特許第6844191号(P6844191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844191
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20210308BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20210308BHJP
   B60C 9/06 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B60C15/06 L
   B60C15/06 C
   B60C15/06 B
   B60C15/00 B
   B60C9/06 E
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-205639(P2016-205639)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-65473(P2018-65473A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 裕太
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−177338(JP,A)
【文献】 特開2012−250620(JP,A)
【文献】 特開2002−254910(JP,A)
【文献】 特開2013−022981(JP,A)
【文献】 特開2006−137283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00− 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード、カーカス及び一対のゴム補強層を備えており、
上記カーカスが第一プライ及び第二プライを備えており、
それぞれのビードが、コアと、このコアから半径方向外向きに延びるエイペックスとを備えており、
それぞれのゴム補強層が上記コアの周りで折り返されており、
上記ゴム補強層が、上記ビードの軸方向内側において略半径方向に延びる第一部と、上記ビードの軸方向外側において略半径方向に延びる第二部とを備えており、
上記ゴム補強層の100%モジュラスMgの、上記エイペックスの100%モジュラスMaに対する比(Mg/Ma)が、0.7以上0.9以下である、レーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記ゴム補強層の100%モジュラスMgが、8.0MPa以上15.0MPa以下である請求項1に記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記ゴム補強層が、上記カーカスと上記ビードとの間に位置している請求項1又は2に記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記ゴム補強層の厚みが0.5mm以上2.0mm以下である請求項1から3のいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項5】
半径方向において、上記コアの内側端から上記第一部の外側端までの高さHiの、このタイヤの断面高さHに対する比(Hi/H)が、20%以上45%以下である請求項1から4のいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項6】
半径方向において、上記コアの内側端から上記第二部の外側端までの高さHoの、このタイヤの断面高さHに対する比(Ho/H)が、30%以上50%以下である請求項1から5のいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項7】
半径方向において、上記第一部の外側端と上記第二部の外側端との距離が、このタイヤの断面高さHの2%以上である、請求項5又は6に記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項8】
上記ゴム層が、上記第一プライと上記第二プライとの間に位置する、請求項5から7のいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項9】
半径方向において、上記コアの内側端から上記エイペックスの先端までの高さHaの、このタイヤの断面高さHに対する比(Ha/H)が、30%以上50%以下である請求項1からのいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【請求項10】
上記第一プライが、一方のビードの軸方向内側からもう一方のビードの軸方向内側まで延びる第一主部と、ビードの軸方向外側に位置する第一折返し部とを備えており、
上記第二プライが、一方のビードの軸方向内側からもう一方のビードの軸方向内側まで延びる第二主部と、ビードの軸方向外側に位置する第二折返し部とを備えており、
半径方向において、上記第一部の外側端と、上記第二部の外側端、上記第一折返し部の外側端、上記第二折返し部の外側端及び上記エイペックスの先端のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上であり、
半径方向において、上記第二部の外側端と、上記一折返し部の外側端、上記第二折返し部の外側端及び上記エイペックスの先端のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上である請求項1からのいずれかに記載のレーシングカート用の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、レーシングカートに用いられる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
カートレースでは、ラップタイムが競われる。カートレースでは、車両は頻繁に高速で旋回する。タイヤには、旋回中にコーナリングフォースやセルフアライメントトルクが発生する。タイヤの横剛性が十分でないと、タイヤの変形は大きくなる。これにより、十分なコーナリングフォースが得られないことがある。これは、旋回性能の低下を招来する。
【0003】
タイヤの横剛性の向上について、様々な検討がなされている。この検討の一例が、特開2010−996公報に開示されている。このタイヤでは、ビードの周辺に、有機繊維のコードを備える補強層が挿入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−996公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーシングカート用のタイヤでは、通常カーカスはバイアス構造を有する。有機繊維のコード(有機繊維コード)はヤング率が高い。有機繊維コードを備える補強層をビードの近辺に挿入したとき、シェーピング時にコードに十分なテンションがかからないことが起こりうる。このため、この補強層を挿入しても、タイヤの横剛性が十分に上がらない場合がある。また、有機繊維コードを備える補強層は、タイヤの質量や慣性モーメントを増加させうる。これは、車両の加速性能及び操縦安定性の低下の要因となりうる。さらに、有機繊維コードを備える補強層は、タイヤの縦剛性を大きくする。これにより、前輪タイヤのロール剛性が大きくなる。これは、操縦安定性を低下させる要因となりうる。
【0006】
本発明の目的は、横剛性と操縦安定性とが向上されたレーシングカート用の空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレーシングカート用の空気入りタイヤは、一対のビード、カーカス及び一対のゴム補強層を備えている。上記カーカスは、第一プライ及び第二プライを備えている。それぞれのビードは、コアと、このコアから半径方向外向きに延びるエイペックスとを備えている。それぞれのゴム補強層は、上記コアの周りで折り返されている。上記ゴム補強層は、上記ビードの軸方向内側において略半径方向に延びる第一部と、上記ビードの軸方向外側において略半径方向に延びる第二部とを備えている。
【0008】
好ましくは、上記ゴム補強層の100%モジュラスMgは、8.0MPa以上15.0MPa以下である。
【0009】
好ましくは、上記ゴム補強層は、上記カーカスと上記ビードとの間に位置している。
【0010】
好ましくは、上記ゴム補強層の厚みは、0.5mm以上2.0mm以下である。
【0011】
好ましくは、半径方向において、上記コアの内側端から上記第一部の外側端までの高さHiの、このタイヤの断面高さHに対する比(Hi/H)は、20%以上45%以下である。
【0012】
好ましくは、半径方向において、上記コアの内側端から上記第二部の外側端までの高さHoの、このタイヤの断面高さHに対する比(Ho/H)は、30%以上50%以下である。
【0013】
好ましくは、半径方向において、上記コアの内側端から上記エイペックスの先端までの高さHaの、このタイヤの断面高さHに対する比(Ha/H)は、30%以上50%以下である。
【0014】
好ましくは、上記第一プライは、一方のビードの軸方向内側からもう一方のビードの軸方向内側まで延びる第一主部と、ビードの軸方向外側に位置する第一折返し部とを備えている。上記第二プライは、一方のビードの軸方向内側からもう一方のビードの軸方向内側まで延びる第二主部と、ビードの軸方向外側に位置する第二折返し部とを備えている。半径方向において、上記第一部の外側端と、上記第二部の外側端、上記第一折返し部の外側端、上記第二折返し部の外側端及び上記エイペックスの先端のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上である。半径方向において、上記第二部の外側端と、上記一折返し部の外側端、上記第二折返し部の外側端及び上記エイペックスの先端のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るレーシングカート用の空気入りタイヤでは、ゴム補強層は、コアの周りで折り返されている。ゴム補強層は、ビードの軸方向内側において略半径方向に延びる第一部と、ビードの軸方向外側において略半径方向に延びる第二部とを備えている。この構造により、このゴム補強層は、タイヤの横剛性に効果的に寄与する。このタイヤでは、横剛性が向上されている。ゴム補強層は軽量であるため、このゴム補強層が質量及び慣性モーメントに与える影響は小さい。さらに上記のゴム補強層の構造により、このゴム補強層が縦剛性に与える影響は抑えられている。このタイヤでは、優れた操縦安定性が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2(a)、(b)及び(c)は、それぞれ図1のタイヤのゴム補強層の端の位置が変更された例である。
図3図3は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。このタイヤ2は、競技車両用である。このタイヤ2は、競技車両としてのレーシングカートに装着される。
【0019】
図1において、実線BBLは、ビードベースラインである。ビードベースラインBBLは、リム(図示されず)のリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインBBLは、軸方向に延びる。両矢印Hは、このタイヤ2の断面高さ(JATMA参照)である。断面高さHは、半径方向におけるビードベースラインBBLからタイヤ2の外側端までの高さである。断面高さHは、通常350mm以下である。
【0020】
図1に示されるように、このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、インナーライナー12及び一対のゴム補強層14を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。
【0021】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面16を形成する。このトレッド4には、溝は刻まれていない。このタイヤ2は、スリックタイヤである。このトレッド4に溝が刻まれて、この溝によりトレッドパターンが形成されてもよい。トレッド4は、架橋ゴムからなる。このトレッド4では、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性が考慮されている。
【0022】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。サイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。サイドウォール6は、カーカス10の軸方向外側に位置している。このサイドウォール6は、カーカス10の損傷を防止する。
【0023】
それぞれのビード8は、サイドウォール6よりも軸方向内側に位置している。ビード8は、コア18と、エイペックス20とを備えている。コア18はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス20は、コア18から半径方向外向きに延びている。エイペックス20は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス20は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0024】
カーカス10は、カーカスプライを備えている。このカーカス10は、第一プライ24及び第二プライ26の2枚のカーカスプライからなる。第一プライ24及び第二プライ26は、両側のビード8の間に架け渡されている。この第一プライ24及び第二プライ26は、トレッド4及びサイドウォール6の内側に沿っている。このカーカス10が、3枚以上のカーカスプライで形成されてもよい。
【0025】
第一プライ24は、それぞれのコア18の周りにて折り返されている。第一プライ24は、第一主部28と一対の第一折返し部30とを備えている。第一主部28は、一方のビード8の軸方向内側から、もう一方のビード8の軸方向内側まで延びる。第一主部28は、第二主部32の内側に沿っている。それぞれの第一折返し部30は、軸方向において、ビード8及び第二折返し部34の外側に位置する。
【0026】
第二プライ26は、それぞれのコア18の周りにて折り返されている。第二プライ26は、第二主部32と一対の第二折返し部34とを備えている。第二主部32は、一方のビード8の軸方向内側から、もう一方のビード8の軸方向内側まで延びる。第二主部32は、第一主部28の外側に積層されている。それぞれの第二折返し部34は、軸方向において、ビード8の外側で第一折返し部30の内側に位置する。
【0027】
図1に示されているように、このタイヤ2では、半径方向において、第一折返し部30の外側端は、第二折返し部34の外側端よりも外側に位置している。半径方向において、第二折返し部34の外側端が、第一折返し部30の外側端よりも外側に位置していてもよい。
【0028】
図示されていないが、それぞれのカーカスプライは並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。この傾斜角度の一般的な絶対値は、20°以上60°以下である。この実施形態では、この傾斜角度の絶対値は、25°以上38°以下である。すなわち、このタイヤ2のカーカス10は、バイアス構造を有する。第一プライ24のコードの赤道面に対する傾斜方向は、第二プライ26のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。この構造は、タイヤ2の横剛性に寄与する。このタイヤ2に、ラジアル構造のカーカス10が採用されてもよい。この場合は、コードが赤道面に対してなす角度の絶対値は75°以上90°以下に設定される。コードは有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0029】
インナーライナー12は、カーカス10の内側に位置している。インナーライナー12は、カーカス10の内面に接合されている。インナーライナー12は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー12の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー12は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0030】
それぞれのゴム補強層14は、ビード8とカーカス10との間に位置する。ゴム補強層14は、コア18の周りで折り返されている。ゴム補強層14は、第一部36と第二部38とを備えている。第一部36は、ビード8の軸方向内側において略半径方向に延びている。第二部38は、ビード8の軸方向外側において略半径方向に延びている。
【0031】
図1において、両矢印Hiは、半径方向における、コア18の内側端から第一部36の外側端40(以下、第一端40と表記される)までの高さである。両矢印Hoは、半径方向における、コア18の内側端から第二部38の外側端42(以下、第二端42と表記される)までの高さである。両矢印Haは、半径方向における、コア18の内側端からエイペックス20の先端44までの高さである。図で示されるように、このタイヤ2では、半径方向において、第一端40は第二端42より内側に位置する。すなわち、高さHiは高さHoより小さい。第一端40及び第二端42は、エイペックス20の先端44より内側に位置する。すなわち、高さHi及び高さHoは、高さHaより小さい。
【0032】
このタイヤ2では、図2(a)に示されるように、半径方向において、第一端40が第二端42より外側に位置していてもよい。すなわち、高さHiが高さHoより大きくてもよい。図2(b)に示されるように、半径方向において、第一端40、第二端42及びエイペックス20の先端44が同じ位置でもよい。すなわち、高さHi、高さHo及び高さHaが、同じでも良い。図2(c)に示されるように、第一端40及び第二端42が、エイペックス20の先端44より外側に位置していてもよい。すなわち、高さHi及び高さHoが、高さHaより大きくても良い。図示されないが、第一端40及び第二端42のいずれか一方がエイペックス20の先端44より外側に位置しており、もう一方がエイペックス20の先端44より内側に位置していてもよい。すなわち、高さHi及び高さHoのいずれか一方が高さHaより大きく、もう一方が高さHaより小さくても良い。
【0033】
以下、本発明の作用効果が説明される。
【0034】
レーシングカート用の空気入りタイヤでは、横剛性が十分でないと、旋回中のタイヤの変形が大きくなる。横剛性を向上させるために、ビードの周辺に、有機繊維のコード(有機繊維コード)を備える補強層が挿入されることがある。
【0035】
レーシングカート用のタイヤでは、通常カーカスはバイアス構造を有する。有機繊維コードはヤング率が高い。有機繊維コードを備える補強層をビードの近辺に挿入したとき、このコードがシェーピングの妨げとなりうる。また、シェーピング時に、コードに十分なテンションがかからないことが起こりうる。このため、この補強層を挿入しても、タイヤの横剛性が十分に上がらない場合がある。さらに、コードに十分なテンションがかからないと、タイヤのユニフォミティが悪化しうる。この補強層の端部でクリースが発生するおそれがある。
【0036】
有機繊維コードを備える補強層は、タイヤの質量や慣性モーメントを増加させうる。これは、車両の加速性能及び操縦安定性の低下の要因となりうる。さらに有機繊維コードを備える補強層は、タイヤの縦剛性を大きくしうる。これにより、前輪タイヤのロール剛性が大きくなる。これは、操縦安定性を低下させうる。
【0037】
本発明に係るレーシングカート用の空気入りタイヤ2は、ゴム補強層14を備える。このゴム補強層14は、コア18の周りで折り返されている。ゴム補強層14は、ビード8の軸方向内側において略半径方向に延びる第一部36と、ビード8の軸方向外側において略半径方向に延びる第二部38とを備えている。この構造により、このゴム補強層14は、タイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2では、横剛性が向上されている。このタイヤ2は旋回性に優れる。
【0038】
ゴムからなるこの補強層14は、シェーピングの妨げとはならない。ゴム補強層14では、有機繊維コードの補強層のような、「コードにテンションがかからないために横剛性が十分に向上しない」との問題は発生しない。さらに、ゴム補強層14では、「コードにテンションがかからないことによるユニフォミティの悪化及びクリースの発生」との問題も発生しない。
【0039】
ゴム補強層14は軽量であるため、このゴム補強層14が質量及び慣性モーメントに与える影響は小さい。これは、加速性能及び操縦安定性に寄与する。さらにこのタイヤ2では、上記のゴム補強層14の構造により、このゴム補強層14が縦剛性に与える影響が抑えられている。このタイヤ2では、ロール剛性が抑えられている。このタイヤ2では、優れた操縦安定性が実現されている。
【0040】
ゴムの100%伸張時の引張応力は、100%モジュラスと称される。ゴム補強層14の100%モジュラスMgは、エイペックス20の100%モジュラスMaよりも小さいのが好ましい。100%モジュラスMgを100%モジュラスMgより小さくすることで、タイヤ2の剛性が適正に抑えられる。これは、タイヤ2のグリップ力及び操縦安定性に寄与する。このタイヤ2は、グリップ力及び操縦安定性に優れる。
【0041】
本発明において、100%モジュラスMg及びMaは、「JIS−K6251」の規定に準拠して測定される。条件は、下記の通りである。
試験片の形状=3号ダンベル
環境温度=23℃
試験機=東洋精機製作所社製の商品名「ストログラフ」
引張速度=500mm/min
【0042】
100%モジュラスMgの100%モジュラスMaに対する比(Mg/Ma)は、0.7以上が好ましい。比(Mg/Ma)を0.7以上とすることで、このゴム補強層14はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。さらに、比(Mg/Ma)を0.7以上とすることで、ゴム補強層14の剛性とエイペックス20の剛性との差が小さくされる。これらの剛性差が大きくなることによる歪みの発生が抑えられている。このタイヤ2は、しなやかに撓みうる。これは、操縦安定性及びグリップ力に寄与する。これらの観点から、比(Mg/Ma)は、0.8以上がより好ましい。比(Mg/Ma)は、0.9以下が好ましい。比(Mg/Ma)を0.9以下とすることで、タイヤ2の剛性が適正に抑えられる。これは、タイヤ2のグリップ力及び操縦安定性に寄与する。このタイヤ2は、グリップ力及び操縦安定性に優れる。
【0043】
100%モジュラスMgは8.0MPa以上が好ましい。100%モジュラスMgを8.0MPa以上とすることで、このゴム補強層14はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。この観点から、100%モジュラスMgは9.0MPa以上がより好ましい。100%モジュラスMgは15.0MPa以下が好ましい。100%モジュラスMgを15.0MPa以下とすることで、タイヤ2の剛性が適正に抑えられる。これは、タイヤ2のグリップ力及び操縦安定性に寄与する。このタイヤ2は、グリップ力及び操縦安定性に優れる。この観点から100%モジュラスMgは、14.0MPa以下がより好ましい。
【0044】
前述のとおり、ゴム補強層14はビード8とカーカス10との間に位置するのが好ましい。このようにすることで、このタイヤ2では、ゴム補強層14を挿入したことによるカーカスプライの歪みが小くされる。これは、操縦安定性及びグリップ力に寄与する。このタイヤ2では、優れた操縦安定性及びグリップ力が実現されている。
【0045】
ゴム補強層14の厚みは0.5mm以上が好ましい。ゴム補強層14の厚みを0.5mm以上とすることで、このゴム補強層14はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。この観点から、ゴム補強層14の厚みは0.8mm以上がより好ましい。ゴム補強層14の厚みは2.0mm以下が好ましい。ゴム補強層14の厚みを2.0mm以下とすることで、タイヤ2の剛性が適正に抑えられる。これは、タイヤ2のグリップ力及び操縦安定性に寄与する。このタイヤ2は、グリップ力及び操縦安定性に優れる。この観点からゴム補強層14の厚みは、1.5mm以下がより好ましい。
【0046】
半径方向において、第一端40は第二端42より内側に位置するのが好ましい。すなわち、高さHiは高さHoより小さいのが好ましい。第一端40を第二端42より内側に位置させることで、縦剛性を適度に抑えながら横剛性を大きくすることができる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性及び旋回性が実現されている。
【0047】
高さHiの断面高さHに対する比(Hi/H)は、20%以上が好ましい。比(Hi/H)を20%以上とすることで、この第一部36はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は、十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。この観点から、比(Hi/H)は、30%以上がより好ましい。比(Hi/H)は、45%以下が好ましい。比(Hi/H)を45%以下とすることで、この第一部36の縦剛性への影響が抑えられる。このタイヤ2では、縦剛性が適正に抑えられる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性が実現されている。この観点から、比(Hi/H)は40%以下がより好ましい。
【0048】
高さHoの断面高さHに対する比(Ho/H)は、30%以上が好ましい。比(Ho/H)を30%以上とすることで、この第二部38はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は、十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。この観点から、比(Ho/H)は、35%以上がより好ましい。比(Ho/H)は、50%以下が好ましい。比(Ho/H)を50%以下とすることで、この第二部38の縦剛性への影響が抑えられる。このタイヤ2では、縦剛性が適正に抑えられる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性が実現されている。この観点から、比(Ho/H)は45%以下がより好ましい。
【0049】
半径方向において、第一端40の位置が、第二端42の位置、第一折返し部30の外側端の位置、第二折返し部34の外側端の位置及びエイペックス20の先端44の位置のいずれかと一致すると、第一端40の近辺にて剛性の変化が大きくなる。タイヤ2に荷重が負荷されたとき、第一端40の近辺での変形が大きくなる。これは、操縦安定性及び旋回性を損ねる要因となりうる。
【0050】
半径方向において、第一端40の位置は、第二端42の位置、第一折返し部30の外側端の位置、第二折返し部34の外側端の位置及びエイペックス20の先端44の位置のいずれとも異なっているのが好ましい。このようにすることで、このタイヤ2では、良好な操縦安定性及び旋回性が実現されている。
【0051】
上記の第一端40の場合と同様に、半径方向において、第二端42の位置が、第一端40の位置、第一折返し部30の外側端の位置、第二折返し部34の外側端の位置及びエイペックス20の先端44の位置のいずれかと一致すると、第二端42の近辺にて剛性の変化が大きくなる。タイヤ2に荷重が負荷されたとき、第二端42の近辺での変形が大きくなる。これは、操縦安定性及び旋回性を損ねる要因となりうる。
【0052】
半径方向において、第二端42の位置は、第一端40の位置、第一折返し部30の外側端の位置、第二折返し部34の外側端の位置及びエイペックス20の先端44の位置のいずれとも異なっているのが好ましい。このようにすることで、このタイヤ2では、良好な操縦安定性及び旋回性が実現されている。
【0053】
半径方向において、第一端40と、第二端42、第一折返し部30の外側端、第二折返し部34の外側端及びエイペックス20の先端44のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上であるのが好ましい。すなわち、半径方向において、第一端40と第二端42との距離、第一端40と第一折返し部30の外側端との距離、第一端40と第二折返し部34の外側端との距離、及び第一端40とエイペックス20の先端44との距離のいずれもが、このタイヤ2の断面高さHの2%以上であるのが好ましい。このようにすることで、第一端40の近辺での剛性の変化が効果的に抑えられる。このタイヤ2では、第一端40の近辺での変形が抑えられる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性及び旋回性が実現されている。この観点から、これらの距離は、断面高さHの3%以上であるのがより好ましい。
【0054】
半径方向において、第二端42と、第一折返し部30の外側端、第二折返し部34の外側端及びエイペックス20の先端44のそれぞれとの距離のいずれもが、タイヤの断面高さHの2%以上であるのが好ましい。すなわち、半径方向において、第二端42と第一折返し部30の外側端との距離、第二端42と第二折返し部34の外側端との距離、及び第二端42とエイペックス20の先端44との距離のいずれもが、このタイヤ2の断面高さHの2%以上であるのが好ましい。このようにすることで、第二端42の近辺での剛性の変化が効果的に抑えられる。このタイヤ2では、第二端42の近辺での変形が抑えられる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性及び旋回性が実現されている。この観点から、これらの距離は、断面高さHの3%以上であるのがより好ましい。
【0055】
高さHaの断面高さHに対する比(Ha/H)は、30%以上が好ましい。比(Ha/H)を30%以上とすることで、このエイペックス20は、タイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は、十分な横剛性を有する。このタイヤ2は旋回性に優れる。この観点から、比(Ha/H)は、35%以上がより好ましい。比(Ha/H)は、50%以下が好ましい。比(Ha/H)を50%以下とすることで、このエイペックス20の縦剛性への影響が抑えられる。このタイヤ2では、縦剛性が適正に抑えられる。このタイヤ2では、良好な操縦安定性が実現されている。この観点から、比(Ha/H)は45%以下がより好ましい。
【0056】
エイペックス20の100%モジュラスMaは10.0MPa以上が好ましい。100%モジュラスMaを10.0MPa以上とすることで、このエイペックス20はタイヤ2の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ2は十分な横剛性を有する。100%モジュラスMaは16.0MPa以下が好ましい。100%モジュラスMaを16.0MPa以下とすることで、タイヤ2の剛性が適正に抑えられる。これは、タイヤ2のグリップ力に寄与する。このタイヤ2は、グリップ力に優れる。
【0057】
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0058】
図3には、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ50が示されている。図3において、上下方向がタイヤ50の半径方向であり、左右方向がタイヤ50の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ50の周方向である。図3において、一点鎖線CLはタイヤ50の赤道面を表わす。このタイヤ50の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0059】
このタイヤ50は、トレッド52、一対のサイドウォール54、一対のビード56、カーカス58、インナーライナー60及び一対のゴム補強層62を備えている。このタイヤ50は、ゴム補強層62の位置を除いて、図1のタイヤ2と同じである。以下では、ゴム補強層62のみについて、説明される。
【0060】
それぞれのゴム補強層62は、第一プライ64と第二プライ66との間に位置する。ゴム補強層62は、コア68の周りで折り返されている。ゴム補強層62は、第一部70と第二部72とを備えている。第一部70は、ビード56の軸方向内側に位置する。第一部70は、エイペックス74の軸方向内側に位置する。第一部70は、第一主部76と第二主部78との間において、略半径方向に延びている。第二部72は、ビード56の軸方向外側に位置する。第二部72は、エイペックス74の軸方向外側に位置する。第二部72は、第一折返し部80と第二折返し部82との間において略半径方向に延びている。
【0061】
上記の構造により、このゴム補強層62は、タイヤ50の横剛性に効果的に寄与する。このタイヤ50では、横剛性が向上されている。このタイヤ50は旋回性に優れる。ゴム補強層62は軽量であるため、質量及び慣性モーメントに与える影響は小さい。これは、加速性能及び操縦安定性に寄与する。さらにこのタイヤ50では、上記のゴム補強層62の構造により、このゴム補強層62が縦剛性に与える影響が抑えられている。このタイヤ50では、ロール剛性が抑えられている。このタイヤ50では、優れた操縦安定性が実現されている。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0063】
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、10×4.50−5である。このタイヤの諸元は、下記の表1に示されている。このゴム補強層の厚みは、1.3mmとされた。エイペックスの100%モジュラスMaは、13MPaとされた。
【0064】
[比較例1]
ゴム補強層を有さないことの他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。
【0065】
[実施例2]
図3で示されるように、ゴム補強層を第一プライと第二プライとの間に位置させたことの他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0066】
[実施例3−6]
ゴム補強層の100%モジュラスMgを表1のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例3−6のタイヤを得た。
【0067】
[実施例7−10]
高さHiを変更して比(Hi/H)を表2のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例7−10のタイヤを得た。
【0068】
[実施例11−15]
高さHiを変更して比(Hi/H)を34%とし、高さHoを変更して比(Ho/H)を表3のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例11−15のタイヤを得た。
【0069】
[実施例16−17]
高さHi及び高さHoを変更して、比(Hi/H)及び比(Ho/H)を表4のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例16−17のタイヤを得た。
【0070】
[実施例18−19]
高さHaを変更して比(Ha/H)を表4のとおりとした他は実施例1と同様にして、実施例18−19のタイヤを得た。
【0071】
[操縦安定性及び横グリップ]
タイヤをリム(サイズ=4.5)に組み込み、このタイヤに内圧が80kPaとなるように空気を充填した。このタイヤを、125ccの2サイクルエンジンを搭載した4輪自動車(レーシングカート)の前輪に装着した。後輪には、市販のタイヤ(サイズ=11×6.50−5)をリム(サイズ=6.5)に組み込み、内圧を80kPaに調整し装着した。ドライバーに、このカートをアスファルト路で構成された乾いたカートコース(1周=734m)で走行させて、操縦安定性及び横グリップ力を官能評価させた。なお、周回数は10回に設定された。この結果が、指数で下記の表1−4に示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
表1−4に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明された技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0078】
2、50・・・タイヤ
4、52・・・トレッド
6、54・・・サイドウォール
8、56・・・ビード
10、58・・・カーカス
12、60・・・インナーライナー
14、62・・・ゴム補強層
16・・・トレッド面
18、68・・・コア
20、74・・・エイペックス
24、64・・・第一プライ
26、66・・・第二プライ
28、76・・・第一主部
30、80・・・第一折返し部
32、78・・・第二主部
34、82・・・第二折返し部
36・・・第一部
38・・・第二部
40・・・第一端
42・・・第二端
44・・・エイペックスの先端
図1
図2
図3