特許第6844520号(P6844520)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844520
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20210308BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01L29/06 301D
   C30B29/38 D
   H01L21/265 Z
   H01L21/265 601Z
   H01L29/91 D
   H01L29/91 F
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-237911(P2017-237911)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2019-106456(P2019-106456A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2019年3月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス GaNに関する拠点型共通基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 紘子
(72)【発明者】
【氏名】成田 哲生
【審査官】 高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−212407(JP,A)
【文献】 特開2004−356257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/06
C30B 29/38
H01L 21/265
H01L 29/861
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体基板であって、
前記III族窒化物半導体基板の表面から深さ方向にII族元素が注入されてp型伝導性を有しているp型伝導領域を備えており、
前記III族窒化物半導体基板の深さ方向において前記p型伝導領域から前記p型伝導領域に隣接しているn型伝導領域にわたって水素が注入されており、
水素濃度のピーク位置が前記n型伝導領域中に位置する、III族窒化物半導体基板。
【請求項2】
水素のピーク濃度がII族元素のピーク濃度よりも濃い、請求項に記載のIII族窒化物半導体基板。
【請求項3】
前記III族窒化物半導体基板の前記表面が窒素極性面である、請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記p型伝導領域に注入されているII族元素がマグネシウムである、請求項1からのいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、III族窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、III族窒化物半導体基板(GaN基板)が開示されている。特許文献1のIII族窒化物半導体基板は、その表面から深さ方向にマグネシウムが注入されているマグネシウム注入領域を備えている。そのマグネシウム注入領域におけるマグネシウムの存在濃度は、マグネシウム注入領域に隣接している領域におけるマグネシウムの存在濃度より濃い。また、特許文献1のIII族窒化物半導体基板は、III族窒化物半導体基板の深さ方向においてマグネシウム注入領域の下端部まで水素が注入されている水素注入領域を備えている。水素注入領域における水素の存在濃度は、水素注入領域に隣接している領域における水素の存在濃度より濃い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−286318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のIII族窒化物半導体基板では、マグネシウム注入領域の下端部までしか水素注入領域が存在していない。そのため、III族窒化物半導体基板に逆電圧が印加されたときのリーク電流を低減するには限界があった。そこで本明細書は、逆電圧が印加されたときのリーク電流をより低減することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示するIII族窒化物半導体基板は、その表面から深さ方向にII族元素が注入されてp型伝導性を有しているp型伝導領域を備えている。また、前記III族窒化物半導体基板の深さ方向において前記p型伝導領域から前記p型伝導領域に隣接しているn型伝導領域にわたって水素が注入されている。
【0006】
前記III族窒化物半導体基板にII族元素が注入されることによって形成される点欠陥は、III族元素空孔、窒素空孔がある。窒素空孔は、p型伝導領域中において形成されやすく、アクセプタを補償する。III族窒化物半導体基板においては、電子より2桁近く正孔移動度が低く、アクセプタ活性率も低い。そのため、p型伝導領域中においてはキャリア伝導(正孔伝導)が補償効果の影響を顕著に受ける。また、III族元素空孔・窒素空孔・水素の複合欠陥は、III族元素空孔・窒素空孔の複合欠陥より形成エネルギーが低い。そのため、水素をn型伝導領域中に注入して活性化アニールをすることにより、n型伝導領域中にIII族元素空孔・窒素空孔・水素の複合欠陥を凝集することができる。電界が集中するp型伝導領域とn型伝導領域の界面から離れたn型伝導領域中に水素濃度のピークを持たせることにより、逆電圧が印加されたときのリーク電流をより低減することができる。
【0007】
また、本明細書に開示するIII族窒化物半導体基板は、その表面から深さ方向にII族元素が注入されているII族元素注入領域を備えており、前記II族元素注入領域におけるII族元素の存在濃度が、前記II族元素注入領域に隣接している領域におけるII族元素の存在濃度より濃くてもよいまた、III族窒化物半導体基板は、その深さ方向において前記II族元素注入領域から前記II族元素注入領域に隣接している領域にわたって水素が注入されている水素注入領域を更に備えており、前記水素注入領域における水素の存在濃度が、前記水素注入領域に隣接している領域における水素の存在濃度より濃くてもよい。
【0008】
III族窒化物半導体基板に関する研究の結果、III族窒化物半導体基板にII族元素だけでなく水素が注入されることによって、II族元素だけが注入されて水素が注入されていない構成と比較して、III族窒化物半導体基板に逆電圧が印加されたときのリーク電流が低減することが判明した。上記の構成によれば、水素が注入されている水素注入領域が、II族元素注入領域だけでなく、II族元素注入領域からII族元素注入領域に隣接している領域にわたって存在しているので、逆電圧が印加されたときに、II族元素注入領域におけるリーク電流だけでなく、II族元素注入領域とII族元素注入領域に隣接している領域との境界部分におけるリーク電流も低減することができる。
【0009】
上記のIII族窒化物半導体基板において、前記水素注入領域における水素の存在濃度が、前記II族元素注入領域におけるII族元素の存在濃度より濃くてもよい。
【0010】
また、前記III族窒化物半導体基板の前記表面が窒素極性面であってもよい。
【0011】
また、前記III族窒化物半導体基板の前記表面に直交する方向から前記表面を視たときに、前記表面の一部の領域に前記II族元素注入領域が存在しており、前記表面に沿う方向において前記II族元素注入領域から前記II族元素注入領域に隣接している領域にわたって前記水素注入領域が存在していてもよい。
【0012】
また、前記III族窒化物半導体基板の前記表面に直交する方向から前記表面を視たときの前記II族元素注入領域の外周部から前記水素注入領域の外周部までの距離が、前記III族窒化物半導体基板の深さ方向における前記III族窒化物半導体基板の前記表面から前記II族元素注入領域の下端部までの距離より長くてもよい。
【0013】
また、前記II族元素注入領域に注入されているII族元素がマグネシウムであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施例に係るIII族窒化物半導体基板の断面図である。
図2】第1実施例に係るIII族窒化物半導体基板に注入されているマグネシウムの濃度と水素の濃度のプロファイルである。
図3】III族窒化物半導体基板を用いたダイオードにおける電圧と電流の関係を示すグラフである(1)。
図4】III族窒化物半導体基板を用いたダイオードにおける電圧と電流の関係を示すグラフである(2)。
図5】第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板の平面図である。
図6】第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板の断面図である(図5のVI−VI断面図)。
図7】第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板に注入されているマグネシウムの濃度と水素の濃度のプロファイルである。
図8】他の実施例に係るIII族窒化物半導体基板に注入されているマグネシウムの濃度と水素の濃度のプロファイルである。
図9】実施例に係るIII族窒化物半導体基板の技術を用いた半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例に係るIII族窒化物半導体基板1について図面を参照して説明する。III族窒化物半導体基板1は、III族元素を含む窒化物半導体基板である。III族元素は、例えばガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等である。
【0016】
図1に示すように、第1実施例に係るIII族窒化物半導体基板1は、単結晶のn型のGaN(窒化ガリウム)からなる本体10を備えている。本体10を構成するIII族窒化物半導体はGaNに限定されるものではなく、例えばAlN(窒化アルミニウム)、InN(窒化インジウム)、または、その混晶等であってもよい。
【0017】
III族窒化物半導体基板1の本体10の表面11は、−C面(マイナスC面)である。本体10の裏面12は+C面(プラスC面)である。−C面と+C面は、六方晶のC軸に直交する面であり、両者は互いに反対方向を向く面である。−C面は、六方晶の[000−1]面であり、窒素(N)極性面である。よって、本体10の表面11は窒素極性面である。+C面は、六方晶の[0001]面であり、ガリウム(Ga)極性面である。
【0018】
III族窒化物半導体基板1は、マグネシウム注入領域20(II族元素注入領域の一例)を備えている。マグネシウム注入領域20は、マグネシウム(II族元素の一例)が注入されている領域である。III族窒化物半導体基板1の本体10の表面11からその深さ方向(C方向)にマグネシウムを注入することによってマグネシウム注入領域20が形成される。マグネシウム注入領域20は、本体10の表面11に露出している。マグネシウム注入領域20は、本体10の表面11から所定の深さまで存在している。マグネシウムを注入するときのエネルギーを調節することによってマグネシウム注入領域20の深さを調節することができる。また、ドーズ量を調節することによってマグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度を調節することができる。マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムのピーク濃度は、例えば1E19cm−3である。マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度は、マグネシウム注入領域20に隣接する領域におけるマグネシウムの存在濃度より濃い。マグネシウム注入領域20に隣接する領域におけるマグネシウムの存在濃度は、マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度に対して無視できる程度に薄い濃度である。III族窒化物半導体基板1の深さ方向においてマグネシウム注入領域20に隣接している領域は、符号50で示されている領域である。III族窒化物半導体基板1の表面11に沿う方向においてマグネシウム注入領域20に隣接している領域は、符号60で示されている領域である。
【0019】
III族窒化物半導体基板1は、p型伝導領域51とn型伝導領域52を備えている。III族窒化物半導体基板1の本体10の表面11からその深さ方向(C方向)にマグネシウムが注入されることによってp型伝導領域51が形成されている。n型伝導領域52はp型伝導領域51外の領域である。n型伝導領域52は、p型伝導領域51に隣接している。p型伝導領域51はp型伝導性を有しており、n型伝導領域52はn型伝導性を有している。p型伝導領域51におけるマグネシウムの存在濃度は、n型伝導領域52におけるマグネシウムの存在濃度より濃い。III族窒化物半導体基板1の本体10にマグネシウムが注入された後のp型ドーパントの存在濃度とn型ドーパントの存在濃度とのバランスによってp型伝導領域51の存在範囲とn型伝導領域52との存在範囲とが定まる。具体的には、p型ドーパントとn型ドーパントが等しくなる位置が、p型伝導領域51とn型伝導領域52の界面となる。そのため、マグネシウム注入領域20とp型伝導領域51は必ずしも一致しない。
【0020】
また、III族窒化物半導体基板1は、水素注入領域30を備えている。水素注入領域30は、水素が注入されている領域である。III族窒化物半導体基板1の本体10の表面11からその深さ方向(C方向)に水素を注入することによって水素注入領域30が形成される。水素注入領域30は、III族窒化物半導体基板1の深さ方向(C方向)においてマグネシウム注入領域20からマグネシウム注入領域20に隣接する領域にわたって存在している。水素注入領域30は、マグネシウム注入領域20より深い位置まで存在している。水素注入領域30は、III族窒化物半導体基板1の深さ方向においてマグネシウム注入領域20とそれに隣接する領域との境界部70に重なるように存在している。水素注入領域30は、マグネシウム注入領域20の途中からマグネシウム注入領域20の下端部21を超えて、マグネシウム注入領域20に隣接する領域50まで延びている。図1のA−A断面を視たとき、水素注入領域30の上端部31がマグネシウム注入領域20内に位置しており、水素注入領域30の下端部32がマグネシウム注入領域20に隣接する領域内に位置している。III族窒化物半導体基板1の表面11から水素を注入するときのエネルギーを調節することによって、深さ方向(C方向)における水素注入領域30の位置を調節することができる。また、ドーズ量を調節することによって水素注入領域30における水素の存在濃度を調節することができる。水素注入領域30における水素のピーク濃度は、例えば2E20cm−3である。水素注入領域30における水素の存在濃度は、水素注入領域30に隣接する領域における水素の存在濃度より濃い。水素注入領域30に隣接する領域における水素の存在濃度は、水素注入領域30における水素の存在濃度に対して無視できる程度に薄い濃度である。III族窒化物半導体基板1の深さ方向において水素注入領域30に隣接している領域は、符号80で示されている領域である。III族窒化物半導体基板1の表面11に沿う方向において水素注入領域30に隣接している領域は、符号90で示されている領域である。水素注入領域30はn型伝導領域52中に形成されている。そのため、符号50で示されている領域に、n型ドーパント濃度を下回る少量のII族元素(マグネシウム)が含まれていてもよい。
【0021】
また、III族窒化物半導体基板1の本体10の表面11からその深さ方向(C方向)に水素が注入されることによってn型伝導領域52に水素が注入される。水素が注入される過程でp型伝導領域51に少量の水素が注入されることもある。n型伝導領域52における水素の存在濃度は、p型伝導領域51における水素の存在濃度より濃い。
【0022】
図2に示すように、水素注入領域30における水素の存在濃度のピーク深さは、マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度のピーク深さより深い位置に設けられている。これにより、n型伝導領域52中に水素濃度のピークを形成することができる。
【0023】
以上、第1実施例に係るIII族窒化物半導体基板1について説明した。上述の説明から明らかなように、III族窒化物半導体基板1は、その表面11から深さ方向(C方向)にマグネシウムが注入されてp型伝導性を有しているp型伝導領域51を備えている。また、III族窒化物半導体基板1の深さ方向においてp型伝導領域51からそれに隣接しているn型伝導領域52にわたって水素が注入されている。
【0024】
III族窒化物半導体基板1にマグネシウムが注入されることによって形成される点欠陥は、ガリウム(Ga)空孔、窒素(N)空孔がある。窒素空孔は、p型伝導領域51中において形成されやすく、アクセプタを補償する。III族窒化物半導体基板1においては、電子より2桁近く正孔移動度が低く、アクセプタ活性率も低い。そのため、p型伝導領域51中においてはキャリア伝導(正孔伝導)が補償効果の影響を顕著に受ける。また、ガリウム空孔・窒素空孔・水素の複合欠陥は、ガリウム空孔・窒素空孔の複合欠陥より形成エネルギーが低い。そのため、水素をn型伝導領域52中に注入して活性化アニールをすることにより、n型伝導領域52中にガリウム空孔・窒素空孔・水素の複合欠陥を凝集することができる。電界が集中するp型伝導領域51とn型伝導領域52の界面から離れたn型伝導領域52中に水素濃度のピークを持たせることにより、逆電圧が印加されたときのリーク電流をより低減することができる。
【0025】
また、上記のIII族窒化物半導体基板1は、その表面11から深さ方向(C方向)にマグネシウムが注入されているマグネシウム注入領域20を備えている。マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度は、マグネシウム注入領域20に隣接している領域におけるマグネシウムの存在濃度より濃い。また、III族窒化物半導体基板1は、その深さ方向においてマグネシウム注入領域20からマグネシウム注入領域20に隣接している領域にわたって水素が注入されている水素注入領域30を備えている。水素注入領域30における水素の存在濃度は、水素注入領域30に隣接している領域における水素の存在濃度より濃い。
【0026】
図3は、マグネシウムと水素が注入されている上記のIII族窒化物半導体基板1を用いたダイオードにおける電圧と電流の関係を示すグラフである。また、図4は、マグネシウムだけが注入され、水素が注入されていないIII族窒化物半導体基板を用いたダイオードにおける電圧と電流の関係を示すグラフである。III族窒化物半導体基板に関する研究の結果、図3及び図4に示すように、逆電圧が印加されたときに、図3の場合におけるリーク電流が、図4の場合におけるリーク電流より小さいことが判明した。図3の場合では、逆電圧が−4Vのときにリーク電流が約10−12〜10−10である。一方、図4の場合では、逆電圧が−4Vのときにリーク電流が約10−9〜10−7である。上記のIII族窒化物半導体基板1の構成によれば、水素が注入されている水素注入領域30が、p型伝導領域51からn型伝導領域52にわたって存在しており、かつn型伝導領域52中に濃度のピークを有しているので、逆電圧が印加されたときに、電界が集中するp型伝導領域51とn型伝導領域52の境界部におけるリーク電流を低減することができる。よって、逆電圧が印加されたときのリーク電流をマグネシウム注入領域中に水素注入領域が存在する従来技術よりも低減することができる。なお、上記のIII族窒化物半導体基板1では表面11側がアノード側であり、裏面12側がカソード側である。
【0027】
また、水素濃度のピーク位置をp型伝導領域51とn型伝導領域52の境界部よりn型伝導領域52側に設けることにより、III族元素空孔(ガリウム空孔)・窒素空孔・水素の複合欠陥のピーク位置を電界が集中する上記境界部から遠ざけることができる。すなわち、リーク電流を更に低減することができる。
【0028】
また、上記のIII族窒化物半導体基板1では、その表面11が窒素極性面になっている。窒素極性面は熱的な安定性が高いので、III族窒化物半導体基板1を1000℃以上に加熱しても、窒素極性面の最表面に位置している窒素が抜けることがない(結晶が熱分解しない)。そのため、加熱処理を行う際にIII族窒化物半導体基板1の表面11を保護膜で覆う必要がない。仮に加熱処理を行う際に表面11を保護膜で覆うと、その保護膜を形成する元素がIII族窒化物半導体基板1内に侵入する現象が生じえる。
【0029】
以上、一実施例について説明したが、具体的な態様は上記実施例に限定されるものではない。以下の説明において、上述の説明における構成と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図5は、第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板1の表面11に直交する方向から表面11を視たときの図(C方向に表面11を視たときの図)である。図5に示すように、第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板1では、水素注入領域30が表面11に露出している。III族窒化物半導体基板1の表面11に沿う方向においてマグネシウム注入領域20からマグネシウム注入領域20に隣接している領域にわたって水素注入領域30が存在している。マグネシウム注入領域20は、III族窒化物半導体基板1の表面11の一部(中央部)の領域に存在している。水素注入領域30は、マグネシウム注入領域20の内外に存在している。水素注入領域30は、マグネシウム注入領域20からマグネシウム注入領域20の周囲まで存在している。水素注入領域30は、マグネシウム注入領域20を囲んでいる。
【0031】
図6は、図5のVI−VI断面図である。図6に示すように、水素注入領域30の外周部34が、マグネシウム注入領域20の外周部24より外側に位置している。マグネシウム注入領域20の外周部24から水素注入領域30の外周部34までの距離L1は、III族窒化物半導体基板1の表面11からマグネシウム注入領域20の下端部21までの距離L2より長い。L1>L2である。距離L1は、表面11に沿う方向の距離である。距離L2は、III族窒化物半導体基板1の深さ方向(C方向)の距離である。水素注入領域30は、III族窒化物半導体基板1の表面11からマグネシウム注入領域20の下端部21より深い位置まで存在している。
【0032】
図7に示すように、水素注入領域30における水素の存在濃度は、マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度より薄い。存在濃度を比較する場合は、ピーク濃度によって比較することができる。
【0033】
以上、第2実施例に係るIII族窒化物半導体基板1について説明した。このIII族窒化物半導体基板1では、図5に示すように、表面11の一部の領域にマグネシウム注入領域20が存在している。また、表面11に沿う方向においてマグネシウム注入領域20からマグネシウム注入領域20に隣接している領域にわたって水素注入領域30が存在している。この構成では、III族窒化物半導体基板1の深さ方向(C方向)だけでなく、表面11に沿う方向においてもマグネシウム注入領域20の周りに水素注入領域30が拡がっているのでリーク電流を更に低減することができる。また、図6に示すように、距離L1が距離L2より長くなっている。これによってリーク電流の低減効果が高くなる。
【0034】
(その他の実施例)
上記の実施例では、II族元素の一例としてマグネシウム(Mg)を用いていたが、この構成に限定されるものではなく、II族元素は、例えばベリウム(Be)、カルシウム(Ca)等であってもよい。
【0035】
また、上記の実施例では、III族窒化物半導体基板1の窒素極性面である表面11が−C面([000−1]面)であったが、この構成に限定されるものではなく、表面11として用いる窒素極性面は、例えば[1−101]面であってもよい。また、III族窒化物半導体基板1の表面11は−C面から少し傾斜している面であってもよい。
【0036】
また、上記の実施例では、各元素の存在濃度を比較する場合にピーク濃度によって比較していたが、この構成に限定されるものではなく、平均濃度によって比較することもできる。また、上記の実施例では、マグネシウム注入領域20と水素注入領域30がそれぞれ1個であったが、複数のマグネシウム注入領域20と複数の水素注入領域30が存在していてもよい。
【0037】
また、図8に示すように、III族窒化物半導体基板1の深さ方向において、水素注入領域30における水素の存在濃度がピークになる位置が、マグネシウム注入領域20とそれに隣接する領域との境界部70と重なっていてもよい。これにより、n型ドーパント濃度がp型ドーパント濃度を上回るn型伝導領域52中に水素濃度のピークを形成できる。水素のピーク濃度の位置が、マグネシウム注入領域20の下端部21と重なっている。水素注入領域30における水素のピーク濃度は、マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムのピーク濃度より濃い。その他の位置では、水素注入領域30における水素の存在濃度が、マグネシウム注入領域20におけるマグネシウムの存在濃度より薄い。
【0038】
次に、上記のIII族窒化物半導体基板1の技術を用いた半導体装置の一例について説明する。図9に示すように、実施例に係る半導体装置100は、半導体基板110を備えている。半導体基板110は、第1層102と、第1層102の上に積層されている第2層104と、第2層104の上に積層されている第3層106とを備えている。第1層102と第2層104は、n型のGaN層である。第3層106は、p型のGaN層である。この半導体装置100における第2層104が、上記で説明したIII族窒化物半導体基板1に相当する。第2層104は、複数のマグネシウム注入領域20と、複数の水素注入領域30を備えている。複数のマグネシウム注入領域20と複数の水素注入領域30は、半導体基板110の周辺領域に存在している。複数のマグネシウム注入領域20と複数の水素注入領域30は、半導体装置100におけるガードリングとして機能する。
【0039】
第1層102の裏面112には裏面電極122が配置されている。第1層102の裏面112側がカソード側である。また、第3層106の表面116には表面電極124が配置されている。第3層106の表面116側がアノード側である。裏面電極122と表面電極124の間に電圧が印加される。また、第2層104の一部の表面114には絶縁膜140が配置されている。絶縁膜140は、複数のマグネシウム注入領域20を覆っている。
【0040】
上記の半導体装置100によれば、裏面電極122と表面電極124の間に逆電圧が印加されたときに、半導体基板110の周辺領域におけるリーク電流を低減することができる。マグネシウム注入領域20と水素注入領域30の存在によってリーク電流を低減することができる。
【0041】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
1 :III族窒化物半導体基板
10 :本体
11 :表面
12 :裏面
20 :マグネシウム注入領域
21 :下端部
24 :外周部
30 :水素注入領域
31 :上端部
32 :下端部
34 :外周部
51 :p型伝導領域
52 :n型伝導領域
70 :境界部
100 :半導体装置
102 :第1層
104 :第2層
106 :第3層
110 :半導体基板
112 :裏面
114 :表面
116 :表面
122 :裏面電極
124 :表面電極
140 :絶縁膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9