(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施の形態に係る、樹脂を含む材料からなるスラストワッシャとしての樹脂製スラストワッシャ20と、その樹脂製スラストワッシャ20を用いた組合せスラストワッシャ10について、図面に基づいて説明する。
【0026】
[1.組合せスラストワッシャ10の全体的な構成について]
組合せスラストワッシャ10は、たとえば車両のトランスミッション装置、車両のエアーコンディショナ装置のコンプレッサに組み込まれるものである。この組合せスラストワッシャ10の構成を、
図1に示す。
図1は、組合せスラストワッシャ10の構成を示す斜視図である。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態の組合せスラストワッシャ10は、3枚のスラストワッシャS1,S2,S3を備えている。3枚のスラストワッシャS1,S2,S3を備える組合せスラストワッシャ10は、相手材C1,C2の間に位置していて、スラスト方向の荷重を受ける状態となっている。
【0028】
なお、組合せスラストワッシャ10と相手材C1,C2とが設けられる環境は、潤滑油が供給される環境下ではある。しかしながら、本実施の形態に係る組合せスラストワッシャ10に辿り着くまでの各種の実験結果等におけるスラストワッシャの摺動痕や各種の実験結果等で測定された摺動負荷から推定すると、組合せスラストワッシャ10が使用される環境の潤滑状態は、ストライベック線図における混合潤滑領域におけるものと想定される。したがって、スラストワッシャと相手材との間の一部には油膜が介在すると共に、スラストワッシャの一部は相手材と直接接触していると推測される。
【0029】
上述のスラストワッシャS1,S2,S3は、(1)樹脂を材質とする樹脂製スラストワッシャ20(
図2、
図3等参照)、(2)金属を材質とする金属製スラストワッシャの中から、少なくとも1枚の樹脂製スラストワッシャ20を備えるように構成される。具体的には、
図1に示す組合せスラストワッシャ10において、相手材C1側と相手材C2側に樹脂製スラストワッシャ20を配置して中央に金属製スラストワッシャを配置しても良く、相手材C1側のみに樹脂製スラストワッシャ20を配置して残りを金属製スラストワッシャとしても良く、相手材C2側のみに樹脂製スラストワッシャ20を配置して残りを金属製スラストワッシャとしても良い。また、相手材C1側のみに金属製スラストワッシャを配置して残り2枚を樹脂製スラストワッシャ20としても良く、相手材C2側のみに金属製スラストワッシャを配置して残り2枚を樹脂製スラストワッシャ20としても良く、相手材C1側と相手材C2側の両方に金属製スラストワッシャをそれぞれ配置して中央に樹脂製スラストワッシャ20を配置しても良い。また、3枚の上述のスラストワッシャS1,S2,S3を全て樹脂製スラストワッシャ20としても良い。
【0030】
[2.樹脂製スラストワッシャ20の構成について]
まず、組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20の構成について説明する。
図2は、
図1に示す組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図であり、油溝25が非連通油溝25aと連通油溝25bから構成される状態を示す図である。また、
図3は、
図1に示す組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20の構成を示す平面図であり、傾斜角度の異なる2本の油溝25が開口部27で連結されている構成を示す図である。
図3に示す構成では、傾斜角度の異なる2本の油溝25が開口部27において連結されることで、油溝25の全体は略V字を描くような形態となっている。
【0031】
以下の説明では、
図2に示すような、一の油溝25が他の油溝25と略V字を描くように連結されていない構成の樹脂製スラストワッシャ20を、樹脂製スラストワッシャ20Aと称呼する。また、
図3に示すような略V字を描くように連結されている油溝25を有する樹脂製スラストワッシャ20を、樹脂製スラストワッシャ20Bと称呼する。しかしながら、樹脂製スラストワッシャ20Aと樹脂製スラストワッシャ20Bを区別する必要がない場合には、単に樹脂製スラストワッシャ20と称呼する。
【0032】
樹脂製スラストワッシャ20は、その材質を(1)樹脂基材単独、(2)樹脂基材に繊維材を混合したもの、(3)樹脂基材に充填材を混合したもの、(4)樹脂基材に繊維材と充填材を混合したもの、のいずれかとしている。以下、樹脂基材、繊維材、充填材について、それぞれ述べる。
【0033】
[2.1.樹脂基材について]
樹脂基材は、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリベンゾイミダゾール樹脂(PBI)、芳香族ポリエーテルケトン類(PAEK)、変性ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、液晶ポリマー、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリルブタジエン・スチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)のいずれか、またはこれらの中から複数を選択して混合した混合物(ポリマーアロイや共重合が含まれる)となっている。
【0034】
[2.2.繊維材について]
繊維材は、平均繊維長がたとえば0.0001mm〜5mm程度の長さの補強繊維であり、その繊維物は、炭素繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維等のような無機繊維を素材とするもの、アラミド繊維、フッ素繊維等のような有機繊維を素材とするものがあるが、これらに限らない。また、上述の繊維材の中から少なくとも1つの繊維材を選択すると共に、その他の材質の繊維材を選択して混合しても良い。
【0035】
なお、繊維材がガラス繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は1〜40重量%が好適である。また、繊維材が炭素繊維またはアラミド繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は1〜45重量%が好適である。また、繊維材がフッ素繊維の場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は5〜55重量%が好適である。また、繊維材がチタン酸カリウムの場合には、その製品当たりの混合率の重量割合は0.1〜5重量%が好適である。
【0036】
[2.3.充填材について]
充填材は、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、硫化マンガン(MnS)、二硫化モリブデン(MoS
2 )、グラファイト、炭酸カルシウム(CaCo
3 )、酸化チタン、メラミンシアヌレート(MCA)のうちのいずれか、またはこれらの中から複数を選択して混合されたものである。
【0037】
[2.4.樹脂製スラストワッシャ20の表面処理について]
樹脂製スラストワッシャ20の表面処理(ここでの表面処理は、表面改質処理も含む)は、エポキシシラン(信越シリコーン社製)を用いた表面改質処理、チタネート系・アルミネート系カップリング剤(具体的には、ビスー(ジオクチルパイロホスフェート)イソプロポキシチタネート;味の素ファインテクノ社製:商品名38S)を用いた表面改質処理、ビスー(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート;商品名138S;味の素ファインテクノ社製)を用いた表面改質処理、商品名55(味の素ファインテクノ社製)、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート商品名AL−M;味の素ファインテクノ社製)を用いた表面改質処理が挙げられるが、これらのうちのいずれか、またはこれらの中から複数を選択して表面処理(表面改質処理)を行っても良い。また、上記の表面処理(表面改質処理)に代えて、コロナ放電またはイオンプラズマ放電を用いたカップリング処理を行うようにしても良く、上記の表面改質処理に代えてDLC処理またはMoコーティングを行うようにしても良い。特に、DLC処理は、摺動部位において、低摩擦化および耐摩耗性の向上を図ることが可能であり、好ましい。
【0038】
[3.樹脂製スラストワッシャ20Aの具体的構成について]
(1)樹脂製スラストワッシャ20Aの第1構成例について
以下、樹脂製スラストワッシャ20Aの具体的構成について説明する。まず、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aについて説明する。
図2に示すように、樹脂製スラストワッシャ20Aには、挿通孔22を覆うように、リング状部21が設けられている。このリング状部21の内周側(挿通孔22側)には、潤滑油を油溝25に導入するための油導入溝23が設けられていて、その油導入溝23は、挿通孔22側から外径側に向かうように内周壁を凹ませた形状に設けられている。すなわち、挿通孔22には、不図示の回転シャフトが配置されるが、油導入溝23が存在しないと、回転シャフトに沿った潤滑油の供給が阻害され、それによって油溝25に潤滑油が十分に供給されない虞がある。しかしながら、油導入溝23が存在することで、潤滑油を油溝25に良好に導入することが可能となっている。
【0039】
また、リング状部21の内周側(挿通孔22側)には、油掬い面24が設けられている。油掬い面24は、油導入溝23から導入された潤滑油を、リング状部21の周方向にガイドする部分である。この油掬い面24は、リング状部21の内周側を、たとえばテーパ状や曲面状に加工することで形成される。
【0040】
また、リング状部21には、油溝25が設けられている。
図4は、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す部分的な平面図である。
図2および
図4に示すように、油溝25は、リング状部21のうち、他の部材(相手材C1,C2、他の樹脂製スラストワッシャ20や金属製スラストワッシャ;以下、単に他の部材とする)と向かい合う表面や裏面から凹むように設けられている。以下の説明は、リング状部21の表面や裏面を摺動面26と称呼する。
図2に示す構成では、油溝25の内径側には、挿通孔22側に開口する開口部27が設けられている。したがって、油溝25には、挿通孔22側から潤滑油が供給される。
【0041】
この油溝25には、非連通油溝25aと、連通油溝25bとが設けられている。非連通油溝25aの外径側は、樹脂製スラストワッシャ20A(リング状部21)の外周側とは連通していない。すなわち、非連通油溝25aの外径側には、潤滑油が外周側に流れ出るのを抑制する油止壁28が配置されている。なお、油止壁28は、摺動面26と面一であるが、油止壁28は摺動面26に対して多少の高低差があるように設けられていても良い。一方、連通油溝25bは、リング状部21の外径側に油止壁28が存在せず、潤滑油が内径側(挿通孔22側)から外径側に流通自在となっている。
【0042】
なお、油止壁28の幅は、0.01mm〜0.1mmの範囲内であることが好ましい。0.01mmよりも油止壁28の幅を小さくすることは、加工精度上、困難であるのと共に、0.1mmよりも油止壁28の幅を大きくする場合、その油止壁28での摺動負荷により樹脂製スラストワッシャ20に与える影響が大きくなるためである。
【0043】
ここで、第1構成例に係る非連通油溝25aおよび連通油溝25bは、径方向に沿うように設けられている。
【0044】
上述した連通油溝25bでは、非連通油溝25aと比較して、外径側に向かって通過する潤滑油の流量を多くすることが可能となる。したがって、樹脂製スラストワッシャ20Aの放熱性を良好にすることが可能となる。
【0045】
また、上述した油溝25(非連通油溝25aおよび連通油溝25b)の断面形状は、
図5に示すように構成されている。
図5に示す構成では、油溝25の底部251から摺動面26側に向かうように、一対のテーパ壁面252が設けられている。テーパ壁面252は、摺動面26に対して所定の傾斜角度を有した状態で直線状に傾斜している部分である。なお、テーパ壁面252は、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。
【0046】
また、リング状部21に対する油溝面積率は、15〜40%となっている。いわば、摺動面26のうち、リング状部21から油溝面積率を減算した摺動面積率は、60〜85%となっている。このとき、後述するように、摺動負荷が最も低い状態となっている。
【0047】
ここで、摺動面積率とは、樹脂製スラストワッシャ20(リング状部21)の平面図における投影面に対して、摺動面26が占める割合を指す。また、油溝面積率とは、上記の樹脂製スラストワッシャ20(リング状部21)の平面図における投影面から、摺動面26を除いたものの割合(相手材C1,C2に接触しない部分の割合)を指す。したがって、油溝面積率には、摺動面26よりも低い部分である、油掬い面24、油溝25(非連通油溝25aおよび連通油溝25b)、動圧用ガイド壁面254、包囲部111(
図23参照)等が含まれる。
【0048】
また、
図2に示す構成では、非連通油溝25aと連通油溝25bの合計本数は、8本となっている。しかも、非連通油溝25aと連通油溝25bは、周方向において交互に設けられているため、非連通油溝25aと連通油溝25bとは、同一の本数設けられている。しかしながら、非連通油溝25aと連通油溝25bの合計本数は、8本に限られるものではない。そのような構成例を、
図6および
図7に示す。
【0049】
図6は、第1構成例の変形例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す平面図である。
図6に示す樹脂製スラストワッシャ20Aでは、非連通油溝25aと連通油溝25bの合計本数は、16本となっている。また、
図7は、第1構成例の変形例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す平面図である。
図7に示す樹脂製スラストワッシャ20Aでは、非連通油溝25aと連通油溝25bの合計本数は、32本となっている。
【0050】
また、
図6に示す油溝25(非連通油溝25aおよび連通油溝25b)の断面形状を、
図8に示す。
図8に示す油溝25においても、
図5に示す油溝25と同様に、底部251から摺動面26側に向かうように、一対のテーパ壁面252が設けられている。テーパ壁面252は、摺動面26に対して所定の傾斜角度を有した状態で直線状に傾斜している部分である。なお、テーパ壁面252は、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。
【0051】
また、
図7に示す油溝25のうち、非連通油溝25aの断面形状を、
図9に示す。また、
図7に示す油溝25のうち、連通油溝25bの断面形状を、
図10に示す。
図9に示す構成においては、
図5や
図8に示すようなテーパ壁面252に代えて、凸曲面部253が設けられている。凸曲面部253は、底部251と摺動面26とを結ぶ凸状の曲面であるが、略S字形状の湾曲面(後述する湾曲壁面等)とは異なり、変曲点が存在しない断面形状である。
図9に示す構成では、凸曲面部253は、たとえば丸く面取りしたのと同等の形状に設けられている。しかしながら、凸曲面部253は、凸状の曲面状の部分以外に、たとえば一部に直線的な部分が存在しても良く、一部に凹状の曲面状の部分が存在しても良い。また、
図10に示す構成でも、
図9に示す構成と同様に、凸曲面部253が設けられている。
【0052】
なお、
図8および
図9に示す油溝25は、次のように構成しても良い。すなわち、油溝25の寸法a2,a3および/または寸法b2,b3は、外径側に向かうにつれて小さくなっていても良い。このとき、油溝25の寸法a2,a3は、内径側から外径側に向かうにつれて直線的(比例的)に変化しても良いが、直線的(比例的)ではなく曲線的に変化しても良い。また、油溝25の寸法b2,b3は、寸法a2,a3の寸法変化に連動して変化するが、その寸法変化の態様は、どのようなものであっても良い。また、油溝25の寸法b2,b3は、寸法a2,a3の寸法変化に連動せずに全体的に一定の寸法となるものとしても良く、寸法b2,b3の寸法変化が一部の部分に存在していても良い。
【0053】
また、油溝25の摺動面26からの深さに対応する寸法H2,H3は、外径側に向かうにつれて小さくなっていても良い。このとき、油溝25の寸法H2,H3は、内径側から外径側に向かうにつれて直線的(比例的)に小さくなっても良いが、直線的(比例的)ではなく曲線的に変化しても良い。また、寸法a2,a3と寸法H2,H3とが、共に、樹脂製スラストワッシャ20Aの内径側から外径側に向かうにつれて小さくなっても良い。しかしながら、寸法a2,a3と寸法H2,H3のいずれかが、樹脂製スラストワッシャ20Aの内径側から外径側に向かうにつれて小さくなっても良い。
【0054】
なお、以下に述べる各構成例の寸法a4〜a6,a11〜a16,a18、b4〜b6,b11,b13,b15,b16,b18,H4〜H6,H11〜H13,H15,H16,H18,H141,H142においても、上記と同様の寸法変化が生じていても良い。
【0055】
なお、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、油溝面積率(摺動面積率)は、
図2に示す構成と、
図6に示す構成と、
図7に示す構成とで概ね等しくなっている。
【0056】
(2)樹脂製スラストワッシャ20Aの第2構成例について
次に、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aについて説明する。
図11は、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す平面図である。
図12は、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す部分的な平面図である。
図13は、
図11および
図12に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
【0057】
図11および
図12に示す、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aとは異なり、油溝25は、非連通油溝25aから構成されていて、連通油溝25bは設けられていない。しかしながら、第2構成例においては、油溝25は、非連通油溝25aと共に、連通油溝25bを設ける構成を採用しても良い。
【0058】
第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいても、油溝面積率は、15〜40%となっている。いわば、摺動面26のうち、摺動面積率は、60〜85%となっていて、後述するように、摺動面26の摺動負荷が最も低い状態となっている。
【0059】
また、
図12に示すように、リング状部21の径方向(幅方向)における中央線L1が、非連通油溝25aの中心線L2と交差する交差位置P1において、その交差位置P1を通ると共に径方向に沿う径方向線L3に対して中心線L2がなす角度を傾斜角度θ1とする。
図2等に示すような径方向に沿う非連通油溝25aが存在する構成と比較して、非連通油溝25aの傾斜角度θ1が30度以上であれば、後述するように樹脂製スラストワッシャ20の摩耗が減少し、さらに他の部材に対する摺動負荷が低減される。なお、以下の各構成例(たとえば第4構成例)においても、上述した交差位置P1と同様の位置において、径方向線L3と同様の線に対して中心線L2がなす傾斜角度を、傾斜角度θ1として説明する場合がある。
【0060】
ここで、傾斜角度θ1が55度よりも大きくなる場合、非連通油溝25aが長くなる。この場合、油溝面積率は、15〜40%の範囲内の所定の値となっているので、非連通油溝25aの長さが長くなる分だけ非連通油溝25aの幅寸法は小さくなる。すると、非連通油溝25aの幅が狭くなり過ぎて溝形状が崩れてしまうか、または他の非連通油溝25aとの干渉等により非連通油溝25aの本数を低減させる必要がある。したがって、傾斜角度θ1は55度以下とすることが好ましい。すなわち、傾斜角度θ1は、30度以上55度以下であることが好ましい。
【0061】
また、
図11および
図12に示すように、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、油溝25の底部251から摺動面26側に向かうように、一対のテーパ壁面252が設けられている。テーパ壁面252は、摺動面26に対して所定の傾斜角度を有した状態で直線状に傾斜している部分であり、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。
【0062】
なお、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、次のように構成しても良い。すなわち、油溝25は、直線状には限られず、曲線状に設けられていても良く、直線と曲線とが混在していても良い。また、油溝25の寸法a5および/または寸法b5(
図13参照)は、外径側に向かうにつれて小さくなっていても良い。そのような寸法例としては、たとえば油溝25の内径側端部の寸法a5が0.8mm、油溝25の外径側端部の寸法が0.03mmとしたものがあるが、かかる寸法には限られない。
【0063】
また、油溝25の摺動面26からの深さに対応する寸法H5(
図13参照)は、外径側に向かうにつれて小さくなっていても良い。このとき、油溝25の寸法H5は、内径側から外径側に向かうにつれて直線的(比例的)に小さくなっても良いが、直線的(比例的)ではなく曲線的に変化しても良い。また、寸法a5と寸法H5とが、共に、樹脂製スラストワッシャ20Aの内径側から外径側に向かうにつれて小さくなっても良い。しかしながら、寸法a5と寸法H5のいずれかが、樹脂製スラストワッシャ20Aの内径側から外径側に向かうにつれて小さくなっても良い。
【0064】
(3)樹脂製スラストワッシャ20Aの第3構成例について
次に、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aについて説明する。
図14は、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す平面図である。
図15は、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの構成を示す部分的な平面図である。
図16は、
図14および
図15に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
【0065】
図14および
図15に示す、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、油溝25は、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの油溝25と同様に、非連通油溝25aから構成されていて、連通油溝25bは設けられていない。しかしながら、第3構成例においては、油溝25は、非連通油溝25aと共に、連通油溝25bを設ける構成を採用しても良い。また、
図15および
図16に示すように、油溝25には、底部251と、テーパ壁面252とが存在している。
【0066】
ここで、
図15および
図16に示すように、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいては、油溝25に隣接するように、動圧用ガイド壁面254が設けられている。動圧用ガイド壁面254は、非連通油溝25aに入り込んだ潤滑油が摺動面26にガイドされ易くするための部分である。そのため、動圧用ガイド壁面254の摺動面26に対する傾斜角度θ3(
図16参照)は、テーパ壁面252の摺動面26に対する傾斜角度よりも大幅に小さく設けられている。かかる動圧用ガイド壁面254で潤滑油を摺動面26に向けてガイドすることにより、摺動面26と他の部材との間に潤滑油による圧力(動圧)を生じさせることができ、その圧力(動圧)によって、他の部材との間の摺動負荷を低減することが可能となる。
【0067】
[4.樹脂製スラストワッシャ20Bの具体的構成について]
次に、略V字を描くような形態の油溝25を備える樹脂製スラストワッシャ20B(第1油溝25cと第2油溝25dを備えるもの)の構成について、以下に説明する。なお、樹脂製スラストワッシャ20Bが備える油溝25は、後述する第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20(
図27参照)が備える連通油溝113以外は、非連通油溝25aとなっている。しかしながら、樹脂製スラストワッシャ20Bは、第9構成例以外の構成においても、連通油溝25bを備えるものとしても良い。
【0068】
(1)樹脂製スラストワッシャ20Bの第4構成例について
図17は、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図3および
図17に示すように、樹脂製スラストワッシャ20Bは、上述した樹脂製スラストワッシャ20Aと同様に、リング状部21、挿通孔22、油導入溝23、摺動面26、開口部27および油止壁28を備えている。しかしながら、樹脂製スラストワッシャ20Bにおいては、油溝25の形態が異なっている。具体的には、樹脂製スラストワッシャ20Bは、傾斜角度の異なる2本の油溝25が開口部27側で連結され、これら2つの油溝25がV字を描くように配置されている。
【0069】
以下の説明では、略V字を描く油溝25の一方を第1油溝25c、残りの他方を第2油溝25dと称呼する。
図3および
図17においては、第1油溝25cは、その内径側から外径側に向かうにつれて、時計回りに進行するように設けられている。一方、第2油溝25dは、その内径側から外径側に向かうにつれて、反時計回りに進行するように設けられている。なお、第1油溝25cと第2油溝25dとを区別する必要がない場合には、単に油溝25と称呼する。
【0070】
ここで、第1油溝25cと第2油溝25dとは、開口部27側において完全に連結されていても良いが、両者が僅かに離れていても良い。
【0071】
また、
図17に示すように、第1油溝25cおよび第2油溝25dにおいても、傾斜角度θ1は30度〜55度の範囲内であることが好ましい。また、油溝25の溝幅は、1.8mm〜2.8mmの範囲内であることが好ましい。また、油溝25の溝深さは、0.5mm〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。なお、
図17においては、第1油溝25c側の傾斜角度θ1と、第2油溝25d側の傾斜角度θ1とが、異なる値であっても良い。
【0072】
また、
図3および
図17に示す、第4構成例に係る油溝25の断面形状は、
図18に示すように形成されている。
図18に示す構成では、油溝25の底部251から摺動面26側に向かうように、略S字形状の湾曲壁面255が一対設けられている。そのため、一対の湾曲壁面255のいずれにおいても、油溝25の内部に入り込んだ潤滑油を摺動面26に良好に供給可能となっている。
【0073】
また、
図18に示すように、他方側(
図18ではX2側)の湾曲壁面255には、動圧用ガイド壁面254が連続するように設けられている。動圧用ガイド壁面254は、摺動面26に対して所定の傾斜角度を有した状態で直線状に傾斜している部分である。なお、動圧用ガイド壁面254は、直線状以外に、曲線状に傾斜する部分が存在していても良い。
【0074】
ここで、第4構成例においては、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは、合計12個設けられている。なお、後述する第6構成例、第7構成例、第8構成例、第11構成例についても、第4構成例と同様に、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは、合計6個設けられている。しかしながら、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは幾つ設けられていても良い。
【0075】
ここで、
図17においては、二点鎖線は、樹脂製スラストワッシャ20Bの回転方向が時計回りである場合を示すと共に、そのときの潤滑油の流れも示している。挿通孔22側に存在する潤滑油に対して、樹脂製スラストワッシャ20Bが時計回りに回転する場合、開口部27から油溝25内に流入する潤滑油は、遠心力の作用により、第1油溝25cではなく主として第2油溝25dから摺動面26へと供給される。また、
図17においては、破線は、樹脂製スラストワッシャ20の回転方向が反時計回りである場合を示すと共に、そのときの潤滑油の流れも示している。樹脂製スラストワッシャ20が反時計回りに回転する場合、潤滑油に作用する遠心力により、潤滑油は第2油溝25dではなく主として第1油溝25cから摺動面26へと供給される。
【0076】
(2)樹脂製スラストワッシャ20Bの第5構成例について
次に、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。
図19は、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図20は、
図19に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの油溝25は、幅方向に沿った断面形状が第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの油溝25とは異なるが、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、油溝25の断面形状以外の構成は、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bと共通となっている。
【0077】
図19および
図20に示す、第5構成例に係る油溝25においては、油溝25の底部251から一方側(
図20ではX1側)に向かうと、テーパ壁面252に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、テーパ壁面252が連続している。これに対し、底部251から他方側(
図20ではX2側)に向かうと、上述した
図18に示す油溝25と同様に、湾曲壁面255に差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、湾曲壁面255が連続している。なお、テーパ壁面252の幅方向の長さ(寸法c12)は、底部251の幅方向の長さである寸法a12に対して概ね4倍となるように寸法が設定されている。
【0078】
ここで、2つの油溝25がV字を描くように配置された構成では、
図19に示すように、テーパ壁面252は、油溝25の幅方向において湾曲壁面255よりも内径側に位置するように設けられている。それにより、樹脂製スラストワッシャ20Bの回転時に、潤滑油が2つの油溝25で囲まれていない部位の摺動面26に供給される。しかしながら、テーパ壁面252は、油溝25の幅方向において湾曲壁面255よりも外径側に位置するように設けても良い。
【0079】
なお、第5構成例においては、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは、リング状部21の周方向において均等となる間隔で合計6個設けられている。しかしながら、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは幾つ設けられていても良い。
【0080】
(3)樹脂製スラストワッシャ20Bの第6構成例について
次に、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。
図21は、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図22は、
図21に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第6構成例に係る油溝25は、その平面形状が第4構成例に係る油溝25とは異なるが、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、油溝25の断面形状は、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bと共通となっている。すなわち、第6構成例に係る油溝25では、第4構成例に係る油溝25と同様に、底部251と、その底部251から摺動面26側に向かうように、略S字形状の湾曲壁面255が一対設けられている。また、第6構成例に係る油溝25においても、他方側(
図22ではX2側)の湾曲壁面255には、直線状に傾斜する動圧用ガイド壁面254が連続するように設けられている。
【0081】
図21に示すように、油溝25には、V字を描くように連結されている第1油溝25cと第2油溝25d以外に、分岐油溝110が設けられている。分岐油溝110は、第1油溝25cおよび第2油溝25dのそれぞれから分岐するように連結されている油溝である。
図21に示す構成では、分岐油溝110は、小文字の「y」を描く、またはその反対となるように、第1油溝25cおよび第2油溝25dにそれぞれ連結されている。なお、分岐油溝110の外径側は、樹脂製スラストワッシャ20B(リング状部21)の外周側とは連通していなく、油溝25と同様に分岐油溝110の外径側に油止壁110aが配置されている。
【0082】
また、
図21に示す構成では、第1油溝25cに連結される分岐油溝110と、第2油溝25dに連結される分岐油溝110とでは、それらの幅が等しく設けられている。しかしながら、2つの分岐油溝110のそれぞれの幅が異なるように設けられていても良い。たとえば、第1油溝25cに連結される分岐油溝110の方が、第2油溝25dに連結される分岐油溝110よりも幅よりも広く設けられていても良く、その逆に狭く設けられていても良い。また、分岐油溝110の外径側には、潤滑油が分岐油溝110から外周側から流れ出るのを抑制する油止壁110aが設けられている。なお、油止壁110aの幅は、上述した油止壁28の幅と同様に設定することが可能である。
【0083】
(4)樹脂製スラストワッシャ20Bの第7構成例について
次に、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。
図23は、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図24は、
図23に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第7構成例に係る油溝25は、その平面形状が第4構成例に係る油溝25とは異なるが、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、油溝25の断面形状付近を除いた構成は、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bと共通となっている。
【0084】
具体的には、
図24に示すように、油溝25の底部251から一方側(
図24ではX1側)に向かうと、テーパ壁面252に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、テーパ壁面252が連続している。これに対し、底部251から他方側(
図24ではX2側)に向かうと、油堤部109の傾斜壁部109aに差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、傾斜壁部109aが連続している。ここで、
図24に示す構成では、テーパ壁面252の幅方向の長さ(寸法c14)は、底部251の幅方向の長さである寸法a14に対して概ね2倍となるように寸法が設定されている。
【0085】
また、油堤部109は、底部251からの高さH141が、底部251からの摺動面26の高さH142と同程度となるように設けられている。この油堤部109には、頂部109cを挟んで、一対の傾斜壁部109a,109bが設けられている。傾斜壁部109aは、上述したように、油溝25の他方側(X2側)に位置する傾斜壁であり、直線状に傾斜している。また、傾斜壁部109bは、頂部109cを挟んで、傾斜壁部109aとは反対側に位置する傾斜壁であり、傾斜壁部109aと同様に直線状に傾斜している。
図24に示すように、頂部109cの一方側(X1側)には傾斜壁部109aが配置されると共に、頂部109cの他方側(X2側)には傾斜壁部109bが配置されている。なお、傾斜壁部109a,109bは、直線状には限られず、曲線状に設けられていても良い。
【0086】
なお、傾斜壁部109aの底部251側、および傾斜壁部109bの包囲部111(後述)側は、直線状に設けられている。しかしながら、傾斜壁部109a,109bの頂部109c側は、曲線状に設けられている。
【0087】
また、頂部109cは平坦となるように設けられているが、その頂部109cの幅は底部251やテーパ壁面252の幅等と比較して非常に狭いものとなっている。このように、頂部109cの幅が非常に狭いので、頂部109cは、他の部材(他の樹脂製スラストワッシャ20、金属製スラストワッシャ、相手材C1,C2等)に対して接触する場合でも、線接触状に接触するように設けられている。この点について詳述すると、
図23および
図24に示すように、第1油溝25cと第2油溝25dとの間には、これら2つの油溝25(2つの油止壁28)で囲まれた包囲部111が設けられている。この包囲部111の高さは、
図24に示すように、頂部109cの高さよりも低く設けられている。したがって、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cが他の部材に接触することがあっても、包囲部111は他の部材に接触しない構成となっている。
【0088】
なお、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cを乗り越えた潤滑油が包囲部111を覆う状態となる。かかる潤滑油が包囲部111を覆うことによっても、包囲部111は他の部材に対して接触しない状態となっている。
【0089】
このように、樹脂製スラストワッシャ20の回転時に、高さの低い包囲部111が他の部材に接触しない一方で、頂部109cが他の部材に接触することがある構成とすることで、包囲部111が存在しない構成と比較して、摺動負荷を低減することが可能となる。なお、包囲部111の高さは、底部251と同程度としても良く、底部251よりも若干高くても低くても良い。また、樹脂製スラストワッシャ20の回転時には、頂部109cが他の部材に対して接触する場合もあるものの、潤滑油の存在によって頂部109cが他の部材に接触しない場合が存在するのは勿論である。
【0090】
(5)樹脂製スラストワッシャ20Bの第8構成例について
次に、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。
図25は、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図26は、
図25に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第8構成例に係る油溝25は、その平面形状が第4構成例に係る油溝25とは異なるが、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、油溝25は、第4構成例と同様に、底部251を有している。以下、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bが第4構成例〜第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bと相違する点について説明する。
【0091】
図26に示すように、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bには、略S字形状の湾曲壁面255に類似する凸曲面部256が設けられている。凸曲面部256は、底部251と摺動面26とを結ぶ凸状の曲面であるが、略S字形状の湾曲壁面255とは異なり、変曲点が存在しない断面形状である。
図26に示す構成では、凸曲面部256は、たとえば丸く面取りしたのと同等の形状に設けられている。しかしながら、凸曲面部256は、凸状の曲面状の部分以外に、たとえば一部に直線的な部分が存在しても良く、一部に凹状の曲面状の部分が存在しても良い。また、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面252と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0092】
図25に示す構成では、油溝25は、幅広溝部257と幅狭溝部258とを有している。これら幅広溝部257と幅狭溝部258とは同一直線上で連続するように設けられている。
図25に示すように、幅広溝部257は、幅狭溝部258よりも幅が広くなるように設けられている。また、幅狭溝部258は、開口部27に接続されている一方、幅広溝部257の奥側には油止壁28が存在している。なお、
図25に示す構成では、幅広溝部257の幅は、幅狭溝部258の幅に対して、概ね2倍〜2.5倍となるように寸法が設定されている。
【0093】
(6)樹脂製スラストワッシャ20Bの第9構成例について
次に、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aについて説明する。
図27は、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図28は、
図27に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。なお、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aでは、油溝25は、第4構成例〜第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bとは異なり、2つの油溝25がV字を描くようには配置されておらず、単独の油溝25が径方向に対して傾斜する方向に延伸する配置となっている。しかしながら、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいても、2つの油溝25がV字を描くように配置されていても良い。
【0094】
第9構成例に係る油溝25は、第4構成例に係る油溝25と同様に、底部251および動圧用ガイド壁面254を備えている。また、第9構成例に係る油溝25は、第8構成例に係る油溝25と同様に、凸曲面部256を備えている。しかしながら、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bには、底部251から他方側(
図27および
図28ではX2側)に向かうと、油堤部109と類似する摺動用突起112が設けられている。摺動用突起112は、相手材C1またはC2に接触して、その相手材C1またはC2の表面における粗さを滑らかにするための部分である。したがって、摺動用突起112は、摺動面26と同程度の高さであるか、または摺動面26よりも若干突出して設けられている。なお、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面252と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。また、摺動用突起112は、摺動面26よりも若干低く設けられていても良い。
【0095】
なお、
図27および
図28に示すように、底部251から他方側(
図27および
図28ではX2側)に向かうと、摺動用突起112の傾斜壁部112aに差し掛かる。すなわち、底部251の他方側には、傾斜壁部112aが連続している。また、傾斜壁部112aには、摺動用突起112の頂面部112bが連続している。頂面部112bは、頂部109cと同様に、平坦となるように設けられている。また、頂面部112bには、後述する凹曲面部113bが連続している。
【0096】
また、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aには、摺動用突起112から他方側(
図27および
図28ではX2側)に向かうと、連通油溝113(隣接連通油溝に対応)が設けられている。連通油溝113は、リング状部21の外径側に油止壁28が存在せず、潤滑油が挿通孔22から外径側に流通自在となっている。
図27および
図28に示す構成では、連通油溝113は、油溝25と共に摺動面26から凹むように設けられている。また、
図27および
図28に示す構成では、連通油溝113は、油溝25と平行となるような直線状に設けられている。ただし、連通油溝113は、油溝25とは平行でなくても良く、たとえば樹脂製スラストワッシャ20Aの径方向に沿うように設けられていても良い。また、連通油溝113は、直線状ではなく、曲線状に設けられていても良い。
【0097】
なお、連通油溝113の底部113aは、底部251と同等の高さに設けられているが、底部113aの高さは、底部251の高さに対して多少の高低差が存在しても良い。また、
図28に示すように、底部113aは、一対の凹曲面部113b,113cに連続的に設けられている。これらのうち、底部113aの一方側(
図28ではX1側)には、凹曲面部113bが設けられていて、底部113aの他方側(
図28ではX2側)には凹曲面部113cが設けられている。これら凹曲面部113b,113cは、底部113aと摺動面26とを結ぶ凹状の曲面であり、略S字形状の湾曲壁面255とは異なり、変曲点が存在しない断面形状である。なお、
図28に示す構成では、凹曲面部113b,113cは、たとえば丸く面取りしたのと同等の形状に設けられている。しかしながら、凹曲面部113b,113cは、曲面状の部分以外に、たとえば直線状の部分が存在していても良い。また、底部113aには、曲面状の部分が存在していても良く、存在していなくても良い。
【0098】
このような連通油溝113を設ける場合、連通油溝113を外径側に向かって通過する潤滑油の流量を多くすることが可能となる。したがって、樹脂製スラストワッシャ20Aの放熱性を良好にすることが可能となる。
【0099】
(7)樹脂製スラストワッシャ20Bの第10構成例について
次に、第10構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。第10構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bは、上述した第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bと同様の油溝25が設けられていて、その同様の油溝25には、底部251、略S字形状の湾曲壁面255およびテーパ壁面252が存在している。したがって、その図示は省略する。しかしながら、第10構成例では、V字を描く第1油溝25cと第2油溝25dのセットは、リング状部21の周方向において均等となる間隔で合計8つ設けられている。この点で、合計6つの第1油溝25cと第2油溝25dのセットがリング状部21に設けられている第5構成例とは相違している。
【0100】
(8)樹脂製スラストワッシャ20Bの第11構成例について
次に、第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bについて説明する。
図29は、第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの構成を示す部分的な平面図である。
図30は、
図29に示す油溝25を幅方向に沿って切断した状態を示す断面図である。
【0101】
第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、第1油溝25cおよび第2油溝25dは、その長さが短く設けられている。したがって、第1油溝25cおよび第2油溝25dの奥側(開口部27から離れる側)と、樹脂製スラストワッシャ20Bの外周縁部との間には、十分な距離が存在している。
【0102】
また、第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bには、油溝25の他に、油溜まり溝114が設けられている。油溜まり溝114は、その内径側に開口部27が存在しない凹状の部分である。
図29に示す構成では、油溜まり溝114は2つ設けられている。これら2つの油溜まり溝114は、V字を描くように内径側で連結されている。しかしながら、油溜まり溝114はV字を描くように配置されていなくても良い。以下の説明では、V字を描く油溜まり溝114の一方を第1油溜まり溝114a、残りの他方を第2油溜まり溝114bと称呼する。第1油溜まり溝114aは、その内径側から外径側に向かうにつれて、時計回りに進行するように設けられている。一方、第2油溜まり溝114bは、その内径側から外径側に向かうにつれて、反時計回りに進行するように設けられている。
【0103】
また、第11構成例では、油溝25と油溜まり溝114の断面形状については、油溝25の底部251から一方側(
図30ではX1側)に向かうと、略S字形状の湾曲壁面255に差し掛かる。すなわち、底部251の一方側には、略S字形状の湾曲壁面255が連続している。この湾曲壁面255は、凹状の曲面である凹曲面部259が底部251に連続して設けられていて、さらに凹曲面部259に対して、凸状の曲面である凸曲面部256が連続して設けられている。また、凸曲面部256と摺動面26の間には、これらに連続するように動圧用ガイド壁面254が設けられている。なお、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面252と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0104】
これに対し、底部251から他方側(
図30ではX2側)に向かうと、凹曲面部260が底部251に連続して設けられている。さらに、この凹曲面部260には、直線状に傾斜している傾斜壁部261が連続して設けられている。なお、傾斜壁部261から他方側(
図30においてX2側)に向かうと、摺動面26に差し掛かる。また、傾斜壁部261は、曲面状に設けられていても良い。また、傾斜壁部261には、曲面状の部分が存在していても良い。
【0105】
また、上記の油溝25と同様に、油溜まり溝114の底部115(
図29参照)から幅方向の一方側に向かうと、凹曲面部259と同様の凹曲面部(図示省略)、凸曲面部256と同様の凸曲面部(図示省略)および動圧用ガイド壁面254と同様の動圧用ガイド壁面116(
図29参照)を経て、摺動面26に差し掛かる。また、底部115から幅方向の他方側に向かうと、凹曲面部260と同様の凹曲面部(図示省略)、傾斜壁部261と同様の傾斜壁部(図示省略)を経て、摺動面26に差し掛かる。なお、凸曲面部256に代えて、テーパ壁面252と同等の直線状の傾斜面を設けるようにしても良い。
【0106】
ここで、底部251から摺動面26までの高さ(油溝25の溝深さ)H1〜H6,H11〜H13,H15,H16,H18,H141,H142と、油掬い面24との寸法の関係は、
図31に示すようになっている。すなわち、底部251から摺動面26までの高さ(以下、高さHxとする)よりも、油掬い面24の内周端部から摺動面26までの高さTの方が、大きくなるように設けられている。
【0107】
特に、潤滑油は、スラストワッシャ10の回転に際して、油掬い面24に沿って周方向に移動して、それぞれの開口部27から油溝25に流入している。このため高さTが、高さHxに対して十分に大きくないと、開口部27から油溝25内に流入する潤滑油の量が少なくなる虞がある。このため、高さTは、高さHxに対して、2倍以上の寸法に設けられていることが好ましい。また、油掬い面24は、スラストワッシャ10の軸方向に対してなす傾斜角度αは、30〜60度の範囲内であることが好ましい。ここで、傾斜角度αが30度よりも小さい場合には、油掬い面24の径方向の寸法が小さくなり潤滑油の供給量が少なくなる。一方、傾斜角度αが60度よりも大きい場合には、上記のような高さHxに対して高さTが2倍以上となる状態を実現しようとすると、油掬い面24が径方向に占める割合が大きくなってしまう。また、油掬い面24の径方向の寸法が定まっている場合には、高さHxが低く(小さく)なってしまう。そこで、傾斜角度αは、上記の範囲内であることが好ましい。なお、上記の30〜60度の好適な傾斜角度αの範囲内では、その範囲内の中央の45度が代表例として挙げられるが、上記の30〜60度の範囲内から適宜、傾斜角度αを選択することができる。なお、傾斜角度αは、30〜60度の範囲外であっても良い。
【0108】
また、油導入溝23の溝底部が軸方向に対してなす傾斜角度β(不図示)は、上述したような油掬い面24の傾斜角度αよりも小さく設けられている。具体的には、傾斜角度βは、0度を含みつつ(0度でも良く)、なおかつ傾斜角度αよりも小さく設けられている。それにより、油導入溝23と油掬い面24の間の境界壁には、比較的大きな段差が設けられている(
図12他参照)。このため、油導入溝23に潤滑油が入り込んだ場合に、その潤滑油を油掬い面24側に良好に供給可能としている。なお、傾斜角度βが0度である場合、油導入溝23の溝底部は、軸方向と平行な状態となる。
【0109】
また、油導入溝23のうち、油掬い面24との境界壁の少なくとも一部は、スラストワッシャ10(リング状部21)の径方向に対して若干傾斜していることが好ましい。このような、境界壁に若干傾斜する部分が存在する例としては、たとえば、油導入溝23の径方向の外側に位置する油導入溝23の底部との付け根部分をR形状とする構成が挙げられる。なお、R形状以外に、径方向の外側に向かうにつれて、油導入溝23の内側よりも、周方向の寸法が小さくなるように境界壁が設けられていても良い。
【0110】
[5.樹脂製スラストワッシャ20A,20Bの油溝25の形状に関する評価(実験結果)について]
次に、樹脂製スラストワッシャ20A,20Bに関して、油溝25の形状に関する評価(実験結果)について、以下に説明する。
【0111】
(1)実験条件および負荷測定装置300について
まず、実験条件に付いて説明する。実験を行った樹脂製スラストワッシャ20Aは、その外径が67mm、内径が49mm、厚みが1mmである。また、第1構成例および第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aでは、その片面側に油溝25が設けられていると共に、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aでは、その両面に油溝25が設けられている。また、樹脂製スラストワッシャ20Aはポリエーテルケトン樹脂(PEK)を材質とする商品名150FC30(ビクトレックス社製)を用いて製作している。また、樹脂製スラストワッシャ20については、表面処理を行っていない。また、樹脂製スラストワッシャ20Aと対向配置される相手材C1,C2は高張力鋼であるS45C(JIS規格)を用いており、その直径は67mmであり、その表面粗さはRz0.5μmとしている。また、この実験では、樹脂製スラストワッシャ20Aの両面を摺動させているが、その両面摺動させた相手材C1,C2は、ビッカース硬さ(HV)が180となっている。また、潤滑油の油種はATFを用い、実験を行った際の油温は120度となっている。また、実験時においては、負荷を1135N、回転数を6800rpm、油流量を100cc/minとした。
【0112】
また、上述の樹脂製スラストワッシャ20Aは、
図32に示すような負荷測定装置300を用いて、摺動負荷の測定を行った。この負荷測定装置300は、円筒状のオイルパン301を備え、そのオイルパン301の内筒部301aには上述の潤滑油が供給されている。また、オイルパン301には、油排出口301bも設けられている。油排出口301bは、内筒部301aに存在する潤滑油を外部に排出するための開口部分であり、ポンプによる強制排出をする機構を有している。
【0113】
また、負荷測定装置300は、固定軸302と、回転軸303とを備えている。固定軸302は、オイルパン301に対して相対的に回転しない軸である。ただし、固定軸302には、図示を省略する負荷供給手段から、押圧方向の負荷が与えられる。また、固定軸302には、相手材C2が固定軸302に対して非回転の状態で取り付けられている。
【0114】
また、回転軸303は、オイルパン301に対して回転する軸である。したがって、回転軸303には、図示を省略する回転力供給手段から回転する駆動力が与えられる。また、回転軸303には、相手材C1が回転軸303に対して非回転の状態で取り付けられている。なお、一方の相手材C1には、樹脂製スラストワッシャ20Aを取り付けるための軸状部C1aが設けられている。一方、他方の相手材C2は、円盤状に設けられている。そのため、軸状部C1aが存在する分だけ、一方の相手材C1の軸方向の寸法は、他方の相手材C2よりも大きく設けられている。
【0115】
なお、
図32に示すように、固定軸302、相手材C1および他方の相手材C2のそれぞれを貫くように中心孔が設けられている(符号は省略)。そして、これらの中心孔が軸方向において連続することで、潤滑油を流通させる油供給路304が形成される。なお、固定軸302には、油供給路304に潤滑油を供給するための開口部位である油供給口302aが形成されている。また、相手材C2には、熱電対305が取り付けられている。熱電対305は、相手材C2の摺動面温度を測定する部分である。なお、オイルパン301において固定軸302を内筒部301aに挿通させるための開口部位(符号省略)にはオイルシール306が設けられている。また、オイルパン301において回転軸303を内筒部301aに挿通させるための開口部位にもオイルシール307が設けられている。
【0116】
(2)第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの摺動面積率(油溝面積率)の実験結果について
上記の負荷測定装置300に、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aを取り付けて行った、樹脂製スラストワッシャ20Aの摺動面積率とトルク(平均トルク)の関係に関する実験結果を、
図33に示す。なお、
図33に示す実験では、
図4に示すような非連通油溝25aと連通油溝25bとを有する、第1構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aについて実験を行った。また、底部251の幅に対応した寸法は2.00mm、油溝25の幅に対応した寸法は3.50mm、底部251から摺動面26までの高さは0.30mmとなっている。そして、この実験では、油溝25の本数および溝幅を変更することで、摺動面積率を変更して、実験を行っている。なお、
図33に示す各点のうち、摺動面積率が100%(油溝面積率が0%)の点が比較例1に対応し、摺動面積率が90%(油溝面積率が10%)の点が比較例2に対応し、摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)の点が実施例1に対応し、摺動面積率が80%(油溝面積率が20%)の点が実施例2に対応し、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)の点が実施例3に対応し、摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)の点が実施例4に対応し、摺動面積率が50%(油溝面積率が50%)の点が比較例3に対応している。
【0117】
また、
図33の実験結果に対応する、トルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)を表1に示す。この表1のトルク判定では、トルク(摺動負荷)が0.7N・m以下の樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摺動負荷の基準を満たすものとして「A」で示し、トルク(摺動負荷)が0.7N・mよりも大きな樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摺動負荷の基準を満たさないものとして「B」で示している。また、表1の摩耗量判定では、摩耗量が20μm以下の樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摩耗量の基準を満たすものとして「A」で示し、摩耗量が20μmよりも大きな樹脂製スラストワッシャ20Aを、低低摩耗量の基準を満たさないものとして「B」で示している。
【0119】
なお、
図33および表1に示す実験においては、それぞれの樹脂製スラストワッシャ20Aについて、5時間摺動させた結果を示している。
【0120】
かかる実験結果から、摺動面積率は、60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)であれば、平均トルクが0.7N・m以下と小さくなることから、好ましいと言える。また、摺動面積率は、60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)であれば、摩耗量が20μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0121】
なお、比較例1,2においては、油溝面積率が低すぎて、潤滑油の潤滑性が悪化していると考えられる。
【0122】
(3)第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの摺動面積率(油溝面積率)の実験結果について
次に、上記の負荷測定装置300に、
図11および
図12に示すような、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aを取り付けて行った、樹脂製スラストワッシャ20Aの摺動面積率とトルク(平均トルク)の関係に関する実験結果を、
図34に示す。この実験では、底部251の幅に対応した寸法は0.80mm、油溝25の幅に対応した寸法は2.10mm、底部251から摺動面26までの高さは0.30mmとなっている。そして、この実験では、油溝25の本数および溝幅を変更することで、摺動面積率を変更して、実験を行っている。なお、実験条件は、
図33および表1に示す実験結果と同一条件となっている。
【0123】
なお、
図34に示す各点のうち、摺動面積率が90%(油溝面積率が10%)の点が比較例11に対応し、摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)の点が実施例11に対応し、摺動面積率が80%(油溝面積率が20%)の点が実施例12に対応し、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)の点が実施例13に対応し、摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)の点が実施例14に対応し、摺動面積率が50%(油溝面積率が50%)の点が比較例12に対応している。
【0124】
また、
図34の実験結果に対応する、トルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)を表2に示す。この表2のトルク判定では、トルク(摺動負荷)が0.2N・m以下の樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摺動負荷の基準を満たすものとして「A」で示し、トルク(摺動負荷)が0.2N・mよりも大きな樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摺動負荷の基準を満たさないものとして「B」で示している。また、表2の摩耗量判定では、摩耗量が30μm以下の樹脂製スラストワッシャ20Aを、低摩耗量の基準を満たすものとして「A」で示し、摩耗量が30μmよりも大きな樹脂製スラストワッシャ20Aを、低低摩耗量の基準を満たさないものとして「B」で示している。
【0126】
かかる実験結果から、摺動面積率は、60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)であれば、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなることから、好ましいと言える。また、実験した範囲内では、全ての範囲内で摩耗量が20μm以下と小さくなっている。これらの結果から、第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aでは、摺動面積率が60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)が、低摺動負荷および低摩耗量の両方の基準を満たすので、好ましいと言える。
【0127】
なお、比較例11においては、潤滑油のせん断抵抗が大きくなっていることから、トルク(摺動負荷)が大きくなっていると考えられる。また、比較例12においては、油溝面積率が50%と大きいことから、接触面が少なく摺動面26の面圧が高くなることから、トルク(摺動負荷)が大きくなっていると考えられる。
【0128】
(4)第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bの摺動面積率(油溝面積率)の実験結果について
次に、上記の負荷測定装置300に、
図17および
図18に示すような、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bを取り付けて実験を行った。この実験では、樹脂製スラストワッシャ20Bの摺動面積率とトルク(平均トルク)の関係に関して実験結果が得られた。その実験結果を、
図35に示す。この実験では、底部251の幅に対応した寸法は0.50mm、油溝25の幅に対応した寸法は1.50mm、底部251から摺動面26までの高さは0.25mmとなっている。そして、この実験では、油溝25の本数および溝幅を変更することで、摺動面積率を変更して、実験を行っている。なお、実験条件は、
図18および表1に示す実験結果と同一条件となっている。
【0129】
なお、
図35に示す各点のうち、摺動面積率が90%(油溝面積率が10%)の点が比較例21に対応し、摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)の点が実施例21に対応し、摺動面積率が80%(油溝面積率が20%)の点が実施例22に対応し、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)の点が実施例23に対応し、摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)の点が実施例24に対応し、摺動面積率が50%(油溝面積率が50%)の点が比較例22に対応している。
【0130】
また、
図35の実験結果に対応する、トルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)を表3に示す。この表3のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。
【0132】
かかる実験結果から、摺動面積率は、60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)であれば、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなることから、好ましいと言える。また、摺動面積率は、50%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜50%の範囲内)であれば、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。これらの結果から、第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bでは、摺動面積率が60%〜85%の範囲内(すなわち、油溝面積率が15%〜40%の範囲内)が、低摺動負荷および低摩耗量の両方の基準を満たすので、好ましいと言える。
【0133】
なお、比較例21においては、潤滑油のせん断抵抗が大きくなっていることから、トルク(摺動負荷)が大きくなっていると考えられる。また、比較例22においては、油溝面積率が50%と大きいことから、接触面が少なく摺動面26の面圧が高くなることから、トルク(摺動負荷)が大きくなっていると考えられる。
【0134】
(5)第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいて、摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図11および
図12に示すような第2構成例に係ると共に摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)である樹脂製スラストワッシャ20Aを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表4に示す。表4では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表4においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例31に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例32に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例33に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例34に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例35に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が実施例36に対応している。
【0135】
また、表4のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。
【0137】
かかる実験結果から、摺動面積率が85%(すなわち、油溝面積率が15%)の場合、油溝25の溝角度が30度〜60度の範囲内において、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0138】
(6)第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいて、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図11および
図12に示すような第2構成例に係ると共に摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)である樹脂製スラストワッシャ20Aを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表5に示す。表5では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表5においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例41に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例42に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例43に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例44に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例45に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が実施例46に対応している。
【0139】
また、表5のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。
【0141】
かかる実験結果から、摺動面積率が70%(すなわち、油溝面積率が30%)の場合、油溝25の溝角度が30度〜60度の範囲内において、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0142】
(7)第2構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいて、摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図11および
図12に示すような第2構成例に係ると共に摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)である樹脂製スラストワッシャ20Aを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表6に示す。表6では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表6においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例51に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例52に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例53に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例54に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例55に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が実施例56に対応している。
【0143】
また、表6のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。
【0145】
かかる実験結果から、摺動面積率が60%(すなわち、油溝面積率が40%)の場合、油溝25の溝角度が30度〜60度の範囲内において、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0146】
(8)第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aにおいて、摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図17および
図18に示すような第4構成例に係ると共に摺動面積率が85%(油溝面積率が15%)である樹脂製スラストワッシャ20Bを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表7に示す。表7では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表7においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例61に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例62に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例63に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例64に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例65に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が比較例61に対応している。
【0147】
また、表7のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Aの製造ができない場合が「C」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Aの製造ができない場合が「C」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。なお表7のトルク判定および摩耗量判定では、判定「B」はなく、判定「A」と判定「C」が存在する結果となっている。
【0149】
かかる実験結果では、略V字を描くように連結された油溝25を有する樹脂製スラストワッシャ20Bにおいて摺動面積率が85%(すなわち、油溝面積率が15%)の場合、比較例61のような溝角度が60度のときに、他の油溝25と干渉するので、製造不可となっている。しかしながら油溝25の溝角度が30度〜55度の範囲内においてが、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0150】
(9)第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bにおいて、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図17および
図18に示すような第4構成例に係ると共に摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)である樹脂製スラストワッシャ20Bを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表8に示す。表8では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表8においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例71に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例72に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例73に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例74に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例75に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が比較例71に対応している。
【0151】
また、表8のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Bの製造ができない場合が「C」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Bの製造ができない場合が「C」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。なお、表8のトルク判定および摩耗量判定では、判定「B」はなく、判定「A」と判定「C」が存在する結果となっている。
【0153】
かかる実験結果では、略V字を描くように連結された油溝25を有する樹脂製スラストワッシャ20Bにおいて摺動面積率が70%(すなわち、油溝面積率が30%)の場合、比較例71のような溝角度が60度のときに、他の油溝25と干渉するので、製造不可となっている。しかしながら油溝25の溝角度が30度〜55度の範囲内においてが、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0154】
(10)第4構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Bにおいて、摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)の場合の溝角度に関する実験結果について
次に、
図17および
図18に示すような第4構成例に係ると共に摺動面積率が60%(油溝面積率が40%)である樹脂製スラストワッシャ20Bを、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。その実験結果を表9に示す。表9では、溝角度を変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。この表9においては、油溝25の溝角度が30度の場合が実施例81に対応し、油溝25の溝角度が40度の場合が実施例82に対応し、油溝25の溝角度が45度の場合が実施例83に対応し、油溝25の溝角度が50度の場合が実施例84に対応し、油溝25の溝角度が55度の場合が実施例85に対応し、油溝25の溝角度が60度の場合が比較例81に対応している。
【0155】
また、表9のトルク判定の判定基準は0.2N・m以下の場合が「A]、0.2N・mより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Bの製造ができない場合が「C」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」、樹脂製スラストワッシャ20Bの製造ができない場合が「C」であり、それぞれ表2の場合と同様となっている。なお、表9のトルク判定および摩耗量判定では、判定「B」はなく、判定「A」と判定「C」が存在する結果となっている。
【0157】
かかる実験結果では、略V字を描くように連結された油溝25を有する樹脂製スラストワッシャ20Bにおいて摺動面積率が60%(すなわち、油溝面積率が40%)の場合、比較例81のような溝角度が60度のときに、他の油溝25と干渉するので、製造不可となっている。しかしながら油溝25の溝角度が30度〜55度の範囲内においてが、平均トルクが0.2N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0158】
(11)第3、第5〜第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20A,20Bにおいて、両面に油溝25を形成した場合の実験結果について
次に、第3、第5〜第11構成例に係ると共に両面に油溝が形成されている樹脂製スラストワッシャ20A,20Bを、上述の、上述の負荷測定装置300に取り付けて実験を行った。なお、この実験では、摺動面積率が70%(油溝面積率が30%)であり溝角度が45度である樹脂製スラストワッシャ20A,20Bを用いて実験を行った。この実験結果を表10に示すが、その表10では、取り付ける樹脂製スラストワッシャ20A,20Bを変更したときのトルク(摺動負荷)、摩耗量およびそれらの判定結果(トルク判定および摩耗量判定)が示されている。
【0159】
この表10においては、第3構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例91に対応し、第5構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例92に対応し、第6構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例93に対応し、第7構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例94に対応し、第8構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例95に対応し、第9構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例96に対応し、第10構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例97に対応し、11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20Aの場合が実施例98に対応している。
【0160】
また、表10のトルク判定の判定基準は0.6N・m以下の場合が「A]、0.6N・mより大きい場合が「B」であり、また摩耗量判定の判定基準は30μm以下の場合が「A」、30μmより大きい場合が「B」である。
【0162】
かかる実験結果では、第3、第5〜第11構成例に係る樹脂製スラストワッシャ20A,20Bであって、両面に油溝25が存在するいずれの樹脂製スラストワッシャ20A,20Bにおいても、平均トルクが0.6N・m以下と小さくなると共に、摩耗量が30μm以下と小さくなることから、好ましいと言える。
【0163】
[6.作用効果]
以上のような構成の樹脂製スラストワッシャ20には、リング状部21の表面と裏面に他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)と摺動する摺動面26が設けられ、さらに表面と裏面の少なくとも一方に摺動面26から凹むと共に潤滑油が入り込む油溝25が設けられている。油溝25には、摺動面26よりも凹んでいると共に挿通孔22側から潤滑油が入り込むことを可能とする開口部27がリング状部21の内周端部に存在していて、少なくとも1つの油溝25のリング状部21の外周端部には、油溝25とリング状部21の外側とを隔てると共に油溝25に入り込んだ潤滑油がリング状部21の外周側に流出するのを抑制する油止壁28が設けられている。この油止壁28の樹脂製スラストワッシャ20の厚み方向における位置は摺動面26と同程度の位置に設けられていて、油溝面積率は、15%〜40%の範囲内に設けられている。
【0164】
このため、油溝25に入り込んだ潤滑油は、油止壁28によって樹脂性スラストワッシャ20の外周側に流出するのが抑制される。したがって、樹脂性スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側では、他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間に、潤滑油による油膜を容易に形成することが可能となる。また、油溝面積率が15%〜40%の範囲内に設けられている。このため、表32〜表34および表1〜表10の実験結果から明らかなように、樹脂性スラストワッシャ20のうち油溝25が存在する面側と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間では、摺動負荷を低減することが可能となる。
【0165】
また、本実施の形態では、油溝25の中心線L2とリング状部21の径方向における中央線L1とが交差する交差位置において、その交差位置を通ると共に径方向に沿う径方向線L3に対して油溝25の中心線L2がなす傾斜角度θ1は、30度から55度の範囲内に設けられていることが好ましい。
【0166】
このように構成する場合には、表1から表10に示される実験結果から明らかなように、樹脂製スラストワッシャ20Aの摩耗量および平均トルク(摺動負荷)を一層低減することが可能となる。
【0167】
また、本実施の形態では、油溝25には、当該油溝25に入り込んだ潤滑油を摺動面26にガイドさせて該摺動面26と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間に動圧を生じさせるための動圧用ガイド壁面254が隣接して設けられていることが好ましい。
【0168】
このように、
図15および
図16に示すような動圧用ガイド壁面254を油溝25に隣接させて設ける場合には、樹脂製スラストワッシャ20Aの平均トルク(摺動負荷)を一層低減することが可能となる。
【0169】
また、本実施の形態では、油溝25には、リング状部21の径方向に対して一方側に傾斜している第1油溝25cと、リング状部21の径方向に対して一方側とは異なる他方側に傾斜している第2油溝25dとが設けられていて、第1油溝25cと第2油溝25dは、開口部27で連結されていることが好ましい。
【0170】
このように構成する場合には、第1油溝25cと第2油溝25dとは、径方向を挟んで、一方側と他方側にそれぞれ傾斜している。したがって、樹脂性スラストワッシャ20Bのうち油溝25が存在する面側では、樹脂性スラストワッシャ20Bが時計回りおよび反時計回りのいずれに回転しても、他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間に、潤滑油による油膜を容易に形成することが可能となる。そのため、樹脂性スラストワッシャ20Bのうち油溝25が存在する面側と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間では、樹脂性スラストワッシャ20Bの回転方向を問わずに摺動負荷を低減することが可能となる。
【0171】
また、本実施の形態では、第1油溝25cおよび第2油溝25dには、摺動面26から最も凹んだ底部251がそれぞれ設けられていて、第1油溝25cおよび第2油溝25dには、第1油溝25cおよび第2油溝25dで囲まれない外側に位置する部位に、摺動面26に向かって直線状に傾斜するテーパ壁面252が設けられていて、テーパ壁面252は、底部251よりも幅広に設けられていることが好ましい。
【0172】
このように構成する場合には、幅広のテーパ壁面252により、油溝25に入り込んだ潤滑油が摺動面26にガイドされるので、樹脂性スラストワッシャ20と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間の摺動負荷を一層低減することが可能となる。
【0173】
また、本実施の形態では、第1油溝25cおよび第2油溝25dには、底部251から摺動面26に向かうと共に変曲点が存在するように湾曲している湾曲壁面255が設けられていることが好ましい。
【0174】
このように構成する場合には、湾曲壁面255により、油溝25に入り込んだ潤滑油が摺動面26にガイドされるので、樹脂性スラストワッシャ20と他の部材(相手材C1,C2や他のスラストワッシャ)との間の摺動負荷を一層低減することが可能となる。
【0175】
[6.変形例]
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0176】
上述の実施の形態では、1枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面では、同じ形状の油溝25が設けられている。しかしながら、1枚の樹脂製スラストワッシャ20の表面と裏面に形成する油溝25が異なる形状であっても良い。また、組合せスラストワッシャ10を構成する樹脂製スラストワッシャ20に形成される油溝25の少なくとも1つが、他とは異なる形状であっても良い。たとえば、樹脂製スラストワッシャ20、金属製スラストワッシャや相手材C1,C2といった、油溝25が存在する摺動面26と対向する面の表面粗さに応じて、適切な量の潤滑油が供給されるように、油溝25の形状を変更するようにしても良い。
【0177】
また、上述の実施の形態の各構成例の油溝25の寸法の具体的な値については、その一例を示している。しかしながら、油溝25は、その他の寸法値を採用しても良い。
【0178】
また、上述の各実施の形態における油溝25においては、径方向に沿う油溝25と、径方向に対して所定の傾斜角度で傾斜している油溝25とが混在していても良い。そのような構成例を、
図36および
図37に示す。
図36に示す樹脂性スラストワッシャ20B(第12構成例)は、
図25および
図26に示すような第8構成例に係る樹脂性スラストワッシャ20Bと同様に、凸曲面部256、幅広溝部257および幅狭溝部258を有している。また、1セットの第1油溝25cと第2油溝25dの間の部位には、連通油溝25bが設けられている。いわば、互いに離間している(開口部27で接続されていない)第1油溝25cと第2油溝25dの間の部位には、
図36に示すような連通油溝25b(中間連通油溝に対応)が設けられている。
【0179】
このような構成とする場合には、非連通油溝25a以外に、油止壁28が存在せずにリング状部21の外側と連通している連通油溝25bとが設けられているので、連通油溝25bを介して潤滑油が内径側から外径側へと流通する。したがって、樹脂製スラストワッシャ20の摺動により生じた発熱は、潤滑油を介して外部に逃がすことが可能となる。そのため、樹脂製スラストワッシャ20の放熱性を良好にすることが可能となり、樹脂製スラストワッシャ20での熱蓄積により該樹脂製スラストワッシャ20が溶融してしまうのを防止可能となる。
【0180】
また、連通油溝25bは、第1油溝25cと第2油溝25dに干渉しない状態でリング状部21の周方向において隣り合う開口部27の間に配置されている。したがって、摺動負荷の低減を図る非連通油溝25a(第1油溝25cおよび第2油溝25d)と、熱を外部に逃がすための連通油溝25bとをバランス良く摺動面26に配置する構成が実現できる。
【0181】
また、非連通油溝25aには、幅広溝部257と、幅広溝部257よりも溝幅の狭い幅狭溝部258とが設けられていて、幅狭溝部258は開口部27に接続されている。また、幅広溝部257は、幅広溝部257と連続していると共に油止壁28側に設けられている。このため、摺動負荷を良好に低減することが可能となる。
【0182】
また、互いに離間している非連通油溝25a(第1油溝25cと第2油溝25d)の間には、油止壁28が存在せずにリング状部21の外側と連通している連通油溝25b(中間連通油溝)が設けられている。このため、摺動負荷の低減を図る非連通油溝25a(第1油溝25cおよび第2油溝25d)と、熱を外部に逃がすための連通油溝25bとをバランス良く摺動面26に配置する構成が実現できる。
【0183】
また、
図37に示す樹脂製スラストワッシャ20A(第13構成例)は、
図27および
図28に示すような第9構成例に係る樹脂性スラストワッシャ20Aと同様に、摺動用突起112、連通油溝113、動圧用ガイド壁面254を有している。また、周方向で隣り合う非連通油溝25aの間には、連通油溝25bが設けられている。
【0184】
このような構成とする場合には、非連通油溝25aと連通油溝25bとは、リング状部21の周方向において交互に設けられている。そのため、摺動負荷の低減と、良好な放熱性の両方を実現することができる。
【0185】
また、連通油溝25bには、非連通油溝25aに隣接して設けられている連通油溝113(隣接連通油溝)と、互いに離間している非連通油溝25aの間に存在する連通油溝25b(中間連通油溝)とが設けられている。このため、樹脂製スラストワッシャ20Aの放熱性を一層良好にすることが可能となる。
【0186】
なお、
図36においては、連通油溝25bは、第1油溝25cと第2油溝25dに干渉しない状態でリング状部21の周方向において隣り合う開口部27の間に、1本配置されている。しかしながら、周方向で隣り合う開口部27の間に、2本以上の連通油溝25bが配置されても良い。また、周方向において隣り合う開口部27の間のうち、1箇所以上で、連通油溝25bが存在しなくても良い。また、連通油溝25bの配置は、周方向において規則的な配置としても良いが、不規則な配置としても良い。また、
図36と
図37に示す構成の少なくとも一方の構成においては、動圧用ガイド壁面254を備えない構成としても良い。
【0187】
なお、本発明は、上述した実施例や寸法例はあくまでも一例であり、上述した摺動面積率(油溝面積率)の範囲内であれば、上述した実施例や寸法例以外の場合にも、本発明に含まれ得ることは勿論である。