特許第6844540号(P6844540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844540
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/30 20160101AFI20210308BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20210308BHJP
   H02K 5/04 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H02K11/30
   H02K5/173 A
   H02K5/04
【請求項の数】21
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-534505(P2017-534505)
(86)(22)【出願日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】JP2016079759
(87)【国際公開番号】WO2017026550
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2018年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-218473(P2015-218473)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】服部 隆志
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 敬史
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】新子 剛央
(72)【発明者】
【氏名】山下 佳明
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−327116(JP,A)
【文献】 米国特許第05831360(US,A)
【文献】 特開平08−103049(JP,A)
【文献】 特開2002−339965(JP,A)
【文献】 特開2013−090376(JP,A)
【文献】 特開平08−276843(JP,A)
【文献】 特開2013−128390(JP,A)
【文献】 特開昭62−147925(JP,A)
【文献】 特開2010−154705(JP,A)
【文献】 特開2004−064832(JP,A)
【文献】 特開2013−085750(JP,A)
【文献】 特開2003−309903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00 − 5/26
H02K 7/00 − 7/20
H02K 11/30 − 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部駆動機構に所定のトルクを伝達するように用いられるモータであって、
上下方向に延びる中心軸を中心とするシャフトを有するロータと、
前記ロータと径方向に対向して配置されたステータと、
前記シャフトの上側を支持する上側ベアリングと、
前記シャフトの下側を支持する下側ベアリングと、
前記上側ベアリングを保持するベアリングホルダと、
前記ロータと前記ステータと前記ベアリングホルダとを収容し上側に開口するハウジングと、
を備え、
前記シャフトの下端は、前記ハウジングより外部に突出して、前記外部駆動機構に所定のトルクを伝達するように用いられ、
前記ハウジングは、
前記ロータ、前記ステータ、および前記ベアリングホルダと、を収容するハウジング筒部と、
前記ハウジング筒部の下側の開口を塞ぐハウジング底部と、
前記ハウジング筒部の内周面において、前記ハウジングの開口側に面して周方向に延びるハウジング棚面と、
を有し、
前記ハウジング筒部は、前記ベアリングホルダよりも上側に、前記ステータと電気的に接続される制御装置の少なくとも一部を収容可能な制御装置収容領域を有し、
前記ベアリングホルダは、前記ハウジング筒部の内周面に保持され、前記ハウジング棚面に接触し、前記上側ベアリングを保持する上側ベアリング保持部を有し、
前記上側ベアリング保持部は、
前記上側ベアリングの外輪に嵌合する上側ベアリング筒部と、
前記上側ベアリング筒部の上側に径方向内側に延びる上側ベアリング受部を有し、
前記ハウジング底部は、前記下側ベアリングを保持するための下側ベアリング保持部を有し、
前記上側ベアリングは、
前記上側ベアリングの内輪が、前記シャフトに固定さると共に、
前記上側ベアリングの外輪が、前記上側ベアリング保持部に対して上下方向に移動可能であり、かつ、前記外輪の上面と上側ベアリング受部との間に上下方向に付勢する付勢部材が位置し、
前記下側ベアリングは、
前記下側ベアリングの内輪が、前記シャフトに固定されると共に、
前記下側ベアリングの外輪が、前記下側ベアリング保持部に固定され
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングを保持する内側筒部と、前記ハウジングの内周面に嵌合する外側筒部と、前記内側筒部と外側筒部とを連結する連結部と、を有し、
前記連結部は、前記内側筒部と前記外側筒部との間に位置する中間筒部と、前記中間筒部の下端と前記内側筒部とを連結する内側連結部と、前記中間筒部の上端と前記外側筒部とを連結する外側連結部とを有する、ことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記下側ベアリング保持部は、
前記下側ベアリングの外輪に嵌合する下側ベアリング筒部と、
前記下側ベアリング筒部の下側において、径方向内側に延びる第1下側ベアリング受部を有し、
前記下側ベアリングの外輪が、前記第1下側ベアリング受部に接触している、請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記下側ベアリング保持部は、
前記下側ベアリングの外輪に嵌合する下側ベアリング筒部と、
前記下側ベアリング筒部の上側において、径方向内側に延びる第2下側ベアリング受部を有し、
前記下側ベアリングの外輪が、前記第2下側ベアリング受部に接触している、請求項1に記載のモータ。
【請求項4】
前記下側ベアリングの耐荷重は、前記上側ベアリングよりも大きい、請求項1から3の何れか1項に記載のモータ。
【請求項5】
前記制御装置収容領域における前記ハウジングの内径は、前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の前記ハウジングの内径よりも大きい、請求項1に記載のモータ。
【請求項6】
前記ハウジングは、前記制御装置収容領域の内周面と前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の内周面とを軸方向に接続する傾斜面を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項7】
前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の前記ハウジングの内径は、前記ステータが収容される位置の前記ハウジングの内径よりも大きい、請求項1から6のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項8】
前記ハウジングを構成する材料の線膨張係数は、前記ベアリングホルダを構成する材料の線膨張係数と同等である、請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項9】
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングホルダの上面の外縁部に、凹部と、前記凹部の径方向外側に位置し前記ハウジングの内周面を押圧する押圧部とを有する、請求項1か
ら8のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項10】
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングホルダを軸方向に貫通する貫通孔を有し、少なくとも1つの前記凹部は前記貫通孔の近傍に配置される、請求項9に記載のモータ。
【請求項11】
前記ベアリングホルダの上側に、バスバーユニットを有し、
前記バスバーユニットは、前記ベアリングホルダの貫通孔を介して前記ステータから延びる配線と接続されるバスバーと、前記バスバーを保持するバスバーホルダとを有する、
請求項10に記載のモータ。
【請求項12】
前記制御装置収容領域に一部又は全体が収容された制御装置を有する、請求項1から11のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項13】
上下方向に延びる中心軸を中心とするシャフトを有するロータと、
前記ロータと径方向に対向して配置されたステータと、
前記シャフトを支持するベアリングと、
前記ベアリングを保持するベアリングホルダと、
前記ロータと前記ステータと前記ベアリングホルダとを収容し上側に開口するハウジングと、
を備え、
前記ハウジングは、
前記ベアリングホルダよりも上側に、前記ステータと電気的に接続される制御装置の少なくとも一部を収容可能な制御装置収容領域と、
前記ハウジングの内面に、前記ハウジングの開口部に面して周方向に延びる棚面と、
を有し、
前記制御装置収容領域における前記ハウジングの内径は、前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の前記ハウジングの内径よりも大きく、
前記ベアリングホルダは、前記棚面に接触すると共に、前記ベアリングホルダの上面の外縁部に、凹部と、前記凹部の径方向外側に位置し前記ハウジングの内周面を押圧する押圧部と、を有する、
前記凹部は、加圧加工により設けられ、
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングホルダを軸方向に貫通する貫通孔を有し、少なくとも1つの前記凹部は前記貫通孔の近傍に配置される、モータ。
【請求項14】
前記ハウジングは、前記制御装置収容領域の内周面と前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の内周面とを軸方向に接続する傾斜面を有する、請求項13に記載のモータ。
【請求項15】
前記ハウジングの内面に、前記ハウジングの開口部に面して周方向に延びる棚面が設けられ、
前記ベアリングホルダは、前記棚面に接触する、請求項13又は14に記載のモータ。
【請求項16】
前記ベアリングホルダが取り付けられる位置の前記ハウジングの内径は、前記ステータが収容される位置の前記ハウジングの内径よりも大きい、請求項13から15のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項17】
前記ハウジングを構成する材料の線膨張係数は、前記ベアリングホルダを構成する材料の線膨張係数と同等である、請求項13から16のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項18】
前記ベアリングホルダの上側に、バスバーユニットを有し、
前記バスバーユニットは、前記貫通孔を介して前記ステータから延びる配線と接続されるバスバーと、前記バスバーを保持するバスバーホルダとを有する、請求項13から17のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項19】
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングを保持する内側筒部と、前記ハウジングの内周面に嵌合する外側筒部と、前記内側筒部と外側筒部とを連結する連結部と、を有する、請求項13から18のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項20】
前記連結部は、前記内側筒部と前記外側筒部との間に位置する中間筒部と、前記中間筒部の下端と前記内側筒部とを連結する内側連結部と、前記中間筒部の上端と前記外側筒部とを連結する外側連結部とを有する、請求項19に記載のモータ。
【請求項21】
前記制御装置収容領域に一部又は全体が収容された制御装置を有する、請求項13から20のいずれか1項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを収容するモータケースと制御装置を収容する収容部材を連結して一体化したモータが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−090376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のように、モータケースと収容部材とを連結した場合、部品点数が多くなり、小型化も困難である。そこで、モータケースを延長させて、制御装置とモータとを共通のモータケースに収容することが考えられる。この構成では、モータケースが制御装置を収容する領域分だけ軸方向に長くなる。そのため、モータを構成する各部品をモータケースに挿入しにくくなる。特に、モータケースの内周面に固定されるステータやベアリングを保持するベアリングホルダは、モータケースにおける制御装置が配置される領域を通って挿入されるため、モータケースの内周面を傷つけてしまいやすく、製造が難しくなる。
【0005】
本発明の一態様は、製造の容易さを損なうことなくモータを収容するハウジング(モータケース)内に制御装置を収容可能とし、部品点数の削減と小型化を実現可能としたモータを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるモータは、外部駆動機構に所定のトルクを伝達するように用いられるモータである。このモータは、上下方向に延びる中心軸を中心とするシャフトを有するロータと、ロータと径方向に対向して配置されたステータと、シャフトの上側を支持する上側ベアリングと、シャフトの下側を支持する下側ベアリングと、上側ベアリングを保持するベアリングホルダと、ロータとステータとベアリングホルダとを収容し上側に開口するハウジングと、を備える。シャフトの下端は、ハウジングより外部に突出して、外部駆動機構に所定のトルクを伝達するように用いられる。ハウジングは、ロータ、ステータ、およびベアリングホルダと、を収容するハウジング筒部と、ハウジング筒部の下側の開口を塞ぐハウジング底部と、ハウジング筒部の内周面において、ハウジングの開口側に面して周方向に延びるハウジング棚面と、を有する。ハウジング筒部は、ベアリングホルダよりも上側に、ステータと電気的に接続される制御装置の少なくとも一部を収容可能な制御装置収容領域を有する。ベアリングホルダは、ハウジング筒部の内周面に保持され、ハウジング棚面に接触し、上側ベアリングを保持する上側ベアリング保持部を有する。上側ベアリング保持部は、上側ベアリングの外輪に嵌合する上側ベアリング筒部と、上側ベアリング筒部の上側に径方向内側に延びる上側ベアリング受部を有する。ハウジング底部は、下側ベアリングを保持するための下側ベアリング保持部を有する。上側ベアリングは、上側ベアリングの内輪が、シャフトに固定さると共に、上側ベアリングの外輪が、上側ベアリング保持部に対して上下方向に移動可能であり、かつ、外輪の上面と上側ベアリング受部との間に上下方向に付勢する付勢部材が位置する。下側ベアリングは、下側ベアリングの内輪が、シャフトに固定されると共に、下側ベアリングの外輪が、下側ベアリング保持部に固定される。ベアリングホルダは、ベアリングを保持する内側筒部と、ハウジングの内周面に嵌合する外側筒部と、内側筒部と外側筒部とを連結する連結部と、を有する。連結部は、内側筒部と外側筒部との間に位置する中間筒部と、中間筒部の下端と内側筒部とを連結する内側連結部と、中間筒部の上端と外側筒部とを連結する外側連結部とを有する。
【0007】
本発明の他の態様によるモータは、上下方向に延びる中心軸を中心とするシャフトを有するロータと、ロータと径方向に対向して配置されたステータと、シャフトを支持するベアリングと、ベアリングを保持するベアリングホルダと、ロータとステータとベアリングホルダとを収容し上側に開口するハウジングと、を備える。ハウジングは、ベアリングホルダよりも上側に、ステータと電気的に接続される制御装置の少なくとも一部を収容可能な制御装置収容領域と、ハウジングの内面に、ハウジングの開口部に面して周方向に延びる棚面と、を有する。制御装置収容領域におけるハウジングの内径は、ベアリングホルダが取り付けられる位置のハウジングの内径よりも大きい。ベアリングホルダは、棚面に接触すると共に、ベアリングホルダの上面の外縁部に、凹部と、凹部の径方向外側に位置しハウジングの内周面を押圧する押圧部と、を有する。凹部は、加圧加工により設けられる。ベアリングホルダは、ベアリングホルダを軸方向に貫通する貫通孔を有し、少なくとも1つの凹部は貫通孔の近傍に配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様および他の態様によれば、製造の容易さを損なうことなくハウジング内に制御装置を収容可能とし、部品点数の削減と小型化を実現可能としたモータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態のモータを示す断面図。
図2図2は、図1のモータにおけるワイヤー支持部材およびステータを示す斜視図。
図3図3は、図1のモータにおけるベアリングホルダおよびステータユニットを示す斜視図。
図4図4は、図1のモータにおけるバスバーユニットおよびステータユニットを示す斜視図。
図5図5は、図1に示す実施形態の変形例を示す要部断面部。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
以下の説明においては、中心軸Jの延びる方向を上下方向とする。ただし、本明細書における上下方向は、単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係や方向を限定しない。また、特に断りのない限り、中心軸Jに平行な方向を単に「軸方向」と呼び、中心軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸Jを中心とする周方向(中心軸Jの軸周り)を単に「周方向」と呼ぶ。
【0011】
なお、本明細書において、軸方向に延びる、とは、厳密に軸方向に延びる場合に加えて、軸方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また、本明細書において、径方向に延びる、とは、厳密に径方向、すなわち、軸方向に対して垂直な方向に延びる場合に加えて、径方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。
【0012】
図1は、本実施形態のモータ10を示す断面図である。図2は、ワイヤー支持部材およびステータを示す斜視図である。図3は、ベアリングホルダおよびステータユニットを示す斜視図である。図4は、バスバーユニットおよびステータユニットを示す斜視図である。
【0013】
モータ10は、外部駆動機構に所定のトルクを伝達するために用いられる。 モータ10は、ハウジング20と、ロータ30と、ステータ40と、ワイヤー支持部材70と、ベアリングホルダ55と、上側ベアリング51と、下側ベアリング52と、バスバーユニット60と、を備える。モータ10では、バスバーユニット60と、ベアリングホルダ55と、ワイヤー支持部材70と、ステータ40とが、上側から下側に向かってこの順に配置される。モータ10は、バスバーユニット60の上側に、制御装置100の少なくとも一部を収容可能な制御装置収容領域20Aを有する。
【0014】
ハウジング20は、上下方向に延びる筒部21(ハウジング筒部)と、筒部21の下端に位置する底壁部23(ハウジング底壁部)と、上側に開口する開口部20aと、を有する。ハウジング20の内面には、下側から順に、ステータ40と、ベアリングホルダ55とが固定される。
【0015】
筒部21は、中心軸Jを中心とする円筒状である。筒部21は、ステータ40を保持する内周面20bと、ベアリングホルダ55を保持する内周面20cと、制御装置100の一部を収容する制御装置収容領域20Aの内周面20dとを有する。内周面20dの内径は、内周面20cの内径よりも大きい。内周面20cの内径は、内周面20bの内径よりも大きい。すなわち、ハウジング20は、開口部20aから奥側(底壁部23側)へ行くに従って内径が小さくなる内面形状を有する。
【0016】
ハウジング20は、内径の異なる内周面20cと、内周面20dとを接続する傾斜面20eと、を有する。傾斜面20eの表面形状は、軸方向下側へ行くに従って内径が小さくなる。すなわち、傾斜面20eの断面形状は、直線状または湾曲形状が望ましい。これにより、組み立て作業者等(組み立て作業者または組み立て装置)は、開口部20aから下側に挿入されたベアリングホルダ55を取り付け位置(内周面20c)へ円滑に配置することができる。
なお、ハウジング20は、必ずしも傾斜面20eを有さなくてもよい。例えば、ハウジング20は、内周面20cと内周面20dとが段差部を介して接続される構成であってもよい。
【0017】
ハウジング20は、内周面20bと内周面20cとの間に、開口部20aに面して周方向に延びる棚面20f(ハウジング棚面)を有する。棚面20fは、ベアリングホルダ55が接触して軸方向に支持する受け面である。この構成により、ハウジング20は、ベアリングホルダ55を軸方向に容易に位置決めが行えると共に、軸方向に対する直角度も容易に出せるため、ベアリングホルダ55を高い精度で保持することができる。
【0018】
筒部21の形状は、円筒状に限られない。筒部21は、内周面にステータ40とベアリングホルダ55を保持可能な形状であれば、筒部21の外形を例えば箱形としてもよい。また、筒部21の外形は、円筒形と箱形を組み合わせた形状であってもよい。筒部21には、ステータ40またはベアリングホルダ55が、内面の周方向の一部で保持されてもよい。
【0019】
底壁部23は、ステータ40の下側に配置され、下側ベアリング52を保持する下側ベアリング保持部23aと、底壁部23を軸方向に貫通する出力軸孔22と、を有する。
【0020】
ロータ30は、シャフト31を有する。シャフト31は、上下方向に延びる中心軸Jを中心とする。ロータ30は、シャフト31とともに中心軸J周りに回転する。シャフト31の下側の端部は、出力軸孔22を介してハウジング20の下側へ突出する。このシャフト31の下端には、ギア等の動力を伝達する動力伝達手段(図示略)が設けられる。モータ10のトルクは、この動力伝達手段を介して、外部駆動機構に伝達される。
【0021】
上側ベアリング51および下側ベアリング52は、シャフト31を、中心軸周りに回転可能に支持する。ベアリングのサイズは、下側ベアリング52が上側ベアリング51よりも大きいため、それだけ下側ベアンリグ52の方が耐荷重の性能が優れている。下側ベアリング52は、ステータ40の下側において、下側ベアリング保持部23aに保持される。
【0022】
下側ベアリング保持部23aは、下側ベアリング52の外周面に嵌合する筒部23b(下側ベアンリグ筒部)と、筒部23bの下側から径方向内側に延びる受部23c(第1下側ベアリング受部)からなる。下側ベアリング52の内輪52aは、シャフト31に圧入により固定される。下側ベアリング52の外輪52bは、外輪52bの下面が受部23cに接触して筒部23bに圧入により固定される。さらに、筒部23bの上端は、部分的に径方向内側にカシメ加工されて、外輪52bを受部23cとで挟みこんでより強固に固定される。上側ベアリング51は、ステータ40の上側において、ベアリングホルダ55に保持される。ベアリングホルダ55の詳細については後述する。
【0023】
ステータ40は、ロータ30の径方向外側に位置する。ステータ40は、ステータコア41と、インシュレータ42と、コイル43と、を有する。インシュレータ42は、ステータコア41のティース41aに取り付けられる。コイル43は、インシュレータ42に巻き回される導線により構成され、各ティース41aに配置される。ステータ40の外周面は、ハウジング20の内周面20bに固定される。
【0024】
ワイヤー支持部材70は、図1および図2に示すように、第1導電部材71と、第2導電部材72と、複数(図示では6個)のワイヤー保持部75と、本体部73とを有する。ワイヤー支持部材70は、ステータ40上に配置される。ワイヤー支持部材70とステータ40によって、ステータユニットを構成する。第1導電部材71、72には、コイルのいわゆる中性点が、接続される。以下の説明では、第1導電部材71および第2導電部材72を、第1中性点バスバー71、第2中性点バスバー72と呼ぶ。
【0025】
本体部73は、環状であって、ステータ40の上側に配置される。本体部73は、軸方向の下側へ延びる複数の脚部73aを有する。脚部73aがインシュレータ42の取付溝42aに嵌め込まれることにより、ワイヤー支持部材70は、ステータ40上に支持される。本体部73は、樹脂等の絶縁材料からなる。
【0026】
ワイヤー保持部75は、本体部73の内周縁に配置される。ワイヤー保持部75は、本体部73から上方へ突出する支持壁部75aと、支持壁部75aの径方向内側に開口する凹部75bと、を有する。6つのワイヤー保持部75は、周方向120°おきの3箇所に2つずつ配置される。なお、ワイヤー保持部75は、本体部73の外周縁に配置することもできる。ワイヤー保持部75の配置や個数は、後述するコイル引出線の本数やコイル引出線の引出位置等を考慮して、適宜変更可能である。
【0027】
本体部73は、平面視で扇形の切欠部73b、73cを有する。切欠部73b、73cは、本体部73の外周部の2箇所に配置される。第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72は、それぞれ、3つのU形の接続端子71a、72aと、1つの貫通孔71b、72bを有する。第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72は、ワイヤー保持部75よりも、本体部73の外周側に配置される。軸方向から見たときに、第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72は、切欠部73b、73cから露出している。本体部73は、軸方向に突出する突起部73d、73eを有する。突起部73d、73eは本体部73の外周側に配置される。突起部73d、73eの周方向位置は、切欠部73b、73cの周方向の位置と同じである。突起部73d、73eは、第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72の貫通孔71b、72bに嵌めこまれた後、加熱されて溶融固化する。これにより、第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72は、本体部73に固定される。なお、第1中性点バスバー71および第2中性点バスバー72は、切欠部73b、73cとともに、本体部73の内周部に設けてもよい。
【0028】
ステータ40は、複数のコイル43から延びる12本のコイル引出線91A〜91C、91a〜91c、92A〜92C、92a〜92cを有する。コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cは、ステータ40の上側を引き回されて、ワイヤー保持部75の凹部75bを起点に軸方向上側に折り曲げられて、ワイヤー保持部75に保持される。凹部75bの径方向内側の開口部における周方向の幅は、コイル43の線径より小さい。凹部75bの径方向外側の部位における内径は、コイル43の線径と、ほぼ同じである。よって、コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cが凹部75bの開口部から奥側へ押し込まれる際には、開口部が弾性変形により広がり、コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cが凹部75b内に収容された後、開口部は元に戻る。このようにしてコイル43はワイヤー保持部75に保持される。ワイヤー保持部75に保持されたコイル引出線91A〜91C、92A〜92Cは、凹部75bから軸方向上側に突出する。なお、コイル43は一定の剛性があるため、ワイヤー保持部75から突出するコイル引出線91A〜91C、92A〜92Cfが倒れたり、大きくずれることはない。コイル引出線91a〜91cは、第1中性点バスバー71の接続端子71aに接続される。コイル引出線92a〜92cは、第2中性点バスバー72の接続端子72aに接続される。
【0029】
コイル引出線91A〜91Cは各相(U相、V相、W相)の給電用の配線であり、コイル引出線91a〜91cは、コイル引出線91A〜91Cに対応する中性点接続用の配線である。コイル引出線92A〜92Cは、各相の給電用の配線である。コイル引出線92a〜92cは、コイル引出線92A〜92Cに対応する中性点接続用の配線である。
【0030】
コイル43から引き出されたコイル引出線には、絶縁部材である絶縁チューブ98が取り付けられる。絶縁チューブ98は、ワイヤー支持部材70の下面に沿って延びるコイル引出線91A〜91C、91a〜91c、92A〜92C、92a〜92c同士、およびコイル43との絶縁を保つ。コイル引出線は、絶縁ができれば絶縁チューブ98に限るものではない。
【0031】
ベアリングホルダ55は、略円板状であり、ステータ40の上側に配置される。ベアリングホルダ55は、上側ベアリング51を保持する。ベアリングホルダ55は、ハウジング20の内周面20cに、締まり嵌めにより保持される。本実施形態の場合、ベアリングホルダ55は、内周面20bに焼き嵌めによって固定される。ベアリングホルダ55は、ハウジング20の内周面20bに圧入により固定されてもよい。なお、焼き嵌めは、締まり嵌めに含まれる嵌め合い方法である。
【0032】
これにより、固定用部品または固定用部位を追加することなく、ベアリングホルダ55をハウジング20に固定することができる。例えば、固定用部品として、Cリングやネジがある。Cリングを用いてベアリングホルダ55をハウジング20に固定する場合には、ハウジング20の内周面20bに、固定用部位としてCリングを保持する溝を設ける必要がある。また、同様に、ネジを用いる場合も、ハウジング20とベアリングホルダ55に固定用部位としてそれぞれネジ穴を設ける必要がある。しかしながら、本実施形態の構成では、固定用部位を設ける必要がないため、ハウジング20の肉厚を薄くすることができる。その結果、ステータ40やベアリングホルダ55などを保持するために必要な内径を保ちつつ、ハウジング20の外径を小さくできる。よって、全体の部品点数を削減することができると共に、モータ10の小型化を図ることができる。
【0033】
ベアリングホルダ55は、図1および図3に示すように、上側ベアリング51を保持する内側筒部55a(上側ベアリング保持部)と、ハウジング20の内周面20bに嵌合する外側筒部55bと、内側筒部55aと外側筒部55bとを連結する連結部55cとを有する。
【0034】
内側筒部55aは、上側ベアリング51の外周面に嵌合する筒部55a1(上側ベアリング筒部)と、筒部55a1の下端から径方向内側に延びる受部55a2(上側ベアリング受部)からなる。上側ベアリング51の内輪51aは、内輪51aの下面がシャフト31の段差面に接触するようにしてシャフト31に圧入により固定される。上側ベアリング51の外輪51bは、上下方向に移動可能に筒部55a1に嵌合されている。外輪51bの上面と受部55a2との間には、上下方向に付勢するようにしてウェーブワッシャ80(付勢部材)が介在する。
【0035】
ウェーブワッシャ80は、ベアリングホルダ55を上側(ベアリングホルダ55が底壁部23から離れる向き)に押圧する共に、外輪51bを下側に押圧する。外輪51bが下側に押圧されると、ボール51cが内輪51aを下側に押圧する。内輪51aが下側に押圧されると、シャフト31を介して、下側ベアリング52の内輪52aが下側に押圧される。内輪52aが下側に押圧されると、ボール52cが外輪52bを下側に押圧する。
【0036】
このように、ウェーブワッシャ80の下側の付勢力が上側ベアリング51及び下側ベアリング52にそれぞれ作用することで、両ベアリング51、52は、内外輪とボールとの間に一定の付勢力がかかった状態が維持され、ロータを安定して回転支持する。前述のように両ベアリング51、52に付勢力がかかった状態を予圧がかかった状態と称する。
【0037】
連結部55cは、中間筒部55dと、内側連結部55eと、外側連結部55fと、を有する。中間筒部55dは、円筒状であり、内側筒部55aと外側筒部55bとの間に位置する。内側連結部55eは平面視円環状であり、中間筒部55dの下端と内側筒部55aの外周面とを接続する。外側連結部55fは平面視円環状であり、内側連結部55eの上端と外側筒部55bの上端とを接続する。
【0038】
図1において、連結部55cの径方向内側の端部は、軸方向下側に屈曲するとともに、径方向内側に向かって延び、内側筒部55aと接続される。内側筒部55aと連結部55cの間には、間隙が構成される。そのため、内側筒部55aおよび連結部55cは、径方向において弾性変形が可能である。したがって、モータ組立時またはモータ使用時の温度変化によりベアリングホルダ55およびハウジング20が膨張収縮し、ベアリングホルダ55とハウジング20との嵌合部や、上側ベアリング51などに、過大な押圧力が作用した場合であっても、内側筒部55aおよび連結部55cの弾性変形により、その押圧力は吸収される。そのため、ベアリングホルダ55とハウジング20との固定強度(締結強度)の低下または上昇を抑制するとともに、上側ベアリング51がシャフト31を滑らかに回転可能に支持することができる。
【0039】
ベアリングホルダ55は、ベアリングホルダ55を軸方向に貫通する複数の貫通孔56a〜56c、57a〜57cを有する。複数の貫通孔56a〜56c、57a〜57cは、外側連結部55fに設けられる。
【0040】
コイル引出線91A、91B、91Cは、それぞれ対応する貫通孔56a、56b、56cを通過して、ベアリングホルダ55の上側へと延びる。コイル引出線92A、92B、92Cは、それぞれ対応する貫通孔57a、57b、57cを通過してベアリングホルダ55の上側へ延びる。貫通孔56a、56cの開口の内径は、ワイヤー保持部75の外径よりも大きい。これにより、中性点接続用のコイル引出線91a、91b、92cと接続端子71a、72aとの接続部が、ベアリングホルダ55と絶縁を保つことができる。ベアリングホルダ55に配置された貫通孔56d、56eの構成についても、貫通孔56a、56cと同じであるため、その説明を省略する。
【0041】
ベアリングホルダ55は、ベアリングホルダ55の外縁部の上面に3つの凹部58を有する。凹部58は、ベアリングホルダ55の上面に、ピン等による加圧加工(例えば、カシメ加工等)などが行われることにより、設けられる。加圧加工がベアリングホルダ55に対して行われると、ベアリングホルダ55の上面の加圧された箇所が塑性変形し、凹部58が形成されるとともに、ベアリングホルダ55の外側面から径方向外側に突出する押圧部59が形成される。ベアリングホルダ55がハウジング20内に配置される際に、押圧部59が、ハウジング20の内周面20cを局所的に押圧する。これにより、ベアリングホルダ55は、焼き嵌めとカシメにより、ハウジング20の内周面20cに固定される。
【0042】
ベアリングホルダ55のハウジング20に締まり嵌めされている部分について押圧部59が配置されることにより、ハウジング20とベアリングホルダ55との押圧力が局所的に向上し、両部材の締結強度をより一層高めることができる。
【0043】
凹部58のうち少なくとも1つは、貫通孔56a〜56cの近傍に配置される。本実施形態では、図3に示すように、貫通孔56aの近傍、および貫通孔56bの近傍に凹部58が配置される。貫通孔56a、56bと近傍の凹部58との距離は、中心軸周りの角度で15°以内である。凹部58は塑性変形により形成されるため、形成位置における部材の強度が向上する。貫通孔56a〜56cの近傍ではベアリングホルダ55の強度が低下しやすいが、貫通孔56a〜56cの近傍に凹部58を配置することで強度を確保しやすくなる。
【0044】
ベアリングホルダ55を構成する材料の線膨張係数は、ハウジング20を構成する材料の線膨張係数と同等である。この構成により、ハウジング20にベアリングホルダ55を組み付けた後の温度変化に対して、ハウジング20とベアリングホルダ55の膨張量および収縮量が同じになるため、ベアリングホルダ55の取り付けが弛みにくくなる。本実施形態の場合、ベアリングホルダ55とハウジング20は、いずれもアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。
【0045】
バスバーユニット60は、相用バスバー61a〜61c、62a〜62cと、相用バスバー61a〜61c、62a〜62cを保持するバスバーホルダ65とを有する。バスバーホルダ65は、バスバーホルダ65を軸方向に貫通する3つの貫通孔65A、65B、65Cを有する。
【0046】
バスバーホルダ65は、ベアリングホルダ55の上面に固定される。ベアリングホルダ55の貫通孔56a〜56c、57a〜57cから上側へ延びるコイル引出線91A〜91C、92A〜92Cは、バスバーホルダ65の貫通孔65A〜65Cを通ってバスバーホルダ65の上側へ延びる。コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cは、バスバーホルダ65の上面において、それぞれ相用バスバー61a〜61c、62a〜62cに接続される。
【0047】
相用バスバー61a〜61c、62a〜62cは、制御装置100との接続端子として機能する。バスバーユニット60は、ハウジング20に高い精度で固定されたベアリングホルダ55の上面に固定されるため、相用バスバー61a〜61c、62a〜62cは、制御装置収容領域20A内において軸方向に高い精度で位置決めされる。この構成により、モータ10と制御装置100との接続性が向上する。
【0048】
ステータ40は、ハウジング20の内周面20bに焼き嵌めにより保持される。ハウジング20は上側のみが開口した構造であるため、ステータ40はハウジング20の開口部20aから下側に挿入され、内周面20bの位置に配置される。
【0049】
ここで、制御装置収容領域20Aの内周面20dおよびベアリングホルダ55が保持される内周面20cの内径が、内周面20bの内径よりも大きい。したがって、組立時において、ステータ40とハウジング20とを同軸にして、ステータ40を軸方向に移動させることによって、ステータ40を内周面20c、20dともに接触させることなく挿入することができる。仮に、同軸がずれたとしても、そのずれ量が内周面20b、20cの内径差以内であれば、接触を避けることができる。また、ステータ40を焼き嵌めする際に、ハウジング20を加熱するため、ハウジング20が膨張し、内周面20bの内径が幾分大きくなる。その結果、ステータ40の挿入時において、ステータ40の外周面が内周面20bに接触しにくい。ステータ40の挿入完了後、ハウジング20の温度が低下するとともに、ハウジング20が収縮するため、ステータ40と内周面20bとの嵌合力が高まる。このようにして、ステータ40を内周面20bに対して、内周面20dおよび内周面20cともに傷をつけることなく保持できる。
【0050】
また、ベアリングホルダ55はハウジング20の内周面20cに焼き嵌めにより、保持される。ハウジング20は上側のみが開口した構造であるため、ベアリングホルダ55はハウジング20の開口部20aから下側に挿入され、内周面20cの位置に配置される。
【0051】
ここで、ハウジング20において制御装置収容領域20Aの内周面20dの内径が、ベアリングホルダ55が固定される位置の内周面20cの内径よりも大きい。したがって、組立時において、ベアリングホルダ55とハウジング20とを同軸にして、ベアリングホルダ55を軸方向に移動させることによって、ベアリングホルダ55を内周面20dに接触させることなく挿入することができる。すなわち、制御装置100が収容される位置の内周面20dを傷つけることなく、ベアリングホルダ55を嵌め込むことができる。仮に、同軸がずれたとしても、そのずれ量が内周面20c、20dの内径差以内であれば、接触を避けることができる。
【0052】
また、ベアリングホルダ55を焼き嵌めする際に、ハウジング20を加熱するため、ハウジング20が膨張し、内周面20cの内径が幾分大きくなる。その結果、ベアリングホルダ55の挿入時において、ベアリングホルダ55の外周面が内周面20cに接触しにくい。ベアリングホルダ55の挿入完了後、ハウジング20の温度が低下するとともに、ハウジング20が収縮するため、ベアリングホルダ55と内周面20cとの嵌合力が高まる。このようにして、ベアリングホルダ55を内周面20cに対して、内周面20dに傷をつけることなく保持できる。
【0053】
よって、制御装置100をハウジング20の内周面20dに嵌め込んで固定する場合に、内周面20dに傷がないため、制御装置100を精度良く固定することができる。また、内周面20dに傷があると、傷部分の削れ片等が制御装置やモータ内部へ付着して不具合の原因となることがあるため、制御装置100を内周面20dに嵌め込みではなく別の手段で固定する場合も、本構成は都合がよい。また、ハウジング20の制御装置100を収容するため、従来のように制御装置を収容する収容部材を別部品とする場合に比べて、部品点数の削減、及び小型化を実現できる。
【0054】
また、傾斜面20eは、ベアリングホルダ55、およびステータ40をハウジング20に挿入する際に、仮に同軸がずれていた場合、そのずれ量が、内周面20dと内周面20cの内径差の以内であれば、傾斜面20eに接触することによって同軸が合うように調整される。これにより、組立作業時における同軸度の寸法管理が緩和されるため組み立て作業者等は組み立て作業を容易にできる。
【0055】
モータ10では、ベアリングホルダ55をカシメ加工により固定する際に、ベアリングホルダ55が、下方向に強く押し込まれる。このとき、仮に、ベアリングホルダ55の軸方向位置が取り付け位置からずれていたとしても、所定の取り付け位置まで確実に押し込むことができる。
【0056】
ベアリングホルダ55は、外側筒部55bの外周面においてハウジング20の内周面20cに嵌合する。この構成では、ベアリングホルダ55における連結部55cの肉厚よりも外側筒部55bの高さが大きいため、ベアリングホルダ55とハウジング20との接触面積(または締結長さ)をより大きく確保でき、ベアリングホルダ55の締結強度を大きくすることができる。この構成は、ベアリングホルダ55を金属板をプレス加工により形成する場合に、外側筒部55bを屈曲させて形成できるため、都合が良い。本実施形態では、外側筒部55bを、連結部55cの外周端から下側へ延びる円筒状としたが、外側筒部55bの内周面に連結部55cが接続される構造としてもよい。あるいは、外側筒部55bを、連結部55cの外周端から上側へ延びる円筒状としてもよい。
【0057】
ところで、モータ10では、回転体にかかる荷重は両ベアリング51,52が支える。モータ10では、シャフト31の下側を通じて外部駆動機構にトルクを伝達するため、回転体にかかる荷重の大きさは、下側ベアリング52が上側ベアリング51よりも大きい。このような両ベアリング51,52の荷重の掛かり方に対応するために、下側ベアリング52は、内輪52aと外輪52bがそれぞれシャフト31とハウジング20に固定される。上側ベアリング51は、内輪51aがシャフト31に固定され、外輪51bがウェーブワッシャ-80を介してベアリングホルダ55に移動可能に保持される。つまり、予圧をかけるためのウェーブワッシャ80を上側ベアリング51側に設けて、下側ベアリング52の内外輪52a、52bをシャフト31および底壁部23にそれぞれ固定して、荷重が下側ベアリング52にかかるように構成されている。
【0058】
下側ベアリング52が受ける荷重が大きくなると、上側ベアリング51が受ける荷重が小さくなるため、上側ベアリング51を介してベアリングホルダ55に作用する荷重も小さくなる。それによって、ベアリングホルダ55をハウジング20に固定するために必要な、ベアリングホルダ55とハウジング20との間の締結強度を小さくできる。この締結強度を小さくできると、ベアリングホルダ55とハウジング20との接触面積(または締結長さ)を小さくでき、モータ10の上下方向の寸法拡大を抑えることができる。加えて、ベアリングホルダ55とハウジング20との締結強度を小さくできるため、ハウジング20への歪みを抑えることができる。ハウジング20の歪みを抑えることができると、制御装置100をハウジング20に精度よく収容可能となる。
【0059】
また、両ベアリング51,52は、求められる耐荷重の大きさが異なるため、求められる耐荷重の大きさに応じたベアリングサイズがそれぞれに用いられる。そのため、両ベアリング51,52が最適なベアリングが選定されている。
【0060】
次に、モータ10の組立方法について説明する。まず、ハウジング20を、底壁部23が下側に、開口部20aが上側に位置するように所定の台座に配置する。これに、下側ベアリング52を、開口部20aを介して下側に挿入し、下側ベアリング保持部23aに圧入し、筒部23bの上端を内径方向にカシメ加工する。次に、ハウジング20を加熱して筒部21を膨張させる。これにより筒部23bの内径が拡大する。この状態で、ステータユニットを、開口部20aを介して下側に挿入し内周面20bに嵌合させる。ハウジング20の温度が低下すると、筒部21が収縮し、その締結強度が高まることで、焼き嵌めが完了する。
【0061】
一方で、別途、ロータ30、上側ベアリング51、ベアリングホルダ55、ウェーブワッシャ80からなるロータユニットを組み立てておく。このとき、ベアリングホルダ55と上側ベアリング51は、上下方向に移動可能に嵌合されているだけであるため、容易に分解可能な状態である。しかしながら、ベアリングホルダ55の受部55a2を上側ベアリング51よりも上側に、かつ、シャフト31を上下方向に沿うようにして、ロータユニットを、所定の台座に仮置きする。ロータユニットは、ベアリングホルダ55の自重によって、筒部55a1と受部55a2が外輪51bにウェーブワッシャ80を介して引っ掛かるため、分解することなく仮置きできる。
【0062】
次に、ハウジング20の筒部21の上側を中心に再加熱して筒部21を膨張させる。これにより、筒部23bの上側の内径が拡大する。この状態で、ロータユニットの上側ベアリング51の外輪51bの下面又はシャフト31の上側を所定の把持手段を用いて把持し、ハウジング20の開口部20aを介して下側に挿入する。このとき、シャフト31の下端が下側ベアリング52に差し掛かったところで、シャフト31を下側に押圧して、シャフト31を下側ベアリング52の内輪52aに圧入する。同時に、ベアリングホルダ55は棚面20fに接触し、内周面20cに嵌合する。ハウジング20の温度が低下すると、筒部21が収縮し、その締結強度が高まることで、焼き嵌めが完了する。その後、ベアリングホルダ55の外縁部の上面をピン等によりカシメ加工して、凹部58を形成する。この凹部58の形成によって、押圧部59が内周面20cを径方向外側に押圧するため、両部材の締結強度が一層高まる。
【0063】
ロータユニットをハウジング20に挿入するときは、両部材の同軸を合わせつつ、各コイル引出線91A〜91C、91a〜91c、92A〜92C、92a〜92cと、各貫通孔56a〜56d、57a〜57dとが合致するように周方向に位置決めをして行う。
【0064】
次に、バスバーユニット60を、ハウジング20の開口部20aを介してベアリングホルダ20の上面に配置する。このときバスバーユニット60の各貫通孔65A〜65Cと各コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cとが合致するように周方向に位置決めをして行う。その後、各コイル引出線91A〜91C、92A〜92Cと相用バスバー61a〜61c、62a〜62cとをそれぞれ溶接すると、バスバーユニット60の固定が完了する。
【0065】
以上の一連の組立方法においては、ハウジング20の配置状態を維持したまま、下側ベアリング52、ステータユニット、ロータユニット、バスバーユニット60を全て同じ方向からハウジング20に挿入して組み立てることができるため、組立の作業性が良い。
【0066】
このような組立方法が実現できるのは、次のような構成になっているためである。下側ベアリング保持部23aの受部23cが筒部23bの下側にある形状であるため、下側ベアリング52を、開口部20aを介して下側ベアリング保持部23aに挿入できる。ハウジング20の筒部21の内周面20b,20c,20dが開口部20aから離れるにつれて内径が段階的に小さくなっているため、ハウジング20の底壁部23が筒部21に一体化された構成であっても、ステータユニット、及びロータユニットを、開口部20aを介して所定部まで挿入できる。ロータユニットは、ベアリングホルダ55の受部55a2が上側ベアリング51の上側に位置し、内輪51aがシャフト31に固定される構成であるため、ベアリングホルダ55に対して外輪51bが上下方向に移動可能に保持される構成であっても、分解することなく把持することができ、開口部20aを介してハウジング20内に挿入できる。
【0067】
次に、本実施形態における下側ベアリング保持部23aの変形例について説明する。本実施形態の下側ベアリング保持部23aは、受部23cが筒部23bの下側に設けられるのに対して、変形例では、図5に示すように、受部23c1(第2下側ベアリング受部)が筒部23bの上側に設けられる。筒部23bの下端は、内径方向にカシメ加工される。外輪52bは、筒部23bに圧入されると共に、そのカシメ加工により受部23c1と共に挟みこんでより強固に固定される。
【0068】
この構成における組立方法では、下側ベアリング52を、ハウジング20における底壁部23の下面からベアンリング保持部23aに挿入することになるため、図1等に示す構成のようにハウジング20の配置状態を維持したまま、各部材を同じ方向から挿入して組み立てることは困難となる。しかしながら、下側ベアリング52を底壁部23の下面から挿入する構成は、下側ベアンリグ52が、筒部21の内周面に接触しないように配慮する必要がないため、下側ベアンリグ52の挿入作業が行える点において、作業性が良い。したがって、この変形例の構成は、筒部21の内径が小さい、或いは筒部の21の上下方向の寸法が長い等のために、下側ベアンリグ52を開口部20aを介して挿入がしにくい場合に好適である。この構成の組立方法は、ハウジング20を底壁部23が上側となるように配置して、下側ベアリング52を固定し、その後、ハウジング20を反転させ、以降は上記と同様の組立方法で行う。
【0069】
また、図1等に示す構成では、ハウジング20の筒部21における内周面20c、20dの内径差を設けているが、同一径にすることも可能である。
【0070】
上記実施形態の各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0071】
10…モータ、20…ハウジング、20a…開口部、20A…制御装置収容領域、20b,20c,20d…内周面、20e…傾斜面、20f…棚面、21…筒部、30…ロータ、31…シャフト、40…ステータ、55…ベアリングホルダ、55a…内側筒部、55b…外側筒部、55c…連結部、55d…中間筒部、55e…内側連結部、55f…外側連結部、56a,56b,57a,65A…貫通孔、58,75b…凹部、59…押圧部、60…バスバーユニット、65…バスバーホルダ、100…制御装置、51…上側ベアリング(ベアリング)、J…中心軸
図1
図2
図3
図4
図5