(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1山部と前記第2山部に挟まれた前記谷部の1つは、前記最大凹み深さの位置から、前記最大突出高さの位置に向かって前記凹み深さが徐々に小さくなってゼロになるように、前記最大突出高さの位置に向かって延びており、
前記谷部の1つの前記凹み深さが最大となる位置から最小となる位置までの前記サイプ延在方向に沿った距離をL1とし、前記最大突出高さあるいは前記最大凹み深さの寸法をL2とし、前記サイプ延在方向の前記最大凹み深さの位置における前記第1山部と前記第2山部の前記サイプ深さ方向に沿った離間距離をL3としたとき、
前記第1サイプは、積L2×L3が0.3〜8mm2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプAを含み、
前記サイプAは、前記タイヤ赤道線と前記第1半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
前記タイヤ赤道線と前記第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域には、対向する2つの側壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる第2サイプが設けられている、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
前記第1山部と前記第2山部に挟まれた前記谷部の1つは、前記最大凹み深さの位置から、前記最大突出高さの位置に向かって前記凹み深さが徐々に小さくなってゼロになるように、前記最大突出高さの位置に向かって延びており、
前記谷部の1つの前記凹み深さが最大となる位置から最小となる位置までの前記サイプ延在方向に沿った距離をL1とし、前記最大突出高さあるいは前記最大凹み深さの寸法をL2とし、前記サイプ延在方向の前記最大凹み深さの位置における前記第1山部と前記第2山部の前記サイプ深さ方向に沿った離間距離をL3としたとき、
前記第1サイプは、積L2×L3が0.3〜10mm2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプCを含み、
前記サイプCは、前記タイヤ赤道線と前記第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
前記タイヤ赤道線と前記第1半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域には、対向する2つの側壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる第2サイプが設けられている、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
前記谷部の1つの、前記トレッド表面からみた前記サイプ深さ方向の位置は、前記サイプ延在方向のいずれの位置でも同じである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記サイプは、サイプの長さ方向の一端側から他端側に進むに連れて凹凸の振幅が徐々に低くなり、サイプの長さ方向の一端側と他端側の中央部では、凹凸の振幅はゼロになっている。上記空気入りタイヤでは、対向するサイプ壁面がお互いに近づくように倒れ込もうとしても、この倒れ込みを、サイプ壁面の凹凸が支えることができるので、サイプ壁面の倒れ込み変形に対する剛性が確保される一方、サイプの屈曲部の凹凸の大きさがサイプの長さ方向中央側に向かって徐々に小さくなることから、加硫成型時、金型のサイプ刃が抜け易くなる、とされている。
しかし、加硫成形終了時における空気入りタイヤからの金型抜けは依然として十分でない。タイヤからの金型抜けを向上させるために、屈曲部の凹凸の振幅を小さくすると、ブロックやリブの倒れこみ、すなわち、一方のサイプ壁面の倒れこみを、他方のサイプ壁面の凹凸が支えることが十分に行われず、サイプ壁面の倒れ込み変形に対する剛性が向上しない。
また、サイプが設けられた陸部が、サイプの長さ方向に沿った変形(この変形を、せん断変形という)を受け、サイプ壁面が、互いに異なる変位量で変位をしようとする場合、上記サイプにはサイプ壁面をサイプの長さ方向の変位を阻止するような凹凸が少ないため、上記陸部のせん断変形に対する剛性は依然として低い。
【0007】
そこで、本発明は、従来とは異なるサイプ形状を備えるサイプであって、タイヤ製造時、タイヤからの金型抜けを向上させつつ、サイプを設けた陸部の倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性を陸部に適切に持たせることができるサイプ、を備える空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、トレッド部にサイプが設けられた空気入りタイヤである。当該空気入りタイヤの前記トレッド部の、前記溝によって区画される陸部の形状及び前記サイプの形状を含むトレッドパターンの形状は、タイヤ赤道線に対して、前記空気入りタイヤのサイド部にセリアル番号が設けられたタイヤ幅方向の第1の側にある第1半トレッド領域と、前記タイヤ赤道線に対して、前記第1の側と反対の第2の側にある第2半トレッド領域との間で非対称な形状であり、
前記第1半トレッド領域及び前記第2半トレッド領域の少なくとも一方にある陸部の領域には、前記サイプが設けられる。
前記サイプは、第1サイプを含み、
前記トレッド部のトレッド表面から見た前記第1サイプの開口は、サイプ両端間を直線状に延在し、
前記第1サイプのサイプ深さ方向において、前記第1サイプの側壁面は、前記開口から前記サイプ深さ方向に延びる基準平面に対して最大突出高さと最大凹み深さが等しくなるように波状に凹凸し、
前記第1サイプの両側の側壁面のうち一方の第1側壁面は、前記第1サイプのサイプ延在方向の各位置において、サイプ深さ方向において、前記サイプ深さ方向に直交する方向に波状に曲がる少なくとも2つの山部と少なくとも1つの谷部を備え、他方の第2側壁面は、前記2つの山部に対向する位置に設けられる2つの谷部と、前記少なくとも1つの谷部に対向する位置に設けられる少なくとも1つの山部を備え、
前記第1側壁面では、前記サイプ延在方向のいずれの位置においても前記山部は、前記基準平面に対する突出高さを一定に維持しつつ、前記サイプ深さ方向に沿って前記山部及び前記谷部を見たとき、前記谷部の前記山部に対する凹み深さは、前記サイプ延在方向の位置に応じて変化し、
前記第1側壁面の前記山部は、前記谷部の1つを前記サイプ深さ方向に挟む第1山部と第2山部とを含み、
前記第1山部と前記第2山部の前記サイプ深さ方向の間隔が、前記サイプ延在方向の一方の側に進むに連れて大きくなり、前記第1山部と前記第2山部に挟まれた前記谷部の1つの、前記第1山部と前記第2山部からの凹み深さは、前記サイプ延在方向のうち前記一方の側に進むに連れて徐々大きくなる。
【0009】
前記溝は、前記第1半トレッド領域及び前記第2半トレッド領域において、お互いに点対称または線対称に配置され、
前記第1サイプのうち、前記第1半トレッド領域及び前記第2半トレッド領域内の互いに前記点対称あるいは前記線対称の位置にある対応する陸部の領域にあるサイプの側壁面の凹凸形状の形態は、お互いに異なる、ことが好ましい。
【0010】
前記第1山部と前記第2山部に挟まれた前記谷部の1つは、前記最大凹み深さの位置から、前記最大突出高さの位置に向かって前記凹み深さが徐々に小さくなってゼロになるように、前記最大突出高さの位置に向かって延びており、
前記谷部の1つの前記凹み深さが最大となる位置から最小となる位置までの前記サイプ延在方向に沿った距離をL1とし、前記最大突出高さあるいは前記最大凹み深さの寸法をL2とし、前記サイプ延在方向の前記最大凹み深さの位置における前記第1山部と前記第2山部の前記サイプ深さ方向に沿った離間距離をL3としたとき、
前記第1サイプは、積L2×L3が0.3〜8mm
2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプAを含み、
前記サイプAは、前記タイヤ赤道線と前記第1半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、ことが好ましい。
【0011】
前記第1サイプは、サイプBを含み、
前記サイプBの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、前記サイプAの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さく、積L2×L3は0.05〜2mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプBを含み、
前記サイプBの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、前記サイプAの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さく、
前記サイプBは、前記タイヤ赤道線と前記第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、ことが好ましい。
【0012】
前記タイヤ赤道線と前記第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域には、対向する2つの側壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる第2サイプが設けられている、ことが好ましい。
【0013】
また、前記第1山部と前記第2山部に挟まれた前記谷部の1つは、前記最大凹み深さの位置から、前記最大突出高さの位置に向かって前記凹み深さが徐々に小さくなってゼロになるように、前記最大突出高さの位置に向かって延びており、
前記谷部の1つの前記凹み深さが最大となる位置から最小となる位置までの前記サイプ延在方向に沿った距離をL1とし、前記最大突出高さあるいは前記最大凹み深さの寸法をL2とし、前記サイプ延在方向の前記最大凹み深さの位置における前記第1山部と前記第2山部の前記サイプ深さ方向に沿った離間距離をL3としたとき、
前記第1サイプは、積L2×L3が0.3〜10mm
2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプCを含み、
前記サイプCは、前記タイヤ赤道線と前記第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、ことが好ましい。
【0014】
前記第1サイプは、サイプDを含み、
前記サイプDの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、前記サイプCの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さく、積L2×L3は0.05〜3mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプDを含み、
前記サイプDの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、前記サイプCの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さく、
前記サイプDは、前記タイヤ赤道線と前記第1半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域に設けられている、ことが好ましい。
【0015】
前記タイヤ赤道線と前記第1半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある側方陸部の領域には、対向する2つの側壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる第2サイプが設けられている、ことが好ましい。
【0016】
前記谷部の1つの、前記トレッド表面からみた前記サイプ深さ方向の位置は、前記サイプ延在方向のいずれの位置でも同じである、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上述の空気入りタイヤによれば、タイヤ製造時、タイヤからの金型抜けを向上させつつ、サイプを設けた陸部の倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性を陸部に適切に持たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、一実施形態の空気入りタイヤについて説明する。以降で説明する空気入りタイヤは、例えば、乗用車用タイヤである。乗用車用タイヤは、JATMA YEAR BOOK 2010(日本自動車タイヤ協会規格)のA章に定められるタイヤをいう。この他、B章に定められる小型トラック用タイヤおよびC章に定められるトラック及びバス用タイヤに適用することもできる。
【0020】
以降で説明するタイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心にタイヤを回転させたとき、トレッド表面の回転する方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に対して直交して延びる放射方向をいい、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸からタイヤ径方向に離れる側をいう。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸方向に平行な方向をいい、タイヤ幅方向外側とは、タイヤのタイヤ赤道線から離れる両側をいう。
【0021】
また、以降で説明する空気入りタイヤの接地端は、空気入りタイヤを正規リムにリム組みし、かつ正規内圧を充填するとともに正規荷重の70%をかけたとき、この空気入りタイヤのトレッド部のトレッド面が乾燥した水平面と接触する領域内のタイヤ赤道線から最も離れた端をいう。正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0022】
以降で説明するトレッドパターンの形状が線対称の形状であるとは、タイヤ赤道線に対してタイヤ幅方向の一方の側の半トレッド領域のトレッドパターン形状を、表裏反転したとき他方の側の半トレッド領域のトレッドパターン形状に重なるものをいう。
トレッドパターンの形状が点対称形状であるとは、タイヤ赤道線に対してタイヤ幅方向の一方の側の半トレッド領域のトレッドパターン形状を、タイヤ赤道線上のある一点の周りに180度回転したとき他方の側の半トレッド領域のトレッドパターン形状に重なるものをいう。
【0023】
以降で説明するトレッドパターン形状は、溝で区画される陸部の形状の他に、サイプの形状を含む。サイプの形状には、サイプのトレッド表面に見える形状、及び、サイプ深さ方向においてサイプ壁面が凹凸を成している場合、凹凸の形状を含む。
【0024】
図1は、一実施形態の空気入りタイヤ10(以降、タイヤ10という)の断面を示すタイヤ断面図である。
図2は、タイヤ10のトレッド部に設けられるトレッドパターンの一例を示す図である。
【0025】
(タイヤ構造)
タイヤ10は、
図1に示すように、骨格材あるいは骨格材の層として、カーカスプライ層12と、ベルト層14と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム部材18と、サイドゴム部材20と、ビードフィラーゴム部材22と、リムクッションゴム部材24と、インナーライナゴム部材26と、を主に有する。
【0026】
カーカスプライ層12は、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成した、有機繊維をゴムで被覆したカーカスプライ材を含む。
図1に示すタイヤ10では、カーカスプライ層12は、1つのカーカスプライ材で構成されているが、2つのカーカスプライ材で構成されてもよい。カーカスプライ層12のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14a,14bで構成されるベルト層14が設けられている。ベルト層14は、タイヤ周方向に対して、所定の角度、例えば20〜30度傾斜して配されたスチールコードにゴムを被覆した部材であり、下層のベルト材14aが上層のベルト材14bに比べてタイヤ幅方向の幅が広い。2層のベルト材14a,14bのスチールコードの傾斜方向は互いに逆方向である。このため、ベルト材14a,14bは、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカスプライ層12の膨張を抑制する。
【0027】
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム部材18が設けられ、トレッドゴム部材18の両端部には、サイドゴム部材20が接続されてサイドウォール部を形成している。トレッドゴム部材18は2層のゴム部材で構成され、タイヤ径方向外側に設けられる上層トレッドゴム部材18aとタイヤ径方向内側に設けられる下層トレッドゴム部材18bとを有する。サイドゴム部材20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム部材24が設けられ、タイヤ10を装着するリムと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカスプライ層12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわしたカーカスプライ層12の部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム部材22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム部材26が設けられている。
この他に、タイヤ10は、ベルト層14のタイヤ径方向外側からベルト層14を覆う、有機繊維をゴムで被覆したベルトカバー層28を備える。
【0028】
タイヤ10は、このようなタイヤ構造を有するが、タイヤ構造は、
図1に示すタイヤ構造に限定されない。
図1では、トレッドゴム部材18に形成される後述ずるトレッドパターン50の溝断面の図示は省略されている。
【0029】
(トレッドパターン)
図2は、トレッド部に設けられるトレッドパターン50の一例を示す。トレッド部には、溝、陸部、及びサイプが設けられている。トレッド部の、溝によって区画される陸部の形状及びサイプの形状を含むトレッドパターン50の形状は、タイヤ赤道線CLに対して、サイド部にセリアル番号が設けられたタイヤ幅方向の第1の側にある第1半トレッド領域と、タイヤ赤道線に対して、第1の側と反対の第2の側にある第2半トレッド領域との間で非対称な形状である。非対称形状とは、点対称形状でも線対称形状でもないことをいう。
【0030】
図2に示すトレッドパターン50では、紙面上の右側の半トレッド領域を第1半トレッド領域とし、紙面上の左側の半トレッド領域を第2半トレッド領域として説明する。ここで、セリアル番号とは、空気入りタイヤのサイド部に、空気入りタイヤ10を製造した製造年、製造週を特定できる数字と、製造した工場のコード記号を組み合わせたものである。このセリアル番号は、タイヤ幅方向の一方の側に設けられる。セリアル番号が設けられたサイド部の側は、通常車両装着時、車両外側に向くように、リム組みして装着される。
【0031】
図2に示すトレッドパターン50の溝及び陸部の形状は、点対称形状であるが、以降説明する陸部の領域に設けられるサイプ81a,81b,82a,82b,83a,83bが、第1ハントレッド領域及び第2半トレッド領域の間で、非対称に配置されている。
【0032】
トレッド部には、タイヤ周方向に連続して延びて1周する周方向主溝52a,52b,53a,53bが設けられている。周方向主溝52aと周方向主溝52bの間には、周方向主溝52aと周方向主溝52bを接続するラグ溝55が設けられ、このラグ溝55と、周方向主溝52aと周方向主溝52bとによって区画されたブロック陸部62が設けられている。周方向主溝52aと周方向主溝52bの間には、さらに、周方向主溝52a,52bからタイヤ赤道線CLの側に向かって延び、他方の周方向主溝52b,52aに到達することなくブロック陸部62の領域内で終端するラグ溝54a,54bが設けられている。
【0033】
また、第1半トレッド領域には、周方向主溝52aと周方向主溝53aを接続するラグ溝56aが、第2半トレッド領域には、周方向主溝52bと周方向主溝53bを接続するラグ溝56bが、設けられている。第1半トレッド領域の周方向主溝52aと周方向主溝53aの間には、ラグ溝56aと周方向主溝52aと周方向主溝53aとによって区画されたブロック陸部63aが設けられ、第2半トレッド領域の周方向主溝52bと周方向主溝53bの間には、ラグ溝56bと周方向主溝52bと周方向主溝53bとによって区画されたブロック陸部63bが設けられている。さらに、周方向主溝52aと周方向主溝53aの間には、周方向主溝52a,53aからブロック陸部63aの内側に向かって延び、他方の周方向主溝53a,52aに到達することなくブロック陸部63aの領域内で終端するラグ溝57a,58aが設けられている。また、周方向主溝52bと周方向主溝53bの間には、周方向主溝52b,53bからブロック陸部63bの内側に向かって延び、他方の周方向主溝53b,52bに到達することなくブロック陸部63bの領域内で終端するラグ溝57b,58bが設けられている。
【0034】
周方向主溝53a,53bのタイヤ幅方向外側には、周方向主溝53a,53bからタイヤ幅方向外側に向かってパターンエンドまで延びるショルダーラグ溝59a,59bが設けられ、さらに、タイヤ周方向に隣接するショルダーラグ溝59a,59bを接続する連絡溝60a,60bが設けられている。
【0035】
また、周方向主溝53a,53bのタイヤ幅方向外側には、周方向主溝53a,53b、ショルダーラグ溝59a,59b、及び連絡溝60a,60bによって囲まれた側方陸部64a,64bが設けられている。側方陸部64a,64bのタイヤ幅方向の外側には、ショルダーラグ溝59a,59b、連絡溝60a,60b、及びパターンエンドで区画される側方陸部65a,65bが設けられている。側方陸部64a,64b,65a,65bは、タイヤ赤道線CLと第1半トレッド領域あるいは第2半トレッド領域のタイヤ幅方向外側の接地端との間の範囲をタイヤ幅方向に二等分する中間位置よりタイヤ幅方向外側にある陸部をいう。
【0036】
このような複数の溝により、タイヤ10のトレッド部は、ブロック陸部62,63a,63b及び側方陸部64a,64b,65a,65bを備える。これらの陸部の領域には、サイプ81a,81b,82a、82b,83a,83bが設けられている。
【0037】
図2に示す一実施形態のタイヤ10のトレッドパターン50は、以上の形態を備えるが、トレッドパターンは、
図2に示す形態には限定されない。
図2に示すトレッドパターン50では、溝あるいは接地端で四方が囲まれたブロックの領域にサイプが設けられるが、タイヤ周方向に連続するリブ状の陸部の領域にサイプが設けられてもよい。
サイプ81a,81b,82a,82b,83a,83bの少なくとも一部には、以下説明する第1サイプが設けられる。この第1サイプは、一実施形態によれば、いずれの陸部の領域にも設けられ、他の一実施形態によれば、一部の陸部の領域に設けられる。以下、第1サイプは、サイプ80と総称して説明する。
【0038】
(第1サイプの説明)
図3(a),(b)は、サイプ80の一例を説明する図である。
図3(a)は、サイプ80のトレッド表面19における開口を示す。トレッド表面19から見た開口は、サイプ両端間を直線状に延在する。サイプ80の開口の直線状に延びる長さ方向(以下、サイプ延在方向という)に沿ってサイプ80を区画するサイプ壁面(側壁面)80a,80bによって挟まれるサイプ空間の幅wは、例えば0.2〜1.5mmであり、タイヤ金型では、板状のサイプ刃がサイプ80を形成する型として、タイヤ金型の溝を形成する凸部が設けられた金型トレッド形成面に装着される。
【0039】
サイプ80の空間を区画するトレッド部の一対のサイプ壁面80a,80bのそれぞれは、サイプ延在方向の各位置において、サイプ深さ方向において、波状に屈曲あるいは湾曲する山部及び谷部を備える。具体的には、サイプ80のサイプ壁面80a,80bは、基準平面に対して最大突出高さと最大凹み深さが等しくなるように波状に凹凸する。基準平面とは、具体的には、サイプ壁面80aあるいはサイプ壁面80bの一部であるサイプ80の開口のエッジを通りサイプ深さ方向(
図3(a)の紙面奥行き方向)に延びる平面である。
図3(b)には、サイプ壁面80aの凹凸形状が示されている。サイプ壁面80bは、各場所においてサイプ壁面80aと並行するように波状に屈曲あるいは湾曲する山部及び谷部を備え、サイプ壁面80aに対して一定の幅wで離間する。これにより、サイプ壁面80aとサイプ壁面80bにより区画された一定の幅wのサイプ空間が形成される。すなわち、サイプ80の幅wは、サイプ深さ方向及びサイプ延在方向で一定である。したがって、サイプ壁面80aの凸部の位置に対向するサイプ壁面80bの位置には凹部が、サイプ壁面80aの凹部の位置に対向するサイプ壁面80bの位置には凸部が設けられている。
【0040】
サイプ80のサイプ壁面80a(第1側壁面)は、サイプ延在方向の各位置において、サイプ深さ方向において、サイプ深さ方向に直交する方向に波状に屈曲あるいは湾曲する少なくとも2つの山部と少なくとも1つの谷部を備える。
一方、サイプ壁面80bは、図示されないがサイプ壁面80aの2つの山部に対向する位置に設けられる2つの谷部と、サイプ壁面80aの少なくとも1つの谷部に対向する位置に設けられる少なくとも1つの山部と、を備える。
サイプ壁面80a(第1側壁面)では、サイプ延在方向のいずれの位置においても山部は、基準平面に対する突出高さを一定に維持する。さらに、サイプ深さ方向に沿って山部及び谷部を見たとき、谷部の山部に対する凹み深さは、サイプ延在方向の位置に応じて変化する。山部が一定の高さを維持する突出高さは、例えば、最大突出高さである。
【0041】
図3(b)に示す例で細かく説明すると、サイプ壁面80aは、少なくとも、第1山部80M1と第2山部80M2と、第1谷部80V1と、を有する。第1谷部80V1は、第1山部80M1と第2山部80M2の、サイプ深さ方向の間に挟まれている。第1谷部80V1の第1山部80M1及び第2山部80M2に対する凹み深さは、サイプ延在方向の位置に応じて変化し、図示例では、図中右側に行くほど浅くなっている。
第1谷部80V1は、最大凹み深さを有する最深谷部の側(
図3(b)に示す例では、左側)から、第1山部80M1,第2山部80M2の、第1谷部80V1と隣り合う谷部に対する突出高さが最大となり最大突出高さを有する最大山部の側(
図3(b)に示す例では右側)に向かって延びており、第1谷部80V1が最深谷部の側から最大山部の側に向かうに連れて、第1山部80M1と第2山部80Mに対する凹み深さは浅くなっている。すなわち、第1谷部80V1は、最大凹み深さの位置から、最大突出高さの位置に向かって凹み深さが小さくなってゼロになるように、最大突出高さの位置に向かって延びている。一方、第2側壁面80bは、図示されないが第1山部80M1と第2山部80M2の山部に対向する位置に設けられる2つの谷部と、第1谷部80V1に対向する位置に設けられる少なくとも1つの山部と、を備え、サイプ80の幅wがサイプ深さ方向及びサイプ延在方向で一定になっている。
【0042】
第1山部80M1と第2山部M2のサイプ深さ方向の間隔は、サイプ延在方向の一方の側(
図3(b)に示す例では紙面左側)に進むに連れて大きくなり、第1山部80M1と第2山部M2に挟まれた第1谷部80V1の、第1山部80M1と第2山部M2からの凹み深さは、サイプ延在方向のうち上記一方の側に進むに連れて徐々大きくなるように構成されている。
【0043】
このように、サイプ80のサイプ延在方向のどの位置でも山部及び谷部が存在するので、サイプ延在方向に直交する方向の外力を受けてサイプ壁面80a,80bが互いに近づくような倒れ込み変形をしても、サイプ80のサイプ延在方向のどの位置でもサイプ壁面80a,80bの凹凸同士がかみ合ってサイプ壁面80a,80bを支えることができる。このため、トレッド部の陸部にサイプ80を設けたことによる陸部の剛性の低下のうち、倒れ込み変形に対する剛性の低下を抑制することができる。すなわち、サイプ80を設けた陸部の倒れ込み変形に対する剛性は、サイプを区画するサイプ壁面が互いに平行な平面である従来のサイプを設けた場合の陸部の倒れ込み変形に対する剛性に比べて向上する。しかも、第1谷部80V1がサイプ延在方向に向かうに連れて、凹み深さは浅くなるので、金型抜けを向上させることができる。
さらに、第1山部80M1の頂部と第2山部80M2の頂部のサイプ深さ方向の間隔がサイプ延在方向で変化しているので、サイプ延在方向の外力を受けてサイプ壁面80a,80bのうち一方のサイプ壁面が他方のサイプ壁面に対して相対的に大きな変位量でサイプ延在方向に変位しようとしても、すなわち、サイプ壁面80a,80bがサイプ延在方向に沿ったせん断変形を受けて変位しようとしても、一方のサイプ壁面の山部及び谷部のそれぞれに対向した位置にある他方のサイプ壁面の谷部及び山部が、一方のサイプ壁面の山部及び谷部を支えて、変位を阻止する。このため、サイプ80を設けた陸部の、サイプ延在方向に沿ったせん断変形に対する剛性の低下を抑制することができる。すなわち、サイプ80を設けた陸部の、サイプ延在方向に沿ったせん断変形に対する剛性は、サイプを区画するサイプ壁面が互いに平行な平面である従来のサイプを設けた場合の陸部のサイプ延在方向に沿ったせん断変形に対する剛性に比べて向上する。
【0044】
図4は、
図3(b)に示すサイプ壁面80aを平面視した図である。
図5(a)〜(d)は、
図4中のサイプ延在方向の位置A〜Dで切断したときのサイプ壁面80aの形状の一例を模式的に示す図である。
【0045】
山部は、稜線80R1,80R2,80R3,80R4を含む。稜線80R1,80R2,80R3,80R4は、サイプ壁面80aにおける、サイプ延在方向の同じ位置の、サイプ深さ方向の周辺の位置に対して凸形状を成した頂部が、サイプ延在方向に連続して延びる部分である。また、谷部は、谷底線80B1,80B2,80B3を含む。谷底線80B1,80B2,80B3は、サイプ延在方向の同じ位置の、サイプ深さ方向の周辺の位置に対して凹形状を成した底部が、サイプ延在方向に連続して延びる部分である。
図4では、稜線80R1,80R2,80R3,80R4を実線で示し、谷底線80B1,80B2,80B3は、一点鎖線で示している。なお、本明細書でいう稜線は、山部の頂部が線である場合は、頂部の線であるが、頂部が幅を持った平面を成している場合、平面の中心位置を繋げた線であってもよい。
【0046】
ここで稜線80R1,80R2,80R3,80R4は、サイプ延在方向に進むに連れて、サイプ深さ方向の位置が変化するように構成されている。稜線80R1,80R3は、
図4中の右側に進むほど、サイプ深さ方向の深い位置に移動し、稜線80R2,80R4は、
図4中の右側に進むほど、サイプ深さ方向の浅い位置に移動する。
なお、
図4は、サイプ壁面80aの稜線及び谷底線を示しているが、サイプ壁面80bでは、サイプ壁面80aの稜線80R1,80R2,80R3,80R4に対向する位置に谷底線が設けられ、サイプ壁面80aの谷底線80B1,80B2に対向する位置に稜線が設けられるので、サイプ側壁面80bでは、谷底線は、サイプ延在方向に進むに連れて、サイプ深さ方向の位置が移動するように構成されている。
【0047】
また、サイプ壁面80aの谷底線80B1は、
図4に示すように、トレッド表面19に平行である。このとき、谷底線80B1と稜線80R1の間に挟まれた傾斜面Q、及び谷底線80B1と稜線80R2の間に挟まれた傾斜面Rは、サイプ壁面80bにおける対応する傾斜面と対峙するように構成されている。
【0048】
このように、稜線あるいは谷底線のサイプ深さ方向の位置が変わることにより、サイプ延在方向の位置で、山部及び谷部の形状を変化させることができる。これにより、タイヤ金型のサイプ刃をトレッドゴムから抜き出すとき、サイプ刃がトレッドゴムの抵抗を受け難く、サイプ刃が抜け易い形状にすることができる。このため、タイヤからの金型抜けを向上させることができる。
また、
図4に示す谷底線80B1と稜線80R1の間に挟まれた傾斜面Q、及び谷底線80B1と稜線80R2の間に挟まれた傾斜面Rは、サイプ壁面80bにおける対応する傾斜面と対峙するので、陸部のサイプ延在方向に沿ったせん断変形により、一方のサイプ壁面の山部がサイプ延在方向に変位しようとしても、この山部と谷部の間の傾斜面(傾斜面R,Q)と対峙する他方のサイプ壁面の傾斜面とが当接して山部の変位を阻止するので、サイプ80を設けた陸部の、せん断変形に対する剛性は、サイプを区画するサイプ壁面が互いに平行な平面である従来のサイプを設けた陸部の、せん断変形に対する剛性に比べて向上する。
【0049】
一実施形態によれば、稜線80R1と稜線80R2とが、あるいは、稜線80R2と稜線80R3とが、あるいは、稜線80R3と稜線80R4とが、サイプ延在方向の一方の側に進むに連れて近づき、
図4に示すように、稜線同士が合流することが好ましい。このとき、谷底線80B1における、稜線80R1及び稜線80R2に対する凹み深さは、最大山部に近づくほど徐々に浅くなり、谷底線80B1の凹み深さは、合流位置においてゼロになることが好ましい。これにより、タイヤからの金型抜けを向上させつつ、サイプが設けられた陸部の、倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性を、従来のサイプが設けられた陸部の、倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性に比べて向上させることができる。
【0050】
図5(a)〜(d)は、サイプ壁面の形状をより理解することができるように、
図4に示す位置A〜Dにおける凹凸形状を示している。
図5(a)〜(d)に示すように、稜線80R1、稜線80R2、稜線80R3、及び稜線80R4のサイプ深さ方向の位置は、サイプ延在方向の位置に応じて変化している。サイプ刃がトレッドゴムから抜き出されるときにサイプ刃が受ける抵抗は、サイプ深さ方向の凹凸形状の変動量の大きさに応じて変化し、変動量が小さいほど小さい。谷底線80B1,80B2,80B3の凹み深さは最大凹み深さから徐々に浅くなるので、位置B,Cにおける凹凸形状の変動量は、位置A,Dにおける凹凸形状の変動量に比べて小さい。このため、位置B,Cにおけるサイプ刃が受ける抵抗は小さく、タイヤからの金型抜けを向上させることができる。一方、位置B,Cでは、
図5(b),(c)に示すように、サイプ深さ方向に沿った凹凸形状の凹凸回数は、位置A,Dに比べて多い。このため、サイプ壁面が倒れこんだ時サイプ壁面同士が互いにかみ合って支え合う効果は大きい。
また、稜線80R1、稜線80R2、稜線80R3、及び稜線80R4は、基準平面Pに対する突出高さを維持しながら、サイプ深さ方向の位置が変化するので、稜線80R1、稜線80R2、稜線80R3、及び稜線80R4を形成する山部80M1,80M2の傾斜面が、対向するサイプ壁面80bの谷部の傾斜面に当接して支えられるので、サイプ壁面間で変位量が異なるせん断変形を受けてもサイプ壁面の変位を阻止する効果は大きい。
【0051】
谷底線80B2は、
図4に示すように、谷底線80B1に比べてサイプ深さ方向の深い位置に、谷底線80B1と平行に設けられ、谷底線80B2は、稜線80R2及び稜線80R3と合流し、谷底線80B2の、稜線80R2及び稜線80R3と合流する合流位置は、谷底線80B1と稜線80R1及び稜線80R2とが合流する合流位置と異なっている。谷底線80B2の、稜線80R2及び稜線80R3と合流する合流位置と、谷底線80B1と稜線80R1及び稜線80R2とが合流する合流位置とは、
図4に示す例では、サイプ延在方向の互いに反対側の位置である。このような形状により、谷底線をサイプ深さ方向に繰り返し設けることができるので、サイプ80が設けられた陸部の倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性は、サイプを区画するサイプ壁面が互いに平行な平面である従来のサイプが設けられた陸部の剛性に比べて大きく向上する。
【0052】
図4に示す谷底線80B1の、稜線80R1及び稜線80R2からの凹み深さが最大となる位置Aから最小(ゼロ)となる位置Dまでのサイプ延在方向に沿った距離L1(
図4参照)は、例えば10〜40mmである。
サイプ壁面80a,80bの最大凹み深さL2及び最大突出高さの寸法L2(
図5参照)は、例えば、0.1〜5mmであり、好ましくは、0.3〜2mmである。
また、谷部80V1あるいは谷底線80B1が最大の凹み深さとなっている位置におけるタイヤ深さ方向に隣り合う山部80M1,80M2間の離間距離L3(
図4参照)は、例えば0.5〜8mmであり、好ましくは1〜4mmである。
【0053】
ここで、サイプ80によって、サイプ80が設けられたブロックあるいはリブ等の陸部の倒れ込み変形に加えて、せん断変形に対する剛性は、山部80M1,80M2を含む山部及び谷部80V1を含む谷部の形状によって変化する。例えば、上記距離L1(
図4参照)に対する寸法L2(
図5参照)の比L2/L1、及び、寸法L2と離間距離L3との積L2×L3を調整することにより、陸部の倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性を調整することが好ましい。
比L2/L1は、
図4に示すサイプ深さ方向に隣り合う2つの稜線同士が、サイプ延在方向において接近する傾斜角度の高低の程度を示し、積L2×L3は、
図4に示す傾斜面Q及び傾斜面Rのサイプ延在方向から見た投影面積の大小の程度を示す。比L2/L1及び積L2×L3が大きい程、せん断変形に対する陸部の剛性を高くすることができる。また、寸法L2が大きいほど、倒れこみ変形に対する陸部の剛性を高くすることができる。したがって、せん断変形及び倒れこみ変形に対する陸部の剛性を高くするには、寸法L2を向上させることが好ましい。しかし、寸法L2を過度に大きくすると、加硫工程におけるタイヤ金型からタイヤをとりだそうとするとき、サイプ刃がトレッドゴムの大きな抵抗を受けてタイヤを金型から離脱させることが難くなる。このため、寸法L2が大きいサイプをトレッドパターン全体に使用することは難しく、部分的に用いることが好ましい。この場合、寸法L2を所定の範囲内に制限した条件で、比L2/L1及び積L2×L3を調整することにより、倒れこみ変形に対する剛性、及びせん断変形に対する剛性を種々調整することができる。
例えば、寸法L2を変化させず、距離L1を小さくし、離間距離L3を大きくすることにより、比L2/L1及び積L2×L3向上させて、せん断変形に対する剛性を向上させることができる。また、比L2/L1及び積L2×L3を変化させず、寸法L2を所定の範囲内で大きくすることで、倒れこみ変形に対する剛性を向上させることができる。
【0054】
図2に示すトレッドパターン50において、タイヤ幅方向の両側のうちセリアル番号がサイド部に設けられている側にある第1半トレッド領域の側(
図2に示す例では紙面右側)が車両外側になるように、タイヤ10は装着される。このため、第1半トレッド領域は、タイヤ10の車両装着時、車両外側に向く。このため、第1半トレッド領域は、車両のコーナリング中、地面から大きな横力を受ける部分である。したがって、第1半トレッド領域の横力に対する陸部の剛性を高くすることが、ドライ操縦安定性(大舵角の操縦性)を向上させる点から好ましい。特に、タイヤ赤道線CLから離れたタイヤ幅方向外側の陸部である側方陸部64a,65aにおける横力に対する剛性を高くすることが好ましい。この場合、
図2に示すように、サイプ延在方向が、タイヤ幅方向に対して45度以下の傾斜方向であるサイプ83aについては、せん断変形に対する剛性が向上するように、比L2/L1及び積L2×L3が調整されることが好ましい。
【0055】
また、タイヤ10を装着する車両によっては、車両のネガティブキャンバーが大きい場合もある。このような車両に装着するタイヤ10では、大きなネガティブキャンバーによって車両内側の接地面が増大し、第2半トレッド領域の側の高速耐久性が低下し易い。このため第2半トレッド領域における陸部のタイヤ周方向及びタイヤ横方向に対する剛性を高くすることが好ましい。特に、タイヤ赤道線CLから離れたタイヤ幅方向外側の陸部である側方陸部64b,65bにおけるタイヤ周方向及びタイヤ幅方向から受ける力に対する剛性を高くすることが好ましい。この場合、
図2に示すように、サイプ延在方向が、タイヤ幅方向に対して45度以下の傾斜方向であるサイプ83bについては、タイヤ周方向から受ける力によってサイプ壁面80a,80bが倒れ込もうとする倒れ込み変形及び横力によって陸部が受けるサイプ延在方向に沿ったせん断変形に対する剛性が向上するように、比L2/L1及び積L2×L3が調整されることが好ましい。
以下、ドライ操縦安定性を向上させたタイヤ、及び、荷重耐久性を向上させたタイヤに適したサイプについて説明する。
【0056】
(1)ドライ操縦安定性を向上させたタイヤ
ドライ操縦安定性を向上させたタイヤを得るには、側方陸部64a,65aにおけるタイヤ幅方向の横力に対する剛性を向上させることが好ましい。タイヤ幅方向に対して45度未満の方向をサイプ延在方向とするサイプを用いる場合、上述したせん断変形に対する剛性を向上させることが好ましい。この場合、側方陸部64a,65aの領域に設けられるサイプ83aは、積L2×L3が0.3〜8mm
2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプAであることが好ましい。サイプAを側方陸部64a,65aの領域に設けることにより、ドライ操縦安定性を向上させることができる。サイプAは、一実施形態によれば、
図2に示す側方陸部64a,65aの領域全てに設けられる必要はなく、一部分に設けられてもよい。また、一実施形態によれば、サイプAは、第1半トレッド領域にあるブロック陸部62,63aの領域に設けられてもよい。乗用車用タイヤの場合、距離L1は、例えば、30〜70mmであり、寸法L2は、例えば、0.3〜2mmであり、離間距離L3は、例えば、1〜4mmである。
【0057】
この場合、一実施形態によれば、第2半トレッド領域の側方陸部64b,65bの領域に設けられるサイプ83bは、積L2×L3が0.05〜2mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプBであることが好ましい。サイプBの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、サイプAの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さい。このようなサイプBを側方陸部64b,65bの領域に設けることにより、ウェット路面における制動性能及び高速耐久性も向上する。サイプBのサイプ壁面間の距離である幅wは、サイプAと同様の幅wとすることが好ましい。サイプBは、
図2に示す、側方陸部64b,65bの領域全てに設けられる必要はなく、一部分に設けられてもよい。また、一実施形態によれば、サイプBは、第2半トレッド領域にあるブロック陸部62,63bの領域に設けられてもよい。乗用車用タイヤの場合、距離L1は、例えば、30〜70mmであり、寸法L2は、例えば、0.1〜1mmであり、離間距離L3は、0.5〜2mmである。
【0058】
また、一実施形態によれば、第2半トレッド領域の側方陸部64b,65bの領域には、サイプ83bに代えて、対向する2つのサイプ壁面が平行であり、サイプ壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる平面となっている従来のサイプ(第2サイプ)が設けられることも好ましい。この場合、サイプ壁面間の距離であるサイプの幅は、第1半トレッド領域の側方陸部64a,65aの領域に設けられるサイプ80と同様の幅wとすることが好ましい。この場合でも、ドライ操縦安定性は向上する。
【0059】
(2)高速耐久性を向上させたタイヤ
高速耐久性は、ネガティブキャンバーを考慮して、ネガティブキャンバーと同様のキャンバー角を付けた一定の負荷荷重の条件で、タイヤの回転速度を徐々に付加したとき、どの程度の速度のレベルまで破壊することなく維持できる耐久性を有するか、を意味する。このようなタイヤは、第2半トレッド領域の側方陸部64b,65bにおけるタイヤ幅方向及びタイヤ周方向の力に対する剛性を向上させることが好ましい。この場合、側方陸部64b,65bの領域に設けられるサイプ83bは、積L2×L3が0.3〜10mm
2であり、比L2/L1が0.0042〜0.066であるサイプCであることが好ましい。サイプCを側方陸部64b,65bの領域に設けることにより、高速耐久性を向上させることができる。サイプCは、
図2に示す側方陸部64b,65bの領域全てに設ける必要はなく、一部分に設けてもよい。乗用車用タイヤの場合、距離L1は、例えば、30〜70mmであり、寸法L2は、例えば、0.3〜2mmであり、離間距離L3は、例えば、1〜5mmである。
【0060】
この場合、一実施形態によれば、第1半トレッド領域の側方陸部64a,65aの領域に設けられるサイプ83aは、積L2×L3が0.05〜3mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプDであることが好ましい。サイプDの積L2×L3及び比L2/L1は、いずれも、サイプCの対応する積L2×L3及び比L2/L1に比べて小さい。このようなサイプDを側方陸部64a,65aの領域に設けることにより、ウェット路面における制動性能及びドライ操縦安定性も向上する。サイプDのサイプ壁面間の距離である幅wは、サイプCと同様の幅wとすることが好ましい。サイプDは、
図2に示す、側方陸部64a,65aの領域全てに設けられる必要はなく、一部分に設けられてもよい。また、一実施形態によれば、サイプDは、第1半トレッド領域にあるブロック陸部62,63aの領域に設けられてもよい。乗用車用タイヤの場合、距離L1は、例えば、30〜70mmであり、寸法L2は、例えば、0.1〜1mmであり、離間距離L3は、0.5〜3mmである。
【0061】
また、一実施形態によれば、第1半トレッド領域の側方陸部64a,65aの領域には、サイプ83aに代えて、対向する2つのサイプ壁面が平行であり、サイプ壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる平面となっている従来のサイプ(第2サイプ)が設けられることも好ましい。この場合、サイプ壁面間の距離であるサイプの幅は、第1半トレッド領域の側方陸部64a,65aの領域に設けられるサイプ80と同様の幅wとすることが好ましい。この場合でも、高速耐久性は向上する。
【0062】
図2に示すトレッドパターン5では、溝及び陸部の形状が点対称形状であるが、他の一実施形態によれば、溝及び陸部の形状をタイヤ赤道線CLに対して線対称形状とすることができる。線対称形状の場合、タイヤ回転方向が指定されている場合が多い。タイヤ回転方向の指定は、サイドウォールに表示された記号あるいは文字等によって指定される。このような場合、第1半トレッド領域が第2半トレッド領域に対して車両外側に位置するように、車両装着外側となるサイドウォールに、このサイドウォールが車両装着外側に向くように指示した記号あるいは文字等が表示されていること、あるいはセリアル番号が設けられていること、が好ましい。溝及び陸部の形状が点対称形状あるいは線対称形状であっても、各陸部の領域に設けるサイプの種類(距離L1、寸法L2、及び離間距離L3の寸法が異なることを含む)を第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域の間で異なるようにサイプを設けることにより、トレッドパターンを非対称形状に形成することができる。
すなわち、一実施形態によれば、トレッドパターンにおける溝は、第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域において、お互いに点対称または線対称に配置され、このトレッドパターンの陸部の領域に設けられるサイプのうち、第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域内の互いに点対称あるいは線対称の位置にある対応する陸部の領域にあるサイプ壁面の凹凸形状の形態(距離L1、寸法L2、及び離間距離L3の寸法)を、お互いに異ならせる、ことができる。
勿論、溝及び陸部の形状が線対称形状でも線対称形状でもない非対称形状であるトレッドパターンの陸部の領域に、各陸部の領域に設けるサイプの種類を第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域の間で異なるようにサイプを設けて非対称形状のトレッドパターンを形成することもできる。
【0063】
(実施例、従来例)
本実施形態の効果を確認するために、
図2に示すトレッドパターン50のサイプに、種々寸法を変更したサイプ80を第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域の陸部に設けた、
図1に示すタイヤ構造を備えるタイヤ10(195/65R 15 91H)を作製して、ドライ操縦安定性能と高速耐久性を調べた。
【0064】
ドライ操縦安定性能については、4本のタイヤ10を、リム(リムサイズ 15×6.0J)に装着し、さらに、空気圧200kPaの条件で、試験車両(1500cc、前輪駆動の乗用車)に装着し、この試験車両を所定のコースの乾燥路面上を走行させて、ドライバによる官能評価で評価した。下記従来例を100として各例の評価結果を指数化した。指数は、指数が高い程、ドライ操縦安定性能が優れていることを示す。
【0065】
高速耐久性については、荷重5.31kN、空気圧220kPa、リム15×6.0Jの条件で、タイヤをドラム試験機上で走行させて、タイヤが破損するまで試験を行って性能評価をした。この試験では、走行開始前をステップ0として、ステップ1から順番に30分間一定の走行速度でタイヤを走行させ、30分時間経過したらステップを1つ上げて30分間一定の走行速度で走行させることを繰り返した。ステップ1の走行速度は121km/時とし、ステップ2の走行速度は129km/時、ステップ3の走行速度は137km/時、・・・・とし、ステップが1つ上がる毎に8km/時走行速度を上げた。高速耐久性の評価については、タイヤが破損するときのステップで行い、下記従来例の対応するステップを基準(ゼロ)として、ステップがどの程度高いかを調べた。したがって、値が高いほど高速耐久性が優れていることを示す。
【0066】
下記表1,2に、各仕様と評価結果を示す。
従来例におけるサイプは、
図3(b)に示すサイプ80の形態と異なり、3つの山部がサイプ深さ方向の同じ位置をトレッド表面に平行に延び、その突出高さが一定であり、山部に挟まれた谷部もサイプ深さ方向の同じ位置をトレッド表面に平行に延び、その凹み深さも一定である形態である。このサイプの、サイプ80の寸法L2に対応する寸法は0.7mmであり、サイプ深さ方向の隣り合う山部間の離間距離は1.0mmであり、この寸法を、表1の対応する欄に示した。このサイプを、第1半トレッド領域及び第2半トレッド領域にある陸部の領域全てに設けた。
実施例では、トレッドパターン50におけるサイプ81a,81b,82a,82b及び側方陸部64a,64bにおけるサイプ83a,83bは、いずれも、上述の従来例と同じ形態のサイプとし、側方陸部65a,65bの領域に設ける全てのサイプを、種々の寸法を変更したサイプ80を用いた。
実施例3における側方陸部64b,65bの領域に設けるサイプは、対向する2つのサイプ壁面が平行であり、サイプ壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる平面となっているサイプとし、実施例6における側方陸部64a,65aの領域に設けるサイプも、対向する2つのサイプ壁面が平行であり、サイプ壁面がサイプ深さ方向に直線上に延びる平面となっている従来のサイプとした。
【0069】
実施例1〜6のいずれも、従来例対比、ドライ操縦安定性及び高速耐久性のいずれも向上することがわかる。これより、サイプ80を設けた陸部の倒れ込み変形及びせん断変形に対する剛性を、陸部に適切に持たせることができることがわかる。
【0070】
実施例1と実施例2の比較より、第2半ドレッド領域の側方陸部の領域に設けるサイプの積L2×L3が0.05〜2mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプであって、この積L2×L3、比L2/L1が、第1半トレッド領域の側方陸部の領域に設けるサイプの対応する積L2×L3、比L2/L1より小さいサイプを用いることで、ドライ操縦安定性のみならず高速耐久性を向上させることができることがわかる。また、実施例3に示すように、第2半ドレッド領域の側方陸部の領域に従来例と同じの平面状のサイプを設けても、従来例に対してドライ操縦安定性のみならず高速耐久性を向上させることができることがわかる。
【0071】
実施例4と実施例5の比較より、第1半ドレッド領域の側方陸部の領域に設けるサイプの積L2×L3が0.05〜2mm
2であり、比L2/L1が0.0014〜0.033であるサイプであって、この積L2×L3、比L2/L1が、第2半トレッド領域の側方陸部の領域に設けるサイプの対応する積L2×L3、比L2/L1より小さいサイプを用いることで、高速耐久性のみならずドライ操縦安定性を向上させることができることがわかる。また、実施例6に示すように、第1半ドレッド領域の側方陸部の領域に従来例と同じの平面状のサイプを設けても、従来例に対して高速耐久性のみならずドライ操縦安定性が向上することができることがわかる。
【0072】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。