(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、感温バネを圧縮する方向(C側からH側)への操作では、バネの反力により操作が重くなるが、前述のラチェット構造によりさらに重くなることになる。
【0006】
自転の防止のためにはラチェットは強くしたいが、操作の観点からはあまり強くしたくないという矛盾(課題)を抱えている。
【0007】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、内側のラチェットギアと外側のラチェットリングの噛み合わせによりラチェットを構成している機構において、温度調整用ハンドルの回転時に発生する回転に抵抗するラチェットの抵抗力を、感温バネを圧縮する方向への操作では下げることができるとともに、温度調整用ハンドルの自転を起こす方向へは上げることができる湯水混合栓を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、可動弁体を軸線方向に移動可能に収容するとともに、感温バネ及びバイアスバネを内蔵する筒状ハウジングと、
この筒状ハウジング内に収容され温度調整用ハンドルの回転操作に連動して回転する温度調整用栓棒と、
前記温度調整用栓棒の回転に伴い前記バイアスバネを伸縮させて前記可動弁体を軸線方向に移動させることによって湯水混合水の吐水温度を調整可能に構成している湯水混合栓において、
外面に波状の突起が形成されたラチェットギアが前記筒状ハウジングの一端側開口部に同軸状に外嵌される一方、このラチェットギアを掴むツメを有するツメ部が円周部の内周面に形成されたラチェットリングを設けるとともに、このラチェットリングは前記温度調整用栓棒に固定部で固定されて前記温度調整用栓棒と連動して回転するよう構成されており、
さらに、このラチェットリングは前記温度調整用栓棒の回転時に発生する回転に抵抗する力を湯側への回転時の方が水側への回転時の方よりも小としてあることを特徴とする湯水混合栓を提供する(請求項1)。
【0009】
又、本発明は、前記ラチェットリングのツメの位置を前記固定部との連結部を基準として左右対称とするのではなく、回転方向にずらせてある請求項1に記載の湯水混合栓を提供する(請求項2)。
【発明の効果】
【0010】
本発明で用いるラチェットリングは温度調整用栓棒の回転時に発生する回転に抵抗する力を湯側への回転時の方が水側への回転時の方よりも小となるよう構成されている。
【0011】
即ち、内側のラチェットギアと外側のラチェットリングの噛み合わせによりラチェットを構成している機構において、本発明では、温度調整用ハンドルが自転を起こす湯側(H側)から冷水側(C側)への回転方向では、ラチェットの抵抗力を上げるようにラチェット構造を構成することにより、温度調整用ハンドルが自転するのを防止できる。
【0012】
一方、感温バネにより温度調整用ハンドル操作が重くなる冷水側(C側)から湯側(H側)への回転方向では、逆にラチェットの抵抗力を下げるようにラチェット構造を構成することにより、ラチェットの抵抗力を下げた分だけ操作にかかる力が軽減され、操作性を向上できる。
【0013】
このように、本発明では、温度調整用栓棒の回転時に発生する回転に抵抗する力を回転方向に応じて変えているので、自転の防止のためにはラチェットは強くしたいが、操作の観点からはあまり強くしたくないという矛盾(課題)を解決することができる。
【0014】
又、ツメ及び連結部間に位置するチェットリングの円周部が変形しながらラチェットギアの突起(山)に噛合するツメ3は回転方向に移動することになるが、本発明では、ラチェットリングのツメの位置を固定部との連結部を基準として左右対称とするのではなく、回転方向にずらせてあり、連結部を2つ設けてある場合、連結部間にそれぞれツメを設け、ツメとその左右の連結部との距離(ツメ左右の連結部までのラチェットリングの円周部の距離)を異ならせるように構成している。
【0015】
この場合、チェットリングの前記円周部に起きる変形の度合いは前記円周部の距離が長い方が短い方よりも大きくなり、前記円周部の変形が起きやすく少ない力で温度調整用栓棒を回転させることができ、逆に、短い方は前記円周部が変形しにくく回転するのに大きな力が必要になる。
【0016】
そこで、ツメ3の移動が冷水側(C側)から湯側(H側)への場合は回転方向における前記円周部の距離を長く設定することにより、ラチェットの抵抗力を下げることができ、その結果、前記課題を解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、それによって本発明は限定されるものではない。
【0019】
図1〜
図5は、2個のツメが隣接した状態で設けられている2つのツメ部を外側環状内周面に設けたラチェットリングを有するとともに、連結部を2つ設け、連結部間にそれぞれ前記ツメ部を設け、そのツメ部と左右の連結部との距離を異ならせるように構成した本発明の一実施形態を示す。
【0020】
図1は、湯水混合栓の水栓本体の一端に内蔵されている筒状ハウジング(SMA式サーモスタット)の断面を示している。
【0021】
図2は、
図1におけるA−A矢視線方向から見た、ラチェットリングのツメによるラチェットギアの掴み具合を示す正面図であり、例えば温度調整用ハンドルを回転させる前の中立状態(ハンドル操作前の状態)を示している。
【0022】
図3は、
図2から抜き出されたラチェットリングの正面図であり、
図3におけるB−B線断面が
図1に記載されている。
【0023】
図4は、
図2から抜き出されたラチェットギアの正面図である。
【0024】
図5(A)は、ラチェットギアを背面側からみた図である。
【0025】
図5(B)は、
図5(A)におけるb−b線断面図であり、この断面は
図1に記載されているラチェットギアの断面とは逆の方向から見たものになっている。
【0026】
まず始めに、本発明が適用される筒状ハウジング(SMA式サーモスタット)を有する湯水混合栓の基本的な構成について
図1を用いて説明する。
【0027】
図1において、筒状ハウジング21は、水栓本体(図示せず)の一端に内蔵されており、内部に水側弁座31及び湯側弁座26を有する。
【0028】
そして、これら両弁座31,26に選択的に接離するように水栓本体内に同軸上で軸線方向(両矢印Pで示す方向)に可動弁体22が移動可能に設けらている。
【0029】
この可動弁体22の上流側及び下流側の水栓本体内にそれぞれ湯流入室及び湯水混合室が形成されている。
【0030】
前記可動弁体22を湯側弁座26と接近する方向に付勢するように前記湯水混合室の側には形状記憶合金よりなる感温バネ(Shape Memory alloy coil springs) 27が設けられている。
【0031】
一方、感温バネ27の付勢力に対向させて可動弁体22を水側弁座31と接近する方向に付勢するように前記湯流入室の側にはバイアスバネ32が設けられている。
【0032】
筒状ハウジング21は、可動弁体22をP方向に移動可能に収容するとともに、感温バネ27及びバイアスバネ32を内蔵している。
【0033】
28は、温度調整用栓棒で、筒状ハウジング21内に収容され温度調整用ハンドル(図示せず)の回転操作に連動して回転する。
【0034】
29は、筒状の移動部材29で、温度調整用栓棒28の先端側に形成された雄ねじ部30に螺合する雌ねじ部34を有し温度調整用栓棒28の回転に伴い筒状ハウジング21内をP方向に移動する。
【0035】
さらに、移動部材29のP方向移動によりバイアスバネ32を伸縮させて可動弁体22をP方向に移動させることによって湯水混合水の吐水温度を調整可能に構成されているとともに、可動弁体22を、感温バネ27とバイアスバネ32とによりP方向の両側から付勢するように構成されている。
【0036】
又、筒状ハウジング21は、筒状の弁体収容部材23と、筒状の固定ガイド部材24と、筒状の接続部材25とを有する。
【0037】
弁体収容部材23は、可動弁体22をP方向に移動可能に収容している。
【0038】
固定ガイド部材24は、温度調整用ハンドル及び可動弁体22間に水栓本体と同軸の横置き状態で設けられている。
【0039】
接続部材25は、前記両者23,24を内側からシール可能に接続するように設けられている。
【0040】
又、バイアスバネ32は、固定ガイド部材24と接続部材25間にわたり設けられており、移動部材29の一方端面29aと可動弁体22の先端面内側に取り付けたバネ受け部材33との間に介設されている。
【0041】
又、水側弁座31は、弁体収容部材23の段差部分である内周小径位置に形成されている。
【0042】
そして、湯水混合水の設定温度調整のたびに、温度調整用ハンドル(図示せず)を回転させることにより、バイアスバネ32をP方向に伸縮させて設定温度である湯水混合水の吐水温度を調整設定するように温度調整用栓棒28と移動部材29が設けられている。
【0043】
湯流入路は、湯配管(図示せず)から水栓本体に流入し、可動弁体22と湯側弁座26との隙間を通り前記湯流入室から可動弁体22に形成された中央孔を通って前記湯水混合室に至る。
【0044】
以下、ラチェットリングとラチェットギアについて説明する。
【0045】
図1〜
図5において、1は、外面に波状の突起1a,1a,…が形成されたラチェットギアである。
【0046】
ラチェットギア1は、筒状ハウジング21の固定ガイド部材24に形成されている一端側開口部24aに同軸上に外嵌されている。
【0048】
ラチェットギア1及びラチェットリング2は、いずれも背面側に形成された環状のフランジf〔
図5(B)参照〕及びフランジf’(
図1参照)を有する。
【0049】
尚、この実施形態ではフランジf及びフランジf’が位置する側とは反対の側を正面側としている。
【0051】
ラチェットリング2の素材としては、軸受けにも使用されるほど耐磨耗性、摺動性に優れたPOM(ポリオキシメチレン又はポリアセタール)樹脂を挙げることができる。
【0052】
ラチェットリング2は、外側を一周する外側環状円周部4を有している。
【0053】
ラチェットリング2は、ラチェットリング2の取付用中央穴5を介して前記温度調整用栓棒28の大径壁面部6に挿嵌・固定されており、これにより、ラチェットリング2は温度調整用栓棒28と連動して回転する。
【0054】
即ち、ラチェットリング2は温度調整用栓棒28に対しラチェットリング2を固定しうる環状の固定部Fを内側に有しており、この実施形態では、ラチェットリング2は前記固定部Fを介して前記栓棒28の回転方向にスプライン嵌合されている。
【0055】
そして、ラチェットリング2は、前記フランジf’の端面n(
図1参照)が固定ガイド部材24の大径外周端面7に当接した状態で、前記栓棒28に抜け止め用のCリング8が前記外側環状円周部4の正面側端面n’(
図1参照)に当接するまで嵌込まれている。
【0056】
又、ラチェットリング2は、前記外側環状円周部4と前記固定部Fとを左右二箇所において連結する連結部L,L’を有している。
【0057】
又、ラチェットリング2は左右一対の連結部L,L’が位置する円周上において一部切欠いて形成された上下一対の空間部分S,S’を有する。空間部分S,S’は同一形状である。そして、ラチェットリング2の外側環状円周部4は、空間部分S,S’が位置する個所において薄幅H(
図2参照)に形成されている。
【0058】
空間部分S,S’は、それぞれ径方向に所定幅を有して位置する外側円弧(内周面mを構成する)14および内側円弧15によって囲まれた形状をなす。
【0059】
そして、ラチェットリング2は、ラチェットギア1の突起1aに噛合するよう前記外側環状円周部4の内周面mに形成されたツメ3を有し、2つのツメ3を有する上下一対のツメ部11,12が前記外側環状円周部4に形成されている。そして、ツメ3は内周面mから空間部分S,S’に突出している。
【0060】
ツメ部11,12は同一形状であり、この実施形態では、ツメ部11,12はそれぞれ2個のツメ3が隣接した状態で設けられている。
【0061】
さらに、ツメ部11,12は前記外側円弧14の中央位置から回転方向に所定角度θ(=9°)だけずれた位置に設けられている(
図3参照)。
【0062】
即ち、ラチェットリング2は温度調整用栓棒28の回転時に発生する回転に抵抗する力を湯側への回転時の方が水側への回転時の方よりも小とするため、この実施形態では、ラチェットリング2のツメ3の位置を前記固定部Fとの連結部L,L’を基準として左右対称とするのではなく、回転方向(矢印で示すR方向及びr方向)に所定角度だけずらせてある。
【0063】
R方向は、感温バネ27を圧縮する方向(C側からH側)を示し、r方向は、それとは反対の方向(H側からC側)を示す。
【0064】
この実施形態では、ツメ3の位置を、
図3に示すように、ツメ一山分だけ中心線Jからr方向にずらせながら、ラチェットリング2を温度調整用栓棒28の大径壁面部6に固定し、これをハンドル操作前の中立状態としている。
【0065】
即ち、左右の連結部L,L’の中心を通る基準線Tに対して上下同一形状のツメ部11,12を重ねるような対称構造にするのではなく、温度調整用栓棒28の回転方向(r方向)に所定角度θ(=9°)だけツメ部11,12をずらした状態でラチェットリング2を前記固定部Fを介して温度調整用栓棒28に固定している。
【0066】
而して、左右2つの連結部L,L’を設け、連結部L,L’間にそれぞれ前記ツメ部11,12を上下に非対称に設け、空間部分S’においては、そのツメ部12と左右の連結部L,L’との距離を異ならせるように構成し、又、空間部分Sにおいては、そのツメ部11と左右の連結部L,L’との距離を異ならせるように構成してあり、外側環状円周部4の円周部分4aが外側環状円周部4の円周部分4bより長い。
【0067】
そして、ラチェットリング2の外側環状円周部4の空間部分S,S’が位置する個所は、前記固定部Fに比べて薄幅H(
図2参照)に形成されているが、ラチェットリング2は機械的強度に優れているPOMを素材としているので、前記円周部分4a,4bは変形に耐えうる。
【0068】
そして、ツメ3の移動が冷水側(C側)から湯側(H側)への場合(温度調整用栓棒28をR方向に操作する場合)、例えば前記円周部分4aの長さ(ツメ部12と右の連結部L’の距離)を前記円周部分4bの長さ(ツメ部12と左の連結部Lの距離)よりも長く設定してあるとともに、前記円周部分4aは薄肉に形成されているので、前記円周部分4aの変形を起こしやすくでき、ラチェットの抵抗力を下げることができる。
【0069】
故に、この実施形態では、温度調整用ハンドルのR方向への回転操作を軽くでき、少ない力で温度調整用栓棒28を回転操作できる。
【0070】
例えば、ツメ部12と右の連結部L’の距離をツメ部12と左の連結部Lの距離よりも短く設定した場合(比較例)、C側からH側へ操作すると、ツメ部12と右の連結部L’の距離に相当する円周部分の変形がこの実施形態のものよりも起きにくく、その分、温度調整用ハンドルの回転操作は重たくなり、大きな力で温度調整用栓棒28をR方向に回転操作する必要がある。
【0071】
図6は、2個のツメ3,3が隣接した状態で設けられている1つのツメ部11を外側環状内周面4に設けてなるとともに、連結部Lを1つ設け、そのツメ部11と連結部Lとの距離を異なる回転方向(R方向とr方向)で異ならせるようにラチェットリング2を構成した本発明の他の実施形態を示す。
【0072】
尚、
図6において、
図1〜
図5において示した符号と同一のものは同一又は相当物である。
【0073】
この場合、ラチェットリング2は連結部Lが位置する円周上において一部切欠いて形成された1つの空間部分Sを有する。
【0074】
空間部分Sは径方向に所定幅を有して位置する外側円弧14および内側円弧15によって囲まれた形状をなし、ツメ部11は前記外側円弧14の中央位置からr方向に所定角度だけずれた位置に設けられている。
【0075】
この実施形態でも、温度調整用ハンドルのR方向への回転操作を軽くでき、少ない力で温度調整用栓棒28を回転操作できるものであり、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0076】
故に、温度調整用ハンドルの自転の防止のためにはラチェットは強くしたいが、操作の観点からはあまり強くしたくないという課題を解決できる。
【0077】
さらに、本発明は、上述した二つの実施形態に限定されるものではなく、連結部を3つ設け、連結部間にそれぞれ1つツメ部を設け、そのツメ部と左右の連結部との距離を異ならせるように構成してもよく、上述した二つの実施形態と同様の効果を奏する。
【0078】
上記各実施形態では、ラチェットギアを掴むツメとして、ラチェットリング2に一体に形成したものを示した。
【0079】
図7は、ラチェットリング2に設けられるツメをラチェットリング2とは別体に設け、しかも、ツメ3’,3’をそれぞれ板バネで構成し、ラチェットリング2は、ラチェットギア1の突起1aに噛合するよう前記板バネ製のツメ3’,3’を前記外側環状円周部4の内周面mに形成された上下一対の板バネ保持部60,60に嵌込むことで内周面mに固定するようにした本発明の更に他の実施形態を示す。
【0080】
尚、
図7において、
図1〜
図6において示した符号と同一のものは同一又は相当物である。
【0081】
この実施形態と
図2に示す上記実施形態との違いは、
図2に示す2個のツメ3,3よりそれぞれ構成されるツメ部11,12に代えて、1個の板バネ製ツメ3’よりそれぞれ構成されるツメ部11’,12’を用いた点である。
【0082】
この実施形態でも、上記各実施形態と同様の効果を奏する。即ち、温度調整用ハンドルの自転の防止のためにはラチェットは強くしたいが、操作の観点からはあまり強くしたくないという課題を解決できる。
【0083】
尚、
図7においては、二つの連結部L.L’を設けたものを示したが、本発明は、一つの連結部としてもよく、三つの連結部を設けてもよく、一つの連結部を設けた場合は、
図6に示した実施形態に対応する効果を奏し、三つの連結部を設けた場合も、温度調整用ハンドルの自転の防止のためにはラチェットは強くしたいが、操作の観点からはあまり強くしたくないという課題を解決できる。