(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
粉体(より具体的には、トナーコア、トナー粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。また、粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径の個数平均値である。円相当径は、ヘイウッド径であり、具体的には粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径である。また、粉体の体積中位径(D
50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー4」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定した値である。融点(Mp)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定した値である。
【0011】
帯電性の強さは、何ら規定していなければ、日本画像学会から提供される標準キャリアに対する摩擦帯電のし易さである。例えばトナーは、日本画像学会から提供される標準キャリア(アニオン性:N−01、カチオン性:P−01)と混ぜて攪拌することで、測定対象を摩擦帯電させる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えばKFM(ケルビンプローブフォース顕微鏡)で測定対象の表面電位を測定し、摩擦帯電の前後での電位の変化が大きい測定対象ほど帯電性が強いことを示す。
【0012】
化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0013】
[トナー]
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、トナーに関する。トナーは、トナー粒子を含む。トナーは、トナー粒子の集合体(粉体)である。
【0014】
図1は、本実施形態のトナーに含まれるトナー粒子10の断面構造の一例を示す。
図1に示されるトナー粒子10は、トナーコア11と、シェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を覆う。シェル層12は、トナーコア11の表面全域を覆っていることが好ましく、トナーコア11の表面全域を完全に覆っていることがより好ましい。以上、
図1を参照して、トナーに含まれるトナー粒子の構造について説明した。以下、トナーについて更に説明する。
【0015】
<吸光度比率>
本実施形態のトナーにおいて、シェル層が樹脂を含有する。以下、「シェル層が含有する樹脂」を「シェル樹脂」と記載することがある。シェル樹脂は、オキサゾリン基を有する単位と、アミド結合を有する単位とを含む。シェル樹脂が含むオキサゾリン基を有する単位中のオキサゾリン基は、親水性が高い。そのため、シェル樹脂中のオキサゾリン基の量が多過ぎると、トナー粒子が帯電減衰し易くなり、トナーの帯電維持性が低下する。なお、トナーの帯電維持性は、トナーの電荷減衰速度が遅い(電荷減衰定数が小さい)ためにトナー粒子が帯電減衰し難く、トナーの帯電量を所望の範囲内に維持できる特性である。親水性のオキサゾリン基によるトナー粒子の帯電減衰は、特に高温高湿環境下で引き起こされ易い。ここで、本実施形態のトナーにおいて、トナーコアはカルボキシル基を有する結着樹脂を含有する。結着樹脂のカルボキシル基と、シェル樹脂のオキサゾリン基とが反応することにより、オキサゾリン基が開環する。また、本実施形態のトナーのシェル層を形成する際に、例えば、カルボキシル基を有する開環剤を添加する。開環剤のカルボキシル基と、シェル樹脂のオキサゾリン基とが反応することにより、オキサゾリン基が開環する。これらのオキサゾリン基の開環により、シェル樹脂中のオキサゾリン基の量が減少する。これにより、親水性の高いオキサゾリン基の量を所望の範囲内に調整して、トナー粒子を帯電減衰し難くし、トナーの帯電維持性を向上させることができる。また、結着樹脂のカルボキシル基と、シェル樹脂のオキサゾリン基とが反応することにより、トナーコアとシェル樹脂との間に化学結合(具体的にはアミド結合)が形成される。このため、トナーコアからシェル層が剥がれることを抑制することができる。なお、オキサゾリン基(未開環のオキサゾリン基)は、環状構造を有し強い正帯電性を示す。開環したオキサゾリン基の正帯電性は、未開環のオキサゾリン基と比較して、低い。
【0016】
シェル樹脂のオキサゾリン基とカルボキシル基とが反応することにより、オキサゾリン基が開環して、アミド結合が形成される。シェル樹脂中の未開環のオキサゾリン基の量と、カルボキシル基と反応することにより開環したオキサゾリン基の量(アミド結合の量に相当)とを所望の範囲内に調整することにより、トナーの帯電維持性を向上させることができる。赤外分光法により測定される、アミド結合に由来する波数1630cm
-1のピークの吸光度(B)に対するオキサゾリン基に由来する波数1680cm
-1のピークの吸光度(A)の比率(A/B)は、0.00より大きく0.25以下である。以下、「赤外分光法により測定される、アミド結合に由来する波数1630cm
-1のピークの吸光度(B)に対するオキサゾリン基に由来する波数1680cm
-1のピークの吸光度(A)の比率(A/B)」を、「IR比率(A/B)」と記載することがある。
【0017】
オキサゾリン基に由来するピークの吸光度(A)は、シェル樹脂中の未開環のオキサゾリン基の量を示す。オキサゾリン基に由来するピークは、赤外線スペクトルの波数1680cm
-1に現れるピークである。アミド結合に由来するピークの吸光度(B)は、カルボキシル基と反応することにより開環したオキサゾリン基の量(アミド結合の量に相当)を示す。アミド結合に由来するピークは、赤外線スペクトルの波数1630cm
-1に現れるピークである。IR比率(A/B)は、比率「未開環のオキサゾリン基の量/開環したオキサゾリン基の量」を表す。
【0018】
IR比率(A/B)が0.25以下であると、開環したオキサゾリン基の量に対する、未開環のオキサゾリン基の量が適度に減少し、トナー粒子が帯電減衰し難くなる。これにより、トナーの帯電維持性を向上させることができる。また、IR比率(A/B)が0.25以下であると、トナーのクリーニング性も向上する。親水性の未開環のオキサゾリン基の量が適度に減少することにより、トナー粒子が湿気を吸収し難くなり、画像形成装置の部材(例えば、感光体ドラム、又はクリーニング部)へのトナー粒子の付着を抑制できるからである。IR比率(A/B)の下限値は特に限定されないが、例えば、0.15以上とすることができる。IR比率(A/B)は、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、0.24、及び0.25から選ばれる2つの値の範囲内であることも好ましい。また、IR比率(A/B)は、0.17以上0.18未満、0.18以上0.20未満、0.20以上0.21未満、0.21以上0.22未満、0.22以上0.24未満、又は0.24以上0.25以下であってもよい。IR比率(A/B)は、0.17、0.19、0.20、0.21、0.23、又は0.24であってもよい。
【0019】
IR比率(A/B)は、フーリエ変換型赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectrometer、即ちFT−IR)を用いて、減衰全反射(attenuated total reflection、即ちATR)法により、トナーを測定し、IRスペクトルを得ることにより算出することができる。得られたIRスペクトルから、オキサゾリン基に由来する1680cm
-1のピークの吸光度(A)、及びアミド結合に由来する1630cm
-1のピークの吸光度(B)を得る。そして、式「IR比率(A/B)=A/B」に従い、IR比率(A/B)を算出する。IR比率(A/B)の測定方法の詳細は、実施例で詳述する。
【0020】
IR比率(A/B)を所望の値に調整する方法として、例えば、次に示す第一方法、第二方法、及び第三方法が挙げられる。IR比率(A/B)を調整するための第一方法は、トナーコアに含有される結着樹脂のカルボキシル基の量を変更する方法である。トナーコアに含有される結着樹脂のカルボキシル基の量が多くなる程、反応して開環するオキサゾリン基の量が多くなるため、IR比率(A/B)が小さくなる。トナーコアに含有される結着樹脂のカルボキシル基の量は、結着樹脂の酸価を変更することにより、調整することができる。結着樹脂の酸価が高くなる程、トナーコアに含有される結着樹脂のカルボキシル基の量が多くなる。
【0021】
IR比率(A/B)を調整するための第二方法は、トナーコアの量に対する、シェル層を形成するための材料(シェル材料)の添加量を変更する方法である。トナーコアの量に対するシェル材料の添加量が多くなる程、シェル材料が有するオキサゾリン基の量も多くなるため、IR比率(A/B)が大きくなる。
【0022】
IR比率(A/B)を調整するための第三方法は、シェル層を形成する際に添加する開環剤の量を変更する方法である。シェル材料の量(又はトナーコアの量)に対する開環剤の添加量が多くなる程、反応して開環するオキサゾリン基の量が多くなるため、IR比率(A/B)が小さくなる。
【0023】
シェル樹脂は、オキサゾリン基を有する単位を含む。オキサゾリン基を有する単位の好適な例としては、下記式(A)で表される単位が挙げられる。以下、「式(A)で表される単位」を「単位(A)」と記載することがある。
【0025】
式(A)中、R
1は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。R
1が表わすアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、及びイソプロピル基が挙げられる。R
1が置換基を有するアルキル基を表す場合、このような置換基の例としては、フェニル基が挙げられる。R
1の好適な例としては、水素原子、メチル基、エチル基、及びイソプロピル基が挙げられる。
【0026】
シェル樹脂は、オキサゾリン基を有する単位に加えて、アミド結合を有する単位を更に含む。アミド結合を有する単位は、第一アミド結合を有する単位と、第二アミド結合を有する単位とを含むことが好ましい。
【0027】
第一アミド結合を有する単位は、式(B1)で表される単位を含む。以下、「式(B1)で表される単位」を「単位(B1)」と記載することがある。シェル樹脂に含まれる複数個の単位(A)のうち、一部の単位(A)のオキサゾリン基を、トナーコア中の結着樹脂のカルボキシル基と反応させることにより、単位(A)を含むシェル樹脂中に、単位(B1)を更に含ませることができる。
【0029】
式(B1)中、R
1は、式(A)中のR
1と同一の基を表し、R
Bは、トナーコアが含有する結着樹脂を構成する原子を表す。R
Bは、結着樹脂の構成原子であり、この構成原子はカルボキシル基に結合している。シェル層中の単位(A)が、トナーコア中の結着樹脂(式(B1)中では、R
Bで表される)のカルボキシル基と反応することで、オキサゾリン基が開環して、式(B1)に示すように第一アミド結合が形成される。
【0030】
第二アミド結合を有する単位は、式(B2)で表される単位を含む。以下、「式(B2)で表される単位」を「単位(B2)」と記載することがある。例えば、シェル樹脂に含まれる複数個の単位(A)のうち、一部の単位(A)のオキサゾリン基を、開環剤のカルボキシル基と反応させることにより、単位(A)を含むシェル樹脂中に、単位(B2)を更に含ませることができる。
【0032】
式(B2)中、R
1は、式(A)中のR
1と同一の基を表し、R
2は、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す。R
2としては、メチル基又はエチル基が特に好ましい。オキサゾリン基の開環剤として酢酸を使用した場合、R
2はメチル基になる。
【0033】
開環剤としては、短鎖脂肪酸が好ましく、式「R
2−COOH」で表される酸がより好ましく、酢酸又はプロピオン酸が更に好ましい。なお、式「R
2−COOH」中のR
2は、式(B2)中のR
2と同一の基を表す。こうした開環剤を使用することで、単位(A)及び単位(B1)を含むシェル層中に、下記式(B2)で表される単位を更に含ませることができる。
【0034】
開環剤は、水溶性であることが好ましい。開環剤が水溶性であると、後述するシェル層形成工程で、水性媒体に開環剤を好適に溶解でき、シェル樹脂のオキサゾリン基を好適に開環させることができる。式「R
2−COOH」中のR
2が炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表す場合、開環剤の水溶性が高くなる。
【0035】
シェル層中の単位(A)が開環して単位(B1)及び(B2)が形成したことを確認する方法の一例においては、赤外分光法によりトナー粒子を測定し、アミド結合に由来する波数1630cm
-1のピークと、オキサゾリン基に由来する波数1680cm
-1のピークとを確認する。アミド結合に由来する波数1630cm
-1のピークが、トナー粒子中に単位(B1)及び(B2)が存在していることを示す。オキサゾリン基に由来する波数1680cm
-1のピークが、トナー粒子中に単位(A)が存在していることを示す。赤外分光法による測定方法は、実施例のIR比率(A/B)の測定と同じ方法又はその代替方法である。
【0036】
シェル層中の単位(A)が開環して単位(B1)及び(B2)が形成したことを確認する方法の別の例において、トナー粒子の
1H−NMRスペクトルを測定する。
1H−NMRスペクトルでは、化学シフトδ6.5付近に、第二級アミドに由来する三重線(トリプレット)のシグナルが出現する。そのため、得られた
1H−NMRスペクトルにおいて、化学シフトδ6.5付近に三重線のシグナルが確認されれば、シェル層中の単位(A)が開環して単位(B1)及び(B2)が形成したことが推定される。
【0037】
十分なトナーの低温定着性を確保するためには、トナーコアが、オキサゾリン基を含まないことが好ましい。
【0038】
<シェル層含有率>
トナー粒子の質量に対するシェル層の含有率は、0.15質量%以上0.40質量%以下である。以下、「トナー粒子の質量に対するシェル層の含有率」を「シェル層含有率」と記載することがある。シェル層含有率が0.15質量%以上であると、トナーの耐熱保存性が向上する。シェル層含有率が、0.40質量%以下であると、トナーの低温定着性が向上する。トナーの耐熱保存性及び低温定着性を両立させるためには、シェル層含有率が、0.20質量%以上0.35質量%以下であることが好ましい。シェル層含有率は、0.15質量%、0.16質量%、0.18質量%、0.20質量%、0.23質量%、0.29質量%、0.34質量%、0.35質量%、0.36質量%、0.39質量%、及び0.40質量%から選ばれる2つの値の範囲内であることも好ましい。また、シェル層含有率は、0.15質量%以上0.18質量%未満、0.18質量%以上0.20質量%未満、0.20質量%以上0.29質量%未満、0.29質量%以上0.35質量%未満、0.35質量%以上0.36質量%未満、0.36質量%以上0.39質量%未満、又は0.39質量%以上0.40質量%未満であってもよい。シェル層含有率は、0.16質量%、0.18質量%、0.23質量%、0.29質量%、0.34質量%、0.36質量%、又は0.39質量%であってもよい。
【0039】
シェル層含有率は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(Pyrolysis Gas Chromatography Mass Spectrometer、即ちPy−GC/MS)を用いて測定される。まず、検量線を作製する。検量線の作製方法は、実施例に記載の方法である。次いで、Py−GC/MSを用いて、トナー粒子を測定し、クロマトグラフを得る。
図2は、Py−GC/MSを用いて測定されたトナー粒子(6種のトナー粒子の各々)のクロマトグラフの一例を示す。
図2中の縦軸は信号強度を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。得られたクロマトグラフ中、シェル材料及びシェル樹脂に共通するm/z値(
図2中、m/z100)のピークのピーク面積を算出する。検量線を用いて、このm/z値のピークのピーク面積から、トナーのシェル層含有率を算出する。なお、信号強度が大きいピークを示すトナー粒子ほど、シェル層含有率が高い。シェル層含有率の測定方法は、実施例で詳述する。
【0040】
シェル層含有率を所望の値に調整する方法として、例えば、次に示す第一方法、及び第二方法が挙げられる。
【0041】
シェル層含有率を調整するための第一方法は、トナーコアの量に対するシェル材料の添加量を変更する方法である。トナーコアの量に対するシェル材料の添加量が多くなる程、シェル層含有率は高くなる。
【0042】
シェル層含有率を調整するための第二方法は、トナーコアの酸価を変更する方法である。トナーコアの酸価が高い程、トナーコアに含有されるカルボキシル基が多くなる。カルボキシル基が多くなる程、シェル材料のオキサゾリン基と反応する、トナーコアの反応部位が増加する。トナーコアの反応部位が増加すると、トナーコアへのシェル材料の付着量が増加するため、シェル層含有率が高くなる。トナーコアの酸価は、既に述べたように、例えば、結着樹脂の酸価を変更することにより、調整することができる。
【0043】
次に、トナーコア、及びシェル層について、更に説明する。なお、トナーの用途に応じて必要のない成分を割愛してもよい。
【0044】
<トナーコア>
IR比率(A/B)及びシェル層含有率を所望の範囲に調整するためには、トナーコアの酸価は、5.0mgKOH/g以上30.0mgKOH/g以下であることが好ましく、10.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下であることがより好ましい。トナーコアの酸価は、例えば、5.0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下であるか、10.0mgKOH/g以上15.0mgKOH/g以下であるか、又は25.0mgKOH/g以上30.0mgKOH/g以下であってもよい。また、トナーコアの酸価は、例えば、5.5mgKOH/g、13.4mgKOH/g、又は29.6mgKOH/gであってもよい。
【0045】
トナーコアの酸価の測定方法は、実施例に記載の方法、又はその代替法である。トナーコアの酸価は、例えば、トナーコアが含有する結着樹脂の酸価を変更することにより、調整することができる。結着樹脂の酸価が高くなるほど、トナーコアの酸価は高くなる。
【0046】
トナーコアは、結着樹脂を含有する。トナーコアは、必要に応じて、例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つを含有していてもよい。
【0047】
(結着樹脂)
結着樹脂は、カルボキシル基を有する。カルボキシル基を有する結着樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。トナーコアは、カルボキシル基を有する結着樹脂の1種を含有してもよく、2種以上(例えば、2種)を含有していてもよい。
【0048】
トナーコアがカルボキシル基を有する結着樹脂の2種以上(例えば、2種)を含有する場合、カルボキシル基を有する結着樹脂は、第一ポリエステル樹脂及び第二ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。第一ポリエステル樹脂の融点は、第二ポリエステル樹脂の融点よりも低い。第一ポリエステル樹脂の酸価は、第二ポリエステル樹脂の酸価よりも大きい。或いは、第一ポリエステル樹脂の酸価は、前記第二ポリエステル樹脂の酸価と等しい。トナーコアが結着樹脂として第一ポリエステル樹脂及び第二ポリエステル樹脂を含有することで、トナーコアの酸価を所望の値に調整し易くなる。トナーコアの酸価を調整することで、IR比率(A/B)を所望の範囲に調整することができる。
【0049】
トナーコアの質量に対する第一ポリエステル樹脂の含有率は、トナーコアの質量に対する第二ポリエステル樹脂の含有率よりも、高いことが好ましい。第二ポリエステル樹脂の質量に対する第一ポリエステル樹脂の質量の比率は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上2.0以下であることがより好ましく、1.1以上1.5以下であることが更に好ましい。
【0050】
ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましい。トナーコアが第一ポリエステル樹脂と第二ポリエステル樹脂の2種を含む場合、第一ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましく、7mgKOH/g以上35mgKOH/g以下であることがより好ましい。第二ポリエステル樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以上31mgKOH/g以下であることがより好ましい。第一ポリエステル樹脂の酸価が15mgKOH/gであり且つ第二ポリエステル樹脂の酸価が15mgKOH/gであること;第一ポリエステル樹脂の酸価が35mgKOH/gであり且つ第二ポリエステル樹脂の酸価が31mgKOH/gであること;又は第一ポリエステル樹脂の酸価が7mgKOH/gであり且つ第二ポリエステル樹脂の酸価が5mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0051】
ポリエステル樹脂の酸価は、JIS(日本工業規格)K0070−1992に準拠する方法で測定することができる。ポリエステル樹脂の酸価は、例えば、ポリエステル樹脂を合成するために使用されるカルボン酸モノマーの種類又は量を変更することにより、調整することができる。1個のカルボン酸モノマーが有するカルボンキシル基の数が多い程、合成されるポリエステル樹脂の酸価は高くなる。アルコールモノマーの量に対するカルボン酸モノマーの量が多くなる程、ポリエステル樹脂の酸価は高くなる。
【0052】
ポリエステル樹脂の融点(Mp)は、80℃以上130℃以下であることが好ましい。トナーコアが第一ポリエステル樹脂と第二ポリエステル樹脂の2種を含む場合、第一ポリエステル樹脂の融点は、80℃以上100℃以下であることが好ましく、92℃であることがより好ましい。第二ポリエステル樹脂の融点は、100℃より高く130℃以下であることが好ましく、121℃であることがより好ましい。
【0053】
ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は、80℃以上130℃以下であることが好ましい。トナーコアが第一ポリエステル樹脂と第二ポリエステル樹脂の2種を含む場合、第一ポリエステル樹脂のガラス転移点は、40℃以上55℃以下であることが好ましく、50℃であることがより好ましい。第二ポリエステル樹脂のガラス転移点は、55℃より高く70℃以下であることが好ましく、60℃であることがより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移点は、例えば、ポリエステル樹脂を合成するために使用されるアルコールモノマーの種類を変更することにより、調整することができる。
【0054】
ポリエステル樹脂の融点及びガラス転移点は、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて、試料(ポリエステル樹脂)の吸熱曲線を得ることにより、測定することができる。具体的には、試料15mgをアルミ皿に入れて、そのアルミ皿を測定装置の測定部にセットする。リファレンスとして空のアルミ皿を使用する。吸熱曲線の測定では、測定部の温度を、測定開始温度10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させる(RUN1)。その後、測定部の温度を150℃から10℃まで10℃/分の速度で降温させる。続けて、測定部の温度を再び10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させる(RUN2)。RUN2により、試料の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)を得る。得られた吸熱曲線から、試料の融点及びガラス転移点を読み取る。吸熱曲線中、融解熱によるピーク温度が試料の融点に相当する。また、吸熱曲線中、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が試料のガラス転移点に相当する。
【0055】
ポリエステル樹脂は、アルコールモノマーとカルボン酸モノマーとを縮重合又は共縮重合させることにより得られる。ポリエステル樹脂は、アルコールモノマーと、カルボン酸モノマーとの重合物である。
【0056】
アルコールモノマーの例としては、ジオールモノマー、ビスフェノールモノマー、及び3価以上のアルコールモノマーが挙げられる。
【0057】
ジオールモノマーの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ブタンジオール(例えば、1,4−ブタンジオール)、ネオペンチルグリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0058】
ビスフェノールモノマーの例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、及びビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の例としては、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0059】
3価以上のアルコールモノマーの例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0060】
カルボン酸モノマーの例としては、2価カルボン酸モノマー、及び3価以上のカルボン酸モノマーが挙げられる。
【0061】
2価カルボン酸モノマーの例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸、及びアルケニルコハク酸が挙げられる。アルキルコハク酸の例としては、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、及びイソドデシルコハク酸が挙げられる。アルケニルコハク酸の例としては、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸が挙げられる。
【0062】
3価以上のカルボン酸モノマーの例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0063】
アルコールモノマーの1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。カルボン酸モノマーの1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。更に、カルボン酸モノマーを、エステル形成性の誘導体に誘導体化して使用してもよい。エステル形成性の誘導体の例としては、酸ハライド、酸無水物、及び低級アルキルエステルが挙げられる。低級アルキルは、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキル基である。
【0064】
ポリエステル樹脂は、ジオールモノマー及びビスフェノールモノマーのうちの少なくとも1種を含むアルコールモノマーと、2価カルボン酸モノマー、3価カルボン酸モノマー、及び4価のカルボン酸モノマーのうちの少なくとも1種を含むカルボン酸モノマーとの重合物であることが好ましい。ポリエステル樹脂は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブタンジオールのうちの少なくとも1種を含むアルコールモノマーと、フタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸のうちの少なくとも1種を含むカルボン酸モノマーとの重合物であることがより好ましい。ポリエステル樹脂は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、フタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸の重合物であることが更に好ましい。ポリエステル樹脂は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、フタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸のみの重合物であることが特に好ましい。
【0065】
結着樹脂は、ポリエステル樹脂に加えて、ポリエステル樹脂以外の結着樹脂を更に含んでいてもよい。ポリエステル樹脂以外の結着樹脂の例としては、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)を使用してもよい。
【0066】
トナーコアの質量に対する結着樹脂の含有率は、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、85質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。トナーコアが2種以上の結着樹脂を含有する場合は、結着樹脂の含有率は、2種以上の結着樹脂の合計含有率に相当する。
【0067】
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。画像形成に適したトナーを得るためには、着色剤の量が、トナーコアの質量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0068】
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
【0069】
トナーコアは、カラー着色剤を含有していてもよい。カラー着色剤の例としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤が挙げられる。
【0070】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤の例としては、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、及びC.I.バットイエローが挙げられる。
【0071】
マゼンタ着色剤の例としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物が挙げられる。マゼンタ着色剤の例としては、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254)が挙げられる。
【0072】
シアン着色剤の例としては、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物が挙げられる。シアン着色剤の例としては、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、及びC.I.アシッドブルーが挙げられる。
【0073】
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有してもよい。画像形成に適したトナーを得るためには、離型剤の量が、トナーコアの質量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0074】
離型剤としては、例えば、脂肪族炭化水素ワックス(具体的には、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、及びフィッシャートロプシュワックス等)、脂肪族炭化水素ワックスの酸化物(具体的には、酸化ポリエチレンワックス、及びそのブロック共重合体等)、植物性ワックス(具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、及びライスワックス等)、動物性ワックス(具体的には、みつろう、ラノリン、及び鯨ろう等)、鉱物ワックス(具体的には、オゾケライト、セレシン、及びペトロラタム等)、及び脂肪酸エステルを主成分とするワックス類(具体的には、モンタン酸エステルワックス、及びカスターワックス等)、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックス(具体的には、脱酸カルナバワックス等)が挙げられる。離型剤としては、エステルワックスが好ましい。トナーコアは、1種の離型剤のみを含有してもよく、2種以上の離型剤を含有してもよい。
【0075】
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性及び帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
【0076】
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(具体的には、有機金属錯体、及びキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(具体的には、ピリジン、ニグロシン、及び4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
【0077】
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、及びこれらの合金等)、強磁性金属酸化物(具体的には、フェライト、マグネタイト、及び二酸化クロム等)、及び強磁性化処理が施された材料(具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)が挙げられる。トナーコアは1種の磁性粉のみを含有してもよく、2種以上の磁性粉を含有してもよい。磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。
【0078】
<シェル層>
シェル層は、シェル樹脂を含有する。シェル層は、実質的にシェル樹脂から構成されている層であることが好ましい。シェル層は、シェル樹脂のみを含有することがより好ましい。本実施形態のトナーでは、シェル樹脂がオキサゾリン基を有する単位を含む。オキサゾリン基を有する単位の好適な例は、例えば、上記単位(A)である。式(1)で表される化合物を重合させることで、単位(A)をシェル樹脂に導入できる。以下、「式(1)で表される化合物」を「化合物(1)」と記載することがある。式(1)中、R
1は、式(A)中のR
1と同一の基を表す。式(1)中のR
1の好適な例は、式(A)中のR
1の好適な例と同じである。化合物(1)が2−ビニル−2−オキサゾリンである場合、式(1)中のR
1は水素原子である。
【0080】
単位(A)は繰返し単位に相当し、単位(A)でシェル層の主鎖が形成される。ビニル化合物である化合物(1)の「C=C」が「−C−C−」へ重合(付加重合)することにより、重合物(例えば、ビニル樹脂)が形成される。ビニル化合物は、ビニル基(CH
2=CH−)を有する化合物、又はビニル基中の水素原子が置換された基を有する化合物である。化合物(1)に加えて、化合物(1)以外のビニル化合物を重合させて、重合物(例えば、ビニル樹脂)を得てもよい。化合物(1)以外のビニル化合物の例としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、アクリロニトリル、及びスチレンが挙げられる。
【0081】
シェル層は、化合物(1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むモノマーの重合物を含有することが好ましく、化合物(1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみの重合物を含有することがより好ましい。シェル層は、化合物(1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むモノマーの重合物のみを含有することがより好ましい。化合物(1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含むモノマーの重合物は、ビニル樹脂の好適な例である。モノマーは、シェル樹脂の原料である。シェル樹脂の原料であるモノマーは、化合物(1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみであってもよい。或いは、シェル樹脂の原料であるモノマーは、化合物(1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに加えて、化合物(1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の化合物を更に含んでいてもよい。
【0082】
化合物(1)の好適な例としては、2−ビニル−2−オキサゾリンが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、又は(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、化合物(1)以外のビニル化合物の好適な例である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを添加することで、シェル層の被覆性が向上する傾向がある。
【0083】
シェル層は、塩基性物質を含有していてもよいが、塩基性物質を含有しないことが好ましい。塩基性物質は、例えば、後述するシェル層形成工程でpH調整剤として使用される。塩基性物質としては、例えば、アンモニア、及び水酸化ナトリウムが挙げられる。シェル層形成工程で水性媒体に塩基性物質を添加しないことで、結着樹脂が有するカルボン酸の中和(トラップ)を抑制することができる。これにより、IR比率(A/B)を所望の範囲に調整し易くなる。また、シェル層は、分散剤を含有しないことが好ましい。画像形成に適したトナーを得るためには、シェル層の厚さが10nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0084】
<外添剤>
トナー粒子の表面に外添剤(詳しくは、外添剤粒子の集合体である粉体)を付着させてもよい。外添剤は、内添剤とは異なり、トナー粒子の内部には存在せず、トナー粒子の表面(トナー粒子の表層部)のみに選択的に存在する。例えば、トナー粒子(粉体)と外添剤(粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。トナー粒子と外添剤粒子とは、互いに化学反応せず、化学的ではなく物理的に結合する。トナー粒子と外添剤粒子との結合の強さは、攪拌条件(より具体的には、攪拌時間、及び攪拌の回転速度等)、外添剤粒子の粒子径、外添剤粒子の形状、及び外添剤粒子の表面状態などによって調整できる。
【0085】
トナー粒子からの外添剤粒子の脱離を抑制しながら外添剤の機能を十分に発揮させるためには、外添剤の量(2種以上の外添剤粒子を使用する場合には、それら外添剤粒子の合計量)が、トナー粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。外添剤粒子の個数平均1次粒子径は、5nm以上50nm以下であることが好ましく、10nm以上35nm以下であることがより好ましい。
【0086】
外添剤粒子としては、無機粒子が好ましく、シリカ粒子、又は金属酸化物(具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子が特に好ましい。ただし、外添剤粒子として、脂肪酸金属塩(具体的には、ステアリン酸亜鉛等)のような有機酸化合物の粒子、又は樹脂粒子を使用してもよい。外添剤粒子は、表面処理された外添剤粒子、より具体的には表面処理により正帯電性を付与された外添剤粒子(正帯電性シリカ粒子)であってもよい。トナー粒子の表面に、1種の外添剤粒子のみが備えられてもよく、2種以上の外添剤粒子が備えられてもよい。
【0087】
なお、トナーコアは、粉砕コアと重合コアとに大別される。粉砕法で得られたトナーコアは粉砕コアに属し、凝集法で得られたトナーコアは重合コアに属する。本実施形態のトナーにおいて、トナーコアは、粉砕コアであることが好ましい。トナーコアの体積中位径(D
50)が4μm以上9μm以下であることが好ましい。トナー粒子の体積中位径(D
50)が4μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0088】
なお、本実施形態のトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に用いることができる。トナーを、1成分現像剤として使用してもよい。また、トナーとキャリアとを混合して、トナーを2成分現像剤として使用してもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。キャリアの個数平均1次粒子径は、20μm以上120μm以下であることが好ましい。トナーが1成分現像剤である場合には、トナーは、現像装置内において現像スリーブ又はトナー帯電部材と摩擦することで、正に帯電する。トナー帯電部材は、例えば、ドクターブレードである。トナーとキャリアとを含有する2成分現像剤である場合には、トナーは、現像装置内においてキャリアと摩擦されることで、正に帯電する。
【0089】
本実施形態のトナーは、例えば、電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。電子写真装置による画像形成方法の一例を説明する。まず、画像データに基づいて、感光体ドラムの感光層に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、正に帯電したトナーを用いて、現像する(現像工程)。現像工程では、現像装置が、現像スリーブ上のトナーを、感光体ドラムの感光層へ供給して、電気的な力で静電潜像に付着させる。このようにして静電潜像が現像され、感光体ドラムの感光層にはトナー像が形成される。続いて、トナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写した後、加熱により未定着トナー像を記録媒体に定着させる(定着工程)。これにより、画像が記録媒体に形成される。
【0090】
[トナーの製造方法]
次に、トナーの製造方法について説明する。トナーの製造方法は、シェル層形成工程を含む。トナーの製造方法は、必要に応じて、トナーコア形成工程、及び外添工程を更に含んでいてもよい。
【0091】
(トナーコア形成工程)
トナーコアを形成する方法としては、例えば、凝集法及び粉砕法が挙げられる。
【0092】
粉砕法の一例について説明する。トナーコア形成工程において、結着樹脂と、任意の内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。得られた混合物を溶融しながら混練して混練物を得る。混練物を粉砕して、粉砕物を得る。粉砕物を分級して、トナーコアが得られる。
【0093】
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を水性媒体中で凝集させて、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子を得る。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
【0094】
(シェル層形成工程)
シェル層形成工程は、水性媒体中でトナーコアとシェル材料と開環剤とを反応させることにより、トナーコアの表面を覆うシェル層を形成して、トナー粒子を得る工程である。
【0095】
シェル層は、オキサゾリン基を有する単位とアミド結合を有する単位とを含む樹脂を含有する。アミド結合は、第一アミド結合と、第二アミド結合とを含む。シェル材料は、オキサゾリン基を有する。既に述べたように、トナーコアは、カルボキシル基を有する結着樹脂を含有する。シェル材料が有するオキサゾリン基と、トナーコアが含有する結着樹脂が有するカルボキシル基とが反応することにより、第一アミド結合が形成される。既に述べたように、シェル材料は、オキサゾリン基を有する。開環剤は、カルボキシル基を有する。シェル材料が有するオキサゾリン基と、開環剤が有するカルボキシル基とが反応することにより、第二アミド結合が形成される。
【0096】
以下、
図3及び
図4を参照しながら、シェル層形成工程の一例を具体的に説明する。
図3は、トナーコア11に含有される結着樹脂のカルボキシル基と、シェル材料112のオキサゾリン基との反応を、模式的に示す。
図4は、開環剤113のカルボキシル基と、シェル材料112のオキサゾリン基との反応を、模式的に示す。
図3及び
図4において、オキサゾリン基の炭素原子(C)及び炭素原子に結合する水素原子(H)は、省略されている。
図3及び
図4で示されるシェル材料112中の曲線は、シェル材料112の主鎖を模式的に示している。
【0097】
水性媒体中で、トナーコア11(トナーコア形成工程で得られたトナーコア11)と、シェル材料112(例えば、オキサゾリン基含有水溶性高分子)とを混合して、分散液を得る。次に、分散液を攪拌しながら、分散液の温度を、所定の昇温速度で、第一所定温度まで上昇させる。昇温速度としては、0.1℃/分以上1.0℃/分以下が好ましく、0.5℃/分がより好ましい。第一所定温度としては、45℃以上80℃以下が好ましく、65℃がより好ましい。次いで、分散液に、開環剤113を添加する。次いで、分散液の温度を、第二所定温度に調整する。第二所定温度としては、45℃以上80℃以下で且つ第一所定温度と同じ温度又は第一所定温度よりも低い温度が好ましく、60℃がより好ましい。分散液を攪拌しながら、分散液の温度を、第二所定温度で、所定時間保つ。所定時間としては、0.1時間以上3時間以下が好ましく、1時間がより好ましい。
【0098】
図3に示すように、トナーコア11は、表面にカルボキシル基を有する。シェル材料112は、オキサゾリン基を有する。分散液の昇温中又は分散液を所定の温度に保っている間に、トナーコア11のカルボキシル基とシェル材料112のオキサゾリン基とが反応して、第一アミド結合21が形成される。また、
図4に示すように、開環剤113は、カルボキシル基を有する。分散液を所定の温度に保っている間に、開環剤113のカルボキシル基とシェル材料112のオキサゾリン基とが反応して、第二アミド結合22が形成される。更に、第一アミド結合21の形成及び第二アミド結合22の形成とともに、シェル材料112同士の反応が進行してシェル樹脂114が形成される。これにより、トナーコア11の表面に、シェル樹脂114を含有するシェル層12(
図1参照)が形成される。なお、
図4で示されるシェル樹脂114中の曲線は、シェル樹脂114の主鎖を模式的に示している。
【0099】
シェル樹脂114には、カルボキシル基と反応していないオキサゾリン基(未開環オキサゾリン基23)も存在する。このようにオキサゾリン基の一部を開環させて、第一アミド結合21の形成及び第二アミド結合22の形成を行うことにより、IR比率(A/B)を0.00より大きく0.25以下に調整することができる。IR比率(A/B)は、第一アミド結合21及び第二アミド結合22の合計量(開環したオキサゾリン基の量に相当)に対する、未開環オキサゾリン基23の量の比率を示す。
【0100】
なお、分散液の温度を所定の温度まで上昇させた後、開環剤113を添加する場合を例に挙げて説明した。しかし、開環剤113を添加するタイミングは特に限定されない。分散液を得る前に開環剤113を添加してもよい。具体的には、シェル材料112と同時に、開環剤113を添加してもよい。また、分散液を得る前、分散液の昇温中、及び分散液の温度を所定の温度で所定時間保つ間の少なくとも1つの間に、1回又は複数回、開環剤113を添加してもよい。
【0101】
以上、
図3及び
図4を参照しながら、トナーコア11に含有される結着樹脂のカルボキシル基とシェル材料112のオキサゾリン基との反応、及び開環剤113のカルボキシル基とシェル材料112のオキサゾリン基との反応を説明した。
【0102】
シェル材料はオキサゾリン基を有する。オキサゾリン基が高い親水性を有するため、オキサゾリン基を有するシェル材料は高い親水性を有する。このため、水性媒体にシェル材料が好適に溶解する。これにより、水性媒体中で、トナーコアとシェル材料と開環剤とを好適に反応させることができる。シェル材料は、オキサゾリン基に加えて、疎水性鎖を更に有することが好ましい。オキサゾリン基は高い親水性を有するため、疎水性鎖を有することにより、シェル材料に両親媒性を付与できる。これにより、シェル材料を分散剤として機能させることができ、分散剤(例えば界面活性剤)を使用することなく、水性媒体中でシェル材料を好適に反応させることができる。また、有機溶剤を使用することなく、水性媒体中でシェル材料を好適に反応させることができる。疎水性鎖は、例えば、シェル材料の主鎖である。疎水性鎖は、例えば、アルキル鎖であることが好ましく、ビニル基由来のアルキル鎖であることがより好ましい。疎水性鎖は、カルボニル基(>C=O)及びエーテル結合(−O−)を含まないことが好ましい。
【0103】
シェル材料としては、オキサゾリン基含有水溶性高分子が好ましく、単位(A)を含む高分子がより好ましい。シェル材料として市販品を使用してもよい。シェル材料として使用可能な市販品としては、株式会社日本触媒製の「エポクロス(登録商標)WS−300」、及び「エポクロス(登録商標)WS−700」が挙げられる。
【0104】
シェル層形成工程で得られるトナー粒子において、シェル層含有率は、0.15質量%以上0.40質量%以下である。シェル層含有率がこのような範囲となるように、トナーコアの量と、シェル材料の固形分の量とを調整することが好ましい。例えば、トナーコアの質量に対して、シェル材料の固形分の量が、0.30質量%以上1.20質量%以下であることが好ましく、0.35質量%以上1.00質量%以下であることがより好ましい。トナーコアの質量に対するシェル材料の固形分の量が0.30質量%以上であると、シェル材料を分散剤として好適に機能させることができ、シェル材料の凝集を抑制することができる。トナーコアの質量に対するシェル材料の固形分の量が1.20質量%以下であると、形成されるシェル層が薄くなり、トナーの低温定着性を向上させることができる。
【0105】
分散液の質量に対するシェル材料の固形分とトナーコアとの合計含有率は、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、45質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0106】
開環剤の量を変えることで、オキサゾリン基の量を調整でき、IR比率(A/B)を所望の範囲に調整することができる。IR比率(A/B)を所望の範囲に調整するためには、トナーコアの質量に対する開環剤の質量は、0.07質量%以上0.28質量%以下であることが好ましい。IR比率(A/B)を所望の範囲に調整するためには、開環剤が有するカルボキシル基のモル数が、シェル材料が有するオキサゾリン基のモル数の50モル%以上となるような量で、開環剤を添加することが好ましい。
【0107】
水性媒体は、水を主成分とする媒体(具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。水性媒体には、分散剤を添加しないことが好ましい。既に述べたように、シェル材料が分散剤として機能するため、分散剤を添加しない場合であっても、水性媒体中でシェル材料の反応を進行させることができる。また、水性媒体には、塩基性物質を添加しないことが好ましい。水性媒体に塩基性物質を添加しないことで、結着樹脂が有するカルボン酸の中和(トラップ)を抑制することができる。これにより、IR比率(A/B)を所望の範囲に調整することができる。
【0108】
分散液を所定の温度で所定時間保った後、分散液を冷却する。続けて、固液分離(例えば、ろ過)により、トナー粒子を得る。その後、トナー粒子を洗浄し、洗浄されたトナー粒子を乾燥してもよい。
【0109】
(外添工程)
混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いてトナー粒子と外添剤(例えば、シリカ粒子の粉体)とを混合して、トナー粒子の表面に外添剤を付着させる。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤の分散液をトナー粒子に噴霧することで、上記トナー粒子の乾燥と外添工程とを同時に行うことができる。
【0110】
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、材料(例えば、シェル材料、トナーコア、又は開環剤)は、一度に水性媒体に添加されてもよいし、複数回に分けて水性媒体に添加されてもよい。例えば、外添工程の後で、トナー粒子を篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。外添剤が不要であれば、外添工程を割愛してもよい。以上、本実施形態のトナーの製造方法を説明した。
【実施例】
【0111】
実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。表1に、実施例又は比較例に係るトナーA−1〜A−7及びB−1〜B−6の組成を示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1中「ポリエステル1」、「ポリエステル2」、「AV」、「Mp」、「Tg」、「部」及び「wt%」は、各々、第一ポリエステル樹脂、第二ポリエステル樹脂、酸価、融点、ガラス転移点、質量部、及び質量%を示す。表1中「シェル材料の量」は、トナーコア100質量部に対するシェル材料(具体的には、オキサゾリン基含有高分子水溶液)の添加量を示す。表1中「酢酸の量」は、トナーコア100質量部に対する酢酸水溶液の添加量を示す。表1中「シェル層含有率」は、トナー粒子の質量に対するシェル層の含有率を示す。表1中「IR比率(A/B)」は、赤外分光法により測定される、アミド結合に由来するピークの吸光度(B)に対するオキサゾリン基に由来するピークの吸光度(A)の比率(A/B)を示す。
【0114】
以下、トナーA−1〜A−7及びB−1〜B−6の製造方法、測定方法、評価方法、及び評価結果について、説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の個数平均を評価値とした。
【0115】
[トナーの製造方法]
トナーコアに含有させる第一ポリエステル樹脂として、以下に示す物性を有するポリエステル樹脂(1−1)〜(1−4)を使用した。
ポリエステル樹脂(1−1):AV15mgKOH/g、Mp92℃、Tg50℃
ポリエステル樹脂(1−2):AV35mgKOH/g、Mp92℃、Tg50℃
ポリエステル樹脂(1−3):AV7mgKOH/g、Mp92℃、Tg50℃
ポリエステル樹脂(1−4):AV4mgKOH/g、Mp92℃、Tg50℃
【0116】
トナーコアに含有させる第二ポリエステル樹脂として、以下に示す物性を有するポリエステル樹脂(2−1)〜(2−4)を使用した。
ポリエステル樹脂(2−1):AV15mgKOH/g、Mp121℃
Tg60℃
ポリエステル樹脂(2−2):AV31mgKOH/g、Mp121℃、Tg60℃
ポリエステル樹脂(2−3):AV5mgKOH/g、Mp121℃、Tg60℃
ポリエステル樹脂(2−4):AV35mgKOH/g、Mp121℃、Tg60℃
【0117】
ポリエステル樹脂(1−1)〜(1−4)及び(2−1)〜(2−4)の各々は、次の方法で合成した。触媒の存在下、アルコールモノマーと、カルボン酸モノマーとを、圧力0.40MPa且つ温度230℃の条件下で、2.5時間反応させた。触媒の添加量は、アルコールモノマーとカルボン酸モノマーとの合計質量に対して、0.5質量%であった。次いで、1時間かけて常圧に戻し、常圧且つ温度230℃の条件下で、更に2時間反応させた。触媒として、2−エチルヘキサン酸錫を使用した。カルボン酸モノマーとして、フタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸を使用した。アルコールモノマーとして、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びブタンジオールを使用した。アルコールモノマーとカルボン酸モノマーとのモル比は、1:2であった。上記物性を有するポリエステル樹脂が得られるように、各ポリエステル樹脂の合成で添加する、フタル酸の量、トリメリット酸の量、ピロメリット酸の量、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の量、エチレングリコールの量、プロピレングリコールの量、及びブタンジオールの量を調整した。
【0118】
<トナーA−1の作製>
以下の方法で、トナーA−1を作製した。
【0119】
(トナーコア形成工程)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて、ポリエステル樹脂(1−1)50質量部、ポリエステル樹脂(2−1)39質量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA100」)8質量部、及びエステルワックス(高純度固体エステルワックス、日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−5」、成分:ペンタエリスリトールベヘン酸エステルワックス、溶融温度:84℃)3質量部を混合して、混合物を得た。2軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM−26SS」)を用いて、混合物を溶融しながら混練して、混練物を得た。粉砕機(旧東亜機械製作所製「ロートプレックス(登録商標)16/8型」)を用いて、混練物の直径が2mm程度になるまで混練物を1次粉砕し、1次粉砕物を得た。粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミルRS型」)を用いて、1次粉砕物を2次粉砕し、2次粉砕物を得た。分級機(コアンダ効果を利用した風力分級機:日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて、2次粉砕物を分級し、トナーコアを得た。得られたトナーコアの体積中位径は7.0μmであった。
【0120】
(シェル層形成工程)
シェル材料として、オキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS−300」、モノマー質量比:メタクリル酸メチル/2−ビニル−2−オキサゾリン=1/9、固形分濃度:10質量%、Tg:90℃、オキサゾリン基含有量7.7mmol/g)を使用した。ミキサー(日工株式会社製「一軸フリーモードミキサ FM−10」)の容器内に、トナーコア100質量部、及びオキサゾリン基含有高分子水溶液6質量部を添加した。容器内容物の固形分濃度が50質量%となるように、容器内に精製水を添加した。容器内容物の固形分の体積中位径が7.0μm程度になるまで、容器内容物を混合して、分散液を得た。次いで、分散液に精製水を添加して、分散液の固形分濃度を20質量%に調整した。240rpmの攪拌速度で分散液を攪拌しながら、0.5℃/分の昇温速度で65℃まで、分散液を昇温させた。昇温により、分散液に含有されるトナーコアのカルボキシル基とシェル材料のオキサゾリン基とが反応した。これにより、オキサゾリン基が開環するとともに、トナーコアの表面にシェル層が形成された。分散液の温度が65℃に到達した時点で、分散液に、濃度1%の酢酸水溶液14質量部を添加した。次いで、240rpmの攪拌速度で分散液を攪拌しながら、分散液の温度を65℃から60℃に下げた。次いで、240rpmの攪拌速度で分散液を攪拌しながら、60℃で1時間、分散液を保持した。60℃で1時間保持することにより、シェル層内の未開環オキサゾリン基と酢酸のカルボキシル基とが反応し、オキサゾリン基が開環した。60℃で1時間保持した後、分散液を濾過して、残渣を得た。残渣を精製水で洗浄し、濾過し、乾燥することで、トナー粒子を得た。トナー粒子の体積中位径は、7.0μmであった。
【0121】
(外添工程)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて、シェル層形成工程で得られたトナー粒子100.0質量部、正帯電性シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA200」、個数平均1次粒子径:13nm)1.5質量部、酸化チタン粒子(テイカ株式会社製「MT−500B」、未処理の酸化チタン微粒子、個数平均1次粒子径:35nm)1.5質量部を、回転数3500rpmの条件で5分間混合した。これにより、トナー粒子の表面に外添剤粒子を付着させて、トナーA−1(外添剤が付着したトナー粒子の多数個で構成される粉体)を得た。
【0122】
<トナーA−2〜A−7及びB−1〜B−6の作製>
次の点を変更した以外はトナーA−1の作製と同じ方法で、トナーA−2〜A−7及びB−1〜B−6の各々を作製した。トナーA−1のトナーコア形成工程ではポリエステル樹脂(1−1)を使用したが、トナーA−2〜A−7及びB−1〜B−6の各々のトナーコア形成工程では表1の「ポリエステル1」の「種類」の欄に示すポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(1−1)〜(1−4)の何れか)を使用した。トナーA−1のトナーコア形成工程ではポリエステル樹脂(2−1)を使用したが、トナーA−2〜A−7及びB−1〜B−6の各々のトナーコア形成工程では表1の「ポリエステル2」の「種類」の欄に示すポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(2−1)〜(2−4)の何れか)を使用した。トナーA−1のシェル層形成工程では6質量部のオキサゾリン基含有高分子水溶液を添加したが、トナーA−2〜A−7及びB−1〜B−6の各々のシェル層形成工程では表1の「シェル材料」の欄に示す量のオキサゾリン基含有高分子水溶液を添加した。トナーA−1のシェル層形成工程では14質量部の酢酸水溶液を添加したが、トナーA−2〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々のシェル層形成工程では表1の「酢酸」の欄に示す量の酢酸水溶液を添加した。なお、トナーB−4の作製においては、シェル層形成工程で分散液を加熱している間に凝集が発生したため、シェル層形成工程で酢酸を添加できなかった。
【0123】
[測定方法]
各試料(トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々)について、トナーコアの酸価と、シェル層含有率と、IR比率(A/B)とを、それぞれ測定した。これらの測定方法は、以下に示すとおりであった。これらの測定結果を、表1に示す。なお、トナーB−4では、シェル層形成工程で分散液を加熱している間に凝集が発生し、トナー粒子を形成することができなかった。このため、トナーB−4を作製することができず、トナーB−4のシェル層含有率及びIR比率(A/B)を、測定することができなかった。
【0124】
<トナーコアの酸価の測定方法>
トナーコアの酸価を、JIS(日本工業規格)K0070−1992に準拠する方法で測定した。
【0125】
<シェル層含有率の測定方法>
シェル層含有率を、Py−GC/MSを用いて測定した。Py−GC/MSは、熱分解装置と、ガスクロマトグラフ装置と、質量分析装置とを備える。熱分解装置の条件は、熱分解炉温度が300℃であり、インターフェイス温度が200℃であった。ガスクロマトグラフ装置の条件は、気化室温度が320℃であり、カラムオーブン温度が40℃/分の昇温速度で40℃から320℃までの昇温であり、キャリアガスがHeであり、パージ流量が3mL/分であり、注入モードがスプリットであり、スプリット比が50であり、測定試料注入量が100μgであった。質量分析装置の条件は、イオン源温度が220℃であり、インターフェイス温度が320℃であった。
【0126】
まず、検量線を作製した。詳しくは、トナーコア100μgと、所定濃度のシェル材料(WS−300水溶液)10μgとを混合して、検量線作成用試料とした。WS−300水溶液の所定濃度は、第一濃度、第二濃度、及び第三濃度の3種類の濃度であった。第一濃度は、トナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計に対する、シェル材料の固形分の質量の含有率が、0.20質量%となるような濃度であった。第二濃度は、トナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計に対する、シェル材料の固形分の質量の含有率が、0.40質量%となるような濃度であった。第三濃度は、トナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計に対する、シェル材料の固形分の質量の含有率が、0.80質量%となるような濃度であった。なお、トナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計は、トナー粒子の質量に相当する。シェル材料の固形分の質量は、シェル層の質量に相当する。また、濃度検量線作成に使用したトナーコアは、トナーA−1の作製における、トナーコア形成工程後、シェル層形成工程前のトナーコアであった。
【0127】
上記Py−GC/MSを用いて、第一濃度のシェル材料を使用した検量線作成用試料を測定し、クロマトグラフを得た。得られたクロマトグラフ中のm/z100のピークのピーク面積を算出した。m/z100のピークは、オキサゾリン基含有高分子水溶液(エポクロス(登録商標)WS−300)の主鎖であるメタクリル酸メチル(MMA)に由来するピークであった。第二濃度のシェル材料を使用した検量線作成用試料、及び第三濃度のシェル材料を使用した検量線作成用試料についても、第一濃度のシェル材料を使用した検量線作成用試料の測定と同じ方法で、クロマトグラフ中のm/z100のピークのピーク面積を算出した。各検量線作成用試料の含有率(詳しくは、検量線作成用試料に含有されるトナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計に対する、シェル材料の固形分の質量の含有率)、及びピーク面積から、検量線を作成した。得られた検量線を
図5に示す。
図5中の縦軸は、m/z100のピークのピーク面積を表す。
図5中の横軸は、トナーコアの質量とシェル材料の固形分の質量との合計に対する、シェル材料の固形分の質量の含有率(トナー粒子の質量に対するシェル層の含有率に相当、単位:質量%)を示す。
【0128】
次に、トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々のシェル層含有率を測定した。測定に使用したトナー粒子は、トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々の作製における、シェル層形成工程後、外添工程前のトナー粒子であった。上記Py−GC/MSを用いて、測定試料を測定し、クロマトグラフを得た。得られたクロマトグラフ中のm/z100のピークのピーク面積を算出した。検量線を用いて、m/z100のピークのピーク面積から、各トナーのシェル層含有率を算出した。
【0129】
なお、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置として、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010 Ultra」)を使用した。カラムとして、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W GCカラム デュラガード 122−5532G」、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を使用した。
【0130】
<IR比率(A/B)の測定方法>
IR比率(A/B)を、FT−IRを用いてATR法により、測定した。詳しくは、FT−IR(アジレント・テクノロジー株式会社製「FTS−60A/896」)を用いてATR法により、以下に示す測定条件で、測定試料(トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6)を測定し、IRスペクトルを得た。
【0131】
(IR測定条件)
アタッチメント:1回反射ATRアタッチメント(Specac社製「Silver Gate」)
光学結晶:Ge
入射角:45°
分解能:4cm
-1
積算回数:128回
【0132】
なお、十分な感度が得られない場合は、1回反射ATRアタッチメント(Specac社製「Silver Gate」)の代わりに、角度可変1回反射ATR(エス・ティ・ジャパン株式会社製「VeeMax III with ATR VeeMax」)を使用し、入射角を45°から65°に変更して、測定試料を測定した。
【0133】
得られたIRスペクトルから、1680cm
-1のピークの吸光度、及び1630cm
-1のピークの吸光度を得た。1680cm
-1のピークの吸光度は、オキサゾリン基に由来するピークの吸光度(A)である。1630cm
-1のピークの吸光度は、カルボキシル基とオキサゾリン基とが反応することにより形成されるアミド結合に由来するピークの吸光度(B)である。得られた1680cm
-1のピークの吸光度(吸光度(A))と、1630cm
-1のピークの吸光度(吸光度(B))とから、式「IR比率(A/B)=A/B」に従い、IR比率(A/B)を算出した。
【0134】
[評価方法]
各試料(トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々)の評価方法は、以下のとおりであった。なお、トナーB−4については、シェル層形成工程で分散液を加熱している間に凝集が発生してトナー粒子を形成できなかったため、評価することができなかった。
【0135】
<帯電維持性>
トナーの電荷減衰定数を、静電気拡散率測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS−D100」)を用いて、JIS(日本工業規格) C 61340−2−1に準拠した方法で測定した。詳しくは、測定セルに試料(トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々)を入れた。測定セルを静電気拡散率測定装置内に置き、以下に示す条件で、試料を帯電させた。帯電から300秒間(下記測定時間)、試料の表面電位を連続的に測定した。0秒以上2秒以下の減衰時間の間に測定された表面電位から、式「V=V
0exp(−α√t)」に従って、電荷減衰定数α(電荷減衰速度)を算出した。式中、Vは表面電位[単位:V]、V
0は初期表面電位[単位:V]、tは減衰時間[単位:秒]をそれぞれ示す。電荷減衰定数αから、以下の基準に基づき、トナーの帯電維持性を評価した。なお、電荷減衰定数αが小さい程、電荷減衰速度が遅く、トナーの帯電維持性が高い。
【0136】
(電荷減衰定数の測定条件)
測定環境:温度32.5℃、相対湿度80%RH
帯電時間:0.5秒
帯電極性:正
周波数:10Hz
測定時間:300秒
【0137】
(帯電維持性の評価基準)
良好:電荷減衰定数が0.020以下である。
不良:電荷減衰定数が0.020超である。
【0138】
<耐熱保存性>
トナー(評価対象:トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々)10gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、60℃に設定された恒温器内に1時間静置した。その後、恒温器から取り出したトナーを25℃まで冷却して、評価用トナーを得た。
【0139】
続けて、得られた評価用トナーを質量既知の200メッシュ(目開き75μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩上のトナーの質量(篩別前のトナーの質量)を求めた。続けて、粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社製「パウダテスタ(登録商標)」)に上記篩をセットし、パウダテスタのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナーの質量(篩別後のトナーの質量)を求めた。篩別前のトナーの質量と篩別後のトナーの質量とから、式「トナー通過率=100×(篩別前のトナーの質量−篩別後のトナーの質量)/篩別前のトナーの質量」に基づいて、トナー通過率(単位:質量%)を求めた。トナー通過率から、以下の基準に基づき、トナーの耐熱保存性を評価した。
【0140】
(トナーの耐熱保存性の評価基準)
良好:トナー通過率が80質量%以上である。
不良:トナー通過率が80質量%未満である。
【0141】
<2成分現像剤の作製>
キャリア(パウダーテック株式会社製「樹脂被覆キャリア」、キャリアコア:Cu−Znフェライトコア、被覆樹脂:フッ素樹脂、被覆樹脂/キャリアコアの質量比率:1/5、粒子径:35μm、体積固有抵抗値:10
7Ω・cm、飽和磁化:70emu/g)90質量部と、トナー(評価対象:トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、2成分現像剤を得た。
【0142】
<低温定着性>
上記<2成分現像剤の作製>で得られた2成分現像剤を用いて画像を形成して、トナーの最低定着温度を評価した。評価機としては、プリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」、定着装置の構成:Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着装置、定着装置のニップ幅:8mm)の改造機を使用した。改造機においては、定着温度が変更可能なようにプリンター(FS−C5250DN)の定着装置を改造した。評価機のブラック用現像装置に、2成分現像剤を入れた。また、評価機のブラック用トナーコンテナに、補給用トナーを入れた。補給用トナーとしては、2成分現像剤に含まれるトナーと同一のトナーを使用した。補給用トナーは、トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々であった。
【0143】
評価機を用いて、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下、紙(A4サイズの普通紙、90g/m
2)に、トナー載り量1.0mg/cm
2の条件で、未定着のソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。続けて、ニップ通過時間40m秒の条件で、画像が形成された紙を評価機の定着装置に通した。そして、定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ上昇させて、未定着のソリッド画像を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。
【0144】
最低定着温度の測定において、トナーを定着させることができたか否かは、以下に示す折擦り試験で確認した。定着装置に通した評価用紙を、画像を形成した面が内側となるように折り曲げ、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上を10往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度(単位:℃)とした。最低定着温度から、以下の基準に基づき、トナーの低温定着性を評価した。
【0145】
(トナーの低温定着性の評価基準)
良好:最低定着温度が150℃以下である。
不良:最低定着温度が150℃超である。
【0146】
<クリーニング性>
上記<2成分現像剤の作製>で得られた2成分現像剤を用いて画像を形成して、トナーのクリーニング性を評価した。評価機としては、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa 5550ci」)を使用した。評価機のブラック用現像装置に、2成分現像剤を入れた。また、評価機のブラック用トナーコンテナに、補給用トナーを入れた。補給用トナーとしては、2成分現像剤に含まれるトナーと同一のトナーを使用した。補給用トナーは、トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々であった。評価機の現像条件を、現像後の感光体ドラムに対するトナーの付着量が5mg/cm
2になるように設定した。
【0147】
評価機を用いて、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下、2000枚の紙に、印字率5%の画像を連続して形成した。2000枚の紙に画像を形成した後、評価機を用いて、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下、1枚の紙に、白紙画像を形成した。得られた白紙画像を目視で観察し、画像ノイズが発生したか否かを確認した。画像ノイズは、評価機のクリーニング部から紙へトナーが落下して付着することにより発生する。更に、得られた白紙画像のかぶり濃度(FD)を測定した。白紙画像のFDの測定には、全自動白色度計(有限会社東京電色製「TC−6MC」)を用いた。白紙画像のFDは、式「FD=(白紙画像の反射濃度)−(未印刷紙の反射濃度)」に基づいて算出した。白紙画像のFDから、以下の基準に基づき、トナーのクリーニング性を評価した。
【0148】
(トナーのクリーニング性の評価基準)
良好:トナー落ちに起因する画像ノイズが発生せず、且つFDが0.01以下である。
不良:トナー落ちに起因する画像ノイズが発生する、又はFDが0.01超である。或いは、トナー落ちに起因する画像ノイズが発生し、且つFDが0.01超である。
【0149】
[評価結果]
トナーA−1〜A−7、B−1〜B−3、及びB−5〜B−6の各々について、帯電維持性、耐熱保存性、低温定着性、及びクリーニング性を評価した結果を、表2に示す。表2中、「NG」、及び「wt%」は、各々、「不良」、及び「質量%」を示す。
【0150】
【表2】
【0151】
トナーA−1〜A−7において、トナー粒子は、トナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備えていた。トナーコアは、カルボキシル基を有する樹脂(具体的にはポリエステル樹脂)を含有していた。
シェル層は、オキサゾリン基を有する単位とアミド結合を有する単位とを含む樹脂を含有していた。赤外分光法により測定される、アミド結合に由来するピークの吸光度に対するオキサゾリン基に由来するピークの吸光度の比率(IR比率(A/B))は、0.00より大きく0.25以下であった(表1参照)。トナー粒子の質量に対するシェル層の含有率(シェル層含有率)は、0.15質量%以上0.40質量%以下であった(表1参照)。そのため、トナーA−1〜A−7はそれぞれ、表2に示すように、帯電維持性、耐熱保存性、及び低温定着性の何れにも優れていた。更に、トナーA−1〜A−7はそれぞれ、表2に示すように、クリーニング性にも優れていた。
【0152】
トナーB−1においては、シェル層含有率が、0.40質量%超であった(表1参照)。そのため、表2に示すように、トナーB−1は、低温定着性に劣っていた。
【0153】
トナーB−2においては、シェル層含有率が、0.15質量%未満であった(表1参照)。そのため、表2に示すように、トナーB−2は、耐熱保存性に劣っていた。
【0154】
トナーB−3においては、シェル層含有率が0.40質量%超であり、IR比率(A/B)が0.25超であった(表1参照)。そのため、表2に示すように、トナーB−3は、帯電維持性及び低温定着性に劣っていた。また、表2に示すように、トナーB−3は、クリーニング性にも劣っていた。
【0155】
トナーB−4においては、シェル層形成工程で分散液を加熱している間に凝集が発生し、トナー粒子を形成することができなかった。このため、トナーB−4を作製することができず、トナーB−4の帯電維持性、耐熱保存性、低温定着性、及びクリーニング性を、評価することができなかった。
【0156】
トナーB−5及びB−6の各々においては、IR比率(A/B)が0.25超であった(表1参照)。そのため、表2に示すように、トナーB−5、及びB−6は、帯電維持性に劣っていた。また、表2に示すように、トナーB−5、及びB−6は、クリーニング性にも劣っていた。
【0157】
以上のことから、トナーA−1〜A−7を包含する本発明に係るトナーは、帯電維持性、耐熱保存性、及び低温定着性の何れにも優れることが示された。