【文献】
リートベルト解析による高炉原料用焼結鉱の鉱物相評価,鉄と鋼,日本,一般社団法人 日本鉄鋼協会,2016年11月 4日,Vol. 103, No. 6,pp. 161-170,doi: 10.2355/tetsutohagane.TETSU-2016-069,URL,https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2016-069
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高炉原料用の焼結鉱は、鉱石と炭材と副原料を焼結して製造されるものであり、具体的には、以下の手順で製造される。
まず、鉱石、石灰石等の副原料、炭材、水をミキサーあるいは混錬機を用いて造粒して、焼結原料を得る。
【0003】
造粒により、焼結原料は、平均粒径3〜5mm程度の粒子を核粒子とし、核粒子の周囲を、「付着粉」と呼ばれる平均粒径1mm以下の粒子が取り巻いた、擬似的な粒子(以下、「擬似粒子」とも言う)に造粒される。
【0004】
次に、焼結原料を焼結機のパレット上に装入して充填層を形成し、バーナーで充填層の上面に着火する。着火により、充填層内の炭材が燃焼し、燃焼帯を形成する。さらにパレットの下方からパレット内の空気を吸引する。燃焼帯は、吸引によって充填層の上層から下層に進行する。燃焼帯では、燃焼熱によって周囲の擬似粒子が昇温されて部分的に溶融し、その融液により擬似粒子間が架橋されて焼結し、焼結鉱が製造される。製造された焼結鉱はパレットから排鉱され、クラッシャーによって粉砕されて、篩で整粒される。篩上が焼結鉱となり、篩下は返鉱として焼結原料に戻される。
【0005】
高炉での良好な通気性を保つため、焼結鉱は、一定以上の粒度が必要である。一定以上の粒度を有するためには、焼結鉱は、一定以上の強度を有する必要がある。焼結鉱の強度は、焼結鉱に所定の落下衝撃を加えた後の粒度を数値化した、落下強度指数で評価される。
【0006】
しかしながら、焼結鉱の強度を落下強度試験で直接求めるには、多量の焼結鉱が必要であり、少量のラボ実験の焼結鉱試料では、正確な評価が困難であった。例えば落下強度試験であるJIS M 8711では20kgの焼結鉱が必要であった。
そのため、焼結鉱の強度を落下強度試験で直接求めるのではなく、少量の焼結鉱試料を用いて、焼結鉱の強度と相関を有する指標を求め、当該指標から焼結鉱の強度を評価できれば好ましい。
【0007】
特許文献1および特許文献2では、落下強度に影響する指標として、空隙率が挙げられており、焼結鉱の組織観察で空隙と固体部を特定し、空隙率から強度を評価している。
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の強度評価は、観察範囲が数mm
2程度の局所的な観察に基づく評価であり、焼結鉱全体の強度を反映し難いという問題があった。また、組織観察は観察者の主観によるところが大きく、厳密な測定が困難であるという問題もあった。
【0009】
非特許文献1では、カルシウムフェライトが焼結の際に焼結原料の粒子間を結合する作用があること、カルシウムフェライトが、主にSFCA(Silico-ferrite of calcium and aluminum)とSFCA−Iという組成の異なる2種に分離できること、および温度や塩基度が、SFCAとSFCA−Iの比率に影響する可能性があることが記載されている。
【0010】
しかしながら、非特許文献1では、カルシウムフェライトと、焼結鉱の強度との相関は全く開示されておらず、焼結鉱の特性を定量的に評価することはできなかった。
【0011】
特許文献3では、焼結鉱中のカルシウムフェライト鉱物相の量と焼結鉱の強度に相関があることが記載されている。特許文献3では、X線回折(XRD, X-Ray Diffraction)およびリートベルト解析を用いて、カルシウムフェライト鉱物相の総量を求めて、相関に基づき、強度を評価している。
【0012】
特許文献3に記載の技術は、落下強度試験を行わずに、X線回折に必要な程度の少量の焼結鉱試料を用いて、焼結鉱強度を評価できる点で有用な技術である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明に好適な実施形態について、詳細に説明する。
【0020】
<発明の背景>
まず、本発明を創出するに至った経緯について、説明する。
特許文献3に記載のように、焼結反応中に生成されるカルシウムフェライトの量が、焼結鉱の落下強度に影響を与えることは、公知である。
【0021】
カルシウムフェライトは、擬似粒子を焼結して焼結鉱を生成する際に、以下の反応により生じると考えられる。
擬似粒子の焼結の際に、擬似粒子中の炭材である粉コークスの燃焼により、焼結層内の温度が1200℃近くまで上昇すると、Fe
2O
3とCaOの界面で固相拡散が進行し、固体のCaO−Fe
2O
3が生成する。
さらに温度が上昇するとCaO−Fe
2O
3が融液になる。焼結層内の温度が1200℃〜1300℃に上昇すると、融液量はさらに増加し、融液の拡散が活性化することで周りの原料を焼結させる。焼結が進むとCaO−Fe
2O
3系融液は冷却され、カルシウムフェライト、2次ヘマタイト、マグネタイト等の鉱物相に変化する。
【0022】
このような焼結反応において、カルシウムフェライト系融液の生成開始から、最高温度到達点を経由して融液が固化するまでの時間は、数分と短い。そのため、高炉用原料の焼結反応は短時間で非平衡の反応であり、焼結鉱の鉱物相は複数相である。
本出願人は、これら鉱物相の分率と焼結鉱の強度との間に、相関関係があるか否かを検討した。
【0023】
特に、本出願人は、カルシウムフェライトの組成と焼結鉱の強度の関係を調査した。その結果、SFCAと呼ばれる特定の組成のカルシウムフェライト相の相分率が、他のカルシウムフェライト相よりも、焼結鉱の強度と強い相関を示すことを見出した。
SFCAとは、主にFe、Ca、Si、Alを含むカルシウムフェライト相である。SFCAには、Mgが固溶している場合もある。
【0024】
本出願人はさらに、焼結鉱中のSFCAの相分率を測定するにあたって、SFCA−Iと呼ばれるカルシウムフェライト相を、SFCAと分離してリートベルト解析を行うことにより、分離しない場合と比べてSFCAの相分率を正確に求められることを見出した。
SFCA−Iとは、Fe、Ca、Si、Alを含み、Fe含有量および/またはAl含有量がSFCAより高いカルシウムフェライト相である。
以上が、本発明を創出するに至った経緯である。
【0025】
次に、図面を参照して本実施形態に係る強度評価方法について、説明する。
【0026】
<強度評価方法の概要>
まず、
図1を参照して本実施形態に係る強度評価方法の概要について、説明する。
まず、焼結原料を造粒し、焼成して得られた焼結鉱を粉末状に粉砕して粉末試料を得る(
図1のS1、試料粉砕工程)。
次に、粉末試料をX線回折法によって分析し回折パターンを得る(
図1のS2、X線回折パターン測定工程)。
次に、回折パターンにリートベルト解析を適用して鉱物相の相分率を求める(
図1のS3、リートベルト解析工程)。
最後に、SFCAの相分率から焼結鉱の強度を評価する(
図1のS4、強度評価工程)。
以上が本実施形態に係る強度評価方法の概要の説明である。
【0027】
次に、本実施形態に係る強度評価方法の各工程の詳細について説明する。以下の説明ではX線回折をXRDと略すことがある。以下、具体的な方法の例を示すが、本方法はその内容に限定されるものではない。
【0028】
<試料粉砕工程>
まず、鉄鉱石や返鉱等の鉄含有原料、石灰石等の副原料、およびコークス等の炭材を造粒した後、焼成して焼結鉱を得る。焼結装置としてはDL(ドワイトロイド)式が例示できるが、焼結鍋を用いてもよい。
次に、焼結鉱試料を焼結ケーキまたは、鍋試験で得られた焼結鉱塊から採取する。以下の説明では焼結ケーキから採取した場合について説明する。
採取の際には、鉱物相の相分率以外の落下強度因子の影響を抑制するような採取を行う必要がある。具体的には、焼結ケーキからの採取部位を統一して、焼結鉱の粒度や焼結反応の熱履歴などに、差が無い試料を採取するのが好ましい。
【0029】
また、評価する焼結鉱の代表値を得る必要がある。焼結ケーキ部位全体の代表値を得るためには、採取範囲内から偏りがないように試料を採取することが好ましい。焼結鉱は不均一性が高い材料であるため、評価したい試料の範囲全体を採取・粉砕して評価することが理想であるが、現実的には難しい。そのため、評価したい試料の範囲に対して、採取する量が少なくならないような配慮をして試料の採取をする必要がある。実際は化学分析用の粉末試料を採取するのと等しい水準の試料採取をすれば、最低限の代表値を得られる。
【0030】
次に、採取した試料に対して、粉砕および縮分を行う。試料の粉砕方法は、鉱物相に影響を与えなければ特に限定はしない。振動ミル、ボールミル(回転ミル)、スタンプミルなどの粉砕装置を用いるのが一般的である。振動ミルやボールミルは、粉砕と同時に混合も行われるため、スタンプミルよりも時間短縮が可能である。粉砕試料は、XRDによって分析するため、焼結鉱試料の粒度は平均で20μm程度が好ましい。試料の粒度が粗すぎると、配向によってXRDパターンに悪影響を及ぼす。逆にナノメートルオーダーの粒径の場合、結晶性が悪化しアモルファスのようなXRDパターンになってしまう。上記の粉砕装置では、ナノメートルオーダーの粒径になる可能性は低いので、通常の粉砕の場合は粗くならないように粉砕するとよい。
【0031】
縮分については、試料の粉砕後、乳鉢などを用いて粉末試料を混ぜる程度でよい。振動ミルやボールミルは粉砕と混合を同時に実施するため、基本的に粉砕後の縮分作業は必要ない。スタンプミルで粉砕した場合は、試料の混合が不十分である可能性があるため、縮分作業を実施して均一な粉末を製造するのが好ましい。焼結鉱試料が多すぎて、一度の作業で試料を粉砕できない場合は、複数回に分けて粉砕作業を行う。この場合は、粉砕法に関わらず、すべての試料を粉砕した後に、乳鉢にて試料を混ぜなおすのが好ましい。
【0032】
<X線回折パターン測定工程>
次にXRDの測定方法について記述する。前述した手法で粉砕した焼結鉱試料をサンプルホルダーに詰める。XRD測定に影響がなければ、サンプルホルダーの材質は限定しないが、一般にはガラス製である。試料粉末をサンプルホルダーに詰める際には、必要以上に強く詰めないのが好ましい。強く詰めると焼結鉱の結晶方位が揃って、正確なXRDパターンが測定され難くなる(すなわち配向が起こる)。詰めた後の試料の表面は平滑にするのが好ましい。これは、表面に凹凸があると侵入深さが一定でなくなり、XRDパターンに悪影響が生じるためである。焼結鉱の粉末は、特に配向が起こりやすい試料ではないため、配向を防ぐための特別な構造や方法は必要ない。
【0033】
XRDで用いるX線源がCu管球の場合、入射X線の侵入深さは約1μmである。そのため、試料の厚さは0.2mm以上あればよい。このような条件で作製した焼結鉱の粉末試料をX線回折装置にセットして、XRDパターンを測定する。
【0034】
XRDパターンの測定条件について説明する。XRDパターンの測定には、ディフラクトメータ(集中法)を用いる。後工程で、XRDパターン全体を精密化するリートベルト解析を実施するため、XRDパターンの測定範囲2θは広いほうが好ましい。例えば、2θ=10°〜140°の範囲で測定するのが好ましい。ステップ刻み(Δ2θ)は0.02°あるいは0.04°のどちらかを選択する。スキャンタイプはステップスキャン、連続スキャンどちらでもよい。検出器の露光時間(ステップスキャン)またはスキャンスピード(連続スキャン)は、最大強度が2万〜3万カウントになるように設定するのが好ましい。スリット条件は、入射X線の照射面積が試料面積を超えないようにする。X線源はCuKα線を使用できる。X線源の元素に合わせたKβフィルター(Cu線源の場合はNi板)を検出前に装入し、Kβ線を軽減させるのが好ましい。
【0035】
<リートベルト解析工程>
XRDのリートベルト解析について説明する。リートベルト解析は、XRD測定によって得られたXRDパターン(実測XRDパターン)に一致するように、計算XRDパターンの因子を最小二乗法によって最適化する方法である。これによって、一般的なピーク強度比較以上の精度で鉱物相の決定と定量ができる。リートベルト解析による定量には、標準物質を混合しないで鉱物相の定量が可能なWPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法を利用するのが好ましい。
【0036】
リートベルト解析用の解析ソフトウェアはリガク製のPDXL-2が挙げられる。また、結晶相のデータベースは、ICDD-PDF(International Centre for Diffraction Data - Powder Diffraction File(TM))を、用いることができる。
以下の説明は解析ソフトウェアとしてPDXL-2を、結晶相のデータベースとして、ISDD-PDFの2012年版を利用した場合を例に説明するが、解析ソフトウェアと結晶相のデータベースはこれらに限定されない。
【0037】
PDXL-2を用いてのリートベルト解析は、(1)計算XRDパターンの初期設定、(2)初期鉱物相の決定、(3)精密化条件の決定、(4)パターンの精密化、の順番で実行する。この順に沿って説明する。
【0038】
まず、計算XRDパターンの初期条件を設定する。PDXL-2に焼結鉱のXRDパターンを読み込ませると、実測XRDパターンに近い計算XRDパターンが自動的に計算される。しかしながら、XRDパターンによっては、実測XRDパターン中に存在するピークが計算XRDパターン内に反映されてない場合や、バックグラウンドに異常が見られる場合もある。その場合は、手動で補正をする必要がある。
【0039】
PDXL-2には、ピーク位置を追加する機能があるため、その機能を利用して見落としたピークを修正する。特に2θ=30°〜50°間のピークは自動計算では見落とされやすいため注意する。逆に、バックグラウンドをピークとして誤検出した場合等は、ピークの削除も可能である。バックグラウンドの異常はピーク見落としに比べると頻度は少ないため、基本的にはバックグラウンドを補正する必要はない。明瞭に異常が確認された際のみ実施するとよい。その場合はバックグラウンドを編集する機能があるので、それを用いて修正するとよい。このピーク位置およびバックグラウンドの補正は、次のステップの初期鉱物相の選択に影響を与える。
【0040】
次に、初期鉱物相を選択する。PDXL-2では、鉱物相の元素を選択すると、前述にて補正した計算XRDパターンに合う候補の鉱物相を読み込み、近い順番にこれらをリストアップする機能がある。この機能を利用して、鉱物相およびその順番を選択する。鉱物相の選択の順番もリートベルト解析結果に影響を与えるため、焼結鉱の鉱物相を選択する際には、極力、存在分率の高い順番に選択するのが好ましい。焼結鉱中の主要な鉱物相は、ヘマタイト(α−Fe
2O
3)、マグネタイト(Fe
3O
4)、多成分系カルシウムフェライト(SFCA、SFCA−I)、シリケートスラグ(Ca
2SiO
4)である。また、生成条件によってはウスタイト(FeO)、2元系カルシウムフェライトなどが、微量(約3mass%以下)ながら生成する可能性がある。
この時点では焼結鉱中の鉱物相の正確な存在分率はわからないが、基本的には前述したヘマタイト、マグネタイト、多成分系カルシウムフェライト、シリケートスラグの順番での鉱物相の精密化を実施すると良い。また、微量のウスタイトや2元系カルシウムフェライトについても精密化対象にしても良いが、これらの相を先に精密化してしまうと、正確な結果が得られない可能性がある。なお、本発明において、これらの微量(約3mass%以下)な相の有無は結果にほとんど影響がないため、必ずしも選択する必要はなく、解析対象外としても問題ない。
【0041】
そのため、一般的な焼結鉱の場合では、主要鉱物相であるヘマタイト、マグネタイト、SFCA、SFCA−I、シリケートスラグの順番で初期鉱物相5種を選択するとよい。但し、試料によってはこの順番を変更することでフィッティング精度が向上するケースもある。
【0042】
それぞれの鉱物相の選択の留意点を以下に説明する。まずは、ヘマタイトおよびマグネタイトの候補の鉱物相を選択する。ヘマタイト、マグネタイトは、似た結晶構造をもつ鉱物相がデータベース内に多く存在する。どの鉱物相を選択しても、あとのステップで結晶構造を精密化するため、結果への影響は少ない。ヘマタイトは2θ=33°付近に最大ピークが、マグネタイトは2θ=35°付近に最大のピークが存在する。これと、XRDパターンのFOM(Figure of Merit)を参考にして選択するのが好ましい。FOMとは、評価する試料のXRDパターンと、候補の鉱物相のXRDパターンの差を定量的に示した値である。FOMが小さいほど、評価する試料中に、その鉱物相が含まれている可能性が高いと考えられる。
【0043】
SFCAは連続固溶体であるため異なる組成の相が多数確認されているが、基本的には、Ca
2(Ca,Fe,Al)
6(Fe,Al,Si)
6O
20の構造式を満たした結晶構造を有する。本実施形態では、Calcium Iron Aluminum Silicate(化学式:Ca
2.8Fe
8.7Al
1.2Si
0.8O
20,No:08-1-080-0850)(Fe
2O
3/CaO=1.6)を選択して、解析する。一般的な焼結鉱中に存在するSFCA組成は、Ca
2.8Fe
8.7Al
1.2Si
0.8O
20とは限らない。ただし、実際には、SFCA組成が多少違っていても、定量値に明瞭な差が出る可能性は低く、SFCAの条件を満たした構造(例えば、化学式:Ca
2.8Fe
8.7Al
1.2Si
0.8O
20等)であればまず問題ない。また、SFCAはFe、Ca、Al、Siの4元系で構成されるが、それ以外の脈石(例えばMgなど)が固溶した場合でも、SFCAの条件を満たしていればSFCAと同様の解析が可能である。
SFCA−Iも連続固溶体であるため、Ca
3(Ca,Fe)(Fe,Al)
16O
28の構造式を満たした結晶構造を有しつつ、異なる組成の相が複数存在するが、組成が明瞭に変わらない限りは定量値に大きな影響はない。そのため、本実施形態では、化学式:Ca
3.18Fe
15.48Al
1.34O
28、No:00-052-1258を選択する。
シリケートスラグはダイカルシウムシリケート(Ca
2SiO
4)が大部分を占めるため、この組成の結晶相を選択するとよい。中でも2θ=32°付近に強い回折ピークをもつ、Lernite(Ca
2SiO
4)が焼結鉱のXRDパターンに適合している。特に問題がなければこの相を選択するのが好ましい。Lerniteもヘマタイトやマグネタイトと同じく、似た結晶構造をもつ鉱物相が存在するため、XRDパターンとFOMを参考にしながら、最も適したLerniteを候補の相に選択する。
【0044】
次に、上記の主要鉱物相を選択した後、ウスタイトや2元系カルシウムフェライト等の微量相を追加の解析対象としてもよい。前述したがこれらの微量相を必ずしも選択する必要はなく、解析対象外としても問題ない。但し、試料によっては、主要鉱物相以外の鉱物相の回折ピークが明瞭に検出されるケースもあるので、その場合は必ずその相は解析対象とする。
【0045】
次に、精密化条件を決定する。
具体的には、選択した候補の鉱物相に対して、リートベルト解析の条件を設定する。下記に基本的な解析手順を記載するが、試料によっては精密化が収束して自然な結果が得られるならば、決まった制限はない。そのため、具体的な方法の例を示すが、本方法はその内容に限定されるものではない。
リートベルト解析で計算XRDパターンに利用する理論回折強度の計算式を式(1)に示す。
【0046】
【数1】
ここで、
s:尺度因子
S
R(θ
i):試料表面粗さの補正因子
A(θ
i):吸収因子
D(θ
i):一定照射補正因子
K:ブラッグ反射強度に寄与する反射の番号
m
k:ブラッグ反射の多重度
F
k:結晶構造因子、
P
k:選択配向関数、
L(θ
k):ローレンツ偏光因子
θ
k:ブラッグ角
Φ(Δ2θ
ik):プロファイル関数
y
b(2θ
i):バックグラウンド関数
【0047】
焼結鉱のXRDパターンのリートベルト解析で精密化する因子は、格子定数、プロファイル関数、結晶構造の3つを選択するとよい。
【0048】
これらの因子は、式(1)中では以下の式(2)〜(5)で表される。
【0050】
プロファイル関数(Φ(Δ2θ
ik))に組み込まれている、対称プロファイルパラメータU、V、Wは装置条件に関する因子である。装置が共通の条件では変化しないため、フィッティング対象から除外することが好ましい。また、結晶構造因子に組み込まれている温度因子Tjは、複数の鉱物相の定量の際には精度よく決定することは困難であるため、フィッティング対象から外すほうが好ましい。これによって、解析結果の発散を抑制することができる。また、結晶構造因子のフィッティングは微量相には適用しない方が望ましい。同じく、結晶構造因子のフィッティングは相の定量値には大きな影響を及ぼす可能性は低く、解析時間の短縮を望むケースでは実施しなくても問題ない。但し、試料間の評価をする際にはリートベルト解析条件を極力、同一にした解析結果で比較することが望ましい。
【0051】
次に、パターンの精密化(フィッティング)を行う。
フィッティングする因子は、格子定数、プロファイル関数、結晶構造の3つがある。まず、格子定数とプロファイル関数の精密化を同時に実施する。その後、結晶構造の精密化を行うとよい。なお、微量相においては、結晶構造の精密化は対象外でよい。
【0052】
鉱物相の順番は、候補の鉱物相を決定した順番で実施するのが好ましい。表1に具体的なフィッティングの順番を示したので、これを用いて説明する。
本実施形態では、ヘマタイト、マグネタイト、SFCA、SFCA−I、Ca
2SiO
4の順番に、格子定数とプロファイル関数を同時に精密化する。一番初めのヘマタイトとマグネタイトの精密化は同時でも良い。これが完了したら、条件に応じて、ヘマタイト、マグネタイト、SFCA、SFCA−I、Ca
2SiO
4の結晶構造の精密化を実施する。
【0054】
フィッティングが完了したら、S値を評価してフィッティングの精度を確認する。S値は以下の式(6)で示される。
【0055】
【数3】
ここで、
y
i:回折強度
W
i=1/y
i
N
:全データ数
P
:精密化するパラメータの数
【0056】
S値は、計算XRDパターンが実測XRDパターンに近づくほど、小さい値をとる(最小は1)。そのため、S値を評価することで、焼結鉱のフィッティング精度を見積もることができる。しかしながら、異なる試料間でのS値の比較はできない。S値の評価は、同じXRDパターンに対してのフィッティング精度の比較に用いるのが好ましい。
一般的な焼結鉱の場合、S値が2〜3であれば、十分に高精度に鉱物相の決定と定量がされたと判断できる。ただし、焼結鉱試料によってはフィッティングが妥当であっても、S値が3以上になることがある。
【0057】
<強度評価工程>
S値を確認して、リートベルト解析で十分な解析結果が得られたと判断したら、SFCAの定量値を比較する。SFCAの定量値が高い焼結鉱は落下強度が高いと推定することができる。
比較対象である落下強度は、焼結鉱の強度として、JISで定められた代表的な落下強度指数である、SIを用いるのが好ましい。また、回転強度指数TI(Tumble index、JIS M 8712)や、圧潰強度試験等で得られる類似の強度指標も、比較対象にできる。
リートベルト解析によって決定する定量値にもある程度の誤差が生じるが、比較する焼結鉱試料のSFCA分率の差が、SFCA分率に対して5%程度以内であれば、落下強度に大きな差はないと考えられる。例えば、SFCAが30質量%の場合、±1.5質量%以内であれば、落下強度に大きな差はないと考えられる。
【0058】
また、上記の評価方法を用いて複数の焼結鉱を解析することで、落下強度とSFCA分率の相関を導くことができる。この手法によって得られた相関曲線を適用することで、焼結鉱に含まれるSFCA分率から、その焼結鉱のおおよその落下強度を評価することが可能である。この評価法については、実施例で説明する。
【0059】
このように、本実施形態では、焼結鉱のリートベルト解析から決定した焼結鉱中のSFCA分率から、焼結鉱の強度を評価している。
そのため、落下強度試験を行わなくても、焼結鉱の強度を評価できる。
【0060】
また、本実施形態では、焼結鉱中のSFCAの相分率を測定するにあたって、SFCA−IをSFCAと分離してリートベルト解析を行っているため、分離しない場合と比べてSFCAの相分率を正確に求められる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
複数の焼結鉱試料に対して、落下強度とSFCA分率との相関を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0062】
まず、焼結鉱試料は、DL焼結機で焼結し、パレット抜きした焼結ケーキを用意し、焼結ケーキの表層から約10cmの厚さをもつ領域から採取した。
採取した焼結鉱の量は20kgである。その焼結鉱をJIS M 8711に従って、2mの高さから5回落下させた。その後、粒度5mm以上の焼結鉱の重量を測定して、落下強度指数を測定した。JIS M 8711は粒度10mm以上の重量比率であるが、実高炉へ投入される焼結鉱は5mm以上の粒であることから、粒度5mm以上の重量比率を強度指標とした。なお、粒度10mm以上の重量比率を強度指標とした場合にも、本発明は適用可能である。
落下強度評価後の粉砕された焼結鉱試料から、それぞれ約1kg採取して、震動ミルによる粉砕を行った。その後、XRDパターンを評価した。XRDの測定条件は以下の通りである。
【0063】
XRD測定条件
管球:CuKα (40kV、40mA)
検出器:1次元検出器D/tex(Rigaku製)
2θ:10〜140deg
Δ2θ:0.02deg
スキャン速度:1deg/min
【0064】
測定したXRDパターンに対して、リートベルト解析を実施した。この際、焼結鉱中のSFCAの相分率を測定するにあたって、SFCA−IをSFCAと分離してリートベルト解析を行った。
リートベルト解析結果から、決定されたSFCA分率と落下強度試験結果との相関を求めた。
鉱物相の定量値および強度を表2に、SFCAと落下強度指数SIの相関を評価したグラフを
図2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
図2に示すように、SFCAは、落下強度指数と強い相関があることが確認された。
図2中にはSFCAの近似直線およびR
2値も示した。近似直線式にSFCAの分率を代入することで、おおよその落下強度指数を見積もることが可能である。
(比較例)
比較例として、実施例の試料に対して、特許文献3のように、SFCAやSFCA−Iの存在を考慮せず、2元系カルシウムフェライトのみの存在を仮定してリートベルト解析を行い、決定されたカルシウムフェライトの総量と落下強度指数との相関を求めた。
鉱物相の定量値および強度を表3に、相関を評価したグラフを
図3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
図3に示すように、カルシウムフェライト総量は、落下強度指数と相関があることが確認されたが、実施例と比べて、R
2値が劣っていた。
以上の結果から、SFCA−IをSFCAと分離してリートベルト解析を行い、焼結鉱中のSFCAの相分率を測定することにより、SFCAと落下強度指数の間に強い相関が得られ、得られた相関から落下強度指数を精度よく評価できることが分かった。