(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記道路規則情報取得手段は、自車両が走行中の道路の道路標識を認識して得られる道路標識情報と、自車両の位置に応じた道路地図情報と、自車両の外部との通信によって得られる通信情報との少なくとも何れかの情報から道路規則情報を取得する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の自動運転装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、追い越し禁止の規則には、「追い越しのための車線右側部分はみ出し通行禁止(はみ出し禁止)」、つまり、「車線右側部分にはみ出さなければ追い越すことは可能」という規則と、「車線からのはみ出しの有無に関わらず追い越してはいけない(完全な追い越し禁止、以下、単に、「追い越し禁止」とも言う)」という規則とがある。
【0006】
特許文献1の技術では、上記の「はみ出し禁止」と「追い越し禁止」との差異に着目していないが、「はみ出し禁止」のように、右側部分にはみ出さないことを条件に追い越しが可能な区間において、交通規則を遵守できる範囲でドライバの追い越し意思に答えることができれば、利便性が向上する。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、追い越しのための車線からのはみ出し通行禁止の区間において、交通規則を遵守できる範囲で追い越しを実施できるようにした、車両の自動運転装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の車両の自動運転装置は、自車両の走行中に、自車両の走行情報と自車両が走行する周囲情報とから追い越しの要否を判定する追い越し要否判定手段と、前記追い越し要否判定手段により追い越しが必要であると判定されたら、自車両の操舵及び車速を自動で制御して追い越し制御を実施する追い越し制御手段と、を有する車両の自動運転装置であって、自車両が走行中の道路の追い越しに関する道路規則情報を取得する道路規則情報取得手段と、前記道路規則情報取得手段によって前記追い越し制御を実施する道路区間が、自車両が走行中の車線をはみ出しての追い越しを禁止するはみ出し禁止区間であるとの情報が取得されると、前記車線の幅と前記追い越し制御による追い越し対象物の幅及び種類とに応じて、自車両が前記車線をはみ出さずに追い越しをできるか否かを判定する特定追い越し判定手段と、前記特定追い越し判定手段により、自車両が前記車線をはみ出さずには追い越しが不可能であると判定されたら、前記追い越し制御手段による追い越しを禁止し、自車両が前記車線をはみ出さずに追い越しが可能であると判定されたら、前記追い越し制御手段による前記車線をはみ出さずに行なう特定追い越し制御を許可する、追い越し規制手段と、を有していることを特徴としている。
【0009】
(2)前記特定追い越し判定手段は、前記車線内の前記追い越し対象物の
側縁とはみ出し禁止対象の道路白線との道路幅方向距離である残余幅を演算し、
前記追い越し時の安全性を確保するための道路幅方向へ余裕分の距離である余裕代を前記追い越し対象物に応じて設定し、前記残余幅から
前記余裕代を減算した値である補正残余幅が自車両の車幅よりも大きいと自車両が前記車線をはみ出さずに追い越しが可能であると判定し、前記補正残余幅が自車両の車幅以下であると自車両が前記車線をはみ出さずには追い越しが不可能であると判定することが好ましい。
【0010】
(3)前記追い越し対象物には、自動車,二輪車及び自転車を含む車両と、歩行者とが含まれ、前記追い越し対象物が歩行者の場合には、車両の場合よりも前記余裕代が大きな値に設定されることが好ましい。
(4)この場合、前記追い越し対象物が車両の場合には、小型若しくは軽量の車両ほど前記余裕代が大きな値に設定されることが好ましい。
【0011】
(5)前記追い越し規制手段は、前記追い越し対象物の種類に応じて、追い越し時の前記追い越し対象物との相対速度を制限することが好ましい。
【0012】
(6)前記道路規則情報取得手段は、自車両が走行中の道路の道路標識を認識して得られる道路標識情報と、自車両の位置に応じた道路地図情報と、自車両の外部との通信によって得られる通信情報との少なくとも何れかの情報から道路規則情報を取得することが好ましい。なお、道路標識については交通標識とも呼ぶ。
【0013】
(7)自車両を操舵する操舵アクチュエータと、自車両の速度を操作する速度操作アクチュエータ(スロットルアクチュエータ,ブレーキアクチュエータ)と、自車両の周囲情報を取得する周囲情報取得手段と、自車両の走行情報を検出する走行情報検出手段と、をさらに有し、前記追い越し制御手段は、前記周囲情報取得手段による取得された前記周囲情報と、前記走行情報検出手段による検出された前記走行情報とに基づいて、前記操舵アクチュエータ及び前記速度操作アクチュエータの作動を制御して前記追い越し制御を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、追い越し制御を実施する道路区間が走行中の車線をはみ出しての追い越しを禁止するはみ出し禁止区間である場合、自車両が車線をはみ出さずに追い越しをできるか否かを判定し、自車両が車線をはみ出さずには追い越しが不可能であると判定されたら追い越しを禁止し、自車両が車線をはみ出さずに追い越しが可能であると判定されたら車線をはみ出さずに行なう特定追い越し制御を許可するので、はみ出し禁止という道路規則を遵守できる範囲で、自動での追い越し制御を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態としての車両の自動運転装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0017】
〔1.自動運転装置の構成〕
図1に示すように、車両(「自車両」ともいう)には、自動運転装置100による自動運転に係る制御対象要素として、走行駆動源としてのエンジン(内燃機関)1と、ブレーキ装置2と、ステアリング装置3とが備えられている。そして、自動運転装置100の構成要素として、エンジン1を制御するエンジンECU(エンジン制御装置)10と、ブレーキ装置2を制御するブレーキECU(ブレーキ制御装置)20と、ステアリング装置3を制御するステアリングECU(ステアリング制御装置)30と、エンジンECU10,ブレーキECU20,ステアリングECU30を制御して自動運転を実施する自動運転ECU(自動運転制御装置)40とが備えられている。
【0018】
エンジンECU10は、エンジン1のスロットルバルブ11の開度を変更するスロットルアクチュエータ(速度操作アクチュエータ)12を出力要求量に応じて作動させ、スロットルバルブ11の開度を制御してエンジン1の出力を調整する。ドライバの運転操作に応じた非自動運転時には、アクセルペダル(図示略)の操作量がエンジンECU10に出力要求量として入力されるが、自動運転時には、自動運転ECU40から演算された出力要求量がエンジンECU10に入力される。
【0019】
ブレーキECU20は、マスタシリンダ21に油圧を発生させるブレーキアクチュエータ(速度操作アクチュエータ)22を制御する。マスタシリンダ21では、非自動運転時には、運転者によるブレーキペダル操作に応じて油圧が発生し、自動運転時には、運転者によるブレーキペダル操作が無くても、自動運転ECU40からの指令によりブレーキECU20を通じてブレーキアクチュエータ22の作動が制御され、自動運転ECU40で演算された必要制動力に応じた油圧が発生する。マスタシリンダ21で発生した油圧は各車輪のブレーキ装置を作動させ車輪(図示略)に制動力を作用させる。
【0020】
ステアリングECU30は、操舵力伝達系(例えばステアリングシャフト)31へ操舵トルクを付与して操舵輪を転向又は保舵するステアリングアクチュエータ32を制御する。非自動運転時には、運転者がステアリングハンドルに加える操舵操作に応じて操舵輪が転向又は保舵される(通常、パワーステアリング装置による操舵力アシストも加わる)が、自動運転時には、自動運転ECU40からの指令によりステアリングECU30を通じてステアリングアクチュエータ32の作動が制御され、自動運転ECU40で演算された必要操舵操作に応じて操舵輪が転向又は保舵される。
【0021】
自動運転ECU40は、自動運転スイッチ41がオン操作され、自動運転モードが設定されていると、ドライバの運転操作が無くても、車速制御や操舵制御によって車両を自動運転により走行させる。自動運転モードでは、目的地までの道路が選定されると、ナビゲーションシステムにしたがって選定された道路を、自動運転が可能な範囲で自動運転により走行する。
【0022】
この自動運転に係る制御には、車速制御に関しては、走行中の道路に応じて規定された車速に応じた設定車速を維持する定車速走行制御、先行車がいる場合に設定車速以内で先行車を追尾する先行車追尾制御等が用意されている。操舵制御に関しては、定車速走行制御時や先行車追尾制御時に、走行中の車線(以下、走行レーンとも言う)をキープして走行するレーンキープ制御や、隣接する車線(以下、隣接レーンとも言う)にレーンチェンジするレーンチェンジ制御等が用意されている。また、レーンチェンジ制御と車速制御とを組み合わせて実施される追い越し制御(自動追い越し制御とも言う)や合流制御等も用意されている。
【0023】
自動運転モードでは、先行車がいなければレーンキープ制御と定車速走行制御が行なわれ、定車速走行制御での設定車速未満の先行車がいればレーンキープ制御と先行車追尾制御が行なわれる。定車速走行制御や先行車追尾制御では、基本的にレーンキープ制御によって同一レーンを走行するが、先行車追尾制御中に、追い越し実施条件が成立したら、追い越し要否判定部(追い越し要否判定手段)40aで追い越しが必要であると判定して、追い越し制御部(追い越し制御手段)40bにより追い越し制御を実施する。
【0024】
追い越し実施条件とは、追い越し許可スイッチ41aのオン設定等により追い越し制御が許可されていること(追い越し許可条件)、追い越し対象の先行車の車速が設定車速未満であって自車両が設定車速以内で走行しながら追い越しが可能なこと(追い越し可能条件)、追い越しレーンの所要の領域に先行車や後続車等がいない又は進入しようとしてもいないこと(追い越し可能条件)等の各条件が何れも成立することである。また、追い越し許可条件としては、追い越し許可スイッチのオン設定がされていなくても、ドライバが追い越しレーンの方向にウインカ(方向指示機)42を操作した場合には、追い越し制御が許可されたものとする。
【0025】
自動運転ECU40が、上記の定車速走行制御、先行車追尾制御、レーンキープ制御、レーンチェンジ制御、追い越し制御、合流制御等を行なうために、自車両の周囲情報を取得する周囲情報取得手段50と、自車両の走行情報を検出する走行情報検出手段60と、自車位置情報検出手段70とが装備され、周囲情報取得手段50で取得された周囲情報や走行情報検出手段60で検出された走行情報や自車位置情報検出手段70で検出された自車位置情報が自動運転ECU40に入力される。
【0026】
周囲情報取得手段50には、具体的には、カメラ51やレーダ52等があり、カメラ51からは、自車両が走行中の走行レーンを規定する道路白線(黄色線等の他の色の線を含む)や、先行車両等や、ガードレールなどの周辺の構造物等の画像情報が入力され、レーダ52からは、先行車両等や、ガードレールなどの周辺の構造物等の画像情報が入力される。なお、レーダ(Radar)に替えて又は加えてライダ(LIDER:LaserImaging Detection and Ranging)を備えてもよい。
【0027】
自動運転ECU40は、これらのカメラ51やレーダ52等からの周囲情報に基づいて、道路白線や先行車両等や周辺の構造物等の自車両に対する位置を所定周期で把握する。道路白線認識や周辺の構造物等の認識に基づいて、自車位置を基準とした走行レーンや隣接レーン等の位置や形状を把握して、先行車両等の認識に基づいて、自車位置を基準とした先行車両等の位置や種別(大きさや形状)を把握して、先行車追尾制御、レーンキープ制御、レーンチェンジ制御、追い越し制御等の自動運転に係る制御を行なう。
【0028】
自車両の走行情報には、自車両の車速V,加速度AC,操舵角θh,ヨーレートγ等があり、走行情報検出手段60には、具体的には、車速Vを検出する車速センサ61、加速度ACを検出する加速度センサ62,操舵角θhを検出する操舵角センサ63、ヨーレートγを検出するヨーレートセンサ64等がある。
【0029】
自動運転ECU40では、エンジンECU10によるエンジン1の出力調整や、ブレーキECU20による制動力の調整や、ステアリングECU30による操舵は、車速V,加速度AC,操舵角θh,ヨーレートγ等の走行情報に基づいて行なう。
【0030】
自動運転制御の一つである定車速走行制御では、車速センサ61で検出された車速Vに基づくフィードバック制御を主体にエンジン1の出力調整を行ない、先行車追尾制御では、車速Vと周囲情報取得手段50からの情報に基づく先行車両との車間距離に基づくフィードバック制御を主体にこれに適宜加速度ACを加味してエンジン1の出力調整やブレーキECU20による制動力の調整を行なう。また、レーンキープ制御やレーンチェンジ制御では、操舵角センサ63で検出された操舵角θhに基づくフィードバック制御を主体にこれに適宜ヨーレートγを加味してステアリングECU30による操舵を行ない、追い越し制御では、車速V,操舵角θhに基づくフィードバック制御を主体として車速制御(エンジン出力調整や制動力調整)と操舵を行なう。
【0031】
自車位置情報検出手段70は、公知のナビゲーションシステムが適用されており、例えばGPS衛星から発信された電波をGPS受信機で受信し、受信した電波の情報に基づいて現在位置を検出して、CD、DVD、HDD等のメモリ(記憶手段)に予め記憶されている地図データ71上に自車位置を特定する。なお、ナビゲーションシステム70のメモリに記憶されている地図データ71には、道路地図情報に、後述の道路規則情報を含んだ様々な付帯情報が添付されており、自動運転ECU40による自動運転にも利用される。
【0032】
〔2.追い越し制御に関する構成〕
本自動運転装置では、上記の自動運転制御のうちの追い越し制御に関して特有の制御を行なう。追い越し制御に係る装置構成は、自動運転ECU40の機能要素として設けられた上記の追い越し要否判定部40a及び追い越し制御部40bとを備えるほかに、追い越しに関する道路規則情報を取得する道路規則情報取得部(道路規則情報取得手段)80と、自動運転ECU40の機能要素として設けられた特定追い越し判定部(特定追い越し判定手段)40c及び追い越し規制部(追い越し規制手段)40dとを備えている。
【0033】
追い越し要否判定部40aは、上記のように、自車両の走行中に自車両の走行情報と自車両が走行する周囲情報とから追い越しの要否を判定する。つまり、前記の追い越し許可条件及び各追い越し可能条件が何れも成立しているか否かを判定し、これらが何れも成立していれば追い越しが必要であると判定し、そうでなければ追い越しは不要であると判定する。
【0034】
追い越し制御判定部40bは、上記のように、レーンチェンジ制御と車速制御とを組み合わせて追い越し制御を実施する。追い越し制御には、通常追い越し制御と特定追い越し制御とがある。通常追い越し制御では、まず、レーンチェンジ制御によって、そのときの走行レーンから右側の隣接レーン(追い越しレーン或いは対向レーン)にレーンチェンジし、このときのレーンチェンジ制御と並行してエンジン出力を調整して車速を上昇させる。そして、左側の隣接レーン(自車両が直前に走行していたレーン)を走行している先行車を追い抜いたら、左側の隣接レーンに戻るようにレーンチェンジし、この後、エンジン出力を調整して定速走行制御或いは先行車追尾制御に復帰する。
【0035】
道路規則情報取得部80は、自車両が走行中の道路の道路標識(交通標識)を認識して得られる道路標識情報(交通標識情報)と、自車両の位置に応じた道路地図情報と、自車両の外部との通信によって得られる通信情報との何れかの情報から、自車両が走行中の道路の追い越し、特に、「はみ出し禁止」に関する道路規則情報を取得する。
【0036】
道路規則情報取得部80では、このように道路標識情報,道路地図情報及び通信情報の複数の情報経路から道路規則情報を取得しており、例えば、所要の道路規則情報を道路標識情報から取得できなければ道路地図情報から取得し、道路地図情報からも取得できなければ通信情報から取得することができる。もちろん、道路標識情報,道路地図情報及び通信情報の何れか一つ又は二つ、或いは他の情報取得経路によって道路標識情報を取得するように構成してもよい。
【0037】
道路規則情報取得部80では、道路標識情報については、TSRシステム(Traffic Sign Recognition system、交通標識認識システム又は道路標識認識システム)81により、はみ出し禁止に関する道路規則情報を取得する。TSRシステム81は、走行中にカメラ51で制限速度、進入禁止、一時停止、追い越し禁止等の道路標識(交通標識)を読み取って認識し、その情報を車内のディスプレイに表示したり、警告音等でドライバに警告したりして、ドライバに安全運転を促す。なお、停車中の車両などの車線上の障害物の追い越しは禁止されていないので、追い越し対象が障害物であれば本特定追い越し制御の対象から除外する。
【0038】
道路標識情報のうち、追い越し禁止に関する標識情報には、「追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止(はみ出し禁止)」、つまり、「走行中の走行レーンの右側部分にはみ出さなければ追い越すことは可能」という規則を表示した道路標識と、「例え走行レーンの右側部分にはみ出さなくても追い越してはいけない(完全な追い越し禁止、以下、単に、「追い越し禁止」とも言う)」という規則を表示した道路標識とがある。TSRシステム81はこれらを識別して認識することができる。
【0039】
道路規則情報取得部80では、道路地図情報については、上記のナビゲーションシステム70に記憶されている地図データ71より取得する。この地図データ71には、道路地図情報に、はみ出し禁止と完全な追い越し禁止とを識別した追い越し禁止に関する道路規則情報を含んだ付帯情報が添付されている。道路規則情報取得部80では、こうして地図データ71から自車両が走行中の道路のはみ出し禁止に関する道路規則情報を取得することができる。
【0040】
道路規則情報取得部80では、通信情報については、路車間通信システム82等によって取得する。路車間通信システム82によれば路車間通信によって自車両の外部から道路規則情報を含んだ情報が遂次送信され、この道路規則情報には、はみ出し禁止に関する道路規則情報が含まれ、道路規則情報取得部80では、こうして通信情報から自車両が走行中の道路のはみ出し禁止に関する道路規則情報を取得する。
【0041】
特定追い越し判定部40cでは、道路規則情報取得部80によって追い越し制御を実施する道路区間が、自車両の走行レーンをはみ出しての追い越しを禁止するはみ出し禁止区間であるとの情報が取得されると、走行中のレーンにおいて、追い越し制御による追い越し対象物のレーン幅方向の位置,幅及び種類とはみ出し禁止対象の道路白線位置に応じて、自車両が走行レーンをはみ出さずに追い越しを行なう特定追い越し制御ができるか否かを判定する。
【0042】
図2は特定追い越し制御を説明する走行路90の平面図であり、自車両92が複数記載されるが、これらは走行路90の走行方向左側の路側位置に付記する数字の順で時系列的に進行する各シーンにおける自車両92の状態を示す。
図2の詳細は後述するが、
図2に示すように、走行中のレーンL1の幅W
L1に余裕があり且つ追い越し対象物91の位置は走行レーンL1の左に寄っていて更に追い越し対象物91の幅が小さい場合には、自車両92が走行レーンL1をはみ出さずに追い越しをすることができる。この場合は、はみ出し禁止の規則を遵守しながら追い越しを実施することができる。
【0043】
はみ出し禁止対象の道路白線(通常、黄色線)93及び追い越し対象物91の位置は、走行中にカメラ51で読み取って認識した道路情報から把握する。追い越し対象物91の幅及び種類も、走行中にカメラ51で読み取って認識した追い越し対象物の画像情報から推定する。この追い越し対象物91には、車両と、歩行者とが含まれ、また、車両には、四輪自動車及び二輪自動車(原動機付自転車も含む)等の自動車類と、自転車等の軽車両とが含まれ、追い越し対象物の画像情報からこれら対象物の種類を判別すると共に、対象物91の位置,幅の大きさを推定する。
【0044】
特定追い越し判定部40cは、走行レーンL1内において追い越し対象物91の右側方の残余幅(追い越し対象物91の右側縁とはみ出し禁止対象の道路白線との道路幅方向距離)Wrを演算し、この残余幅Wrから余裕代(クリアランス)Wcを減算した減算値である補正残余幅Ws(=Wl−Wc)と自車両の車幅Wvとを比較し、
図3(a)に示すように、補正残余幅Wsが自車両の車幅Wvよりも大きい(Ws>Wv)と自車両が車線をはみ出さずに追い越しが可能であると判定し、
図3(b)に示すように、補正残余幅Wsが自車両の車幅Wv以下である(Ws≦Wv)と自車両が車線をはみ出さずには追い越しが不可能であると判定する。
【0045】
ここで、余裕代Wcは、追い越し対象物が歩行者の場合には、車両の場合よりも大きな値に設定される。また、余裕代Wcは、追い越し対象物が車両の場合には、小型若しくは軽量の車両ほど大きな値に設定される。つまり、追い越し対象物が車両の場合、余裕代Wcは、軽車両の方が自動車類よりも大きな値に設定され、二輪自動車の方が四輪自動車よりも大きな値に設定される。これらの設定は、追い越し時の安全性を確保するためである。
【0046】
追い越し規制部40dでは、特定追い越し判定部40cにより、自車両が車線をはみ出さずには追い越しが不可能であると判定されたら、追い越し制御部40bによる追い越しを禁止し、自車両が車線をはみ出さずに追い越しが可能であると判定されたら、追い越し制御部40aによる特定追い越し、即ち、自車両が走行中のレーンをはみ出さずに追い越しを行なう特定追い越し制御を許可する。
【0047】
また、本実施形態の追い越し規制部40dでは、追い越し対象物の種類に応じて、追い越し時の追い越し対象物との相対速度を制限する。この相対速度の制限値は、追い越し対象物が歩行者の場合には、車両の場合よりも小さな値に設定される。この相対速度の制限値は、追い越し対象物が車両の場合には、小型若しくは軽量の車両ほど小さな値に設定される。つまり、追い越し対象物が車両の場合、相対速度の制限値は、軽車両の方が自動車類よりも小さな値に設定、二輪自動車の方が四輪自動車よりも小さな値に設定される。これらの設定も、追い越し時の安全性を確保するためである。さらに、この相対速度の制限値を追い越し時に想定される自車両と追い越し対象物との間隔(幅方向の距離)に応じて、間隔が小さいほど相対速度の制限値を小さく(制限を厳しく)するようにしてもよい。
【0048】
ここで、特定追い越し制御を実施する例を、
図2を参照して説明する。走行中、道路標識情報,道路地図情報及び通信情報の何れかから、走行路90が「はみ出し禁止領域」であることを認識し(シーン1)、その後、走行中のレーンL1の前方に追い越し対象物91を認識する(シーン2)。その後は、特定追い越し制御ができるか否かを判定する(シーン3)。特定追い越し制御ができると判定されると、自車両92の目標走行ライン(自車両92が特定追い越し走行するレーン幅方向位置での走行基準線)TMLを走行中のレーンL1内の右側の補正残余幅Ws内に設定する。
【0049】
なお、特定追い越し制御ができるか否かの判定は、シーン3で特定追い越し制御ができると判定された後も所定の制御周期で実施され、目標走行ラインTMLも所定の制御周期で更新される。この判定や更新は、追い越し対象物91の追い越しを開始する直前まで行われ、補正残余幅Wsの変化によっては特定追い越し制御ができないと変更されることもあり、また、特定追い越し制御ができる場合であっても、目標走行ラインTMLが変更されることもある。
【0050】
特定追い越し制御が許可され、自車両92が追い越し対象物91に制御開始距離まで接近すると、追い越し制御判定部40bは特定追い越し制御を実施する。特定追い越し制御では、操舵制御によって自車両92がこの目標走行ラインTMLを走行するように操舵制御を行なう(シーン4)。このときには同時に、エンジン出力を調整して車速を調整する。この車速調整は、追い越し時の自車両92と追い越し対象物91との相対速度が、追い越し対象物91の種類に応じて制限されるので、これに応じると共に、自車両92の車速が規定された車速上限値(例えば法定制限車速)を超えないように行なう。
【0051】
そして、自車両92が左側の追い越し対象物91を追い抜いたら(シーン5)、操舵制御によって自車両のレーン幅方向位置をレーン内中央寄りの通常走行ラインSMLに移動させ(シーン6)、この後、エンジン出力を調整して定速走行制御或いは先行車追尾制御に復帰する(シーン7)。
【0052】
なお、特定追い越し制御が許可されても、特定追い越し制御を実施するタイミングで追い越し側(右側)の隣接レーンに車両等が走行してくる場合が想定される。この場合の隣接レーンとは、対向車線の場合や追い越し車線である。本実施形態では、この場合には、隣接レーンの車両との安全性を確保するために、走行してくる車両が通過するまで待って特定追い越し制御を実施することとする。
【0053】
また、特定追い越し制御においても通常追い越し制御においても、制御開始後に、追い越し対象物91やその他の周囲車両等が予測と異なる挙動を取った場合、追い越しに影響があるかを判断し、追い越しを中止し元の位置に戻して定速走行制御或いは先行車追尾制御に復帰するか、或いは一時的に加速して追い越しを速やかに完了させて定速走行制御或いは先行車追尾制御に復帰するように構成することが望ましい。
【0054】
〔3.作用及び効果〕
本実施形態に係る車両の自動運転装置は、上述のように構成されているので、自車両の走行レーンをはみ出しての追い越しを禁止するはみ出し禁止区間において、
図4のフローチャートに示すように、自動運転による追い越し制御を実施することができる。なお、
図4のフローチャートは車両のキースイッチがオン状態の間は所定の制御周期で実施されるが、通常追い越し制御又は特定追い越し制御が開始されたら、各制御が終了するまではこのフローから外れて、それぞれの制御フロー(図示略)に従って追い越し制御処理を実施するものとする。
【0055】
まず、追い越しの要否を判定する(ステップS10)。追い越しの要否は、前記追い越し実施条件が成立していれば追い越しが必要であると判定し、前記追い越し実施条件が成立していなければ追い越しが不要であると判定する。追い越しが不要であれば、追い越し制御は実施しない。追い越しが必要であれば、追い越し制御を実施する道路区間が、はみ出し禁止区間であるか否かを判定する(ステップS20)。この判定は、道路標識情報,道路地図情報及び通信情報に基づき行ない、何れかの情報ルートから走行中の道路がはみ出し禁止区間であるとの情報を取得したら、はみ出し禁止区間であると判定する。
【0056】
はみ出し禁止区間でなければ通常追い越し制御を実施し(ステップS30)、はみ出し禁止区間であれば、追い越し禁止対象の道路白線の位置及び追い越し対象物の位置と追い越し対象物の幅とを算出すると共に追い越し対象物の種類を推定し(ステップS40)、これに基づいて追い越し対象物の右側方の残余幅Wrを演算し、追い越し対象物に応じた余裕代Wcを設定する(ステップS50)。さらに、残余幅Wrから余裕代Wcを減算し補正残余幅Ws(=Wr−Wc)を算出する(ステップS60)。
【0057】
そして、補正残余幅Wsと自車両の車幅Wvとを比較して、自車両が走行レーンをはみ出さずに追い越しをできるか否かを判定する(ステップS70)。ここで、自車両が走行レーンをはみ出さずに追い越しをできなければ追い越し制御は実施しない。一方、自車両が走行レーンをはみ出さずに追い越しをできれば、自車両92が走行中のレーン内の右側の補正残余幅Ws内を追い越し走行するように目標走行ラインTMLを設定し(ステップS80)、追い越し時の追い越し対象物との相対速度の制限値を、追い越し対象物の種類に応じて設定して(ステップS90)、自車両の走行レーンをはみ出さずに追い越しを行なう特定追い越し制御を実施する(ステップS100)。
【0058】
特定追い越し制御では、操舵制御によって自車両92のレーン幅方向位置を目標走行ラインTMLに移動させ、このときの操舵制御と並行してエンジン出力を調整して車速を調整する。この特定追い越し時には、追い越し対象物の種類に応じて、追い越し時の追い越し対象物との相対速度が制限されるので、制限された相対速度に基づいて上記車速調整を行なう。そして、左側の追い越し対象物を追い抜いたら、操舵制御によって自車両のレーン幅方向位置をレーン内中央寄りの通常走行ラインSMLに移動させ、この後、エンジン出力を調整して定速走行制御或いは先行車追尾制御に復帰する。
【0059】
このように、本自動運転装置によれば、はみ出し禁止という道路規則を遵守できる範囲で、自動での追い越し制御を実施することができる。
このとき、余裕代Wcを与えて、自車両がこの余裕代Wcだけ追い越し対象物から離れた位置を走行しながらレーン内での追い越しを行なうので、追い越し時の安全性が確保される。
【0060】
特に、追い越し対象物が歩行者の場合には、余裕代Wcが車両の場合よりも大きな値に設定されるので、自車両と歩行者との間に十分な距離をあけて追い越しを行なうことができ、追い越し時における歩行者の安全性を確保することができる。
【0061】
また、追い越し対象物が車両の場合、余裕代Wcは、自転車等の軽車両の方が自動車類よりも大きな値に設定され、二輪自動車の方が四輪自動車よりも大きな値に設定されるなど、小型若しくは軽量の車両ほど大きな値に設定される。したがって、自転車等に対しては十分な距離をあけて追い越しを行なうことができ、追い越し時における自転車等の安全性を確保することができる。また、二輪自動車に対しても比較的距離をあけて追い越しを行なうことができ、追い越し時における二輪自動車の安全性を確保することができる。
【0062】
さらに、特定追い越し制御の際には、追い越し対象物の種類に応じて、追い越し時の追い越し対象物との相対速度を制限するので、追い越し時の安全性を確保することができる。例えば、追い越し対象物が歩行者の場合には、相対速度制限値が車両の場合よりも小さな値に設定されるので、追い越し時における歩行者の安全性を確保することができる。なお、特定追い越し制御の際の車速自体は、規定された車速上限値で制限されるので、相対速度の制限が緩やかであっても、車速自体は、この車速上限値で規制される。
【0063】
また、相対速度の制限値は、追い越し対象物が車両の場合には、自転車等の軽車両の方が自動車類よりも小さな値に設定され、二輪自動車の方が四輪自動車よりも小さな値に設定されるなど、小型若しくは軽量の車両ほど小さな値に設定される。したがって、自転車等に対しては相対速度を十分に抑えて追い越しを行なうことができ、追い越し時における自転車等の安全性を確保することができる。また、二輪自動車に対しても比較的相対速度を抑えて追い越しを行なうことができ、追い越し時における二輪自動車の安全性を確保することができる。
【0064】
また、走行中の道路がはみ出し禁止区間であるか否かの判定は、道路標識情報,道路地図情報及び通信情報に基づき行ない、何れかの情報ルートから走行中の道路がはみ出し禁止区間であるとの情報を取得したら、はみ出し禁止区間であると判定するので、はみ出し禁止区間であることを確実に判定することができる。ただし、道路標識情報,道路地図情報及び通信情報のうちの一部(1つまたは2つ)に基づきかかる判定を行なってもよい。
【0065】
〔4.その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態を種々変形して適用することが可能である。
例えば、上記実施形態では、車両の駆動源としてエンジンを例示したが、車両の駆動源は電動モータであってもよく、エンジンと電動モータとの併用(ハイブリッド)であってもよい。駆動源が電動モータならスロットルアクチュエータ12のようなメカニカルな調整機構は不要になる。
【0066】
また、上記実施形態では、特定追い越し判定部は、車線内の追い越し対象物91の側方の残余幅Wrを演算し、当該残余幅Wrから余裕代Wcを減算した値である補正残余幅Wsと自車両92の車幅Wvとを比較して、自車両92が車線をはみ出さずに追い越しが可能であるかを判定し、追い越しが可能であれば目標走行ラインTMLを設定しているが、この場合の判定手法はこれに限らない。
【0067】
つまり、追い越し対象物91の種類に応じて余裕代Wcを設定し、この余裕代Wc分だけ道路幅方向に間隔を空けて自車両92が走行するように目標走行ラインTMLを設定する。そして、自車両92がこの目標走行ラインTMLに沿って走行したときに自車両92が車線をはみ出すか否かを判定して、自車両92が車線をはみ出さなかったら特定追い越しが可能であると判定してもよい。この場合、既に設定した目標走行ラインTMLに沿って自車両92の特定追い越し制御を実施すればよい。