリペプチドの任意の態様または実施態様の作製方法に使用され得る。本明細書に詳述している組成物(例えば、本明細書において提供する細胞培養培地中で培養された細胞)および方法によって作製され、本明細書において提供する組成物(例えば、作製するポリペプチドを含む細胞培養培地)中に存在するポリペプチドは宿主細胞に相同であってもよく、または好ましくは外来性(使用される宿主細胞に対して非相同である、すなわち異物であることを意味する、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって産生させたヒトタンパク質、または哺乳動物細胞によって産生させた酵母ポリペプチド)であり得る。多様な形態の一例では、ポリペプチドは、宿主細胞によって培地中に直接分泌された哺乳動物ポリペプチド(例えば、抗体)である。多様な形態の別の一例では、ポリペプチドは培地中に、該ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞の溶解によって放出される。
【0069】
宿主細胞において発現可能な任意のポリペプチドが本開示に従って作製され得、提供する組成物中に存在し得る。ポリペプチドは、宿主細胞に内在性の遺伝子から発現させたものであってもよく、宿主細胞内に遺伝子操作よって導入した遺伝子から発現させたものであってもよい。ポリペプチドは天然に存在するものであってもよく、あるいはまた、人間の手で操作または選択した配列を有するものであってもよい。操作されたポリペプチドは、個々に天然に存在する他のポリペプチドセグメントから合成したものであってもよく、天然に存在しない1つ以上のセグメントを含むものであってもよい。
【0070】
本発明に従って望ましく発現され得るポリペプチドは、しばしば、興味深い生物学的または化学的活性に基づいて選択される。例えば、本発明は、任意の薬学的または商業的に重要な酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤などを発現させるために使用され得る。
【0071】
細胞培養物中での抗体などのポリペプチドの作製方法は当該技術分野でよく知られている。本明細書において、細胞培養物中で抗体(例えば、完全長抗体、抗体断片および多重特異性抗体)を作製するための非限定的で例示的な方法を提供する。本明細書における方法は当業者によって、他のタンパク質、例えばタンパク質系阻害剤の作製に適合され得る。タンパク質(例えば、治療用タンパク質)の作製のための一般的に充分理解されており、一般的に使用されている手法および手順については、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrookら, 第4版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 2012); Current Protocols in Molecular Biology(F.M. Ausubelら編, 2003); Short Protocols in Molecular Biology (Ausubelら編, J. Wiley and Sons, 2002); Current Protocols in Protein Science, (Horswillら, 2006; Antibodies, A Laboratory Manual (Harlow and Lane編, 1988); Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique and Specialized Applications (R.I. Freshney, 第6版, J. Wiley and Sons, 2010)(これらはすべて、出典明示によりその全体が本明細書に援用される)を参照のこと。
【0072】
(A)抗体の調製
本明細書において提供する細胞培養培地を用いて細胞培養物中で作製される抗体は目的の抗原に対するものである。好ましくは、抗原は生物学的に重要なポリペプチドであり、該抗体を含む組成物を、障害に苦しんでいる哺乳動物に投与することにより該哺乳動物に治療有益性がもたらされ得る。
【0073】
(i)抗原の調製
可溶性抗原またはその断片(他の分子にコンジュゲートさせてもよい)が、抗体を生成させるための免疫原として使用され得る。膜貫通型分子、例えば受容体に対しては、その断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用され得る。あるいはまた、膜貫通型分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。かかる細胞は天然供給源(例えば、癌細胞株)に由来するものであってよく、膜貫通型分子を発現するように組換え手法によって形質転換した細胞であってもよい。抗体の調製に有用な他の抗原およびその形態は当業者に自明であろう。
【0074】
(ii)一部の特定の抗体系の方法
目的のモノクローナル抗体は、最初にKohlerら, Nature, 256:495 (1975)によって報告され、例えば、Hongoら, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995), Harlowら, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版 1988); Hammerlingら:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier, N.Y., 1981)およびNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)にヒト−ヒトハイブリドーマに関してさらに報告されたハイブリドーマ法を用いて作製され得る。さらなる方法としては、例えば、ハイブリドーマ細胞株でのモノクローナルヒト天然IgM抗体の作製に関する米国特許第7189826号に記載のものが挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はVollmersおよびBrandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)ならびにVollmersおよびBrandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載されている。
【0075】
種々の他のハイブリドーマ手法については、例えば、米国特許出願公開第2006/258841号;米国特許出願公開第2006/183887号(完全ヒト抗体)、米国特許出願公開第2006/059575号;米国特許出願公開第2005/287149号;米国特許出願公開第2005/100546号;米国特許出願公開第2005/026229号;ならびに米国特許第7078492号および同第7153507号を参照のこと。ハイブリドーマ法を用いてモノクローナル抗体を作製するための例示的なプロトコルは以下のとおりに記載される。一実施態様では、マウスまたは他の適切な宿主動物、例えばハムスターを免疫処置し、免疫処置に使用したタンパク質に特異的に結合する抗体を産生する、または産生し得るリンパ球を誘発する。抗体は動物において、目的のポリペプチドまたはその断片およびアジュバント、例えばモノホスホリルリピドA(MPL)/トレハロースジコリノミコレート(torehalose dicrynomycolate)(TDM)の反復皮下(sc)または腹腔内(ip)注射によって生成させる(Ribi Immunochem.Research,Inc.,Hamilton,Mont.)。免疫処置した動物の血清を抗抗原抗体についてアッセイし、ブースター免疫処置を施してもよい。抗抗原抗体が生じた動物のリンパ球を単離する。あるいはまた、リンパ球をインビトロで免疫処置してもよい。
【0076】
次いで、リンパ球をミエローマ細胞と、適当な融合剤、例えばポリエチレングリコールを用いて融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する。例えば、Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 59-103 (Academic Press, 1986)を参照のこと。効率的に融合され、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベル産生を補助し、HAT培地などの培地に感受性であるミエローマ細胞が使用され得る。例示的なミエローマ細胞としては、限定されないが、マウスミエローマ系統、例えば、Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,Calif.USAから入手可能なMOPC−21およびMPC−11マウス腫瘍由来のもの、ならびにAmerican Type Culture Collection,Rockville,Md.USAから入手可能なSP−2またはX63−Ag8−653細胞が挙げられる。また、ヒトミエローマおよびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株もヒトモノクローナル抗体の作製について報告されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984); Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0077】
かくして調製されたハイブリドーマ細胞を適当な培養培地中に、例えば、未融合の親ミエローマ細胞の増殖または生存を阻害する1種類以上の物質を含む培地中に播種し、培養する。例えば、親ミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠損している場合、ハイブリドーマ用の培養培地は、典型的にはヒポキサン、アミノプテリンおよびチミジンを含むものであり(HAT培地)、これらの物質はHGPRT欠損細胞の増殖を抑制する。好ましくは、ウシ胎仔血清などの動物由来の血清の使用を低減するため、例えばEvenら, Trends in Biotechnology, 24(3), 105-108 (2006)に記載のような無血清ハイブリドーマ細胞培養方法が使用される。
【0078】
ハイブリドーマ細胞培養物の生産性を改善するためのツールとしてのオリゴペプチドは、Franek, Trends in Monoclonal Antibody Research, 111-122 (2005)に記載されている。具体的には、標準的な培養培地を、特定のアミノ酸(アラニン、セリン、アスパラギン、プロリン)またはタンパク質加水分解物画分を富化し、3つから6つのアミノ酸残基で構成された合成オリゴペプチドによってアポトーシスが有意に抑制され得る。ペプチドはミリモル濃度またはそれ以上の濃度で存在する。
【0079】
ハイブリドーマ細胞を培養している培養培地は、モノクローナル抗体の産生についてアッセイされ得る。ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性が、免疫沈降によって、またはインビトロ結合アッセイ、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)もしくは酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)によって測定され得る。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばスキャッチャード解析によって測定され得る。例えば、Munsonら, Anal. Biochem., 107:220 (1980)を参照のこと。
【0080】
所望の特異性、親和性および/または活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、クローンが限界希釈手順によってサブクローニングされ、標準的な方法によって培養され得る。例えば、Goding, 上掲を参照のこと。この目的のための好適な培養培地としては、例えば、D−MEMまたはRPMI−1640培地が挙げられる。一部の実施態様では、ハイブリドーマ細胞は本明細書において提供する細胞培養培地中で培養される。一部の実施態様では、ハイブリドーマ細胞は、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸およびケルシトリン水和物からなる群より選択される1種類以上の培地成分を含む細胞培養培地中で培養される。一部の実施態様では、該1種類以上の培地成分はヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体である。一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。
【0081】
抗体を組換え法を用いて作製してもよい。抗抗原抗体の組換え作製のため、該抗体をコードしている核酸を単離し、さらなるクローニング(DNAの増幅)のため、または発現のために複製可能なベクター内に挿入する。抗体をコードしているDNAは慣用的な手順を用いて(例えば、該抗体の重鎖と軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離され、配列決定され得る。多くのベクターが利用可能である。一般的にベクター成分としては、限定されないが、以下のもの:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーターおよび転写終結配列のうちの1種類以上が挙げられる。
【0082】
(iii)一部の特定のライブラリースクリーニング法
抗体を、コンビナトリアルライブラリーを使用して所望の活性(一又は複数)を有する抗体をスクリーニングすることにより作製してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、かかるライブラリーを、所望の結合特性を有する抗体についてスクリーニングするためのさまざまな方法が当該技術分野で知られている。かかる方法は、HoogenboomらのMethods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brienら編, Human Press, Totowa, N.J., 2001)に一般的に記載されている。例えば、目的の抗体の作製方法の一例は、Leeら, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93に記載のようなファージ抗体ライブラリーの使用によるものである。
【0083】
原則的に、合成の抗体クローンが、ファージコートタンパク質と融合させた抗体可変領域(Fv)の種々の断片をディスプレイしているファージを含むファージライブラリーをスクリーニングすることにより選択される。かかるファージライブラリーは、アフィニティークロマトグラフィーにより所望の抗原に対してパニングされる。所望の抗原に結合し得るFv断片を発現しているクローンは抗原に吸着され、したがってライブラリー内の非結合クローンから分離される。次いで、結合クローンを抗原から溶出し、抗原吸着/溶出のさらなるサイクルによってさらに富化してもよい。目的のファージクローンを選択するための適当な抗原スクリーニング手順を設計した後、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, NIH Publication 91-3242, Bethesda Md. (1991), 第1-3巻に記載されている、この目的のファージクローンのFv配列と適当な定常領域(Fc)配列を用いて完全長抗体クローンを構築することにより、任意の目的の抗体が得られ得る。
【0084】
一部の特定の実施態様では、抗体の抗原結合ドメインが約110個のアミノ酸の2つの可変(V)領域から形成され、この2つの可変(V)領域はそれぞれ軽鎖(VL)および重鎖(VH)に由来し、どちらも3つの超可変ループ(HVR)または相補性決定領域(CDR)を提示する。可変ドメインは、機能的にファージ上に単鎖Fv(scFv)断片(この場合、VHとVLは柔軟性の短鎖ペプチドを介して共有結合されている)、またはFab断片(この場合、各々は定常ドメインと融合され、非共有結合的に相互作用している)のいずれかとしてディスプレイされ得る(Winterら, Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載)。本明細書で用いる場合、scFvコードファージクローンおよびFabコードファージクローンを集合的に「Fvファージクローン」または「Fvクローン」と称する。
【0085】
VH遺伝子およびVL遺伝子のレパートリーをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々にクローニングし、ファージライブラリー内でランダムに再結合させてもよく、次いで、これを抗原結合クローンについてWinterら, Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載のようにして調べてもよい。免疫処置源のライブラリーにより、ハイブリドーマを構築する必要なく免疫原に対して高親和性の抗体が得られる。あるいはまた、Griffithsら, EMBO J, 12: 725-734 (1993)に記載のように、ナイーブレパートリーをクローニングし、なんら免疫処置を伴わずに広範な非自己抗原とともに自己抗原に対する単一のヒト抗体源を得てもよい。最後に、ナイーブライブラリーはまた、HoogenboomおよびWinter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)に記載のようにして、幹細胞由来の非再編成V遺伝子セグメントをクローニングし、高度可変CDR3領域をコードさせるため、およびインビトロ再編成を行なうためのランダム配列を含むPCRプライマーを使用することにより、合成によって作製することもできる。
【0086】
一部の特定の実施態様では、繊維状ファージが使用され、抗体断片をマイナーコートタンパク質pIIIとの融合によってディスプレイさせる。抗体断片は、単鎖Fv断片(この場合、VHおよびVLドメインは、同じポリペプチド鎖上で柔軟性ポリペプチドスペーサーによって連結されている、例えば、Marksら, J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)に記載)、またはFab断片(この場合、一方の鎖がpIIIと融合され、他方が細菌宿主細胞のペリプラズム中に分泌され、ここで、一部の野生型コートタンパク質と置き換えられることにより、ファージ表面上にディスプレイされるFab−コートタンパク質構造が合成される、例えば、Hoogenboomら, Nucl. Acids Res., 19: 4133-4137 (1991)に記載)としてディスプレイされ得る。
【0087】
一般に、抗体遺伝子断片をコードしている核酸は、ヒトまたは動物から収集した免疫細胞から得られる。抗抗原クローンに有利に偏ったライブラリーが所望される場合、被検体を抗原で免疫処置して抗体応答を生じさせ、脾臓細胞および/または循環B細胞 他の末梢血リンパ球(PBL)を回収してライブラリーを構築する。一実施態様では、抗抗原クローンに有利に偏ったヒト抗体遺伝子断片ライブラリーが、機能性ヒト免疫グロブリン遺伝子アレイを有する(内在性の機能性抗体産生系はない)トランスジェニックマウスにおいて、抗原免疫処置によってB細胞が抗原に対するヒト抗体を産生するような抗抗原抗体応答を生じさせることにより得られる。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスの作製は後述する。
【0088】
抗原特異性膜結合型抗体を発現しているB細胞を単離するための適当なスクリーニング手順を使用することにより、例えば、抗原アフィニティークロマトグラフィーを用いた細胞分離または蛍光色素標識抗原への細胞の吸着の後、蛍光標示式細胞分取(FACS)によって、抗抗原反応性の細胞集団のさらなる富化が得られ得る。
【0089】
あるいはまた、免疫処置していないドナー由来の脾臓細胞および/またはB細胞もしくは他のPBLの使用により、より良好な考えられ得る抗体レパートリーの提示がもたらされ、また、抗原が抗原性でない任意の動物(ヒトまたは非ヒト)種を用いた抗体ライブラリーの構築が可能になる。インビトロ抗体遺伝子構築が組み込まれたライブラリーでは、被検体から幹細胞を収集し、非再編成抗体遺伝子セグメントをコードしている核酸を得る。目的の免疫細胞は、さまざまな動物種、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ、ルプリン(luprine)、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマおよびトリ種などから得られ得る。
【0090】
抗体可変遺伝子セグメント(例えば、VHおよびVLセグメント)をコードしている核酸を目的の細胞から回収し、増幅する。再編成VHおよびVL遺伝子ライブラリーの場合、所望のDNAは、ゲノムDNAまたはmRNAをリンパ球から単離した後、再編成VH遺伝子およびVL遺伝子の5’末端と3’末端がマッチングしているプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られ得(Orlandiら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 86: 3833-3837 (1989)に記載)、それにより、発現のための多様なV遺伝子レパートリーが作製され得る。V遺伝子はcDNAおよびゲノムDNAから、エキソンの5’末端に成熟V−ドメインがコードされたバック(back)プライマーとJ−セグメント内ベースのフォワードプライマーを用いて増幅され得る(Orlandiら (1989)およびWardら, Nature, 341: 544-546(1989)に記載)。しかしながら、cDNAからの増幅では、リーダーエキソン内ベースのバックプライマー(Jonesら, Biotechnol., 9: 88-89 (1991)に記載)および定常領域内のフォワードプライマー(Sastryら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 86: 5728-5732 (1989)に記載)を使用してもよい。相補性を最大限にするため、縮重がプライマー内に組み込まれ得る(Orlandiら(1989)またはSastryら(1989)に記載)。一部の特定の実施態様では、ライブラリーの多様性は、免疫細胞核酸試料中に存在する利用可能なすべてのVHおよびVL編成を増幅させるために各V遺伝子ファミリーに標的化されたPCRプライマーを使用することにより最大限になる(例えば、Marksら, J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)の方法に記載、またはOrumら, Nucleic Acids Res., 21: 4491-4498 (1993)の方法に記載)。増幅DNAの発現ベクター内へのクローニングのため、レア制限部位がPCRプライマー内に、一端にタグとして(Orlandiら(1989)に記載)またはタグ化プライマーを用いたさらなるPCR増幅によって(Clacksonら, Nature, 352: 624-628 (1991)に記載)導入され得る。
【0091】
合成的に再編成されるV遺伝子のレパートリーは、インビトロでV遺伝子セグメントから誘導され得る。ほとんどのヒトVH遺伝子セグメントがクローニングされ、配列決定されており(Tomlinsonら, J. Mol. Biol., 227: 776-798 (1992)に報告)、マッピングされている(Matsudaら, Nature Genet., 3: 88-94 (1993)に報告);このようなクローニングセグメント(例えば、H1およびH2ループのすべての主要コンホメーション)が、多様な配列および長さのH3ループをコードしているPCRプライマーを用いて多様なVH遺伝子レパートリーを作製するために使用され得る(HoogenboomおよびWinter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)に記載)。また、VHレパートリーは、単一の長さの長鎖H3ループに重点を置いたすべての配列多様性を用いて作製することもできる(Barbasら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4457-4461 (1992)に記載)。ヒトVκおよびVλセグメントがクローニングされ、配列決定されており(WilliamsおよびWinter, Eur. J. Immunol., 23:1456-1461 (1993)に報告)、合成軽鎖レパートリーの作製に使用され得る。VHおよびVLフォールディング部ならびにL3およびH3長さ部の範囲に基づいた合成V遺伝子レパートリーは、相当な構造的多様性の抗体をコードする。V遺伝子コードDNAの増幅後、生殖細胞系列V遺伝子セグメントがインビトロで、HoogenboomおよびWinter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)の方法に従って再編成され得る。
【0092】
抗体断片のレパートリーは、VHおよびVLの遺伝子レパートリーをいくつかの様式で一体に結合することにより構築され得る。各レパートリーを異なるベクター内で作出し、ベクターをインビトロで(例えば、Hogrefeら, Gene, 128: 119-126 (1993)に記載)、またはインビボでコンビナトリアル感染(例えば、Waterhouseら, Nucl. Acids Res., 21: 2265-2266 (1993)に記載のloxP系)によって再結合してもよい。インビボ再結合アプローチでは、大腸菌の形質転換効率によって課されるライブラリーサイズの制限が解消されるというFab断片の2鎖性が利用される。ナイーブVHおよびVLレパートリーは別々に、一方はファージミド内に、他方はファージベクター内にクローニングされる。次いで、この2つのライブラリーをファージミド含有細菌のファージ感染により、各細胞が異なる組合せを含み、ライブラリーサイズが存在する細胞の数(約10
12クローン)によってのみ制限されるように結合する。どちらのベクターも、VH遺伝子とVL遺伝子が単一のレプリコンに再結合され、ファージビリオン内に共パッケージングされるようなインビボ再結合シグナルを含む。このような巨大なライブラリーにより、良好な親和性(約10
−8MのK
d−1)の大量数の多様な抗体が得られる。
【0093】
あるいはまた、レパートリーを同じベクター内に逐次クローニングしてもよく(例えば、Barbasら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 7978-7982 (1991)に記載)、PCRによって一体合成し、次いでクローニングしてもよい(例えば、Clacksonら, Nature, 352: 624-628 (1991)に記載)。また、PCR合成を用い、VHおよびVLのDNAを、柔軟性ペプチドスペーサーをコードしているDNAと連接し、単鎖Fv(scFv)レパートリーを形成してもよい。また別の手法では「細胞内PCR合成」を使用し、VHおよびVLの遺伝子をリンパ球内でPCRによって結合し、次いで連結した遺伝子のレパートリーをクローニングする(Embletonら, Nucl. Acids Res., 20: 3831-3837 (1992)に記載)。
【0094】
ナイーブライブラリー(天然または合成のいずれか)によって作製した抗体は中くらいの親和性(約10
6から10
7M
−1のK
d−1)のものであり得るが、二次ライブラリーを構築してこのライブラリーから再選択することにより、親和性成熟をインビトロで模倣することもできる(Winterら(1994), 上掲に記載)。例えば、変異は、エラープローンポリメラーゼ(Leungら, Technique 1: 11-15 (1989)に報告)をHawkinsら, J. Mol. Biol., 226: 889-896 (1992)の方法またはGramら, Proc. Natl. Acad. Sci USA, 89: 3576-3580 (1992)の方法において使用することにより、インビトロでランダムに導入され得る。さらに、親和性成熟は、1つ以上のCDRを、例えば、対象のCDRにまたがるランダム配列を有するプライマーを用いたPCRを使用して、選択した個々のFvクローンにおいてランダムに変異させ、より高親和性クローンをスクリーニングすることにより行なわれ得る。国際公開第9607754号(1996年3月14日公開)では、免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域に変異誘発を誘導し、軽鎖遺伝子のライブラリーを作出するための方法が報告された。別の有効なアプローチは、ファージディスプレイによって選択したVHまたはVLドメインを、免疫処置していないドナーから得た天然に存在するVドメインバリアントのレパートリーと再結合し、数回の再鎖シャッフリングにおいて高親和性についてスクリーニングすることである(Marksら, Biotechnol., 10: 779-783 (1992)に記載)。この手法では、約10
−9M以下の親和性を有する抗体および抗体断片の作製が可能である。
【0095】
ライブラリーのスクリーニングは、当該技術分野で知られた種々の手法によって行なわれ得る。例えば、抗原は、吸着プレートのウェルをコートするために使用されて、吸着プレートに固定した宿主細胞上で発現させ得るか、もしくは細胞分取において使用され得るか、またはストレプトアビジンコートビーズでの捕捉のためにビオチンとコンジュゲートされ得るか、またはファージディスプレイライブラリーをパニングするための任意の他の方法において使用され得る。
【0096】
ファージライブラリー試料は固定化した抗原と、ファージ粒子の少なくとも一部分を吸着剤に結合させるのに適した条件下で接触させる。通常、条件、例えばpH、イオン強度、温度などが生理学的条件を模倣するように選択される。固相に結合しているファージを洗浄し、次いで、酸によって(例えば、Barbasら, Proc. Natl. Acad. Sci USA, 88: 7978-7982 (1991)に記載)またはアルカリによって(例えば、Marksら, J. Mol. Biol., 222: 581-597 (1991)に記載)、または抗原競合によって(例えば、Clacksonら, Nature, 352: 624-628 (1991)の抗原競合方法と同様の手順で)溶出する。ファージは1回の選択で20−1,000倍に富化され得る。さらに、富化されたファージは細菌培養液中で培養され、さらなる回数の選択に供され得る。
【0097】
選択効率は多くの要素に、例えば洗浄中の解離の速度論、および単一のファージ上の多数の抗体断片が同時に抗原と結合し得るかかどうかに依存する。高速解離速度論(および弱い結合親和性)を有する抗体は、短時間の洗浄、多価ファージディスプレイおよび固相内における高密度の抗原コーティングの使用によって保持され得る。この高密度は、多価相互作用によってファージを安定させるだけでなく、解離したファージの再結合に有利である。遅い解離速度論(および良好な結合親和性)を有する抗体の選択は、長時間の洗浄ならびに一価ファージディスプレイ(Bassら, Proteins, 8: 309-314 (1990)および国際公開第92/09690号に記載)および低密度の抗原コーティング(Marksら, Biotechnol., 10: 779-783 (1992)に記載)の使用によって促進され得る。
【0098】
抗原に対して異なる親和性のファージ抗体間での選択が可能である(親和性の違いがわずかであっても)。しかしながら、選択された抗体(例えば、いくつかの親和性成熟手法で行なわれる)のランダム変異では多くの変異型が生じやすく、ほとんどが抗原に結合し、高親和性のものは少ない。抗原が限定的な場合では、稀に高親和性ファージが出る場合があり得る。すべて高親和性の変異型を保持するためには、ファージを過剰のビオチン化抗原とインキュベートするのがよいが、ビオチン化抗原は、抗原に対する目標モル親和性定数より低いモル濃度の濃度である。次いで、高親和性結合ファージがストレプトアビジンコート常磁性ビーズによって捕捉され得る。かかる「平衡捕捉」により抗体をその結合の親和性に従って、親和性が低い大過剰のファージから2倍という少しだけ高い親和性の変異型クローンの単離を可能にする感度で選択することが可能である。また、固相に結合しているファージの洗浄に使用される条件も、解離速度論に基づいて識別されるように操作され得る。
【0099】
抗抗原クローンは活性に基づいて選択され得る。一部の特定の実施態様では、本発明は、抗原を天然に発現する生細胞に結合する抗抗原抗体、または遊離の浮遊抗原もしくは他の細胞構造体に結合している抗原に結合する抗抗原抗体を提供する。かかる抗抗原抗体に対応するFvクローンは、(1)上記のようにして抗抗原クローンをファージライブラリーから単離すること、および単離したファージクローン集団を、該集団を適当な細菌宿主内で増殖させることにより増幅してもよい;(2)抗原ならびにそれぞれブロック活性および非ブロック活性が所望される対象の第2のタンパク質を選択すること;(3)抗抗原ファージクローンを固定化した抗原に吸着させること;(4)過剰の該第2のタンパク質を使用し、該第2のタンパク質の結合決定基と重複しているか、または共有されている抗原結合決定基を認識する所望されないクローン(あれば)を溶出させること;ならびに(5)工程(4)の後、吸着されたままのクローンを溶出させることにより選択され得る。任意選択で、所望のブロック/非ブロック特性を有するクローンを、本明細書に記載の選択手順を1回以上繰り返すことによりさらに富化してもよい。
【0100】
目的のハイブリドーマ由来モノクローナル抗体またはファージディスプレイFvクローンをコードしているDNAは、慣用的な手順を用いて(例えば、目的の重鎖および軽鎖コード領域がハイブリドーマまたはファージDNA鋳型から特異的に増幅されるように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用することにより)容易に単離され、配列決定される。単離されたら、DNAは発現ベクター内に配置され得、発現ベクターは次いで、通常は免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞、例えば大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはミエローマ細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞内での所望のモノクローナル抗体の合成を得る。細菌内での抗体コードDNAの組換え発現に関する概説論文としては、Skerraら, Curr. Opinion in Immunol., 5: 256 (1993)およびPluckthun, Immunol. Revs,130: 151 (1992)が挙げられる。
【0101】
FvクローンをコードしているDNAを、重鎖および/または軽鎖の定常領域をコードしている既知のDNA配列(例えば、適切なDNA配列はKabatら, 上掲から得られ得る)と結合させ、完全長または一部の長さの重鎖および/または軽鎖をコードしているクローンを形成してもよい。任意のアイソタイプの定常領域がこの目的のために使用され得ること(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域)、ならびにかかる定常領域は任意のヒトまたは動物種から得られ得ることは認識されよう。ある動物(例えば、ヒト)種の可変ドメインDNAから誘導し、次いで、別の動物種の定常領域DNAと融合させて「ハイブリッド」完全長の重鎖および/または軽鎖コード配列(一又は複数)を形成したFvクローンは、本明細書で用いる「キメラ」および「ハイブリッド」抗体の定義に包含される。一部の特定の実施態様では、ヒト可変DNAから誘導したFvクローンをヒト定常領域DNAと融合させて、完全長または一部の長さのヒト重鎖および/または軽鎖のためのコード配列(一又は複数)を形成する。
【0102】
また、ハイブリドーマから誘導した抗抗原抗体をコードしているDNAを、例えば、ハイブリドーマクローンから誘導した相同なマウス配列の代わりにヒト重鎖および軽鎖の定常ドメインのコード配列で置き換えることにより修飾してもよい(例えば、Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 (1984)の方法の場合のように)。ハイブリドーマ由来またはFvクローン由来の抗体または断片をコードしているDNAを、免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部または一部を共有結合させることによりさらに修飾してもよい。このようにして、目的のFvクローンまたはハイブリドーマクローン由来の抗体の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」抗体が調製される。
【0103】
(iv)ヒト化およびヒト抗体
非ヒト抗体をヒト化するための種々の方法が当該技術分野で知られている。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から該抗体に導入された1つ以上のアミノ酸残基を有するものである。このような非ヒトアミノ酸残基はしばしば「インポート」残基と称され、これは典型的には「インポート」可変ドメインから取り出される。ヒト化は本質的に、Winterおよび共同研究者(Jonesら, Nature, 321:522-525 (1986); Riechmannら, Nature, 332:323-327 (1988); Verhoeyenら, Science, 239:1534-1536 (1988))の方法に従い、齧歯類CDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列で置き換えることにより行なわれ得る。したがって、かかる「ヒト化」抗体は、インタクトのものより実質的に少ないヒト可変ドメインが非ヒト種の対応する配列で置き換えられたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、一部のCDR残基および場合によっては一部のFR残基が齧歯類抗体の同様の部位に由来する残基で置き換えられているヒト抗体である。
【0104】
ヒト化抗体の作製に使用するためのヒト可変ドメイン(軽鎖および重鎖ともに)の選択は、抗原性を低減させるために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列が既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングされる。次いで、齧歯類のものに最も近いヒト配列がヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れられる(Simsら, J. Immunol., 151:2296 (1993); Chothiaら, J. Mol. Biol., 196:901 (1987))。別の方法では、特定のサブグループの軽鎖または重鎖のすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークが使用される。同じフレームワークがいくつかの異なるヒト化抗体に使用され得る(Carterら, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 89: 4285 (1992); Prestaら, J. Immunol., 151:2623 (1993))。
【0105】
抗体を、抗原に対する高い親和性および他の有利な生物学的特性を保持したままヒト化することはさらに重要である。この目的を果たすため、該方法の一実施態様によれば、ヒト化抗体は、親配列およびヒト化配列の3次元モデルを使用する親配列および種々の概念的ヒト化産物の解析方法によって調製される。免疫グロブリンの3次元モデルは一般的に入手可能であり、当業者は熟知している。選択した候補免疫グロブリン配列の予想される3次元コンホメーション構造を図示および表示するコンピュータプログラムも入手可能である。このような表示物を検討することにより、候補免疫グロブリン配列の機能発揮における諸残基のありそうな役割の解析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の解析が可能である。このようにして、FR残基がレシピエント配列およびインポート配列から、所望の抗体特性、例えば標的抗原(一又は複数)に対する増大した親和性が得られるように選択され、結合され得る。一般に、超可変領域の残基が抗原結合への影響に直接および最も実質的に関与する。
【0106】
目的のヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択したFvクローン可変ドメイン配列(一又は複数)を既知のヒト定常ドメイン配列(一又は複数)と上記のようにして結合することにより構築され得る。あるいはまた、目的のヒトモノクローナル抗体はハイブリドーマ法によっても作製され得る。ヒトモノクローナル抗体の作製のためのヒトミエローマ細胞株およびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeurら, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoernerら, J. Immunol., 147: 86 (1991)に報告されている。
【0107】
免疫処置すると内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全レパートリーを生成し得るトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することが可能である。例えば、キメラ生殖細胞系列変異型マウスの抗体重鎖連結領域(J
H)遺伝子のホモ接合型欠失により、内因性抗体産生の完全阻害がもたらされることが報告されている。ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン遺伝子アレイをかかる生殖細胞系列変異型マウスに導入すると、抗原刺激によりヒト抗体の生成がもたらされる。例えば、Jakobovitsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovitsら, Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermannら, Year in Immuno., 7:33 (1993);およびDuchosalら Nature 355:258 (1992)を参照のこと。
【0108】
また、遺伝子シャッフリングを用いて非ヒト、例えば齧歯類の抗体からヒト抗体を誘導することもでき、このとき、このヒト抗体は非ヒトの出発抗体と類似した親和性および特異性を有するものである。この方法(これは「エピトープインプリンティング」とも称される)によれば、本明細書に記載のファージディスプレイ手法によって得られた非ヒト抗体断片の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかがヒトVドメイン遺伝子のレパートリーと置き換えられ、非ヒト鎖/ヒト鎖のscFvまたはFabキメラ集団が作出される。抗原を用いた選択により非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvまたはFabの単離がもたらされ、ここで、ヒト鎖は一次ファージディスプレイクローンの対応する非ヒト鎖の除去時に破壊された抗原結合部位が回復している、すなわち、エピトープによりヒト鎖パートナーの選択が支配(インプリンティング)される。残りの非ヒト鎖の置き換えのためにこのプロセスを繰り返すと、ヒト抗体が得られる(国際公開第93/06213号(1993年4月1日公開)を参照のこと)。CDRグラフティングによる非ヒト抗体の従来のヒト化とは異なり、この手法では、非ヒト起源のFRまたはCDR残基を有しない完全なヒト抗体が得られる。
【0109】
(v)抗体断片
抗体断片は、従来からの手段、例えば酵素による消化または組換え手法によって作製され得る。一部の特定の状況では、完全な抗体ではなく抗体断片を使用する利点がある。断片のサイズが小さいほど速やかな排出が可能になり、充実性腫瘍への到達の改善がもたらされ得る。特定の抗体断片の概説については、Hudsonら (2003) Nat. Med. 9:129-134を参照のこと。
【0110】
抗体断片を作製するための種々の手法が開発されている。従来、このような断片はインタクトな抗体のタンパク質分解的消化によって得ていた(例えば、Morimotoら, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992);およびBrennanら, Science, 229:81(1985)を参照のこと)。しかしながら、このような断片は、現在、組換え宿主細胞によって直接作製することができる。Fab、FvおよびScFv抗体断片はすべて、大腸菌において発現および分泌させることができ、したがって、これらの断片を大量に容易に作製することが可能である。抗体断片を、上記に論考した抗体ファージライブラリーから単離してもよい。あるいはまた、Fab’−SH断片を大腸菌から直接回収し、化学的にカップリングさせてF(ab’)
2断片を形成してもよい(Carterら, Bio/Technology 10:163-167 (1992))。別のアプローチによれば、F(ab’)
2断片は、組換え宿主細胞培養物から直接単離され得る。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含むインビボ半減期が長くなったFabおよびF(ab’)
2断片が米国特許第5869046号に記載されている。抗体断片の作製のための他の手法は当業者に自明であろう。一部の特定の実施態様では、抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号;米国特許第5571894号;および同第5587458号を参照のこと。FvおよびscFvはインタクトな結合部位を有する唯一の種であるが定常領域はない;したがって、これらはインビボ使用の際の非特異的結合の低減に適したものであり得る。scFv融合タンパク質は、scFvのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかでエフェクタータンパク質の融合体を得るために構築され得る。Antibody Engineering, Borrebaeck編, 上掲を参照のこと。また、例えば抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載のような「線状抗体」であってもよい。かかる線状抗体は単一特異性であっても二重特異性であってもよい。
【0111】
(vi)多重特異性抗体
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有するものであり、この場合、該エピトープは通常、異なる抗原のものである。かかる分子は通常、2つの異なるエピトープのみに結合するもの(すなわち、二重特異性抗体,BsAb)であるが、さらなる特異性を有する抗体、例えば三重特異性抗体も、本明細書で用いている場合のこの表現に包含される。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab’)
2二重特異性抗体)として調製され得る。
【0112】
二重特異性抗体の作製方法は当該技術分野で知られている。従来の完全長二重特異性抗体の作製は2つの免疫グロブリンの重鎖−軽鎖ペアの共発現に基づいており、この場合、2つの鎖は異なる特異性を有するものである(Millsteinら, Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖のランダムな組合せのため、このようなハイブリドーマ(クアドローマ)では、10種類の異なる抗体分子の考えられ得る混合物が生じ、これらのうち、1種類だけが正しい二重特異性構造を有するものである。正しい分子の精製は、通常アフィニティークロマトグラフィー工程によって行なわれるが、どちらかというと面倒であり、生成物収率は低い。同様の手順が国際公開第93/08829号およびTrauneckerら, EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0113】
異なるアプローチによれば、所望の結合特異性(抗体−抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリンの定常ドメイン配列と融合させる。この融合体は好ましくは、免疫グロブリン重鎖の定常ドメインを有し、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域の少なくとも一部分を含むものである。典型的には、融合体の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む第1重鎖の定常領域(CH1)を有する。免疫グロブリン重鎖融合体および所望される場合は免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを別々の発現ベクター内に挿入し、適当な宿主生物体にコトランスフェクトする。これにより、構築物に等しくない比の3つのポリペプチド鎖を使用して最適な収率を得る実施態様において、3つのポリペプチド断片の相互の割合の調整において大きな柔軟性がもたらされる。しかしながら、等しい比の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現により高い収率がもたらされる場合、または比率が特に重要でない場合、3つのポリペプチド鎖のうち2つまたは全部のコード配列を1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0114】
このアプローチの一実施態様では、二重特異性抗体は、一方のアームに第1の結合特異性、および他方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖ペア(第2の結合特異性をもたらす)を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖で構成されたものである。この非対称な構造により、二重特異性分子の片方だけに免疫グロブリン軽鎖が存在することにより容易な分離様式がもたらされるため、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組合せから分離することが容易になることがわかった。このアプローチは国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体の作製のさらなる詳細については、例えば、Sureshら, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照のこと。
【0115】
国際公開第96/27011号に記載の別のアプローチによれば、一対の抗体分子間の界面が、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージが最大限になるように操作され得る。界面の一例は、抗体定常ドメインのC
H3ドメインの少なくとも一部分を含むものである。この方法では、第1の抗体分子の界面の1つ以上の小型のアミノ酸側鎖が大型側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)と置き換えられる。大型のアミノ酸側鎖と小型のもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)との置き換えにより、この大型側鎖(一又は複数)と同一または類似のサイズの代償的「空洞」が第2の抗体分子の界面上に作出される。これにより、ホモ二量体などの他の不要な最終生成物よりもヘテロ二量体の収率を増大させるための機構がもたらされる。
【0116】
二重特異性抗体としては、架橋型または「ヘテロコンジュゲート」抗体が挙げられる。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体はアビジンに、他方はビオチンにカップリングされ得る。かかる抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に標的化させること(米国特許第4676980号)ならびにHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号および欧州特許第03089号)が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の簡便な架橋方法を用いて作製され得る。好適な架橋剤は当該技術分野でよく知られており、米国特許第4676980号にいくつかの架橋手法とともに開示されている。
【0117】
また、抗体断片から二重特異性抗体を作製するための手法も文献も報告されている。例えば、二重特異性抗体は化学的連結を用いて調製され得る。Brennanら, Science, 229: 81 (1985)には、インタクトな抗体をタンパク質分解的に切断してF(ab’)
2断片を生成させる手順が記載されている。この断片をジチオール錯化剤の亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元し、ビシナールジチオールを安定化させて分子間ジスルフィドの形成を抑制する。次いで、生成したFab’断片をチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換させる。次いで、一方のFab’−TNB誘導体を、メルカプトエチルアミンでの還元によってFab’−チオールに再変換させ、等モル量の他方のFab’−TNB誘導体と混合すると二重特異性抗体が形成される。作製された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化ための薬剤として使用され得る。
【0118】
最近の進歩によってFab’−SH断片を大腸菌から直接回収することが容易になってきており、これを化学的にカップリングさせて二重特異性抗体を形成することができる。Shalabyら, J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)には、完全ヒト化二重特異性抗体F(ab’)
2分子の作製が記載されている。各Fab’断片を大腸菌から別々に分泌させ、指向型インビトロ化学的カップリングに供し、二重特異性抗体を形成した。
【0119】
また、二重特異性抗体断片を組換え細胞培養物から直接作製して単離するための種々の手法も報告されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて作製されている。Kostelnyら, J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。FosおよびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを2つの異なる抗体のFab’部分に遺伝子融合によって連結させた。この抗体ホモ二量体のヒンジ領域を還元してモノマーを形成し、次いで再度酸化して抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法は抗体ホモ二量体の作製にも使用され得る。Hollingerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)に報告された「ダイアボディ」技術により二重特異性抗体断片を作製するための択一的機構がもたらされている。この断片は、重鎖可変ドメイン(V
H)が軽鎖可変ドメイン(V
L)に、同じ鎖上での両ドメイン間の対合形成を可能にするには短すぎるリンカーによって接続されて構成されている。したがって、一方の断片のV
HおよびV
Lドメインを別の断片の相補的なV
LおよびV
Hドメインと対合形成させ、それにより2つの抗原結合部位を形成している。また、単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって二重特異性抗体断片を作製するための別のストラテジーも報告されている。Gruberら, J. Immunol, 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0120】
2つより多くの結合価を有する抗体も想定される。例えば、三重特異性抗体を調製してもよい。Tuftら. J. Immunol. 147: 60(1991)。
【0121】
(vii)単一ドメイン抗体
一部の実施態様では、目的の抗体は単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部分または軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部分を含む単一のポリペプチド鎖である。一部の特定の実施態様では、単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,Mass.;例えば、米国特許第6248516B1号を参照のこと)。一実施態様では、単一ドメイン抗体は抗体の重鎖可変ドメインの全部または一部分からなるものである。
【0122】
(viii)抗体バリアント
一部の実施態様では、本明細書に記載の抗体のアミノ酸配列の修飾(一又は複数)が想定される。例えば、該抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合があり得る。該抗体のアミノ酸配列バリアントは、該抗体をコードしているヌクレオチド配列に適切な変更を導入することにより、またはペプチド合成によって調製され得る。かかる修飾としては、例えば、該抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失および/または挿入および/または置換が挙げられる。最終の構築物を得るために欠失、挿入および置換の任意の組合せが行なわれ得るが、最終の構築物は所望の特性を有するものであるものとする。対象の抗体アミノ酸配列を作製する時点で該配列にアミノ酸の改変が導入され得る。
【0123】
(B)ベクター、宿主細胞および組換え法
本明細書において提供する細胞培養培地中で培養された細胞によって産生される抗体は、組換え法を使用しても作製され得る。抗抗原抗体の組換え作製では、抗体をコードしている核酸を単離し、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のための複製可能なベクター内に挿入する。抗体をコードしているDNAは慣用的な手順容易に単離され、配列決定され得る(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分としては一般的に、限定されないが、以下のもの:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーターおよび転写終結配列のうちの1種類以上が挙げられる。
【0124】
(i)シグナル配列成分
抗体は、直接的にだけでなく、非相同ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても組換え作製され得、非相同ポリペプチドは好ましくは、成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有するシグナル配列または他のポリペプチドである。選択される非相同シグナル配列は好ましくは、宿主細胞によって認識されてプロセッシングされる(例えば、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然抗体シグナル配列を認識してプロセッシングしない原核生物宿主細胞では、このシグナル配列を、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lpp、または熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物のシグナル配列で置き換える。酵母による分泌のためには、天然シグナル配列が、例えば酵母インベルターゼリーダー、因子リーダー(例えば、サッカロミセス属およびクリベロミセス属のα−因子リーダー)、もしくは酸性ホスファターゼリーダー、C.albicansグルコアミラーゼリーダー、または国際公開第90/13646号に記載のシグナルで置き換えられ得る。哺乳動物細胞での発現では、哺乳動物シグナル配列ならびにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。
【0125】
(ii)複製起点
発現ベクターおよびクローニングベクターはともに、該ベクターが1つ以上の選択された宿主細胞内で複製することを可能にする核酸配列が含まれている。一般的に、クローニングベクターでは、この配列は、該ベクターが宿主の染色体DNAと独立して複製することを可能にするものであり、複製起点または自律複製配列が挙げられる。かかる配列は、さまざまな細菌、酵母およびウイルスでよく知られている。プラスミドpBR322の複製起点はほとんどのグラム陰性菌に適しており、プラスミドの起点である2μは酵母に適しており、種々のウイルスの起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般的に、複製起点成分は哺乳動物発現ベクターには必要でない(SV40起点は、典型的には初期プロモーターが含まれているという理由だけで使用されることがあり得る。
【0126】
(iii)選択遺伝子成分
発現ベクターおよびクローニングベクターには、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子が含められ得る。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサートもしくはテトラサイクリンに対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠陥を補う、または(c)複雑な培地から利用可能でない不可欠な栄養を供給するタンパク質をコードしているもの、例えば、バチルス属のD−アラニンラセマーゼをコードしている遺伝子である。
【0127】
選択スキームの一例では、宿主細胞の増殖を停止させる薬物が使用される。非相同遺伝子で成功裡に形質転換された細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、したがって選択レジメンにおいて残存する。かかる優性選択の例は、薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸およびハイグロマイシンの使用である。
【0128】
哺乳動物細胞のための適当な選択可能マーカーの別の例は、抗体コード核酸の取込みにコンピテントな細胞の同定を可能にするもの、例えば、DHFR、グルタミンシンテターゼ(GS)、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、好ましくは霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどである。
【0129】
例えば、DHFR遺伝子で形質転換された細胞は、形質転換体を、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキサート(Mtx)を含む培養培地中で培養することにより同定される。このような条件下では、DHFR遺伝子は、任意の他の共形質転換核酸とともに増幅される。内因性DHFR活性が欠損しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株(例えば、ATCC CRL−9096)が使用され得る。
【0130】
あるいはまた、GS遺伝子で形質転換された細胞は、形質転換体を、GSの阻害剤であるL−メチオニンスルホキシミン(Msx)を含む培養培地中で培養することにより同定される。このような条件下では、GS遺伝子は、任意の他の共形質転換核酸とともに増幅される。GS選択/増幅系は、上記のDHFR選択/増幅系と併用して使用され得る。
【0131】
あるいはまた、目的の抗体をコードしているDNA配列、野生型DHFR遺伝子、および別の選択可能マーカー、例えば、アミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH)で形質転換または共形質転換された宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、選択可能マーカーである選択薬剤、例えば、アミノグリコシド抗生物質、例えばカナマイシン、ネオマイシンまたはG418を含む培地中での細胞培養によって選択され得る。米国特許第4965199号を参照のこと。
【0132】
酵母における使用のための適当な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcombら, Nature, 282:39 (1979))。trp1遺伝子は、トリプトファン中での増殖能が欠損している変異型株の酵母、例えばATCC番号44076またはPEP4−1の選択マーカーとなる。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。次いで、酵母宿主細胞ゲノムにおけるtrp1病変の存在により、トリプトファンの非存在下での培養による形質転換の検出のための有効な環境がもたらされる。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって想定される。
【0133】
また、1.6μm環状プラスミドpKD1から誘導されたベクターは、クリベロミセス属酵母の形質転換に使用され得る。あるいはまた、組換えウシキモシンの大規模生産のための発現系がK. lactis. Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)に報告された。また、工業株のクリベロミセス属による成熟組換えヒト血清アルブミンの分泌のための安定な多コピー数発現ベクターも開示されている。Fleerら, Bio/Technology, 9:968-975 (1991)。
【0134】
(iv)プロモーター成分
発現ベクターおよびクローニングベクターには、一般的に、宿主生物体によって認識され、抗体コード核酸に作動可能に連結されたプロモーターが含められる。原核生物宿主での使用に適したプロモーターとしては、phoAプロモーター、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼプロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター系、およびハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターが挙げられる。しかしながら、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系における使用のためのプロモーターはまた、抗体コードDNAに作動可能に連結されたシャイン−ダルガノ(S.D.)配列も含む。
【0135】
真核生物のプロモーター配列も知られている。事実上すべての真核生物遺伝子は、転写が開始される部位からおよそ25から30塩基上流に存在するATリッチ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始部から70から80塩基上流にみられる別の配列はCNCAAT領域であり、ここで、Nは任意のヌクレオチドであり得る。ほとんどの真核生物遺伝子の3’末端にはAATAAA配列が存在し、これは、コード配列の3’末端へのポリAテールの付加シグナルとなり得る。このような配列はすべて真核生物発現ベクター内に好適に挿入される。
【0136】
酵母宿主での使用のための適当なプロモーター配列の例としては、3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼおよびグルコキナーゼのプロモーターが挙げられる。
【0137】
培養条件によって転写が制御されるというさらなる利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素の代謝と関連している分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ならびにマルトースおよびガラクトースの利用を担う酵素のプロモーター領域である。酵母発現における使用のための好適なベクターおよびプロモーターは欧州特許第73657号にさらに記載されている。また、酵母エンハンサーも酵母プロモーターとともに好都合に使用される。
【0138】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの抗体転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシポリオーマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるプロモーター、または非相同哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター、ヒートショックプロモーターから得られるプロモーターによって制御され得るが、かかるプロモーターは宿主細胞系と適合性であるものとする。
【0139】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターはHindIII E制限断片として簡便に得られる。ウシポリオーマウイルスをベクターとして使用し、哺乳動物宿主においてDNAを発現させるための系は米国特許第4419446号に開示されている。この系の改良は米国特許第4601978号に記載されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ−インターフェロンcDNAの発現に関するReyesら, Nature 297:598-601 (1982)も参照のこと。あるいはまた、ラウス肉腫ウイルスの長末端反復配列がプロモーターとして使用され得る。
【0140】
(v)エンハンサーエレメント成分
本発明の抗体をコードしているDNAの高等真核生物による転写はしばしば、エンハンサー配列をベクターに挿入することにより増大される。現在、哺乳動物遺伝子多くのエンハンサー配列が知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトタンパク質およびインスリン)。しかしながら、典型的には、真核生物細胞ウイルスのエンハンサーが使用される。例としては、複製起点の後期側(bp100−270)のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。また、真核生物プロモーターの活性化のためのエンハンサーエレメントに関するYaniv, Nature 297:17-18 (1982)も参照のこと。エンハンサーは、ベクター内に抗体コード配列の5’側の位置にスプライシングしても3’側の位置にスプライシングしてもよいが、好ましくはプロモーターの5’側の部位に存在させる。
【0141】
(vi)転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは他の多細胞生物体の有核細胞)において使用される発現ベクターにはまた、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列が含められる。かかる配列は一般的に、真核生物またはウイルスのDNAまたはcDNAの5’およびたまに3’非翻訳領域から入手可能である。このような領域は、抗体コードmRNAの非翻訳部分内のポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。有用な転写終結成分の一例はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号および本明細書に開示した発現ベクターを参照のこと。
【0142】
(vii)宿主細胞の選択および形質転換
本明細書におけるベクターでのDNAのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、上記の原核生物、酵母または高等真核生物細胞である。この目的に好適な原核生物としては、ユーバクテリウム属、例えば、グラム陰性菌またはグラム陽性菌、例えば腸内細菌科、例えばエシェリキア属、例えば大腸菌、エンテロバクター属、エルウィニア属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、例えば、Salmonella typhimurium、セラシア属、例えば、Serratia marcescans、および赤痢菌、ならびにバチルス属、例えば、B.subtilisおよびB.licheniformis(例えば、DD266,710(1989年4月12日公開)に開示されたB.licheniformis 41P)、シュードモナス属、例えば、P.aeruginosaおよびストレプトマイセス属が挙げられる。好ましいクローニング用大腸菌宿主は大腸菌294(ATCC31,446)であるが、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31,537)および大腸菌W3110(ATCC27,325)などの他の菌株も好適である。これらの例は限定的ではなく例示的である。
【0143】
完全長抗体、抗体融合タンパク質および抗体断片は、特に、グリコシル化およびFcエフェクター機能が必要でない場合、例えば、単独で腫瘍細胞の破壊に有効性を示す治療用抗体を細胞傷害剤(例えば、毒素)にコンジュゲートさせる場合、細菌において作製され得る。完全長抗体の方が循環半減期が大きい。大腸菌における作製の方が速くてコスト効率が高い。細菌における抗体断片およびポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5648237号(Carterら)、米国特許第5789199号(Jolyら)、米国特許第5840523号(Simmonsら)を参照のこと。これらには、発現および分泌を最適化するための翻訳開始領域(TIR)およびシグナル配列が記載されている。また、Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B. K. C. Lo編, Humana Press, Totowa, N.J., 2003),pp.245-254(大腸菌における抗体断片の発現について記載)も参照のこと。発現後、抗体は、可溶性画分の大腸菌細胞ペーストから単離され得、例えば、アイソタイプに応じてタンパク質AまたはGカラムによって精製され得る。最終精製は、例えばCHO細胞において発現させた抗体の精製方法と同様にして行なわれ得る。
【0144】
原核生物に加え、真核生物微生物、例えば糸状真菌または酵母は、抗体コードベクターのための適当なクローニングまたは発現用の宿主である。Saccharomyces cerevisiaeまたは一般的なパン酵母が、下等真核生物宿主微生物の中でも最も一般的に使用されている。しかしながら、いくつかの他の属、種および系統も一般的に利用可能であり、本明細書において有用である(例えば、Schizosaccharomyces pombe;クリベロミセス属宿主、例えば、K.lactis、K.fragilis(ATCC12,424)、K.bulgaricus(ATCC16,045)、K.wickeramii(ATCC24,178)、K.waltii(ATCC56,500)、K.drosophilarum(ATCC36,906)、K.thermotoleransおよびK.marxianusなど;ヤロウィア(欧州特許第402226号);Pichia pastoris(欧州特許第183070号);カンジダ属;Trichoderma reesia(欧州特許第244234号);Neurospora crassa;シワニオマイミセス属、例えば、Schwanniomyces occidentalis;ならびに糸状真菌;例えば、ニューロスポラ属、ペニシリウム属、トリポクラジウム属、ならびにアスペルギルス属宿主、例えば、A.nidulansおよびA.nigerなど。酵母および糸状真菌の使用を論考している概説について;治療用タンパク質の作製については、例えば、Gerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)を参照のこと。
【0145】
グリコシル化経路が「ヒト化」され、一部または完全ヒトグリコシル化パターンを有する抗体の生成をもたらす一部の特定の真菌株および酵母株が選択され得る。例えば、Liら, Nat. Biotech. 24:210-215 (2006)(Pichia pastorisにおけるグリコシル化経路のヒト化について記載);およびGerngrossら, 上掲を参照のこと。
【0146】
また、グリコシル化抗体の発現のために好適な宿主細胞は多細胞生物体(無脊椎動物および脊椎動物)に由来するものである。無脊椎動物細胞の例としては植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。数多くのバキュロウイルス株およびバリアントならびにSpodoptera frugiperda(イモムシ)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ミバエ)およびBombyx moriなどの宿主に由来する対応する許容される昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのためのさまざまなウイルス株、例えば、Autographa californica NPVのL−1バリアントおよびBombyx mori NPVのBm−5株が公衆に利用可能であり、かかるウイルスは、本明細書における本発明によるウイルスとして、特に、Spodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために使用され得る。
【0147】
また、綿花、トウモロコシ、イモ、ダイズ、ペチュニア、トマト、ウキクサ(Leninaceae)、アルファルファ(M.truncatula)およびタバコの植物細胞培養物も宿主として使用することができる。例えば、米国特許第5959177号、同第6040498号、同第6420548号、同第7125978号、および同第6417429号(トランスジェニック植物において抗体を作製するためのPLANTIBODIES(商標)技術について記載)を参照のこと。
【0148】
脊椎動物細胞は宿主として使用され得、脊椎動物培養細胞(組織培養物)の増殖は常套手順になっている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1株(COS−7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(浮遊培養での培養のためにサブクローニングした293または293細胞,Grahamら, J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4,Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76,ATCC CRL−1587);ヒト頚癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK,ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら, Annals N.Y.Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝臓癌系統(Hep G2)である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えば、DHFR
−CHO細胞(Urlaubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));ならびにミエローマ細胞株、例えばNS0およびSp2/0が挙げられる。抗体作製に適した特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、YazakiおよびWu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B. K. C. Lo編, Humana Press, Totowa, N.J., 2003), pp. 255-268を参照のこと。
【0149】
宿主細胞は、抗体作製のための上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、適宜、プロモーターの導入、形質転換体の選択または所望の配列をコードしている遺伝子の増幅のために改良される本明細書において提供する細胞培養培地中で培養される。
【0150】
細胞培養およびポリペプチド産生
一般的に細胞は、本明細書に記載の任意の細胞培養培地と、細胞の増殖、維持および/またはポリペプチド産生のいずれかを促進させる1つ以上の条件下で合わせる(接触させる)。細胞培養方法およびポリペプチド作製方法では、細胞および細胞培養培地が収容された培養槽(バイオリアクター)が使用される。培養槽は、細胞の培養に適した任意の材質、例えばガラス、プラスチックまたは金属で構成されたものであり得る。典型的には、培養槽は少なくとも1リットル容であり、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000リットル容またはそれ以上であり得る。培養条件、例えば温度、pHなどは、発現のために選択した宿主細胞で先に使用したものであり、当業者に自明であろう。培養プロセス中に調整され得る培養条件としては、限定されないがpHおよび温度が挙げられる。
【0151】
細胞培養物は一般的に、細胞培養物の生存、増殖および生存度(維持)が助長される条件下で初期増殖期に維持される。厳密な条件は、細胞型、細胞を得た生物体ならびに発現させるポリペプチドの性質および特性に応じてさまざまである。
【0152】
初期増殖期の細胞培養物の温度は主に、細胞培養物が生存可能のままである温度範囲に基づいて選択される。例えば、初期増殖期の間、CHO細胞は37℃で良好に増殖する。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は約25℃から42℃の範囲内で良好に増殖する。好ましくは、哺乳動物細胞は約35℃から40℃の範囲内で良好に増殖する。当業者は、細胞のニーズおよび産生要件に応じて、細胞を増殖させるのに適切な温度(一又は複数)を選択することができよう。
【0153】
本発明の一実施態様では、初期増殖期の温度は単一の一定温度に維持される。別の実施態様では、初期増殖期の温度は、ある温度範囲内に維持される。例えば、温度は初期増殖期の間、一様に上昇または下降され得る。あるいはまた、温度は初期増殖期の間、種々の時点で相違する量で上昇または下降され得る。当業者は、単一の温度を使用すべきか多数の温度を使用すべきか、および温度は一様に調整すべきか相違する量で調整すべきかを決定することができよう。
【0154】
細胞は初期増殖期の間、大量時間で培養してもよく、少量時間で培養してもよい。多様な形態の一例では、細胞は、静かに培養した場合に該細胞が最終的に達するであろう最大生存可能細胞密度の所与のパーセンテージである生存可能細胞密度が得られるのに充分な時間培養される。例えば、細胞は、最大生存可能細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントの所望の生存可能細胞密度が得られるのに充分な時間培養され得る。
【0155】
別の実施態様では、細胞は、規定された時間培養される。例えば、細胞培養物の開始濃度、細胞が培養される温度、および細胞の固有の増殖速度にもよるが、細胞は0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日間またはそれ以上の日数培養され得る。一部の場合では、細胞は1ヶ月以上培養され得る。
【0156】
細胞培養物は初期培養期の間、細胞への酸素供給および栄養の分散を増大させるためにアジテーションまたは振盪され得る。本発明に従い、当業者には、初期増殖期の間、バイオリアクターの特定の内部条件、例えば限定されないがpH、温度、酸素供給などを制御または調節することが有益であり得ることが理解されよう。例えば、pHは、適切な量の酸または塩基を供給することにより制御され得、酸素供給は、当該技術分野でよく知られたスパージングデバイスで制御され得る。
【0157】
初期培養工程は増殖期であり、このとき、バッチ細胞培養条件は組換え細胞の増殖が向上し、種菌株(train)が得られるように修正される。増殖期は一般的に、細胞が一般的に急速に分裂する、例えば増殖する対数増殖期間をいう。この期の間に、細胞を通常、限定されないが1日から4日の期間、例えば1、2、3または4日間、細胞増殖が最適となるような条件下で培養する。宿主細胞の増殖サイクルの決定は、当業者に知られた方法によって具体的な宿主細胞に対して行なわれ得る。
【0158】
増殖期では、本明細書において提供する培養基本培地と細胞がバッチ式の培養槽に供給され得る。培養培地は、一態様では含まれる血清および他の動物由来タンパク質が約5%未満または1%未満または0.1%未満である。しかしながら、所望される場合は血清および動物由来タンパク質が使用され得る。増殖中の特定の時点で、細胞は、産生期の培養開始時に培養培地に播種するための播種材料を構成し得る。あるいはまた、産生期が増殖期と連続的であってもよい。細胞の増殖期の後には一般的にポリペプチド産生期が続く。
【0159】
ポリペプチド産生期の間、細胞培養物は、細胞培養物の生存および生存度が助長され、所望のポリペプチドの発現に適切な第2の一組の培養条件(増殖期と対比して)下に維持され得る。例えば、後続の産生期の間、CHO細胞が組換えポリペプチドおよびタンパク質を25℃から38℃の範囲で良好に発現する。細胞密度もしくは生存度を増大させるため、または組換えポリペプチドもしくはタンパク質の発現を増大させるために多数の相違する温度シフトを使用してもよい。一態様において、本明細書において提供する培地により、ポリペプチド産生を増大させる方法において使用した場合、異なる培地でポリペプチドを産生させた場合に得られる夾雑物と比べて代謝による副生成物の存在が低減される。多様な形態の一例では、夾雑物が活性酸素種である。一態様では、本明細書において提供する培地により、ポリペプチドの産生を増大させる方法において使用した場合、異なる培地でポリペプチド産物を産生させた場合に得られる着色強度と比べてポリペプチド産物の着色強度が低減される。多様な形態の一例では、ポリペプチド産生を増大させる方法はポリペプチド産生期の間に温度シフト工程を含む。多様な形態のさらなる一例では、温度シフト工程は31℃から38℃まで、32℃から38℃まで、33℃から38℃まで、34℃から38℃まで、35℃から38℃まで、36℃から38℃まで、31℃から32℃まで、31℃から33℃まで、31℃から34℃まで、31℃から35℃まで、または31℃から36℃までの温度シフトを含む。
【0160】
細胞は後続の産生期に、所望の細胞密度または産生力価に達するまで維持され得る。一実施態様では、細胞は後続の産生期に、組換えポリペプチドに対する力価が最大に達するまで維持される。他の実施態様では、この時点の前に培養物が収集され得る。例えば、細胞は、最大生存可能細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントの生存可能細胞密度が得られるのに充分な時間維持され得る。一部の場合では、生存可能細胞密度を最大に到達させ、次いで、培養物を収集する前に生存可能細胞密度をあるレベルまで低下させることが望ましい場合があり得る。
【0161】
一部の特定の場合では、細胞培養物に後続の産生期の間、該細胞によって枯渇または代謝された栄養または他の培地成分を補給することが有益または必要であり得る。例えば、細胞培養物に、細胞培養物のモニタリング中に枯渇したことが観察された栄養または他の培地成分を補給することが好都合であり得る。択一的または付加的に、細胞培養物に、後続の産生期の前に補給することが有益または必要であり得る。非限定的な例として、細胞培養物にホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸)、バッファー、ビタミン類、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質またはグルコースもしくは他のエネルギー源を補給することが有益または必要であり得る。
【0162】
本明細書において提供する成分(例えば、ヒポタウリン その類似体または前駆体)は細胞培養培地に、細胞培養サイクル中の任意の時点で添加され得る。例えば、ヒポタウリンは、14日間の細胞培養サイクルの0から14日目の任意の1日以上(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日目の任意の1日以上)において、ヒポタウリンを本明細書において提供する濃度(例えば、少なくとも0.0001mM)で含む細胞培養培地が得られる任意の量で添加され得る。したがって、14日間の細胞培養サイクルの間、ヒポタウリンは0から14日目の任意の1日以上(例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14日目の任意の1日以上)において任意の量で添加され得ることは認識されよう。本明細書で用いる場合、「0日目」は、本明細書において提供する成分(例えば、ヒポタウリン)を補給したが細胞培養物に適用する前の細胞培養培地を示し得る。細胞培養サイクルは、細胞が生存可能である限り、および/または充分なレベルのポリペプチドが産生される限り任意の日数であり得る(当業者は決定することができよう)ことを理解されたい。例えば、細胞培養サイクルは少なくとも3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間または20日間の持続期間であり得る。一部の実施態様では、本明細書において提供する成分(例えば、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体)を細胞培養培地に細胞培養サイクルの少なくとも当日に添加する。
【0163】
ポリペプチドの精製
目的のポリペプチドは、好ましくは培養培地から分泌ポリペプチドとして回収されるが、分泌シグナルなしで直接発現させた場合は宿主細胞溶解物から回収してもよい。一態様において、産生されたポリペプチドは抗体、例えばモノクローナル抗体である。
【0164】
培養培地または溶解物は、粒状細胞残屑を除去するために遠心分離され得る。その後、ポリペプチドが、夾雑している可溶性のタンパク質およびポリペプチドから精製され得、以下の手順が適当な精製手順の例示である:イムノアフィニティカラムまたはイオン交換カラムでの分別;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカまたはカチオン交換樹脂(DEAEなど)でのクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばSephadex G−75を用いたゲル濾過;およびIgGなどの夾雑物を除去するためのタンパク質Aセファロースカラムによるもの。また、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)などのプロテアーゼ阻害剤も、精製中のタンパク質分解による分解を抑止するのに有用であり得る。当業者には、目的のポリペプチドに適した精製方法に、組換え細胞培養物中で発現されたときのポリペプチドの性質の変化を考慮した修正が必要な場合があり得ることが認識されよう。ポリペプチドは一般的に、クロマトグラフィーによる手法(例えば、タンパク質A、低pH溶出工程を伴うアフィニティークロマトグラフィーおよび工程不純物を除去するためのイオン交換クロマトグラフィー)を用いて精製され得る。抗体の場合、親和性リガンドとしてのタンパク質Aの好適性は、該抗体に存在する免疫グロブリンFcドメイン(あれば)の種およびアイソタイプに依存する。タンパク質Aは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づいた抗体を精製するために使用され得る(Lindmarkら, J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。タンパク質Gはすべてのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨される(Gussら, EMBO J. 5:15671575 (1986))。精製したタンパク質を濃縮し、本明細書に記載の濃縮タンパク質薬物製剤品、例えば、少なくとも1mg/mLもしくは10mg/mLもしくは50mg/mLもしくは75mg/mLもしくは100mg/mLもしくは125mg/mLもしくは150mg/mLのタンパク質濃度を有するもの、または約1mg/mLもしくは10mg/mLもしくは50mg/mLもしくは75mg/mLもしくは100mg/mLもしくは125mg/mLもしくは150mg/mLの濃度を有するものが得られ得る。濃縮ポリペプチド生成物は、濃縮条件下で許容可能なレベルまで、例えば、ポリペプチドが溶液中でもはや可溶性でない濃度まで濃縮され得ることを理解されたい。例えば、ポリペプチド精製プロセスは、細胞培養液をポリペプチド産生細胞から収集する工程、およびポリペプチドをタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製する工程(アニオン交換クロマトグラフィーおよびカチオン交換クロマトグラフィーによるさらなる精製を伴う)、ウイルス除去のための濾過工程ならびにポリペプチドの最終製剤化および濃縮のための最終の限外濾過およびダイアフィルトレーション工程を含むものであり得る。ポリペプチドの作製方法および薬物製剤のためのポリペプチドの精製方法の非限定的な例は、Kelley, B. MAbs., 2009, 1(5):443-452(これは、出典明示によりその全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0165】
ポリペプチドの着色の評価
本明細書に詳述している方法によって作製され、提供する組成物中に存在するポリペプチドは、タンパク質精製プロセスのいずれかの工程で着色について評価され得る。着色の評価方法は、細胞培養液を本明細書に詳述している培地中で培養された細胞から収集すること、ポリペプチドを細胞培養液から精製し、ポリペプチド含有組成物(例えば、溶液)を得ること、およびポリペプチド含有溶液を着色について評価することを伴うものであり得る。多様な形態の一例では、ポリペプチド含有組成物は、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーでの精製後の着色について評価される。多様な形態のさらなる一例では、ポリペプチド含有組成物は、イオン交換クロマトグラフィーによる精製後の着色について評価される。多様な形態の別の一例では、ポリペプチド含有組成物は、高速液体クロマトグラフィーによる精製後の着色について評価される。多様な形態のまた別の一例では、ポリペプチド含有組成物は、疎水性相互作用クロマトグラフィーによる精製後の着色について評価される。多様な形態のさらに別の一例では、ポリペプチド含有組成物は、サイズ排除クロマトグラフィーによる精製後の着色について評価される。多様な形態の一例では、ポリペプチド含有組成物は、濾過、例えば、精密濾過または限外濾過による精製後の着色について評価される。多様な形態の一例では、ポリペプチド含有組成物は、着色について評価する前に濃縮される(例えば、該組成物は少なくとも1mg/mL、10mg/mL、50mg/mL、75mg/mL、100mg/mL、125mg/mLまたは150mg/mLのポリペプチド、例えば抗体を含むものであり得る)。ポリペプチド含有組成物は、遠心分離、フィルターデバイス、半透膜、透析、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、または疎水性相互作用クロマトグラフィーによって濃縮され得る。多様な形態の一例では、該ポリペプチドは凍結乾燥によって濃縮され、着色の評価の前に再縣濁され得る。ポリペプチド含有組成物は、本明細書に詳述している手法の1つ以上での精製後の着色について評価され得る。ポリペプチド含有組成物が1回以上の凍結解凍サイクルを受けた後の該組成物の着色の評価が本明細書において想定される。ポリペプチドの精製または濃縮前の該ポリペプチドを含む細胞培養液の着色の評価方法が本明細書においてさらに想定される。
【0166】
本明細書に詳述している方法によって本明細書に記載の培地を用いて作製される(または提供する組成物中に存在する)ポリペプチドは着色について、1つ以上の視感色標準の使用によって評価され得る。ポリペプチド含有組成物の着色の評価方法としては、国際または国内色標準、例えば限定されないが、米薬局方の色標準およびヨーロッパ薬局方の色標準の使用が挙げられる。USP-24 Monograph 631 Color and Achromaticity. United States Pharmacopoeia Inc., 2000, p. 1926-1927およびCouncil of Europe. European Pharmacopoeia, 2008, 第7版 P.22(これらは出典明示によりその全体が本明細書に援用される)を参照のこと。例えば、Color,Opalescence and Coloration(COC)アッセイが、該ポリペプチドを含む溶液の着色を評価するために使用され得る。多様な形態の一例では、12mm外径の無色透明のニュートラルガラス製の同一のチューブが、該ポリペプチドを含む2.0mLの組成物を2.0mLの水または溶媒またはモノグラフで規定された参照溶液と比較するために使用される。着色は、拡散昼光において比較され、測色、測定または評価のための白色背景に対して水平に観察される。多様な形態の別の一例では、平台および15mmから25mmの内径を有する無色透明のニュートラルガラス製の同一のチューブが、ポリペプチド含有組成物を水または溶媒またはモノグラフで規定された参照溶液と比較するために使用される(層の深さは40mmである)。着色は拡散昼光において比較され、測色、測定または評価のための白色背景に対して垂直に観察される。多様な形態の一例では、測色、測定または評価は人間の目視検査によって行なわれる。多様な形態の別の一例では、測色、測定または評価は自動化プロセスを使用することによって行なわれ得る。例えば、チューブは、該チューブをイメージングする機械に負荷され得、画像は、着色を測色、測定または評価するためのアルゴリズムで処理される。COCアッセイの参照標準は、限定されないが、茶色(B)、茶色っぽい黄色(BY)、黄色(Y)、緑色っぽい黄色(GY)または赤色(R)のうちのいずれか1つであり得ることを理解されたい。茶色参照標準と比較されるポリペプチド含有組成物にはB1(最も暗い)、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9(最も明るい)の茶色の参照標準値が付与され得る。茶色っぽい黄色参照標準と比較されるポリペプチド含有組成物にはBY1(最も暗い)、BY2、BY3、BY4、BY5、BY6またはBY7(最も明るい)の茶色っぽい黄色の参照標準値が付与され得る。黄色参照標準と比較されるポリペプチド含有組成物にはY1(最も暗い)、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6またはY7(最も明るい)の黄色の参照標準値が付与され得る。緑色っぽい黄色参照標準と比較されるポリペプチド含有組成物にはGY1(最も暗い)、GY2、GY3、GY4、GY5、GY6またはGY7(最も明るい)の緑色っぽい黄色の参照標準値が付与され得る。赤色参照標準と比較されるポリペプチド含有組成物にはR1(最も暗い)、R2、R3、R4、R5、R6またはR7(最も明るい)の赤色参照標準値が付与され得る。一態様において、許容され得る着色は、本明細書において提供するスケールで最も暗いと測定されるもの以外(例えば、赤色参照標準値の場合ではR1以外)任意の色である。多様な形態の一例では、本明細書に詳述している培地中で培養された細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物の色は表3に記載の参照標準値を有するものである。本明細書に記載の場合、一態様では、本明細書における方法および組成物において使用され得る培地は、B3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、BY3、BY4、BY5、BY6、BY7、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、GY3、GY4、GY5、GY6、GY7、R3、R4、R5、R6およびR7からなる群より選択される参照標準色値を有するポリペプチド組成物(これは、多様な形態の一例では、少なくとも100mg/mLまたは125mg/mLまたは150mg/mlのポリペプチドを含む組成物である)をもたらすものであることを理解されたい。一態様において、本明細書における方法および組成物において使用され得る培地は、B4、B5、B6、B7、B8、BY4、BY5、BY6、Y4、Y5、Y6、GY4、GY5、GY6、GY7、R3、R4、R5およびR6のいずれか1つよりも大きい参照標準色値を有するポリペプチド組成物(これは、多様な形態の一例では、少なくとも100mg/mLまたは125mg/mLまたは150mg/mlのポリペプチドを含む組成物である)をもたらすものである。当業者には理解され得ようが、参照標準色値の説明は、本明細書に詳述している任意の培地、方法または組成物に適用可能であり、その説明はさらに修正されることがあり得る。
【0167】
一部の実施態様では、着色強度はTotal Colorアッセイを用いて測定される。例えば、Vijayasankaranら, Biotechol. Prog. 29:1270-1277, 2013(これは、出典明示により本明細書に援用される)を参照のこと。Total Colorアッセイでは、試料の相対な色の定量的値を色測定のCIE Systemを使用することによって得る(Bernsら, Billmeyer and Saltzman’s Principles of Color Technology, 第3版 New York, NY, John Wiley & Sons, Inc., (2000)に記載)。簡単には、水でのブランク測定後、そのままの試験試料吸収スペクトルを可視領域(380−780nm)において、HP8453A分光測光器(1cm光路長キュベット)を用いて測定する。次いで、吸収スペクトルをStandard Practice for Calculation of Color Tolerances and Color Differences from Instrumentally Measured Color Coordinates, Annual Book of ASTM Standards, Vol. 06.01, (2011)に既報のCIE L*a*b*カラースケールに変換させる。L*a*b*は、視覚的にほぼ一様な間隔の3次元の色空間である。L*a*b*色空間により、視覚的判断で色の違いを定量することができる。例えば、非常に異なる色を有すると視覚的に判断される2つの溶液は、L*a*b*色空間内で互いに近い同様の色を有する2つの溶液と比べた場合、L*a*b*色空間内でさらに離れる。3次元L*a*b*空間内では、点間距離を点間ユークリッド(ΔE)として計算する。これにより、L*a*b*色空間内の点間ΔEを測定し、この距離を色の違いの視覚的判断と相関させることが可能になり、大きなΔEは2つの溶液が非常に異なる色であることを表し、小さなΔEは2つの溶液が同様の色であることを表す。吸収スペクトルをL*a*b*色空間に変換するには、規定の光源が必要とされる。例えば、可視領域の人工平坦スペクトルが光源として使用され得る。一部の実施態様では、「Total Color」が3次元CIE L*a*b*色空間における試験試料と水のユークリッド距離に対応するΔEを表し得る。また、「Total Color」は、色相の違いの識別なしの試験モノクローナル抗体試料の全体的な色を表す場合があり得る。全色測定は、参照標準について測定された値に対して正規化され得る。例えば、続いて、着色強度値が、≦B5の示度のCOCを含む参照モノクローナル抗体試料に対する試験モノクローナル抗体試料の「Total Color」測定値の比を計算することにより求められる。
【0168】
また、着色強度は、NIFTY(Normalized Intrinsic Fluorescence Tool for Yellow/茶色タンパク質)アッセイを用いて測定することもできる。このアッセイでは、抗体分子の蛍光が色の代わりとして使用される。これは、タンパク質Aプールにおいて着色強度と蛍光強度が良好に相関していることが示されているためである(R2=0.84)。Vijayasankaranら, Biotechnol Prog 27:1270-1277 (2013)を参照のこと。NIFTYの数値が大きいほど着色強度が高いことを示し、NIFTYの数値が小さいほど着色強度が低いことを示す。約50から125μgのモノクローナル抗体試料をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により、G3000SWXL カラム(TOSOH)を用いて0.5mL/分の定組成流速で解析する。SECの移動相は0.2Mリン酸カリウム、0.25M塩化カリウム、pH6.2である。カラム温度は15℃に制御する。例えば、SEC溶離液は、280nmにおけるUV吸収について、ならびに350nmの励起波長および425nmの発光波長で蛍光についてモニタリングされ得る。これらの波長は強い相関性ならびにこれらの波長で観察される最大蛍光応答に基づいて選択される。モノクローナル抗体種のSECピークは、UV吸光度および蛍光放射クロマトグラムに関してAgilent Chemstationソフトウェアを用いて積分される。各モノクローナル抗体試料について、主要ピークの蛍光ピーク面積を主要ピークのUV吸光度ピーク面積で除算することにより正規化蛍光を求め、これにより、抗体質量の寄与による蛍光応答が補正される。続いて、参照モノクローナル抗体試料(例えば、≦B5の示度のCOCを含む試料)に対する試験モノクローナル抗体試料の正規化蛍光の比を計算することにより着色強度値を求める。NIFTYの試料要件は少ないため、培養容量が限定的である場合、これは色の代用物として有用である。
【0169】
NIFTY値は以下に示すようにして計算され得る。F=蛍光クロマトグラムにおけるピーク面積;U=UV吸収クロマトグラムにおけるピーク面積;i=変数;S=試料;R=参照。
【0170】
別の例では、本明細書に記載の培地を用いて本明細書に詳述している方法によって作製される(または提供する組成物中に存在する)ポリペプチドは、定量アッセイにより着色について評価され得る。一部の実施態様では、定量アッセイは自動化プロセスを用いて行なわれ得る。一部の実施態様では、定量アッセイで得られる値が高いほど(例えば、数値が大きいほど)着色強度が強いことを示し、値が低いほど(例えば、数値が小さい)着色強度が低いことを示す。
【0171】
本明細書に詳述している色アッセイは、任意の溶液(例えば、ポリペプチド含有溶液)、例えば限定されないが、本明細書において提供するポリペプチド組成物の色の評価において有用性がみられ得る。
【0172】
IV.組成物および薬学的製剤
また、細胞培養培地および1種類以上の他の成分、例えば細胞または所望のポリペプチド(例えば、抗体)を含む組成物も提供する。目的のポリペプチド(例えば、抗体)をコードしている核酸を含む細胞は、該ポリペプチドを本発明の細胞培養培地中に細胞培養中に分泌し得る。したがって、本発明の組成物は、該ポリペプチドを産生する細胞および該ポリペプチドが分泌される本明細書において提供する細胞培養培地を含むものであり得る。また、産生されたポリペプチドおよび本明細書において提供する細胞培養培地を含む組成物も想定される。本発明の一部の態様において、組成物は(a)ポリペプチドをコードしている核酸を含む細胞;および(b)本明細書において提供する細胞培養培地を含むものである。一部の態様では、組成物は(a)ポリペプチド;および(b)本明細書において提供される細胞培養培地を含むものであり、該ポリペプチドが該培地中に、該ポリペプチドをコードしている単離核酸を含む細胞によって分泌される。他の態様では、組成物は:(a)ポリペプチド;および(b)本明細書において提供される細胞培養培地を含むものであり、該ポリペプチドは培地中に、該ポリペプチドをコードしている単離核酸を含む細胞の溶解によって放出される。組成物中の細胞は、本明細書に詳述している任意の細胞(例えば、CHO細胞)であり得、組成物中の培地は、本明細書に詳述している任意の培地、例えば、表1もしくは表2に詳述している1種類以上の化合物を含む培地であり得る。同様に、組成物中のポリペプチドは、本明細書に詳述している任意のポリペプチド、例えば抗体であり得る。一部の態様において、組成物は色を有するものであってもよい。一部の実施態様では、色は、1つ以上の視感色標準の使用によって測定(「determine」、「measure」)または評価される。視感色標準は国際または国内色標準、例えば限定されないが、米薬局方の色標準およびヨーロッパ薬局方の色標準であり得る。USP-24 Monograph 631 Color and Achromaticity. United States Pharmacopoeia Inc., 2000, p. 1926-1927およびCouncil of Europe. European Pharmacopoeia, 2008, 第7版P.22を参照のこと。したがって、一部の実施態様では、(a)ポリペプチド;および(b)本明細書において提供する細胞培養培地を含む組成物は着色強度について評価される。さらなる一実施態様では、ポリペプチドは、着色強度の評価の前に単離および/または精製される。一部の実施態様では、(a)ポリペプチド;および(b)本明細書において提供する細胞培養培地を含む組成物着色強度は、最終のタンパク質組成物の着色強度を予測するために使用される。例えば、ポリペプチドおよび本明細書において提供する細胞培養培地を含む組成物は着色強度について、本明細書に記載のCOCアッセイを用いて測定される。着色強度値がB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い場合、最終のタンパク質組成物がB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い着色強度値を有する尤度が高い。一部の実施態様では、ポリペプチドおよび細胞培養培地を含む組成物は、着色強度の測定前に少なくとも1回の精製工程に供される。一部の実施態様では、最終のタンパク質組成物は薬学的製剤である。一部の態様において、本明細書において提供する組成物はポリペプチドを少なくとも約1mg/mL、10mg/mLもしくは25mg/mLもしくは50mg/mLもしくは75mg/mLから約100mg/mLの濃度で、または約1mg/mL、10mg/mLもしくは25mg/mLもしくは50mg/mLもしくは75mg/mLから約100mg/mLの濃度で含むものである。一部の態様において、本明細書において提供する組成物はポリペプチドを少なくとも100mg/mLもしくは125mg/mLもしくは150mg/mLの濃度で、または約100mg/mLもしくは125mg/mLもしくは150mg/mLもしくは175mg/mLもしくは200mg/mLの濃度で含むものである。
【0173】
本明細書に記載の方法のいずれかによって作製されるポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)の組成物(例えば、薬学的製剤)は、所望の度合いの純度を有するポリペプチドを、1種類以上の任意選択の薬学的に許容され得る担体(Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A.編 (1980))と、凍結乾燥製剤または水性液剤の形態に混合することによりにより調製される。薬学的に許容され得る担体は一般的に、レシピエントに対して使用される投薬量および濃度で無毒性であり、限定されないが:バッファー、抗酸化剤、保存料、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質;親水性ポリマー;アミノ酸;単糖類、二糖類および他の糖質、キレート剤、糖類、塩形成対イオン、金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体)および/または非イオン界面活性剤が挙げられる。例示的な凍結乾燥ポリペプチド製剤は米国特許第6267958号に記載されている。水性ポリペプチド製剤としては米国特許第6171586号および国際公開第2006/044908号に記載のものが挙げられ、後者の製剤はヒスチジン−酢酸バッファーを含むものである。一部の実施態様では、薬学的製剤はヒトなどの哺乳動物に投与される。ポリペプチド(例えば、抗体)薬学的製剤は任意の適当な手段によって、例えば、非経口、肺内および鼻腔内ならびに、所望される場合は局所治療のために病変内投与で投与され得る。非経口輸注としては、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が挙げられる。投与は任意の適当な経路によるもの、例えば、一部において投与が短期間か長期間かにもよるが、静脈内または皮下注射などの注射によるものであり得る。したがって、本明細書において提供するポリペプチド含有製剤は注射に、例えば個体への皮下注射(例えば、ヒトへの皮下注射)に適したものであり得る。インビボ投与に使用される薬学的製剤は一般的に滅菌されている。滅菌は、例えば、滅菌濾過膜に通す濾過によって容易に行なわれ得る。
【0174】
一部の態様において、本明細書において提供する組成物(例えば、薬学的製剤)はポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)を少なくとも約1mg/mL、10mg/mL、25mg/mL、50mg/mLもしくは75mg/mLの濃度で、または約1mg/mL、約10mg/mL、約25mg/mL、約50mg/mLもしくは約75mg/mLから約100mg/mLまでの濃度で含むものである。他の態様では、本明細書において提供する組成物(例えば、薬学的製剤)はポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)を少なくとも約100mg/mL、125mg/mL、150mg/mL、200mg/mLもしくは250mg/mLの濃度で、または約100mg/mL、約125mg/mL、約150mg/mL、約175mg/mL、約200mg/mLもしくは約250mg/mLの濃度で含むものである。一部の実施態様では、本明細書において提供する薬学的製剤はポリペプチドを少なくとも約1mg/mL、少なくとも約10mg/mL、少なくとも約25mg/mL、少なくとも約50mg/mLまたは少なくとも約75mg/mLより高い濃度で含み、COCアッセイによって測定したときB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い着色強度値を有するものである。一部の実施態様では、本明細書において提供する薬学的製剤はポリペプチドを少なくとも約100mg/mL、少なくとも約125mg/mL、少なくとも約150mg/mLまたは少なくとも約200mg/mLより高い濃度で含み、COCアッセイによって測定したときB3、B4、B5、B6、B7、B8またはB9より高い着色強度値を有するものである。一部の態様では、COCアッセイによって測定される着色強度値は、限定されないが、B、BY、Y、GYまたはRのうちのいずれか1つであり得、ここで、値が大きいほど着色強度が小さいことを示す。一部の態様において、本明細書において提供する薬学的製剤はポリペプチドを少なくとも約1mg/mL、少なくとも約10mg/mL、少なくとも約25mg/mL、少なくとも約50mg/mLまたは少なくとも約75mg/mLより高い濃度で含み、色アッセイによって測定したとき、参照溶液の着色強度値より低い着色強度値を有するものである。一部の態様において、本明細書において提供する薬学的製剤はポリペプチドを少なくとも約100mg/mL、少なくとも約125mg/mL、少なくとも約150mg/mLまたは少なくとも約200mg/mLより高い濃度で含み、色アッセイによって測定したとき、参照溶液の着色強度値より低い着色強度値を有するものである。例えば、ポリペプチド(例えば、治療用ポリペプチド)を含む組成物(例えば、薬学的製剤)の着色強度は、表1または表2の成分のうちの1種類以上を含むものでない細胞培養培地中で培養された細胞によって産生されたポリペプチドを含む組成物と比べて少なくとも0.1%または約5%から約50%低減され得る。
【0175】
V.製造物品またはキット
細胞培養培地に既知組成の構成成分を補給するためのキットを説明する。キットは、再構成される乾燥構成成分を含むものであってもよく、また、使用のための(例えば、培地へのキット構成成分の補給における使用のための)使用説明書を含めてもよい。キットは、細胞培養培地に本明細書において提供する構成成分が補給されるのに適した量で含むものであり得る。一部の態様において、キットは、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸およびケルシトリン水和物からなる群より選択される1種類以上の構成成分を、細胞培養培地に表1または表2に示した構成成分濃度が補給される量で含むものである。一部の実施態様では、キットは:(a)該細胞培養培地中に約2.0mMから約50.0mMのヒポタウリンがもたらされる量のヒポタウリン;(b)該細胞培養培地中に約8.0mMから約12.0mMのs−カルボキシメチルシステインがもたらされる量のs−カルボキシメチルシステイン;(c)該細胞培養培地中に約8.0mMから約12.0mMのカルノシンがもたらされる量のカルノシン;(d)該細胞培養培地中に約3.0mMから約5.0mMのアンセリンがもたらされる量のアンセリン;(e)約0.025mMから約0.040mMのブチル化ヒドロキシアニソールがもたらされる量のブチル化ヒドロキシアニソール;(f)該細胞培養培地中に約0.040mMから約0.060mMのリポ酸がもたらされる量のリポ酸;(g)該細胞培養培地中に約0.010mMから約0.020mMのケルシトリン水和物がもたらされる量のケルシトリン水和物;および(h)該細胞培養培地中に約0.0003mMから約10mMのアミノグアニジンがもたらされる量のアミノグアニジンのうちの1種類以上を含むものである。一部の態様において、キットは1種類以上の構成成分を含むものであり、該1種類以上の構成成分はヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体である。一部の実施態様では、ヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。一部の実施態様では、細胞培養培地に既知組成の構成成分を補給するためのキットが少なくとも約0.0001mMの濃度のヒポタウリンまたはその類似体もしくは前駆体を備えており、該ヒポタウリンまたは類似体もしくは前駆体が、ヒポタウリン、s−カルボキシメチルシステイン、システアミン、システインスルフィン酸およびタウリンからなる群より選択される。
【0176】
本発明の別の態様では、容器を備えた製造物品を提供し、該容器には本発明の細胞培養培地が収容され、その使用のための使用説明書が備えられていてもよい。好適な容器としては、例えば、ボトルおよびバッグが挙げられる。容器はさまざまな材質で、例えばガラスまたはプラスチックで形成されたものであり得る。容器には細胞培養培地が収容され、上面または付属のラベルにより、容器に使用のための(例えば、細胞の培養における使用のための)指示が表示され得る。製造物品に、さらに、商業的見地およびユーザーの見地から望ましい他の物質、例えば他のバッファー、希釈剤および添付文書を使用のための使用説明書とともに含めてもよい。
【0177】
以下の実施例は本発明の実例を例示するために示しており、本発明を限定するために示しているのではない。
【実施例】
【0178】
培地は、特にタンパク質生成物が濃縮液(例えば、少なくとも約1mg/mLまたは少なくとも約100mg/mLの濃度まで)として存在する場合、許容され得る品質属性、例えば着色強度の低減を有するタンパク質生成物(例えば、タンパク質薬物製剤品)が得られるものと同定されたものである。本明細書におい提供する培地中での細胞の培養方法を説明し、該培地を用いてポリペプチドを作製する方法も説明する。培地は、一態様ではヒポタウリンを含むものであり得る。本明細書において提供する一部の態様では、培地は、1種類以上のヒポタウリン類似体またはその前駆体、例えばカルボキシメチルシステインを含むものである。各培地構成成分は、本明細書全体に示された任意の値で存在させ得る。培地は既知組成であっても未知組成であってもよい。本培地により、ポリペプチド作製方法に使用した場合、異なる培地で作製されたポリペプチドと比べて活性酸素種の存在が低減され得る。本培地は、細胞培養およびポリペプチド産生のすべての段階で有用性がみられ、基本培地および/または流加培地に使用され得る。本明細書に記載の方法のいずれかによって作製されるポリペプチドを提供し、本明細書に詳述しているようにして作製されるポリペプチドを含む薬学的組成物も提供する。一態様において、薬学的組成物はポリペプチドを少なくともまたは約100mg/mL、125mg/mLまたは150mg/mLのいずれかの濃度で含むものである。抗体の作製方法および抗体を含む組成物が特に想定される。また、細胞培養培地に既知組成の構成成分を補給するためのキットも説明する。
【0179】
実施例1:抗体組成物の着色を低減し得る抗酸化剤化合物の同定
酸化体と反応することが報告されている化合物を、そのタンパク質含有組成物の着色を低減させる能力についてスクリーニングした(表4)。抗酸化剤のスクリーニングでは、1部の基本培地1と0.3部の流加培地2を、細胞培養条件に使用される培地の代表的な比を正確に反映して混合することにより、総量40mlの培地を調製した(表5)。培地1と培地2の混合物は、以前に、抗体産生細胞の培養に使用した場合、抗体含有溶液の着色強度を増大させることが示されており、この混合物には30種類の抗酸化剤化合物のうちの1種類を補給し、2g/LのIgG1モノクローナル抗体を入れた。試料を37℃で、250rpmで振盪しながら5日間のインキュベーション期間でインキュベートした。2つのコントロール試料:1)2g/LのIgG1モノクローナル抗体を含む培地1と培地2の混合物の40mlの試料、これは250rpmで振盪しながら37℃にて5日間、抗酸化剤なしでインキュベートした(陽性コントロール)、および2)1部の基本培地3と0.3部の流加培地4(表5)を混合することにより調製した培地混合物の40mLの試料(これは、以前に、抗体産生細胞の培養に使用した場合、抗体含有溶液の着色強度を低減させることが示された)、2g/LのIgG1モノクローナル抗体を入れ、250rpmで振盪しながら37℃にて5日間、抗酸化剤なしでインキュベートした(陰性コントロール)をスクリーニングアッセイに含めた。
【0180】
インキュベーション後、モノクローナル抗体を、アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。濃縮抗体組成物の着色強度を精製プールで、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示すアッセイを用いて測定した。数値結果を陽性コントロールに対して正規化し、このとき、陽性コントロールの値を着色強度の変化0%に設定した。試験した30種類の抗酸化剤化合物のうち、いくつかの化合物、例えば、ゲンチシン酸、システアミン、ヒドロコルチゾンおよびメルカプトプロピオニルグリシンは、抗体組成物の着色を増大させることがわかった(
図1)。比較において、該化合物のうち6種類、例えば、ヒポタウリン、アンセリン、ブチル化ヒドロキシアニソール、カルノシン、リポ酸およびケルシトリン水和物は、抗体組成物の着色低減させることがわかった(
図2)。着色強度を低減させる抗酸化剤のうち、ヒポタウリンは、抗体含有組成物の着色強度をおよそ25%低減させることにより最も大きな効果を示した。また、ヒポタウリンの類似体であるタウリンも着色強度をおよそ5%低減させた。
【0181】
実施例2:抗体産生細胞株から単離された抗体組成物の着色強度を低減させ得る抗酸化剤化合物の特性評価
細胞培養物から直接得た抗体含有組成物の着色強度を低減させるヒポタウリンの能力を評価した。この試験のため、大規模2L細胞培養物の代表であることがわかっている振盪フラスコ細胞培養モデルを使用した。簡単には、振盪フラスコ細胞培養モデルでは、抗体産生CHO細胞をおよそ1.0×10
6細胞/mLで、100mLの基本培地1または基本培地3を入れた250mL容フラスコ内でインキュベートした。大規模2L細胞培養物では、抗体産生CHO細胞をおよそ1.0×10
6細胞/mLで、1Lの基本培地1または基本培地3を入れた2リットル容撹拌バイオリアクター(Applikon,Foster City,CA)内でインキュベートした。大規模細胞増殖モデルでは、細胞をフェドバッチ様式で培養し、基本培地1中で培養する場合は100mLの流加培地2を、基本培地3中で培養する場合は100mLの流加培地4を(細胞培養液1リットルあたり)、3、6および9日目に産生期の開始のために添加した。振盪フラスコ細胞培養モデルでは、細胞をフェドバッチ様式で培養し、基本培地1中で培養する場合は10mLの流加培地2を、基本培地3中で培養する場合は10mLの流加培地4を(細胞培養液1リットルあたり)、3、6および9日目に産生期の開始のために添加した。グルコースの濃度を毎日解析し、グルコース濃度が3g/L未満に低下したら、グルコース枯渇を防ぐために、500g/Lのグルコースストック溶液から補給した。反応器に溶存酸素検量部、pHおよび温度プローブを取り付けた。溶存酸素は、空気および/または酸素のスパージングによりオンラインで制御した。大規模2L細胞培養物では、pHをCO
2またはNa
2CO
3の添加によって制御し、必要に応じて培養物を消泡剤を添加した。細胞培養物を、0日目から3日目まではpH7.0および温度37℃に、次いで3日目以降は35℃に維持した。細胞培養物を275rpmでアジテーションし、溶存酸素レベルを空気飽和の30%にした。振盪フラスコ細胞培養物では、培養物を振盪機のプラットフォーム上に置き、37℃の温度の5%CO
2インキュベータ内で150rpmで、細胞培養サイクルの0日目から3日目までアジテーションし、4日目に14日目の細胞培養サイクル終了時まで35℃に温度シフトした。オルモル濃度を、Advanced Instruments(Norwood,MA)の浸透圧計を用いてモニタリングした。また、オフラインpHおよび代謝産物濃度も毎日、Nova Bioprofile 400(Nova Biomedical,Waltham,MA)を用いて測定した。生存可能細胞密度(VCC)および細胞生存度を毎日、ViCell(登録商標)自動細胞計数器(Beckman Coulter,Fullerton,CA)を用いて測定した。1mLの細胞培養液を遠心分離することにより細胞培養液を毎日収集し、高速液体クロマトグラフィーを用いて抗体力価を測定した。14日目の細胞培養期間終了時、すべての試料から細胞培養液を遠心分離によって収集した。収集した細胞培養液中のモノクローナル抗体を、アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。濃縮抗体組成物の着色強度を精製プールで、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示すアッセイを用いて測定した。VCCにより測定した増殖(
図3A)および細胞生存度(
図3B)は、使用した培地に関係なく大規模(2L)と振盪フラスコ(SF)細胞培養モデル間で同等であった。抗体産生は振盪フラスコ細胞培養モデルにおいてわずかに少なく、最も高い抗体産生が培地1および培地2中でインキュベートした大規模細胞培養モデルにおいて観察された(
図3C)。振盪フラスコ細胞培養モデルから得られた抗体組成物の着色強度は、培地3および培地4中で培養した場合、培地1および培地2中で培養した場合の振盪フラスコ細胞培養組成物から得られた抗体組成物(2.25の値を有した)と比べて値は1.07と低かった。この実験により、振盪フラスコモデルは2L細胞培養モデルと同等であり、後続の実験における使用に適していることが確立された。
【0182】
抗酸化剤ヒポタウリンを補給した細胞培養培地組成物を用いた実験手法では、抗体産生CHO細胞をおよそ1.0×10
6細胞/mLで、100mLの基本培地1を入れた250mL容フラスコ内でインキュベートした。培地1に細胞培養における使用のための9.16mM(100%)、4.58mM(50%)または2.29mM(25%)ヒポタウリンを0日目に補給した。細胞をフェドバッチ様式で培養し、10mLの流加培地2(細胞培養液1リットルあたり)を3、6および9日目に産生期の開始のために添加した。さらなる実験試料には、細胞培養物期間にわたって9.16mMのヒポタウリンの漸増添加を含めた。具体的には、2.29mM(25%)ヒポタウリンを細胞培養の0日目に基本培地1中に、および25%を3日目、6日目および9日目に流加培地2中に添加した。細胞を培地1および2中でヒポタウリン補給なしで培養することにより陽性コントロールを含めた。培地3および培地4中で培養した細胞をヒポタウリン補給なしで培養することにより陰性コントロールを含めた。上記のように、グルコースの濃度を毎日解析し、グルコース濃度が3g/L未満に低下したら、グルコース枯渇を防ぐために、500g/Lのグルコースストック溶液から補給した。細胞培養物を、0日目から3日目まではpH7.0および温度37℃に、次いで3日目以降は35℃に維持した。細胞培養物を275rpmでアジテーションし、溶存酸素レベルを空気飽和の30%にした。VCCおよび細胞生存度を毎日、ViCell(登録商標)自動細胞計数器(Beckman Coulter,Fullerton,CA)を用いて測定した。1mLの細胞培養液を遠心分離することにより細胞培養液を毎日収集し、高速液体クロマトグラフィーを用いて抗体力価を測定した。14日目の細胞培養期間終了時、すべての試料から細胞培養液を遠心分離によって収集した。収集した細胞培養液中のモノクローナル抗体を、アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。濃縮抗体組成物の着色強度を精製プールで、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示すアッセイを用いて測定した。数値結果を陽性コントロールに対して正規化し、このとき、陽性コントロールの値を着色強度の変化0%に設定した。VCCにより測定した増殖(
図4A)および細胞生存度(
図4B)は試験したすべての細胞培養物間で同等であった。さらに、ヒポタウリンの漸増添加以外は、ヒポタウリンを補給した培地中で培養した細胞培養物では、ヒポタウリンを含有していない培地中で培養した細胞培養物と同レベルの抗体力価が得られた(
図4C)。着色強度はヒポタウリンの濃度が高いほど低減されることがわかり、9.16mMのヒポタウリンを含む培地で最も大きな低減が観察された(
図5)。この着色強度の低減は、ヒポタウリンを、細胞培養物のインキュベーション過程で漸増的に添加するのではなく1日目にボーラスとして添加した場合に最適であった。細胞培養実験およびインキュベーション実験(実施例1を参照)で得られた着色強度値の比較により、インキュベーションスクリーニング実験の結果(
図5、白丸)が細胞培養実験の結果(
図5、黒丸)と良好に相関していることが示された。
【0183】
同様の実験を、基本培地3および流加培地4で収集した細胞培養物から単離された抗体組成物について行ない、ヒポタウリンの着色低減効果が他の細胞培養培地に拡張されるかどうかを調べた。簡単には、上記のように、抗体産生CHO細胞をおよそ1.0×10
6細胞/mLで、100mLの基本培地3を入れた250mL容フラスコ内でインキュベートした。培地3に細胞培養における使用のための12.95mM(1×)、25.9mM(2×)または38.85mM(3×)ヒポタウリンを0日目に補給した。細胞をフェドバッチ様式で培養し、10mLの流加培地4(細胞培養液1リットルあたり)を3、6および9日目に産生期の開始のために添加した。細胞を培地1および2中でヒポタウリン補給なしで培養することにより陽性コントロールを含めた。培養物を振盪機のプラットフォーム上に置き、37℃の温度の5%CO
2インキュベータ内で150rpmで細胞培養サイクルの0日目から3日目までアジテーションし、4日目に14日目の細胞培養サイクル終了時まで35℃に温度シフトした。オルモル濃度、オフラインpHおよび代謝産物濃度を上記のようにして測定した。VCCおよび細胞生存度を毎日、ViCell(登録商標)自動細胞計数器(Beckman Coulter,Fullerton,CA)を用いて測定した。1mLの細胞培養液を遠心分離することにより細胞培養液を毎日収集し、高速液体クロマトグラフィーを用いて抗体力価を測定した。14日目の細胞培養期間終了時、すべての試料から細胞培養液を遠心分離によって収集した。収集した細胞培養液中のモノクローナル抗体を、アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。濃縮抗体組成物の着色強度を精製プールで、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示すアッセイを用いて測定した。数値結果を陽性コントロールに対して正規化し、このとき、陽性コントロールの値を着色強度の変化0%に設定した。着色強度はヒポタウリンの濃度が高いほど低減されることがわかり、38.85mMのヒポタウリンを含む培地で最も大きな低減が観察された(
図6)。
【0184】
実施例3:抗体産生細胞株から単離された抗体組成物の着色の低減におけるヒポタウリン類似体の特性評価
ヒポタウリン類似体を試験し、抗体含有組成物において着色低減効果を示すかどうかを評価した。抗体産生CHO細胞をおよそ1.0×10
6細胞/mLで、12.95mMのヒポタウリンまたは10mMのカルボキシメチルシステイン(CAS番号638−23−3)を補給した1Lの基本培地1を入れた2リットル容撹拌バイオリアクター(Applikon,Foster City,CA)内でインキュベートした。細胞をフェドバッチ様式で培養し、100mLの流加培地2(細胞培養液1リットルあたり)を3、6および9日目に産生期の開始のために添加した。細胞を培地1および2中でヒポタウリン補給なしで培養することにより陽性コントロールを含めた。グルコースの濃度を毎日解析し、グルコース濃度が2g/L未満に低下したら、グルコース枯渇を防ぐために1.5g/Lのグルコースストック溶液から補給した。反応器に溶存酸素検量部、pHおよび温度プローブを取り付けた。溶存酸素は、空気および/または酸素のスパージングによりオンラインで制御した。pHをCO
2またはNa
2CO
3の添加によって制御し、必要に応じて培養物を消泡剤を添加した。細胞培養物を、0日目から3日目まではpH7.0および温度37℃に、次いで3日目以降は35℃に維持した。細胞培養物を275rpmでアジテーションし、溶存酸素レベルを空気飽和の30%にした。オルモル濃度を、Advanced Instruments(Norwood,MA)の浸透圧計を用いてモニタリングした。また、オフラインpHおよび代謝産物濃度も毎日、Nova Bioprofile 400(Nova Biomedical,Waltham,MA)を用いて測定した。VCCおよび細胞生存度を毎日、ViCell(登録商標)自動細胞計数器(Beckman Coulter,Fullerton,CA)を用いて測定した。1mLの細胞培養液を遠心分離することにより細胞培養液を毎日収集し、高速液体クロマトグラフィーを用いて抗体力価を測定した。14日目の細胞培養期間終了時、培養物中のタンパク質の量がおよそ2−10g/Lだった場合、すべての試料から細胞培養液を遠心分離によって収集した。収集した細胞培養液中のモノクローナル抗体を、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。タンパク質Aプールを150g/Lまで、Amicon Centricon遠心フィルターデバイス(Millipore Corporation,Billerica,MA)を用いて濃縮した。濃縮抗体組成物の着色強度を濃縮タンパク質Aプールにおいて、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示す2つの異なるアッセイ測定した。VCCにより測定した増殖(
図7A)および細胞生存度(
図7B)は試験したすべての細胞培養物間で同等であった。ヒポタウリンまたはカルボキシメチルシステインを補給した培地中で培養された細胞培養物では同等レベルの抗体力価が得られた(
図8)。比色アッセイを使用し、単離した抗体組成物の着色強度は、抗体産生細胞をヒポタウリンおよびカルボキシメチルシステインを補給した培地で培養した場合、それぞれ27%および13%低減したことがわかった(
図9A)。この着色強度の低減を、第2の色アッセイを使用することにより確認し、このアッセイでは、それぞれヒポタウリンおよびカルボキシメチルシステインを補給した培地中で培養した細胞から単離した抗体組成物においておよそ17%および13%の着色強度の低減が検出された(
図9B)。
【0185】
実施例4:抗体産生細胞株から単離された抗体組成物の着色の低減におけるアミノグアニジンの特性評価
抗体組成物において低減させ、細胞培養条件下で奏功する化合物を同定するため、無細胞培地においてスクリーニングアッセイを行なった。タウリン、カルノシンおよびアミノグアニジンをスクリーニングに選択した。これらの化合物を25mLの培養培地に1.2g/L(タウリン)、13.6g/L(カルノシン)および27.2g/L(アミノグアニジン塩酸塩)の濃度で溶解させた。6.8から7.2の範囲にpH調整し、Steriflipフィルターユニット(Millipore,Billerica,MA)で滅菌濾過した後、溶液を、TubeSpinキャップ(TPP Techno Plastic Products AG,Trasadingen,Switzerland)を備えた50mL容Falconチューブ(BD Biosciences,San Jose,CA)内でインキュベートした。CHO細胞を、湿度制御された37℃の細胞培養インキュベータ内で250rpmにて、光からの保護なしで7日間インキュベートし、モノクローナル抗体を産生させた。
【0186】
収集した細胞培養液(HCCF)およびインキュベーションブロス中のモノクローナル抗体を、アフィニティークロマトグラフィーでさらに精製した。濃縮抗体組成物の着色強度を精製プールで、数値が高いほど着色強度が高いことを示し、数値が低いほど着色強度が低いことを示すアッセイを用いて測定した。
【0187】
タウリン、カルノシンまたはアミノグアニジンを含む培養培地中で産生された抗体についての相対着色強度を
図10に示す。データにより、アミノグアニジンは着色を約71%低減させることができ、相対着色強度値は、抗体をグルコースを全くなしでインキュベートした陰性コントロールの値よりもさらに低いことが示された。