【課題を解決するための手段】
【0006】
本目的は、本発明の請求項1に記載の電気駆動ジェロータポンプによって達成される。
【0007】
本発明に係る電気駆動ジェロータポンプは、静止した外側ジェロータ要素が有する2つの室壁によって軸方向に区画された内歯を有する静止した外側ジェロータ要素と、外歯を有する内側ジェロータ要素とを備えるジェロータによって特徴付けられ、室を形成する各々の内歯の根元部分は、吐出口と連通するように割り当てられた圧力弁を有し、内側ジェロータ要素は、内歯と噛み合い係合するように、外側ジェロータ要素内において、シャフトの偏心部分に周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられている。
【0008】
それにより、本発明は、静止した外側ジェロータ要素を備える電気駆動ジェロータポンプを初めて提供する。
【0009】
駆動側の内側ロータによって外側ロータが引っぱられる電動ポンプで従来用いられるジェロータタイプと比較すると、本発明の電動ポンプのアセンブリにおいては、内側ロータによって外側ロータが引っぱられるときに、外側ロータの回転運動に滑りがない。外側ロータの運動を省略したことにより、特に滑り軸受の潤滑を同時に提供する油圧媒体が高粘度を有するときに、静止した外側ジェロータ要素によってかなり低い摩擦抵抗及び低い静摩擦トルクが達成される。その構造の結果として、従来の電動ポンプに属するジェロータタイプの外側ロータは、可能な限り大きい一対の滑り面を外周に有する。従って、大きな表面が粘性油圧媒体と接触し、特に冷間始動時に、始動中の静摩擦トルクを克服するために、高いトルクが要求される。
【0010】
静止した外側ジェロータ要素を有する本発明に係る電気ジェロータポンプのアセンブリにおいて、この外側ロータの軸受の特徴は重大な問題であると認識され、前記アセンブリでそれを回避することによって、以下の付加的な利点を有する解決策が、目的の達成のために提案される。
【0011】
滑り軸受面の省略及びそれに対応する低い静摩擦トルクにより、粘度の影響が少なく、冷間始動条件に対して不釣り合いな電気駆動装置の予備電力を大幅に減少させることが可能である。駆動装置のサイズは、ポンプの定格出力に接近するように近付けてもよく、重量、サイズ、及びコストに関してかなりの利点が達成され得る。用途に応じて、制御機能の監視又は駆動装置の遮断のための回転角センサが省略されてもよく、それにより、複雑さや製造コストをさらに減少させることが可能である。
【0012】
さらに、本発明に係る電動ジェロータポンプのアセンブリの内側ジェロータ要素によって、より低い摩擦抵抗が達成される。駆動側の内側ロータと従動側の外側ロータとを備えるジェロータタイプを比較すると、内側ジェロータ要素は、偏心的にガイドする環状経路上において、外側ジェロータ要素の静止した内歯から周方向に離れるときに、かなり低い速度で回転させられる。環状経路は、ペン又は鉛筆で描かれるスパイログラフと比較することができる。より正確には、本発明に係る電動ジェロータポンプのアセンブリにおいて、内側ジェロータ要素の回転速度は、外側ジェロータ要素の内歯の歯数分の1に減少させられる。すなわち、本発明の場合、2つの動くロータを有するポンプと比較して、前記回転速度が1/9となる。この回転速度の減速は、大きな一対の滑り面を表す室壁に向かう内側ジェロータ要素の(前面をシールする)滑り接触に対抗する低い摩擦抵抗の観点から、特に運転中に大きな影響を有している。
【0013】
このことは、外側ロータの摩擦損失を取り除くだけでなく、内側ロータの回転に起因するものを従来のアセンブリと比較して減少させ、連続運転における電動ジェロータポンプの効率を改善する。
【0014】
静止した外側ジェロータ要素を有するジェロータのいくつかの実施形態は、当業者によって知られている。しかしながら、作動室の回転がないため、各々の作動室から個々の吐出口に対して多数の逆止弁又は圧力弁が必要とされる。このため、前記のようなジェロータタイプは、一般に複雑なアセンブリを有する。従って、これらは、主に、高負荷の油圧システム用として特に設計され、アイドル状態における逆流を防ぎ、圧力を維持することが要求される。
【0015】
より複雑なアセンブリを有する上述のポンプは、燃焼機械によって駆動されるように設計されるとともに高圧下で変位するときに安定するように設計された軸受及び弁のタイプに関する特徴を有する、独国特許出願公開第4440782号及び独国特許出願公開第3716960号によって知られている。しかしながら、比較的高いコストであるために、これらの特徴は、目的を達成するために本出願において使用されるジェロータタイプからは排除する。
【0016】
静止した外側ジェロータ要素を有する公知のジェロータの構造は、中性能クラスで且つコンパクトな構造形状の用途においても、低性能クラスで且つ対応する立体配置形状の小型化の用途においても、その複雑なアセンブリのために経済的に成功していない。
【0017】
それとは対照的に、本発明は、より低い性能クラスにおいても可能な、電気駆動装置を備える静止した外側ジェロータ要素を有するジェロータの新しい用途をもたらす一方で、有益である大量生産を維持する。より低い性能クラスでは、摩擦抵抗によって失われる性能の影響が非常に大きく、性能損失に対する電動機の寸法やセンサ技術などの対策が非常に限られている。本発明によって、油圧式でより複雑なジェロータタイプをポンプ群から選択したにもかかわらず、モータアセンブリの寸法に関してより大きな利点が提供されることが、初めて明らかにされる。
【0018】
電動ジェロータポンプの更なる開発の利点は、性能クラス及びより経済的な製造のためのジェロータの簡素化された最適化を容易にすることにあり、従属請求項の主題である。
【0019】
本発明の一態様によれば、内側ジェロータ要素が周方向にガイドされ且つ回転可能に取り付けられるシャフトの偏心部分は、シャフトの自由端に偏心延長部として形成されてもよい。
【0020】
それにより、本発明は、特に1つの静止した外側ジェロータ要素を有する周方向変位ポンプ(circumferential displacement pump)又はジェロータポンプにおける片側シャフト軸受を初めて提供する。したがって、本発明に係るジェロータポンプのアセンブリは、例えば、1.5kWまでの低い又は中程度の油圧性能クラスを考慮したジェロータタイプの特定用途の最適化を提案する。
【0021】
さらに、この構造は、軸受の反対側で達成されるポンプアセンブリのより小さい軸方向寸法を可能にする。この原理に従うことによって、一実施形態は、ジェロータの前面境界で終わるポンプアセンブリの軸方向寸法を提供することができる。
【0022】
さらに、ジェロータの第2の軸受を省略することは、構成要素の総数を少なくし、大量生産する場合に、材料コスト、構成要素を製造するための製造工程、それらの設置コスト、及び最終的に必要な生産時間の観点で良い影響がある。
【0023】
本発明の一態様によれば、シャフトの軸受は、ポンプハウジング内において単一の軸方向のシャフト部分に配置され、少なくとも2列のローラ体を備えてもよい。
【0024】
シャフトの軸受は、軸方向に隣接する2つのローラ体の列を有し、左側に図示される駆動側と右側に図示されるポンプ側との間の始動トルクを吸収し、それをポンプハウジングへ向けるように構成される。
【0025】
本発明の一態様によれば、吸込口と外側ジェロータ要素の内歯の室形成用の根元部分との連結部は、シャフトの自由端と、偏心延長部内の制御スロットと、内側ジェロータ要素の外歯の根元部分への放射状の分岐部とを通じて延在してもよい。
【0026】
制御スロットは、幾何学的な拘束制御を利用可能にし、噛み合い係合する両側の作動室における増加容積の角度範囲及び減少容積の角度範囲の機能として、ポンプの吸込口と作動室との接続機能及びロック機能をもたらす。
【0027】
本発明の一態様によれば、1つの室壁は、ポンプハウジングの開口する軸方向の端部を閉塞するとともに、吸込口及び吐出口の穴を有してもよい。
【0028】
この構成は、特に、短い軸方向の寸法及びより少ない構成要素を備える構造的形状を提供する。
【0029】
本発明の一態様によれば、圧力弁は、外側ジェロータ要素内の放射状の開口スロットによって形成され、当該開口スロットは、折り返し部分を有する留め金状の曲げ板金部品によって外側ジェロータ要素の周囲の環状吐出室に対して覆われてもよい。
【0030】
この構成は、製造の観点で有利であり、さらに、いくつかの圧力弁又は背圧弁のアセンブリを製造するのに機能的である。さらに、作動室を放射状に出る排出流をもたらす構造形状が提供され、その構造形状は、製造利用性の観点で有利な弁を有するポンプの短い軸方向の寸法を実現させる。
【0031】
本発明の一態様によれば、室壁は、ジェロータに対向する前面において、好ましくは1μm〜2μmの深さで規則的又は不規則的なパターンが適用された表面構造を有してもよい。
【0032】
従って、電気化学的処理又はレーザー照射によって室壁の表面に微細構造を適用することにより、摩擦特性及びその効率は改善される。微細構造は、材料表面上の長鎖油性分子の改善された蓄積をもたらし、例えば、内側ジェロータ要素に剪断力が作用するときに部分的に発生するようなピーク圧力において、滑り領域間の残存潤滑膜の良好な付着をもたらす。
【0033】
本発明の一態様によれば、ポンプハウジングは、内面に、円筒状の側面、すなわち殻表面を備える軸方向部分を有し、前記側面は、シャフトシールの円筒状の外周部分と、シャフトの軸受と、少なくとも2つの室壁のうちの1つと、外側ジェロータ要素とを固定するように嵌合してもよい。
【0034】
ポンプハウジングと全ての内部の構成要素との間に圧入を提供することによって、シールはもちろん、ねじ又はねじのような、それらの間のねじ接続部及び留め具を省くことができる。
【0035】
本発明の一態様によれば、上述の本発明に係る圧入を有するジェロータポンプは、
シャフトシール、シャフトの軸受、第1の前面の室壁と、静止した外側ジェロータ要素を、この順で軸方向にポンプハウジングの内側へ圧入する工程と、
その途中又はその後に、シャフトの偏心延長部を、内側ジェロータ要素に圧入された軸受に滑り込ませる工程と、
ポンプハウジングの中に、第2の前面の室壁を圧入又は溶接により固定する工程と、
その途中又はその後に、シャフトの他端部をモータ回転子に圧入する工程と、
モータ固定子とモータ電子機器とモータカバーとを挿入して固定する工程と、
を含むように製造されてもよい。
【0036】
圧入工程を伴って全ての構成要素を組立てて固定することによって、ねじ山を切ったり、シール用の受け入れ溝を設けたりするための製造費や、ねじ接続部、ねじ、及びシールの組立費がない。ジェロータポンプが低性能クラス用に設計されている場合、吐出口側の室壁又は吐出口側のポンプカバーにおける圧入の強度及びシールは十分である。ジェロータポンプが、中性能クラス、例えば20バール〜150バール用に設計されている場合、ポンプハウジングとポンプカバーのような吐出口側の室壁との間には、溶接接続などの異なる接合技術を使用する必要があり得る。