特許第6843913号(P6843913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6843913透過電子顕微鏡の制御方法および透過電子顕微鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843913
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】透過電子顕微鏡の制御方法および透過電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/141 20060101AFI20210308BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20210308BHJP
   H01J 37/21 20060101ALI20210308BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20210308BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01J37/141 A
   H01J37/26
   H01J37/21 A
   H01J37/147 A
   H01J37/28 C
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-63461(P2019-63461)
(22)【出願日】2019年3月28日
(65)【公開番号】特開2020-166939(P2020-166939A)
(43)【公開日】2020年10月8日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】河野 祐二
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−049728(JP,A)
【文献】 特開2002−296333(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0130633(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/141
H01J 37/147
H01J 37/21
H01J 37/26
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを含む透過電子顕微鏡の制御方法であって、
前記対物レンズは、
試料が配置される試料配置面を挟んで、光軸に沿って配置された第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズと、
前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる磁場印加部と、
を含み、
前記第1磁界型レンズは、第1内側磁極と、第1外側磁極と、第1励磁コイルと、を有し、
前記第2磁界型レンズは、第2内側磁極と、第2外側磁極と、第2励磁コイルと、を有し、
前記第1外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第1内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第2外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第2内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第1磁界型レンズは、前記第1励磁コイルを励磁することによって、前記第1内側磁極と前記第1外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第1磁場を発生させ、
前記第2磁界型レンズは、前記第2励磁コイルを励磁することによって、前記第2内側磁極と前記第2外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第2磁場を発生させ、
前記第1磁場の前記光軸に沿った方向の成分と前記第2磁場の前記光軸に沿った方向の成分とは、逆方向であり、
前記透過電子顕微鏡の制御方法は、
前記第1磁界型レンズに前記第1磁場を発生させ、前記第2磁界型レンズに前記第2磁場を発生させる工程と、
前記磁場印加部によって、前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる工程と、
前記第1励磁コイルおよび前記第2励磁コイルの励磁を変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記対物レンズの焦点距離のずれを補正する工程と、
を含む、透過電子顕微鏡の制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記対物レンズの焦点距離のずれを補正する工程では、
前記磁場印加部で発生した磁場と前記第1磁場が同じ方向である場合には、前記第1励磁コイルの励磁を弱め、前記第2励磁コイルの励磁を強め、
前記磁場印加部で発生した磁場と前記第2磁場が同じ方向である場合には、前記第1励磁コイルの励磁を強め、前記第2励磁コイルの励磁を弱める、透過電子顕微鏡の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記透過電子顕微鏡は、
前記試料配置面を挟んで、前記光軸に沿って配置された第1アライメントコイルおよび第2アライメントコイルを含み、
前記第1アライメントコイルおよび前記第2アライメントコイルで電子線を偏向させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記光軸に対する電子線の軸ずれを補正する工程を、さらに含む、透過電子顕微鏡の制御方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記透過電子顕微鏡は、中間レンズと、投影レンズと、を含み、
前記対物レンズ、前記中間レンズ、および前記投影レンズは、前記透過電子顕微鏡の結像系を構成し、
前記中間レンズおよび前記投影レンズの励磁条件を変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する倍率のずれを補正する工程をさらに含む、透過電子顕微鏡の制御方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記透過電子顕微鏡は、電子線を前記試料上で走査するための走査コイルを含み、
前記走査コイルによって電子線で走査する領域の大きさを変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する倍率のずれを補正する工程をさらに含む、透過電子顕微鏡の制御方法。
【請求項6】
対物レンズと、
前記対物レンズを制御する制御部と、
を含み、
前記対物レンズは、
試料が配置される試料配置面を挟んで、光軸に沿って配置された第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズと、
前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる磁場印加部と、
を含み、
前記第1磁界型レンズは、第1内側磁極と、第1外側磁極と、第1励磁コイルと、を有し、
前記第2磁界型レンズは、第2内側磁極と、第2外側磁極と、第2励磁コイルと、を有し、
前記第1外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第1内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第2外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第2内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第1磁界型レンズは、前記第1励磁コイルを励磁することによって、前記第1内側磁極と前記第1外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第1磁場を発生させ、
前記第2磁界型レンズは、前記第2励磁コイルを励磁することによって、前記第2内側磁極と前記第2外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第2磁場を発生させ、
前記第1磁場の前記光軸に沿った方向の成分と前記第2磁場の前記光軸に沿った方向の成分とは、逆方向であり、
前記制御部は、
前記第1磁界型レンズに前記第1磁場を発生させ、前記第2磁界型レンズに前記第2磁場を発生させる処理と、
前記磁場印加部によって、前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる処理と、
前記第1励磁コイルおよび前記第2励磁コイルの励磁を変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記対物レンズの焦点距離のずれを補正する処理と、
を行う、透過電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項6において、
前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記対物レンズの焦点距離のずれを補正するための前記第1励磁コイルおよび前記第2励磁コイルの励磁条件が、前記磁場印加部で発生させた磁場の大きさおよび向きごとに、記憶されている記憶部を含む、透過電子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡の制御方法および透過電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡の対物レンズとして、磁界型対物レンズが知られている。磁界型対物レンズは、試料または試料近傍に強磁界を生成することによって、レンズの焦点距離が短くなるように改良されてきた。
【0003】
しかしながら、磁性体試料などの磁場に敏感な試料を透過電子顕微鏡で観察する場合、対物レンズが発生させる磁場によって試料の磁気特性が変化するという問題があった。試料に対する磁場の影響を防ぐために、試料から離れた位置に対物レンズの磁場を設けた場合、対物レンズの焦点距離が長くなり、電子顕微鏡の分解能は低下してしまう。したがって、磁界型対物レンズを用いて、磁性体試料を高い分解能で適正に観察することは困難であった。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、試料配置面を挟んで、光軸に沿って配置された第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズを含み、第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズが、第1磁界型レンズが発生させる磁場の光軸に沿った方向の成分および第2磁界型レンズが発生させる磁場の光軸に沿った方向の成分が、試料配置面において互いに打ち消し合うように設けられている、対物レンズが開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された対物レンズでは、試料に任意の磁場を印加するための磁場印加部を含む。これにより、例えば、試料が磁性体材料である場合、磁場によって磁気特性が変化する過程などを観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018−49728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された対物レンズでは、磁場印加部が発生させた磁場が対物レンズ内へ漏洩することによって、対物レンズの焦点距離が変化してしまう場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明係る透過電子顕微鏡の制御方法の一態様は、
対物レンズを含む透過電子顕微鏡の制御方法であって、
前記対物レンズは、
試料が配置される試料配置面を挟んで、光軸に沿って配置された第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズと、
前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる磁場印加部と、
を含み、
前記第1磁界型レンズは、第1内側磁極と、第1外側磁極と、第1励磁コイルと、を有し、
前記第2磁界型レンズは、第2内側磁極と、第2外側磁極と、第2励磁コイルと、を有し、
前記第1外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第1内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第2外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第2内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第1磁界型レンズは、前記第1励磁コイルを励磁することによって、前記第1内側磁極と前記第1外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第1磁場を発生させ、
前記第2磁界型レンズは、前記第2励磁コイルを励磁することによって、前記第2内側磁極と前記第2外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第2磁場を発生させ、
前記第1磁場の前記光軸に沿った方向の成分と前記第2磁場の前記光軸に沿った方向の成分とは、逆方向であり、
前記透過電子顕微鏡の制御方法は、
前記第1磁界型レンズに前記第1磁場を発生させ、前記第2磁界型レンズに前記第2磁場を発生させる工程と、
前記磁場印加部によって、前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる工程と、
前記第1励磁コイルおよび前記第2励磁コイルの励磁を変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記対物レンズの焦点距離のずれを補正する工程と、
を含む。
【0009】
このような透過電子顕微鏡の制御方法では、磁場印加部で発生させた磁場に起因する対物レンズの焦点距離のずれを補正することができる。したがって、試料に任意の磁場を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0010】
(2)本発明に係る透過電子顕微鏡の一態様は、
対物レンズと、
前記対物レンズを制御する制御部と、
を含み、
前記対物レンズは、
試料が配置される試料配置面を挟んで、光軸に沿って配置された第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズと、
前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる磁場印加部と、
を含み、
前記第1磁界型レンズは、第1内側磁極と、第1外側磁極と、第1励磁コイルと、を有し、
前記第2磁界型レンズは、第2内側磁極と、第2外側磁極と、第2励磁コイルと、を有し、
前記第1外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第1内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第2外側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離は、前記第2内側磁極の先端部と前記試料配置面との間の距離よりも小さく、
前記第1磁界型レンズは、前記第1励磁コイルを励磁することによって、前記第1内側磁極と前記第1外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第1磁場を発生させ、
前記第2磁界型レンズは、前記第2励磁コイルを励磁することによって、前記第2内側磁極と前記第2外側磁極との間のギャップから磁束を漏洩させて、第2磁場を発生させ、
前記第1磁場の前記光軸に沿った方向の成分と前記第2磁場の前記光軸に沿った方向の成分とは、逆方向であり、
前記制御部は、
前記第1磁界型レンズに前記第1磁場を発生させ、前記第2磁界型レンズに前記第2磁場を発生させる処理と、
前記磁場印加部によって、前記試料配置面に前記光軸に沿った方向の磁場を発生させる処理と、
前記第1励磁コイルおよび前記第2励磁コイルの励磁を変化させることによって、前記磁場印加部で発生させた磁場に起因する前記対物レンズの焦点距離のずれを補正する処理と、
を行う。
【0011】
このような透過電子顕微鏡では、磁場印加部で発生させた磁場に起因する対物レンズの焦点距離のずれを補正することができる。したがって、試料に任意の磁場を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る透過電子顕微鏡の構成を示す図。
図2】対物レンズを模式的に示す断面図。
図3】対物レンズを模式的に示す断面図。
図4】第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズが発生させる磁場を説明するための図。
図5】第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズが発生させる垂直磁場の分布を示す図。
図6】磁場印加部の動作を説明するための図。
図7】磁場印加部の動作を説明するための図。
図8】試料に磁場が印加されている様子を模式的に示す図。
図9】試料に磁場が印加されている様子を模式的に示す図。
図10】第1実施形態に係る透過電子顕微鏡の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図11】変形例に係る対物レンズを模式的に示す断面図。
図12】第2実施形態に係る透過電子顕微鏡を模式的に示す図。
図13】第2実施形態に係る透過電子顕微鏡の要部を模式的に示す図。
図14】第2実施形態に係る透過電子顕微鏡の制御部の処理の一例を示すフローチャート。
図15】第3実施形態に係る透過電子顕微鏡の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. 透過電子顕微鏡の構成
まず、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡1000の構成を示す図である。
【0015】
透過電子顕微鏡1000は、対物レンズ100を含む。なお、図1では、便宜上、対物レンズ100、および試料ステージ106を簡略化して図示している。
【0016】
透過電子顕微鏡1000は、図1に示すように、電子源102と、照射レンズ104と、対物レンズ100と、試料ステージ106と、試料ホルダー108と、中間レンズ110と、投影レンズ112と、撮像装置114と、制御部120と、記憶部122と、を含む。
【0017】
電子源102は、電子を発生させる。電子源102は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0018】
照射レンズ104は、電子源102から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。照射レンズ104は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0019】
試料ステージ106は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ106は、試料ホルダー108を介して、試料Sを保持している。試料ステージ106によって、試料Sの位置決めを行うことができる。試料ステージ106は、例えば、試料Sを傾斜させることができるゴニオメータステージである。
【0020】
対物レンズ100は、試料Sを透過した電子線で透過電子顕微鏡像を結像するための初段のレンズである。対物レンズ100の詳細については、後述する「1.2. 対物レンズの構成」で説明する。
【0021】
中間レンズ110および投影レンズ112は、対物レンズ100によって結像された像を拡大し、撮像装置114上に結像させる。対物レンズ100、中間レンズ110、および投影レンズ112は、透過電子顕微鏡1000の結像系を構成している。
【0022】
撮像装置114は、結像系によって結像された透過電子顕微鏡像を撮影する。撮像装置114は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary
metal-oxide-semiconductor)カメラ等のデジタルカメラである。
【0023】
制御部120は、対物レンズ100を制御する。対物レンズ100の制御方法については、後述する。制御部120の機能は、例えば、各種プロセッサー(CPU(Central Processing Unit)など)でプログラムを実行することにより実現できる。なお、制御部120の機能の少なくとも一部を、ASIC(ゲートアレイ等)などの専用回路により実現してもよい。
【0024】
記憶部122は、制御部120が各種計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータを記憶している。また、記憶部122は、制御部120のワーク領域としても用いられる。記憶部122は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、およびハードディスクなどにより実現できる。
【0025】
1.2. 対物レンズの構成
次に、対物レンズ100の構成について、図面を参照しながら説明する。図2は、対物レンズ100を模式的に示す断面図である。なお、図2では、試料ステージ106に試料ホルダー108が挿入されている状態を図示している。図3は、対物レンズ100を模式的に示す断面図であり、図2の領域IIIの拡大図である。
【0026】
対物レンズ100は、図2に示すように、第1磁界型レンズ10と、第2磁界型レンズ20と、磁場印加部30と、位置調整部40と、固定部50と、防磁筒60と、を含む。なお、図3では、便宜上、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20のみを図示している。
【0027】
第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20は、対物レンズ100の光軸Lに沿って配置されている。第1磁界型レンズ10は試料配置面2よりも上(照射レンズ104側)に位置し、第2磁界型レンズ20は試料配置面2よりも下(中間レンズ110側)に位置する。第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20は、試料配置面2を挟んで配置されている。
【0028】
対物レンズ100では、試料Sは、第1磁界型レンズ10と第2磁界型レンズ20との間の試料配置面2に配置される。試料配置面2は、光軸Lと直交する面である。試料配置面2は、対物レンズ100において、試料Sが配置される面である。試料配置面2は、例えば、試料原点位置(すなわち光軸Lと試料配置面2とが交わる位置)を中心として、試料Sを配置可能な大きさを持つ面である。試料ステージ106は、試料Sを第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20に対して光軸Lに垂直な方向(水平方向)から試料ホルダー108を挿入するサイドエントリー方式の試料ステージである。
【0029】
第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20は、第1磁界型レンズ10が発生させる磁場の光軸Lに沿った方向(鉛直方向)の成分および第2磁界型レンズ20が発生させる磁場の光軸Lに沿った方向の成分が、試料配置面2において互いに打ち消し合うように設けられる。
【0030】
第1磁界型レンズ10は、第1励磁コイル12と、第1ヨーク14と、を有している。第1励磁コイル12は、図示しない電源に接続されている。第1ヨーク14は、第1励磁コイル12を囲むように設けられている。第1ヨーク14は、内側磁極15(第1内側磁極の一例)と、外側磁極16(第1外側磁極の一例)と、を有している。
【0031】
内側磁極15および外側磁極16は、環状である。内側磁極15は光軸L側に配置されており、外側磁極16は内側磁極15の外側に配置されている。外側磁極16は、内側磁極15の外側に配置されている。内側磁極15は、第1励磁コイル12を囲んでいる部分から試料配置面2に向かって延出している。同様に、外側磁極16は、第1励磁コイル12を囲んでいる部分から試料配置面2に向かって延出している。
【0032】
外側磁極16の先端部16aと試料配置面2との間の距離D2は、内側磁極15の先端部15aと試料配置面2との間の距離D1よりも小さい。すなわち、光軸Lに沿った方向において、外側磁極16の先端部16aは、内側磁極15の先端部15aと試料配置面2との間に位置している。
【0033】
外側磁極16の先端部16aは、光軸Lに向かって張り出している。すなわち、外側磁極16の先端部16aは、外側磁極16の他の部分と比べて、光軸L側に位置している。
【0034】
光軸Lに沿った方向から見て、外側磁極16の先端部16aは、試料移動可能領域6と重なっている。また、光軸Lに沿った方向から見て、外側磁極16の先端部16aは、内側磁極15の先端部15aと重なっている。内側磁極15の先端部15aと光軸Lとの間の距離と、外側磁極16の先端部16aと光軸Lとの間の距離とは、等しい。
【0035】
ここで、試料移動可能領域6とは、試料ホルダー108に支持されている試料Sが、試料ステージ106の動作によって移動可能となる領域である。例えば、試料Sの直径が3mmの場合、試料配置面2を含む仮想平面4内において試料ステージ106は、試料Sを、試料原点位置を中心として±1.2mm程度移動させることができる。この場合、試料移動可能領域6は、試料原点位置を中心として±2.7mmの領域である。
【0036】
内側磁極15の先端部15aで規定される開口15bの中心は、光軸L上に位置している。同様に、外側磁極16の先端部16aで規定される開口16bの中心は、光軸L上に位置している。内側磁極15の開口15bの形状、および外側磁極16の開口16bの形状は、円である。内側磁極15の開口15bの径と外側磁極16の開口16bの径とは、等しい。
【0037】
内側磁極15の先端部15aと外側磁極16の先端部16aとの間にはギャップ(空隙)18が設けられている。ギャップ18は、光軸Lを囲む環状であり、より具体的には、光軸Lを中心軸とする円筒面状である。対物レンズ100では、外側磁極16の先端部16aが光軸Lに向かって張り出しているため、ギャップ18は、試料配置面2の方向を向いていない。図示の例では、ギャップ18は、光軸Lに垂直な方向を向いている。
【0038】
第2磁界型レンズ20は、第2励磁コイル22と、第2ヨーク24と、を有している。第2励磁コイル22は、図示しない電源に接続されている。第2ヨーク24は、第2励磁コイル22を囲むように設けられている。第2ヨーク24は、内側磁極25(第2内側磁極の一例)と、外側磁極26(第2外側磁極の一例)と、を有している。
【0039】
内側磁極25および外側磁極26は、環状である。内側磁極25は光軸L側に配置されており、外側磁極26は内側磁極25の外側に配置されている。内側磁極25は、第2励磁コイル22を囲んでいる部分から試料配置面2に向かって延出している。同様に、外側磁極26は、第2励磁コイル22を囲んでいる部分から試料配置面2に向かって延出している。
【0040】
外側磁極26の先端部26aと試料配置面2との間の距離D4は、内側磁極25の先端部25aと試料配置面2との間の距離D3よりも小さい。すなわち、光軸Lに沿った方向において、外側磁極26の先端部26aは、内側磁極25の先端部25aと試料配置面2との間に位置している。
【0041】
外側磁極26の先端部26aは、光軸Lに向かって張り出している。すなわち、外側磁極26の先端部26aは、外側磁極26の他の部分と比べて、光軸L側に位置している。
【0042】
光軸Lに沿った方向から見て、外側磁極26の先端部26aは、試料移動可能領域6と重なっている。また、光軸Lに沿った方向から見て、外側磁極26の先端部26aは、内側磁極25の先端部25aと重なっている。内側磁極25の先端部25aと光軸Lとの間の距離と、外側磁極26の先端部26aと光軸Lとの間の距離とは、等しい。
【0043】
内側磁極25の先端部25aで規定される開口25bの中心は、光軸L上に位置している。同様に、外側磁極26の先端部26aで規定される開口26bの中心は、光軸L上に位置している。内側磁極25の開口25bの形状、および外側磁極26の開口26bの形状は、円である。内側磁極25の開口25bの径、および外側磁極26の開口26bの径は、等しい。
【0044】
内側磁極25の先端部25aと外側磁極26の先端部26aとの間にはギャップ(空隙)28が設けられている。ギャップ28は、光軸Lを囲む環状であり、より具体的には、光軸Lを中心軸とする円筒面状である。対物レンズ100では、外側磁極16の先端部16aが光軸Lに向かって張り出しているため、ギャップ28は、試料配置面2の方向を向いていない。図示の例では、ギャップ28は、光軸Lに垂直な方向を向いている。
【0045】
第1磁界型レンズ10の構成と第2磁界型レンズ20の構成は、例えば、同じである。また、第1磁界型レンズ10と第2磁界型レンズ20とは、試料配置面2を含む仮想平面4に関して対称に配置される。
【0046】
磁場印加部30は、第1磁場印加コイル32aと、第2磁場印加コイル32bと、磁場印加コイル用ヨーク34と、を有している。
【0047】
第1磁場印加コイル32aは、第1励磁コイル12の外側に配置されている。第1磁場
印加コイル32aと第1励磁コイル12とは、例えば、同心円状に配置されている。第2磁場印加コイル32bは、第2励磁コイル22の外側に配置されている。第2磁場印加コイル32bと第2励磁コイル22とは、例えば、同心円状に配置されている。
【0048】
磁場印加コイル用ヨーク34は、第1磁場印加コイル32aおよび第2磁場印加コイル32bを囲むように設けられている。磁場印加コイル用ヨーク34は、上面および下面を備えた円柱状であり、上面および下面にはそれぞれ光軸Lを中心とする円形の開口が設けられている。磁場印加コイル用ヨーク34の内側の底面には第2磁界型レンズ20が載置されている。また、磁場印加コイル用ヨーク34の内側の上面には第1磁界型レンズ10が固定されている。
【0049】
位置調整部40は、磁場印加コイル用ヨーク34上に載置された第2磁界型レンズ20の位置を調整するためのものである。位置調整部40は、例えば第2磁界型レンズ20を光軸Lに垂直な方向(水平方向)に押すための位置調整用のネジである。図示はしないが、当該ネジは、複数設けられており、互いに異なる方向から第2磁界型レンズ20を押すことができる。位置調整部40によって、第1磁界型レンズ10に対する第2磁界型レンズ20の位置を調整することができる。これにより、容易に、第1磁界型レンズ10と第2磁界型レンズ20とを仮想平面4に関して対称に配置することができる。また、位置調整部40を用いることで、電子線を照射した状態で、第2磁界型レンズ20の位置合わせを行うことが可能である。
【0050】
固定部50は、位置調整がなされた第2磁界型レンズ20を磁場印加コイル用ヨーク34に固定するためのものである。固定部50は例えばボルトであり、当該ボルトを磁場印加コイル用ヨーク34に設けられた雌ネジに螺合することで、第2磁界型レンズ20と磁場印加コイル用ヨーク34とを固定することができる。
【0051】
なお、図示の例では、第1磁界型レンズ10を固定し、第2磁界型レンズ20を位置調整可能としたが、第1磁界型レンズ10を位置調整可能とし、第2磁界型レンズ20を固定してもよい。このとき、固定部50は、第1磁界型レンズ10を磁場印加コイル用ヨーク34に固定してもよい。また、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20の両方を位置調整可能としてもよい。このとき、固定部50は、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20の両方を磁場印加コイル用ヨーク34に固定してもよい。
【0052】
防磁筒60は、第1磁界型レンズ10と第2磁界型レンズ20との間に配置されている。防磁筒60は、試料Sを外部から対物レンズ100内に導入するための経路を囲むように設けられている。なお、対物レンズ100において、試料Sを導入するための経路と、試料Sを対物レンズ100内から取り出すための経路は、同じである。
【0053】
防磁筒60は、第1磁界型レンズ10と試料ステージ106との間、第2磁界型レンズ20と試料ステージ106との間に配置されている。防磁筒60は、筒状の部材であり、試料配置面2に近づくに従って径が小さくなる部分を有している。防磁筒60は、透磁率の高い材料で構成されている。防磁筒60の材質は、例えば、パーマロイである。
【0054】
防磁筒60が試料Sを導入するための経路に設けられているため、例えば試料Sが磁性体試料などの磁場に敏感な試料であった場合に、対物レンズ100を励磁した状態で試料Sの導入、試料Sの取り出しを行っても、試料Sの磁気特性に与える影響が小さい。
【0055】
1.3. 対物レンズの動作
(1)第1磁界型レンズおよび第2磁界型レンズの動作
図4は、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20が発生させる磁場を説明す
るための図である。なお、図4には、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。Z軸は光軸Lに沿った軸(光軸Lに平行な軸)であり、X軸およびY軸は光軸Lに垂直な軸である。図示の例では、Z方向は鉛直方向であり、X方向およびY方向は水平方向である。
【0056】
図5は、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20が発生させる垂直磁場の分布を示す図である。図5に示すグラフの横軸は光軸L上の位置であり、縦軸は垂直磁場(磁場の光軸Lに沿った方向の成分、磁場のZ成分)の大きさを示している。
【0057】
第1磁界型レンズ10の第1励磁コイル12に電源から励磁電流が供給されると、第1磁界型レンズ10は、試料Sの前方(照射レンズ側、−Z方向側)に第1磁場B1を発生させる。具体的には、第1励磁コイル12に励磁電流が供給されると、第1励磁コイル12が励磁され、第1ヨーク14内に磁束(磁路)が生じる。この磁束は、内側磁極15の先端部15aと外側磁極16の先端部16aとの間のギャップ18から漏洩し、光軸Lを中心とする回転対称な第1磁場B1が発生する。第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aが光軸Lに向かって張り出していることにより、ギャップ18は、試料Sの方向(試料配置面2の方向、Z方向)を向いていない。そのため、第1磁場B1の光軸Lに垂直な方向の成分(X,Y成分)は、試料Sの試料原点位置のみならず、試料Sの近傍の広い範囲で小さい。
【0058】
同様に、第2磁界型レンズ20の第2励磁コイル22に電源から励磁電流が供給されると、第2磁界型レンズ20は、試料Sの後方(中間レンズ側、+Z方向側)に第2磁場B2を発生させる。具体的には、第2励磁コイル22に励磁電流が供給されると、第2ヨーク24内に磁束(磁路)が生じる。この磁束は、内側磁極25の先端部25aと外側磁極26の先端部26aとの間のギャップ28から漏洩し、光軸Lを中心とする回転対称な第2磁場B2が発生する。第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26aが光軸Lに向かって張り出していることにより、ギャップ28は、試料Sの方向(試料配置面2の方向、Z方向)を向いていない。そのため、第2磁場B2の光軸Lに垂直な方向の成分(X,Y成分)は、試料Sの試料原点位置のみならず、試料Sの近傍の広い範囲で小さい。
【0059】
このように、第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aが光軸Lに向かって張り出していることにより、第1磁場B1の光軸Lに垂直な方向の成分が試料Sの近傍に到達することを防いでいる。同様に、第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26aが光軸Lに向かって張り出していることにより、第2磁場B2の光軸Lに垂直な方向の成分が試料Sの近傍に到達することを防いでいる。
【0060】
第1磁界型レンズ10が発生させる第1磁場B1の光軸Lに沿った方向の成分(Z成分)および第2磁界型レンズ20が発生させる第2磁場B2の光軸Lに沿った方向の成分は、逆方向である。そのため、第1磁場B1の光軸Lに沿った方向の成分と第2磁場B2の光軸Lに沿った方向の成分とが、互いに打ち消しあうように作用させることができる。これにより、図5に示すように、試料配置面2における光軸Lに沿った方向の磁場を極めて小さくできる。
【0061】
(2)磁場印加部の動作
図6は、磁場印加部30の動作を説明するための図である。図7は、磁場印加部30の動作を説明するための図であり、図6の領域VIIの拡大図である。図6および図7に示す矢印は、磁場印加部30が発生させる磁束の経路(磁路)を表している。
【0062】
対物レンズ100では、図6および図7に示すように、磁場印加部30によって、第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26a、外側磁極26の先端部26aと外側磁
極16の先端部16aとの間の空間、および第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aを通る磁束の経路(磁路)を形成することができる。外側磁極26の先端部26aと外側磁極16の先端部16aとの間の空間は、試料配置面2を含む。
【0063】
そのため、対物レンズ100では、外側磁極26の先端部26aと外側磁極16の先端部16aとの間の空間に、光軸Lに沿った方向の磁場B3(Z方向の磁場)を発生させることができる。したがって、対物レンズ100では、試料Sの観察時に、試料Sに光軸Lに沿った方向の磁場B3を印加することができる。これにより、例えば、試料Sが磁性体材料である場合、磁場B3によって磁気特性が変化する過程などを観察することができる。
【0064】
1.4. 透過電子顕微鏡の制御方法
次に、透過電子顕微鏡1000の制御方法について説明する。以下では、磁場印加部30によって試料Sに磁場B3を印加した状態で、試料Sの透過電子顕微鏡像を取得する場合について説明する。
【0065】
透過電子顕微鏡1000の制御方法は、第1磁界型レンズ10に第1磁場B1を発生させ、第2磁界型レンズ20に第2磁場B2を発生させる工程と、磁場印加部30によって試料配置面2に光軸Lに沿った方向の磁場を発生させる工程と、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場印加部30で発生させた磁場による対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する工程と、を含む。
【0066】
(1)第1磁場B1および第2磁場B2を発生させる工程
まず、第1磁界型レンズ10に第1磁場B1を発生させ、第2磁界型レンズ20に第2磁場B2を発生させる。具体的には、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22に電流を供給する。第1励磁コイル12および第2励磁コイル22に供給される電流量は、対物レンズ100の光学条件(例えば、焦点距離)によって決まる。
【0067】
第1磁界型レンズ10が第1磁場B1を発生させ、第2磁界型レンズ20が第2磁場B2を発生させることによって、対物レンズ100が透過電子顕微鏡像を結像する。この結果、透過電子顕微鏡1000は、試料Sの観察が可能な状態となる。
【0068】
(2)磁場B3を発生させる工程
次に、磁場印加部30によって、試料配置面2に光軸Lに沿った方向の磁場B3を発生させる。具体的には、第1磁場印加コイル32aおよび第2磁場印加コイル32bに電流を供給することによって、試料配置面2に磁場B3を発生させる。第1磁場印加コイル32aおよび第2磁場印加コイル32bに供給される電流量は、磁場B3の大きさによって決まる。また、第1磁場印加コイル32aおよび第2磁場印加コイル32bに供給される電流の向きは、磁場B3の方向によって決まる。透過電子顕微鏡1000では、試料Sに任意の磁場を印加することができる。
【0069】
(3)対物レンズの焦点距離のずれを補正する工程
図8は、磁場印加部30によって、試料Sに磁場B3が印加されている様子を模式的に示す図である。図8では、磁場B3の方向は、−Z方向である。
【0070】
磁場印加部30が発生させた磁場B3は、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20へ漏洩する。図8に示す例では、磁場B3は、−Z方向であり、第1磁場B1は、+Z方向である。すなわち、磁場B3の方向と第1磁場B1の方向とは、逆方向である。そのため、磁場B3の漏洩によって、第1磁場B1は弱められる。また、第2磁場B2は、−Z方向である。すなわち、磁場B3の方向と第2磁場B2の方向とは、同じ方向であ
る。そのため、磁場B3の漏洩によって、第2磁場B2は強められる。
【0071】
磁場印加部30が発生させる磁場B3の漏洩により電子線に作用する磁場が変化することによって、対物レンズ100の焦点距離が変化する。対物レンズ100の焦点距離が変化すると、倍率、像の回転、収差補正の条件等が変化する。したがって、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができない。
【0072】
そのため、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する。この結果、透過電子顕微鏡1000では、試料Sに磁場B3を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0073】
例えば、磁場B3と第1磁場B1が同じ方向である場合には、第1励磁コイル12の励磁を弱め、第2励磁コイル22の励磁を強める。一方、磁場B3と第2磁場B2が同じ方向である場合には、第1励磁コイル12の励磁を強め、第2励磁コイル22の励磁を弱める。図8に示す例では、磁場B3と第2磁場B2が同じ方向であるため、第1励磁コイル12の励磁を強め、第2励磁コイル22の励磁を弱める。
【0074】
磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することによって、対物レンズ100の焦点距離を、磁場B3を発生させる前の焦点距離に、近づけることができる。
【0075】
図9は、磁場印加部30によって、試料Sに磁場B3が印加されている様子を模式的に示す図である。図9では、磁場B3の方向は、+Z方向である。
【0076】
図9に示す例では、磁場B3は、+Z方向であり、第1磁場B1は、−Z方向である。すなわち、磁場B3の方向と第1磁場B1の方向とは、逆方向である。そのため、磁場B3の漏洩によって、第1磁場B1は弱められる。また、第2磁場B2は、+Z方向である。すなわち、磁場B3の方向と第2磁場B2の方向とは、同じ方向である。そのため、磁場B3の漏洩によって、第2磁場B2は強められる。したがって、図9に示す例では、第1励磁コイル12の励磁を強め、第2励磁コイル22の励磁を弱める。
【0077】
図8に示す磁場B3が+Z方向の場合と図9に示す磁場B3が−Z方向である場合とでは、第1磁場B1の方向および第2磁場B2の方向を変えている。具体的には、磁場B3の方向を変えても、磁場B3の方向と第2磁場B2の方向とを同じ方向にしている。これにより、磁場B3の漏洩が大きい場合であっても、結像に重要なレンズである第2磁界型レンズ20の焦点距離をより正確に補正できる。以下、この理由について説明する。
【0078】
透過電子顕微鏡1000では、対物レンズ100は、主として、結像に用いられる。対物レンズ100では、結像に重要なレンズは、試料Sを透過した電子線に作用する第2磁場B2をつくる第2磁界型レンズ20である。
【0079】
図示はしないが、磁場B3の方向と第2磁場B2の方向とが逆方向である場合を考える。この場合、第2励磁コイル22の励磁を強める。しかしながら、第2励磁コイル22の励磁量には限度があるため、この限度を超える漏洩が生じた場合には、第2磁界型レンズ20の焦点距離を補正できない。
【0080】
これに対して、図8および図9に示すように、磁場B3の方向と第2磁場B2の方向とが同じ方向である場合、第2励磁コイル22の励磁を弱める。したがって、磁場B3の漏洩が大きい場合でも、第2磁界型レンズ20の焦点距離を補正できる。
【0081】
なお、透過電子顕微鏡1000が走査透過電子顕微鏡である場合、対物レンズ100は、主として、電子線を集束させて電子プローブを形成するために用いられる。対物レンズ100では、電子プローブを形成するために重要なレンズは、試料Sに入射する電子線に作用する第1磁場B1をつくる第1磁界型レンズ10である。そのため、透過電子顕微鏡1000が走査透過電子顕微鏡である場合、磁場B3の方向と第1磁場B1の方向とを同じ方向にする。
【0082】
ここで、第1励磁コイル12の励磁の変化量および第2励磁コイル22の励磁の変化量は、磁場B3の大きさおよび向きによって決まる。そのため、実際に、標準試料に磁場B3を印加した状態で、第1励磁コイル12の励磁および第2励磁コイル22の励磁を調整して、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する。このときの第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件を記録する。この作業を、磁場B3の大きさおよび向きを変えて繰り返す。このようにして得られた励磁条件を基に、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件のデータベースを作成する。当該データベースは、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正するための第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件が、磁場B3の大きさおよび向きごとに登録されたものである。このデータベースを参照すれば、容易に、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することができる。
【0083】
1.5. 処理
次に、制御部120の処理について説明する。図10は、透過電子顕微鏡1000の制御部120の処理の一例を示すフローチャートである。
【0084】
まず、制御部120は、対物レンズ100の光学条件の入力が行われたか否かを判定し(S100)、光学条件の入力が行われるまで待機する(S100のNo)。
【0085】
制御部120は、対物レンズ100の光学条件の入力が行われたと判定した場合(S100のYes)、入力された光学条件に基づいて第1励磁コイル12に電流を供給して第1磁界型レンズ10に第1磁場B1を発生させ、かつ、入力された光学条件に基づいて第2励磁コイル22に電流を供給して第2磁界型レンズ20に第2磁場B2を発生させる(S102)。これにより、透過電子顕微鏡1000では、透過電子顕微鏡像が結像される。
【0086】
次に、制御部120は、試料Sに印加する磁場B3の情報が入力されたか否かを判定し(S104)、光学条件の入力が行われるまで待機する(S104のNo)。磁場B3の情報は、磁場B3の大きさおよび磁場B3の向きの情報を含む。
【0087】
制御部120は、磁場B3の情報が入力されたと判定した場合(S104のYes)、磁場印加部30によって、試料配置面2に光軸Lに沿った方向の磁場B3を発生させる(S106)。制御部120は、例えば、磁場B3の情報に基づいて第1磁場印加コイル32aおよび第2磁場印加コイル32bに電流を供給し、磁場B3を発生させる。これにより、試料Sに磁場B3が印加される。
【0088】
次に、制御部120は、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場印加部30で発生させた磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する(S108)。これにより、対物レンズ100の焦点距離のずれが補正され、試料Sに磁場B3を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0089】
記憶部122には、磁場印加部30で発生させた磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正するための第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件が、磁場B3の大きさおよび向きごとに、記憶されている。制御部120は、記憶部122から、磁場B3の大きさおよび向きに応じた、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件を読み出して、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件を決定する。
【0090】
1.6. 特徴
透過電子顕微鏡1000の制御方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0091】
透過電子顕微鏡1000の制御方法は、第1磁界型レンズ10に第1磁場B1を発生させ、第2磁界型レンズに第2磁場B2を発生させる工程と、磁場印加部30によって、試料配置面2に光軸Lに沿った方向の磁場B3を発生させる工程と、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場印加部30で発生させた磁場による対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する工程と、を含む。そのため、透過電子顕微鏡1000の制御方法によれば、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することができる。したがって、試料Sに任意の磁場を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0092】
例えば、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれが極めて大きい場合、試料SのZ方向の移動可能な範囲内で結像できなくなるという問題が生じる。透過電子顕微鏡1000の制御方法によれば、このような問題が生じない。
【0093】
透過電子顕微鏡1000の制御方法は、対物レンズ100の光学条件のずれを補正する工程では、磁場印加部30で発生した磁場B3と第1磁場B1が同じ方向である場合には、第1励磁コイル12の励磁を弱め、第2励磁コイル22の励磁を強め、磁場印加部30で発生した磁場B3と第2磁場B2が同じ方向である場合には、第1励磁コイル12の励磁を強め、第2励磁コイル22の励磁を弱める。これにより、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することができる。
【0094】
透過電子顕微鏡1000は、例えば、以下の特徴を有する。
【0095】
透過電子顕微鏡1000は、第1磁界型レンズ10に第1磁場B1を発生させ、第2磁界型レンズ20に第2磁場B2を発生させる処理と、磁場印加部30によって試料配置面2に光軸Lに沿った方向の磁場B3を発生させる処理と、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場印加部30で発生させた磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正する処理と、を行う。そのため、透過電子顕微鏡1000では、磁場印加部30が発生させた磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することができる。したがって、透過電子顕微鏡1000では、試料Sに任意の磁場を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0096】
透過電子顕微鏡1000では、磁場印加部30で発生させた磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正するための第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件が、磁場印加部30で発生させた磁場B3の大きさおよび向きごとに、記憶されている記憶部122を含む。そのため、透過電子顕微鏡1000では、容易に、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正することができる。
【0097】
1.7. 対物レンズの変形例
図11は、変形例に係る対物レンズ200を模式的に示す断面図である。
【0098】
上記の対物レンズ100では、図3に示すように、光軸Lに沿った方向から見て、第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aと内側磁極15の先端部15aとは、重なっていた。同様に、光軸Lに沿った方向から見て、第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26aと内側磁極25の先端部25aとは、重なっていた。
【0099】
これに対して、対物レンズ200では、図11に示すように、光軸Lに沿った方向から見て、第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aと内側磁極15の先端部15aとは、重なっていない。しかしながら、対物レンズ200では、光軸Lに沿った方向から見て、第1磁界型レンズ10の外側磁極16の先端部16aと試料移動可能領域6とは、重なっている。
【0100】
同様に、対物レンズ200では、光軸Lに沿った方向から見て、第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26aと内側磁極25の先端部25aとは、重なっていない。しかしながら、対物レンズ200では、光軸Lに沿った方向から見て、第2磁界型レンズ20の外側磁極26の先端部26aと試料移動可能領域6とは、重なっている。
【0101】
対物レンズ200では、対物レンズ100と同様に、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20で発生させた磁場が、試料S近傍に漏れることを防ぐことができる。
【0102】
なお、対物レンズ200では、第1磁界型レンズ10および第2磁界型レンズ20で発生させた磁場が試料S近傍に漏れることを防ぐ効果は、対物レンズ100と比べて、小さい。しかしながら、対物レンズ200では、対物レンズ100に比べて、試料Sが配置される空間の光軸Lに沿った方向の大きさを拡げることができる。したがって、対物レンズ200では、試料Sをより大きな角度で傾斜させることができる。
【0103】
2. 第2実施形態
2.1. 透過電子顕微鏡の構成
次に、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡の構成について説明する。
【0104】
図12は、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡2000を模式的に示す図である。図13は、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡2000の要部を模式的に示す図である。以下、第2実施形態に係る透過電子顕微鏡2000において、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡1000の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0105】
透過電子顕微鏡2000は、図12および図13に示すように、第1アライメントコイル116と、第2アライメントコイル118と、を含む。また、透過電子顕微鏡2000では、制御部120は、照射レンズ104、対物レンズ100、第1アライメントコイル116、第2アライメントコイル118、中間レンズ110、および投影レンズ112を制御する。
【0106】
第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118は、試料配置面2(図3等参照)を挟んで、光軸Lに沿って配置されている。図示の例では、第1アライメントコイル116は、照射レンズ104と試料配置面2との間に配置されている。第2アライメントコイル118は、試料配置面2と中間レンズ110との間に配置されている。第1アライメントコイル116は、例えば、光軸Lに沿って配置された2つのコイルで構成されている。第2アライメントコイル118は、例えば、光軸Lに沿って配置された2つのコイルで構成されている。
【0107】
2.2. 透過電子顕微鏡の制御方法
次に、透過電子顕微鏡2000の制御方法について説明する。以下では、上述した透過電子顕微鏡1000の制御方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0108】
上述した透過電子顕微鏡1000では、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることによって、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正した。
【0109】
しかしながら、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、磁場B3に起因する対物レンズ100の光学条件のずれを完全に補正できない場合がある。
【0110】
(1)軸ずれの補正
第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、磁場B3に起因する軸ずれが補正できない場合がある。ここで、軸ずれとは、電子線が光軸Lに一致せずに、光軸Lに対して電子線がずれることをいう。磁場B3に起因する軸ずれが生じると、視野のずれや、収差のずれが生じてしまう。
【0111】
そのため、透過電子顕微鏡2000では、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118で軸ずれを補正する。具体的には、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118で電子線を偏向させることによって、磁場B3に起因する軸ずれを補正する。
【0112】
(2)倍率の補正
第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、倍率のずれが補正できない場合がある。すなわち、磁場B3を発生させる前と、磁場B3を発生させた後では、倍率がずれてしまう場合がある。そのため、透過電子顕微鏡2000では、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正する。
【0113】
(3)像の回転の補正
第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、像の回転が補正できない場合がある。すなわち、磁場B3を印加すると、像が回転してしまう場合がある。像の回転とは、像の中心を回転軸とした像の回転である。例えば、像が180度回転すると、像の上下が反転する。
【0114】
透過電子顕微鏡2000では、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正する。
【0115】
(4)カメラ長の補正
第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、カメラ長のずれが補正できない場合がある。すなわち、磁場B3を印加する前と、磁場B3を印加した後では、カメラ長が変化してしまう場合がある。
【0116】
透過電子顕微鏡2000では、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因するカメラ長のずれを補正する。
【0117】
(5)照射レンズによる補正
第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させても、磁場B3に起因
する対物レンズ100の光学条件のずれを完全に補正できない場合に、照射レンズ104の励磁条件を変化させることによって、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁を変化させることで補正できない対物レンズ100の光学条件のずれを補正してもよい。
【0118】
2.3. 処理
次に、制御部120の処理について説明する。図14は、透過電子顕微鏡2000の制御部120の処理の一例を示すフローチャートである。なお、図14では、図10と同じ処理を行うステップには同じ符号を付している。以下では、図10と同じ処理を行うステップについては、その説明を省略する。
【0119】
制御部120は、磁場B3に起因する対物レンズ100の焦点距離のずれを補正した後、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118で軸ずれを補正する(S110)。
【0120】
次に、制御部120は、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正する(S112)。
【0121】
次に、制御部120は、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正する(S114)。これにより、磁場B3に起因する光学条件のずれが補正され、試料Sに磁場B3を印加した状態で、良好な透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0122】
ここで、磁場B3の大きさおよび向きによって、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118の励磁条件、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件が決まる。
【0123】
そのため、記憶部122には、磁場B3に起因する光学条件のずれを補正するための、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118の励磁条件、および中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件が、磁場B3の大きさおよび向きごとに、記憶されている。制御部120は、記憶部122から、磁場B3の大きさおよび向きに応じた、第1励磁コイル12および第2励磁コイル22の励磁条件、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118の励磁条件、および中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を読み出して、これらの励磁条件を決定する。
【0124】
なお、ここでは、ステップS110、ステップS112、およびステップS114の順で処理を行う場合について説明したが、この順序は特に限定されない。
【0125】
2.4. 特徴
透過電子顕微鏡2000の制御方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0126】
透過電子顕微鏡2000の制御方法は、第1アライメントコイル116および第2アライメントコイル118で電子線を偏向させることによって、磁場B3に起因する光軸Lに対する電子線の軸ずれを補正する工程を、さらに含む。そのため、透過電子顕微鏡2000の制御方法によれば、磁場B3に起因する軸ずれを補正することができる。
【0127】
透過電子顕微鏡2000の制御方法は、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正する工程を、さらに含む。そのため、透過電子顕微鏡2000の制御方法によれば、磁場B3に起因する
倍率のずれを補正することができる。
【0128】
透過電子顕微鏡2000の制御方法は、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正する工程を、さらに含む。そのため、透過電子顕微鏡2000の制御方法によれば、磁場B3に起因する像の回転を補正することができる。
【0129】
3. 第3実施形態
3.1. 透過電子顕微鏡の構成
次に、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡について説明する。図15は、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡3000の構成を示す図である。以下、第3実施形態に係る透過電子顕微鏡3000において、第1実施形態に係る透過電子顕微鏡1000および第2実施形態に係る透過電子顕微鏡2000の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0130】
透過電子顕微鏡3000は、図15に示すように、電子線を試料S上で走査するための走査コイル105と、試料Sを透過した電子を検出する検出器115と、を含む。すなわち、透過電子顕微鏡3000は、走査透過電子顕微鏡である。
【0131】
透過電子顕微鏡3000では、電子源102から放出された電子線は、照射レンズ104および対物レンズ100で集束されて電子プローブを形成し試料Sに照射される。走査コイル105によって、試料Sに照射される電子線は、試料S上で走査される。試料Sを透過した電子線は、対物レンズ100、中間レンズ110および投影レンズ112によって検出器115に導かれ、検出器115で検出される。検出器115の検出信号は、試料S上の照射位置の情報と関連づけられる。これにより、走査透過電子顕微鏡像を取得できる。
【0132】
走査透過電子顕微鏡像の倍率は、電子線で走査した領域の大きさによって決まる。また、走査透過電子顕微鏡像の向きは、走査方向によって決まる。
【0133】
制御部120は、走査コイル105を制御する。
【0134】
3.2. 透過電子顕微鏡の制御方法
次に、透過電子顕微鏡3000の制御方法について説明する。以下では、上述した透過電子顕微鏡1000の制御方法および透過電子顕微鏡2000の制御方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0135】
上述した透過電子顕微鏡2000では、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正した。
【0136】
これに対して、透過電子顕微鏡3000では、走査コイル105によって電子線で走査する領域の大きさを変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正する。
【0137】
また、上述した透過電子顕微鏡2000では、中間レンズ110および投影レンズ112の励磁条件を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正した。
【0138】
これに対して、透過電子顕微鏡3000では、走査コイル105によって走査方向を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正する。
【0139】
3.3. 処理
透過電子顕微鏡3000の制御部120の処理は、図14に示す倍率を補正する処理(S112)、および像の回転を補正する処理(S114)において走査コイル105を用いる点を除いて、透過電子顕微鏡2000の制御部120の処理と同じであり、その説明を省略する。
【0140】
3.4. 特徴
透過電子顕微鏡3000の制御方法は、走査コイル105によって電子線で走査する領域の大きさを変化させることによって、磁場B3に起因する倍率のずれを補正する工程を、さらに含む。そのため、透過電子顕微鏡3000の制御方法によれば、磁場B3に起因する倍率のずれを補正することができる。
【0141】
透過電子顕微鏡3000の制御方法は、走査コイル105によって電子線の走査方向を変化させることによって、磁場B3に起因する像の回転を補正する工程を、さらに含む。そのため、透過電子顕微鏡3000の制御方法によれば、磁場B3に起因する像の回転を補正することができる。
【0142】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0143】
2…試料配置面、4…仮想平面、6…試料移動可能領域、10…第1磁界型レンズ、12…第1励磁コイル、14…第1ヨーク、15…内側磁極、15a…先端部、15b…開口、16…外側磁極、16a…先端部、16b…開口、18…ギャップ、20…第2磁界型レンズ、22…第2励磁コイル、24…第2ヨーク、25…内側磁極、25a…先端部、25b…開口、26…外側磁極、26a…先端部、26b…開口、28…ギャップ、30…磁場印加部、32a…第1磁場印加コイル、32b…第2磁場印加コイル、34…磁場印加コイル用ヨーク、40…位置調整部、50…固定部、60…防磁筒、100…対物レンズ、102…電子源、104…照射レンズ、105…走査コイル、106…試料ステージ、108…試料ホルダー、110…中間レンズ、112…投影レンズ、114…撮像装置、115…検出器、116…第1アライメントコイル、118…第2アライメントコイル、120…制御部、122…記憶部、200…対物レンズ、1000…透過電子顕微鏡、2000…透過電子顕微鏡、3000…透過電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15