特許第6844449号(P6844449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844449
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20210308BHJP
   C08L 71/08 20060101ALI20210308BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20210308BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20210308BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L71/08
   C08L27/06
   C08L23/28
   C08L71/02
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-126974(P2017-126974)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-24838(P2018-24838A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2020年4月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-149515(P2016-149515)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 拓実
(72)【発明者】
【氏名】森岡 信博
(72)【発明者】
【氏名】小林 定之
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/167247(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0335104(US,A1)
【文献】 特開平03−052952(JP,A)
【文献】 特開平08−225696(JP,A)
【文献】 米国特許第05747605(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0188067(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/099842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08L 23/28
C08L 27/06
C08L 71/02
C08L 71/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアミド(A)、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記ポリアミド(A)、前記ポリロタキサン(B)および前記樹脂(C)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を70重量部以上99.8重量部以下、前記ポリロタキサン(B)を0.1重量部以上15重量部以下、前記樹脂(C)を0.1重量部以上15重量部以下配合してなる樹脂組成物。
【請求項2】
前記グラフト鎖がポリエステルであることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト鎖がポリカプロラクトンであることを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂(C)が繰り返し単位中に少なくとも1つ以上の水酸基またはハロゲン基を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂(C)がフェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリビニルフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂(C)がビスフェノールF型フェノキシ樹脂を50重量%以上含むフェノキシ樹脂であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド(A)を主成分とする海相と前記ポリロタキサン(B)および前記樹脂(C)を主成分とする島相を有する請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記島相の平均直径が1μm以下である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項10】
少なくともポリアミド(A)、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を、前記ポリアミド(A)、前記ポリロタキサン(B)、および前記樹脂(C)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を70重量部以上99.8重量部以下、前記ポリロタキサン(B)を0.1重量部以上15重量部以下、前記樹脂(C)を0.1重量部以上15重量部以下配合してなる樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンおよび該グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂を配合してなる、剛性および靱性のバランスに優れた成形品を得ることのできるポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、剛性、靭性などの機械的性質や熱的性質に優れるなど、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。ポリアミド樹脂の靱性をさらに改良する方法として、オレフィン系エラストマーや、ゴム状のコア層をガラス状樹脂のシェル層で覆ったコアシェル型化合物を配合することが知られている。オレフィン系エラストマーを配合する技術としては、例えば、ポリアミド樹脂からなる連続相と、該連続相に分散された、α,β−不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンからなる粒子状の分散相とからなるポリアミド系樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が提案されている。コアシェル型化合物を配合する技術としては、例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレートを芯とし、その上にポリオルガノシロキサンからなる第一層及びポリアルキル(メタ)アクリレートからなる第二層を有する多層構造重合体粒子に、ビニル系単量体をグラフト重合してなる複合ゴム系グラフト共重合体と、熱可塑性樹脂からなる耐衝撃性熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)、テレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位と、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位とからなるポリアミド樹脂、並びにコアシェル構造を有する樹脂微粒子からなるポリアミド樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されている。これら樹脂組成物を各種用途、特に自動車構造材料に適用する場合には、剛性との両立が必要となる。特許文献1〜3に開示された樹脂組成物は、オレフィン系エラストマーやコアシェル型化合物を配合することにより、耐衝撃性や靱性は向上するものの、剛性が低下する課題があった。
【0003】
一方、衝撃強度と靭性を改良する方法として、例えば、不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリオレフィンと、官能基を有するポリロタキサンとを反応して得られる樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)、ポリ乳酸からなるグラフト鎖を有する環状分子の開口部が直鎖状分子によって包接されたポリロタキサンと、ポリ乳酸樹脂とを含むポリ乳酸系樹脂組成物(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−31325号公報
【特許文献2】特開平5−339462号公報
【特許文献3】特開2000−186204号公報
【特許文献4】特開2013−209460号公報
【特許文献5】特開2014−84414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献4〜5に開示されるように、ポリロタキサンを用いることにより、ポリオレフィンやポリ乳酸の衝撃強度と靭性が向上することは知られていたが、特許文献4に記載の樹脂組成物は、剛性が不十分である課題があった。また、特許文献5に記載の樹脂組成物は、ポリ乳酸の靱性は向上するものの、なおも不十分であった。これらの引用文献に開示されたポリロタキサンは、ポリアミドとの相溶性や反応性が低く、かかるポリロタキサンを、ポリアミドの改質に適用することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、剛性および靱性のバランスに優れた成形品を得ることのできるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)少なくともポリアミド(A)、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記ポリアミド(A)、前記ポリロタキサン(B)および前記樹脂(C)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を70重量部以上99.8重量部以下、前記ポリロタキサン(B)を0.1重量部以上15重量部以下、前記樹脂(C)を0.1重量部以上15重量部以下配合してなる樹脂組成物。
(2)前記グラフト鎖がポリエステルであることを特徴とする、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記グラフト鎖がポリカプロラクトンであることを特徴とする、(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記樹脂(C)が繰り返し単位中に少なくとも1つ以上の水酸基またはハロゲン基を有していることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)前記樹脂(C)がフェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリビニルフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(6)前記樹脂(C)がビスフェノールF型フェノキシ樹脂を50重量%以上含むフェノキシ樹脂であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(7)前記ポリアミド(A)を主成分とする海相と前記ポリロタキサン(B)および前記樹脂(C)を主成分とする島相を有する(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(8)前記島相の平均直径が1μm以下である(7)に記載の樹脂組成物。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形品。
(10)少なくともポリアミド(A)、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を、前記ポリアミド(A)、前記ポリロタキサン(B)、および前記樹脂(C)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を70重量部以上99.8重量部以下、前記ポリロタキサン(B)を0.1重量部以上15重量部以下、前記樹脂(C)を0.1重量部以上15重量部以下配合してなる樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物により、剛性および靱性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、少なくともポリアミド(A)、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を配合してなる。ポリアミド(A)を配合することにより、剛性や耐熱性を向上させることができる。また、ポリロタキサン(B)を配合することにより、靱性を向上させることができる。さらに、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)、および前記グラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を配合することにより、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の混和性が向上し、剛性を維持したまま、靱性を向上させることができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸の残基を主たる構成成分とする。その原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
【0012】
ポリアミド(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。
【0013】
本発明の樹脂組成物において、ポリアミド(A)の融点は150℃以上300℃未満が好ましい。融点が150℃以上であれば、耐熱性を向上させることができる。一方、融点が300℃未満であれば、樹脂組成物製造時の加工温度を適度に抑え、ポリロタキサン(B)の熱分解を抑制することができる。
【0014】
ここで、本発明におけるポリアミドの融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
【0015】
150℃以上300℃未満に融点を有するポリアミドの具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)の配合量は、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の合計100重量部に対して、70重量部以上99.8重量部以下である。ポリアミド(A)の配合量が70重量部未満であると、得られる成形品の剛性、耐熱性が低下する。ポリアミド(A)の配合量は90重量部以上が好ましく、93重量部以上がより好ましい。一方、ポリアミド(A)の配合量が99.8重量部を超えると、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の配合量が相対的に少なくなるため、成形品の靱性が低下する。ポリアミド(A)の配合量は99.5重量部以下が好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサン(B)を配合してなる。ロタキサンとは、例えばHarada, A., Li, J. & Kamachi, M., Nature 356, 325-327に記載の通り、一般的に、ダンベル型の軸分子(両末端に嵩高いブロック基を有する直鎖分子。以下、「直鎖分子」と記載する)に環状の分子が貫通された形状の分子のことを言い、複数の環状分子が一つの直鎖分子に貫通されたものをポリロタキサンと呼ぶ。
【0018】
ポリロタキサンは、直鎖分子および複数の環状分子からなり、複数の環状分子の開口部に直鎖分子が貫通した構造を有し、かつ、直鎖分子の両末端には、環状分子が直鎖分子から脱離しないように嵩高いブロック基を有する。ポリロタキサンにおいて、環状分子は直鎖分子上を自由に移動することが可能であるが、ブロック基により直鎖分子から抜け出せない構造を有する。すなわち、直鎖分子および環状分子は、化学的な結合でなく、機械的な結合により形態を維持する構造を有する。このようなポリロタキサンは、環状分子の運動性が高いために、外部からの応力や内部に残留した応力を緩和する効果がある。さらに、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンをポリアミドに配合することにより、ポリアミドに同様の効果を波及させることが可能となる。
【0019】
前記直鎖分子は、環状分子の開口部に貫通し、前記ブロック基と反応し得る官能基を有する分子であれば、特に限定されない。好ましく用いられる直鎖分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類;ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリイソブチレンジオール、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ジオール、水素化ポリブタジエンジオール、ポリエチレンジオール、ポリプロピレンジオールなどの末端水酸基ポリオレフィン類;ポリカプロラクトンジオール、ポリ乳酸、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル類;末端シラノール型ポリジメチルシロキサンなどの末端官能性ポリシロキサン類;末端アミノ基ポリエチレングリコール、末端アミノ基ポリプロピレングリコール、末端アミノ基ポリブタジエンなどの末端アミノ基鎖状ポリマー類;上記官能基を一分子中に3つ以上有する3官能性以上の多官能性鎖状ポリマー類などが挙げられる。中でも、ポリロタキサンの合成が容易である点から、ポリエチレングリコールおよび/または末端アミノ基ポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0020】
直鎖分子の数平均分子量は、2,000以上が好ましく、剛性をより向上させることができる。10,000以上がより好ましい。一方、100,000以下が好ましく、ポリアミド(A)との相溶性を向上させることができ、相分離構造を微細化することができるため、靱性をより向上させることができる。50,000以下がより好ましい。ここで、直鎖分子の数平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
【0021】
前記ブロック基は、直鎖分子の末端官能基と結合し得るものであり、環状分子が直鎖分子から脱離しないために十分に嵩高い基であれば、特に限定されない。好ましく用いられるブロック基としては、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイニル基、ピレニル基、アントラセニル基、数平均分子量1,000〜1,000,000の高分子の主鎖または側鎖等が挙げられる。これらを2種以上有してもよい。
【0022】
前記環状分子は、開口部に直鎖分子が貫通し得るものであれば、特に限定されない。好ましく用いられる環状分子としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、クリプタンド類、大環状アミン類、カリックスアレーン類、シクロファン類などが挙げられる。シクロデキストリン類は、複数のグルコースがα−1,4−結合で環状に連なった化合物である。α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンがより好ましく用いられる。
【0023】
本発明におけるポリロタキサン(B)は、グラフト鎖により環状分子が修飾されていることを特徴とする。グラフト鎖により環状分子が修飾されていることで、ポリアミド(A)との混和性が向上するだけでなく、環状分子同士が水素結合により凝集し、環状分子の運動性が妨げられるのを防ぐことができる。
【0024】
前記グラフト鎖は、ポリエステルにより構成されることが好ましい。ポリアミド(A)との相溶性および有機溶剤への溶解性の点から、脂肪族ポリエステルがより好ましい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ4−ヒドロキシブチレート、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)などが挙げられる。中でも、ポリアミド(A)との相溶性の観点から、ポリ(ε−カプロラクトン)がより好ましい。ここで、ポリロタキサン(B)中のグラフト鎖の比率は、10重量部以上が好ましい。グラフト鎖の比率が10重量部以上とすることで、ポリロタキサン(B)と他の樹脂の相溶性を向上させることが可能となる。グラフト鎖の比率は30重量部以上がより好ましく、50重量部以上がさらに好ましい。また、グラフト鎖の比率の上限については、80%以下が好ましい。80%以下とすることで、ポリロタキサン(B)の応力緩和効果を十分に奏すことが可能となる。
【0025】
前記グラフト鎖の末端基は、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、グリシジル基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を末端に有していることが好ましい。カルボキシル基やグリシジル基は、ポリアミド(A)のアミン末端との反応性が高く、イソシアネート基およびアミノ基は、ポリアミド(A)のカルボキシル末端との反応性が高い。このため、環状分子が前記特定の官能基を有するグラフト鎖により修飾されることにより、ポリロタキサン(B)のポリアミド(A)との相溶性が良好になる。その結果、ポリアミド(A)の剛性を維持したまま靱性を向上させることができ、剛性と靱性をバランスよく向上させることができる。
【0026】
グラフト鎖末端の官能基は、例えば、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンと、所望の官能基を有する、グラフト鎖末端と反応し得る導入化合物とを反応させることにより付与することができる。この場合、グラフト鎖末端の官能基濃度は、例えば、グラフト鎖により環状分子が修飾されたポリロタキサンと導入化合物の仕込み比率を調整することにより、所望の範囲に調整することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物におけるポリロタキサン(B)の重量平均分子量は、10万以上が好ましく、剛性および靱性をより向上させることができる。一方、100万以下が好ましく、ポリアミド(A)との相溶性が向上し、靱性をより向上させることができる。ここで、直鎖分子の重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、ポリメチルメタクリレート換算の値を指す。
【0028】
本発明の樹脂組成物におけるポリロタキサン(B)の配合量は、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の合計100重量部に対して、0.1重量部以上15重量部以下である。ポリロタキサン(B)の配合量が0.1重量部未満であると、ポリロタキサン(B)の応力緩和効果が十分に奏されず、成形品の靱性が低下する。ポリロタキサン(B)の配合量は0.5重量部以上が好ましい。一方、ポリロタキサン(B)の配合量が15重量部を超えると、相対的にポリアミド(A)配合量が少なくなるため、得られる成形品の剛性、耐熱性が低下する。10重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、前記ポリロタキサン(B)のグラフト鎖を構成する樹脂と相溶する樹脂(C)を配合してなる。ここで言う、「相溶する」とは、本発明の成分(B)および成分(C)の配合比の範囲に含まれる組成における成分(B)のグラフト鎖を構成する樹脂と成分(C)との比率において、成分(B)のグラフト鎖を構成する樹脂と成分(C)を、成分(B)のグラフト鎖を構成する樹脂と成分(C)とがともに溶融する、融点以上分解点以下の温度域で混合し、光学顕微鏡を用いて倍率100倍に拡大して観察した際に、塊状物や凝集物が確認できない状態のことを指す。本発明は、ポリロタキサン(B)のグラフト鎖を構成する樹脂と、樹脂(C)が相溶することで、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の混和性が向上し、剛性を維持したまま、靱性を向上させることができる。
【0030】
前記樹脂(C)の繰り返し単位中には、少なくとも1つ以上の水酸基またはハロゲン基を有していることが好ましい。繰り返し単位中に、水酸基またはハロゲン基を有することにより、樹脂(C)の極性が増大し、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の混和性がより向上する。
【0031】
前記ハロゲン基としては、クロロ基、フルオロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。
【0032】
前記樹脂(C)の具体的な例としてはフェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリビニルフェノールが挙げられる。これらは1種類だけでなく、複数種組み合わせて添加しても良い。中でも、加工性、耐熱性の点から、フェノキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0033】
フェノキシ樹脂の種類に特に制限は無いが、加工性、取り扱い性に優れる点で、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂やビスフェノールF型フェノキシ樹脂、またはこれらの混合物が好ましく用いられる。中でもポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の混和性がより向上することから、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を50重量%以上含むフェノキシ樹脂であることが好ましく、75重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましい。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド(A)を主成分とする海相、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)を主成分とする島相を有することが好ましい。また、ポリアミド(A)を主成分とする海相、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)を主成分とする島相を有し、島相の中にさらにポリアミド(A)を主成分とする湖相を有する、いわゆる海島湖構造を有していても良い。ここで、「主成分」とは、当該相において、80重量%以上を占める成分を指す。ポリロタキサン(B)および樹脂(C)は相溶することから、いずれも同じ島相に存在すると言える。「(B)成分および(C)成分を主成分とする島相」とは、島相中のポリロタキサン(B)および樹脂(C)の合計量が80重量%以上を占めていることをいう。樹脂組成物の特性は、相分離構造やその相サイズにも影響を受けることが知られている。2種以上の成分からなり、相分離構造を有する樹脂組成物は、それぞれの成分の長所を引き出し、短所を補い合うことにより、各成分単独の場合に比べて優れた特性を発現する。本発明の樹脂組成物は、このような海島構造または海島湖構造を有することにより、破壊時のクラック進展が抑制され、靱性をより向上させることができる。すなわち、応力集中により形成されたクラックは、ポリアミド(A)を主成分とする海相を伝播するが、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)を主成分とする島相が存在することにより、クラックが比較的柔軟な島相に誘導され、ここで応力が分散されるため、クラックの伝播が抑制される。
【0035】
海島構造において、島相の平均直径は0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。島相の平均直径が0.01μm以上であると、相分離構造に由来する特性がより効果的に発揮され、靱性をより向上させることができる。また、島相の平均直径は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。島相の平均直径が1μm以下であると、破壊時のクラック進展の抑制効果がより効果的に発現し、靱性をより向上させることができる。また、柔軟なポリロタキサン(B)および樹脂(C)の相を小さくすることにより、剛性をより向上させることができる。海島湖構造を形成する場合には湖相の平均直径については特に制限はないが、0.005μm以上が好ましく、島相の平均直径の1/2以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物における海島構造の島相または海島湖構造の島相および湖相の平均直径は、電子顕微鏡観察により、以下の方法により求めることができる。一般的な成形条件において、樹脂組成物の相分離構造および各相の大きさは変化しないことから、本発明においては、樹脂組成物を成形して得られる試験片を用いて相分離構造を観察する。まず、射出成形により得られるJIS−1号短冊型試験片(長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm)の断面方向中心部を1〜2mm角に切削し、リンタングステン酸/オスミウムでポリアミド(A)を染色した後、0.1μm以下(約80nm)の超薄切片をウルトラミクロトームにより−196℃で切削し、透過型電子顕微鏡用サンプルを得る。海島構造の島相の平均直径を求める場合、前述の透過型電子顕微鏡用サンプルについて、正方形の電子顕微鏡観察写真に島相が50個以上100個未満存在するように、倍率を調整する。かかる倍率において、観察像に存在する島相から無作為に50個の島相を選択し、それぞれの島相について長径と短径を測定する。その長径と短径の平均値を各島相の直径とし、測定した全ての島相の直径の平均値を島相の直径とする。なお、島相または湖相の長径および短径とは、それぞれ島相の最も長い直径および最も短い直径を示す。
【0037】
島相の平均直径が前述の好ましい範囲にある海島構造は、例えば、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)の配合量を前述の好ましい範囲にすることにより得ることができる。ポリロタキサン(B)の配合量が少ないほど島相の平均直径は小さくなる傾向にあり、ポリロタキサン(B)の配合量が多いほど島相の平均直径は大きくなる傾向にある。
【0038】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに充填材、ポリアミド(A)および樹脂(C)以外の熱可塑性樹脂、各種添加剤などを配合することができる。
【0039】
充填材を配合することにより、得られる成形品の強度、剛性をより向上させることができる。充填材としては、有機充填材、無機充填材のいずれでもよいし、繊維状充填材、非繊維状充填材のいずれでもよい。これらを2種以上配合してもよい。
【0040】
繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらは、エチレン/酢酸ビニルなどの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂により、被覆または集束されていてもよい。繊維状充填材の断面形状としては、円形、扁平状、まゆ形、長円形、楕円形、矩形などが挙げられる。
【0041】
非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
【0042】
ポリアミド(A)および樹脂(C)以外の樹脂の具体例としては、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。その他の成分の含有量は、ポリアミド(A)100重量部に対して、100重量部未満が好ましく、50重要部未満がより好ましく、30重量部未満がさらに好ましい。
【0043】
各種添加剤の具体例としては、銅化合物以外の熱安定剤、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミドの特徴を十分に活かすため、ポリアミド(A)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
【0044】
銅化合物以外の熱安定剤としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのフェノール系化合物、リン系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、有機チオ酸系化合物などの硫黄系化合物、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0045】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はないが、溶融状態で混練する方法や、溶液状態で混合する方法等が挙げられる。反応性向上の点から、溶融状態で混練する方法が好ましい。溶融状態で混練する溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機などの多軸押出機、二軸単軸複合押出機などの押出機や、ニーダーなどが挙げられる。生産性の点から、連続的に製造可能な押出機が好ましく、混練性、反応性、生産性の向上の点から、二軸押出機がより好ましい。
【0046】
以下、二軸押出機を用いて本発明の樹脂組成物を製造する場合を例に説明する。ポリロタキサン(B)の熱劣化を抑制し、靱性をより向上させる観点から、最高樹脂温度は、300℃以下が好ましい。一方、最高樹脂温度は、ポリアミド(A)の融点以上が好ましい。ここで、最高樹脂温度とは、押出機の複数ヶ所に均等に設置された樹脂温度計により測定した中で最も高い温度を指す。
【0047】
また、樹脂組成物の押出量は、ポリアミド(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)の熱劣化をより抑制する観点から、スクリュー回転1rpm当たり0.01kg/h以上が好ましく、0.05kg/h以上がより好ましい。一方、ポリアミド(A)とポリロタキサン(B)樹脂の反応をより促進し、前述の海島構造をより容易に形成する観点から、スクリュー回転1rpm当たり1kg/h以下が好ましい。ここで、押出量とは、押出機から1時間あたりに吐出される樹脂組成物の重量(kg)を指す。
【0048】
このようにして樹脂組成物は、通常公知の方法で成形することができ、シート、フィルムなどの各種成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。
【0049】
本発明の樹脂組成物およびその成形品は、その優れた特性を活かし、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靱性および剛性が要求される自動車外装部品や、自動車電装部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、筐体やコネクタ、リフレクタなどの電気、電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパーなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、SMT対応のコネクタ、ソケット、カードコネクタ、ジャック、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLED対応ハウジング、リフレクタなどの電気、電子部品を好適に挙げることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例の樹脂組成物を得るため下記原料を用いた。
【0051】
<ポリアミド>
(A−1):ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)、η=2.70、融点225℃、アミド基濃度10.5mmol/g)。
(A−2):ナイロン6樹脂(参考例1の方法で作製)、η=2.38、融点225℃、アミド基濃度10.2mmol/g。
【0052】
ここで、上記相対粘度ηは、98%濃硫酸の0.01g/ml溶液、25℃において測定した。また、融点は、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。また、アミド基濃度は、構造単位の構造式から次式(1)により算出した。
アミド基濃度(mol/g)=(構造単位のアミド基数/構造単位の分子量) (1)。
【0053】
<ポリロタキサン>
(B−1):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH2400P)。直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は2万、全体の重量平均分子量は40万である。
(B−2):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH3400P)。直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は3.5万、全体の重量平均分子量は70万である。
(B−3):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH2400P)のグラフト鎖末端を参考例2に記載の方法で無水コハク酸により修飾して作製した。直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は2万、全体の重量平均分子量は40万である。
(B’−4):参考例3に記載の方法でポリロタキサンを作製した。
【0054】
ここで、ポリロタキサンの重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0055】
(B−1)〜(B−3)において原料として用いた“セルム(登録商標)”スーパーポリマーはいずれも、環状分子がポリ(ε−カプロラクトン)からなるグラフト鎖により修飾されたα−シクロデキストリン、直鎖分子がポリエチレングリコール、ブロック基がアダマンタン基であるポリロタキサンである。
【0056】
<樹脂C>
(C−1):フェノキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、1256)。ポリ(ε−カプロラクトン)と相溶する。ビスフェノールA型フェノキシ樹脂。
(C−2):ポリスチレン(PSジャパン(株)、HF77)。ポリ(ε−カプロラクトン)と相溶しない。
(C−3):フェノキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、4250)。ポリ(ε−カプロラクトン)と相溶する。ビスフェノールA型フェノキシ樹脂/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂=50/50重量%の混合物。
(C−4):フェノキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製、4275)。ポリ(ε−カプロラクトン)と相溶する。ビスフェノールA型フェノキシ樹脂/ビスフェノールF型フェノキシ樹脂=25/75重量%の混合物。
【0057】
(参考例1)
ε−カプロラクタム700gおよびヘキサメチレンジアミン30重量%水溶液18.2g(ε−カプロラクタムに対して0.80mol%)を予熱器に仕込んで密閉し、窒素置換し、120℃で予熱した。予熱された原料を重合缶へ供給し、285℃で加熱した。加熱を開始して、缶内圧力が0.6MPaに到達した後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を0.6MPaで1.5時間保持した。その後30分間かけて缶内圧力を常圧に戻し、さらに減圧度60kPa、ヒーター温度285℃で2時間加熱した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズした。得られたペレットを、熱水抽出し、80℃で24時間真空乾燥した後、50Pa、200℃で固相重合を行い、η=2.38、融点225℃のナイロン6(A−2)を得た。
【0058】
(参考例2)
50gの“セルム”スーパーポリマーSH2400Pを500mlのトルエン溶液に溶解し、無水コハク酸を0.8g加え、窒素フロー下90℃で6時間加熱した。エポレーターでポリマー濃度が50%程度になるまで濃縮した後、ポリマー溶液を大過剰のメタノール溶液に加え、沈殿物を回収した。得られた沈殿物を真空乾燥機中で80℃8時間乾燥させて、ポリマー(B−3)を得た。得られたポリマーをベンジルアルコールに溶解し、濃度既知の水酸化カリウム溶液により滴定したところ、グラフト鎖末端のカルボキシル基濃度は2.48×10−4mol/gであることがわかった。
【0059】
(参考例3)
α−シクロデキストリン1.0gおよび数平均分子量20,000の末端アミノ基ポリエチレングリコール4.0gを、80℃の蒸留水に溶解させ、水溶液を得た。得られた水溶液を冷蔵庫内で一晩静置した後、凍結乾燥により、得られた白濁溶液から水分を除去し、白色固体を得た。前記白色固体に、ジイソプロピルエチルアミン0.7ml、アダマンタン酢酸0.85g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール0.6g、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート1.8gおよびジメチルホルムアミド30mlを加え、窒素封入下5℃で24時間反応させた。得られた反応溶液にメタノール20mlを加え、遠心分離を行った。得られた固体をさらにメタノール:ジメチルホルムアミド=20ml:20mlの混合溶媒で2回、メタノール60mlで2回の洗浄および遠心分離操作を行った後、真空乾燥した。得られた固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解し、水200mlに滴下して沈殿を生じせしめ、遠心分離を行い、上澄みを除去した。さらに、水100ml、メタノール100mlでそれぞれ洗浄および遠心分離後、真空乾燥し、両末端をアダマンタン基で封鎖したポリロタキサン(B’−4)を得た。このポリロタキサンは、環状分子であるシクロデキストリンがグラフト鎖により修飾されていない。
【0060】
<評価方法>
各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=5とし、平均値を求めた。
【0061】
(1)相分離構造の形態および島相の平均直径
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、厚さ3.2mmのASTM4号ダンベルを作製した。本ダンベル試験片から一部を切り出し、ライカ製ウルトラミクロトーム(EM UC7)を用い、ダイヤモンドナイフにより約2mm×約1mmの断面観察用サンプルを作製した。作製したサンプルを、モルホロジーに十分なコントラストが付くよう、リンタングステン酸/オスミウムを用いて染色した後、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製H−7100)により、加速電圧100kVで、観察用サンプルの断面の相構造を観察した。片方の成分を主成分とする海相の中に、もう片方の成分を主成分とする島相が点在した構造を海島構造とした。
【0062】
前記海島構造を形成しているサンプルにつき、それぞれ島構造の平均直径を以下の方法で求めた。正方形の電子顕微鏡観察写真に島構造が50個以上100個未満存在するよう、倍率を調整した。かかる倍率において、観察像に存在する島構造から無作為に50個の島構造を選択し、それぞれの島構造について長径と短径を測定した。長径と短径の平均値を各島構造の直径とし、測定した全ての島構造の直径の平均値を島構造の平均直径とした。
【0063】
(2)靱性(引張破断伸度)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO3167に基づいて得られる多目的試験片A型を作製した。この多目的試験片から得られた引張試験片について、ISO527(2012)に準拠して引張試験機テンシロンUTA2.5T(オリエンテック社製)により、クロスヘッド速度100mm/分で引張試験を行い、引張破断伸度を測定した。
【0064】
(3)剛性(曲げ弾性率)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形機(住友重機社製SG75H−MIV)を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、ISO3167に基づいて得られる多目的試験片A型を作製した。この多目的試験片から得られた曲げ試験片について、ISO178(2001)に従い、曲げ試験機テンシロンRTA−1T(オリエンテック社製)を用い、クロスヘッド速度2mm/minで曲げ試験を行い、曲げ弾性率を求めた。
【0065】
(実施例1〜7、比較例1〜6)
ポリアミド樹脂(A)、ポリロタキサン(B)および樹脂(C)を、表1に示す組成となるように配合して、プリブレンドし、シリンダー温度:240℃、スクリュー回転数:200rpmに設定した二軸押出機(池貝鉄鋼製PCM−30型)へ供給し、溶融混練した。押出機から吐出されたガットをペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットを用いて前記方法により評価した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例1〜9と比較例1〜4の比較から、環状分子がポリ(ε−カプロラクトン)のグラフト鎖で修飾されたポリロタキサンおよびポリ(ε−カプロラクトン)と相溶するフェノキシ樹脂を配合した場合は、フェノキシ樹脂を配合しなかった場合、またはフェノキシ樹脂及びポリロタキサンを配合しなかった場合と比較し、靱性および剛性のバランスに優れることがわかる。一方、実施例4,5と比較例5の比較から、環状分子がグラフト鎖で修飾されていないポリロタキサンを配合した場合は、靱性が低下することが分かる。また、実施例2と比較例6の比較から、環状分子がポリ(ε−カプロラクトン)のグラフト鎖で修飾されたポリロタキサンおよびポリ(ε−カプロラクトン)と相溶するフェノキシ樹脂を配合した場合は、フェノキシ樹脂のかわりにポリ(ε−カプロラクトン)と相溶しないポリスチレンを配合した場合と比較し、島相の平均直径が微細となり、靱性および剛性のバランスに優れることがわかる。また、実施例3と実施例8、9の比較から、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を50重量%以上含むフェノキシ樹脂を配合することにより、島相の平均直径がさらに微細となり、高性能化することがわかる。