特許第6843932号(P6843932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843932
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】サンプルインジェクタ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/16 20060101AFI20210308BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20210308BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G01N30/16 L
   G01N27/62 X
   G01N30/26 M
   G01N30/32 C
   G01N30/72 C
【請求項の数】23
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-153383(P2019-153383)
(22)【出願日】2019年8月26日
(65)【公開番号】特開2020-38205(P2020-38205A)
(43)【公開日】2020年3月12日
【審査請求日】2019年11月7日
(31)【優先権主張番号】18190878.1
(32)【優先日】2018年8月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501205108
【氏名又は名称】エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エイドリアン ジーバース−エングラー
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−543068(JP,A)
【文献】 特開2011−089955(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/103180(WO,A1)
【文献】 特開昭62−050659(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038853(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01536228(EP,A1)
【文献】 特許第5505249(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/04,30/16,30/20−30/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル入力ポート(11)、吸引/吐出ポンプポート(12)、分析サンプルループ入力ポート(13)および分析サンプルループ出力ポート(14)、ならびに、LCポンプポート(15)およびLCカラムポート(16)を備えるLC切換バルブ(10)と、
衝サンプルループ(30)を介して前記吸引/吐出ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(20)であって、前記吸引/吐出ポンプポート(12)が前記サンプル入力ポート(11)に接続された場合にサンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)へと吸引するための吸引ポンプ(20)と、
前記分析サンプルループ入力ポート(13)と前記分析サンプルループ出力ポート(14)との間で前記LC切換バルブ(10)に接続された分析サンプルループ(40)であって、前記分析サンプルループ入力ポート(13)が前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続された場合に、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の少なくとも一部を受け取るための分析サンプルループ(40)と、
前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)と、
前記LCポンプポート(15)に流体連結されたLCポンプ(60)であって、前記LCポンプポート(15)が前記分析サンプルループ出力ポート(14)に流体接続され、前記LCカラムポート(16)が前記分析サンプルループ入力ポート(13)に流体接続された場合に、前記分析サンプルループ(40)に受け取られた前記サンプル(1)を、前記LCカラム(50)へと注入するための、LCポンプ(60)と
を備え
前記吸引ポンプ(20)は、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)から、計量された容量の前記サンプル(1)を前記分析サンプルループ(40)に吐出する計量ポンプ(20)でもある、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタ(100)
【請求項2】
前記サンプル入力ポート(11)が廃棄ポートでもある、請求項1に記載のサンプルインジェクタ(100)
【請求項3】
前記分析サンプルループ入力ポート(13)が前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続された場合に、前記分析サンプルループ出力ポート(14)が前記サンプル入力ポート(11)に接続される、請求項1または2に記載のサンプルインジェクタ(100)
【請求項4】
前記緩衝サンプルループ(30)が、前記分析サンプルループ(40)の内部容積よりも大きな内部容積を有する、および/または、前記分析サンプルループ(40)の内径よりも大きな内径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のサンプルインジェクタ(100)
【請求項5】
前記吸引ポンプ(20)を前記緩衝サンプルループ(30)に流体接続する二次バルブ(70)をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のサンプルインジェクタ(100)
【請求項6】
前記サンプル(1)に接触した、前記サンプルインジェクタ(100)の少なくとも一部を通して洗浄流体(81)を送液するための、前記二次バルブ(70)に接続された洗浄ポンプ(80)をさらに備える、請求項5に記載のサンプルインジェクタ(100)
【請求項7】
サンプル入力ポート(11)、吸引/吐出ポンプポート(12)、分析サンプルループ入力ポート(13)および分析サンプルループ出力ポート(14)、ならびに、LCポンプポート(15)およびLCカラムポート(16)を備えるLC切換バルブ(10)と、
緩衝サンプルループ(30)を介して前記吸引/吐出ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(21)であって、前記吸引/吐出ポンプポート(12)が前記サンプル入力ポート(11)に接続された場合にサンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)へと吸引するための吸引ポンプ(21)と、
前記分析サンプルループ入力ポート(13)と前記分析サンプルループ出力ポート(14)との間で前記LC切換バルブ(10)に接続された分析サンプルループ(40)であって、前記分析サンプルループ入力ポート(13)が前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続された場合に、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の少なくとも一部を受け取るための分析サンプルループ(40)と、
前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)と、
前記LCポンプポート(15)に流体連結されたLCポンプ(60)であって、前記LCポンプポート(15)が前記分析サンプルループ出力ポート(14)に流体接続され、前記LCカラムポート(16)が前記分析サンプルループ入力ポート(13)に流体接続された場合に、前記分析サンプルループ(40)に受け取られた前記サンプル(1)を、前記LCカラム(50)へと注入するための、LCポンプ(60)と
を備えた、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタ(100’)であって、
前記サンプルインジェクタ(100’)が、前記吸引ポンプ(21)を前記緩衝サンプルループ(30)に流体接続する二次バルブ(70)をさらに備え、
前記吸引ポンプ(21)によって前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)から、計量された容量の前記サンプル(1)を前記分析サンプルループ(40)に吐出するための、前記二次バルブ(70)に接続された計量ポンプ(22)をさらに備え、前記計量ポンプ(22)は、前記吸引ポンプ(21)よりも、より正確であり、前記吸引ポンプ(21)は前記計量ポンプ(22)よりも高速である、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタ(100’)。
【請求項8】
前記サンプル入力ポート(11)が廃棄ポートでもある、請求項7に記載のサンプルインジェクタ(100’)。
【請求項9】
前記分析サンプルループ入力ポート(13)が前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続された場合に、前記分析サンプルループ出力ポート(14)が前記サンプル入力ポート(11)に接続される、請求項7または8に記載のサンプルインジェクタ(100’)。
【請求項10】
前記緩衝サンプルループ(30)が、前記分析サンプルループ(40)の内部容積よりも大きな内部容積を有する、および/または、前記分析サンプルループ(40)の内径よりも大きな内径を有する、請求項7〜9のいずれか1項に記載のサンプルインジェクタ(100’)。
【請求項11】
前記サンプル(1)に接触した、前記サンプルインジェクタ(100’)の少なくとも一部を通して洗浄流体(81)を送液するための、前記二次バルブ(70)に接続された洗浄ポンプ(80)をさらに備える、請求項7〜10のいずれか1項に記載のサンプルインジェクタ(100’)。
【請求項12】
サンプル入力ポート(11)、吸引/吐出ポンプポート(12)、分析サンプルループ入力ポート(13)および分析サンプルループ出力ポート(14)、ならびに、LCポンプポート(15)およびLCカラムポート(16)を備えるLC切換バルブ(10)を備えるサンプルインジェクタ(100)により、液体クロマトグラフィ用のサンプル(1)を注入する方法であって、
前記吸引/吐出ポンプポート(12)を前記サンプル入力ポート(11)に接続することにより、緩衝サンプルループ(30)を介して前記吸引/吐出ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(20)によって、所定容量のサンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)に吸引する工程と、
前記分析サンプルループ入力ポート(13)を前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続することにより、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の少なくとも一部を、前記分析サンプルループ入力ポート(13)と前記分析サンプルループ出力ポート(14)との間で前記LC切換バルブ(10)に接続された分析サンプルループ(40)に受け取る工程と、
前記LCポンプポート(15)を前記分析サンプルループ出力ポート(14)に接続し、前記LCカラムポート(16)を前記分析サンプルループ入力ポート(13)に接続することにより、前記分析サンプルループ(40)に受け取られた前記サンプル(1)を、前記LCポンプポート(15)に流体接続されたLCポンプ(60)によって、前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)へ注入する工程と
を備え、前記吸引ポンプ(20)は、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)から、計量された容量の前記サンプル(1)を前記分析サンプルループ(40)に吐出する計量ポンプ(20)でもある、方法。
【請求項13】
前記分析サンプルループ(40)に受け取られる分析サンプル(1)の容量よりも大きな所定容量の前記サンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)に吸引する工程を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記吸引ポンプ(20)により、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の容量よりも小さい計量された容量の前記分析サンプル(1)を、前記分析サンプルループ(40)に吐出する工程を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記緩衝サンプルループ(30)を介して洗浄ポンプ(80)により、前記サンプル(1)に接触した、前記サンプルインジェクタ(100)の少なくとも一部を通して洗浄流体(81)を送液する工程を備える、請求項1214のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプル入力ポート(11)を前記吸引/吐出ポンプポート(12)に、または前記分析サンプルループ出力ポート(14)に接続することにより、前記サンプル入力ポート(11)を介して過剰の前記サンプル(1)および/または洗浄流体を廃棄する工程を備える、請求項1215のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
サンプル入力ポート(11)、吸引/吐出ポンプポート(12)、分析サンプルループ入力ポート(13)および分析サンプルループ出力ポート(14)、ならびに、LCポンプポート(15)およびLCカラムポート(16)を備えるLC切換バルブ(10)を備えるサンプルインジェクタ(100’)により、液体クロマトグラフィ用のサンプル(1)を注入する方法であって、
前記吸引/吐出ポンプポート(12)を前記サンプル入力ポート(11)に接続することにより、緩衝サンプルループ(30)を介して前記吸引/吐出ポンプポート(12)に流体接続された吸引ポンプ(21)によって、所定容量のサンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)に吸引する工程と、
前記分析サンプルループ入力ポート(13)を前記吸引/吐出ポンプポート(12)に接続することにより、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の少なくとも一部を、前記分析サンプルループ入力ポート(13)と前記分析サンプルループ出力ポート(14)との間で前記LC切換バルブ(10)に接続された分析サンプルループ(40)に受け取る工程と、
前記LCポンプポート(15)を前記分析サンプルループ出力ポート(14)に接続し、前記LCカラムポート(16)を前記分析サンプルループ入力ポート(13)に接続することにより、前記分析サンプルループ(40)に受け取られた前記サンプル(1)を、前記LCポンプポート(15)に流体接続されたLCポンプ(60)によって、前記LCカラムポート(16)に流体接続されたLCカラム(50)へ注入する工程と
を備える、方法であって、
前記サンプルインジェクタ(100’)が、前記吸引ポンプ(21)を前記緩衝サンプルループ(30)に流体接続する二次バルブ(70)をさらに備え、
前記吸引ポンプ(21)によって前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)から、計量された容量の前記サンプル(1)を前記分析サンプルループ(40)に吐出するための、前記二次バルブ(70)に接続された計量ポンプ(22)をさらに備え、前記計量ポンプ(22)は、前記吸引ポンプ(21)よりも、より正確であり、前記吸引ポンプ(21)は前記計量ポンプ(22)よりも高速である、方法。
【請求項18】
前記分析サンプルループ(40)に受け取られる分析サンプル(1)の容量よりも大きな所定容量の前記サンプル(1)を前記緩衝サンプルループ(30)に吸引する工程を備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記二次バルブ(70)を介して前記緩衝サンプルループに流体接続された計量ポンプ(22)により、前記緩衝サンプルループ(30)に吸引された前記サンプル(1)の容量よりも小さい計量された容量の前記分析サンプル(1)を、前記分析サンプルループ(40)に吐出する工程を備える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記緩衝サンプルループ(30)を介して洗浄ポンプ(80)により、前記サンプル(1)に接触した、前記サンプルインジェクタ(100’)の少なくとも一部を通して洗浄流体(81)を送液する工程を備える、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプル入力ポート(11)を前記吸引/吐出ポンプポート(12)に、または前記分析サンプルループ出力ポート(14)に接続することにより、前記サンプル入力ポート(11)を介して過剰の前記サンプル(1)および/または洗浄流体を廃棄する工程を備える、請求項17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のサンプルインジェクタ(100、100’)を備える液体クロマトグラフィシステム(200)。
【請求項23】
請求項22に記載の液体クロマトグラフィシステム(200)と、前記液体クロマトグラフィシステム(200)に連結された質量分析計(250)とを備える臨床診断システム(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サンプルインジェクタ、液体クロマトグラフィ用のサンプルを注入する方法、液体クロマトグラフィシステム、および臨床診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、液体クロマトグラフィ(LC)サンプル注入を行うために、サンプルループからLCカラムに高圧LCポンプによって送液される前に、マルチポート高圧LC切換バルブのそれぞれのポートに連結された2つの端部を有する所定の内部容量を有するチューブであるサンプルループにサンプルがロードされ、LCポンプおよびLCカラムはいずれも、同じバルブの他のポートに流体連結される。サンプルは、負圧および/または正圧を発生させる同じバルブにやはり連結された専用のポンプ、通常、シリンジポンプにより、サンプルループ内でサンプルラインからの引き出し、または押し込みが行われ得る。
【0003】
多くの連続したサンプル注入サイクルを必要とする高スループットの用途の場合に、特に、場合によっては、異なる注入条件、たとえば、異なるサンプル容量、異なる流量、異なる圧力などを必要とする異なるサンプルのランダムアクセス分析の場合に、スケジューリングされたシーケンスにおけるサンプル毎の条件に適合させるうえでの柔軟性、およびサンプルローディングの速度が重要である。たとえば、オンライン希釈を可能にするための、柔軟性の向上の試みにおいて、2つの高圧LC切換バルブ、2つのサンプルループ、さらなるバルブ、および複数のポンプを使用した修正されたサンプルインジェクタが、たとえば特許第5505249号公報などにおいて提案されている。しかし、そうした解決手段は、標準の解決手段よりも遅い。さらに、種々の流体ラインおよび接続を含む複雑な流体構造は、洗浄処理を非効率にし、種々のサンプル間のキャリーオーバのリスクを増加させ、デッドボリュームも増加させ、したがって、より大きな合計サンプル容量の使用を必要とする。
【発明の概要】
【0004】
高スループットおよびランダムアクセスの液体クロマトグラフィに好適であり、および、以下の利点のうちの1つまたは複数を有し得る、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタを本明細書に開示している。これは短い注入サイクル時間を可能にし得る。これは正確性を維持しながら、高速のサンプルローディングを可能にし得る。これは、注入条件を適合させる、たとえば、注入される分析サンプルの容量を適合させるうえでの柔軟性を可能にし得る。これはサンプルキャリーオーバを最小にする。内部流体容量を最小にし、よって、より少ない合計サンプル量を必要とし、マイクロLC(μLC)および/または細孔LCとの互換性を可能にする。1つの高圧LC切換バルブのみを必要とし、よって、単純なままで、制御および保守が簡単であり、コンパクトかつコスト効果が高い状態が維持される。
【0005】
同じ利点のうちの任意の1つまたは複数を有する、液体クロマトグラフィ用のサンプルを注入する方法も開示している。
【0006】
同じ利点のうちの任意の1つまたは複数を提供する、本開示のサンプルインジェクタを備える液体クロマトグラフィシステム、および、本開示の液体クロマトグラフィシステムを備える臨床診断システムも本明細書において開示している。
【0007】
本開示のサンプルインジェクタは、サンプル入力ポート、吸引/吐出ポンプポート、分析サンプルループ入力ポートおよび分析サンプルループ出力ポート、ならびに、LCポンプポートおよびLCカラムポートを備えるLC切換バルブを備える。サンプルインジェクタはさらに、緩衝サンプルループを介して吸引/吐出ポンプポートに流体接続された吸引ポンプであって、吸引/吐出ポンプポートがサンプル入力ポートに接続された場合にサンプルを緩衝サンプルループへと吸引するための吸引ポンプと、分析サンプルループ入力ポートと分析サンプルループ出力ポートとの間でLC切換バルブに接続された分析サンプルループであって、分析サンプルループ入力ポートが吸引/吐出ポンプポートに接続された場合に、緩衝サンプルループに吸引されたサンプルの少なくとも一部を受け取るための分析サンプルループと、LCカラムポートに流体接続されたLCカラムと、LCポンプポートに流体連結されたLCポンプであって、LCポンプポートが分析サンプルループ出力ポートに流体接続され、LCカラムポートが分析サンプルループ入力ポートに流体接続された場合に、分析サンプルループに受け取られたサンプルを、LCカラムへと注入するための、LCポンプとを備える
【0008】
「サンプル」という用語は、関心のある1つまたは複数の分析物を含んでいる疑いのあり、その定性的な、および/または定量的な検出が臨床条件に関連付けられ得る生体物質を表す。サンプルは、血液、唾液、眼球レンズ液、脳脊髄液、汗、尿、乳汁、腹水、腹水液、滑液、腹腔液、羊膜液、組織、細胞等を含む生理液などの任意の生物学的ソースから得ることが可能である。サンプルには、血液からの血漿または血清の調製、粘性流体の希釈、溶解等などの前処理を使用前に行うことが可能である。処理の方法には、濾過、遠心分離、蒸留、濃縮、干渉成分の不活性化、および試薬の添加が関係し得る。サンプルは、場合によっては、ソースから得られたままで直接、または、たとえば、内部の標準を加えた後に、別の溶液で希釈した後に、または、たとえば、1つまたは複数の体外診断検査を行うことを可能にするために、試薬で混合した後に、サンプルの特性を修正するために、または、関心のある分析物の濃縮(enriching)(抽出/分離/濃縮(concentrating))のために、および/または、関心のある分析物の検出に潜在的に干渉するマトリックス成分を除去するために、前処理および/またはサンプル調製ワークフローに続いて使用し得る。関心のある分析物の例は、ビタミンD、乱用薬、治療薬、ホルモン、および、一般に、代謝物質である。しかし、このリストは網羅的でない。
【0009】
「液体クロマトグラフィすなわちLC」は、サンプルインジェクタによって注入されたサンプルを、LCカラムを介したクロマトグラフ分離に、たとえば、マトリックス成分、たとえば、その後の検出、たとえば質量分析検出になお干渉し得る、サンプル調製後の残りのマトリックス成分と、関心のある分析物を分離するために、および/または、互いと、関心のある複数の分析物をそれらの個々の検出を可能にするために分離するためにかける分析処理である。「高速液体クロマトグラフィ」すなわちHPLC、「超高速液体クロマトグラフィ」すなわちUHPLC、「マイクロ液体クロマトグラフィ」すなわちμLC、および「小ボア液体クロマトグラフィ」すなわち小ボアLCは、圧力下で行われる液体クロマトグラフィの形態である。
【0010】
「LCカラム」は、クロマトグラフィ性分離を行うための、カラム、カートリッジ、キャピラリ等のいずれかを表し得る。カラムは、通常、選択された条件下で、たとえば、一般に知られているように、それらの極性またはlogP値、サイズ、またはアフィニティによって、関心のある分析物のトラップおよび/または分離および溶出および/または移動を行うために移動相がそれを介して送液される固定相で充填またはロードされる。この固定相は、粒子状またはビーズ状、または多孔質性モノリスであり得る。しかし、「カラム」との語は、固定相で充填またはロードされていないキャピラリも表し得るが、分離を行うためにキャピラリの内壁の表面積に依存し得る。LCカラムは、1つまたは複数の他のLCカラムと、交換可能であり、および/または、並列に、または順に動作し得る。LCカラムは、たとえば、高速のトラップおよび溶出オンラインLCカラム、高速LC(HPLC)カラム、または超高速LC(UHPLC)カラムである場合があり、1mm未満の内径を有する小ボアLCカラムおよびマイクロLCカラムを含め、任意のサイズのものであり得る。
【0011】
「バルブ」との語は、流れを制御、変更、制限または停止するための流れ調節装置である。「LC切換バルブ」は、ポートに接続された要素間の流れを制御するマルチポートバルブである。これは通常、異なる要素間の導通を切り換えるために1つまたは複数のバルブ導管を移動させることによって実現される。要素は、パイプ、チューブ、キャピラリ、マイクロ流体チャネル等などのさらなる導管を介して、および、ねじ/ナットおよびフェルールなどの嵌め込み、または、たとえば、クランプ機構により、所定の位置に維持された、代替的な液密封止材によって流体接続され得る。LC切換バルブは通常、おおよそ、HPLCに使用される大きさ以上の液圧を可能にすることができる。
【0012】
本開示のLC切換バルブは、サンプル入力ポート、吸引/吐出ポンプポート、分析サンプルループ入力ポートおよび分析サンプルループ出力ポート、ならびに、LCポンプポートおよびLCカラムポートを備える。
【0013】
一実施形態によれば、LC切換バルブは、0.6mm未満の、たとえば約0.5mm〜0.2mm、たとえば約0.4mm〜約0.25mmの内径を有する内側バルブ導管を有する。
【0014】
一実施形態によれば、LC切換バルブは、約500ms未満のスイッチング時間を有する。
【0015】
「サンプル入力ポート」は、たとえば、サンプル入力ポートとの流体接続において配置されたニードルを介して、サンプルコンテナからバルブにそれを通って入り得るバルブポートである。一実施形態によれば、上記サンプル入力ポートは、場合によっては、同じサンプルニードルを介して、廃棄コンテナ内にサンプルインジェクタからの廃液を廃棄するための廃棄ポートでもある。
【0016】
「吸引/吐出ポンプポート」は、バルブポートであって、それを通って、サンプル入力ポートを介して入ったサンプルが、少なくとも一時的には、バルブに再び入ってくる前にバルブを出るバルブポートである。具体的には、吸引ポンプは、吸引/吐出ポンプポートがサンプル入力ポートに接続された場合に、緩衝サンプルループ内にサンプルを吸引するために、緩衝サンプルループを介して吸引/吐出ポンプポートに流体接続される。
【0017】
「分析サンプルループ入力ポート」および「分析サンプルループ出力ポート」は、分析サンプルループ入力ポートが吸引/吐出ポンプポートに接続された場合に、緩衝サンプルループに、吸引されたサンプルの少なくとも一部を受け取るために分析サンプルループの2つのそれぞれの端部がそれらに接続されたバルブポートである。
【0018】
「LCカラムポート」は、LCカラムがそれに流体接続されたバルブポートである。
【0019】
「LCポンプポート」は、LCポンプポートが分析サンプルループ出力ポートに流体接続され、LCカラムポートが分析サンプルループ入力ポートに流体接続された場合に、LCカラム内に、分析サンプルループに受け取られたサンプルを注入するために、LCボンプがそれが流体接続されたバルブポートである。
【0020】
一実施形態によれば、分析サンプルループ入力ポートが吸引/吐出ポンプポートに接続された場合に、分析サンプルループ出力ポートがサンプル入力ポートに接続される。
【0021】
「LCポンプ」は、圧力容量において変動し得る一方、安定した、および再現可能な体積流量をもたらし得るポンプである。HPLCにおける圧力は通常、最高、60MPaまたは約600気圧に達し得る一方、UHPLCおよびμ−LCシステムは、なお一層高い圧力、たとえば最高120MPaまたは約1200気圧において機能するように開発されており、したがって、LCカラムにおいてずっと小さな粒径(<2μm)を使用することができる。LCポンプは、溶出グラジエントの使用を必要とする条件の場合にバイナリポンプとしても構成し得る。
【0022】
一実施形態によれば、サンプルインジェクタは、少なくとも1つのバイナリLCポンプ、たとえば、1つまたは2つの高圧グラジエントポンプを備える。
【0023】
一実施形態によれば、LCポンプは、60MPa〜90MPa、たとえば、75MP〜85MPa、たとえば80MPaをもたらし得る。
【0024】
一実施形態によれば、LCポンプは、1μL/分および300μL/分の間、またはそれ以上の流量で動作し、および、通常、100μL/分および250μL/分の間の流量、および、たとえば約±5%以下の正確性で動作するように構成することが可能である。
【0025】
本開示による「吸引ポンプ」は、通常、LCポンプと比較して、構成が単純であり、および安価であり、大幅に低い圧力で動作するポンプである。吸引ポンプは、通常、シリンジポンプであるが、正確性および速度の要件に応じて、他のタイプのポンプを使用することができる。
【0026】
「緩衝サンプルループ」との語は、導管、通常、所定の長さおよび直径、ならびに、よって、ポート、具体的には、同じLC切換バルブであって、分析サンプルループが両端によってもそのバルブに接続された同じLC切換バルブの吸引/吐出ポンプポートに一方端のみを接続させた所定の内部容積を有するチューブを表す。緩衝サンプルループの他方端は吸引ポンプに流体接続される。
【0027】
「分析サンプルループ」との語は、導管、通常、所定の長さおよび直径、ならびに、よって、分析サンプルループ入力ポートが吸引/吐出ポンプポートに接続された場合に、緩衝サンプルループに、吸引されたサンプルの少なくとも一部を受け取るために、同じLC切換バルブの2つのそれぞれのポートに、具体的には、分析サンプルループ入力ポートおよび分析サンプルループ出力ポートそれぞれに2つの端部を接続させた所定の内部容積を有するチューブを表す。分析サンプルループの所定の内部容積は、LCカラム内に導入することが可能なサンプルの最大容量を定める。しかし、注入することが可能なサンプルの容量は、緩衝サンプルループから分析サンプルループ内にどれだけのサンプル容量が受け取られるかに依存し、これは、分析サンプルループの合計内部容積の一部である場合があり、したがって、都度、特定のLC条件に応じて変動し得る。よって、注入される分析サンプルの容量を適合させることにより、注入条件を適合させることにおける柔軟性を実現することが可能である。さらに、緩衝サンプルループへのサンプルローディングは、分析サンプルループからLCカラム内へのサンプル注入と独立して、たとえば、少なくとも部分的に並行して行われ得るので、さらなる時間節約および、よって、より高いスループットを実現することが可能である。
【0028】
一実施形態によれば、分析サンプルループは、0.5mm未満、または0.3mm未満の内径、および、約20μL未満、たとえば約10μLの合計内部容積を有する。
【0029】
一実施形態によれば、緩衝サンプルループは、分析サンプルループの内部容積よりも大きな内部容積、および/または、分析サンプルループの内径よりも大きな内径を有する。より大きな内径は、流量、および、よって、時間節約の点で有利な効果を有し得る。
【0030】
一実施形態によれば、サンプルインジェクタは、吸引ポンプを緩衝サンプルループに流体接続する二次バルブをさらに備える。二次バルブは、LC切換バルブと比較して低圧のバルブであり得る。
【0031】
一実施例によれば、サンプルインジェクタは、サンプルに接触した、サンプルインジェクタの少なくとも一部を通して洗浄流体を送液するための、二次バルブに接続された洗浄ポンプをさらに備える。洗浄ポンプは、吸引ポンプと、構成および設計において同様であり得る。しかし、より大きな容量を送液し、および/または、より高い流量で送液し、場合によっては、正確性の点で、より低い要件を有するように構成し得る。洗浄流体は、異なるサンプル間のキャリーオーバを最小にするために、連続したサンプル注入間のサンプルと接触した部分を洗浄するための、1つまたは複数の添加剤、たとえば、洗剤または反応性物質を含む溶液、溶媒、または、水を含む流体であり得る。
【0032】
一実施例によれば、サンプルインジェクタは、吸引ポンプによって緩衝サンプルループに吸引されたサンプルから、計量された容量のサンプルを分析サンプルループに吐出するための、二次バルブに接続された計量ポンプをさらに備える。計量ポンプは、吸引ポンプと構成および設計において同様であり得る。しかし、吸引ポンプよりも、より正確であるように構成し、たとえば、緩衝サンプルループに、緩衝サンプルループからのサンプルの容量をより正確に計量するために、より小さな容量を送液するように構成し得る一方、吸引ポンプは、できる限り迅速に緩衝サンプルループにサンプルの十分に大きく、および、必ずしも正確でない容量をロードするために計量ポンプよりも高速である。
【0033】
一実施形態によれば、吸引ポンプは、緩衝サンプルループに吸引されたサンプルから、計量された容量のサンプルを分析サンプルループに吐出するための計量ポンプでもある。この場合、吸引/計量ポンプは、速度と正確性との間の最善の妥協策に対して最適化され得る。
【0034】
サンプル入力ポート、吸引/吐出ポンプポート、分析サンプルループ入力ポートおよび分析サンプルループ出力ポート、ならびに、LCポンプポートおよびLCカラムポートを備えるLC切換バルブを介して、液体クロマトグラフィ用のサンプルを注入する方法も開示している。上記方法は、吸引/吐出ポンプポートをサンプル入力ポートに接続することにより、緩衝サンプルループを介して吸引/吐出ポンプポートに流体接続された吸引ポンプによって、所定容量のサンプルを緩衝サンプルループに吸引する工程を備える。上記方法はさらに、分析サンプルループ入力ポートを吸引/吐出ポンプポートに接続することにより、緩衝サンプルループに吸引されたサンプルの少なくとも一部を、分析サンプルループ入力ポートと分析サンプルループ出力ポートとの間でLC切換バルブに接続された分析サンプルループに受け取る工程を備える。上記方法はさらに、LCポンプポートを分析サンプルループ出力ポートに接続し、LCカラムポートを分析サンプルループ入力ポートに接続することにより、分析サンプルループに受け取られたサンプルを、LCポンプポートに流体接続されたLCポンプによって、LCカラムポートに流体接続されたLCカラムへ注入する工程を備える。
【0035】
一実施形態によれば、上記方法はさらに、分析サンプルループに受け取られる分析サンプルの容量よりも大きな所定容量のサンプルを緩衝サンプルループに吸引する工程を備える。
【0036】
一実施形態によれば、上記方法はさらに、吸引ポンプにより、または、二次バルブを介して緩衝サンプルループに流体接続された計量ポンプにより、緩衝サンプルループ内に吸引されたサンプルの容量よりも小さい計量された容量の分析サンプルを、分析サンプルループに吐出する工程を備える。
【0037】
一実施形態によれば、上記方法はさらに、緩衝サンプルループを介して洗浄ポンプにより、サンプルに接触した、サンプルインジェクタの少なくとも一部を通して洗浄流体を送液する工程を備える。
【0038】
一実施形態によれば、上記方法はさらに、サンプル入力ポートを吸引/吐出ポンプポートに、または分析サンプルループ出力ポートに接続することにより、サンプル入力ポートを介して過剰のサンプルおよび/または洗浄流体を廃棄する工程を備える。
【0039】
前述の実施形態のいずれかによるサンプルインジェクタを備える液体クロマトグラフィシステムも本明細書において開示している。
【0040】
さらに、液体クロマトグラフィシステムと、上記液体クロマトグラフィシステムに結合された質量分析計を備える臨床診断システムを本明細書において開示している。
【0041】
「液体クロマトグラフィシステム」は、液体クロマトグラフィを行い、および、開示された実施形態のいずれかによるサンプルインジェクタを備える、分析装置におけるユニット、または分析装置もしくはモジュールである。液体クロマトグラフィシステムは、並列に、および/または直列に配置された複数のLCカラムを備えるマルチチャネルシステムとして、または単一のチャネルとして実施することができる。
【0042】
「臨床診断システム」は、体外診断のためのサンプルの分析のための研究室自動化装置である。臨床診断システムは、必要性により、および/または、所望の研究室ワークフローにより、異なる構成を有し得る。さらなる構成は、複数の装置および/またはモジュールを併せて連結することによって得ることができる。「モジュール」は、通常、特化した機能を有する臨床診断システム全体よりもサイズが小さい作業セルである。この機能は、分析的であり得るが、分析前的であり、または分析後的である場合もあり、または、分析前機能、分析機能、または分析後機能のいずれかに対する補助機能であり得る。具体的には、たとえば、1つまたは複数の分析前および/または分析および/または分析後工程を行うことにより、サンプル処理ワーフフローの特化されたタスクを行うための1つまたは複数の他のモジュールと協働するように構成され得る。よって、臨床診断システムは、1つの分析装置、または、それぞれのワークフローを有するそうした分析装置のいずれかの組み合わせを備えている場合であって、分析前および/または分析後モジュールを個々の分析装置に結合し得るか、または、複数の分析装置によって共有し得る場合である。代替的な分析前および/または分析後機能は、分析装置内に一体化されたユニットによって行い得る。臨床診断システムは、サンプルおよび/または試薬および/またはシステム流体のピペットおよび/または送液および/または混合のための液体ハンドリングユニットなどの機能ユニット、および、さらに、選別、貯留、輸送、同定、分離、検出のための機能ユニットを備え得る。具体的には、臨床診断システムは、互いに連結された個々の、および交換可能なユニットとして識別可能であり、または少なくとも部分的に共通のシステムハウジング内に一体化された、液体クロマトグラフィシステム、および液体クロマトグラフィシステムに連結された質量分析計を備える。
【0043】
さらに詳細には、臨床診断システムは、サンプルの自動調製のためのサンプル調製モジュール、サンプルインジェクタを介してサンプル調製モジュールに連結された液体クロマトグラフィシステム、および、LC/MSインターフェースを介して液体クロマトグラフィシステムに連結された質量分析計(MS)モジュールを備え得る。
【0044】
一実施例によれば、液体クロマトグラフィシステムは、質量分析用のサンプルを調製し、および/または、調製されたサンプルを質量分析計に移送するように設計された中間分析モジュールである。具体的には、通常、LCラン中に、質量分析計は、特定の質量範囲をスキャンするようにセットされ得る。LC/MSデータは、個々の質量スキャンにおけるイオン電流を加算し、その「合計」イオン電流を、時間に対する強度点としてプロットすることによって表すことが可能である。結果として生じるプロットは、分析物ピークを有するHPLC UVトレースのように見える。さもなければ、液体クロマトグラフィシステムは、UV検出器などの、それ自身の検出器を備え得る。
【0045】
「質量分析計(MS)」は、液体クロマトグラフィシステムから溶出された複数の分析物をさらに、それらの質量電荷比に基づいて分離し、および/または検出するように設計された質量分析装置を備える分析装置である。一実施例によれば、質量分析計は、高速スキャン質量分析計である。一実施例によれば、質量分析計は、複数の親分子イオンを選択し、衝突誘起フラグメンテーションによってフラグメントを発生させ、フラグメントまたは娘イオンをそれらの質量電荷(m/z)比によって分離することによって選択することができるタンデム質量分析計である。一実施例によれば、質量分析計は、当該技術分野において知られているように、三連四重極型質量分析計である。四重極型以外に、飛行時間型、イオントラップ型、またはそれらの組み合わせを含む他のタイプの質量分析装置計も使用することができる。LC/MSインタフェースは、荷電分析種分子(分子イオン)の発生、および分析物分子の気体相への移行のためのイオン化ソースを備える。特定の実施形態によれば、イオン化ソースは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)ソースまたは加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)ソースまたは大気圧化学イオン化(APCI)ソースまたは大気圧光イオン化(APPI)または大気圧レーザーイオン化(APLI)ソースである。LC/MSインタフェースは、しかし、ダブルイオン化ソース、たとえば、ESIおよびAPCIソースの両方、またはモジュール交換可能なイオン化ソースを備え得る。
【0046】
臨床診断システムはさらに、コントローラを備え得る。「コントローラ」との語は、本明細書では、任意の物理的または仮想的な処理装置、具体的には、動作プランにより、および、LC切換バルブの切換の制御、および、LPポンプ、吸引ポンプ、計量ポンプ、洗浄ポンプのいずれかの1つまたは複数の動作の制御を含む、LC切換バルブを介して、液体クロマトグラフィ用のサンプルを導入する方法に関連付けられて、動作を行うための命令を設けたコンピュータ読み取り可能なプログラムを実行するプログラマブルロジックコントローラを包含する。コントローラは、サンプルインジェクタの、または、液体クロマトグラフィシステムの一部であり、または、それらと通信する別個の論理エンティティであり得る。一部の実施形態では、コントローラは、データマネジメント装置と一体化されている場合があり、サーバーコンピュータによって構成され、および/または、1つの臨床診断システムの一部であり、または、複数の臨床診断システムにわたって分散させられている場合もある。
【0047】
コントローラはさらに、ワークフローおよびワークフロー工程が臨床診断システムによって行われるように臨床診断システムを制御するように構成可能でもあり得る。
【0048】
具体的には、コントローラは、いつ、およびどのサンプルを調製しなければならないか、および、サンプル毎にいつ、およびどの調製工程を実行しなければならないかを決定するために、分析順序の実行に関連付けられたいくつかのスケジューリングされた処理動作、および、入ってくる分析順序および/または、受け取られた分析順序を考慮に入れるために、スケジューラおよび/またはデータマネージャと通信および/または協働し得る。同じまたは異なるタイプのサンプルに含まれる、関心のある異なるタイプのサンプルおよび/または異なる分析物が、異なる調製条件、たとえば、異なる試薬、または異なる数の試薬、異なる容量、異なるインキュベーション時間、異なる洗浄条件等を必要とし得るので、異なるサンプルの調製は、異なるサンプル調製ワークフローを必要とし得る。よって、コントローラは、それぞれが、たとえば、異なる工程、および/または異なる数の工程を含む、サンプル調製工程の所定のシーケンスを備え、完了のための所定の時間、たとえば、2、3分〜数分を必要とする所定のサンプル調製ワークフローに対してサンプルを割り当てるようにプログラムされ得る。
【0049】
コントローラは、異なるサンプルについて、並行して、または、時間差をつけたやり方で、行われるようにサンプル調製をスケジューリングし得る。論理的なやり方でそうすることにより、コントローラは、調製されたサンプルを、サンプルインジェクタによってロードし、LCカラム内に、および/または、液体クロマトグラフィシステム内に、注入することが可能であるペースでサンプルを調製することにより、競合を回避し、スループットを最大にする一方で、効率を向上させるために、サンプル調製ステーションの機能リソースの使用をスケジューリングする。よって、当然やはり可能である、一バッチのサンプルを事前に調製するよりも、コントローラは、入ってくる順序たとえば優先順位、調製の時点、機能リソースの要求された使用、サンプル調製が完了した時点までにそのサンプルが意図された、LCチャネルの利用可能性を考慮に入れながら、具体的には、個々のLCチャネルにより、液体クロマトグラフィシステムから得ることが可能であり、または、必要に応じて、サンプルを調製する旨をサンプル調製ステーションに指示することが可能である。
【0050】
他の、およびさらなる目的、特徴、および利点が、原理をさらに詳細に説明する役割を果たす、添付図面および例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1A】液体クロマトグラフィ用の、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する対応する方法の工程の第1の実施形態を概略的に示す。
図1B】液体クロマトグラフィ用の、図1Aにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図1C】液体クロマトグラフィ用の、図1A〜Bにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図1D】液体クロマトグラフィ用の、図1A〜Cにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図1E】液体クロマトグラフィ用の、図1A〜Dにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図2A】液体クロマトグラフィ用の、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する対応する方法の工程の第2の実施形態を概略的に示す。
図2B】液体クロマトグラフィ用の、図2Aにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図2C】液体クロマトグラフィ用の、図2A〜Bにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図2D】液体クロマトグラフィ用の、図2A〜Cにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図2E】液体クロマトグラフィ用の、図2A〜Dにおけるような、サンプルインジェクタ、およびサンプルを注入する同じ方法の別の工程の同じ実施形態を概略的に示す。
図3図1A〜2Eにおけるような、サンプルインジェクタを備える液体クロマトグラフィシステムを概略的に示す。
図4図3の液体クロマトグラフィシステムを備える臨床診断システムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1A〜Eは併せて、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタ100、および、液体クロマトグラフィ用のサンプル1を注入する対応する方法の種々の工程の第1の実施形態を概略的に示し、送液される流体の存在は、より太い線で、および、流れの方向は矢印の方向で示す。サンプルインジェクタ100は、サンプル入力ポート11、吸引/吐出ポンプポート12、分析サンプルループ入力ポート13および分析サンプルループ出力ポート14、ならびに、LCポンプポート15およびLCカラムポート16を備えるLC切換バルブ10を備える。サンプルインジェクタ100は、吸引/吐出ポンプポート12がサンプル入力ポート11に接続された場合に、緩衝サンプルループ30内に、サンプルコンテナ2からサンプル1を吸引するために、緩衝サンプルループ30を介して吸引/吐出ポンプポート12に流体接続された吸引ポンプ20と、分析サンプルループ入力ポート13が吸引/吐出ポンプポート12に接続された場合に、緩衝サンプルループ30内に吸引されたサンプル1の少なくとも一部を受け取るために、分析サンプルループ入力ポート13と分析サンプルループ出力ポート14との間でLC切換バルブ10に接続された分析サンプルループ40と、LCカラムポート16に流体接続されたLCカラム50と、LCポンプポート15が分析サンプルループ出力ポート14に流体接続され、LCカラムポート16が分析サンプルループ入力ポート13に流体接続された場合に、LCカラム50内に、分析サンプルループ40内に受け取られたサンプル1を導入するために、LCポンプポート15に流体接続されたLCポンプ60とをさらに備える。
【0053】
本実施形態では、LC切換バルブ10は、2つの切換位置をとることができる6ポートバルブである。
【0054】
具体的には、サンプル入力ポート11は、方法工程によるが、サンプルインジェクタ100から廃棄コンテナ3へと廃棄するための、廃棄ポートとしても使用することが可能である。
【0055】
図1A〜Dの実施形態における吸引ポンプ20は、緩衝サンプルループ30内に吸引されたサンプル1から、分析サンプルループ40へと、計量された容量のサンプル1を吐出するための計量ポンプ22でもある。
【0056】
サンプルインジェクタ100は、吸引ポンプ20を緩衝サンプルループ30と流体接続する二次バルブ70をさらに備える。
【0057】
サンプル1と接触した、サンプルインジェクタ100の少なくとも一部を通して洗浄流体81を送液するための二次バルブ70に接続された洗浄ポンプ80をさらに備える。
【0058】
具体的には、図1Aは、吸引/吐出ポンプポート12がサンプル入力ポート11に接続され、LCポンプポート15が分析サンプルループ出力ポート14に流体接続され、LCカラムポート16が分析サンプルループ入力ポート13に流体接続された第1の切換位置におけるLC切換バルブ10を示す。図1Aは、緩衝サンプルループ30を介して吸引/吐出ポンプポート12に流体接続された吸引ポンプ20により、緩衝サンプルループ30内に、一定容量のサンプル1を吸引する方法工程も示しており、吸引/吐出ポンプポート12はサンプル入力ポート11に接続されている。
【0059】
図1Bは、分析サンプルループ出力ポート14が(この場合廃棄ポートとして機能する)サンプル入力ポート11に接続され、分析サンプルループ入力ポート13が吸引/吐出ポンプポート12に接続され、LCポンプポート15がLCカラム16にも接続された第2の切換状態におけるLC切換バルブ10を示す。図1Bは、緩衝サンプルループ30内に吸引されたサンプル1の少なくとも一部を、分析サンプルループ入力ポート13と分析サンプルループ出力ポート14との間でLC切換バルブ10に連結された分析サンプルループ40内に吸引する方法工程も示し、分析サンプルループ入力ポート13は吸引/吐出ポンプポート12に接続されている。これは、計量ポンプでもある同じ吸引ポンプ20の動作によって行われる。
【0060】
衝サンプルループ30から分析サンプルループ40内に受け取られた、サンプルの容量は、分析サンプルループ40の全内部容積の一部分である場合があり、したがって、都度、特定のLC条件に応じて変動し得る。さらに、緩衝サンプルループ30内に吸引された同じサンプル1からの数回の注入は、吸引されたサンプル容量のポーティングを分析サンプルループ40内に順次移送することによって行い得る。特に、方法は、緩衝サンプルループ30内に吸引されたサンプルの該容量よりも少ない、計量された容量の分析サンプルを、分析サンプルループ40へ吐出し得る。
【0061】
一実施形態によれば、緩衝サンプルループ30は、分析サンプルループ40の内部容積よりも大きな内部容積、および/または、分析サンプルループ40の内径よりも大きな内径を有する。
【0062】
図1Cは、図1Aのような、やはり第1の切換位置におけるLC切換バルブ10を示しており、LCポンプポート15に流体接続されたLCポンプ60により、LCカラムポート16に流体接続されたLCカラム50に、分析サンプルループ40内に受け取られたサンプルを導入する方法工程を示し、LCポンプポート15が分析サンプルループ出力ポート14に流体接続され、LCカラムポート16は分析サンプルループ入力ポート13に流体接続されている。サンプル注入と並行して、方法は、サンプルと接触した、サンプルインジェクタ100の少なくとも一部を洗浄するために、洗浄ポンプ80により、緩衝サンプルループ30を通して、洗浄流体81を送液する工程を含み、それにより、サンプル入力ポート11を吸引/吐出ポンプポート12に接続することにより、この場合も廃棄ポートとして機能するサンプル入力ポート11を介して廃棄コンテナ3内に過剰または極微量のサンプルを洗い落し、廃棄する。
【0063】
図1Dは、図1Aと同様であり、緩衝サンプルループ内へのサンプル吸引の方法工程が繰り返されており、一方でサンプル注入も行われている。特に、高速洗浄ポンプ80および高速吸引/計量ポンプ20により、図1Cにおけるような洗浄工程、および新たなサンプルの吸引が、以前のサンプルの注入と並行して行われ得る。
【0064】
図1Eは、やはり第2の切換位置における切換バルブ10を示し、LCカラム50内に注入されたサンプルを液体クロマトグラフィにかける方法工程を示し、LCポンプポート15はLCカラムポート16に接続されている。同時に、全体の工程が繰り返される前に、洗浄流体81は、洗浄ポンプ80によって、分析サンプルループ40も通って、送液され得る。
【0065】
図2A〜Eは、併せて、液体クロマトグラフィ用のサンプルインジェクタ100’および液体クロマトグラフィ用のサンプル1を注入する対応する方法の種々の工程の第2の実施形態であって、送液される流体の存在をより太い線で示し、流れの方向を矢印の方向によって示す第2の実施形態を概略的に示す。サンプルインジェクタ100’は、図1A〜Eのサンプルインジェクタ100と実質的に同じであり、同様の特徴に同様の番号が与えられている。例外として、サンプルインジェクタ100’は、サンプル吸引ポンプおよびサンプル計量ポンプとして機能する単一のポンプ20の代わりに、緩衝サンプルループ30内にサンプル1を吸引するための吸引ポンプ21、および、吸引ポンプ21によって緩衝サンプルループ30内に吸引されたサンプルからの、計量された容量のサンプルを、分析サンプルループ40へと吐出するための、二次バルブ70に接続された別個の計量ポンプ22を備え、計量ポンプ22は吸引ポンプ21よりも、より正確であり、吸引ポンプ21は計量ポンプ22よりも高速である。残りについては、図1A〜Eに対する同じ説明が、図2A〜Eそれぞれにも当てはまる。
【0066】
図3は、図1A〜2Eの第1または第2の実施形態のいずれかによるサンプルインジェクタ100、100’を備える液体クロマトグラフィシステム200を概略的に示す。
【0067】
図4は、図3の液体クロマトグラフィシステム200を備える臨床診断システム300、および、液体クロマトグラフィシステム200に連結された質量分析計250を概略的に示す。臨床診断システム300は、サンプルインジェクタ100、100’を介して液体クロマトグラフィシステム200に連結され、注入されるサンプルの自動調製用のサンプル調製モジュール220をさらに備える。臨床診断システム300は、少なくとも、LC切換バルブの切換および種々のポンプの動作を含む、液体クロマトグラフィ用のサンプルを注入する方法に少なくとも関連したコントローラ230をさらに備える。
【0068】
上記明細書では、本開示の徹底的な理解をもたらすために数多くの特定の詳細を記載している。しかし、当該技術分野における当業者には、本発明の教示を実施するために特定の詳細を使用しなくてよいということは明らかであろう。他の場合には、本開示をわかりにくくすることを回避するために、周知の材料または方法を説明していない。
【0069】
具体的には、開示された実施形態の修正および変形は、上記説明に照らして確かに可能である。したがって、添付された請求項の範囲内で、本発明を、上記実施例において特に考案されたようなやり方以外のやり方で実施することができる。
【0070】
「一実施形態」、「実施形態」、「一実施例」、または「実施例」に対する、上記明細書を通した言及は、上記実施形態または実施例に関して説明した特定の特徴、構造、または特性が少なくとも1つの実施形態において含まれていることを意味している。よって、本明細書を通した種々の箇所において「一実施形態」、「実施形態」、「一実施例」、または「実施例」との句の出現は、必ずしも、同じ実施形態または実施例を全て表している訳でない。
【0071】
さらに、特定の特徴、構成、または、特性は、1つまたは複数の実施形態または実施例における任意の好適なコンビネーションまたはサブコンビネーションにおいて組み合わせることができる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4