(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非接触通信媒体におけるセキュリティを高めるため、すなわち、ICインレットの差し替え等の不正な行為が行われることを抑えるためには、非接触通信媒体からのICインレットの取り出しが困難であることが好ましい。しかしながら、2つのシート部材の間にICインレットが挟まれている構成では、非接触通信媒体の有する層構造が単純であるため、層構造内でのICインレットの位置の特定が容易である。そして、非接触通信媒体の表面と裏面とのいずれの面からでも、1つのシート部材を除去することによってICインレットの取り出しが可能であり、また、除去した1つのシート部材を戻すことによって非接触通信媒体の構造を再現することも可能である。
【0006】
また、シート部材の材料として樹脂が用いられているため、製造工程において層の接着等のために加熱が行われると、支持体の収縮が生じることがある。その結果、非接触通信媒体の形状として所望の形状が得られ難くなり、また、ICインレットに対する支持体の位置が所望の位置からずれることも起こり得る。
本発明は、製造工程における収縮の抑制、および、セキュリティの向上を可能とした冊子体用非接触通信媒体、および、冊子体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する冊子体用非接触通信媒体は、冊子体に備えられる非接触通信媒体であって、通信端子を有した非接触通信部を備えるICチップを含むICモジュールと、前記通信端子に電気的に接続されたアンテナと、第1面と前記第1面とは反対側の面である第2面とを有し、前記アンテナを支持するアンテナ基材と、を備えるICインレット、および、前記ICインレットを挟む複数の紙基材を備え、前記アンテナ基材を挟む2つの領域のうち、前記第1面と対向する領域が第1領域であり、前記第2面と対向する領域が第2領域であり、前記複数の紙基材は、前記第1領域に位置する第1紙基材と、前記第2領域に位置する第2紙基材とを含み、前記第1紙基材の数と前記第2紙基材の数とは、互いに異なる。
【0008】
上記構成によれば、ICインレットを挟む基材が紙であるため、ICインレットを挟む基材が樹脂から構成されている場合と比較して、製造工程において加えられる熱による基材の収縮が抑えられる。また、第1紙基材の数と第2紙基材の数とが互いに異なっているため、非接触通信媒体の外観から、非接触通信媒体が有する層構造内でのICインレットの位置を特定することが困難である。また、ICインレットが2つの基材に挟まれている構成と比較して、複数の紙基材が積層されている領域では紙基材を除去することに要する負荷が大きく、また、除去した紙基材を戻して非接触通信媒体の構造を再現することに要する負荷も大きい。したがって、非接触通信媒体のセキュリティが高められる。
【0009】
上記構成において、前記ICモジュールは、平板状を有して前記ICチップを支持するリードフレームと、前記リードフレーム上において前記ICチップを覆う樹脂製の封止部と、を含み、前記アンテナ基材は開口部を有し、前記リードフレームは、前記第1領域に位置し、前記封止部は、前記開口部から前記第2領域に突出し、前記第1紙基材は前記リードフレームを囲む開口部を有し、前記第2紙基材は前記封止部を囲む開口部を有し、前記第2紙基材の数は、前記第1紙基材の数よりも多くてもよい。
【0010】
一般に、リードフレーム上における封止部の厚さは、リードフレームの厚さよりも大きい。したがって、第2紙基材の数が第1紙基材の数よりも多いことによって、リードフレームの位置する部分で非接触通信媒体が窪んだり、封止部の位置する部分で非接触通信媒体が隆起したりすることが抑えられる。
【0011】
上記構成において、非接触通信媒体は、前記冊子体の表紙を構成するカバーシートであって、前記紙基材に接着されたカバーシートを備えてもよい。
上記構成によれば、冊子体の表紙と一体化された非接触通信媒体が好適に実現される。
上記構成において、非接触通信媒体は、前記冊子体の表紙を構成するカバーシートを備え、前記カバーシートは、前記第1領域に位置し、前記第1紙基材の最外面に接着されていてもよい。
【0012】
通常、基材上には非接触通信媒体の層間の接着のための接着層が形成される。こうした接着層には微小な孔であるピンホールが生じていることがあり、これらの孔を通して非接触通信媒体の内部へ液体が侵入してICモジュールおよびアンテナに接触すると、ICモジュールの通信機能の低下およびアンテナの腐食が発生する虞がある。また、ICモジュールとアンテナとの接合部に液体が達した場合、接合部が腐食する虞がある。上記構成によれば、少なくとも第2領域においては、ICインレットに2以上の紙基材が積層されている。それゆえ、ICインレットが2つの基材に挟まれている構成と比較して、接着層が二層以上に形成されるため、ICモジュールやアンテナに接触する位置まで非接触通信媒体の内部へ液体が侵入することが抑えられる。特に、冊子体の表紙を構成するカバーシートが配置される第1領域と比較して、第2領域では、非接触通信媒体において液体の侵入を抑える機能が低いことが多い。したがって、第2紙基材の数が第1紙基材の数よりも多いことによって、非接触通信媒体の内部へ液体が侵入することを抑える効果が高く得られる。
【0013】
上記課題を解決する冊子体は、上記冊子体用非接触通信媒体と、綴じられた複数の中間シートと、を備え、前記複数の中間シートは前記第2領域に位置する。
上記構成によれば、製造工程における収縮の抑制とセキュリティの向上とが可能な非接触通信媒体を備えた冊子体が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冊子体用非接触通信媒体について、製造工程における収縮の抑制、および、セキュリティの向上が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜
図4を参照して、冊子体用非接触通信媒体および冊子体の一実施形態について説明する。
[非接触通信媒体の構成]
<ICインレット>
図1〜
図3を参照して、冊子体用非接触通信媒体の構成について説明する。まず、
図1および
図2を参照して、冊子体用非接触通信媒体が備えるICインレットの構成について説明する。
図1が示すように、ICインレット10は、アンテナ基材11、アンテナ部12、および、ICモジュール13を備えている。
【0017】
アンテナ基材11は、第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面である第2面11Sとを有している。アンテナ基材11は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂等の樹脂からなるフィルムである。また、アンテナ基材11は、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチックを用いた硬質基材であってもよいし、紙製の基材であってもよい。アンテナ基材11の厚さは特に限定されないが、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内で選択される。
【0018】
アンテナ部12は、アンテナ基材11に支持されており、ループ形状を有するループ部12aと、ICモジュール13の有する端子部の1つと電気的に接続された第1接続部12bと、ICモジュール13の有する他の端子部の1つと電気的に接続された第2接続部12cとを含んでいる。ループ部12a、第1接続部12b、および、第2接続部12cは、アンテナ基材11の第1面11Fに位置している。さらに、アンテナ部12は、第2接続部12cとループ部12aの端部とを電気的に接続するジャンパー部12dを含んでいる。ジャンパー部12dは、アンテナ基材11の第2面11Sに位置している。
【0019】
アンテナ部12は、薄膜状の導電性材料から構成されていることが好ましい。薄膜状の導電性材料には、アルミニウム、銅、金、銀等の金属薄膜や金属箔、および、金属材料を含む塗布膜が含まれる。アンテナ部12は、例えば、アンテナ基材11上に配置された金属薄膜や金属箔のエッチングや、金属材料を含む導電性インクの印刷によって形成される。あるいは、アンテナ部12は、パターニングされた触媒層を用いた電解メッキまたは無電解メッキによって形成されてもよいし、パターニングされたマスクを用いた蒸着またはスパッタリングによって形成されてもよい。アンテナ部12は、例えば、20μm以上50μm以下の程度の厚さを有する。
【0020】
アンテナ基材11には、平面視において略矩形形状の貫通孔であるモジュール開口部11aが形成されている。モジュール開口部11aには、ICモジュール13が挿入されている。モジュール開口部11aの位置は、ループ部12aの内側であっても外側であってもよく、すなわち、ICモジュール13は、ループ部12aの内側に配置されていてもよいし、ループ部12aの外側に配置されていてもよい。ループ部12aの径の大きさや巻き数は、ICモジュール13に求められる周波数特性や通信距離等の特性に応じて設定される。
【0021】
第1接続部12bおよび第2接続部12cの線幅は、ループ部12aの線幅よりも大きい。第1接続部12bは、ループ部12aにおける一方の端部から延びて、ICモジュール13に接続されている。また、第2接続部12cにおける一方の端部は、ICモジュール13に接続されている。第1接続部12bと第2接続部12cとは、ICモジュール13を挟んで対向している。
【0022】
ループ部12aの線幅は、第1接続部12bとは反対側の端部にて拡大されている。アンテナ基材11の第1面11Fと対向する方向から見て、ジャンパー部12dにおける一方の端部は、ループ部12aにおける線幅の拡大された端部と重なっており、これらの端部は電気的に接続されている。また、ジャンパー部12dにおける他方の端部は、第2接続部12cにおけるICモジュール13に接続された端部とは反対側の端部と重なっており、これらの端部は電気的に接続されている。
【0023】
ジャンパー部12dの端部とループ部12aの端部とは、例えば、アンテナ基材11の第1面11Fと対向する方向および第2面11Sと対向する方向の両方からこれらの端部に圧力を加えてかしめるクリンピング加工によって、アンテナ基材11を破って物理的に接触させられることにより、電気的に接続されている。あるいは、ジャンパー部12dの端部とループ部12aの端部との間の部分で、アンテナ基材11にスルーホールが形成されるとともにスルーホール内に銀ペースト等の導電性材料が充填されることにより、これらの端部が導電性材料を通じて電気的に接続されてもよい。同様に、ジャンパー部12dの端部と第2接続部12cの端部とは、クリンピング加工やスルーホールの利用によって電気的に接続されている。
【0024】
また、アンテナ基材11には、アンテナ基材11を貫通する貫通孔11bが形成されている。貫通孔11bの数は特に限定されないが、例えば、貫通孔11bは2つ以上設けられている。また、貫通孔11bの位置は特に限定されないが、例えば、貫通孔11bはループ部12aの内側に位置する。
【0025】
図2が示すように、ICモジュール13は、リードフレーム14と、リードフレーム14に実装されたICチップ15と、ICチップ15を封止する封止部16とを備えている。
【0026】
リードフレーム14は、略矩形の平板状を有し、導電性を有している。例えば、リードフレーム14は、薄銅板に銀メッキを施した複合金属から形成されている。
【0027】
リードフレーム14は、ICチップ15を支持するパッド部14aと、ICチップ15が有する非接触通信のための通信端子に電気的に接続された2つの端子部である第1端子部14bおよび第2端子部14cとに区画されている。
【0028】
パッド部14aには、ICチップ15が固定されている。パッド部14aは、第1端子部14bと第2端子部14cとの間に位置し、パッド部14aと第1端子部14bと第2端子部14cとは互いに絶縁されている。第1端子部14bと第2端子部14cとの各々は、例えば、金等からなるボンディングワイヤ17を介してICチップ15の通信端子に接続されている。そして、第1端子部14bには、アンテナ部12における第1接続部12bの端部が固定されており、第2端子部14cには、アンテナ部12における第2接続部12cの端部が固定されている。これにより、アンテナ部12が、ICチップ15の通信端子に電気的に接続されている。
ICチップ15は、非接触通信機能を実現する非接触通信部を備えていれば、その他の構成は特に限定されない。非接触通信部は、上述の通信端子を含む。
【0029】
封止部16は、リードフレーム14上でICチップ15を覆っている。詳細には、封止部16は、さらに、ボンディングワイヤ17、ボンディングワイヤ17と第1端子部14bとの接続部分、および、ボンディングワイヤ17と第2端子部14cとの接続部分を覆っている。封止部16は、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂材料から形成されている。
【0030】
封止部16は、パッド部14aと第1端子部14bとに跨るとともに、パッド部14aと第2端子部14cとに跨る位置に配置されている。そして、封止部16は、パッド部14aと第1端子部14bとの間の隙間を埋め、これによってパッド部14aと第1端子部14bとが絶縁されている。同様に、封止部16は、パッド部14aと第2端子部14cとの間の隙間を埋め、これによってパッド部14aと第2端子部14cとが絶縁されている。なお、パッド部14aと第1端子部14bと第2端子部14cとは、封止部16とは異なる部材を用いて絶縁されていてもよい。
【0031】
リードフレーム14は30μm以上100μm以下の程度の厚さを有し、リードフレーム14上において封止部16は100μm以上200μm以下の程度の厚さを有する。リードフレーム14上における封止部16の厚さは、リードフレーム14の厚さよりも大きい。
【0032】
ICモジュール13においてリードフレーム14上に位置する部分、すなわち、ICチップ15と封止部16とは、アンテナ基材11のモジュール開口部11aに通されている。アンテナ基材11を囲む領域のなかで、アンテナ基材11を挟む2つの領域の一方は、第1面11Fと対向する第1領域R1であり、上記2つの領域の他方は、第2面11Sと対向する第2領域R2である。リードフレーム14は、第1領域R1に位置し、封止部16は、モジュール開口部11aから第2領域R2に突出している。すなわち、第1面11Fと対向する方向からICモジュール13を見たとき、リードフレーム14が視認され、第2面11Sと対向する方向からICモジュール13を見たとき、封止部16が視認される。
【0033】
換言すれば、ICチップ15および封止部16に対してリードフレーム14の位置する側が、アンテナ基材11の第2面11Sに対して第1面11Fの位置する側であり、リードフレーム14に対してICチップ15および封止部16の位置する側が、アンテナ基材11の第1面11Fに対して第2面11Sの位置する側である。
【0034】
なお、封止部16の周囲には、ICモジュール13とモジュール開口部11aとの間を埋める保護部材が配置されていてもよい。また、リードフレーム14に対してICチップ15とは反対側からリードフレーム14を覆う保護部材が配置されていてもよい。これらの保護部材は、例えば樹脂材料から形成される。
【0035】
<非接触通信媒体>
図3を参照して、冊子体用非接触通信媒体の一例であるインレイ部材の構成について説明する。
図3が示すように、インレイ部材20は、上述のICインレット10と、複数の紙基材21とを備えている。インレイ部材20は、ICインレット10が複数の紙基材21に挟まれた構造を有している。
【0036】
紙基材21は、植物繊維から構成されており、具体的には、パルプから形成された基材である。紙基材21の厚さは特に限定されないが、例えば、30μm以上100μm以下の範囲内で選択される。
【0037】
複数の紙基材21には、第1領域R1に位置する第1紙基材21aと、第2領域R2に位置する第2紙基材21bとが含まれる。第1紙基材21aの数と第2紙基材21bの数とは互いに異なっており、第2紙基材21bの数は、第1紙基材21aの数よりも多い。例えば、
図3に示す例では、第1紙基材21aの数は1つであり、第2紙基材21bの数は3つである。
【0038】
第1紙基材21aには、第1紙基材21aを貫通する貫通孔である第1開口部22aが形成されている。第1開口部22a内には、ICモジュール13のリードフレーム14が位置する。すなわち、第1開口部22aは、リードフレーム14を囲んでいる。第2紙基材21bには、第2紙基材21bを貫通する貫通孔である第2開口部22bが形成されている。第2開口部22b内には、ICモジュール13の封止部16が位置する。すなわち、第2開口部22bは、封止部16を囲んでいる。なお、第1開口部22aとリードフレーム14との間の隙間を埋める保護部材や、第2開口部22bと封止部16との間の隙間を埋める保護部材が設けられていてもよい。これらの保護部材は、例えば樹脂材料から形成される。
【0039】
インレイ部材20の厚さ方向に互いに隣り合う紙基材21は、接着層23によって接着されている。また、インレイ部材20の厚さ方向に互いに隣り合う紙基材21とICインレット10とも、接着層23によって接着されている。接着層23を構成する材料としては、例えば、ホットメルト接着剤である熱可塑性の樹脂が用いられる。こうした接着剤の例としては、エチレンビニルアセテート(EVA)系接着剤やポリウレタン系接着剤が挙げられる。接着層23は、例えば、5μm以上100μm以下の程度の厚さを有する。
【0040】
なお、アンテナ基材11において貫通孔11bが位置する部分では、接着層23を介して、第1紙基材21aと第2紙基材21bとが接着される。特にアンテナ基材11が樹脂製である場合には、紙基材21同士の接着力よりも、アンテナ基材11と紙基材21との接着力の方が低い傾向にある。貫通孔11bが位置する部分で紙基材21同士が接着することにより、貫通孔11bが形成されていない構成、すなわち、ICインレット10の全域でアンテナ基材11と紙基材21とが接着されている構成と比較して、インレイ部材20における各層間の接着性が高められる。
【0041】
インレイ部材20は、例えば、以下の製造方法によって製造される。まず、接着層23を構成する樹脂が紙基材21に塗布され、また、ICインレット10が組み立てられる。これにより、接着層23が積層された紙基材21と、ICインレット10とが用意される。そして、ICインレット10を挟むように紙基材21が配置され、紙基材21とICインレット10との積層体が加熱および加圧される。これにより、接着層23を構成する樹脂が溶融し、積層体の各層間が接着される。こうした製造方法によれば、各製造工程が簡便であるため、インレイ部材20の容易な製造が可能であり、製造に要するコストの削減も可能である。また、こうした製造方法は、ロール・トゥ・ロール方式による大量生産にも適している。
【0042】
[冊子体の構成]
図4を参照して、冊子体の構成について説明する。なお、
図4においては、冊子体の構成をわかりやすく示すため、冊子体が含む複数の構成要素を、構成要素間に隙間を空けて示している。また、
図4においては、ICインレット10およびインレイ部材20の構成を簡略化して示している。
【0043】
図4が示すように、冊子体30は、上述のインレイ部材20と、外側カバーシート31と、内側カバーシート32と、中間シート33とを備えている。冊子体30は、例えば、パスポートや通帳等に具体化される。ICチップ15には、例えば、冊子体30の所有者の個人情報等が記憶され、こうした情報は、ICチップ15と外部装置との非接触通信を通じて所有者の身分証明等に用いられる。
【0044】
外側カバーシート31は、第1領域R1に位置し、冊子体30の最外層を構成する層である。外側カバーシート31を構成する材料としては、紙や樹脂が用いられる。外側カバーシート31は、例えば、100μm以上500μm以下の程度の厚さを有する。
【0045】
外側カバーシート31が有する面の一方と、インレイ部材20のなかで第1領域R1に位置する部分における最外面、すなわち、第1紙基材21aの最外面とは、接着層34によって接着されている。
【0046】
内側カバーシート32は、第2領域R2に位置する。内側カバーシート32を構成する材料としては、上質紙等の紙が用いられる。内側カバーシート32は、例えば、100μm以上200μm以下の程度の厚さを有する。
【0047】
インレイ部材20なかで第2領域R2に位置する部分における最外面、すなわち、積層された複数の第2紙基材21bの最外面と、内側カバーシート32が有する面の一方とは、接着層35によって接着されている。接着層34および接着層35を構成する材料としては、例えば、エチレンビニルアセテート(EVA)系接着剤、ポリウレタン系接着剤、エチレンアクリル酸共重合樹脂(EAA)系接着剤、ポリエステル系接着剤等が用いられる。接着層34の材料と接着層35の材料とは互いに異なっていてもよい。
【0048】
冊子体30は、外側カバーシート31が外側に位置し、内側カバーシート32が内側に位置するように、外側カバーシート31とインレイ部材20と内側カバーシート32とを含む積層体がその中央部で折り曲げられた形態で用いられる。すなわち、外側カバーシート31は、冊子体30の表紙を構成し、外側カバーシート31におけるインレイ部材20とは反対側の面が、冊子体30の表面を構成する。
【0049】
詳細には、外側カバーシート31とインレイ部材20と内側カバーシート32とを含む積層体を、外側カバーシート31と対向する方向から見たとき、外側カバーシート31は、互いに隣り合う2つの領域である第1ページ領域S1と第2ページ領域S2とに分けられる。冊子体30して用いられるとき、外側カバーシート31は、第1ページ領域S1と第2ページ領域S2との境界部分で折り曲げられる。
【0050】
外側カバーシート31と対向する方向から見たとき、インレイ部材20が含むICインレット10は、第1ページ領域S1と重なる部分に位置する。第2ページ領域S2と重なる部分には、第1ページ領域S1と重なる部分から延びる紙基材21が位置し、ICインレット10は配置されていない。
【0051】
なお、外側カバーシート31と対向する方向から見て、第1ページ領域S1と第2ページ領域S2との境界部分と重なる部分、すなわち、冊子体30として用いられるときに折り曲げられる部分の少なくとも一部には、インレイ部材20の紙基材21に開口部が設けられていてもよい。あるいは、第1ページ領域S1と第2ページ領域S2との境界部分と重なる部分の少なくとも一部では、インレイ部材20の厚みが薄くされていてもよい。こうした構成によれば、外側カバーシート31とインレイ部材20と内側カバーシート32とを含む積層体の剛性がその中央部で低くなるため、積層体を折り曲げることが容易であり、また、折り曲げられた部分が元の形状に戻ろうとして冊子体30が自然に開くことが抑えられる。
【0052】
なお、外側カバーシート31と対向する方向から見たとき、インレイ部材20は第1ページ領域S1と重なる部分にのみ配置され、第2ページ領域S2においては、外側カバーシート31が内側カバーシート32と貼り合わせられていてもよい。
【0053】
中間シート33は、冊子体30における情報の印字や書き込み等のための用紙として機能する。中間シート33を構成する材料としては、紙や樹脂が用いられる。中間シート33は、例えば、30μm以上200μm以下の程度の厚さを有する。
【0054】
複数の中間シート33は、第2領域R2に位置し、内側カバーシート32に対してインレイ部材20とは反対側に配置されている。複数の中間シート33は重ねられて、その中央部分、すなわち、外側カバーシート31と対向する方向から見て第1ページ領域S1と第2ページ領域S2との境界部分と重なる部分で、固定部材36によって綴じられている。例えば、複数の中間シート33は、固定部材36の一例である糸によって綴じられていてもよいし、固定部材36の他の例である金具が取り付けられることによって綴じられていてもよい。
【0055】
さらに、複数の中間シート33の中央部分は、内側カバーシート32の中央部分に固定されている。例えば、内側カバーシート32の中央部分は、複数の中間シート33の中央部分とともに、固定部材36によって綴じられていてもよいし、綴じられた複数の中間シート33が、接着等によって内側カバーシート32に固定されていてもよい。なお、中間シート33の数は特に限定されず、冊子体30の用途等に応じて適宜設定されればよい。
【0056】
[作用]
本実施形態の冊子体用非接触通信媒体および冊子体の作用について説明する。
本実施形態の冊子体用非接触通信媒体であるインレイ部材20においては、ICインレット10を挟む基材が紙であるため、ICインレット10を挟む基材が樹脂から構成されている場合と比較して、製造工程において加えられる熱による基材の収縮が抑えられる。その結果、インレイ部材20を所望の形状に形成することが容易である。また、ICインレット10に対する紙基材21の位置が所望の位置からずれることも抑えられる。
【0057】
一方で、一般に、紙製の基材は、樹脂製の基材と比較して反りが生じやすいという問題を有している。しかしながら、本実施形態のインレイ部材20は、3層以上の紙基材21が積層された構造を有するため、基材の数が2以下である場合と比較して、紙製の基材を用いる構成であってもインレイ部材20に反りが生じることが抑えられる。また、紙製の基材は、樹脂製の基材と比較して安価であることが多いため、インレイ部材20の製造に要するコストの削減も可能である。
【0058】
また、第1領域R1に位置する第1紙基材21aの数と、第2領域R2に位置する第2紙基材21bの数とが、互いに異なっている。したがって、ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成、すなわち、第1領域R1と第2領域R2とに基材が1つずつ位置する構成と比較して、インレイ部材20が有する層構造内でのICインレット10の位置の特定が困難である。
【0059】
すなわち、紙基材21の厚さは薄いため、インレイ部材20の外観のみによっては、第1領域R1と第2領域R2との各々に配置されている紙基材21の数を把握することは困難である。そのため、インレイ部材20の外観のみによっては、第1領域R1と第2領域R2とのいずれの領域から、いくつの紙基材21を除去すればICインレット10が露出されるかを把握することが困難である。ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成では、第1領域R1と第2領域R2とのいずれの領域からも1つの基材を除去することによってICインレット10を露出させることが可能であることと比較して、本実施形態のインレイ部材20からICインレット10を取り出すことは困難である。
【0060】
また、第1領域R1と第2領域R2との少なくとも一方においては、ICインレット10に2以上の紙基材21が積層されている。それゆえ、ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成と比較して、複数の紙基材21が積層されている領域では、紙基材21の除去に要する負荷が大きく、また、除去した紙基材21を戻すことによってインレイ部材20の構造を再現することに要する負荷も大きい。
したがって、ICインレット10の差し替え等の不正な行為が行われることを抑えることが可能であり、インレイ部材20のセキュリティが高められる。
【0061】
また、ICモジュール13において、リードフレーム14の厚さと封止部16の厚さとは互いに異なるため、第1紙基材21aの数と第2紙基材21bの数とを互いに異ならせることによって、インレイ部材20のなかでICモジュール13が位置する部分に凹凸が形成されることが抑えられる。ICモジュール13が位置する部分に凹凸が形成されていると、凹凸の部分に外力が作用しやすくなるため、ICモジュール13の受ける負荷が大きくなりやすい。これに対し、本実施形態では、インレイ部材20のなかでICモジュール13が位置する部分に凹凸が形成されることが抑えられるため、ICモジュール13が受ける負荷を低減することができる。また、冊子体30の表紙に凹凸が形成されることも抑えられる。
【0062】
具体的には、リードフレーム14上における封止部16の厚さは、リードフレーム14の厚さよりも大きい。したがって、封止部16が突出する第2領域R2の第2紙基材21bの数が、リードフレーム14が位置する第1領域R1の第1紙基材21aの数よりも多いことによって、リードフレーム14の部分でインレイ部材20が窪んだり、封止部16の部分でインレイ部材20が隆起したりすることが抑えられる。特に、リードフレーム14と封止部16との厚さの差を考慮すると、第1紙基材21aの数が1つであり、第2紙基材21bの数が3つである構成では、インレイ部材20のなかでICモジュール13が位置する部分に凹凸が形成されることが的確に抑えられる。
【0063】
また、基材や接着層に形成された微小な孔や基材における繊維間の隙間からインレイ部材20の内部へ、塩分を含んだ水や汗等の液体が侵入してICインレット10に接触すると、ICモジュール13の通信機能の低下やアンテナ部12の腐食が生じる虞がある。また、ICモジュール13とアンテナ部12との接合部に液体が達した場合、接合部が腐食する虞がある。ここで、本実施形態のインレイ部材20では、第1領域R1と第2領域R2との少なくとも一方においては、ICインレット10に2以上の紙基材21が積層され、接着層23の数も2以上である。それゆえ、ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成と比較して、複数の紙基材21が積層されている領域では、外部からICインレット10に接触する位置までインレイ部材20の内部へ液体が侵入することが抑えられる。
【0064】
特に、インレイ部材20に貼り付けられる外側カバーシート31と内側カバーシート32とでは、厚さや材料等の構成の違いに起因して、内側カバーシート32の方が、液体の侵入を抑える機能が低いことが多い。したがって、内側カバーシート32が配置される第2領域R2に位置する第2紙基材21bの数が、外側カバーシート31が配置される第1領域R1に位置する第1紙基材21aの数よりも多いことによって、インレイ部材20の内部へ液体が侵入することを抑える効果が高く得られる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ICインレット10を挟む基材が紙であるため、ICインレット10を挟む基材が樹脂から構成されている場合と比較して、製造工程において加えられる熱による基材の収縮が抑えられる。また、第1紙基材21aの数と第2紙基材21bの数とが互いに異なっているため、ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成と比較して、インレイ部材20の外観から、インレイ部材20が有する層構造内でのICインレット10の位置を特定することが困難である。また、ICインレット10が2つの基材に挟まれている構成と比較して、複数の紙基材21が積層されている領域では、紙基材21を除去することに要する負荷が大きく、また、除去した紙基材21を戻してインレイ部材20の構造を再現することに要する負荷も大きい。したがって、インレイ部材20のセキュリティが高められる。
【0066】
(2)第2紙基材21bの数が第1紙基材21aの数よりも多いことによって、リードフレーム14の部分でインレイ部材20が窪んだり、封止部16の部分でインレイ部材20が隆起したりすることが抑えられる。
【0067】
(3)第2紙基材21bの数が第1紙基材21aの数よりも多いことによって、外側カバーシート31よりも液体の侵入を抑える機能が低い内側カバーシート32の位置する第2領域R2にて、外部からICインレット10に接触する位置までインレイ部材20の内部へ液体が侵入することが抑えられる。
【0068】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・冊子体用非接触通信媒体は、冊子体の一部分を構成する部材であって、インレイ部材20を含む構成を有していればよい。すなわち、冊子体用非接触通信媒体は、上記実施形態のようにインレイ部材20のみから構成されてもよいし、インレイ部材20に加えて外側カバーシート31を備えていてもよいし、インレイ部材20に加えて内側カバーシート32を備えていてもよい。
【0069】
・第1紙基材21aの数と第2紙基材21bの数との各々は、上記実施形態と異なっていてもよい。第2紙基材21bの数が第1紙基材21aの数よりも多い構成であれば、上記(2)および(3)の効果は得られる。また、第2紙基材21bの数は第1紙基材21aの数よりも少なくてもよく、第1紙基材21aの数と第2紙基材21bの数とが互いに異なっていれば、上記(1)の効果は得られる。
【0070】
・外側カバーシート31は、複数の層を有していてもよい。例えば、外側カバーシート31は、紙もしくは樹脂から構成された基材と、基材上に印刷された印刷層とを有していてもよい。また、外側カバーシート31は、マイクロ文字や回折格子を構成する層のように、冊子体30の偽造を困難にするための層を有していてもよい。また、外側カバーシート31には、エンボス加工のように、冊子体30の偽造を困難にするための加工が施されていてもよい。同様に、内側カバーシート32は、複数の層を有していてもよい。内側カバーシート32は、冊子体30の偽造を困難にするための層を有していてもよいし、内側カバーシート32には、冊子体30の偽造を困難にするための加工が施されていてもよい。
【0071】
・インレイ部材20において最も外側に位置する第2紙基材21bが、内側カバーシート32として機能してもよい。すなわち、冊子体30は、インレイ部材20とは別体の内側カバーシート32を有していなくてもよい。こうした場合等には、最も外側に位置する第2紙基材21bには第2開口部22bが形成されておらず、第2紙基材21bがICモジュール13を覆っていてもよい。また、こうした場合に限らず、第1紙基材21aには第1開口部22aが形成されていなくてもよいし、第2紙基材21bには第2開口部22bが形成されていなくてもよい。ただし、上述のように、インレイ部材20のなかでICモジュール13が位置する部分に凹凸が形成されることを抑えるためには、紙基材21に形成された開口内にICモジュール13が配置されることが好ましい。
【0072】
・インレイ部材20の最外層を構成する紙基材21に、インレイ部材20の偽造を困難にするための層である偽造防止層が積層されていてもよい。偽造防止層としては、例えば、マイクロ文字や微細画像を構成する層、回折格子を構成する層、紫外線の照射により視認可能となる潜像を構成する層等が挙げられる。偽造防止層は、第1領域R1に配置されていてもよいし、第2領域R2に配置されていてもよい。偽造防止層は、インレイ部材20を構成する紙基材21の最外面の一部に配置される。
【0073】
また、偽造防止層は、複数の紙基材21に挟まれていてもよい。すなわち、偽造防止層は、2つの第1紙基材21aの間に位置してもよいし、2つの第2紙基材21bの間に位置してもよい。
【0074】
偽造防止層の形成方法は、偽造防止層の構成に応じて選択されればよい。偽造防止層が印刷によって形成される場合、偽造防止層の形成される紙基材21が紙であるため、樹脂製の基材に偽造防止層を形成する場合と比較して、偽造防止層を容易に形成することができる。
【0075】
・ICインレット10は、ICモジュール13と、ICチップ15の通信端子に電気的に接続されたアンテナであるアンテナ部12と、アンテナ部12を支持するアンテナ基材11とを備えていれば、上記実施形態とは異なる構成を有していてもよい。例えば、アンテナ部12の構成や配置は上記実施形態と異なっていてもよいし、アンテナ部12は、アンテナ基材11上に固定された金属線からなるアンテナを含んでいてもよい。また、アンテナ基材11には貫通孔11bが設けられていなくてもよい。