(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記増し打ち壁は、前記上階のスラブを取り外した状態における前記地下外壁に加わる曲げモーメントと前記地下外壁の構造とを用いて特定される壁厚を有することを特徴とする請求項1に記載の地下構造体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地上から地下に至るスロープ床を設ける場合、地下外壁の上階のスラブを取り外す。この場合、上階のスラブを取り外した地下外壁は、片持ち梁構造となる。このため、土水圧が加わる地下外壁における曲げモーメントにより、地下外壁をそのまま用いることは難しかった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされ、その目的は、昇降床が設置された地下外壁において、必要な曲げ耐力を確保することができる地下構造体及び地下構造体の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
・上記課題を解決する地下構造体は、既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側に設けた増し打ち壁と、前記増し打ち壁に、端部を定着させた昇降床とを備える。昇降床を設ける際に、既存建物の地下外壁の上階のスラブを取り外すと、地下外壁が片持ち壁になり、曲げモーメント分布が変化する。この場合においても、既存建物の地下外壁の内側に設けた増し打ち壁によって、必要な曲げ耐力を確保することができる。また、昇降床の配筋を増し打ち壁に定着させるので、昇降床の定着のために、既存建物の地下外壁に穴あけ等を行なう必要がなく、既存建物における漏水や埋設された鉄筋の切断等のリスクを回避することができる。
【0008】
・上記地下構造体において、前記増し打ち壁が、前記昇降床の下側に設けられていることが好ましい。これにより、曲げ耐力が不足する昇降床の下側を補強することができる。
・上記地下構造体において、前記増し打ち壁は、前記上階のスラブを取り外した状態における前記地下外壁に加わる曲げモーメントと前記地下外壁の構造とを用いて特定される壁厚を有することが好ましい。これにより、上階のスラブを取り外した状態における曲げモーメントに耐え得る壁厚を有する増し打ち壁を設けることができる。
【0009】
・上記地下構造体において、前記増し打ち壁は、前記昇降床の端部を定着させるために必要な厚さの壁厚を有することが好ましい。これにより、増し打ち壁に昇降床を、より確実に定着させることができる。
【0010】
・上記課題を解決する地下構造体の構築方法は、既存建物の地下外壁において、上階のスラブを取り外した場合に前記地下外壁における曲げモーメントと、前記地下外壁の構造とを用いて、増し打ち壁の壁厚を特定し、特定した壁厚を有する前記増し打ち壁のコンクリート打設と、前記増し打ち壁に定着させる昇降床のコンクリート打設とを行なう。これにより、既存建物の地下外壁の上階のスラブを取り外すことにより曲げモーメントが変化しても、必要な曲げ耐力を確保することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、昇降床が設置された地下外壁において、必要な曲げ耐力を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、
図1〜
図5を用いて、地下構造体及び地下構造体の構築方法の第1の実施形態を説明する。本実施形態においては、地上1階から地下に降りるスロープ床(昇降床)を備える地下構造体を説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の地下構造体10は、既存の地下外壁11と、この地下外壁11の内側(図示しない新築建物側)に配置された増し打ち壁20と、スロープ床30とを備えている。既存の地下外壁11は、鉄筋を埋設したコンクリートによって構成されている。
図2に示すように、スロープ床30は、地下構造体10に対して傾斜した平板形状の床である。本実施形態では、スロープ床30は、一階から地下に至る傾斜を有している。
【0015】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、地下外壁11に接したスロープ床30の下側には、増し打ち壁20が配置されている。増し打ち壁20は、鉄筋21を埋設したコンクリート25から構成されている。鉄筋21は、地下外壁11の内側の側部に埋設されており、打設されたコンクリートの乾燥収縮ひび割れ等を回避するための鉄筋である。増し打ち壁20は、後述する処理により特定される壁厚で構成されている。
更に、増し打ち壁20の上端部には、スロープ床30の一端部が一体化されている。なお、スロープ床30の他端部(図示せず)は、新築建物の壁に固定されている。
【0016】
図1に示すように、スロープ床30は、格子状に配置された鉄筋31,32と、これら鉄筋31,32を埋設したコンクリート35とから構成されている。鉄筋31は、先端が折れ曲がって、この先端が増し打ち壁20に埋設されて固定されている。鉄筋32は、スロープ床30のコンクリート35の平面部において、鉄筋31に直交する方向に配置されている。
【0017】
次に、
図4を用いて、上述した地下構造体10の構築方法について説明する。
地下構造体10の施工前に、まず、増し打ち壁20の壁厚を決定する。本実施形態では、設計装置を用いて、増し打ち壁の壁厚の決定処理を実行することにより決定する。
【0018】
この設計装置は、制御部、記憶部、キーボード等の入力部、ディスプレイ等の出力部を備えるコンピュータ端末である。この記憶部には、スロープ床30を定着させるために必要な所定壁厚(定着壁厚)が予め記憶されている。この定着壁厚は、鉄筋31のかぶり厚から、鉄筋31の先端を増し打ち壁20に定着させるために特定される壁厚(例えば約300mm)である。
【0019】
図4(a)を用いて、増し打ち壁の壁厚の決定処理を説明する。
設計装置は、まず、既存建物における地下外壁の構造情報の取得処理を実行する(ステップS1−1)。具体的には、設計装置の制御部は、地下外壁11の構造情報として、地下外壁11の断面寸法、スロープ床の上下位置(深さ)、埋設している鉄筋の径及び埋設位置等に関する情報を、入力部を用いて取得する。
【0020】
次に、設計装置は、既存建物の地下外壁11において上階スラブを取り外した場合の最大曲げモーメントの算出処理を実行する(ステップS1−2)。
図5(a)に示すように、地下外壁11には、深くなるに従って土水圧は大きくなる。
【0021】
そこで、
図5(b)に示すように、既存の地下外壁11に上階スラブ11aを取り外した場合の曲げモーメント分布M1を算出する。なお、この曲げモーメント分布M1は、地下外壁11の上階スラブ11aが存在したときの曲げモーメント分布M0よりも大きくなる。
【0022】
次に、設計装置は、増し打ち壁の壁厚の算出処理を実行する(ステップS1−3)。具体的には、設計装置の制御部は、ステップS1−2において算出した曲げモーメント分布M1の最大値を特定する。次に、ステップS1−1において取得した既存建物の地下外壁11の寸法や強度に関する情報等の構造情報を用いて、曲げモーメント分布M1の最大値が加わっても耐え得る耐力となる必要壁厚を算出する。そして、この必要壁厚から、既存建物の地下外壁11の壁厚を減算することにより、増し打ち壁20の追加壁厚を算出する。次に、設計装置の制御部は、追加壁厚と、記憶部に記憶された定着壁厚とを比較し、厚い方を、増し打ち壁20の壁厚(増し打ち壁厚)として決定する。
【0023】
次に、
図4(b)に示すように、地下構造体10の施工処理について説明する。
まず、既存建物の地下外壁の表面に目荒らし処理を行なう(ステップS2−1)。具体的には、公知のショットブラスト工法やウォータージェット工法を用いて、既存建物の地下外壁11の内側の表面に目荒らしを行なう。
【0024】
次に、増し打ち壁及びスロープ床の配筋を行なう(ステップS2−2)。具体的には、既存建物内に、地下外壁11に対して増し打ち壁20が設置される位置に鉄筋21を配置する。更に、スロープ床30に埋設される鉄筋31,32を配置する。
【0025】
次に、型枠を設置する(ステップS2−3)。具体的には、鉄筋21を内蔵し、決定した増し打ち壁厚となるように、増し打ち壁20用の型枠を配置する。更に、鉄筋31,32を内蔵するスロープ床を形成するように、スロープ床用の型枠を配置する。
そして、コンクリートを打設する(ステップS2−4)。具体的には、型枠の内部にコンクリートを打設する。その後、型枠を外して、地下構造体10が完成する。
【0026】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態において、地下構造体10は、既存建物の地下外壁11の内側に増し打ち壁20と、この増し打ち壁20に一端部を定着させたスロープ床30とを有している。スロープ床30を設ける際に、地下外壁11の上階のスラブを取り外した状態では、地下外壁11が片持ちになり、曲げモーメント分布が変化する。この場合においても、地下外壁11の内側に設けた増し打ち壁20によって、必要な曲げ耐力を確保することができる。また、スロープ床30の鉄筋31の一端部を増し打ち壁20に定着させるので、スロープ床30の定着のために、既存建物の地下外壁11に穴あけ等を行なう必要がなく、既存建物における漏水や埋設された鉄筋の切断等のリスクを回避することができる。
【0027】
(2)本実施形態において、増し打ち壁20は、スロープ床30の下側に設けられている。これにより、曲げ耐力が不足するスロープ床30の下側を補強することができる。
(3)本実施形態において、応力に基づく増し打ち壁20の壁厚と、定着壁厚とのうち大きい壁厚を、増し打ち壁20の壁厚として特定する。これにより、上階のスラブを取り外した状態における曲げモーメントに耐え得る壁厚を確保することができ、また、スロープ床30を、より確実に増し打ち壁20に定着させることができる。
【0028】
(4)本実施形態において、増し打ち壁20は、同じ壁厚で構成されている。これにより、増し打ち壁20の型枠を簡単にすることができるので、増し打ち壁20を効率よく設置することができる。
【0029】
(5)本実施形態において、地下構造体の施工処理において、地下外壁の表面に目荒らし処理を実行した(ステップS2−1)後、増し打ち壁20のコンクリート打設を行なう。このため、地下外壁11と増し打ち壁20とを、より強固に一体化することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、
図6及び
図7を用いて、地下構造体及び地下構造体の構築方法の第2の実施形態を説明する。上記第1の実施形態では、増し打ち壁20の厚みを一定としたが、本実施形態では、場所によって厚みが異なる増し打ち壁としている。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0031】
図6に示すように、本実施形態の地下構造体50は、既存建物の地下外壁11と、この地下外壁11の内側(図示しない新築建物側)に配置された増し打ち壁60と、スロープ床30とを備えている。
【0032】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、増し打ち壁60は、スロープ床30の下側及び所定高さより下側に配置されている。増し打ち壁60は、鉄筋61を埋設したコンクリート65から構成されている。鉄筋61は、地下構造体10とは反対側の側部に埋設されている。本実施形態のコンクリート65は、下部の壁厚が上部の壁厚より大きい段差を有した形状をしている。本実施形態では、曲げモーメント分布に基づいて算出した追加壁厚が、定着壁厚より大きくなる位置(所定高さ)より下方を、壁厚が大きい下部65bとして形成している。そして、増し打ち壁60のコンクリート65は、上部65aの壁厚が定着壁厚であって、下部65bの壁厚は最大曲げモーメントに基づいて算出された追加壁厚で構成されている。
【0033】
更に、増し打ち壁60の上端部には、スロープ床30の一端部が一体化されて、スロープ床30に埋設された鉄筋31の先端が、曲がって埋設されて固定されている。
【0034】
本実施形態によれば、上記(1)、(2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(6)本実施形態において、地下構造体10の増し打ち壁60は、上部65aの壁厚が定着壁厚であって、下部65bの壁厚は曲げモーメントに基づいて算出された壁厚で構成されている。これにより、上部65aの壁厚を薄くすることができる。
【0035】
また、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記第1実施形態において、増し打ち壁20は、一定の壁厚の平板形状を有する。上記第2実施形態において、増し打ち壁60は、段差を有した形状を有する。増し打ち壁の形状は、これに限定されるものではない。例えば、曲げモーメント分布に応じて徐々に壁厚を変化させたテーパー形状を有する増し打ち壁としてもよい。また、複数階に渡って昇降床を設ける場合等、上記実施形態の地下外壁11における曲げモーメント分布が変化する場合においても、同様に、曲げモーメントに応じて壁厚を大きくすればよい。
【0036】
・上記各実施形態において、地下構造体10は、スロープ床30を備える。既存建物において上階のスラブを取り外して設ける昇降床であれば、スロープ床に限定されるものではない。例えば、昇降床として階段を用いることも可能である。
【0037】
・上記各実施形態において、スロープ床30に埋設した鉄筋31の定着長により、スロープ床30を増し打ち壁20に固定する。スロープ床30を階段床の増し打ち壁に固定できればよく、定着は、定着長による方法に限定されない。例えば、鉄筋に定着材を用いてもよい。
【0038】
・上記各実施形態において、増し打ち壁20,60は、スロープ床30の下部に設ける。これに代えて、増し打ち壁20,60を、スロープ床30の上部にも設けて、地下外壁11の全面に設けてもよい。
【0039】
・上記各実施形態において、増し打ち壁20,60に、鉄筋21,61を埋設した。増し打ち壁20,60の構造は、これに限定されず、コンクリートのみで構成してもよいし、更に多くの鉄筋を埋設してもよい。
【0040】
・上記各実施形態においては、増し打ち壁20,60とスロープ床30との配筋を行なった後、型枠の設置を行ない、コンクリート打設を行なった。増し打ち壁とスロープ床との配筋、型枠の設置及びコンクリート打設は、別々に行なってもよい。
【0041】
・上記各実施形態において、増し打ち壁20,60を設ける場合に、目荒らしを行なった。既存建物の地下外壁と増し打ち壁とを一体化する方法は目荒らし処理に限定されない。例えば、既存建物の地下外壁の表面に接着剤を塗付(打継接着)により行ってもよい。