(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0014】
本実施形態の表面処理ガラスクロスは、表面に表面処理層を備え、該表面処理層は、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1つのアミンを含み、第4級アンモニウムカチオンを含まない第1のシランカップリング剤と、少なくとも1つの第4級アンモニウムカチオンを含む第2のシランカップリング剤と、有機酸と、界面活性剤とを含んでいる。
【0015】
本実施形態の表面処理ガラスクロスは、前記表面処理層において、前記第1のシランカップリング剤と、前記第2のシランカップリング剤との合計含有量が前記表面処理ガラスクロスの全量に対して、0.05〜1.20質量%の範囲にあり、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比(第1のシランカップリング剤の含有モル量/第2のシランカップリング剤の含有モル量)が、1.1〜10.0の範囲にあり、前記有機酸の含有量が前記表面処理ガラスクロスの全量に対して、50〜300ppmの範囲にある。
【0016】
前記表面処理層は、生産性の観点からは、単層であることが好ましい。ここで、単層であるとは、表面処理層の最表部分からガラスクロス表面部分までの構成成分組成が同じであることを意味する。
【0017】
本実施形態の表面処理ガラスクロスは、前記表面処理層において、前記第1のシランカップリング剤と、前記第2のシランカップリング剤との合計含有量が前記表面処理ガラスクロスの全量に対して、0.26〜1.10質量%の範囲にあることが好ましく、0.27〜0.80質量%の範囲にあることがより好ましく、0.28〜0.60質量%の範囲にあることがさらに好ましく、0.29〜0.44質量%の範囲にあることが特に好ましい。
【0018】
前記第1のシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランを挙げることができる。前記第1のシランカップリング剤は、樹脂への接着力が強くなることから、少なくとも1つの第1級アミンを含むシランカップリング剤であることが好ましい。
【0019】
前記第2のシランカップリング剤としては、例えば、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン塩酸塩、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−アミノプロピルトリエトキシシラン塩酸塩、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン塩酸塩、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を挙げることができる。
【0020】
本実施形態の表面処理ガラスクロスにおいて、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比(第1のシランカップリング剤の含有モル量/第2のシランカップリング剤の含有モル量)は、1.3〜5.0の範囲にあることが好ましく、1.4〜4.0の範囲にあることがより好ましく、1.5〜3.0の範囲にあることがさらに好ましい。
【0021】
ここで、前記表面処理層における、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比は、ガラスクロスの表面処理の際に用いる、表面処理剤溶液における、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比と同一になる。また、前記表面処理層における、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量、及び、第2のシランカップリング剤の含有モル量は、水系または有機系の溶媒を用いてシランカップリング剤を抽出した後、GC−MSを使用することにより、シランカップリング剤の化学構造の同定を行い、また、標準物質を用いて作成された検量線との対比よりシランカップリング剤の含有量の定量を行い、これらから算出することができる。
【0022】
また、本実施形態の表面処理ガラスクロスは、前記表面処理層において、前記有機酸の含有量が前記表面処理ガラスクロスの全量に対して、150〜200ppmの範囲にあることが好ましく、155〜190ppmの範囲にあることがより好ましく、160〜180ppmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0023】
本実施形態の表面処理ガラスクロスにおいて、前記有機酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸等を挙げることができる。取り扱い性に優れることから、前記有機酸としては、酢酸が好ましい。
【0024】
本実施形態の表面処理ガラスクロスにおいて、前記界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよい。前記界面活性剤の含有量としては、前記表面処理ガラスクロスの全量に対して、10〜50ppmを挙げることができる。ここで、水系または有機系の溶媒を用いて界面活性剤を抽出した後、GC−MS又は電気泳動法を使用することにより、前記界面活性剤の種類を特定することができ、また、標準物質を用いて作成された検量線との対比より界面活性剤の含有量を特定することができる。
【0025】
ノニオン系界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0026】
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
【0027】
カチオン系界面活性剤としては、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウムなどが挙げられる。
【0028】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルジエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0029】
前記界面活性剤のHLB値としては、6.0〜19.0を採用することができる。ここで、界面活性剤のHLB値は、界面活性剤の化学構造に基づいて算出することができる。
【0030】
本実施形態の表面処理ガラスクロスにおいて、前記表面処理層の固着率は、50.5〜80.0%であることが好ましく、51.0〜70.0%であることがより好ましく、51.5〜65.0%であることがさらに好ましい。前記表面処理層の固着率は、ガラスクロスの表面に化学結合しているシランカップリング剤の量を反映するものであり、表面処理剤溶液中のシランカップリング剤の加水分解の進行レベルや、表面処理剤溶液の安定性の影響を受ける。ここで、表面処理剤溶液中の有機酸は、シランカップリング剤の加水分解を促進させ、一方で、表面処理剤溶液の安定性を悪化させる。
【0031】
本実施形態の表面処理ガラスクロスは、例えば、次のようにして製造することができる。
【0032】
まず、所定のガラス組成となるように調整されたガラスバッチ(ガラス原材料)を溶融して繊維化することにより、ガラスフィラメントを得る。
【0033】
前記所定のガラス組成としては、最も汎用的であるEガラス組成(ガラス繊維の全量に対し、酸化物換算で、52.0〜56.0質量%の範囲のSiO
2と、12.0〜16.0質量%の範囲のAl
2O
3と、合計で20.0〜25.0質量%の範囲のMgO及びCaOと、5.0〜10.0質量%の範囲のB
2O
3とを含む組成)、高強度高弾性率ガラス組成(ガラス繊維の全量に対し64.0〜66.0質量%の範囲のSiO
2と、24.0〜26.0質量%の範囲のAl
2O
3と、9.0〜11.0質量%の範囲のMgOとを含む組成)、高弾性率易製造性ガラス組成(ガラス繊維の全量に対し、57.0〜60.0質量%の範囲のSiO
2と、17.5〜20.0質量%の範囲のAl
2O
3と、8.5〜12.0質量%の範囲のMgOと、10.0〜13.0質量%の範囲のCaOと、0.5〜1.5質量%の範囲のB
2O
3とを含み、かつ、SiO
2、Al
2O
3、MgO及びCaOの合計量が98.0質量%以上である組成)、及び、低誘電率低誘電正接ガラス組成(ガラス繊維全量に対し、48.0〜62.0質量%の範囲のSiO
2と、17.0〜26.0質量%の範囲のB
2O
3と、9.0〜18.0質量%の範囲のAl
2O
3と、0.1〜9.0質量%の範囲のCaOと、0〜6.0質量%の範囲のMgOと、合計0.05〜0.5質量%の範囲のNa
2O、K
2O及びLi
2Oと、0〜5.0質量%の範囲のTiO
2と、0〜6.0質量%の範囲のSrOと、合計0〜3.0質量%の範囲のF
2及びCl
2と、0〜6.0質量%の範囲のP
2O
5とを含む組成)を挙げることができる。プリント配線板の基板用途には、前記Eガラス組成、又は、低誘電率低誘電正接ガラス組成が好ましい。
【0034】
前記ガラスフィラメントのフィラメント径は、特に限定されないが、プリント配線板の基材用途には、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、3〜5μmの範囲であることが特に好ましい。
【0035】
前記ガラスフィラメントは、例えば、25〜500本、好ましくは40〜300本の範囲の本数で、それ自体公知の方法により集束され、ガラス繊維糸とされる。なお、ガラスバッチを溶融し、繊維化してガラスフィラメントを得て、次いで、このガラスフィラメント複数本を集束してガラス繊維糸を得ることを紡糸という。
【0036】
前記ガラス繊維糸の番手は、0.8〜135texであることが好ましく、1〜25texであることがより好ましい。なお、ガラス繊維糸の番手(tex)とは、ガラス繊維の1000mあたりの質量(g)に相当する。
【0037】
次に、前記ガラス繊維糸を経糸又は緯糸として製織することによりガラスクロスを得る。前記製織の方法は、特に限定されないが、例えば、平織、朱子織、綾織等を挙げることができ、平織であることが好ましい。前記製織の際の前記ガラス繊維糸の織密度は、特に限定されないが、例えば、10〜150本/25mmが好ましく、40〜100本/25mmであることがより好ましい。
【0038】
前記製織の際には、前記ガラスフィラメントの集束や経糸の整経等にサイズ剤を用いる。前記サイズ剤としては、例えば、被膜形成剤成分がデンプン系又はPVA(ポリビニルアルコール)系であるサイズ剤を挙げることができる。前記サイズ剤は、油剤又は柔軟剤等を含んでもよい。
【0039】
前記ガラスクロスにおける前記サイズ剤の付着量は、前記ガラス繊維糸100質量部に対して該サイズ剤の付着量が0.1〜3質量部であることが好ましく、0.5〜1.5質量部であることがより好ましい。なお、前記サイズ剤の付着量の範囲や特に指定しない場合のサイズ剤の付着量は、経糸又は緯糸に対するサイズ剤の付着量の平均を表したものである。
【0040】
前記製織により得られる前記ガラスクロスは、プリント配線板の基材用途という観点から、その単位面積あたりの質量が110g/m
2以下であることが好ましく、50g/m
2以下であることがより好ましい。一方、製織性の観点からは、ガラスクロスの単位面積あたりの質量が8g/m
2以上であることが好ましい。
【0041】
次に、前記ガラスクロスに対して開繊処理を施す。前記開繊処理としては、例えば、水流圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、面圧を有する流体の圧力による開繊、ロールによる加圧での開繊等を挙げることができる。前記開繊処理の中では、水流圧力による開繊、又は液体を媒体とした高周波の振動による開繊を使用することが、経糸及び緯糸のそれぞれにおいて、開繊処理後の糸幅のバラツキが低減されるので好ましい。また、前記開繊処理は、複数の処理方法を併用してもよい。
【0042】
次に、前記開繊処理が施されたガラスクロスに対し、脱油処理を施す。前記脱油処理は、例えば、前記ガラスクロスを雰囲気温度が350℃〜450℃の加熱炉内に40〜80時間配置し、該ガラスクロスに付着している紡糸用集束剤と製織用集束剤とを加熱分解することにより行うことができる。
【0043】
次に、前記脱油処理が施されたガラスクロスを、前記第1のシランカップリング剤、前記第2のシランカップリング剤、前記有機酸及び前記界面活性剤を含み、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比が1.1〜10.0の範囲にある表面処理剤溶液に1回浸漬する。次いで表面処理剤溶液が付与されたガラスクロスから、余分な水分を絞液した後、80〜180℃の範囲の温度で、1〜30分間の時間、例えば110℃で5分間加熱乾燥することにより、表面処理層を形成して、1回の表面処理により、本実施形態の表面処理ガラスクロスを得る。なお、表面処理剤溶液が付与されたガラスクロスにおいて、ガラスクロス表面に付着している有機酸の一部は、ガラスクロスを加熱乾燥した際に揮発する。
【0044】
前記表面処理剤溶液の溶媒としては、水、エチレングリコール、エタノール等を挙げることができる。前記表面処理剤溶液における、前記第1のシランカップリング剤及び前記第2のシランカップリング剤の合計濃度としては、0.1〜10.0質量%、有機酸の濃度としては、0.1〜50.0質量%、前記界面活性剤の濃度としては、0.1〜10.0質量%、を挙げることができる。
【0045】
なお、前記脱油処理前に、ガラスクロスを体積平均粒子径が30〜300nmのシリカ微粒子が水に分散された分散液が収容されたシリカ微粒子付着槽を通過させることにより、ガラスクロス中のガラスフィラメントにシリカ微粒子を付着させる処理を行うことができる。シリカ微粒子の付着量としては、例えば、表面処理されていないガラスクロス100質量部に対して、0.001〜1質量部とすることができる。
【0046】
また、前記脱油処理後に、ガラスクロスに、2回目の開繊処理を行うことができる。
【0047】
本実施形態のプリプレグは、前述した本実施形態の表面処理ガラスクロスを含む。
【0048】
本実施形態のプリプレグは、前述した表面処理ガラスクロスに、それ自体公知の方法により、樹脂を含浸させ、半硬化させることにより得られる。
【0049】
本実施形態のプリプレグにおいて、前述した表面処理ガラスクロスに含浸される樹脂は、特に限定されない。このような樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、変性ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、本実施形態の表面処理ガラスクロスを用いることによる、絶縁信頼性向上の効果が特に大きいことから、ポリフェニレンエーテル樹脂、又は、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を好ましく用いることができる。
【0050】
本実施形態のプリント配線板は、前述した本実施形態の表面処理ガラスクロスを含む。
【0051】
本実施形態のプリント配線板は、例えば、前述した本実施形態のプリプレグを硬化させることで得ることができる。
【0052】
本実施形態の表面処理ガラスクロスを含むプリプレグ又は繊維強化樹脂成形品は、プリント配線板以外に、アンテナ、レーダー、電子機器の筐体等の用途に用いることができる。
【0053】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0054】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、IPC規格で2116に相当する低誘電率低誘電正接ガラスクロス(経糸及び緯糸に、フィラメント径7μmの低誘電率低誘電正接ガラスフィラメント(前記低誘電率低誘電正接ガラス組成を備えるガラスフィラメント)が集束されてなる20.8texの低誘電率低誘電正接ガラス繊維糸を用い、経糸織密度が60本/25.4mm、緯糸織密度が58本/25.4mmであり、厚さが94μmである平織ガラスクロス)を製織したあと、ヒートクリーニングによりガラスクロス表面に存在する有機物を除去したガラスクロスを用意した。
【0055】
次に、第1のシランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシランを、第2のシランカップリング剤としてN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を用い、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比が1.7であり、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、有機酸としての酢酸により、pH4.3に調整した表面処理剤水溶液を用意した。
【0056】
次に、前記表面処理剤水溶液に、前記ガラスクロスを浸漬させたあと、これをマングルにより絞液し、さらに110℃で5分間乾燥させて本実施例の表面処理ガラスクロスを得た。
【0057】
本実施例で得られた表面処理ガラスクロスについて、次のようにして、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
[第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量]
前記表面処理ガラスクロスを切りとり、全窒素・全炭素分析装置(株式会社住化分析センター製、商品名:SUMIGRAPH NC−TRINITY)を用いて前記表面処理ガラスクロス中に含まれる窒素成分量と炭素成分量を定量した。ガラスクロス中に含まれる全炭素量から、後述する方法で測定される酸付着量を除いたものを、第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量とした。なお、界面活性剤の付着量は、第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量に対して微量であるため、第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量との関係では、実質的に無視することができる。
【0059】
[酸付着量]
表面処理ガラスクロスを切り取り、秤量後、クロロホルムを添加し、超音波浴によって洗浄し、希アルカリ溶液にて振とう及び超音波浴による酸抽出を行った。抽出液を遠心分離処理し、水層部を試料溶液とした。次いで、電気泳動システム(Agilent Technologies社製、商品名:7100キャピラリー電気泳動システム、緩衝液:Agilent Technologies社製有機酸分析バッファ)を用いて、試料溶液および標準品溶液の測定を行い、1点検量線法により、試料溶液中の酸量を定量した。次いで、表面処理ガラスクロスの質量と定量した酸の質量から、前記表面処理ガラスクロスの酸付着量を算出した。
【0060】
[表面処理層固着率]
前記表面処理ガラスクロスを100mm×100mmの大きさに切り取り、トルエンに1分間浸漬し、120℃で30分間加熱乾燥し、物理吸着している表面処理剤の脱落を行い、トルエン処理ガラスクロスを得た。得られたトルエン処理ガラスクロスについて、[第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量]に記載した方法で、第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量シランカップリング剤付着量の定量を行い、(トルエン処理ガラスクロスにおける第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量)/(表面処理ガラスクロスにおける第1のシランカップリング剤と第2のシランカップリング剤との合計含有量)×100、により表面処理層固着率(%)を算出した。
【0061】
次に、本実施例で得られた表面処理ガラスクロスを用い、エポキシ樹脂ワニス中に浸漬し、130℃で13分間乾燥して、前記エポキシ樹脂を半硬化させたプリプレグを得た。得られたプリプレグを2枚積層し、プリプレグの上下にセロハンフィルムを重ね、真空ホットプレスを用いて板厚が約0.3mmの積層板を得た。本実施例で得られた前記積層板について、次のようにして、白化距離を算出した。結果を表1に示す。なお、前記白化距離は、絶縁信頼性の指標となる数値であり、数値が小さいほど絶縁信頼性が高いことを示す。
【0062】
[白化距離]
上記積層板を60mm×60mmの大きさに切り出し、ダイヤモンドカッターを用いて縦と横にそれぞれ30mmの長さのスリットを入れ、試験片を得た。ビーカーに調液した1mol/L−NaOH水溶液を入れ、前記試験片を溶液中に30時間浸漬し、デジタルマイクロスコープを用いて、経糸方向、緯糸方向の樹脂とガラス界面の剥離によって生じる白化の距離をそれぞれ20点測定し、平均値を算出することにより、白化距離を算出した。
【0063】
〔実施例2〕
次に、有機酸としての酢酸により、pH3.9となるように調整した以外は、実施例1と全く同一にして、表面処理剤水溶液を用意した。
【0064】
次に、本実施例で調製した表面処理剤水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の表面処理ガラスクロス及びプリプレグを得た。
【0065】
次に、実施例1と全く同一にして、本実施例で得られた表面処理ガラスクロスの前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出し、本実施例で得られたプリプレグの白化距離を算出した。結果を表1に示す。
【0066】
〔比較例1〕
次に、有機酸としての酢酸により、pH6.8となるように調整した以外は、実施例1と全く同一にして、表面処理剤水溶液を用意した。
【0067】
次に、本比較例で調製した表面処理剤水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の表面処理ガラスクロス及びプリプレグを得た。
【0068】
次に、実施例1と全く同一にして、本比較例で得られた表面処理ガラスクロスの前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出し、本比較例で得られたプリプレグの白化距離を算出した。結果を表1に示す。
【0069】
〔比較例2〕
次に、界面活性剤を含まない以外は、実施例1と全く同一にして、表面処理剤水溶液を用意した。
【0070】
次に、本比較例で調製した表面処理剤水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の表面処理ガラスクロス及びプリプレグを得た。
【0071】
次に、実施例1と全く同一にして、本比較例で得られた表面処理ガラスクロスの前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出し、本比較例で得られたプリプレグの白化距離を算出した。結果を表1に示す。
【0072】
〔比較例3〕
次に、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比を0.5とした以外は、実施例1と全く同一にして、表面処理剤水溶液を用意した。
【0073】
次に、本比較例で調製した表面処理剤水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の表面処理ガラスクロス及びプリプレグを得た。
【0074】
次に、実施例1と全く同一にして、本比較例で得られた表面処理ガラスクロスの前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出し、本比較例で得られたプリプレグの白化距離を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例4〕
次に、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比を19.0とした以外は、実施例1と全く同一にして、表面処理剤水溶液を用意した。
【0076】
次に、本比較例で調製した表面処理剤水溶液を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の表面処理ガラスクロス及びプリプレグを得た。
【0077】
次に、実施例1と全く同一にして、本比較例で得られた表面処理ガラスクロスの前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との合計含有量、酸付着量、表面処理層固着率を算出し、本比較例で得られたプリプレグの白化距離を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から、表面処理層における前記第1のシランカップリング剤と、前記第2のシランカップリング剤との合計含有量が表面処理ガラスクロスの全量に対して、0.05〜1.20質量%の範囲にあり、前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比(第1のシランカップリング剤の含有モル量/第2のシランカップリング剤の含有モル量)が、1.1〜10.0の範囲にあり、前記有機酸の含有量が表面処理ガラスクロスの全量に対して、50〜300ppmの範囲にある実施例1,2の表面処理ガラスクロスによればプリプレグとしたときの白化距離が50μm以下であり、優れた絶縁信頼性を備えていることが明らかである。また、表面処理層固着率が50.0%以上であり、プリプレグとしたときの白化距離が25μm以下である表面処理ガラスクロスによれば、さらに優れた絶縁信頼性を備えていることが明らかである。
【0080】
一方、表面処理層における有機酸の付着量が50ppm未満である比較例1の表面処理ガラスクロス、表面処理層に界面活性剤を含まない比較例2の表面処理ガラスクロス、表面処理層における前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比(第1のシランカップリング剤の含有モル量/第2のシランカップリング剤の含有モル量)が、1.1未満である比較例3の表面処理ガラスクロス、表面処理層における前記第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する、前記第1のシランカップリング剤の含有モル量の比(第1のシランカップリング剤の含有モル量/第2のシランカップリング剤の含有モル量)が、10.0超である比較例4の表面処理ガラスクロスによれば、いずれもプリプレグとしたときの白化距離が68μm以上と大きく、実施例1,2の表面処理ガラスクロスに比較して絶縁信頼性が低いことが明らかである。
【解決手段】表面処理ガラスクロスは表面に表面処理層を備え、表面処理層は、第1級アミン、第2級アミン及び第3級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1つのアミンを含み、第4級アンモニウムカチオンを含まない第1のシランカップリング剤と、少なくとも1つの第4級アンモニウムカチオンを含む第2のシランカップリング剤と、有機酸と、界面活性剤とを含む。第1のシランカップリング剤と、第2のシランカップリング剤との合計含有量が表面処理ガラスクロスの全量に対して、0.05〜1.20質量%であり、第2のシランカップリング剤の含有モル量に対する第1のシランカップリング剤の含有モル量の比が、1.1〜10.0であり、有機酸の含有量が表面処理ガラスクロスの全量に対して、50〜300ppmである。