(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1に示されたゴルフボール2は、コア4と、このコア4の外側に位置する中間層6と、この中間層6の外側に位置するカバー8と、このカバー8の外側に位置する塗膜10とを備えている。塗膜10は、カバー8の外側に位置する内層12と、この内層12の外側に位置する外層14とを有している。このゴルフボール2は、その表面に複数のディンプル16を有している。ゴルフボール2の表面のうち、ディンプル16以外の部分は、ランド18である。このゴルフボール2が、マーク層を有してもよい。このマーク層は、カバー8と塗膜10との間に位置してよく、塗膜10の外側に位置してもよい。
【0019】
本発明の他の実施形態において、塗膜10が、3以上の層を有してもよい。塗膜10が3以上の層を有する場合、カバー8に最も近接する層が最内層と称され、カバー8から最も離れた層が最外層と称される。このゴルフボール2では、内層12が、この塗膜10の最内層であり、外層14が、この塗膜10の最外層である。
【0020】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0021】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることで形成されている。好ましい基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合、ポリブタジエンが主成分であることが好ましい。具体的には、全基材ゴムに対するポリブタジエンの比率は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。ポリブタジエン中のシス−1,4結合の比率は、40質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0022】
コア4のゴム組成物は、好ましくは、共架橋剤を含む。ゴルフボール2の反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、炭素数が3から8であるα,β−不飽和カルボン酸の、1価又は2価の金属塩である。好ましい共架橋剤として、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムが例示される。ゴルフボール2の反発性能の観点から、アクリル酸亜鉛及びメタクリル酸亜鉛が特に好ましい。
【0023】
ゴム組成物が、炭素数が3から8であるα,β−不飽和カルボン酸と、金属化合物とを含んでもよい。両者はゴム組成物中で反応し、塩が得られる。この塩が、共架橋剤として機能する。好ましいα,β−不飽和カルボン酸として、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。好ましい金属化合物として、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが挙げられる。
【0024】
反発性能の観点から、共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上が特に好ましい。スピン性能及び打球感の観点から、共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0025】
好ましくは、コア4のゴム組成物は、有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、架橋開始剤として機能する。有機過酸化物は、ゴルフボール2の反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ−t−ブチルパーオキサイドが例示される。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
【0026】
反発性能の観点から、有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。コントロール性能及び打球感の観点から、有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。
【0027】
コア4のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含みうる。有機硫黄化合物には、ナフタレンチオール系化合物、ベンゼンチオール系化合物及びジスルフィド系化合物が含まれる。
【0028】
ナフタレンチオール系化合物として、1−ナフタレンチオール、2−ナフタレンチオール、4−クロロ−1−ナフタレンチオール、4−ブロモ−1−ナフタレンチオール、1−クロロ−2−ナフタレンチオール、1−ブロモ−2−ナフタレンチオール、1−フルオロ−2−ナフタレンチオール、1−シアノ−2−ナフタレンチオール及び1−アセチル−2−ナフタレンチオールが例示される。
【0029】
ベンゼンチオール系化合物として、ベンゼンチオール、4−クロロベンゼンチオール、3−クロロベンゼンチオール、4−ブロモベンゼンチオール、3−ブロモベンゼンチオール、4−フルオロベンゼンチオール、4−ヨードベンゼンチオール、2,5−ジクロロベンゼンチオール、3,5−ジクロロベンゼンチオール、2,6−ジクロロベンゼンチオール、2,5−ジブロモベンゼンチオール、3,5−ジブロモベンゼンチオール、2−クロロ−5−ブロモベンゼンチオール、2,4,6−トリクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6−ペンタクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゼンチオール、4−シアノベンゼンチオール、2−シアノベンゼンチオール、4−ニトロベンゼンチオール及び2−ニトロベンゼンチオールが例示される。
【0030】
ジスルフィド系化合物として、ジフェニルジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド及びビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドが例示される。
【0031】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、有機硫黄化合物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上が特に好ましい。スピン性能及び打球感の観点から、有機硫黄化合物の量は、基材ゴム100質量部に対して5.0質量部以下が好ましく、3.0質量部以下がより好ましい。2以上の有機硫黄化合物が、併用されてもよい。
【0032】
コア4のゴム組成物が、前述した共架橋剤とは別に、カルボン酸及び/又はその金属塩を含んでもよい。カルボン酸成分の炭素数が1以上30以下であるカルボン酸及び/又はその金属塩が、好ましい。好適なカルボン酸としては、オクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、10−ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が例示される。カルボン酸金属塩を構成する金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム等が例示される。
【0033】
カルボン酸及び/又はその金属塩を含む場合、スピン抑制の観点から、その量は、基材ゴム100質量部に対して1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましい。コントロール性能の観点から、カルボン酸及び/又はその金属塩の量は、基材ゴム100質量部に対して40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。2以上のカルボン酸及び/又はその金属塩が併用されてもよい。
【0034】
コア4のゴム組成物が、比重調整等を目的とした充填剤を含んでもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤の量は、コア4の意図した比重が達成されるように適宜決定される。
【0035】
コア4のゴム組成物が、硫黄、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤等の各種添加剤を適量含んでもよい。このゴム組成物が、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末を含んでもよい。
【0036】
コア4の質量は、10g以上42g以下が好ましい。コア4の架橋温度は、130℃以上200℃以下である。コア4の架橋時間は、10分以上60分以下である。コア4が、二段階加熱により架橋されてもよい。二段階加熱の場合、一段階目を130℃以上150℃以下で20分から40分加熱し、二段階目を160℃以上180℃以下で5分から15分加熱することが好ましい。
【0037】
反発性能の観点から、コア4の直径は、35.0mm以上が好ましく、36.0mm以上がより好ましく、38.0mm以上がさらに好ましい。スピン性能及び耐久性の観点から、コア4の直径は、42.0mm以下が好ましく、41.5mm以下が特に好ましい。コア4が、2以上の層を有してもよい。コア4が、その表面にリブを有してもよい。コア4が中空であってもよい。
【0038】
このゴルフボール2では、コア4の外側に中間層6が形成されている。中間層6が、2層以上から構成されてもよい。中間層6とコア4との間に、さらに他の層を備えてもよい。本発明においては、ゴルフボール2が中間層6を備えない実施態様も可能である。
【0039】
中間層6は、樹脂組成物から形成されている。カバー8について後述される樹脂組成物が好適に用いられ得る。好ましくは、この樹脂組成物の基材樹脂は、アイオノマー樹脂である。好ましいアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。この二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。
【0040】
中間層6の樹脂組成物が、アイオノマー樹脂に代えて、又はアイオノマー樹脂とともに、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン等を含んでもよい。
【0041】
中間層6の樹脂組成物が、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を含んでもよい。比重調整の目的で、この樹脂組成物がタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末を含んでもよい。
【0042】
コントロール性能の観点から、中間層6の厚みTmは、0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。反発性能の観点から、厚みTmは、2.5mm以下が好ましく、2.2mm以下が特に好ましい。中間層6の厚みTmは、ランド18の直下において測定される。
【0043】
飛行性能の観点から、中間層6のショアD硬度Hmは、25以上が好ましく、30以上が特に好ましい。コントロール性能の観点から、硬度Hmは、60以下が好ましく、55以下が特に好ましい。
【0044】
中間層6の硬度Hmは、「ASTM−D 2240−68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度Hmが測定される。測定には、熱プレスで成形された、中間層6の材料と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0045】
このゴルフボール2では、中間層6の外側にカバー8が形成されている。カバー8が、2層以上から構成されてもよい。中間層6とカバー8との間に、さらに他の層を備えてもよい。必要に応じて、ゴルフボール2は、中間層6からのカバー8の剥離を抑制するための補強層を備えうる。この樹脂組成物の基材ポリマーには、二液硬化型熱硬化性樹脂が好適に用いられる。強度及び耐久性の観点から、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
【0046】
カバー8は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含むカバー8を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。
【0047】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材樹脂の主成分とされる。全基材樹脂に対するアイオノマー樹脂の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85%以上が特に好ましい。
【0048】
好ましいアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい二元共重合体は、80質量%以上90質量%以下のα−オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸とを含む。この二元共重合体は、反発性能に優れる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。好ましい三元共重合体は、70質量%以上85質量%以下のα−オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元共重合体は、反発性能に優れる。二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンとアクリル酸との共重合体である。特に好ましい他のアイオノマー樹脂は、エチレンとメタクリル酸との共重合体である。
【0049】
二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
【0050】
アイオノマー樹脂の具体例として、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7329」及び「ハイミランAM7337」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9910」、「サーリン9945」、「サーリンAD8546」、「HPF1000」及び「HPF2000」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。
【0051】
カバー8の樹脂組成物が、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーを含んでもよい。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとを備えている。典型的なソフトセグメントは、ジエンブロックである。ジエンブロックの化合物として、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが例示される。ブタジエン及びイソプレンが好ましい。2以上の化合物が併用されてもよい。
【0052】
スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、SBSの水添物、SISの水添物及びSIBSの水添物が含まれる。SBSの水添物として、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SISの水添物として、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。SIBSの水添物として、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。
【0053】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーにおけるスチレン成分の含有率は10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。打球感の観点から、この含有率は50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0054】
本発明において、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS及びSEEPSからなる群から選択された1種又は2種以上と、オレフィンとのアロイが含まれる。このアロイ中のオレフィン成分は、他の基材ポリマーとの相溶性向上に寄与すると推測される。このアロイは、ゴルフボール2の反発性能に寄与しうる。炭素数が2以上10以下のオレフィンが好ましい。好適なオレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブテン及びペンテンが例示される。エチレン及びプロピレンが特に好ましい。
【0055】
ポリマーアロイの具体例として、三菱化学社の商品名「ラバロンT3221C」、「ラバロンT3339C」、「ラバロンSJ4400N」、「ラバロンSJ5400N」、「ラバロンSJ6400N」、「ラバロンSJ7400N」、「ラバロンSJ8400N」、「ラバロンSJ9400N」及び「ラバロンSR04」が挙げられる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの他の具体例として、ダイセル化学工業社の商品名「エポフレンドA1010」及びクラレ社の商品名「セプトンHG−252」が挙げられる。
【0056】
コントロール性能の観点から、全基材樹脂に対するスチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの比率は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、6質量%以上が特に好ましい。スピン抑制の観点から、この比率は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0057】
カバー8の樹脂組成物が、オレフィン系共重合体を含んでもよい。オレフィン系共重合体として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体及びα−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。二元共重合体がより好ましい。好ましい二元共重合体として、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が挙げられる。この共重合体は、3質量%以上25質量%以下の(メタ)アクリル酸成分を含有する。極性官能基を有するエチレン−メタクリル酸共重合体が好ましい。エチレン−メタクリル酸共重合体の具体例として、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ニュクレルN1050H」、「ニュクレルN1110H」、「ニュクレルN1035」等が挙げられる。
【0058】
カバー8の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0059】
本発明において、カバー8の厚みTcは0.80mm以上1.80mm以下である。厚みTcが0.80mm以上であるカバー8は、アプローチショットにおける大きなスピン速度に寄与する。この観点から、厚みTcは0.90mm以上が好ましく、1.00mm以上が特に好ましい。厚みTcが1.80mm以下であるカバー8は、ドライバーショットでのスピン抑制に寄与する。この観点から、厚みTcは1.70mm以下が好ましく、1.60mm以下が特に好ましい。厚みTcは、ランド18の直下において測定される。
【0060】
本発明において、カバー8のショアD硬度Hcは50以上65以下である。硬度Hcが50以上であるカバー8は、ドライバーショットでのスピン抑制に寄与する。この観点から、硬度Hcは52以上が好ましく、53以上が特に好ましい。硬度Hcが65以下であるカバー8は、アプローチショットにおける大きなスピン速度に寄与する。この観点から、硬度Hcは63以下が好ましく、61以下が特に好ましい。カバー8の硬度Hcは、中間層6の硬度Hmと同様の方法にて測定される。
【0061】
このゴルフボール2では、カバー8の外側に、内層12と外層14とを有する塗膜10が形成されている。本発明において、外層14の10%モジュラスMoは、内層12の10%モジュラスMiよりも小さい。モジュラスMoが小さい外層14は、ドライ状態での大きなスピン速度に寄与しうる。この外層14を有するゴルフボール2は、ドライ状態のアプローチショットにおけるコントロール性能に優れる。
【0062】
さらに、本発明において、内層12のモジュラスMiと外層14のモジュラスMoとの差(Mi−Mo)は、25.0kgf/cm
2以上である。外層14のモジュラスMoより、25.0kgf/cm
2以上大きいモジュラスMiを有する内層12は、硬い。硬い内層12は、ウェット状態での大きなスピン速度に寄与しうる。このゴルフボール2では、モジュラスMiが大きい内層12によって、ウェット状態のアプローチショットのコントロール性能が向上する。
【0063】
前述した通り、このゴルフボール2では、カバー8の硬度Hc及び厚みTcが所定の数値範囲に設定される。本発明者等は、鋭意研究の結果、硬度Hc及び厚みTcが適正なカバー8が、内層12及び外層14によってもたらされうる過剰なスピンを抑制することで、ドライバーショットでの飛行性能が維持されることを見出した。本発明に係るゴルフボール2では、適正なモジュラスを有する内層12及び外層14と、適正な硬度Hc及び厚みTcを有するカバー8との相乗効果によって、ドライバーショットでの大きな飛距離と、ドライ状態及びウェット状態のアプローチショットでの優れたコントロール性能とが、非常にバランス良く両立される。
【0064】
ウェット状態及びドライ状態でのコントロール性能の観点から、差(Mi−Mo)は45.0kgf/cm
2以上が好ましく、65.0kgf/cm
2以上が特に好ましい。内層12と外層14との密着性の観点から、差(Mi−Mo)は400.0kgf/cm
2以下が好ましく、375.0kgf/cm
2以下がより好ましく、350.0kgf/cm
2以下が特に好ましい。
【0065】
ウェット状態でのコントロール性能の観点から、内層12のモジュラスMiは100.0kgf/cm
2以上が好ましく、125.0kgf/cm
2以上がより好ましく、150.0kgf/cm
2以上が特に好ましい。内層12の耐久性及びドライ状態でのコントロール性能の観点から、モジュラスMiは500.0kgf/cm
2以下が好ましく、450.0kgf/cm
2以下がより好ましく、400.0kgf/cm
2以下が特に好ましい。
【0066】
耐久性の観点から、内層12の最大伸び率(破壊時のひずみ量)は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。ウェット状態でのコントロール性能の観点から、内層12の最大伸び率は200%以下が好ましく、175%以下がより好ましく、150%以下が特に好ましい。
【0067】
耐汚染性の観点から、外層14のモジュラスMoは5.0kgf/cm
2以上が好ましく、10.0kgf/cm
2以上がより好ましく、15.0kgf/cm
2以上が特に好ましい。ドライ状態でのコントロール性能の観点から、モジュラスMoは100.0kgf/cm
2未満が好ましく、90.0kgf/cm
2以下がより好ましく、80.0kgf/cm
2以下が特に好ましい。
【0068】
ドライ状態でのコントロール性能の観点から、外層14の最大伸び率は100%以上が好ましく、120%以上がより好ましく、140%以上が特に好ましい。耐汚染性の観点から、外層14の最大伸び率は500%以下が好ましく、450%以下がより好ましく、400%以下が特に好ましい。
【0069】
内層12及び外層14の10%モジュラス及び最大伸び率は、「JIS K7161(2014)」に規定された引張試験によって測定される。測定では、厚み約0.05mmの塗膜が準備される。この塗膜は、40℃の温度下で4時間乾燥することにより形成される。得られた塗膜を「JIS K7127(1999)」に規定されたタイプ2の形状に打ち抜いて、試験片を得る。この試験片では、平行部の幅は10mmであり、標線間距離は50mmである。この試験片を、精密万能試験機(島津製作所社の商品名「オートグラフ」)による引張試験(チャック間距離:100mm、引張速度:50mm/min、試験温度:23℃)に供する。
【0070】
ウェット状態でのコントロール性能の観点から、内層12の厚みTiは5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、8μm以上が特に好ましい。耐久性の観点から、厚みTiは30μm以下が好ましく、27.5μm以下がより好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0071】
ドライ状態でのコントロール性能の観点から、外層14の厚みToは5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、8μm以上が特に好ましい。耐汚染性の観点から、厚みToは30μm以下が好ましく、27.5μm以下がより好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0072】
ドライ状態でのコントロール性能の観点から、外層14の厚みToと内層12の厚みTiとの比(To/Ti)は、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上が特に好ましい。ウェット状態でのコントロール性能の観点から、比(To/Ti)は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
【0073】
内層12の厚みTiと外層14の厚みToとの和(Ti+To)は、10μm以上60μm以下が好ましい。塗膜10が、内層12と外層14との間に他の層を有している場合、塗膜10を形成する全ての層の合計厚みが、10μm以上60μm以下とされる。この合計厚みが10μm以上の塗膜10は、ドライ状態及びウェット状態でのコントロール性能に寄与しうる。この観点から、塗膜10の合計厚みは13μm以上がより好ましく、15μm以上が特に好ましい。合計厚みが60μm以下の塗膜10を有するゴルフボール2では、カバー8による効果が阻害されない。この観点から、塗膜10の合計厚みは50μm以下がより好ましく、40μm以下が特に好ましい。
【0074】
内層12は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びポリエステルが例示される。特に好ましい基材樹脂は、ポリウレタンである。
【0075】
外層14は、樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及びポリエステルが例示される。特に好ましい基材樹脂は、ポリウレタンである。
【0076】
典型的には、内層12及び外層14は、それぞれ、ポリウレタン塗料から形成される。この塗料は、(A)ポリオール組成物と、(B)ポリイソシアネート組成物とを含有する。この塗料では、ポリオール組成物(A)が主剤であり、ポリイソシアネート組成物(B)が硬化剤である。
【0077】
ポリオール組成物(A)は、ポリオール化合物を含有する。ポリオール化合物は、分子中に2以上の水酸基を有する。(a1)分子鎖の末端に水酸基を有するポリオール化合物であってもよく、(a2)分子鎖の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物であってもよい。ポリオール組成物(A)が、2種以上のポリオール化合物を有してもよい。
【0078】
分子鎖の末端に水酸基を有するポリオール化合物(a1)には、低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが含まれる。低分子量ポリオールの数平均分子量は、500未満である。高分子量ポリオールの数平均分子量は、500以上である。低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。
【0079】
高分子量のポリオールとして、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール及びアクリルポリオールが例示される。ポリエーテルポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)が例示される。ポリエステルポリオールとして、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)が例示される。ポリカプロラクトンポリオールとして、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)が例示される。ポリカーボネートポリオールとして、ポリヘキサメチレンカーボネートが例示される。
【0080】
ウレタンポリオールは、2以上のウレタン結合を有し、かつ2以上の水酸基を有する。ウレタンポリオールは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とが、ポリオール成分の水酸基がポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させられることで、得られうる。
【0081】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール及びポリカーボネートジオールが例示される。好ましいポリオール成分は、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールである。ポリオキシテトラメチレングリコールがより好ましい。
【0082】
ポリエーテルジオールの数平均分子量は、600以上が好ましい。この分子量が600以上であるポリエーテルジオールは、塗膜10の柔軟性に寄与しうる。この観点から、この分子量は650以上がより好ましく、700以上が特に好ましい。この分子量は3,000以下が好ましい。この分子量が3,000以下であるポリエーテルジオールは、塗膜10の耐汚染性に寄与しうる。この観点から、この分子量は2,500以下がより好ましく、2,000以下が特に好ましい。ポリオール成分の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。測定条件は、以下の通りである。
標準物質:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:有機溶媒系GPC用カラム(昭和電工社の商品名「Shodex KFシリ ーズ」)
【0083】
ポリエーテルジオールを70質量%以上含んでなるウレタンポリオールが、好ましい。このウレタンポリオールは、塗膜10の柔軟性に寄与しうる。この観点から、ウレタンポリオールにおけるポリエーテルジオールの含有率は、72質量%以上がより好ましく、75質量%以上が特に好ましい。
【0084】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリオール成分として、低分子量ポリオールが用いられうる。この低分子量ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールのようなジオール;並びにグリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールのようなトリオールが例示される。出発原料として、2種以上の低分子量ポリオールが用いられてもよい。
【0085】
出発原料としてジオール及びトリオールが併用されたウレタンポリオールが、好ましい。トリオール成分とジオール成分の質量比(トリオール成分/ジオール成分)は、0.2以上が好ましく、0.5以上が特に好ましい。この質量比は6.0以下が好ましく、5.0以下が特に好ましい。ジオールとの併用に適したトリオールは、トリメチロールプロパンである。
【0086】
ウレタンポリオールの出発原料であるポリイソシアネート成分は、2以上のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H
12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式ポリイソシアネート;並びに脂肪族ポリイソシアネートが例示される。出発原料として、2種以上のポリイソシアネートが用いられてもよい。
【0087】
ウレタンポリオールの重量平均分子量は、5,000以上が好ましい。この分子量が5,000以上であるウレタンポリオールは、塗膜10の柔軟性に寄与しうる。この観点から、この分子量は5,300以上がより好ましく、5,500以上が特に好ましい。この分子量は、20,000以下が好ましい。この分子量が20,000以下であるウレタンポリオールは、塗膜10の耐汚染性に寄与しうる。この観点から、この分子量は1,8000以下がより好ましく、16,000以下が特に好ましい。
【0088】
ウレタンポリオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上が特に好ましい。水酸基価は200mgKOH/g以下が好ましく、190mgKOH/g以下がより好ましく、180mgKOH/g以下が特に好ましい。水酸基価は、「JIS K 1557−1」の規定に準拠して測定される。測定には、アセチル化法が採用される。
【0089】
分子の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物(a2)として、水酸基を有する修飾ポリロタキサン、及び水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が例示される。
【0090】
水酸基を有する修飾ポリロタキサンは、シクロデキストリン、直鎖状分子及び封鎖基を有する。シクロデキストリンは、環状分子である。直鎖状分子は、シクロデキストリンを貫通している。封鎖基は、直鎖状分子の両末端に配置されている。この封鎖基は、直鎖状分子からのシクロデキストリンの脱離を防止する。このポリロタキサンでは、シクロデキストリンが直鎖状分子に沿って移動可能である。このポリロタキサンを含む塗膜10に張力が加わったとき、この張力が分散される。この塗膜10では、クラック及び傷が生じにくい。
【0091】
シクロデキストリンは、環状構造を有するオリゴ糖である。このシクロデキストリンでは、6個から8個のD−グルコピラノース残基がα―1,4−グルコシド結合により環状に結合している。シクロデキストリンとして、α−シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数:7個)及びγ―シクロデキストリン(グルコース数:8個)が例示される。α−シクロデキストリンが好ましい。2種以上のクロデキストリンが併用されてもよい。
【0092】
シクロデキストリンを貫通する直鎖状分子として、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリエーテル及びポリアクリルが例示される。ポリエーテルが好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0093】
この直鎖状分子の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、6,000以上が特に好ましい。この分子量は100,000以下が好ましく、80,000以下が特に好ましい。
【0094】
その両末端に官能基を有する直鎖状分子が、好ましい。この直鎖状分子は、封鎖基と容易に反応しうる。この官能基として、水酸基、カルボキシ基、アミノ基及びチオール基が例示される。
【0095】
封鎖基によるシクロデキストリンの脱離の防止方法として、嵩高い封鎖基による物理的防止方法、及びイオン性の封鎖基による静電気的防止方法が例示される。嵩高い封鎖基として、シクロデキストリン及びアダマンタン基が例示される。直鎖上分子が貫通しているシクロデキストリンの個数の、その最大数に対する比は、0.06以上0.61以下が好ましく、0.11以上0.48以下がより好ましく、0.24以上0.41以下が特に好ましい。この比が上記範囲内である塗膜10は、物性に優れる。
【0096】
シクロデキストリンが有する水酸基の少なくとも一部が、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンが好ましい。このポリロタキサンでは、ポリロタキサンと硬化剤であるポリイソシアネート化合物との立体障害が緩和される。
【0097】
以下、変性方法の一例が説明される。まず、シクロデキストリンの水酸基がプロピレンオキシドで処理され、ヒドロキシプロピル化される。次に、ε−カプロラクトンが添加され、開環重合がなされる。シクロデキストリンの環状構造の外側に、カプロラクトン鎖−(CO(CH
2)
5O)nHが、−O−C
3H
6−O−基を介して、結合する。nは、重合度を表し、1−100の自然数であることが好ましく、2−70の自然数であることがより好ましく、3−40の自然数であることが特に好ましい。カプロラクトン鎖の他方の末端には、開環重合により水酸基が形成される。この水酸基は、ポリイソシアネート化合物と反応しうる。
【0098】
変性前のシクロデキストリンが有する全水酸基(100モル%)に対する、カプロラクトン鎖で変性される水酸基の比率は、2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。この比率が上記範囲内であるポリロタキサンは疎水性である。このポリロタキサンの、ポリイソシアネート化合物との反応性は、高い。
【0099】
ポリロタキサンの水酸基価は、10mgKOH/g以上400mgKOH/g以下が好ましい。このポリロタキサンのポリイソシアネート化合物との反応性は、高い。この観点から、水酸基価は15mgKOH/g以上がより好ましく、20mgKOH/g以上が特に好ましい。水酸基価は300mgKOH/g以下がより好ましく、220mgKOH/g以下が特に好ましい。
【0100】
ポリロタキサンの重量平均分子量は、30,000以上3,000,000以下が好ましい。この分子量が30,000以上であるポリロタキサンは、塗膜10の強度に寄与しうる。この観点から、この分子量は40,000以上がより好ましく、50,000以上が特に好ましい。この分子量が3,000,000以下であるポリロタキサンは、塗膜10の柔軟性に寄与しうる。この観点から、この分子量は2,500,000以下がより好ましく、2,000,000以下が特に好ましい。この分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。測定条件は、以下の通りである。
標準物質:ポリスチレン
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:有機溶媒系GPC用カラム(昭和電工社の商品名「Shodex KFシリ ーズ」)
【0101】
ポリカプロラクトンで変性されたポリロタキサンの具体例として、アドバンスト・ソフトマテリアルズ社のセルムスーパーポリマーSH3400P、SH2400P及びSH1310Pが例示される。
【0102】
分子鎖の末端以外に水酸基を有するポリオール化合物(a2)の一つである水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体は、ゴルフボール2のスピン性能に寄与しうる。この共重合体は、水酸基を有する単量体、塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合によって得られうる。この水酸基を有する単量体として、ポリビニルアルコール及びヒドロキシアルキルアクリレートが例示される。この共重合体は、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の部分ケン化又は完全ケン化によっても得られうる。
【0103】
この水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体における、塩化ビニル成分の含有率は、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。この含有率は99質量%以下が好ましく、95質量%以下が特に好ましい。水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の具体例として、日信化学工業社の商品名「ソルバインA」、「ソルバインAL」及び「ソルバインTA3」が例示される。
【0104】
塗膜10を得るために好ましいポリオール組成物(A)の態様は、以下の通りである。
態様1:数平均分子量が600以上3,000以下であるポリエーテルジオールを含有 するウレタンポリオールを含む組成物
態様2:シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、−O−C
3H
6−O−基を介 して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンを含む組成物
【0105】
態様1のポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対するウレタンポリオールの量の比率は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。このポリオール組成物(A)が、ポリオール化合物として、ウレタンポリオールのみを含んでもよい。
【0106】
態様2のポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対するポリロタキサンの量の比率は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。この比率は100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましい。
【0107】
態様2のポリオール組成物(A)は、好ましくは、ポリカプロラクトンポリオールを含有する。ポリカプロラクトンポリオールとポリロタキサンとの質量比は、0/100以上が好ましく、5/95以上がより好ましく、10/90以上が特に好ましい。この比は、90/10以下が好ましく、85/15以下がより好ましく、80/20以下が特に好ましい。
【0108】
態様2のポリオール組成物(A)は、好ましくは、前述の水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を含有する。このポリオール組成物(A)における、ポリオール化合物の全量に対する水酸基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の比率は、4質量%以上が好ましく、8質量%以上が特に好ましい。この比率は50質量%以下が好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0109】
硬化剤であるポリイソシアネート組成物(B)は、ポリイソシアネート化合物を含有する。ポリイソシアネート化合物は、2以上のイソシアネート基を有する。
【0110】
ポリイソシアネート化合物として、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ジイソシアネート類;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H
12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H
6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びノルボルネンジイソシアネート(NBDI)のような脂環式又は脂肪族ジイソシアネート類;並びにジイソシアネートのアロハネート体、ビュレット体、イソシアヌレート体及びアダクト体のようなトリイソシアネート類が例示される。ポリイソシアネート組成物(B)が、2種以上のポリイソシアネート化合物を含んでもよい。
【0111】
アロハネート体は、ジイソシアネートと低分子量ジオールとの反応で形成されるウレタン結合に、さらにジイソシアネートが反応することが得られうる。アダクト体は、ジイソシアネートとトリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量トリオールとの反応で得られうる。ビュレット体は、下記化学式(1)で表わされるビュレット結合を有する。イソシアヌレート体は、例えば、下記化学式(2)で表わされる。
【0113】
上記化学式(1)において、Rはジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表わす。
【0115】
上記化学式(2)において、Rはジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表わす。
【0116】
好ましいトリイソシアネート類として、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が例示される。
【0117】
好ましくは、ポリイソシアネート組成物(B)は、トリイソシアネート類を含有する。ポリイソシアネート組成物(B)における、ポリイソシアネート化合物の全量に対する、トリイソシアネート類の比率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。ポリイソシアネート組成物(B)が、ポリイソシアネート化合物として、トリイソシアネート類のみを含有してもよい。
【0118】
ポリイソシアネート組成物(B)が含有するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。このイソシアネート基量は45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が特に好ましい。イソシアネート基量(NCO%)は、下記数式によって算出される。
NCO = (100 × Mi × 42) / Wi
Mi:ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル数
42:NCOの分子量
Wi:ポリイソシアネート化合物の総質量(g)
【0119】
ポリイソシアネート化合物の具体例として、DIC社の商品名「バーノックD−800」、「バーノックDN−950」及び「バーノックDN−955」;住化バイエルウレタン社の商品名「デスモジュールN75MPA/X」、「デスモジュールN3300」、「デスモジュールL75(C)」及び「スミジュールE21−1」;日本ポリウレタン工業社の商品名「コロネートHX」及び「コロネートHK」;旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート24A−100」、「デュラネート21S−75E」、「デュラネートTPA−100」及び「デュラネートTKA−100」;並びにデグサ社の商品名「VESTANAT T1890」が例示される。
【0120】
塗膜10を形成するポリウレタン塗料において、主剤が有する水酸基(OH基)と硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO/OH)は、0.10以上が好ましい。このモル比が0.10以上であるポリウレタン塗料では、十分な硬化反応が生じる。この観点から、このモル比は0.20以上が特に好ましい。外観に優れた塗膜10が得られるとの観点から、このモル比(NCO/OH)は1.50以下が好ましく、1.40以下がより好ましく、1.30以下が特に好ましい。この塗膜10の外観が優れる理由は、空気中の水分とイソシアネート基との過剰な反応が生じないことにある。過剰反応の抑制により、炭酸ガスの発生が抑制され、この炭酸ガスによる外観阻害が抑制される。
【0121】
前述の態様1のポリオール組成物(A)に適したポリイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体及びイソホロンジイソシアヌレートのイソシアヌレート変性体である。ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とが、併用されてもよい。この場合、ビュレット変性体とイソシアヌレート変性体との質量比は、20/40以上40/20以下が好ましく、25/35以上35/25以下が特に好ましい。
【0122】
前述の態様2のポリオール組成物(A)に適したポリイソシアネート化合物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体である。
【0123】
塗膜10には、水を主たる分散媒とする水系塗料、及び有機溶剤を分散媒とする溶剤系塗料のいずれもが用いられうる。溶剤系塗料が好ましい。溶剤系塗料に適した溶剤として、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルエチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール及び酢酸エチルが例示される。ポリオール組成物(A)が、溶剤を含んでもよい。ポリイソシアネート組成物(B)が溶剤を含んでもよい。均一な硬化反応の観点から、ポリオール組成物(A)及びポリイソシアネート組成物(B)のそれぞれが溶剤を含むことが好ましい。
【0124】
好ましくは、塗料は、レベリング剤を含有する。レベリング剤は、塗膜10の平滑に寄与しうる。好ましいレベリング剤は、変性シリコーンである。変性シリコーンとして、側鎖又は末端に有機基が導入されたポリシロキサン、ポリシロキサンブロックにポリエーテルブロック、ポリカプロラクトンブロック等が共重合したポリシロキサンブロック共重合体、及びこのポリシロキサンブロック共重合体の側鎖又は末端に有機基が導入された共重合体が例示される。直鎖状であるポリシロキサン又はポリシロキサンブロックが変性されることが好ましい。直鎖状であるポリシロキサン又はポリシロキサンブロックとして、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン及びメチルハイドロジェンポリシロキサンが例示される。導入されうる有機基として、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基及びカルビノール基が例示される。好ましい変性シリコーンは、ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトンブロック共重合体である。特に好ましい変性シリコーンは、末端がカルビノール基である変性ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトンブロック共重合体である。この共重合は、カプロラクトン変性ポリロタキサン及びポリカプロラクトンポリオールとの相溶性に優れる。変性シリコーンの具体例として、Gelest社の商品名「DBL−C31」、「DBE−224」及び「DCE−7521」が例示される。
【0125】
硬化反応には、公知の触媒が使用されうる。好ましい触媒として、トリエチルアミン及びN,N−ジメチルシクロヘキシルアミンのようなモノアミン類;N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン及びN,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミンのようなポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)及びトリエチレンジアミンのような環状ジアミン類;並びにジブチルチンジラウリレート及びジブチルチンジアセテートのような錫系触媒が例示される。2種以上の触媒が併用されてもよい。錫系触媒がより好ましく、ジブチルチンジラウリレートが特に好ましい。
【0126】
塗料が、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、粘度調整剤等の添加剤を、適量含んでもよい。
【0127】
塗料は、スプレー塗装法、静電塗装法等によって塗布される。エアーガンが用いられたスプレー塗装の場合、このエアーガンの上流にラインミキサーが配置されうる。ポリオール組成物(A)が、ポンプでラインミキサーに供給される。ポリイソシアネート組成物(B)が、他のポンプでラインミキサーに供給される。このラインミキサーにおいて、ポリオール組成物(A)とポリイソシアネート組成物(B)とが連続的に混合される。混合によって得られた塗料が、エアーガンから噴射される。ポリオール組成物(A)とポリイソシアネート組成物(B)とが、別個に塗装されてもよい。
【0128】
ゴルフボール2のカバー8の外表面に第一塗料が塗布され、乾燥されることにより、内層12が形成される。乾燥温度は、30℃以上70℃以下が好ましい。乾燥時間は、1時間以上24時間以下が好ましい。
【0129】
このゴルフボール2では、内層12の外表面に第二塗料が塗布され、乾燥されることにより、外層14が形成される。乾燥温度は、30℃以上70℃以下が好ましい。乾燥時間は、1時間以上24時間以下が好ましい。
【0130】
内層12にモル比(NCO/OH)が大きい第一塗料が用いられ、外層14にモル比(NCO/OH)が小さい第二塗料が用いられることにより、差(Mi−Mo)が大きい塗膜10が得られうる。内層12に分子量の小さなポリオール化合物を含むポリウレタン塗料が用いられ、外層14に分子量の大きなポリオール化合物を含むポリウレタン塗料が用いられることにより、差(Mi−Mo)が大きい塗膜10が得られうる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0132】
[ポリオール組成物(A)の調製]
[ポリオール組成物#1(ウレタンポリオール)]
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)及びトリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は、0.6であった。滴下後にイソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール組成物#1を得た。この組成物の詳細は、以下の通りである。
固形分:30質量%
PTMGの含有率:67質量%
固形分の水酸基価:67.4mgKOH/g
固形分のOH量:1.20mmol/g
組成物のOH量:0.36mmol/g
ウレタンポリオールの重量平均分子量:4,867
【0133】
[ポリオール組成物#2(ウレタンポリオール)]
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量1,000)及びトリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン及びメチルエチルケトン)に溶解した。モル比(PTMG:TMP)は、1.8:1.0であった。この溶液に、触媒として、主剤全量に対して0.1質量%のジブチル錫ジラウレートを添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。この混合液のモル比(NCO/OH)は0.6であった。滴下後にイソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール組成物#2を得た。この組成物の詳細は、以下の通りである。
固形分:30質量%
PTMGの含有率:76質量%
固形分の水酸基価:49.5mgKOH/g
固形分のOH量:0.88mmol/g
組成物のOH量:0.26mmol/g
ウレタンポリオールの重量平均分子量:6,624
【0134】
[ポリオール組成物#3(ポリロタキサン組成物)]
50質量部の、シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が−O−C
3H
6−O−基を介してカプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンポリロタキサン(前述の「セルムスーパーポリマー」、直鎖状分子:ポリエチレングリコール、封鎖基:アダマンタン基、直鎖状分子の分子量:35,000、水酸基価:72mgKOH/g、重量平均分子量:700,000)」)、28質量部のポリカプロラクトンポリオール(ダイセル社の商品名「Placcel 308」、水酸基価:190−200mgKOH/g)、22質量部の塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体(前述の「ソルバインAL」、水酸基価:63.4mgKOH/g)、0.1質量部の変性シリコーン(Gelest社の商品名「DBL−C31」)、0.01質量部のジブチル錫ジラウレート、及び100質量部の溶剤(キシレン/メチルエチルケトン、質量比:70/30)を混合し、ポリオール組成物#3を調製した。
【0135】
[ポリイソシアネート組成物(B)の調製]
[ポリイソシアネート組成物#1]
30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネートTKA−100」、NCO含有率:21.7質量%)、30質量部のヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社の商品名「デュラネート21S−75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び40質量部のイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社の商品名「デスモジュールZ4470」、NCO含有率:11.9質量%)を混合した。この混合物に、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n−ブチル及びトルエンの混合溶媒を添加し、ポリイソシアネート組成物#1を得た。この組成物におけるポリイソシアネート成分の濃度は、60質量%であった。
【0136】
[ポリイソシアネート組成物#2]
100質量部の、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(前述の「デュラネート21S−75E」、NCO含有率:15.5質量%)、及び100質量部のメチルエチルケトンを混合し、ポリイソシアネート組成物#2を得た。
【0137】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR730」)、31質量部のアクリル酸亜鉛(三新化学工業社の商品名「サンセラーSR」)、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド(住友精化社製)及び0.7質量部のジクミルパーオキサイド(日油社の商品名「パークミルD」)を混練し、ゴム組成物T1を得た。このゴム組成物T1を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、170℃の温度下で25分間加熱して、直径が38.1mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0138】
26質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、26質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7337」)、48質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)及び6質量部の二酸化チタン(石原産業社製)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物M1を得た。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であった。樹脂組成物M1は、押出機のダイの位置で160℃から230℃で加熱された。得られた樹脂組成物M1を射出成形法にてコアの周りに被覆し、厚み1.00mmの中間層を形成した。
【0139】
40質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、43質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7337」)、17質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)及び6質量部の二酸化チタン(石原産業社製)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物C1を得た。それぞれが半球状キャビティを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に、コア及び中間層からなる球体を投入した。このファイナル金型は、キャビティ面に多数のピンプルを有する。射出成形法にて溶融した樹脂組成物C1をコアの周りに充填し、厚み1.30mmのカバーを成形した。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0140】
100質量部のポリオール組成物#1及び17.0質量部のポリイソシアネート組成物#1を混合し、塗料P2を調製した。この塗料P2を、カバーの周りに塗装した。この塗料P2を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、厚み10μmの内層を得た。
【0141】
100質量部のポリオール組成物#2及び19.2質量部のポリイソシアネート組成物#1を混合し、塗料P6を調製した。この塗料P6を、内層の周りに塗装した。この塗料P6を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、厚み10μmの外層を得た。この外層を有するゴルフボールの直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。
【0142】
[実施例2−7及び比較例1−4]
塗膜の仕様を下記表5−7に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−7及び比較例1−4のゴルフボールを得た。塗膜の仕様の詳細が、下記表3−4に示されている。
【0143】
[実施例8−13及び比較例5−8]
下記表3に示される配合で調製された塗料P4を用いて内層を形成し、コアの直径及びカバーの仕様を下記表7−9に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例8−13及び比較例5−8のゴルフボールを得た。カバーの仕様の詳細が、下記表1−2に示されている。
【0144】
[実施例14]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR730」)、31質量部のアクリル酸亜鉛(三新化学工業社の商品名「サンセラーSR」)、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド(住友精化社製)及び0.7質量部のジクミルパーオキサイド(日油社の商品名「パークミルD」)を混練し、ゴム組成物T1を得た。このゴム組成物T1を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、170℃の温度下で25分間加熱して、直径が39.1mmであるコアを得た。所定の質量のコアが得られるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0145】
40質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、43質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7337」)、17質量部のスチレンブロック含有熱可塑性エラストマー(前述の「ラバロンT3221C」)及び6質量部の二酸化チタン(石原産業社製)を二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物C1を得た。それぞれが半球状キャビティを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に、コア及び中間層からなる球体を投入した。このファイナル金型は、キャビティ面に多数のピンプルを有する。射出成形法にて溶融した樹脂組成物C1をコアの周りに充填し、厚み1.80mmのカバーを成形した。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。
【0146】
100質量部のポリオール組成物#1及び29.0質量部のポリイソシアネート組成物#1を混合し、塗料P4を調製した。この塗料P4を、カバーの周りに塗装した。この塗料P4を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、厚み10μmの内層を得た。
【0147】
100質量部のポリオール組成物#2及び19.2質量部のポリイソシアネート組成物#1を混合し、塗料P6を調製した。この塗料P6を、内層の周りに塗装した。この塗料P6を、40℃の温度下で24時間乾燥させ、厚み10μmの外層を得た。この外層を有するゴルフボールの直径は約42.7mmであり、質量は約45.6gであった。
【0148】
[実施例15]
コアの直径及びカバーの厚みを下記表9に示される通りとした他は実施例14と同様にして、実施例15のゴルフボールを得た。
【0149】
[飛行性能:ドライバー(W#1)による打撃]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ドライバー(ダンロップスポーツ社の商品名「XXIO8」、シャフト硬度:R、ロフト角:10.5°)を装着した。ヘッド速度が40m/sである条件でゴルフボールを打撃して、ボール速度(m/s)、打ち出し角度(degree)ス、ピン速度(rpm)及び飛距離(yard)を測定した。飛距離は、打撃地点とボールが静止した地点との距離である。20回の測定で得られたデータの平均値が、下記表5−9に示されている。
【0150】
[コントロール性能:サンドウェッジ(SW)でのショット]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、サンドウェッジ(クリーブランドゴルフ社の商品名「CG15フォードウェッジ」、ロフト角:52°)を装着した。ヘッド速度が16m/sである条件でゴルフボールを打撃して、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することにより、ドライ条件でのスピン速度Rd(rpm)を測定した。サンドウェッジのフェース及びゴルフボールに水を付着させた状態で、同様の試験をおこなうことにより、ウェット条件でのスピン速度Rw(rpm)を測定した。各10回の測定で得られたデータの平均値と、この平均値を用いて算出されたスピン比(Rw/Rd)が、下記表5−9に示されている。スピン比(Rw/Rd)が大きいゴルフボールの評価が高い。
【0151】
[打球感]
アマチュアゴルファー(上級者)10人により、サンドウェッジ(クリーブランドゴルフ社の商品名「CG15フォードウェッジ」、ロフト角:52°)を用いて、実打テストをおこなった。フィーリングが良好(フェースに乗っている感じがして良い、ひっかかる感じがして良い、スピンが効く感じがして良い、くっつく感じがして良い等)と答えた人数に基づいて、以下の通り格付けした。得られた結果が、下記表5−9に示されている。
A:8人以上
B:4人以上7人以下
C:3人以下
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
表2に記載されたJF−90は、城北化学工業社製のビス(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(光安定剤)である。
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
【0157】
【表5】
【0158】
【表6】
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
【表9】
【0162】
表5−9に示されるように、各実施例のゴルフボールは、ドライ状態及びウェット状態でのスピン性能に優れ、さらに飛行性能にも優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。