【実施例】
【0047】
本発明を次の実験例で説明する。
【0048】
<材料の合成方法>
<PEOxの合成>
熱媒によって加熱可能な150L容の反応釜にシュウ酸ジメチル40kg(339モル)、エチレングリコール23.2kg(374モル)、1,4−ブタンジオールを2.9kg(32.2モル)、ジブチルスズオキシド8.4gを入れ、窒素気流下で反応釜内の液温を110℃に加温し、常圧重合を行った。メタノールの留去が始まった後、そのまま1時間30分保温し反応させた。1時間30分後から10℃/時間の昇温速度で130℃まで昇温し、さらに20℃/時間で190℃まで昇温させた。回収した液量は21.2kgであった。
その後、フラスコ内の液温を190℃、0.1kPa〜0.8kPaの減圧度で減圧重合し、得られたポリマーを取り出した。90℃で2時間、120℃で2時間加熱処理した。
【0049】
<PBOxの合成>
上記と同様の反応釜にシュウ酸ジメチル40kg(339モル)、1,4−ブタンジオールを30.5kg(339モル)、ジブチルスズオキシド5.7gを入れ、窒素気流下で反応釜内の液温を100℃に加温し、常圧重合を行った。メタノールの留去が始まった後、そのまま1時間保温し反応させた。1時間後から10℃/時間の昇温速度で110℃まで昇温し、さらに20℃/時間で180℃まで昇温させた。回収した液量は21.9kgであった。
その後、フラスコ内の液温を200℃、0.1kPa〜0.8kPaの減圧度で減圧重合させ得られたポリマーを取り出した。90℃で2時間、120℃で2時間加熱処理した。
【0050】
<各種評価方法>
<PEOxおよびPBOxの還元粘度の測定>
装置:キャノンフェンスケ型粘度計
溶媒:1,1,1,2,2,2、−ヘキサフルオロ 2−プロパノール(PEOx)
クロロホルム(PBOx)
温度:25℃
試料調製:試料40mgに溶媒10mLを加え、室温で緩やかに攪拌した。目視で溶解していることを確認した後、0.45μmフィルターにて濾過して測定試料とした。
【0051】
<PLAおよびPLA共重合体の分子量測定>
以下に示す条件下で測定し、PLA及びPLA共重合体の分子量を測定した。
装置:東ソー製 高速GPC装置 HLC−8320
検出器:示差屈折率検出器RI
カラム:SuperMultipore HZ−M(2本)
溶媒:クロロホルム
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
試料調製:試料約10mgに溶媒3mLを加え、室温で放置した。目視で溶解していることを確認した後、0.45μmフィルターにて濾過した。スタンダードはポリスチレンを用いた。
【0052】
<
1HNMRによるPLA中の共重合率の定量方法>
PLA中の酸放出性エステル共重合率は、溶媒による再沈殿によりコンパウンドポリマーを除いた後、モノマーに分解した水溶液を
1H NMRで定量することで算出した。以下にサンプルの調整方法とNMR測定条件を記す。
試料1gをクロロホルム15mL中に落とし溶解させた。目視で溶解状態に変化が見られなくなった後、0.45μmのフィルターで濾過した。ろ液を300mLのメタノールに落とすと、ひも状の沈殿物または液の白濁が見られた。ひも状の沈殿物の場合は吸引濾過によって、白濁物の場合は遠心分離によってそれぞれ回収した。回収物を水で洗浄した後40℃で真空乾燥し、20mL容の耐圧バイアル瓶中で水1gと共に120℃で熱処理した。熱処理は固形分が完全に分解し見えなくなるまで行った。分解した水溶液を試料としてNMR測定を行った。
装置:日本電子製 JNM−ECA
溶媒:重水
積算回数:16回
測定温度:室温
試料調製:試料約0.1mLをNMR試料管に滴下し、次に重水を0.5mL滴下しサンプルとした。
定量方法:乳酸の主鎖CH基の水素に由来するピーク面積を1.00とした時のエチレングリコールまたはブタンジオールのメチレン基水素由来ピーク面積をA
EG、A
BDOとし、以下の式(1),(2)により定量した。ブタンジオールのメチレン基水素由来ピークは2箇所に等面積で観測されるため、2箇所の総面積をA
BDOとした。
(PEOx共重合率)=(29×A
EG)/(72+29×A
EG)・・・ (1)
(PBOx共重合率)=(18×A
BDO)/(72+18×A
BDO)・・ (2)
【0053】
<
1H NMRと溶解残渣量によるPLA中の共重合率の定量方法>
後述の実施例5のみ、本項の方法で酸放出性エステル共重合率を測定した。
(非共重合PEOx成分):
試料0.05gをクロロホルム/1,1,1,2,2,2、−ヘキサフルオロ 2−プロパノール = 9/1溶液1.5mLに溶解し、4時間静置した。その後濾過により不溶成分を回収し、40℃減圧下で乾燥した。得られた固形分を非共重合PEOx成分とし、質量を測定した。
(共重合および非共重合PEOx成分):
試料0.1gを20mL容の耐圧バイアル瓶中で水1gと共に120℃で熱処理した。
熱処理は固形分が完全に分解し見えなくなるまで行った。分解した水溶液を試料として
1H NMR測定を行った。
装置:日本電子製 JNM−ECA
溶媒:重水
積算回数:16回
測定温度:室温
試料調製:試料約0.1mLをNMR試料管に滴下し、次に重水を0.5mL滴下しサンプルとした。
定量方法:前記式(1)により共重合および非共重合PEOx成分を定量した。
(共重合PEOx成分の算出):
上記で得られた共重合および非共重合PEOx成分率から非共重合PEOx成分率を減算することにより、共重合PEOx率を算出した。
【0054】
<50℃、30日後の結晶化度の測定>
長期間水浸漬後の結晶化度の変化は、加速試験として50℃30日間水浸漬後の結晶化度を用い評価した。
カッターミルにより粗大な粉体とした試料1gと純水約2gを、20mL容のバイアル瓶で混合し、50℃に設定したオーブンに静置した。30日後に混合物を取り出し、純水で洗浄しながら遠心分離により粉体試料を取り出した。遠心分離後の試料は40℃、減圧下で4時間乾燥した。乾燥した試料をDSCにより評価した。
装置:セイコーインスツルメント株式会社製 EXTAR6000
評価:0℃から10℃/分の昇温速度で昇温したときの1回目の昇温曲線で観測される吸熱ピークのピーク面積から算出される融解熱量(△H)を、ポリ乳酸結晶の融解熱量値94J/gで除し、100倍した値を結晶化度(%)とした。
【0055】
<2回目昇温時の融解熱量△Hの測定>
装置:セイコーインスツルメント株式会社製 EXTAR6000
評価:0℃から10℃/分の昇温速度で昇温したときの1回目の昇温曲線で吸熱ピークを観測したのち、170℃〜180℃で1分間保持した後、10℃/分の降温速度で0℃まで冷却する。その後、再度上記と同様の昇温速度で昇温した時の2回目昇温曲線で観測される吸熱ピークのピーク面積を2回目昇温時の融解熱量(△H)とした。
【0056】
<単位日数あたりの徐放TOC量の測定>
試料150mgを純水30mLに浸し、25℃で静置した。サンプルは1週間ごとに純水を新しいものに取り替えた。4週間目の純水をTOC測定し、これを元に以下の式(3)で単位日数あたりの徐放TOCを算出した。
C=B×(1/5)×(1/7)・・・(3)
ただし、Cは1日あたり、試料1g当りの有機炭素放出量(mg)、Bは調整した試料が示したTOC値(ppm)である。
また、4週間目以降もこの一定値で有機炭素が徐放されると仮定し、さらに放出された有機炭素が全て乳酸モノマーであると仮定することで、各試料が徐放によって消滅する日、すなわち材料のTOC放出寿命X(日)を以下の式(4)で評価した。
X=1000/(C×6)・・・(4)
TOCは以下に示す条件で測定した。
装置:株式会社島津製作所製TOC―L
キャリアガス:高純度空気
キャリアガス流量:150mL/min
測定項目:TC(全炭素)/IC(無機炭素)/TOC(=TC−IC)
キャリブレーション物質:フタル酸水素ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム
燃焼温度:680℃
測定試料調製:浸漬液約20mLを直接試料バイアルにとり測定した。
【0057】
<X線回折測定による結晶化度の評価>
装置:リガク社製 X線回折装置 SmartLab9kW
電圧・電流:45kV・200mA
X線波長:CuKα
光学系:平行ビーム法 カウンターモノクロ法
結晶化度算出方法:結晶性ピークの面積と非晶性ピークの面積を用いて以下の式(5)で算出した。
Xc=100×Ac/(Ac+Aa)・・・(5)
ただし、Xcは結晶化度(%)、Acは結晶性ピークの面積、Aaは非晶性ピークの面積である。
【0058】
<メタノールを用いたフロータビリティ濃度の測定>
微粉体試料の水への分散性を評価するために、フロータビリティ濃度の測定を行った。
ジェットミルにて微粉砕し、レーザー回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が20μm以下となった試料0.5gを、100mL容ガラス瓶中のメタノール水溶液に落とし、マグネティックスターラーで280rpm、3分間攪拌した。その後3分間静置し、水面に粉体の浮遊物が残っているか確認した。粉体の浮遊物が見られている場合は沈殿していないと判定し、メタノールを5g追加し同様の実験を行った。水50g、メタノール30gから測定を開始し、粉体の浮遊物が見られなくなった際のメタノール濃度をフロータビリティ濃度と定義し、水分散性を比較検討した。
【0059】
<使用材料>
PLA(ポリ乳酸樹脂)は海正生物材料製REVODE101を用いた。原料として用いる際の分子量は、120000<Mw<170000の範囲であった。
酸放出性エステル樹脂の一種であるPEOxおよびPBOxは、上記項で重合されたものを用いた。それぞれの還元粘度は、PEOxで0.84dL/g、PBOxで0.49dL/gであった。
炭酸ナトリウムは和光純薬工業製炭酸ナトリウム(純度99.8+%)を、50%乳酸は武蔵野化学研究所製ムサシノ乳酸50F(50質量%)を、重水はシグマ・アルドリッチ製重水(“100%”99.96atom%D)を、メタノールは和光純薬工業製メタノール(99.7+%高速液体クロマトグラフ用)、クロロホルムは和光純薬工業製クロロホルム(99.7+%高速液態クロマトグラフ用)を用いた。
【0060】
<ポリ乳酸共重合体の合成>
(実施例1〜4)
PLA、酸放出性エステル、炭酸ナトリウムを、それぞれ定量フィーダーによって連続式の二軸押出機に定量供給し溶融混練した。各実施例での条件は以下の表1に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例5)
PLA100g、PEOx100g、炭酸ナトリウム20gをそれぞれ秤量し、バッチ式の二軸押出機で溶融混練した。樹脂の温度が230℃に到達し、炭酸ナトリウムを投入した時刻を反応時間の開始点とし2分間混練した後、試料を取り出した。
【0063】
(比較例1)
PLAと炭酸ナトリウムを、実施例1〜4と同様にして定量フィーダーで連続式押出機に定量供給し溶融混練した。各条件は以下の表2に示した。
【0064】
【表2】
【0065】
(比較例2)
PLA180g、PEOx20g、炭酸ナトリウム20gをそれぞれ秤量し、実施例5と同様のバッチ式二軸押出機で溶融混練した。樹脂の温度が230℃に到達し、炭酸ナトリウムを投入した時刻を反応時間の開始点とし、5分間混練後に試料を取り出した。
【0066】
(比較例3)
PLAとPEOxをコイルフィーダーで連続式の二軸押出機に定量供給し溶融混練した。PLAとPEOxの供給速度はそれぞれ45kg/時間、5kg/時間、混練温度は230℃であった。さらに混練後の材料250kgを2000L容の反応釜に投入し、50%乳酸500kgを加えた後、100℃で5時間加熱することで低分子量化した。その後溶媒をろ別し水で洗浄、70℃で減圧乾燥した。
【0067】
<ポリ乳酸共重合体の物性>
得られた試料の重量平均分子量Mw、酸放出性エステル共重合率、2回目昇温時融解熱量△H、50℃30日水中保管後の結晶化度、粉体沈殿時のメタノール濃度、およびTOC放出寿命を表3に示した。
実施例1〜4おいて、50℃30日水中保管後の結晶化度が30%以下と低い値を示した。またメタノール濃度45%以下の水溶液に粉体が沈殿し、良好な水分散性を示した。さらに実施例1〜3では、30日後のTOC放出量から計算されるTOC放出寿命が300〜900日の範囲となり、酸放出性エステルを共重合しない比較例1および比較例3と比べて高い加水分解性を示した。実施例5は実施例1〜4と比較して酸放出性エステル共重合率が非常に高く、水分散性に特に優れることが予想され、TOC放出寿命が短いことから高い加水分解性を有することがわかった。比較例2は高分子量ゆえに20μm以下に粉砕することができなかった。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例1および比較例3で得られた試料のDSCによる2回目昇温曲線を
図1に示した。比較例3では2回目昇温時でも結晶融解のピークが検出されているのに対し、実施例1では結晶融解のピークは観察されなかった。
【0070】
実施例1および比較例3で得られた試料を水中に浸し、25℃で180日間保管する前後の結晶化度を広角X線回折測定により定量した。結果を表4に示す。
比較例3では水浸漬開始時、すなわちサンプル作成時にすでに高い結晶化度を示したが、180日間の水浸漬でさらに結晶化度が上昇した。一方で実施例1では、サンプル作成時の結晶化度も比較例3と比較して低く、180日間の水浸漬で結晶化度が減少し20%を下回った。
【0071】
【表4】