(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
図1から
図8を参照して、積層体、個人認証媒体、および、積層体の製造方法を具体化した第1実施形態を説明する。以下では、積層体の一例である個人認証媒体、積層体の製造方法の一例である個人認証媒体の製造方法、および、実施例を順番に説明する。
【0028】
[個人認証媒体の構成]
図1から
図4を参照して、個人認証媒体の構成を説明する。なお、個人認証媒体は、個人認証媒体を所有する特定の個人、すなわち所有者の身元を認証するために用いられる媒体である。
【0029】
図1が示すように、個人認証媒体10は二次元的に広がる板状を有し、同じく二次元的に広がる表面10sを有している。表面10sと対向する平面視において、個人認証媒体10の一部に回折層11が位置し、回折層11が位置する部分とは異なる部分に、印刷部12が位置している。すなわち、個人認証媒体10は、1つの方向である第1方向D1と、第1方向D1に直交する方向である第2方向D2とに沿って広がる板状を有している。
【0030】
回折層11は、表面10sと対向する平面視において楕円形状を有し、第1領域11R1と第2領域11R2とから構成されている。第2領域11R2は、個人認証媒体10の所有者に属する個人情報の一例である上半身像を回折光によって表示する領域であり、第1領域11R1は、回折層11のうちで、第2領域11R2以外の部分を埋める領域であり、回折光を個人認証媒体10の外部に向けて射出する領域である。なお、回折層11は、表面10sと対向する平面視において、多角形状などの楕円形状以外の形状を有してもよい。
【0031】
印刷部12は、文字情報を含む部分であり、例えば、個人認証媒体10の名称、所有者の国籍、所有者の名前、所有者の生年月日、および、所有者の個人番号などを含んでいる。
【0032】
図2は、
図1のI−I線に沿う個人認証媒体10の断面構造を示している。なお、
図2では、図示の便宜上、個人認証媒体10の厚さ、および、個人認証媒体10の大きさに占める回折層11の大きさが誇張されている。また、
図2では、回折層11が備える回折要素の数を大幅に減らした状態で、個人認証媒体10が図示され、回折層11が備える回折部を示す便宜上、回折層11に対するハッチングが省略されている。
【0033】
図2が示すように、個人認証媒体10は、回折層11と吸収層13とを備えている。回折層11は、光透過性を有し、複数の回折単位30から構成される回折部21を含んでいる。複数の回折単位30は、回折層11の広がる方向に沿って繰り返されるとともに、各回折単位30が、反射型の回折格子から構成された少なくとも1つの回折要素から構成されている。吸収層13は、光透過性を有し、可視光の少なくとも一部を吸収する複数の吸収部22を含んでいる。吸収層13は、回折層11と吸収層13との間を光が透過する状態で回折層11と対向している。より詳しくは、吸収層13は、回折層11に接している。
【0034】
回折層11に対して、吸収層13が位置する側とは反対側が観察側である。回折層11のうち、吸収層13と対向する面とは反対側の面が表面11sである。回折層11の表面11sと対向する平面視において、各吸収部22は、他の吸収部22が重なる回折要素とは異なる1つの回折要素に重なっている。言い換えれば、回折層11の表面11sと対向する平面視において、複数の吸収部22は、それぞれ、互いに異なる回折要素に重なっている。
【0035】
複数の回折要素のうち、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22と重なる回折要素では、回折要素を透過した光が吸収部22によって吸収される。そのため、回折要素を透過した光が、反射されたり散乱されたりすることが抑えられる。
【0036】
これにより、吸収部22に重なる回折要素から射出される光が視認されるとき、回折要素が射出する回折光には、回折光以外の光が混合しにくくなる。それゆえに、吸収部22に重なる回折要素から射出される光において、その回折要素以外の回折要素から射出される光に比べて、回折要素の射出する回折光における彩度が高まるため、個人認証媒体10は、彩度が高い光によって形成される像を表示することができる。結果として、回折層11の形状に対する像の形状における自由度を高めることができる。
【0037】
言い換えれば、個人認証媒体10は、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折層11が、二次元的に並ぶ複数の回折単位30から構成されていても、吸収部22と重なる回折要素、および、回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合に応じた像を表示することができる。
【0038】
回折層11のうち、複数の回折単位30の中で、吸収部22と重なる回折単位30を含む領域が上述した第2領域11R2であり、吸収部22と重ならない回折単位30から構成される領域が上述した第1領域11R1である。
【0039】
回折部21は、複数の回折単位30から構成され、1つの回折単位30は、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33から構成されている。
【0040】
吸収層13のうち、回折層11に接する面が表面13sであり、吸収部22は、吸収層13の表面13sに露出している。そのため、吸収部22が吸収層13の表面13sよりも内側に位置する構成と比べて、吸収層13のうち、吸収部22が位置する部分では、回折層11を透過した光が、回折層11と吸収層13との界面において反射あるいは散乱することが抑えられる。それゆえに、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22と重なる回折要素が射出する回折光において、彩度がより高まりやすくなる。結果として、個人認証媒体10の表示する像の形状がより鮮明になる。
【0041】
吸収層13は複数の吸収部22を含み、全ての吸収部22が、吸収層13の表面13sに露出している。言い換えれば、各吸収部22が吸収層13の表面13sの一部を構成している。
【0042】
吸収層13のうち、表面13sとは反対側の面が裏面13rであり、吸収層13の厚さ方向において、各吸収部22は、表面13sから、表面13sと裏面13rとの間のうち、裏面13rよりも表面13s寄りの位置まで延びている。
【0043】
吸収層13は、レーザー光線の照射によって発色する特性を有し、吸収部22は、吸収層13に対するレーザー光線の照射によって発色した部分である。そのため、回折層11と吸収層13とを対向させた状態で、吸収層13に対して吸収部22を形成することができる。これにより、吸収層13に対して吸収部22を形成した後に、回折層11に対する吸収層13の位置合わせを行う構成と比べて、回折層11が備える回折要素に対する吸収部22の位置の精度を高めることが可能になる。
【0044】
吸収層13は、例えばレーザー光線の照射によって発色するポリカーボネートから形成された層である。吸収層13のうちで発色していない部分は光を透過、反射、または、散乱し、吸収層13のうちで発色した部分である吸収部22は、光を吸収し、例えば黒色を有している。このように、吸収層13において、発色した部分である吸収部22と発色していない部分である非吸収部とは異なる光学的な性質を有する。
【0045】
吸収部22が吸収層13の表面13sに露出しているため、回折層11が吸収層13から取り外されたとき、吸収層13から回折層11を取り外した痕跡が残りやすい。吸収層13から回折層11を取り外した痕跡には、例えば、黒色を有した吸収部22の一部が、回折層11に付着することが挙げられる。
【0046】
そのため、真正の個人認証媒体10から取り外された回折層11が、偽造あるいは改竄された個人認証媒体の吸収層に付されている場合には、回折層11に残る痕跡によって、回折層11を有する個人認証媒体が、真正の個人認証媒体ではないことが判断されやすい。
【0047】
このように、個人認証媒体10は、特定の個人に属する個人情報を含む積層体を備え、積層体は、吸収部22による光の吸収と、回折要素のうち、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22と重なる部分から射出される回折光とによって個人情報を表示するように構成されている。
【0048】
回折層11を内部に含む個人認証媒体では、通常、所定の像を表示するように加工された回折層を個人認証媒体が備えている。そのため、互いに異なる個人を認証するための個人認証媒体であっても、互いに同じ像を表示する回折層を含むことが多い。こうした構成では、真正の個人認証媒体から回折層を取り出しさえすれば、真正の個人認証媒体と同じ像を形成することができる回折層を、偽造あるいは改竄された個人認証媒体に付すことが可能である。そのため、回折層によって、個人認証媒体の真贋を判断することが難しい。
【0049】
これに対して、上述した個人認証媒体10の備える回折層11は、複数の回折単位30が並ぶ構成であるため、回折層11のみでは、回折光を外部に向けて射出するのみであり、吸収層13に形成された吸収部22と回折層11とが揃って始めて、所定の像を形成することが可能である。
【0050】
それゆえに、真正の個人認証媒体10から取り出した回折層11を、偽造あるいは改竄された個人認証媒体に貼り付けるのみでは、真正の個人認証媒体10が表示する像と同等の像を表示することが可能な個人認証媒体を製造することはできない。結果として、上述した個人認証媒体10によれば、個人認証媒体10の偽造を難しくすることができる。
【0051】
個人認証媒体10は、さらに、第1基材14、第2基材15、および、第3基材16を備えている。個人認証媒体10において、第1基材14と第2基材15とが積み重なり、第2基材15のうち、第1基材14に接する面とは反対側の面が表面15sであり、第2基材15の表面15sに吸収層13が位置している。
【0052】
吸収層13の表面13sと対向する平面視において、回折層11は吸収層13の表面13sの一部に位置し、第3基材16は、吸収層13の表面13sのうち、回折層11によって覆われていない部分と、回折層11の全体とを覆っている。第2基材15の表面15sのうち、第2基材15の表面15sと対向する平面視において、回折層11と重ならない部分に、上述した印刷部12が位置している。
【0053】
第3基材16は光透過性を有し、例えば透明である。第1基材14も、第3基材16と同様、光透過性を有し、例えば透明であるが、第1基材14は光透過性を有しなくてもよい。第2基材15は、例えば白色を有しているが、第2基材15は白色以外の色を有してもよい。なお、第2基材15の色は、吸収部22の色とコントラスト差の大きい色であることが好ましく、回折層11が表示する像の色、および、印刷部12の色とコントラスト差の大きい色であることが好ましい。また、第2基材15は、光透過性を有してもよい。
【0054】
図3は、回折層11の表面11sと対向する平面視における回折層11の一部平面構造であって、第1領域11R1の一部平面構造を示している。なお、
図3では、回折単位30を構成する第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33の区別を明確にする目的で、各回折要素にハッチングが付されている。
【0055】
図3が示すように、各回折要素は、回折層11の表面11sと対向する平面視において、楕円形状を有している。吸収部22の形成に用いられるレーザー光線は、レーザー光線の延びる方向と直交する方向に沿う断面の形状が、円形状または楕円形状であることが多い。そのため、各回折要素が楕円形状を有していれば、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22が有する形状を回折要素が有する形状とほぼ相似とすることが容易である。それゆえに、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素の面積に対して吸収部22の面積が占める割合を調節しやすい。
【0056】
各回折要素の形状は、他の全ての回折要素の形状と等しく、各回折要素は、1つの方向に沿って延びる楕円形状を有し、1つの方向と直交する方向に沿って、隣り合う回折要素に接しながら並んでいる。言い換えれば、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折層11の全体には、複数の回折要素が敷き詰められている。
【0057】
各回折単位30において、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33が、1つの方向に沿ってこの順に並び、全ての回折単位30において、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33は、同じ順番で並んでいる。
【0058】
言い換えれば、回折層11の表面11sと対向する平面視では、回折層11の全体にわたって、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33が、1つの方向に沿って順に繰り返し並んでいる。一方で、1つの方向と直交する方向では、同種の回折要素が、隣り合う回折要素に接しながら並んでいる。
例えば、複数の回折単位30は、第1方向D1および第2方向D2に沿って並び、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33は、例えば第1方向D1に沿ってこの順に並んでいる。また、複数の第1回折要素31が第2方向D2に沿って並び、複数の第2回折要素32が第2方向D2に沿って並び、かつ、複数の第3回折要素33が第2方向D2に沿って並んでいる。
【0059】
回折単位30は、1つの回折単位30に含まれる第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33の各々から射出される光が、互いに混合されて視認される程度の大きさを有している。
【0060】
各回折要素は回折格子から構成され、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33の間では、各回折要素に含まれる回折格子の空間周波数が互いに異なっている。回折格子の空間周波数は、500本/mm以上2500本/mm以下とすることができる。より好ましくは、回折格子の空間周波数は、1000本/mm以上2000本/mm以下とすることができる。また、回折格子の深さは、50nm以上150nm以下とすることができる。各回折要素において、空間周波数は回折要素の全体にわたって均一である。回折格子は、凹凸面、すなわち、微細な凹面と凸面から構成される単位構造が、所定の周期で並んだ構造から構成され、微細な凹面および凸面は、例えば回折要素が並ぶ方向と直交する方向に沿って直線状に延び、かつ、凹部と凸部とが、回折要素が並ぶ方向に沿って交互に並んでいる。
【0061】
回折単位30は、各回折要素の間における空間周波数における差異と、各回折要素に含まれる単位構造が繰り返される方向とを設定することによって、以下のように構成されている。すなわち、回折層11は、第1回折要素31から射出される赤色の回折光、第2回折要素32から射出される緑色の回折光、および、第3回折要素33から射出される青色の回折光が、観察側における所定の点である定点に向けて、同時に射出されるように構成されている。
【0062】
回折格子の空間周波数とは、回折格子の縞を形成する間隔、言い換えれば、単位長さ当たりにおける単位構造の繰り返し数である。回折格子において空間周波数が変わると、観察側における所定の定点において、回折格子の視認される色、言い換えれば、回折格子が射出する光の色が変わる。
【0063】
第1回折要素31は、定点に向けて赤色の回折光を射出するような空間周波数を有し、第2回折要素32は、定点に向けて緑色の回折光を射出するような空間周波数を有し、かつ、第3回折要素33は、定点に向けて青色の回折光を射出するような空間周波数を有している。そのため、回折単位30から射出された光は、赤色、緑色、および、青色が混色された白色を有した光である。
【0064】
また、回折格子は、凹面と凸面とが並ぶ方向と、凹面の窪む方向、言い換えれば凸面の突き出る方向とによって規定される面に向けて回折光を射出する。そのため、回折格子では、単位構造が繰り返される方向が変わることによって、回折光の射出される方向が変わる。それゆえに、各回折要素から射出される回折光が、定点に対して同時に射出されるためには、各回折要素の間において、単位構造が繰り返される方向がほぼ等しいことが必要とされる。
【0065】
第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33の各々は、回折要素が並ぶ方向における寸法、および、回折要素が並ぶ方向と直交する方向における寸法の各々が、15μm以上50μm以下であることが好ましい。各寸法が15μm以上であれば、各回折要素から射出される回折光の強度が、肉眼での観察でも認識できる程度に大きくなる。また、各寸法が50μm以下であれば、回折層11によって表示する像の解像度が粗くなることが抑えられる。
【0066】
なお、上述したように、回折層11は第3基材16によって覆われているが、第3基材16は光透過性を有した基材であるため、各回折要素から射出された光は、第3基材16を介して、個人認証媒体10の観察側に射出される。
【0067】
図4は、回折層11の表面11sと対向する平面視における回折層11の一部平面構造であって、第2領域11R2の一部平面構造の一例を吸収部22とともに示している。なお、
図4では、回折単位30を構成する第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33の区別を明確にする目的で、各回折要素にハッチングが付されている。また、
図4では、各回折要素と吸収部22とが重なる構成を説明する便宜上、吸収部22にドットが付されている。
【0068】
図4が示すように、第2領域11R2においても、第1領域11R1と同様、複数の回折単位30が敷き詰められている。回折層11の表面11sと対向する平面視において、第2領域11R2に属する複数の回折単位30のうち、少なくとも一部の回折単位30に含まれる回折要素が、吸収部22と重なっている。
【0069】
上述したように、吸収部22は、個人認証媒体10の観察側から見て、回折層11の下層である吸収層13に位置しているため、個人認証媒体10の観察者は、吸収部22と重なる回折要素から射出される回折光を視認することができる。
【0070】
複数の回折単位30には、例えば、第1回折単位30A、第2回折単位30B、および、第3回折単位30Cが含まれ、3つの回折単位30の間では、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22と重なる回折要素が異なっている。
【0071】
第1回折単位30Aでは、3つの回折要素のうち、第3回折要素33が吸収部22と重なっている。回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22は、第3回折要素33の全体と重なる大きさ、かつ、形状を有している。すなわち、吸収部22は、回折層11の表面11sと対向する平面視において、第3回折要素33とほぼ相同な楕円形状を有している。
【0072】
個人認証媒体10に対して観察側から光が入射したとき、回折層11に対して観察側から入射した光の一部は、回折単位30にて回折された回折光として観察側に射出される。一方で、回折層11に入射した光の残りの部分は、回折単位30を透過する。回折層11は透明であるため、回折層11に入射した光において、回折層11にて回折される光の光量が、回折層11を透過する光の光量よりも小さい。
【0073】
ここで、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素と吸収部22とが重ならない構成では、回折層11を透過した光の一部は、回折層11と吸収層13との間における屈折率の差などにより、回折層11と吸収層13との界面や吸収層13中において反射あるいは散乱される。また、回折層11を透過した光の他の一部は、吸収層13と第2基材15との間における屈折率の差などにより、吸収層13と第2基材15との界面や第2基材15中において反射あるいは散乱される。
【0074】
そのため、回折要素から観察側の定点に向けて射出された光は、これらの反射光あるいは散乱光とともに観察者の目に入るため、回折要素から射出された回折光の有する彩度が、回折光そのものが有する色彩の彩度よりも低くなる。
【0075】
回折単位30は、上述したように、3つの回折要素から射出された光が1つの混合された光として射出される程度の大きさを有している。また、回折単位30に含まれるいずれの回折要素も吸収部22と重ならなければ、各回折要素から射出される光における彩度が同程度になる。そのため、上述したように、1つの回折単位30から射出される光の色は、赤色、緑色、および、青色が混合された白色になる。
【0076】
これに対して、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素と吸収部22とが重なる部分では、回折層11を透過した光による反射光あるいは散乱光が、黒色を有する吸収部22によって吸収される。そのため、回折要素から射出された回折光は、これらの不要な光が取り除かれた状態で、観察者によって観察される。それゆえに、吸収部22と重なる回折要素から射出された回折光の彩度が、吸収部22と重ならない回折要素から射出された回折光の彩度に比べて高くなる。結果として、回折単位30から射出された光の色は、彩度の高められた回折光の色彩として視認される。
【0077】
上述したように、第1回折単位30Aでは、回折層11の表面11sと対向する平面視において、第3回折要素33のみが吸収部22と重なっているため、第3回折要素33が射出する回折光における青色の彩度が高まる。それゆえに、第1回折単位30Aから射出される光は、青色の光として視認される。
【0078】
第2回折単位30Bでは、回折層11の表面11sと対向する平面視において、3つの回折要素のうち、第2回折要素32の一部が吸収部22と重なっている。回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22は、第2回折要素32における中心を含む部分と重なり、第2回折要素32とほぼ相似の楕円形状を有している。
【0079】
第2回折要素32のみが吸収部22と重なっているため、第2回折要素32が射出する回折光において緑色の彩度が高まる。それゆえに、第2回折単位30Bから射出される光は、緑色の光として視認される。
【0080】
ここで、吸収部22が第2回折要素32の全体に重なる大きさ、および、形状を有する構成では、第2回折要素32から射出される回折光のほぼ全てにおいて、回折光の有する彩度が高められる。一方で、吸収部22が第2回折要素32の一部に重なる大きさ、および、形状を有する構成では、第2回折要素32から射出される回折光のうち、吸収部22と重なる部分から射出される回折光において、彩度が高められる。
【0081】
言い換えれば、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合に応じて、その回折要素から射出される光が有する彩度が高められる度合いが決まる。より具体的には、回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合が大きいほど、その回折要素から射出される光が有する彩度が高められる度合いが大きくなる。反対に、回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合が小さいほど、その回折要素から射出される光が有する彩度が高められる度合いが小さくなる。
【0082】
第3回折単位30Cでは、回折層11の表面11sと対向する平面視において、3つの回折要素のうち、第1回折要素31と第3回折要素33との各々が吸収部22と重なっている。
【0083】
第1回折要素31に重なる吸収部22は、第1回折要素31の全体と重なる大きさ、および、形状を有している。すなわち、吸収部22は、第1回折要素31とほぼ相同な楕円形状を有している。また、第3回折要素33に重なる吸収部22は、第3回折要素33の全体と重なる大きさ、および、形状を有している。すなわち、吸収部22は、第3回折要素33とほぼ相同な楕円形状を有している。
【0084】
こうした第3回折単位30Cでは、第1回折要素31から射出される回折光における赤色の彩度と、第3回折要素33から射出される回折光における青色の彩度とが高められる。そのため、第3回折単位30Cから射出される回折光は、赤色の回折光と青色の回折光とが混合された色、すなわち紫色を有した光として視認される。
【0085】
このように、1つの回折単位30が有する3つの回折要素のうち、複数の回折要素が吸収部22と重なる構成によれば、回折単位30から射出される回折光の色は、各回折要素から射出された回折光の色が混色された色として視認される。
【0086】
また、上述したように、各回折要素から射出される回折光の彩度が高められる度合いは、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合によって決まる。そのため、複数の回折要素が吸収部22と重なる構成において、各回折要素の面積に占める吸収部22の面積の割合を、複数の回折要素間で異ならせることによって、回折単位30の中で、吸収部22と重なる回折要素が同じであっても、回折単位30から射出される回折光の色を変えることもできる。
【0087】
しかも、回折単位30が、赤色の回折光を射出する第1回折要素31、緑色の回折光を射出する第2回折要素32、および、青色の回折光を射出する第3回折要素33から構成されている。そのため、赤色の光、緑色の光、および、青色の光の加法混色によって、回折単位30の射出する光の色を様々な色とすることができる。
【0088】
[個人認証媒体の製造方法]
図5から
図8を参照して、個人認証媒体の製造方法を説明する。
図5が示すように、個人認証媒体10を製造する際には、個人認証媒体10の回折層11を含む転写箔40を準備する。
【0089】
転写箔40は、支持層41と回折層11とを備え、回折層11は、支持層41に対して剥離可能な強度で取り付けられている。回折層11は、回折部21を含む凹凸構造層11aと、接着層11bとを備え、凹凸構造層11aのうち、支持層41に接する面が、上述した回折層11の表面11sに相当し、支持層41に接する面とは反対側の面が、回折部21を構成する回折格子としての凹凸面である。
【0090】
なお、転写箔40は、支持層41、凹凸構造層11a、および、接着層11bの他に、2つの層の間に位置する中間層を備えてもよい。また、回折層11は、回折部21として機能する凹凸面での光学的な効果を高める反射層を備えてもよい。反射層は、回折層11の全面に設けられてもよく、部分的に設けられてもよい。反射層を部分的に設ける場合には、例えばメッシュ状の反射層とすることができる。反射層は光を透過する薄膜であればよい。反射層の形成材料には、無機材料を用いることができる。無機材料には、無機化合物を用いることができる。無機化合物としては、金属や、金属化合物を用いることができる。金属化合物としては例えば、ZnS、および、TiO
2などを用いることが可能である。なお、回折層11がこうした反射層を備えていない構成であっても、凹凸構造層11aと接着層11bとの間での屈折率の差によって、凹凸構造層11aと接着層11bとの界面、すなわち回折部21にて光を反射させることは可能である。
【0091】
こうした転写箔40を形成する際には、まず、支持層41を準備する。支持層41は樹脂製のフィルムであることが好ましく、支持層41の形成材料は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、および、PP(ポリプロピレン)などでればよい。このうち、凹凸構造層11aを形成するときに、支持層41にかかる熱や、支持層41に接する溶剤などによる変形や変質の少ない材料を支持層41の形成材料として用いることが好ましい。
【0092】
なお、紙、合成紙、プラスチック複層紙、および、樹脂含浸紙などを支持層41として用いることも可能である。支持層41の厚さは、4μm以上であることが好ましい。支持層41の厚さが4μm以上であれば、支持層41を取り扱う上で好ましい程度に高い物理的な強度を支持層41が有することができ、支持層41が取り扱いやすくなる。支持層41の厚さは、12μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0093】
次いで、支持層41の1つの面に凹凸構造層11aを形成する。凹凸構造層11aは、例えば、以下の工程を経て形成される。凹凸構造層11aの形成材料を含む塗液を準備し、塗液を支持層41の1つの面に塗布して、塗膜を形成する。その後、回折部21として機能する凹凸面を形成するための原版を塗膜に押し当てる。そして、塗膜に対して原版を押し当てた状態で、塗膜を硬化させることによって、凹凸構造層11aを得ることができる。
【0094】
凹凸構造層11aの形成材料は、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂である。具体的には、熱可塑性樹脂として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、および、ビニル系樹脂などが挙げられ、熱硬化性樹脂として、ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ樹脂、および、フェノール系樹脂などが挙げられる。
【0095】
また、凹凸構造層11aの形成材料には、フォトポリマーを用いることもできる。フォトポリマーとして、例えば、エチレン性不飽和結合、または、エチレン性不飽和基を持つモノマー、オリゴマー、および、ポリマーなどを用いることができる。モノマーとして、例えば、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。また、オリゴマーとして、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、および、ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。また、ポリマーとして、ウレタン変性アクリル樹脂、および、エポキシ変性アクリル樹脂などが挙げられる。なお、上述した材料は、フォトポリマーの一例であり、これら以外のフォトポリマーを用いることも可能である。
【0096】
次いで、凹凸構造層11aの回折部21に接着層11bを形成する。接着層11bは、転写箔40に含まれる回折層11を被転写層である吸収層13に貼り付けるための層である。接着層11bは、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、および、塩化ビニル樹脂などを主成分とする接着剤によって形成することができる。すなわち、接着層11bの形成材料は、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、および、塩化ビニル樹脂などであればよい。接着層11bの厚さは、用途に応じて適宜選択すればよいが、通常、0.1μm以上10μm以下程度であればよく、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0097】
なお、回折層11が凹凸構造層11aの回折部21に反射層を有する構成であれば、回折部21に接着層11bを形成する前に、回折部21に対して反射層を形成すればよい。例えば、上述したZnS、および、TiO
2などから形成される反射層は、スパッタ法、および、真空蒸着法などを用いて形成することができる。
【0098】
そして、第1基材14、第2基材15、および、第3基材16と、吸収層13とを準備する。第1基材14、第2基材15、および、第3基材16には、樹脂製のフィルムを用いることができる。樹脂製のフィルムの形成材料には、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、非晶性ポリエステル樹脂(PET−G)、および、ポリカーネート樹脂(PC)などを用いることができる。
【0099】
特に、従来から各種のカードの基材やパスポートの基材などに用いられているポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、非晶性ポリエステル樹脂(PET−G)、および、ポリカーネート樹脂(PC)を各基材の形成材料として用いると、熱や圧力などによって積層体を一体化する加工が容易になる点で好ましい。
【0100】
なお、白色を有する第2基材15は、これらの形成材料に対して、白色の顔料および染料などが添加されていればよい。
【0101】
吸収層13の形成材料には、ポリカーボネートに対して、所定の波長を有したレーザー光線を吸収するエネルギー吸収体が添加された材料を用いることができる。吸収層13には、例えば、SABIC社のLEXANシリーズSD8B94などが挙げられる(LEXANは登録商標)。
【0102】
第1基材14、第2基材15、第3基材16、および、吸収層13の厚さは、50μm以上400μm以下であることが好ましい。これらの厚さが50μm以上であることによって、これら基材および層を取り扱う上で好ましい程度に高い物理的な強度を、各基材および層が有することができる。そのため、第1基材14、第2基材15、第3基材16、および、吸収層13が取り扱いやすくなる。特に、第2基材15が50μm以上の厚さを有することによって、第2基材15に印刷部12を形成するときに、第2基材15にしわなどが生じることが抑えられる。
【0103】
また、第1基材14、第2基材15、第3基材16、および、吸収層13の厚さが400μm以下であることによって、個人認証媒体10を製造する際に、これら基材や層自体が有する厚さのばらつきや、たわみの影響を抑えることができる。なお、第1基材14、第2基材15、第3基材16、および、吸収層13の厚さは、75μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0104】
第2基材15の1つの面には、予め印刷部12を形成することが好ましい。印刷部12は、例えば、上述した個人情報などの所定の情報を含む要素である。印刷部12が有する色は任意であってよく、また、印刷部12が含む情報は、上述した文字や数字による情報に限らず、所定の記号や絵柄などであってもよい。
【0105】
印刷部12の形成材料は、例えばインキである。インキには、印刷方法に応じて、オフセットインキ、活版インキ、および、グラビアインキなどを用いることができる。また、インキが有する組成によってインキを分類した場合には、印刷部12の形成材料として、例えば、樹脂インキ、油性インキ、および、水性インキなどを用いることができる。さらには、インキを乾燥させる方法の違いに応じて、印刷部12の形成材料には、例えば、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキ、および、紫外線硬化型インキなどを用いることができる。
【0106】
また、印刷部12の形成材料には、機能性インキを用いてもよい。機能性インキを用いて形成した印刷部12では、印刷部12に対して光を照射する角度、および、印刷部12を観察する角度などに応じて印刷部12の有する色が変わる。機能性インキとして、例えば、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキ、および、パールインキなどが挙げられる。
【0107】
あるいは、印刷部12は、トナーを用いた電子写真法によって形成してもよい。この場合には、例えば、帯電性を有したプラスチック粒子に対して、黒鉛および顔料などの色粒子を付着させたトナーを準備する。そして、プラスチック粒子の帯電に起因する静電気を用いて、トナーを被印刷体である第2基材15に転写し、転写したトナーを加熱することによって、第2基材15に定着させる。これにより、印刷部12を形成することができる。
【0108】
図6が示すように、吸収層13の1つの面に、転写箔40が有する回折層11を転写する。このとき、吸収層13に対して、回折層11が有する接着層11bを接触させた状態で、支持層41のうち、回折層11に接する面とは反対側の面を吸収層13に向けて押し付けながら加熱することによって、接着層11bを吸収層13に接着させる。そして、凹凸構造層11aから支持層41を剥がすことによって、吸収層13に対して回折層11を転写する。
【0109】
図7が示すように、第1基材14、印刷部12を有する第2基材15、吸収層13、回折層11、および、第3基材16が積層された積層体を形成する。このとき、第2基材15と吸収層13とを対向させ、かつ、第1基材14、第2基材15、吸収層13、回折層11、および、第3基材16をこの順に積層した状態で、所定の熱と圧力とを掛けることによって、複数の層をラミネートする。
【0110】
図8が示すように、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収層13のうち、所定の回折要素と重なる部分に対して、レーザー印字装置50を用いてレーザー光線LBを照射する。これにより、吸収層13の一部に吸収部22を形成することによって、
図2を用いて先に説明した個人認証媒体10を得ることができる。
【0111】
[実施例]
上述した個人認証媒体の実施例を説明する。
25μmの厚さを有するPETフィルム(ルミラー25T60、東レ株式会社)(ルミラーは登録商標)を支持層として準備し、グラビア印刷法を用いて、下記の組成を有する凹凸構造層用インキを2μmの厚さで支持層に塗布した。そして、凹凸構造層用インキに含まれる溶剤を揮発させて除去した後、凹凸レリーフを有する金属円筒板を用いて、凹凸構造層用インキに対してロール形成加工を行った。これにより、回折部を有する凹凸構造層を形成した。
【0112】
なお、凹凸レリーフとして、複数の回折単位であって、各回折単位において、第1回折要素、第2回折要素、および、第3回折要素がこの順に並んだ回折単位を形成するための原版を用いた。また、ロール形成加工において、プレス圧力を2Kgf/cm
2とし、プレス温度を240℃とし、プレススピードを10m/minとして、金属円筒板を凹凸構造層用インキに押し当てた。
【0113】
そして、回折部に対して、真空蒸着法を用いて透明な反射層を形成した。なお、反射層の形成材料をZnSとし、反射層の厚さを600Åとした。次いで、グラビア印刷法を用いて、下記の組成を有する接着層用インキを4μmの厚さで塗布した。接着層用インキに含まれる溶剤を揮発させて除去することによって、接着層を形成した。これにより、回折層を含む転写箔を得た。
【0114】
[凹凸構造層用インキ]
高分子メタクリル(PMMA)樹脂 2質量部
低粘性ニトロセルロース 12質量部
シクロヘキサノン 10質量部
【0115】
[接着層用インキ]
ポリエステル樹脂 20質量部
メチルエチルケトン 40質量部
トルエン 50質量部
【0116】
レーザー光線の照射によって発色するポリカーボネート基材を吸収層として準備した。ホットスタンプ転写機を用いて転写箔の有する回折層を吸収層に接着し、支持層を回折層から取り除いた。ポリカーボネート基材として、100μmの厚さを有するLEXAN SD8B94(SABIC社製)を用いた。なお、ホットスタンプ転写機の温度を120℃とし、ホットスタンプ転写機によって転写箔を吸収層に押し付ける時間を1秒間とした。
【0117】
第1基材、第2基材、回折層が転写された吸収層、および、第3基材をこの順に積層し、所定の熱と圧力とを掛けた状態で、これらをラミネートした。ラミネートにおいて、温度を200℃とし、圧力を80N/cm
2とし、ラミネートの時間を25分間とした。そして、ラミネートによって形成された積層体の一部を、回折層の表面と対向する平面視において、カード状を有するように切り抜いた。
【0118】
なお、第1基材として、100μmの厚さを有するLEXAN SD8B14(SABIC社製)を用い、第2基材として、400μmの厚さを有するLEXAN SD8B24(SABIC社製)を用いた。また、第3基材として、200μmの厚さを有するLEXAN SD8B14(SABIC社製)を用いた。
【0119】
1064nmの波長を有したレーザー光線を射出するファイバーレーザー型のレーザー印字装置を用いて、積層体の吸収層にレーザー光線を照射した。回折層の表面と対向する平面視において、複数の回折要素のうちのいずれかと1つずつ重なるように、複数の吸収部を形成した。このとき、観察側の定点に対して、複数の回折要素と、複数の吸収部とによって、所定の色を有した上半身像が表示されるように、複数の吸収部を吸収層に形成した。これにより、個人認証媒体を得た。
【0120】
観察側の定点から個人認証媒体を観察したところ、所定の色を有した上半身像が表示されることが認められた。また、定点以外から個人認証媒体を観察したところ、所定の色を有した上半身像が表示されないこと、すなわち、個人認証媒体の表示する上半身像は、インキなどを用いた印刷によって得られる像とは異なる光学的な効果を有することが認められた。また、個人認証媒体を破壊し、吸収層から回折層を剥がしたところ、所定の色を有した上半身像が表示されなくなることが認められた。
【0121】
以上説明したように、積層体、個人認証媒体、および、積層体の製造方法の第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)吸収部22に重なる回折要素から射出される光において、その回折要素以外の回折要素から射出される光に比べて、回折要素の射出する回折光における彩度が高まるため、個人認証媒体10は、彩度が高い光によって形成される像を表示することができる。それゆえに、回折層11の形状に対する像の形状における自由度を高めることができる。
【0122】
(2)回折層11と吸収層13とを対向させた状態で、吸収層13に対して吸収部22を形成することができる。そのため、吸収層13に対して吸収部22を形成した後に、回折層11に対する吸収層13の位置合わせを行う構成と比べて、回折層11が備える回折要素に対する吸収部22の位置の精度を高めることが可能になる。
【0123】
(3)吸収部22が吸収層13の表面13sよりも内側に位置する構成と比べて、吸収層13のうち、吸収部22が位置する部分では、回折層11を透過した光が、回折層11と吸収層13との界面において反射あるいは散乱することが抑えられる。それゆえに、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22と重なる回折要素が射出する回折光において、彩度がより高まりやすくなる。結果として、個人認証媒体10の表示する像の形状がより鮮明になる。
【0124】
(4)回折単位30が、赤色の回折光を射出する第1回折要素31、緑色の回折光を射出する第2回折要素32、および、青色の回折光を射出する第3回折要素33から構成される。そのため、赤色の光、緑色の光、および、青色の光の加法混色によって、回折単位30の射出する光の色を様々な色とすることができる。
【0125】
(5)回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22が有する形状を回折要素が有する形状とほぼ相似とすることが容易である。それゆえに、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素の面積に対して吸収部22の面積が占める割合を調節しやすい。
【0126】
[第1実施形態の変形例]
なお、上述した第1実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・個人認証媒体10の表示する個人情報は、所有者の上半身像に限らず、国籍、生年月日、および、氏名などの情報であってもよく、これらの情報は、文字や絵柄などから構成されていてもよい。
【0127】
・各回折要素の形状は、円形状であってもよい。こうした構成であっても、各回折要素の形状が楕円形状である構成とほぼ同等の効果を有することができる。すなわち、上述した(5)と同等の効果を得ることができる。
【0128】
・各回折要素の形状は、円形状または楕円形状以外の形状であって、例えば、矩形状などであってもよい。また、第1回折要素31、第2回折要素32、および、第3回折要素33は、互いに同じ形状、および、同じ大きさでなくてもよく、形状は相似である一方で、互いに異なる大きさを有してもよいし、互いに異なる形状、かつ、互いに異なる大きさを有してもよい。なお、回折層11の表面11sと対向する平面視において、各回折要素の面積が回折単位30の面積に占める割合が大きいほど、その回折要素から射出される回折光の強度が高まる。
【0129】
・回折単位30には、空間周波数の互いに異なる2つの回折要素が含まれてもよいし、空間周波数の互いに異なる4つ以上の回折要素が含まれてもよい。あるいは、回折単位30は、特定の空間周波数を有する1つの回折要素から構成されてもよい。また、各回折要素の空間周波数は、赤色、緑色、および、青色の回折光を射出するような空間周波数でなくてもよく、その他の色を有した回折光を射出するような空間周波数でもよい。こうした構成であっても、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部22に重なる回折要素から射出される回折光によって、個人認証媒体の表示する像の形状が形成されるため、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0130】
・吸収部22の有する色は、黒色に限らず、所定の色相を有した他の色であって、可視光の少なくとも一部を吸収することの可能な色であってもよい。こうした構成であっても、吸収部が可視光を吸収する以上は、上述した(1)に準じた効果を少なからず得ることはできる。
【0131】
・吸収部22は、吸収層13の内部であって、吸収層13の表面13sと裏面13rとに露出しない部位に位置してもよいし、吸収層13の裏面13rに露出し、かつ、吸収層13の厚さ方向において、吸収層13の表面13sよりも裏面13r寄りの部位まで延びていてもよい。あるいは、吸収部22は、吸収層13の表面13sと裏面13rとの両方に露出し、かつ、吸収層13の表面13sから裏面13rまでにわたって位置していてもよい。
【0132】
・吸収層13はレーザー光線の照射によって発色する層でなくてもよい。こうした構成では、吸収部は、例えばインクやトナーによって形成されればよく、インクやトナーは、可視光の少なくとも一部を吸収することが可能な色を有していればよい。こうした構成であっても、回折層11の表面11sと対向する平面視において、吸収部と重なる回折要素から射出された光によって、所定の像が形成されるため、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0133】
・回折層11と吸収層13との間には、光透過性を有する他の層が位置してもよい。こうした構成であっても、回折層11を透過した光が吸収層13にまで到達するため、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0134】
・吸収部22は、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素とは異なる形状を有してもよい。こうした構成であっても、吸収部と重なる回折要素から射出された光によって、所定の像が形成されるため、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0135】
・吸収層13には、回折層11の表面11sと対向する平面視において、回折要素以外の部分と重なる部分に、可視光の少なくとも一部を吸収する吸収部を有してもよい。こうした吸収部によれば、各回折要素から射出される回折光が、隣り合う回折要素から射出された回折光と混じり合うことを抑えることができる。また、回折要素以外の部分から個人認証媒体10の外部に射出される光を抑えることができるため、回折単位30から射出される光が有する彩度が低くなることが抑えられる。
【0136】
・
図9および
図10を参照して、各回折要素を構成する回折格子を説明する。なお、
図9および
図10には、各回折要素の一例として、回折層11の表面11sと対向する平面視において矩形状を有する回折要素が示され、吸収部22の一例として、回折層11の表面11sと対向する平面視において矩形状を有する吸収部22が示されている。
【0137】
図9が示すように、各回折要素における回折格子は、1つの方向に沿って延びる溝である格子パターンが、1つの方向と直交する方向に沿って繰り返された構成でもあり、1つ方向は例えば第1方向D1であり、1つの方向と直交する方向が第2方向D2である。また、空間周波数は、単位長さ当たりの格子パターンの数でもある。なお、
図9および
図10では、回折格子が有する格子パターンGPが実線で示されている。
【0138】
上述したように、第1回折要素31は赤色の光を射出するような空間周波数を有し、第2回折要素32は緑色の光を射出するような空間周波数を有し、第3回折要素33は青色の光を射出するような空間周波数を有している。そのため、3つの回折要素において、第1回折要素31の空間周波数が最も小さく、第3回折要素33の空間周波数が最も大きく、第2回折要素32の空間周波数が、第1回折要素31の空間周波数と第3回折要素33の空間周波数との間の値である。
【0139】
図10が示すように、各回折要素が有する格子パターンGPは、第1方向D1のみに沿って延びる溝でなくてもよい。例えば、各格子パターンGPは、第1格子要素GP1、第2格子要素GP2、および、第3格子要素GP3から構成され、第1方向D1に沿って3つの要素がこの順に並んでいる。格子パターンGPにおいて、第2格子要素GP2は第1方向D1に沿って延びる一方で、第1格子要素GP1および第3格子要素GP3は、それぞれ第1方向D1と交差する方向に沿って延びている。より詳しくは、第1格子要素GP1と第3格子要素GP3とは、第2方向D2に沿って延びる対称軸に対して互いに線対称な方向に沿って延びている。
【0140】
各回折要素において、複数の第1格子要素GP1は互いに平行な方向に沿って延び、かつ、第2方向D2に沿って各回折要素に固有の空間周波数を満たすように並んでいる。また、複数の第3格子要素GP3は互いに平行な方向に沿って延び、かつ、第2方向に沿って各回折要素に固有の空間周波数を満たすように並んでいる。
【0141】
回折格子では、格子パターンに直交する方向に沿って延びる平面上に回折光が射出されるため、第1格子要素GP1が射出する回折光の射出方向と、第2格子要素GP2が射出する回折光の射出方向と、第3格子要素GP3が射出する回折光の射出方向とは互いに異なっている。
【0142】
これにより、観察者が、個人認証媒体10の表面10sにおける法線方向に対して傾きを有する方向から個人認証媒体10を視認したときにも、各回折要素から射出される光が観察者によって視認されやすくなる。また、第2格子要素GP2が第1方向D1に対して傾きを有する方向に沿うように回折層11が吸収層13に転写されたときにも、個人認証媒体10の表面10sにおける法線方向を含み、かつ、第2方向D2に沿って延びる平面には、第1格子要素GP1または第3格子要素GP3が射出する回折光が到達しやすい。そのため、第2格子要素GP2の延びる方向が第1方向D1と交差する方向であるときにも、個人認証媒体10の表面10sにおける法線方向から個人認証媒体10を視認する観察者が、各回折要素の射出した回折光を視認しやすくなる。
【0143】
・回折要素を構成する回折格子は、回折格子を構成する格子パターンが延びる方向と直交する断面形状が矩形波状であるラミナー回折格子であってもよいし、断面形状が鋸歯状であるブレーズド回折格子であってもよいし、断面形状が正弦波状であるホログラフィック回折格子であってもよい。
【0144】
[第2実施形態]
図11から
図14を参照して、本発明の積層体、個人認証媒体、および、積層体の製造方法を具体化した第2実施形態を説明する。第2実施形態は、第1実施形態と比べて、積層体の一例である個人認証媒体が、検出装置によって位置が検出される被検出部を有する点が異なっている。そのため、以下では、こうした相違点を詳しく説明することに加えて、第2実施形態のうち、第1実施形態と共通する構成には、第1実施形態と同じ符号を付すことによって、その詳しい説明を省略する。また、以下では、積層体の一例としての個人認証媒体の構成、および、積層体の製造方法の一例としての個人認証媒体の製造方法を順に説明する。
【0145】
[個人認証媒体の構成]
図11および
図12を参照して、個人認証媒体の構成を説明する。
図11が示すように、個人認証媒体60は、第1実施形態の個人認証媒体10と同様、二次元的に広がる板形状を有し、同じく二次元的に広がる表面60sを有している。表面60sと対向する平面視において、個人認証媒体60の一部に回折層61が位置している。
【0146】
回折層61は、光を射出する被検出部62を含み、被検出部62は、個人認証媒体60の表面60s、言い換えれば回折層61の表面61sと対向する平面視における位置が検出装置によって検出されるように構成された要素である。被検出部62は、被検出部62の位置を被検出部62から射出される光を用いて検出装置が検出するように構成されている。
【0147】
そのため、回折層61と吸収層13とが対向する状態で吸収層13に対してレーザー光線を照射する場合に、回折層61が備える被検出部62の位置を用いて、吸収層13のうち、レーザー光線を照射する部位を決めることができる。
【0148】
回折層61は楕円形状を有し、第1領域61R1、第2領域61R2、および、第3領域61R3から構成されている。回折層61では、表面60sと対向する平面視において、第2領域61R2の周りを第1領域61R1が取り囲み、第1領域61R1の周りを第3領域61R3が取り囲んでいる。第1領域61R1は、第1実施形態の第1領域11R1に相当し、第2領域61R2は第1実施形態の第2領域11R2に相当する。なお、回折層61は、表面60sと対向する平面視において、多角形状などの楕円形状以外の形状を有してもよい。
【0149】
第3領域61R3には、複数の被検出部62が位置し、具体的には4つの被検出部62が位置している。4つの被検出部62は、第2領域61R2を取り囲むように位置している。各被検出部62は、星形状を有している。
【0150】
なお、被検出部62の数は1つ以上であれば任意であり、被検出部62の数が多いほど、被検出部62を用いた位置検出の精度は高くなる。ただし、個人認証媒体60の大きさには、通常、制限があるため、回折層61の大きさにも制限がある。それゆえに、被検出部62の数が多いほど、回折層61に占める第2領域61R2の面積、すなわち、吸収部を形成することの可能な面積が小さくなる。こうした理由から、回折層61に占める第2領域61R2の面積が小さくなることを抑える上では、被検出部62の数は、1つまたは2つであることが好ましい。
【0151】
各被検出部62において、個人認証媒体60の表面60sに沿う1つの方向での寸法の最大値と、表面60sに沿う方向であって、かつ、1つの方向と直交する方向での寸法の最大値とは、0.1mm以上5mm以下であることが好ましい。これら寸法の最大値が0.1mm以上であれば、被検出部62が検出装置によって検出されやすくなり、これら寸法の最大値が5mm以下であれば、回折層61に占める第2領域61R2の面積、すなわち、吸収部を形成することの可能な面積が過剰に小さくなることが抑えられる。
【0152】
図12は、
図11のII−II線に沿う個人認証媒体60の断面構造を示している。なお、
図12では、図示の便宜上、個人認証媒体60の厚さ、および、個人認証媒体60の大きさに占める回折層61の大きさが誇張されている。また、
図12では、回折層61が備える回折要素の数を大幅に減らした状態で、個人認証媒体60が図示され、回折層61が備える回折部、および、被検出部を示す便宜上、回折層61に対するハッチングが省略されている。
【0153】
図12が示すように、個人認証媒体60は、第1実施形態の個人認証媒体10と同様、第1基材14、第2基材15、吸収層13、回折層61、および、第3基材16を備えている。
【0154】
被検出部62は、微細な凹凸を有した凹凸面、言い換えればレリーフ面から構成されている。被検出部62は、所定の光学的な効果を発現する光学素子である。被検出部62は、光を回折する回折素子、光の反射を抑制する反射抑制素子、光を等方的に散乱する等方性散乱素子、光を異方的に散乱する異方性散乱素子、光を屈折させるレンズ素子、および、所定の偏光を選択的に反射する偏光反射素子から構成される群から選択される少なくとも1つであればよい。これにより、各光学素子が射出する光の特性に基づいて、被検出部62の位置を検出することができる。
【0155】
このうち、回折素子は反射型の回折格子から構成され、観察側の所定の定点に向けて、所定の波長を有した回折光を射出する素子である。反射抑制素子は、例えば、可視光の波長以下のピッチで繰り返される凹凸面から構成され、反射抑制素子の界面での反射を抑えることで、反射抑制素子に入射した光のほとんどを透過する素子である。
【0156】
等方性散乱素子は、例えば、複数の凹面あるいは凸面が、回折層61の表面61sと対向する平面視において、不規則に並んだ凹凸面から構成されている。一方で、異方性散乱素子は、例えば、複数の凹面あるいは凸面が、回折層61の表面61sと対向する平面視において、所定の規則に沿って並ぶ凹凸面から構成されている。
【0157】
レンズ素子は、光を屈折させることによって、光を発散あるいは収束させる素子である。偏光反射素子は、例えば、偏光反射素子に入射した光に含まれる偏光のうち、P偏光あるいはS偏光のいずれか一方のみを選択的に反射する素子である。
【0158】
被検出部62が、回折素子および異方性散乱素子であるときには、回折部21が回折光を射出する方向と、被検出部62が回折光あるいは散乱光を射出する方向とが、互いに異なる方向であることが好ましい。すなわち、被検出部62は、回折部21が観察側の上述した定点に向けて回折光を射出するときに、観察側のうち、定点とは異なる点に向けて回折光あるいは散乱光を射出するように構成されていることが好ましい。
【0159】
また、被検出部62が、光を収束させるレンズ素子であるときには、回折部21が回折光を射出する方向と、被検出部62が光を収束させる方向とが、互いに異なる方向であることが好ましい。すなわち、被検出部62は、回折部21が定点に向けて回折光を射出するときに、観察側のうち、定点とは異なる点に対して、光を収束させるように構成されていることが好ましい。
【0160】
こうした構成によれば、観察者が個人認証媒体60を観察するときに、回折部21から射出される光と同時に、被検出部62から射出される光を視認することが抑えられる。これにより、被検出部62から射出される光のために、回折部21から射出される光が、観察者によって視認されにくくなることが抑えられる。
【0161】
[個人認証媒体の製造方法]
図13および
図14を参照して、個人認証媒体の製造方法を説明する。なお、第2実施形態における個人認証媒体の製造方法は、第1実施形態における個人認証媒体の製造方法と比べて、個人認証媒体の製造に用いられる転写箔の構成と、被検出部62の位置検出が行われることとが異なる一方で、それ以外の構成は共通している。そのため、以下では、こうした相違点を詳しく説明する。
【0162】
個人認証媒体60の製造方法は、回折部21と被検出部62とを含む回折層61を準備することと、レーザー光線の照射によって発色する特性を有した吸収層13を準備することと、回折層61と吸収層13とを対向させることと、を含む。また、個人認証媒体60の製造方法は、回折層61の表面61sと対向する平面視における被検出部62の位置を検出装置によって検出することと、被検出部62の位置を基準として、吸収層13のうち、レーザー光線を照射する部位を決めることと、吸収層13にレーザー光線を照射して吸収部22を形成することと、を含む。
【0163】
図13が示すように、転写箔70は、支持層41と回折層61とを備え、回折層61は、支持層41に対して剥離可能な強度で取り付けられている。回折層61は、回折部21および被検出部62を含む凹凸構造層61aと、接着層61bとを備えている。凹凸構造層61aのうち、支持層41に接する面が、回折層61の表面61sに相当し、支持層41に接する面とは反対側の面が、回折部21を構成する回折格子と、被検出部62を構成するレリーフ面とを含む凹凸面61cである。言い換えれば、回折層61は凹凸面61cを有し、凹凸面61cに回折部21と被検出部62とが位置している。
【0164】
回折部21と被検出部62とが1つの凹凸面61c上に位置しているため、回折部21と被検出部62とを同時に形成することができる。そのため、回折部21の位置に対する被検出部62の位置の精度が高まり、結果として、回折要素の位置に対して、被検出部62の位置に基づき形成された吸収部22の位置の精度も高まる。
【0165】
厚さ方向に沿う断面において、凹凸面である回折部21と、同じく凹凸面である被検出部62との間には、平坦面63が位置している。回折部21と被検出部62との間に平坦面63が位置していれば、回折部21と被検出部62とが、平坦面の分だけ互いから離れる。そのため、回折部21と被検出部62とが連続する構成と比べて、被検出部62が射出する光が、回折部21が射出する回折光に影響しにくい。
【0166】
回折層61は、回折部21、および、被検出部62として機能する凹凸面での光学的な効果を高める反射層を備えてもよく、反射層は透明な薄膜であればよい。反射層の形成材料には、例えば、ZnS、および、TiO
2などを用いることが可能である。なお、反射層は、凹凸面61cの全体を覆っていてもよいし、凹凸面61cのうち、回折部21と被検出部62とのみを覆っていてもよい。
【0167】
こうした転写箔70を形成するときには、支持層41の1つの面に凹凸構造層61aを形成する。凹凸構造層61aは、例えば、以下の工程を経て形成される。凹凸構造層61aの形成材料を含む塗液を支持層41の1つの面に塗布して塗膜を形成した後、回折部21および被検出部62として機能する凹凸面61cを形成するための原版を押し当てる。そして、塗膜に対して原版を押し当てた状態で、塗膜を硬化させることによって、凹凸構造層61aを得ることができる。
【0168】
このように、回折部21として機能する凹凸面と、被検出部62として機能する凹凸面とを同一の面として、単一の工程で形成することが可能である。回折部21と被検出部62とを同一の面として単一の工程で形成した場合には、回折部21と被検出部62との相対的な位置の精度は、数百nm程度である。そのため、回折部21に含まれる回折要素に対する吸収部22の位置合わせの精度が高まる。
【0169】
なお、凹凸構造層61aの凹凸面61cに反射層を有する構成であれば、凹凸面61cに接着層61bを形成する前に、凹凸面61cに対して反射層を形成すればよい。例えば、上述したZnS、および、TiO
2などから形成される反射層は、スパッタ法、および、真空蒸着法などを用いて形成することができる。
【0170】
反射層を形成するときに、凹凸面61cのうち、平坦面63を覆うマスクを用いることによって、回折部21と被検出部62とのみに位置する反射層を形成することができる。また、凹凸面61cの全体に反射層を形成した後、反射層の中で、平坦面63に位置する部分のみを除去することによって、回折部21と被検出部62とのみに位置する反射層を形成することができる。
【0171】
個人認証媒体60の製造方法では、第1基材14、第2基材15、吸収層13、回折層61、および、第3基材16を備える積層体に対してレーザー光線の照射を行う前に、検出装置の一例であるレーザー印字装置を用いて、被検出部62の位置を検出する。
【0172】
図14が示すように、レーザー印字装置80は、吸収層13に対してレーザー光線を照射するための照射部に加えて、被検出部62の位置を検出するための検出部を備えている。レーザー印字装置80は、被検出部62から射出される光の状態に基づき、被検出部62の位置を検出する。
【0173】
レーザー印字装置80は、例えば、被検出部62から射出される光の光量、および、波長などに関する情報を予め記憶している。そして、レーザー印字装置80は、回折層61の表面61sと対向する平面視において、積層体から射出される光の状態に関する情報を取得し、予め記憶した情報と取得した情報との比較によって、被検出部62の位置を検出する。このとき、レーザー印字装置80は、回折層61の表面61sと対向する平面視において、所定の面積を有する被検出部62のうち、所定の位置を、吸収層13のうち、吸収部22を形成する部位を特定するための基準点に設定する。
【0174】
また、レーザー印字装置80は、被検出部62の位置、すなわち、基準点の位置に対する各吸収部22の相対位置に関する情報を予め記憶している。レーザー印字装置80は、被検出部62の位置を検出した結果に基づき、基準点の位置を基準として、基準点の位置から所定の距離、かつ、所定の方向に吸収層13のうちでレーザー光線を照射する部位を決める。
【0175】
このように、個人認証媒体60の製造方法では、個人認証媒体60を形成するための積層体が有する被検出部62の位置に基づき、各吸収部22を形成する位置を設定する。
【0176】
ここで、回折層61から射出される回折光と、吸収部22による光の吸収とによって所定の色を有した像を形成する際に、所望とする色と像が有する色とのずれを少なくする上では、回折層61における回折要素の位置と、吸収部22の位置とは、数μm程度の精度で位置合わせをすることが好ましい。
【0177】
上述したように、被検出部62と回折部21とは、1つの原版を用いて一度に形成されているため、回折層61における被検出部62の位置と回折部21の位置、言い換えれば、回折部21を構成する各回折要素の位置との位置合わせの精度は、数百nm程度である。
【0178】
それゆえに、被検出部62の位置に基づき、各吸収部22を形成する位置を設定することによれば、回折部21を構成する回折要素に対して、吸収部22を形成する位置の精度を数μm程度まで高めることが可能にもなる。
【0179】
これに対して、回折層61を吸収層13に転写する工程では、吸収層13に対して回折層61が転写される位置の精度は、数mm程度である。また、個人認証媒体60から取り出した回折層61を、真正品の吸収層13ではなく、偽造品の吸収層に貼り付けたときにも、回折層11に含まれる回折要素の位置と、吸収層に含まれる吸収部の位置との位置合わせの精度は、吸収層13に対して回折層61を転写するときの精度と同様、数mm程度である。
【0180】
そのため、偽造された個人認証媒体は、吸収層13に形成された吸収部22と、回折層61の回折要素とに基づき所定の色を有した像を表示することは可能であるものの、像の有する色を所望とする色、すなわち真正の個人認証媒体60と同等とすることが難しい。それゆえに、個人認証媒体60によれば、個人認証媒体の偽造や改竄を行うことが難しい。
【0181】
なお、積層体の外部に位置する基準点を用いて各吸収部22を形成する位置を設定する場合には、回折要素の位置と、吸収部22の位置との位置合わせの精度は、外部の基準点に対する積層体の位置合わせの精度によって決まる。外部の基準点に対する積層体の位置合わせの精度は、数10μm程度であるため、回折要素に対する吸収部22の位置合わせの精度も、おおよそ数10μm程度になる。
【0182】
すなわち、外部の基準点を用いた場合であっても、回折層61と対向する吸収層13に対して吸収部22を形成する構成によれば、吸収部22の形成された吸収層13に対して回折層61を転写する場合よりも、回折要素の位置に対する吸収部22の位置の精度を高めることはできる。
【0183】
以上説明したように、積層体、個人認証媒体、および、積層体の製造方法の第2実施形態によれば、上述した(1)から(5)の効果に加えて、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0184】
(6)回折層61と吸収層13とが対向する状態で吸収層13に対してレーザー光線を照射する場合に、回折層61が備える被検出部62の位置を用いて、吸収層13のうち、レーザー光線を照射する位置を決めることができる。
【0185】
(7)被検出部62としての各光学素子が射出する光の特性に基づいて、被検出部62の位置を検出することができる。
【0186】
(8)回折部21と被検出部62とが1つの凹凸面61c上に位置しているため、回折部21と被検出部62とを同時に形成することができる。そのため、回折部21の位置に対する被検出部62の位置の精度が高まり、結果として、回折要素の位置に対して、被検出部62の位置に基づき形成された吸収部22の位置の精度も高まる。
【0187】
[第2実施形態の変形例]
なお、上述した第2実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・被検出部62は、回折層61のうちで、回折部21が位置する面とは異なる面に位置してもよい。こうした構成であっても、回折層61が有する被検出部62の位置を用いて、吸収層13のうち、レーザー光線を照射する部位を決めることは可能であるため、上述した(6)に準じた効果を得ることはできる。
【0188】
・回折層61の表面61sと対向する平面視において、被検出部62の形状は星形状に限らず、例えば、十字状、星形状以外の多角形状、および、円形状などの形状を有してもよい。こうした構成であっても、被検出部62が、被検出部62の射出する光によって位置を検出されるように構成されていれば、上述した(6)と同等の効果を得ることはできる。
【0189】
・被検出部62の位置を検出する検出装置は、レーザー光線を照射するレーザー印字装置とは別体であってもよい。こうした構成であっても、検出装置の検出結果である被検出部62の位置を用いて、吸収層13のうち、レーザー印字装置がレーザー光線を照射する部位を決めることによって、上述した(6)と同等の効果を得ることはできる。