特許第6844002号(P6844002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844002耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材、それを用いたアルミニウム系合金化めっき鋼材、及びそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844002
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材、それを用いたアルミニウム系合金化めっき鋼材、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210308BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20210308BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20210308BHJP
   C21D 1/673 20060101ALI20210308BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20210308BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20210308BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20210308BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20210308BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20210308BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/00 301W
   C22C38/32
   C22C38/60
   C21D1/673
   C21D9/46 J
   C21D9/46 U
   C22C21/02
   C23C2/12
   C23C2/28
   C23C2/26
   C23C2/40
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-533473(P2019-533473)
(86)(22)【出願日】2017年12月21日
(65)【公表番号】特表2020-509200(P2020-509200A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】KR2017015295
(87)【国際公開番号】WO2018117716
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2019年8月15日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0178532
(32)【優先日】2016年12月23日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ジン−グン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル−リョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン−ウ
(72)【発明者】
【氏名】シン、 ジョム−ス
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0362764(US,A1)
【文献】 特表2017−532451(JP,A)
【文献】 特表2017−535666(JP,A)
【文献】 特表2017−529457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜38/60
C21D 1/673
C21D 9/46
C23C 2/12
C23C 2/26
C23C 2/28
C23C 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼と、
前記素地鋼の表面に形成されたAl系めっき層を含み、前記Al系めっき層は、Al−Si晶出相を含み、前記Al−Si晶出相の平均粒径は4μm以下であり、
前記Al−Si晶出相中のSiの含量は3〜25重量%であり、前記Al−Si晶出相の縦横比(aspect ratio)は10以下である、耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項2】
前記素地鋼は、Mo及びWのうち一つ以上を0.001〜0.5%含む、請求項1に記載の耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項3】
前記素地鋼は、Nb、Zr及びVのうち一つ以上を0.001〜0.4%含む、請求項1に記載の耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項4】
前記素地鋼は、Cu及びNiのうち一つ以上を0.005〜2.0%含む、請求項1に記載の耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項5】
前記素地鋼は、Sb、Sn、及びBiのうち一つ以上を0.03%以下含む、請求項1に記載の耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材。
【請求項6】
重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼を準備する段階と、
前記準備された素地鋼を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬してAl系めっき層を形成する段階と、
前記Al系めっき層の凝固後に3〜25℃/sの冷却速度で冷却する段階と、
を含み、
前記Al系めっき層はAl−Si晶出相を含み、前記Al−Si晶出相の平均粒径は4μm以下であり、前記Al−Si晶出相中のSiの含量は3〜25重量%であり、前記Al−Si晶出相の縦横比(aspect ratio)は10以下である、耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材の製造方法。
【請求項7】
重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼と、
前記素地鋼の表面には、熱処理によって形成されたFe−Al合金化めっき層を含み、
前記Fe−Al合金化めっき層は、Siが濃化した中間層を含み、前記中間層の平均結晶粒サイズは2μm以下であり、前記中間層のSiの含量は7〜14重量%であり、前記中間層はFe−Al合金化めっき層の断面厚さを基準に5〜30%を占める、耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材。
【請求項8】
重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼を準備する段階と、
前記準備された素地鋼を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬してAl系めっき層を形成する段階と、
前記Al系めっき層の凝固後に3〜25℃/sの冷却速度で冷却し、アルミニウム系めっき鋼材を製造する段階と、
前記アルミニウム系めっき鋼材を800〜1000℃の温度で3〜20分間加熱し、前記加熱時の600〜700℃の温度区間における前記加熱速度の変化量が絶対値で0.05℃/s以下である加熱段階と、
前記加熱されたアルミニウム系めっき鋼材を急速冷却する段階と、
を含み、
前記アルミニウム系めっき鋼材は、前記熱処理によって形成されたFe−Al合金化めっき層を含み、
前記Fe−Al合金化めっき層は、Siが濃化した中間層を含み、前記中間層の平均結晶粒サイズは2μm以下であり、前記中間層のSiの含量は7〜14重量%であり、前記中間層はFe−Al合金化めっき層の断面厚さを基準に5〜30%を占める、耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記加熱時の加熱速度は1〜10℃/sである、請求項に記載の耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記急速冷却は、20〜200℃/sの冷却速度で300℃以下の温度範囲まで行う、請求項に記載の耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記加熱されたアルミニウム系めっき鋼材を成形する段階をさらに含む、請求項に記載のアルミニウム系合金化めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などに用いられる熱間成形に用いられるアルミニウム系めっき鋼材、それを用いて製造されたアルミニウム系合金化めっき鋼材、及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、耐食性及び耐衝突特性が求められる自動車構造部材、補強材などの自動車部品の製造において、熱間成形(「熱間プレス成形」とも呼ばれる)技術が台頭している。
【0003】
上記熱間成形技術は、最近、自動車社から求められている車両の軽量化及び耐衝突性を向上させるための超高強度の確保に非常に優れた技術として知られている。即ち、熱間成形技術によれば、鋼材の超高強度による冷間成形時に成形性の問題及び形状凍結性の問題などを解決することができる。
【0004】
また、自動車部材の耐食性を確保するために、アルミニウムまたは溶融亜鉛めっきされた鋼材に対する特許及び技術が開発されており、特許文献1には、アルミニウムめっきされた熱間成形用鋼材の製造方法に関する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1では、熱間成形(Hot Press Forming、HPF)用鋼材が熱処理前には低い強度を有し、HPF工程で高温加熱(通常900℃以上加熱及び100%オーステナイト化)及び金型の冷却による急冷を行うことにより、最終部品にマルテンサイトを主相とする熱間成形部品を製造し、めっき層には、熱処理中にFeとAl金属間化合物が生成されて耐熱性及び耐食性を確保することができる。
【0006】
Alめっき鋼材を加熱炉で約900℃の温度まで加熱すると、Alめっき層はFeAl、FeAlなどの様々な金属間化合物を形成して合金層を形成する。このような金属間化合物は、高い脆性を有するため、プレス成形時にめっき層から脱落してプレス面に吸着し、連続的なプレス成形を困難にする欠点があり、これにより、耐食性が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、熱間成形前だけでなく、熱間成形後にも優れた耐食性を確保することができる熱間成形用鋼材、それを用いた熱間成形部材に対する要求が高まっているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6296805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、熱間成形前後の耐食性を画期的に向上させたアルミニウム系めっき鋼材、それを用いたアルミニウム系合金化めっき鋼材、及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
しかし、本発明の解決課題は上述の課題に制限されず、言及されない他の課題は、以下の記載から当業者が明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.01〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼と、
上記素地鋼の表面に形成されたAl系めっき層を含み、上記Al系めっき層は、Al−Si晶出相を含み、上記Al−Si晶出相の平均粒径は4μm以下である、耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材を提供する。
【0012】
本発明の他の一態様は、重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.0〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼を準備する段階と、
上記準備された素地鋼を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬してめっきする段階と、
上記めっき後に3〜25℃/sで冷却する段階と、を含む、耐食性に優れたアルミニウム系めっき鋼材の製造方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の一態様は、重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.0〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼と、
上記素地鋼の表面には、熱処理によって形成されたFe−Al合金化めっき層を含み、
上記Fe−Al合金化めっき層は、Siが濃化した中間層を含み、上記中間層の平均結晶粒サイズは2μm以下である、耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の一態様は、重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.0〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005%、N:0.009%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む素地鋼を準備する段階と、
上記準備された素地鋼を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬してめっきする段階と、
上記めっき後に3〜25℃/sで冷却し、Al系めっき層を有するアルミニウム系めっき鋼材を製造する段階と、
上記アルミニウム系めっき鋼材を800〜1000℃の温度で3〜20分間加熱し、上記加熱時の600〜700℃の温度区間における上記加熱速度の変化量が絶対値で0.05℃/s以下である加熱段階と、
上記加熱されたアルミニウム系めっき鋼材を急速冷却する段階と、を含む、耐食性に優れたアルミニウム系合金化めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、耐食性に優れた熱間成形用アルミニウム系めっき鋼材だけでなく、熱間成形後に1300MPa以上の超高強度を有し、且つ耐食性が画期的に改善されたアルミニウム系合金化めっき鋼材を提供し、それらの適切な製造方法を提供することができるという技術的効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例のうち発明材Aと比較材Cのめっき層を観察した写真である。
図2】本発明の実施例のうち発明例A−1のFe−Al合金化めっき層の断面を観察した写真である。
図3】上記図2のめっき層内の中間層部分を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の発明者らは、熱間成形に用いられる鋼材と、その鋼材を用いて熱間成形を行う場合、めっき層、特に熱処理前のアルミニウムまたはアルミニウム合金めっき層(以下、「アルミニウム系めっき層」または「Al系めっき層」ともいう)の特性が耐食性に非常に大きな影響を与えることを認知した。さらに、熱間成形熱処理後に合金化されためっき層(以下、「アルミニウム系合金化めっき層」ともいう)の特性が熱間成形部材の耐食性改善に非常に重要であることを認知した。
【0019】
そこで、耐食性を改善するために、上記アルミニウム系めっき鋼材のめっき層及び熱間成形熱処理後に合金化されたアルミニウム系合金化めっき鋼材の合金めっき層を研究した結果、本発明に至った。
【0020】
まず、本発明のアルミニウム系めっき鋼材について詳細に説明する。
【0021】
本発明のアルミニウム系めっき鋼材は、素地鋼と、素地鋼の表面に形成されているAl系めっき層を含む。
【0022】
上記素地鋼は、重量%で、C:0.18〜0.25%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.9〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.05%、Cr:0.0〜0.5%、Ti:0.01〜0.05%、B:0.001〜0.005、N:0.009%以下を含み、残部Fe及びその他の不純物を含む。上記素地鋼の組成範囲を具体的に説明すると、以下の通りである(以下、重量%)。
【0023】
炭素(C):0.18〜0.25%
上記Cは、マルテンサイトの強度上昇に必須的な元素である。Cの含量が0.18%未満であると、耐衝突特性を確保するための十分な強度を得難い。また、0.25%を超えて含有されると、スラブの衝撃靭性を低下させるだけでなく、HPF成形部材の溶接性が低下することがある。それを考慮して、本発明では、上記Cの含量を0.18〜0.25%とすることが好ましい。
【0024】
シリコン(Si):0.1〜0.5%
上記Siは、鋼の脱酸のために添加されるだけでなく、HPF後の部材の組織均質化に効果的である。上記Siの含量が0.1%未満であると、十分な脱酸及び組織の均質化効果を十分に達成できず、0.5%を超えると、焼鈍中の鋼板の表面に生成されるSi酸化物によって、良好な溶融アルミニウムめっき表面の品質を確保し難くなる。したがって、その含量を0.5%以下とすることが好ましい。
【0025】
Mn:0.9〜1.5%
上記Mnは、Cr、Bなどのように鋼の硬化能を確保するために添加される。Mnの含量が0.9%未満であると、十分な硬化能を確保し難く、ベイナイトが生成されることがあるため、十分な強度を確保し難い。また、その含量が1.5%を超えると、鋼板の製造コストが上昇するだけでなく、鋼材の内部にMnが偏析することによってHPF成形部材の曲げ性が顕著に低下することがある。それを考慮して、本発明では、Mnの含量を0.9〜1.5%の範囲とすることが好ましい。
【0026】
P:0.03%以下(0%は含まない)
上記Pは、粒界偏析元素であり、熱間成形部材の多くの特性を阻害する元素であるため、できるだけ少なく添加することが好ましい。Pの含量が0.03%を超えると、成形部材の曲げ特性、耐衝撃特性及び溶接性などが劣化するため、その上限を0.03%とすることが好ましい。
【0027】
S:0.01%以下(0%は含まない)
上記Sは、鋼中に不純物として存在し、成形部材の曲げ特性及び溶接性を阻害する元素であるため、できるだけ少なく添加することが好ましい。Sの含量が0.01%を超えると、成形部材の曲げ特性及び溶接性などが悪化するため、その上限を0.01%とすることが好ましい。
【0028】
Al:0.01〜0.05%
上記Alは、Siと同様に、製鋼において脱酸作用を目的に添加される。その目的を達成するためには、Alを0.01%以上添加する必要性がある。その含量が0.05%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、めっき材の表面品質を悪くするため、その上限を0.05%とすることが好ましい。
【0029】
Cr:0.01〜0.5%
上記Crは、Mn、Bなどのように鋼の硬化能を確保するために添加される。上記Crの含量が0.01%未満であると、十分な硬化能を確保し難く、その含量が0.5%を超えると、硬化能は十分に確保できるが、その特性が飽和するだけでなく、鋼材の製造コストが上昇することがある。それを考慮して、本発明では、上記Crの含量を0.01〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
【0030】
Ti:0.01〜0.05%
上記Tiは、鋼中に不純物として残存する窒素と結合してTiNを生成することにより、硬化能の確保に必須的な固溶Bを残留させるために添加される。上記Tiの含量が0.01%未満であると、その効果を十分に期待し難く、その含量が0.05%を超えると、その特性が飽和するだけでなく、鋼材の製造コストが上昇することがある。それを考慮して、本発明では、上記Tiの含量を0.01〜0.05%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
B:0.001〜0.005%
上記Bは、Mn及びCrと同様に、熱間成形部材において硬化能を確保するために添加される。上記目的を達成するためには、上記Bを0.001%以上添加する必要性がある。その含量が0.005%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、熱間圧延性を顕著に低下させる。したがって、本発明では、上記Bの含量を0.001〜0.005%の範囲とすることが好ましい。
【0032】
N:0.009%以下
上記Nは、鋼中の不純物として存在し、できるだけ少なく添加することが好ましい。Nの含量が0.009%を超えると、鋼材の表面不良を生じさせることがあるため、その上限を0.009%とすることが好ましい。
【0033】
残りは、Feと不可避不純物を含む。但し、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、他の合金元素の添加を排除しない。より好ましい効果のためには、下記成分をさらに含有することができる。
【0034】
モリブデン(Mo)及びタングステン(W)のうち1種以上:0.001〜0.5%
上記MoとWは、硬化能及び析出強化元素であり、高強度をさらに確保するという効果が大きい。MoとWの添加量が0.001%未満であると、十分な硬化能及び析出強化の効果を得ることができず、0.5%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造コストが上昇することがある。したがって、本発明では、上記MoとWの含量を0.001〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)またはバナジウム(V)のうち1種以上の合計:0.001〜0.4%
上記Nb、Zr及びVは、鋼板の強度上昇、結晶粒微細化及び熱処理特性を向上させる元素である。上記Nb、Zr及びVのうち1種以上の含量が0.001%未満であると、上述の効果を期待し難く、その含量が0.4%を超えると、製造コストが過剰に上昇する。したがって、本発明では、それら元素の含量を0.001〜0.4%とすることが好ましい。
【0036】
銅(Cu)及びニッケル(Ni)のうち1種以上:0.005〜2.0%
上記Cuは、微細なCu析出物を生成して強度を向上させる元素であり、上記Niは、強度上昇及び熱処理性を向上させるのに有効な元素である。もし、上記成分の量が0.005%未満であると、所望の強度を十分に得ることができず、2.0%を超えると、操業性に劣り、製造コストが上昇することがある。それを考慮して、本発明では、CuとNiの含量は0.005〜2.0%とすることが好ましい。
【0037】
アンチモン(Sb)、スズ(Sn)またはビスマス(Bi)のうち1種以上:0.03%以下
上記Sb、Sn及びBiは、粒界偏析元素であり、HPF加熱時にめっき層と鉄素地の界面に濃化してめっき層の密着性を向上させることができる。めっき層の密着力を向上させることにより、熱間成形時のめっき層の脱落防止に一助することができる。Sb、Sn及びBiは、類似の特性を有しているため、3つの元素を混合して用いることも可能である。この場合、1種以上の合計を0.03%以下とすることが好ましい。もし、上記成分の合計が0.03%を超えると、熱間成形時に鉄素地の脆性が悪化する恐れがある。
【0038】
本発明のアルミニウム系めっき鋼材は、上記素地鋼の表面にAl系めっき層が形成されている。上記Al系めっき層はAl−Si晶出相を含む。
【0039】
上記Al−Si晶出相は、Al系めっき層内に液状で晶出して生成された相を意味する。一例として、図1ではAl−Si晶出相(図1の矢印)を示しており、その形態に応じて球状またはニードル(needle)状を示す。
【0040】
上記Al−Si晶出相の大きさ(円相当平均粒径)は4μm以下であることが好ましい。また、上記Al−Si晶出相の縦横比(aspect ratio)は10以下であることが好ましい。上記Al−Si晶出相中のSiの含量は3〜25重量%であることが好ましい。上記Al−Si晶出相の大きさ、縦横比及びSiの含量は、後続する熱間成形工程におけるAl−Si晶出相の完全な再溶解に重要な影響を及ぼす因子である。特に、晶出相中のSiがアルミニウム系合金化めっき鋼材のFeAl合金化めっき層で生成されるFeAl中間層に十分に固溶する場合、最終的に中間層の結晶粒成長を抑制することができ、その結晶粒サイズが微細であるほど(好ましくは2μm以下)熱間成形工程で発生せざるを得ない亀裂の伝播が中間層で抑制され、最終的に耐食性を向上させることができる。
【0041】
上記Al−Si晶出相の大きさ(円相当平均粒径)が4μmを超えると、晶出相が熱間成形工程で再溶解し難くなり、その大きさが4μm以下となっても、縦横比(aspect ratio)が10を超えると、長軸方向への完全な再溶解が困難になるため、上記効果を得るのに限界がある。上記晶出相中のSiの含量が3重量%未満であると、中間層の結晶粒成長を抑制し難く、25重量%を超えると、めっき浴中に過剰なSiを添加しなければならなくなり、これによりめっき浴の融点が過剰に高まってめっき操業性を悪くする。
【0042】
一方、上記Al系めっき層の厚さは15〜35μmであることが好ましい。上記めっき層の厚さが15μm未満であると、後続するアルミニウム系合金化めっき鋼材において十分な耐食性を確保し難く、35μmを超えると、最終アルミニウム系合金化めっき鋼材におけるめっき層の厚さが過剰に成長して操業性を悪くする。
【0043】
次に、本発明のアルミニウム系めっき鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
【0044】
本発明は、上記組成を有する素地鋼を準備した後、溶融アルミニウムめっきを行って製造することが好ましい。
【0045】
上記素地鋼の種類は、熱延鋼板、冷延鋼板、焼鈍鋼板など、その種類を特に限定せず、本発明の技術分野で適用可能な鋼材であれば十分である。
【0046】
一方、上記溶融アルミニウムめっきは、素地鋼を溶融めっき浴に浸漬した後にエアナイフ(air knife)でめっき付着量を調整し、冷却速度を調節してAl系めっき層内のAl−Si晶出相の大きさ及び縦横比を調節する。
【0047】
上記めっき後の冷却速度は3〜25℃/sであることが好ましい。上記冷却速度が3℃/s未満であると、Al−Si晶出相が過度に粗大化するだけでなく、トップロール(top roll)での凝固が未完了となってめっき表面品質を悪くする。また、冷却速度が25℃/sを超えると、Al−Si晶出相を微細かつ均一に分布させることができるものの、冷却設備への過剰な投資によってコストが上昇するという問題がある。
【0048】
一方、上記溶融アルミニウムめっき浴の組成は、重量%で、Si:8〜11%、Fe:3%以下、残りはAl及びその他の不可避不純物を含むことが好ましい。
【0049】
以下、本発明のアルミニウム系合金化めっき鋼材について詳細に説明する。
【0050】
本発明のアルミニウム系合金化めっき鋼材は、上記組成を有する素地鋼の表面に、Al系めっき層が素地鋼中のFeなどの成分と合金化されて得られたFe−Al合金化めっき層を含む。上記Fe−Al合金化めっき層は、Siが濃化した中間層を含む。
【0051】
図2に示されているように、上記アルミニウム系合金化めっき鋼材は、素地鋼から拡散層、金属間化合物層、中間層、最外郭層などを含んで構成される。このとき、中間層は、Siが濃化して含有された連続的または不連続的に存在する層を意味する。
【0052】
上記中間層は、Fe−Al合金化めっき層の断面厚さを基準に5〜30%を占めることが好ましい。上記中間層の厚さがFe−Al合金化めっき層の断面厚さを基準に5%未満を占めると、めっき層の亀裂伝播を抑制するのに不十分であり、30%を超えると、鋼ブランクを非常に高い温度で長時間熱処理しなければならないため、生産性が低下するという問題がある。
【0053】
上記中間層の結晶粒サイズは2μm以下であることが好ましい。上記中間層は、亀裂の伝播を防止する役割を果たし、そのためには、結晶粒が微細であることが好ましい。もし、上記中間層の結晶粒サイズが2μmを超えると、十分な亀裂伝播防止の効果を確保し難い。
【0054】
上記中間層のSiの含量は7〜14重量%であることが好ましい。上記中間層のSiは、中間層の相を安定化させるだけでなく、結晶粒の成長を抑制するのに重要な役割を果たす。したがって、その含量が7重量%未満であると、上述の効果を期待し難く、14重量%を超えるためには、めっき浴中にSiを過剰に添加しなければならず、ブランクを非常に高い温度で長時間熱処理しなければならない。また、拡散層が厚くなりすぎて(16μm超過)スポット溶接性を悪くするという問題がある。
【0055】
本発明のアルミニウム系合金化めっき鋼材の素地鋼は、マルテンサイト組織を95%以上含むことが好ましく、引張強度が1300MPa以上であることが好ましい。
【0056】
次に、本発明のアルミニウム系合金化めっき鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
【0057】
本発明のアルミニウム系合金化めっき鋼材は、上述のアルミニウム系めっき鋼材を熱間で加熱した後に冷却することにより製造することができ、加熱後に成形を行うことができる。
【0058】
まず、アルミニウム系めっき鋼材を準備した後、800〜1000℃の温度で3〜20分間加熱する熱処理を行う。
【0059】
上記加熱温度が800℃未満であると、十分なオーステナイトが得られず、以後に急速冷却を行っても十分な強度を確保し難い。上記加熱温度が1000℃を超えると、加熱コストが過剰となるだけでなく、長時間用いると、加熱設備を悪くする。一方、上記加熱時間が3分にならないと、素地鋼中の炭素及びマンガンのような合金成分の均質化が困難になり、20分を超えると、拡散層の厚さが厚くなりすぎてスポット溶接性を低下させるという問題がある。
【0060】
上記熱処理時の加熱速度は1〜10℃/sであることが好ましい。上記加熱速度が1℃/s未満であると、アルミニウム系合金化めっき鋼材の生産性を確保し難くなり、10℃/sを超えると、Al−Si晶出相がめっき層内で十分に再溶解し難くなるだけでなく、加熱速度を高めるためには相当なコストを要するため、好ましくない。
【0061】
一方、上記加熱時の600〜700℃の温度区間における上記加熱速度の変化量は、絶対値で0.05℃/s以下であることが好ましい。上記加熱時の600〜700℃の温度区間は、Alめっき及びAl−Si晶出相が再溶解する温度区間であって、加熱速度の変化が0.05℃/sを超えると、めっき層の中間層にAl−Si晶出相が安定かつ円滑に再分配されず、中間層における所望の結晶粒サイズ、Siの含量及び厚さを確保し難い。
【0062】
上述のように加熱された鋼材を金型で急速冷却する。上記冷却は、300℃以下の温度範囲まで冷却することが好ましく、このときの冷却速度は20〜200℃/sであることが好ましい。もし、冷却速度が20℃/s未満であると、冷却効果を期待することができず、一方、200℃/sを超えると、過冷却によって、熱間成形によるマルテンサイト変態の効果が減少する恐れがある。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0064】
(実施例1)
下記表1の組成(重量%、残りはFeと不可避不純物である)を有する冷延鋼板を準備した後、それを表2のAlめっき条件に従ってめっきを行った。
【0065】
このように製造されたアルミニウム系めっき鋼材のめっき層におけるAl−Si晶出相の大きさと、上記Al−Si晶出相中のSiの含量及び縦横比(aspect ratio)を観察し、その結果を表3に示した。一方、上記Alめっき鋼材の耐食性を評価し、その結果を表3に共に示した。
【0066】
上記めっき層におけるAl−Si晶出相の大きさ、縦横比及びSiの含量は、めっき層の断面の3箇所を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した後、画像分析及びEDSを用いて求めてその平均を示した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
上記表3に示されているように、発明材は、Al−Si晶出相の大きさとSiの含量及び縦横比が本発明の範囲に含まれるが、比較材は、本発明の範囲を外れることが分かる。
【0071】
特に、図1の(a)及び(b)はそれぞれ、上記発明材Aと比較材Cのめっき層を観察した写真であって、発明材AではAl−Si晶出相が形成されたことが分かるが、比較材Cでは非常に鋭い形状の晶出相が形成されたことが分かる。
【0072】
(実施例2)
上記実施例1に従って製造されたアルミニウム系めっき鋼材を準備し、下記表4の条件に従って熱処理を行った。
【0073】
上記熱処理を行った後に製造されたアルミニウム系合金化めっき鋼材の表面に形成された合金層を分析し、その結果を下記表5に示した。具体的には、上記合金層内に形成された中間層の結晶粒サイズとSiの含量を測定し、その結果を表5に示した。
【0074】
ここで、耐食性評価は、GMW14872方法に準拠して上記部材試験片をリン酸塩処理及び塗装を行った後、Xカット(X−cut)した試験片に対してCCT条件下53サイクル後に最大ブリスター(blister)幅を測定した。
【0075】
一方、中間層の厚さは、光学顕微鏡を用いて全体Fe−Al合金化めっき層の厚さに対する中間層の厚さを比率で計算した。上記中間層のSiの含量及び大きさは、めっき層の断面をFIB(Focused Ion Beam)で加工した後に透過型電子顕微(TEM)を用いて結晶粒サイズ及び成分を分析した。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
上記表5の結果から分かるように、本発明の条件を満たす発明例A−1とB−1は両方とも優れた耐食性を有し、高い強度を確保することができた。一方、比較例A−2は、本発明の昇温速度の変化値を外れた場合であって、中間層の結晶粒サイズが粗大であり、耐食性に劣ることが分かった。
【0079】
比較例A−3は、昇温速度が低くすぎて高い生産性を確保することができないため、比較例として分類した。比較例A−4は、昇温速度が速すぎて中間層の結晶粒サイズが粗大となり、耐食性に劣ることが分かった。
【0080】
比較例B−2は、熱処理温度が低くて十分な強度を確保することができなかった。比較例B−3は、長時間の熱処理を行った場合であって、生産性が低く、以後にスポット溶接性が劣化する可能性があるため、比較例として分類した。
【0081】
比較例C−1及びC−2は、熱間成形熱処理工程は本発明の範囲を満たすが、本発明の範囲を外れたAlめっき鋼材を用いたため、中間層の結晶粒サイズが粗大であり、耐食性に劣ることが分かった。
【0082】
一方、図2は上記発明例A−1の熱間成形部材試験片を観察した写真であり、図3は上記図2の中間層を観察し、その組成を分析した結果を示す図である。上記図2に示されているように、中間層は、全体Fe−Al合金化めっき層の5〜30%の範囲を占めており、図3の結果から分かるように、中間層の平均結晶粒サイズが2μm以下であり、Siの含量が7〜14重量%であることが分かる(図3の表において四角領域を参照)。図3の表において1番、2番及び23番は、上記中間層と境界をなす最外郭層や金属間化合物層の相が観察されたものである。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3