(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1バッファ層と前記第2バッファ層との間の部分のドナー濃度の最小値は、前記第2バッファ層と前記第3バッファ層との間の部分のドナー濃度の最小値よりも高いことを特徴とする請求項2または4に記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明にかかる半導体装置の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する実施例の記載に限定されるものではない。以下の説明では、前記の一導電型をn型、他導電型をp型とするが、逆の極性でも得られる効果は同じである。
【0036】
(実施の形態1)
シリコンウエハのn
-ドリフト層の不純物濃度を制御するために、シリコンウエハにプロトンイオン(H
+)を照射して、n
-ドリフト層中にブロードバッファ構造を形成したダイオードおよびその製造方法について説明する。
【0037】
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の構成、ネットドーピング濃度分布を示す図である。
図1において半導体装置の断面図(紙面上側)に示すように、実施の形態1にかかるダイオードは、n型の半導体基板(ウエハ)に形成されている。ウエハのバルクの比抵抗はρ
0(Ωcm)である。このウエハの一方の主面側に、pアノード層2が形成されている。また、ウエハの他方の主面側には、n
+カソード層3が形成されている。pアノード層2(第2半導体層)とn
+カソード層3(第3半導体層)とに挟まれる半導体基板の部分(第1半導体層)がn
-ドリフト層1である。pアノード層2の表面にはアノード電極4が形成されている。n
+カソード層3の表面には、カソード電極5が形成されている。
【0038】
また、
図1において、アノード電極4からの距離−ネットドーピング濃度(log)の特性図に示すように(紙面下側)、n
-ドリフト層1のネットドーピング濃度は、n
-ドリフト層1のほぼ中間付近にピークを有し、pアノード層2およびn
+カソード層3に向かって、傾きをもって減少している、山型でn
-ドリフト層1よりも濃度の高いマウンド状の領域が形成されている。このn型のマウンド状の領域を、ブロードバッファ領域6と呼ぶ。ブロードバッファ領域6の不純物濃度分布の極大値は、n
+カソード層3およびpアノード層2の不純物濃度よりも低い。すなわち、ブロードバッファ領域6は、n
-ドリフト層1の内部に設けられた、ウエハのバルクの不純物濃度よりも高く、かつn
+カソード層3およびpアノード層2よりも低いネットドーピング濃度を有する領域である。
【0039】
このダイオードの構成に関して、本発明にかかる重要な点は、半導体基板(ウエハ)のバルクの比抵抗ρ
0(Ωcm)が、このダイオードの定格電圧V
0(V)に対して、次の(2)式を満たすこと、およびブロードバッファ領域6の実効ドーズ量(同層におけるネットドーピング濃度の総量)が、4.8×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下の範囲にあること、の2点である。
【0040】
0.12V
0≦ρ
0≦0.25V
0 ・・・(2)
【0041】
図2,3は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造プロセスを示す図である。ブロードバッファ領域6は、ウエハの一方の主面側にpアノード層2とアノード電極4を備えたウエハへの、アノード電極側からのプロトンH
+11(
図2(c)、
図3(c)参照)の照射と熱処理によって形成することができる。以下、実施の形態1にかかる半導体装置の製造プロセスについて、
図2、
図3を参照して詳細に説明する。ここでは、一例として、
図1に例示した寸法およびネットドーピング濃度のダイオード(定格電圧:V
0=1200V、定格電流:150A)を製造する場合について説明する。
【0042】
図2(a)〜
図2(g)では、ダイオードの主要な製造工程を順に示す。まず、ウエハ(半導体基板)として、比抵抗が144Ωcm〜300Ωcm、例えば、150Ωcm(リン濃度2.0×10
13atoms/cm
3)で、厚さ500μm程度のFZウエハ10を用意する。このFZウエハ10を第1半導体層とする。以下、FZウエハ10自体の不純物濃度をバルク濃度、その比抵抗をバルク比抵抗と、それぞれ呼ぶことにする(
図2(a))。なお、比抵抗ρ(Ωcm)とドナー濃度N(atoms/cm
3)の関係は、比抵抗が1Ωcmよりも高い場合において、ρ=4.596×10
15/Nと表される。
【0043】
次いで、標準的なダイオードの製造プロセスによって、FZウエハ10の一方の主面側に、第2半導体層となるpアノード層2、図示しないガードリングを含む周辺耐圧構造部、絶縁膜12およびアノード電極4をそれぞれ形成する。pアノード層2の不純物濃度は、例えば、5×10
16atoms/cm
3であり、その接合深さは表面から、例えば、3μmである。また、アノード電極4の材料は、例えば、シリコン濃度が1wt%程度のアルミニウムシリコン(AlSi)などのアルミニウム合金(以下、Al−Si(1%)とする)である(
図2(b))。
【0044】
次いで、アノード電極4側の表面から、サイクロトロンにより加速されたプロトンH
+11を照射する。その際、サイクロトロンの加速電圧は、例えば、7.9MeVであり、プロトンH
+11のドーズ量は、例えば、2.0×10
12atoms/cm
2である。また、アルミアブソーバー(図示せず)を用い、アルミアブソーバーの厚さを調節してアルミアブソーバーを介してFZウエハ10にプロトンH
+11を照射することで、プロトンH
+11の飛程がFZウエハ10表面から60μmとなるようにする。
図2(c)において、プロトンH
+11の照射によりFZウエハ内に生じた結晶欠陥13を×印で示す(
図2(c))。
【0045】
次いで、例えば、350℃で1時間の熱処理を窒素雰囲気で行い(水素を含んでいても構わない)、結晶欠陥13を回復させる。それによって、ウエハ表面から60μmの深さのところを中心としてその前後に20μm程度拡がるn型の高濃度領域が形成される。この高濃度領域が、ブロードバッファ領域6(二本の破線内)である(
図2(d))。
【0046】
次いで、FZウエハ10の他方の主面側(FZウエハ10裏面)の研削およびウェットエッチング30を行い、FZウエハ10を所要の厚さにする。この段階でのFZウエハ10の厚さは、定格電圧V
0=1200Vの場合、典型的には100μm〜160μmである。実施の形態1では、この段階でのFZウエハ10の厚さを120μmとする(
図2(e))。
【0047】
次いで、FZウエハ10の、研削およびウェットエッチング30が行われた面(裏面)に対してリン等のn型不純物をイオン注入する。その際の加速電圧は、例えば、50keVであり、ドーズ量は、例えば、1×10
15atoms/cm
2(不純物濃度;1×10
19atoms/cm
3)である(
図2(f))。次いで、そのイオン注入面に対して、YAG第2高調波レーザ等のレーザ光を例えばダブルパルス法にて照射する。このレーザ照射によって、その前にイオン注入されたリン等のn型不純物が電気的に活性化して、n
+カソード層3となる第3半導体層が形成される(
図2(g))。
【0048】
ここで、ダブルパルス法とは、レーザ光の照射エリアごとに、複数のレーザ照射装置から所定の遅延時間だけ照射タイミングをずらして複数のパルスレーザを連続的に照射する方法である。ダブルパルス法については、特開2005−223301号公報に詳述されている。ダブルパルス法によりレーザ光を照射する際のエネルギー密度は、レーザ光の照射エリアごとに、合計で例えば、3J/cm
2である。また、ダブルパルスの遅延時間は、例えば、300nsecである。
【0049】
最後に、n
+カソード層3の表面にアルミニウム、チタン、ニッケルおよび金の順で金属を成膜し、n
+カソード層3の表面にオーミック接触するカソード電極5を形成し、ダイオードが完成する。FZウエハ10の、pアノード層2とn
+カソード層3の間の半導体基板部分はn
-ドリフト層1となる。
図2(g)の紙面右側に示す特性図(g−1)は、(g)に示すダイオードの断面図に対応するネットドーピング濃度のプロファイルである。
【0050】
また、前述のダイオードの製造プロセスを始める前に、次の製造工程を追加することが好ましい。まず、図示しないが、
図2(a)のFZウエハ10にリンガラスを塗布し、1300℃で10時間のドライブインによってリンと酸素をウエハ両面から拡散させて導入する。その後、ウエハの一方の主面のリン拡散層を削り落とした後にミラー研磨をする。これにより、ウエハの他方の主面(例えば、裏面)のみに、酸素を1300℃での固溶度に相当する1×10
18atoms/cm
3まで導入され、かつウエハの濃度よりも高不純物濃度のリン拡散層(表層濃度1×10
20atoms/cm
3、深さ80μm程度)が存在するウエハを形成する。ついで、このウエハを用いて前述のダイオードの製造プロセス(
図2(b)以降の処理)を行う。上記工程を追加することが好適である理由は、上述した特許文献3に開示されているように、ウエハの裏面に形成され、ウエハの濃度よりも高不純物濃度のリン拡散層が重金属等の不純物のゲッタリング層として作用し、かつアノード層表面からブロードバッファ領域のネットドーピング濃度のピーク(以下、ピーク濃度とする)までの間(すなわち、プロトンH
+の飛程Rp距離)の酸素濃度を高くすることでプロトンH
+11の照射によるブロードバッファ領域内での電子および正孔の移動度の低下を抑えることができるからである。
【0051】
また、多結晶シリコンを原料とするFZウエハのように、元来、含有酸素濃度が低いウエハを用いる場合、酸素を含む雰囲気での1000℃以上の高温のドライブイン工程や、熱酸化工程を行ってもよい。その理由は、これらの熱処理によって、酸素がシリコン基板に侵入して拡散され、ウエハ内の酸素濃度を高くすることができるからである。この場合の酸素は、1×10
16atoms/cm
3以上1×10
17atoms/cm
3以下の濃度で分布し、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)測定でも検出可能な程度の高い不純物濃度とすることができ、前述のブロードバッファ領域内での電子および正孔の移動度の低下を抑制する効果と同様の効果を得ることができる。酸素濃度は1300℃以上の熱処理により、1×10
18atoms/cm
3以上にすることもできるが、この値を超えると、酸素析出物や酸素誘起欠陥が生じることがあるので、1×10
18atoms/cm
3以下が望ましい。すなわち、アノード層表面からブロードバッファ領域ピーク濃度までの間(すなわち、プロトンH
+の飛程Rp距離)の酸素濃度を1×10
16atoms/cm
3以上1×10
18atoms/cm
3以下とすることが望ましい。
【0052】
さらに、ウエハへのプロトンH
+を照射することにより水素をウエハへ導入させる際に形成される空孔を含む複合欠陥は、導入された酸素によるドナーとともに、半導体デバイスの主電流の流れる活性部だけでなく周辺耐圧構造部にも形成され、周辺耐圧構造部の直下にもn型でウエハの濃度よりも高不純物濃度のリン拡散層が形成される。その結果、ウエハの比抵抗が高くなり、かつ、周辺耐圧構造部の直下の不純物濃度が高くなるので、pn主接合に対する逆バイアス時に拡がる空乏層の等電位線密度が高くなる。これにより、周辺耐圧構造部表面の絶縁膜を介して受ける外部電荷による耐圧への影響を小さくすることができる。また、周辺耐圧構造部の直下における欠陥密度が増加することにより、この近傍のライフタイムが小さくなるので、導通時および逆回復時における活性部と周辺耐圧構造部の境界への電流または残留キャリアの集中を回避することができる。
【0053】
なお、照射する荷電粒子(イオン)でn型のドナーを示すものに、前述した水素(H
+)イオン以外にも、リチウムイオン(Li
+)や酸素イオン(O
-)があるが、これらの場合は質量が水素イオンよりも重くなり、同じ照射エネルギーでは十分広い飛程を得ることができない。よって、ウエハの表面から60μm程度の深さにイオン注入を行う必要がある場合には、水素イオン(H
+)が最も好ましい。
【0054】
図4は、バルク比抵抗と半導体装置の耐圧との関係について示す特性図である。また、
図6は、従来の半導体装置の構成、ネットドーピング濃度分布を示す図である。
図4には、本発明にかかるブロードバッファ領域6をn
-ドリフト層1中に有するダイオード(
図1の要部断面図に示すダイオード、以下、実施例とする)と、比較として、従来のブロードバッファ領域をn
-ドリフト層中に有するダイオード(第1の従来例)と、ブロードバッファ領域を有さない従来の平坦なドーピング濃度分布(
図4中では平坦濃度分布と記載)のn
-ドリフト層1を備えるダイオード(
図6の要部断面図に示すダイオード(以下、第2の従来例とする)を示す。n
-ドリフト層1の厚さを120μmとする(以降、
図1に示すように、n
-ドリフト層1の厚さは厳密には120μmからpアノード層2とn
+カソード層3の厚さを差し引いた116.5μmであるが、便宜上120μmと表記する)。
【0055】
ブロードバッファ領域6をn
-ドリフト層1中に有するダイオード(実施例および第1の従来例)については、ブロードバッファ領域6の実効ドーズ量を種々変更し、1.0×10
11atoms/cm
2、2.5×10
11atoms/cm
2、4.0×10
11atoms/cm
2、4.8×10
11atoms/cm
2、5.0×10
11atoms/cm
2、5.2×10
11atoms/cm
2、5.7×10
11atoms/cm
2、6.0×10
11atoms/cm
2の場合の、それぞれウエハ(基板)の比抵抗(横軸)に対する半導体装置の耐圧の変化を示す。実施例は、ブロードバッファ領域6の実効ドーズ量4.8×10
11atoms/cm
2以上のものである。一方、n
-ドリフト層1中に平坦ドーピング濃度分布を有する従来のダイオード(第2の従来例)については、n
-ドリフト層1の厚さが120μmのときに比抵抗を変化させたときの耐圧値を従来の平坦濃度分布という名称を付けたプロット線で表示している。
【0056】
まず、従来の平坦ドーピング濃度分布についてみると、n
-ドリフト層の厚さが一定の条件(120μm)では、比抵抗が増加すると耐圧は上昇し、一定値に収束することを示している。一般的にデバイスを設計する場合、n
-ドリフト層の厚さと比抵抗は、耐圧、導通時の損失およびスイッチング特性のバランスを考慮して選択される。例えば、n
-ドリフト層の厚さは定格電圧V
0(V)に対して0.1V
0(μm)程度の値が選択される。また、定格電圧V
0(V)と基板の典型的な比抵抗ρ
0(Ωcm)は経験的に、次の(3)式で表される。
【0058】
例えば、定格電圧V
0=600Vでは27Ωcm、V
0=1200Vでは54Ωcm、V
0=1700Vでは77Ωcm、V
0=3300Vでは149Ωcm、V
0=4500Vでは203Ωcm、V
0=6500Vでは293Ωcm程度である。さらに、動作上の余裕度を考慮し、特に1700V以上の高定格電圧では、これらよりも1.5倍ほど高めの設定にすることもある。一方でスイッチング時の跳ね上がり電圧を抑制するために、前記の値よりも80%の値に低くすることもある。
【0059】
そこで、定格電圧V
0=1200Vでは、製造したデバイスの示す実耐圧が定格電圧の20%程度のマージンを見込んだ高い実耐圧になるようにするため、例えば、定格電圧V
0=1200Vの実耐圧を1400Vと設定する。このとき、
図4から、平坦濃度分布と表示された従来のダイオードでは、実耐圧が1400Vとなる基板の比抵抗は46Ωcmとなる。同様に、
図4からブロードバッファ領域の実効ドーズ量が1.0×10
11atoms/cm
2、2.5×10
11atoms/cm
2、4×10
11atoms/cm
2、4.8×10
11atoms/cm
2、5.0×10
11atoms/cm
2、5.2×10
11atoms/cm
2、5.7×10
11atoms/cm
2、6.0×10
11atoms/cm
2と表示されたダイオードの実耐圧が1400Vとなる比抵抗はそれぞれ55Ωcm、68Ωcm、100Ωcm、144Ωcm、150Ωcm、160Ωcm、200Ωcm、250Ωcmとなる。
【0060】
図4に示すように、半導体装置の耐圧のばらつきの範囲は、ウエハの比抵抗に応じて、比抵抗のばらつきの範囲(以下、比抵抗ばらつき範囲とする)が強く反映されている。つまり、ウエハの比抵抗が仮にある幅(以下、比抵抗ばらつき幅とする)を持ってばらつく時、比抵抗ばらつき幅は半導体装置の耐圧のばらつきの幅(以下、耐圧ばらつき幅とする)に直結する。第2の従来例の場合、例えば、耐圧が1400Vとなる比抵抗は46Ωcmである。この比抵抗値46Ωcmを含む前後の30Ωcm〜80Ωcm程度の範囲では、耐圧値は大きく変化している。例えば比抵抗のばらつきが46Ωcm±12%(およそ41Ωcm〜52Ωcm)とすると、この比抵抗ばらつき範囲に対応する耐圧のばらつきの範囲(以下、耐圧ばらつき範囲とする)は1290V〜1480V程度となる。つまり、この耐圧ばらつき範囲は、中心値1385Vに対して約13.7%の耐圧ばらつき幅に相当する。耐圧ばらつき幅は、市場の要求するもっと小さい値、例えば、5%以下が要求される。このため、市場の要求する耐圧ばらつき幅を満たすには、比抵抗ばらつき幅をさらに小さくしなければならない。しかし、現状の高比抵抗(例えば、20Ωcm以上)FZウエハの比抵抗ばらつき幅は、前述のように、ガスドープで±12%(ばらつき幅で24%)以下、中性子照射ウエハで±8%(ばらつき幅で16%)以下がウエハメーカーの保証範囲であり、中性子照射ウエハでさえ、耐圧ばらつき幅の許容をはるかに超えている。
【0061】
また、第1の従来例(従来のブロードバッファ構造を有するダイオード)で、実効ドーズ量が2.5×10
11atoms/cm
2のブロードバッファダイオードの場合、
図4(図中A参照)に示すように1400V(定格電圧V
0=1200V)を示す比抵抗は約68Ωcmである。この比抵抗が±12%ばらつくとすると、比抵抗ばらつき範囲は約60Ωcm〜76Ωcmとなる。
図4から、比抵抗ばらつき範囲60Ωcm〜76Ωcmに対応する耐圧ばらつき範囲は1320V〜1460Vとなる。この耐圧ばらつき範囲は中心値1390Vに対して約10.1%の耐圧ばらつき幅に相当する。第1の従来例の耐圧ばらつき幅13.7%よりも小さくなるものの、市場の要求する耐圧ばらつき幅5%より大きいので、まだ十分ではない。同様に4.0×10
11atoms/cm
2のブロードバッファダイオードの場合、
図4から1400V(定格電圧V
0=1200V)を示す比抵抗は約100Ωcmである。その比抵抗のばらつき±12%に対応する耐圧ばらつき範囲は1340V〜1430Vとなり、耐圧ばらつき幅は約6.5%であるため、まだ、市場の要求する耐圧ばらつき幅5%以下を満たすことができない。
【0062】
一方、実施例(本発明にかかるブロードバッファ構造を有するダイオード)で、ブロードバッファ領域の実効ドーズ量が4.8×10
11atoms/cm
2のブロードバッファダイオードの場合、
図4(図中B参照)から1400Vの耐圧を示す比抵抗は144Ωcmとなる。この比抵抗が12%ばらつくと、比抵抗ばらつき範囲は126.7Ωcm〜161.3Ωcmとなる。これに対応する耐圧ばらつき範囲は1363V〜1425Vとなる。つまり、耐圧ばらつき幅は中心値1394Vに対して4.4%となる。また、実効ドーズ量が5.0×10
11atoms/cm
2、5.7×10
11atoms/cm
2、6.0×10
11atoms/cm
2のブロードバッファダイオードでは、同様に
図4から、耐圧1400Vに対応する比抵抗はそれぞれ150Ωcm、200Ωcm、250Ωcmとなる。これらの比抵抗が12%ばらつくと、それぞれ比抵抗ばらつき範囲は132Ωcm〜168Ωcm、176Ωcm〜224Ωcm、220Ωcm〜280Ωcmとなる。これらの比抵抗ばらつき範囲に対応する耐圧ばらつき範囲は順に1371V〜1431V、1378V〜1422V、1380V〜1415Vである。つまり、耐圧ばらつき幅は、それぞれ順に中心値1401Vに対して4.3%、中心値1400Vに対して3.1%、中心値1397Vに対して2.5%となる。したがって、耐圧ばらつき幅は2%強〜4%強まで低減される。このため、実施例のいずれにおいても、市場の要求する耐圧ばらつき幅5%以下を満たすことがわかる。
【0063】
図5は、バルク比抵抗と半導体装置の耐圧ばらつき幅との関係を示す特性図である。
図4に示すバルク比抵抗と半導体装置の耐圧ばらつき幅(%)との関係について、
図5にまとめた。つまり、
図4を参照して説明したように、あるバルク比抵抗の値に対して実耐圧が1400Vとなるようなブロードバッファ領域の実効ドーズ量を選定し、それぞれのバルク比抵抗が12%ばらついたとしたときの耐圧ばらつき範囲から求めた耐圧ばらつき幅(%)を縦軸にプロット(横軸はバルク比抵抗(Ωcm))した。
【0064】
バルク比抵抗が46Ωcmでブロードバッファ領域を有しない従来のダイオード(第2の従来例)の場合、耐圧ばらつき幅が13.7%と大きく、とても市場の要求する耐圧ばらつき幅を満たさない。また、ドリフト層にブロードバッファ領域を備えていても(第1の従来例)、バルク比抵抗が同55Ωcm、68Ωcm、100Ωcmと小さい場合、それぞれ耐圧ばらつき幅は約11.5%、約10.1%、約6.5%であるので、5.0%より大きく、市場の要求する耐圧ばらつき幅を満たさないため、本発明には含まれない。またさらに、ドリフト層にブロードバッファ領域を備えていても、実効ドーズ量が高すぎると、たとえば、1.0×10
12atoms/cm
2を超えると、1400Vに達するバルクの比抵抗が300Ωcmを超えるようになり、本発明には含まれないようになる。その理由については後述する。
【0065】
これに対して、ブロードバッファ領域をドリフト層に有する本発明にかかるダイオード(実施例)では、バルク比抵抗144Ωcmでは耐圧ばらつき幅が4.4%、同150Ωcmでは4.3%、同160Ωcmでは4.0%、同200Ωcmでは3.1%、同250Ωcmでは2.5%と、半導体装置の耐圧ばらつき幅を市場の要求する耐圧ばらつき幅5.0%以下に低減することができることが分かる。このバルク比抵抗144Ωcm、150Ωcm、160Ωcm、200Ωcm、250Ωcmの、
図4から対応するブロードバッファ領域の実効ドーズ量は、それぞれ4.8×10
11atoms/cm
2、5.0×10
11atoms/cm
2、5.2×10
11atoms/cm
2、5.7×10
11atoms/cm
2、6.0×10
11atoms/cm
2である。このため、
図4を見る限り、本発明にかかるブロードバッファ領域の実効ドーズ量は4.8×10
11atoms/cm
2以上6.0×10
11atoms/cm
2以下となる。さらに、ブロードバッファ領域の実効ドーズ量を1.0×10
12atoms/cm
2まで高くしても、耐圧ばらつき幅はさらに低減し、バルク比抵抗は300Ωcm以下であることを確認した。
【0066】
つまり、本発明にかかる半導体装置では、実効ドーズ量を4.8×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下のブロードバッファ構造とすることで、耐圧ばらつき幅がブロードバッファ領域を有しない従来のダイオードに比べて、1/3以下にまで減少することができることがわかる。より好ましくは、実効ドーズ量が5.0×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下、さらに好ましくは5.2×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下のブロードバッファ構造とすることで、半導体装置の耐圧ばらつき幅を確実に4%以下にすることができる。
【0067】
さらに特筆すべきは、バルク比抵抗が144Ωcm以上では、半導体装置の耐圧ばらつき幅はバルク比抵抗に依存しないことである。耐圧ばらつき幅には、他にもn
-ドリフト層の厚さ、あるいはブロードバッファ領域形成による実効ドーズ量といったパラメータのばらつきも当然含まれる。しかしながら、ドリフト層の厚さのばらつきは、ウエハのバックグラインドとエッチングの組合せで3%以下、実効ドーズ量制御はプロトンH
+の注入とアニールの温度制御により1%以下にすることができる。耐圧ばらつき幅を決める要因のうち、最大の要因は比抵抗ばらつき幅であるので、耐圧ばらつき幅を低減させることによる効果は大きいことがわかる。
【0068】
本発明では、定格電圧V
0=1200V以外についても、同様に耐圧ばらつき幅の低減をすることができる。その理由は、ドリフト層全体にわたるドーピング濃度の総量(ドーズ量)が、定格電圧によらずほぼ一定の値(1.2×10
12atoms/cm
2程度かそれ以下)になるからである。前述の定格電圧V
0=1200Vでは、耐圧ばらつき幅が市場の要求する耐圧ばらつき幅5%以下となるのはバルク比抵抗144Ωcm以上であり、この数値144は、定格電圧の数値1200の12%程度(≒144/1200×100%)に相当する。また、
図5に示すように、バルク比抵抗が、定格電圧の数値1200の12.5%に相当する150Ωcm以上であれば、耐圧ばらつき幅はさらに縮小する。さらに、ウエハバルク比抵抗が、定格電圧の数値1200の13.3%に相当する160Ωcm以上であれば、耐圧ばらつき幅は4%以下となり、確実に市場の要求する耐圧ばらつき幅5%以下となる。同様に定格電圧V
0=600Vでは、0.12V
0=0.12×600=72となり、バルク比抵抗を72Ωcmとする。従って、バルク比抵抗72Ωcm以上で耐圧ばらつき幅が5%以下となる。以下同様に、定格電圧V
0=1700Vではバルクの比抵抗204Ωcm以上、定格電圧V
0=3300Vでは、バルクの比抵抗396Ωcm以上、定格電圧V
0=4500Vではバルクの比抵抗540Ωcm以上で、それぞれ耐圧ばらつき幅が5%以下に低減することを確認した。よって、本発明の半導体装置にかかるバルク比抵抗、すなわち、半導体基板の比抵抗ρ
0は、次の(4)式を満たすことが必要な要件となる。
【0070】
より好ましくは、比抵抗ρ
0は0.125V
0以上、さらに好ましくは0.133V
0以上とすると、より確実に耐圧ばらつき幅を5%以下とすることができる。
【0071】
一方、比抵抗ρ
0を必要以上に高くすると、一般にスイッチング時のキャリアの枯渇が促進され、スイッチング波形が発振し易くなるという問題が生じる。例えば、定格電圧V
0=1200Vの場合、バルク比抵抗が300Ωcmを超えると、ドリフト層に本発明にかかるブロードバッファ領域を有するブロードバッファ構造のダイオードであっても、逆回復時のキャリアの枯渇による発振現象が確認された。さらに、バルク比抵抗が極めて高くなると、このような発振現象は、他の定格電圧の場合にも共通に見られることが分かった。この現象は、n
-ドリフト層全体にわたるドーピング濃度の総量(ドーズ量)が重要な要素となる。それは、逆回復時に伸長する空間電荷領域の伸び具合が、ポアソンの式に従いドーピング濃度の総量(ドーズ量)に依存するためであり、その結果、掃き出されるキャリアの総量もドーピング濃度の総量によって決まるからである。よって、定格電圧V
0=1200Vに対しては、300Ωcmを超え、他の定格電圧についてもV
0=600Vでは150Ωcmを超え、V
0=1700Vでは425Ωcmを超え、V
0=3300Vでは825Ωcmを超え、V
0=4500Vでは1125Ωcmを超える場合に同様の発振現象が確認された。以上の定格電圧V
0とバルク比抵抗ρ
0との間には、ρ
0≦0.25V
0という関係式が成り立つ。従って、バルク比抵抗ρ
0は、次の(5)式を満たすことが必要な要件となる。
【0073】
本発明にかかるブロードバッファ構造で重要なのは、ブロードバッファ領域が、n
-ドリフト層の一部分に形成され、基板濃度(バルクの不純物濃度)かそれ以下のネットドーピング濃度の部分と接していることである。このことにより、バルク濃度と独立に耐圧を決定することができ、その結果、耐圧ばらつき幅を低減できる。仮に、ブロードバッファ領域がn
-ドリフト層全体にわたり分布する構造である場合、不純物濃度の制御と耐圧はイオン注入とドライブのみに依存することになる。その結果、定格電圧が変わり、特に高耐圧になると、n
-ドリフト層内の100μm以上の広い範囲に水素誘起ドナーを分布させ、かつその不純物濃度を低くしなければならない。n
-ドリフト層をこのような濃度分布にすることは、現状では物理的に極めて困難である。
【0074】
これに対して本発明は、主な定格電圧V
0はバルク比抵抗ρ
0に基づいて決定することができる。実耐圧は、バルクのネットドーピング濃度(つまり比抵抗)に水素誘起ドナーの不純物濃度を加算することで決めている。したがって、本発明は、半導体装置の耐圧によらず適用でき、かつ、比較的、誤差の小さい水素関連ドナーの実効ドーズ量で、比抵抗ばらつき幅による耐圧ばらつき幅への影響を緩和することができる。これにより、耐圧ばらつき幅の小さいダイオードを極めて容易に製造することが可能になる。
【0075】
また、以上説明した
図2(c)では、プロトンH
+11を表面側(アノード電極側)から照射したが、
図3(c)に示すように、プロトンH
+11を裏面側(カソード電極側)から照射してもよい。
図3に示す製造方法の、それ以外の工程は、
図2に示す製造方法と同様である。つまり、
図2と
図3の相違は、(c)の工程である。
【0076】
以上、説明したように、実施の形態1にかかる半導体装置によれば、バルク比抵抗ρ
0(Ωcm)が定格電圧V
0(V)に対して上記(2)式を満たす基板からなるn
-ドリフト層1に、ブロードバッファ領域6を設けている。ブロードバッファ領域6のネットドーピング濃度の総量が上記範囲内にある。これにより、バルク比抵抗のばらつきが±12%程度あったとしても、ダイオードの耐圧が、バルク比抵抗のばらつきに応じて変化する範囲を小さくすることができる。また、半導体装置のスイッチング特性が、バルク比抵抗のばらつきに応じて変化する範囲も小さくすることができる。したがって、耐圧のばらつきおよびスイッチング特性のばらつきを低減することができる。
【0077】
また、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法によれば、FZウエハ10(n
-ドリフト層1)の一方の主面側にpアノード層2を形成した後、FZウエハ10のおもて面または裏面から、pアノード層2または後の工程で形成されるn
+カソード層3より深い箇所に達する飛程距離でプロトンH
+11を照射し、300℃以上550℃以下の熱処理を行う。これにより、n
-ドリフト層1の内部に、上述した条件のブロードバッファ領域6を形成することができる。このとき、FZウエハ10の比抵抗(バルク比抵抗)ρ
0は定格電圧V
0に対して上記条件を満たす。これにより、FZウエハ10の比抵抗のばらつきが±12%程度あったとしても、半導体装置の耐圧が、FZウエハ10の比抵抗のばらつきに応じて変化する範囲を小さくすることができる。また、半導体装置のスイッチング特性が、FZウエハ10の比抵抗のばらつきに応じて変化する範囲も小さくすることができる。したがって、耐圧のばらつきおよびスイッチング特性のばらつきを低減することができる。
【0078】
また、ブロードバッファ領域6を形成するためのプロトンH
+11を照射する前に、FZウエハ10に上記条件で酸素を導入する。これにより、ウエハにプロトンH
+11を照射した際の、ブロードバッファ領域6内での電子および正孔の移動度の低下を抑えることができる。
【0079】
また、FZウエハ10を用いてブロードバッファ構造のダイオードを安価に製造することができる。これにより、製造コストを低減することができる。
【0080】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2にかかる半導体装置の構成、ネットドーピング濃度分布を示す図である。実施の形態1におけるブロードバッファ領域6を、n
-ドリフト層1中に複数備えてもよい。
【0081】
実施の形態2では、
図7に示すように、ブロードバッファ領域6が複数個(
図7では3個)形成されている。このようにブロードバッファ領域6を複数個設けることにより、スイッチング時の空間電荷領域の拡がり方をより細かく制御することができる。複数個形成するときも、定格電圧V
0=1200Vならばバルク比抵抗を144Ωcm以上とすることが好ましいことは、実施の形態1と同様である。さらに、ブロードバッファ領域6を複数作る場合は、ブロードバッファ領域を1つ形成するよりも、その数に応じてより高不純物濃度のブロードバッファ領域が形成され易くなるので、スイッチング時もしくは電源電圧保持時の空間電荷領域における電界強度の減少が1個の場合よりも大きくなりやすい。しかし、その結果、半導体装置の耐圧が低くなることもあるので、バルク比抵抗はさらに高くすることがよく、目安としては0.15V
0以上であることがより好ましい。上限は、前述の0.25V
0であることは同じである。それ以外の構成は、実施の形態1と同様である。
【0082】
次に、複数個のブロードバッファ領域の形成に特有の作用効果を説明する。
図14は、ドリフト層のネットドーピング濃度分布および逆電圧を印加したときの内部の電界強度分布の関係を示す特性図である。従来の平坦な濃度分布のドリフト層を持つダイオードと、ドリフト層に複数個のブロードバッファ領域をもつ本発明のダイオードにおいて、ドリフト層のネットドーピング濃度分布と、逆電圧を印加したときの内部の電界強度分布を対応させた図である。
図14(a)および(b)は、従来の平坦分布のダイオードの場合について、耐圧と同じ値の逆電圧が印加されて電界強度の最大値が、アバランシェ降伏を生じる臨界電界強度E
C(約2.5×10
5V/cm)となったときの電界強度分布図((a))と、ドナー濃度分布((b))である。
図14の(c)および(d)は、複数個のブロードバッファ領域を持つ本発明のダイオードの場合について、耐圧と同じ値の逆電圧が印加されて電界強度の最大値が臨界電界強度E
Cとなったときの電界強度分布図((c))と、ドナー濃度分布((d))である。両方のダイオードについて、FZバルクウエハのドナー濃度の規格値をN
0とし、実際のFZバルクウエハのドナー濃度の測定値が、(1+α)N
0(あるいは(1−α)N
0、α>0)であったとする。あるいは、一連の素子形成プロセスを処理するときに、同時に流動する単位としてのFZバルクウエハ処理枚数(例えば50枚)における、FZバルクウエハのドナー濃度の測定値の標準偏差が、(1+α)N
0(あるいは(1−α)N
0、α>0)であったとしてもよい。つまり、ドナー濃度のばらつきの割合が±α(α>0)であるとする。
【0083】
ここで、ウエハのドナー濃度の測定方法は、公知の広がり抵抗測定法、C−V法などを用いる。また、
図14(a)および(c)では、説明を簡略化するために、耐圧と同程度の電圧が印加されたときに空乏層がn型カソード層に到達しない、いわゆるノンパンチスルー型について示しているが、同じく空乏層がn型カソード層に達するパンチスルー型であっても、以下の議論は同様に成り立つ。
【0084】
従来のダイオードについて、pn接合からの深さx
0にて電界強度Eが0となる境界条件の下でポアソンの式を解くと、ドナー濃度がN
0のときの電圧値(耐圧値)φ
0は、φ
0=−(1/2)x
0E
Cとなる。バルクドナー濃度が(1±α)N
0だけばらついたときの耐圧値の最大値および最小値φ±は、境界条件としてそれぞれ位置x±にて電界強度が0になるとすると、φ±=φ
0/(1±α/2)となり、その結果、耐圧値のばらつきの割合△φ/φ
0は、4α/{(2−α)(2+α)}となる(ここで△φ=φ
-−φ
+)。
【0085】
一方、複数個のブロードバッファ領域を持つ本発明のダイオードの場合は、厳密にポアソンの式を解くのは解が複雑になるので、ここでは簡便な方法にて、電圧値のばらつきの割合△φ/φ
0を求める。まず、
図14(d)に示すように、バルクのドナー濃度N
0に対して、β倍の濃度とW
0の幅を持つブロードバッファ領域が、n個形成されているとする。ここで、ブロードバッファ領域の不純物濃度は理想的な分布であり、ばらつきが無いものとする。また、βは1よりも大きい値とする。
図14(c)において、それぞれのブロードバッファ領域の電界強度の勾配の大きさはβ倍だけ大きくなるので、バルク部分(濃度N
0)よりも大きな電界強度の減少分△Eが発生する。この電界強度の『目減り』がn回続くとすると、ドリフト層全体の幅Wdに対して電界強度の『目減り』が生じていていない部分、つまりブロードバッファ領域ではないバルク部分の総長の割合γは、γ=(W
d−nW
0)/W
dとなる。n≧2、0<W
0<W
dなので、γは0以上1以下となる。一方、同じく電界強度の最大値E
Cに対して、n回分だけ目減りした電界強度△Eの割合ηは、η=Σ
i△E
i/E
C=qβN
0nW
0/(E
Cε
0ε
Si)となる。ここでqは電荷素量、ε
0は真空の誘電率、ε
Siはシリコンの比誘電率である。ηは0以上1以下である。つまり、複数個のブロードバッファ領域を持つ場合の電圧値のばらつきの割合は、平坦な従来型ダイオードのばらつきの割合から、バルク濃度のばらつきが影響しないブロードバッファ領域の寄与と、ブロードバッファ領域において電界強度が『目減り』した部分の寄与を、取り除いた値になるとする。この仮定に基づき、前記の電圧値のばらつきの割合△φ/φ
0は、平坦な従来型ダイオードの同割合に因子(γ/η)を掛けた値になるので、△φ/φ
0=4α(γ/η)/{(2−α)(2+α)}となる。ここで、αは0%より大きく12%以下であるとすると、この範囲では4α/{(2−α)(2+α)}≒αと近似することができ、△φ/φ
0≒α(γ/η)となる。ブロードバッファ領域の総数nが増加するほど、γは小さくなるので、電圧値のばらつき幅△φ/φ
0は小さくなる。また、電界強度の『目減り』の割合ηは、ブロードバッファ領域の濃度のバルク濃度N
0よりも大きくなる(つまりβが大きくなる)程、あるいはブロードバッファ領域の個数nが増加するほど、大きくなる。また、ブロードバッファ領域の幅W
0についても、値を広げるとηは大きくなる。よって、濃度が高く幅の広いブロードバッファ領域を数多く形成するほど、理論的には、電圧(耐圧)のばらつき割合△φ/φ
0は小さくなる。
【0086】
例えば、規格値がN
0=2×10
13atoms/cm
3のFZバルクウエハに対して、N
0のばらつきの割合αが12%とし、形成したブロードバッファ領域の個数nを3つ、幅W
0を6μm、N
0に対するブロードバッファ領域の濃度の倍数βを10とする。このとき、ηは2.19、γは0.85となるので、耐圧のばらつき割合△φ/φ
0は0.047(4.7%)となり、αよりも十分小さくすることができ、かつ市場の要求する耐圧ばらつき幅5%も満たすことができる。したがって、複数個のブロードバッファ領域を形成するにあたって、以下の式(6)の条件を満たすように形成すると、耐圧値のばらつき割合△φ/φ
0はFZバルクウエハのばらつき割合よりも小さくすることができるので好ましい。
【0087】
4α(γ/η)/{(2−α)(2+α)}<α ・・・(6)
【0088】
さらに、4α(γ/η)/{(2−α)(2+α)}≦0.05を満たすように複数のブロードバッファ領域を形成すると、確実に耐圧値のばらつき割合△φ/φ
0は、確実にFZバルクウエハのばらつき割合よりも小さくすることができるので、なお好ましい。
【0089】
なお、上記の考察はあくまでも理想的なものである。例えばβ(バルク濃度N
0に対するブロードバッファ領域の濃度の倍数)を大きくしすぎたり、n(ブロードバッファ領域の個数)を増やしすぎたりすると、電界強度の『目減り』の総量が大きくなり、十分な耐圧を得ることができなくなる。また、βが1に十分近い程度の値しかなければ、電界強度の『目減り』△Eがバルクにおける電界強度の減少分と大差なくなり、ブロードバッファ領域の効果そのものが小さくなり、耐圧ばらつきの抑制につながらない。よってβ、W
0、nについて、耐圧とそのばらつき具合、および逆回復発振抑制の効果を踏まえて決める必要がある。一方、各ブロードバッファ領域の形状は、プロトン照射によりガウス分布に近くなる。また、ガウス分布の広がり具合を示す半値幅は上記のW
0に相当し、プロトンの加速エネルギーに依存する。このプロトン照射によりブロードバッファ領域を形成する場合、上記の考察は、例えばドナー濃度について、ある一つのブロードバッファ領域にわたり積分した値を半値幅で平均化したものと考える。言い換えると、電界強度の『目減り』△Eは、ブロードバッファ領域の積分値の総量(実効ドーズ量)により決まるので、個々の形状の相違(矩形かガウス分布か)には、大きく因らない。よって、β、W
0、nの選択は、実際には各ブロードバッファ領域の積分濃度の総量を決めることとなる。また、前述の式(6)は、定格電圧に因らずに成り立つ。その理由は、定格電圧に応じて決定するバルクウエハの濃度に対して、臨界電界強度E
cが依存する度合いは弱く、およそ一定値と考えてよいことと、さらに電界強度の『目減り』△Eは、個々のブロードバッファ領域の濃度やバルクウエハの濃度ではなく、これらの濃度の積分値(総量、あるいは実効ドーズ量)に依存するから、である。
【0090】
ブロードバッファ領域6(
図7)の実効ドーズ量は、その複数個の合計が実施の形態1に示すように4.8×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下であればよい。本実施の形態2の場合、
図7に示したような3つのブロードバッファ領域6のピーク濃度と半値幅とにした場合、積分濃度はアノード電極4に近いほうから順に、4×10
11atoms/cm
2(ピーク濃度が2×10
14atoms/cm
3で半値幅が20μm),3×10
11atoms/cm
2(ピーク濃度が3×10
14atoms/cm
3で半値幅が10μm),2×10
11atoms/cm
2(ピーク濃度が4×10
14atoms/cm
3で半値幅が5μm)となり、合計9×10
11atoms/cm
2となる。
【0091】
また、ブロードバッファ領域6の個数は、上記実効ドーズ量を満たすように2個以上で、かつ最大で5個程度が好ましい。一方で、3300V以上の定格電圧の場合、ドリフト領域の総厚は300μm以上となり、厚さに十分余裕があるので、必要に応じてブロードバッファ領域を5個以上作ってもよい。また、上記したように、耐圧のばらつき割合は、ブロードバッファ領域の積分濃度の総量が一定であれば、個々のブロードバッファ領域の形状や位置を変えてもそれほど変化はしない。そこで、例えば最もアノード電極に近いブロードバッファ領域のアノード電極からの深さを、W
d/2よりも深くして、pn接合近傍のドリフト層の低不純物濃度(高抵抗)の領域を確保する。こうすることで、逆回復時とか、宇宙線の侵入時におけるpn接合近傍の電界強度の増加を抑えることができる。あるいは、ドリフト層のちょうど中間となる位置からカソード電極側に近い側のブロードバッファ領域の個数が、前記中間となる位置からアノード電極に近い側のブロードバッファ領域個数(0個も含む)よりも多くしても、同様の効果が得られるので好ましい。
【0092】
また、ブロードバッファ領域6を複数個形成する場合も、それぞれのブロードバッファ領域6を形成するために、プロトンを表面から照射してもよいし、裏面から照射してもよい。好適には、ダイオードの場合、少なくとも最もアノード層に近いブロードバッファ領域6は、pアノード層2の表面から照射して、プロトンの通過領域および停止領域のキャリアライフタイム値をバルクよりも低くすることが望ましい。
【0093】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、n
-ドリフト層1の内部にブロードバッファ領域6を複数個形成することで、スイッチング時の空間電荷領域の拡がり方をより細かく制御することができる。
【0094】
(実施の形態3)
図8は、実施の形態3にかかる半導体装置の構成、ネットドーピング濃度分布を示す図である。実施の形態1,2にかかる半導体装置の構成をIGBTに適用してもよい。
【0095】
図8において半導体装置の断面図(紙面上側)示すように、実施の形態3にかかるIGBTは、n型の半導体基板(ウエハ)のおもて面(第1の主面)側に、pベース層22が形成されている。ウエハの裏面(第2の主面)側には、pコレクタ層28が形成されている。pベース層22とpコレクタ層28の間の半導体基板の部分が、n
-ドリフト層21となる。バルク比抵抗ρ
0(Ωcm)は、実施の形態1と同様である。つまり、バルク比抵抗は、上記(2)式あるいは前記のさらに好ましい範囲にある。pベース層22の表面には、エミッタ電極24が形成されている。pコレクタ層28の表面には、コレクタ電極25が形成されている。ウエハのおもて面側には、pベース層22を貫通し、n
-ドリフト層21に達するトレンチが形成され、その内壁にゲート絶縁膜31が形成されている。トレンチの内部には、このゲート絶縁膜31を介してゲート電極27が埋め込まれている。pベース層22内には、nエミッタ層29が形成されている。エミッタ電極24は、pベース層22およびnエミッタ層29を電気的に接続する。また、エミッタ電極24は、ゲート絶縁膜31およびゲート電極27上に形成された層間絶縁膜32によりゲート電極27から絶縁されている。
【0096】
また、
図8において、エミッタ電極24からの距離−ネットドーピング濃度(log)の特性図に示すように(紙面下側)、n
-ドリフト層21のネットドーピング濃度は、n
-ドリフト層21のほぼ中間付近にピークを有し、pベース層22およびpコレクタ層28に向かって、傾きをもって減少している。すなわち、n
-ドリフト層21の内部には、n
-ドリフト層21の不純物濃度より高く、かつ前記pベース層22およびpコレクタ層28よりもネットドーピング濃度の低いn型のブロードバッファ領域26が形成されている。ブロードバッファ領域26の実効ドーズ量(同層におけるネットドーピング濃度の総量)は、4.8×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下かあるいは前記のさらに好ましい範囲にあるのは、実施例1のダイオードと同じである。このブロードバッファ領域26は、pベース層22とエミッタ電極24を備えたウエハへの、コレクタ電極25側からのプロトンH
+11の照射と熱処理によって形成することができる。
図8では、トレンチゲート構造IGBTを示しているが、プレーナーゲート構造IGBTを用いてもよい。
【0097】
IGBTは、裏面側にpコレクタ層28が形成されるため、裏面側から少数キャリアが注入される。そのため、ターンオフ時は、注入された少数キャリアが電荷中性領域を通って空間電荷領域に達するのを止める必要がある。また、アバランシェ破壊を抑制するためにも、空乏化していない電荷中性領域は、例えば耐圧に相当する電圧が印加されたときに、裏面側から5〜20μm程度となるように確保するのが望ましい。そのため、ブロードバッファ領域26のネットドーピング濃度分布のピークを、n
-ドリフト層21の中心の深さからコレクタ電極25側に設けることで、空乏層を確実に止めて、上記の電荷中性領域を確保するのが望ましい。
【0098】
次に、実施の形態3にかかるIGBTの製造プロセスについて詳細に説明する。
図9は、実施の形態3にかかる半導体装置の製造プロセスを示す図である。また、
図10〜12は、実施の形態3にかかる半導体装置の製造プロセスの別の一例を示す図である。ここでは、一例として、
図8に例示した寸法およびネットドーピング濃度のIGBT(定格電圧:V
0=1200V、定格電流:150A)を製造する場合について説明する。
【0099】
図9(a)〜(i)にしたがって、実施の形態3にかかるIGBTの製造方法の一例について順に説明する。まず、ウエハ(半導体基板)として、バルク比抵抗が144Ωcm〜300Ωcm、例えば、150Ωcm(リン濃度2.0×10
13atoms/cm
3)で、厚さ500μm程度のFZウエハ10を用意する。このFZウエハ10を第1半導体層とする(
図9(a))。このFZウエハ10は、実施の形態1に示すように事前に室温程度(例えば20℃)の固溶度よりも高濃度の酸素をドライブインにて拡散させて導入してもよい。
【0100】
ついで、標準的なIGBTの製造プロセスによって、FZウエハ10の一方の主面側に、pベース層22、図示しないガードリングを含む周辺耐圧構造部、トレンチ、トレンチ内にゲート絶縁膜31、ゲート電極27、nエミッタ層29、層間絶縁膜32をそれぞれ形成する(
図9(b))。pベース層22の不純物濃度は、例えば、2×10
17atoms/cm
3であり、その接合深さは表面から、例えば、3μmである。nエミッタ層29の不純物濃度は、1×10
20atoms/cm
3であり、その接合深さは表面から、例えば、0.5μmである。また、ゲート電極27の材料は、例えば、ポリシリコンを用いてもよい。
【0101】
次いで、FZウエハ10の他方の主面側(後にコレクタ電極25を形成する側)の表面から、サイクロトロンにより加速されたプロトンH
+11を照射する(
図9(c))。その際、サイクロトロンの加速電圧は、例えば、7.9MeVであり、プロトンH
+11のドーズ量は、1.0×10
14atoms/cm
2である。また、アルミアブソーバーを用い、その厚さを調整して、シリコン基板表面から90μmとなるようにする。FZウエハ10の厚さが例えば500μmの場合は、プロトンH
+11の飛程が410μmになるよう調整する。この飛程は、静電加速器を用いて、加速電圧にて飛程調整を実施しても良く、この場合の加速電圧は7.5MeVである。
図9(c)において、プロトンH
+11の照射によりFZウエハ10内に生じた結晶欠陥13を×印で示す。
【0102】
次いで、例えば、500℃で5時間の熱処理を窒素雰囲気で行い(水素を含んでいても構わない)、結晶欠陥13を回復させる。それにより、ウエハ裏面から30μmの深さのところを中心としてその前後にn型の高濃度領域が形成される。この高濃度領域によって、所望のブロードバッファ領域26が形成される(
図9(d))。
【0103】
次いで、nエミッタ層29に接するエミッタ電極24を形成する。また、ガードリングを含む周辺耐圧構造部に保護膜(不図示)を形成する(
図9(e))。エミッタ電極24は、例えばAl−Si(1%)であり、保護膜は、例えば、ポリイミドや窒化シリコン(SiN)膜である。
【0104】
次いで、FZウエハ10裏面の研削およびウェットエッチング30を行い、FZウエハ10を所要の厚さにする(
図9(f))。この段階でFZウエハ10の厚さは、定格電圧V
0=1200Vの場合、典型的には、100μm〜160μmである。実施の形態3(
図9)では、この段階でのFZウエハ10の厚さを120μmとする。
【0105】
次いで、FZウエハ10の、前述の研削およびウェットエッチング30が行われたFZウエハ面(裏面)からnフィールドストップ層23となるプロトンH
+11あるいはリン
+15等のn型不純物を照射する。活性化後(後述)の不純物濃度は、例えば、2×10
16atoms/cm
3となるようなドーズ量を設定する(
図9(g))。次いで、pコレクタ層28となるボロン
+14等のp型不純物をイオン注入する(
図9(h))。その際の加速電圧は、例えば、50keVであり、活性化後の不純物濃度が3×10
17atoms/cm
3となるようなドーズ量とする。ここで、nフィールドストップ層23の実効ドーズ量は、ブロードバッファ領域26を含めて、前記の実効ドーズ量条件を満たすような範囲とする。
【0106】
次いで、そのイオン注入面に対して、レーザーアニールによる電気的な活性化を行いpコレクタ層28が形成される。活性化は、レーザーアニールに代えて、炉アニールとしてもよい。炉アニールとした場合、例えば、450℃で5時間の熱処理を窒素雰囲気で行い(水素を含んでいても構わない)、活性化を行う。
【0107】
最後に、pコレクタ層28の表面に、例えば、Al−Si(1%)、チタン、ニッケルおよび金の順で金属を成膜し、pコレクタ層28の表面にオーミック接触するコレクタ電極25を形成し、IGBTが完成する(
図9(i))。
【0108】
次に、実施の形態3についての変形例を示す。
図10(a)〜(h)に従い、
図9に示すIGBTの製造方法(以下、製造方法その1とする)の変形例(以下、製造方法その2とする)について説明する。
図9に示す製造方法その1との相違点は、プロトンH
+11の照射(
図9(c)参照)を、エミッタ電極24および保護膜を形成し、FZウエハ10の裏面の研削およびウェットエッチング30の後に実施する点である。
図10に示す製造方法その2は、エミッタ電極24および周辺耐圧構造部の保護膜の耐熱温度がプロトンH
+を照射した後の熱処理温度よりも高い場合に有効である。
【0109】
具体的には、FZウエハ10の用意から素子表面構造であるMOSゲートと周辺耐圧構造部の形成までは、
図9の(a)、(b)と同じである。次いで、さらにエミッタ電極24およびポリイミド等の図示しない保護膜を形成する(
図10(b))。次いで、FZウエハ10裏面の研削およびウェットエッチング30を行い、FZウエハ10を所要の厚さにする(
図10(c))。その後、プロトンH
+11をウエハの裏面側から照射し(
図10(d))、熱処理を行う(
図10(e))。プロトンH
+の照射のとき、照射の加速器による加速電圧上限値の範囲でプロトンH
+11の飛程を調整する。例えば静電加速器では、裏面からの飛程を30μmとする場合、加速エネルギーは1.5MeVである。あるいはサイクロトロン型加速器を用いて、前述したアルミアブソーバーにより飛程を調整してもよい。
図10(f)以降の工程は、製造方法その1の
図9(g)以降と同じである。以上の製造方法その2のようにIGBTを形成すると、FZウエハ10を薄くした後の工程数を少なくすることができ、薄いウエハのハンドリングに起因するウエハの割れといった不良を軽減することができる。
【0110】
図11(a)〜(i)に従い、
図9に示す製造方法その1の変形例(以下、製造方法その3とする)について説明する。
図9に示す製造方法その1との相違点は、
図9における裏面の研削およびウェットエッチング30と(
図9(f))およびエミッタ電極24の形成工程(
図9(e))を入れ替えて実施する点である(それぞれ
図11(e)および
図11(f)参照)。その他の工程は
図9に示す製造方法その1と同様である。プロトンH
+11の照射後の熱処理温度がエミッタ電極24の耐熱温度よりも高い場合は、
図11に示す製造方法その3を用いて、実施の形態3にかかるIGBTを作製するのがよい。
【0111】
図12(a)〜(g)に従い、
図10に示す製造方法その2の変形例(以下、製造方法その4とする)について説明する。
図10に示す製造方法その2との相違点は、
図10(f)に示したpコレクタ層28に隣接するnフィールドストップ層の導入工程(ウエハへのリンもしくはプロトンH
+の導入)を省き、空乏層をブロードバッファ領域26にて止めて、pコレクタ層に到達しない構成を有するIGBTを作製する点である。このようにすると、ホールの注入効率は、ほぼウエハ裏面のpコレクタ層28の濃度および導入深さの調整のみで行うことができる。その他の工程は
図10に示す製造方法その2と同様である。
【0112】
また、実施の形態3では、トレンチゲート構造のIGBTについて説明したが、プレーナーゲート構造のIGBTに適用してもよい。
【0113】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、IGBTにおいても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0114】
(実施の形態4)
図13では、実施の形態4にかかる半導体装置の構成、ネットドーピング濃度分布を示す図である。実施の形態3におけるブロードバッファ領域26を、n
-ドリフト層21中に複数備えていてもよい。
【0115】
実施の形態4では、
図13に示すように、ブロードバッファ領域26が複数個(
図13では3個)形成されている。このようにブロードバッファ領域26を複数個設けることにより、スイッチング時の空間電荷領域の拡がり方をより細かく制御することができる。複数個形成するときも、定格電圧V
0=1200Vならばバルク比抵抗を144Ωcm以上とすることが好ましいことは、実施の形態1と同様である。さらに、ブロードバッファ領域26を複数作る場合は、ブロードバッファ領域を1つ形成するよりも、その数に応じてより高不純物濃度のブロードバッファ領域が形成され易くなるので、スイッチング時もしくは電源電圧保持時の空間電荷領域における電界強度の減少が1個の場合よりも大きくなりやすい。しかし、その結果、半導体装置の耐圧が低くなることもあるので、バルク比抵抗はさらに高くすることがよく、目安としては0.15V
0以上であることがより好ましい。上限は、前述の0.25V
0であることは同じである。それ以外の構成は、実施の形態3と同様である。
【0116】
ブロードバッファ領域26の実効ドーズ量は、その複数個の合計が、実施の形態1に示すように4.8×10
11atoms/cm
2以上1.0×10
12atoms/cm
2以下であればよい。本実施の形態4の場合、
図13に示したような3つのブロードバッファ領域26のピーク濃度と半値幅とにした場合、エミッタ電極24に近いほうから順に、ピーク濃度が4×10
14atoms/cm
3で半値幅が10μm、ピーク濃度が1.5×10
15atoms/cm
3で半値幅が5μm、ピーク濃度が3.5×10
15atoms/cm
3で半値幅が3μmである。それぞれのブロードバッファ領域26の積分濃度は、エミッタ電極24に近いほうから順に、2×10
11atoms/cm
2,3×10
11atoms/cm
2,4×10
11atoms/cm
2となり、合計8×10
11atoms/cm
2となる。さらにnフィールドストップ層23がおよそ1.0×10
12atoms/cm
2となるようにして、n型層(n
-ドリフト層21、ブロードバッファ領域26、nフィールドストップ層23)の実効ドーズ量(積分濃度)の総計は1.8×10
12atoms/cm
2となる。
【0117】
IGBTの場合、ゲートがオン状態でのIV出力波形にスナップバック現象(微小電流にて伝導度変調が起きずにコレクタ−エミッタ電極間の電圧降下が一旦大きく増加したあとに、伝導度変調が生じて急激に電圧降下が減少し電流が流れるという負性抵抗を示す現象のこと)を起こさないように設計する必要がある。このため、上記3つのn型層の積分濃度の総計は、2.0×10
12atoms/cm
2を超えないようにするとよい。一方、オフ状態の空乏層はpコレクタ層28に達しないようにしなければならない。このため、上記3つのn型層の積分濃度の総計は、1.2×10
12atoms/cm
2より大きくしなければならない。よって、上記3つのn型層の積分濃度の総計は、1.2×10
12atoms/cm
2以上、2.0×10
12atoms/cm
2以下とすればよい。また、pコレクタ層28に接するnフィールドストップ層23のみで上記積分濃度の範囲を満たしてもよい。この場合、リンを導入することでnフィールドストップ層23を形成してもよいし、プロトンH
+を導入することでnフィールドストップ層23を形成してもよい。上記3つのn型層全体で上記積分濃度の範囲を満たす場合、ゲートがオンのときにpコレクタ層から少数キャリアのホールがスムーズに注入され、かつ耐圧も安定的に得られるようになる。
【0118】
IGBTの場合でも、複数個のブロードバッファ領域を設けることにより奏する作用効果は、実施の形態2に示すダイオードにおける作用効果と基本的には同様である。つまり、複数個のブロードバッファ領域を形成するにあたって、FZバルクウエハのドナー濃度のばらつきの割合が±α(α>0)で、ブロードバッファ領域ではないバルク部分の総長の割合をγとし、臨界電界強度E
Cに対して、ブロードバッファ領域にてn回分だけ目減りした電界強度△Eの割合をηとしたときに、4α(γ/η)/{(2−α)(2+α)}<αの条件を満たすように形成することが好ましい。一方で、実施の形態3に示すように、IGBTでは裏面側にpコレクタ層28が形成されるため、裏面側から少数キャリアが注入されるので、空乏化していない電荷中性領域を裏面側から5〜20μmは確保することが望ましい。そのため、ブロードバッファ領域26のネットドーピング濃度分布のピークを、n
-ドリフト層21の中心の深さからコレクタ電極25側に設けることで、空乏層を確実に止めて、上記の中性領域を確保するのが望ましい。つまり、複数個のブロードバッファ領域26を、ドリフト層中間よりもコレクタ電極寄りの領域に多く形成すれば、電界強度の『目減り』△E(
図14(c)参照)を同領域にて形成することが可能となるので、好ましい。具体的には、ドリフト層のちょうど中間となる位置からコレクタ電極側に近い側のブロードバッファ領域の個数が、前記中間となる位置からエミッタ電極に近い側のブロードバッファ領域個数(0個も含む)よりも多ければよい。
【0119】
また、実施の形態4では、ブロードバッファ領域26を複数個形成する場合、FZウエハ10の裏面側(pコレクタ層28の形成側)からプロトンH
+11を照射するのが好ましい。その理由は、ウエハの表面から照射するとゲート酸化膜とシリコンの界面に結晶欠陥が形成されてしまうため、ゲート電圧の特性に影響を与える可能性があるからである。また、捕獲準位がpベース層22の近傍にも残留すると、オン状態でのキャリア分布が変化し、オン電圧とターンオフ損失のトレードオフ特性が悪化する可能性もあるからである。
【0120】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態1〜3と同様の効果を得ることができる。
【0121】
なお、上記のn型フィールドストップ層は、実施の形態3,4のIGBTのみで説明したが、実施例1,2のダイオードに適用することも可能である。つまり、n
+カソード層3とn
-ドリフト層1の間にて、n
+カソード層3よりも低い不純物濃度でかつ同層に隣接するように、nフィールドストップ層をリンの注入若しくはプロトンH
+を照射して形成すればよい。
【0122】
以上から、本発明によれば、耐圧ばらつき幅が小さく、ターンオフ損失を従来品よりも大きく低減し、かつソフトなスイッチング特性を有するダイオードまたはIGBTを、いっそう精密に制御して実現できる。よって、電気的損失の低い、環境問題を考慮したIGBTモジュールやIPM(Intelligent Power Module)の提供が可能となる。さらに、上記のような特性を有するIGBTモジュールを用いたPWMインバータ等の電力変換装置において、過電圧破壊やEMIの発生を抑え、発熱損失の少ない電力変換装置とすることが可能である。電力変換装置は、例えば、以下のものがある。コンバータ−インバータ回路は、効率良く誘導電動機やサーボモータ等を制御することが可能で、産業や電鉄等で広く用いられる。力率改善回路(PFC回路)は、AC入力電流を正弦波状に制御して波形改善をはかる回路であり、スイッチング電源に用いられる。さらに本発明のIGBTのチップ端面にp型の分離層を形成し、逆阻止型IGBTとすれば、マトリクスコンバータにも使用可能である。マトリクスコンバータは、DCリンクコンデンサが不要なので、エレベータ等、コンパクトな変換装置が必要な用途に活用できる。この逆阻止型IGBTに本発明を適用するとき、nフィールドストップ層を前述の実施の形態3の濃度(例えば、2×10
16atoms/cm
3)よりも低い不純物濃度とするかあるいは省き、一つまたは複数のブロードバッファ領域の濃度を調整することで、順方向阻止状態の空乏層がpコレクタ層に達しないようにする。このような構造とすることで、逆方向阻止状態にてpコレクタ層とドリフト層のpn接合から空乏層が広がるときに、前記pn接合の電界強度の集中を抑えて、逆方向耐圧も順方向耐圧と同じオーダーに維持することが可能である。