(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブロック共重合体は、前記第1相を構成する前記ブロック共重合体の1つまたは複数のブロックの体積分率が0.35以上0.65未満の範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表示体。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る表示体の要部を切断した端面の拡大図である。
【0024】
図1に示すように、表示体1は、任意選択的に設けてもよい基材4と、基材4上の高分子膜5とを含む。高分子膜5は、異なる種類の第1相2および第2相3が、膜厚方向交互に積層した構造を有する。また、第1相2または第2相3の少なくとも一方には、金属酸化物が導入されている。
【0025】
まず、基材4について説明する。基材4の材料は、表示体1の使用目的にあわせて適宜選択することができる。基材4の材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート共重合体(PETG)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ガラス、およびシリコンなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。さらに、インジウム−スズ酸化物(ITO)やケイ素酸化物(SiOx)による表面修飾を施してもよい。基材4は、透明なもの、不透明なもの、反射性を有するもののいずれであってもよい。また、基材4は、表示体1の使用目的に合わせて、黒色、白色などの任意の色を有することができる。さらに、基材4は、光沢を有してもよいし、光沢を有していなくてもよい。なお、高分子膜5が自立性である場合には、基材4を省略することができる。
【0026】
次に、第1相2、第2相3および高分子膜5について説明する。第1相2および第2相3からなる高分子膜5の多層構造は、好適には、ブロック共重合体を用いて形成することができる。なお、ブロック共重合体とは、互いに相溶性の低い2つ以上の異なるポリマーブロックがそれらの末端で結合している高分子である。ここで、本発明における「互いに相溶性が低い」とは、χ×N>10.5の式を満たすことを意味する(例えば、非特許文献2参照)。ここで、χは、異種のポリマーブロック間で定められるフローリー・ハギンズの相互作用パラメータを表し、Nはブロック共重合体の重合度を表す。
【0027】
このようなブロック共重合体は、この共重合体を相転移温度以上に加熱するアニール処理により、周期的なミクロ相分離構造を自己組織的に形成する(自己組織化現象)。このミクロ相分離構造において、相溶性の低いポリマーブロックは、互いに交じり合わないようにミクロ領域を形成する。そのミクロ領域の寸法は、各ポリマーブロックのポリマー鎖長に依存する。また、どのようなミクロ相分離構造が形成されるかは、ブロック共重合体を形成する各ポリマーブロックの体積分率によって決定される。自己組織化現象によって形成されるミクロ相分離構造は、スフィア(球状)構造、シリンダ(柱状)構造、ジャイロイド構造、ラメラ(板状)構造などを含む。
【0028】
本実施形態においては、前述の自己組織化現象を用いて、2つの異なる有機相(ブロック共重合体の1つまたは複数のブロックから構成される第1相2、および、ブロック共重合体の第1相2を構成するブロックとは異なるブロックから構成される第2相3)が交互に積層した、ラメラ構造の高分子膜5を形成することができる。自己組織化現象を用いる方法以外に、異種の樹脂を同時にフィルム上に押出して積層膜を形成する、多層共押出法を用いて高分子膜5を形成することもできる。しかしながら、多層共押出法においては、一度に形成できる層の数が制限される。したがって、1回の塗布およびアニール処理のみで20以上の相が交互に積層された高分子膜5を形成することができる、自己組織化現象を用いる方法が好ましい。
【0029】
ブロック共重合体には、各ポリマーブロックがそれらの末端において直列に結合した線状ブロック共重合体、各ポリマーブロックが一点で結合したスター型ブロック共重合体などが含まれる。本実施形態においては、いずれのブロック共重合体も使用することができる。本発明においては、2つの異種のポリマーブロックが、それらの末端において結合したジブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態で用いることができるジブロック共重合体の例としては、ポリ(スチレン−b−ポリ乳酸)、ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−ジメチルシロキサン)、ポリ(スチレン−b−N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(ブタジエン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(スチレン−b−フェロセニルジメチルシラン)、ポリ(ブタジエン−b−メチルメタクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−t−ブチルメタクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−t−ブチルアクリレート)、ポリ(ブタジエン−b−ジメチルシロキサン)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−メチルメタクリレート)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(エチレン−b−4−ビニルピリジン)、ポリ(イソプレン−b−2−ビニルピリジン)、ポリ(メチルメタクリレート−b−スチレン)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−スチレン)、ポリ(メチルアクリレート−b−スチレン)、ポリ(ブタジエン−b−スチレン)、ポリ(イソプレン−b−スチレン)、ポリ(ブタジエン−b−アクリル酸ナトリウム)、ポリ(ブタジエン−b−エチレンオキシド)、ポリ(t−ブチルメタクリレート−b−エチレンオキシド)、ポリ(スチレン−b−ポリアクリル酸)、およびポリ(スチレン−b−メタクリル酸)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ブロック共重合体がラメラ構造を有するために、第1相2を構成するブロック共重合体の1つまたは複数のブロックの体積分率と、第2相3を構成するブロック共重合体の1つまたは複数のブロック(第1相2を構成するブロックとは異なるブロック)の体積分率とが、0.35以上0.65未満の範囲内とすることが望ましい。ポリマーブロックの体積分率が0.35未満である場合または0.65以上である場合、スフィア構造またはシリンダ構造が得られ、ラメラ構造を得ることが困難となる。
【0032】
図1に示す例では、高分子膜5はラメラ構造を有している。ジブロック共重合体を用いる場合、ラメラ構造の繰り返しのパターンサイズ(周期的なパターンのサイズ)は、ジブロック共重合体の分子量に依存する。したがって、ジブロック共重合体の分子量を適宜に選択することにより、周期的なパターンのサイズ、すなわち周期的な相分離構造のサイズを、目標とするサイズに調整することができる。
【0033】
異なる種類の材料からなる第1相2および第2相3が交互に積層された高分子膜5は、スネルの法則およびブラックの法則より導かれる下記の式(1)によって決定される特定の波長λ
1の光を反射する特性を有する。
λ
1=2d(n
12−cos2θ)
1/2 ……(1)
(式中、n
1は第1相2と第2相3との屈折率の比(以下、「相対屈折率」と称する)を表し、dは第1相2または第2相3の厚さを表し、θは反射光の出射角を表す。)
【0034】
本実施形態では、相対屈折率n
1は、第1相2および第2相3を構成する材料の絶対屈折率、ならびに、第1相2および第2相3を構成する材料の重量比などによって決定される。特に、本実施形態では、高分子膜5の各相に金属酸化物を導入することから、20〜100nmのラメラパターン周期を実現できる分子量を有する有機ポリマー(ブロック共重合体)を使用することがより望ましい。ラメラパターン周期が20nm未満である場合、高分子膜5の各相に金属酸化物を導入することが困難となる。また、ラメラパターン周期が100nmを超える場合、ラメラ構造を形成する自己組織化現象の進行が遅くなり、好ましくない。
【0035】
20nm以上のラメラパターン周期を得るためには、ブロック共重合体が、60000以上の重量平均分子量を有する必要がある。重量平均分子量が60000未満のブロック共重合体を用いた場合、ラメラパターン周期が20nm以下となり、反射光の波長λ
1は紫外領域となる。
【0036】
また、高分子膜5からの反射光が可視光である場合、目視で観察可能な強度を有するために、高分子膜5が10層以上の第1相2および10層以上の第2相3を有するように、高分子膜5の膜厚を設定することが望ましい。特に、反射光が鮮明に観察されること、および、自己組織化が進行し易いことの観点から、第1相2および第2相3の層数の合計は、20から50の範囲内であることが好ましい。この層数を実現するために、高分子膜5の膜厚は、400nm〜5000nmの範囲内であることが好ましい。第1相2および第2相3の層数の合計が20未満(すなわち、高分子膜5の膜厚が400nm未満)である場合、反射光の強度が小さくなり、目視で観察することが困難となる。
【0037】
前述のように、ブロック共重合体の自己組織化は、相転移温度以上でアニール(加熱)されることで誘起される。しかしながら、ブロック共重合体の分子量が大きくなるに従って、ブロック共重合体の流動性が低下する。そのため、相分離挙動は鈍くなり、ミクロ相分離構造が形成されにくくなる。そのため、大きな分子量を有するブロック共重合体の自己組織化には、非常に長時間のアニール処理が必要となる。ここで、自己組織化現象を促進させるために、ブロック共重合体に親和性のある溶媒蒸気下でアニール処理を行うとよい。溶媒蒸気の存在により、ブロック共重合体の流動性が向上し、自己組織化が促進されることが知られており、アニール時間の短縮および加熱温度の低減が可能となる。
【0038】
溶媒蒸気下のアニール処理で使用する溶媒は、ブロック共重合体に親和性のある溶媒であれば特に限定されない。溶媒蒸気下のアニール処理で用いることができる溶媒の例としては、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート(PGMEA)などが挙げられる。
【0039】
また、溶媒蒸気下のアニール処理は、好適には、使用する溶媒の沸点未満の温度で実施される。使用する溶媒の沸点以上の温度で処理を行った場合、高分子膜5周辺で溶媒が揮発し、溶媒蒸気が十分に高分子膜5内に浸透せず、有機ポリマーの流動性を向上させることができない。
【0040】
次に、高分子膜5の第1相2および第2相3の少なくとも一方に導入する、金属酸化物について説明する。
【0041】
本実施形態で用いることのできる金属酸化物を構成する金属の例としては、Li、B、Na、Mg、Al、Si、P、Ca、Ti、V、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Sn、Sb、Ba、La、Ce、Nd、Ta、W、Pbが挙げられるが、これらに限られるものではない。また、これらの金属種を単独で用いる必要は無く、二つ以上の成分を含有する金属種を用いることも可能である。
【0042】
上記金属酸化物は、金属酸化物の微粒子として高分子膜5に導入しても良いが、金属化合物を出発原料として高分子膜5に導入し、その後、高分子膜5中で金属化合物を重合させても良い。
【0043】
金属酸化物の微粒子として高分子膜5に導入する方法としては、高分子膜5が溶解せず、高分子膜5の第1相2あるいは第2相3の少なくとも一方が膨潤する溶媒に上記金属酸化物の微粒子を添加し、その溶液に高分子膜5を浸漬させることで膜中に浸透させ、その後、高分子膜5を取り出して乾燥させることで導入することができる。金属酸化物の微粒子の寸法は、100nm以下であることが望ましい。金属酸化物の微粒子の寸法が、100nmを超える場合、高分子膜5への導入が困難となる。
【0044】
金属化合物として高分子膜5に導入し、その後、高分子膜5中で金属化合物を重合させるには、高分子膜5が溶解せず、高分子膜5の第1相2あるいは第2相3の少なくとも一方が膨潤する溶媒に金属化合物と水、触媒となる酸もしくは塩基を添加し、重合反応を進行させればよい。
【0045】
出発原料として用いることのできる上記金属化合物の例としては、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレート、金属硝酸塩、金属塩化物、金属オキシ塩化物が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、これらの金属化合物を単独で用いる必要は無く、二つ以上の成分を含有する金属化合物を用いることも可能である。
【0046】
高分子膜5の反射波長は、物質(金属酸化物)導入時の膜厚変化と導入された物質(金属酸化物)の屈折率により異なるが、スネルの法則およびブラックの法則より導かれる上記の式(1)によって求められる膜厚により定めることができ、可視光領域での反射光を誘起することができる。
【0047】
本実施形態に係る表示体の反射光が可視光になる場合は、物性の異なる第1相2と第2相3の2種類の高分子相が交互に積層された高分子膜積層体構成の表示体であって、第1相2と第2相3の屈折率の差が、0.05以上であることが好ましい。第1相2と第2相3との屈折率の差が、0.05未満である場合、反射光の波長が紫外領域となる。
【0048】
次に、高分子膜5に金属酸化物を導入した際に発現する構造発色のパターニングについて説明する。
【0049】
図2は、高分子膜5の一部を部分的に架橋させた表示体1の要部を切断した端面の拡大図である。
図3は、一部が部分的に架橋された高分子膜5が金属酸化物の導入により膨潤した前後の状態を示す要部を切断した端面の拡大図である。
図2に示す例では、架橋領域6において高分子膜5の部分的架橋が行われている。また、架橋領域6において、高分子膜5の第1相2および第2相3の少なくとも一方、あるいは両方が、部分的に架橋されていてもよい。本実施形態においては、高分子膜5に金属酸化物を導入することにより上記の式(1)中の層厚dおよび相対屈折率n
1を変化させて、構造発色を発現させる現象を利用している。したがって、
図3に示すように、架橋領域6における第1相2および/または第2相3の金属酸化物による膨潤を抑制すると、層厚dの変化が抑制され、構造発色の発現を抑制することができる。言い換えると、架橋領域6をパターニングすることによって、可視光領域の構造発色を発現する領域と、構造発色が抑制される領域とを画定することができる。この効果は、目視観察における構造発色の色コントラストを向上させる点において有効である。
【0050】
高分子膜5中のブロック共重合体は、熱または光によって架橋させることができる。たとえば、ピリジン環またはピロリジン環を含むポリマーブロックを含むブロック共重合体は、光照射により、ピリジン環またはピロリジン環のα位の炭素において架橋することが知られている(例えば、非特許文献3参照)。また、ブタジエンから誘導されるポリマーブロックを含むブロック共重合体は、熱重合開始剤または光重合開始剤を混合することにより、熱架橋性または光架橋性を付与することができる。また、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基などの反応性置換基を有するポリマーブロックを含むブロック共重合体に対して、反応性置換基に適合する架橋剤、任意選択的に光酸発生剤または光塩基発生剤などを混合することにより、光架橋性を付与することができる。簡便なプロセスを用い、短時間で誘起ポリマーの架橋パターニングが可能である点において、紫外線照射などによる光架橋が特に好ましい。より具体的には、紫外線照射などによる光架橋は、画像状にパターニングした紫外線遮蔽フォトマスクを通した照射により、高分子膜5の微細なパターニングを一括して実施することを可能にする。
【0051】
本実施形態において、高分子膜5の第1相2および第2相3の少なくとも一方のみを架橋させてもよいし、両方を架橋させてもよい。少なくとも、金属酸化物の導入による膨潤現象を示す相を架橋させればよい。また、光照射による架橋の場合、光照射は、高分子膜5の表面に対して垂直方向から行ってもよいし、斜め方向から行ってもよい。垂直方向から光照射を行った場合、照射区域(すなわち、架橋領域6)と非照射区域との境界が明確となり、高いコントラスト(はっきりとした輪郭)を有するイメージが得られる。一方、斜め方向から光照射を行った場合、照射区域と非照射区域との境界において、高分子膜5の深さ方向で架橋率のグラデーションが発生する。その結果として、金属酸化物を導入した後のイメージは、ソフトな輪郭を有するイメージとなる。
【0052】
次に、高分子膜5における構造発色の波長λ
1の2つの制御方法について説明する。
【0053】
構造発色の波長λ
1を制御する第1の方法は、高分子膜5中の有機ポリマーの架橋率を制御することにより、発色の波長を制御することである。ポリマーの架橋率が増大するほど、高分子膜5が膨潤する際の膨潤率は低下する。そして、膨潤率の低下は、高分子膜の寸法変化(広がりおよび伸び)の抑制をもたらす。膨潤率の低下によって、層厚dの変化が小さくなり、金属酸化物の導入による膨潤時の層厚dが小さくなる。前述のように、構造発色の波長λ
1は、上記の式(1)における層厚dの減少に比例して、減少する。言い換えると、膨潤時の層厚dが小さくなると、構造発色は短波長シフトする。以上のことから、ポリマーの架橋率を制御することによって、構造発色の色を選択することが可能となる。
【0054】
紫外線による光架橋を用いる場合、高分子膜5中の有機ポリマーの架橋率は、光照射量によって制御することができる。本実施形態において、構造発色を可視光領域に発現させるには、紫外線照射量を典型的には5mJ/cm
2以上500mJ/cm
2以下の範囲で選択することが望ましい。照射する紫外線の波長領域は、200nmから500nmの範囲内で選択される。また、使用する光源としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、およびLEDランプが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
光架橋を行う際に架橋率を制御するための別法として、グレースケールマスクを用いた光照射を用いることができる。グレースケールマスクは、光遮蔽パターンを網点状に形成し、その網点の密度によってサンプルに入射される光量を制御するマスクである。グレースケールマスクを用いた一度の光照射プロセスで、表示体1の同一面内に波長の異なる構造発色パターン(いわゆる、カラー画像)を得ることができる。その結果、表示体1の意匠性は著しく向上する。
【0056】
また、構造発色の波長λ
1を制御する第2の方法は、高分子膜5に液体を湿潤させることで、発色の波長を制御することである。
図4は、一部が部分的に架橋され、かつ、金属酸化物の導入により膨潤した高分子膜5が、液体の湿潤によりさらに膨潤した前後の状態を示す要部を切断した端面の拡大図である。高分子膜5に液体を湿潤させると、高分子膜5と液体との親和性によって、第1相2および第2相3の少なくとも一方に液体が浸入してそれらを膨潤させ、層厚dが変化する。さらに、液体は固有の屈折率を有するため、相対屈折率n
1が変化する。層厚dおよび相対屈折率n
1の両方が変化することから、上記の式(1)によって求められる反射光の波長λ
1も変化する。したがって、
図4に示すように、湿潤に用いる液体の種類と量を適切に選択することで、層厚dおよび相対屈折率n
1を制御することにより、構造発色の波長λ
1を制御することができる。
【0057】
湿潤させる液体は、高分子膜5を形成する有機ポリマーに親和性を有する限り、任意に選択することができる。用いることができる液体の例としては、水、アルコール類、および有機溶媒が挙げられる。ただし、高分子膜5のミクロ相分離構造が崩壊すると構造発色は喪失されるため、高分子膜5を構成する有機ポリマーを溶解させる有機溶媒は使用できない。
【0058】
なお、湿潤に用いた液体が蒸発すると、層厚dと相対屈折率n
1が液体湿潤前の状態に戻るため、反射光の波長λ
1も液体湿潤前の波長を回復する。
【0059】
また、本実施形態において、基材4は、高分子膜5との界面あるいはその反対面(基材裏面)側に、光沢のある反射層、あるいは黒色層を有してもよい。これらの層を設けることによって、構造発色の目視観察時の視認性を向上させ、表示体1の意匠性を高めることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これにより本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0061】
(実施例1)
スピンコート法を用いて、ITO犠牲層を有するガラス基板の上に、ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)(PS−b−P2VP)の7%PGMEA溶液を塗布し、膜厚800nmの高分子膜を形成した。使用したPS−b−P2VPは、107000の重量平均分子量および1.05の多分散度を有した。また、PS−b−P2VP中のポリスチレン(PS)ブロックの体積分率は0.52であった。また、スピンコート時の回転数は、400rpmであった。
【0062】
次に、高分子膜を形成した転写版を、3mLのクロロホルムを入れたガラス瓶内に配置した。ガラス瓶を12時間にわたって50℃に加熱し、溶媒蒸気存在下でのアニーリング処理を行い、高分子膜を自己組織化させ、第1相と第2相が交互に20層ずつ重なった高分子膜積層体を形成した。
【0063】
次に、アニーリング後の転写版を0.1Mの塩酸水溶液に浸漬し、犠牲層を溶解させて、高分子膜を浮遊させた。最後に、浮遊した高分子膜を平坦面(犠牲層との接触面とは反対側の面)がPET基材と密着するようにすくい上げ、乾燥させて、表示体を得た。
【0064】
次に、アニーリング後の高分子膜をテトラエトキシシラン溶液に30分浸漬させ、高分子とシラン酸化物の混合層である第2相を形成した。
【0065】
テトラエトキシシラン溶液の組成は、テトラエトキシシランを5.3%重量、エタノールを90.1%重量、0.1Mの塩酸水溶液を4.6%重量とした。
【0066】
得られた表示体のサンプルを室温で2時間乾燥させると、ピーク波長を530nmとする緑色の反射光を確認することができた。
なお、反射波長530nmにおける各層の屈折率を、各厚みを元に推定した。
第1相(ポリスチレン) 屈折率1.59
第2相(ポリビニルピリジン+SiO
2) 屈折率1.47
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、自己組織化させた高分子膜がPET基材に密着した、表示体を作製した。
【0068】
次に、アニーリング後の高分子膜をテトラエトキシチタン溶液に30分浸漬させ、高分子とチタン酸化物の混合層である第2相を形成した。
【0069】
テトラエトキシチタン溶液の組成は、テトラエトキシチタンを5.6%重量、エタノールを89.9%重量、0.1Mの塩酸水溶液を4.5%重量とした。
【0070】
得られた表示体のサンプルを室温で2時間乾燥させると、ピーク波長を560nmとする緑色の反射光を確認することができた。
なお、反射波長560nmにおける各層の屈折率を、各厚みを元に推定した。
第1相(ポリスチレン) 屈折率1.59
第2相(ポリビニルピリジン+TiO
2) 屈折率2.26
【0071】
(実施例3)
実施例1と同様の手順で、自己組織化させた高分子膜がPET基材に密着した、表示体を作製した。
【0072】
次に、アニーリング後の高分子膜をテトラエトキシジルコニウム溶液に30分浸漬させ、高分子とジルコニウム酸化物の混合層である第2相を形成した。
【0073】
テトラエトキシジルコニウム溶液の組成は、テトラエトキシジルコニウムを7.2%重量、エタノールを88.4%重量、0.1Mの塩酸水溶液を4.4%重量とした。
【0074】
得られた表示体のサンプルを室温で2時間乾燥させると、ピーク波長を680nmとする赤色の反射光を確認することができた。
なお、反射波長680nmにおける各層の屈折率を、各厚みを元に推定した。
第1相(ポリスチレン) 屈折率1.59
第2相(ポリビニルピリジン+ZrO
2) 屈折率2.03
【0075】
(実施例4)
実施例1と同様の手順で、自己組織化させた高分子膜がPET基材に密着した、表示体を作製した。
【0076】
次に、高分子膜の上に、Cr薄膜からなるパターニングされた紫外線遮蔽マスクを載置し、メタルハライドランプから、200mJ/cm
2の紫外線を照射し、高分子膜の一部を架橋させた。
【0077】
次に、紫外線照射後の高分子膜をテトラエトキシシラン溶液に30分浸漬させ、高分子とシラン酸化物の混合層である第2相を形成した。
【0078】
テトラエトキシシラン溶液の組成は、テトラエトキシシランを5.3%重量、エタノールを90.1%重量、0.1Mの塩酸水溶液を4.6%重量とした。
【0079】
得られた表示体のサンプルを室温で2時間乾燥させると、紫外線が遮蔽された領域では、ピーク波長を530nmとする緑色の反射光を確認することができた。また、紫外線が照射された領域では、ピーク波長を400nmとする青色の反射光を確認することができ、紫外線が遮蔽された領域と紫外線が照射された領域とで異なる波長の発色が観察された。
【0080】
次に、表示体を純水に浸漬させたところ、高分子膜の膨潤による反射波長のシフトがみられた。具体的には、紫外線が遮蔽された領域では、ピーク波長を700nmとする赤色の反射光を確認することができた。また、紫外線が照射された領域では、ピーク波長を550nmとする緑色の反射光を確認することができ、紫外線が遮蔽された領域と紫外線が照射された領域とで異なる波長の発色が観察された。
なお、反射波長400nmにおける各層の屈折率を、各厚みを元に推定した。
第1相(ポリスチレン) 屈折率1.59
第2相(ポリビニルピリジン+SiO
2) 屈折率1.48
なお、反射波長530nmにおける各層の屈折率は、実施例1と同様だった。
【0081】
(比較例1)
実施例1と同様の手順で、自己組織化させた高分子膜がPET基材に密着した、表示体を作製した。
【0082】
次に、アニーリング後の高分子膜をエタノール溶液に30分浸漬させた。
【0083】
エタノール溶液の組成は、エタノールを95.2%重量、0.1Mの塩酸水溶液を4.8%重量とした。
【0084】
得られた表示体のサンプルを室温で2時間乾燥させると、可視光領域の反射光に目立ったピーク波長は確認できず、無色透明であった。
【0085】
以上のように、実施例1〜実施例4の表示体は、可視光領域の反射光を発した一方、比較例1の表示体は可視光領域に反射光を有さなかった。つまり、自己組織化により、第1相、第2相を形成し、第1相、第2相の少なくとも一方の相に、金属酸化物を導入することにより、可視光領域に反射光を有する表示体を提供することができることがわかった。