特許第6844193号(P6844193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844193覆工コンクリートの調査装置および覆工コンクリートの調査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844193
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの調査装置および覆工コンクリートの調査方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20210308BHJP
   G01N 21/954 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   E21D11/00 Z
   G01N21/954 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-206831(P2016-206831)
(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公開番号】特開2018-66236(P2018-66236A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】木梨 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】西浦 秀明
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−303611(JP,A)
【文献】 特開2016−031249(JP,A)
【文献】 特開平11−173088(JP,A)
【文献】 米国特許第05851580(US,A)
【文献】 特開2014−095627(JP,A)
【文献】 特開2011−095222(JP,A)
【文献】 特開2006−283403(JP,A)
【文献】 特開2000−328894(JP,A)
【文献】 特開2004−117194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−19/06
E21D 23/00−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル軸線方向に間隔を設けて対をなして配置され、トンネル周方向全体に延在するアーチフレームと、
該対をなすアーチフレームに跨ってトンネル軸線方向に延在するように配置され、該アーチフレームに沿って移動するスライダーと、
覆工コンクリートの健全性を評価するための調査を行う調査機器が搭載され、所望速度を維持しつつ前記スライダー上を自走するキャリッジと、を備え、
前記アーチフレームが、複数に分割されて伸縮機能もしくは回転機能を有するジョイント部材を介して連結されているとともに、その内周側に配置される伸縮自在な支保部材を介して移動式の坑内プロテクターに支持されていることを特徴とする覆工コンクリートの調査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の覆工コンクリートの調査装置において、
前記スライダーの移動量を記録するエンコーダーを備えることを特徴とする覆工コンクリートの調査装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の覆工コンクリートの調査装置において、
前記調査機器に、3次元形状計測の可能なカメラを用いることを特徴とする覆工コンクリートの調査装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の覆工コンクリートの調査装置を用いた覆工コンクリートの調査方法であって、
前記キャリッジをトンネル軸線方向であって往路方向に移動させつつ、前記調査機器による計測を行った後、前記スライダーをトンネル周方向に移動させ、
この後、前記キャリッジをトンネル軸線方向であって復路方向に移動させつつ、前記調査機器による計測を行った後、前記スライダーをトンネル周方向に移動させる手順を繰り返すことを特徴とする覆工コンクリートの調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの覆工コンクリートの健全性を評価するための覆工コンクリートの調査装置および覆工コンクリートの調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トンネルの覆工コンクリートの健全性を評価するべく点検を行う際には、作業員が現場において近接目視により現状を確認した上で、その結果を変状展開図に起こしデジタルデータ化していた。しかし、作業が煩雑であることから、作業車両に点検機材を搭載し、作業車両を走行させながら点検機材にて覆工コンクリートの点検を行う方法が検討されている。
【0003】
例えば、引用文献1には、作業車両に搭載した撮影手段により道路トンネルの覆工面の表面の3次元形状を計測し、はく落につながる恐れのあるひび割れかどうかの判断を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−31249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
覆工コンクリートのはく落に係る点検では、補修対象となりうる0.2mm程度のひび割れを正確に抽出する必要があるため、撮影手段の移動速度を低速に設定しなければならない。しかし、特許文献1のような、撮影手段を搭載した作業車両の走行速度を、0.2mm程度のひび割れが抽出できる程度に低速走行させることは困難である。
【0006】
また、はく落に係る点検を含め、その他覆工コンクリートの健全性を把握するべく実施する調査はいずれも、調査機器と覆工面との距離を常時一定に保持しつつ、調査機器をトンネル軸線方向に一定速度で移動させる必要がある。しかし、これら調査機器を作業車両に搭載する場合、作業車両の動線はふらつきが生じやすいだけでなく、走行速度を一定に維持させることが困難であり、また、道路の路面に凹凸等の不陸が生じている場合には、作業車両の挙動が乱れやすいため、調査機器の測定値に補正を施す必要が生じるなど、信頼性の高い精度を確保することが困難となりやすい。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、覆工コンクリートの健全性を評価するべく、高い精度で覆工コンクリートの調査を実施するための、覆工コンクリートの調査装置および覆工コンクリートの調査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため本発明の覆工コンクリートの調査装置は、トンネル軸線方向に間隔を設けて対をなして配置され、トンネル周方向全体に延在するアーチフレームと、該対をなすアーチフレームに跨ってトンネル軸線方向に延在するように配置され、該アーチフレームに沿って移動するスライダーと、覆工コンクリートの健全性を評価するための調査を行う調査機器が搭載され、所望速度を維持しつつ前記スライダー上を自走するキャリッジと、を備え、前記アーチフレームが、複数に分割されて伸縮機能もしくは回転機能を有するジョイント部材を介して連結されているとともに、その内周側に配置される伸縮自在な支保部材を介して移動式の坑内プロテクターに支持されていることを特徴とする。
【0009】
上述する本発明の覆工コンクリートの調査装置によれば、トンネル周方向に延在するアーチフレームをトンネル軸線方向に対をなして配置し、これに跨るようにしてトンネル軸線方向に延在するスライダーを設置し、このスライダー上を所望速度を維持しつつ自走するキャリッジに調査機器を搭載した。これにより調査機器は、トンネルの覆工コンクリートとの距離を常時一定に保持しながら、移動速度を一定に維持しつつ調査を実施できるため、高い精度をもってひび割れ等の覆工コンクリートの不良部分を検出することが可能となる。
【0010】
また、調査機器による調査位置は、スライダーの移動量をエンコーダーにて記録させることで、覆工面を平面とした座標をもって出力させることが可能である。これにより、調査機器にて検出されるひび割れ等の覆工コンクリートの不良部分は、それぞれ座標を持つこととなる。したがって、あらかじめ覆工コンクリートの調査装置と端末装置と接続させておけば、人力によることなく容易にトンネル壁面の展開図上に覆工コンクリートの不良部分をプロットした変状展開図を作成することが可能となる。
【0011】
本発明の覆工コンクリートの調査装置は、前記アーチフレームが、その内周側に配置される支保部材を介して移動式の坑内プロテクターに支持されることを特徴とする。
【0012】
上述する本発明の覆工コンクリートの調査装置によれば、交通供用下で調査機器による調査に係る作業を実施しても、道路トンネルに規制をかける等の交通負荷をかけることなく坑内プロテクター内で一般車両を、安全に通行させることが可能となる。
【0013】
本発明の覆工コンクリートの調査装置は、前記調査機器に、3次元形状計測の可能なカメラを用いることを特徴とする。
【0014】
上述する本発明の覆工コンクリートの調査装置によれば、覆工コンクリートの補修対象となりうる0.2mm程度のひび割れを、作業員がクラックゲージにて実測する場合と同程度の精度をもって自動検出することが可能となるだけでなく、作業時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0015】
本発明の覆工コンクリートの調査方法は、上述する覆工コンクリートの調査装置を用いた覆工コンクリートの調査方法であって、前記キャリッジをトンネル軸線方向であって往路方向に移動させつつ、前記調査機器による計測を行った後、前記スライダーをトンネル周方向に移動させ、この後、前記キャリッジをトンネル軸線方向であって復路方向に移動させつつ、前記調査機器による計測を行った後、前記スライダーをトンネル周方向に移動させる手順を繰り返すことを特徴とする。
【0016】
上述する本発明の覆工コンクリートの調査方法によれば、調査機器による調査に係る作業を自動化できるため、従来の作業員による近接目視等と比較して迅速かつ高い精度をもって、ひび割れ等の覆工コンクリートの不良部分を検出することが可能となる。これにより、高い信頼性を持って覆工コンクリートの健全性を評価することが可能となるとともに、調査に係る作業期間の大幅な短縮化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、調査機器が、トンネルの覆工コンクリートとの距離を常時一定に保持しながら移動速度を一定に維持しつつ、覆工コンクリートの健全性を評価するための調査を実施できるため、高い精度でかつ均質な調査結果を迅速に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の覆工コンクリートの調査装置の概略を示す図である。
図2】本発明における覆工コンクリートの調査装置の平面視を示す図である。
図3】本発明における覆工コンクリートの調査装置の側面視を示す図である。
図4】本発明における覆工コンクリートの調査装置にて覆工コンクリートを調査する際の動作を示す図である(その1)。
図5】本発明における覆工コンクリートの調査装置にて覆工コンクリートを調査する際の動作を示す図である(その2)。
図6】本発明における覆工コンクリートの調査装置に調査機器として3次元計測の可能なカメラを搭載する場合の概略を示す図である。
図7】本発明の覆工コンクリートの調査装置に搭載した3次元計測の可能なカメラにて覆工面のひび割れを撮像した場合の3次元画像を示す図である。
図8】本発明の覆工コンクリートの調査装置に3次元計測の可能なカメラを搭載した際の調査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の覆工コンクリートの調査装置は、トンネルの覆工コンクリートの健全性を評価するべく、高い精度で覆工コンクリートの調査を実施するための装置である。健全性の評価対象となるトンネルは、鉄道トンネルや歩道トンネル等いずれに利用されるものでもよいが、本実施の形態では、道路トンネルを事例に挙げ、覆工コンクリートの調査装置の詳細を、図1図8を用いて以下に詳述する。
【0020】
図1で示すように、覆工コンクリートCの調査装置1は、一対のアーチフレーム2と、アーチフレーム2に沿って移動するスライダー3と、スライダー上を自走するキャリッジ4と、アーチフレーム2を支保する支保部材5と、キャリッジ4に搭載される調査機器6とを備えている。
【0021】
アーチフレーム2は、トンネル周方向に延在する略馬蹄形状に湾曲させたI形鋼等の長尺鋼材よりなり、トンネル軸線方向に間隔を設けて対をなして配置されるとともに、そのクラウン部どうしが、トンネル軸線方向に延在するH形鋼等の長尺鋼材よりなる補剛部材21により連結されている。また、対をなすアーチフレーム2どうしは下端部が、トンネル軸線方向に延在しトンネル軸線直交方向に間隔を設けて対をなして配置される台車22に設置されており、トンネル内をトンネル軸線方向に移動自在な構造となっている。
【0022】
そして、対をなすアーチフレーム2各々の内周面には、後に述べる支保部材5が設置されており、アーチフレーム2は支保部材5を介して移動式の坑内プロテクター7に支持されている。移動式の坑内プロテクター7は、交通供用化でトンネル坑内の作業を実施する際に従来より用いられるものであり、通行車両を防護するための構造体である。また、アーチフレーム2各々の外周面には、固定チェーン23が設置されており、固定チェーン23を利用してアーチフレーム2の外周面上を、スライダー3が走行する。
【0023】
図2で示すように、スライダー3は、対をなすアーチフレーム2に跨ってトンネル軸線方向に延在するように配置されるキャリッジ駆動部32と、キャリッジ駆動部32の下面に対をなして設置され、対をなすアーチフレーム2各々の外周面上を走行する走行架台31とを備えている。
【0024】
図3で示すように、走行架台31には、アーチフレーム2に設置された固定チェーン23に噛み合うギア311と、ギア311を駆動するローラーチェーン312、スプロケット313およびモーター314が内蔵されており、これらの機構により、アーチフレーム2の外周面上を自在に走行する。
【0025】
なお、一対の走行架台31各々に備えたモーター314は互いに同期されており、常に同一速度で同一方向にギア311を駆動するよう制御されている。これにより、スライダー3は常時、走行架台31を介してキャリッジ駆動部32の延在方向をトンネル軸線方向と平行に維持しつつ、アーチフレーム2の外周面上を移動することが可能となる。
【0026】
一方、キャリッジ駆動部32は、図2で示すように、トンネル軸線方向に回転するよう張設される無端の駆動ベルト321と、駆動ベルト321を回転させるモーター322と、駆動ベルト321と並列に配置され、駆動ベルト321と連動して同方向および同速度で回転する無端のフリーベルト323とを備えている。モーター322は、駆動ベルト321を正回転および逆回転させることが自在であるとともに、速度調整が自在であるものの、調整された速度を一定に維持するよう制御されている。
【0027】
これにより、駆動ベルト321とフリーベルト323は、調整された速度を常時一定に保持しつつ、トンネル軸線方向に正回転もしくは逆回転することが可能となる。そして、これら駆動ベルト321およびフリーベルト323に、キャリッジ4の下面が固定され、キャリッジ4の上面に調査機器6が設置される。
【0028】
キャリッジ4に搭載される調査機器6は、覆工コンクリートCの健全性を評価するべく用いられるものであれば、例えば、覆工内部の不良個所を検出するための打音機器や電磁波レーダ、覆工面におけるうき・はく離の疑義箇所を検出するための赤外線照査装置、覆工面のひび割れの有無を検出するCCDカメラ等、いずれを採用してもよい。なお、本実施の形態では、キャリッジ4に対して調査機器6を2セット搭載させているが、その数量は1セットでも複数セットでもいずれでもよい。
【0029】
上述する覆工コンクリートの調査装置1を用いた覆工コンクリートの調査方法は、まず、図1で示すように、トンネル内の所望位置に対をなすアーチフレーム2を設置する。
【0030】
そして、アーチフレーム2上にスライダー3と調査機器6を搭載したキャリッジ4のセットを設置し、調査機器6を覆工コンクリートCに対向させるとともに、調査に最適な距離となるよう位置合わせを行う。次に、スライダー3上でキャリッジ4を、キャリッジ駆動部32を介して所望の速度にてトンネル軸線方向の往路方向に定速移動させつつ、調査機器6にて、覆工コンクリートCの健全性を評価するための調査を行う。
【0031】
キャリッジ4が、スライダー3上をトンネル軸線方向の往路方向に移動し終わったところで、アーチフレーム2の外周面上で走行架台31を走行させることにより、スライダー3の設置位置を所定量だけトンネル周方向に移動させ、調査機器6を覆工コンクリートCにおける未調査の領域に対向させる。この後、スライダー3上でキャリッジ4を、トンネル軸線方向の往路方向に移動させたときと同速度にて復路方向に定速移動させつつ、調査機器6にて、覆工コンクリートCの健全性を評価するための調査を行う。
【0032】
このとき、調査機器6のトンネル軸線方向への移動速度は、調査機器6の性能や設定した調査幅等に応じて最適かつ最速となるように、キャリッジ駆動部32にて自在に設定できる。そして、図3で示すように、対をなすアーチフレーム2の外周面と覆工コンクリートCの距離Bが常に一定となるよう配置されて、調査機器6と覆工コンクリートCとの距離も常に一定に保持される。このため、高い調査精度を維持しつつ、覆工コンクリートCの調査に係る作業時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0033】
上記の手順を、スライダー3が走行架台31を介してアーチフレーム2の外周面全長を移動し終えるまで繰り返す。なお、図1では、スライダー3とキャリッジ4と調査機器6のセットを2セット設置しているため、スライダー3の移動距離は、アーチフレーム2の外周面全長のうちの半分でよい。
【0034】
そして、これらの作業が終了したところで、対をなすアーチフレーム2を台車22にてトンネル軸線方向に一部をラップさせつつ所定量移動させ、上記の作業を繰り返す。こうして、トンネルの起点から終点に至るまで、上記の動作を繰り返すことにより、トンネルの覆工コンクリートC全面に対して、調査機器6による調査を実施することが可能となる。
【0035】
このように、覆工コンクリートの調査装置1を用いた覆工コンクリートの調査方法は、調査機器6による調査を自動化できるため、従来の作業員による近接目視等と比較して迅速かつ精度よく、ひび割れ等の覆工コンクリートCの不良部分を検出することができる。これにより、高い信頼性を持って覆工コンクリートCの健全性を評価することが可能となるとともに、工期の大幅な短縮化を図ることが可能となる。
【0036】
なお、対をなすアーチフレーム2は、その外周面が調査しようとするトンネルの覆工コンクリートCと常に一定の距離Bを保持できるよう、あらかじめ製作したものであってもよいし、アーチフレーム2に汎用性を持たせるべく、その外周面形状を調整可能な機構を設けたものであってもよい。
【0037】
本実施の形態では、アーチフレーム2の外周面形状を調整する機構として、図1で示すように、アーチフレーム2を複数に分割しておき、これらを連結する伸縮機能もしくは回転機能を有するジョイント部材24と、図3で示すような、油圧ジャッキ等の伸縮装置51もしくはピン支承52を適宜備えた支保部材5により構成している。
【0038】
これにより、例えば、アーチフレーム2の外周面形状の全体もしくは一部を張り出させたい場合には、支保部材5に設けた伸縮装置51を伸長する。また、アーチフレーム2の外周面形状を縮径したい場合には、支保部材5に設けた伸縮装置51を短縮させればよい。こうすると、覆工コンクリートCの内面と調査機器6との距離を、最適な距離に保持することが可能となるだけでなく、内空形状の異なる様々なトンネルに対して、覆工コンクリートの調査装置1を再利用することが可能となる。
【0039】
また、覆工コンクリートCの内面には照明や換気装置等様々なトンネル設備が設置されていることから、上記のアーチフレーム2の断面形状を調整する構成を利用することにより、トンネル設備が存在する個所では、伸縮装置51を伸縮させてアーチフレーム2の一部に凹部を形成する。こうすると、アーチフレーム2とトンネル設備との干渉を防止でき、安全に作業を進めることが可能となる。
【0040】
なお、アーチフレーム2の外周面形状を調整する機構は、必ずしも上記の構成に限定されるものではなく、覆工コンクリートCを打設する際のセントルの形状を調整する手段を転用する等、いずれの手段を用いるものであってもよい。
【0041】
ところで、トンネル覆工では一般に、トンネル軸線方向の長さ10.5mを1ブロックとして、トンネル軸線方向にコンクリートの打設・養生を連続して繰り返し、トンネル全体の覆工コンクリートCを構築する。そこで、本実施の形態では、図4で示すように、調査機器6を搭載したキャリッジ5の往路および復路の長さそれぞれに、1/3ブロックの長さ(3.5m)を確保できるようスライダー3の延在長さおよび一対のアーチフレーム2の配置間隔を設定している。
【0042】
これにより、調査機器6による調査のスタート位置を、トンネルの起点に位置合わせしておけば、アーチフレーム2の移動を2回繰り返すごとに、覆工コンクリートCにおける1ブロックごとの調査機器6による調査結果を得ることが可能となる。
【0043】
また、本実施の形態では、調査機器6と端末装置8とを接続しておくとともに、スライダー3の移動量をエンコーダーにて記録し、これを端末装置8の記憶装置に記憶させることとした。こうすると、調査機器6による調査位置に、トンネル壁面を平面とした座標を付与することができるため、トータルステーションによる座標管理等の煩雑な作業を実施することなく、調査機器6による調査結果と覆工コンクリートCの位置との関連付けを行うことが可能となる。
【0044】
したがって、座標を付与されて検出されたひび割れ等の覆工コンクリートCの不良部分は、端末装置8の出力装置にて容易に、トンネル壁面の展開図上にプロットした状態で出力でき、従来の人力によって変状展開図を作成する手間を省略することが可能となる。
【0045】
なお、端末装置8は、演算処理装置及び記憶装置等のハードウェアと該ハードウェア上で動作するソフトウェアとで構成される情報処理装置、情報処理装置に種々のデータを入力する通信装置やキーボード等の入力装置、情報処理装置で行われた演算処理結果をリアルタイムで出力するディスプレイ及び記憶装置等からなる出力装置を備える、いわゆるパソコンやタブレット端末でよい。
【0046】
さらに、図5で示すように、アーチフレーム2上に、スライダー3と調査機器6を搭載したキャリッジ4のセットを3セット設置すると、1/3ブロックの覆工コンクリートCを3台の調査機器6にて同時刻に調査することができる。これにより、調査機器6による調査に係る作業を、より迅速に実施することが可能となる。なお、セット数は必ずしもこれに限定されるものではなく、図1で示すように、2セット配置してもよいし、1セットのみまた4セット以上設置してもよい。
【0047】
上述する覆工コンクリートの調査方法にて、覆工コンクリートCの覆工面におけるひび割れの有無を調査した事例を、以下に説明する。
【0048】
本実施の形態では、調査機器6としてCCDカメラ61とレーザー灯光機62を採用し、光切断法を用いた3次元形状計測により、ひび割れの有無の検出およびひび割れ幅の計測を行った。なお、CCDカメラ61と覆工コンクリートCの覆工面との距離を40cm、撮影範囲を40cm±2cm(レーザー線状光Lの延在方向の幅)に設定した。
【0049】
また、CCDカメラ61とレーザー灯光機62の移動速度は、CCDカメラ61の性能等に応じて、適宜最適な速度に設定すればよいが、発明者らが鋭意検討を行った結果、200mm/s〜400mm/sが好適であるとの知見を得た。そこで本実施の形態では、CCDカメラ61とレーザー灯光機62を搭載したキャリッジ4を、キャリッジ駆動部32にてトンネル軸線方向に移動させる速度を、200mm/sとする場合と400mm/sとする場合の2通りに設定し、計測を行った。
【0050】
図6で示すように、レーザー灯光機62は検査対象に向けてレーザー線状光Lを照射するものであり、CCDカメラ61はレーザー線状光Lを撮像するものである。そして、レーザー灯光機62とCCDカメラ61とをトンネル軸線方向に一定速度で移動させながら、レーザー線状光Lをトンネル軸線方向と直交するようにして覆工コンクリートCに向けて照射しつつ、レーザー線状光LをCCDカメラ61にて連続的に撮像する。
【0051】
この方法にて、CCDカメラ61によりひび割れを撮像すると、ひび割れをトンネル軸線方向に直交して切断した光切断線上における、ひび割れ断面の外形を示すプロファイルデータを複数取得することができる。そして、これら複数のプロファイルデータ各々から得た複数の断面画像データは、端末装置8にて画像処理されることによりひび割れの3次元計測が行われるとともに、図7(b)で示すような3次元画像を得ることができる。なお、図7(a)で示す画像は、覆工面に生じたひび割れをデジタルカメラにて接写して得た実画像である。
【0052】
図8(a)に、横軸にひび割れ幅の実測値、縦軸にひび割れ幅の3次元形状計測による計測値を取った図を示す。なお、実測値とは、ひび割れをクラックゲージにて実測したものである。これをみるとわかるように、走行速度を200mm/sに設定した場合と400mm/sに設定した場合のいずれにおいても、覆工コンクリートの調査装置1に搭載したCCDカメラ61にて覆工コンクリートCの補修対象となりうる0.2mm程度のひび割れを、クラックゲージによる実測値と同程度の精度で検出することが可能となる。
【0053】
一方、図8(b)に、横軸に浮き・剥離厚さの実測値、縦軸に浮き・剥離厚さの3次元形状計測による計測値を取った図を示す。なお、実測値とは、浮き・剥離厚さを厚みゲージにて実測したものである。これをみるとわかるように、走行速度を200mm/sに設定した場合と400mm/sに設定した場合のいずれにおいても、覆工コンクリートの調査装置1に搭載したCCDカメラ61にて覆工コンクリートCの浮き・剥離厚さを、厚みゲージによる実測値と同程度の高い精度で検出することが可能となる。
【0054】
このように、覆工コンクリートの調査装置1によれば、光切断法を用いた3次元形状計測にて、覆工コンクリートCのひび割れおよび浮き・剥離を、短時間で精度よく検出することが可能となり、高い信頼性を持って覆工コンクリートCの健全性を評価することが可能となる。
【0055】
本発明の覆工コンクリートの調査装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
本実施の形態では、アーチフレーム2の下端部を台車22に設置したが、必ずしもこれに限定されるものではない。台車22を設けることなく、アーチフレーム2を支持する移動式の坑内プロテクター7のみで移動させてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、支保部材5を介して坑内プロテクター7に、アーチフレーム2を支持させた。これにより、交通供用下で調査機器6による調査に係る作業を実施しても、道路トンネルに規制をかける等の交通負荷をかけることなく、坑内プロテクター7内に一般車両を安全に通行させることが可能となる。
【0058】
しかし、アーチフレーム2は必ずしも坑内プロテクター7に支持させるものではなくてもよく、アーチフレーム2をトンネル軸線方向に移動させることが可能な走行体であれば、作業車両等に支持させてもよい。また、アーチフレーム2は、必ずしもトンネル周方向全体に延在する形状を備えるものでなくてもよく、トンネル周方向の半周やクラウン部分のみ等一部分に沿う形状に形成してもよい。
【0059】
また、スライダー3上でキャリッジ4を移動させる手段は、スライダー3上を往復可能でかつ走行速度を一定に維持可能な手段であれば、本実施の形態になんら制限されるものではない。スライダー3をアーチフレーム2に沿って移動させる手段についても同様に、いずれの手段を用いるものであってもよい。
【0060】
加えて、本実施の形態では、キャリッジ4をトンネル軸線方向に移動させつつ、調査機器6による計測を行った後、スライダー3をトンネル周方向に移動させる手順を繰り返し、覆工コンクリートCの1ブロックごとに調査機器6による計測結果を得たが、必ずしもこれに限定するものではない。
【0061】
つまり、スライダー3をトンネル周方向に移動させつつ調査機器6による計測を行った後、キャリッジ4をトンネル軸線方向に移動させる手順を繰り返してもよい。この場合、調査機器6としてCCDカメラ61とレーザー灯光機62を採用する際には、レーザー線状光Lをトンネル軸線方向と平行にするようにして覆工コンクリートCに向けて照射すればよい。
【0062】
また、覆工コンクリートの調査装置1を用いた覆工コンクリートの調査方法は、トンネルの点検に実施してもよいし、覆工コンクリートCの補修作業の直前に、補修の有無を判断するための確認作業時に実施するものでもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 覆工コンクリートの調査装置
2 アーチフレーム
21 補剛部材
22 台車
23 固定チェーン
24 ジョイント部材
3 スライダー
31 走行架台
311 ギア
312 ローラーチェーン
313 スプロケット
314 モーター
32 キャリッジ駆動部
321 駆動ベルト
322 モーター
323 フリーベルト
4 キャリッジ
5 支保部材
51 伸縮装置
52 ピン支承
6 調査機器
61 CCDカメラ
62 レーザー灯光機
7 坑内プロテクター
8 端末装置
C 覆工コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8