(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成繊維を編成してなるトリコット編地であって、該トリコット編地は二重ループで凸部分を形成しており、該二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さが50〜260μmである
液体分離膜モジュール用流路材。
前記トリコット編地のウェル密度が35〜45本/2.54cmの範囲内であり、かつ、コース密度が35〜55本/2.54cmの範囲内である請求項1〜3のいずれか1項に記載の流路材。
合成繊維を用い、ダブルデンビー組織の閉じ目で編成し、二重ループで凸部分を形成する際、フロント糸のランナー長を120〜140cm/Rで編成し、かつ、バック糸のランナー長を115〜130cm/Rで編成した後、熱セットして繊維同士を熱融着させて編地を構成することを特徴とする請求項1〜8いずれかの流路材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、逆浸透分離膜(以下「RO分離膜」と言うことがある。)を用いた液体分離膜モジュールとしては、スパイラル型が広く知られている。その構造は透過液の流路材を逆浸透分離膜で挟み込み、さらにRO分離膜の外側に供給液の流路材を配置して一組のユニットとなし、中空の中心管の周囲に該ユニットを一組又は複数組を巻き付けて構成される。
【0003】
このような液体分離膜モジュールの使用時には、供給液側と透過液側に4〜5MPaの差圧が作用するため、流路材はこの圧力が作用しても変形しないことが必要とされる。
【0004】
透過液側の流路材としては以下のものが知られている。
【0005】
古くから知られているものとしては、第1の従来技術として、3枚オサを有するトリコット編機により、2組の細繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条で地組織部分を編成するとともに、該地組織部分のニードル・ループ部分に1組の太繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条を編込んでうね部分を形成したトリコット編地を編成する。そして該トリコット編地の糸条相互を熱処理で接着処理して編地全体を剛直化させている(特許文献1)。
【0006】
この特許文献1に記載されている比較品として、熱可塑性合成繊維フィラメント糸条の混繊糸を用いて2枚オサ・トリコットでダブルデンビ編地に編成して熱融着加工した流路材を用いているが、この比較品は、流動抵抗が高く、かつ厚みが薄くできない課題があった。そこで特許文献1の発明は、3枚オサを有するトリコット編機により地組織部分を構成する糸条より太繊度の糸条を更に編み込むことで、透過液生産性を損なわず流路構造を長期間維持できる流路材を提供するものである。
【0007】
また、第2の従来技術として、熱可塑性合成繊維フィラメント糸条として芯鞘型複合糸を用い、2枚オサを有するトリコット編機を用いて、地組織と凸部分からなるトリコット編地を形成し、熱融着により互いに接着して編地全体を剛直化した流路材が提案されている(特許文献2)。
【0008】
この特許文献2が開示するのは、芯側に高融点成分、鞘側に低融点成分を配置した芯鞘複合糸が接着性に優れる点を利用し、また実質的に同一繊度の芯鞘複合糸で地組織と凸部分とを構成することで、流路抵抗を上げることなく透過液生産性を損なわずに、流路材の構造及び剛直性を長時間維持し、かつ溶出のない薄い厚さの流路材を提供するものである。
【0009】
また、第3の従来技術として、トリコット編地ではなく、賦形されたシート状物の流路材も提案されている(特許文献3)。これはポリエステルフィルムにインプリント加工を施したり、射出成型や圧縮成型などの成型加工をしたりして、一方向に並んで連続した溝を有する賦形シート状物の流路材を提供している。
【0010】
この特許文献3に記載されている比較例には、ポリエステル繊維のマルチフィラメントをダブルデンビ組織に編成し、それを熱融着した後にカレンダ加工を施して得られるトリコットを例示しているが、この比較例は透過水量が少なく、塩除去率も低く劣るものである。そこで特許文献3の発明は、賦形されたシート状物とすることで厚みを増やすことなく溝幅を狭くし、溝深さを深くすることができるので、逆浸透膜の陥没を抑制し、流路抵抗の小さい液体分離素子を得ることができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
第1の従来技術では、2枚オサ・トリコットでダブルデンビ編地に編成して熱融着加工した流路材よりも流動抵抗を低く、かつ厚みを薄くするために、3枚オサを有するトリコット編機を用いている。そして2組の細繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条で地組織部分を編成するとともに、該地組織部分のニードル・ループ部分に1組の太繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条を編込んでうね部分を形成している。しかし2組の細繊度の糸条に加えて太繊度の糸条を編込むので、うね部分は高くできるものの、太繊度の糸条は地組織にも編み込まれるため、トリコット編地の全体の厚みを薄くすることは困難であった。
【0013】
また、第2の従来技術では、フロント・オサで[1−0/1−2]に編成し、バック・オサを[2−3/1−0]に編成したバックハーフ組織にすることで、地組織と凸部分を形成することができるとしているが、バック・オサで編成した[2−3/1−0]のコード編の組織はループからループまでがひとつ飛ばしのため、流水通路に多数の糸が存在して通路の面積が小さくなり、通水抵抗が高くなってしまうという課題があった。また、[2−3/1−0]はループからループまでが長いため寸法安定性にも課題があった。
【0014】
また、第3の従来技術では、ポリエステル繊維をダブルデンビ組織に編成し熱融着してカレンダ加工を施したトリコットよりも透過水量を多くして塩除去率も向上させるために、賦形されたシート状物を提案している。しかしポリエステルフィルムにインプリント加工を施した際のインプリント加工部分とポリエステルフィルム部分との接着力が十分でなかった。そこで液体分離として使用中の耐久性を向上する要求が高かった。
【0015】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、使用中に逆浸透分離膜を介して原液による供給側から高圧が作用しても分離膜の塩除去率を維持可能で、かつ厚みも薄くできる流路材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる課題を解決するために本発明は、下記のいずれかの構成からなる。
(1)合成繊維を編成してなるトリコット編地であって、該トリコット編地は二重ループで凸部分を形成しており、該二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さが50〜260μmである
液体分離膜モジュール用流路材。
(2)前記トリコット編地の凸部分同士の距離が80〜330μmの範囲内である前記流路材。
(3)前記トリコット編地の凸部分同士の距離が290〜330μmの範囲内である前記いずれかの流路材。
(4)前記トリコット編地のウェル密度が35〜45本/2.54cmの範囲内であり、かつ、コース密度が35〜55本/2.54cmの範囲内である前記いずれかの流路材。
(5)前記トリコット編地がダブルデンビー組織の閉じ目で構成したものである前記いずれかの流路材。
(6)前記合成繊維が互いに熱融着している前記いずれかの流路材。
(7)前記合成繊維が芯鞘複合繊維糸であり、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されたものである前記いずれかの流路材。
(8)前記合成繊維の繊度が30〜90dtexである前記いずれかの流路材。
(9)前記のいずれかの流路材を有する液体分離膜モジュール。
(10)液体分離膜モジュールが、さらに逆浸透分離膜を有し、前記流路材が逆浸透分離膜に挟み込んで用いられる前記液体分離膜モジュール。
(11)前記流路材の二重ループで形成した凸部分によって逆浸透分離膜が保持されている前記いずれかの液体分離膜モジュール。
(12)中心管の回りに少なくとも逆浸透分離膜および透過側流路材が巻回している前記いずれかの液体分離膜モジュール。
(13)合成繊維を用い、ダブルデンビー組織の閉じ目で編成し、二重ループで凸部分を形成する際、フロント糸のランナー長を120〜140cm/Rで編成し、かつ、バック糸のランナー長を115〜130cm/Rで編成した後、熱セットして繊維同士を熱融着させて編地を構成することを特徴とする前記いずれかの流路材の製造方法。
【0017】
なお、「ランナー長」とは、480コース(=1ラック(R))を編み立てるのに使用する糸の長さ(cm)を言う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、使用中に逆浸透分離膜を介して供給側、すなわち原液側に高圧が作用しても塩除去率が維持可能な流路材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の流路材は合成繊維を編成してなるトリコット編地である。該トリコット編地は二重ループで凸部分を形成しており、該二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さが50〜260μmの範囲内である。
【0021】
トリコット編地は、地組織と凸部分を有し、二重ループで凸部分を形成するものである。二重ループの形成には少なくとも2枚筬を有するトリコット編機を使用し、合成繊維からなる少なくとも2組の経糸を使い、少なくとも1組の経糸をバック糸として地組織のニードル・ループ部を形成し、少なくとももう1組の経糸をフロント糸として地組織のニードル・ループ部に編み込むことで凸部分を形成することができる。合成繊維からなる少なくとも2組の経糸は、同じ種類でも異なる種類でも良いが、二重経編とすることで地組織と凸部分を形成することが可能となる。本発明の流路材を逆浸透分離膜の透過側に配した場合、二重ループで形成した凸部分によってRO分離膜が保持される。使用中に供給側の圧力が作用してもRO分離膜は、編地における隣り合う凸部間に形成される流路に落ち込まず、地組織と凸部分とで形成される空間を透過液が通水するものである。
【0022】
このように二重ループで形成した凸部分において、二重ループの内面側には開口部が存在するが、この開口部はRO分離膜でろ過した透過液が通水する流路として作用するものである。開口部の長辺長さが50μm以上あることで透過液の通水抵抗を低くすることが可能となる。また二重ループは、使用中の水圧が作用した時に、凸部分によってRO分離膜を保持する機能を有しており、開口部の長辺長さが260μm以下とすることでRO分離膜が使用中の水圧で落ち込むことなく、流路抵抗を低くすることができる。これらの理由から、開口部の長辺長さを50〜260μmの範囲内とすることが好適である。透過液の通水抵抗を低く保ち、かつ、RO分離膜の水圧による落ち込みを抑制するために、より好適には開口部の長辺長さは230〜260μmの範囲である。
【0023】
本発明の流路材は、凸部分同士の距離(以下、「溝幅」と呼ぶ)が、80〜330μmの範囲内であることが好ましい。溝幅が80μm以上あることで透過液の通水抵抗を低くすることができて好ましく、また、溝幅が330μm以下とすることでRO分離膜の落ち込みが生じないことから好ましい。より好適には290〜330μmの範囲内である。
【0024】
上記の溝幅は、トリコット編地のウェル密度と、二重ループを形成する合成繊維の繊度、二重ループの膨らみやコース密度などで決まるが、前記トリコット編地のウェル密度は、35〜45本/2.54cmの範囲内が好ましい。トリコット編地のウェル密度が35本/2.54cm以上あることで二重ループ同士の距離が狭くなりRO分離膜の落ち込みが生じないことから好ましく、また、トリコット編地のウェル密度が45本/2.54cm以下であると二重ループ同士の距離が必要な広さを確保して透過液の通水抵抗が低く抑えることができるので好ましい。
【0025】
また、トリコット編地のコース密度について、35〜55本/2.54cmの範囲内が好ましい。トリコット編地のコース密度が35本/2.54cm以上あることで、二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さを50μm以上にできるので、透過液の通水抵抗を低くすることが可能となり好ましい。またトリコット編地のコース密度を55本/2.54cm以下とすることが、二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さを260μm以下とでき、RO分離膜が使用中の水圧で落ち込むことなく流路抵抗を低くできるので、好ましい。また二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さを230〜260μmの範囲内にするために、より好適には、コース密度は40〜50本/2.54cmの範囲内にあることが良い。
【0026】
また、本発明のトリコット編地の組織としてはハーフ編、逆ハーフ編、クイーンズコード編など例示できるが、ダブルデンビー組織であることが好ましい。なぜならダブルデンビー組織を採用することで二重経編の地組織を構成する糸の本数を少なくできるので、透過水の流路を広くできるからである。また表と裏の両方をデンビー組織で形成したダブルデンビー組織とすることで、表と裏のいずれもループからループまでの距離が短く、寸法安定性に優れるので好適である。加えて、ループからループまでの距離が短く、少ない繊維使用量で編地を構成しても使用中の水圧にたえることができる。
【0027】
また、ダブルデンビー組織の閉じ目で構成したものが好ましい。ループの形成方法としては閉じ目と開き目があるが、閉じ目とすることで二重ループを形成する合成繊維の膨らみを小さくすることができ、それで二重ループ同士の距離が必要な広さを確保でき、その結果透過液の通水抵抗を低く抑えることができるので好ましい。
【0028】
これら二重ループを形成する合成繊維は互いに熱融着していることが好ましい。合成繊維同士が熱融着して固化した構成とすることで、使用中の水圧が作用しても流路材の繊維同士が固化して一体化しているので変形や破損がなく、流路材を構成する編地の凸部分も変形が少ないので、透過液の通水抵抗を低く維持できることから好ましい。
【0029】
本発明のトリコット編地に用いる合成繊維の例としてナイロン6やナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリルニトリル繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル繊維等が挙げられるが、特に使用中の水圧環境でも十分な強度を有し、かつ透過液中への成分の溶出が少ないことからポリエステル繊維が好適に用いられる。
【0030】
ポリエステル繊維を例にとると、融点または軟化点の異なる2種類以上のポリエステルで構成されることが好ましい。なぜなら融点の高いポリエステル(以下、「ポリエステル
H」と略する)と、融点の低いポリエステル(以下、「ポリエステル L」と略する)とで流路材を構成することで、使用中の水圧環境でもポリエステル Hが十分な強度を発現し、かつ、ポリエステル Lとポリエステル Hとが互いに熱融着して固化した構成とすることで、繊維同士が互いに固化して一体化しているからである。
【0031】
融点または軟化点の異なる2種類以上のポリエステルで構成する態様として、フィラメント糸からなる混繊糸や、芯鞘型あるいはサイドバイサイド型の複合繊維を用いることが例示される。ポリエステル Hとポリエステル Lとがフィラメント単糸レベルで混合した混繊糸に比べ、フィラメント単糸がポリエステル Hとポリエステル Lとで構成される芯鞘複合糸で、かつ、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されるものが、ポリエステル Lの割合を多くでき、熱融着する融着点を増やせることから好ましい。
【0032】
上記ポリエステル Lの融点または軟化点は、液体分離膜モジュールが使用前に熱水で洗浄されるときもあることから、それに耐え得る程度、通常80℃以上であればよく、110℃以上であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル Hとポリエステル Lの融点差は少なくとも10℃あることが好ましく、好ましくは20℃以上であればさらに良い。なお本発明では融点を持たず軟化点がある場合の軟化点との差も融点差という。融点差が20℃以上あることで、凸部分の形を維持したままでポリエステル Lのみを融着させて互いに固化させることが容易になる。融点差の上限としては、実用的な液体分離膜モジュールを与え得る流路材が得られる限り制限はないが、180℃が現実的である。
【0034】
ポリエステル Hとしては、アルキレンテレフタレートを主たる繰り返しとするポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリエステル Lとしては、前記アルキレンテレフタレートを主たる繰り返しとするポリエステルに例えば共重合することで融点差を発現させることができる。共重合する成分として、イソフタル酸、無水フタル酸、ジエチレングリコール等があるが、10℃以上の融点差を持たせられるものを適宜選択して用いる。
【0035】
ポリエステル Hとポリエステル Lの複合比率は適宜選択して良いが、重量比率で50:50〜95:5の範囲内であれば十分な熱融着を確保でき、かつ繊維強度や収縮率も必要な範囲とできるので好ましい。より好ましくは70:30〜90:10である。
【0036】
なお、ポリアミド繊維などの他の繊維においても、上記ポリエステル繊維と同様、融点または軟化点の異なる2種類以上の繊維で構成される混繊糸や、芯鞘型あるいはサイドバイサイド型の複合繊維を用いることができる。
【0037】
本発明のトリコット編地に用いる合成繊維の繊度は、30〜90dtexの範囲内が良い。この範囲の繊度を選択し、二重経編に編成することで厚みを薄く、かつ透過液の通水する流路が広いトリコット編地を得ることが可能となる。合成繊維の繊度が90dtex以下であることで、地組織の凹凸を適度に抑えられ、地組織の突起箇所に使用中の水圧が作用しても透過液の通水を十分に確保できるので好ましい。また、30dtex以上とすることで、凸部分を高くできるので、十分な流路を確保することができるので好ましい。
【0038】
合成繊維の繊度のより好ましい範囲は40〜60dtexであり、かかる範囲とすることにより、上記効果がよりいっそう発揮される。また、この範囲内の合成繊維で編成することで、流路材の全体の厚みを210〜260μm、より好ましい態様では210〜230μmとすることが可能となり、単位あたりの積層数を増やせて良く、かつ、水圧が作用しても透過液の通水量を十分確保可能となるので好ましい。
【0039】
なお、トリコット編地で用いる合成繊維について繊度の異なるものを使用してもよい。
【0040】
繊度の異なるものを使用する場合には、凸部分のニードル・ループ部を形成するフロント糸の繊度を、地組織のニードル・ループ部を形成するバック糸の繊度よりも太くすることが好ましい。これにより凸部分を高くして通水量を十分確保しつつ、流路材の全体の厚みを薄くすることができるので好ましい。地組織のニードル・ループ部を形成するバック糸の繊度としては透過液の通水量を十分確保してトリコット編地全体の厚みを薄くできるので、30〜60dtexであることがより好ましい。凸部分のニードル・ループを形成するフロント糸の繊度としては40〜90dtexであることが好ましい。
【0041】
本発明のトリコット編地の製造方法としては以下の方法が好ましい。
【0042】
合成繊維を用い、ダブルデンビー組織の閉じ目で編成し、二重ループで凸部分を形成する際、フロント糸のランナー長を120〜140cm/Rで編成し、かつ、バック糸のランナー長を115〜130cm/Rで編成する。そして得られた編地を熱セットして繊維同士を熱融着させる。ダブルデンビー組織は、少なくとも2枚筬からなるトリコット編機を用いることで編成することができ、フロント筬とバック筬とにそれぞれ、フロント糸とバック糸とを供給して編成することができる。編成時のランナー長はデンビー組織のループ形状とコース密度を決定する主要な条件であり、フロント糸のランナー長を120〜140cm/Rで編成し、かつ、バック糸のランナー長を115〜130cm/Rで編成するのが良い。フロント糸のランナー長を120〜140cm/Rの範囲で編成することで二重ループを形成する合成繊維のループを小さくできるとともに、編成時の糸張力も適正範囲のため合成繊維のガイドあたりや糸切れが少なく、安定して編成できるので好ましい。またバック糸のランナー長は115〜130cm/Rの範囲内で編成することで、編成時の糸張力も適正範囲となり、合成繊維のガイドあたりや糸切れが少なく、安定して編成できるので好ましい。二重ループの形成においては、フロント糸のランナー長をバック糸のランナー長よりも長く設定することは、フロント糸の糸量がバック糸の糸量と比較して相対的に増えて凸部分が高くなり、透過液の通水面積を増やすことができるので好ましい。
【0043】
このようにフロント糸のランナー長を120〜140cm/Rで編成し、かつ、バック糸のランナー長を115〜130cm/Rで編成することで、二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さを50〜260μmの範囲内にすることができるものである。
【0044】
このようにして得られたダブルデンビー組織のトリコット編地は熱セットして繊維同士を熱融着させることで、本発明でのトリコット編地を得ることができる。用いる合成繊維が芯鞘複合繊維糸である場合、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されたものが好ましい。融点または軟化点の低い成分を含むことで、熱セットで繊維同士が熱融着し易くなるからである。熱セットの方法は通常のピンテンター乾燥機やシリンダー乾燥機など本発明で規定する二重ループが得られる限り特に制約は無いが、幅設定の容易なピンテンター乾燥機が好適に用いられる。融点または軟化点が170〜240℃の合成繊維を用いる場合、ピンテンター乾燥機の温度設定はそれよりも5℃以上高く設定すること、好ましくは10℃以上高く設定することで繊維同士の熱融着を進めることが可能となるので好ましい。上限としては経済的に、また安定して乾燥機の温度を制御できる点から30℃以下程度高く設定することが好ましい。
【0045】
かくして得られる本発明のトリコット編地は、液体分離膜モジュール用の流路材として用いることができる。なかでも純水や超純水、軟水化、排水回収、有価物回収などの液体分離膜モジュールで好適に用いることができる。本発明の流路材は、使用中にRO分離膜を介して原液が4〜5MPaの高圧で作用しても高い塩除去率を確保できることから、淡水をろ過して工業用水などにする淡水浄化用の液体分離膜モジュールで特に好適に用いることができる。液体分離膜モジュールとしては、中心管の回りに少なくとも逆浸透分離膜および透過側流路材が巻回している構造が好ましい。すなわちスパイラル型の液体分離膜モジュールが好ましい。
図1はスパイラル型の液体分離膜モジュールの一例を示す概略斜視図である。液体分離膜モジュール6は透過液側流路材1を2枚のRO分離膜2で挟み込んでいる。さらにRO分離膜2の、透過側流路材1とは反対の側には、供給液の通水路材3を配置する。供給液の通水路材としてメッシュが使用できる。その結果、供給液側通水路材/RO分離膜/透過液側流路材/RO分離膜の順に構成されるユニットができあがる。集水孔4を有する中空の中心管5の周囲に該ユニットを一組又は複数組を巻き付けて液体分離膜モジュールとする。この液体分離膜モジュールの最外部にはケースがあってもよい。その透過液が通じる流路を形成するための透過側流路材に本発明のトリコット流路材を用いることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法および総合評価の判断基準は、以下のとおりとした。
【0047】
[特性の測定方法]
以下の測定方法のうち、特に断りのないものは、試料の調整、及び測定は、JIS−L−0105(2006)の標準状態(20±2℃、相対湿度65±4%)で行った。
【0048】
(1)二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さ(μm)
(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX−5000を用いて倍率100倍で観察し、二重ループの内面側に形成した開口部の長辺長さを計測した。測定は幅なり中央から無作為に1点を抽出し、12個の二重ループで測定を行い、平均を求めた。
【0049】
図2で二重ループの開口部の長辺を説明する。これはトリコット流路材の凸部分側からみたものである。
図2において二重ループ9が凸部分を形成しているが、二重ループの内側に開口部が存在する。開口部の編目の方向の幅を長辺長さ7とした。
【0050】
(2)密度(本/2.54cm)
JIS−L−1096(2010)附属書Fに準じて、デンシメータを用いてトリコット流路材のウェル数およびコース数を測定した。
【0051】
(3)厚み(mm)
ピーコックダイアルゲージ((株)尾崎製作所製、H型、0.01mm目盛り、測定子直径10mmφ)を用い、トリコット編地の流路材の厚みを測定した。
【0052】
(4)流路の溝幅(μm)と流路の溝深さ(μm)
(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX−5000を用いて倍率100倍で観察し、流路の溝幅と流路の溝深さを測定した。流路の溝深さを測定するに際しては、流路材を編目方向に垂直にカットしてから、その断面を同様の倍率で観察した。溝幅と溝深さは
図2および
図3に示すもので定義した。測定は全幅から無作為に3点を抽出し、それぞれ5回測定を行い、平均を求めた。
【0053】
図2は流路材の凸部分側からみた二重ループを示す拡大写真であり、流路の溝幅の測定方法を説明するものである。
図3はトリコット流路材の断面概念図であり、流路の溝深さの測定方法を説明するものである。複数の二重ループ9が
図2では縦方向に連続している。これらの二重ループが最も膨らんだ部分の接線を想像する。また
図2では横方向に、ループ9から隔離して、ただし最も近いところにも複数の二重ループ9’が存在する。同様に複数の二重ループ9’にも接線を想像する。ふたつの接線を流路の溝幅8であると定義した。また
図3では、流路材の二重ループ9の頂点および二重ループ9’頂点とを結んだ線と流路材の地組織12とで囲まれた部分が透過液の通水部分10となる。また地組織12から二重ループ9の頂点および二重ループ9’頂点とを結んだ線までの距離を、流路の溝深さ11とした。
【0054】
(5)耐水試験(塩の除去率(%)、造水量(m
3/日))
トリコット流路材を厚さ150μmのRO分離膜2枚の間に挟みこんだ。
図1に示すようにスパイラル型にユニットを形成し、直径が0.2m、長さ1mのモジュールケースに組み込み、液体分離膜モジュールを作成した。TDS(溶解性蒸発残留物)が3.5重量%の海水を液温25℃で4.5MPaの差圧を与えて5日間ろ過した。5日間経過後に透過液の電気伝導度を測定し、硫酸マグネシウム塩の除去率を算出した。除去率99.8%以上を合格とした。また5日経過後の透過液量を測定し、一日あたりの造水量を算出した。
【0055】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)を芯に、ポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステル(融点:225℃)を鞘に配置した芯鞘複合繊維糸I(24フィラメント、56デシテックス)をフロント糸として使い、また、ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)のみからなるレギュラー原糸I(18フィラメント、56デシテックス)をバック糸に用いて、32ゲージ(編機の単位長間にあるニードルの本数)のトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。その際、フロント筬にはランナー長124cm/Rで芯鞘複合繊維糸Iをフロント糸として送り込み、かつ、バック筬にはランナー長121cm/Rでレギュラー原糸Iをバック糸として送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に245℃に設定したピンテンター加工機で1分間熱セットして、ウェル密度が40本/2.54cm、コース密度が50本/2.54cmのトリコット編地の流路材Aを得た。
【0056】
得られたトリコット編地の流路材Aにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは258μmであった。
【0057】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレートフィラメント(融点:255℃)にポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステルフィラメント(融点:225℃)を混繊してなるマルチフィラメント混繊糸I(36フィラメント、84デシテックス)をフロント糸として使い、また、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用いて、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長131cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長121cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしてウェル密度が39本/2.54cm、コース密度が52本/2.54cmのトリコット編地の流路材Bを得た。
【0058】
得られたトリコットの編地流路材Bにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは220μmであった。
【0059】
[実施例3]
実施例2で用いたマルチフィラメント混繊糸Iをフロント糸に用い、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用い、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長138cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長124cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしてウェル密度が39本/2.54cm、コース密度が46本/2.54cmのトリコット編地の流路材Cを得た。
【0060】
得られたトリコット編地の流路材Cにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは245μmであった。
【0061】
[比較例1]
実施例2で用いたマルチフィラメント混繊糸Iをフロント糸に用い、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用い、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長145cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長129cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしてウェル密度が39本/2.54cm、コース密度が41本/2.54cmのトリコット編地の流路材Dを得た。
【0062】
得られたトリコット編地の流路材Dにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは266μmであった。
【0063】
耐水試験での硫酸マグネシウム塩の除去率は98.0%であり、RO分離膜の破損が懸念される結果であったので、不合格と判断した。
【0064】
[比較例2]
実施例1で用いた芯鞘複合繊維糸Iをフロント糸に用い、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用い、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長118cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長118cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしてウェル密度が40本/2.54cm、コース密度が38本/2.54cmのトリコット編地の流路材Eを得た。
【0065】
編成時は芯鞘複合繊維糸I、レギュラー原糸Iいずれもガイドあたりや糸切れが多く、編成欠点が多いものであった。
【0066】
得られたトリコット編地の流路材Eにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは348μmであった。
【0067】
また耐水試験での硫酸マグネシウム塩の除去率は99.5%であり、RO分離膜の明確な破損は確認できなかったが、除去率が時間経過とともに低下していたことから不合格と判断した。
【0068】
[実施例4]
実施例1で用いた芯鞘複合糸Iをフロント糸に用い、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用い、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のハーフ組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長161cm/Rで送り込み、[2−3/1−0]のコード編とし、かつ、バック糸はランナー長114cm/Rで送り込み、[1−0/1−2]のデンビー編とし、地組織と凸部分を有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしウェル密度が40本/2.54cm、コース密度が52本/2.54cmのトリコット編地の流路材Fを得た。
【0069】
得られたトリコット編地の流路材Fにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは251μmであった。
【0070】
[実施例5]
実施例2で用いたマルチフィラメント混繊糸Iをフロント糸に用い、実施例1で用いたレギュラー原糸Iをバック糸に用い、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のハーフ組織に編成した。その際、フロント糸はランナー長167cm/Rで送り込み、[2−3/1−0]のコード編とし、かつ、バック糸はランナー長121cm/Rで送り込み、[1−0/1−2]のデンビー編とし、地組織と凸部分を有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットしウェル密度が38本/2.54cm、コース密度が50本/2.54cmのトリコット編地の流路材Fを得た。
【0071】
得られたトリコット編地の流路材Gにおいて、二重ループの開口部の長辺長さは259μmであった。
【0072】
【表1】
【0073】
表1によれば、本発明の流路材は4.5MPaの圧力が作用しても高い塩除去率を維持できる。中でも実施例1は軽量で薄いにも関わらず、比較例よりも高い塩の除去率と、比較例同等の造水量をもつ。これらの結果からRO分離膜を介して原液の高圧が作用しても使用可能なことが分かる。