【文献】
Journal of Inorganic and General Chemistry,1963年,321(3-4),pp.191-197,DOI:10.1002/zaac.19633210311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、部分的に、水溶液中でチタンカテコラート錯体を生成する方法に関する。又、本開示は、部分的に、チタンカテコラート錯体を含有する水溶液等のチタンカテコラート錯体を含有する組成物に関する。又、本開示は、部分的には、チタンカテコラート錯体を含有する電解液を有するフロー電池に関する。
【0016】
本開示は、添付の図面及び例に関連付けて以下の記載を参照することによって、さらに容易に理解できる。添付の図面及び例はいずれも本開示の一部をなす。本開示が本明細書に記載及び/又は図示する具体的な製品、方法、条件、又はパラメータに限定されないことが理解されよう。本明細書で用いる用語は、単に一例としての特定の実施形態を説明するためのものであって、特に明記しない限り、限定を意図するものではない。同様に、特に明記しない限り、本明細書内において、ある組成物に対する説明はいずれも、該組成物の固体、液体の双方を対象とすることを意図しており、さらに該組成物を含有する溶液及び電解液、及びそのような溶液及び電解液を含む電気化学セル、フロー電池、及びその他のエネルギー貯蔵システムをも対象とすることが意図されている。さらに、本開示において、電気化学セル、フロー電池、又は他のエネルギー貯蔵システムについて説明していると考えられる場合には、電気化学セル、フロー電池、又は他のエネルギー貯蔵システムを動作させる方法についても暗に説明していると認められよう。
【0017】
また、本明細書では、理解を容易とするため、本開示のいくつかの特徴を別個の実施形態と関連させて記載しているが、これらの特徴を、相互に組み合わせて単一の実施形態において備えることができることが認められよう。すなわち、明らかに両立できないか又は明示的に排除される場合を除き、個々の実施形態は1以上の他のいずれかの実施形態と組み合わせることができると考えられ、このような組み合わせは全く別の実施形態であると見なされる。一方で、簡潔にするため、本開示の種々の特徴を単一の実施形態に関連させて説明する場合があるものの、これらの特徴を、別々に又は任意のより小さい組み合わせで備えることも可能である。さらにまた、ある特定の実施形態を一連のステップの一部として又はより包括的な構造の一部として記載する場合があるものの、各ステップ又は各下位構造はそれ自体を独立した実施形態と見なすことも可能である。
【0018】
特に明記しない限り、要素をリストアップしている場合には、リストアップした各要素及び同リスト内の各要素のすべての組み合わせをそれぞれ別個の実施形態として解釈すべきであることが理解されよう。例えば、「A、B又はC」と示される実施形態のリストは、「A」、「B」、「C」、「A又はB」、「A又はC」、「B又はC」又は「A、B又はC」という実施形態を含むものとして解釈される。
【0019】
本開示において、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除き、単数の冠詞「a(1つの)」、「an(1つの)」及び「the(その/前記)」は、対応する複数に対する言及も包含するものであり、特定の数値に対する言及は、少なくともその特定の値を包含するものである。このため、例えば「a material(1つの物質)」は、そのような物質及びその均等物の少なくとも1つを指す。
【0020】
一般に、「約(about)」という用語を使用する場合、開示する主題が達成しようとする所望の特性によって変動する可能性のある近似値を示し、機能に基づいて状況に応じて解釈されるべきものである。従って当業者であれば、個々の状況に応じてある程度の変動範囲を汲み取ることができるであろう。「約」という用語が許容する変動を規定する代表的な技法として、特定の値を表す際に有効桁数を使用することが考えられる。あるいは、「約」という用語が許容する変動範囲を、一連の値に段階を設けることによって規定することもできる。さらに、本開示におけるすべての範囲は上下限値を含みかつ連結可能であり、ある範囲で規定される値に対して言及する場合、その言及は範囲内のすべての個々の値を包含するものである。
【0021】
上述のように、従来のチタンカテコラート錯体の作成方法では、高コストな出発物質が用いられる場合があり、この出発物質は、大規模な生産事業には問題があるか、水を使った反応条件に適合しないかの少なくとも一方であり得る。また、四塩化チタンは、比較的低コストのチタン源ではあるものの、水との反応性が高いため、従来のチタン錯体の水を使った合成方法では用いることができなかった。四塩化チタンは、水を使わない合成方法で使用することもできるが、この方法では、ほぼ無水の有機溶媒が必要となり、コストや大規模化の観点から問題となる場合がある。チタンカテコラート錯体はフロー電池の活物質として特に望ましい場合があるが、コストが低くかつ大規模化が可能なチタンカテコラート錯体の水を使った合成方法は、現在のところ公知ではないと考えられる。また、現在利用できる合成方法では、チタンカテコラート錯体を使用前にさらに高純度に精製する機会がほとんどない。従って、チタンカテコラート錯体ベースのフロー電池技術にはまだかなり改善の余地が残されている。以下に、例示的なフロー電池、その用途、及び動作特性の例を説明する。
【0022】
本願の発明者は、チタン配位錯体、具体的にはチタンカテコラート錯体、の従来の合成方法とは異なり、特に酸性条件下において、チタン配位錯体を水溶液中で生成するための簡便かつ比較的低コストのチタン源として、オキシ塩化チタン(TiOCl
2)が利用できるということを発見した。また、このオキシ塩化チタンがチタンカテコラート錯体生成に利用できるという発見を基に、本願の発明者はまた、さらに低コストの四塩化チタンをチタン配位錯体合成のための間接的な前駆体として利用できるようにする手法を発見した。四塩化チタンは、通常の反応条件下で水と反応した場合に二酸化チタンと塩化水素を発生するが、低温(例えば、約−10℃〜約−40℃)かつ限られた量の水が存在する条件下では、反応生成物としてオキシ塩化チタンを生成し得る。本明細書において説明するように、本願の発明者は、この反応生成物にさらに若干手を加えることにより、チタンカテコラート錯体の生成に用いることができることを発見した。すなわち、本願の発明者はさらに、水溶液中でチタンカテコラート錯体を合成する工程の中で、四塩化チタンを用いてオキシ塩化チタンをイン・サイチュで生成できることを発見した。従って、オキシ塩化チタン及び四塩化チタンはいずれも、チタンカテコラート錯体の低コストかつ環境に優しい水を使った合成プロセスを実現可能にするものであり、これにより、有機溶媒の使用を避けるかあるいは最小限に抑えることができる。
【0023】
驚くべきことに、本願の発明者は、オキシ塩化チタンをチタン源に用いて、酸性条件下でチタンカテコラート錯体を合成できることを発見した。チタンカテコラート錯体はアルカリ性のpH値で高い安定性を示すため、通常はアルカリ性溶液中で保存される。また、アルカリ性のpH値によって、カテコラート配位子は脱プロトン化され、チタンや他の金属への配位が容易となる。従って、カテコラート配位子のチタンへの配位が酸性条件下で起こるという事実は全く驚くべきことである。さらに、酸性の反応条件によって、少なくとも場合によっては、プロトン化形態のチタンカテコラート錯体の沈殿を促進することができ、これにより必要に応じてチタンカテコラート錯体を単離、精製することができる。チタンカテコラート錯体を沈殿させることにより、同錯体が不安定になる潜在リスクを大幅に回避することができると共に、電解液を使用できる状態にする工程での中和に必要な塩酸の量を抑えることができる。これとは対照的に、従来の合成方法では、アルカリ金属塩の形態のチタンカテコラート錯体の溶液が作成される場合が多く、また通常は、このチタンカテコラート錯体にさらなる精製処理は行われず、そのまま使用される。一方、単離、精製の少なくともいずれかを行ったチタンカテコラート錯体は、さらにフロー電池への組み込みに適したより溶解度の高い塩の形態に変化させることができる。このチタンカテコラート錯体の単離、精製の少なくともいずれかを実施した後の形態では、その実施前にチタンカテコラート錯体に対して少なくとも手間をかけた精製工程は施していないにもかかわらず、酸や塩化物イオン等の異物含有量が他の合成方法で見込まれる量に比べて低く抑えられる。従って、本開示に係る方法は、高純度のチタンカテコラート錯体含有電解液を速やかに利用できるようにすることにより、フロー電池の性能を向上させるさらなる機会を提供するものである。高純度の電解液は、フロー電池及びこれに関連する電気化学システムの耐久性や動作性能を向上させるために望ましい場合がある。ただし、チタンカテコラート錯体の最終用途に鑑みて異物塩や他の異物が許容され得る場合には、プロトン化形態のチタンカテコラート錯体をそのまま使用することもできる。
【0024】
カテコラート配位子(catecholate ligands)は、所望の電気化学的特性を有するチタン錯体を生成することができる一方、比較的疎水性が高く、電解液の活物質濃度が比較的低くなってしまう可能性がある。これに対し、1つ以上の可溶化基を有する置換カテコラート配位子の場合、電解液の活物質濃度を高くすることができる。有利なことに、オキシ塩化チタン又は四塩化チタンを利用する本開示に係る方法は、非置換カテコラート配位子と各種の置換カテコラート配位子のいずれにも完全に対応できる。従って、本開示に係る方法は、高濃度電解液の調製を可能にすることで、フロー電池性能のさらなる改善を実現することができる。以下に、本方法に適した置換カテコラート配位子についてさらに説明する。有利なことに、これらの適切な置換カテコラート配位子は、一連の比較的単純な有機反応による合成によって作成することができる。
【0025】
従って、本開示は、オキシ塩化チタン又は四塩化チタンをチタン源に用いたチタンカテコラート錯体の調整に関する種々の方法を提供するものである。このようなチタンカテコラート錯体を含有する組成物、このようなチタンカテコラート錯体を含有する電解液、及びこのようなチタンカテコラート錯体を有するフロー電池も本明細書に開示される。
【0026】
種々の実施形態においては、本開示に係る方法は、水溶液中で1つ以上のカテコラート配位子をオキシ塩化チタンと混合することと、該1つ以上のカテコラート配位子を該水溶液中でオキシ塩化チタンと反応させてチタンカテコラート錯体を生成することとを含んでよい。
【0027】
「オキシ塩化チタン(titanium oxychloride)」という用語は、「塩化チタン(IV)塩酸塩を含有する溶液(solution comprising titanium (IV) chloride hydrochloride)」と同義的に用いられ得る。この溶液のCAS番号は92334−13−3であり、Cristal社等のいくつかの供給業者から調達可能である。通常、この溶液は約1以下のpHを示す。従って、いくつかの実施形態では、チタンカテコラート錯体生成の元となる水溶液を、オキシ塩化チタン溶液(solution of titanium oxychloride)を使用して調整することができる。続いて、以下に記載するさらなる条件を採用することによって、チタンカテコラート錯体の生成を行うことができる。
【0028】
いくつかの又は他の実施形態では、オキシ塩化チタンを、水溶液を用意する工程の中でかつイン・サイチュで生成することができる。より具体的には、オキシ塩化チタンは、四塩化チタンからイン・サイチュで生成することができる。従って、いくつかの実施形態では、本開示に係る方法は、四塩化チタンが水と反応する条件で、四塩化チタンを水と混合してオキシ塩化チタンを生成することを含む。以下に、四塩化チタンからオキシ塩化チタンを生成するのに適した条件をより詳細に記載する。いくつかの実施形態では、オキシ塩化チタンを生成するための条件を、水溶液中で二酸化チタンが生成されることのない条件とすることができる。いくつかの又は他の実施形態では、本開示に係る方法は、オキシ塩化チタンを任意に希釈して水溶液を生成することを含むことができる。例えば、希釈によって、水溶液のpHをチタンカテコラート錯体の生成に望ましい値にすることができる。後述のように、酸性水溶液、塩基水溶液の少なくとも一方を用いてpH値を調整することもできる。
【0029】
一般に、限られた量の水が存在する条件、反応温度が低い条件の少なくとも一方が満たされる状況下において、四塩化チタンと水との反応によってオキシ塩化チタンが生成される。また、この過程で、副産物として塩化水素が生成される。四塩化チタンからオキシ塩化チタン水溶液を生成するのに適した条件は、米国特許第3425796号明細書により詳細に記載されており、米国特許第3425796号明細書のすべての内容は参照により本出願に組み込まれる。オキシ塩化チタンを作成するためのより特定的な条件としては、約−25℃、約−30℃、又はさらには約−40℃にまで四塩化チタンを冷却することと、液体の水が実質的に存在せず、かつ反応混合物の温度が氷の融点を上回ることのないような速度で氷を加えることとが含まれ得る。反応速度を制御し、固体反応物の表面積を最大化するために、チップ状、かき氷状、又はフレーク状の氷が特に適している。氷を加えることによって、泡状の半固相を生成することができる。副産物の塩化水素ガスの除去を促進するため、攪拌してもよい。塩化水素ガスを除去しても、水で希釈して作成されるオキシ塩化チタン溶液のpHは、約1未満とすることができる。いくつかの実施形態では、錯体生成を促進するために、1つ以上のカテコラート配位子を加える前に、オキシ塩化チタン溶液のpHを塩基水溶液で調整することができる。例えば、いくつかの実施形態では、pHを約2.5〜約7、又は約3〜約4の範囲に上昇させることができる。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、約0℃未満の温度で四塩化チタンを水と反応させてよい。より具体的な実施形態においては、約−10℃〜約−40℃の範囲、約−20℃〜約−30℃の範囲、又は約−25℃〜約−30℃の範囲の温度で四塩化チタンを水と反応させることができる。前述の各範囲内の温度は、冷凍や、氷塩混合物、又は極低温槽のうち当業者が適切と考えるものを用いて維持することができる。
【0031】
より具体的な実施形態においては、本開示に係る方法は、約0℃未満の温度、特に約−10℃〜約−40℃の範囲の温度にまで四塩化チタンを冷却することと、冷却した四塩化チタンに水を加えることとを含んでよい。より具体的には、冷却した四塩化チタンに氷の形で水を加えることができる。これらの温度では、四塩化チタンもまた固体の形態をとり得る。
【0032】
四塩化チタンと水を混合し、反応させてオキシ塩化チタンを生成した後、オキシ塩化チタンを水でさらに希釈して、本開示のいくつかの実施形態における水溶液を生成してもよい。水溶液中のオキシ塩化チタンの濃度は、チタンカテコラート錯体を溶液中で保存するか、あるいは沈殿させるかのいずれが望まれるかによって、少なくとも部分的に決定し得る。例えば、沈殿促進のためには、オキシ塩化チタン溶液の濃度は高い方が好ましい場合がある。水溶液中の適切なオキシ塩化チタン濃度としては、約0.1M〜約3M、約0.5M〜約2.5M、又は約1M〜約2Mの範囲を挙げることができる。
【0033】
上述のように、生成されたままのオキシ塩化チタン溶液のpH値は約1以下になることが多い。従って、いくつかの実施形態では、本開示に係る方法は、チタンカテコラート錯体を生成する前に、オキシ塩化チタン含有水溶液のpHを上昇させることを含むことができる。このようなpH調整は、少なくとも1つのカテコラート配位子を水溶液に加える前に、塩基を用いて行うことができる。塩基は、固体形態と液体形態のいずれの形態で加えてもよい。いくつかの実施形態では、水溶液のpHを約2.5〜約7の範囲とすることができる。より特定的な実施形態では、水溶液のpHは約3〜約6、約3〜約5、約3〜約4、又は約4〜約5の範囲とすることができる。後述のように、このような弱酸性のpH値によって、場合によっては、プロトン化形態すなわち「塩を含まない(salt-free)」形態のチタンカテコラート錯体の沈殿を促進することができる。
【0034】
種々の実施形態においては、1つ以上のカテコラート配位子を水溶液に加える前に、オキシ塩化チタンを該水溶液に混合するか、あるいはオキシ塩化チタンを該水溶液内においてイン・サイチュで生成することができる。従って、より具体的な実施形態においては、本開示に係る方法は、オキシ塩化チタンを生成した後の水溶液と1つ以上のカテコラート配位子を混合することを含んでよい。少なくとも1つのカテコラート配位子を加える前に、水溶液中にオキシ塩化チタンを存在させてすぐに錯体形成ができる状態にしておくことにより、潜在的に不安定な遊離配位子が存在する時間を最小限に抑えることができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、1つ以上のカテコラート配位子を水溶液と混合することが、1つ以上のカテコラート配位子を該水溶液に加えることを含んでよい。1つ以上のカテコラート配位子は、固体の形態で水溶液に加えてもよく、あるいは溶液(例えば、水溶液、又は水と水混和性の有機溶媒との混合溶液)に溶解させて加えてもよい。他の実施形態では、1つ以上のカテコラート配位子を水溶液と混合することが、1つ以上のカテコラート配位子に該水溶液を加えることを含んでよい。このような実施形態においてもまた、1つ以上のカテコラート配位子は、固体の形態であってよく、あるいは溶液中に溶解していてもよい。以上述べた実施形態において、1つ以上のカテコラート配位子の固体の形態には、水性スラリーも含まれると見なされる。
【0036】
より具体的な実施形態においては、本開示に係る方法によって作成されるチタンカテコラート錯体は以下の化学式を有することができる。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、H、NH
4+、NR
4+(R=アルキル)、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3は配位子である。L
1、L
2及びL
3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子であり、本明細書においてこれらの用語は非結合配位子と金属に結合した配位子の両方を指す。この種の数式を持つチタンカテコラート錯体は、L
1、L
2及びL
3がいずれもキレート配位子である場合に得られるものである。本明細書で説明するように、弱酸性条件下においては、チタンカテコラート錯体のプロトン化形態(すなわちD=H)が水溶液から直接得られる場合がある。さらなる実施形態では、最初に作成したプロトン化形態を1つ以上の塩基水溶液と反応させることにより、塩の形態のチタンカテコラート錯体を作成することができる。一価のカチオン(例えば、NH
4+、Li
+、Na
+又はK
+)を含有する塩基水溶液は、フロー電池の電解液に混入させるのに特に有利であり得る。別の様々な用途では、二価のカチオンを含有する塩基水溶液等の他の塩基水溶液が適切である場合もある。チタンカテコラート錯体のプロトン化形態を沈殿させる場合には、このプロトン化形態を塩基水溶液に加え、反応、溶解させて別の塩の形態を生成することもできる。沈殿が発生しない場合には、反応後の水溶液に塩基水溶液を加えて所望のpHとし、イン・サイチュで別の塩の形態が生成されるようにしてもよい。
【0037】
代替的な実施形態では、Dを、二価の金属イオン、三価の金属カチオン、又はテトラアルキルアンモニウムカチオンとすることができる。フロー電池の電解液に含有させるには、アルカリ金属カチオン(例えば、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせ)等の一価の金属カチオンが望ましい場合がある一方、その他の目的では、他の対イオン形が望ましい場合がある。例えば、時に、別の対イオン形が精製目的では望ましい場合もある。必要に応じて、単離、精製後に一価の対イオン形に変化させることもできる。
【0038】
いくつかの実施形態では、L
1、L
2及びL
3のうちの1つを、カテコラート配位子又は置換カテコラート配位子とすることができる。いくつかの実施形態では、L
1、L
2及びL
3のうちの2つを、カテコラート配位子又は置換カテコラート配位子とすることができる。さらに別の実施形態では、L
1、L
2及びL
3のすべてをカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子とすることができる。上述の実施形態において、任意選択的な組み合わせのカテコラート配位子及び置換カテコラート配位子を用いることができる。例えば、本開示のいくつかの実施形態では、チタンカテコラート錯体が、1つの置換カテコラート配位子と2つの置換されていないカテコラート配位子とを含有することができる。以下に、カテコラート配位子と置換カテコラート配位子の少なくとも一方と共に存在し得る他の適切な配位子を挙げる。
【0039】
本明細書において、「置換カテコラート(substituted catecholate)」という用語は、少なくとも1つの芳香環位をヘテロ原子官能基等の追加の官能基で置換したカテコール化合物(例えば1,2−ジヒドロキシベンゼン)を指す。本明細書において、「ヘテロ原子官能基(heteroatom functional group)」という用語は、O、N又はSを含有する任意の原子団を指す。ヘテロ原子官能基によって、カテコラート配位子とこれに由来するチタン配位錯体の溶解度を向上させることができる。以下に、本方法に適したヘテロ原子置換カテコラートの例の一部を記載する。
【0040】
いくつかの実施形態において、適切な置換カテコラート配位子として、1つ以上の官能基を有するカテコール化合物を挙げることができる。官能基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、アミド基、ホルミル基、シアノ基、ハロ基、ヒドロキシル基、スルホネート基、スルホン酸基、ホスホネート基、ホスホン酸基が挙げられる。いくつかの実施形態では、適切な置換カテコラート配位子は1つの官能基を有してよい。いくつかの実施形態では、1つの官能基を有する置換カテコラート配位子において、その官能基が芳香環の4位にあってよい。ただし、置換カテコラート配位子において官能基は、空いているいずれの環位にあってよい。いくつかの又は他の実施形態では、適切な置換カテコラート配位子が2つの追加官能基を有してよい。より特定的な実施形態では、適切な置換カテコラート配位子が1つ又は2つのスルホン酸基を有してよい。スルホン酸基を有するカテコラート配位子は、チタンカテコラート錯体の溶解度を高めるために特に望ましい場合がある。この点については、ヒドロキシカテコール及びカルボキシカテコールも同様に望ましい。
【0041】
いくつか又は他のより特定的な実施形態において、本開示に係る方法での用途に適した置換カテコラート配位子として、中性又は塩の形態で以下の構造を有するものを挙げることができる。
【0043】
Zは、A
1R
A1、A
2R
A2、A
3R
A3及びCHOからなる群から選択されるヘテロ原子官能基である。変数nは1〜4の範囲の整数であり、よって1つ以上のZが芳香環の空いている位置で置換カテコラート配位子に結合する。2つ以上のZが存在する場合、各Zは同一であってよく、又は異なっていてもよい。A
1は、−(CH
2)
a−又は−(CHOR)(CH
2)
a−であり、R
A1は、−OR
1又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1である。aは0〜約6の範囲の整数であるが、aが0でありかつR
A1が−OR
1である場合にR
1はHでないという条件があり、bは1〜約10の範囲の整数である。A
2は、−(CH
2)
c−又は−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
A2は、−NR
3R
4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR
5である。Xは、−O−又は−NR
6−であり、cは0〜約6の範囲の整数であり、dは0〜約4の範囲の整数である。A
3は、−O−又は−NR
2−であり、R
A3は、−(CHR
7)
eOR
1、−(CHR
7)
eNR
3R
4、−(CHR
7)
eC(=O)XR
5、又は−C(=O)(CHR
7)
fR
8である。eは1〜約6の範囲の整数であるが、A
3が−O−である場合にeは1でないという条件があり、fは0〜約6の範囲の整数である。Rは、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
1は、H、メチル、エチル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
2、R
3、R
4、及びR
6は、H、C
1−C
6アルキル、又はヘテロ原子置換C
1−C
6アルキルからなる群から独立に選択される。R
5は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH
2CH
2O)
bR
1である。R
7はH又はOHである。R
8は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1である。
【0044】
「塩の形態(salt form)」という用語は、プロトン化又は脱プロトンされ得るZの任意の官能基に関するものとして理解すべきである。同様に、「中性の形態(neutral form)」という用語は、電荷を有しないZに関するものと理解すべきである。本明細書においては便宜上、置換カテコラート配位子の特定の化学構造を示す場合はいずれも、プロトン化した「遊離配位子(free ligand)」の形態を示している。
【0045】
本開示に係る置換カテコラート配位子は、芳香環の空いている位置を置換する1つ、2つ、3つ又は4つのヘテロ原子官能基Zを有し得る。2つ以上のZが存在する場合、各ヘテロ原子官能基Zは同一であってよく、又は異なっていてもよい。より具体的な実施形態において、置換カテコラート配位子は、1つ、2つ又は3つのヘテロ原子官能基Zを有してよく、以下に示す構造のうち1つを有することができる。
【0047】
さらにより具体的な実施形態では、置換カテコラート配位子は1つの官能基Zを有してよく、以下に示す構造のうち1つを有することができる。
【0049】
またさらにより具体的な実施形態では、置換カテコラート配位子は以下の化学式を有することができる。
【0051】
上述のように、Zには、置換カテコラート配位子及びそれらの配位化合物の溶解度を向上させることができる種々のヘテロ原子官能基が含まれ得る。そのようなヘテロ原子官能基を組み込んだ各種の置換カテコラート配位子の具体例を以下に示す。
【0052】
いくつかの実施形態では、ZはA
1R
A1とすることができ、ここでA
1は、−(CH
2)
a−又は−(CHOR)(CH
2)
a−であり、R
A1は、−OR
1又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1である。aは0〜約6の範囲の整数であり、bは1〜約10の範囲の整数である。A
1が−(CH
2)
aでありかつaが0である場合に、R
A1が置換カテコラートの芳香環に直接結合することが理解されよう。同様に、A
1が−(CHOR)(CH
2)
a−でありかつaが0である場合に、R
A1が−(CHOR)基を介して間接的に芳香環に結合することが理解されよう。本開示のいくつかの実施形態では、aは0であり得る。本開示の他の種々の実施形態では、aは、1〜6の範囲、1〜4の範囲、0〜4の範囲、1〜3の範囲のいずれかをとることができる。
【0053】
本開示に係る置換カテコラート配位子において、Rは、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
1は、H、メチル、エチル、C
3−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
3−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。すなわち、R
A1の少なくとも一部は、R
A1の残部、A
1、置換カテコラート配位子の芳香環のいずれかにエーテル結合又はエステル結合により結合したポリオール構造によって規定することができる。例示的なポリオール及びそれらの種々の結合モードについては、後でさらに説明する。本開示の種々の実施形態のいずれかに存在し得る例示的なC
1−C
6アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。本明細書において、「ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル(heteroatom-substituted C
1-C
6 alkyl)」という用語は、その水素原子の1つ以上が酸素含有官能基又は窒素含有官能基で置換された直鎖アルキル基又は分岐鎖アルキル基を指す。また、本明細書において、「ヘテロ原子置換C
1−C
6(heteroatom-substituted C
1-C
6)」は、その骨格炭素原子とそれに付随する水素原子のうち1つが酸素含有官能基又は窒素含有官能基で置換された直鎖アルキル基又は分岐鎖アルキル基を指す。
【0054】
いくつかの実施形態では、A
1R
A1に関して、aが0でありかつR
A1が−OR
1である場合にR
1はHでないという条件がある。
【0055】
本明細書において、「ポリオール(polyol)」という用語は、2つ以上のアルコール官能基を有する任意の化合物を指す。場合により、ポリオール内にアミン基やカルボキシル酸基等の追加のヘテロ原子官能基が存在することもある。つまり、非修飾グリコール(unmodified glycol)及び高級ポリオールのアミノアルコール及びヒドロキシ酸類似体も、「ポリオール」という用語によって包含される。本明細書において、「高級ポリオール(higher polyol)」という用語は、3つ以上のアルコール官能基を有するポリオールを指す。R
A1内に存在し得る例示的なポリオールとしては、グリコールを含む任意のC
2−C
6ポリオールや、高級ポリオール、単糖が挙げられる。「ポリオール」という用語と同様、「単糖(monosaccharide)」という用語には、ベースの単糖とこのベースの単糖に対応する糖アルコールや、糖酸、デオキシ糖のいずれもが含まれ、またこれらの物質の開鎖形態及び閉鎖形態がすべて含まれるものと理解されたい。
【0056】
本開示の種々の実施形態において存在し得る例示的なポリオールとしては、例えば、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール(galacitol)、フシトール、イジトール、イノシトール、グリコールアルデヒド、グリセルアルデヒド、1,3−ジヒドロキシアセトン、エリトロース、トレオース、エリトルロース、アラビノース、リボース、リキソース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、デオキシリボース、ラムノース、フコース、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸、酒石酸(tartartic acid)、ガラクタル酸、グルカル酸が挙げられる。また、これらの化合物の任意のエナンチオマー形態及びジアステレオマー形態の少なくとも一方、さらに、形成される場合はそれらの開環形態や閉環形態も、本開示の「ポリオール」という用語に包含される。
【0057】
A
1R
A1に関するより特定的な実施形態として、例えば、aが0又は1であり、A
1が−(CH
2)
a−であり、R
A1が−OR
1であり、かついくつかの実施形態で示した上記の条件を満たすものや、aが0又は1であり、A
1が−(CH
2)
a−であり、R
A1が−(OCH
2CH
2O)
bR
1であるもの、が挙げられる。
【0058】
A
1R
A1についてのさらにより特定的な実施形態においては、適切な置換カテコラート配位子として以下を挙げることができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、ZはA
2R
A2とすることができ、ここでA
2は、−(CH
2)
c−又は−(CH
2OR
2)(CH
2)
d−であり、R
A2は、−NR
3R
4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR
5である。Xは、−O−又は−NR
6−であり、cは0〜約6の範囲の整数であり、dは0〜約4の範囲の整数である。R
2、R
3、R
4、R
6はそれぞれ、H、C
1−C
6アルキル、又はヘテロ原子置換C
1−C
6アルキルからなる群から独立に選択される。同様に、R
5は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH
2CH
2O)
bR
1であり、ここでR
1は上記で定めた通りである。いくつかの実施形態では、cは、0〜4の範囲、1〜5の範囲、1〜4の範囲、1〜3の範囲のいずれかをとることができる。いくつかの実施形態では、dは、0〜3の範囲、0〜2の範囲、1〜3の範囲のいずれかをとることができる。
【0061】
炭素結合アミノ酸について、種々の実施形態においては、アミノ酸はそれらのα炭素(すなわちカルボキシレート基及びアミノ基といった官能基に隣接した炭素)によって炭素結合することができる。本明細書において、「アミノ酸(amino acid)」という用語は、少なくとも1つのアミン基と1つのカルボン酸基とを、場合によっては保護された形態で有する任意の原子団を指す。より具体的な実施形態においては、「アミノ酸」という用語は、天然のD−アミノ酸又はL−アミノ酸、さらにそのオリゴマーを指す。適切な置換カテコラート配位子に存在し得る例示的な天然アミノ酸としては、例えばアルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン(isolucine)、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、並びにそれらの合成誘導体を含む。上述及び他のアミノ酸は、以下にさらに説明するように、エステル結合又はアミド結合した形態で存在し得る。
【0062】
A
2R
A2に関するより特定的な実施形態として、例えば、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが1〜6の範囲又は1〜3の範囲の整数であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるものや、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが0であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるもの、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが0であり、R
A2が−C(=O)XR
5であり、XがOであり、R
5が、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合により結合したアミノアルコール、又はエステル結合により結合したアミノ酸であるもの、A
2が−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
2がHであり、dが1〜4の範囲の整数であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるもの、さらにA
2が−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
2がHであり、dが1〜4の範囲の整数であり、R
A2が−C(=O)XR
5であり、XがOであり、R
5が、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合により結合したアミノアルコール、又はエステル結合により結合したアミノ酸であるもの、が挙げられる。
【0063】
A
2R
A2についてのさらにより特定的な実施形態においては、適切な置換カテコラート配位子として以下を挙げることができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、ZはA
3R
A3とすることができ、ここでA
3は、−O−又は−NR
2−であり、R
A3は、−(CHR
7)
eOR
1、−(CHR
7)
eNR
3R
4、−(CHR
7)
eC(=O)XR
5、−(C=O)(CHR
7)
eR
8のいずれかであり、eは1〜約6の範囲の整数であり、fは0〜約6の範囲の整数であり、R
7はH又はOHであり、R
8は、h、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、アミド結合のいずれかにより結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、アミド結合のいずれかにより結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、−(OCH
2CH
2O)
bR
1のいずれかである。本開示の他の種々の実施形態では、eは、2〜6の範囲、1〜4の範囲、1〜3の範囲のいずれかをとることができる。本開示の他の種々の実施形態では、fは、1〜6の範囲、1〜4の範囲、0〜4の範囲、1〜3の範囲のいずれかをとることができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、A
3R
A3に関して、A
3が−O−である場合にeは1でないという条件がある。
【0067】
A
3R
A3に関するより特定的な実施形態として、例えば、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eOR
1であり、eが2〜6の範囲の整数であるものや、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eNR
3R
4であり、eが1〜6の範囲の整数であるもの、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eC(=O)OR
5であり、eが2〜6の範囲の整数であるもの、さらにA
3が−O−であり、R
A3が−C(=O)(CHR
7)
fR
8であり、fが0〜6の範囲又は1〜6の範囲の整数であるもの、が挙げられる。
【0068】
A
3R
A3についてのさらにより特定的な実施形態においては、適切な置換カテコラート配位子として以下を挙げることができる。
【0070】
本開示のさらに他の種々の実施形態においては、本開示の置換カテコラート配位子は、以下の例示的な構造に示すように、それぞれがCHOである1つ以上のZを有することができる。
【0072】
本開示の他のさらに具体的な実施形態において、置換カテコラート配位子は、以下から選択される構造を有することができる。
【0074】
本開示の他のさらに具体的な実施形態において、置換カテコラート配位子は、以下から選択される構造を有することができる。
【0076】
本開示のさらに他の種々の実施形態では、置換カテコラート配位子は、以下の構造を有する3,4−ジヒドロキシマンデル酸とすることができる。
【0078】
より具体的な実施形態においては、チタンカテコラート錯体は以下の化学式を有することができる。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3),
式中、Dは、H、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3は配位子であり、L
1、L
2及びL
3のうち少なくとも1つは置換カテコラート配位子である。適切な置換カテコラート配位子としては、上述のものが挙げられる。いくつかの実施形態では、L
1、L
2及びL
3のいずれもがカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子であってよい。
【0079】
いくつかの又は他のより具体的な実施形態においては、チタンカテコラート錯体は以下の化学式を有することができる。
H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、L
1、L
2及びL
3は配位子であり、L
1、L
2及びL
3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。適切な置換カテコラート配位子としては、上述のものが挙げられる。いくつかの実施形態では、L
1、L
2及びL
3のいずれもがカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子であってよい。上記のように、いくつかの実施形態では、このようなチタンカテコラート錯体を水溶液から固体として好適に単離することができる。具体的には、多くの場合において、このようなチタンカテコラート錯体は、生成時に水溶液から沈殿させることができる。その後、沈殿させたチタンカテコラート錯体は、デカンテーション、濾過、遠心分離等によって、固体の形で単離することができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、上記で規定した通りのH
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)の化学式を有するチタンカテコラート錯体を、固体の形態で作成した後、さらに精製することができる。いくつかの実施形態では、固体の形態の同錯体を、水、もしくはチタンカテコラート錯体が実質的に不溶である適切な洗浄溶媒で洗浄することができる。いくつかの又は他の実施形態では、さらなる精製に備えてチタンカテコラート錯体を再結晶化することができる。代替的な実施形態では、固体の形態のチタンカテコラート錯体にさらなる精製処理を行わず、「生成時のまま(as-formed)」使用することができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、上記で規定した通りのH
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)の化学式を有する、固体の形態のチタンカテコラート錯体をさらに別の塩の形態に変化させることができる。具体的には、いくつかの実施形態では、本開示に係る方法が、チタンカテコラート錯体を塩基水溶液と反応させてチタンカテコラート錯体の塩の形態を生成することをさらに含んでよい。適切な塩基水溶液としては、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等、及びこれらの任意選択的な組み合わせが挙げられる。これらに対応する炭酸塩及び重炭酸塩も同様に使用できる。従って、このような実施形態では、チタンカテコラート錯体は以下の化学式を有する塩の形態で作成することができる。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3は上記で規定した通りの配位子である。いくつかの実施形態では、Dは、Na
+とK
+の1:1混合物等のNa
+とK
+の混合カチオンであってよく、Na
+とK
+の混合物等の混合カチオンは、チタンカテコラート錯体の溶解度を高めるために特に望ましい場合がある。特に、同錯体の用途がフロー電池の電解液での使用ではない場合には、上述の一価のカチオンに加えて、二価のカチオンを含有する塩基水溶液も同様に使用することができる。
【0082】
種々の実施形態においては、塩基水溶液を加えてアルカリ性のpHを有する水溶液中にチタンカテコラート錯体を溶解させることができる。いくつかの実施形態では、該アルカリ性pHを約9〜約12の範囲に収めることができ、この範囲のpHは、チタンカテコラート錯体の安定性と溶解度を高めるために特に望ましい場合がある。これらのpH条件は、また、フロー電池及びその各種コンポーネントと組み合わせて用いるのに特に適している場合がある。他の適切なアルカリ性のpH範囲としては、例えば、約7〜約7.5、約7.5〜約8、約8〜約8.5、約8.5〜約9、約9.5〜約10、約10〜約10.5、約10.5〜約11、約11〜約11.5、約11.5〜約12、約12〜約12.5、約12.5〜約13、約13〜約13.5、又は約13.5〜約14が挙げられる。
【0083】
さらに他の種々の実施形態では、チタンカテコラート錯体は以下の化学式を有することができる。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、H、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせである。このチタンカテコラート錯体を還元して、以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体を作成することができる。
DTi(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、H、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3は上記で規定した通りである。すなわち、本開示の種々の実施形態によれば、チタンカテコラート錯体の酸性形態(すなわちTi
4+)と還元形態(すなわちTi
3+)のいずれの形態も作成することができる。
【0084】
従って、本開示のより具体的な実施形態において、チタンカテコラート錯体の生成方法は、水中でオキシ塩化チタンを少なくとも約3当量の少なくとも1つのカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子と混合して水溶液を生成することと、該少なくとも1つのカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子をオキシ塩化チタンと反応させて以下の化学式を有する化合物を生成することとを含んでよい。
H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、L
1、L
2及びL
3はカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。いくつかの実施形態では、本方法は、化学式H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)を有するチタンカテコラート錯体を固体として単離することをさらに含んでよい。いくつかの又は他のさらなる実施形態では、本方法は、化学式H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)を有するチタンカテコラート錯体を塩基水溶液と反応させて以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体を生成することをさらに含んでよい。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3はカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。
【0085】
同様に、本開示の他のより具体的な実施形態において、チタンカテコラート錯体の生成方法は、四塩化チタンが水と反応する条件で、四塩化チタンを水と混合してオキシ塩化チタンを生成することと、オキシ塩化チタンを含有する水溶液を生成することと、少なくとも約3当量の少なくとも1つのカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子を該水溶液に加えることと、該少なくとも1つのカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子をオキシ塩化チタンと反応させて以下の化学式を有する化合物を生成することとを含んでよい。
H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、L
1、L
2及びL
3はカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。いくつかの実施形態では、本方法は、化学式H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)を有するチタンカテコラート錯体を固体として単離することをさらに含んでよい。いくつかの又は他のさらなる実施形態では、本方法は、化学式H
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)を有するチタンカテコラート錯体を塩基水溶液と反応させて以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体を生成することをさらに含んでよい。
D
2Ti(L
1)(L
2)(L
3)
式中、Dは、NH
4+、NR
4+、Li
+、Na
+、K
+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L
1、L
2及びL
3はカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。
【0086】
いくつかの実施形態では、本開示に係るチタンカテコラート錯体は、少なくとも1つのカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子と共にその他の配位子も含むことができる。カテコラート配位子及び置換カテコラート配位子以外の任意の配位子としては、例えば、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グリコール酸塩、ポリオール、グルコン酸塩、ヒドロキシアルカン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、サルコシン酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、尿素、ポリアミン、アミノフェノラート、アセチルアセトネート及び乳酸塩が挙げられる。ここで、化学的に実現可能である場合には、この追加的な配位子を、C
1−6アルコキシ基、C
1−6アルキル基、C
1−6アルケニル基、C
1−6アルキニル基、5員環又は6員環のアリール基又はヘテロアリール基、ボロン酸又はその誘導体、カルボン酸又はその誘導体、シアノ、ハロゲン化物、ヒドロキシル、ニトロ、スルホン酸塩、スルホン酸又はその誘導体、ホスホン酸塩、ホスホン酸又はその誘導体、又はポリエチレングリコール等のグリコールから選択される少なくとも1つの基によって、任意に置換可能であることが認められよう。アルカン酸塩には、そのα、β及びγ形態がいずれも含まれる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
チタンカテコラート錯体中に必要に応じて存在し得る単座配位子の他の例としては、ハロゲン化物、シアン化物、一酸化カルボニル又は一酸化炭素、窒化物、オキソ、ヒドロキソ、水、硫化物、チオール、ピリジン、ピラジン等が挙げられる。チタンカテコラート錯体中に必要に応じて存在し得る二座配位子の他の例としては、例えば、ビピリジン、ビピラジン、エチレンジアミン、(エチレングリコールなどの)ジオール等が挙げられる。本開示に係るチタンカテコラート化合物中に必要に応じて存在し得る三座配位子の他の例としては、例えば、テルピリジン、ジエチレントリアミン、トリアザシクロノナン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等が挙げられる。他の許容できる配位子としては、キノン、ヒドロキノン、ビオロゲン、アクリジニウム、多環芳香族炭化水素及びそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0088】
上述のように、本開示に係る方法によれば、他の合成方法によって作成したチタンカテコラート錯体とは、組成と純度の少なくとも一方が異なるチタンカテコラート錯体を提供することができる。従って、種々の実施形態において、本開示は、本明細書に記載のチタンカテコラート錯体を含有する組成物を提供する。より具体的な実施形態においては、本開示に係る組成物は、以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体を含んでよい。
H
gTi(L
1)(L
2)(L
3)
式中、gは1又は2であり、L
1、L
2及びL
3は配位子である。L
1、L
2及びL
3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である。チタンカテコラート錯体の酸化形態(すなわちg=2)は、水溶液から直接作成することができ、チタンカテコラート錯体の還元形態(すなわちg=1)は還元後に生成することができる。チタンカテコラート錯体のより特定的な構成については、上述の通りである。
【0089】
本明細書においては、いくつかの又は他の種々の実施形態において、チタンカテコラート錯体の電解液についても記載している。すなわち、いくつかの実施形態では、本開示に係る組成物は、チタンカテコラート錯体が存在する水溶液をさらに含む。いくつかの実施形態では、水溶液はアルカリ性溶液であってよい。いくつかの又は他の実施形態では、水溶液は、実質的に中性の水溶液であってよい。
【0090】
本明細書においては、さらに他の種々の実施形態において、フロー電池について記載している。フロー電池は、上記で規定したようなチタンカテコラート錯体を少なくとも1つ含む電解液を組み入れることができる。すなわち、本開示に係るフロー電池は、上述の種々の組成物を活物質として含有する電解液を含むことができる。本開示に係る電解液を利用した場合の例示的なフロー電池とそれらの動作特性について、以下に例示的な開示を示す。
【0091】
より具体的な実施形態においては、本開示に係る電解液は水系電解液とすることができる。本明細書において、「水系電解液(aqueous electrolyte solution)」は、少量成分として水混和性の有機溶媒を含有する溶液等の、水を主成分とする任意の溶液を指す。水系電解液中に存在することができる例示的な水混和性の有機溶媒としては、例えばアルコールやグリコールが挙げられ、場合により1種類以上の界面活性剤を存在させてよい。より具体的な実施形態においては、水系電解液は少なくとも約98重量%の水を含有することができる。他のより具体的な実施形態においては、水系電解液は、少なくとも約55重量%の水、少なくとも約60重量%の水、少なくとも約65重量%の水、少なくとも約70重量%の水、少なくとも約75重量%の水、少なくとも約80重量%の水、少なくとも約85重量%の水、少なくとも約90重量%の水、又は少なくとも約95重量%の水を含有してよい。いくつかの実施形態では、水系電解液は水混和性の有機溶媒を含有せず、水のみを溶媒として含んでよい。
【0092】
溶媒及び上述の活物質に加えて、本開示に係る水系電解液は1つ以上の可動イオンを含むことができる。いくつかの実施形態においては、可動イオンとして、プロトン、ヒドロニウム又は水酸化物を挙げることができる。本開示の他の様々な実施形態では、プロトン、ヒドロニウム又は水酸化物以外のイオンを、単独で又はプロトン、ヒドロニウム又は水酸化物と一緒に輸送することができる。そのような追加の可動イオンとしては、例えばアルカリ金属カチオン又はアルカリ土類金属カチオン(例えばLi
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+及びSr
2+)及びハロゲン化物イオン(例えばF
−、Cl
−又はBr
−)を挙げることができる。他の可動イオンとしては、例えばアンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、カルコゲニド、リン酸塩、リン酸水素、ホスホン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、及びこれらの任意選択的な組み合わせを挙げることができる。いくつかの実施形態では、プロトン、ヒドロニウム又は水酸化物が、可動イオンの約50%未満を構成することができる。他の種々の実施形態では、プロトン、ヒドロニウム又は水酸化物が、可動イオンの約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、又は約2%未満を構成することができる。
【0093】
さらなる実施形態において、本明細書に記載の水系電解液はまた、緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤、又はこれらの任意選択的な組み合わせ等の1つ以上の追加の添加剤も含み得るが、これらに限定されない。例示的な緩衝剤としては、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(tris、トリス)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(hepes、ヘペス)、ピペラジン−N,N’−ビス(エタンスルホン酸)(pipes、ピぺス)、又はこれらの任意選択的な組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。適切な緩衝剤及び他の追加の添加剤の他の例については、当業者にはよく知られているであろう。
【0094】
いくつかの実施形態において、本開示に係る水系電解液は、少なくとも約0.5Mのチタンカテコラート錯体の濃度、更に具体的には0.5M〜約3Mの範囲の濃度を有し得る。より特定的な実施形態においては、本開示に係る水系電解液は、水溶液中のチタンカテコラート錯体の濃度を0.5M〜約3Mの範囲とすることができる。他の種々の実施形態では、水系電解液中のチタンカテコラート錯体の濃度を、最大で約0.5M、最大で約1M、又は最大で約1.5M、又は最大で約2M、又は最大で約2.5M、又は最大で約3Mとすることができる。より具体的な実施形態においては、水系電解液中のチタンカテコラート錯体の濃度は、約0.5M〜約3Mの範囲、約1M〜約3Mの範囲、約1.5M〜約3Mの範囲、1M〜約2.5Mの範囲とすることができる。他のより具体的な実施形態では、チタンカテコラート錯体の濃度は、水系電解液において約1M〜約1.8Mの範囲とすることができる。
【0095】
いくつかの実施形態において、本開示に係る水系電解液をフロー電池に用いることにより、高い開路電圧を実現することができる。例えば、開路電圧は、少なくとも約0.8V、少なくとも約0.9V、少なくとも約1.0V、少なくとも約1.1V、少なくとも約1.2V、少なくとも約1.3V、少なくとも約1.4V、少なくとも約1.5V、少なくとも約1.6V、少なくとも約1.7V、少なくとも約1.8V、少なくとも約1.9V、少なくとも約2.0Vとすることができる。
【0096】
上述のチタンカテコラート錯体及び水系電解液を組み込むことができる例示的なフロー電池についてさらに詳細に説明する。いくつかの実施形態では、本開示に係るフロー電池は、数時間の持続時間を有する持続性のある充放電サイクルに適している。従って、本開示に係るフロー電池を使用して、エネルギーの供給・需要プロファイルを平滑化し、(例えば、太陽光エネルギーや風力エネルギー等の再生可能エネルギー源からの)間欠発電資産を安定化させる機構を提供することができる。よって、本開示の種々の実施形態では、このような長い充電又は放電の持続時間が望ましいエネルギー貯蔵の用途が含意されていることを理解されたい。例えば、限定を意図しない実施例においては、本開示に係るフロー電池は、配電網に接続されて、再生可能エネルギーの統合(renewables integration)、ピーク負荷シフト、配電網の安定化(grid firming)、ベースロード発電及び電力消費、エネルギー裁定取引、送配電資産の繰延、弱配電網のサポート、周波数調整、又はこれらの任意選択的な組み合わせを可能とする。配電網に接続されない場合には、本開示に係るフロー電池を、遠隔キャンプ、前線作戦基地、オフグリッド電気通信、遠隔センサ等、及びこれらの任意選択的な組み合わせのための電源として使用することができる。
【0097】
更に、本明細書の開示は概してフロー電池を対象とするが、他の電気化学エネルギー貯蔵媒体、特に流れない(stationary)電解液を利用する電気化学エネルギー貯蔵媒体にも、本明細書に記載される電解液を組み込み得ることが認められよう。
【0098】
いくつかの実施形態においては、本開示に係るフロー電池は、第1の水系電解液に接触している負極を収容する第1のチャンバと、第2の水系電解液に接触している正極を収容する第2のチャンバと、第1及び第2の電解液間に配置されたセパレータと、を含むことができる。これら電解液チャンバはそれぞれがセル内で別個の貯留槽となるものであり、第1の電解液及び/又は第2の電解液はこれら電解液チャンバを通過してそれぞれの電極及びセパレータに接触するように循環する。各チャンバとそれに関連付けられた電極及び電解液とで、対応する半電池を形成している。セパレータは以下を含むいくつかの機能を備える。例えば、(1)第1及び第2の電解液の混合を防ぐ障壁として機能すること、(2)正極と負極との短絡を低減又は防止するよう電気的に絶縁すること、及び(3)正の電解液チャンバと負の電解液チャンバとの間のイオン輸送を容易にし、これにより充放電サイクル中の電子輸送のバランスをとること、である。負極及び正極の表面では、充放電サイクル中に電気化学反応を発生させることができる。充放電サイクル中、各別個の貯蔵タンク内の電解液は対応する電解液チャンバを通過して輸送され得る。充電サイクルにおいては、セルに電力を印加することで、第2の電解液に含まれる活物質が1以上の電子酸化を受けると共に、第1の電解液中の活物質が1以上の電子還元を受けることができる。同様に、放電サイクルにおいては、第2の電解液が還元されると共に第1の電解液が酸化されて電力が生成される。
【0099】
より具体的な実施形態においては、本開示に係る例示的なフロー電池は、(a)第1の配位化合物を含有する第1の水系電解液と、(b)第2の配位化合物を含有する第2の水系電解液と、(c)前記第1及び第2の水系電解液間に配置されたセパレータと、(d)第1及び第2の水系電解液中の可動イオンと、を含むことができる。以下により詳細に説明するように、セパレータはアイオノマー膜であってよく、100ミクロン未満の厚さを有することができると共に、第1及び第2の配位化合物と同じ符号の正味の電荷を帯びることができる。いくつかの実施形態では、第1及び第2の配位化合物うち少なくとも1つが、上述のカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子を含むことができる。他の種々の実施形態において、第1及び第2の配位化合物の一方は、フェリシアン化物[Fe(CN)
63−]とフェロシアン化物[Fe(CN)
64−]のレドックス対であってよい。より具体的な実施形態においては、フェリシアン化物とフェロシアン化物のレドックス対を第1の配位化合物として用い、第2の配位化合物を、置換カテコラート配位子を含有する配位化合物、特にチタンカテコラート錯体とすることができる。
【0100】
図1に、例示的なフロー電池の概略を示す。活物質やその他のコンポーネントが単一のアセンブリに収容される典型的な電池技術(例えばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等)とは異なり、フロー電池は、貯蔵タンクのレドックス活性エネルギー貯蔵物質を(例えばポンピングによって)電気化学スタックを通過させて輸送するものである。この設計上の特徴により、電気エネルギー貯蔵システムの電源がエネルギー貯蔵容量から切り離されるため、大幅な設計の柔軟性とコストの最適化が実現可能となる。
【0101】
図1に示すように、フロー電池システム1は電気化学セルを含む。この電気化学セルは、その2つの電極10,10’を隔てるセパレータ20(例えば膜)を備えることを特徴とするものである。電極10,10’は、金属、炭素、グラファイト等の適切な導電性材料で形成されている。タンク50は、酸化状態と還元状態の間を循環可能な第1の活物質30を収容するものである。
【0102】
ポンプ60は、第1の活物質30をタンク50から電気化学セルに輸送するためのものである。フロー電池はまた適宜、第2の活物質40を収容する第2のタンク50’も含む。第2の活物質40は、活物質30と同一の物質であってよく、又は異なる物質であってもよい。上述のように、第2の活物質40は、フェリシアン化物/フェロシアン化物であってもよい。第2のポンプ60’は、第2の活物質40を電気化学セルに輸送するためのものである。また、電気化学セルからタンク50,50’に活物質を戻す輸送のためにもポンプを用いてよい(
図1には示していない)。また流体輸送に作用する他の方法、例えば、サイフォン等によっても、第1及び第2の活物質30,40を電気化学セル内外に適宜輸送することができる。
図1には電源すなわち負荷70も示されている。負荷70によって電気化学セル回路が完成し、回路の動作中、ユーザによる電気の蓄積すなわち貯蔵が可能となる。
【0103】
図1は、フロー電池の具体的な実施形態を示すものであり、限定を意図するものではないことを理解されたい。従って、本発明の精神と合致するフロー電池が
図1の構成とは様々な面で異なることがある。一例として、フロー電池システムは、固体、気体、及び/又は液体に溶解した気体である1つ以上の活物質を含むことができる。活物質は、大気に開放しているか又は単に大気への通気口を設けたタンク又は容器に貯蔵することができる。
【0104】
本明細書において、「セパレータ」及び「膜」という用語は、電気化学セルの正極と負極との間に配置され、イオン伝導性及び電気的絶縁性を有する材料を指す。セパレータは、いくつかの実施形態では多孔質膜とすることができ、及び/又は他の種々の実施形態ではアイオノマー膜とすることができる。いくつかの実施形態では、セパレータをイオン伝導性ポリマーで形成することができる。
【0105】
ポリマー膜は、アニオン伝導性又はカチオン伝導性の電解質とすることができる。「アイオノマー」と記載する場合、この用語は、電気的に中性の繰返し単位及びイオン化した繰返し単位の双方を含有するポリマー膜を指し、イオン化した繰返し単位はペンダント基としてポリマー骨格に共有結合している。一般に、イオン化した単位の比率は約1mol%〜約90mol%の範囲とすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、イオン化した単位の含有量は約15mol%未満であり、他の実施形態では、イオン含有量はより高く、例えば約80mol%超である。さらに別の実施形態では、イオン含有量は、例えば約15〜約80mol%の範囲のように中間範囲によって規定される。アイオノマーにおけるイオン化した繰返し単位としては、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性官能基が挙げられる。これらの官能基は、アルカリ又はアルカリ土類金属等の一価又は二価以上のカチオンによって電荷を平衡させることができる。またアイオノマーとしては、結合された又は組み込まれた第四級アンモニウム、スルホニウム、ホスファゼニウム、及びグアニジンの残基又は塩を含有するポリマー組成物も挙げられる。適切な例については、当業者にはよく知られているであろう。
【0106】
いくつかの実施形態では、セパレータとして利用できるポリマーが、高フッ素化ポリマー骨格又は過フッ素化ポリマー骨格を含む場合がある。本開示において利用できる特定のポリマーとしては、テトラフルオロエチレンと1つ以上のフッ素化酸官能性コモノマーとの共重合体が挙げられる。この共重合体は、DuPont社からナフィオン(NAFION)(登録商標)過フッ素化ポリマー電解質として市販されているものである。他の利用可能な過フッ素化ポリマーとしては、テトラフルオロエチレンとFSO
2−CF
2CF
2CF
2CF
2−O−CF=CF
2の共重合体、フレミオン(FLEMION)(登録商標)及びセレミオン(SELEMION)(登録商標)が挙げられる。
【0107】
さらに、スルホン酸基(又はカチオン交換スルホン酸基)で修飾した、実質的にフッ素化されていない膜を用いることもできる。このような膜としては、実質的に芳香族の骨格を有するものが挙げられ、例えばポリスチレン、ポリフェニレン、ビフェニルスルホン(BPSH)、又はポリエーテルケトン及びポリエーテルスルホン等の熱可塑性物質等を含むことができる。
【0108】
電池のセパレータ用の多孔質膜も本セパレータとして使用可能である。そのような膜はそれ自身ではイオン伝導性を待たないため、通常、セパレータとして機能させるために添加物を含浸させている。一般に、これらの膜は、多くの開放孔を有するポリマーと無機充填剤の混合物を含有する。適切なポリマーとしては、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。適切な無機充填剤としては、炭化ケイ素マトリックス材、二酸化チタン、二酸化ケイ素、リン化亜鉛及びセリアが挙げられる。
【0109】
セパレータは、ポリエステルや、ポリエーテルケトン、ポリ(塩化ビニル)、ビニルポリマー、置換ビニルポリマーで形成することもできる。これらは単独で、又は前述のポリマーのいずれかと組み合わせて使用できる。
【0110】
多孔質セパレータは、電解液で満たされた開流路を介して両電極間の電荷移動を可能とする非伝導性の膜である。しかし、この透過性によって、化学物質(例えば活物質)がセパレータを通過して一方の電極から他方の電極へ移動して、相互汚染及び/又はセルエネルギー効率の低下が引き起こされてしまう可能性が高まる。この相互汚染の程度は、いくつかある特徴の中でも特に、孔のサイズ(有効径及び流路長)、孔の特性(疎水性/親水性)、電解液の性質、及び孔の電解液に対する濡れ性によって決まり得る。
【0111】
多孔質セパレータの孔のサイズの分布は、両電解液間での活物質のクロスオーバーを実質的に防止するものであれば概ね十分である。適切な多孔質膜の平均孔サイズ分布は、約0.001nm〜20μm、より典型的には約0.001nm〜100nmとすることができる。多孔質膜の孔のサイズ分布はかなり広くとることができる。言い換えれば、多孔質膜は、非常に小さい径(略1nm未満)の第1の複数の孔と、非常に大きい径(略10μm超)の第2の複数の孔とを含むことができる。孔のサイズが大きくなれば、活物質のクロスオーバー量が増大してしまう可能性がある。多孔質膜が有する、活物質のクロスオーバーの実質的な防止力は、平均孔サイズと活物質のサイズとの相対的な差によって決まり得る。例えば、活物質が金属を中心とする配位化合物である場合には、該配位化合物の平均径は本多孔質膜の平均孔サイズよりも約50%大きくなり得る。一方、もし多孔質膜が実質的に均一な孔サイズを有していた場合には、該配位化合物の平均径はこの多孔質膜の平均孔サイズよりも約20%大きくなり得る。さらに、配位化合物が少なくとも1つの水分子とさらに配位結合すると、配位化合物の平均径はさらに大きくなる。少なくとも1つの水分子を持つ配位化合物の径は、一般に流体力学的径と見なされるものである。本実施形態では、この流体力学的径が平均孔サイズより概ね少なくとも約35%大きくなる。一方、平均孔サイズが実質的に均一である場合には、この流体力学的径が平均孔サイズよりも約10%大きくなり得る。
【0112】
いくつかの実施形態において、セパレータは安定性を高めるための補強材料を含むこともできる。適切な補強材料としては、ナイロン、綿、ポリエステル、結晶シリカ、結晶チタニア、非晶質シリカ、非晶質チタニア、ゴム、アスベスト、木材、又はこれらの任意選択的な組み合わせが挙げられる。
【0113】
本開示に係るフロー電池内のセパレータは、約500μm未満、約300μm未満、約250μm未満、約200μm未満、約100μm未満、約75μm未満、約50μm未満、約30μm未満、約25μm未満、約20μm未満、約15μm未満、又は約10μm未満の膜厚を有することができる。適切なセパレータとしては、セパレータが100μmの厚さを有する場合に、フロー電池が約85%超の電流効率及び100mA/cm
2の電流密度で動作可能であるものが挙げられる。さらなる実施形態においては、フロー電池は、セパレータが約50μm未満の厚さを有する場合に99.5%超の電流効率で、セパレータが約25μm未満の厚さを有する場合に99%超の電流効率で、セパレータが約10μm未満の厚さを有する場合に98%超の電流効率で動作することができる。従って、適切なセパレータとして、フロー電池が60%超の電圧効率及び100mA/cm
2の電流密度で動作可能であるものが挙げられる。さらなる実施形態では、適切なセパレータとして、フロー電池が70%超、80%超、又は90%超の電圧効率で動作可能であるものが挙げられる。
【0114】
セパレータを介した第1及び第2の活物質の拡散率は、約1×10
−5mol/cm
2/日未満、約1×10
−6mol/cm
2/日未満、約1×10
−2mol/cm
2/日未満、約1×10
−9mol/cm
2/日未満、約1×10
−11mol/cm
2/日未満、約1×10
−13mol/cm
2/日未満、又は約1×10
−15mol/cm
2/日未満とすることができる。
【0115】
また、フロー電池は、第1及び第2の電極に電気的に接続された外部の電気回路を含むことができる。この回路は動作中、フロー電池を充放電することができる。第1の活物質、第2の活物質、又はこれら両活物質の正味のイオン電荷の符号について言及する場合、その言及は、フロー電池が動作中の条件下でのレドックス活物質の酸化形態及び還元形態の両方における正味のイオン電荷の符号に関するものである。フロー電池のさらなる例示的な実施形態によって以下が得られる。すなわち、(a)第1の活物質は、正味の正又は負の電荷を帯びると共にシステムの負の動作電位の範囲内の電位に対して酸化形態又は還元形態をとることができ、これにより、得られる第1の活物質の酸化形態又は還元形態が第1の活物質と同じ電荷符号(正又は負)を有し、かつアイオノマー膜も同符号の正味のイオン電荷を有すること、(b)第2の活物質は、正味の正又は負の電荷を帯びると共にシステムの正の動作電位の範囲内の電位に対して酸化形態又は還元形態をとることができ、これにより、得られる第2の活物質の酸化形態又は還元形態が第2の活物質と同じ電荷符号(正又は負の符号)を有し、かつアイオノマー膜も同じ符号の正味のイオン電荷を有すること、又は(a)及び(b)の双方、である。第1の活物質及び/又は第2の活物質とアイオノマー膜の電荷を一致させることにより、高い選択性が得られ得る。より具体的には、このように電荷を一致させることにより、アイオノマー膜を通過する第1の活物質由来又は第2の活物質由来のイオンのモル流束を、約3%未満、約2%未満、約1%未満、約0.5%未満、約0.2%未満、又は約0.1%未満とすることができる。「イオンのモル流束(molar flux of ions)」という用語は、アイオノマー膜を通過し、外部の電気/電子の流れが帯びている電荷を平衡させるイオンの量を指す。すなわち、フロー電池は、アイオノマー膜によって活物質を実質的に遮断しながら動作可能であるか又は動作する。
【0116】
本開示に係る電解液を組み込んだフロー電池は、以下の動作特性の1つ以上を有することができる。すなわち、(a)フロー電池の動作中、第1又は第2の活物質が、アイオノマー膜を通過するイオンのモル流束の約3%未満を構成すること、(b)往復電流効率が約70%超、約80%超、又は約90%超であること、(c)往復電流効率が約90%超であること、(d)第1の活物質と第2の活物質のいずれか又は両方の正味のイオン電荷の符号が、その酸化形態と還元形態の間で異ならず、かつアイオノマー膜の符号と一致すること、(e)アイオノマー膜が約100μm未満、約75μm未満、約50μm未満、又は約250μm未満の厚さを有すること、(f)フロー電池が、約100mA/cm
2超の電流密度及び約60%超の往復電圧効率で動作可能であること、及び(g)電解液のエネルギー密度が、約10Wh/L超、約20Wh/L超、又は約30Wh/L超であることである。
【0117】
場合によっては、ユーザが、単一の電池セルから得られる電圧よりも高い充放電電圧を得ることを望む場合がある。このような場合、いくつかの電池セルを直列に接続して、各セルの電圧が加算されるようにしてもよい。これにより、バイポーラスタックが形成される。導電性を有する無孔質の材料(例えばバイポーラプレート)を用いて隣接する電池セルを接続してバイポーラスタックにすることで、隣接セル間での電子の移動を可能としながら流体又は気体の移動を防ぐことができる。個々のセルの正極コンパートメント及び負極コンパートメントは、スタック内で共通の正及び負の流体マニホールドを介して流体的に接続することができる。このように、複数のセルを直列に積み重ねることにより、DC用途又はAC用途への変換に適した電圧を得ることができる。
【0118】
追加の実施形態では、セル、セルスタック又は電池を、より大型のエネルギー貯蔵システム内に組み込むことができる。この大型システムは、大型ユニットの動作に有用な配管及び制御装置を適宜含むものである。そのようなシステムに適した配管、制御装置及びその他の設備は当技術分野において公知であり、例えば、電解液を各チャンバ内外に移動させるためにチャンバと流体連通した配管及びポンプと、充放電した電解液を保持するための貯蔵タンクと、を含み得る。本開示に係るセル、セルスタック及び電池はまた、動作管理システムを含むこともできる。動作管理システムは、コンピュータ又はマイクロプロセッサ等の任意の適切なコントローラデバイスであってよく、各種のバルブ、ポンプ、循環回路等のいずれかの動作を設定する論理回路を有することができる。
【0119】
より具体的な実施形態では、フロー電池システムは、(セル又はセルスタックを備える)フロー電池と、電解液を収容及び輸送するための貯蔵タンク及び配管と、制御ハードウェア及びソフトウェア(安全システムを含んでいてもよい)と、電力調節ユニットと、を含むことができる。フロー電池セルスタックは、充電サイクルと放電サイクルの間の切替えを可能とし、ピーク電力を決定する。貯蔵タンクは、正の活物質及び負の活物質を収容し、このタンクの容量によって同システムに貯蔵されるエネルギー量が決定される。制御ソフトウェア、ハードウェア及び任意選択的に備えられる安全システムは、センサ、緩和装置、及びその他の電子/ハードウェア制御装置及び安全防護装置を適宜含み、フロー電池システムの安全で自律的かつ効率的な動作を保証する。電力調節ユニットは、エネルギー貯蔵システムのフロントエンド部で用いられ、入力電力の電圧及び電流をエネルギー貯蔵システムに最適な形に、出力電力の電圧及び電流を利用用途に最適な形に変換することができる。配電網に接続されたエネルギー貯蔵システムの例の場合、充電サイクルにおいて、電力調節ユニットは入力AC電力をセルスタックに適した電圧及び電流のDC電力に変換することができる。一方、放電サイクルにおいては、スタックがDC電力を生成し、電力調節ユニットはこのDC電力を配電網に送るのに適した電圧と周波数のAC電力に変換する。
【0120】
上記で別の定義を定めている場合を除き、又は当業者が別の意味で解している場合を除き、以下の段落における定義を本開示に適用することができる。
【0121】
本明細書において、「エネルギー密度(energy density)」という用語は、活物質において単位体積当たりで貯蔵され得るエネルギーの量を指す。エネルギー密度は、エネルギー貯蔵の理論上のエネルギー密度を指し、以下の式1によって計算することができる。
エネルギー密度=(26.8A−h/mol)×OCV×[e
−] (1)
式中、OCVは50%の充電状態での開路電位であり、(26.8A−h/mol)はファラデー定数であり、[e
−]は99%の充電状態で活物質に貯蔵される電子の濃度である。正及び負の電解液の活物質がいずれも原子種又は分子種を主に含む場合、[e
−]は以下の式2によって計算することができる。
[e
−]=[活物質]×N/2 (2)
式中、[活物質]は負又は正の電解液の活物質のモル濃度のうちいずれか低い方であり、Nは活物質1分子当たりの移動電子の数である。関連用語の「電荷密度(charge density)」は、各電解液が含有する電荷の総量を指す。所与の電解液について、電荷密度は以下の式3によって計算することができる。
電荷密度=(26.8A−h/mol)×[活物質]×N (3)
式中、[活物質]及びNは上記で定めた通りである。
【0122】
本明細書において、「電流密度(current density)」という用語は、電気化学セルに流れる総電流をセルの電極の幾何学的面積で除したものを指し、一般にmA/cm
2の単位で表される。
【0123】
本明細書において、「電流効率(current efficiency)」(I
eff)という用語は、セルの放電時に生成される総電荷に対する充電時に移動する総電荷の比率であると説明することができる。電流効率は、フロー電池の充電状態の関数であり得る。限定を意図しないいくつかの実施形態では、電流効率は、充電状態が約35%〜約60%の範囲にある場合に求めることができる。
【0124】
本明細書において、「電圧効率(voltage efficiency)」という用語は、所与の電流密度において観察される電極電位のその電極の半電池電位に対する比率(×100%)であると説明することができる。電池の充電工程時の電圧効率や放電工程時の電圧効率、あるいは「往復電圧効率(round trip voltage efficiency)」を表すことができる。所与の電流密度における往復電圧効率(V
eff,rt)は、以下の式4を用いて、放電時のセル電圧(V
discharge)及び充電時の電圧(V
charge)から計算できる。
V
eff,rt=V
discharge/V
charge×100% (4)
【0125】
本明細書において、「負極(negative electrode)」及び「正極(positive electrode)」という用語は、相互に相対的に規定された電極のことであり、充電サイクル及び放電サイクルのいずれにおいてもそれらが動作する実際の電位とは無関係に、負極が正極より負の電位で(またその逆で)動作するか又は動作するように設計もしくは意図されるものである。負極は、可逆水素電極より負の電位で実際に動作するか又は動作するように設計もしくは意図される場合があり、そうでない場合もある。本明細書に記載するように、負極は第1の電解液に関連付けられ、正極は第2の電解液に関連付けられている。負極に関連付けられた電解液をネゴライト(negolyte、負極電解質)、正極に関連付けられた電解液をポソライト(posolyte、正極電解質)と記載することがある。
【実施例】
【0126】
チタンカテコラート錯体の調製は、米国特許第3425796号明細書に記載の条件下で四塩化チタンを水と反応させ、オキシ塩化チタン水溶液を生成することにより行った。この水溶液に3当量のカテコールを加え、さらに等モル量のNaOH及びKOHを加えてpHを3に調整した。これにより、徐々にチタントリス(カテコラート)錯体のプロトン化形態が水溶液から沈殿した。固体の単離後、H
2O中に等モル量のNaOH及びKOHが存在するようにpHを11に上昇させ、これにより、アルカリ性溶液中において、Na
+とK
+が混合した形態のチタントリス(カテコラート)錯体を作成した。
【0127】
図2に、イン・サイチュで生成したTiOCl
2を用いて調製したNa
+/K
+Ti(カテコラート)
3の0.1M溶液についての、異なる複数のスキャン速度で生成した例示的なサイクリックボルタモグラムを示す。サイクリックボルタモグラムは、作用電極にガラス状炭素ディスク、対電極に白金線、基準電極にAg/AgClを用いて生成した。同電解液は、0.1MのNa
2SO
4をさらに含有し、5mMのpH11のリン酸塩で緩衝した。可逆酸化還元反応は、−0.51V(vs.RHE(可逆水素電極を基準として測定))で発生した。この結果は、他の調製方法によって作成した錯体で得られる結果と一致するものである。
【0128】
図3に、Na
+/K
+Ti(カテコラート)
3溶液の例示的なUV−VISスペクトルであり、イン・サイチュで生成したTiOCl
2を用いて調製したNa
+/K
+Ti(カテコラート)
3を、チタンテトラキス(イソプロポキシド)用いて有機溶液中で作成したNa
+/K
+Ti(カテコラート)
3と比較して示している。両サンプルのスペクトルは、220〜350nmの領域においてわずかな違いが見られることを除けば、ほぼ一致した。この違いは、オキシ塩化チタンを用いた調製方法では少量のカテコール不純物が含まれることに起因すると考えられる。
【0129】
以上開示した実施形態を参照して本開示を説明したが、当業者であれば、これらの実施形態が本開示を例示するものに過ぎないことが容易に認められるであろう。本開示の精神から逸脱することなく種々の変更が可能であることを理解されたい。上記の説明には含まれないが本開示の精神及び範囲に相応する任意の数の変形、改変、置き換え、又は同等の構成を本開示に組み込むことができる。さらに、本開示の種々の実施形態について説明したが、本開示の態様は記載した実施形態の一部のみを含み得ることが理解されよう。従って、本開示は上述の記載によって限定されると見なされるべきではない。
なお、本願の出願当初の特許請求の範囲は以下の通りである。
[請求項1]
水溶液中で1つ以上のカテコラート配位子をオキシ塩化チタンと混合することと、
前記1つ以上のカテコラート配位子を前記水溶液中でオキシ塩化チタンと反応させてチタンカテコラート錯体を生成することと
を含む方法。
[請求項2]
四塩化チタンが水と反応する条件で、四塩化チタンを水と混合してオキシ塩化チタンを生成することと
オキシ塩化チタンを任意に希釈して水溶液を生成することと
をさらに含む請求項1に記載の方法。
[請求項3]
約0℃未満の温度で四塩化チタンを水と反応させる、請求項2に記載の方法。
[請求項4]
四塩化チタンに氷の形で水を加え、四塩化チタンもまた固体の形態をとる、請求項3に記載の方法。
[請求項5]
四塩化チタンを、約−10℃〜約−40℃の範囲の温度で水と反応させる、請求項2に記載の方法。
[請求項6]
オキシ塩化チタンを生成した後の水溶液と前記1つ以上のカテコラート配位子を混合する、請求項2に記載の方法。
[請求項7]
前記四塩化チタンが水と反応する条件が、二酸化チタンが生成されることのない条件である、請求項2に記載の方法。
[請求項8]
前記水溶液が約2.5〜約7の範囲のpHを有する、請求項2に記載の方法。
[請求項9]
前記1つ以上のカテコラート配位子の少なくとも一部が置換カテコラート配位子である、請求項1に記載の方法。
[請求項10]
前記置換カテコラート配位子が、中性の形態又は塩の形態で以下の構造を有し、
【化2】
式中、nは1〜4の範囲の整数であり、1つ以上のZが芳香環の空いている位置で前記置換カテコラート配位子に結合し、2つ以上のZが存在する場合、各Zは同一であるか又は異なっており、
Zは、A1RA1、A2RA2、A3RA3及びCHOからなる群から選択されるヘテロ原子官能基であり、
A1は、−(CH2)a−又は−(CHOR)(CH2)a−であり、RA1は、−OR1又は−(OCH2CH2O)bR1であり、aは0〜約6の範囲の整数であるが、aが0でありかつRA1が−OR1である場合にR1はHでないという条件があり、bは1〜約10の範囲の整数であり、
Rは、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、又はC1−C6カルボキシアルキルであり、
R1は、H、メチル、エチル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、又はC1−C6カルボキシアルキルであり、
A2は、−(CH2)c−又は−CH(OR2)(CH2)d−であり、RA2は、−NR3R4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR5であり、Xは、−O−又は−NR6−であり、cは0〜約6の範囲の整数であり、dは0〜約4の範囲の整数であり、
R2、R3、R4及びR6は、H、C1−C6アルキル、又はヘテロ原子置換C1−C6アルキルからなる群から独立に選択され、
R5は、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH2CH2O)bR1であり、
A3は、−O−又は−NR2−であり、RA3は、−(CHR7)eOR1、−(CHR7)eNR3R4、−(CHR7)eC(=O)XR5、又は−C(=O)(CHR7)fR8であり、eは1〜約6の範囲の整数であるが、A3が−O−である場合にeは1でないという条件があり、fは0〜約6の範囲の整数であり、
R7はH又はOHであり、
R8は、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH2CH2O)bR1である、請求項9に記載の方法。
[請求項11]
前記チタンカテコラート錯体が以下の化学式を有し、
D2Ti(L1)(L2)(L3)
式中、Dは、H、NH4+、NR4+、Li+、Na+、K+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L1、L2及びL3は配位子であり、L1、L2及びL3のうち少なくとも1つは置換カテコラート配位子である、請求項9に記載の方法。
[請求項12]
L1、L2及びL3のいずれもがカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、請求項11に記載の方法。
[請求項13]
前記水溶液が約2.5〜約7の範囲のpHを有する、請求項1に記載の方法。
[請求項14]
前記チタンカテコラート錯体を前記水溶液から固体として単離する、請求項13に記載の方法。
[請求項15]
前記チタンカテコラート錯体が以下の化学式を有し、
H2Ti(L1)(L2)(L3)
式中、L1、L2及びL3は配位子であり、L1、L2及びL3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、請求項1に記載の方法。
[請求項16]
L1、L2及びL3のいずれもがカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、請求項15に記載の方法。
[請求項17]
前記チタンカテコラート錯体を前記水溶液から固体として単離する、請求項15に記載の方法。
[請求項18]
前記チタンカテコラート錯体を塩基水溶液と反応させて以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体の塩の形態を生成することをさらに含み、
D2Ti(L1)(L2)(L3)
式中、Dは、NH4+、Li+、Na+、K+、又はこれらの任意選択的な組み合わせである、請求項15に記載の方法。
[請求項19]
前記チタンカテコラート錯体を塩基水溶液と反応させて以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体の塩の形態を生成することをさらに含み、
D2Ti(L1)(L2)(L3)
式中、Dは、NH4+、Li+、Na+、K+、又はこれらの任意選択的な組み合わせであり、L1、L2及びL3は配位子であり、L1、L2及びL3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、請求項1に記載の方法。
[請求項20]
以下の化学式を有するチタンカテコラート錯体を含む組成物であって、
HgTi(L1)(L2)(L3)
式中、gは1又は2であり、L1、L2及びL3は配位子であり、L1、L2及びL3のうち少なくとも1つはカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、組成物。
[請求項21]
前記チタンカテコラート錯体が存在する水溶液をさらに含む、請求項20に記載の組成物。
[請求項22]
前記水溶液がアルカリ性のpHを持つ、請求項21に記載の組成物。
[請求項23]
緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤、又はこれらの任意選択的な組み合わせをさらに含む、請求項21に記載の組成物。
[請求項24]
L1、L2及びL3のいずれもがカテコラート配位子又は置換カテコラート配位子である、請求項20に記載の組成物。
[請求項25]
前記置換カテコラート配位子が、中性の形態又は塩の形態で以下の構造を有し、
【化3】
式中、nは1〜4の範囲の整数であり、1つ以上のZが芳香環の空いている位置で前記置換カテコラート配位子に結合し、2つ以上のZが存在する場合、各Zは同一であるか又は異なっており、
Zは、A1RA1、A2RA2、A3RA3及びCHOからなる群から選択されるヘテロ原子官能基であり、
A1は、−(CH2)a−又は−(CHOR)(CH2)a−であり、RA1は、−OR1又は−(OCH2CH2O)bR1であり、aは0〜約6の範囲の整数であるが、aが0でありかつRA1が−OR1である場合にR1はHでないという条件があり、bは1〜約10の範囲の整数であり、
Rは、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、又はC1−C6カルボキシアルキルであり、
R1は、H、メチル、エチル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、又はC1−C6カルボキシアルキルであり、
A2は、−(CH2)c−又は−CH(OR2)(CH2)d−であり、RA2は、−NR3R4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR5であり、Xは、−O−又は−NR6−であり、cは0〜約6の範囲の整数であり、dは0〜約4の範囲の整数であり、
R2、R3、R4及びR6は、H、C1−C6アルキル、又はヘテロ原子置換C1−C6アルキルからなる群から独立に選択され、
R5は、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH2CH2O)bR1であり、
A3は、−O−又は−NR2−であり、RA3は、−(CHR7)eOR1、−(CHR7)eNR3R4、−(CHR7)eC(=O)XR5、又は−C(=O)(CHR7)fR8であり、eは1〜約6の範囲の整数であるが、A3が−O−である場合にeは1でないという条件があり、fは0〜約6の範囲の整数であり、
R7はH又はOHであり、
R8は、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH2CH2O)bR1である、請求項24に記載の組成物。
[請求項26]
前記チタンカテコラート錯体が単離された固体を含む、請求項20に記載の組成物。
[請求項27]
請求項22に記載の組成物を含む電解液を含むフロー電池。