(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844683
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】蓄電素子管理装置、SOCのリセット方法、蓄電素子モジュール、蓄電素子管理プログラム及び移動体
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3842 20190101AFI20210308BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20210308BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20210308BHJP
G01R 31/388 20190101ALI20210308BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20210308BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20210308BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20210308BHJP
【FI】
G01R31/3842
H02J7/00 X
G01R31/3828
G01R31/388
H01M10/48 P
H01M4/58
B60L58/12
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-228256(P2019-228256)
(22)【出願日】2019年12月18日
(62)【分割の表示】特願2016-18035(P2016-18035)の分割
【原出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2020-60581(P2020-60581A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2020年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-43456(P2015-43456)
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】白石 剛之
(72)【発明者】
【氏名】水田 芳彦
【審査官】
永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/104752(WO,A1)
【文献】
特開2007−171205(JP,A)
【文献】
特開2015−38437(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0163853(US,A1)
【文献】
特開2012−108139(JP,A)
【文献】
特開2013−134962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/3842
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を決定するための方法であって、
互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能としており、
前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合に行われ、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるSOCのリセット方法であり、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されているSOCのリセット方法。
【請求項2】
前記第1のSOC決定法は、前記蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法であり、前記第2のSOC決定法は、前記蓄電素子の電圧を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法である請求項1記載のSOCのリセット方法。
【請求項3】
前記第一SOC領域と前記第二SOC領域とが同一である場合は、前記第1のSOC決定法に基づき決定されたSOCを前記SOC推定値として採用することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のSOCのリセット方法。
【請求項4】
前記SOC領域のうちの一つは、前記蓄電素子の電圧が前記V−SOC相関関係におけるSOCの変化に対する電圧の変化が他よりも小さい電圧平坦領域に対応する領域であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のSOCのリセット方法。
【請求項5】
蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を出力するものであって、互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能な情報処理部を備え、
前記情報処理部は、前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるリセット処理を行い、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されている蓄電素子管理装置。
【請求項6】
前記第1のSOC決定法は、前記蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法であり、前記第2のSOC決定法は、前記蓄電素子の電圧を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法である請求項5記載の蓄電素子管理装置。
【請求項7】
前記第一SOC領域と前記第二SOC領域とが同一である場合は、前記第1のSOC決定法に基づき決定されたSOCを前記SOC推定値として採用することを特徴とする請求項5又は請求項6記載の蓄電素子管理装置。
【請求項8】
前記SOC領域のうちの一つは、前記蓄電素子の電圧が前記V−SOC相関関係におけるSOCの変化に対する電圧の変化が他よりも小さい電圧平坦領域であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項9】
前記V−SOC相関関係には、複数の前記電圧平坦領域に関する情報が含まれる請求項8に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項10】
蓄電素子はリン酸鉄系の正極活物質を含んだリチウムイオン電池である請求項5ないし請求項9のいずれか一項に記載の蓄電素子管理装置。
【請求項11】
蓄電素子と、互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能な情報処理部とを備え、
前記情報処理部は、前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるリセット処理を行い、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されている蓄電素子モジュール。
【請求項12】
蓄電素子を制御するコンピュータに、前記蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を決定させるためのプログラムであって、
互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能とし、
前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるリセット処理を行い、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されている蓄電素子管理プログラム。
【請求項13】
蓄電素子と、その蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を出力する蓄電素子管理装置とを備えた移動体であって、
前記蓄電素子管理装置は、互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能な情報処理部を備え、
前記情報処理部は、前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるリセット処理を行い、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されている移動体。
【請求項14】
蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を決定するための方法であって、
互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能としており、
前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、
前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合に行われ、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCを所定値に置き換えるSOCのリセット方法あって、
前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に設定されているSOCのリセット方法。
【請求項15】
前記第1のSOC決定法は、前記蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法であり、前記第2のSOC決定法は、前記蓄電素子の電圧を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法である請求項14記載のSOCのリセット方法。
【請求項16】
前記第一SOC領域と前記第二SOC領域とが同一である場合は、前記第1のSOC決定法に基づき決定されたSOCを前記SOC推定値として採用することを特徴とする請求項14又は請求項15記載のSOCのリセット方法。
【請求項17】
前記SOC領域のうちの一つは、前記蓄電素子の電圧が前記V−SOC相関関係におけるSOCの変化に対する電圧の変化が他よりも小さい電圧平坦領域に対応する領域であることを特徴とする請求項14ないし請求項16のいずれか一項に記載のSOCのリセット方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、リチウムイオン電池等の蓄電素子の充電状態(SOC:State Of Charge)を取得する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、充放電を繰り返しつつ使用されている二次電池等の蓄電素子において、任意の時点でのSOCを推定する手法の一例として、電流積算法がある。これは電池の充放電電流を常時計測することで電池に出入りする電力量を計測し、これを初期容量から加減することでSOCを決定するものである。この方法は電池の使用中でもSOCを推定できるという利点がある。しかし、その反面、常に電流を測定して充放電電力量を積算しているから、電流センサー等の計測誤差が累積して次第に不正確になるという欠点がある。
【0003】
そこで、例えば電池の開放電圧(OCV:Open circuit Voltage)に基づくSOC決定方法を併用するOCV法が開発されている。これは、電池に電流が流れていないときのOCVとSOCとの間には比較的精度の良い相関関係があることを利用し、電池に電流が流れていないときの電池電圧、すなわち開放電圧を測定し、予め記憶しておいたOCVとSOCとの相関関係を参照して、測定されたOCVに対応するSOCを求め、電流積算法によって推定されているSOCを修正するのである。これにより、誤差の累積を断ち切ることができるから、電流積算法によるSOC推定の精度を高めることができるというものである。
【0004】
ところで、近年、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを使用したリチウムイオン電池が注目されている。この種のリチウムイオン電池では、OCV−SOC特性が例えば
図1に示すように、SOCが広い範囲で変化するにも係わらずOCVがほとんど変化しないフラットな領域(電圧平坦領域)が存在することが知られている。このことは、この種のリチウムイオン電池では、OCV法によってもSOC推定の誤差の改善が困難になることを意味する。
【0005】
すなわち、例えば
図1のようなOCV−SOC特性を有するリチウムイオン電池の場合、OCVが電圧平坦領域であることを示す例えば3.33V程度であった場合、SOCは概ね15%〜95%のいずれかにあるとしかいえない。このため、この種の電池ではOCVによるSOCの修正は、OCV−SOC特性においてOCVがある程度の傾きが生じている電圧傾斜領域でしか行うことができず、OCVによるSOCの修正の頻度が少なくなるため、結局、SOC推定の精度向上に限界があった。
【0006】
このようなSOC推定の誤差は、特に電池を駆動源とする電気自動車にあっては電欠という好ましくない事態を招く可能性があるため、その解消が熱望されている。
【0007】
これに対して、例えば特開2010−266221号公報に開示された技術では、充電によってSOCが電圧平坦領域の下限値よりも低いところから電圧平坦領域内に変化したことが検出された場合には、SOCを電圧平坦領域の下限値にリセットするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−266221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特開2010−266221号公報の技術では、電池が相当程度放電した場合であって、SOCが電圧平坦領域の下限値よりも低いところから電圧平坦領域内に変化したタイミングを捉えることになるから、その頻度は必ずしも高くなく、やはり精度向上に限界がある。
【0010】
本明細書では、蓄電素子のSOCを精度良く取得することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書によって開示される技術に係る蓄電素子管理方法は、蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を決定するための方法であって、互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能としており、前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、所定値を前記SOC推定値として採用するものであり、前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されているところに特徴を有する。
【0012】
また、本明細書によって開示される技術に係る蓄電素子管理装置は、蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を出力するものであって、互いに異なる方法によって前記蓄電素子のSOCを決定する第1及び第2のSOC決定法をそれぞれ実行可能な情報処理部を備え、前記情報処理部は、前記蓄電素子の電圧と充電状態とのV−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分したときに、前記第1のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第一SOC領域と、前記第2のSOC決定法により決定されるSOCが属するSOC領域である第二SOC領域と、が互いに異なる場合、所定値を前記SOC推定値として採用するものであり、前記所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値に近い値又はその境界値と前記第二SOC領域の中間値との間の値に設定されているところに特徴を有する。
【0013】
なお、前記第1のSOC決定法は、前記蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法とし、前記第2のSOC決定法は、前記蓄電素子の電圧を計測したデータを使って前記蓄電素子のSOCを決定する方法とした場合には、電流を計測したデータを使った第1のSOC決定法の随時性という利点を活かしつつ、電圧を計測したデータを使った第2のSOC決定法によって得られる値を参考に精度向上を図ることができるという利点が得られる。
【0014】
また、前記第一SOC領域と前記第二SOC領域とが同一である場合は、前記電流積算法に基づき決定されたSOCを前記SOC推定値として採用することが好ましい。また、前記SOC領域のうちの一つは、前記蓄電素子の電圧が前記V−SOC相関関係におけるSOCの変化に対する電圧の変化が他よりも小さい電圧平坦領域に対応する領域であることがより好ましい。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、蓄電素子管理装置及び蓄電素子管理方法、並びにこれらの装置または方法を実装した蓄電素子モジュール、移動体或いはプログラムとして実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書の技術によれば、2つの方法により得られるSOCを参考にするため蓄電素子のSOCの推定誤差を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】リチウムイオン電池のOCV−SOC特性の一例を示すグラフ
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン電池のOCV−SOC特性の例を示すグラフ
【
図3】一実施形態の電池モジュールの構成を示すブロック図
【
図4】SOC決定シーケンスの流れを示すフローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の蓄電素子管理方法及びその装置の概要について説明する。本技術は、例えばリチウムイオン電池等の蓄電素子の充電状態を示す値であるSOC推定値を決定するものであって、蓄電素子に流れる電流を検出する電流センサと、蓄電素子に電流が流れていないとき又は微小電流が流れているときの電圧を検出する電圧センサとを備える。蓄電素子は、例えば車両、電車、船舶、航空機等の移動体に搭載されている。
【0019】
一方、各種の蓄電素子の中には、例えばリチウムイオン電池等のように、その電圧(V)と充電状態(SOC)との間に比較的再現性が高い相関関係を有するものがある。そこで、そのような蓄電素子について予めその相関関係をV−SOC相関関係としてテーブル化してメモリに記憶させてある。そして、例えばCPUと所要の動作プログラムを記憶したメモリを備えた情報処理部が設けられており、その情報処理部は、電流センサにより検出した電流の時間積算により充放電電力量を求めて蓄電素子のSOCを決定する電流積算法と、電圧センサの検出結果から前記V−SOC相関関係に基づきSOCを決定するOCV法とを実行可能である。
【0020】
そして、それぞれの方法によって決定された各SOCが、どのような関係にあるかによってSOC推定値を決定してゆく。この場合、予め前記V−SOC相関関係を複数のSOC領域に区分しておき、電流積算法及びOCV法によって決定される各SOCがいずれのSOC領域に属するかを判定し、それらのSOC領域が同一か、異なるかによって、SOC推定値を次のようにして決定する。(1)すなわち、電流積算法により決定されるSOCが属するSOC領域(これを「第一SOC領域」とする)と、OCV法により決定されるSOCが属するSOC領域(これを「第二SOC領域」とする)と同一である場合には、電流積算法に基づき決定されたSOCをSOC推定値として採用する。
(2)また、前記第一SOC領域と前記第二SOC領域とが互いに異なるものとなった場合には、前記第二SOC領域(OCV法に基づき取得されたSOCが属する領域)のうちの所定値をSOC推定値として採用するようにし、その所定値は、前記第二SOC領域を区分する境界値のうちの前記第一SOC領域に近い側の境界値と、前記第二SOC領域の中間値との間に設定される。
【0021】
例えば、蓄電素子が取り得るSOCとして、SOCが小さい領域から大きい領域にかけて、まずSOC変化に対する電圧(V)の変化が所定値よりも大きなSOC領域1があり、次に、SOC変化に対する電圧(V)の変化が前記所定値よりも小さいSOC領域2(電圧平坦領域)があり、そしてSOC変化に対する電圧(V)の変化が所定値よりも大きなSOC領域3があるとした場合、電流積算法により決定されるSOC(以下、これをSOC(I)という)と、OCV法により決定されるSOC(以下、これをSOC(V)という)との各領域への所属のしかたには次の表1に示すように、態様1〜態様9の9通りが存在する。
【0022】
これらの各態様において、上記の(1)(2)の条件に従えば、採用されるSOC推定値は表1の右端の「採用されるSOC推定値」欄に記載の通りとなる。ここで、
「SOC(I)」は電流積算法に基づき決定されたSOCを示す。
「領域1 上半値」はSOC領域1に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属する領域2側の境界値である上限値との間の所定値であることを意味する。
「領域 2 下半値」とは、SOC領域2に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属する領域1側の境界値である下限値との間の所定値であることを意味する。
「領域 2 上半値」とは、SOC領域2に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属する領域3側の境界値である下限値との間の所定値であることを意味する。
そして、「領域 3下半値」とは、SOC領域3に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属する領域2側の境界値である下限値との間の所定値であることを意味する。
【表1】
上述のSOC推定値の決定方法によれば、次のような利点が得られる。
態様1,5,9のように、電流積算法により得られるSOC(I)が属する領域(第一SOC領域)とOCV法により得られるSOC(V)が属する領域(第二SOC領域)とが同一である場合には、SOC(I)の値に信頼を置くことができるから、SOC(I)をそのままSOC推定値として採用してOCVによるSOCの修正は行わない。
【0023】
態様2、3のように、SOC(V)が属する領域(第二SOC領域)がSOC領域1でありながら、SOC(I)が属する領域(第一SOC領域)がSOC領域1とは異なる領域(SOC領域2又は領域3)である場合には、電流積算法による計算に誤差が累積している可能性が高い。そこで、この場合には第二SOC領域であるSOC領域1の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属する第一SOC領域である領域2又は領域3側の境界値である上限値との間の所定値(領域1上半値)でOCVによるSOCの修正を行い、累積誤差の解消を図る。このように補正するのは、OCV法によってSOC領域1にSOCが存在していることが示され、電流積算法によってはそれよりも大きなSOCであることが示されているのであるから、SOC推定値をSOC領域1の上半値とすれば、最も真の値に近いと考えられるからである。領域I上半値としては、上限値又はそれに近い値が好ましい。
【0024】
一方、態様4のように、SOC(V)が属する領域(第二SOC領域)がSOC領域2でありながら、SOC(I)が属する領域(第一SOC領域)がSOC領域1である場合も、電流積算法による計算に誤差が累積している可能性が高い。そこで、この場合には第二SOC領域であるSOC領域2に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)からSOC(I)が属するSOC領域2側の境界値である下限値との間の所定値(領域2下半値)でOCVによるSOCの修正を行い、累積誤差の解消を図ることができる。
【0025】
逆に、態様6のように、第二SOC領域(SOC(V)が属するSOC領域)がSOC領域2でありながら、第一SOC領域(SOC(I)が属するSOC領域)がSOC領域3である場合も、電流積算法による計算に誤差が累積している可能性が高い。そこで、この場合には第二SOC領域(SOC領域2)に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)から第一SOC領域(SOC(I)が属するSOC領域3)側の境界値である上限値との間の所定値(領域2上半値)でOCVによるSOCの修正を行い、累積誤差の解消を図る。
【0026】
そして、態様7,8のように、SOC(V)が属する第二SOC領域がSOC領域3でありながら、SOC(I)が属する第一SOC領域がSOC領域1又は領域2である場合も、電流積算法による計算に誤差が累積している可能性が高い。そこで、この場合には第二SOC領域であるSOC領域3に属するSOCのうちその領域の中間のSOC(中間値)から第一SOC領域であるSOC領域1又は2側の境界値である下限値との間の所定値(領域3下半値)でOCVによるSOCの修正を行い、累積誤差の解消を図る。このように補正するのは、OCV法によってSOC領域3にSOCが存在していることが示され、電流積算法によってはそれよりも小さなSOCであることが示されているのであるから、SOC推定値をSOC領域3の下半値とすれば、最も真の値に近いと考えられるからである。領域3下半値としては、下限値又はそれに近い値が好ましい。
【0027】
これにより、電流積算式SOC決定処理に基づきSOCを決定しつつ、SOC(I)とSOC(V)とが属するSOC領域が相違した場合のリセット処理により高頻度でその値を補正することができるから、蓄電素子の使用中でもSOCを決定でき、かつ、電流積算法の欠点である誤差の累積を防止してSOC推定値の精度が高くなるという利点が得られる。
なお、プラトー領域を有する電池のSOCを電流積算法により高精度で求めるには、計測精度のよい電流計測手段を使用しつつ、電流値の取りこぼしが無いように高速度の電流積算処理を行うことが必要となるが、それらを実現するにはコストが高くなる。また、プラトー領域を有する電池のSOC推定の高精度化のために、dV/dQを演算してOCV−SOC特性における変極点を捉える方法が提案されているが、この方法を実装する場合は、変極点を捉えるために高度な演算処理と大容量のメモリが必要となり、これも実現するためにはコストが高くなり、また検証作業に膨大な時間を要することが予想される。これらに対して本発明は、電流計測手段の誤差を含んだSOCに対して、SOC範囲に入っているか否かを判定する方法であるため、高精度な電流計測手段を必要とせず、また処理もdV/dQを演算する手段と比べると簡単である。
【0028】
本明細書で開示する技術に係る蓄電素子管理装置は、V−SOC相関関係において電圧平坦領域を有する特性の蓄電素子を管理する場合に好適であるから、管理対象としてはリン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン電池が例示される。特に、電圧平坦領域が複数存在するタイプのリチウムイオン電池の充電状態を推定する場合に最も好適である。電圧平坦領域が複数存在することは、それらの領域の間に電圧傾斜領域が存在することを意味し、電流積算法とOCV法との結果の相違を利用してリセット処理を高頻度で行うことができ、SOC推定値の精度が高くなる。
【0029】
(実施形態の詳細)
以下、本明細書で開示される技術をEV,HEV,PHEV等の電動車両駆動用の電池モジュールに適用した実施形態について、
図2ないし
図4を参照しつつ詳細に説明する。
【0030】
本実施形態の電池モジュールは、
図3に示すように、直列接続された複数個の二次電池30と、これら二次電池30を管理するバッテリ−マネージャー(以下、BM)50、及び二次電池30に流れる電流を検出する電流センサ40を有する。BM50は「蓄電素子管理装置」の一例である。
【0031】
二次電池30は「蓄電素子」の一例であり、図示しない充電器によって充電され、車両駆動用のモータ等を駆動するインバータ(負荷10として図示する)に直流電力を供給する。この二次電池30は、例えばグラファイト系材料の負極活物質と、LiFePO4などのリン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン電池であって、例えばその開放電圧(OCV)と充電状態(SOC)との間には
図2に示す相関関係(ここでは「V−SOC相関関係」と呼ぶ)がある。このV−SOC相関関係において、二次電池30の充電状態を次の5つの領域に分けて考える。
【0032】
領域 SOCの範囲
領域 I 30%未満
領域 II 30%〜66%未満
領域 III 66%〜68%未満
領域 IV 68%〜95%未満
領域 V 95%以上
これらの領域のうち3つの領域I,III,Vでは、そのSOCに対応する電池のOCV曲線がある程度の右上がりの傾きを有し、すなわち充電状態(SOC)の変化に対して電圧(OCV)の変化が比較的大きく、所定値以上である。そこで、これらを「電圧傾斜領域」I,III,Vということとする。
【0033】
これに対して、上述の電圧傾斜領域I,III,V以外の領域(領域II、IV)では、そのSOCに対応する電池のOCV曲線の傾きが極めて小さく、すなわち充電状態(SOC)の変化に対して電圧(OCV)の変化が前記所定値以下である。そこで、これらの領域を「電圧平坦領域」II,IVということとする。
【0034】
BM50は、制御部60と、電圧計測部70と、電流計測部80とを備える。制御部60は情報処理部としての中央処理装置(以下、CPU)61と、メモリ63とを含む。メモリ63には、BM50の動作を制御するための各種のプログラムが記憶されており、CPU61はメモリ63から読み出したプログラムに従って、後述する「電流積算式SOC決定処理」、「電圧参照式SOC決定処理」、「第1リセット処理」、「第2リセット処理」及び「第3リセット処理」等からなるSOC決定シーケンスを実行する。また、メモリ63には、上記のSOC決定シーケンスの実行に必要なデータ、例えば、二次電池30のテーブル化したV−SOC相関関係、各領域I〜Vの充電状態の上限値及び下限値、二次電池30の初期値としての充電状態等が記憶されている。
【0035】
電圧計測部70は、電圧検知線を介して二次電池30の両端にそれぞれ接続され、各二次電池30の電圧V[V]を所定期間毎に測定する機能を果たす。電流計測部80は、電流センサ40を介して二次電池30に流れる電流を計測する機能を有する。
【0036】
さて、次に二次電池30のSOCを決定するSOC決定シーケンスについて
図4を参照して説明する。SOC決定シーケンスは、例えばBM50が車載のECU(図略)から実行指令を受けることにより開始され、開始後には制御部60の指令により、
図4に示した一連のステップが規定周期Tで繰り返し実行される。
【0037】
SOC決定シーケンスがスタートすると、まず、制御部60の指令により、電圧計測部70によって各二次電池30の電圧を計測する処理が実行される(S1)。次に、制御部60は電流計測部70に指令を与え、二次電池30に流れる電流を電流センサ40により計測する処理を行う(S2)。S1にて計測した電圧値と、S2にて計測した電流値はデジタル値に変換された後、メモリ63に記憶される。
【0038】
その後、処理はS3に移行し、制御部60は下記の(1)式、(2)式に示すように、S2にて計測した電流値Iに規定周期Tを乗算して電流積算値ZIを算出する。また、算出した電流積算値ZIをその時点での残存容量W3に電流の向きに応じて加算又は減算することで、二次電池30の新しい残存容量W3を算出する。すなわち、SOC決定シーケンスを1回行うたびに、残存容量(前回値)W3に対して電流積算値ZIを加減算することで、残存容量W3の値を更新する。
【0039】
ZI=I×T・・・・・・(1)
W3=W3+ZI・・・・(2)
この後、S4に移行し、その時点で二次電池30に電流が流れているか否かが判断されるが、ここで二次電池30が充電中又は放電中であって電流が流れている場合には、電流値が判定基準値を上回る状態になるので、S4ではNO判定される。そして、S4でNO判定された場合、処理はS5に移行する。S5では、電流積算法により、二次電池30のSOCを推定する処理が制御部60にて実行される。具体的には、下記の(3)式に示すように、S3にて算出した残存容量W3を、メモリ63に記憶された満充電容量W4で除算することにより、SOCの値が得られる。
【0040】
SOC=W3/W4・・・・・・(3)
このようなS1,S2,S3,S5を経る処理は、電流の時間積算により充放電電力量を求めて二次電池30の充電状態を決定する処理に相当する。以後、このS5によって決定された特定の値を有するSOCをSOC(i)と表記する。
【0041】
そして、S5の処理完了に伴って一周期分の処理は終了する。その後は、規定周期Tで、SOC決定シーケンスが繰り返し実行される。二次電池30の放電又は充電が継続している期間、S1〜S5の処理が規定周期Tで繰り返し行われることになり、二次電池30の電圧値V、電流値I、残存容量W3の値はその都度更新され(S1〜S3)、SOCも電流積算法を用いてその都度算出されることになる(S5)。
【0042】
そして、二次電池30の充電完了又は放電終了によって、二次電池30に流れる電流Iが所定値(電流が概ねゼロとみなせる値)よりも小さくなると、S4でYES判定され、処理はS6に移行する。S6では二次電池30に電流が流れなくなってからの経過時間をカウントする処理が実行される。
【0043】
その後、処理はS7に移行して、安定時間(予め設定された所定時間)が経過したかどうか判定する処理が、制御部60にて実行される。安定時間は、二次電池30のOCV(開放電圧)が安定するのを待つための時間であり、S7にて計測する経過時間が安定時間になると、S7にてYES判定され、処理はS8に移行する。
【0044】
S8では、OCV法に基づいて二次電池30のSOCを決定する処理が、制御部60により実行される。具体的には、まず、電圧計測部70によって二次電池30のOCV(電流が流れていない状態の開放電圧)を計測する処理が実行される。そして、計測されたOCVを、
図2に示すV−OCVの相関特性を参照することにより、SOCが決定される。このS8は、電圧センサの検出結果からV−SOC相関関係に基づき充電状態を決定する処理に相当する。以後、このS8で決定された特定の値を有するSOCをSOC(v)と表記する。
【0045】
その後、処理はS9に移行して、SOC(v)の値が領域I〜Vのうちのどの領域に属するかが判断される。ここで、そのSOC(v)が電圧傾斜領域I,III,Vのいずれかに属すると判断された場合には、S10に移行して前述の電流積算式SOC決定処理によって取得されたSOC(i)をS8の電圧参照式SOC決定処理により決定されたSOC(v)と置き換える第1リセット処理を行う。電圧傾斜領域I,III,Vでは、OCVとSOCとの間には精度良い相関関係があるから、S5の電流積算式SOC決定処理によって取得されたSOC(i)をより精度の高い値に補正することができ、SOC決定シーケンスにおける精度が高くなるからである。
【0046】
一方、S9において、SOC(v)が属するSOC領域(第二SOC領域)が電圧平坦領域II,IVであると判断された場合には、引き続き、これがSOC(i)が属するSOC領域(第一SOC領域)と一致するか判断される(S11)。ここで、両SOCの領域が一致しているなら、すなわちSOC(i)が電圧平坦領域II又はIVの下限値及び上限値の間に存在しているなら、VーSOC相関関係による補正を行うことなく、そのままリターンする。従って、SOCは引き続きS5の電流積算式SOC決定処理によって取得されたSOC(i)が利用される。これらの電圧平坦領域II,IVでは、V−SOC相関関係における平坦性のために、SOC(v)には比較的大きな誤差が含まれる可能性が高く、従来のように一律にV−SOC相関関係に基づいて補正を行うと、かえって誤差が大きくなるからである。
【0047】
また、S11において、SOC(v)によれば電圧平坦領域II,IVにあると判断されているにも関わらず、SOC(i)の値が両電圧平坦領域II,IVの上限値よりも大きいと判断される場合には、S12に移行してSOC(i)の値をそれらの領域の上限値に置き換える(第2リセット処理)。
【0048】
例えばSOC(v)が領域IIにあることを示しているなら、V−SOC相関関係に基づけば本来のSOCは30%〜66%のいずれかにあるはずではあるが、どの値かは特定できない(特定すると誤差が広がる可能性がある)。しかし、SOC(i)が領域IIの上限SOCである66%以上であるなら、本来のSOCは66%近辺であることの可能性は極めて高い。そこで、SOCをその領域IIの上限値66%に補正するのである。また、SOC(v)が領域IVにあることを示している一方でSOC(i)が領域IVの上限SOCである95%以上であるなら、本来のSOCは95%近辺であることの可能性は極めて高い。そこで、SOCをその領域IVの上限値95%に補正するのである。これによりSOC(i)に含まれていた誤差を小さくすることができる。
【0049】
逆に、S11において、SOC(v)によれば電圧平坦領域II,IVにあると判断されているにも関わらず、SOC(i)の値が両電圧平坦領域II,IVの下限値よりも小さい場合には、S13に移行してSOC(i)の値をそれらの領域の下限値に置き換える(第3リセット処理)。
【0050】
例えばSOC(v)が領域IIにあることを示しているなら、V−SOC相関関係に基づけば本来のSOCは30%〜66%のいずれかにあるはずではあるが、どの値かは特定できない(特定すると誤差が広がる可能性がある)。しかし、SOC(i)が領域IIの下限SOCである30%以下であるなら、本来のSOCは30%近辺であることの可能性は極めて高い。そこで、SOCをその領域IIの下限値30%に補正するのである。また、SOC(v)が領域IVにあることを示しているなら、V−SOC相関関係に基づけば本来のSOCは68%〜95%のいずれかにあるはずではあるが、どの値かは特定できない(特定するとやはり誤差が広がる)。しかし、SOC(i)が領域IVの下限SOCである68%以下であるなら、本来のSOCは68%近辺であることの可能性は極めて高い。そこで、SOCをその領域IVの下限値68%に補正するのである。これによりSOC(i)に含まれていた誤差を小さくすることができる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
(1)上記実施形態では、蓄電素子の一例としてリン酸鉄系の正極活物質を使用したリチウムイオン二次電池を例示したが、これに限られない。リチウムイオン二次電池以外の二次電池や、電気化学現象を伴うキャパシタ等であってもよく、V−SOC相関関係において電圧平坦領域を有するものに好適であり、その電圧平坦領域が二カ所にあるものに限らず、
図1に示したように1種類の電圧平坦領域のみ有するタイプの蓄電素子であってもよいし、3種類以上の電圧平坦領域を有するタイプの蓄電素子であってもよい。
【0053】
(2)上記実施形態では、制御部60の一例としてCPU61を例に挙げた。制御部60は複数のCPUを備える構成や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、MPU、マイコン、プログラム可能なPLD、FPGAなどのハード回路を備える構成や、ハード回路及びCPUの両方を備える構成でもよい。要するに、制御部は、上記のSOC決定シーケンスを、ソフト処理または/及びハード回路を利用して実行するものであればよい。また、ソフトウエアを利用して本発明を実施する際には、そのソフトウエア(コンピュータプログラム)を半導体メモリー等の記憶媒体に記録して配布したり、有線又は無線の通信回線を介してコンピュータの記憶装置に格納することができる。
【0054】
(3)上記実施形態では、S9において二次電池30の充電状態がV−SOC相関関係におけるいかなる領域にあるかを判断するにあたり、測定したOCVによりSOCを求め、それがどの領域のものであるかという判断を行っているが、OCVとSOCとは一義的な対応関係がある場合に、OCVから直接的に領域を判断してもよい。
【0055】
(4)なお、蓄電素子の電圧を計測したデータを使って蓄電素子のSOCを決定する方法としては、上記実施形態で例示したOCV法に限らず、充放電I,VとRからOCVを推定する方法や、カルマン法を採用することができる。ここで前者は、電池の内部抵抗R、電池の端子電圧V及び充放電電流Iに基づきOCV=V−RIの関係に基づいてOCVを算出する方法をいう。また、カルマン法とは、例えば特表2004−514249号公報、特開2012−47580号公報等に開示されているように、電池の等価回路モデルを作成しカルマン・フィルタを用いてモデルの回路パラメータを逐次推定し、推定した回路パラメータからOCVひいてはSOCを算出する方法をいう。
【0056】
(5)また、蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って蓄電素子のSOCを決定する方法としては、一定周期で蓄電素子に流れる電流を測定し、測定した電流値Iに周期Tを掛け合わせたITを初期容量X(Ah)に対して加減してSOCを求める、いわゆる電流積算法に限らず、どの電流値が一定と見なせる場合には時間積算法を採用することもできる。ここにいう時間積算法とは、蓄電素子に流れる電流値が一定とみなすことができる所定の範囲内に留まっている時間Tを計測し、そのみなし定電流Iに時間Tを掛け合わせた値を初期容量X(Ah)に対して加減してSOCを求める方法をいう。
【0057】
(6)上記実施形態では、第一SOC領域と第二SOC領域とが同一である、すなわち電流積算法によって決定されるSOCが属する領域とOCV法によって決定されるSOCが属する領域とが同一である場合には、電流積算法に基づき決定されたSOC自体をSOC推定値として採用するようにしたが、これに限らず、上記両領域が同一の場合に、電流積算法に基づき決定されたSOCを、例えばOCV法によって決定されるSOC等に応じて補正した値をSOC推定値としてもよい。また、第1及び第2の各SOC決定法により推定されたSOCのうちいずれを採用するかは、蓄電素子の温度や電流値に応じて決定することもできる。
【0058】
(7)なお、蓄電素子に流れる電流を計測したデータを使って蓄電素子のSOCを推定した場合、SOCが想定されるSOC範囲の下限未満であった場合は、SOC推定値が放電方向にずれていると考えられる。そこで、この場合には電流計測値を充電側にオフセットさせることで、SOC推定の精度を向上させることができる。逆に、SOCの推定値がSOC範囲の上限を超過していた場合には、電流計測値を放電側にオフセットさせることで、SOC推定の精度を向上させることができる。また、このように電流計測値をオフセットしたにも関わらず、SOC範囲の外れ方が変化しない場合は、電流計測手段の異常と判断しても良い。
【0059】
(8)上記実施形態では、電動車両等の移動体に蓄電素子が搭載されている例について説明したが、蓄電素子は移動体に搭載されているものに限らず、静置型機器に備えられた蓄電装置であってもよい。静置型機器としては、工場や家庭、オフィスに設置される無停電電源装置、非常用電源装置、或いは電源分散化や電力負荷平準化のために送電系統に接続される蓄電装置等を例示することができる。
【符号の説明】
【0060】
10:負荷、30:二次電池(蓄電素子)、40:電流センサ、50:バッテリマネージャ(蓄電素子管理装置)、60:制御部、61:情報処理部、70:電圧計測部