(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844215
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】2枚刃ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
B23C5/10 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-227167(P2016-227167)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-83245(P2018-83245A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】西 洋平
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第105436588(CN,A)
【文献】
特開2010−105093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に一対のギャッシュが上記軸線に関して180°回転対称に形成され、これらのギャッシュのエンドミル回転方向を向くギャッシュ底面と、このギャッシュ底面からエンドミル回転方向とは反対側に延びる先端逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して上記エンドミル本体の先端側に凸となる凸半球面状をなす底刃がそれぞれ形成された2枚刃ボールエンドミルであって、
上記ギャッシュは、上記ギャッシュ底面に交差してエンドミル回転方向に延びる第1のギャッシュ壁面と、この第1のギャッシュ壁面に交差してさらにエンドミル回転方向に延びる第2のギャッシュ壁面とを備え、
一対の上記底刃は、上記エンドミル本体の先端部の外周側から内周側に向けて該エンドミル本体の先端部のエンドミル回転中心を越え、間隔をあけて互いに行き違うように延びて該底刃の内周端に達しており、
上記第1、第2のギャッシュ壁面の交差稜線と、上記第2のギャッシュ壁面と上記先端逃げ面との交差稜線とは、上記底刃の内周端において交わるように形成されており、
上記軸線方向先端側から見て、上記底刃と、この底刃の上記内周端において交わる上記第1、第2のギャッシュ壁面の交差稜線との交差角が、20°〜50°の範囲とされていることを特徴とする2枚刃ボールエンドミル。
【請求項2】
上記第1のギャッシュ壁面と第2のギャッシュ壁面とは、上記軸線に直交する断面において凸曲するように交差していることを特徴とする請求項1に記載の2枚刃ボールエンドミル。
【請求項3】
上記第1のギャッシュ壁面と第2のギャッシュ壁面とは、上記底刃の内周端から離れるに従い漸次幅広となるように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の2枚刃ボールエンドミル。
【請求項4】
上記エンドミル本体の少なくとも先端部の表面には、硬質皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の2枚刃ボールエンドミル。
【請求項5】
上記硬質皮膜はダイヤモンドコーティングであることを特徴とする請求項4に記載の2枚刃ボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に2枚の底刃が形成された2枚刃ボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような2枚刃ボールエンドミルにおいては、例えば特許文献1に、金型等の高硬度材の加工用のものとして、工具本体の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と回転方向に隣接する切れ刃間に形成されたギャッシュを有する切れ刃部を備え、この切れ刃部が工具本体の軸方向に、ボール刃が形成されるボール刃部と、ボール刃に連続する外周刃が形成される外周刃部とに区分されたボールエンドミルであり、ボール刃部はボール刃の回転方向後方側に形成される二番面と、この二番面に回転方向後方側に連続して形成され、二番面と異なる面をなす三番面と、この三番面に回転方向後方側に連続して形成され、三番面と異なる面をなす四番面を持ち、外周刃部の各外周刃の回転方向後方側には互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面が形成され、四番面は回転軸に関して外周側に向かって凸の曲面状に形成され、ギャッシュの外周刃部側にギャッシュに通じる外周溝が形成され、ギャッシュの溝底と外周溝の溝底は回転軸に対して異なる角度をなしているものが提案されている。
【0003】
このような2枚刃ボールエンドミルでは、ボール刃部がボール刃の回転方向後方側に連続して形成される異なる逃げ面(二番面、三番面、四番面)を持ち、また外周刃部にも各外周刃の回転方向後方側に互いに異なる面をなす複数の外周刃逃げ面が形成されていて、これらボール刃部と外周刃部の外形をボールエンドミルの回転軸を中心とした回転体形状に近い立体形状に形成し易く、切れ刃部の剛性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−182196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この特許文献1に記載された2枚刃ボールエンドミルでは、上記ギャッシュが、エンドミル回転方向とは反対側に向けて順に連続する互いに異なる面であるギャッシュ壁面と、ギャッシュ底面と、ボール刃のすくい面とから構成されているが、エンドミル本体先端部のエンドミル回転中心側では、このうちギャッシュ底面とすくい面とがボール刃の内周端に交わっているだけである。このため、上記ボール刃の内周端近傍で生成される切屑が行き場を失って切屑詰まりを生じ易くなり、切削抵抗の増大を招いたり、例えば超硬合金のような硬質材料を加工する場合にはエンドミル本体先端部のエンドミル回転中心周辺で欠損を生じたりするおそれがある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、例えば上述のような硬質材料の加工を行う2枚刃ボールエンドミルにおいて、底刃(ボール刃)の内周端周辺における切屑排出性の向上を図ることにより、切屑詰まりによる切削抵抗の増大やエンドミル回転中心周辺でのエンドミル本体の欠損等を防ぐことが可能な2枚刃ボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に一対のギャッシュが上記軸線に関して180°回転対称に形成され、これらのギャッシュのエンドミル回転方向を向くギャッシュ底面と、このギャッシュ底面からエンドミル回転方向とは反対側に延びる先端逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して上記エンドミル本体の先端側に凸となる凸半球面状をなす底刃がそれぞれ形成された2枚刃ボールエンドミルであって、上記ギャッシュは、上記ギャッシュ底面に交差してエンドミル回転方向に延びる第1のギャッシュ壁面と、この第1のギャッシュ壁面に交差してさらにエンドミル回転方向に延びる第2のギャッシュ壁面とを備え、一対の上記底刃は、上記エンドミル本体の先端部の外周側から内周側に向けて該エンドミル本体の先端部のエンドミル回転中心を越え、間隔をあけて互いに行き違うように延びて該底刃の内周端に達しており、上記第1、第2のギャッシュ壁面の交差稜線と、上記第2のギャッシュ壁面と上記先端逃げ面との交差稜線とは、上記底刃の内周端において交わるように形成されて
おり、上記軸線方向先端側から見て、上記底刃と、この底刃の上記内周端において交わる上記第1、第2のギャッシュ壁面の交差稜線との交差角が、20°〜50°の範囲とされている。
【0008】
このように構成された2枚刃ボールエンドミルにおいては、上記ギャッシュが、底刃のすくい面となるギャッシュ底面に交差してエンドミル回転方向に延びる第1のギャッシュ壁面と、第1のギャッシュ壁面に交差する第2のギャッシュ壁面とを備えており、この第2のギャッシュ壁面は第1のギャッシュ壁面からさらにエンドミル回転方向に延びているので、特許文献1に記載された2枚刃ボールエンドミルと同様に、エンドミル本体先端部の外形を、軸線を中心とした回転体形状に近い立体形状として高い剛性を確保することができる。
【0009】
そして、この第2のギャッシュ壁面は、第1のギャッシュ壁面との交差稜線と上記先端逃げ面との交差稜線とが底刃の内周端において交わるように形成されており、すなわちこの底刃の内周端が、エンドミル本体の先端部におけるエンドミル回転中心周辺での第1、第2のギャッシュ壁面の開始点となる。このため、底刃の内周端の周辺において生成された切屑を、第1のギャッシュ壁面から第2のギャッシュ壁面を介して速やかに排出することができ、切屑排出性を向上させて切屑詰まりの発生を防止することが可能となるので、切削抵抗の増大やエンドミル回転中心周辺におけるエンドミル本体の欠損等を防ぐことができる。
【0010】
また、上記第1のギャッシュ壁面と第2のギャッシュ壁面とを、上記軸線に直交する断面において凸曲するように交差させることにより、エンドミル本体の先端部の外形が、軸線を中心とした回転体形状に一層近い立体形状となるので、さらに剛性の向上を図ることができる。
【0011】
さらに、上記第1のギャッシュ壁面と第2のギャッシュ壁面とを、上記底刃の内周端から離れるに従い漸次幅広となるように形成することにより、エンドミル本体の先端部内周から後端外周側に向けて切屑排出空間を大きくすることができ、一層の切屑排出性の向上を図ることができる。
【0012】
なお、上記軸線方向先端側から見て、上記底刃と、この底刃の上記内周端において交わる上記第1、第2のギャッシュ壁面の交差稜線との交差角は、20°〜50°の範囲とされるのが望ましい。この交差角が上記範囲よりも小さいと、底刃の内周端側における上記切屑排出空間が小さくなって切屑排出性の向上を十分に図ることが困難となるおそれがあり、上記範囲よりも大きいとエンドミル本体先端部がギャッシュによって大きく切り欠かれて剛性不足を招くおそれがある。
【0013】
また、上記エンドミル本体の少なくとも先端部の表面に、硬質皮膜、特にダイヤモンドコーティングを被覆することにより、超硬合金のような硬質材料の加工においてもエンドミル本体先端部の摩耗を抑えることができ、長期に亙って安定した加工が可能な一層長寿命の2枚刃ボールエンドミルを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、エンドミル本体先端部の剛性を確保しつつ、底刃の内周端周辺における切屑排出性の向上を図って切屑詰まりの発生を防ぐことができ、切削抵抗の増大を抑えることができるとともに、エンドミル回転中心周辺におけるエンドミル本体の欠損等を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態を示すエンドミル本体先端部を軸線方向先端側から見た拡大正面図である。
【
図2】
図1に示す実施形態のエンドミル本体先端部の側面図である。
【
図3】
図1に示す実施形態のエンドミル本体先端部を斜め先端側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし
図4は、本発明の2枚刃ボールエンドミルの一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした多段の概略円柱状に形成され、その先端部(
図2および
図3において右側部分)は小径の切刃部2とされるとともに、この切刃部2よりも後端側(
図2および
図3において左側)は外径が漸次大きくなる首部3を介して図示されない大径円柱状のシャンク部とされる。このような2枚刃ボールエンドミルは、上記シャンク部が工作機械の主軸に取り付けられて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、軸線Oに交差する方向に送り出され、上記切刃部2により超硬金等の硬質材料の切削加工を行う。
【0017】
エンドミル本体1先端部の上記切刃部2には、一対の凹溝状のギャッシュ4が、切刃部2先端の軸線O上に位置するエンドミル回転中心周辺から切刃部2の後端外周側に向けて延びるように軸線Oに関して180°回転対称に形成されている。これらのギャッシュ4は、エンドミル回転方向Tに向けて順に、エンドミル回転方向Tを向いて切刃部2の外周から内周側に延びるギャッシュ底面4aと、このギャッシュ底面4aの内周側に交差してエンドミル回転方向Tに延びる第1のギャッシュ壁面4bと、この第1のギャッシュ壁面4bに交差してさらにエンドミル回転方向Tに延びる第2のギャッシュ壁面4cとを備えている。
【0018】
また、切刃部2の周方向において両ギャッシュ4の間には先端逃げ面5が形成されている。この先端逃げ面5も、本実施形態ではギャッシュ4からエンドミル回転方向Tとは反対側に向けて順に、ギャッシュ4のギャッシュ底面4aに交差してエンドミル回転方向Tとは反対側に延びる第1の先端逃げ面5aと、この第1の先端逃げ面5aに鈍角に交差してエンドミル回転方向Tとは反対側に延びる第2の先端逃げ面5bと、この第2の先端逃げ面5bにさらに鈍角に交差してエンドミル回転方向Tとは反対側に延びる第3の先端逃げ面5cとを備えている。
【0019】
さらに、ギャッシュ4のギャッシュ底面4aと、このギャッシュ底面4aの外周縁からエンドミル回転方向Tとは反対側に延びる先端逃げ面5の第1の先端逃げ面5aとの交差稜線部には、軸線O回りの回転軌跡が該軸線O上に中心を有してエンドミル本体1の先端側に凸となる凸半球面状をなす底刃6がそれぞれ形成されている。ここで、一対のギャッシュ4のギャッシュ底面4aの外周縁に形成される一対の底刃6は、
図1に示すようにエンドミル本体1先端部の切刃部2の外周側から内周側に向けて切刃部2先端のエンドミル回転中心を越え、間隔をあけて互いに行き違うように延びて底刃6の内周端Sに達している。また、一対の底刃6の第1の先端逃げ面5a同士の交差稜線部には、エンドミル回転中心を通るチゼル7が形成される。
【0020】
また、切刃部2において上記底刃6の回転軌跡が凸半球面状をなす部分よりも後端側の部分は軸線Oを中心とした概略円柱状に延びて上記首部3の先端に連なっており、ギャッシュ4はこの部分にも連続するとともに、こうして連続したギャッシュ4のギャッシュ底面4aの外周縁からエンドミル回転方向Tとは反対側には、上記先端逃げ面5に連なる外周逃げ面8が形成されていて、この外周逃げ面8とギャッシュ底面4aとの交差稜線部には、底刃6の外周端に連なる外周刃9が形成されている。
【0021】
なお、底刃6と外周刃9は、底刃6の内周端Sから後端外周側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れるように形成されている。また、
図2および
図3に示すようにギャッシュ4の第1のギャッシュ壁面4bは首部3にまで延びて切れ上がっており、こうしてギャッシュ4や先端逃げ面5、外周逃げ面8および底刃6、外周刃9が形成された少なくとも切刃部2および首部3の表面、望ましくはエンドミル本体1全体の表面には硬質皮膜、さらに望ましくはダイヤモンドコーティングが被覆されている。
【0022】
そして、切刃部2先端のエンドミル回転中心周辺において、ギャッシュ4の第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの交差稜線L1と、第2のギャッシュ壁面4cと先端逃げ面5との交差稜線L2とは、
図1に示すように底刃6の内周端Sにおいて交わるように形成されている。ここで、同
図1に示すように軸線O方向先端側から見て、底刃6と、この底刃6の内周端Sにおいて交わる第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの交差稜線L1との交差角αは20°〜50°の範囲とされており、第2のギャッシュ壁面4cと先端逃げ面5(第1の先端逃げ面5a)との交差稜線L2と底刃6との交差角βは60°〜120°の範囲とされている。
【0023】
また、ギャッシュ4の第1のギャッシュ壁面4bと第2のギャッシュ壁面4cとは、
図4に示すように軸線Oに直交する断面において鈍角に凸曲するように交差しているとともに、底刃6の内周端Sから離れるに従い周方向に漸次幅広となるように形成されている。さらに、第2のギャッシュ壁面4cは
図1に示すように先端逃げ面5の第1ないし第3の先端逃げ面5a〜5cのすべてに交差するように形成されていて、交差稜線L2は底刃6の内周端Sから離れるに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に向けて多段に曲折する折れ線状に形成されている。なお、第3の先端逃げ面5cは略平面状とされている。
【0024】
このように構成された2枚刃ボールエンドミルにおいては、ギャッシュ4が、底刃6のすくい面となるギャッシュ底面4aに交差してエンドミル回転方向Tに延びる第1のギャッシュ壁面4bと、この第1のギャッシュ壁面4bに交差してさらにエンドミル回転方向Tに延びる第2のギャッシュ壁面4cとを備えており、これによってエンドミル本体1先端部の切刃部2の外形を、軸線Oを中心とした回転体形状に近い立体形状とすることができる。
【0025】
特に、本実施形態では、これら第1のギャッシュ壁面4bと第2のギャッシュ壁面4cとが軸線Oに直交する断面において凸曲するように交差させられているので、切刃部2の外形は軸線Oを中心とした回転体形状に一層近い立体形状となる。このため、底刃6や外周刃9のエンドミル回転方向Tとは反対側にエンドミル本体1の肉厚を十分に確保することができ、切刃部2の剛性の向上を図ることができる。
【0026】
その一方で、上記構成の2枚刃ボールエンドミルでは、第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの交差稜線L1と、第2のギャッシュ壁面4cと先端逃げ面5との交差稜線L2とが、底刃6の内周端Sにおいて交わるように形成されている。従って、この底刃6の内周端Sが、切刃部2先端におけるエンドミル回転中心周辺での第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの開始点となる。
【0027】
このため、上記底刃6の内周端S周辺において生成された切屑を、第1のギャッシュ壁面4bから第2のギャッシュ壁面4cを介して速やかに排出することができ、切屑排出性の向上を図って切屑詰まりの発生を防止することができる。従って、上記構成の2枚刃ボールエンドミルによれば、このような切屑詰まりに起因する切削抵抗の増大やエンドミル回転中心周辺におけるエンドミル本体1の欠損等を防ぐことができ、超硬合金のような硬質材料に対して長期に亙って安定した加工を行うことが可能となる。
【0028】
また、本実施形態では、これら第1のギャッシュ壁面4bと第2のギャッシュ壁面4cとが、上記底刃6の内周端Sから離れるに従い周方向に漸次幅広となるように形成されており、これによってギャッシュ4による切屑排出空間を、エンドミル回転中心周辺の切刃部2の先端部内周から後端外周側に向けて大きくすることができる。このため、一層の切屑排出性の向上を図ることができ、切屑詰まりによる切削抵抗の増大や欠損の発生をより確実に防止することが可能となる。
【0029】
さらに、本実施形態では、軸線O方向先端側から見たときの底刃6と第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの交差稜線L1との交差角αが20°〜50°の範囲とされており、これによっても切屑排出性を向上しつつ、切刃部2の剛性を確保することが可能となる。すなわち、この交差角αが上記範囲よりも小さいと、底刃6の内周端S側において切屑排出空間が小さくなって切屑排出性を十分に向上させることが困難となるおそれがあり、逆に交差角αが上記範囲よりも大きいと切刃部2がギャッシュ4によって大きく切り欠かれることになって剛性不足を招くおそれがある。
【0030】
また、本実施形態では同様に、軸線O方向先端側から見たときの第2のギャッシュ壁面4cと先端逃げ面5(第1の先端逃げ面5a)との交差稜線L2と底刃6との交差角βが60°〜120°の範囲とされているので、やはり切屑排出性を向上しつつ、切刃部2の剛性を確保することが可能となる。すなわち、この交差角βが上記範囲より小さい場合でも、底刃6の内周端S側の切屑排出空間が小さくなって切屑排出性を十分に向上させることが困難となるおそれがある一方、交差角βが上記範囲より大きくても切刃部2に剛性不足が生じるおそれがある。なお、交差角βは、より望ましくは60°〜120°の範囲とされる。
【0031】
さらにまた、本実施形態では、少なくともエンドミル本体1の先端部である切刃部2および首部3の表面に硬質皮膜、望ましくはダイヤモンドコーティングが被覆されている。このため、超硬合金のような硬質材料の加工においても、この切刃部2の摩耗を抑えることができるので、一層長期に亙って安定した加工が可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 エンドミル本体
2 切刃部
3 首部
4 ギャッシュ
4a ギャッシュ底面
4b 第1のギャッシュ壁面
4c 第2のギャッシュ壁面
5 先端逃げ面
5a 第1の先端逃げ面
5b 第2の先端逃げ面
5c 第3の先端逃げ面
6 底刃
7 チゼル
8 外周逃げ面
9 外周刃
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
S 底刃6の内周端
L1 第1、第2のギャッシュ壁面4b、4cの交差稜線
L2 第2のギャッシュ壁面4cと外周逃げ面5との交差稜線
α 軸線O方向先端側から見たときの底刃6と交差稜線L1との交差角
β 軸線O方向先端側から見たときの底刃6と交差稜線L2との交差角