(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844612
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/572 20210101AFI20210308BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20210308BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20210308BHJP
H01M 50/10 20210101ALI20210308BHJP
H01M 50/172 20210101ALI20210308BHJP
【FI】
H01M2/34 A
H01M2/26 A
H01M2/12 101
H01M2/02 F
H01M2/06 F
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-507248(P2018-507248)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2017010121
(87)【国際公開番号】WO2017163999
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-61017(P2016-61017)
(32)【優先日】2016年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100164035
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 正人
(72)【発明者】
【氏名】原口 心
(72)【発明者】
【氏名】宮田 恭介
(72)【発明者】
【氏名】横山 智彦
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−003702(JP,A)
【文献】
特開2013−157157(JP,A)
【文献】
特開2015−144095(JP,A)
【文献】
特開2013−171817(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/147782(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0287965(US,A1)
【文献】
特表2013−502035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/572
H01M 50/10
H01M 50/172
H01M 50/342
H01M 50/531
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と、電解液と、前記電極体と前記電解液を収容する有底筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部にかしめ固定された封口体と、を備え、
前記封口体が、円形状の中空部を有する絶縁板を介して弁体と金属板が接合されている電流遮断機構を有し、
前記金属板に円形状又はC字形状の薄肉部が形成され、
前記金属板の垂線方向から見て、前記中空部と前記薄肉部が同心円状に配置され、
前記薄肉部の直径をD1、前記中空部の直径をD2としたとき、D1/D2が0.56以上1以下である、
円筒形電池。
【請求項2】
前記弁体と前記金属板の接合部は高エネルギー線を照射して形成されている請求項1に記載の円筒形電池。
【請求項3】
前記弁体に前記金属板側へ突出する凸部が設けられている請求項1又は2に記載の円筒形電池。
【請求項4】
前記金属板は前記電極体から導出するリードに接合されて内部端子板として機能する請求項1から3のいずれかに記載の円筒形電池。
【請求項5】
前記弁体が電池外部に露出している請求項1から4のいずれかに記載の円筒形電池。
【請求項6】
前記封口体が前記弁体上に配置された端子キャップを有する請求項1から4のいずれかに記載の円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電流遮断機構を有する円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型電池は発電要素である電極体を収容する外装体の形状や材質によって円筒形電池、角形電池、及びパウチ型電池に大別される。中でも、円筒形電池は電動工具、電動アシスト自転車、及び電気自動車などの駆動電源として広く使用されている。これらの用途では円筒形電池は直列又は並列に接続された組電池として使用されている。
【0003】
円筒形電池の封口体には安全性を確保するための手段が組み込まれている。特許文献1及び2に開示された円筒形電池の封口体には、電池内圧が増加して所定値に達すると作動する電流遮断機構が組み込まれている。
【0004】
図5は特許文献1に開示された封口体の断面図である。封口体に組み込まれた電流遮断機構は外側アルミニウム箔51、内側アルミニウム箔52、及びそれらの間に介在する絶縁板53を積層して構成されている。絶縁板53の中央部には中空部が形成されており、外側アルミニウム箔51と内側アルミニウム箔52は絶縁板53の中空部内で互いに接合されている。電池内圧が上昇すると外側アルミニウム箔51がその圧力を受ける。内側アルミニウム箔52には外側アルミニウム箔51との溶接部の周囲に環状の薄肉部52aが形成されており、電池内圧が所定値に達すると薄肉部52aが破断して、外側及び内側アルミニウム箔51,52間の電流経路が遮断される。さらに電池内圧が上昇すると、外側アルミニウム箔51が破断して電池内部のガスが排出される。このように、外側アルミニウム箔51は安全弁として機能する。
【0005】
特許文献2の電流遮断機構も特許文献1の場合と同様に、易破断部としての薄肉部が設けられたアルミニウム板を安全弁に溶接して構成されている。そのアルミニウム板は電極体から導出する極板リードに直接接続されて端子板として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−306351号公報
【特許文献2】特開2009−110808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に開示された電流遮断機構は、2つの金属板の溶接部ではなく一方の金属板の薄肉部を破断させることで電池内部の電流経路を遮断する。金属板の薄肉部の破断によって作動する電流遮断機構には作動圧の調整が容易であるという利点がある。しかし、電流遮断機構の作動圧にはある程度の範囲でバラツキが存在する。バラツキを考慮すると、作動圧の設計値は低めに設定する必要がある。作動圧のバラツキを低減することができれば作動圧の設計値を高めに設定することができるため、端子板の機械的強度が向上して電池の製造工程における歩留が改善される。また、作動圧のバラツキの低減は電流遮断機構の確実な作動に繋がるため、円筒形電池の安全性向上に寄与することができる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、作動圧のバラツキが低減された電流遮断機構を有する円筒形電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の一態様に係る円筒形電池は、電極体と、電解液と、電極体と電解液を収容する有底筒状の外装缶と、外装缶の開口部にかしめ固定された封口体と、を含んでいる。封口体が、円形状の中空部を有する絶縁板を介して弁体と金属板が接合されている電流遮断機構を有し、金属板に円形状又はC字形状の薄肉部が形成されている。金属板の垂線方向から見て、絶縁板の中空部と金属板の薄肉部が同心円状に配置されている。薄肉部の直径をD1、中空部の直径をD2としたとき、D1/D2は0.56以上1以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、作動圧のバラツキが低減された電流遮断機構を有する円筒形電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は一実施形態に係る非水電解液二次電池の断面図である。
【
図2】
図2は一実施形態に係る封口体の断面図である。
【
図3】
図3は一実施形態に係る金属板の平面図である。
【
図4】
図4は一実施形態に係る絶縁板の平面図である。
【
図5】
図5は特許文献1に開示された封口体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について円筒形電池の一例である非水電解液二次電池を用いて説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0013】
図1は非水電解液二次電池10の断面図である。有底筒状の外装缶22の内部に電極体18が収容されている。電極体18は、正極板15と負極板16をセパレータ17を介して巻回して作製される。正極板15及び負極板16にそれぞれ正極リード15a及び負極リード16aが接続されている。そして、正極リード15aは封口体11に、負極リード16aは外装缶22の底部に接続されている。封口体11が外装缶22の開口部にガスケット21を介してかしめ固定されている。外装缶22の内部には電極体18とともに図示しない非水電解液が収容されている。
【0014】
図2に示すように、封口体11は弁体12、金属板13、及びそれらの間に介在する絶縁板14から構成されている。弁体12の中心部が金属板13に向けて突出しており、その突出部が金属板13に接合されている。金属板13には正極リード15aが接続されており、金属板13が内部端子板として機能する。金属板13は正極リード15aに直接接続される必要はなく、金属板13と正極リード15aの間に他の導電性部材を内部端子板として介在させることもできる。弁体12の一部は電池外部に露出しており、その露出部を外部機器などに接続することができる。つまり、本実施形態では弁体12が正極外部端子として機能する。
【0015】
封口体11は弁体12、金属板13及び絶縁板14から構成される電流遮断機構を有しており、電流遮断機構は次のように作動する。電池内部にガスが発生して電池内圧が上昇すると、弁体12がその圧力を受ける。電池内圧が所定値に達すると、金属板13に設けられた薄肉部13aが破断して、弁体12と金属板13の間の電流経路が遮断される。さらに電池内圧が上昇すると弁体12が破断して電池内部のガスが排出される。
【0016】
本実施形態の封口体11は電流遮断機構を構成するのに必要な最小限の要素のみを有しているため、封口体の厚みを低減して非水電解液二次電池の容量を高めることができる。非水電解液二次電池が使用される用途に応じて、端子キャップやPTC(Positive Temperature Coefficient)素子などの他の要素を封口体11に追加することができる。例えば、端子キャップを弁体上に配置して封口体の機械的強度を高めることができる。しかし、弁体の破断時のガス排出経路を十分確保するために本実施形態のように弁体が電池外部に露出していることが好ましい。
【0017】
弁体12及び金属板13には可撓性に優れ、非水電解液中で正極電位に曝されても安定に存在できる金属材料を用いることが好ましい。そのような金属材料としてアルミニウム及びアルミニウム合金が例示される。弁体12と金属板13はレーザーのような高エネルギー線を照射して互いに接合することができる。
【0018】
図3に示すように、金属板13には易破断部としての薄肉部13aが円形状に形成されている。薄肉部13aは金属板13の中央部に形成されている。薄肉部13aは金属板の最外周部の同心円上に形成されている。薄肉部13aは金属板13の最外周部の同心円上にC字形状となるように形成してもよい。薄肉部の断面はV字形状を有しているが、これに限定されず、例えばU字形状とすることもできる。薄肉部13aの外側には8個の通気孔13bが形成されている。弁体12と金属板13の接合部は薄肉部13aの内側に形成されている。
【0019】
薄肉部13aの直径D1は薄肉部13aの円周方向に垂直な断面において残肉厚みの最も薄い部分を基準として決定される。もし、薄肉部の断面において残肉厚みの最も薄い部分が平坦である場合は薄肉部の内周側の端部を基準として薄肉部の直径D1が決定される。なお薄肉部がC字形状の場合は、薄肉部が同一円上に形成されていればよく、その円の直径を薄肉部のD1とする。
【0020】
図4に示すように、絶縁板14には中央部に中空部14aが形成されている。金属板13の垂線方向から見て、薄肉部13aと中空部14aは同心円状に配置されている。金属板13の垂線方向は弁体12、金属板13、及び絶縁板14の積層方向に一致する。中空部14aの周囲には4個の通気孔14bが形成されている。中空部14aが存在するため通気孔14bは必ずしも必要ではないが、中空部14aだけでは電池内部で発生したガスの経路として十分ではない場合に通気孔14bを形成することが好ましい。絶縁板14に用いることができる材料としては高分子樹脂材料が好ましく、ポリプロピレン(PP)樹脂及びポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂が例示される。
【0021】
薄肉部13aの直径D1と中空部14aの直径D2の比(D1/D2)は0.56以上1以下であることが好ましい。D1/D2が上記の範囲内にあれば後述する実験結果で示すように電流遮断機構の作動圧のバラツキが低減される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用いて本実施形態に係る非水電解液二次電池10をより詳細に説明する。
【0023】
(封口体A1の作製)
弁体12と、内部端子板としての金属板13をアルミニウム板のプレス加工により作製した。金属板13の中央部に円形状の薄肉部13aを形成した。薄肉部13aの断面はV字形状とし、薄肉部13aの直径D1を2.8mmとした。絶縁板14はポリプロピレン樹脂の射出成型により作製した。絶縁板14の中空部14aの直径D2を2.8mmとした。弁体12と金属板13とはレーザー溶接で接合した。このようにして封口体A1を作製した。
【0024】
(封口体A2〜A6の作製)
絶縁板14の中空部14aの直径D2を表1に示す値に変更したこと以外は封口体A1と同様にして封口体A2〜A6を作製した。
【0025】
(正極板の作製)
正極活物質としてLiNi
0.91Co
0.06Al
0.03O
2で表されるリチウムニッケル複合酸化物を用いた。100質量部の正極活物質と、1質量部の導電剤としてのアセチレンブラック(AB)と、1質量部の結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混合し、その混合物をN−メチル−2−ピロリドン中で混練して正極合剤スラリーを調製した。その正極合剤スラリーを厚みが13μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成した。その正極合剤層を充填密度が3.6g/cm
3になるようにローラーで圧縮し、圧縮後の極板を所定の寸法に切断して正極板15を作製した。正極板15の一部に正極合剤層が形成されていない正極芯体露出部を設け、正極芯体露出部にアルミニウム製の正極リード15aを接続した。
【0026】
(負極板の作製)
負極活物質として93質量部の黒鉛と7質量部の酸化ケイ素(SiO)の混合物を用いた。100質量部の負極活物質と、1質量部の増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、1質量部の結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を混合し、その混合物を水中で混練して負極合剤スラリーを調製した。その負極合剤スラリーを厚みが6μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成した。その負極合剤層を充填密度が1.65g/cm
3となるようにローラーで圧縮し、圧縮後の極板を所定の寸法に切断して負極板16を作製した。負極板16の一部に負極合剤層が形成されていない負極芯体露出部を設け、負極芯体露出部に銅製の負極リード16aを接続した。
【0027】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、を20:75:5の体積比で混合して非水溶媒を調製した。その非水溶媒に電解質塩としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1.4mol/Lの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した。
【0028】
(電極体の作製)
正極板15と負極板16をセパレータ17を介して巻回することにより電極体18を作製した。セパレータ17には、ポリアミドにアルミナ(Al
2O
3)のフィラーを分散させた耐熱層を片面に形成したポリエチレン製の微多孔膜を用いた。耐熱層が形成された面は正極板に対向するように配置した。
【0029】
(非水電解液二次電池の作製)
電極体18の上下にそれぞれ上部絶縁板19及び下部絶縁板20を配置し、電極体18を有底筒状の外装缶22に挿入した。正極リード15aを封口体11に接続し、負極リード16aを外装缶22の底部に接続して注液前電池を作製した。そして、非水電解液を注液前電池へ注入し、封口体11を外装缶22の開口部にガスケット21を介してかしめ固定して外径が18mm、高さが65mmの円筒形の非水電解液二次電池10を作製した。封口体には封口体A1を用いた。
【0030】
(電流遮断機構の作動圧の測定)
実施例で説明した注液前電池の外装缶の開口部にガスケットを介して封口体A1〜A6をかしめ固定して作動圧測定用電池を作製した。作動圧測定用電池には非水電解液が注入
されていない。作動圧測定用電池の底部に直径3mmの貫通孔を形成し、銅管を挿入して外装缶と銅管の間にシール剤を塗布した。そして、銅管を経由して作動圧測定用電池内に空気を注入し、電流遮断機構が作動するまで電池内圧を上昇させて電流遮断機構の作動圧を測定した。このような測定を封口体A1〜A6の各10個について行い、封口体A1〜A6のそれぞれの作動圧の標準偏差を算出した。その結果を表1にまとめて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から、絶縁板の中空部の直径に対する金属板の薄肉部の直径の比(D1/D2)が大きくなるほど作動圧のバラツキが小さくなることがわかる。封口体A1〜A4はいずれも作動圧の標準偏差が0.5kgf/cm
2以下とバラツキが非常に小さい。特に、D1/D2が0.7〜1の範囲ではバラツキの低減効果が極大となる。このような効果が発揮される理由として、金属板に当接している絶縁板が薄肉部に隣接していることで、電池内圧上昇時に金属板の薄肉部以外の部分の変形が抑制されていることが考えられる。これらの結果から、D1/D2は0.56以上1以下であることが好ましく、0.7以上1以下であることがより好ましい。
【0033】
上記の本発明の効果は外装缶に収容される電極体や電解液を構成する材料への依存性は低い。そのため、上記の実施例で用いた電極体や電解液を構成する材料を他の公知の材料に置き換えても本発明の効果は均しく発揮される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したように本発明によれば、作動圧のバラツキが少ない電流遮断機構を有する円筒形電池を提供することができる。本発明は円筒形電池に広く適用可能であるため、その産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0035】
10 非水電解液二次電池
11 封口体
12 弁体
13 金属板
13a 薄肉部
14 絶縁板
14a 中空部
18 電極体
22 外装缶