(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリエステルエラストマー(A)が、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール及びポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを主たる成分とし、該ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの数平均分子量が500〜4000であり、共重合量が全グリコール成分に対して5〜50mol%である、請求項1に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリエステルエラストマー(A)]
本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントとで構成されている。
【0013】
ハードセグメントのポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸は、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、特に限定されないが、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸であることが望ましい。その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。その他の酸成分は、ポリエステルエラストマー(A)の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。
【0014】
ハードセグメントのポリエステルを構成する脂肪族又は脂環族ジオールは、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられ、特に限定されないが、主として炭素数2〜8のアルキレングリコール類であることが望ましい。具体的にはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中では、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0015】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート単位(テレフタル酸と1,4−ブタンジオールからなる単位)あるいはブチレンナフタレート単位(2,6−ナフタレンジカルボン酸と1,4−ブタンジオールからなる単位)よりなるものが、物性、成形性、コストパフォーマンスの点より好ましい。
【0016】
ソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種であり、脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。
【0017】
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルの中で、得られるポリエステルエラストマー(A)の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペートなどが好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが好ましい。
【0018】
また、脂肪族ポリカーボネートは、主として炭素数2〜12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどが挙げられる。特に、得られるポリエステルエラストマーの柔軟性や低温特性の点より炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0019】
脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)、かつガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6−ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が−60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。また、また、例えば、1,9−ノナンジオールと2−メチル−1,8−オクタンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは融点が30℃程度、ガラス転移温度が−70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好な脂肪族ポリカーボネートジオールに相当する。
【0020】
本発明に用いるポリエステルエラストマー(A)は、テレフタル酸、1,4−ブタンジオール、及びポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを主たる成分とする共重合体であることが好ましい。ポリエステルエラストマー(A)を構成するジカルボン酸成分中、テレフタル酸が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。ポリエステルエラストマー(A)を構成するグリコール成分中、1,4−ブタンジオールとポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの合計が40モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0021】
前記ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、500〜4000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、エラストマー特性を発現しづらくなることがある。一方、数平均分子量が4000を超えると、ハードセグメントのポリエステル部分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの数平均分子量は、800以上3000以下であることがより好ましく、1000以上2500以下がさらに好ましい。
【0022】
前記ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの共重合量は、ポリエステルエラストマー(A)を構成する全グリコール成分に対して5〜50モル%であることが好ましい。ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールは、全グリコール成分に対して5モル%以上30モル%以下であることがより好ましく、5モル%以上20モル%以下であることがさらに好ましく、7モル%以上18モル%以下であることが特に好ましく、8モル%以上15モル%以下が最も好ましい。
【0023】
本発明で使用するポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントとソフトセグメントとの質量部比は、一般的に、ハードセグメント:ソフトセグメント=30:70〜95:5が好ましく、より好ましくは40:60〜90:10、さらに好ましくは45:55〜87:13、特に好ましくは50:50〜85:15の範囲である。
【0024】
本発明に用いるポリエステルエラストマー(A)の還元粘度は、後記する測定方法で測定した場合、0.5dl/g以上3.5dl/g以下であることが好ましい。0.5dl/g未満では、樹脂としての耐久性が低く、3.5dl/gを超えると、射出成形などの加工性が不十分になる可能性がある。ポリエステルエラストマー(A)の還元粘度は、1.0dl/g以上3.0dl/g以下であることがより好ましく、1.5dl/g以上2.8dl/g以下であることがさらに好ましい。また、酸価は200eq/t以下が好ましく、50eq/t以下がより好ましい。
【0025】
前記ポリエステルエラストマー(A)の融点は、150〜230℃にあることが好ましく、より好ましくは175〜210℃である。ポリエステルエラストマー(A)の融点が150℃未満の場合、ソフトセグメント量の多さが起因し、耐熱性の低下が考えられ、230℃を超える場合、ハードセグメント量が多いことが起因し、柔軟性の低下が考えられる。
【0026】
本発明に用いられるポリエステルエラストマー(A)は、公知の方法(例えば、特開平10−182954号、国際公開第2007/072748号など)で製造することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あるいはジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、また、あらかじめハードセグメントを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε−カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε−カプロラクトンモノマを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
【0027】
[脂肪族アミド化合物(B)]
本発明に用いる脂肪族アミド化合物(B)は、アミド基(−NH−CO−)を1つ以上有するアミド化合物で、NH側の置換基、CO側の置換基の少なくとも1つが脂肪族基の化合物である。NH側の置換基、CO側の置換基の両方が脂肪族基の化合物であることが好ましい。脂肪族アミド化合物(B)は、アミド基を1つ有する脂肪族モノアミド化合物、及びアミド基を2つ有する脂肪族ビスアミド化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
脂肪族アミド化合物(B)としては、次の式(1)で表される脂肪族モノアミド化合物、及び式(2)または(3)で表される脂肪族ビスアミド化合物を好ましく用いることができる。
【0030】
式(1)のR
1及びR
2は、炭素数6以上の脂環族基、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基のいずれかの基である。R
1及びR
2は、炭素数6以上30以下であることが好ましく、炭素数12以上25以下であることがより好ましく、炭素数12以上20以下であることがさらに好ましい。R
1及びR
2のうち、少なくとも一方は、不飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。例えば、R
2の場合、飽和脂肪族炭化水素基としてはカプリル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、ベヘニル基があり、不飽和脂肪族炭化水素基としてはオレイル基、エルカリル基、脂環基としてはシクロヘキシル基などがある。例えば、R
1の場合、CO部位も含めて飽和脂肪酸構造としてはカプリン酸構造、ラウリン酸構造、パルミチン酸構造、ステアリン酸構造、イソステアリン酸構造、ベヘン酸構造があり、不飽和脂肪酸構造としてはオレイン酸構造、エルカ酸構造、脂環族酸構造としてはシクロヘキシルカルボン酸構造などがある。
【0031】
これら脂肪族モノアミド化合物の中でも、式(1)のR
1及びR
2がそれぞれ独立して炭素数12〜25の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物及び/又はR
1とR
2の少なくともいずれか一方が炭素数12〜25の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましい。式(1)のR
1及びR
2がそれぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物及び/又はR
1とR
2の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることがより好ましく、これら2つのアミド化合物の混合物がさらに好ましい。特に不飽和鎖状炭化水素基が炭素数18の不飽和結合を有するオレイル基であるモノアミド化合物、または不飽和脂肪酸構造が炭素数18の不飽和結合を有するオレイン酸構造であるモノアミド化合物もしくは不飽和脂肪酸構造が炭素数22の不飽和結合を有するエルカ酸構造であるモノアミド化合物が好ましい。具体的にはステアリルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルエルカ酸アミド、ステアリルエルカ酸アミドが好ましく、摺動部に薄膜を形成し、保持し、焼付トラブルの解消に効果的な薄膜保持性を確保する。
【0034】
式(2)及び(3)において、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、炭素数5〜25の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であり、A
1及びA
2は、炭素数1〜10のアルキレン基からなる炭化水素基である。R
3、R
4、R
5及びR
6は、炭素数12〜20の飽和又は不飽和の鎖状炭化水素基であることが好ましく、A
1及びA
2は、炭素数1〜6のアルキレン基からなる炭化水素基であることが好ましい。
【0035】
脂肪族ビスアミド化合物としては、ジアミンの酸アミド又はジカルボン酸の酸アミドの形をした、上記式(2)又は(3)でそれぞれ表される化合物である。なお、式(2)及び(3)でR
3、R
4、R
5及びR
6、さらにA
1及びA
2で表される炭化水素基において、一部の水素が水酸基(−OH)で置換されていてもよい。
【0036】
式(2)で表される脂肪族ビスアミド化合物として、具体的にはエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。式(3)で表される脂肪族ビスアミド化合物としては、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0037】
これら脂肪族ビスアミド化合物の中でも、脂肪族モノアミド化合物の場合と同様、式(2)のR
3とR
4/式(3)のR
5とR
6がそれぞれ独立して炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物及び/又はR
3とR
4/R
5とR
6の少なくともいずれか一方が炭素数12〜20の不飽和鎖状炭化水素基のアミド化合物であることが好ましい。さらに飽和/不飽和鎖状炭化水素基が炭素数18以上であるステアリル基、オレイル基、または、飽和/不飽和脂肪酸構造が炭素数18以上であるステアリン酸構造、オレイン酸構造であるビスアミド化合物が、薄膜保持性を確保する上で好ましい。このような化合物として、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられる。
【0038】
脂肪族アミド化合物(B)の配合量(含有量)は、上記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、0.01質量部〜1質量部であり、好ましくは0.05質量部〜0.7質量部であり、より好ましくは0.05質量部〜0.5質量部である。0.01質量部未満では、このような化合物を添加することによって得られる作用効果、摩擦音や摩耗量の低減効果が有意に発揮されない場合がある。また1質量部を超えると、ポリエステルエラストマーの溶融粘度が著しく下がり成形できなかったり、成形体表面に粉状の凝集物として析出し、外観を損ねたり、成形品の組み付け性や周辺の部品に飛散する等の悪影響が現れてくることがある。
【0039】
[異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)]
2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)は、摩擦・摩耗特性を改善するために用いられるものであり、その数平均分子量は、1500〜5000である。数平均分子量は、好ましくは3000〜5000である。数平均分子量が1500未満であると成形品表面に析出する速度は速いものの、耐摩耗性、耐音鳴き性に対して十分な効果が得られず、数平均分子量が5000を超えると、成形品表面に析出する速度が遅く、また摺動性開始時に分子量が高いことが災いし、摩擦係数が急激に上昇し、スティックスリップを起こす。数平均分子量は、後記する実施例の項の方法により測定できる。
【0040】
異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)は、下記式(4)で表されるポリエーテル化合物を好ましく用いることができる。
【0042】
式(4)において、R
11、R
12、R
13は炭素数2〜10のアルキレン単位であって、R
12はR
11ともR
13とも異なり、R
11はR
13と同一であっても異なっても良い。a、b、cはa+b+c≧2を満たす0以上の整数(bは1以上、a、cの内、少なくとも1種は1以上)、nは1以上の整数であって、共重合ポリエーテル(C)の数平均分子量1500〜5000を達成し得る数を表す。(但し、角括弧内の繰り返しごとに、a、b、cの値が異なることはかまわない。)R
11、R
12、R
13としては、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ネオペンチレン、ヘキサメチレン単位などが上げられる。異なる2種類以上のアルキレン単位としては、エチレン単位、プロピレン単位を含むことが好ましい。このとき、エチレン単位、プロピレン単位の比率は特に限定されないが、エチレン単位:プロピレン単位(エチレンオキシド単位:プロピレンオキシド単位)が、10:90〜90:10(モル比)が好ましく、20:80〜70:30(モル比)がより好ましい。
【0043】
具体的には、例えば、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体、プロピレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体、プロピレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体のエチレンオキシド付加重合体、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、ネオペンチルオキシドとエチレンオキシドの共重合体、ネオペンチルオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ネオペンチルオキシドとプロピレンオキシドの共重合体のエチレンオキシド付加重合体、ネオペンチルオキシドとテトラヒドロフランの共重合体、ネオペンチルオキシドとテトラヒドロフランの共重合体のエチレンオキシド付加重合体、ポリ(ネオペンチルオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体などが具体例として挙げられるが、なかでもポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体が好ましい。これらの共重合ポリエーテル(C)の配合量(含有量)は、用いられるポリエステルエラストマー(A)との親和性、あるいは最終的に得られる組成物の要求特性によって変わり得る。これら化合物は2種類以上を併用してもかまわないし、他の潤滑剤成分と併用してもかまわない。
【0044】
2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)の配合量(含有量)は、好ましくは上記ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部であり、好ましくは0.3質量部〜5質量部であり、より好ましくは1質量部〜5質量部である。0.1質量部未満では、このような化合物を添加することによって得られる作用効果、摩擦音や摩耗量の低減効果が有意に発揮されない場合がある。また10質量部を超えると、ポリエステルエラストマーの溶融粘度が著しく下がり成形できなかったり、成形体表面から著しくにじみ出し、外観を損ねたり、周辺部品へ飛散する等の悪影響が現れてくることがある。
【0045】
2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)を添加することにより、単体の(1種類のアルキレン単位からなる)ポリエーテルよりも結晶性が低下し、低温域で液状であるため、低温での耐摩耗性、低騒音性に優れる。また、ポリエーテルを構成するアルキレンが2種類以上であること、分子量分布とも相まって分子レベルで見ると特性の異なる非常に多くの他種類の分子の集合体であるため、ポリエステルエラストマー中より徐々にポリエーテルがブリードアウトしやすく、長期間にわたって耐摩耗性、消音性の効果を発揮することができる。
【0046】
脂肪族アミド化合物(B)と異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)を併用した際に、高圧水洗浄時に成形品表面から液体潤滑剤(共重合ポリエーテル(C))が削りとられない理由は、次のように考えられる。脂肪族アミド化合物(B)は、共重合ポリエーテル(C)よりも分子量が低く、親水基と疎水基を多量に共重合されてなる共重合ポリエーテル(C)に比べて完全な疎水性を示し、加えて構造中にアミド基を有するため、ポリエステルエラストマー(A)との相溶性が乏しく、共重合ポリエーテル(C)よりも先に成形品表面へ析出し、最表層に潤滑膜を形成することに寄与している。そして、ポリエステルエラストマー(A)と共重合ポリエーテル(C)との適度な相互作用、及び共重合ポリエーテル(C)と脂肪族アミド化合物(B)との適度な相互作用によって、これら潤滑剤が成形品表層に安定してブリードアウトすることで、長期間にわたる耐摩耗性、消音性の効果を発揮していると考えられる。
【0047】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて溶融混練し、引き続き造粒工程によりペレット化する方法がある。
【実施例】
【0048】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例に記載された各測定値は、次の方法によって測定したものである。
【0049】
融点:
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドして試料を完全に溶融させた後、液体窒素で急冷して、その後−150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られたサーモグラム曲線から、吸熱ピークを融点とした。
【0050】
還元粘度:
充分乾燥した樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローゼ粘度計にて30℃で測定した。
【0051】
酸価:
試料0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解し、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0052】
異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)の数平均分子量:
共重合ポリエーテル(C)を重水素化クロロホルム(CDCl
3)/トリフルオロ酢酸(TFA)=85/15(容量比)に溶解させ、
1H−NMRにて得られたエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのスペクトル比および、その末端量から数平均分子量を算出した。
【0053】
原料として、以下のものを用いた。
[ポリエステルエラストマー(A)]
・ポリエステルエラストマーA1
特開平9−59491号公報の0017段落の参考例1に記載の方法に準じて、テレフタル酸/1,4−ブタンジオール/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(PTMG;数平均分子量1500)が100/88/12(モル比)のポリエステルエラストマーを製造した。
このポリエステルエラストマーA1の融点は197℃、還元粘度は1.86dl/g、酸価は38eq/tであった。
・ポリエステルエラストマーA2
特開平9−59491号公報の0017段落の参考例1に記載の方法に準じて、テレフタル酸/1,4−ブタンジオール/ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(PTMG;数平均分子量2000)が100/90/10(モル比)のポリエステルエラストマーを製造した。
このポリエステルエラストマーA2の融点は205℃、還元粘度は2.15dl/g、酸価は35eq/tであった。
【0054】
[脂肪族アミド化合物(B)]
・(B−1)脂肪族モノアミド化合物:ニッカアマイドOS
(N−オレイルステアリン酸モノアミド、日本化成社製)
・(B−2)脂肪族モノアミド化合物:ニッカアマイドSE
(N−ステアリルエルカ酸モノアミド、日本化成社製)
・(B−3)脂肪族ビスアミド化合物:スリパックスO
(エチレンビスオレイン酸アミド、日本化成社製)
【0055】
[異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)]
・(C−1)PEG−PPG−PEG共重合体(ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体):プルロニックP−85(ADEKA社製)
(EO/PO=58/42(モル比)コポリマー、数平均分子量3600、ADEKA社製)
・(C−2)PEG−PPG−PEG共重合体(ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体):プルロニックL−121(ADEKA社製)
(EO/PO=29/71(モル比)コポリマー、数平均分子量4400、ADEKA社製)
・(C−3)PEG−PPG−PEG共重合体(ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体):プルロニックL−31(ADEKA社製)
(EO/PO=16/84(モル比)コポリマー、数平均分子量1100、ADEKA社製))
・(C−4)PEG−PPG−PEG共重合体(ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体):プルロニックF−68(ADEKA社製)
(EO/PO=84/16(モル比)コポリマー、数平均分子量8400、ADEKA社製)
PEGはエチレンオキシド単位からなるブロック、PPGはプロピレンオキシド単位からなるブロックを表す。EOはエチレンオキシド単位、POはプロピレンオキシド単位を表す。
【0056】
[その他のポリエーテル]
・(D−1)ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(数平均分子量3000):#PTMG3000(三菱化学社製)
【0057】
[その他の添加剤]
・離型剤:リコワックスE、クラリアント社製
・酸化防止剤:Irganox1010、BASF社製
【0058】
実施例1〜7、比較例1〜7
上記各成分をそれぞれ表1に記載の比率で、ドライブレンドして、二軸スクリュー式押出機にて、混練・ペレット化した。このポリエステルエラストマー樹脂組成物のペレットを用いて、下記の評価を行った。また、ブリード量、水洗浄、低温固着性、磨耗試験に使用する試験片に関しては、射出成形機にてシリンダー温度240℃で100mm×100mm×2mmt(厚み)の100角試験片を作製したものを使用した。結果を表1に示した。
【0059】
表面硬度:
ASTMD2240記載の試験法(ショアD)に準拠し、23℃環境下において表面硬度の測定を行った。試験片は、シリンダー温度240℃にて射出成形を行い100mm×100mm×2mmtの100角試験片を3枚重ねて、針先を落下させた際のショアDの瞬間値を読み取り、表面硬度を測定した。
【0060】
溶融粘度(MFR):
JIS K7210記載の試験法(A法)に準拠し、測定温度230℃、荷重2160gでのメルトフローレイト(MFR:g/10分)を測定した。測定には水分率0.1質量%以下の組成物を用いた。
【0061】
ブリード量(23℃):
100角試験片を23℃/50%RH環境下にて1週間、静置した。その後、成形品の質量を測定し、成形品の表面を一旦、キムワイプで入念に拭き取り、再度成形品の質量を測定し、拭き取り前後の質量差から、滑剤のブリード量を測定した。
【0062】
水洗浄:
100角試験片を23℃/50%RH環境下にて1週間、静置した。その後、成形品を23℃の水槽に投入し、30分放置した後、成形品表面に滑剤が残存しているかを目視にて確認した。
成形品表面に滑剤が残存している:○ 滑剤が残存していない:×
【0063】
低温固着性:
100角試験片を23℃/50%RH環境下にて1週間、静置した。その後、成形品同士を重ね合わせ、冷凍庫(−10℃)へ3日間保存し、取り出した際に成形品の接着が見られるかを確認し、下記基準で低温固着性を評価した。潤滑剤が低温で固着すると、成形品表面にブリードすることができず、成形品同士が接着してしまう。
成形品同士が接着していない:○ 接着している:×
【0064】
磨耗試験(磨耗粉の発生有無):
100角試験片を23℃/50%RH環境下にて1週間、静置した。その後、JISK7213記載のスラスト磨耗試験を実施し、成形品表面の磨耗粉の発生有無を確認した。スラスト磨耗試験に使用した円柱状試験片はSUS−65Cを使用し、荷重1.0MPa、摺動速度100rpm、試験時間は60分間にて摺動試験を実施した。
【0065】
音鳴き試験(音鳴き発生有無):
磨耗試験後の成形品表面に水を滴下し、再度スラスト磨耗試験を実施し、音鳴き発生の有無を確認した。スラスト磨耗試験に使用した円柱状試験片は100角試験片と同じ樹脂をシリンダー温度240℃にて射出成形し、荷重0.5MPa、摺動速度50rpm、試験時間は5分間にて摺動試験を実施時に、発生する音をリオン社製の騒音計NL−20にて測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例1〜7は、ポリエステルエラストマーに特定の固体系滑剤である脂肪族アミド化合物(B)と液体系滑剤である異なる2種類以上のアルキレン単位からなる共重合ポリエーテル(C)とを配合することで、従来にはない優れた耐摩耗性およびブリードアウト性、耐水性を兼ね備えた樹脂組成物となっている。
比較例1は、滑剤成分が添加されていないため、成形品表面への滑剤のブリードアウトが起こらず、耐摩耗性に乏しく、かつ試験片表面に水滴下時に音鳴きが発生する。滑剤成分を含まないため、水洗浄、低温固着性は評価しなかった。
比較例2は、従来技術である脂肪族モノアミドを添加した場合で、固体潤滑剤であるために、試験途中で磨耗が発生し、音鳴きが発生する。
比較例3は、従来技術であるPEG−PPG−PEG共重合体(P−85)を添加した場合で、親水性のポリエーテル成分が共重合されており、水洗浄時に成形品表面から滑剤が削りとれる、また水滴下時に甲高い音が連続的に発生する。
比較例4は、分子量の低いPEG−PPG−PEG共重合体(L−31)を添加した場合で、分子量が低いことから、ブリード量や低温固着性には優れるものの、磨耗試験時に成形品表面から容易に滑剤が削りとられ、音鳴きが発生する。
比較例5は、分子量の高いPEG−PPG−PEG共重合体(F−68)を添加した場合で、分子量が高いことからブリード量が不十分で、固体潤滑剤である脂肪族モノアミドのみが表面へ析出するため、磨耗試験時に成形品表面から容易に滑剤が削りとられ、音鳴きが発生する。
比較例6は、単一のアルキレン鎖を有するグリコール(PTMG3000)を添加した場合で、低温試験時に固着が発生し、またマトリクスであるポリエステルエラストマーとの相溶性が高すぎるため、ブリード量も少なく、水滴下時に音鳴きが発生する。
比較例7は、PEG−PPG−PEG共重合体(P−85)の添加量が多すぎることから、摺動特性は発揮できるものの、成形品自体の表面硬度の低下やMFRの上昇が大きく、機械特性が大幅に低下してしまう。