(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844260
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】培養容器、及び培養容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20210308BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20210308BHJP
C07K 17/08 20060101ALI20210308BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20210308BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C07K16/28
C07K17/08
!C12N5/078
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-565879(P2016-565879)
(86)(22)【出願日】2015年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2015005805
(87)【国際公開番号】WO2016103570
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-261643(P2014-261643)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−099022(JP,A)
【文献】
特開2007−175028(JP,A)
【文献】
特開2012−239401(JP,A)
【文献】
特開2007−056034(JP,A)
【文献】
Journal of Translational Medicine, 2010, Vol.8, No.104, pp.1-15
【文献】
SEKINE T. et al.,Biomedicine & Pharmacotherapy, 1993, Vol.47, pp.73-78
【文献】
OCHOA A.C. et al.,Cancer Research, 1989, Vol.49, pp.963-968
【文献】
藤野 道夫、外2名.,肺癌, 1995, Vol.35, No.3, pp.253-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球を活性化させるための軟包材からなる袋状の培養容器であって、対向する容器内面の片面に抗CD3抗体が10〜300ng/cm2の密度で固相化された培養面を有しており、且つ、培養時に、前記培養容器内の遊離した抗CD3抗体の濃度が5〜100ng/mlとなるように遊離した抗CD3抗体が封入されていることを特徴とする培養容器。
【請求項2】
前記対向する容器内面の片面に前記抗CD3抗体が10〜40ng/cm2の密度で固相化されていることを特徴とする請求項1記載の培養容器。
【請求項3】
前記培養面に対向する容器内面に抗CD3抗体が前記培養面における密度よりも小さい密度で固相化されていることを特徴とする請求項1又は2記載の培養容器。
【請求項4】
リンパ球を活性化させるための軟包材からなる袋状の培養容器の製造方法であって、
対向する容器内面の片面に抗CD3抗体を10〜300ng/cm2の密度で固相化し、
培養時に、前記培養容器内の遊離した抗CD3抗体の濃度が5〜100ng/mlとなるように遊離した抗CD3抗体を封入する
ことを特徴とする培養容器の製造方法。
【請求項5】
前記対向する容器内面の片面に前記抗CD3抗体が10〜40ng/cm2の密度で固相化されることを特徴とする請求項4記載の培養容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養技術に関し、特にリンパ球を活性化させるための培養容器、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織、微生物などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、ガス透過性フィルムから形成された培養容器に細胞と培養液を封入して、閉鎖系で自動的に細胞を大量培養することが行われている。
【0003】
特に、リンパ球を培養する場合には、細胞数を増やすための培養に先立って、まず抗CD3抗体を用いてリンパ球を活性化させるための培養を行う必要がある。このため、抗CD3抗体の入った培養容器にリンパ球と培養液を入れて、その活性化が行われる。
ところで、培養容器に溶液状の抗CD3抗体が少量しか入っていない場合には、リンパ球への刺激が不十分となり、活性化を十分に行うことができない。一方、培養容器に溶液状の抗CD3抗体が多量に入っている場合には、細胞の防御機構によって細胞膜に存在するCD3抗原が脱落し、リンパ球の活性化は阻害される。
【0004】
抗CD3抗体を主成分とする免疫抑制剤は、このようなリンパ球の性質に着目して創られたものであり、これを臓器・組織移植後に拒絶反応が生じた患者に投与すると、多量の抗CD3抗体が抗原に結合して集積し、その集積物は細胞内に取り込まれて細胞外に排出される。あるいは、集積物は酵素により切断されて、細胞表面から抗原が除去される。その結果、細胞内に刺激が伝達されなくなり、リンパ球の活性化は抑制される。
このように、溶液中に遊離する抗体を用いてリンパ球の活性化を適切に制御することは難しく、従来は、一般的に培養容器の底内面に抗CD3抗体を固相化し、このような培養容器を用いてリンパ球を適度に刺激することで、リンパ球を活性化することが広く行われていた。
【0005】
また、リンパ球の活性化用培養バッグ(以下、単に活性化バッグと称する場合がある)を製造するにあっては、バッグ内に抗CD3抗体を含む抗体溶液を封入してバッグ内面に抗CD3抗体を固相化させた後、バッグ内を洗浄して遊離抗体を除去し、その後にリンパ球と培養液を封入して活性化培養が行われていた。このようにバッグ内を洗浄して遊離抗体を除去することにより、リンパ球の活性化をより効率的に行うことが可能となっていた。
【0006】
【特許文献1】特開2007−175028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、活性化バッグに抗体溶液が残存した場合の遊離抗体による活性化への悪影響を調べるため、様々な濃度の抗体溶液を用いて、リンパ球の活性化を行った。
その結果、驚くべきことに、抗体濃度が活性化バッグの製造に用いる程度の比較的高濃度の場合には、リンパ球の活性化が抑制されるものの、ある一定範囲の低濃度の場合には、反対にリンパ球の活性化が促進されることが見いだされた。
すなわち、活性化バッグに抗CD3抗体を固相化すると共に、低濃度の遊離抗体を封入することで、活性化バッグによるリンパ球の活性化を促進することができ、その結果、リンパ球の増殖効率をより一層向上できることが判明した。
【0008】
ここで、特許文献1の実施例1には、リンパ球の活性化バッグを製造するために、バッグ内に抗CD3抗体を含む抗体溶液を封入してバッグ内面に抗CD3抗体を固相化させた後、抗体溶液を封入したまま活性化を行ったことが記載されている。また、同実施例2には、バッグ内面に抗CD3抗体を固相化させた後、バッグ内を洗浄して遊離抗体を除去し、その後にリンパ球と培養液を封入して活性化を行ったことが記載されている。そして、その結果、抗体溶液を封入したまま活性化を行った実施例1の方が、バッグ内を洗浄して遊離抗体を除去した実施例2よりもリンパ球の増殖効率が低かったことが示されている。
【0009】
すなわち、実施例1ではバッグ内に多量の遊離抗体が残っていたためにリンパ球の活性化が抑制され、実施例2よりもリンパ球の増殖効率が低くなったと考えられる。
一方、特許文献1には、リンパ球の活性化効率をより向上させるために、抗CD3抗体を固相化した活性化バッグに一定範囲の低濃度の遊離抗体を封入することについては、記載も示唆もされていない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、リンパ球を従来よりも高効率で活性化可能な培養容器、及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の培養容器は、リンパ球を活性化させるための軟包材からなる袋状の培養容器であって、対向する容器内面の片面に抗CD3抗体が10〜300ng/cm
2の密度(以下、単位面積当たりの抗体固相化量を単に密度と称する場合がある)で固相化されており、且つ、培養時に、前記培養容器内の遊離した抗CD3抗体の濃度が5〜100ng/mlとなるように
遊離した抗CD3抗体が封入されている構成としてある。
【0012】
また、本発明の培養容器の製造方法は、リンパ球を活性化させるための軟包材からなる袋状の培養容器の製造方法であって、対向する容器内面の片面に抗CD3抗体を10〜300ng/cm
2の密度で固相化し、培養時に、前記培養容器内の遊離した抗CD3抗体の濃度が5〜100ng/mlとなるように
遊離した抗CD3抗体を封入する方法としてある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リンパ球を従来よりも高効率で活性化できる培養容器、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る培養容器の概略を示す正面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る培養容器の概略を示す平面模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る培養容器にリンパ球と培養液を封入して、活性化培養を行う様子を示す正面模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る培養容器の応用例の概略を示す正面模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る培養容器による各種遊離抗体濃度(10ng/ml〜500ng/ml)の細胞増殖倍率を示す実験1(活性化培養工程のみ)の結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る培養容器による各種遊離抗体濃度(5ng/ml,10ng/ml)の細胞増殖倍率を示す実験2(活性化培養工程+増幅培養工程)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の培養容器、及び培養容器の製造方法の実施形態について、
図1〜4を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る培養容器の概略を示す正面模式図、
図2は、同平面模式図であり、
図3は、この培養容器にリンパ球と培養液を封入して、活性化培養を行う様子を示す正面模式図である。また、
図4は、この培養容器の応用例の概略を示す正面模式図である。
【0016】
[培養容器]
図1,2に示すように、本発明の実施形態に係る培養容器10は、上下に対向する容器壁を有している。そして、容器内面の一方が、抗体12を固相化した固相化面11(
図1,2の容器内の底面)となっており、この固相化面11が培養面として用いられる。また、培養容器10内には、抗体12が遊離する抗体溶液13が封入されている。
なお、培養容器10には、チューブ14を接続可能なポートが備えられ、これによって培養容器10内へのリンパ球と培養液の封入、及び培養したリンパ球と培養液の回収が行われる。
図1,2の例では一つのチューブ14が培養容器10に接続されているが、2本以上接続されていても良い。
【0017】
培養容器10は、細胞培養に必要なガス透過性を有するフィルムを用いて、袋状(バック型)に形成されている。このような培養容器10の材料として、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。
【0018】
固相化面11に固相化する抗体12としては、抗CD3抗体が用いられる。リンパ球は、抗CD3抗体によって活性化され、増殖させることができる。
固相化面11における抗体12の固相化の密度は、10〜300ng/cm
2とすることが好ましく、10〜40ng/cm
2とすることがより好ましい。
抗体12の固相化の密度を10ng/cm
2以上とすれば、リンパ球を効果的に活性化させることができる。また、固相化面11における抗CD3抗体の最密充填密度は、300ng/cm
2であるため、抗体12をこの密度範囲まで固相化することによって、リンパ球を好適に活性化させることが可能である。さらに、抗体12の固相化の密度を10〜40ng/cm
2とすれば、リンパ球の増殖効率を特に大きく向上させることが可能である。
【0019】
培養容器10には、培養面として用いられる固相化面11において、溶液状の抗体12を、1cm
2当たり0.25〜400ng且つ0.1〜800μlの量で封入することが好ましい。培養容器10に溶液状の抗体12をこのような量で封入することで、リンパ球の活性化をより向上させることができ、その結果として増殖効率を一層向上させることができるためである。
このような観点から、溶液状の抗体12を、培養面1cm
2当たり0.5〜300ng且つ0.1〜600μlの量で封入することがより好ましく、1〜200ng且つ0.1〜400μlの量で封入することがさらに好ましく、1〜200ng且つ0.1〜200μlの量で封入することがより一層好ましい。
【0020】
また、培養容器10における遊離した抗CD3抗体の濃度(以下、単に遊離抗体濃度と称する場合がある)を5〜100ng/mlとすることが好ましい。遊離抗体濃度をこのような範囲にすることで、リンパ球の活性化をより向上させることができ、その結果として増殖効率を一層向上させることができるためである。
【0021】
ここで、軟包材からなる培養容器を用いた細胞培養は、優れた培養効率を得るために、一般に培養液の液厚を0.2〜2cmとして行われることが多い。遊離抗体濃度が5ng/mlの場合、液厚を0.2cmとすると、1cm
2当たりの抗体量は1ngとなる。また、遊離抗体濃度が100ng/mlの場合、液厚を2cmとすると、1cm
2当たりの抗体量は200ngとなる。したがって、遊離抗体濃度を5〜100ng/mlとし、培養液の液厚を0.2〜2cmとすると、培養容器10には、溶液状の抗体12が培養面1cm
2当たり1〜200ngの量で封入されることになる。
【0022】
また、細胞密度の調整等の理由で培養液の液厚が0.05〜4cmの範囲から選択される場合がある。この場合の遊離抗体濃度を5〜100ng/mlとし、培養を行うとすると、遊離抗体濃度が5ng/mlの場合、液厚を0.05cmとすると、1cm
2当たりの抗体量は0.25ngとなる。また、遊離抗体濃度が100ng/mlの場合、液厚を4cmとすると、1cm
2当たりの抗体量は400ngとなる。したがって、培養容器10には、溶液状の抗体12が培養面1cm
2当たり0.25〜400ngの量で封入されることになる。
【0023】
さらに、溶液状の抗CD3抗体を培養容器に培養面積1cm
2当たり0.1μlより少ない量で封入することは困難であるため、0.1μl以上の量で封入することが好ましい。また、軟包材からなる培養容器の取り扱いなどの観点から通常用いられる培養容器の容量は、培養面積1cm
2当たり4000μl以下である場合が多く、培養液量に対する抗体溶液量の割合は、優れた培養効率を得るために、好ましくは2割以下、より好ましくは1割以下、さらに好ましくは0.5割以下とすることが望ましい。このため、溶液状の抗CD3抗体を培養容器に培養面積1cm
2当たり800μl以下の量で封入することが好ましく、400μl以下の量で封入することがより好ましく、200以下の量で封入することがさらに好ましい。
【0024】
このような培養容器10にリンパ球と培養液をチューブ14を介して注入して、リンパ球の活性化を行うことによって、抗体12の固相化のみが行われている培養容器を用いる場合に比較して、リンパ球を抗CD3抗体に好適に接触させることができ、リンパ球の活性化効率をより向上させることができる。
図3は、このような活性化培養の様子を模式的に示したものであり、培養容器10の底内面に抗体12が固相化されると共に、抗体12が培養液30において低濃度で遊離している。そして、リンパ球20が固相化された抗体12と遊離している抗体12とによって、活性化されるようになっている。
【0025】
また、本発明の実施形態に係る培養容器を、
図4に示すように、固相化面11に対向する容器内面(以下、対向面と称する場合がある)に抗CD3抗体を固相化面11における密度よりも小さい密度で固相化した培養容器10aとして構成することも好ましい。
すなわち、対向面が、抗体12が固相化されていない非固相化面である場合、例えば保管時や輸送時に溶液中の遊離抗体が非固相化面に吸着すると、培養容器における遊離抗体の濃度が低下するため、その濃度制御が困難になる。
【0026】
そこで、本実施形態の培養容器10aでは、対向面に抗CD3抗体を固相化することで、培養容器における遊離抗体の濃度が低下するのを抑制可能にしている。対向面に固相化する抗CD3抗体の濃度は特に限定されないが、固相化面11の0.01〜0.9倍程度の密度にすることが好ましい。
【0027】
[培養容器の製造方法]
本実施形態の培養容器10は、例えば以下のように製造することができる。
まず、プラスチック押出成形装置を用いて低密度ポリエチレンを押出成形し、フィルムを形成する。そして、インパルスシーラーを用いて、このフィルムからバッグ型の培養容器10を製造する。また、チューブ14を培養容器10にポートを介して接続する。
【0028】
次に、培養容器10を積載台に載置して、所定の量の気体を封入すると共に、抗体12を溶解した緩衝液を続けて封入する。そして、培養容器10を揺動することなどによって、培養容器10内の底面上で緩衝液の液滴を移動させ、緩衝液に含まれる抗体12を、培養容器10内の底面上に付着させる。
このとき、固相化面11に固相化する抗体12として抗CD3抗体を用い、前述したように、固相化面11における抗体12の固相化の密度は、10〜300ng/cm
2とすることが好ましく、10〜40ng/cm
2とすることがより好ましい。
【0029】
また、固相化面11に対向する容器内面にも抗CD3抗体を固相化することによって、
図4に示す培養容器10aを製造することができる。
このとき、抗CD3抗体を固相化面11の0.01〜0.9倍程度の密度により固相化することが好ましい。
【0030】
さらに、このようにして抗体12が固相化された培養容器10(又は培養容器10a)内に、溶液状の抗CD3抗体を培養面(固相化面11)1cm
2当たり0.25〜400ng且つ0.1〜800μlの量で封入する。また、前述したように、溶液状の抗CD3抗体を、培養面1cm
2当たり0.5〜300ng且つ0.1〜600μlの量で封入することがより好ましく、1〜200ng且つ0.1〜400μlの量で封入することがさらに好ましく、1〜200ng且つ0.1〜200μlの量で封入することがより一層好ましい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、抗体12が固相化された固相化面11を備えると共に、溶液状の抗CD3抗体が上記最適な量で封入された培養容器を得ることができる。そして、このような培養容器によって、リンパ球を従来よりも高効率で活性化することができ、リンパ球の増殖効率をより一層向上させることが可能である。
【実施例】
【0032】
様々な濃度の抗体溶液を封入した培養容器を製造してリンパ球の活性化を行い、それぞれの培養容器によるリンパ球の増殖効率を確認した。具体的には、以下のように行った。
【0033】
<実験1>
[培養容器の作製]
ラボプラストミル(東洋精機製作所製)を用いて低密度ポリエチレンを押出成形して厚み100μmのフィルムを成形し、インパルスシーラーで11cm×20.5cm(約225cm
2)のバッグを作製した。
【0034】
[抗体の固相化]
このバッグにエアー約250mlを封入し、20μgの抗CD3抗体(タカラバイオ株式会社製)を溶解したリン酸緩衝液(抗体溶液,ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)2mlを封入した。そして、バッグを揺動して、液滴を10m/分の速度で、2.5分間バッグ内面上で移動させた。次いで、抗体溶液を排出した後、リン酸緩衝液2mlを封入して、10m/分の速度で2.5分間バッグ内面上で移動させ、排出することによって洗浄し、バッグ内面から遊離抗体を除去した。固相化された抗体量をBCA法にて測定した結果、37ng/cm
2の固相化量であった。
【0035】
[活性化培養試験用バッグの作製]
抗体を固相化したバッグをインパルスシーラーで5cm×5cmにリサイズし、活性化培養試験に用いるためのバッグを作製した。次に、培養時の遊離抗体の濃度が、それぞれ10ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、500ng/mlとなるように、抗CD3抗体を溶解したリン酸緩衝液(各々1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、20μg/ml、50μg/ml)50μlを活性化試験用バッグに封入した。また、対照実験として、抗CD3抗体を溶解したリン酸緩衝液を封入しないバッグを準備した。
【0036】
[リンパ球の活性化工程]
リンパ球の一種であるヒト末梢血単核球(Cell Applications,INC.製)8.2×10
5個を2%ウシ胎児血清(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)入りのALyS505N−7(株式会社細胞科学研究所)培地に懸濁して、細胞懸濁液を準備した。そして、細胞懸濁液5mlをそれぞれ活性化培養試験用バッグに封入した。
【0037】
これらのバッグを37℃で116時間静置培養することで、リンパ球の活性化を行った(活性化培養工程)。そして、活性化培養の終了時にバッグにおける細胞数をカウントして、増殖倍率を算出した。その結果を
図5に示す。
同図に示されるように、リンパ球の増殖倍率は、対照実験(固相化のみ)が4.30倍であり、遊離抗体濃度10ng/mlが5.24倍、同50ng/mlが5.20倍、同100ng/mlが4.88倍、同200ng/mlが3.77倍、同500ng/mlが3.18倍であった。
【0038】
すなわち、遊離抗体濃度が10ng/ml〜100ng/mlの場合は、固相化された抗体のみにより活性化する場合よりも、増殖効率が向上していることが分かる。
これに対して、遊離抗体濃度が200ng/ml以上の場合には、固相化された抗体のみにより活性化する場合よりも、増殖効率が低下していることが分かる。
このように、遊離抗体濃度が上記一定範囲の低濃度の場合には、リンパ球の増殖効率をより向上することができている。一方、遊離抗体濃度がより大きい場合には、リンパ球の活性化が阻害されて、増殖効率が低減したと考えられる。
【0039】
<実験2>
培養容器における遊離抗体濃度が10ng/mlよりも小さい場合のリンパ球の増殖効率を確認するための実験を行った。培養容器の作製、及び抗体の固相化については、実験1と同様にして行った。
【0040】
[活性化培養試験用バッグの作製]
抗体を固相化したバッグをインパルスシーラーで5cm×5cmにリサイズし、活性化培養試験に用いるためのバッグを作製した。次に、培養時の遊離抗体の濃度が、それぞれ5ng/ml、10ng/mlとなるように、抗CD3抗体を溶解したリン酸緩衝液(各々0.5μg/ml、1μg/ml)50μlを活性化試験用バッグに封入した。また、対照実験として、抗CD3抗体を溶解したリン酸緩衝液を封入しないバッグを準備した。
【0041】
[リンパ球の活性化工程]
リンパ球の一種であるヒト末梢血単核球(Cell Applications,INC.製)8.6×10
5個を2%ウシ胎児血清(ライフテクノロジーズジャパン株式会社製)入りのALyS505N−7(株式会社細胞科学研究所)培地に懸濁して、細胞懸濁液を準備した。そして、細胞懸濁液5mlをそれぞれ活性化培養試験用バッグに封入した。
そして、これらのバッグを37℃で122時間静置培養することで、リンパ球の活性化を行った。
【0042】
次に、活性化したリンパ球を抗体が固相化されていないディッシュ(コーニング製)に移し替え、適宜希釈操作を行って、192時間培養した(増幅培養工程)。そして、増幅培養の終了時にバッグにおける細胞数をカウントして、増殖倍率を算出した。その結果を
図6に示す。
同図に示されるように、リンパ球の増殖倍率は、対照実験(固相化のみ)が73倍であり、遊離抗体濃度5ng/mlが125倍、同10ng/mlが103倍であった。
すなわち、遊離抗体濃度が5ng/ml及び10ng/mlの場合は、いずれも固相化された抗体のみにより活性化する場合よりも、増殖効率が大きく向上していることが分かる。
【0043】
以上の通り、実験1及び実験2の結果によって、培養容器における遊離抗体濃度が5〜100ng/mlの場合、固相化された抗体のみにより活性化する場合よりも、増殖効率が向上できることが確認された。
【0044】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、培養容器の大きさ、リンパ球の種類、及び培地を実施例とは異なるものにするなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、リンパ球を大量培養する場合に好適に利用することが可能である。
【0046】
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
【符号の説明】
【0047】
10,10a 培養容器
11 固相化面
12 抗体
13 抗体溶液
14 チューブ
20 リンパ球
30 培養液