特許第6844044号(P6844044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844044管表面に管の固有IDが表示された管及びそれを利用する管仕分け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6844044
(24)【登録日】2021年2月26日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】管表面に管の固有IDが表示された管及びそれを利用する管仕分け方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 51/00 20060101AFI20210308BHJP
   B65G 1/137 20060101ALI20210308BHJP
   G06K 19/06 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B21C51/00 B
   B65G1/137 Z
   B21C51/00 P
   B21C51/00 R
   G06K19/06
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-5651(P2020-5651)
(22)【出願日】2020年1月17日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 克鵬
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/065379(WO,A1)
【文献】 特開平08−071648(JP,A)
【文献】 特開2009−183957(JP,A)
【文献】 特開2004−330199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 51/00
B65G 1/137
G06K 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の固有の情報が管表面にスタッド溶接痕の有無が一列状又はマトリックス状配列の図形表示を有することを特徴とする管表面に管の固有IDが表示された管。
【請求項2】
スタッド溶接痕が溶接痕のない周囲との熱伝導率差、X線透過量差、超音波の反射の時間差のいずれかによりスタッド溶接痕と溶接痕のない周囲との違いによりIDが識別可能な溶接痕であることを特徴とする請求項1に記載の管表面に管の固有IDが表示された管。
【請求項3】
スタッド溶接痕が予め所定の溶接指示間隔で穴が開けられたセラミック治具、管表面貼付シール又はNC制御のいずれかのみを使用して形成されたスタッド溶接痕であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の管表面に管の固有IDが表示された管。
【請求項4】
管表面のスタッド溶接痕の有無を熱伝導率差として読み取るサーモカメラ、X線透過量差として読み取るX線装置、超音波の反射の時間差を読み取る超音波測定装置のいずれかで読み取り、その結果から予め作成された管情報に基づいて管を仕分けることを特徴とする管仕分け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造船用配管等に使用される塗装やメッキ処理加工における管表面に管の固有IDが表示された管及びそれを利用する管仕分け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船用配管に使用される鋼管は、所定の形状・寸法に加工後、塗装やメッキ加工の工程に廻され、塗装やメッキ処理の後に、船舶所定の箇所への取付等が行われる。しかしながら、塗装やメッキの加工の工程では、一度に多種多様の鋼管が処理されることが多く、塗装やメッキの加工後に一つ一つの鋼管について、所定の仕分けの作業が必要となる。
この仕分けに際しては、インク等による印字では、塗装剤やメッキ剤による溶融消失や熱溶融のため使用することができない。このため、従来は塗装やメッキの加工前に被処理鋼管の一つ一つに固有の耐熱性のICタグを貼り付け、塗装やメッキの加工後に内蔵されるIC情報をリーダーで読み込むことで仕分け作業の効率化を図っていた。
ところが、一般的にICタグの耐熱温度は200度であり、メッキ加工の際の加工時温度は200度を超えるため使用できない。また、ICタグは電波を使用するため、金属に取り付けた場合、発信電波が遮蔽されてIC情報の読み取りが困難になる不具合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−086098号公報
【特許文献2】特開2008−310387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明は、塗装やメッキの加工前に鋼管表面に金属で固有IDを書き込むことで、加工時の温度に耐え、また、塗装・メッキ剤による溶融等、塗装やメッキの加工において消失することがない管表面に管の固有のID表示がされた管及びそれを利用する管仕分け方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、管表面に管の固有IDが表示された管において、管の固有の情報が管表面にスタッド溶接痕の有無が一列状又はマトリックス状配列の図形表示を有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載の管表面に管の固有IDが表示された管において、スタッド溶接痕が溶接痕のない周囲との熱伝導率差、X線透過量差、超音波の反射の時間差のいずれかによりスタッド溶接痕と溶接痕のない周囲との違いによりIDが識別可能な溶接痕であることを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1又は請求項2のいずれかに記載の管表面に管の固有IDが表示された管において、スタッド溶接痕が予め所定の溶接指示間隔で穴が開けられたセラミック治具、管表面貼付シール又はNC制御のいずれかのみを使用して形成されたスタッド溶接痕であることを特徴とする。
そして、本願請求項4に係る発明は、管仕分け方法において、管表面のスタッド溶接痕の有無を熱伝導率差として読み取るサーモカメラ、X線透過量差として読み取るX線装置、超音波の反射の時間差を読み取る超音波測定装置のいずれかで読み取り、その結果から予め作成された管情報に基づいて管を仕分けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
加工前の鋼管表面に加工時の温度や溶融にも耐えることができ、加工中に喪失することなく、加工後にも読み取り可能な管の固有のIDを書き込み当該IDを読み取ることにより、加工後の鋼管仕分けを容易に行うことができるという効果を有する。
さらに、管表面に書き込まれた管固有のIDが表示された管とすることにより、管製作の発注から取り付け・配置等の各作業に至る一連の作業において、読み取りID結果からコンピュータ化によるデジタル管理が可能となり、管の製作発注から最終取り付け等の作業時における効率向上に寄与するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1はスタッド溶接の概略を示す図である。
図2図2は、管の固有の情報を2進数値化して一列状に図形化したID表示の概略例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る管表面に管の固有IDが表示された管及びそれを利用する管仕分け方法を実施する実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管について説明する。
【実施例1】
【0009】
本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は鋼管について溶接痕を利用するものである。
鋼管の溶接については、いろいろな溶接方法があるが、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は「スタッド溶接」を利用するものである。スタッド溶接とは、スタッド材と称する所定径の金属と母材との間に瞬間的な電流を流すことにより放電(アーク放電)を起こし、スタッド材と母材とを溶融接合させる溶接方法であり、スタッド溶接により、金属からなるスタッド材が溶接痕として母材面に残ることを利用するものである。
【0010】
図1は、例えば、アジア技研株式会社サイト(http://www.asiagiken.co.jp/faq.html#stad)にて説明されているスタッド溶接の概略を示す図であり、図1において、符号100は、溶接機、101は、スタッド溶接ガン、102は、母材、103、103は、アース、104は、電源、105は、スタッド材である。
このような構成において、スタッド材105をスタッド溶接ガン101内に装着し、それを母材102に押し当て、スタッド溶接ガン101のスイッチ(図示外)を引くだけで、放電が生じ、瞬間的にスタッド材105が母材102に溶け込むという溶接方法であり、スタッド材105としては、軟鋼、ステンレス鋼、黄銅、同、アルミニウム、チタンなどが使用される。
【0011】
(鋼管表面への管の固有IDの書き込み)
本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は、このスタッド溶接の痕跡を利用して、鋼管の所定表面にこの痕跡を固有IDとして表示するものである。管の固有のIDとは、管番号(整理番号)等、当該管に割り振られる固有の情報等をいう。
この情報書き込みのため、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管においては、スタッド溶接により、その溶接痕として書き込むというものである。そして、スタッド溶接に使用するスタッド材としては、メッキや塗装に耐え,扱いやすい金属,例えば、軟鋼、ステンレス鋼、黄銅などが使用され、また、スタッド材の径については、1.6mm程度のものを使用する。
【0012】
しかしながら、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は、固有のIDを鋼管の任意の表面に溶接痕たる表示が残れば良いものであるから、スタッド溶接において本来的に要求される母材102とスタッド材105との間の強度は必要なく、また、溶接痕跡も溶接盛等、目視や手触り感で認識できる痕跡である必要はなく、後述するように物理的に認識できうる溶接痕であれば足る。したがって、スタッド溶接を使用するとしても、スタッド材105や瞬間的に流れる電流・電圧は、この目的に適う範囲内のもので足ることとなる。
【0013】
さらには、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管においては、スタッド材の孔径としては、1.6mm程度のものを使用したが、これは、1.6mmに限るものではなく、より微細なスタッド材105であっても良く、微細であればそれだけ固有IDの情報が多く書き込めることとなる。
【0014】
(固有ID表示について)
以下、鋼管表面に書き込む固有ID表示について説明する。
本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管表面に書き込む固有のID表示は、あらゆる表示の形式ないしは内容のものが可能であるが、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管においては、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)利用を前提とすれば、管番号など管の固有の情報を図2に示すようなデジタル化に適合できるような図形表示としたものである。
【0015】
図2は、使用する管の固有の情報(例えば、管番号「77」、「819」)を2進数値化して一列状に図形化したID表示の概略例を示す図であり、黒丸(●)は、上記スタッド溶接にて溶接した溶接痕の箇所を、空欄は溶接しない箇所を示している。図2に示すように、黒丸で示す溶接痕箇所を「1」、溶接しない箇所を示す空欄を「0」として一列状に配置すれば、図1上段は、左より「1001101」の2進数値で示され、これは十進法の「77」を示すことができる。同様に、図1下段は、左より「1100110011」の2進数値、すなわち十進法の「819」を示すことができる。図2に示す例では、一列状の「0」、「1」からなる情報表示としたが、これは複数列からなる「0」、「1」のマトリックス状の表示であっても良いことはもちろんである。
【0016】
すなわち、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は、管の固有の情報が管表面の適宜の箇所に一列状又はマトリックス状配列の表示を有せしめるものであり、特に、一列状又はマトリックス状配列のスタッド溶接痕の有無で表される図形からなるスタッド溶接痕表示を有せしめることとしたものである。したがって、デジタル化に適合する2進数値化した固有のID情報はPC等で作成すれば、その後の処理を速やかに行うことが可能となり、このような図形からなる表示を被処理鋼管の表面に書き込んでおけば、この固有のIDを読み取り、照合等をすることにより、メッキ工程等の後の被処理鋼管の仕分けを容易に行うことができることとなる。
【0017】
なお、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管表面にスタッド溶接を利用して溶接痕を書き込む(表示させる)ためには、スタッド溶接に使用される溶接箇所以外を保護するセラミック治具(フェルール)等に所定の溶接指示間隔で穴を開けたPC等で作成するIDパターンに基づいて溶接するようにしても良く、また、セラミック治具(フェルール)に限らず、PCによる所定の溶接指示を所定位置に穴を開けた管表面貼付シールに基づいて溶接するようにしても良い。
【0018】
また、本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管表面に書き込む固有のID表示は、上述する2進数値化した一列状の表示に限るものではなく、スタッド溶接を利用しつつも使用するスタッド配置について、微細径の複数のスタッド材105を所定の間隔でマトリックス状に配列し、これをNC制御などによる溶接実行させることで表示するようにしても良く、究極的には、溶接精度が向上すれば、例えば、バーコード表示やQRコード(登録商標)表示とすることができ、バーコード表示やQRコード(登録商標)表示を使用する場合には、市販の読み取りアプリ(ソフトウエア)などが使用でき便宜である。
【実施例2】
【0019】
次に、鋼管表面に書き込まれた固有ID表示を利用する本発明の実施例2に係る管仕分け方法について説明する。
(鋼管表面の固有のID表示の読み取りについて)
本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管表面に書き込まれた固有のID表示の読み取りは、所定の可視化装置(読み取り装置)で読み取る。本実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管における溶接痕は、溶接盛等、目視や手触り感で認識できる痕跡に限らず、上述するように物理的に認識できうる溶接痕であれば足る。したがって、上記可視化装置としては、例えば、(1)周囲との熱伝導率の差を可視化するサーモカメラや(2)X線の透過量差を可視化するX線装置、(3)超音波の反射の時間差を読み取り可視化する測定超音波測定装置などが考えられる。サーモカメラを利用する場合には、被処理鋼管の周囲または内部に所定の熱を加え、溶接痕とそれ以外の箇所との熱伝導率の差を検出し、また、工業用X線装置を利用する場合には、X線照射により検出されるX線透過量差を、超音波測定装置を利用する場合には、超音波を発生させ、その超音波が反射して戻ってきた時間差を測定すること等により、溶接痕箇所を認識するようにする。
【0020】
(鋼管仕分けについて)
上記の読み取り方法で固有のIDが読み取られた鋼管(例えば、メッキ加工後の被処理鋼管)は、読み取られた固有のIDに基づいて予め作成された管情報に基づき適宜の仕分けに供される。
管仕分けは、読み取られたID情報(例えば、十進化数値)を予めPC上作成された管情報と照合され、仕分けを行うこととなる。このとき、適宜のラベル等のPC出力印刷を実行するようにしても良い。
【実施例3】
【0021】
実施例1に係る管表面に管の固有IDが表示された管は、スタッド溶接痕を利用するものであるが、鋼管表面の一列状に図形化したID表示は、スタッド溶接痕に限るものではない。例えば、所定の表面打痕(凹凸痕)であっても、カメラ等で画像認識できる限り、スタッド溶接痕に替えることができる。
本発明においては、管固有の情報をデジタル化に対応可能な一列状又はマトリックス状の図形として管表面に書き込み、これを周囲との温度差や密度差等で読み取ることにより、管の仕分けに用いるとしたものである。
【0022】
メッキ加工や塗装加工等の表面加工後に人の目による管の仕分けは困難で、時間がかかっており、ミスも多いが、上述した管表面に管の固有IDが表示された管及びそれを利用する管仕分け方法とすることにより、製作過程から一貫した管の識別・管理が可能になる。また、一般的に電波や光学、画像を用いた方法の弱点に着目し、認識方法に、あえて効率の高くない検査技術等を応用することで、耐熱性、耐塗装性に加え、耐衝撃性に優れた管仕分けを実現することができる。
【0023】
さらに、メッキ加工や塗装加工の現場作業に限らず、書籍の配本、売上げ管理のような、通常の物品の管理環境下におけるコンピュータ化に適するコード利用形態として、管製作の発注、製作、納品を含む一連の作業の中で連続的に利用できる固有ID表示として、一連の作業の中で連続的に使用できるID表示とすれば、メッキ加工・塗装加工等の後処理における管仕分けに限らず、管製作の発注から管取り付け配置等の各作業を含めた一連の作業のデジタル管理に寄与することが可能となり、コンピュータ化・デジタル管理の効率向上に寄与するものとなる。その意味で、管情報について固有IDによるデジタル化に適応可能な表示は優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、造船用配管等に使用される塗装やメッキ処理加工における管表面に管の固有IDが表示された管びそれを利用する管仕分け方法に利用される。
【符号の説明】
【0025】
100 溶接機
101 スタッド溶接ガン
102 母材
103、103 アース
104 電源
105 スタッド材
【要約】
【課題】
塗装やメッキの加工前に鋼管表面に金属で固有IDを書き込むことで、加工時の温度に耐え、また、塗装・メッキ剤による溶融等、塗装やメッキの加工において消失することがない固有のID表示がされた管びそれを利用する管仕分け方法を提供する。
【解決手段】
管の固有の情報が管表面にスタッド溶接痕の有無で表される図形表示を有する管表面に管の固有IDが表示された管。
【選択図】図2
図1
図2