特許第6843986号(P6843986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6843986
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】電動ジェロータポンプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   F04C2/10 331B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-523741(P2019-523741)
(86)(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公表番号】特表2019-534419(P2019-534419A)
(43)【公表日】2019年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2017075303
(87)【国際公開番号】WO2018082859
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】102016121240.7
(32)【優先日】2016年11月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519151149
【氏名又は名称】ニデック・ゲーペーエム・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】NIDEC GPM GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】フランツ・パヴェレク
(72)【発明者】
【氏名】コンラート・ニッケル
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04813858(US,A)
【文献】 特開2012−225263(JP,A)
【文献】 特開2010−159724(JP,A)
【文献】 特開平9−088842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト(2)が回転可能に取り付けられ、ジェロータ(3)、吸込口(14)、及び吐出口(16)を備えるポンプハウジング(1)と、
モータ固定子(51)及びモータ回転子(52)を有し、前記シャフト(2)に接続されたジェロータ(3)を回転駆動させる電気駆動装置(5)と、
を備える電気駆動ジェロータポンプであって、
前記ジェロータ(3)は、
2つの室壁(13a,13b)によって軸方向に区画された内歯(33a)を有する静止した外側ジェロータ要素(31)と、
外歯(33b)を有する内側ジェロータ要素(30)と、
を備え、
各々の前記内歯(33a)の根元部分は、前記吐出口(16)に連通する圧力弁(4)を有し、
前記内側ジェロータ要素(30)は、前記内歯(33a)と噛み合い係合するように、前記外側ジェロータ要素(31)内において、前記シャフト(2)の偏心部分に周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられ
前記内側ジェロータ要素(30)が周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられる前記シャフトの偏心部分は、前記シャフト(2)の自由端に偏心延長部(23)として形成され、
前記吸込口(14)と前記外側ジェロータ要素(31)の内歯(33a)の室形成用の根元部分との連結部は、前記シャフト(2)の自由端と、前記偏心延長部(23)内の制御スロット(24)と、前記内側ジェロータ要素(30)の外歯(33b)の根元部分への放射状の分岐部とを通じて延在する
電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項2】
シャフト(2)が回転可能に取り付けられ、ジェロータ(3)、吸込口(14)、及び吐出口(16)を備えるポンプハウジング(1)と、
モータ固定子(51)及びモータ回転子(52)を有し、前記シャフト(2)に接続されたジェロータ(3)を回転駆動させる電気駆動装置(5)と、
を備える電気駆動ジェロータポンプであって、
前記ジェロータ(3)は、
2つの室壁(13a,13b)によって軸方向に区画された内歯(33a)を有する静止した外側ジェロータ要素(31)と、
外歯(33b)を有する内側ジェロータ要素(30)と、
を備え、
各々の前記内歯(33a)の根元部分は、前記吐出口(16)に連通する圧力弁(4)を有し、
前記内側ジェロータ要素(30)は、前記内歯(33a)と噛み合い係合するように、前記外側ジェロータ要素(31)内において、前記シャフト(2)の偏心部分に周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられ
前記内側ジェロータ要素(30)が周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられる前記シャフトの偏心部分は、前記シャフト(2)の自由端に偏心延長部(23)として形成され、
前記圧力弁(4)は、前記外側ジェロータ要素(31)内の放射状の開口スロット(41)によって形成され、当該開口スロット(41)は、折り返し部分を有する留め金状の曲げ板金部品(40)によって前記外側ジェロータ要素(31)の周囲の環状吐出室(17)に対して覆われる
電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項3】
前記吸込口(14)と前記外側ジェロータ要素(31)の内歯(33a)の室形成用の根元部分との連結部は、前記シャフト(2)の自由端と、前記偏心延長部(23)内の制御スロット(24)と、前記内側ジェロータ要素(30)の外歯(33b)の根元部分への放射状の分岐部とを通じて延在する、請求項に記載の電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項4】
前記シャフト(2)の軸受(21)は、前記ポンプハウジング(1)内において単一の軸方向のシャフト部分に配置され、少なくとも2列のローラ体(20)を備える、請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項5】
1つの前記室壁(13b)は、前記ポンプハウジング(1)の開口する軸方向の端部を閉塞するとともに、前記吸込口(14)及び吐出口(16)の穴を有する、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項6】
前記室壁(13a,13b)は、前記ジェロータ(3)に対向する前面において、1〜2μmの深さで規則的又は不規則的なパターンが適用された表面構造を有する、請求項1〜のいずれか1つに記載の電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項7】
前記ポンプハウジング(1)の内面は、軸方向部分に円筒状の側面を有し、当該側面は、半径方向において前記シャフト(2)と前記ジェロータ(3)との間に配置され且つ軸方向において前記ジェロータ(3)と前記シャフト(2)の軸受(21)との間に配置されるシャフトシール(12)の円筒状の外周部分と、前記シャフト(2)の軸受(21)と、少なくとも2つの室壁(13a,13b)のうちの1つと、前記外側ジェロータ要素(31)とを固定するように嵌合する、請求項に記載の電気駆動ジェロータポンプ。
【請求項8】
前記シャフトシール(12)、前記シャフト(2)の軸受(21)、第1の前面の室壁(13a)、及び前記外側ジェロータ要素(31)を、この順で軸方向に前記ポンプハウジング(1)へ圧入する工程と、
その途中又はその後に、前記シャフト(2)の偏心延長部(23)を前記内側ジェロータ要素(30)の圧入された軸受(32)に滑り込ませる工程と、
前記ポンプハウジング(1)の中に第2の前面の室壁(13b)を圧入又は溶接により固定する工程と、
その途中又はその後に、前記シャフト(2)の他端部を前記モータ回転子(52)に圧入する工程と、
モータ電子機器(50)と前記モータ固定子(51)とモータカバー(15)とを挿入し固定する工程と、
を含む、請求項に記載の電気駆動ジェロータポンプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に駆動するジェロータポンプ及びジェロータポンプの一実施形態である製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギヤポンプとも呼ばれるジェロータポンプは、例えば、オイルポンプ、ステアリング補助のためのパワーステアリングポンプ、あるいはギヤユニットの油圧ポンプなどのような補助装置としてよく知られている。コンパクトな寸法での実現のために、外側ロータと偏心して配置された内側ロータとが、歯を介して噛み合い係合し、両方とも同じ方向に回転する、ジェロータタイプが普及している。駆動側の内側ロータが噛み合い係合を介して外側ロータを引っぱり、無限に周方向に連続する歯の三日月形の作動室に、変位がもたらされる。例えば、独国特許出願公開第102015002353号には、そのようなジェロータポンプが、電動オイルポンプや補助ポンプとしての典型的な適用の構成として示されている。
【0003】
車両構造物のような移動用途で用いられるとき、ポンプ及びそれの油圧回路は、気温の大きな変動を受けることで、油圧媒体の粘性の作用として電気駆動装置からの変動する電力需要を引き起こす。特に車両の冷間始動時に、ポンプ及びその回路を始動するために、後の運転中よりもかなり高い電力が要求され、油粘度が高く且つシャフトの回転速度が遅いとき、特に停止時の静摩擦トルクの抵抗に対して不利である。
【0004】
車両の電気システムから得られる電圧が制限されるとき、この電力要求に対して高いピーク電流が一時的に流れるので、これに対応する高スペックなパワーエレクトロニクス、線断面、固定子コイルなどが要求される。電気駆動装置を伴う冷間始動条件のために提供される予備電力は、電動ポンプが動作中にかなり低い電流を恒久的に取り込む定格出力と比較して大きく、経済的観点から、重量、外形寸法、及び製造コストに関してかなりの不利益がある。さらに、適切な大型電気駆動装置は、しばしば、ロータの位置などを検出する角度センサのような付加的なセンサ技術や制御システムを必要とし、このことは他のコスト要因を表し、駆動装置の複雑さを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、同じ定格出力のポンプよりも経済的な電気モータとして使用することができる電気駆動ジェロータポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本目的は、本発明の請求項1に記載の電気駆動ジェロータポンプによって達成される。
【0007】
本発明に係る電気駆動ジェロータポンプは、静止した外側ジェロータ要素が有する2つの室壁によって軸方向に区画された内歯を有する静止した外側ジェロータ要素と、外歯を有する内側ジェロータ要素とを備えるジェロータによって特徴付けられ、室を形成する各々の内歯の根元部分は、吐出口と連通するように割り当てられた圧力弁を有し、内側ジェロータ要素は、内歯と噛み合い係合するように、外側ジェロータ要素内において、シャフトの偏心部分に周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられている。
【0008】
それにより、本発明は、静止した外側ジェロータ要素を備える電気駆動ジェロータポンプを初めて提供する。
【0009】
駆動側の内側ロータによって外側ロータが引っぱられる電動ポンプで従来用いられるジェロータタイプと比較すると、本発明の電動ポンプのアセンブリにおいては、内側ロータによって外側ロータが引っぱられるときに、外側ロータの回転運動に滑りがない。外側ロータの運動を省略したことにより、特に滑り軸受の潤滑を同時に提供する油圧媒体が高粘度を有するときに、静止した外側ジェロータ要素によってかなり低い摩擦抵抗及び低い静摩擦トルクが達成される。その構造の結果として、従来の電動ポンプに属するジェロータタイプの外側ロータは、可能な限り大きい一対の滑り面を外周に有する。従って、大きな表面が粘性油圧媒体と接触し、特に冷間始動時に、始動中の静摩擦トルクを克服するために、高いトルクが要求される。
【0010】
静止した外側ジェロータ要素を有する本発明に係る電気ジェロータポンプのアセンブリにおいて、この外側ロータの軸受の特徴は重大な問題であると認識され、前記アセンブリでそれを回避することによって、以下の付加的な利点を有する解決策が、目的の達成のために提案される。
【0011】
滑り軸受面の省略及びそれに対応する低い静摩擦トルクにより、粘度の影響が少なく、冷間始動条件に対して不釣り合いな電気駆動装置の予備電力を大幅に減少させることが可能である。駆動装置のサイズは、ポンプの定格出力に接近するように近付けてもよく、重量、サイズ、及びコストに関してかなりの利点が達成され得る。用途に応じて、制御機能の監視又は駆動装置の遮断のための回転角センサが省略されてもよく、それにより、複雑さや製造コストをさらに減少させることが可能である。
【0012】
さらに、本発明に係る電動ジェロータポンプのアセンブリの内側ジェロータ要素によって、より低い摩擦抵抗が達成される。駆動側の内側ロータと従動側の外側ロータとを備えるジェロータタイプを比較すると、内側ジェロータ要素は、偏心的にガイドする環状経路上において、外側ジェロータ要素の静止した内歯から周方向に離れるときに、かなり低い速度で回転させられる。環状経路は、ペン又は鉛筆で描かれるスパイログラフと比較することができる。より正確には、本発明に係る電動ジェロータポンプのアセンブリにおいて、内側ジェロータ要素の回転速度は、外側ジェロータ要素の内歯の歯数分の1に減少させられる。すなわち、本発明の場合、2つの動くロータを有するポンプと比較して、前記回転速度が1/9となる。この回転速度の減速は、大きな一対の滑り面を表す室壁に向かう内側ジェロータ要素の(前面をシールする)滑り接触に対抗する低い摩擦抵抗の観点から、特に運転中に大きな影響を有している。
【0013】
このことは、外側ロータの摩擦損失を取り除くだけでなく、内側ロータの回転に起因するものを従来のアセンブリと比較して減少させ、連続運転における電動ジェロータポンプの効率を改善する。
【0014】
静止した外側ジェロータ要素を有するジェロータのいくつかの実施形態は、当業者によって知られている。しかしながら、作動室の回転がないため、各々の作動室から個々の吐出口に対して多数の逆止弁又は圧力弁が必要とされる。このため、前記のようなジェロータタイプは、一般に複雑なアセンブリを有する。従って、これらは、主に、高負荷の油圧システム用として特に設計され、アイドル状態における逆流を防ぎ、圧力を維持することが要求される。
【0015】
より複雑なアセンブリを有する上述のポンプは、燃焼機械によって駆動されるように設計されるとともに高圧下で変位するときに安定するように設計された軸受及び弁のタイプに関する特徴を有する、独国特許出願公開第4440782号及び独国特許出願公開第3716960号によって知られている。しかしながら、比較的高いコストであるために、これらの特徴は、目的を達成するために本出願において使用されるジェロータタイプからは排除する。
【0016】
静止した外側ジェロータ要素を有する公知のジェロータの構造は、中性能クラスで且つコンパクトな構造形状の用途においても、低性能クラスで且つ対応する立体配置形状の小型化の用途においても、その複雑なアセンブリのために経済的に成功していない。
【0017】
それとは対照的に、本発明は、より低い性能クラスにおいても可能な、電気駆動装置を備える静止した外側ジェロータ要素を有するジェロータの新しい用途をもたらす一方で、有益である大量生産を維持する。より低い性能クラスでは、摩擦抵抗によって失われる性能の影響が非常に大きく、性能損失に対する電動機の寸法やセンサ技術などの対策が非常に限られている。本発明によって、油圧式でより複雑なジェロータタイプをポンプ群から選択したにもかかわらず、モータアセンブリの寸法に関してより大きな利点が提供されることが、初めて明らかにされる。
【0018】
電動ジェロータポンプの更なる開発の利点は、性能クラス及びより経済的な製造のためのジェロータの簡素化された最適化を容易にすることにあり、従属請求項の主題である。
【0019】
本発明の一態様によれば、内側ジェロータ要素が周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられるシャフトの偏心部分は、シャフトの自由端に偏心延長部として形成されてもよい。
【0020】
それにより、本発明は、特に1つの静止した外側ジェロータ要素を有する周方向変位ポンプ(circumferential displacement pump)又はジェロータポンプにおける片側シャフト軸受を初めて提供する。したがって、本発明に係るジェロータポンプのアセンブリは、例えば、1.5kWまでの低い又は中程度の油圧性能クラスを考慮したジェロータタイプの特定用途の最適化を提案する。
【0021】
さらに、この構造は、軸受の反対側で達成されるポンプアセンブリのより小さい軸方向寸法を可能にする。この原理に従うことによって、一実施形態は、ジェロータの前面境界で終わるポンプアセンブリの軸方向寸法を提供することができる。
【0022】
さらに、ジェロータの第2の軸受を省略することは、構成要素の総数を少なくし、大量生産する場合に、材料コスト、構成要素を製造するための製造工程、それらの設置コスト、及び最終的に必要な生産時間の観点で良い影響がある。
【0023】
本発明の一態様によれば、シャフトの軸受は、ポンプハウジング内において単一の軸方向のシャフト部分に配置され、少なくとも2列のローラ体を備えてもよい。
【0024】
シャフトの軸受は、軸方向に隣接する2つのローラ体の列を有し、左側に図示される駆動側と右側に図示されるポンプ側との間の始動トルクを吸収し、それをポンプハウジングへ向けるように構成される。
【0025】
本発明の一態様によれば、吸込口と外側ジェロータ要素の内歯の室形成用の根元部分との連結部は、シャフトの自由端と、偏心延長部内の制御スロットと、内側ジェロータ要素の外歯の根元部分への放射状の分岐部とを通じて延在してもよい。
【0026】
制御スロットは、幾何学的な拘束制御を利用可能にし、噛み合い係合する両側の作動室における増加容積の角度範囲及び減少容積の角度範囲の機能として、ポンプの吸込口と作動室との接続機能及びロック機能をもたらす。
【0027】
本発明の一態様によれば、1つの室壁は、ポンプハウジングの開口する軸方向の端部を閉塞するとともに、吸込口及び吐出口の穴を有してもよい。
【0028】
この構成は、特に、短い軸方向の寸法及びより少ない構成要素を備える構造的形状を提供する。
【0029】
本発明の一態様によれば、圧力弁は、外側ジェロータ要素内の放射状の開口スロットによって形成され、当該開口スロットは、折り返し部分を有する留め金状の曲げ板金部品によって外側ジェロータ要素の周囲の環状吐出室に対して覆われてもよい。
【0030】
この構成は、製造の観点で有利であり、さらに、いくつかの圧力弁又は背圧弁のアセンブリを製造するのに機能的である。さらに、作動室を放射状に出る排出流をもたらす構造形状が提供され、その構造形状は、製造利用性の観点で有利な弁を有するポンプの短い軸方向の寸法を実現させる。
【0031】
本発明の一態様によれば、室壁は、ジェロータに対向する前面において、好ましくは1μm〜2μmの深さで規則的又は不規則的なパターンが適用された表面構造を有してもよい。
【0032】
従って、電気化学的処理又はレーザー照射によって室壁の表面に微細構造を適用することにより、摩擦特性及びその効率は改善される。微細構造は、材料表面上の長鎖油性分子の改善された蓄積をもたらし、例えば、内側ジェロータ要素に剪断力が作用するときに部分的に発生するようなピーク圧力において、滑り領域間の残存潤滑膜の良好な付着をもたらす。
【0033】
本発明の一態様によれば、ポンプハウジングは、内面に、円筒状の側面、すなわち殻表面を備える軸方向部分を有し、前記側面は、シャフトシールの円筒状の外周部分と、シャフトの軸受と、少なくとも2つの室壁のうちの1つと、外側ジェロータ要素とを固定するように嵌合してもよい。
【0034】
ポンプハウジングと全ての内部の構成要素との間に圧入を提供することによって、シールはもちろん、ねじ又はねじのような、それらの間のねじ接続部及び留め具を省くことができる。
【0035】
本発明の一態様によれば、上述の本発明に係る圧入を有するジェロータポンプは、
シャフトシール、シャフトの軸受、第1の前面の室壁と、静止した外側ジェロータ要素を、この順で軸方向にポンプハウジングの内側へ圧入する工程と、
その途中又はその後に、シャフトの偏心延長部を、内側ジェロータ要素に圧入された軸受に滑り込ませる工程と、
ポンプハウジングの中に、第2の前面の室壁を圧入又は溶接により固定する工程と、
その途中又はその後に、シャフトの他端部をモータ回転子に圧入する工程と、
モータ固定子とモータ電子機器とモータカバーとを挿入して固定する工程と、
を含むように製造されてもよい。
【0036】
圧入工程を伴って全ての構成要素を組立てて固定することによって、ねじ山を切ったり、シール用の受け入れ溝を設けたりするための製造費や、ねじ接続部、ねじ、及びシールの組立費がない。ジェロータポンプが低性能クラス用に設計されている場合、吐出口側の室壁又は吐出口側のポンプカバーにおける圧入の強度及びシールは十分である。ジェロータポンプが、中性能クラス、例えば20バール〜150バール用に設計されている場合、ポンプハウジングとポンプカバーのような吐出口側の室壁との間には、溶接接続などの異なる接合技術を使用する必要があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明は、添付図面を参照しながら2つの実施形態に基づいて、以下のように詳細に説明される。
図1】本発明による電気駆動ジェロータポンプの縦断面図
図2図1の切断面Aから見たジェロータの断面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る電気駆動ジェロータポンプのアセンブリを、図1及び図2を参照して以下に説明する。
【0039】
図1に示すように、ポンプハウジング1は、軸方向の一方側に開口する半径方向の内側のハウジング部分と、軸方向の他方側に開口する半径方向の外側のハウジング部分とを備えている。シャフトシール12と、軸受21を備えるシャフト2と、ジェロータ3と、室壁13a,13bとは、内側のハウジング部分に収容される。電気駆動装置5は、固定子51、モータ電子機器50、及びモータ回転子52とともに、外側のハウジング部分に収容される。
【0040】
モータ回転子52は、ジェロータ3の反対側に位置するシャフト2の端部に接続されており、内側のハウジング部分を半径方向に囲むか、あるいはシャフトの中心に向かって内側のハウジング部分を横切り、軸方向に広がる。モータ固定子51は、ポンプハウジング1の外側のハウジング部分の外壁の内面を背にして、モータ回転子52の周りに固定される。ポンプハウジング1の開口する駆動側の端部は、モータカバー15により閉塞される。モータカバー15には、回路基板を備えるモータ電子機器50と、電力供給端子を備えるパワーエレクトロニクスと、ポンプの電気制御装置とがはめ込まれている。
【0041】
シャフト軸受21は、ポンプハウジング1に収容されたシャフト2の軸方向部分において、シャフトの周囲と内側のハウジング部分の内側面(すなわち、殻表面)との間に配置されている。シャフト軸受21は、遠心ポンプでの使用で知られる水ポンプ軸受のタイプに対応する。シャフト軸受21は、軸方向に隣接する2つのローラ体20a,20bを備えている。球状のローラ体を有する複数のローラ体20aの列は、シャフト2及びシャフト軸受21の殻における2つの対向する丸みを帯びた溝の間で周方向にガイドされ、シャフト2の半径方向及び軸方向の力を吸収する。複数のローラ体20bの列は、針状ころ軸受に対応する円筒状のローラ体を備え、半径方向の力を吸収するとともに、軸受位置の間の軸方向の距離が小さいにもかかわらず、シャフトの軸の静摩擦トルクを十分に吸収する。
【0042】
シャフト軸受21の後方にあるシャフト2の自由端には、シャフトの周囲よりも小さい円周を有し、その円周の中心軸がシャフトの軸に対して偏心的に変位している偏心シャフト延長部23が、ポンプハウジング1内で軸方向に延在する。ジェロータ3のアセンブリは、シャフト延長部23とポンプハウジング1との間にある、シャフト延長部23の軸方向の延長部分に収容される。
【0043】
ジェロータ3は、外側ジェロータ要素31と内側ジェロータ要素30とを有する。外側ジェロータ要素31は、ポンプハウジング1のフランジ部の内側面(すなわち、殻表面)に静的に固定され、内歯33aを備える。外側ジェロータ要素31の内側には、外歯33bを有する内側ジェロータ要素30が、偏心シャフト延長部23に配置されている。内側ジェロータ要素30は、滑り軸受32を介して偏心シャフト延長部23に回転可能に取り付けられており、シャフト2が回転するときに、シャフト軸(すなわち、シャフト2の回転軸)に対するシャフト延長部23の偏心的な変位によって、静止した外側ジェロータ要素31内の環状経路上を周方向にガイドされる。一方、内側ジェロータ要素30及び外側ジェロータ要素31は、ジェロータタイプに特有の方法で噛み合い係合する。
【0044】
ジェロータ3は、図1に示すように、2つの室壁13a,13bによって軸方向に区画されている。内歯33aの三日月形の作動室が配置されている静止した外側ジェロータ要素31の半径方向の領域において、室壁13a,13bは、外側ジェロータ要素31の前面に対して静止面で接触している。同時に、室壁13a,13bは、同じ半径方向の領域において、内側ジェロータ要素30の前面と滑り接触している。このようにして、ポンピング媒体が、軸方向の境界において、内歯33aと外歯33bとの間に取り囲まれる。
【0045】
内側ジェロータ要素30の偏心的にガイドされる環状経路において、後者は外歯33bから離れる。同時に、外側ジェロータ要素31の内歯33aの根元部分に形成された三日月形の作動室における噛み合い係合の領域において、周方向に無限の一連の徐々に係合し且つ解放する変位作用が生じる。後述する入口及び出口は、各々の作動室に出入りするポンピング媒体のために設けられ、周方向の変位装置の動作原理が作られている。
【0046】
シャフト2の偏心延長部23において室壁13bを貫通する盲穴として延在する吸込穴が、シャフト2の回転軸に沿って延在し、同時にポンプの吸込口14を形成する。異なる観点から図1及び図2に示すように、偏心延長部23は、内側ジェロータ要素30の軸方向部分において、吸込穴まで伸びる偏心延長部23の周囲の円弧部分を取り上げた制御スロット24を有する。吸込ダクト34の放射状の分岐部は、内側ジェロータ要素30内に形成され、周方向の制御スロット24の交差部と外歯33bの根元部分との間に延在する。
【0047】
偏心延長部23において、制御スロット24が切り出される又は開かれるための回転角度範囲は、内歯33aにおける三日月形の作動室の容積が増加する噛み合い係合の側、すなわち偏心延長部23の周方向に対して後方側に向けられる。それによって、制御スロット24は、割り当てられた吸込ダクト34を介してポンプの吸込口14と常に接続される噛み合い係合の後に再び容積が増大する作動室の中身を制御する。対照的に、制御スロット24の回転角度範囲の拡張は、作動室の容積が噛み合い係合の前及び最中に減少するように割り当てられた吸込ダクト34と吸込口14との間の接続が遮断されるように選択される。
【0048】
内歯33aの基点から出る吐出ダクトは、静止した外側ジェロータ要素31における放射状の開口スロット41として、作動室の半径方向の反対側に向かって形成されている。開口スロット41は、複数の背圧弁又は圧力弁4の一部であり、その数は、内歯33aの作動室に対応する。圧力弁4は、放射状の開口スロット41及びいくつかの弾性を有する曲げ板金部品40により形成されている。曲げ板金部品40は、開口スロット41の吐出側の穴を覆い、それによって、各々の開口スロット41内に、予め決められた圧力で穴の上の被覆位置から押すことができる。
【0049】
図2に示すように、曲げ板金部品40は、二層留め金形状を形成する折り返し部分を備える断面を有する。より正確には、曲げ板金部品40はさらに、断面において、二層留め金形状の自由端の間に隙間を作るために、板金層に膨張部を有しており、当該膨張部は、開口スロット41の出口穴を背にする片持ち梁又は曲げ梁に対応する弾性バイアスをもたらす。自由端の領域、すなわち折り返し部分とは反対側において、各々の曲げ板金部品40は、それぞれ1つの開口スロット41を覆い、さらにプレストレスをかけられた状態で、環状出口室17内に広がっている。さらに、曲げ板金部品40は、周方向に迂回する油圧媒体に抵抗するために、折り返し部分の高さと外側ジェロータ要素31の周囲における対応する切り抜きとの間の噛み合い係合を用いることで固定される。
【0050】
環状出口室17は、外側ジェロータ要素31の外周部又は周方向の段部と、ポンプハウジング1の内側殻部分又はこの目的のために割り当てられる外側ジェロータ要素31のリング部とにより形成され、周方向に出る排出流を集め、それらをポンプ吐出口16の開口部に送る働きをする。室壁13bは、ポンプ吐出口16及びポンプ吸込口14の両方を有する。
【0051】
図1及び図2から明らかなように、ポンプアセンブリの全体は、ねじ接続なしで実現することができる。この目的のために、個々の要素は、シャフト軸受21、室壁13a、及び外側ジェロータ要素31とともに、シャフトシール12からシャフト2を介して軸方向にポンプハウジング1の2つの対向する開口側を通じて、ポンプハウジング1の内側のハウジング部分の中に圧入され、これにより、対応する寸法安定性のある千鳥状の円筒内側面としての圧入が利用可能になる。さらに、内側ジェロータ要素30は、圧入滑り軸受32とともに、偏心シャフト延長部23上に滑り込まされる。また、室壁13bは、ポンプが設計されている圧力範囲に応じて、圧入又は溶接される。その途中又はその後に、シャフト2の内側のハウジング部分から突出する部分は、反対側のモータ回転子52の中に圧入され、モータ固定子51は、モータ電子機器50及びモータカバー15とともに、ポンプハウジング1の外側のハウジング部分に押し込まれて固定される。
図1
図2